説明

クロストリジウム・ディフィシル(Clostridiumdifficile)毒素に対する抗体およびその使用

C.ディフィシルの毒素に特異的に結合する抗体、その抗原結合部分、ならびに抗体およびその抗原結合部分を作製および使用する方法を本明細書において提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連情報
本出願は、2004年2月6日に出願した米国仮特許出願第60/542,357号および2004年9月28日に出願した米国仮特許出願第60/613,854号の優先権を主張し、これらの全内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本明細書を通して引用する特許、特許出願、および参考文献の内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
クロストリジウム・ディフィシル(C.ディフィシル)は、ヒトの消化器疾患を引き起こすグラム陽性菌である。C.ディフィシルは入院患者の感染性下痢の最大の原因であり、また全体的に見て、最も頻度の高い院内感染の1つである(Kelly et al., New Eng. J. Med., 330:257-62, 1994(非特許文献1))。実際に、この病原体と関連する疾患は、米国において1年に300万人もの入院患者を苦しめていると考えられる(McFarland et al., New Eng. J. Med., 320:204-10, 1989;Johnson et al., Lancet, 336:97-100, 1990(非特許文献2))。
【0004】
正常な腸内細菌叢を破壊するアンピシリン、アモキシリン、セファロスポリン、およびクリンダマイシンなどの抗生物質による治療は、C.ディフィシルを腸に定着させ、C.ディフィシル疾患をもたらし得る(Kelly and Lamont, Annu. Rev. Med., 49:375-90, 1998(非特許文献3))。C.ディフィシル疾患の発症は典型的に抗生物質治療の4〜9日後に起こるが、抗生物質治療の中止後にも起こり得る。C.ディフィシルは、腹痛、水様性下痢、および全身疾患(例えば、発熱、嘔気)を特徴とする重症型の大腸炎である偽膜性大腸炎(PMC)をはじめとする、軽症から重症まで様々な下痢および大腸炎の症状を生じ得る。疾患の最初の発症に関して治療した患者の最大20%において再発性疾患が起こり得、再発した患者はさらなる再発の危険性がより高い(Kelly and Lamont, Annu. Rev. Med., 49:375-90, 1998(非特許文献3))。
【0005】
C.ディフィシル疾患は、腸上皮に対する2種類の外毒素、毒素Aおよび毒素Bの作用によって起こると考えられている。毒素はいずれも、宿主細胞において、Rhoタンパク質、アクチン重合に関与する低分子量GTP結合タンパク質の共有結合修飾を触媒する高分子量タンパク質(280〜300 kDa)である。毒素によるRhoタンパク質の修飾によってこのタンパク質は不活性化され、結果としてアクチンフィラメントの脱重合および細胞死が起こる。いずれの毒素も非経口投与した場合、マウスに対して致死的である(Kelly and Lamont, Annu. Rev. Med., 49:375-90, 1998(非特許文献3))。
【0006】
C.ディフィシル疾患は、便試料中の毒素Aまたは毒素Bの存在または活性を検出するアッセイ法、例えば酵素免疫測定法によって診断され得る。細胞毒素アッセイ法を用いて毒素活性を検出することが可能である。細胞毒素アッセイを行うには、便をろ過して細菌を除去し、培養細胞に及ぼす毒素の細胞変性効果を判定する(Merz et al., J. Clin. Microbiol., 32:1142-47, 1994(非特許文献4))。
【0007】
C.ディフィシルの治療は、抗生物質がC.ディフィシル疾患を誘発するという事実により複雑である。それにもかかわらず、現時点では抗生物質が第一の治療選択肢である。バンコマイシンおよびメトロニダゾールなど、C.ディフィシル疾患を引き起こす可能性が最も低い抗生物質が用いられる場合が多い。バンコマイシンが他の微生物による感染の唯一効果的な治療である場合を考えると、他の微生物で進展するバンコマイシン耐性は、治療にこの抗生物質を使用する際の懸念の要因である(Gerding, Curr. Top. Microbiol. Immunol., 250:127-39, 2000(非特許文献5))。病原細菌と生態学的地位を競合すると考えられる非病原微生物を対象に投与するプロバイオティックアプローチもまた使用される。例えば、バンコマイシンおよびサッカロミセス・ボウラディ(Saccharomyces boulardii)の併用による治療が報告されている(McFarland et al., JAMA., 271(24):1913-8, 1994(非特許文献6)。正誤表:JAMA, 272(7):518, 1994(非特許文献7))。
【0008】
疾患の感染モデルにおいて致死的攻撃から動物を防御するワクチンが開発されている(Torres et al., Infect. Immun. 63(12):4619-27, 1995(非特許文献8))。さらに、ポリクローナル抗体が、注射または給餌により投与した場合に、疾患からハムスターを防御することが示されている(Giannasca et al., Infect. Immun. 67(2):527-38, 1999(非特許文献9);Kink and Williams, Infect. Immun., 66(5):2018-25, 1998(非特許文献10))。C.ディフィシル毒素に結合し、インビボおよびインビトロでその活性を中和するマウスモノクローナル抗体も単離されている(Corthier et al., Infect. Immun., 59(3):1192-5, 1991(非特許文献11))。毒素中和抗体を含むヒトポリクローナル抗体がC.ディフィシル再発を予防し得るといういくつかの報告がある(Salcedo et al., Gut., 41(3):366-70, 1997(非特許文献12))。毒素Aに対する抗体応答は疾患の転帰と関係しており、感染の調節における体液性応答の有効性が示される。強力な毒素A ELISA反応を有する個体は、低い毒素A抗体レベルを有する個体と比較して疾患の重症度が低かった(Kyne et al., Lancet, 357(9251):189-93, 2001(非特許文献13))。
【0009】
疾患の病因における毒素Aおよび毒素Bの個々の役割、ならびにC.ディフィシル疾患からの防御における抗毒素抗体の役割には議論の余地があり、宿主によって異なる可能性がある。ヒトでは、抗毒素A抗体応答が疾患の転帰と関連づけられており、防御に対する抗毒素A応答の必要性が示唆される。この知見は、毒素Bがヒトの疾患に寄与し得ることを示唆する、毒素Bのみを発現する病原C.ディフィシル生物体に関する報告と対照的である。これらの毒素A陰性株はまた、ハムスターにおいても疾患を引き起こし得る(Sambol et al., J. Infect. Dis., 183(12):1760-6, 2001(非特許文献14))。
【0010】
【非特許文献1】Kelly et al., New Eng. J. Med., 330:257-62, 1994
【非特許文献2】McFarland et al., New Eng. J. Med., 320:204-10, 1989;Johnson et al., Lancet, 336:97-100, 1990
【非特許文献3】Kelly and Lamont, Annu. Rev. Med., 49:375-90, 1998
【非特許文献4】Merz et al., J. Clin. Microbiol., 32:1142-47, 1994
【非特許文献5】Gerding, Curr. Top. Microbiol. Immunol., 250:127-39, 2000
【非特許文献6】McFarland et al., JAMA., 271(24):1913-8, 1994
【非特許文献7】JAMA, 272(7):518, 1994
【非特許文献8】Torres et al., Infect. Immun. 63(12):4619-27, 1995
【非特許文献9】Giannasca et al., Infect. Immun. 67(2):527-38, 1999
【非特許文献10】Kink and Williams, Infect. Immun., 66(5):2018-25, 1998
【非特許文献11】Corthier et al., Infect. Immun., 59(3):1192-5, 1991
【非特許文献12】Salcedo et al., Gut., 41(3):366-70, 1997
【非特許文献13】Kyne et al., Lancet, 357(9251):189-93, 2001
【非特許文献14】Sambol et al., J. Infect. Dis., 183(12):1760-6, 2001
【発明の開示】
【0011】
発明の概要
本発明は一つには、C.ディフィシル毒素Aに対する抗体の対象への投与が、インビボにおいてC.ディフィシル媒介性疾患の再発から対象を防御し得るという発見に基づく。毒素Aおよび毒素Bの一方または両方に対する抗体の投与は、原発性のC.ディフィシル媒介性疾患を予防し得る。C.ディフィシル毒素に対する高親和性抗体は、例えば、ヒト免疫グロブリン遺伝子断片を発現するトランスジェニックマウスなどのマウスで産生され得る。これらの抗体は、インビトロで毒素の細胞毒性を中和し得、またインビボで毒素の腸内毒性を中和し得る。毒素Aおよび/または毒素Bを認識する抗体は、インビボで疾患を抑制し得るおよび防ぎ得る。
【0012】
1つの局面において、本発明は、クロストリジウム・ディフィシル(C.ディフィシル)の外毒素に特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分に関する。特定の態様において、抗体またはその抗原結合部分は、C.ディフィシル毒素A(毒素A)に特異的に結合する。他の態様において、抗体またはその抗原結合部分は、C.ディフィシル毒素B(毒素B)に特異的に結合する。他の態様において、抗体またはその抗原結合部分は、毒素Aおよび毒素Bの両方に特異的に結合する。
【0013】
特定の態様において、抗体またはその抗原結合部分は、インビトロにおいて毒素Aを中和し、毒素Aの哺乳動物細胞への結合を阻害し、および/またはインビボでC.ディフィシル媒介性疾患を抑制し得る。
【0014】
種々の態様において、抗体またはその抗原結合部分は以下の特徴の1つまたは複数を有する:マウスに投与した場合、抗体を投与していない対照マウスに致死的である量のC.ディフィシル毒素の投与からマウスを防御する;対象においてC.ディフィシル媒介性大腸炎、抗生物質起因性大腸炎、もしくは偽膜性大腸炎(PMC)を防ぐもしくは抑制する;対象において下痢を防ぐもしくは抑制する;および/またはC.ディフィシル媒介性疾患の再発を抑制する。
【0015】
抗体またはその抗原結合部分は、毒素AのN末端半分内にあるエピトープ、例えば毒素Aのアミノ酸1〜1256の間にあるエピトープに特異的に結合し得る。他の態様において、抗体またはその抗原結合部分は、毒素AのC末端受容体結合ドメイン内にあるエピトープ、例えば毒素Aのアミノ酸残基1852〜2710の間にあるエピトープ、またはアミノ酸659〜1852の間にあるエピトープ、例えば毒素Aのアミノ酸残基900〜1852、900〜1200、もしくは920〜1033内にあるエピトープに特異的に結合する。他の態様において、抗体またはその抗原結合部分は、毒素Aのアミノ酸1〜600、400〜600、または415〜540内にあるエピトープに特異的に結合する。他の特定の抗体またはその抗原結合部分は、毒素Aのアミノ酸残基1〜100、100〜200、200〜300、300〜400、400〜500、500〜600、600〜700、700〜800、900〜1000、1100〜1200、1200〜1300、1300〜1400、1400〜1500、1500〜1600、1600〜1700、1800〜1900、1900〜200、2100〜2200、もしくは2200〜2300、2300〜2400、2400〜2500、2500〜2600、2600〜2710、またはそれらの任意の区間、部分、もしくは範囲内にあるエピトープに特異的に結合し得る。
【0016】
特定の態様において、抗体またはその抗原結合部分は、約20 x 10-6 M未満のKDで毒素Aと特異的に結合する。特定の態様において、抗体またはその抗原結合部分は、約10 x 10-7 M未満、約10 x 10-8 M未満、約10 x 10-9 M未満、または約10 x 10-10 M未満のKDで毒素Aと特異的に結合する。他の特定の態様において、抗体またはその抗原結合部分は、約50 x 10-10 M未満、約20 x 10-10 M未満、約15 x 10-10 M未満、約8 x 10-10 M未満、または約5 x 10-10 M未満のKDで毒素Aと特異的に結合する。
【0017】
種々の他の態様において、抗体またはその抗原結合部分は、クローン3D8(配列番号:1)、1B11(配列番号:2)、または3H2(配列番号:3)によって産生される抗体の可変重鎖領域アミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%、またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を含む可変重鎖領域を含む。
【0018】
特定の態様において、抗体またはその抗原結合部分は、クローン3D8(配列番号:4)、1B11(配列番号:5)、または3H2(配列番号:6)によって産生される抗体の可変軽鎖領域アミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%、またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を含む可変軽鎖領域を含む。
【0019】
特定の態様において、抗体またはその抗原結合部分はそれぞれ、クローン3D8(配列番号:1)、1B11(配列番号:2)、または3H2(配列番号:3)によって産生される抗体の可変重鎖領域アミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%、またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を含む可変重鎖領域、およびクローン3D8(配列番号:4)、1B11(配列番号:5)、または3H2(配列番号:6)の可変軽鎖領域アミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%、またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を含む可変軽鎖領域の両方を含む。
【0020】
種々の態様において、抗体またはその抗原結合部分は、クローン3D8、1B11、または3H2によって産生される抗体が結合するエピトープと重複するエピトープに特異的に結合し、かつ/またはクローン3D8、1B11、または3H2によって産生される抗体と毒素Aに対する結合に関して競合する。
【0021】
抗体またはその抗原結合部分の可変重鎖領域は、クローン3D8(配列番号:7〜9)、1B11(配列番号:10〜12)、または3H2(配列番号:13〜15)によって産生される抗体の相補性決定領域(CDR)(表1にも示す)と少なくとも80%、85%、90%、95%、もしくは99%、またはそれ以上同一である1つまたは複数のCDRを含み得る。
【0022】
抗体またはその抗原結合部分の可変軽鎖領域は、クローン3D8(配列番号:16〜18)、1B11(配列番号:19〜21)、または3H2(配列番号:22〜24)によって産生される抗体の可変軽鎖領域のCDR(表2にも示す)と少なくとも80%、85%、90%、95%、もしくは99%、またはそれ以上同一である1つまたは複数のCDRを含み得る。
【0023】
抗体またはその抗原結合部分の可変重鎖領域は、クローン3D8(配列番号:7〜9)、1B11(配列番号:10〜12)、または3H2(配列番号:13〜15)によって産生される抗体の相補性決定領域(CDR)と少なくとも80%、85%、90%、95%、もしくは99%、またはそれ以上同一である1つまたは複数のCDRを含み得、かつ抗体またはその抗原結合部分の可変軽鎖領域は、クローン3D8(配列番号:16〜18)、1B11(配列番号:19〜21)、または3H2(配列番号:22〜24)によって産生される抗体の可変軽鎖領域のCDRと少なくとも80%、85%、90%、95%、もしくは99%、またはそれ以上同一である1つまたは複数のCDRを含み得る。
【0024】
抗体またはその抗原結合部分の可変重鎖領域は、クローン3D8(配列番号:7〜9)、1B11(配列番号:10〜12)、または3H2(配列番号:13〜15)によって産生される抗体の可変重鎖領域のCDRと少なくとも80%、85%、90%、95%、もしくは99%、またはそれ以上同一である3つのCDRを含み得る。
【0025】
いくつかの態様において、抗体またはその抗原結合部分の可変軽鎖領域は、クローン3D8(配列番号:16〜18)、1B11(配列番号:19〜21)、または3H2(配列番号:22〜24)によって産生される抗体の可変軽鎖領域のCDRと少なくとも80%、85%、90%、95%、もしくは99%、またはそれ以上同一である3つのCDRを含む。
【0026】
いくつかの態様において、抗体またはその抗原結合部分の可変軽鎖領域は、クローン3D8(配列番号:16〜18)、1B11(配列番号:19〜21)、または3H2(配列番号:22〜24)によって産生される抗体の可変軽鎖領域のCDRと少なくとも80%、85%、90%、95%、もしくは99%、またはそれ以上同一である1つまたは複数のCDRを含み、かつ抗体またはその抗原結合部分の可変重鎖領域は、クローン3D8(配列番号:7〜9)、1B11(配列番号:10〜12)、または3H2(配列番号:13〜15)によって産生される抗体の可変重鎖領域のCDRと少なくとも80%、85%、90%、95%、もしくは99%、またはそれ以上同一である3つのCDRを含む。可変軽鎖領域は、クローン3D8(配列番号:16〜18)、1B11(配列番号:19〜21)、または3H2(配列番号:22〜24)によって産生される抗体の可変軽鎖領域のCDRと少なくとも80%、85%、90%、95%、もしくは99%、またはそれ以上同一である3つのCDRを含み得る。
【0027】
特定の態様において、抗体またはその抗原結合部分の可変重鎖領域は、クローン3D8(配列番号:7〜9)、1B11(配列番号:10〜12)、または3H2(配列番号:13〜15)によって産生される抗体の可変重鎖領域のCDRと同一である3つのCDRを含み、かつ抗体またはその抗原結合部分の可変軽鎖領域は、クローン3D8(配列番号:16〜18)、1B11(配列番号:19〜21)、または3H2(配列番号:22〜24)によって産生される抗体の可変軽鎖領域のCDRと同一である3つのCDRを含み、例えば、抗体またはその抗原結合部分の可変軽鎖領域および可変重鎖領域は、クローン3D8(配列番号:1、配列番号:4)、1B11(配列番号:2、配列番号:5)、または3H2(配列番号:3、配列番号:6)によって産生される抗体の可変軽鎖領域および可変重鎖領域と同一である。
【0028】
いくつかの態様において、抗体またはその抗原結合部分は、インビトロで毒素Bを中和し、毒素Bの哺乳動物への結合を阻害し、および/またはインビボで毒素Bを中和する。
【0029】
いくつかの態様において、抗体またはその抗原結合部分は、毒素BのC末端部分内にある(例えば、毒素Bのアミノ酸1777〜2366の間にある)エピトープに特異的に結合する。他の特定の抗体またはその抗原結合部分は、毒素Bのアミノ酸残基1〜100、100〜200、200〜300、300〜400、400〜500、500〜600、600〜700、700〜800、900〜1000、1100〜1200、1200〜1300、1300〜1400、1400〜1500、1500〜1600、1600〜1700、1800〜1900、1900〜200、2100〜2200、もしくは2200〜2366、またはそれらの任意の区間、部分、もしくは範囲内にあるエピトープに特異的に結合し得る。
【0030】
特定の態様において、抗体またはその抗原結合部分は、約20 x 10-6 M未満のKDで毒素Bと特異的に結合する。特定の態様において、抗体またはその抗原結合部分は、約10 x 10-7 M未満、約10 x 10-8 M未満、約10 x 10-9 M未満、または約10 x 10-10 M未満のKDで毒素Bと特異的に結合する。他の特定の態様において、抗体またはその抗原結合部分は、約50 x 10-10 M未満、約20 x 10-10 M未満、約15 x 10-10 M未満、約8 x 10-10 M未満、または約5 x 10-10 M未満のKDで毒素Bと特異的に結合する。
【0031】
種々の他の態様において、抗体またはその抗原結合部分は、クローン124-152(すなわち、配列番号:54に示すアミノ酸配列)、2A11、または1G10によって産生される抗体の可変重鎖領域アミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%、またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を含む可変重鎖領域を含む。
【0032】
特定の態様において、抗体またはその抗原結合部分は、クローン124-152(すなわち、配列番号:58に示すアミノ酸配列)、2A11、または1G10によって産生される抗体の可変重鎖領域アミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%、またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を含む可変軽鎖領域を含む。
【0033】
