説明

クロストリジウムに対する酵素学的に活性な酵素

本発明は、SEQ ID NO:1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、その変種、またはその断片に関する。本発明はさらに、該ポリペプチドをコードする核酸に関する。本発明はさらに、治療物質または診断物質としての、ならびに食品および飼料の汚染に対する、ポリペプチドまたはその断片の使用に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SEQ ID NO:1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、その変種、または断片に関する。本発明は、該ポリペプチドをコードする核酸にさらに関する。本発明はさらに、治療物質または診断物質としての、ならびに食物および飼料の汚染に対する、ポリペプチドまたはその断片の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
クロストリジウムは、150を超える有効に説明された(validly described)種を有する異種遺伝子型群の細菌である。いくつかのクロストリジウム属は毒素を産生する能力を有し、かつそれらの一部は、最も強力な公知の天然毒素である。ボツリヌス中毒症、破傷風、腸毒素産生性感染症、または壊死性軟部組織感染症は、この属の細菌によって引き起こされる有名なヒト疾患の例である。飼育動物および家畜動物に対する負の影響に加えて、一部は熟成中にチーズに欠陥を引き起こし、牛乳加工産業を衰退させる可能性がある。
【0003】
クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)は、土壌、堆積物、食物、ならびにヒトおよび動物の胃腸管中に広範に分布するグラム陽性であり、嫌気性の胞子形成細菌である。食中毒、ガス壊疽(クロストリジウム性筋肉壊死)、壊死性腸炎、および、食物に起因しない胃腸感染症を含む、ヒトおよび家畜動物における広い範囲の疾患が、クロストリジウム・パーフリンジェンスに関連する。宿主細胞のビリオン放出の役割を担う、クロストリジウム・パーフリンジェンスに感染するバクテリオファージにコードされるエンドリシンは、これらの病原性細菌の特異的な検出および制御のために潜在的に使用され得る。
【0004】
この種は、少なくとも12の細胞外毒素を産生する。それらの一部は、主要な致死毒素と考えられている。毒素α、β、ε、およびιを産生する能力に従い、株はA〜Eの5つの型に分類される。
【0005】
クロストリジウム・パーフリンジェンスのエンテロトキシン(CPE)をコードするαcpe遺伝子は、プラスミド上または染色体上のいずれかに位置付けられ得る。食中毒性A型株は、cpeの染色体変種を持ち、非食中毒性A型株のcpeはプラスミドにコードされる。プラスミド上にαcpeを保持する株は、胃腸管の、食物に起因しない感染症である、CPEに関連するヒト胃腸(GI)疾患の原因であるよう見受けられる。
【0006】
第二次世界大戦後の時期にドイツで発生した疾患であって、ニューギニアにおいて発生している「ピグベル(pigbel)」、または「ダームブランド(Darmbrand)」(「ファイアーバウエル(fire-bowel)」)として一般に公知である、別の、無関係かつ滅多に報告されない疾患を、β毒素を産生するクロストリジウム・パーフリンジェンスC型が引き起こし得る。この区域性の壊死性腸炎症候群は小腸に影響を及ぼし、かつ死亡率の35〜40%に関連している。
【0007】
A型の食中毒性クロストリジウム・パーフリンジェンス株は、土壌、水、食物、粉塵、香辛料、ならびにヒトおよび動物の腸管中に見出され得る。これらの株は、103〜104 CFU/gのレベルでほぼ全ての土壌試料中に見出されており、一方B、C、D、およびE型株は土壌中に存在しないが、家畜動物中に頻繁に見出される偏性寄生菌である。
【0008】
熱感受性A型CPEは、食物媒介性疾病の原因である。それは35 kDaの分子量および4.3の等電点を有する。CPEの産生は胞子形成後期に密接に関連し、かつ宿主細胞が溶解する際に、毒素が内生胞子と共に放出される。細胞の胞子形成を促進する条件はまた、CPEの産生も促進する。
【0009】
ガス壊疽またはクロストリジウム性筋肉壊死は、約80%がクロストリジウム・パーフリンジェンスにより引き起こされる侵襲性の壊死性軟部組織感染症である。該疾患は、以前の外傷または虚血により損傷を受けていない、健康な生存筋肉の急性の浸潤と定義される。クロストリジウム・パーフリンジェンスA型のα毒素、およびより低い程度で、パーフリンゴリジンO(θ毒素)が、病因となっている。大抵の場合、外傷性ガス壊疽は、血液供給を損なう深部穿通性の外傷の後に生じる。クロストリジウム・パーフリンジェンスの組織毒性は広範囲にわたる創傷をもたらし得、かつ処置されない場合、全身性ショック、多臓器不全、および致死に進行し得る。
【0010】
クロストリジウム・パーフリンジェンスはまた、飼育動物および家畜動物に影響を及ぼす様々な獣医学的疾患の原因でもある。この細菌は、子ヒツジおよびヒツジ、子ウシおよびウシ、ヤギ、ブタ、仔ウマ(foul)および成体ウマ、家畜のニワトリ、捕獲された野鳥の一部の種、ならびにウサギの、さまざまな腸疾患の原因物質であり得る。
【0011】
動物の腸管におけるクロストリジウム・パーフリンジェンスの存在は、例えば、壊死性腸炎、食中毒、および成長遅延をもたらし得る。とりわけ、家禽、特にブロイラーニワトリの腸管におけるクロストリジウム・パーフリンジェンスの存在は、腸病変および壊死性腸炎等の様々な病状に結び付けられ、かつ家禽の成長に顕著な減少をもたらし得る。さらに、成長促進および疾患予防のための、動物飼料における広範な抗生物質の使用は、テトラサイクリン、バシトラシン、エリスロマイシン、またはセファロスポリン等の、治療的に使用される一連の抗菌剤に対する、耐性の獲得をもたらすことが推測される。
【0012】
