説明

クロピドグレル及びその誘導体の製造方法

本発明は、クロピドグレル及びその誘導体を製造する方法に関し、より詳しくは、ラセミック2−クロロフェニルグリシンアルキルエステルから酵素を用いた加水分解反応を通じて光学活性体である(S)−2−クロロフェニルグリシンアルキルエステルを製造し、これを中間体として使用して血小板凝集抑制活性を有する(S)−クロピドグレル及びその誘導体を製造する方法に関する。本発明によれば、本発明に従うクロピドグレル及びその誘導体製造方法は、製造工程が単純で、かつ光学分割剤の使用無しで少量の酵素のみを使用することによって生産コストを低減することができ、高光学純度で得られた(S)−2−クロロフェニルグリシンアルキルエステルを中間体として使用することによって、高光学純度を有するクロピドグレル及びその誘導体の量産に適合するだけでなく、製造工程で毒性の強い物質を使用しないので、環境保護にも寄与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロピドグレル及びその誘導体を製造する方法に関し、より詳しくは、ラセミック2−クロロフェニルグリシンアルキルエステルから酵素を用いた加水分解反応を通じて光学活性体である(S)−2−クロロフェニルグリシンアルキルエステルを製造し、これを中間体として使用して血小板凝集抑制活性を有する(S)−クロピドグレル及びその誘導体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロピドグレル(clopidogrel)は、<化1>でRがメチル基である化合物であって、その化学名がメチル−(S)−α−(o−クロロフェニル)−6、7−ジヒドロチエノ[3、2−c]ピリジン−5(4H)−アセテートであり、力強い血小板凝集抑制活性(platelet aggregation inhibitory activity)及び抗血栓活性(anti-thrombotic activity)を表して、脳卒中、血栓、塞栓などの末梢動脈性疾患及び心筋梗塞、狭心症などの冠状動脈性疾患の治療に使用する血管系疾患治療剤である。
【0003】
【化1】

【0004】
クロピドグレルは、2−クロロ、または2−ブロモ形態であるメチル−2−(2−クロロフェニル)アセテートを製造した後、4、5、6、7−テトラヒドロチエノ[3、2、c]ピリジンと反応させてラセミック形態で製造される(米国特許4,529,596、米国特許5,036,156、及び米国特許5,189,170)。しかしながら、クロピドグレルは、右旋性光学活性剤である(S)−光学異性質体のみ治療剤に活用できるので、左旋性の(R)−鏡像異性質体が実質的に含まれないように光学的に純粋に製造しようとする試みが進行された。
【0005】
このような試みのうちの代表的な例として、米国特許4,847,265では、ラセミッククロピドグレルを合成した後に光学分割剤であるカンパスルホン酸で(S)−クロピドグレルのみを選択的に部分立体異性質体塩で形成させた後、再結晶により(R)−光学異性質体が含まれない塩形態で収得し、NaHCOなどの弱塩基として光学分割剤を除去する工程により(S)−クロピドグレルを製造した。
【0006】
米国特許5,204,469では、2−クロロフェニルグリシン、または2−クロロフェニルグリシンメチルエステルを光学分割剤であるカンパスルホン酸、またはタルタリック酸で部分立体異性質体塩で形成させて再結晶により収得した後、2−チエニルエチルパラ−トルエンスルホネートと反応させて下記の<化2>として表示される化合物を製造した後、これをホルムアルデヒドと環化(cyclization)反応を遂行して(S)−クロピドグレルを製造するか、または既存の工程のように2−クロロまたは2−ブロモ形態であるメチル−2−(2−クロロフェニル)アセテートを製造し、2−チエニルエチルパラ−トルエンスルホネートと反応させてラセミック形態の<化2>として表示される化合物を製造した後、カンパスルホン酸またはタルタリック酸で部分立体異性質体塩で形成させて再結晶により収得した後、光学分割剤を除去して(S)−光学異性質体(2)を収得し、これを上記の方法のように、ホルムアルデヒドと環化反応させて(S)−クロピドグレルを製造した。
【0007】
米国特許6,080,875では、2−クロロフェニルグリシンメチルエステルを2,4−ジニトロベンゾイルフェニルグリシンで光学分割した後、NaHCO水溶液で光学分割剤を除去させ、2−チエニルグリシデートナトリウムと反応させて<化2>として表示される化合物を製造した。
【0008】
【化2】

