説明

クロック抽出装置

【課題】 狭い引き込み範囲のデジタルPLLを使っても、広い範囲の同期引き込み特性を実現すること。
【解決手段】 A/D変換器1は、記録再生機器から読み出されたアナログの再生信号に対して、電圧制御発振器6にて生成されたクロック信号を用いてサンプリングを行い、デジタル再生信号に変換する。位相比較器2はデジタル再生信号の基準点とクロック信号との位相を比較し、位相誤差信号を出力する。記録再生機器の再生速度が変化すると、周波数変動パラメータ設定手段8から再生モード(倍速比)に応じて周波数パラメータが予測演算手段7に与えられる。予測演算手段7はヘッドの走査速度ベクトル、記録媒体の走行速度ベクトル等を用いて、PLLの中心周波数信号を生成して合成手段4に与える。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、デジタル記録再生機器において、ビット同期信号を生成するためのクロック抽出装置に関するものであり、特に狭い引き込み範囲のPLL(phase locked loop)を使っても、広い範囲の引き込み特性を実現する技術に係わるものである。
【0002】
【従来の技術】デジタル記録再生機器の再生信号から、ビット同期信号(クロック信号)を抽出するためにPLLが使用される。このようなPLLは一般的に位相比較器、ループフィルタ、電圧制御発振器(VCO)から構成される。再生信号処理のデジタル信号処理化は急速に進んでおり、特にPRML(パーシャル・レスポンス・マキシマム・ライクリーフッド)の導入により、再生信号を離散時間でのサンプルデータとして扱う必要性が増大している。
【0003】従来、PRMLを使用しないデジタル記録再生機器のクロック信号を抽出するには、そのほとんどがアナログPLLを採用していた。アナログPLLは正確な位相フィッテングが困難で、可制御性に乏しい反面、ループ遅延が小さく、広い周波数引き込み範囲を持つという特徴をもつ。また、PRMLのようにデジタルで再生信号を処理する場合は、クロック抽出に使うPLLもデジタルで実現する必要がある。この場合、正確な位相フィッテイングが可能であり、制御性に優れているものでなければならない。
【0004】PRMLに使用される従来のデジタルPLLについて説明する。図9に従来のクロック抽出装置の構成図を示す。このクロック抽出装置は、アナログ再生信号をクロック信号でサンプリングしてデジタルデータに変換し、デジタル再生信号を出力するアナログ/デジタル変換器(A/D変換器)18と、アナログ/デジタル変換器18から出力されたデジタル再生信号より、位相誤差信号を生成する位相比較器19と、位相比較器19から出力された位相誤差信号のフィルタリングを行うループフィルタ20と、ループフィルタ20の出力するデジタル周波数指令信号をアナログ変換するデジタル/アナログ変換器(D/A変換器)21と、アナログ信号に変換された周波数指令信号を入力し、クロック信号を出力する電圧制御発振器22とで構成されている。
【0005】位相比較器19はサンプリングデータから位相誤差情報を抽出する形式のものであり、周波数検出はできない。ループフィルタ20は、位相誤差信号の比例信号と、位相誤差信号の積算信号との和を演算することによって、デジタルフィルタリングを行う。このループフィルタ20の出力がデジタル周波数指令信号となり、デジタル/アナログ変換器21に与えられる。デジタル/アナログ変換器21はデジタル周波数指令信号をアナログ電圧に変換する。電圧制御発振器22は入力されるアナログ電圧に比例した周波数のクロック信号を発生する。電圧制御発振器22の出力するクロック信号は、アナログ/デジタル変換器18、デジタル/アナログ変換器21のみならず、全てのデジタル回路に与えられる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来のデジタルPLLによるクロック抽出装置においては、アナログ/デジタル変換器18、デジタル/アナログ変換器21、位相比較器19、ループフィルタ20での信号処理に、複数クロック相当の時間が必要となり、その結果、アナログPLLと比較してループ遅延が大きくなるという問題点があった。PLLのループ遅延が大きくなった場合、制御ループが不安定になり、その結果周波数引き込み範囲が狭くなるという問題が生じる。特にデジタル記録再生機器の特殊再生時のように、読み出し信号の周波数が大きく変動した場合、PLLがロックせず、その結果クロック信号が抽出ができなくなるという問題を有していた。