重度の腹痛を伴う下痢は、食物に起因する感染症の最も一般的な臨床症状である。吐き気が時折生じ、発熱および嘔吐は通常起こることではなく、死亡は稀であるが、衰弱した人または施設に収容された人では可能性があり、かつ、特に高齢者に影響を及ぼす。摂取後の潜伏時間は、6〜24時間である。一部の場合、摂取後わずか2時間で症状が出現したことが報告されている。予め形成された毒素、または既に胞子形成した細胞の飲食によって、摂取後わずかの間で症状の出現がもたらされ得ることが推測される。通常、疾病の持続期間は短く、かつ症状は一日後またはより短い時間で消失する。時折、高齢者または衰弱した人々は、回復のためにより多くの時間を必要とする。
【0013】
高過ぎる温度で貯蔵された肉または肉製品は、クロストリジウム・パーフリンジェンス食中毒の最も一般的な原因である。不十分な調理もまた、多数の大発生の原因となる。魚介類、乳製品、果物、および野菜は、クロストリジウム・パーフリンジェンス食中毒を時折媒介するが、全大発生の約75%に関しては、肉または肉製品が原因である。クロストリジウム・パーフリンジェンスによる肉の汚染は、屠殺動物に直接由来するか、またはその後の容器、粉塵、もしくは取扱者からの汚染に由来する。食物媒介性のエンテロトキシン産生性クロストリジウム・パーフリンジェンスの感染量は、非常に高いことが推測される。ヒトで下痢症状を引き起こすのに、約108個の栄養細胞が必要であるように見受けられる。細菌の胞子は、調理温度を生き延びることが可能であり、かつ加熱工程の後、競合細菌叢が除去される。食物が冷却され、かつ胞子の発芽および栄養細胞の増殖が可能な温度に到達する場合、それらは迅速に繁殖することが可能である。大発生の大部分は、レストランおよびケータリングにおいて生じる。個人宅においては、わずか3%のみがクロストリジウム・パーフリンジェンスに関連する食中毒と証明されているが、疾患の比較的温和な過程を考慮すると、未報告事例の推定数はより高いと考えられる。いかなる大発生も、市販の加工食品に結び付けられることはほとんどない;Hatheway, 1990, Clin. Microbiol. Rev. 3/1 66-98(非特許文献1);Rood&Cole, 1991, Microbiol. Rev. 55/4, 621-648(非特許文献2);Songer, 1996, Clin. Microbiol. Rev. 9/2, 216-234(非特許文献3)。
【0014】
診断のため、および食物中の混入細菌を死滅させるためのエンドリシンの使用は、GB 2,255,651(特許文献1)において最初に開示された。マウスモデル系を使用した最初のインビボの治療的適用および予防的適用は、Nelson&Fischettiによって記載された(2001, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 4107-4112(非特許文献4);Loeffler et al, 2001, Science 94, 2170-2172(非特許文献5))。病原性細菌の制御のためのファージ溶菌酵素の使用の包括的な総説は、Fischetti, 2006, BMC Oral Health 6, 16-19(非特許文献6)中に提供されている。クロストリジウム・パーフリンジェンスのバクテリオファージ由来の最初のリシン、すなわちphi3626は、国際公開公報第03/066845号(特許文献2)中に開示されている。
【0015】
しかしながら、クロストリジウム・パーフリンジェンスに対する抗菌剤として作用する新規な物質に関して、およびクロストリジウム・パーフリンジェンスの診断のための新規な方法に関して、依然として著しい必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】GB 2,255,651
【特許文献2】国際公開公報第03/066845号
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Hatheway, 1990, Clin. Microbiol. Rev. 3/1 66-98
【非特許文献2】Rood&Cole, 1991, Microbiol. Rev. 55/4, 621-648
【非特許文献3】Songer, 1996, Clin. Microbiol. Rev. 9/2, 216-234
【非特許文献4】2001, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 4107-4112
【非特許文献5】Loeffler et al, 2001, Science 94, 2170-2172
【非特許文献6】Fischetti, 2006, BMC Oral Health 6, 16-19
【発明の概要】
【0018】
この課題は、特許請求の範囲に開示される発明の主題によって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明の特定の局面を示すため、以下の図面が提示される。それらは、いかなる様式においても、本発明を限定することを意図しない。
【図1】本発明に係る、リシンplyS9のアミノ酸配列(SEQ ID NO:1)を示す。
【図2】本発明に係る、リシンplyS9をコードするヌクレオチド配列(SEQ ID NO:2)を示す。
【図3】plyS9の発現および精製の解析結果を示すクーマシー染色されたSDS-PAGEを示す。レーン1および11は、左手側の数値により特定されるサイズマーカーに関係する。レーン2、3、4、および5は、各々、0h、1h、2h、および4h後の、所望のタンパク質の発現に関係する。レーン6、7、8、および9は、各々、カラムにアプライされた粗抽出産物、フロースルー、洗浄画分、および精製過程の溶出物に関係する。レーン10は、500 mMのNaClおよび50%のグリセロールの存在下で精製され、かつ濃縮されたタンパク質に関係する。右手側の矢印は、精製されたplyS9の位置を示す。
【図4】最適条件下(6μg plyS9;300 mM塩化ナトリウムを含むクエン酸/リン酸緩衝剤pH 6.5)での、クロストリジウム・パーフリンジェンスの基質細胞に対するplyS9の溶解曲線のグラフ表示である。「A」は、OD600を示し、かつ「B」は時間[s]を示す。曲線は、初期OD600=1に対して標準化されている。正方形は対照を表し、三角形はplyS9溶解曲線を表す。