【0009】
これと類似するように、WO98/51689でも2−クロロベンズアルデヒドとシアン化ナトリウムを反応させた後、2−チエニルエチルアミンで<化3>として表示されるアセトニトリル化合物を製造してカンパスルホン酸で光学分割するか、または<化4>として表示されるアセトアミドに転換した後にタルタリック酸に光学分割し、<化2>として表示されるメチルエステル化合物に転換させた後、ホルムアルデヒドで環化して(S)−クロピドグレルを製造した。
【0010】
【化3】

【0011】
【化4】

【0012】
一方、韓国公開特許2007−0068043では、<化5>として表示されるクロピドグレルラセミックカルボキシ酸を製造した後、シンコニンを用いて部分立体異性質体塩に転換した後、酸条件で適切な溶媒に抽出して(S)−クロピドグレルカルボキシ酸を光学分離し、メタノールで反応して(S)−クロピドグレルを製造したし、韓国公開特許2006−0134541では、<化5>として表示されるクロピドグレルラセミックカルボキシ酸を高価の光学分割剤である(1R、2R)−(−)−2−アミノ−1−フェニル−1、3−プロパンジオールのような光学活性アミン誘導体に(S)−クロピドグレルカルボキシ酸を光学分割させた後、メタノールで反応して(S)−クロピドグレルを製造した。
【0013】
【化5】

【0014】
しかしながら、上記の方法は全てクロピドグレルに相応するラセミ体またはその中間体に高価の光学分割剤を使用して光学分割を遂行し、光学分割時間が数日に達する問題点があり、光学分割の初期に収得した部分立体異性体塩の光学純度が充分でないので、製薬学的に要求される充分な光学純度を得るためには、追加に精製しなければならないので、これは歩留りの低下をもたらした。だけでなく、光学分割に使われたカンパスルホン酸の場合、水によく溶ける性質を有することによって、これを反応溶液から回収することが難しくて、やむをえず廃棄しなければならず、シンコニンの場合にも毒性が非常に強くて環境的に不利であるという問題点がある。また、上記開示された方法では、高価の2−チエニルエチルアミン、2−チエニルエチルアルコール、または2−チエニルエチルブロマイドのような試薬を使用して合成した後、反対の形態である(R)−鏡像異性体を廃棄しなければならないので、経済的には勿論、環境的に極めて不利であるということができる。
【0015】
併せて、韓国公開特許2006−0098009でも上記の方法のようにタルタリック酸で光学分割した(S)−2−クロロフェニルグリシンメチルエステルを2−チエニルアセテートと反応させて<化6>として表示される(S)−メチル−2−(2−チエニルアセテートアミド)−2−(2−クロロフェニル)アセテートを製造した後、アミド機能基を還元反応して<化2>として表示される化合物を製造し、ホルムアルデヒドで環化して(S)−クロピドグレルを製造したものであって、光学分割時、上記のような問題点を相変わらず有しており、またアミド機能基を還元させる場合には、メチルエステルもまた還元されて歩留りが格段に低下する問題点がある。
【0016】
【化6】

