説明

クロック再生装置

【課題】伝送効率を悪化させず、バッファのキュー長を監視する必要がないクロック再生装置を提供する。
【解決手段】クロック再生装置は、受信したパケットに含まれるタイムスタンプからクロックを再生するものであり、再生したクロックに基づきカウントを行うカウンタ手段と、受信したパケットに含まれるタイムスタンプと、該パケットを受信したときのカウンタ手段のカウント値との差に基づきクロックを再生する再生手段とを備えており、前記パケットは、遅延を測定するためのパケットである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パケット・ネットワークを経由して接続する2つの装置間においてクロック同期を実現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、図3に示す様に、TDM回線を利用する2つのTDM装置100及び101を、パケット・ネットワーク300により接続する場合、固定データレートの信号と、パケットとの相互変換を行うCES(Circuit Emulation Service)装置200及び201が使用される。
【0003】
TDM装置100とTDM装置101を、直接、TDM回線により接続する場合、例えば、TDM装置101は、TDM回線からクロックを抽出することで、TDM装置100に同期したクロックを得ることができる。しかしながら、図3に示す構成においては、パケット・ネットワーク300を利用しているため、TDM装置100が使用しているクロックを利用可能なCES装置200から受信するパケットに基づき、CES装置201が、TDM装置100の使用クロックに同期したクロックを再生する必要がある。
【0004】
CES装置におけるクロックの再生方式としてタイムスタンプ方式が提案されている(例えば、非特許文献1及び2、参照。)。非特許文献1に記載の方法は、タイムスタンプを送信するため、RTP(Real−time Transport Protocol)ヘッダを、パケット・ヘッダに追加している。また、CES装置が受信するパケットはパケット・ネットワーク300内のキューイング等による遅延を受けるが、許容範囲以上の遅延を受けたパケットに含まれるタイムスタンプをクロック再生に利用すると、再生されるクロックの品質が劣化する。このため、非特許文献2には、バッファに蓄積されたパケットのキュー長を監視して、許容範囲以上の遅延を受けたパケットを廃棄する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】[online]、The Metro Ethernet Forum、[平成21年9月10日検索]、インターネット<URL:HTTP://metroethernetforum.org/MSWord_Documents/MEF8.doc>
【非特許文献2】厩橋 正樹、他、「TDM PWE3における片方向遅延計測法を用いた高精度クロック同期方式の提案」、信学技報 CS2008−28、pp.19〜24、2008年11月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載の構成においては、RTPヘッダを追加するため伝送効率が悪化、つまり、送信する全情報に対するオーバヘッドの割合が増加する。また、非特許文献2に記載の構成においては、バッファのキュー長を監視する回路が必要となる。
【0007】
したがって、本発明は、伝送効率を悪化させず、バッファのキュー長を監視する必要がないクロック再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明におけるクロック再生装置によれば、
受信したパケットに含まれるタイムスタンプからクロックを再生するクロック再生装置であって、再生したクロックに基づきカウントを行うカウンタ手段と、受信したパケットに含まれるタイムスタンプと、該パケットを受信したときのカウンタ手段のカウント値との差に基づきクロックを再生する再生手段とを備えており、前記パケットは、遅延を測定するためのパケットであることを特徴とする。
【0009】
本発明のクロック再生装置における他の実施形態によれば、
受信したパケットに含まれるタイムスタンプと、該パケットを受信したときの前記クロック再生装置がカウントしているタイムスタンプに基づき、該パケットに含まれるタイムスタンプをクロックの再生に利用するか否かを判定する判定手段を備えていることも好ましい。
【0010】
また、本発明のクロック再生装置における他の実施形態によれば、
判定手段は、1未満である第1の閾値と、1より大きい第2の閾値とを有しており、受信した第1のパケットに含まれるタイムスタンプをTX1、第1のパケットを受信したときの前記クロック再生装置がカウントしているタイムスタンプをRX1、第1のパケットの1つ前に受信した第2のパケットに含まれるタイムスタンプをTX2、第2のパケットを受信したときの前記クロック再生装置がカウントしているタイムスタンプをRX2とすると、S=(TX1−TX2)/(RX1−RX2)を計算し、Sが第1の閾値より小さいか、第2の閾値より大きい場合には、第1のパケットに含まれるタイムスタンプをクロックの再生に利用しないと判定することも好ましい。
【0011】
さらに、本発明のクロック再生装置における他の実施形態によれば、