【図5】pH(B)および緩衝物質(黒色棒はクエン酸/リン酸緩衝剤、および白色棒はTris/リン酸緩衝剤)に依存するplyS9の相対的酵素活性(A)を、グラフ表示において示す。緩衝剤組成物は、25 mMのクエン酸またはTris、25 mMのリン酸、120 mMのNaClであった;タンパク質濃度は、0.5μgのplyS9であった。
【図6】塩化ナトリウム濃度(B)に依存するplyS9の相対的酵素活性(A)を、グラフ表示において示す。緩衝剤組成物は、20 mMのMOPS pH 7.0、および様々な濃度のNaCl[mM]であった;タンパク質濃度は、0.5μgのplyS9であった。
【図7】plyS9活性に対する二価金属イオンの影響を、グラフ表示において示す(20 mMのMOPS緩衝剤pH 7.0、300 mMのNaCl;0.5μgのplyS9)。「A」は相対的酵素活性を表し、「0」はいかなる金属イオンもないことを意味する。ドットで塗りつぶされた棒は、10 mMの金属イオン濃度を表し、線で塗りつぶされた棒は、1 mMの金属イオン濃度を表す。
【図8】plyS9、およびCBD領域の特定の長さ変種の略図である。数字は、SEQ ID NO:1に示されるアミノ酸配列のアミノ酸残基を表す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書において使用される「エンドリシン」という用語は、細菌の細胞壁を加水分解するのに適した酵素を意味している。グラム陽性細菌に感染するバクテリオファージ由来のエンドリシンは、モジュール式のデザインを示す。大抵の場合、N末端ドメインは酵素学的活性ドメイン(EAD)であり、細胞壁結合ドメイン(CBD)と称されるC末端ドメインは、基質認識の役割を担う。双方のドメインは、短いリンカーペプチドによって接続されている。エンドリシンは、エンドペプチダーゼ、N-アセチル-ムラモイル-L-アラニン-アミダーゼ、N-アセチル-ムラミダーゼ、およびN-アセチル-グルコサミニダーゼの群より選択される、少なくとも一つのEADを含む。
【0021】
本明細書において使用される「ドメイン」という用語は、特定の機能によるものでありかつ構造的ドメインとも一致し得るエンドリシンのサブユニットを意味している。ドメインという用語は、複数のモジュールから構成され得るEADとCBDドメインとの間の拮抗作用を説明するために優先的に使用される。
【0022】
本明細書において使用される「CBD」という用語は、タンパク質のC末端に往々にして見出される、エンドリシンの細胞壁結合ドメインを意味している。CBDドメインは、細胞壁の加水分解に関していかなる酵素活性も有しないが、往々にして、エンドリシンの細菌細胞壁への結合を媒介する。
【0023】
本明細書において使用される「EAD」という用語は、細菌のペプチドグリカンの加水分解の役割を担う、エンドリシンの酵素学的に活性なドメインを意味している。これは、エンドペプチダーゼ、N-アセチル-ムラモイル-L-アラニン-アミダーゼ、N-アセチル-ムラミダーゼ、およびN-アセチル-グルコサミニダーゼの群より選択されるエンドリシンの、少なくとも一つの酵素活性を含む。
【0024】
本発明の一つの局面は、SEQ ID NO:1の配列を含むポリペプチド、およびその変種に関する。該ポリペプチドおよびその変種は、本発明に係るポリペプチドと見なされる。それらの全ては、エンドリシンの活性を有するという共通の特徴を有し、したがって、クロストリジウム・パーフリンジェンス細菌を溶解させることができる。クロストリジウム・パーフリンジェンスに対する特異性は、例えば、一種または複数種のクロストリジウム・パーフリンジェンス種を含む試料にポリペプチドを添加し、ポリペプチド添加後の濁度の変化を決定することによる等の、当技術分野において公知の複数の方法によって試験され得る。好ましい態様において、本発明に係るポリペプチドは、SEQ ID NO:1に示される。
【0025】
好ましい態様において、本発明に係るポリペプチドの変種は、SEQ ID NO:1に関して単一の置換または複数の置換を示す。
【0026】
本発明の別の局面は、本発明に係るポリペプチドの断片に関する。本発明の発明者らは、plyS9の特定のC末端断片が、クロストリジウム・パーフリンジェンスに結合し得ることを発見した。したがって、本発明のさらなる好ましい態様は、plyS9のCBDに関連する。SEQ ID NO:1に示されるアミノ酸配列の、アミノ酸残基170位〜342位、181位〜342位、192位〜342位、または203位〜342位を含むplyS9の断片が好ましい。170位および203位の範囲のアミノ酸残基で始まり、かつアミノ酸残基342位で終わるplyS9の断片がさらに好ましく、ここで、アミノ酸残基の位置は、SEQ ID NO:1を参照している。
【0027】
さらなる好ましい態様において、plyS9の変種は、ビオチンまたはHA-タグ、His-タグ、Strep-タグ、Myc-タグ、GST-タグ、JS-タグ等のタグ、もしくは当技術分野において公知の他のタグ等のさらなるマーカー部分を含む。
【0028】
上に示されたplyS9の変種は、厳密に別個の態様として見なされてはならないが、その代わり、組み合わせられてもよいことが理解されるべきである。例えば、本明細書に係るPlyS9の変種は、組換えエンドリシンがクロストリジウム・パーフリンジェンスに対して依然として特異的であるという条件で、上に示されるような一つまたは複数のアミノ酸残基置換、およびJS-タグを含んでもよい。当業者は該変種のうちどれが目的のために適切であるのかを容易に認識し、かつ例えば、クロストリジウム・パーフリンジェンス含有溶液の光学密度に対する溶解活性の効果をアッセイすることによる等の、当技術分野における慣習的な方法によって、クロストリジウム・パーフリンジェンスに対する活性に関して、そのような変種を試験することが常に可能であると考えられる。
【0029】
