説明

クレーン装置およびクレーン装置の運用方法

【課題】 シーブおよびワイヤロープの寿命短縮を防止することにより、シーブ交換頻度等を低減することができるクレーン装置およびクレーン装置の運用方法を提供する。
【解決手段】 ブームに沿って横行するトロリと、ブームの一方の端部に設けられた滑車33と、滑車33に巻回されてトロリへと繋げられたロープ41と、を有し、ロープ41が複数のストランド43をより合わせて形成されたクレーン装置において、ロープ41が滑車33に接触する周長を、ストランド43のピッチpで割った値が小数を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーン装置およびクレーン装置の運用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
港湾ターミナルにおいては、船舶に積み込んで輸送するコンテナ等の荷役を行うため、コンテナクレーン等のクレーン装置が使用されている。
このようなクレーン装置は、船上へ向けて張り出しているブームに沿ってトロリを横行させることにより、所望のコンテナ上に移動したスプレッダ(コンテナ用吊具)がコンテナをつかんで巻き上げ及び巻き下げて荷役を行うように構成された装置である。
上述のようなトロリの横行は、ブームの先端に配置された滑車(シーブ)に巻きつけられるとともにトロリに繋がれたワイヤロープを牽引することにより行われている。
【0003】
一般に、ワイヤロープが溝底に巻きつけられたシーブにおいては、ワイヤロープとの磨耗により溝底が均等に磨耗する。そして、溝底の磨耗量が、例えば、ワイヤロープの直径の約15%以上になると滑車は交換されている。
しかしながら、溝底の磨耗は上述のように均等になるとは限らず、不規則な磨耗、例えば、ワイヤロープのストランドによる周期的な磨耗痕が生じる場合があることが知られている。このような周期的な磨耗痕はワイヤロープを痛めるため、通常は、シーブの交換や、磨耗の防止が図られている(例えば、特許文献1から4参照。)。
【特許文献1】特開平8−277082号公報(第5−6頁等)
【特許文献2】特開2002−61085号公報(第5−6頁等)
【特許文献3】特開平5−32395号公報(第3−4頁、第1図等)
【特許文献4】特開平10−17237号公報(第3−4頁、第4図等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1においては、重量%でNi:0.5%〜2.0%,Cu:0.5%〜2.0%を含み、かつパーライト面積率が90%以上である球状黒鉛鋳鉄で形成されたシーブが開示されている。
このようにNiとCuとを重量%で0.5%〜2.0%加えることにより、シーブのパーライト地の硬さを増し、鋳物組織全体を平均的に硬くすることができる。その結果、シーブの磨耗を抑制することができる。また、NiとCuとを加える上限を重量%で2.0%とすることで、シーブのパーライト地が必要以上に硬くなることを防止し、ワイヤロープの磨耗を抑制することができる。
しかしながら、シーブの磨耗を抑制することはできても磨耗自体は発生しているため、所定条件下においてはシーブの周期的磨耗痕が発生するという問題があった。
【0005】
上述の特許文献2においては、質量%でC:0.30%〜1.2%,Si:0.40%以下(0%は含まない),Mn:0.20%〜1.20%を満たすパテンティング処理をした鋼線を、伸線加工することなく外層線として用いるワイヤロープが開示されている。
このように、C,Si,Mnを所定重量%だけ含ませることにより、パテンティング処理後の鋼線の強度等を増大させることができるとともに、鋼線の加工性等を向上させることができる。つまり、ワイヤロープに用いる鋼線の強度等を増大させることにより、ワイヤロープの磨耗を抑制することができる。
しかしながら、シーブの磨耗を抑制することはできても磨耗自体は発生しているため、所定条件下においてはシーブの周期的磨耗痕が発生するという問題があった。
【0006】
上述の特許文献3においては、シーブ両側面板を弾性体で構成し、その間隔がロープの直径よりも小さくなるようにして両側面板を交互にボルトによりシーブに取り付けるロープ牽引装置が開示されている。
この構成によれば、両側面板の間にロープを押し込むと、ボルトが取り付けられていない側の側面板は反対側に撓み、両側面板が全体として円周方向に波状に撓む。そのため、ロープの張力によりロープの中心からボルト取り付け側の各側面板方向の分力が発生しロープと両側面板方向の分力が発生する。この分力によりロープと両側面板間の摩擦力が増加し、シーブによるロープ抑え力が増大する。