特定の態様において、抗体またはその抗原結合部分はそれぞれ、クローン124-152(すなわち、配列番号:54に示すアミノ酸配列)、2A11、または1G10によって産生される抗体の可変重鎖領域アミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%、またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を含む可変重鎖領域、およびクローン124-152(すなわち、配列番号:58に示すアミノ酸配列)、2A11、または1G10によって産生される抗体の可変軽鎖アミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%、またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を含む可変軽鎖領域の両方を含む。
【0034】
種々の態様において、抗体またはその抗原結合部分は、クローン124-152、2A11、または1G10によって産生される抗体が結合するエピトープと重複するエピトープに特異的に結合し、かつ/またはクローン124-152、2A11、または1G10によって産生される抗体と毒素Bに対する結合に関して競合する。
【0035】
抗体またはその抗原結合部分の可変重鎖領域は、クローン124-152(配列番号:62、64、または66)、2A11、または1G10によって産生される抗体の相補性決定領域(CDR)(表3)と少なくとも80%、85%、90%、95%、もしくは99%、またはそれ以上同一である1つまたは複数のCDRを含み得る。
【0036】
抗体またはその抗原結合部分の可変軽鎖領域は、クローン124-152(配列番号:68、70、または72)、2A11、または1G10によって産生される抗体の相補性決定領域(CDR)(表4)と少なくとも80%、85%、90%、95%、もしくは99%、またはそれ以上同一である1つまたは複数のCDRを含み得る。
【0037】
抗体またはその抗原結合部分の可変重鎖領域は、クローン124-152(配列番号:62、64、または66)、2A11、または1G10によって産生される抗体の相補性決定領域(CDR)と少なくとも80%、85%、90%、95%、もしくは99%、またはそれ以上同一である1つまたは複数のCDRを含み得、かつ抗体またはその抗原結合部分の可変軽鎖領域は、クローン124-152(配列番号:68、70、または72)、2A11、または1G10によって産生される抗体の可変軽鎖領域のCDRと少なくとも80%、85%、90%、95%、もしくは99%、またはそれ以上同一である1つまたは複数のCDRを含み得る。
【0038】
抗体またはその抗原結合部分の可変重鎖領域は、クローン124-152(配列番号:62、64、または66)、2A11、または1G10によって産生される抗体の可変重鎖領域のCDRと少なくとも80%、85%、90%、95%、もしくは99%、またはそれ以上同一である3つのCDRを含み得る。
【0039】
特定の態様において、抗体またはその抗原結合部分の可変軽鎖領域は、クローン124-152(配列番号:68、70、または72)、2A11、または1G10によって産生される抗体の可変軽鎖領域のCDRと少なくとも80%、85%、90%、95%、もしくは99%、またはそれ以上同一である3つのCDRを含む。
【0040】
他の態様において、抗体またはその抗原結合部分の可変軽鎖領域は、クローン124-152(配列番号:68、70、または72)、2A11、または1G10によって産生される抗体の可変軽鎖領域のCDRと少なくとも80%、85%、90%、95%、もしくは99%、またはそれ以上同一である1つまたは複数のCDRを含み、かつ抗体またはその抗原結合部分の可変重鎖領域は、クローン124-152(配列番号:62、64、または66)、2A11、または1G10によって産生される抗体の可変重鎖領域のCDRと少なくとも80%、85%、90%、95%、もしくは99%、またはそれ以上同一である3つのCDRを含む。可変軽鎖領域は、クローン124-152(配列番号:68、70、または72)、2A11、または1G10によって産生される抗体の可変軽鎖領域のCDRと少なくとも80%、85%、90%、95%、もしくは99%、またはそれ以上同一である3つのCDRを含み得る。
【0041】
さらに他の態様において、抗体またはその抗原結合部分の可変重鎖領域は、クローン124-152(配列番号:62、64、または66)、2A11、または1G10によって産生される抗体の可変重鎖領域のCDRと同一である3つのCDRを含み、かつ抗体またはその抗原結合部分の可変軽鎖領域は、クローン124-152(配列番号:68、70、または72)、2A11、または1G10によって産生される抗体の可変軽鎖領域のCDRと同一である3つのCDRを含み、例えば、抗体またはその抗原結合部分の可変軽鎖領域および可変重鎖領域は、クローン124-152(配列番号:62、64、または66)、2A11、または1G10によって産生される抗体の可変軽鎖領域および可変重鎖領域と同一である。
【0042】
抗体またはその抗原結合部分は全長抗体であってよく、エフェクタードメイン、例えばFcドメインを含み得、免疫グロブリンγアイソタイプ抗体、一本鎖抗体、またはFab断片であってよい。抗体またはその抗原結合部分は、薬学的に許容される担体および/または標識をさらに含み得る。
【0043】
種々の態様において、抗体またはその抗原結合部分を含む組成物は他のヒトポリペプチドを含まない(例えば、組成物は、抗体またはその抗原結合部分以外のヒトポリペプチドを5%未満しか含まない)。
【0044】
さらに別の局面において、本発明は、(a) C.ディフィシルの外毒素と特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分;および(b) C.ディフィシルの外毒素と特異的に結合するポリクローナル抗体またはその抗原結合部分を含む組成物に関する。
【0045】
1つの態様において、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分はC.ディフィシル毒素Aと特異的に結合し、ポリクローナル抗体またはその抗原結合部分はC.ディフィシル毒素Bと特異的に結合する。1つの態様において、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分はC.ディフィシル毒素Bと特異的に結合し、ポリクローナル抗体またはその抗原結合部分はC.ディフィシル毒素Aと特異的に結合する。抗体は、本明細書に記載する他の特徴を含み得る。
【0046】
別の局面において、本発明は、(a) ヒトVH 3-33遺伝子の産物であるかもしくはそれに由来する重鎖可変領域を含む;および/または(b) Vκ L19、Vκ L6 およびVκ L15からなる群より選択されるヒトVκ遺伝子の産物であるかもしくはそれに由来する軽鎖可変領域を含む、クロストリジウム・ディフィシル(C.ディフィシル)の外毒素と特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分に関する。抗体またはその抗原結合部分は、本明細書に記載する他の特徴を含み得る。
【0047】
別の局面において、本発明は、(a) ヒトVH 5-51遺伝子の産物であるかもしくはそれに由来する重鎖可変領域を含む;および/または(b) Vκ A27遺伝子の産物であるかもしくはそれに由来する軽鎖可変領域を含む、クロストリジウム・ディフィシル(C.ディフィシル)の外毒素と特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分に関する。抗体またはその抗原結合部分は、本明細書に記載する他の特徴もまた含み得る。
【0048】
別の局面において、本発明は、ハイブリドーマクローン3D8、1B11、または3H2(本明細書では、「3D8」、「1B11」、および「3H2」とも称する)によって産生される抗体の抗原結合部分を含む単離されたポリペプチドに関する。
【0049】
別の局面において、本発明は、ハイブリドーマクローン124-152、2A11、または1G10(本明細書では、「124-152」、「2A11」、および「1G10」とも称する)によって産生される抗体の抗原結合部分を含む単離されたポリペプチドに関する。
【0050】
別の局面において、本発明は、C.ディフィシルの外毒素と特異的に結合し、毒素を中和し、C.ディフィシル媒介性疾患を抑制するおよび/または防ぐ、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合部分に関する。1つの態様において、抗体またはその抗原結合部分は哺乳動物(例えば、ヒト)抗体またはその抗原結合部分である。抗体またはその抗原結合部分は、本明細書に記載する他の特徴を含み得る。
【0051】
別の局面において、本発明は、(a) C.ディフィシル毒素Aと特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分;および(b) C.ディフィシル毒素Bと特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を含む組成物に関する。
【0052】
別の局面において、本発明は、配列番号:1、2、3、4、5、または6と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、99%、またはそれ以上同一であるポリペプチドをコードする配列を含む単離された核酸に関し;例えば、核酸配列は、配列番号:38、39、40、35、36、または37と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、99%、またはそれ以上同一である。本発明はまた、配列番号:1、2、3、4、5、または6と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、99%、またはそれ以上同一であるポリペプチドをコードする核酸を含む発現ベクターに関し;例えば、核酸配列は、配列番号:38、39、40、35、36、または37と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、99%、またはそれ以上同一であり、さらに配列番号:1、2、3、4、5、または6と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、99%、またはそれ以上同一であるポリペプチドをコードする核酸を含む宿主細胞、例えば細菌細胞、例えば大腸菌(E. coli)細胞に関し;例えば、核酸配列は、配列番号:38、39、40、35、36、または37と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、99%、またはそれ以上同一である。
【0053】
別の局面において、本発明は、配列番号:54、56、58、または60と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、99%、またはそれ以上同一であるポリペプチドをコードする配列を含む単離された核酸に関し;例えば、核酸配列は、配列番号:55、57、59、または61と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、99%、またはそれ以上同一である。本発明はまた、配列番号:54、56、58、または60と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、99%、またはそれ以上同一であるポリペプチドをコードする核酸を含む発現ベクターに関し;例えば、核酸配列は、配列番号:55、57、59、または61と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、99%、またはそれ以上同一である。本発明はまた、配列番号:54、56、58、または60と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、99%、またはそれ以上同一であるポリペプチドをコードする核酸を含む宿主細胞、例えば細菌細胞、例えば大腸菌細胞を提供し;例えば、核酸配列は、配列番号:55、57、59、または61と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、99%、またはそれ以上同一である。
【0054】
宿主細胞は、真核細胞、例えば酵母細胞、哺乳動物細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、NS0細胞、または骨髄細胞であってもよい。
【0055】
別の局面において、本発明は、クロストリジウム・ディフィシル(C.ディフィシル)の外毒素と特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分、例えば本明細書に記載する抗体またはその抗原結合部分を含むキットに関する。キットは、C.ディフィシル媒介性疾患の予防または治療における使用に関する取扱説明書を含み得る。
【0056】
キットは、C.ディフィシルの外毒素と特異的に結合するポリクローナル抗体またはその抗原結合部分をさらに含み得る。1つの態様において、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分は、C.ディフィシル毒素Aと特異的に結合する。1つの態様において、ポリクローナル抗体またはその抗原結合部分は、C.ディフィシル毒素Bと特異的に結合する。
【0057】
別の局面において、本発明は、(a) C.ディフィシル毒素Aと特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体;および(b) C.ディフィシル毒素Bと特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体を含むキットに関する。
【0058】
本発明はまた、クロストリジウム・ディフィシル(C.ディフィシル)の外毒素と特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を、対象に、C.ディフィシル疾患(例えば、C.ディフィシル媒介性大腸炎、抗生物質起因性大腸炎、C.ディフィシル媒介性偽膜性大腸炎(PMC)、または下痢)またはC.ディフィシル媒介性疾患の再発を抑制するのに有効な量投与することによる、対象のC.ディフィシル疾患を治療する方法に関する。抗体またはその抗原結合部分は対象に、例えば静脈内、筋肉内、または皮下投与され得る。
【0059】
抗体またはその抗原結合部分は、単独で、または別の治療薬、例えば第2のヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分と併用して投与され得る。一例では、抗体またはその抗原結合部分はC.ディフィシル毒素Aと特異的に結合し、第2のヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分はC.ディフィシル毒素Bと特異的に結合する。別の態様において、第2の薬剤は抗生物質、例えばバンコマイシンまたはメトロニダゾールである。第2の薬剤は、ポリクローナルγグロブリン(例えば、ヒトγグロブリン)であってもよい。
【0060】
特定の態様では、クローン3D8によって産生される抗体の可変軽鎖領域および可変重鎖領域と同一である可変軽鎖領域および可変重鎖領域を含む(すなわち、配列番号:4と同一である可変軽鎖領域配列および配列番号:1と同一である可変重鎖領域配列を含む)抗体またはその抗原結合部分が投与される。
【0061】
別の態様において、本抗体またはその抗原結合部分は、クローン124-152によって産生される抗体の可変軽鎖領域および可変重鎖領域と同一である可変軽鎖領域および可変重鎖領域を含む(すなわち、配列番号:58と同一である可変軽鎖領域配列および配列番号:54と同一である可変重鎖領域配列を含む)抗体またはその抗原結合部分と併用して投与される。
【0062】
さらに別の態様において、クローン3D8によって産生される抗体または抗原結合部分(すなわち、配列番号:4と同一である可変軽鎖領域配列および配列番号:1と同一である可変重鎖領域配列を含む)は、クローン124-152によって産生される抗体またはその抗原結合部分(すなわち、配列番号:58と同一である可変軽鎖領域配列および配列番号:54と同一である可変重鎖領域配列を含む)と併用して投与される。
【0063】
別の局面において、本発明は、ヒト重鎖導入遺伝子およびヒト軽鎖導入遺伝子を含むゲノムを有するトランスジェニック非ヒト動物を不活化した外毒素で免疫し、動物から抗体を単離することによる、C.ディフィシルの外毒素と特異的に結合する抗体またはその抗原結合部分を作製する方法に関する。外毒素は、例えばUDP-ジアルデヒドによる処理よってまたは変異(例えば、組換え法を用いて)によって不活化され得る。本方法は、外毒素に対する抗体の結合を評価する段階をさらに含み得る。
【0064】
本発明はまた、C.ディフィシルの外毒素と特異的に結合するヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分をコードする核酸を提供し、宿主細胞内でその核酸を発現させることによる、ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を作製する方法に関する。
【0065】
さらに別の局面において、本発明は、クローン3D8、1B11、または3H2によって産生される抗体の抗原結合部分(例えば、CDRまたは可変領域)をコードする核酸を含むハイブリドーマまたはトランスフェクトーマ(transfectoma)に関する。
【0066】
さらに別の局面において、本発明は、クローン124-152、2A11、または1G10によって産生される抗体の抗原結合部分(例えば、CDRまたは可変領域)をコードする核酸を含むハイブリドーマまたはトランスフェクトーマに関する。
【0067】
さらに本発明は、ヒト重鎖導入遺伝子およびヒト軽鎖導入遺伝子を含むゲノムを有するトランスジェニック非ヒト動物を、不活化した外毒素を含む組成物で免疫し;動物から脾細胞を単離し;脾細胞からハイブリドーマを作製し;および外毒素と特異的に結合する抗体を産生するハイブリドーマを選択することによる、C.ディフィシルの外毒素と特異的に結合する抗体を発現するハイブリドーマを作製する方法に関する。
【0068】
ヒトモノクローナル抗体によるヒトの治療は、いくつかの利点を提供する。例えば、この抗体は、非ヒト抗体よりもヒトでの免疫原性が低い可能性が高い。治療は迅速である;抗体が感染部位に到達し、病原毒素を直接中和するとすぐに、毒素の不活化が起こり得る。ヒト抗体は、非ヒト抗体よりも効率的にヒトの適切な部位に局在化する。さらに、治療はC.ディフィシルに特異的であり、伝統的な抗生物質治療とは異なり、正常な腸管内菌叢を破壊することはないと考えられる。
【0069】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0070】
発明の詳細な説明
明細書および特許請求の範囲の明確な理解を提供するため、次の定義を以下に適宜提供する。
【0071】
定義
「毒素A」という用語は、C.ディフィシルがコードする毒素Aタンパク質を指す。C.ディフィシル毒素Aのアミノ酸配列(配列番号:41)は、GenBank(登録商標)にアクセッション番号A37052、バージョンGI 98593として提供されている(図22も参照のこと)。「毒素B」とは、C.ディフィシルがコードする毒素Bタンパク質を指す。C.ディフィシル毒素Bのアミノ酸配列(配列番号:42)は、GenBank(登録商標)にアクセッション番号S70172、バージョンGI 7476000として提供されている(図23も参照のこと)。「タンパク質」は「ポリペプチド」と互換的に用いられる。
【0072】
「抗C.ディフィシル抗体」とは、C.ディフィシル細菌によって産生されるタンパク質または他の成分と相互作用する(例えば、結合する)抗体である。「抗毒素抗体」とは、C.ディフィシルによって産生される毒素(例えば、毒素Aまたは毒素B)と相互作用する抗体である。抗毒素タンパク質抗体は、エピトープ、例えば高次構造的もしくは線状エピトープ、または全長毒素タンパク質の断片に結合し得る。
【0073】
「ヒト抗体」とは、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体である。本明細書で記載するヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダム突然変異誘発もしくは部位特異的突然変異誘発によって、またはインビボでの体細胞突然変異によって誘導された突然変異)も含み得る。
【0074】
抗毒素抗体またはその抗原結合部分は、単独で、または第2の薬剤と併用して投与され得る。対象は、C.ディフィシルに感染した、またはC.ディフィシル関連疾患(「CDAD」)の症状(例えば、下痢、大腸炎、腹痛)もしくはC.ディフィシル関連疾患の素因(例えば、抗生物質による治療を受けている、またはC.ディフィシル関連疾患を患った経験があり、疾患の再発の危険性がある)を有する患者であってよい。処置は、感染に関連する疾患、疾患の症状、または疾患の素因を治療する、治癒する、緩和する、軽減する、変更する、修復する、寛解させる、和らげる、改善する、またはこれに影響することであり得る。
【0075】
CDADを治療するのに有効な抗毒素抗体の量または「治療有効量」とは、対象への単回投与また複数回投与に際して、対象のCDADを抑制するのに有効な抗体の量である。抗体または抗体断片の治療有効量は、個体の疾患状態、年齢、性別、および体重、ならびに抗体または抗体部分が個体において所望の応答を誘発する能力などの要因によって異なり得る。治療有効量とはまた、抗体または抗体部分の毒性作用または有害作用よりも、治療的に有益な効果が上回る量である。抗体が測定可能なパラメータを阻害する能力は、ヒトでの有効性を予測する動物モデル系で評価することができる。例えば、抗毒素抗体がC.ディフィシルによる致死的攻撃からマウスを防御する能力により、ヒトでの有効性を予測することができる。有効性を予測する他の動物モデルについては本明細書に記載しており、実施例で説明する腸管結紮モデルなどがある。または、抗体または抗体組成物のこの特性は、当業者に周知であるアッセイ法により、化合物がインビトロで調節する能力を試験することによって評価することができる。インビトロアッセイ法には、ELISAなどの結合アッセイ法および中和アッセイ法が含まれる。