【0007】上記課題について、広い周波数引き込みレンジを必要とするデジタル記録再生機器の例を挙げて更に具体的に説明する。ヘリカルスキャン型のテープ記録再生機器は、光ディスク装置やハードディスク装置に比較して、記憶容量がきわめて大きいデジタル記録再生機器である。しかしこの装置は広い周波数引き込みを必要とする。ヘリカルスキャン型のテープ記録再生機器においては、1倍速再生の他に高速サーチ等の特殊再生が要求される。例えば、高速サーチ再生においては、テープ送り速度が記録時とは異なり、高速で送られることとなる。その結果、ヘッドとテープの相対速度は記録時と異なってしまう。このような状態においてもデータ検出の必要があり、そのため、PLLでクロック信号を抽出する必要がある。高速サーチ時は抽出するクロック信号の周波数が通常時と異なり、クロック信号の抽出に使われるPLLは広い周波数引き込みレンジを必要とする。
【0008】また、ヘリカルスキャン型のテープ記録再生機器には、ほとんどの場合アジマス記録が導入される。このアジマス記録によりPLLに更に広い周波数引き込みレンジが必要となる。アジマス記録とは、隣接トラックをオーバラップさせて記録する方式であり、隣接するトラックで記録するヘッド角度を変えることによって生じるアジマスロスを利用することにより、記録トラックのガードバンドを無くすことができる。通常、対向する2個のヘッドのアジマス角を異なったものにして実現する。ここでは片方のヘッドをAチャンネルとし、もう一方をBチャンネルとする。このアジマス記録を行ったテープに対してサーチ再生を行うと、再生信号の中心周波数がAチャンネルとBチャンネルとで異なってくる。高速サーチによる再生信号の中心周波数のシフト量は、サーチが高速になればなるほど顕著になる。このように広い周波数レンジのPLL引き込みが必要な機器においては、従来型のデジタルPLLでは追従することが極めて困難である。
【0009】本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであって、狭い引き込み範囲のPLLを使っても、広い範囲のクロック信号の引き込み特性を実現することのできるクロック抽出装置を実現することを目的とする。
【0010】
【議題を解決するための手段】この課題を解決するために、本願の請求項1の発明は、記録再生機器の記録媒体から再生信号に同期したクロック信号を抽出するクロック抽出装置であって、前記記録再生機器から読み出されたアナログ再生信号をクロック信号でサンプリングを行い、デジタルデータに変換してデジタル再生信号を出力するアナログ/デジタル変換器と、前記アナログ/デジタル変換器から出力されたデジタル再生信号の基準点と前記クロック信号との位相誤差を検出し、位相誤差信号を生成する位相比較器と、前記位相比較器から出力された位相誤差信号のフィルタリングを行うループフィルタと、前記記録再生機器の再生信号のクロック周波数を変化させる要因に関する情報を設定する周波数変動パラメータ設定手段と、前記周波数変動パラメータ設定手段によって設定した情報を用いてクロック周波数の予測演算を行い、中心周波数信号を出力する予測演算手段と、前記予測演算手段から出力された中心周波数信号と前記ループフィルタからの出力信号と合成し、合成結果を周波数指令信号として出力する合成手段と、前記合成手段によって合成された周波数指令信号をアナログ信号に変換するデジタル/アナログ変換器と、前記デジタル/アナログ変換器によってアナログ信号に変換された周波数指令信号に応じて、前記クロック信号を生成する電圧制御発振器と、を具備することを特徴とするものである。
【0011】本願の請求項2の発明は、請求項1のクロック抽出装置において、前記周波数変動パラメータ設定手段は、シリンダ回転数設定信号とトラック判別信号とを出力するシリンダ制御ブロックと、キャプスタン回転数設定信号を出力するキャプスタン制御ブロックとを有し、前記予測演算手段は、前記トラック判別信号よりアジマス角を判定するアジマス角判別器と、前記シリンダ回転数設定信号より、ヘッド移動速度を演算するヘッド移動速度演算器と、前記キャプスタン回転数設定信号よりテープ送り速度を演算するテープ送り速度演算器と、前記アジマス角、前記ヘッド移動速度、及び前記テープ送り速度に基づいて、中心周波数信号を生成する中心周波数演算器と、を有することを特徴とするものである。