JS-タグは、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)オキサル酢酸デカルボキシラーゼ(oxalacetatedescarboxylase)のαサブユニットのビオチンアクセプタードメインに由来し、かつコンセンサス配列MKM(Kがビオチン化され得る)を含み、それによりポリペプチドは、ビオチンリガーゼ酵素によってインビボでビオチン化され得る。JS-タグは、クレブシエラ・ニューモニエのオキサル酢酸デカルボキシラーゼの全αサブユニットの、サイズ減少断片である。JS-タグの適切な最小配列は66アミノ酸残基を含み、かつSEQ ID NO:14に示される。しかしながら、66アミノ酸残基長のJS-タグの誘導体も適切であり、かつSEQ ID NO:14に少なくとも80%、90%、95%、98%相同な配列を含む。好ましくは、該誘導体は最大80アミノ酸残基長であり、66アミノ酸残基のアミノ酸ストレッチに渡って、SEQ ID NO:14に少なくとも80%、90%、95%、98%相同である。
【0030】
本発明のさらなる局面は、本発明に係るポリペプチド、その変種、または断片によって、食物中、医学的試料中、または例えば死亡した動物の組織等の獣医学的試料中、ならびに動物飼料およびヒト食物中の、クロストリジウム・パーフリンジェンスを検出する方法に関連する。
【0031】
ポリペプチドまたはその変種は、検出に先立ち、アッセイ中にクロストリジウム・パーフリンジェンスを溶解させるために使用されてもよい。一部のアッセイの共通の性質は、核酸(DNAもしくはRNA)、または例えばATP等の生化学的要素、または細胞内酵素活性を、決定すべき細菌細胞から解放する必要性である。
【0032】
しかしながら、現在利用可能な技術によって可能となる核酸分子の単離は、重大な短所を有するが、それは本発明に係るポリペプチドまたは変種を使用することによって克服される。
【0033】
好ましくは、ポリペプチドまたはその変種は、PCR等の核酸検出アッセイもしくは他の検出アッセイにおいて、またはそれに先立ち使用される。この点において、本発明に係るポリペプチドまたはその変種は、迅速にクロストリジウム・パーフリンジェンス細胞を溶解させ、それによってゲノムDNAまたはRNAを放出させるために、PCR等の核酸分子検出方法において、またはそれに先立ち使用される。細胞が溶解されたならば、増幅反応のためのDNAまたはRNAの単離および/または精製の必要性は存在しない。
【0034】
本発明の別の局面において、酵素学的に活性なドメインは、マーカーであるポリペプチドと置換される。したがって、ポリペプチドPlyS9の細胞壁結合ドメインまたはその断片は、ビオチン、Strep-タグ、緑色蛍光タンパク質等の蛍光タンパク質などのマーカー部分、または当技術分野において公知の他のマーカーに結合される。マーカー部分に結合されたCBDは、例えば食物中のクロストリジウム・パーフリンジェンスの迅速な検出のための方法において使用され得る。
【0035】
したがって、本発明は、本発明に係るポリペプチド、その変種、またはCBDを使用して、試料中のクロストリジウム細菌、好ましくはクロストリジウム・パーフリンジェンスを検出する方法をさらに提供する。
【0036】
別の局面において、本発明は、本発明のポリペプチド、その変種および断片をコードする配列を含む核酸分子に関連する。例えば、縮重遺伝コードを考慮すると、本発明に係るポリペプチド、その変種、または断片をコードする核酸分子を構築する多数の方法が存在する可能性があることは、当業者にとって明白である。本発明のポリペプチド、その変種、または断片のアミノ酸配列についての知見を有する当業者は、例えば、コドン使用頻度を所望の発現宿主のコドン使用頻度に適合させた、目的に最も適する適当なヌクレオチド配列を選択することができる。本発明のポリペプチド、その変種、または断片をコードする配列を含む核酸分子は、各々、本発明の核酸分子または核酸配列と見なされる。
【0037】
好ましい態様において、核酸分子は、SEQ ID NO:1に示される本発明に係るポリペプチドをコードする。好ましくは、該核酸分子は、SEQ ID NO:2に示される核酸配列を含む。
【0038】
好ましい態様において、前記核酸分子は、SEQ ID NO:10〜13に示される本発明に係る断片をコードする。好ましくは、該核酸分子は、SEQ ID NO:11に示されるポリペプチド断片をコードする核酸配列を含む。
【0039】
さらなる局面において、本発明は、本発明のヌクレオチド配列を含むベクターに関連する。好ましくは、該ベクターは、適切な宿主細胞において、本発明のポリペプチド、その変種、または断片の発現を提供する。該宿主細胞は、例えば収率、可溶性、費用等の単なる生物工学的理由によって選択されてもよいが、細胞が対象に投与される場合、医学的観点で、例えば非病原性細菌または酵母、ヒト細胞から選択されてもよい。前記ベクターは、本発明に係るポリペプチドの恒常的発現または誘導性発現を提供しうる。
【0040】
本明細書において記述される特定のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列、ならびに該ヌクレオチド配列に由来し得るアミノ酸配列に加え、本発明はまた、その変種、相同体、および誘導体も包含する。
【0041】
ここで、「相同性」という用語は、「同一性」に匹敵し得る。本発明の状況において、相同配列は少なくとも75%、85%、または90%同一であってもよく、好ましくは少なくとも95%もしくは98%同一であってもよいアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を包含すると解釈される。とりわけ、典型的に、活性に必須であることが公知の領域の配列に関して、相同性が考慮されるべきである。相同性はまた、類似性(すなわち、類似の化学的性質および/または機能を有するアミノ酸残基)に関しても考慮され得るが、本発明の状況においては、配列同一性の観点から相同性を表現することが好ましい。
【0042】
好ましい局面において、変種、相同体、または誘導体は、SEQ ID NO:1に示されるアミノ酸配列に、少なくとも75%、85%、または90%、好ましくは少なくとも95%または98%同一なアミノ酸配列である。