つまり、両側面板もロープを保持することができるため、シーブとロープとの接触面圧を低減させることができ、磨耗を低減させることができる。
しかしながら、シーブの磨耗を抑制することはできても磨耗自体は発生しているため、所定条件下においてはシーブの周期的磨耗痕が発生するという問題があった。
【0007】
上述の特許文献4においては、シーブの溝底の偏磨耗が所定の許容値より大きくなった時点で、シーブの溝を修削する方法が開示されている。
この方法によれば、シーブ溝の偏磨耗がワイヤロープに損傷を与える程度にひどくなる前に、シーブ溝を修削することにより、不具合の発生を防止できる。
しかしながら、シーブ溝の周期的磨耗痕の発生を防止することはできないという問題があった。
【0008】
また、シーブとワイヤロープとの接触面に十分な量の潤滑剤を配置することにより、シーブの磨耗を防止する技術も知られている。
この構成によれば、シーブとワイヤロープとの間は潤滑剤により潤滑されるため、シーブの偏磨耗を発生させにくくすることができる。
しかしながら、シーブの磨耗を抑制することはできても磨耗自体は発生しているため、所定条件下においてはシーブの周期的磨耗痕が発生するという問題があった。
【0009】
また、シーブとの接触面積が広く疲労寿命が長い異形線ロープを使用することにより、シーブの磨耗を防止する技術も知られている。
この構成によれば、シーブとロープとの接触面圧を下げることができるため、シーブの偏磨耗を発生させにくくすることができる。
しかしながら、シーブの磨耗を抑制することはできても磨耗自体は発生しているため、所定条件下においてはシーブの周期的磨耗痕が発生するという問題があった。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、シーブおよびワイヤロープの寿命短縮を防止することにより、シーブ交換頻度等を低減することができるクレーン装置およびクレーン装置の運用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明のクレーン装置は、ブームに沿って横行するトロリと、前記ブームの一方の端部に設けられた滑車と、該滑車に巻回されて前記トロリへと繋げられたロープと、を有し、該ロープが複数のストランドをより合わせて形成されたクレーン装置において、前記ロープが前記滑車に接触する周長を、前記ストランドのピッチで割った値が小数を有することを特徴とする。
【0012】
ロープが滑車に接触する周長を、ストランドのピッチで割った値が整数値となると、ストランドのピッチは常に同位相で滑車の溝底に接触することとなる。この状態が続くと、滑車の溝底に周期的な摩耗痕が発生してしまう。
そこで、本発明によれば、滑車におけるロープと接触する周長をストランドのピッチで割った値が小数を有するため、滑車が回転した際に、滑車とロープのストランドとが接触する位相は常に変動する。そのため、滑車にストランドとの接触による周期的磨耗痕の形成を防止でき、滑車およびワイヤロープの寿命短縮を防止できる。
本発明は、ロープが滑車に接触する周長を、ストランドのピッチで割った値が整数値となることにより周期的な摩耗痕を避けるものであり、したがって、小数点を有していても整数値に近い場合には周期的な摩耗痕が発生する場合がある。このような場合には、周期的な摩耗痕が発生しないように、小数点の1桁目が2以上8以下となるように滑車の直径を設定し、より好ましくは、小数点の1桁目が5以上7以下になるように設定する。
【0013】
上記発明においては、前記ロープの張力を変更することにより、前記ストランドのピッチが変更されることが望ましい。
本発明によれば、ロープの張力を変更することによりストランドのピッチを変更することができるため、例えば、磨耗により滑車におけるロープと接触する周長が変化しても、上記周長をストランドのピッチで割った値が常に小数を有することができる。
【0014】
本発明のクレーン装置は、ブームに沿って横行するトロリと、前記ブームの一方の端部に設けられた滑車と、該滑車に巻回されて前記トロリへと繋げられたロープと、前記ロープを巻き取り、巻き出しすることにより前記トロリを駆動する駆動部と、を有し、該ロープが複数のストランドをより合わせて形成されたクレーン装置において、前記ロープに発生した前記ロープの周期的な張力変動を、前記駆動部が、前記ロープに張力をかけることにより前記周期的な張力変動を打ち消すことを特徴とするクレーン装置。