【0012】本願の請求項3の発明は、請求項1のクロック抽出装置において、前記周波数変動パラメータ設定手段は、シリンダ回転数設定信号とトラック判別信号とを出力するシリンダ制御ブロックと、キャプスタン回転数設定信号を出力するキャプスタン制御ブロックとを有し、前記予測演算手段は、前記トラック判別信号よりアジマス角を判定するアジマス角判別器と、前記シリンダ回転数設定信号に対応したヘッド移動速度の演算値を保持するヘッド移動速度演算テーブルと、前記キャプスタン回転数設定信号に対応したテープ送り速度の演算値を保持するテープ送り速度演算テーブルと、前記アジマス角、前記ヘッド移動速度、及び前記テープ送り速度に対応した中心周波数信号の演算値を保持し、これらの入力から中心周波数信号を読み出す中心周波数演算テーブルと、を有することを特徴とするものである。
【0013】
【発明の実施の形態】(実施の形態1)本発明の実施の形態におけるクロック抽出装置について図面を参照しつつ説明する。図1は本実施の形態におけるクロック抽出装置の全体構成図であり、従来例と同一部分は同一の名称を用いる。アナログ/デジタル変換器(A/D変換器)1は、図示しない再生ヘッドから読み出されたアナログ再生信号を入力し、電圧制御発振器6から出力されるクロック信号のタイミングでアナログ再生信号をサンプリングし、デジタルデータに変換してデジタル再生信号を出力する。アナログ再生信号の周波数は高く、アナログ/デジタル変換器1は高速タイプのものが使用される。
【0014】変換されたデジタル再生信号は位相比較器2に入力される。位相比較器2は、デジタル再生信号と電圧制御発振器6から出力されるクロック信号との位相を比較し、位相誤差信号を出力する。この位相比較器2では、サンプリングデータによる位相誤差検出手法を使っている。これは従来のアナログPLLで使用されている形態のものとは異なり、サンプリングポイントと入力波形のゼロクロスポイントとの位相差を位相誤差として出力する。ループフィルタ3は位相誤差信号のフィルタリングを行うもので、位相誤差信号の比例信号と、位相誤差信号の積算信号との和を演算することによってデジタルフィルタリングを行う。
【0015】合成手段4は、ループフィルタ3の出力信号と予測演算手段7から出力されるPLLの中心周波数信号を加算し、周波数指令信号を生成する。デジタル/アナログ変換器(D/A変換器)5は、周波数指令信号をアナログ信号に変換し、アナログ周波数指令信号を生成する。電圧制御発振器6はアナログ周波数指令信号が入力されると、その電圧に基づいた周波数のクロック信号を出力する。ここで生成されたクロック信号は、アナログ/デジタル変換器1、位相比較器2、ループフィルタ3、合成手段4、デジタル/アナログ変換器5に入力され、デジタル信号処理の基準クロック信号として使用される。
【0016】周波数変動パラメータ設定手段8は、PLLの中心周波数の変動要因となるパラメータの設定を行う。予測演算手段7は、周波数変動パラメータ設定手段8より与えられた周波数変動要因のパラメータから、PLLの中心周波数の変動を予測し、予測結果を中心周波数信号として合成手段4に出力する。
【0017】次に実際のデジタル記録再生機器での周波数変動パラメータ設定手段8と予測演算手段7の内容について詳しく説明する。ここではデジタル記録再生機器としてヘリカルスキャン型のテープストレージ機器(DDS)の適用例で説明する。ヘリカルスキャン型のテープストレージ機器では、回転シリンダにテープを巻き付け、回転シリンダに固定したヘッドによって記録再生を行う。図2にヘリカルスキャン型のテープストレージ機器のトラックパターンを示す。ヘッドは回転シリンダに取り付けられており、テープは回転シリンダに巻き付けられた状態で送られる。その結果、記録トラックは図2に示されるようにテープ送り方向に対してある角度を持ってトレースされる。また、ヘッドとしてAチャネルヘッド、Bチャネルヘッドがあり、記録トラックに対して取り付け角度を互いに逆方向に設定している。その結果、磁化パターンは図2に示すように、隣接するトラック間で異なる方向のアジマス角を持つ。