【0043】
好ましい局面において、変種、相同体、または誘導体は、SEQ ID NO:2に示されるヌクレオチド配列に、少なくとも75%、85%、または90%、好ましくは少なくとも95%または98%同一なヌクレオチド配列である。
【0044】
さらなる局面において、変種、相同体、または誘導体は、SEQ ID NO:10〜13に示されるアミノ酸配列の細胞壁結合ドメインに、少なくとも75%、85%、または90%、好ましくは少なくとも95%または98%同一なアミノ酸配列である。好ましくは、誘導体は、SEQ ID NO:11に示されるアミノ酸配列を含む。
【0045】
本発明は、本発明に係るポリペプチドまたはその変種を含む医用薬剤にさらに関連する。本発明は、本発明に係るポリペプチド、その変種、または断片を含む薬学的組成物にさらに関連する。
【0046】
本発明のさらなる局面において、上述のポリペプチド、その変種、または断片は、対象におけるクロストリジウム感染症の処置または予防のための、とりわけクロストリジウム・パーフリンジェンスまたはクロストリジウム・チロブチリカム(C. tyrobutyricum)による感染症の処置または予防のための方法において利用される。対象はヒト対象であってもよく、または動物、とりわけブタ、雌ウシ、ヒツジ、ウマ、家禽、ヤギ、捕獲された野鳥およびウサギ等の畜産業および/もしくは酪農業において使用される動物であってもよい。前記処置の方法は、感染部位、または感染に対して予防的に処置される部位に対する、十分量の本発明のポリペプチドの適用を包含する。
【0047】
とりわけ、前記処置の方法は、クロストリジウム、とりわけクロストリジウム・パーフリンジェンスによる軟部組織および胃腸管の感染の処置または予防のためであってもよい。
【0048】
さらなる好ましい態様において、本発明に係るポリペプチドは、筋壊死、とりわけクロストリジウム性筋壊死(ガス壊疽)、壊疽性腸炎、とりわけクロストリジウム・パーフリンジェンスにより引き起こされる壊疽性腸炎(「ピグベル」または「ダームブランド」)、胃腸管の感染症、とりわけ乳児の壊死性腸炎、エンテロトキシン誘発性の下痢、または、クロストリジウム・パーフリンジェンスにより引き起こされる、食物に起因する疾病の、処置または予防のための方法において利用される。
【0049】
さらなる好ましい態様において、本発明に係るポリペプチドは、様々な動物におけるクロストリジウム、好ましくはクロストリジウム・パーフリンジェンス感染症、とりわけヒツジ、ヤギ、子ウシ、ウシ、ウマ、および他の動物種における腸毒血症の、処置または予防の方法において使用される。とりわけ、本適用のポリペプチドは、クロストリジウムにより引き起こされる、とりわけクロストリジウム・パーフリンジェンスにより引き起こされる、子ヒツジの赤痢および髄質様腎疾患(pulpy kidney disease)、または家禽の壊死性腸炎の、処置または予防の方法における使用に適切である。
【0050】
特に好ましい態様において、処置または予防される感染症が、耐性または多剤耐性クロストリジウム株によって、とりわけクロストリジウム・パーフリンジェンスよって引き起こされる場合、本発明のポリペプチドまたはその変種が、医療処置のために使用される。さらに、本発明のポリペプチドまたはその変種は、抗生物質または他のエンドリシン等の従来の抗菌剤と組み合わせてそれらを投与することによる処置の方法において使用され得る。
【0051】
本発明に係る処置または予防の方法において使用される投与量、および投与経路は、処置される特定の疾患および/または感染部位に依存する。投与経路は、例えば、経口的、局所的、非経口的、静脈内、直腸内、または任意の他の投与経路のための特定の態様におけるものであってもよい。
【0052】
感染部位または感染の危険にさらされる部位に対する本発明のポリペプチドの適用に関して、ポリペプチドがプロテアーゼ、酸化、または免疫応答等の環境的影響から保護される様式で、本発明のポリペプチドは調剤されてもよい。
【0053】
したがって、本発明のポリペプチドは、カプセル剤、糖剤、ピル剤、坐剤、注射可能溶液、または任意の他の医学的に妥当な生薬製剤として調剤されてもよい。一部の態様において、これらの生薬製剤は、適切な担体、安定剤、香料、緩衝剤、または他の適切な試薬を含んでもよい。
【0054】
例えば、局所的適用に関して、本発明のポリペプチドは、ローション剤または硬膏剤によって投与されてもよい。
【0055】
腸管の処置、例えば、壊死性腸炎、またはエンテロトキシン誘発性の下痢等における処置に関して、坐剤製剤が想定され得る。あるいは、経口投与が考慮されてもよい。この場合、本発明のポリペプチドは、感染部位に到達するまで、過酷な消化性環境から保護されなければならない。これは、例えば胃における消化の初期段階を生存し、かつ後に本発明のポリペプチドを腸管環境中に分泌する細菌を担体として使用することによって、達成され得る。
【0056】
全ての医療用用途は、クロストリジウム・パーフリンジェンス細菌を遭遇時に特異的かつ即時に溶解する、本発明のポリペプチドの効果に依存する。これは、病原性細菌および細菌負荷の減少をもたらすことによって、処置される対象の健康状態に対する即時効果を有し、かつ同時に免疫システムを解放する。したがって、当業者が直面する主要な課題は、処置される各々の疾患に対し、本発明のポリペプチドを正確に調剤することである。この目的のため、これらの用途に関して従来の医用薬剤に利用されるのと通常同一の生薬製剤が、使用され得る。
【0057】
本発明のさらなる局面において、上述のポリペプチドまたは変種は、任意で担体物質を含む薬学的組成物の構成要素である。
【0058】
さらなる局面において、ポリペプチドまたは変種は、化粧品または消毒薬組成物の一部である。上述のように、いくつかのクロストリジウム種は、皮膚等の、患者の身体の環境的に曝露された表面で刺激を引き起こし得る。そのような刺激を予防するため、またはクロストリジウム病原体の軽微な症状を取り除くため、既存のまたは新規に定着するクロストリジウムを溶解させるのに十分量の、本発明のポリペプチドを含む特別な化粧品調製物が利用されてもよい。