【0015】
本発明によれば、駆動部がロープに張力をかけることにより、ロープに発生したロープの周期的な張力変動を打ち消すため、周期的な張力変動による滑車にストランドとの接触による周期的磨耗痕の形成を防止でき、滑車およびワイヤロープの寿命短縮を防止できる。
【0016】
上記発明においては、前記駆動部における前記ロープの巻き取り、巻き出し速度の変化期間を偶数回に分割するとともに、分割された各変化期間の間に、前記ロープにおける張力変動周期の約半周期分の時間間隔を設けることが望ましい。
【0017】
本発明によれば、駆動部におけるロープの巻き取り、巻き出し速度の変化期間を偶数回に分割するとともに、分割された各変化期間の間に、ロープにおける張力変動周期の約半周期分の時間間隔を設けているため、ロープの巻き取り、巻き出しに起因するロープの張力変動を低減することができる。
つまり、分割された各変化期間の間の間隔を上記張力変動周期の約半周期分としているため、奇数回目の分割された変化期間によりロープに発生した周期的な張力変動を、偶数回目の分割された変化期間により打ち消すことができる。
【0018】
上記発明においては、前記駆動部における前記ロープの巻き取り、巻き出しの開始から前記ロープにおける張力変動周期の約半周期分の間隔をあけて、前記駆動部が、前記ロープに前記張力変動と同位相の張力をかけることにより前記周期的な張力変動を打ち消すことが望ましい。
【0019】
本発明によれば、ロープの巻き取り、巻き出しの開始から上記張力変動周期の約半周期分の間隔をあけて、駆動部がロープに上記張力変動と同位相の張力をかけることにより周期的な張力変動を打ち消すことができる。
つまり、上記周期的な張力変動が発生する巻き取り、巻き出しの開始から上記張力変動周期の約半周期分の間隔をあけて、駆動部がロープに同位相の張力をかけるため、ロープの周期的な張力変動を打ち消すことができる。
また、上記周期的な張力変動を打ち消す張力は、上記トロリを移動させることができる張力よりも小さいことが望ましい。
【0020】
上記発明においては、前記駆動部における前記ロープの巻き取り、巻き出しの終了から前記ロープにおける張力変動周期の約1周期分の間隔をあけて、前記駆動部が、前記ロープに前記張力変動と逆位相の張力をかけることにより前記周期的な張力変動を打ち消すことが望ましい。
【0021】
本発明によれば、ロープの巻き取り、巻き出しの開始から上記張力変動周期の約1周期分の間隔をあけて、駆動部がロープに上記張力変動と逆位相の張力をかけることにより周期的な張力変動を打ち消すことができる。
つまり、上記周期的な張力変動が発生する巻き取り、巻き出しの開始から上記張力変動周期の約1周期分の間隔をあけて、駆動部がロープに逆位相の張力をかけるため、ロープの周期的な張力変動を打ち消すことができる。
また、上記周期的な張力変動を打ち消す張力は、上記トロリを移動させることができる張力よりも小さいことが望ましい。
【0022】
上記発明においては、前記ロープの張力変動を検出する張力検出部が設けられ、該張力検出部の出力に基づいて前記駆動部が駆動されることが望ましい。
本発明によれば、張力検出部の出力に基づいて駆動部が駆動されるため、ロープにおける周期的な張力変動をより確実に打ち消すことができる。
【0023】
本発明のクレーン装置の運用方法は、ブームに沿って横行するトロリと、前記ブームの一方の端部に設けられた滑車と、該滑車に巻回されて前記トロリへと繋げられたロープと、を有し、該ロープが複数のストランドをより合わせて形成されたクレーン装置の運用方法において、前記ストランドのピッチが所定値である前記ロープを所定期間使用した後、前記ストランドのピッチが前記所定値とは異なる値であるロープを使用することを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、例えば、ストランドのピッチが所定値のロープを所定期間使用したことにより、ロープと接触する滑車の溝底に周期的な磨耗痕が発生しても、ストランドのピッチが所定値とは異なる値のロープを使用することで、上記周期的な磨耗を消滅させることができる。このように、上記周期的な磨耗を消滅させることにより、滑車およびワイヤロープの寿命短縮を防止することができるとともに、シーブ交換頻度等を低減することができる