【0076】
疾患を予防するのに有効な抗毒素抗体の量または抗体の「予防有効量」とは、対象への単回投与また複数回投与に際して、CDADの発症もしくは再発の発生を妨げるもしくは遅延させる、またはその症状を抑制するのに有効な量である。しかし、より長期間の予防を所望する場合には、用量を増加して投与することができる。
【0077】
「作動させる」、「誘導する」、「阻害する」、「増強する」、「上昇させる」、「増加させる」、「減少させる」という用語、または例えば2つの状態間の量的な相違を示す同様の用語は、2つの状態間の相違、例えば統計的にまたは臨床的に有意な相違を指す。
【0078】
本明細書で用いる「特異的結合」または「特異的に結合する」とは、抗体が:(1) C.ディフィシルの毒素と少なくとも1 x 107 M-1の親和性で結合する、および(2) C.ディフィシルの毒素と、非特異的抗原に対する親和性よりも少なくとも2倍高い親和性で結合する能力を指す。
【0079】
「抗体」とは、少なくとも1つまたは2つの重(H)鎖可変領域(本明細書ではVHCと略す)および少なくとも1つまたは2つの軽(L)鎖可変領域(本明細書ではVLCと略す)を含むタンパク質である。VHC領域およびVLC領域は、「フレームワーク領域」(FR)と称されるより保存された領域が散在する、「相補性決定領域」(「CDR」)と称される超可変領域さらに細分され得る。フレームワーク領域およびCDRの範囲は正確に定義されている(参照により本明細書に組み入れられる、Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242, 1991、およびChothia, C. et al., J. Mol. Biol. 196:901-917, 1987を参照されたい)。好ましくは、各VHCおよびVLCは、以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシ末端に配置される3つのCDRおよび4つのFRから構成される。
【0080】
抗体のVHC鎖またはVLC鎖は、重鎖または軽鎖定常領域のすべてまたは一部をさらに含み得る。1つの態様において、抗体は2本の重鎖免疫グロブリンおよび2本の軽鎖免疫グロブリンの4量体であり、重鎖免疫グロブリンおよび軽鎖免疫グロブリンは例えばジスルフィド結合によって相互に結合されている。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2、およびCH3を含む。軽鎖定常領域は1つのドメイン、CLからなる。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は典型的に、免疫系の種々の細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的補体系の第一成分(C1q)を含む、宿主組織または因子への抗体の結合を媒介する。「抗体」という用語には、IgA型、IgG型、IgE型、IgD型、IgM型(およびそれらのサブタイプ)の無傷の免疫グロブリンが含まれ、免疫グロブリンの軽鎖はκ型またはλ型であってよい。
【0081】
「免疫グロブリン」とは、免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされる1つまたは複数のポリペプチドからなるタンパク質を指す。認識されているヒト免疫グロブリン遺伝子には、κ、λ、α(IgA1およびIgA2)、γ(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、δ、ε、およびμ定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。全長免疫グロブリン「軽鎖」(約25 kDおよび214アミノ酸)は、NH2末端の可変領域遺伝子(約110アミノ酸)およびCOOH末端のκまたはλ定常領域遺伝子によってコードされる。全長免疫グロブリン「重鎖」(約50 kDおよび446アミノ酸)は、同様に、可変領域遺伝子(約116アミノ酸)および上記したその他の定常領域遺伝子の1つ、例えばγ(約330アミノ酸をコードする)によってコードされる。「免疫グロブリン」という用語には、ヒトまたは非ヒト供給源のCDRを有する免疫グロブリンが含まれる。免疫グロブリンのフレームワークは、ヒト、ヒト化、もしくは非ヒトフレームワーク、例えばヒトにおける抗原性を減少するように修飾したマウスフレームワーク、または合成フレームワーク、例えばコンセンサス配列であってよい。
【0082】
本明細書で用いる「アイソタイプ」とは、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる抗体クラス(例えば、IgMまたはIgG1)を指す。
【0083】
本明細書で用いる抗体の「抗原結合部分」(または単に「抗体部分」または「部分」)とは、C.ディフィシルの毒素(例えば、毒素A)と特異的に結合する抗体の部分、例えば1本または複数本の免疫グロブリン鎖が全長ではないが毒素と特異的に結合する分子を指す。抗体の「抗原結合部分」という用語内に含まれる結合部分の例としては、(i) Fab断片、VLC、VHC、CL、およびCH1ドメインからなる一価断片;(ii) F(ab')2断片、ヒンジ領域においてジスルフィド架橋によって連結される2つのFab断片を含む二価断片;(iii) VHCおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iv) 抗体の単一アームのVLCおよびVHCドメインからなるFv断片、(v) VHCドメインからなるdAb断片(Ward et al., Nature 341:544-546, 1989);および(vi) 特異的に結合するのに十分なフレームワークを有する単離された相補性決定領域(CDR)、例えば可変領域の抗原結合部分が挙げられる。軽鎖可変領域の抗原結合部分および重鎖可変領域の抗原結合部分、例えばFv断片の2つのドメイン、VLCおよびVHCは、組換え法を用いて合成リンカーにより連結することができ、これらは合成リンカーにより、VLCおよびVHC領域が対形成して一価分子を形成する単一タンパク質鎖として作製され得る(一本鎖Fv(scFv)として知られる;例えばBird et al. (1988) Science 242:423-426;およびHuston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883を参照されたい)。このような一本鎖抗体もまた、抗体の「抗原結合断片」という用語内に含まれる。これらの抗体部分は当業者に周知である慣用的技術を用いて得られ、この抗体部分は無傷の抗体と同じ様式で有用性に関してスクリーニングされる。
【0084】
「単一特異性抗体」という用語は、特定の標的、例えばエピトープに対して単一の結合特異性および親和性を示す抗体を指す。この用語には「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」が含まれ、本明細書で用いる「モノクローナル抗体組成物」とは、単一の分子組成を有する抗体またはその部分の調製物を指す。
【0085】
本明細書で用いる「組換え」抗体という用語は、宿主細胞にトランスフェクションした組換え発現ベクターを用いて発現される抗体、組換えコンビナトリアル抗体ライブラリーから単離される抗体、ヒト免疫グロブリン遺伝子導入動物(例えば、マウス)から単離される抗体、またはヒト免疫グロブリン遺伝子配列を他のDNA配列に接合することを伴う任意の他の手段によって調製される、発現される、作製される、または単離される抗体などの、組換え手段によって調製される、発現される、作製される、または単離される抗体を指す。このような組換え抗体には、ヒト化抗体、CDR移植抗体、キメラ抗体、インビトロ作製抗体(例えば、ファージディスプレーによる)が含まれ、またこのような組換え抗体は任意に、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する定常領域を含み得る。
【0086】
本明細書で使用する「実質的に同一」(または「実質的に相同」)という用語は、第1および第2のアミノ酸またはヌクレオチド配列が類似の活性を有するように、第2のアミノ酸またはヌクレオチド配列に対して、十分な数の同一または同等の(例えば、類似の側鎖を有する、例えば保存的アミノ酸置換)アミノ酸残基またはヌクレオチドを含む、第1のアミノ酸またはヌクレオチド配列を指す。抗体の場合、第2の抗体は第1の抗体と同一の特異性を有し、かつ第1の抗体の少なくとも50%の親和性を有する。
【0087】
2つの配列間の「相同性」の計算は以下のように行う。最適に比較できるように配列を整列させる(例えば、最適に整列化するために、第1および第2のアミノ酸または核酸配列の一方または両方にギャップを導入することができ、また比較のために非相同配列を無視できる)。比較目的で整列させる参照配列の長さは、参照配列の長さの少なくとも50%である。次いで、対応するアミノ酸位またはヌクレオチド位のアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。第1配列の位置が第2配列の対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドで占められている場合、分子はその位置で同一である(本明細書で用いる場合、アミノ酸または核酸「同一性」はアミノ酸または核酸「相同性」と同等である)。2つの配列間のパーセント同一性は、2つの配列の最適な整列化のために導入する必要があるギャップの数および各ギャップの長さを考慮した、配列によって共有される同一位置の数の関数である。
【0088】
配列の比較および2つの配列間のパーセント相同性の決定は、数学的アルゴリズムを用いて達成し得る。2つのアミノ酸配列間のパーセント相同性は、ギャップペナルティ12、ギャップ伸長ペナルティ4、およびフレームシフトギャップペナルティ5でBlossum 62スコア行列を用いて、GCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに取り込まれているNeedleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48:444-453, 1970のアルゴリズムを使用して決定される。
【0089】
本明細書で使用する「低ストリンジェンシー、中程度のストリンジェンシー、高ストリンジェンシー、または非常に高いストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする」という用語は、ハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件を説明する。ハイブリダイゼーション反応を行う手引きは、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y. 6.3.1-6.3.6, 1989に見出すことができ、この文献は参照により本明細書に組み入れられる。この参考文献では水性法および非水性法について記載されており、どちらも使用可能である。本明細書で参照する特異的ハイブリダイゼーション条件は以下の通りである:1) 低ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件:約45℃での6X塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)、およびその後の少なくとも50℃での0.2X SSC、0.1% SDSによる2回の洗浄(低ストリンジェンシー条件では、洗浄温度は55℃まで上昇させることができる);2) 中程度のストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件:約45℃での6X SSC、およびその後の60℃での0.2X SSC、0.1% SDSによる1回またはそれ以上の洗浄;3) 高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件:約45℃での6X SSC、およびその後の65℃での0.2X SSC、0.1% SDSによる1回またはそれ以上の洗浄;ならびに4) 非常に高いストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件:約65℃での0.5 Mリン酸ナトリウム、7% SDS、およびその後の65℃での0.2X SSC、1% SDSによる1回またはそれ以上の洗浄。
【0090】
本明細書に記載する抗体およびその抗原結合部分は、ポリペプチド機能に実質的な影響を及ぼさないさらなる保存的置換または非必須アミノ酸置換を有し得ることが理解される。特定の置換が許容されるかどうか、すなわち結合活性などの所望の生物学的特性に悪影響を及ぼさないかどうかは、Bowie et al., Science, 247:1306-1310, 1990に記載されているように決定することができる。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置き換えられる置換である。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野において定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖を有するアミノ酸(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。
【0091】
「非必須」アミノ酸残基とは、生物学的活性を実質的に変更することなく、例えば抗体といった結合剤などのポリペプチドの野生型配列から変更可能な残基であり、一方「必須」アミノ酸残基はこのような変化を生じる。
【0092】
特記されない限り、本明細書で使用する専門用語および科学用語はすべて、本発明が属する当技術分野の当業者によって共通に理解されるものと同じ意味をもつ。本発明の実施または試験において、本明細書に記載したものと類似したまたは同等の方法および材料を使用できるが、適切な方法および材料は以下に記載するものである。本明細書で言及するすべての出版物、特許出願、特許、および他の参考文献は、参照によりその全体が組み入れられる。抵触する場合には、本明細書が用語の説明も含め調整すると考えられる。さらに、材料、方法、および実施例は一例に過ぎず、制限する意図はない。
【0093】
概要
C.ディフィシルは、ヒトに抗生物質起因性下痢および大腸炎を引き起こすグラム陽性の毒素産生細菌である。本明細書に、C.ディフィシル関連疾患(CDAD)を治療および予防するための方法および組成物を提供する。組成物は、C.ディフィシルによって産生される毒素(例えば、毒素Aおよび毒素B)を認識する抗体をはじめとする、C.ディフィシル細菌のタンパク質および他の分子成分(例えば、脂質、炭水化物、核酸)を認識する抗体を含む。特定の態様において、これらのヒトモノクローナル抗体は、ヒト免疫グロブリン遺伝子断片を発現するマウスで産生される(以下に記載)。抗毒素抗体の組み合わせもまた提供する。
【0094】
新規な方法は、対象のCDADを抑制するために、C.ディフィシル毒素に結合する抗体(およびその抗原結合部分)を対象に投与する段階を含む。例えば、本明細書に記載するヒトモノクローナル抗毒素A抗体は、毒素Aを中和し、C.ディフィシル媒介性疾患の再発を抑制し得る。他の例では、抗毒素A抗体(例えば、抗毒素Aモノクローナル抗体)と抗毒素B抗体の組み合わせを投与して、原発性疾患を抑制し、疾患再発の発生率を減少させることができる。ヒトモノクローナル抗体は、インビボで疾患の部位(例えば、腸)に局在化し得る。
【0095】
1. 抗体の作製
免疫原
一般に、抗体を産生させるために、動物をC.ディフィシルによって発現される抗原で免疫する。抗毒素抗体を産生させるには、動物を不活化毒素またはトキソイドで免疫する。毒素は、例えばホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、過酸化物、または酸素処理によって不活化し得る(例えば、Relyveld et al., Methods in Enzymology, 93:24, 1983;Woodrow and Levine, eds., New Generation Vaccines, Marcel Dekker, Inc., New York, 1990を参照されたい)。毒性を低減させた変異体C.ディフィシル毒素は、組換え法によって生成することができる(例えば、米国特許第5,085,862号;第5,221,618号;第5,244,657号;第5,332,583号;第5,358,868号;および第5,433,945号を参照されたい)。例えば、毒素活性部位中に欠失または点突然変異を含む変異体を作製することができる。毒素の組換え断片も免疫原として使用することができる。別のアプローチでは、UDP-ジアルデヒドによる処理によって毒素を不活化する(Genth et al., Inf. and Immun., 68(3):1094-1101, 2000)。この方法は他の処理よりもより容易に毒素の天然構造を保存し、そのため天然毒素に対してより反応性の高い抗体を誘発し得る。この方法は、以下の実施例1においても説明する。
【0096】
毒素Aと結合しこれを中和する抗毒素抗体は、毒素Aのエピトープと特異的に相互作用する。例えば、抗毒素A抗体は、毒素AのN末端領域(例えば、毒素Aのアミノ酸1〜1033の間)またはC末端領域(例えば、毒素Aのアミノ酸1853〜2710の間)内のエピトープと結合し得る。一例では、毒素Aと結合しこれを中和する抗体は、毒素Aのアミノ酸1853〜2710内にあるエピトープと結合する。
【0097】
同様に、抗毒素B抗体は、毒素Bの特異的エピトープ、例えばN末端エピトープまたはC末端エピトープを認識し得る。一例では、毒素Bと結合しこれを中和する抗体は、毒素Bのアミノ酸1777〜2366内にあるエピトープと結合する。
【0098】
HuMAbマウスにおけるヒトモノクローナル抗体の作製
モノクローナル抗体は、ポリクローナル抗体では起こり得ない方法で作製され得る。ポリクローナル抗血清は動物によって異なるのに対し、モノクローナル調製物は均一な抗原特異性を示す。マウス動物系はモノクローナル抗体を作製するのに有用であり、免疫手順、脾細胞の単離および融合の技法、ならびにハイブリドーマを作製する方法および試薬は周知である。モノクローナル抗体は、例えば、Kohler and Milstein, Nature, 256: 495, 1975の標準的な体細胞ハイブリダイゼーション法のような慣用的なモノクローナル抗体方法をはじめとする、様々な技法によって作製され得る。一般的に、Harlow, E. and Lane, D. Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1988を参照されたい。
【0099】
これらの標準的技法は周知であるが、ヒトはマウスおよび他の種に由来する抗体に対して免疫応答を生じるため、ヒト対象を治療するにはマウス抗体よりもヒト化抗体またはヒト抗体を使用することが望ましい。マウス抗体に対する免疫応答はヒト抗マウス抗体またはHAMA応答と称され(Schroff, R. et al., Cancer Res., 45, 879-885, 1985)、これはヒトに血清病をもたらし、かつ個体循環からのマウス抗体の迅速な排除を引き起こす状態である。ヒトにおける免疫応答は、マウス免疫グロブリンの可変領域および定常領域の両方に対するものであることが示されている。ヒトモノクローナル抗体は、ヒトへの投与に関して、他の動物に由来する抗体およびヒトポリクローナル抗体よりも安全である。
【0100】
ヒトモノクローナル抗体を作製するための1つの有用な種類の動物は、自身のマウス免疫グロブリンではなくヒト免疫グロブリン遺伝子を発現するトランスジェニックマウスである。このようなトランスジェニックマウス、例えば「HuMAb(商標)」は、内在性μ鎖およびκ鎖遺伝子座を不活化する標的突然変異と共に、再編成されていないヒト重鎖(μおよびγ)およびκ軽鎖免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子ミニ遺伝子座を含む(Lonberg, N. et al., Nature 368(6474): 856-859, 1994、および米国特許第5,770,429号)。したがって、マウスはマウスIgMまたはκの発現減少を示し、免疫に応答して、導入されたヒト重鎖および軽鎖導入遺伝子はクラススイッチおよび体細胞突然変異を起こして、高親和性ヒトIgGκモノクローナル抗体を生成する(Lonberg, N. et al.、前記;Lonberg, N. Handbook of Experimental Pharmacology 113:49-101, 1994の総説;Lonberg, N. and Huszar, D., Intern. Rev. Immunol., 13: 65-93, 1995、およびHarding, F. and Lonberg, N., Ann. N.Y. Acad. Sci., 764:536-546, 1995)。
【0101】