【0059】
さらなる局面において、本発明は、食材中、食物加工器具上、食物加工設備中、棚および食品保管領域等の食材と接触する表面上、ならびにクロストリジウム細菌が食物材料に潜在的に感染し得る全ての他の状況における、本発明のポリペプチドおよびその変種の抗菌薬としての使用に関連する。該ポリペプチドは、単独で、または抗生物質等の他の抗菌薬との組み合わせて使用され得る。さらに、該ポリペプチドは、例えば家禽農場もしくはブタ農場において、疾患の予防のため、単独または他の抗菌薬との組み合わせのいずれかで動物飼料中に使用され得る。
【0060】
好ましい態様において、本発明に係るポリペプチドは、医用薬剤、薬学的組成物、化粧品、抗菌薬等として使用される。
【実施例】
【0061】
Sambrook et al.(Molecular cloning. A laboratory manual; 2nd ed. Cold Spring Harbor Laboratory Press 1989)に従い、標準的技術を使用して全てのクローニング手法を行った。標準的技術を使用して、変異および欠失も導入した。
【0062】
実施例1:phiS9エンドリシンおよびCBDのクローニングおよび配列決定
最先端の技術を用いて、クロストリジウム・パーフリンジェンスのバクテリオファージphiS9のゲノムDNAを精製し、標準的なPCR条件を用いて、plyS9遺伝子およびCBD断片を増幅した。
【0063】
phiS9エンドリシンの増幅に関して、配列

を有するプライマーplyS9-f、および配列

を有するply-S9-rを使用した。plyS9-fは、配列中にBamH1制限部位および開始コドンを導入し、plyS9-rはSalI制限部位および終止コドンを導入した。増幅された遺伝子を、BamH1およびSalI制限部位を介してpQEプラスミド(Qiagen;6×Hisタグの配列を含む)中にクローニングした。
【0064】
CBD断片の増幅に関して、配列

を有するフォワードプライマーCBD-S9A-f、配列

を有するCBD-S9B-f、配列

を有するCBD-S9C-f、および配列

を有するCBD-S9D-fを使用した。全ての変種の増幅に関して、配列

を有し、かつSalI制限部位および終止コドンを導入するリバースプライマーply-S9CBD-r(SEQ ID NO:9)を使用した。全てのフォワードプライマーは、SacI制限部位および開始コドンを導入した。pQE30のBamHI-SacI部位にクローニングされたgfp-mut2を含み、SacIおよびSalI制限部位を介して6×Hisタグを付加したGFPを産生するプラスミドpHGFP(Lossner et al., 2002, Mol. Microbiol. 44/2, 335-349)中に、増幅された遺伝子をクローニングした。所望の配列を確認するため、全ての得られたプラスミドを配列決定した。
【0065】
実施例2:大腸菌(E.coli)におけるplyS9断片およびCBD断片の発現、ならびに組換えタンパク質の精製
plyS9断片およびCBD断片を、大腸菌XL-1 Blue MRF’で発現させた。plyS9の発現に関して、tRNAArg、tRNAIle、およびtRNALeuに対するtRNA遺伝子を提供するプラスミドpACYC-IRL10を共発現させた。株のより良好な増殖を達成するために、50μg/mlのアンピシリン、15μg/mlのテトラサイクリン、および5μg/mlのクロラムフェニコールのみの抗生物質濃度を使用した。上述の抗生物質を含む250 mlのLB-PE培地(15 g/lのトリプトン、8 g/lの酵母抽出産物、5 g/lのNaCl、pH 7.8)に一晩培養液から5 mlを播種し、1000 mlフラスコにおいて通気下で、37℃(plyS9)または30℃(CBD断片)で撹拌することにより発現実験を実施した。0.6の600 nmでの光学密度(OD600)で、1 mM IPTGを用いて培養物を誘導し、タンパク質を産生させるためさらに4時間増殖させた。SDS PAGE解析のために、誘導前、ならびに誘導の1時間後、2時間後、および4時間後に試料を採取した。4時間後、遠心分離(JA-10ローターを備えたBeckmann J2-21、7000 rpm、20分、10℃)により細胞を収集した;250 mlの増殖培地当たり、8 mlの緩衝剤A(50 mM Na-P pH 8.0、5 mMのイミダゾール、0.1%のTween 20、500 mMのNaCl)中に沈殿物を懸濁した。French Pressure Cell Press(SLM Aminco、1260 PSI、挿入;20k)を2回通過させ、続く、細胞破壊の効率を増加させるための−20℃で1サイクルの凍結および解凍によって、細胞を破壊した。遠心分離(19776ローターを備えたSigma 3K301、20000g、40分、10℃)および所望のタンパク質を含む上清の濾過(孔サイズ0.2μm)によって、細胞片を取り除いた。さらなる処理のため、粗抽出産物を氷上で貯蔵した。
【0066】
緩衝剤Aで平衡化されたMicro Bio-Spinクロマトグラフィーカラム(Biorad)中で1 mMのNi-NTAスーパーフローレジン(Qiagen)を使用して、plyS9断片およびCBD断片の精製を行った。粗抽出産物の通過後、緩衝剤A(5カラム体積)、ならびに10%の緩衝剤B(50 mMのNa-P pH 8.0、250 mMのイミダゾール、0.1%のTween 20、500 mMのNaCl)および90%の緩衝剤Aの混合物(3カラム体積)を用いて、カラムを洗浄した。100%の緩衝剤B(2カラム体積)を使用して、カラムからのタンパク質の溶出を行った。粗抽出産物のフロースルー由来の試料、10%の緩衝剤Bを用いた洗浄段階由来の試料、および溶出物由来の試料をSDS PAGE解析のために採取した。
【0067】