【0018】次に、PLLの中心周波数を変動させる第1のパラメータとして、キャプスタンの回転数について説明する。ヘリカルスキャン型のテープストレージ機器において、通常再生時は記録時と同じ速度でテープを送る。テープを送る制御はキャプスタンモータによって行う。次に高速サーチモードでは、再生時よりも高速にテープを送る。またそのテープ送り速度も多彩であり、2倍速、4倍速、8倍速、16倍速、25倍速、50倍速、100倍速、200倍速などと様々なテープ送り速度のモードが存在する。
【0019】ここで問題となるのは、テープストレージ機器では高速サーチモードにおいてもデータを読まなければならない点である。つまり、少なくとも再生信号のエンベローブが出ている部分では、PLLを再生信号にロックさせ、データを判別しなければならない。ところがテープの送り速度が変われば、ヘッドとテープの相対速度が再生時のヘッドとテープの相対速度と変わった値になる。その結果、再生信号の中心周波数も変化し、PLLの中心周波数も再生時から大幅にずれることとなる。
【0020】図3はテープとヘッドの相対速度の関係を示すベクトル図である。図3(a)に1倍速再生時の速度ベクトルを示す。ここでVs1 がスチル再生時のヘッド速度ベクトル、Vt1 が1倍速再生時のテープ速度ベクトル、Vr1 が1倍速再生時のヘッドとテープの相対速度ベクトル、θ0 がスチル再生時のスチル角である。スチル再生とは、テープ送りを全くせずに、回転シリンダのみを回転させた状態である。図3(b)に2倍速再生モードでの速度ベクトルを示す。ここでVs1 がスチル再生時のヘッド速度ベクトル、Vt2 が2倍速再生時のテープ送り速度ベクトル、Vr2 が2倍速再生時のヘッドテープの相対速度ベクトル、θ0 がスチル再生時のスチル角である。
【0021】ここで1倍速再生時のヘッドテープの相対速度Vr1 は次式で表わせる。
Vr1 =(Vs12+Vt12−2Vt1*Vs1*cosθ0 1/2ここで2倍速再生時(b)のヘッドテープの相対速度Vr2 は次式で表わせる。
Vr2 =(Vs12+Vt22−2Vt2*Vs1*cosθ0 1/2上の式から判るようにテープ送り速度を変化させれば、ヘッドとテープの相対速度が変化する。PLLの中心周波数、つまり再生信号の中心周波数Fcは次式で表される。
Fc=Vr/Wmin上式でWminは最短記録波長とする。テープ送り速度を変化させれば、再生信号の中心周波数も変化し、PLLの中心周波数も再生時からずれることとなる。
【0022】次に、PLLの中心周波数を変動させる第2のパラメータであるシリンダ回転数の要因について説明する。特に20倍を越える高速サーチ動作時には、テープ送り速度が増し、ヘッドとテープの相対速度が1倍速再生時と大きく異なるために、中心周波数の変動も大きくなる。このため、PLLの中心周波数も再生時から大きくずれることとなる。そのうえ回転シリンダの回転によってヘッドがテープとコンタクトする期間において、横切るトラック数が増大し、再生信号のエンベロープが断片的になりすぎ、PLLをかけることが非常に困難になるという問題があった。この問題を解決するために、高速サーチ動作時には回転シリンダの回転速度を上げることによって、ヘッドとテープの相対速度を1倍速再生時のヘッドとテープの相対速度に近づける。
【0023】この動作について図4を使って説明する。図4(a)は図3(a)と同様、1倍速再生モードの速度ベクトルを示したものである。ここでVs1 が1倍速再生時の回転シリンダの速度ベクトルを意味する。またVt1 が1倍速再生時のテープ速度、Vr1 が1倍速再生時のヘッドとテープの相対速度ベクトルである。尚、θ0はスチル再生時のスチル角である。
【0024】図4(b)は高速サーチモードの速度ベクトルを示したものである。ここで、シリンダ回転速度ベクトルVs1 は1倍速再生と同じとする。Vt3 がテープ送り速度ベクトルであり、図3(b)のVt2 よりもかなりテープ送り速度ベクトルは大きい。この速度ベクトルが大きいことはテープ送り速度が速いことを意味する。Vr3 はこのときのヘッドとテープの相対速度ベクトルであり、Vt3 とVs1 の合成ベクトルで表される。図4(b)のVr3 と図4(b)のVr1 とを比較した場合に、そのベクトルの大きさ、つまり相対速度が大きく変化している。この場合PLLの中心周波数が極端に動くという問題がある。
