説明

クロムめっき方法

【解決手段】3価クロム化合物と6価クロム化合物とを、3価クロムと6価クロムとの合計クロム濃度が60〜140g/Lであり、6価クロム濃度が5〜40g/Lであると共に、6価クロム濃度の割合が合計クロム濃度の5〜35質量%である割合で含み、かつ有機カルボン酸イオンを50〜400g/L含み、鉛イオン濃度が2mg/L以下である酸性の電気クロムめっき浴に被めっき物を浸漬し、陽極として酸化イリジウム含有膜を少なくとも表面に有する陽極を用いて電解することを特徴とするクロムめっき方法。
【効果】本発明によれば、長期に亘り安定して良好なクロムめっき皮膜が得られ、めっき浴の管理も非常に容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3価クロム化合物と6価クロム化合物とを混合使用したクロムめっき方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、クロムめっき浴については、クロム酸(6価クロム化合物)を主体とするめっき浴、3価クロム化合物からなるめっき浴がよく知られている。このうち、クロム酸を主体とするめっき浴が汎用されているが、最近では3価クロム化合物からなるめっき浴が環境の点で使用されるようになってきた。しかし、従来の3価クロム化合物からなるめっき浴は、これに6価クロム(Cr6+)が混入するとめっき不良が生じるという問題がある。
これに対し、3価クロム化合物と6価クロム化合物とを併用したクロムめっき浴(以下、これを折衷クロムめっき浴と称する)も知られている(特許文献1〜4、非特許文献1〜8)。
【0003】
しかしながら、かかる折衷クロムめっき浴を用いためっき方法は、従来、工業的にほとんど実施されていない現状にある。それは、従来の折衷クロムめっき浴を用いたクロムめっき方法においては、比較的初期の段階では良好なめっきが行われるものの、比較的短時間の使用でめっき不良が生じ、安定したクロムめっき操業ができないことによる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭46−40761号公報
【特許文献2】特開昭52−125427号公報
【特許文献3】特開昭59−185794号公報
【特許文献4】特開昭59−223143号公報
【特許文献5】特開平3−260097号公報
【特許文献6】特許第3188361号公報
【特許文献7】特許第3810043号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】江口清一郎,「クロム酸−飽和ジカルボン酸浴における光沢クロムメッキの生成」,金属表面技術,Vol.19,No.11,p.451−456,1968
【非特許文献2】陣屋久、見崎吉成、田辺良美,「電析法による非晶質Crおよび非晶質Cr二元合金の作製」,金属表面技術,Vol.32,No.12,p.631−636,1981
【非特許文献3】江口清一郎、吉田徹,「シュウ酸浴から光沢クロムめっきを得るための組成および条件」,金属表面技術,Vol.33,No.6,p.272−277,1982
【非特許文献4】江口清一郎、森河努、横井昌幸,「シュウ酸浴におけるクロムめっきの浴電圧および被覆力」,金属表面技術,Vol.35,No.2,p.104−108,1984
【非特許文献5】森河努、江口清一郎,「シュウ酸浴からのクロムめっきの硬さ」,金属表面技術,Vol.37,No.7,p.341−345,1986
【非特許文献6】森河努、横井昌幸、江口清一郎、福本幸男,「硫酸クロム(III)−カルボン酸塩浴からのCr−C合金めっき皮膜の作製」,表面技術,Vol.42,No.1,p.95−99,1991
【非特許文献7】森河努、横井昌幸、江口清一郎、福本幸男,「硫酸クロム(III)−シュウ酸アンモニウム浴からの非晶質Cr−C合金めっき」,表面技術,Vol.42,No.1,p.100−104,1991
【非特許文献8】渡邊和夫,「装飾3価クロムめっき技術」,表面技術,Vol.56,No.6,p.320−324,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情を改善したもので、上記折衷クロムめっき浴を用いて長期間に亘り良好なクロムめっきを可能とし、工業的操業に有利なクロムめっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、折衷クロムめっき浴として、3価クロム化合物と6価クロム化合物とを、3価クロムと6価クロムとの合計クロム濃度が60〜140g/Lであり、6価クロム濃度が5〜40g/Lであると共に、6価クロム濃度の割合が合計クロム濃度の5〜35質量%である割合で含み、かつ有機カルボン酸イオンを50〜400g/L含む酸性の電気クロムめっき浴、好ましくは更に硫酸イオンを20〜200g/L含み、pHが1.8〜2.6である電気クロムめっき浴を用いることが良好なめっき皮膜を得る点で有利であることを知見した。
【0008】