そのようなトランスジェニックマウスの調製については、Taylor, L. et al., Nucleic Acids Research, 20:6287-6295, 1992;Chen, J. et al., International Immunology 5: 647-656, 1993;Tuaillon et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA 90:3720-3724, 1993;Choi et al., Nature Genetics, 4:117-123, 1993;Chen, J. et al, EMBO J., 12:821-830, 1993;Tuaillon et al., J. Immunol., 152:2912-2920, 1994;Taylor, L. et al., International Immunology, 6: 579-591, 1994;およびFishwild, D. et al., Nature Biotechnology, 14: 845-851, 1996にさらに詳述されている。さらに、すべてLonberg and Kayによる米国特許第5,545,806号;米国特許第5,569,825号、米国特許第5,625,126号、米国特許第5,633,425号、米国特許第5,661,016号、米国特許第5,770,429号、米国特許第5,789,650号、米国特許第5,814,318号、米国特許第5,874,299号、および米国特許第5,877,397号、ならびに国際公開公報第01/14424号、国際公開公報第98/24884号、国際公開公報第94/25585号、国際公開公報第93/1227号、および国際公開公報第92/03918号を参照されたい。
【0102】
抗原に対する完全なヒトモノクローナル抗体を作製するには、Lonberg, N. etal., Nature, 368(6474): 856-859, 1994;Fishwild, D. et al., Nature Biotechnology, 14: 845-851, 1996、および国際公開公報第98/24884号によって記載されているように、HuMAbマウスを免疫原で免疫し得る。好ましくは、最初の免疫の時点でマウスは6〜16週齢である。例えば、不活化毒素Aの精製調製物を用いて、HuMAbマウスの腹腔内に免疫することができる。C.ディフィシルタンパク質、脂質、および/または炭水化物分子に対する抗体を作製するには、死滅したまたは生育不能なC.ディフィシル生物体でマウスを免疫し得る。
【0103】
最初に完全フロイントアジュバント中の抗原を腹腔内に(IP)免疫し、その後不完全フロイントアジュバント中の抗原を1週間おきに(最高6回まで)IP免疫した場合に、HuMAbトランスジェニックマウスは最も良好に応答する。免疫応答は、眼窩採血によって得られた血漿試料を用いて、免疫手順の間モニターし得る。血漿は例えばELISAまたはフローサイトメトリーによってスクリーニングし得、抗毒素ヒト免疫グロブリンの十分な力価を有するマウスを融合に使用することができる。屠殺および脾臓摘出の3日前に、マウスの静脈に抗原を追加免疫し得る。各抗原に対して2〜3回の融合を行う必要があると考えられる。典型的には、各抗原に対してマウス数匹を免疫する。
【0104】
マウス脾細胞を単離し、標準的な手順に基づきPEGを用いてこれをマウス骨髄腫細胞株と融合させ得る。その後、得られたハイブリドーマを抗原特異的抗体の産生に関してスクリーニングする。例えば、50% PEGを用いて、免疫化マウスに由来する脾臓リンパ球の単一細胞懸濁液を、6分の1数のP3X63-Ag8.653非分泌マウス骨髄腫細胞(ATCC、CRL 1580)と融合させる。細胞を約 2x 105個で平底マイクロタイタープレートにプレーティングし、20%胎児クローン血清、18%「653」馴化培地、5%オリゲン(origen)(IGEN)、4 mM L-グルタミン、1 mM L-グルタミン、1 mMピルビン酸ナトリウム、5 mM HEPES、0.055 mM 2-メルカプトエタノール、50単位/mlペニシリン、50 mg/mlストレプトマイシン、50 mg/mlゲンタマイシン、および1x HAT(Sigma;HATは融合の24時間後に添加)を含む選択培地中で2週間インキュベートする。2週間後、HATをHTで置換した培地中で細胞を培養する。次いで、ELISAにより、個々のウェルの上清をヒト抗毒素細胞モノクローナルIgMおよびIgG抗体についてスクリーニングする。抗体分泌ハイブリドーマを再プレーティングし、再度スクリーニングし、ヒトIgG抗毒素モノクローナル抗体について依然として陽性であれば、限界希釈により少なくとも2回サブクローニングし得る。次いで、特徴づけを行うため、安定なサブクローンをインビトロで培養して、組織培養液中に少量の抗体を産生させる。
【0105】
1つの態様において、毒素に対するヒト抗体を産生するために使用するトランスジェニック動物は、少なくとも1つ、典型的には2〜10、および場合によっては25〜50またはそれ以上の、国際公開公報第98/24884号の実施例12に記載される導入遺伝子(例えば、pHC1またはpHC2)を含み、国際公開公報第98/24884号の実施例5、6、8、または14に記載される単一コピーの軽鎖導入遺伝子を含む動物と交配し、その子孫を国際公開公報第98/24884号の実施例10に記載されているJH欠失動物と交配する。国際公開公報第98/24884号の内容は、参照により本明細書に明確に組み入れられる。これら3つの形質それぞれについてホモ接合性となるよう、動物を交配させる。このような動物は以下の遺伝子型を有する:単一コピー(染色体の一倍体セット当たり)のヒト重鎖未再編成ミニ遺伝子座(国際公開公報第98/24884号の実施例12に記載)、単一コピー(染色体の二倍体セット当たり)の再編成ヒトK軽鎖構築物(国際公開公報第98/24884号の実施例14に記載)、および機能的なJHセグメントのすべてを除去する各内在性マウス重鎖遺伝子座における欠失(国際公開公報第98/24884号の実施例10に記載)。JH欠失についてホモ接合であり、かつヒト重鎖および軽鎖構築物についてヘミ接合である子孫を作製するため、このような動物をJHセグメントの欠失についてホモ接合であるマウスと交配させる(国際公開公報第98/24884号の実施例10)。得られた動物に抗原を投与し、これらの抗原に対するヒトモノクローナル抗体を産生させるためにこの動物を使用する。
【0106】
このような動物から単離されたB細胞は、各遺伝子の単一コピーのみを含むため、ヒト重鎖および軽鎖に関して単一特異的である。さらに、両方の内在性マウス重鎖遺伝子コピーが、国際公開公報第98/24884号の実施例9および12に記載されるように導入されたJH領域にわたる欠失のために非機能的であることから、これらB細胞はヒトまたはマウス重鎖に関して単一特異的となる。さらに、再編成されたヒトκ軽鎖遺伝子の単一コピーの発現が、B細胞の有意な割合において内在性のマウスκ鎖およびλ鎖遺伝子の再編成を対立遺伝子によっておよびアイソタイプによって排除するために、B細胞の実質的な割合はヒトまたはマウス軽鎖に関して単一特異的となる。
【0107】
1つの態様において、トランスジェニックマウスは、天然マウスのレパートリーと理想的には実質的に同様の顕著なレパートリーを伴う免疫グロブリン産生を示す。したがって、例えば、内在性のIg遺伝子が不活化されている態様では、総免疫グロブリンレベルは、約0.1〜10 mg/ml血清、例えば0.5〜5 mg/ml、または少なくとも1.0 mg/mlとなる。IgMからIgGへのスイッチを行い得る導入遺伝子がトランスジェニックマウスに導入された場合、成体マウスの血清IgGとIgMの比率は好ましくは約10:1である。IgGとIgMの比率は、未成熟マウスでははるかに低い。一般に、牌臓およびリンパ節B細胞の約10%を超える割合、例えば40〜80%が、ヒトIgGタンパク質を独占的に発現することになる。
【0108】
トランスジェニックマウスのレパートリーは、理想的には非トランスジェニックマウスで示されるレパートリーに近づき、通常は、少なくとも約10%の高さ、好ましくは25〜50%またはそれ以上の高さである。一般に、主にマウスゲノム中に導入された種々のV、J、およびD領域の数に依存して、少なくとも約1000の異なる免疫グロブリン(理想的にはIgG)、好ましくは104〜106またはそれ以上が産生される。典型的に、免疫グロブリンは、少なくとも約107 M-1、109 M-1、1010 M-1、1011 M-1、1012 M-1、またはそれ以上、例えば最高で1013 M-1またはそれ以上の、あらかじめ選択された抗原に対する親和性を示す。
【0109】
HuMAbマウスは、導入遺伝子間のスイッチ組換えによるクラススイッチ(シス-スイッチ)を起こし、毒素と反応する免疫グロブリンを発現するB細胞を産生し得る。免疫グロブリンはヒト配列抗体であり得、重鎖および軽鎖ポリペプチドはヒト導入遺伝子配列によってコードされ、これは、体細胞突然変異およびV領域組換え連結によって得られる配列、ならびに生殖細胞系列コード配列を含み得る。これらのヒト配列免疫グロブリンは、体細胞突然変異ならびに種々のV-JおよびV-D-J組換え連結の結果として、たとえ他の非生殖細胞系列配列が存在し得るとしても、ヒトVLまたはVH遺伝子セグメントおよびヒトJLまたはJLセグメントによってコードされるポリペプチド配列と実質的に同一であると見なされ得る。このようなヒト配列抗体に関して、各鎖の可変領域は典型的に少なくとも80%がヒト生殖細胞系列V、Jによってコードされ、重鎖、D、遺伝子セグメントの場合には、頻繁に可変領域の少なくとも85%が導入遺伝子上に存在するヒト生殖細胞系列配列によってコードされる。可変領域配列の90%ないしは95%またはそれ以上が、導入遺伝子上に存在するヒト生殖系配列によってコードされる場合が多い。しかし、体細胞突然変異ならびにVJおよびVDJ連結によって非生殖細胞系列配列が導入されるため、ヒト配列抗体は頻繁に、マウスの生殖細胞系列中のヒト導入遺伝子中に見出されるようなヒトV、D、またはJ遺伝子セグメントによってコードされない、いくつかの可変領域配列(および、より低い頻度であるが定常領域配列)を有することになる。典型的に、このような非生殖細胞系列配列(または個々のヌクレオチド位置)は、CDR中もしくはその近傍、または体細胞突然変異が集中することが知られている領域内に密集する。
【0110】
毒素と結合するヒト配列抗体はアイソタイプスイッチから生じ得、その結果ヒト配列γ鎖(γ1、γ2、またはγ3など)およびヒト配列軽鎖(Kなど)を含むヒト抗体が産生される。そのようなアイソタイプスイッチしたヒト配列抗体は、特に2回目の(またはその後の)抗原投与後の親和性成熟および抗原によるB細胞選択の結果として、典型的に可変領域中および頻繁にはCDRの約10残基中またはその内部に、1つまたは複数の体細胞突然変異を含む場合が多い。これらの高親和性ヒト配列抗体は、少なくとも1x109 M-1、典型的には少なくとも5x109 M-1、頻繁には1x1010 M-1を超える、また場合によっては5x1010 M-1〜1x1011 M-1またはそれ以上の結合親和性を有する。
【0111】
抗毒素抗体はまた、非トランスジェニックマウス、ヒト、ウサギ、およびヤギを含む、他の哺乳動物で産生させることも可能である。
【0112】
抗毒素A抗体
毒素Aに特異的に結合するヒトモノクローナル抗体には、本明細書に記載する3D8、1B11、および3H2クローンによって産生される抗体が含まれる。3D8、1B11、および3H2の可変重鎖および可変軽鎖領域と少なくとも80%またはそれ以上同一である可変重鎖および可変軽鎖領域を有する抗体もまた毒素Aと結合し得る。関連する態様において、抗毒素A抗体は、例えば、3D8、1B11、または3H2の可変重鎖および/または可変軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む。これらのクローンの可変重鎖領域のCDRを以下の表1に示す。
【0113】
(表1)可変重鎖CDRアミノ酸配列

【0114】
これらのクローンの可変軽鎖領域のCDRを以下の表2に示す。
【0115】
(表2)可変軽鎖CDRアミノ酸配列

【0116】
CDRは、特定の抗原に対する特異性を決定する免疫グロブリンの部分である。特定の態様において、配列変化(例えば、保存的置換)を有する、表1および2中のCDRに対応するCDRは毒素Aと結合し得る。例えば、1、2、3、4、もしくは5残基、またはCDR中の全残基の20%未満が置換されるかまたは欠失されたCDRが、毒素Aと結合する抗体(またはその抗原結合部分)中に存在し得る。
【0117】
同様に、複数の抗体中に保存された配列モチーフが結合活性にとって重要であるため、抗毒素抗体はコンセンサス配列を含むCDRを有し得る。例えば、抗体またはその抗原結合部分の可変軽鎖領域のCDR1はアミノ酸配列R-A-S-Q-X-X-S-S-X-L-A(配列番号:25)を含み得、抗体またはその抗原結合部分の可変軽鎖領域のCDR2はアミノ酸配列A-S-X-X-X-S/T(配列番号:26)を含み得、および/または抗体またはその抗原結合部分の可変軽鎖領域のCDR3はアミノ酸配列Q-Q-X-X-S/N-X-P/S(配列番号:27)を含み得る(Xは任意のアミノ酸である)。
【0118】
いくつかの態様において、抗体またはその抗原結合部分の可変重鎖領域のCDR1はアミノ酸配列Y-G-M-H(配列番号:28)を含み、および/または抗体またはその抗原結合部分の可変重鎖領域のCDR2はアミノ酸配列I-W-X-X-G-X-X-X-Y-X-X-S-X-X-G(配列番号:29)を含む(Xは任意のアミノ酸である)。
【0119】
ヒト抗毒素抗体は、特定のヒト免疫グロブリン遺伝子の産物であるかまたはそれに由来する可変領域を含み得る。例えば、抗体は、ヒトVH3-33遺伝子の産物であるかまたはそれに由来する可変重鎖領域を含み得る。この遺伝子に由来する抗体の多くの配列がGenBank(登録商標)で入手できる(例えば、Acc. No: AJ555951, GI No:29836865;Acc. No:AJ556080, GI No.:29837087;Acc. No.: AJ556038, GI No.:29837012、およびGenBank(登録商標)で提供される他のヒトVH3-33再編成遺伝子セグメントを参照されたい)。抗体はさらに、あるいはまたは、ヒトVκ L19遺伝子の産物であるかまたはそれに由来する軽鎖可変領域を含み得る(再編成ヒトVκ L19遺伝子セグメントの部分配列に関しては、例えば、GenBank(登録商標)Acc. No. AJ556049, GI No:29837033を参照されたい)。当技術分野において周知のように、およびこの項に上記したように、組換えられた抗体の可変免疫グロブリン領域は、その領域をコードするゲノムセグメントに可変性が導入されるインビボでの組換え過程によって得られる。したがって、ヒトVH-33またはVκ L19遺伝子に由来する可変領域は、非リンパ組織に見出される遺伝子内のヌクレオチドと異なるヌクレオチドを含み得る。これらのヌクレオチドの相違は典型的に、CDR中に集中する。
【0120】
抗毒素B抗体
毒素Bに特異的に結合するヒトモノクローナル抗体には、本明細書に記載する124-152、2A11、および1G10クローンによって産生される抗体が含まれる。-152、2A11、および1G10の可変重鎖および可変軽鎖領域と少なくとも80%またはそれ以上同一である可変重鎖および可変軽鎖領域を有する抗体もまた毒素Bと結合し得る。関連する態様において、抗毒素B抗体は、例えば、-152、2A11、または1G10の可変重鎖および/または可変軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む。これらのクローンの可変重鎖領域のCDRを以下の表3に示す。
【0121】
(表3)可変重鎖CDRアミノ酸配列

【0122】
これらのクローンの可変軽鎖領域のCDRを以下の表4に示す。
【0123】
(表4)可変軽鎖CDRアミノ酸配列

【0124】
CDRは、特定の抗原に対する特異性を決定する免疫グロブリンの部分である。特定の態様において、配列変化(例えば、保存的置換)を有する、表3および4中のCDRに対応するCDRは毒素Bと結合し得る。例えば、1、2、3、4、もしくは5残基、またはCDR中の全残基の20%未満が置換されるかまたは欠失されたCDRが、毒素Bと結合する抗体(またはその抗原結合部分)中に存在し得る。
【0125】
ヒト抗毒素B抗体は、特定のヒト免疫グロブリン遺伝子の産物であるかまたはそれに由来する可変領域を含み得る(図28〜31を参照)。例えば、抗体は、ヒトVH 5-51遺伝子の産物であるかまたはそれに由来する可変重鎖領域を含み得る。抗体はさらに、あるいはまたは、ヒトVκ A27遺伝子および/またはJK1遺伝子の産物であるかまたはそれに由来する軽鎖可変領域を含み得る。当技術分野において周知のように、およびこの項に上記したように、組換えられた抗体の可変免疫グロブリン領域は、その領域をコードするゲノムセグメントに可変性が導入されるインビボでの組換え過程によって得られる。したがって、ヒトVH-5-51またはVκ A27/JK1遺伝子に由来する可変領域は、非リンパ組織に見出される遺伝子内のヌクレオチドと異なるヌクレオチドを含み得る。これらのヌクレオチドの相違は典型的に、CDR中に集中する。
【0126】
2. 抗体の産生および修飾
多くの異なる形態の抗毒素抗体が、CDADの抑制に有用であり得る。抗体は、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgM、IgA1、IgA2、IgD、またはIgEを含む種々のアイソタイプのものであってよい。好ましくは、抗体はIgGアイソタイプ、例えばIgG1である。抗体分子は全長であってよく(例えば、IgG1またはIgG4抗体)、または抗原結合部分のみを含んでもよい(例えば、Fab、F(ab')2、Fv、または一本鎖Fv断片)。これらには、モノクローナル抗体(例えば、ヒトモノクローナル抗体)、組換え抗体、キメラ抗体、およびヒト化抗体、ならびにこれらの抗原結合部分が含まれる。
【0127】
本発明で有用な抗毒素抗体またはその部分は、所望の抗体の免疫グロブリン軽鎖および重鎖をコードするDNAで形質転換した宿主細胞によって産生される組換え抗体であってもよい。組換え抗体は、周知の遺伝子操作技法によって産生され得る。例えば、組換え抗体は、所望の抗体の免疫グロブリン軽鎖および重鎖をコードするヌクレオチド配列、例えばcDNAまたはゲノムDNAをクローニングすることによって産生され得る。その後、両方の遺伝子がそれら自身の転写および翻訳発現調節配列に機能的に連結されるように、これらのポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現ベクターに挿入する。発現ベクターおよび発現調節配列は、使用する発現宿主細胞と適合するように選択する。典型的には、両方の遺伝子を同じ発現ベクターに挿入する。原核または真核宿主細胞が使用可能である。
【0128】
真核細胞は原核細胞よりも適切に折りたたまれ、免疫学的に活性のある抗体を組み立て分泌する可能性がより高いため、真核宿主細胞における発現が好ましい。しかし、不適切な折りたたみのために不活性である産生抗体はいずれも、周知の方法(Kim and Baldwin, Ann. Rev. Biochem., 51:459-89, 1982)に従って再生することができる。宿主細胞は、やはり本発明の抗体相同体である、軽鎖二量体または重鎖二量体などの無傷の抗体の一部を産生することも可能である。
【0129】
本明細書に記載する抗体はまた、例えば、当技術分野において周知のように組換えDNA技法および遺伝子トランスフェクション法の併用により、宿主細胞トランスフェクトーマにおいて産生され得る(Morrison, S.., Science, 229:1202, 1985)。例えば、1つの態様においては、関心対象の遺伝子、例えばヒト抗体遺伝子を、国際公開公報第87/04462号、国際公開公報第89/01036号、および欧州特許第338 841号に開示されているGS遺伝子発現系、または当技術分野において周知の他の発現系で用いられるような真核生物発現プラスミドなどの発現ベクターに連結し得る。クローニングされた抗体遺伝子を含む精製プラスミドは、CHO細胞もしくはNSO細胞、または植物由来細胞、真菌もしくは酵母細胞のような他の真核細胞といった真核宿主細胞に導入し得る。これらの遺伝子を導入するために用いられる方法は、エレクトロポレーション、リポフェクチン、リポフェクタミン、または関心対象のDNAを保有する微粒子で細胞を衝撃する弾道的トランスクフェクション(Rodin, et al. Immunol. Lett., 74(3):197-200, 2000)など、当技術分野において記載されている任意の方法であってよい。宿主細胞にこれらの抗体遺伝子を導入した後、抗体を発現する細胞を同定および選択し得る。これらの細胞はトランスフェクトーマを表し、これはその後発現レベルに関して増幅し、抗体を産生させるために拡大し得る。組換え抗体は、これらの培養上清および/または細胞から標準的な技法により単離および精製され得る。
【0130】
上記手順の変更が本発明に有用であることが理解されると考えられる。例えば、抗体の軽鎖または重鎖のいずれか(しかし両方ではない)をコードするDNAで宿主細胞を形質転換することが望ましい場合がある。また、組換えDNA技術を用いて、結合に必要ではない、軽鎖および重鎖の一方または両方をコードするDNAの一部またはすべてを除去することも可能であり、例えば、特定のアミノ酸を欠失させることによって定常領域を修飾することができる。このような切断DNA分子から発現される分子は、本明細書に記載する方法に有用である。さらに、1本の重鎖および1本の軽鎖が毒素に結合し、その他の重鎖および軽鎖が毒素以外の抗原、または毒素の別のエピトープに特異的である二機能性抗体を作製することも可能である。
【0131】
当技術分野で周知の組換えDNA技法によって、キメラ抗体を作製することができる。例えば、マウス(または他の種)モノクローナル抗体分子のFc定常領域をコードする遺伝子を制限酵素で消化してマウスFcをコードする領域を除去し、ヒトFc定常領域をコードする遺伝子の相当する部分で置換する(Robinson et al.、国際特許出願第PCT/US86/02269号;Akira et al.、欧州特許出願第184,187号;Taniguchi, M.、欧州特許出願第171,496号;Morrison et al.、欧州特許出願第173,494号;Neuberger et al.、国際公開公報第86/01533号;Cabilly et al.、米国特許第4,816,567号;Cabilly et al.、欧州特許出願第125,023号;Better et al.(1988 Science, 240:1041-1043);Liu et al. (1987) PNAS 84:3439-3443;Liu et al., 1987, J., Immunol., 139:3521-3526;Sun et al. (1987) PNAS 84:214-218;Nishimura et al., 1987, Canc. Res. 47:999-1005;Wood et al. (1985) Nature 314:446-449;およびShaw et al., 1988, J. Natl. Cancer Inst., 80:1553-1559を参照されたい)。キメラ抗体はまた、マウスV領域をコードするDNAをヒト定常領域をコードするDNAに連結し得る組換えDNA技法によって作製することも可能である。