ロープを交換する時期としては、例えば、クレーン装置において一般的に行われている定期的なロープ交換の時期を挙げることができる。
このように、上記周期的な磨耗痕を発生させる所定値のストランドのピッチを持つロープから、所定値とは異なる値のストランドのピッチを持つロープへ積極的に交換することにより、上記周期的な磨耗痕を消滅させることができる。
所定値とは異なる値のストランドのピッチを持つロープとしては、例えば、プレテンション加工がなされていないロープを使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明のクレーン装置によれば、滑車におけるロープと接触する周長をストランドのピッチで割った値が小数を有するため、滑車が回転した際に、滑車とロープのストランドとが接触する位相は常に変動する。そのため、滑車にストランドとの接触による周期的磨耗痕の形成を防止でき、滑車およびワイヤロープの寿命短縮を防止することにより、シーブ交換頻度等を低減することができるという効果を奏する。
本発明のおよびクレーン装置の運用方法によれば、ストランドのピッチが所定値のロープを所定期間使用した後に、ストランドのピッチが所定値とは異なる値のロープを使用することで、滑車の溝底に発生した周期的な磨耗を消滅させることができる。このように、上記周期的な磨耗を消滅させることにより、滑車およびワイヤロープの寿命短縮を防止することができるとともに、シーブ交換頻度等を低減することができる
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
この発明の一実施形態に係るクレーン装置であるコンテナクレーンについて、図1から図4を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るコンテナクレーンの全体構成を示す概略図である。
コンテナクレーン(クレーン装置)1は、図1に示すように、コンテナヤードの岸壁Gに設置されてコンテナCの荷役を行うクレーン装置である。このコンテナクレーン1は、岸壁Gに沿って海及び船舶Sの船体と平行に走行移動(縦走)するクレーン本体10と、陸上のトレーラTと海上の船舶Sとの間を走行移動(横行)するトロリ20と、トロリ20から独立して横行移動する運転室21とを備えている。
【0027】
クレーン本体10は、上下方向に延びる海側走行脚11及び陸側走行桁12と、水平方向へ延びる主桁のブーム13及び中間桁14とを主な構成要素とする鉄鋼構造体であり、たとえば岸壁G上に敷設されたレール(不図示)に沿って一体の走行移動を可能とする図示省略の走行移動手段を備えている。
【0028】
トロリ20は、船舶Sの上方へ向けて張り出したブーム13に沿って、後述する走行移動手段31により水平方向へ各々独自に走行移動可能な構造体である。この場合、トロリ20は、たとえば図示しない同一のガイドレール等に導かれて横行移動する。
【0029】
走行移動手段31は、ブーム13の船舶S側端部に設けられたシーブ(滑車)33と、岸壁G側端部に設けられた機械室35内の駆動モータ(駆動部)37およびドラム39と、シーブ33を介してトロリ20とドラム39とを繋ぐワイヤロープ(ロープ)41と、から概略構成されている。
また、ワイヤロープ41に所定の張力を常に与える張力付与部(図示せず)が備えられている。
【0030】
ワイヤロープ41は複数本、例えば6本のストランド43をより合わせて形成され、ストランド43は鋼鉄などの金属材料から形成された複数の素線をより合わせて形成されている。
駆動モータ37はドラム39を回転駆動することにより、ワイヤロープ41をドラム39に巻き取り、巻き出しするように構成されている。また、駆動モータ37はインバータモータであり、駆動モータ37に流れる電流値を計測する計測部(張力検出部)45が備えられている。
【0031】
図2は、図1のシーブおよびワイヤロープの構成を説明する部分拡大図である。
シーブ33は鋳鉄、例えばFCD500を用いて略円板状に形成されている。シーブ33の円周面には、ワイヤロープ41が巻かれる溝が形成され、
シーブ33の溝底における直径は、図2に示すように、ワイヤロープ41をシーブ33に巻いた状態におけるワイヤロープ41の中心から中心までの距離をPCD(Pitch Circle Diameter)、ワイヤロープ41の直径をd、ワイヤロープ41の中心軸線方向に対するストランド43のピッチ(間隔)をpとすると、(PCD−d)×π/pの値(条痕数の値)が整数とならないように(小数を有するように)形成されている。この条痕数の値は、シーブ33におけるワイヤロープ41と接触する周長をストランド43のピッチpで割った値である。