判定手段は、1未満であり第1の閾値より大きい第3の閾値と、1より大きく第2の閾値より小さい第4の閾値を有しており、Sが第1の閾値以上、かつ、第3の閾値より小さい状態が所定数だけ連続した場合、あるいは、Sが第4の閾値より大きく、かつ、第2の閾値以下の状態が所定数だけ連続した場合、判定手段は、第1のパケットに含まれるタイムスタンプをクロックの再生に利用しないと判定することも好ましい。
【0012】
さらに、本発明のクロック再生装置における他の実施形態によれば、
再生手段がクロックの再生に利用した最新のタイムスタンプ及びカウント値を保存する保存手段を備えており、判定手段が、受信したパケットに含まれるタイムスタンプをクロックの再生に利用しないと判定した場合、再生手段は、保存手段が保存しているタイムスタンプ及びカウント値をクロックの再生に利用することも好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によるクロック再生装置を使用すれば、クロック再生のためだけのタイムスタンプ伝送は必要ではなく、伝送効率を悪化させない。また、パケット・バッファの監視回路を設けることなく安定したクロック再生が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明によるクロック再生装置の概略的な構成図である。
【図2】遅延測定パケットのヘッダを示す図である。
【図3】サーキットエミュレーションの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態について、以下では図面を用いて詳細に説明する。本発明によるクロック再生装置は、図3のCES装置201に組み込まれる。また、CES装置200は、TDM装置100が使用するのと同じマスタ・クロックによりカウントされているタイムスタンプを、CES装置201に送信する所定のパケット・ヘッダに挿入し、CES装置201に組み込まれている本発明によるクロック再生装置は、CES装置200からの所定のパケットに含まれるタイムスタンプから、マスタ・クロックに同期したクロックを再生してTDM装置101に供給する。
【0016】
ここで、本発明において、CES装置200は、ITU−T(国際電気通信連合 電気通信標準化部門)Y.1731の勧告に規定された遅延測定パケットによりCES装置201にタイムスタンプを送信する。図2に、遅延測定パケットのヘッダを示す。図2に示す様に、遅延測定パケットには、送信タイムスタンプ・フィールドと、受信タイムスタンプ・フィールドが設けられており、CES装置200は、遅延測定パケットを送信する際に、その時のタイムスタンプを、送信タイムスタンプ・フィールドに設定し、CES装置201は、遅延測定パケットを受信した際に、その時のタイムスタンプを、受信タイムスタンプ・フィールドに設定する。つまり、本発明においては、CES装置200とCES装置201間で保守運用のために送受信している遅延測定パケットのヘッダに含まれるタイムスタンプをクロック再生に流用する。よって、CES装置200から201に送信するパケットに、タイムスタンプのためのヘッダを追加したり、クロック再生のためにパケットを追加で送信したりする必要はなく、伝送効率を悪化させない。
【0017】
図1は、本発明によるクロック再生装置の概略的な構成図である。図1によると、クロック再生装置は、受信部1と、TSカウンタ部2と、判定部3と、カウンタ部4と、再生部5と、保存部6及び7とを備えている。また、再生部5は、減算部51と、制御部52と、VCO(Voltage Controlled Oscillator)部53とを備えている。
【0018】
受信部1は、遅延測定パケットを受信すると、そのときのTSカウンタ部2の値を、図2の受信タイムスタンプ・フィールドに設定して、少なくとも図2に示す送信タイムスタンプ・フィールド及び受信タイムスタンプ・フィールドの値の組を、判定部3に出力する。判定部3は、この組の送信タイムスタンプ・フィールドの値を、クロック再生に利用するか否かを後述する方法より判定し、利用する場合には、送信タイムスタンプ・フィールドの値を再生部5の減算部51と保存部6に出力し、さらに、カウンタ部4にトリガ信号を出力する。保存部6は、判定部3から出力された送信タイムスタンプ・フィールドの値を保存する。
【0019】
カウンタ部4は、再生部5が出力する再生クロックをカウントしており、判定部3からトリガ信号を受信した場合、そのときのカウント値を、再生部5の減算部51と保存部7に出力し、保存部7は、カウンタ部4から出力されたカウント値を保存する。なお、カウンタ部4に入力される再生クロック速度は、CES装置200におけるタイムスタンプをカウントするためのクロック速度と同一である。したがって、減算部51の出力は、パケット・ネットワーク300において、キューイング等による遅延が発生しておらず、かつ、マスタ・クロックと再生クロックが同期している場合には一定値となる。制御部52は、減算部51の出力が一定値となる様に、VCO部53が出力する再生クロックを制御する。なお、この再生クロックは、TSカウンタ部2におけるCES装置201及び本発明によるクロック再生装置のタイムスタンプのカウントにも利用する。
【0020】