【0132】
当技術分野において周知の方法により、抗体または免疫グロブリン鎖をヒト化することができる。例えば、マウス抗体が得られた時点で可変領域を配列決定し得る。CDRおよびフレームワーク残基の位置を決定することができる(例えば、Kabat, E.A., et al. (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242、およびChothia, C. et al. (1987) J. Mol. Biol., 196:901-917を参照されたい)。軽鎖および重鎖可変領域は任意に、対応する定常領域に連結することができる。実際に、完全ヒト抗体を含む本明細書に記載の抗体のいずれもが、例えば所望の抗体構造、機能(例えば、エフェクター機能)、サブタイプ、アロタイプ、サブクラスなどを達成するために、代わりの定常領域、例えばFc領域またはその部分を含むように(例えば、変異、置換によって)改変できることが理解される。抗毒素抗体は、当技術分野で周知の技法を用いて配列決定し得る。CDR移植抗体分子または免疫グロブリンはCDR移植またはCDR置換によって作製することができ、免疫グロブリン鎖の1つ、2つ、またはすべてのCDRが置換され得る。例えば、米国特許第5,225,539号;Jones et al., 1986, Nature, 321:552-525;Verhoeyan et al., 1988, Science, 239:1534、Beidler et al., 1988, J. Immunol., 141:4053-4060;およびWinter、米国特許第5,225,539号を参照されたい。
【0133】
Winterは、本発明の抗体を調製するために使用し得るCDR移植法について記載しており(英国特許出願第GB 2188638A号、1987年3月26日出願;Winter、米国特許第5,225,539号)、その内容は参照により明確に組み入れられる。例えば、特定のヒト抗体のCDRすべてを非ヒトCDR(例えば、上記の表1および2に示すようなクローン3D8、ならびに/または表3および4に示すようなクローン124-152のCDR)の少なくとも一部で置換することも可能であるし、またはCDRのいくつかのみを置換することも可能である。あらかじめ決定した抗原(例えば、C.ディフィシルの外毒素)に対する抗体の結合に必要なCDR数を置換しさえすれば十分である。
【0134】
ヒト化抗体は、抗原結合に直接関与しないFv可変領域の配列を、ヒトFv可変領域の同等の配列で置換することによって作製することができる。ヒト化抗体を作製するための一般的な方法は、Morrison,S. L., 1985, Science, 229:1202-1207、Oi et al., 1986, BioTechniques 4:214、ならびにQueen et al.、米国特許第5,585,089号、米国特許第5,693,761号、および米国特許第5,693,762号に提供されている。これらの方法は、重鎖または軽鎖の少なくとも1つから、免疫グロブリンFv可変領域のすべてまたは一部をコードする核酸配列を単離し、操作し、さらに発現させる段階を含む。このような核酸の供給源は当業者に周知であり、例えば、上記したような、あらかじめ決定した標的に対する抗体を産生するハイブリドーマから取得し得る。次いで、ヒト化抗体またはその断片をコードする組換えDNAを、適切な発現ベクターにクローニングし得る。抗体をヒト化する他の技法は、1992年12月23日公開された、Padlan et al.、欧州特許第519596 A1号に記載されている。
【0135】
また、本発明の範囲内には、特定のアミノ酸を置換、欠失、または付加した抗体が含まれる。特に、好ましい抗体は、抗原への結合を改善するような、フレームワーク領域におけるアミノ酸置換を有する。例えば、免疫グロブリン鎖の選択された少数のアクセプターフレームワーク残基を、対応するドナーアミノ酸で置換することができる。置換の好ましい位置には、CDRに隣接するかまたはCDRと相互作用し得るアミノ酸残基が含まれる(例えば、米国特許第5,585,089号を参照されたい)。ドナーからアミノ酸を選択する規準は米国特許第5,585,089号(例えば、12〜16段落)に記載されており、この内容は参照により本明細書に組み入れられる。アクセプターフレームワークは、成熟ヒト抗体フレームワーク配列またはコンセンサス配列であってよい。
【0136】
「コンセンサス配列」とは、関連配列のファミリーにおいて最も頻繁に存在するアミノ酸(またはヌクレオチド)から形成される配列である(例えば、Winnaker, From Genes to Clones(Verlagsgesellschaft,Weinheim, Germany 1987)を参照されたい)。タンパク質のファミリーでは、コンセンサス配列中の各位置は、そのファミリーのその位置に最も頻繁に存在するアミノ酸によって占められる。2つのアミノ酸が同等に頻繁に存在する場合には、どちらもコンセンサス配列に含めることができる。免疫グロブリンの「コンセンサスフレームワーク」とは、コンセンサス免疫グロブリン配列におけるフレームワーク領域を指す。
【0137】
抗毒素抗体またはその抗原結合部分は、誘導体化するかまたは別の機能分子(例えば、別のペプチドまたはタンパク質)に連結することができる。例えば、抗体は、別の抗体、検出可能な試薬、細胞毒性薬、医薬品、および/または別の分子との会合を媒介し得るタンパク質もしくはペプチド(ストレプトアビジンコア領域またはポリヒスチジンタグなど)などの1つまたは複数の他の分子実体に、(化学的結合、遺伝子融合、非共有結合性会合、またはその他の方法により)機能的に連結することができる。
【0138】
1つの種類の誘導体化タンパク質は、(同じ種類または異なる種類の)2つまたはそれ以上のタンパク質を架橋することによって作製される。適切な架橋剤には、適切なスペーサーで分離された2つの異なる反応基を有するヘテロ二官能性架橋剤(例えば、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)、またはホモ二官能性架橋剤(例えば、ジスクシンイミジルスベリン酸)が含まれる。そのような架橋剤は、Pierce Chemical Company、イリノイ州、ロックフォードから入手できる。
【0139】
タンパク質を誘導体化(または標識)し得る有用な検出可能試薬には、蛍光化合物、種々の酵素、補欠分子族、発光物質、生物発光物質、および放射性物質が含まれる。例示的な蛍光検出可能試薬には、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、およびフィコエリトリンが含まれる。タンパク質または抗体はまた、アルカリフォスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、グルコースオキシダーゼなどの検出可能な酵素で誘導体化することができる。検出可能な酵素でタンパク質を誘導体化した場合、このタンパク質は、検出可能な反応産物を産生するために酵素が使用するさらなる試薬を添加することによって検出される。例えば、検出可能試薬、西洋ワサビペルオキシダーゼが存在する場合には、過酸化水素およびジアミノベンジジンの添加によって、検出可能な着色反応産物がもたらされる。タンパク質はまた、補欠分子族(例えば、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジンビオチン)で誘導体化することも可能である。例えば、抗体をビオチンで誘導体化し、アビジンまたはストレプトアビジン結合を間接的に測定することによって検出することができる。
【0140】
標識タンパク質および抗体は、例えば、(i) アフィニティークロマトグラフィーまたは免疫沈降などの標準的技法によって、あらかじめ決定した抗原を単離する目的、および;(ii) 臨床試験手順の一部として組織中のタンパク質レベルをモニターするため(例えば、所与の治療計画の有効性を決定するため)にあらかじめ決定した抗原を検出する目的をはじめとする多くの状況において、診断上および/または実験的に使用することができる。
【0141】
抗毒素抗体またはその抗原結合断片は、標識などの別の分子実体に結合させることが可能である。
【0142】
3. スクリーニング方法
抗毒素抗体は、種々の周知の技法によって毒素に対する結合に関して特徴づけし得る。抗体は典型的に、まずELISAによって特徴づける。簡潔に説明すると、マイクロタイタープレートにPBSに溶解した毒素またはトキソイド抗原をコーティングし、次いでPBSに希釈したウシ血清アルブミン(BSA)などの非関連タンパク質でブロッキングし得る。毒素免疫マウスの血漿の希釈物を各ウェルに添加し、37℃で1〜2時間インキュベートする。プレートをPBS/Tween 20で洗浄し、次いでアルカリホスファターゼ結合ヤギ抗ヒトIgG Fc特異的ポリクローナル試薬と共に、37℃で1時間インキュベートする。洗浄した後、プレートをABTS基質で発色させ、405のODで解析する。好ましくは、最も高い力価を生じるマウスを融合に使用する。
【0143】
上記のELISAアッセイを用いて抗体、ひいては毒素との陽性反応性を示す抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングし得る。次いで、好ましくは毒素と高親和性で結合する抗体を産生するハイブリドーマをサブクローニングし、さらに特徴づけを行う。次に、(ELISAにより)親細胞の反応性を保持する、各ハイブリドーマに由来する1つのクローンを、細胞バンクの作製および抗体精製のために選択し得る。
【0144】
抗毒素抗体を精製するには、選択されたハイブリドーマをローラーボトル、2リットルのスピナーフラスコ、または他の培養系で培養し得る。上清をろ過し濃縮してから、プロテインA-セファロース(Pharmacia、ニュージャージー州、ピスカタウェイ)を用いるアフィニティークロマトグラフィーに供してタンパク質を精製し得る。PBSにバッファー交換した後、分光光度法によって濃度を決定し得る。
【0145】
選択されたモノクローナル抗体が固有のエピトープに結合するかどうかを決定するには、市販の試薬(Pierce、イリノイ州、ロックフォード)を用いて各抗体をビオチン化し得る。ビオチン化MAb結合は、ストレプトアビジン標識プローブを用いて検出し得る。抗毒素抗体はさらに、ウェスタンブロッティンググにより毒素との反応性について試験し得る。
【0146】
抗毒素抗体の活性を測定するための他のアッセイ法には、中和アッセイ法が含まれる。インビトロ中和アッセイ法では、培養細胞に対する細胞変性効果を抑制する抗体の能力を測定し得る(以下の実施例3を参照されたい)。毒素中和を測定するためのインビボアッセイ法については、以下の実施例5、6、および7に記載する。
【0147】
4. 薬学的組成物およびキット
別の局面において、本発明は、薬学的に許容される担体と共に製剤化された、本明細書に記載の抗体分子またはその抗原結合部分を含む組成物、例えば薬学的に許容される組成物を提供する。
【0148】
「薬学的に許容される担体」には、生理学的に適合性のあるありとあらゆる溶媒、分散媒、等張剤および吸収遅延剤などが含まれる。担体は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、非経口投与、脊髄投与、または表皮投与(例えば、注射または点滴による)に適切であり得る。
【0149】
本発明の組成物は様々な形状であってよい。これには、例えば、溶液(例えば、注射液および点滴液)、分散液または懸濁液、リポソーム、および坐剤などの、液体、半固形、および固形製剤が含まれる。好ましい形状は、意図する投与方法および治療用途によって異なる。有用な組成物は、注射液および点滴液の形状である。有用な投与方法は非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内投与)である。例えば、抗体またはその抗原結合部分は、点滴静注または静脈注射によって投与し得る。別の態様では、抗体またはその抗原結合部分は、筋肉内注射または皮下注射によって投与する。
【0150】
本明細書で使用する「非経口投与」および「非経口投与する」という語句は、経腸および局所投与以外の、通常注射による投与方法を意味し、これには非限定的に、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、硬膜外、および胸骨内注射または点滴が含まれる。
【0151】
治療組成物は、典型的に、製造および保存の条件下で無菌かつ安定でなければならない。組成物は、溶液、マイクロマルジョン、分散液、リポソーム、または高い抗体濃度に適したその他の秩序ある構造として製剤化され得る。無菌注射液は、必要量の活性化合物(すなわち、抗体または抗体部分)を、必要に応じて上記の成分の1つまたは組合せと共に適切な溶媒に取り込み、その後ろ過滅菌することによって調製し得る。一般に、分散液は、基本的な分散媒および上記列挙したものから必要とされるその他の成分を含有する無菌媒体に活性化合物を取り込んで調製する。無菌注射液を調製するための無菌粉末の場合、有用な調製方法は真空乾燥および凍結乾燥であり、それによって、あらかじめ滅菌ろ過したその溶液から活性成分および任意のさらなる所望の成分の粉末が得られる。溶液の適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングを使用することにより、分散液の場合には必要とされる粒径を維持することにより、および界面活性剤を使用することにより維持し得る。注射用組成物の長期吸収は、例えばモノステアリン酸塩およびゼラチンといった吸収を遅延させる薬剤を組成物中に含めることによって行い得る。
【0152】
本発明の抗体および抗体部分は、当技術分野において周知の様々な方法によって、多くの治療用途のために投与することができる。当業者に理解されるように、投与経路および/または方法は所望の結果に応じて異なる。
【0153】
特定の態様では、抗体またはその抗体部分は、例えば不活性希釈剤または同化可能な食用担体と共に経口投与することができる。化合物(および、必要に応じて他の成分)は、硬質または軟質ゼラチンカプセルに封入する、錠剤に圧縮する、または対象の食物に直接取り込むことも可能である。経口治療投与の場合、化合物は賦形剤と混合し、摂取可能な錠剤、口腔錠、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁液、シロップ剤、オブラートなどの形状で使用することができる。非経口投与以外で本発明の化合物を投与するには、化合物の不活性化を防止する物質で化合物を被覆するか、またはその物質と同時に化合物を投与する必要があると考えられる。
【0154】
投薬計画は、最適な所望の応答(例えば、治療反応)が得られるように調節される。例えば、単一の巨丸剤を投与してもよく、複数に分割された用量を一定期間にわたって投与しても、または治療状況の緊急度を指標として用量を比率的に増減させてもよい。投与の容易さおよび投薬量の均一性のためには、非経口用組成物を単位剤形で製剤化することが特に有利である。本明細書で用いる単位剤形とは、治療しようとする対象にとって単位型の投薬量として適した、物理的に別個の単位を指す;各単位は、必要な薬学的担体と関連して所望の治療効果を生ずるよう計算された所定量の活性化合物を含有する。本発明の単位剤形の詳細は、(a) 活性化合物の固有の特徴および達成すべき特定の治療効果、ならびに(b) このような活性化合物を、個体の感受性の治療に向けて調合する技術に内在する限界によって決定され、またこれらに直接依存する。
【0155】
本発明の抗体または抗体部分の治療有効量または予防有効量の例示的な非限定的範囲は、0.1〜60 mg/kg、例えば0.5〜25 mg/kg、1〜2 mg/kg、または0.75〜10 mg/kgである。任意の特定の対象に対し、個体のニーズ、および組成物の投与を管理または監督する担当者の専門的判断に従って、具体的な投薬計画を時間とともに調整すべきこと、および本明細書に記載する投薬量の範囲は単なる例示にすぎず、特許請求の範囲に記載される組成物の範囲または実施を制限するものではないことがさらに理解されるべきである。
【0156】
本発明の範囲内には、抗毒素抗体またはその抗原結合部分を含むキットもまた含まれる。キットは、使用説明書;他の試薬、例えば、標識、治療薬、または抗体を標識もしくは治療薬にキレートするかもしくは別の方法でカップリングするのに有用な薬剤、または投与用抗体を調製するための他の物質;薬剤的に許容される担体;および対象に投与するための装置または他の物質をはじめとする、1つまたは複数の他の成分を含み得る。
【0157】
種々の組み合わせの抗体を共に包装することができる。例えば、キットは、毒素Aに結合する抗体(例えば、3D8の可変重鎖および軽鎖を含む抗体)および毒素Bに結合する抗体(例えば、124-152、2A11、および/もしくは1G10などのヒトモノクローナル抗毒素B抗体、または毒素Bと反応するポリクローナル抗血清)を含み得る。抗体は混合してもよいし、またはキット内で別個に包装してもよい。
【0158】
使用説明書は、例えばCDADの症状を有する患者における推奨される投薬量および/または投与方法を含む、治療適用のための指示を含み得る。他の説明書は、抗体をキレート剤、標識、もしくは治療薬にカップリングすることに関する指示、または例えば未反応の結合成分から複合化化抗体を精製するための指示を含み得る。
【0159】
キットは、検出可能な標識、治療薬、および/または標識もしくは治療薬を抗体にキレートするかもしくは別の方法でカップリングするのに有用な試薬を含み得る。キレート剤には、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)などの薬剤が含まれる。このような場合、キットは、反応を行うための1つもしくは複数の反応容器、または出発材料もしくは反応中間体から最終産物を分離するために使用する、例えばクロマトグラフィーカラムなどの分離装置を含み得る。
【0160】
キットはさらに、必要に応じて1つまたは複数の別個の薬学的調製物中に製剤化された、診断薬もしくは治療薬、例えば本明細書に記載するような診断薬もしくは治療薬などの少なくとも1つのさらなる試薬、および/または1つもしくは複数のさらなる抗毒素抗体もしくは抗C.ディフィシル抗体(またはその部分)をさらに含み得る。
【0161】
他のキットは、抗毒素抗体をコードする最適化された核酸および核酸を発現させるための説明書を含み得る。
【0162】
5. 治療方法および治療組成物
新たなタンパク質および抗体は、インビトロおよびインビボで治療的、予防的、および診断的有用性を有する。例えば、これらの抗体は、C.ディフィシルおよびC.ディフィシル関連疾患を治療、抑制、その再発を防ぐ、および/または診断するために、例えばインビトロもしくはエクスビボで培養細胞に、または例えばインビボで対象に投与することができる。
【0163】
本明細書で使用する「対象」という用語は、ヒトおよび非ヒト動物を含むことを意図する。「非ヒト動物」という用語には、すべての脊椎動物、例えば、非ヒト霊長類、ニワトリ、マウス、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、およびウマなどの、哺乳動物および非哺乳動物が含まれる。
【0164】
タンパク質および抗体は、例えばインビトロまたはエクスビボで培養細胞に使用することができる。例えば、細胞を培地中でインビトロで培養し得、抗毒素抗体またはその断片を培地に添加することによって接触段階を達成し得る。この方法は、インビボ(例えば、治療または予防)手順の一部として、対象中に存在するウイルス粒子または細胞に対して行うことができる。インビボの態様では、接触段階は対象内で行い、この段階は、対象中の、例えば腸内の細菌によって発現される毒素に抗体またはその部分を結合させるのに有効な条件下で、抗毒素抗体またはその部分を対象に投与する段階を含む。
【0165】
抗体分子を投与する方法を本明細書に記載する。使用する分子の適切な投薬量は、対象の年齢および体重、ならびに使用する特定の薬剤に依存することになる。抗体分子は、リガンド結合に関する競合薬として使用して、望ましくない相互作用を阻害または減少させること、例えば消化管上皮に対する毒素の結合を阻害することが可能である。
【0166】
抗毒素抗体(またはその抗原結合部分)は、他の抗C.ディフィシル抗体(例えば、他のモノクローナル抗体、ポリクローナルγグロブリン)と併用して投与することができる。使用し得る抗体の組み合わせには、抗毒素A抗体またはその抗原結合部位および抗毒素B抗体またはその抗原結合部位が含まれる。抗毒素A抗体は、3D8、3D8の可変領域を含む抗体、または3D8の可変領域と少なくとも90%同一である可変領域を有する抗体であってよい。抗毒素B抗体は、124-152、2A11,、1G10、または前述の例えば124-152の可変領域と少なくとも90%同一である可変領域を有する抗体であってよい。抗毒素A抗体(例えば、3D8)と抗毒素B抗体(例えば、124-152)の組み合わせは、CDADの強力な抑制を提供し得る。
【0167】
本発明の薬剤、例えば抗毒素A抗体もしくは抗毒素B抗体またはそれらの断片のいずれもが、治療効果を改善するために、例えば様々な比率または量で組み合わせることができることが理解される。実際に、本発明の薬剤は、混合物として製剤化することもできるし、または当技術分野で周知の技法を用いて化学的にもしくは遺伝子的に連結して、その結果、抗毒素A結合特性および抗毒素B結合特性の両方を有する共有結合された抗体(または共有結合された抗体断片)を得ることも可能である。複合製剤は、単独のまたは別の薬剤と組み合わせた薬剤の親和性、結合活性、または生物学的有効性など、1つまたは複数のパラメータを決定することによって導かれ得る。本発明の薬剤はまた、C.ディフィシルまたはその抗原の標的、排除、および/または隔絶に際して、治療薬の接近性、半減期、または安定性を増強する他の薬剤と併用して投与することができる。