【0017】
このような問題点を改善するために、(R)−メチル−2−クロロマンデレートスルホン誘導体と2−チエニルエチルアミンとを反応させて上記<化2>の中間体を形成させた後、ホルムアルデヒドで環化反応をするか、または4、5、6、7−テトラヒドロチエノ[3、2−c]ピリジンを用いて<化1>として表示される(S)−クロピドグレルを製造したし(WO99/18110)、N,N’−ビス−4、5、6、7−テトラヒドロチエノ[3、2−c]ピリジルメタンを(R)−メチル−2−ブロモ−2−(2−クロロフェニル)アセテート、または(R)−2−クロロフェニルアセテートスルホン誘導体と反応させて(S)−クロピドグレルを製造したが(WO03/093276)、離脱基であるスルホン酸誘導体、またはハロゲン及び反応の条件によってラセミ化されて光学純度が低下する可能性が大きいので、大量工程では不利であるという短所がある。
【0018】
また、米国特許6,858,734では、2−クロロベンズアルデヒドと2−チエニルエチルアミンとを反応させて<化7>のような化合物を製造した後、ストレッカー触媒を使用して非対称合成を遂行して<化8>と表示される(S)−形態の化合物を製造した後、ホルムアルデヒドで環化を実施し、ニトリルをメチルエステルに転換して(S)−クロピドグレルを製造したが、非対称合成時に毒性の強いシアン酸を使用しなければならず、反応後、光学純度が85%程度に過ぎないという問題点がある。
【0019】
【化7】

【0020】
【化8】

【0021】
ここに、本発明者らは上記の従来技術の問題点を改善するために例の努力した結果、ラセミック2−クロロフェニルグリシンアルキルエステルを水溶液または溶媒を含む水溶液の上で酵素を使用して加水分解反応を通じた光学活性体である(S)−2−クロロフェニルグリシンアルキルエステル化合物を製造した後、製造された(S)−2−クロロフェニルグリシンアルキルエステル化合物を中間体として使用すれば、血小板凝集抑制活性を有する(S)−クロピドグレル及びその誘導体を容易に製造することができるということを確認し、本発明を完成するようになった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の目的は、簡単な製造工程と低廉な費用で光学純度の高い(S)−クロピドグレル及びその誘導体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記の目的を達成するために、本発明は、(a)<化9>として表示されるラセミック−2−クロロフェニルグリシンアルキルエステル化合物を酵素で加水分解反応させて<化10>として表示される光学活性体化合物を製造するステップと、(b)上記製造された<化10>として表示される光学活性体化合物を<化11>として表示される化合物と反応させて<化12>として表示される化合物を製造するステップと、(c)上記製造された<化12>として表示される化合物を酸存在下でホルミル化剤(formylating agent)と環化(cyclization)反応させるステップと、を含む、下記<化1>として表示される(S)−クロピドグレル、その誘導体、またはその塩を製造する方法を提供する。
【0024】
【化1】

【0025】
【化9】

【0026】
【化10】

【0027】
【化11】

【0028】
【化12】

【0029】
上記の化学式で、上記Rは水素、置換または非置換された炭素数1乃至8のアルキル基、置換または非置換された炭素数1乃至8のアルケニル基、ベンジル基または炭素数3乃至6のサイクロアルキル基であり、Xは弗素(F)、塩素(Cl)、ブロム(Br)、及びヨウ素(I)から構成された群から選択されるハロゲン原子、または−OSO(ここで、上記Rは置換または非置換された炭素数1乃至8のアルキル基、置換または非置換されたアリール基、置換または非置換されたアリルアルキル基、置換または非置換されたヘテロアリル基、または置換または非置換されたヘテロアリルアルキル基である)を意味する。
【0030】
本発明の他の特徴及び具現例は次の詳細な説明及び添付の特許請求範囲からより明らかになる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明及び具体的な具現例
本発明は(a)<化9>として表示されるラセミック2−クロロフェニルグリシンアルキルエステル化合物を酵素で加水分解反応させて<化10>として表示される光学活性体化合物を製造するステップと、(b)上記製造された<化10>として表示される光学活性体化合物を<化11>として表示される化合物と反応させて<化12>として表示される化合物を製造するステップと、(c)上記製造された<化12>として表示される化合物を酸存在下でホルミル化剤(formylating agent)と環化(cyclization)反応させるステップと、を含む、<化1>として表示される(S)−クロピドグレル、その誘導体、またはその塩を製造する方法に関するものである。
【0032】
【化1】