【0025】図4(c)では高速サーチモードにおいて、回転シリンダの回転速度を変化させることによって、ヘッドとテープの相対速度を一定にさせようとしている。高速サーチモードにおいて、図4(c)のテープ送り速度ベクトルVt4 は図4(b)のテープ送り速度ベクトルVt3 と同じである。テープ送り速度ベクトルとシリンダ回転速度ベクトルの合成ベクトルが、ヘッドとテープの相対速度ベクトルとなる。ここではテープの相対速度ベクトルVr4 をVr1 と同じ大きさのベクトルとするために、シリンダ回転速度ベクトルVs4 の大きさを大きく設定している。つまり、回転シリンダの回転速度ベクトルを適当に選ぶことによって、高速サーチモードにおいても、ヘッドとテープの相対速度を1倍速再生モードのPLLの中心周波数に近づけることができる。とはいえ、実際には回転シリンダの回転速度を調整して、高精度にPLLの中心周波数に合わし込むことは困難である。回転シリンダの回転速度設定分解能又は過渡応答を考慮した場合、PLLの中心周波数に近づけることはできるが、最終的にPLLの中心周波数に高精度に合わし込むことは困難である。従って、PLLの中心周波数を変動させる第2の要因として、回転シリンダの回転速度が存在することになる。
【0026】次にPLLの中心周波数を変動させる第3の要因として、アジマス記録について説明する。ヘリカルスキャン型テープストレージ機器ではトラック密度を上げるためアジマス記録が使用されている。記録再生ヘッドはトレース方向に対し直角にヘッドギャップが当たるのが通常であるが、アジマス記録ではトレース方向に対しヘッドギャップの角度を若干傾けている。そして、アジマスの傾ける角度を、隣接する2つのトラックで互いに反対になるように設定する。記録された磁化パターンと再生ヘッドのギャップ角度が同じであれば、全ての周波数において最大出力を得ることができるが、ギャップ角度が異なれば再生信号出力レベルが減衰する。
【0027】再生ギャップと磁化パターンの角度のミスマッチによる信号減衰をアジマス損失という。アジマス記録はこの損失特性を利用することによって、ガードバンドレスの記録を実現している。再生時、目的のトラックをトレースする再生ヘッド幅は、記録トラック幅よりも広く、再生ヘッドギャップの一部は隣接トラックを横切る結果となる。アジマス記録を行っていない場合、隣接トラックを横切ったヘッド幅の成分がそのままクロストーク成分となる。しかしながら、アジマス記録を行なっている場合は、隣接トラックをトレースした部分の再生信号は、アジマス損失によって減衰しているので、クロストーク成分は減衰する。
【0028】アジマス記録を行っていない場合においても、テープヘッド相対速度ベクトルの方向が代わった場合、例えばテープヘッド相対速度の絶対値が同じであるとしても、再生信号の中心周波数は変動する。それは以下の理由からである。図5にアジマス記録を行っていない場合のトラックの磁化パターンを示す。図5(a)に1倍速再生モードで記録ベクトルと同じベクトルでスキャンした場合を示す。図5(b)には、高速サーチモードでスキャンベクトルと記録ベクトルの絶対値は同じだが、スキャン方向が記録時とはずれている場合を示す。スキャン角θsはスキャン方向と磁化パターンとの角度差を表している。図5(b)が、高速サーチモードにおいて、回転シリンダの回転速度を変えてテープヘッド相対速度ベクトルの絶対値を合わせこんだ場合に相当する。
【0029】ここで一定の周波数で記録された磁化パターンを横切る長さの比較を行う。この長さが再生信号の中心周波数と相関関係を持つ。図5(a)に示すように、1倍速再生モードで一定周波数で記録された磁化パターンを横切る長さをLaとする。また図5(b)に示す高速サーチモードで、一定周波数で記録された磁化パターンを横切る長さをLbとする。ここでは、Lb>Laの関係があり、(b)の高速サーチモードでは、(a)の1倍速再生モードより周波数が低くなる。アジマス記録を行っていない場合、スキャン角θs は全トラックに対し一定であるので、再生信号の中心周波数の遷移は全てのトラックにおいて一定の割合である。