【0168】
そのような併用療法は、好ましくは、治療活性において、例えばC.ディフィシル関連疾患または障害の抑制、(例えば、再発の)防止、および/または治療において相加的およびさらには相乗的である(例えば、単一抗体療法および併用抗体療法の有効性を示す実施例16を参照されたい)。そのような併用療法の投与により、所望の効果を達成するために必要な治療薬(例えば、抗体もしくは抗体断片混合物、または架橋もしくは遺伝子融合した二重特異性抗体もしくは抗体断片)の投薬量を減らすことができる。
【0169】
免疫原として有効量の毒素またはその断片を含む免疫原性組成物を本明細書に記載するが、これは抗毒素抗体の作製において使用し得る。毒素配列中の免疫原性エピトープは、当技術分野において周知の方法に従って同定することができ、これらのエピトープを含むタンパク質または断片は、ワクチン組成物中に含めて様々な手段で送達することができる。適切な組成物には、例えば、リポペプチド(例えば、Vitiello et al., J. Clin. Invest. 95:341 (1995))、ポリ(DL-ラクチド-コ-グリコリド)(「PLG」)微粒子中に封入されたペプチド組成物(例えば、Eldridge et al., Molec. Immunol. 28:287-94 (1991);Alonso et al., Vaccine 12:299-306 (1994);Jones et al., Vaccine 13:675-81 (1995)を参照のこと)、免疫刺激複合体(ISCOM)中に含まれるペプチド組成物(例えば、Takahashi et al., Nature 344:873-75 (1990);Hu et al., Clin. Exp. Immunol. 113:235-43 (1998)を参照のこと)、および多抗原性ペプチド系(MAP)(例えば、Tam, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:5409-13 (1998);Tam. J. Immunol. Methods 196:17-32 (1996)を参照のこと)が含まれ得る。
【0170】
本発明の免疫原性組成物と共に使用し得る有用な担体は周知であり、例えば、サイログロブリン、ヒト血清アルブミンなどのアルブミン、破傷風トキソイド、例えばポリL-リジン、ポリL-グルタミン酸などのポリアミノ酸、インフルエンザ、B型肝炎ウイルスコアタンパク質などが挙げられる。組成物は、水、生理食塩水、典型的にはリン酸緩衝食塩水などの、生理学的に容認できる(すなわち、許容される)希釈剤を含み得る。組成物およびワクチンはまた、典型的にアジュバントを含む。不完全フロイントアジュバント、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、またはミョウバンなどのアジュバントは、当技術分野で周知である物質の例である。さらに、毒素(またはその断片、不活性誘導体、または類似体)を、トリパルミトイル-S-グリセリルシステイニル-セリル-セリン(P3CSS)などの脂質に結合することによって、CTL応答を刺激することができる。
【0171】
抗毒素抗体は、他の薬剤、例えばCDADを治療するための組成物などと併用して投与することができる。例えば、抗毒素抗体と併用して投与し得る治療薬には、バンコマイシン、メトロニダゾール、またはバシトラシンなど、CDADを治療するために用いられる抗生物質が含まれる。抗体は、サッカロミセス・ボウラディなどのプロバイオティック剤と併用して使用することもできる。抗体はまた、C.ディフィシルワクチン、例えばトキソイドワクチンと併用して投与することも可能である。
【0172】
6. その他の方法
抗毒素抗体(例えば、モノクローナル抗体)は、アフィニティークロマトグラフィーまたは免疫沈降などの標準的な技法によって毒素を単離するために使用することができる。さらに、抗毒素抗体は、例えば、C.ディフィシルの存在に関して試料をスクリーニングする目的で、(例えば、便試料中の)毒素を検出するために使用することができる。抗毒素抗体は、例えば所与の治療計画の有効性を決定する目的で、臨床試験手順の一部として組織中の毒素レベルをモニターするために診断上使用することができる。
【0173】
例証
特に明記しない限り、実施例を通して以下の材料および方法を使用した。
【0174】
材料および方法
一般に、本発明の実施においては、特記しない限り、化学、分子生物学、組換えDNA技術、免疫学(特に、例えば抗体技術)の慣用的技法、およびポリペプチド調製における標準的な技法を使用する。例えば、Sambrook, Fritsch and Maniatis, Molecular Cloning: Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989);Antibody Engineering Protocols (Methods in Molecular Biology), 510, Paul, S., Humana Pr (1996);Antibody Engineering: A Practical Approach (Practical Approach Series, 169), McCafferty, Ed., Irl Pr (1996);Antibodies: A Laboratory Manual, Harlow et al., C.S.H.L. Press, Pub. (1999);およびCurrent Protocols in Molecular Biology, eds. Ausubel et al., John Wiley & Sons (1992)を参照されたい。
【0175】
実施例
本発明を以下の実施例においてさらに説明するが、本実施例は特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を制限するものではない。
【0176】
実施例1. 抗毒素Aモノクローナル抗体の作製
C.ディフィシル毒素Aは、Techlab, Inc.(バージニア州、ブラックスバーグ)から入手するか、または組換え産生によって得た。毒素は精製し、免疫する前に不活化した。不活化は、天然毒素の構造を保存しつつ触媒残基をアルキル化する反応性UDP-ジアルデヒドで処理することによって行った。詳細な手順については、Genth et al., Inf and Immun. 68(3):1094-1101, 2000を参照されたい。簡潔に説明すると、緩衝液中で精製毒素AをUDP-2',3'-ジアルデヒド(0.1〜1.0 mM)と共に37℃で18時間インキュベートし、未反応のUDP-2',3'-ジアルデヒドを除去するために100 kDaカットオフフィルターを通してろ過し、さらに緩衝液で洗浄した。不活化毒素A(トキソイドA)を免疫に使用した。
【0177】
「HuMAbマウスにおけるヒトモノクローナル抗体の作製」という表題の項で上記したように作製され、Medarex、カリフォルニア州、ミルピタスによって供給されるHCo7トランスジェニックマウスの腹腔内に、それぞれRIBIアジュバント中のトキソイド10μgを6〜12回免疫した。HCo7トランスジェニックマウスでは、Chen et al. (1993) EMBO J. 12:811-820に記載されているように、内在性マウスκ軽鎖遺伝子がホモ接合性に破壊されており、また国際公開公報第01/09187号の実施例1に記載されているように、内在性マウス重鎖遺伝子がホモ接合性に破壊されている。HCo7トランスジェニックマウスは、Fishwild et al. (1996) Nature Biotechnology 14:845-851に記載されているように、ヒトκ軽鎖導入遺伝子、KCo5、および米国特許第5,545,806号;第5,625,825号;および第5,545,807号に記載されているように、HCo7ヒト重鎖導入遺伝子を保有している。各マウスから血清を採取し、ELISAにより毒素Aに対する反応性について、およびIMR-90細胞における細胞毒性の中和について試験した。毒素A反応性抗血清および中和抗血清について陽性であると試験されたマウスに、尾静脈からトキソイドA 5〜10μgを注射した。尾静脈注射を行ってから約3日後に、マウスを屠殺し、脾臓を単離してハイブリドーマになるよう融合した。
【0178】
クローンハイブリドーマを作製し、ELISAによりスクリーニングした。4回の別個のハイブリドーマ融合から作製されたクローンをスクリーニングすることによって同定されたκ/γ軽鎖陽性クローン、抗原特異的クローン、および中和クローンの割合を表5に記載する。
【0179】
(表5)

【0180】
3つのハイブリドーマクローン:3D8、1B11、および33.3H2をさらなる解析のために選択した。RT-PCRによりmRNAから各クローンのcDNAを増幅し、クローニングし、配列決定を行った。各クローンについて、1つの重鎖V領域コンセンサス配列が見出された。3つのクローンはすべて同じ生殖細胞系列V領域遺伝子(VH3-33)に由来するVH領域を利用したが、異なるJ配列を利用した。各クローンのVH領域およびVL領域のアミノ酸配列を図1(配列番号:1〜6)に示す。図中、相補性決定領域(CDR)を上線で示す。
【0181】
κV(Vκ軽鎖)遺伝子の配列解析から、HuMAb 1B11および33.3H2がそれぞれ1つのコンセンサスκ鎖V配列を発現することが明らかになった。1B11ハイブリドーマは、Vκ L6生殖細胞系列遺伝子に由来するVκ軽鎖を発現したのに対して、33.3H2ハイブリドーマは、Vκ L15生殖細胞系列遺伝子に由来するVκ軽鎖を発現した。HuMAb 3D8に由来するVκクローンの解析では、mRNAレベルで6つ(I〜VI)の軽鎖が発現されていた(図1)。タンパク質レベルでどの軽鎖が発現されたのかを決定するため、精製3D8抗体の質量分析およびN末端配列決定を行った。細胞タンパク質から軽鎖を単離し、質量分析によって解析した場合、23,569ダルトンの質量を有する単一の軽鎖が認められた。これは、Vκ L19生殖細胞系列遺伝子に由来する、図1に示すI群アミノ酸配列を有する軽鎖に相当した。軽鎖のN末端配列決定からも、この結果が確認された。図2A、3A、および4Aは、3D8(I群;配列番号:4および30〜34)、1B11(配列番号:5)、および33.3H2(配列番号:6)それぞれのVκのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を示す。CDRを上線で表示し、また生殖細胞系列VκおよびJκを示す。
【0182】
したがって、3D8抗体は、ヒトVH 3-33遺伝子の産物であるかまたはそれに由来する重鎖可変領域、およびヒトVκ L19遺伝子の産物であるかまたはそれに由来する軽鎖可変領域を含む。1B11抗体は、ヒトVH 3-33遺伝子の産物であるかまたはそれに由来する重鎖可変領域、およびヒトVκ L6遺伝子の産物であるかまたはそれに由来する軽鎖可変領域を含む。33.3H2抗体は、ヒトVH 3-33遺伝子の産物であるかまたはそれに由来する重鎖可変領域、およびヒトVκ L15遺伝子の産物であるかまたはそれに由来する軽鎖可変領域を含む。
【0183】
抗体3D8および1B11はヒトIgG1定常領域を発現し、抗体33.3H2はヒトIgG3定常領域を発現する。実施例2〜7に記載する抗体は、これらのハイブリドーマから単離したのもであり、したがってヒト定常領域と共に、図1に示す可変配列を発現する。ヒトに投与するためのヒト抗体として発現させるため、各クローンの抗原結合部分をコードするDNAをベクターにクローニングした。
【0184】
実施例2. 抗毒素A抗体の結合活性
毒素Aに対する各抗体の結合を、標準的な技法を用いてELISAにより決定した。このアッセイの結果を図5に示す。3D8、1B11、および33.3H2によって産生される抗体を、毒素A結合活性を有する4つめのヒトモノクローナル抗体、8E6と比較した。図5から、抗体が同程度の親和性で毒素Aと結合することが示される。
【0185】
また、表面プラズモン共鳴技術によって生体分子の結合相互作用を検出するBiacore(登録商標)装置を用いて、毒素Aに対する3D8および1B11抗体の親和性を測定した。プロテインAコーティングしたセンサーチップに各抗体を添加し、毒素Aをチップ上に流して結合を測定した。3D8は14.6 x 10-10 MというKDを有した。1B11は7.38 x 10-10 MというKDを有した。したがって、これらの抗体は高い親和性で毒素Aに結合する。これらの結合定数から、抗体がヒト治療で使用するのに適した親和性を有することが示される。
【0186】
実施例3. 抗毒素A抗体の毒素中和
1B11、3D8、および33.3H2ハイブリドーマによって発現される抗体を、インビトロで毒素A中和活性について試験した。細胞を円形化し、細胞培養皿への接着性を失わせる種々の濃度の毒素Aの存在下で、細胞をインキュベートした。細胞を目視観察することにより、細胞変性効果(CPE)を判定した。目視観察の結果に基づき、0〜4のCPEスコアを決定した(4=100%細胞毒性、0=0%毒性)。これらのアッセイの結果を図6Aおよび6Bに示す。ヒト肺線維芽細胞株、IMR-90およびヒト腸上皮細胞株、T-84に対する毒性の中和を決定した。図6Aから、すべての抗体がIMR-90細胞に対して中和能を有したことが示される。IMR-90細胞に対する毒素A細胞毒性の相対的中和活性は、1B11 > 3H2 > 3D8であった。興味深いことに、ヒト結腸上皮細胞であるT-84細胞に対しては、相対的中和活性は3D8 > 1B11 > 3H2であった(図6A)。T-84細胞は、他の細胞種よりも毒素Aに対する感受性が高いと考えられている。T-84細胞は、毒素A細胞毒性を判定するためのより関連性の高い標的細胞を提供し得る。
【0187】
実施例4. 抗毒素A抗体のエピトープマッピング
各モノクローナル抗体が結合する毒素Aのエピトープをウェスタンブロッティングによって決定した。酵素ドメイン(すなわち、毒素Aのアミノ酸1〜659)、受容体結合ドメイン(すなわち、毒素Aのアミノ酸1853-2710)、およびその間の2つの領域(すなわち、毒素Aのアミノ酸660〜1255および1256〜1852)を示す毒素Aの4つの断片を発現する組換え大腸菌クローンを構築した。C.ディフィシル株ATCC 43255から調製したゲノムDNAから、毒素A遺伝子の適切な部分をPCR増幅した。pETベクターを用いて断片をクローニングし、発現させるためにBL21 DE3細胞に形質転換した。このベクターは、誘導発現ならびに精製(すなわち、Hisタグ)および検出(すなわち、V5エピトープタグ)のための親和性ドメインを提供する。IPTGで発現を誘導し、アフィニティークロマトグラフィーにより断片を精製した。毒素Aの4つの異なる断片に対する結合を測定した:断片1はアミノ酸1〜659に相当した;断片2はアミノ酸660〜1255に相当した;断片3はアミノ酸1256〜1852に相当した;および断片4はアミノ酸1853-2710に相当した(図7)。1B11は断片1および2と反応した。33.3H2は断片2と反応した。3D8および別のヒトモノクローナル抗体、6B4は、断片4(受容体結合ドメイン)と反応した。毒素Aで免疫したウサギによるポリクローナル抗血清は、4つの断片すべてと反応した。
【0188】
1B11および33.3H2エピトープをさらに詳細にマッピングした。1B11エピトープをマッピングするため、アミノ酸1〜540、1〜415、1〜290、および1〜165に相当する断片1(アミノ酸1〜659)の細断片を作製した(図8A)。1B11は、断片1およびアミノ酸1〜540を含む断片に結合した。1B11は他の細断片には結合しなかった。したがって、1B11が結合するエピトープは、毒素Aのアミノ酸415〜540の間にマッピングされる。
【0189】
33.3H2エピトープをマッピングするため、アミノ酸660〜1146、660〜1033、660〜920、および660〜807に相当する断片2(アミノ酸660〜1255)の細断片を作製した(図8B)。33.3H2は、アミノ酸660〜1255、660〜1146、および660〜1033を含む断片に結合した。33.3H2は他の細断片には結合しなかった。したがって、33.3H2が結合するエピトープは、毒素Aのアミノ酸920〜1033の間にマッピングされる。
【0190】
実施例5. 抗毒素A抗体の投与による致死的毒素A攻撃からのマウスの防御
各抗体を、致死量の毒素Aによる攻撃からマウスを防御する能力について試験した。それぞれ体重10〜20グラムのSwiss Webster雌マウスの腹腔内に、毒素Aによる攻撃の前に、最大250μgの3D8、1B11、もしくは33.3H2、または対照抗体(抗呼吸器合胞体ウイルス抗体、MedImmune)を注射した。注射から約24時間後、致死量(LD50)の10倍を超える毒素Aの用量、典型的に100 ngでマウスを攻撃した。次の7日間、毒性の徴候について動物を観察した。これらの実験の結果を図9に要約する。データは生存率として表す。括弧内の数字は、250μg以外の用量を与えた場合の抗体用量を指す。図9から、各抗体は、致死的毒素A攻撃からマウスをある程度防御し得ることが示される。3D8で処置した場合のマウス生存率は、10〜100パーセントであった。33.3H2で処置した場合のマウス生存率は、20〜100パーセントであった。1B11で処置した場合のマウス生存率は、0〜60パーセントであった。これらのモノクローナルがマウスを保護する相対的能力は、3H2 > 3D8 > 1B11であった。
【0191】
実施例6. 抗毒素A抗体による結紮マウス腸係蹄における毒素A腸内毒性の中和
マウス回腸係蹄モデルにおいて、3D8および33.3H2抗体を毒素A腸内毒性の中和について試験した。このモデルでは、マウス腸内の毒素A誘導性液体貯留を測定する。これらの実験を行うため、各マウスを16時間飢餓状態にし、麻酔し、盲腸の隣の回腸を露出した。3〜5センチメートルの係蹄を各末端で二重に結紮し、毒素A 10μgを注射した。回腸係蹄を腹腔に戻し、傷を閉鎖して、動物を回復させた。手術から4時間後、動物を安楽死させ、動物から係蹄を摘出した。各部分の長さを再度測定し、腔内の液体を抽出した。各ループについて、液体の量、およびミリリットル/センチメートルでの体積対長さ(V:L)比を算出した。被験マウスには、手術の1〜2日前に抗体を非経口投与した。これらの実験の結果を図10に示す。毒素Aの注射により、腸液の重量対長さの比が50%増加した。3D8および33.3H2はいずれも、この液体貯留の増加を妨げた。どちらの抗体を投与したマウスも、毒素Aを注射しなかったマウスと同等の重量対長さの比を有した。したがって、3D8および33.3H2はインビボにおいて腸内液体貯留を防ぐ。
【0192】
これらの結果から、抗毒素Aモノクローナル抗体がインビボで毒素A媒介性腸内毒性を防ぐことが示される。マウス結紮係蹄データから、これらのモノクローナル抗体が、全身投与した場合に粘膜障害を妨げ得ることが示される。
【0193】
実施例7. 抗毒素A抗体によるC.ディフィシル再発からのハムスターの防御
ハムスター再発モデルにおいて3D8を試験した。ハムスターはC.ディフィシル毒素の毒性作用に対して感受性があり、典型的にC.ディフィシルの存在下においてクリンダマイシンの単回投与の2〜3日以内に死亡する。ハムスターにおいて3D8の有効性を試験するため、再発モデルを使用した。このモデルにおいて、ハムスターにクリンダマイシンを投与し、その翌日にC.ディフィシルB1胞子を投与した。対照ハムスターの第1セットには、さらなる抗生物質も抗体も投与しなかった。対照ハムスターの第2セットは、10 mg/kg/日バンコマイシンで処置した。バンコマイシンは、C.ディフィシル疾患の治療で用いられる抗生物質である。図11Aに示すように、ハムスターの試験セットに、図中に矢印で示したC.ディフィシル汚染後の7日間、それぞれ10 mg/kg/日バンコマイシンおよび毒素Aに対して産生された2 mg/kg/日のウサギポリクローナル抗血清を投与した。ハムスターの第2試験セットには、10 mg/kg/日バンコマイシンおよび50 mg/kg/日3D8を同じ時間間隔で投与した。ハムスターの生存度を時間に対してプロットし、これを図11Bに示す。
【0194】
図11Bから、クリンダマイシンおよびC.ディフィシルのみを投与したハムスター(ダイアモンド)のすべてが、細菌による攻撃の2日以内に死亡したことが示される。バンコマイシンで処置したハムスター(四角)の12パーセント(2/17)が細菌による攻撃を克服し;88%(15/17)が8日以内に死亡した。バンコマイシンおよび3D8で処置したハムスター(十字)の41パーセント(7/17)が攻撃を克服し;59(10/17)パーセントが7日以内に死亡した。バンコマイシンおよびポリクローナルウサギ血清で処置したハムスター(三角)の64パーセント(7/11)が細菌による攻撃を克服し、36パーセント(4/11)が9日以内に死亡した。また、これらのデータを、各処置群における全生存動物の割合として図12に示す。図から示されるように、生存動物の割合は、バンコマイシンおよびポリクローナルウサギ血清投与群で最も高かった(64パーセント)。3D8およびバンコマイシン投与群は、2番目に高い生存率(41パーセント)を有した。バンコマイシン処置ハムスターでは12パーセントしか生存しなかった。非処置ハムスターはすべて死亡した。これらのデータから、ポリクローナルおよびモノクローナル抗毒素抗体は、感染後に投与した場合に、インビボでC.ディフィシル疾患の再発を防ぐことが示される。
【0195】
実施例8. ヒト投与用の抗毒素A抗体の生成