穏やかな撹拌下4℃での透析(Spectra/Por、Spectrumlabs、MWCO:6000〜8000)、および2時間後の1×緩衝剤の交換によって、塩およびイミダゾールを取り除いた。透析により塩濃度を低下させることによって、タンパク質の大幅な損失がもたらされ、そのため最終的に、高塩濃度の透析緩衝剤(50 mMのNa-P pH 8.0、0.1%のTween 20、500 mMのNaCl)を使用することによって、イミダゾールのみを取り除いた。透析後、試料を濾過滅菌し(0.2μmの孔サイズ)、遠心分離(19777ローターを備えたSigma3K30、8000g、Vivascience製のVivaspin(商標)4 ml濃縮チューブ中で、4℃)によって濃縮した。精製されたタンパク質を、50%グリセロールにおいて−20℃で貯蔵した。
【0068】
実施例3:plyS9の溶解活性および基質特異性
酵素添加後10分間の間、15秒毎に細胞懸濁液のOD600を測定することにより(Libra S22光度計、Biochrom)、細菌細胞に対するplyS9の溶解活性を決定した。基質細胞懸濁液で1 mlの全容量に充填する前に、ハーフマイクロキュベットの底部に6μgの精製されたplyS9を導入した。同一手法であるが、精製plyS9溶液の代わりに、高塩濃度の透析緩衝剤およびグリセロールの無菌の50:50混合物を使用することによって、陰性対照とした。
【0069】
推定の後期対数期または静止期まで、5〜10 mlの適切な培地中で基質細胞を増殖させた。液体TYG培地(30 g/lのトリプトン、20 g/lの酵母抽出産物、5 g/lのグルコース、0.5 g/lのL-システイン、pH 7.2)中の嫌気性条件下で、37℃でおよそ4時間に渡って、クロストリジウム・パーフリンジェンス株を増殖させた。クロストリジウム・チロブチリカム株を、同一様式で取り扱った。TB培地(20 g/lのトリプトン、1 g/lのグルコース、5 g/lのNaCl、0.005チアミンHCl pH 7.4)において、好気性条件下37℃で、全ての他のグラム陽性細菌を、濁度が観察されるまで増殖させた。ガスを通さないチャンバー中でGENbox CO2生成器(BioMerieux)およびBiolife(商標)製のMRSブロスを使用して、上昇したCO2の雰囲気を必要とする株の交配(ビフィドバクテリウム・ガリナラム(Bifidobacterium gallinarum)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、およびロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides))を行った。遠心分離によって細胞を収集し、PBS緩衝剤(50 mM Na-P pH 8.0、120 mM NaCl)中に再懸濁し、20μlのアリコートの状態で−80℃で貯蔵した。アッセイ準備の直前にアリコートを解凍し、25 mMクエン酸/リン酸緩衝剤(pH 6.5、120 mM NaCl)で希釈した。高度に濃縮された生存クロストリジウム・パーフリンジェンス細胞の氷上での貯蔵は自己融解の増強をもたらし、したがって約15分後に細胞懸濁液の粘性が増加し、溶解アッセイの再現性の低下がもたらされたため、この手法が必要であった。
【0070】
エンドリシンplyS9は、試験された全54のクロストリジウム・パーフリンジェンス株に対して溶解活性を示した。
【0071】
【表1】


溶解活性の解釈:
++ 10分以内に50%を超えるOD600の減少
+ 10%を超えるOD600の減少
(+) 4%を超えるOD600の減少、かつ典型的な溶解曲線が観察可能でなければならない
− 有意なOD600の減少なし
【0072】
さらに、一部のクロストリジウム・チロブチリカム株およびバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)DSM 90を、plyS9により溶解した。
【0073】
【表2】

溶解活性の解釈:
++ 10分以内に50%を超えるOD600の減少
+ 10%を超えるOD600の減少
(+) 4%を超えるOD600の減少、かつ典型的な溶解曲線が観察可能でなければならない
− 有意なOD600の減少なし
【0074】
実施例4:plyS9の溶解活性に対するpH、塩、および金属イオンの影響
plyS9活性に対する、pH、塩濃度、および二価金属イオンの影響を試験するため、生存クロストリジウム・パーフリンジェンスS13細胞を基質として使用した。溶解曲線の最適な比較のため、1 mlのアッセイ体積当たり0.5μgのplyS9を適用した。
【0075】
pH最適化アッセイに関して、基質細胞懸濁液を酵素と混合する直前に、凍結バッチ由来の細胞を懸濁し、25 mMのクエン酸/リン酸緩衝剤(pH 4.5〜6.5;120 mMのNaCl)中、または25 mMのTris/リン酸緩衝剤(pH 5.5〜9.0;120 mM NaCl)中で解凍した。plyS9活性は、pH 6.17の等電点に対応する6.0〜6.5のpHで最も高いことを見出した。8.0より高いpH値で活性は顕著に減少し、かつpH 4.0またはそれより下で、溶解活性を全く観察することができなかった。異なる塩化ナトリウム濃度を含む20 mM MOPS緩衝剤pH 7.0を使用して、塩化ナトリウムの影響を試験した。最適塩化ナトリウム濃度は、300 mMであることが見出された。
【0076】
二価金属イオンの影響を以下のように試験した:100μlの量の金属イオン溶液(熱滅菌されたMilli-Q水中、[嫌気性条件下で調製され、かつ貯蔵された]100 mMのCaCl2、CoCl66H2O、CuCl22H2O、MgCl2、MnSO4H2O、NiCl22H2O、ZnCl2、FeCl24H2O)、または100μlの1:10希釈された金属イオン溶液を、ハーフマイクロキュベット中に注入した。金属イオン溶液の上方で、酵素(0.5μg)をキュベット壁に滴下した。
【0077】