【0030】図6にアジマス記録が行なわれた場合のトラックの磁化パターンを示す。図6(a)では、1倍速再生モードで一定周波数で記録された磁化パターンを横切る長さはLaで表される。図6(b)の高速サーチモードでは、一定周波数で記録された磁化パターンを横切る長さは、トラックaでLbであり、トラックbでLcである。ここで図6(a)と(b)とでテープヘッド相対速度は等しいものとする。ここで一定の周波数で記録された磁化パターンを横切る長さの比較を行う。この長さLxが再生信号の中心周波数と相関関係を持つ。図6(b)の高速サーチモードにおいて、片方のトラックを横切る長さをLbとし、隣接するもう一方のトラックを横切る長さをLcとすると、Lc>La>Lbの関係が成立す。つまり、アジマス角によって、中心周波数の変位が一方のアジマス角では高い周波数に遷移し、もう一方のアジマス角では低い周波数に遷移する。以上に説明したようにPLLの中心周波数を変動させる第3の要因としてアジマス角があることが判る。
【0031】以上のように、ヘリカルスキャン型のテープストレージ機器においては、テープ送り速度、回転シリンダの回転速度、アジマス角の3つの要素によってPLLの中心周波数が変化する。少なくともこの3つのパラメータは、周波数変動パラメータである。特にアジマス角は機器に固有のパラメータである。また、テープ送り速度又は回転シリンダの回転速度は動作モードによって異なる。テープ送り速度は2倍速、4倍速、8倍速、16倍速、25倍速、50倍速、100倍速、200倍速等と多彩である。目標トラックと現在のトラックとの差、つまりサーチをする移動量によってサーチモードが変わってくる。例えば近傍であれば2倍速程度の低速サーチモードで、目的のトラックに近づけることを行なう。
【0032】また逆にサーチ移動量が多い場合には、最大の倍速200倍速のサーチをすることとなる。この200倍のサーチにしても、いきなり200倍速を設定するのではなく、2倍速、4倍速、8倍速、16倍速、25倍速、50倍速、100倍速、200倍速というように段階を踏みながら加速を行う。勿論この加速中でも常にデータを読み、アドレスを確認している。目的トラックに近づいてきたなら、減速を行う。この減速も100倍速、50倍速、25倍速、16倍速、8倍速、4倍速、2倍速、1倍速というように、加速とまったく逆のプロセスで減速を行う。
【0033】回転シリンダの回転速度は高速サーチのときに変化させる。テープ送り速度が200倍速ならば、これに対応する回転シリンダの回転速度が予め決められており、100倍速ならば、それに対応した回転シリンダの回転速度が予め決められている。そして低速サーチのときには、回転シリンダの回転速度は1倍速再生と同じ速度で動作させる。
【0034】図1の周波数変動パラメータ設定手段8及び予測演算手段7の第1の例を図7を用いて説明する。アジマス角は機器によって固定であるが、トラックaとトラックbで逆アジマスとなる。予測演算手段7Aはシリンダ制御ブロック9よりトラック判別信号をもらい、アジマス角度判別器11によってトラックaならば+Aj(deg)、トラックbならば−Aj(deg)のアジマス角を設定する。
【0035】またシリンダ制御ブロック9よりシリンダ回転数検出信号が出力され、予測演算手段7Aのヘッド移動速度演算器12でヘッド移動速度が演算される。この場合、シリンダ回転数検出信号より得られるのは、回転シリンダが1回転する度に1パルス出力するFG信号と呼ばれるパルスの周期をカウントした信号である。ヘッド移動速度演算器12では、周期カウント信号とシリンダ直径等の固定パラメータから、ヘッド移動速度を算出する。
【0036】周波数変動パラメータ設定手段8Aのキャプスタン制御ブロック10より、キャプスタン回転数検出信号が予測演算手段7Aのテープ送り速度演算器13に入力され、テープ送り速度が出力される。この場合、キャプスタン回転数検出信号より得られるのは、キャプスタンモータが1回転する度に1パルス出力するFG信号である。
【0037】テープ送り速度演算器13では、FG信号とキャプスタンの直径等の固定パラメータとから、テープ送り速度を算出する。設定された3つのパラメータは中心周波数演算器14に入力される。中心周波数演算器14ではPLLの中心周波数を演算予測し、中心周波数信号を出力する。
【0038】周波数変動パラメータ設定手段8Aの第1例の問題点として、PLLの中心周波数を演算予測する際に、検出系を常時動作させ、リアルタイムにする必要があることが挙げられる。この場合速度検出系のみならず、演算予測系で多くの演算処理を行う必要がある。