一方、判定部3は、受信部1から新たに受信した組の送信タイムスタンプ・フィールドの値をクロック再生に利用しない場合、保存部6及び保存部7にトリガ信号を送信し、保存部6及び7は、保存している過去の送信タイムスタンプ・フィールドの値と、その送信タイムスタンプ・フィールドの値に対応するカウント値を、それぞれ、再生部5の減算部51に出力する。これにより、許容範囲を超えて遅延したパケットを廃棄し、安定したクロックを再生することができる。
【0021】
続いて、判定部3における、送信タイムスタンプ・フィールドの値をクロック再生に利用するか否かの判定方法について説明する。
【0022】
判定部3は、判定対象とする組の送信タイムスタンプ・フィールドの値をTX1、受信タイムスタンプ・フィールドの値をRX1、判定対象の1つ前に受信した組の送信タイムスタンプ・フィールドの値をTX2、受信タイムスタンプ・フィールドの値をRX2とすると、
S=(TX1−TX2)/(RX1−RX2)
を求める。また、判定部3は、閾値A、B、C及びDの4つの閾値を有している。なお、これら閾値の関係は、
0<閾値A<閾値B<1<閾値C<閾値D
である。
【0023】
再生クロックがマスタ・クロックに同期し、パケット・ネットワーク300でのキューイング遅延等が小さい場合、Sは、ほぼ1となる。よって、閾値B≦S≦閾値Cである場合には、クロック再生に利用すると判定する。また、S<閾値Aや、閾値D<Sである場合には、そのずれが大きすぎることから、クロック再生には利用しないと判定する。さらに、閾値A≦S<閾値Bである場合や、閾値C<S≦閾値Bである場合には、キューイング遅延ではなく、再生クロックがマスタ・クロックに同期していないことが原因である可能性があるため、クロック再生に利用すると判定するが、この状態がN回、例えば、5回連続した場合に、その5回目の組以降については、クロック再生には利用できないと判定する。なお、このNについては、再生部5がマスタ・クロックに従属するのに必要な時間間隔に相当する値とする。
【0024】
閾値AからDについては、パケット・ネットワーク300において発生するキューイング遅延の大きさ等のネットワーク特性に基づき判定する。特に、閾値A及び閾値Dについては、CESのジッタ規定であるITU−T G.824に準拠する範囲で定めるものとする。
【0025】
以上、本発明においては、パケット・バッファの監視回路を設けることなく、さらに、伝送効率を悪化させることなく、パケット・ネットワーク300経由で接続している対向装置が使用しているマスタ・クロックに同期した再生クロックを安定して生成することが可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 受信部
2 TSカウンタ部
3 判定部
4 カウンタ部
5 再生部
6、7 保存部
51 減算部
52 制御部
53 VCO部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信したパケットに含まれるタイムスタンプからクロックを再生するクロック再生装置であって、
再生したクロックに基づきカウントを行うカウンタ手段と、
受信したパケットに含まれるタイムスタンプと、該パケットを受信したときのカウンタ手段のカウント値との差に基づきクロックを再生する再生手段と、
を備えており、
前記パケットは、遅延を測定するためのパケットである、
クロック再生装置。
【請求項2】
受信したパケットに含まれるタイムスタンプと、該パケットを受信したときの前記クロック再生装置がカウントしているタイムスタンプに基づき、該パケットに含まれるタイムスタンプをクロックの再生に利用するか否かを判定する判定手段を備えている、
請求項1に記載のクロック再生装置。
【請求項3】
判定手段は、1未満である第1の閾値と、1より大きい第2の閾値とを有しており、
受信した第1のパケットに含まれるタイムスタンプをTX1、第1のパケットを受信したときの前記クロック再生装置がカウントしているタイムスタンプをRX1、第1のパケットの1つ前に受信した第2のパケットに含まれるタイムスタンプをTX2、第2のパケットを受信したときの前記クロック再生装置がカウントしているタイムスタンプをRX2とすると、S=(TX1−TX2)/(RX1−RX2)を計算し、
Sが第1の閾値より小さいか、第2の閾値より大きい場合には、第1のパケットに含まれるタイムスタンプをクロックの再生に利用しないと判定する、
請求項2に記載のクロック再生装置。
【請求項4】
判定手段は、1未満であり第1の閾値より大きい第3の閾値と、1より大きく第2の閾値より小さい第4の閾値を有しており、
Sが第1の閾値以上、かつ、第3の閾値より小さい状態が所定数だけ連続した場合、あるいは、Sが第4の閾値より大きく、かつ、第2の閾値以下の状態が所定数だけ連続した場合、判定手段は、第1のパケットに含まれるタイムスタンプをクロックの再生に利用しないと判定する、
請求項3に記載のクロック再生装置。
【請求項5】
再生手段がクロックの再生に利用した最新のタイムスタンプ及びカウント値を保存する保存手段を備えており、
判定手段が、受信したパケットに含まれるタイムスタンプをクロックの再生に利用しないと判定した場合、再生手段は、保存手段が保存しているタイムスタンプ及びカウント値をクロックの再生に利用する、
請求項1から4のいずれか1項に記載のクロック再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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