【0033】
【化9】

【0034】
【化10】

【0035】
【化11】

【0036】
【化12】

【0037】
上記の化学式で、上記Rは水素、置換または非置換された炭素数1乃至8のアルキル基、置換または非置換された炭素数1乃至8のアルケニル基、ベンジル基、または炭素数3乃至6のサイクロアルキル基であり、Xは弗素(F)、塩素(Cl)、ブロム(Br)、及びヨウ素(I)から構成された群から選択されるハロゲン原子、または−OSO(ここで、上記Rは置換または非置換された炭素数1乃至8のアルキル基、置換または非置換されたアリール基、置換または非置換されたアリルアルキル基、置換または非置換されたヘテロアリル基、または置換または非置換されたヘテロアリルアルキル基である)を意味する。
【0038】
このような、本発明に従う<化1>として表示されるクロピドグレル、その誘導体、またはその塩は、下記<式1>に表示された方法により製造できる。
【式1】
【0039】

【0040】
上記<式1>で、上記RまたはXは前述した通りである。
【0041】
上記<式1>に表れたように、<化9>として表示されるラセミック2−クロロフェニルグリシンアルキルエステル化合物を水溶液または溶媒を含む水溶液の上で加水分解能を有する酵素を使用して加水分解反応を通じた光学活性体である(S)−2−クロロフェニルグリシンアルキルエステル化合物(化10)を製造した後、製造された(S)−2−クロロフェニルグリシンアルキルエステル化合物(化10)を中間体として使用して<化11>として表示される化合物と反応させて<化12>として表示される化合物を製造し、これを環化反応を通じて血小板凝集抑制活性を有する(S)−クロピドグレル、その塩、またはその誘導体(化1)を製造することができる。
【0042】
具体的に、本発明に従う<化1>として表示される(S)−クロピドグレル、その誘導体、またはその塩は、低廉な価格で商業的確保が可能であるとか、低廉な費用で製造が容易な<化9>として表示される2−クロロフェニルグリシンアルキルエステル化合物を出発物質として使用することができる。2−クロロフェニルグリシンアルキルエステル化合物は、水溶液状または溶媒を含有する水溶液状で加水分解酵素またはこれを含む菌株を使用して立体選択的加水分解反応により<化10>として表示される光学活性(S)−2−クロロフェニルグリシンアルキルエステル、または(S)−2−クロロフェニルグリシンを製造することができる。
【0043】
本発明に従う加水分解反応は、pH4〜10及び温度10〜70℃条件で遂行されることを特徴とすることができ、上記pH及び温度範囲を逸脱する場合には酵素の不安定化を誘発したり、副反応を発生させることができる。
【0044】
本発明において、上記酵素は、プロテアーゼ(protease)またはリパーゼ(lipase)のような加水分解酵素を用いることを特徴とすることができ、上記加水分解酵素には、フレーバザイム(flavourzyme)、プロテアーゼA(protease A)、アルカラーゼ(alcalase)、サビナーゼ(savinase)、プロタメックス(protamex)、エスペラーゼ(esperase)、ノボザイム435(novozyme 435、Novozyme社)、エステラーゼ(esterlase)、アシラーゼ(acylase)、及びこれらの混合物などを使用することができるが、これに限定されるのではない。併せて、上記酵素原に上記加水分解酵素を含有する微生物を使用することもできる。このような菌株には、バシラス属菌株(Bacillus sp)、アスペルギルスオリザ(aspergillus orizae)、アスペルギルスニガー(aspergillus niger)、カンジダアンタークティカ(Candida antarctica)、及びこれらの混合物などを例示することができるが、加水分解酵素を含む菌株または微生物であれば、制限無しで使用できる。
【0045】
本発明に従う立体選択的な加水分解反応の後にはアセト酸エチル、メチレンクロライド、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、1、2−ジメトキシエタン、1、2−ジクロロエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、及びこれらの混合物から構成された群から選択される溶媒を用いて高光学純度の(S)−2−クロロフェニルグリシンアルキルエステル、及び(S)−2−クロロフェニルグリシンを抽出して容易に(R)−2−クロロフェニルグリシンアルキルエステル、及び(R)−2−クロロフェニルグリシンから分離できる。
【0046】