【0039】周波数変動パラメータ設定手段8及び予測演算手段7の第2の例を図8を用いて説明する。予測演算手段7Bは、演算処理の簡素化を実現したことである。トラック判別信号は第1の例と同様に周波数変動パラメータ設定手段8Bのシリンダ制御ブロック9より、予測演算手段7のアジマス角度判別器11に入力される。予測演算手段7のヘッド移動速度演算テーブル15には、シリンダ制御ブロック9のシリンダ回転数設定信号が入力される。つまり、シリンダ制御回路の検出系ではなく、設定系のデータを入力するので、過渡応答時のシリンダ回転数とは一致しないが、定常状態でのシリンダ回転数とシリンダ回転数設定信号は一致する。
【0040】ヘッド移動速度演算テーブル15は、シリンダ回転数設定信号からヘッド移動速度に変換するテーブルである。ヘッド移動速度を求める際にシリンダ回転数設定信号を使用したために、ヘッド移動速度演算が簡略される。そのため、テーブル形式のデータを持つだけで、ヘッド移動速度を算出することができる。テープ送り速度もヘッド移動速度と同様、テープ送り速度演算テーブル16にはキャプスタン制御ブロック10のキャプスタン回転数設定信号を入力する。これも、キャプスタン制御ブロックの検出系ではなく、設定系のデータを入力するので、過渡応答時のキャプスタン回転数とは一致しないが、定常状態でのキャプスタン回転数とキャプスタン回転設定信号とは一致する。テープ送り速度を求める際にキャプスタン回転数設定信号を使用したために、テープ送り速度演算が簡略されてる。このようにテーブル形式のデータを持つだけでテープ送り速度を算出することができる。
【0041】次に図8の中心周波数演算テーブル17について説明する。設定系のデータを使用することによって、中心周波数を求める演算量は大幅に削減される。1つの方向のアジマスに対しテープの送り速度が決まれば、そのテープ送り速度に対するヘッド移動速度が決定される。たとえば、2倍速等の低速サーチであれば、回転シリンダの回転速度は1倍速再生の速度と同じである。また200倍速の高速サーチをする場合においても、上記説明のように相対速度を一定にするようなシリンダ回転速度が設定される。つまり、アジマス角と送り速度とが決まれば、回転シリンダの回転速度も決まる。その結果、アジマス角とヘッド移動速度、テープ送り速度から、PLLの中心周波数を算出することができる。この場合、演算に関する組合せが少なく、専用の演算器を持たなくても、アジマス角とサーチモードからなる中心周波数演算テーブル17を持てばよく、演算器を削減することができる。
【0042】以上のように周波数変動パラメータ設定手段8と予測演算手段7によってPLLの中心周波数を予測することができる。この予測周波数をPLLの中心周波数に設定することによって、狭い引き込み範囲のPLLを使っても、広い範囲の引き込み特性を実現することができる
【0043】
【発明の効果】以上のように本発明のクロック抽出装置によれば、狭い引き込み範囲のデジタルPLLを使っても、広い範囲の周波数引き込み特性を実現することができる。特にデジタル記録再生機器に本発明のクロック抽出装置を用いると、テープの高速サーチ時において、位相整合したビット同期信号を生成することができ、データの検索を早くできるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態におけるクロック抽出装置の全体構成図である。
【図2】本実施の形態におけるヘリカルスキャン型ストレージ機器のトラックパターンの説明図である。
【図3】低速サーチモードにおいて、テープとヘッドの相対速度の関係を説明するベクトル図である。
【図4】高速サーチモードにおいて、テープとヘッドの相対速度の関係を説明するベクトル図である。
【図5】アジマス角がない場合の高速サーチモードにおける再生中心周波数の遷移を示す説明図である。
【図6】アジマス記録の高速サーチモードにおける再生中心周波数の遷移を示す説明図である。
【図7】本実施の形態のクロック抽出装置に用いられる周波数変動パラメータ設定手段と、予測演算手段との第1例を説明するためのブロック図である。