3D8抗体の可変重鎖および軽鎖をコードする核酸配列を、標準的な組換えDNA方法を用いてpIE-Uγ1Fベクターにクローニングした。ベクターを大腸菌中で増幅し、精製し、CHO-dg44細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションした細胞を96ウェルディッシュにウェル当たり4 x 105細胞でプレーティングし、G418でベクターのトランスフェクションについて選択した。1D3と命名した1つのクローンがG418耐性によって最初に選択され、次いでこれを他のトランスフェクトーマと共にIgGの産生についてアッセイした。1D3は、数回の拡大を通して、他のトランスフェクトーマよりも高レベルのIgG産生を有した。メトトレキセートの濃度を増していきながら培養することによって、3D8抗体の発現を増幅した。175 nMメトトレキセート中で増殖し得る培養物を、さらなる開発のために単一細胞のクローニング用に選択した。培養物を低密度で96ウェルプレートにプレーティングすることで、単一細胞またはクローンから生じる培養物の作製を可能にした。培養物をヒトIgGの産生についてスクリーニングし、最も高レベルのIgGを産生する細胞をさらなる使用に選択した。メトトレキセート増幅クローンを拡大して、複数の細胞凍結バイアルを含む細胞バンクを作製した。
【0196】
トランスフェクション細胞から抗体を調製するため、前段階で単離されたクローンに由来する細胞を培養し、バイオリアクターの接種材料として拡大する。バイオリアクターは典型的に、500リットル量の培養液を維持する。細胞を細胞生存度が低下するまでバイオリアクター中で培養するが、生存度の低下は最大抗体濃度が培養液中に産生されたことを示す。細胞をろ過によって除去する、ろ液をプロテインAカラムに供す。抗体はカラムに結合するが、これを低pH洗浄によって溶出する。次に、抗体をQ-セファロースカラムに供して、CHO細胞タンパク質、DNA、および他の混入物(例えば、存在するのであればウイルス混入物)などの残存混入物を除去する。Q-セファロースから抗体を溶出し、ナノろ過し、濃縮し、PBSなどの緩衝液で洗浄する。次いで、投与用に、調製物をバイアル中に無菌的に分注する。
【0197】
実施例9. ポリクローナル抗毒素B抗体の調製および特徴づけ
2匹のNubianヤギ(#330および#331)の筋肉内に、50μg UDPジアルデヒド不活化毒素B(Techlab)および完全フロイントアジュバントを注射した。2週間間隔で、フロイント不完全アジュバントと共に25μgトキソイドBの追加免疫用量を筋肉内に投与した。4回免疫した後、試験血液を採取した。毒素Aおよび毒素Bに対するELISA反応性ならびにこれらに対する細胞毒性の中和についてアッセイし、血清の特異性および交差反応性を測定した。
【0198】
いずれの動物も、ELISAによって測定されるように、毒素Bに良好に応答し、毒素Aにはより少ない程度に応答した。ヤギ#331の血清は毒素A交差反応性の程度が低く、これをその後の実験の大部分のために選択した。IMR-90細胞に対する細胞毒性の中和を、実施例3に記載したように決定した。細胞毒性中和の結果を図13に示すが、この図から、いずれの動物に由来する血清も良好な毒素B中和抗体力価および非常に低いが検出可能な毒素A中和抗体力価を示したことが示される。ヤギ血清が毒素Bによる致死的腹腔内攻撃(100 ng)からマウスを防御する能力もまた確認された(データは示さず)。
【0199】
実施例10. 抗毒素A抗体および抗毒素B抗体によるC.ディフィシル再発からのハムスターの防御
実施例7のハムスター再発モデルに記載したように、ハムスター群(n = 20)をクリンダマイシンおよびC.ディフィシルで攻撃し、その後バンコマイシンで処置した。バンコマイシン処置後、1日に2回、抗体(3D8、ヤギ#331の血清、3D8およびヤギ#331の血清)を投与した(図14)。生存(図15)および疾病(図16)に関して動物をモニターした。抗体用量は、ヤギ#331の血清については1 mlを1日に2回、および3D8については3 mgを1日に2回であった。バンコマイシンのみを投与した動物(すなわち、抗体処置なし)を陰性対照とした。以前に観察されたように、3D8およびバンコマイシン処置のみでは部分的な防御効果が示され、20匹の動物のうち10匹が致死性から防御された(図15)。この群の動物の50%が健康を維持した(図16)。バンコマイシン処置のみを施した動物20匹のうち6匹が防御された(図15)。30パーセントが健康を維持した(図16)。ヤギ血清を単独で使用した場合にも、部分的な防御(9/20の動物が防御された)が認められた(図15)。40パーセントが健康を維持した。ヤギ血清および3D8の両方を共に投与した場合、防御はほぼ100%まで上昇し(18/20)、疾患の発症は遅延した(図15)。これらの動物の90%が健康を維持した(図16)。明らかに、疾病の防止は致死性の防止のパターンに従った。これらのデータから、3D8は、毒素Bをさらに中和した場合、ハムスター疾患モデルにおいて十分に防御的であり得ることが示される。
【0200】
実施例11. 毒素B免疫ハムスターにおけるC.ディフィシル再発からのハムスターの防御
大腸菌で発現させた毒素BのCOOH末端断片(毒素Bの1777〜2366に相当する)10μgを、アジュバントとしてRIBIを使用して、ハムスターの腹腔内に免疫した。動物に毒素B抗原を7回投与した。試験した動物において、中和抗体応答を観察した。実施例7のハムスター再発モデルに記載したように、免疫ハムスター群をクリンダマイシンおよびC.ディフィシルで攻撃し、次いでバンコマイシンで処置した。19匹の動物に対してバンコマイシン処置した後に抗体(3D8、3mg/用量)を1日に2回投与し、処置しなかった陰性対照群(n = 20)と比較した(図17および18)。6匹の動物にはバンコマイシン処置なしで攻撃し、毒素B抗原を免疫したマウスがC.ディフィシル感染を起こしやすいことを確実にした。生存(図17)および疾病(図18)に関して動物をモニターした。図17から、3D8を投与しなかった免疫動物が、以前に観察された比率と同様の比率で再発したことが示される(65%再発)。3D8を投与した毒素B免疫動物は、以前に観察されたよりもより完全に再発から防御された(10%再発、別の実験における毒素Bを前もって免疫しなかった動物での約50%の再発と比較)。
【0201】
図18から、3D8を投与した免疫動物のうちの何匹かが発病したが、下痢から回復したことが示される。バンコマイシンのみを投与した免疫マウスの35パーセントが健康を維持した。毒素B反応性血清が動物中に存在しない実験では、下痢を起こした実質的にすべての動物が後に死亡した。これらのデータから、3D8は、毒素Bも同様に中和した場合、ハムスター疾患モデルにおいて十分に防御的であり得るというさらなる証拠が提供される。このモデルにおいて、C.ディフィシル疾患からの最適な防御には、毒素Aに加えて毒素Bの中和が必要であった。
【0202】
実施例12. ヤギ抗毒素B血清で処置したハムスターにおける3D8を使用した原発性C.ディフィシル攻撃からのハムスターの防御
ハムスターにおけるC.ディフィシル疾患の再発の予防は、直接攻撃(すなわち、バンコマイシン投与なしの攻撃)からの防御よりも示すのが容易であった。ウサギ血清を用いた実験では直接攻撃からの弱い防御しか示さず、3D8は直接攻撃に対して検出可能な影響を及ぼさなかった。3D8は毒素B中和抗体のバックグラウンドにおいてより防御的であったため、3D8および抗毒素B抗血清の併用投与が直接攻撃に起因する疾患を予防し得るかどうかを決定した。図19に示すように、攻撃前に3日間、3D8(3 mg)、3D8(3 mg)およびヤギ#331(1 ml)血清の組み合わせ、または抗体なしを1日に1度投与した後、5匹のハムスター群を攻撃した。図20のデータから、抗体を投与しなかったまたは3D8もしくはヤギ血清を単独で投与した動物がすべてC.ディフィシル攻撃の48時間以内に死亡したことが示される。3D8およびヤギ血清を両方投与した動物の大部分(80%)が生存し、感染動物は攻撃から10日間生存した。図21より、3D8およびヤギ血清で処置した動物は発病するものの回復したことが示される。これらのデータから、3D8は、毒素Bも同様に中和した場合、ハムスター疾患モデルにおいて十分に防御的であり得るというさらなる証拠が提供される。このモデルにおいて、C.ディフィシル疾患からの最適な防御には、毒素Aに加えて毒素Bの中和が必要であった。
【0203】
C.ディフィシルで直接攻撃したハムスターの防御が成功したことにより、新規毒素B候補のスクリーニングに関するいくつかの利点が提供される。未処置動物の100%が死亡するため、より少数の動物を使用し得る。モノクローナル抗体(例えば、ヒトモノクローナル抗体)などの抗体をハムスターにおいて直接するスクリーニングすることができるが、それはこの手順には100 mg以下の被験抗体が必要であるという理由からである。再発モデルなどの他の試験様式では、再発モデルにおける攻撃率が低く、より多くの動物の試験を必要とすることに起因して、グラム量を生成する努力が必要である。直接攻撃実験はまた、再発モデルにおける7〜10日と比較して、C.ディフィシル攻撃の3〜4日以内に決定的な読取り値が得られ、継続期間が短い。さらに、スクリーニング方法からバンコマイシン処置を排除することで、動物を扱う回数が減少する。
【0204】
実施例13. 抗毒素Bモノクローナル抗体の作製
C.ディフィシル毒素Bは、Techlab, Inc.(バージニア州、ブラックスバーグ)から入手するか、または組換え産生によって得た。毒素は精製し、免疫する前に不活化した。不活化は、天然毒素の構造を保存しつつ触媒残基をアルキル化する反応性UDP-ジアルデヒドで処理することによって行った。簡潔に説明すると、緩衝液中で精製毒素BをUDP-2',3'-ジアルデヒド(0.1〜1.0 mM)と共に37℃で18時間インキュベートし、未反応のUDP-2',3'-ジアルデヒドを除去するために100 kDaカットオフフィルターを通してろ過し、さらに緩衝液で洗浄した。不活化毒素B(トキソイドB)または組換え毒素B断片を免疫に使用した。毒素B受容体結合ドメイン(アミノ酸残基1777〜2366)は、ニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーを用いて親和性精製するために、免疫タグ(ヘキサヒスチジン)を含む融合タンパク質として大腸菌で発現させた(断片4と命名;実施例11を参照)。
【0205】
「HuMAbマウスにおけるヒトモノクローナル抗体の作製」という表題の項で上記したように作製され、Medarex、カリフォルニア州、ミルピタスによって供給されるHCo12トランスジェニックマウスの腹腔内に、それぞれRIBIアジュバント中のトキソイド10μgを6〜12回免疫した。HCo12トランスジェニックマウスでは、Chen et al. (1993) EMBO J. 12:811-820に記載されているように、内在性マウスκ軽鎖遺伝子がホモ接合性に破壊されており、また国際公開公報第01/09187号の実施例1に記載されているように、内在性マウス重鎖遺伝子がホモ接合性に破壊されている。HCo12トランスジェニックマウスは、Fishwild et al. (1996) Nature Biotechnology 14:845-851に記載されているように、ヒトκ軽鎖導入遺伝子、KCo5、および米国特許第5,545,806号;第5,625,825号;および第5,545,807号に記載されているように、HCo12ヒト重鎖導入遺伝子を保有している。各マウスから血清を採取し、ELISAにより毒素Bに対する反応性について、およびIMR-90細胞における細胞毒性の中和について試験した。毒素B反応性抗血清および中和抗血清について陽性であると試験されたマウスに、尾静脈から5〜10μgのトキソイドBまたは断片4を注射した。尾静脈注射を行ってから約3日後に、マウスを屠殺し、脾臓を単離してハイブリドーマになるよう融合した。
【0206】
クローンハイブリドーマを作製し、ELISAによりスクリーニングした。3つのハイブリドーマクローン:124-152;2A11;および1G10をさらなる解析のために選択した。特に、RT-PCRによりmRNAから124-152クローンのcDNAを増幅し、クローニングし、配列決定を行った。重鎖V領域は生殖細胞系列配列VH 5-51に由来し、、D領域は生殖細胞系列配列7-27に由来し、またJ配列は生殖細胞系列領域JH3bに由来することが決定された。軽鎖(κ)領域はA27に由来し、J領域はJK1に由来することが決定された。124-152クローンのアイソタイプはIgG1であると決定された。124-152クローンのVHおよびVL領域のアミノ酸配列を図27〜28に示す。相補性決定領域(CDR)を図中に示す。VHおよびVL領域の関連する生殖細胞系列配列を図30〜31に示す。
【0207】
対応するハイブリドーマから抗体124-152;2A11;および1G10を単離し、それらの結合特性について試験した(下記)。ヒトに投与するためのヒト抗体として発現させるため、124-152クローンをコードするDNAをベクターにクローニングした。
【0208】
実施例14. 抗毒素B抗体の結合活性
毒素Bに対する各抗体の結合を、標準的な技法を用いてBiacoreにより決定した。このアッセイの結果を表6に示す。124-152;2A11;および1G10よって産生される抗体を、適切な対照と比較した。
【0209】
特に、表面プラズモン共鳴技術によって生体分子の結合相互作用を検出するBiacore(登録商標)装置を用いて、毒素Bに対する124-152;2A11;および1G10抗体の親和性を測定した。プロテインAコーティングしたセンサーチップに各抗体を添加し、毒素Bをチップ上に流して結合を測定した。124-152は1.64 x 10-10 MというKDを有し;2A11は0.24 x 10-10 MというKDを有し;また1G10は2.98 x 10-10 MというKDを有した。したがって、これらの抗体は高い親和性で毒素Bに結合する。これらの結合定数から、抗体がインビボ用途、例えばヒト治療で使用するのに適した親和性を有することが示される。
【0210】
(表6)

【0211】
実施例15. 抗毒素B抗体の毒素中和
124-152;2A11;および1G10ハイブリドーマによって発現される抗体を、インビトロで毒素B中和活性について試験した。毒素Bへの曝露後に細胞を円形化から妨げる毒素Bに特異的な様々な濃度のモノクローナル抗体の存在下で細胞をインキュベートした。細胞を目視観察することにより、細胞変性効果(CPE)を判定した。目視観察の結果に基づき、0〜4のCPEスコアを決定した(4=100%細胞毒性、0=0%毒性)。これらのアッセイの結果を図27に示す。ヒト肺線維芽細胞株、IMR-90に対する毒性の中和。図27から、すべての抗体がIMR-90細胞に対して中和能を有したことが示される。IMR-90細胞に対する毒素A細胞毒性の相対的中和活性は、124-152 > 1G10 > 2A11であった。
【0212】
実施例16. 抗毒素B抗体を用いた原発性C.ディフィシル攻撃からのハムスターの防御
C.ディフィシル接種の直接攻撃(-1日目におけるクリンダマイシンおよび0日目におけるC.ディフィシル胞子(1/100,000希釈))からの防御を、抗毒素B抗体の存在下または非存在下において4〜10日間にわたって実施した。図24に示すように、攻撃前に3日間、3D8(4日間にわたって全部で20 mg)、3D8(同上)およびヤギ#331(3 ml)血清の組み合わせ、3D8および抗毒素B抗体124-152(4日間にわたって全部で18 mg)、2A11(4日間にわたって全部で20mg)、もしくは1G10(4日間にわたって全部で20 mg)の組み合わせ、または抗体なしを1日に1度投与した後、5匹のハムスター群を攻撃した。図24のデータから、抗体を投与しなかったまたは3D8もしくはヤギ血清を単独で投与した動物がすべてC.ディフィシル攻撃の72時間以内に死亡するのに対して、3D8および抗毒素B抗体を投与した動物、好ましくは124-152と併用して投与した動物は、40%生存率を有した(図24)。抗毒素B抗体124-152の増加量を使用して(-3、-2、-1、および0日目に0.56 mg、1.7 mg、または5.0 mgを投与)、前述の研究(しかし、より希釈したC.ディフィシル接種材料を使用)に類似した10日間の研究を実施した。3D8およびヤギ血清の両方を投与した動物は生存し、また3D8を124-152と併用して投与した場合には、大部分の動物(60%〜70%)が攻撃後10日間生存した。最も低用量の抗毒素B抗体124-152(3D8と併用した0.56 mg)でさえ、非常に有効であった(70%生存;図25を参照)。結果から、124-152および3D8は単独では併用して使用した場合よりも有効性が低く、併用した場合には、実際に相加性を超えて相乗的治療結果が達成される(図24〜26)。これらのデータから、抗毒素B抗体は、特に抗毒素A抗体3D8と併用した場合に非常に有効であるというさらなる証拠が提供される。このモデルにおいて、毒素Aに加えて毒素Bの中和がC.ディフィシル疾患からの防御を提供すると決定された。
【0213】
実施例17. 抗毒素B抗体のエピトープマッピング
各モノクローナル抗体が結合する毒素Bのエピトープをウェスタンブロッティングによって決定した。毒素Bの様々なドメインを表す毒素Bの断片を発現する組換え大腸菌クローンを構築した。適切なC.ディフィシル株から調製したDNAから、毒素B遺伝子の適切な部分をPCR増幅した。断片を発現ベクターにクローニングし、大腸菌で発現させた。結合エピトープをマッピングするため、ウェスタンブロットにおいてヒトモノクローナル抗体152を用いて毒素B断片をプロービングした。毒素B遺伝子の部分を含む大腸菌から毒素Bタンパク質断片を単離し、SDS-PAGEを用いて分離した。電気泳動した後、毒素B断片をニトロセルロースに転写し、モノクローナル抗体152、次いでアルカリホスファターゼ結合ヤギ抗ヒトでプロービングし、MAb152結合を検出した。HuMab 152は、アミノ酸1777と2366の間の毒素BのCOOH断片部分に結合すると決定された(例えば、図32を参照されたい)。
【0214】
他の態様
本発明の多くの態様について記載した。それにもかかわらず、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な修飾がなされ得ることが理解されよう。したがって、他の態様も特許請求の範囲の範囲内に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0215】
種々の図面における同様の参照記号は、同様の要素を示す。
【図1】各クローンのmRNA配列によってコードされるVH鎖およびVL鎖のアミノ酸配列を収載する表である。小文字はリーダーペプチド中のアミノ酸を表す。CDRを下線で示す。6つの固有の軽鎖V領域を発現するクローン3D8は、I群のアミノ酸配列のみを発現した。
【図2】図2Aは、クローン3D8によって発現されるVL鎖のアミノ酸配列および核酸配列の表示である。アミノ酸配列および核酸配列の上に、Vセグメント遺伝子およびJセグメント遺伝子を記載する。CDRを上線で示す。図2Bは、クローン3D8によって発現されるVH鎖のアミノ酸配列および核酸配列の表示である。アミノ酸配列および核酸配列の上に、Vセグメント、Dセグメント、およびJセグメント遺伝子を記載する。CDRを上線で示す。
【図3】図3Aは、クローン1B11によって発現されるVL鎖のアミノ酸配列および核酸配列の表示である。アミノ酸配列および核酸配列の上に、Vセグメント遺伝子およびJセグメント遺伝子を記載する。CDRを上線で示す。図3Bは、クローン1B11によって発現されるVH鎖のアミノ酸配列および核酸配列の表示である。アミノ酸配列および核酸配列の上に、Vセグメント、Dセグメント、およびJセグメント遺伝子を記載する。CDRを上線で示す。
【図4】図4Aは、クローン33.3H2(本明細書では3H2と称する;33.3H2および3H2は本明細書において互換的に用いられる)によって発現されるVL鎖のアミノ酸配列および核酸配列の表示である。アミノ酸配列および核酸配列の上に、Vセグメント遺伝子およびJセグメント遺伝子を記載する。CDRを上線で示す。図4Bは、クローン33.3H2によって発現されるVH鎖のアミノ酸配列および核酸配列の表示である。アミノ酸配列および核酸配列の上に、Vセグメント遺伝子およびJセグメント遺伝子を記載する。CDRを上線で示す。
【図5】毒素Aに対する抗毒素Aモノクローナル抗体の結合を測定したELISAアッセイの結果を示すグラフである。
【図6】抗毒素Aモノクローナル抗体の存在下および非存在下におけるインビトロ中和アッセイの結果を示すグラフのセットである。図6Aは、IMR-90細胞で実施したアッセイの結果を示す。図6Bは、T-84細胞で実施したアッセイの結果を示す。
【図7】エピトープマッピング研究で解析した断片を示す、毒素Aポリペプチドの概略図である。
【図8】エピトープマッピング研究で解析した毒素A断片の概略図である。
【図9】抗毒素Aモノクローナル抗体による、毒素Aでの致死的攻撃からのマウス防御を決定するインビボアッセイの結果を収載する表である。
【図10】インビボにおける抗毒素抗体中和の有効性を測定する、マウス回腸係蹄液体貯留アッセイの結果を示すグラフである。
【図11】図11Aは、ハムスター再発モデルにおけるハムスターに対する様々な薬剤の投与の予定表の模式図である。図11Bは、クリンダマイシン処置およびその後のC.ディフィシル攻撃を克服するハムスターの割合としてアッセイの結果を示すグラフである。
【図12】クリンダマイシン処置およびその後のC.ディフィシル攻撃を克服するハムスターの割合としてハムスター再発アッセイの結果を示すグラフである。
【図13】トキソイドBで免疫したヤギに由来するポリクローナル抗血清の存在下および非存在下で、毒素Aおよび毒素Bのインビトロ中和を測定したアッセイの結果を示すグラフである。「G330」は、ヤギ#330の血清を試験した試料を指す。「G331」は、ヤギ#331の血清を試験した試料を指す。
【図14】ハムスター再発モデルにおけるハムスターに対する様々な薬剤の投与の予定表の模式図である。
【図15】クリンダマイシン処置およびその後のC.ディフィシル攻撃を克服するハムスターの割合としてハムスター再発アッセイの結果を示すグラフである。ハムスターは、バンコマイシン、バンコマイシンおよび3D8、バンコマイシンおよびヤギ#331による抗血清、またはバンコマイシン、3D8、およびヤギ#331による抗血清で処置した。
【図16】クリンダマイシン処置およびその後のC.ディフィシル攻撃後の健康な動物の割合としてハムスター再発アッセイの結果を示すグラフである。「ヤギ331」はヤギ#331に由来する抗血清を指す。