条痕数の値の小数点以下の値としては、小数点の1桁目が2以上8以下となるようにシーブ33の直径を設定ことが望ましく、より好ましくは小数点の1桁目が5以上7以下になるように設定することが望ましい。
【0032】
そして、トロリ20にはスプレッダ22が吊り下げられている。スプレッダ22はコンテナCをつかむ装置であり、上述したトロリ20に対し、ワイヤロープ23を介して上下移動可能に吊り下げられている。このワイヤロープ23は、図示省略の巻取装置を備えており、ワイヤロープ23の巻き取り及び巻き出しを行うことでスプレッダ22の上下移動が可能となる。
【0033】
また、ブーム13には、トロリ20とは別に、図示しない独自の走行移動手段を備えた運転室21が下方へ突出して設けられている。この運転室21は、オペレーターが乗り込んで各種運転操作を行う居住空間であり、例えば図示しない専用のガイドレール等に導かれて、ブーム13に沿ってトロリ20と平行に独立した横行移動が可能である。
【0034】
次に、上記の構成からなるコンテナクレーン1における作用について説明する。
コンテナクレーン1は、図1に示すように、まず、船舶S上のコンテナCをスプレッダ22により把持して、ワイヤロープ23を巻き取り装置により巻き取り、上方に持ち上げる。そして、トロリ20を走行移動手段31により岸壁G側に横行させ、コンテナCをトレーラTの上方へ移動させる。その後、コンテナCをトレーラTに下ろすことにより荷役作業を行っている。また、船舶SにコンテナCを積み込む場合も、略同様である。
【0035】
ここで、本発明の特徴であるトロリ20の横行時の制御について説明する。まず、トロリ20の横行時に発生するトロリ20の周期的な張力変動の制御について説明する。
図3は、図1の駆動モータの回転速度とワイヤロープの張力との関係を説明するグラフである。
トロリ20を横行移動させる場合には、駆動モータ37を回転させることによりドラム39にワイヤロープ41を巻き取る、または、ドラム39からワイヤロープ41を巻き出すことにより、トロリ20を牽引して横行させている。
例えば、トロリ20の横行開始時には、図3に示すように、駆動モータ37の回転速度を2段階に分けて加速させ、所定の駆動モータ37の回転速度まで加速させている。つまり、トロリ20を所定の横行速度まで加速する際に、加速する期間(変化期間)を2つに分けている。
【0036】
また、図3に示すように、1回目の駆動モータ37の回転速度の加速時から、2回目の回転速度の加速時までの間隔を、ワイヤロープ41の周期的な張力変動周期Tの約半周期(T/2)としている。なお、1回目の加速時と2回目の加速時との間は等速の回転速度でつながれている。
このようにすることで、ワイヤロープ41の周期的な張力変動が逆位相になる時点に2回目の回転速度の加速期間を配置することができる。
【0037】
なお、1回目の駆動モータ37の回転速度の加速と2回目の回転速度の加速との間隔は、駆動モータ37に設けられた計測部45により計測された電流の変化に基づいて定めてもよいし、ワイヤロープ41の張力等から予め求められた張力の変動周期に基づいて定めてもよく、特に限定するものではない。
また、加速期間を上述のように2回に分割してもよいし、それ以上の偶数回に分割しても良く、特に限定するものではない。
なお、トロリ20の横行停止時についても、加速と減速との違いのみであり、制御方法およびその作用効果は横行開始時と同じである。
【0038】
次に、トロリ20のインチングや、ワイヤロープ41の駆動/停止の際に発生する周期的な張力変動の制御について説明する。
図4は、図1の駆動モータへのトルク指令波形とワイヤロープの張力との関係を説明するグラフである。
トロリ20をインチングする場合には、図4に示すように、駆動モータ37にインチングに対応したトルク指令波形SAが入力され、トルク指令波形SAから周期的な張力変動周期Tの約半周期(T/2)後に張力変動を打ち消すトルク指令波形SBが入力される。トルク指令波形SBは、トルク指令波形SAと同位相の信号であり、駆動モータ37がワイヤロープ41に発生する張力方向は、トルク指令波形SAに係る張力方向とトルク指令波形SBに係る張力方向とが同じとなる。