アッセイを1 mlに満たすため、20 mMのMOPS pH 7.0、300 mMのNaClで希釈された基質細胞を使用した。最終的な金属イオン濃度は、各々、10 mMまたは1 mMであった。カルシウムは、plyS9活性に対して最も顕著な増強性の影響を有し、マグネシウムがそれに続いた。各々の濃度がより高いほど、酵素活性はより高かった。マンガンは、その濃度が低い場合(1 mM)正の影響を有したが、マンガン濃度が10倍高い場合、この効果は消失した。コバルトは、アッセイ中のその濃度が1 mMのみであった場合、溶解活性を約20%低下させた。10 mMの濃度のコバルトは、酵素を不活性化させた。これはまた、鉄、銅、ニッケル、および亜鉛のいずれの添加に関しても観察することができた。
【0078】
実施例5:CBDS9_Cの結合性質
異なる変種の結合性質の比較のため、等量のタンパク質分子を各結合アッセイに添加した。算出されたタンパク質体積をPBST緩衝剤で50μlの最終体積に希釈し、標的細胞と混合した。室温で15分のインキュベーション後、過剰かつ結合していない蛍光タンパク質を取り除くため、500μlのPBST緩衝剤で細胞を2回洗浄し、最終的にそれらを50μlのPBST緩衝剤中に再懸濁した。全ての試験されたクロストリジウム・パーフリンジェンス株に対するCBDS9融合タンパク質の結合アッセイ写真を、Zeissフィルターセット(励起:BP 450-49 nm、ビームスプリッター:FT 510 nm、発光:LP 520 nm)を使用してZeiss Axioplan顕微鏡(100×接眼レンズ)を用いて取得した。CBD3626を用いたアッセイ、およびクロストリジウム・チロブチリカム株を用いた全アッセイを、Leica DMI 4000 CSQ顕微鏡(落射蛍光、63×接眼レンズ)下で観察した;Kretzer et al., 2007, Appl. and Environ. Microbiol. 73/06, 1992-2000。
【0079】
CBDS9の全ての4つの長さ変種は、参照株のクロストリジウム・パーフリンジェンスS9およびS13を標識する。さらなる結合アッセイのため、変種CBDS9_Cを選択した。
【0080】
【表3】


結合性質の解釈:
++ 細胞は、極および隔壁においてのみか、または細胞全体のいずれかで強力な緑色蛍光を示した(強固な結合)
+ より弱い強度で、細胞は容易に観察された(弱い結合)
(+) 励起後に、細胞は直ぐに消失した(非常に弱い結合)
− 細胞は観察されなかった(結合なし)
【0081】
【表4】

結合性質の解釈:
++ 細胞は、極および隔壁においてのみか、または細胞全体のいずれかで強力な緑色蛍光を示した(強固な結合)
+ より弱い強度で、細胞は容易に観察された(弱い結合)
(+) 励起後に、細胞は直ぐに消失した(非常に弱い結合)
− 細胞は観察されなかった(結合なし)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO:1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、またはその断片。
【請求項2】
断片が、クロストリジウム・パーフリンジェンス(C. perfringens)の細胞壁に結合する生物学的活性を有する、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
断片が、SEQ ID NO:1に示されるアミノ酸配列の170位および203位の範囲のアミノ酸残基で始まり、かつアミノ酸残基342位で終わるアミノ酸残基を含む、請求項1または2記載のポリペプチド。
【請求項4】
SEQ ID NO:10から13に示される、請求項1から3のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項5】
ビオチン残基、HA-タグ、His-タグ、Strep-タグ、Myc-タグ、Js-タグ、またはGST-タグを含む、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項記載のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、核酸分子。
【請求項7】
請求項6記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項8】
請求項6記載の核酸分子、または請求項7記載のベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項9】
請求項1から5のいずれか一項記載のポリペプチドを含む、組成物。
【請求項10】
薬学的組成物であり、かつ薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、または担体をさらに含む、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
ヒトまたは動物の薬学的物質または診断物質として使用するための、請求項1から5のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項12】
病原性クロストリジウム種、好ましくはクロストリジウム・パーフリンジェンスに関連する障害、疾患、または状態の処置、予防、または診断のための、請求項1から5のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項13】
食材の、食物加工器具の、食物加工設備の、または食材と接触する表面の、クロストリジウム汚染の処置、予防、または診断のための、請求項1から5のいずれか一項記載のポリペプチドの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−527188(P2011−527188A)
【公表日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517142(P2011−517142)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【国際出願番号】PCT/EP2009/058579
【国際公開番号】WO2010/003943
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(510046402)ヒグロス インベスト ゲーエムベーハー (5)
【Fターム(参考)】