【図17】クリンダマイシン処置およびその後のC.ディフィシル攻撃を克服するハムスターの割合としてハムスター再発アッセイの結果を示すグラフである。クリンダマイシン処置の前に、ハムスターを毒素Bの断片で免疫した。ハムスターはバンコマイシン、バンコマイシンおよび3D8で処置するか、または処置を施さなかった。
【図18】クリンダマイシン処置およびその後のC.ディフィシル攻撃後の健康な動物の割合としてハムスター再発アッセイの結果を示すグラフである。クリンダマイシン処置の前に、ハムスターを毒素Bの断片で免疫した。
【図19】C.ディフィシル直接攻撃モデルにおけるハムスターに対する様々な薬剤の投与の予定表の模式図である。「331」はヤギ#331に由来する抗血清を指す。「クリンダ」はクリンダマイシンによる処置を指す。
【図20】直接的C.ディフィシル攻撃を克服するハムスターの割合として直接攻撃アッセイの結果を示すグラフである。
【図21】C.ディフィシルによる直接攻撃後の健康な動物の割合として直接攻撃アッセイの結果を示すグラフである。
【図22】C.ディフィシル毒素Aのアミノ酸配列の表示である。
【図23】C.ディフィシル毒素Bのアミノ酸配列の表示である。
【図24】直接的C.ディフィシル攻撃を克服するハムスターの割合として原発性攻撃アッセイの結果を示すグラフである。
【図25】直接的C.ディフィシル攻撃を克服するハムスターの割合として原発性攻撃アッセイの結果を示すグラフである。
【図26】直接的C.ディフィシル攻撃を克服するハムスターの割合として原発性攻撃アッセイの結果を示すグラフである。
【図27】毒素Bに対するモノクローナル抗体または毒素Bに対するヤギポリクローナル血清の存在下で、毒素Aおよび毒素Bのインビトロ中和を測定したアッセイの結果を示すグラフである。
【図28】クローン124-152によって発現されるVH鎖のアミノ酸配列および核酸配列の表示である。アミノ酸配列および核酸配列の上に、Vセグメント、Dセグメント、およびJセグメント遺伝子を記載する。CDRを上線で示す。
【図29】クローン124-152によって発現されるVL鎖のアミノ酸配列および核酸配列の表示である。アミノ酸配列および核酸配列の上に、Vセグメント遺伝子およびJセグメント遺伝子を記載する。CDRを上線で示す。
【図30】クローン124-152によって発現されるVH鎖のアミノ酸配列および関連する生殖細胞系列配列の表示である。アミノ酸配列の上に、Vセグメント、Dセグメント、およびJセグメント遺伝子を記載する。CDRを上線で示す。
【図31】クローン124-152によって発現されるVL鎖のアミノ酸配列および関連する生殖細胞系列配列の表示である。アミノ酸配列の上に、Vセグメント遺伝子およびJセグメント遺伝子を記載する。CDRを上線で示す。
【図32】エピトープマッピング研究で解析した断片を示す、毒素Bポリペプチドの概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)(C.ディフィシル)の外毒素と特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項2】
C.ディフィシル毒素A(毒素A)と特異的に結合する、請求項1記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項3】
C.ディフィシル毒素B(毒素B)と特異的に結合する、請求項1記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項4】
インビトロで毒素Aを中和する、請求項2記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項5】
インビボで毒素Aを中和する、請求項2記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項6】
インビボでC.ディフィシル媒介性疾患を抑制する、請求項1記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項7】
以下の特徴の1つまたは複数を有する、請求項6記載の抗体またはその抗原結合部分:
対象においてC.ディフィシル媒介性大腸炎を防ぐまたは抑制する;
対象において抗生物質起因性大腸炎を防ぐまたは抑制する;
対象においてC.ディフィシル媒介性偽膜性大腸炎(PMC)を防ぐまたはは抑制する;
対象においてC.ディフィシル媒介性下痢を防ぐまたは抑制する;および
C.ディフィシル媒介性疾患の再発を抑制する。
【請求項8】
毒素AのN末端半分内にあるエピトープに特異的に結合する、請求項2記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項9】
毒素Aのアミノ酸1〜1256の間にあるエピトープに結合する、請求項8記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項10】
毒素BのC末端半分および毒素B受容体ドメインからなる群より選択されるエピトープに特異的に結合する、請求項3記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項11】
毒素B受容体ドメインのアミノ酸1777〜2366の間にあるエピトープに結合する、請求項10記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項12】
毒素AのC末端受容体結合ドメイン内にあるエピトープに特異的に結合する、請求項2記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項13】
毒素Aのアミノ酸1852〜2710の間にあるエピトープに結合する、請求項12記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項14】
毒素Aのアミノ酸659〜1852内のエピトープに結合する、請求項2記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項15】
毒素Aのアミノ酸1〜600、400〜600、または415〜540内のエピトープに特異的に結合する、請求項8記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項16】
毒素Aのアミノ酸900〜1852、900〜1200、または920〜1033内のエピトープに特異的に結合する、請求項14記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項17】
20 x 10-6 M未満のKDで毒素Aと特異的に結合する、請求項2記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項18】
20 x 10-6 M未満のKDで毒素Bと特異的に結合する、請求項3記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項19】
配列番号:1、配列番号:2、または配列番号:3の可変重鎖領域アミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む可変重鎖領域を含む、請求項2記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項20】
配列番号:4、配列番号:5、または配列番号:6の可変軽鎖領域アミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む可変軽鎖領域を含む、請求項2記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項21】
配列番号:54または配列番号:56の可変重鎖領域アミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む可変重鎖領域を含む、請求項3記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項22】
配列番号:58または配列番号:60の可変軽鎖領域アミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む可変軽鎖領域を含む、請求項3記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項23】
配列番号:4、配列番号:5、または配列番号:6の可変軽鎖アミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む可変軽鎖領域をさらに含む、請求項19記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項24】
クローン3D8、1B11、または3H2によって産生される抗体が結合するエピトープと重複するエピトープに特異的に結合する、請求項2記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項25】
クローン124-152、2A11、または1G10によって産生される抗体が結合するエピトープと重複するエピトープに特異的に結合する、請求項3記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項26】
クローン3D8、1B11、または3H2によって産生される抗体と毒素Aに対する結合に関して競合する、請求項24記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項27】
抗体またはその抗原結合部分の可変重鎖領域が、配列番号:7〜15の1つまたは複数と少なくとも80%同一である1つまたは複数の相補性決定領域(CDR)を含む、請求項2記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項28】
抗体またはその抗原結合部分の可変軽鎖領域が、配列番号:16〜24の1つまたは複数と少なくとも80%同一である1つまたは複数のCDRを含む、請求項2記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項29】
抗体またはその抗原結合部分の可変重鎖領域が、配列番号:62、64、および66の1つまたは複数と少なくとも80%同一である1つまたは複数の相補性決定領域(CDR)を含む、請求項3記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項30】
抗体またはその抗原結合部分の可変軽鎖領域が、配列番号:68、70、および72の1つまたは複数と少なくとも80%同一である1つまたは複数のCDRを含む、請求項3記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項31】
抗体またはその抗原結合部分の可変軽鎖領域が、配列番号:16〜24の1つまたは複数と少なくとも80%同一である1つまたは複数のCDRを含む、請求項21記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項32】
可変重鎖領域が、配列番号:10〜15の1つまたは複数の可変重鎖領域のCDRと少なくとも80%同一である3つのCDRを含む、請求項21記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項33】
可変軽鎖領域が、配列番号:16〜18、配列番号:19〜21、または配列番号:22〜24と少なくとも80%同一である3つのCDRを含む、請求項22記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項34】
可変重鎖領域が、配列番号:7〜9、配列番号:10〜12、または配列番号:13〜15と少なくとも80%同一である3つのCDRを含む、請求項23記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項35】
可変軽鎖領域が、配列番号:16〜18、配列番号:19〜21、または配列番号:22〜24と少なくとも80%同一である3つのCDRを含む、請求項26記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項36】
可変軽鎖領域の相補性決定領域1(CDR1)がアミノ酸配列R-A-S-Q-X-X-S-S-X-L-A(配列番号:25)を含み、可変軽鎖領域の相補性決定領域2(CDR2)がアミノ酸配列A-S-X-X-X-S/T(配列番号:26)を含み、かつ可変軽鎖領域の相補性決定領域3(CDR3)がアミノ酸配列Q-Q-X-X-S/N-X-P/S(配列番号:27)を含む(Xは任意のアミノ酸である)、請求項2記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項37】
可変重鎖領域のCDR1がアミノ酸配列Y-G-M-H(配列番号:28)を含み、かつ可変重鎖領域のCDR2がアミノ酸配列I-W-X-X-G-X-X-X-Y-X-X-S-X-X-G(配列番号:29)を含む(Xは任意のアミノ酸である)、請求項2記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項38】
可変軽鎖領域のCDR1がアミノ酸配列R-A-S-Q-X-X-S-S-X-L-A(配列番号:25)を含み、可変軽鎖領域のCDR2がアミノ酸配列A-S-X-X-X-S/T(配列番号:26)を含み、かつ可変軽鎖領域のCDR3がアミノ酸配列Q-Q-X-X-S/N-X-P/S(配列番号:27)を含む、請求項29記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項39】
毒素Aの哺乳動物細胞への結合を阻害する、請求項2記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項40】
全長抗体である、請求項2記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項41】
毒素Bの哺乳動物細胞への結合を阻害する、請求項3記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項42】
全長抗体である、請求項3記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項43】
(a) ヒトVH 3-33遺伝子の産物であるかまたはそれに由来する重鎖可変領域を含む;および
(b) Vκ L19、Vκ L6、およびVκ L15からなる群より選択されるヒトVκ遺伝子の産物であるかまたはそれに由来する軽鎖可変領域を含む;
クロストリジウム・ディフィシル(C.ディフィシル)の外毒素と特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項44】
ハイブリドーマクローン3D8、1B11、または3H2によって産生される抗体の抗原結合部分を含む単離されたポリペプチド。
【請求項45】
(a) ヒトVH 5-51遺伝子の産物であるかまたはそれに由来する重鎖可変領域を含む;および
(b) Vκ A27遺伝子の産物であるかまたはそれに由来する軽鎖可変領域を含む;
クロストリジウム・ディフィシル(C.ディフィシル)の外毒素と特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項46】
ハイブリドーマクローン124-152、2A11、または1G10によって産生される抗体の抗原結合部分を含む単離されたポリペプチド。
【請求項47】
エフェクタードメインを含む、請求項1記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項48】
Fcドメインをを含む、請求項1記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項49】
一本鎖抗体である、請求項1記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項50】
Fab断片である、請求項1記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項51】
薬学的に許容される担体中に請求項1記載の抗体またはその抗原結合部分を含む、薬学的組成物。
【請求項52】
標識をさらに含む、請求項1記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項53】
配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:54、配列番号:56、配列番号:58、または配列番号:60と少なくとも90%同一であるポリペプチドをコードする配列を含む単離された核酸。
【請求項54】
請求項53記載の核酸を含む、発現ベクター。
【請求項55】
請求項53記載の核酸を含む、宿主細胞。
【請求項56】
細菌細胞である、請求項55記載の宿主細胞。
【請求項57】
真核細胞である、請求項55記載の宿主細胞。
【請求項58】
哺乳動物細胞である、請求項55記載の宿主細胞。
【請求項59】
請求項1記載の単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分、およびC.ディフィシル媒介性疾患の治療における使用に関する取扱説明書を含むキット。
【請求項60】
請求項1記載の単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を対象に、C.ディフィシル疾患の症状を抑制するのに有効な量投与する段階を含む、対象のC.ディフィシル疾患を治療する方法。
【請求項61】
対象がヒトである、請求項60記載の方法。
【請求項62】
抗体またはその抗原結合部分が対象に静脈内、筋肉内、または皮下投与される、請求項60記載の方法。
【請求項63】
抗体またはその抗原結合部分が第2の薬剤と併用して投与される、請求項60記載の方法。
【請求項64】
第2の薬剤が第2のヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分である、請求項63記載の方法。
【請求項65】
抗体またはその抗原結合部分がC.ディフィシル毒素Aと特異的に結合し、第2のヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分がC.ディフィシル毒素Bと特異的に結合する、請求項64記載の方法。
【請求項66】
第2の薬剤が抗生物質である、請求項64記載の方法。
【請求項67】
第2の薬剤がバンコマイシンまたはメトロニダゾールである、請求項67記載の方法。
【請求項68】
2つの薬剤が抗生物質と併用して投与される、請求項65記載の方法。
【請求項69】
第2の薬剤がC.ディフィシルワクチンである、請求項64記載の方法。
【請求項70】
C.ディフィシルが抗生物質起因性下痢、C.ディフィシル媒介性偽膜性大腸炎(PMC)、下痢、またはC.ディフィシル媒介性疾患の再発を引き起こす、請求項61記載の方法。
【請求項71】
以下を含む、組成物:
(a) C.ディフィシル毒素Aと特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体;および
(b) C.ディフィシルの毒素Bと特異的に結合する単離された抗体。
【請求項72】
C.ディフィシル毒素Aと特異的に結合する単離された抗体が、3D8、1B11、および3H2からなる群より選択されるヒトモノクローナル抗体である、請求項71記載の組成物。
【請求項73】
C.ディフィシル毒素Bと特異的に結合する単離された抗体が、124-152、2A11、および1G10からなる群より選択されるヒトモノクローナル抗体である、請求項71記載の組成物。
【請求項74】
C.ディフィシル毒素Aと特異的に結合する単離された抗体がヒトモノクローナル抗体3D8であり、C.ディフィシル毒素Bと特異的に結合する単離された抗体がヒトモノクローナル抗体124-152である、請求項71記載の組成物。
【請求項75】
以下を含み、抗体またはその断片が相乗的有効量で存在する、哺乳動物のC.ディフィシル関連疾患または障害の治療に適した組成物:
毒素A結合抗体またはその断片;および
毒素B結合抗体またはその断片。
【請求項76】
C.ディフィシル毒素Aと結合する抗体またはその断片が、3D8、1B11、および3H2からなる群より選択されるヒトモノクローナル抗体である、請求項75記載の組成物。
【請求項77】
C.ディフィシル毒素Bと結合する抗体またはその断片が、124-152、2A11、および1G10からなる群より選択されるヒトモノクローナル抗体である、請求項75記載の組成物。
【請求項78】
治療が達成されるように、哺乳動物に、毒素A結合抗体またはその断片および毒素B結合抗体またはその断片の相乗的有効量を投与する段階を含む、哺乳動物のC.ディフィシル関連疾患または障害を治療する方法。
【請求項79】
C.ディフィシル毒素Aと結合する抗体またはその断片が、3D8、1B11、および3H2からなる群より選択されるヒトモノクローナル抗体である、請求項78記載の方法。
【請求項80】
C.ディフィシル毒素Bと結合する抗体またはその断片が、124-152、2A11、および1G10からなる群より選択されるヒトモノクローナル抗体である、請求項78記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公表番号】特表2007−533330(P2007−533330A)
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527193(P2007−527193)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【国際出願番号】PCT/US2005/003725
【国際公開番号】WO2006/121422
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(500143324)ユニバーシティー オブ マサチューセッツ (4)
【出願人】(506199879)メダレックス インコーポレーティッド (30)
【Fターム(参考)】