前述したような方法により得られた高光学純度の(S)−2−クロロフェニルグリシンアルキルエステル、及び(S)−2−クロロフェニルグリシンは、<式1>の<化11>として表示される2−チエニルエチルスルホン誘導体、または2−チエニルエチルハロゲン誘導体のような化合物と反応させて<化12>として表示される化合物を製造した後、<化12>として表示される化合物を公知の方法により酸存在下でホルミル化剤(formylating agent)を使用して環化(cyclization)反応により目的物質である<化1>として表示される(S)−クロピドグレル誘導体を製造することができる。
本発明において、上記ホルミル化剤(formylating agent)は、ホルムアルデヒド、ホルムアルデヒド水化物及びホルムアルデヒド重合体から構成された群から選択されることができ、酸は塩を製造するためのものであって、硫酸、塩酸、ブロム酸、スルホン酸、ホルム酸、アセト酸のような無機酸または有機酸を使用することができる。
【0047】
本発明に従う(S)−クロピドグレルの塩はそれの固形性または安定性があるか否かに関わらず、ヨーロッパ特許第0,281,459号、または国際特許公開WO2004/074215号に記述されたような通常のクロピドグレルの酸付加塩を意味する。このような塩を形成するために使われた典型的な無機酸は、塩酸、ブロム酸、ヨウ素酸、窒酸、硫酸、燐酸、亜燐酸(hypophosphoric)などを含む。また、脂肪族モノ及びジカルボキシル酸、フェニル−置換されたアルカンオイック酸、ヒドロキシアルカンオイック酸、及びヒドロキシアルカンジオイック酸、芳香族酸、脂肪族及び芳香族スルホン酸のような有機酸から誘導された塩が使用できる。したがって、このような薬学的に許容可能な塩は、アセテート、フェニルアセテート、トリフルオロアセテート、アクリレート、アスコルベート、ベンゾエート、クロロベンゾエート、ジニトロベンゾエート、ヒドロキシベンゾエート、メトキシベンゾエート、メチルベンゾエート、o−アセトキシベンゾエート、ナフタレン−2−ベンゾエート、ブロマイド、イソブチレート、フェニルブチレート、ベータ−ヒドロキシブチレート、クロライド、シンナメート、シトレート、ホルメート、フマレート、グリコレート、ヘプタノエート、ラクテート、マレート、ヒドロキシマレート、マロネート、メシレート、ニトレート、オキサレート、フタレート、ホスフェート、モノヒドロゲンホスフェート、ジヒドロゲンホスフェート、メタホスフェート、パイロホスフェート、プロピオネート、フェニルプロピオネート、サリシレート、サクシネート、スルフェート、ビスルフェート、パイロスルフェート、スルファイト、ビスルファイト、スルホネート、ベンゼンスルホネート、p−ブロモフェニルスルホネート、クロロベンゼンスルホネート、エタンスルホネート、2−ヒドロキシエタンスルホネート、メタンスルホネート、ナフタレン−1−スルホネート、ナフタレン−2−スルホネート、p−トルエンスルホネート、キシレンスルホネート、タルタレートなどを含むことができ、好ましい塩はビスルフェート塩とすることができる。
【0048】
本発明に従う(S)−クロピドグレル、その誘導体、またはその塩を製造する方法は、2−クロロフェニルグリシンアルキルエステルの加水分解反応を通ジて遂行することによって、反応が簡単で、かつ反応後の回収が容易であり、2−クロロフェニルグリシンアルキルエステルの加水分解反応により収得された高光学純度を有する(S)−2−クロロフェニルグリシン、または(S)−2−クロロフェニルグリシンアルキルエステル中間体を用いて高光学純度を有する(S)−クロピドグレル及びその誘導体を製造できるので、従来の製法に比べてより経済的に製造することができる。
【0049】
実施形態
以下、実施形態を通じて本発明をより詳細に説明する。これら実施形態は本発明を例示するためのものであって、本発明の範囲がこれら実施形態により制限されることと解釈されないことは当業界で通常の知識を有する者において自明なことである。
【0050】
実施形態1:ラセミック2−クロロフェニルグリシンアルキルエステルの製造
メタノール500mlにラセミック2−クロロフェニルグリシン100gを入れて、−10℃でチオニルクロライド70mlを徐々に落とした後、50℃で昇温させて4時間の間攪拌した。攪拌後、揮発性物質は減圧濃縮して除去させ、メチレンクロライド1Lと水100mlを入れて希薄させた後、NaOH水溶液で中和させ、NaHCO飽和水溶液500mlを用いて有機層を洗浄した。洗浄された上記混合溶液のメチレンクロライド層を分離させ、MgSOで水分を除去した後、減圧濃縮してラセミック2−クロロフェニルグリシンメチルエステル(1a)104.6g(歩留り:97.3%)を製造した。
【0051】
一方、ラセミック2−クロロフェニルグリシンブチルエステル(1b)はメタノールの代わりにブタノールを使用して上記の条件で反応してラセミック2−クロロフェニルグリシンブチルエステル(1b)124.0g(歩留り:95.2%)を製造した。上記の化合物に対するNMR分析は下記の通りである。