すると、トルク指令波形SAにより発生したワイヤロープ41の周期的な張力変動は、トルク指令波形SBにより打ち消され、ワイヤロープ41の周期的な張力変動の発生を抑制することができる。
【0039】
なお、トルク指令波形SBはトルク指令波形SAと比較して波形が小さく、トルク指令波形SBを受けた駆動モータ37は、ワイヤロープ41に対して張力を発生させるが、ワイヤロープ41を巻き取り、巻き出しすることはない。
ワイヤロープ41の駆動/停止の際に発生する周期的な張力変動の制御についても同様である。
【0040】
また、トルク指令波形SBが入力されるタイミングを、トルク指令波形SAから周期的な張力変動周期Tの約1周期(T)後にするとともに、トルク指令波形SBを、トルク指令波形SAと逆位相の信号としてもよい。
この場合、駆動モータ37がワイヤロープ41に発生する張力方向は、トルク指令波形SAに係る張力方向とトルク指令波形SBに係る張力方向とが逆となる。
すると、トルク指令波形SAにより発生したワイヤロープ41の周期的な張力変動は、トルク指令波形SBにより打ち消され、ワイヤロープ41の周期的な張力変動の発生を抑制することができる。
【0041】
上記の構成によれば、シーブ33におけるワイヤロープ41と接触する周長をストランド43のピッチpで割った値(条痕数の値)が小数を有するため、シーブ33が回転した際に、シーブ33とワイヤロープ41のストランド43とが接触する位相は常に変動する。そのため、シーブ33にストランド43との接触による周期的磨耗痕の形成を防止でき、シーブ33およびワイヤロープ41の寿命短縮を防止できる。また、シーブ33の交換頻度等を低減することができる。
【0042】
ワイヤロープ41の巻き取り、巻き出し速度の加速・減速期間を2回に分割するとともに、分割された加速・減速期間の間に、ワイヤロープ41における張力変動周期の約半周期(T/2)分の時間間隔を設けているため、ワイヤロープ41の巻き取り、巻き出しに起因するロープの張力変動を低減することができる。
つまり、分割された各加速・減速期間の間の間隔を上記張力変動周期の約半周期分としているため、1回目の分割された加速・減速期間によりワイヤロープ41に発生した周期的な張力変動を、2回目の分割された加速・減速期間により打ち消すことができる。
【0043】
ワイヤロープ41の巻き取り、巻き出しの開始から張力変動周期の約半周期(T/2)分の間隔をあけて、駆動モータ37がワイヤロープ41に張力変動と同位相の張力をかけることにより周期的な張力変動を打ち消すことができる。
つまり、ワイヤロープ41に周期的な張力変動が発生する巻き取り、巻き出しの開始から張力変動周期の約半周期(T/2)分の間隔をあけて、駆動モータ37がワイヤロープ41に同位相の張力をかけるため、ワイヤロープ41の周期的な張力変動を打ち消すことができる。
また、周期的な張力変動を打ち消す張力は、トロリ20を横行させることができる張力よりも小さいため、トロリ20の位置合わせ精度低下を防止できる。
【0044】
ワイヤロープ41の巻き取り、巻き出しの開始から張力変動周期の約1周期(T)分の間隔をあけて、駆動モータ37がワイヤロープ41に張力変動と逆位相の張力をかけることにより周期的な張力変動を打ち消すことができる。
つまり、ワイヤロープ41に周期的な張力変動が発生する巻き取り、巻き出しの開始から張力変動周期の約1周期(T)分の間隔をあけて、駆動モータ37がワイヤロープ41に逆位相の張力をかけるため、ワイヤロープ41の周期的な張力変動を打ち消すことができる。
【0045】
なお、上述の張力付与部によりワイヤロープ41に与える張力を制御することにより、ワイヤロープ41のストランド43のピッチpを制御して、条痕数の値が整数とならないよう制御してもよい。
このような構成にすることにより、例えば、磨耗によりシーブ33におけるロープと接触する溝底の周長が変化しても、条痕数の値が常に小数を有することができ、周期的な磨耗痕の形成を防止できる。
【0046】
また、ワイヤロープ41による摩耗でシーブ33の溝底に周期的な摩耗痕が発生した場合、定期的に実施されているワイヤロープ41交換の際に、それまで使用していた(周期的な摩耗痕をシーブ33の溝底に発生させた)ワイヤロープ41とはストランド43のピッチが異なるワイヤロープ41に積極的に交換することにより、シーブ33の溝底に発生した周期的な摩耗痕を消滅させることができる。