【図8】本形態のクロック抽出装置に用いられる周波数変動パラメータ設定手段と、予測演算手段との第2例を説明するためのブロック図である。
【図9】従来のクロック抽出装置の全体構成図である。
【符号の説明】
1 アナログ/デジタル変換器
2 位相比較器
3 ループフィルタ
4 合成手段
5 デジタル/アナログ変換器
6 電圧制御発振器
7,7A,7B 予測演算手段
8,8A,8B 周波数変動パラメータ設定手段
9 シリンダ制御ブロック
10 キャプスタン制御ブロック
11 アジマス角度判別器
12 ヘッド移動速度演算器
13 テープ送り速度演算器
14 中心周波数演算器
15 ヘッド移動速度演算テーブル
16 テープ送り速度演算テーブル
17 中心周波数演算テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】 記録再生機器の記録媒体から再生信号に同期したクロック信号を抽出するクロック抽出装置であって、前記記録再生機器から読み出されたアナログ再生信号をクロック信号でサンプリングを行い、デジタルデータに変換してデジタル再生信号を出力するアナログ/デジタル変換器と、前記アナログ/デジタル変換器から出力されたデジタル再生信号の基準点と前記クロック信号との位相誤差を検出し、位相誤差信号を生成する位相比較器と、前記位相比較器から出力された位相誤差信号のフィルタリングを行うループフィルタと、前記記録再生機器の再生信号のクロック周波数を変化させる要因に関する情報を設定する周波数変動パラメータ設定手段と、前記周波数変動パラメータ設定手段によって設定した情報を用いてクロック周波数の予測演算を行い、中心周波数信号を出力する予測演算手段と、前記予測演算手段から出力された中心周波数信号と前記ループフィルタからの出力信号と合成し、合成結果を周波数指令信号として出力する合成手段と、前記合成手段によって合成された周波数指令信号をアナログ信号に変換するデジタル/アナログ変換器と、前記デジタル/アナログ変換器によってアナログ信号に変換された周波数指令信号に応じて、前記クロック信号を生成する電圧制御発振器と、を具備することを特徴とするクロック抽出装置。
【請求項2】 前記周波数変動パラメータ設定手段は、シリンダ回転数設定信号とトラック判別信号とを出力するシリンダ制御ブロックと、キャプスタン回転数設定信号を出力するキャプスタン制御ブロックとを有し、前記予測演算手段は、前記トラック判別信号よりアジマス角を判定するアジマス角判別器と、前記シリンダ回転数設定信号より、ヘッド移動速度を演算するヘッド移動速度演算器と、前記キャプスタン回転数設定信号よりテープ送り速度を演算するテープ送り速度演算器と、前記アジマス角、前記ヘッド移動速度、及び前記テープ送り速度に基づいて、中心周波数信号を生成する中心周波数演算器と、を有するものであることを特徴とする請求項1記載のクロック抽出装置。
【請求項3】 前記周波数変動パラメータ設定手段は、シリンダ回転数設定信号とトラック判別信号とを出力するシリンダ制御ブロックと、キャプスタン回転数設定信号を出力するキャプスタン制御ブロックとを有し、前記予測演算手段は、前記トラック判別信号よりアジマス角を判定するアジマス角判別器と、前記シリンダ回転数設定信号に対応したヘッド移動速度の演算値を保持するヘッド移動速度演算テーブルと、前記キャプスタン回転数設定信号に対応したテープ送り速度の演算値を保持するテープ送り速度演算テーブルと、前記アジマス角、前記ヘッド移動速度、及び前記テープ送り速度に対応した中心周波数信号の演算値を保持し、これらの入力から中心周波数信号を読み出す中心周波数演算テーブルと、を有するものであることを特徴とする請求項1記載のクロック抽出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図9】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2000−90592(P2000−90592A)
【公開日】平成12年3月31日(2000.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−258040
【出願日】平成10年9月11日(1998.9.11)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】