「1a : 1H-NMR(CDCl3, 300MHz)=7.4-7.2(m, 4H), 5.00(s, 1H), 3.72(s, 3H), 1.95(s, 2H)
1b : 1H-NMR(CDCl3, 300MHz)=7.4-7.2(m, 4H), 5.00(s, 1H), 4.13(t, 2H), 1.95(s, 2H), 1.59-1.50(m, 2H), 1.31-1.19(m, 2H), 0.84(t, 3H)」
【0052】
実施形態2:加水分解反応を通じた光学活性(S)−2−クロロフェニルグリシンアルキルエステルの製造
0.1M燐酸緩衝溶液(potassium phosphate buffer、pH7.5)1,000mlが入っている反応器に実施形態1で製造されたラセミック2−クロロフェニルグリシンメチルエステル(1a)200gを入れて、アルカラーゼ2.5L(alcalase 2.5L)酵素10ml(1%、v/v)を添加した後、上記溶液を30℃、250rpmで反応を遂行した。pHを一定に維持するために2N NaOH水溶液で投入して調整した。24時間反応の後、上記溶液にエチルアセテート1,000mlを入れて99%以上の光学純度を有する光学活性(S)−2−クロロフェニルグリシンメチルエステル(2a)を抽出し、MgSOで水分を除去した後、減圧濃縮して光学純度99.8%eeを有する(S)−2−クロロフェニルグリシンメチルエステル(2a)85.6g(歩留り:85.6%、(S)−異性質体対比)を得た。
【0053】
一方、光学活性(S)−2−クロロフェニルグリシンブチルエステル(2b)は、上記の条件でラセミック2−クロロフェニルグリシンメチルエステル(1a)の代わりにラセミック2−クロロフェニルグリシンブチルエステル(1b)を使用して光学純度99.2%eeを有する(S)−2−クロロフェニルグリシンブチルエステル(2b)57.2g(歩留り:57.2%、(S)−異性質体対比)を製造した。上記化合物に対する光学純度は光学活性クラウンエーテル形態であるカイロシル(Chirosil)RCA(+)(150×4.6mm、5μm)キラルコラムが取り付けられた液体クロマトグラフィー(Waters社、モデル1525)を用いて分析したし、NMR分析は下記の通りである。
「1a : 1H-NMR(CDCl3, 300MHz)=7.4-7.2(m, 4H), 5.00(s, 1H), 3.72(s, 3H), 1.95(s, 2H)
1b : 1H-NMR(CDCl3, 300MHz)=7.4-7.2(m, 4H), 5.00(s, 1H), 4.13(t, 2H), 1.95(s, 2H), 1.59-1.50(m, 2H), 1.31-1.19(m, 2H), 0.84(t, 3H)」
【0054】
実施形態3:光学活性(S)−アルキル−α−(2−チエニルエチルアミノ)(2−クロロフェニル)アセテート塩酸塩の製造
実施形態2で製造された(S)−2−クロロフェニルグリシンメチルエステル(2a)100gをアセトニトリル1,000mlに溶かし、炭酸水素カリウム60gと2−チエニルエチルパラトルエンスルホネート156gを入れて、20時間の間還流させた。上記混合物を減圧して揮発性物質を除去し、アセト酸エチルで溶かした後、蒸溜水で有機層を洗浄した。有機層が分離された上記混合物は0℃で濃い塩酸を落として結晶を析出させ、析出された結晶を抽出して真空乾燥させた後、(S)−メチル−α−(2−チエニルエチルアミノ)(2−クロロフェニル)アセテート(3a)塩酸塩125.4g(歩留り:72.3%)を得た。
【0055】
一方、(S)−ブチル−α−(2−チエニルエチルアミノ)(2−クロロフェニル)アセテート(3b)塩酸塩は、上記の条件で(S)−2−クロロフェニルグリシンメチルエステル(2a)の代わりに(S)−2−クロロフェニルグリシンブチルエステル(2b)を使用して(S)−ブチル−α−(2−チエニルエチルアミノ)(2−クロロフェニル)アセテート(3b)塩酸塩88.1g(歩留り:54.8%)で製造した。上記の化合物に対するNMR分析は、下記の通りである。
「3a : 1H-NMR(CDCl3, 300MHz)=7.40-7.32(m, 2H), 7.27-7.21(m, 2H), 7.12(d, 1H), 6.92(dd, 1H), 6.82(d, 1H), 4.93(s, 1H), 3.69(s, 3H), 3.03(t, 2H), 2.96-2.88(m, 1H), 2.82-2.74(m, 1H), 2.18(s, 1H)