具体的には、例えば、直径が12.5mmのワイヤロープ41におけるストランドピッチは、使用により約4%程度伸びる。そこで、プレテンション加工前の(プレテンション加工が施されていない)ワイヤロープ41を使用することにより、シーブ33の溝底に発生した周期的な摩耗痕と異なる周期の摩耗を促進させて、徐々に周期的な摩耗痕を消滅させることができる。つまり、所定周期の磨耗痕における凸部に、異なる周期を磨耗痕の凹部を形成させることにより、所定周期の磨耗痕の凹凸を消滅させることができる。
【0047】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記の実施の形態においては、この発明をコンテナクレーンに適用して説明したが、この発明はコンテナクレーンに限られることなく、ロープトロリ式クレーン装置などのクレーン装置などに適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態に係るコンテナクレーンの全体構成を示す概略図である。
【図2】図1のシーブおよびワイヤロープの構成を説明する部分拡大図である。
【図3】図1の駆動モータの回転速度とワイヤロープの張力との関係を説明するグラフである。
【図4】図1の駆動モータへのトルク指令波形とワイヤロープの張力との関係を説明するグラフである。
【符号の説明】
【0049】
1 コンテナクレーン(クレーン装置)
13 ブーム
20 トロリ
33 シーブ(滑車)
37 駆動モータ(駆動部)
41 ワイヤロープ(ロープ)
43 ストランド
45 計測部(張力検出部)
p ピッチ
T 張力変動周期

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブームに沿って横行するトロリと、
前記ブームの一方の端部に設けられた滑車と、
該滑車に巻回されて前記トロリへと繋げられたロープと、を有し、
該ロープが複数のストランドをより合わせて形成されたクレーン装置において、
前記ロープが前記滑車に接触する周長を、前記ストランドのピッチで割った値が小数を有することを特徴とするクレーン装置。
【請求項2】
前記ロープの張力を変更することにより、前記ストランドのピッチが変更されることを特徴とする請求項1記載のクレーン装置。
【請求項3】
ブームに沿って横行するトロリと、
前記ブームの一方の端部に設けられた滑車と、
該滑車に巻回されて前記トロリへと繋げられたロープと、
前記ロープを巻き取り、巻き出しすることにより前記トロリを駆動する駆動部と、を有し、
該ロープが複数のストランドをより合わせて形成されたクレーン装置において、
前記ロープに発生した前記ロープの周期的な張力変動を、前記駆動部が、前記ロープに張力をかけることにより前記周期的な張力変動を打ち消すことを特徴とするクレーン装置。
【請求項4】
前記駆動部における前記ロープの巻き取り、巻き出し速度の変化期間を偶数回に分割するとともに、
分割された各変化期間の間に、前記ロープにおける張力変動周期の約半周期分の時間間隔を設けることを特徴とする請求項3記載のクレーン装置。
【請求項5】
前記駆動部における前記ロープの巻き取り、巻き出しの開始から前記ロープにおける張力変動周期の約半周期分の間隔をあけて、
前記駆動部が、前記ロープに前記張力変動と同位相の張力をかけることにより前記周期的な張力変動を打ち消すことを特徴とする請求項3記載のクレーン装置。
【請求項6】
前記駆動部における前記ロープの巻き取り、巻き出しの終了から前記ロープにおける張力変動周期の約1周期分の間隔をあけて、
前記駆動部が、前記ロープに前記張力変動と逆位相の張力をかけることにより前記周期的な張力変動を打ち消すことを特徴とする請求項3記載のクレーン装置。
【請求項7】
前記ロープの張力変動を検出する張力検出部が設けられ、
該張力検出部の出力に基づいて前記駆動部が駆動されることを特徴とする請求項3記載のクレーン装置。
【請求項8】
ブームに沿って横行するトロリと、
前記ブームの一方の端部に設けられた滑車と、
該滑車に巻回されて前記トロリへと繋げられたロープと、を有し、
該ロープが複数のストランドをより合わせて形成されたクレーン装置の運用方法において、
前記ストランドのピッチが所定値である前記ロープを所定期間使用した後、
前記ストランドのピッチが前記所定値とは異なる値であるロープを使用することを特徴とするクレーン装置の運用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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