3b : 1H-NMR(CDCl3, 300MHz)=7.37-7.33(m, 2H), 7.27-7.21(m, 2H), 7.12(d, 1H), 6.91(dd, 1H), 6.82(d, 1H), 4.91(s, 1H), 4.09(t, 2H), 3.03(t, 2H), 2.96-2.88(m, 1H), 2.83-2.74(m, 1H), 2.35(s, 1H), 1.57-1.48(m, 2H), 1.29-1.19(m, 2H), 0.83(t, 3H)]
【0056】
実施形態4:光学活性(S)−クロピドグレルアルキル誘導体ビスルフェート塩の製造
実施形態3で合成された(S)−メチル−α−(2−チエニルエチルアミノ)(2−クロロフェニル)アセテート(3a)塩酸塩200gに35%のホルムアルデヒド水溶液600mlを入れて、4時間の間還流させた後、上記反応物をアセト酸エチルに希薄した後、NaHCO飽和水溶液で洗浄し、上記反応物で有機層を分離した。分離された上記有機層を減圧濃縮して溶媒を除去した後、アセトンに溶かし、0℃で濃い硫酸を落として結晶を析出させた。析出された上記結晶を濾過して真空乾燥させて光学純度99.5%eeを有する(S)−クロピドグレル(4a)ビスルフェート塩生成物を179.7g(歩留り:83.9%)得た。
【0057】
一方、(S)−クロピドグレルブチルエステル誘導体(4b)のビスルフェート塩は、上記のような条件で(S)−メチル−α−(2−チエニルエチルアミノ)(2−クロロフェニル)アセテート(3a)塩酸塩の代わりに(S)−ブチル−α−(2−チエニルエチルアミノ)(2−クロロフェニル)アセテート(3b)塩酸塩を使用して光学純度99.0%eeを有する(S)−クロピドグレルブチルエステル誘導体(4b)143.4g(歩留り:67.4%)を製造した。上記の化合物に対する光学純度はウルトロンES−OVM(Ultron ES−OVM)(Ovomucoid製品、150×4.6mm、5μm)コラムが取り付けられた液体クロマトグラフィー(Waters社、モデル1525)を用いて分析したし、NMR分析結果は、下記の通りである。
「4a : 1H-NMR(CDCl3, 300MHz)=7.72(dd, 1H), 7.41(dd, 1H), 7.33-7.23(m, 2H), 7.06(d, 1H), 6.67(d, 1H), 4.94(s, 1H), 3.73(s, 3H), 3.80-3.62(dd, 2H), 2.89(s, 4H)
4b : 1H-NMR(CDCl3, 300MHz)=7.72(dd, 1H), 7.40(dd, 1H), 7.29-7.24(m, 2H), 7.06(d, 1H), 6.67(d, 1H), 4.89(s, 1H), 4.13(t, 2H), 3.78-3.60(dd, 2H), 2.89(s, 4H), 1.60-1.50(m, 2H), 1.32-1.19(m, 2H), 0.86(t, 3H)」
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上、詳述したように、本発明によれば、本発明に従うクロピドグレル及びその誘導体製造方法は、製造工程が単純で、かつ光学分割剤の使用無しで少量の酵素のみを使用することによって生産コストを低減することができ、高光学純度で得られた(S)−2−クロロフェニルグリシンアルキルエステルを中間体として使用することによって、高光学純度を有するクロピドグレル及びその誘導体の量産に適合するだけでなく、製造工程で毒性の強い物質を使用しないので、環境保護にも寄与することができる。
【0059】
以上、本発明内容の特定の部分を詳細に記述したところ、当業界の通常の知識を有する者にあって、このような具体的技術は単に好ましい実施様態であるだけであり、これによって本発明の範囲が制限されないことは明らかである。したがって、本発明の実質的な範囲は添付の請求項とそれらの等価物により定義されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次のステップを含む<化1>として表示される(S)−クロピドグレル、その誘導体、またはその塩を製造する方法:
(a)<化9>として表示されるラセミック2−クロロフェニルグリシンアルキルエステル化合物を酵素で加水分解反応させて<化10>として表示される光学活性体化合物を製造するステップと、
(b)前記製造された<化10>として表示される光学活性体化合物を<化11>として表示される化合物と反応させて<化12>として表示される化合物を製造するステップと、
(c)前記製造された<化12>として表示される化合物を酸存在下でホルミル化剤(formylating agent)と環化(cyclization)反応させて<化1>として表示される(S)−クロピドグレル、その誘導体、またはその塩を製造するステップと、
を含むことを特徴とする、クロピドグレル及びその誘導体の製造方法。
【化1】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

前記の化学式で、前記Rは水素、置換または非置換された炭素数1乃至8のアルキル基、置換または非置換された炭素数1乃至8のアルケニル基、ベンジル基、または炭素数3乃至6のサイクロアルキル基であり、Xは弗素(F)、塩素(Cl)、ブロム(Br)、及びヨウ素(I)から構成された群から選択されるハロゲン原子、または−OSO(ここで、前記Rは置換または非置換された炭素数1乃至8のアルキル基、置換または非置換されたアリール基、置換または非置換されたアリルアルキル基、置換または非置換されたヘテロアリール基、または置換または非置換されたヘテロアリルアルキル基である)を意味する。
【請求項2】
前記酵素は、加水分解酵素であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ホルミル化剤(formylating agent)は、ホルムアルデヒド、ホルムアルデヒド水化物、及びホルムアルデヒド重合体から構成された群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記(c)ステップの酸は、有機酸、無機酸、及びこれらの混合物から構成された群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記(a)ステップの加水分解反応は、pH4〜10及び温度10〜70℃条件で遂行されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記(a)ステップは、加水分解反応後に生成される(R)−2−クロロフェニルグリシン、及び(R)−2−クロロフェニルグリシンアルキルエステルを溶媒を使用して分離するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒は、アセト酸エチル、メチレンクロライド、ジエチルエーテル、ジイソプリピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、1、2−ジメトキシエタン、1、2−ジクロロエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、及びこれらの混合物から構成された群から選択されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。

【公表番号】特表2011−522535(P2011−522535A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512392(P2011−512392)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【国際出願番号】PCT/KR2009/003083
【国際公開番号】WO2009/151256
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(510321435)エンジーテック リミテッド (1)
【Fターム(参考)】