しかしながら、従来の折衷クロムめっき浴では、陽極として鉛、鉛合金、カーボン、チタン、チタン上白金等の不溶性陽極を使用していたものであるが、これらの陽極を使用すると陽極において酸素が発生し、この酸素によって3価クロム(Cr3+)が容易に酸化されて6価クロム(Cr6+)になり、めっき浴中の6価クロム濃度が増大して比較的短期間で上記6価クロム濃度の限界を超え、めっき不良が生じるものであった。更に詳述すると、鉛陽極の欠点として、3価クロムイオンを6価クロムイオンに酸化するので、6価クロムイオンを還元し、新液の濃度に戻す必要があり、液管理に手間を要する、鉛や錫がめっき液に溶解し、その溶解イオンはめっきに悪影響を及ぼす、環境上望ましくない鉛スライムが発生するなどの問題がある。また、炭素陽極の欠点として、3価クロムイオンを6価クロムイオンに酸化するので、6価クロムイオンを還元し、新液の濃度に戻す必要があり、同様に液管理に手間を要する。しかも、炭素が酸化や侵食され、細かい固形物が浮遊し、めっき物に付着したり、濾別せねばならないなど、めっき管理に不都合を及ぼす。更に、Pt/Ti陽極の欠点として、3価クロムイオンを6価クロムイオンに酸化するので、6価クロムイオンを還元し、新液の濃度に戻す必要があり、液管理に手間を要する。しかも高価であり、Ptが腐食損失することもあるといった問題がある。
【0009】
そこで検討を行った結果、陽極として少なくとも表面に酸化イリジウム含有膜を有する陽極を使用した場合、同様に陽極において酸素が発生するが、3価クロムの6価クロムへの酸化が抑制されることを知見した。
【0010】
なお、このような酸化イリジウム含有膜を少なくとも表面に有する陽極は、従来より知られており、クロム酸を主体とするめっき浴に対しても(特許文献5:特開平3−260097号公報)、3価クロム化合物からなるめっき浴に対しても(特許文献6,7:特許第3188361号公報、特許第3810043号公報)、上記酸化イリジウム含有膜を有する陽極を使用することが提案されている。しかし、上記折衷クロムめっき浴における陽極としてかかる酸化イリジウム含有膜を有する陽極を使用するという点はなされていない。
上記のように、折衷クロムめっき浴に対して酸化イリジウム含有膜を有する陽極を使用すると、3価クロムの6価クロムへの酸化が抑制され得るものであり、この点でこの陽極は折衷クロムめっき浴に有効であることを見出したが、しばらく電解を継続していくと、意外なことに6価のクロムイオンの増大が認められ、上記6価クロム濃度範囲を超える場合が生じた。
【0011】
このため、この点について更に検討を進めた結果、上記酸化イリジウム含有膜を有する陽極を使用しているにもかかわらず、6価クロム濃度が増大する原因は、該陽極自体ではなく、めっき浴中の鉛イオン濃度によるものであることが判明した。
即ち、めっき浴には、めっき浴原料に由来するなど外部から混入した鉛イオンが含まれるが、薬品補給などによりめっき浴中の鉛イオン濃度が増加し、鉛イオンが2mg/Lを超えると、これが陽極で酸化されて酸化鉛として陽極に付着し、これが電極触媒として機能し、3価クロムイオンを6価クロムイオンに電解酸化させるおそれが生じるものと考えられる。
【0012】
従って、これによって酸化イリジウム本来の性能を発揮させることを阻害するものと推察された。そこで、更なる検討を続け、鉛イオン濃度が浴中2mg/L以下であれば鉛イオンによる上記悪影響は実質的になく、これによって6価クロム濃度を長期に亘って上記最適濃度に維持し、長期間の安定したクロムめっきが可能になることを見出したものである。
【0013】
従って、本発明は下記クロムめっき方法を提供する。
請求項1:
3価クロム化合物と6価クロム化合物とを、3価クロムと6価クロムとの合計クロム濃度が60〜140g/Lであり、6価クロム濃度が5〜40g/Lであると共に、6価クロム濃度の割合が合計クロム濃度の5〜35質量%である割合で含み、かつ有機カルボン酸イオンを50〜400g/L含み、鉛イオン濃度が2mg/L以下である酸性の電気クロムめっき浴に被めっき物を浸漬し、陽極として酸化イリジウム含有膜を少なくとも表面に有する陽極を用いて電解することを特徴とするクロムめっき方法。
請求項2:
3価クロム化合物が、有機カルボン酸クロム、又は硫酸クロムと有機カルボン酸クロム錯体との混合物であって、該混合物における有機カルボン酸クロム錯体の割合が3価クロム濃度として全3価クロム濃度の50質量%以上である請求項1記載のクロムめっき方法。
請求項3:
クロムめっき浴が、更に硫酸イオンを20〜200g/L含み、pHが1.8〜2.6である請求項1又は2記載のクロムめっき方法。
請求項4:
クロムめっき浴がハロゲンフリーである請求項1乃至3のいずれか1項記載のクロムめっき方法。
請求項5:
被めっき物と陽極とが互いに隔膜によって隔離されることなく同一めっき槽内のめっき浴に浸漬された状態でめっきを行うようにした請求項1乃至4のいずれか1項記載のクロムめっき方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、長期に亘り安定して良好なクロムめっき皮膜が得られ、めっき浴の管理も非常に容易である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のクロムめっき方法で用いるクロムめっき浴は、3価クロム化合物と6価クロム化合物とをクロム源とし、更にカルボン酸イオンを含有し、好ましくはこれに安定剤あるいは伝導塩として硫酸イオンを含む酸性の折衷クロムめっき浴である。
【0016】
ここで、3価クロム化合物としては、有機カルボン酸のクロム錯体が好適に用いられる。有機カルボン酸としては、シュウ酸、クエン酸、蟻酸、酢酸、マロン酸、コハク酸、乳酸などが用いられ、シュウ酸、クエン酸、蟻酸、酢酸が好ましく、特にシュウ酸のクロム錯体が好適に用いられる。なお、上記有機カルボン酸のクロム錯体としては、特願2008−294007に記載されているように、例えばクロム酸(CrO3)と上記有機カルボン酸とをこれらを含む水溶液中で混合し、上記有機カルボン酸によりクロム酸を還元して、6価クロムイオンを含まない上記有機カルボン酸の(3価の)クロム錯体としたものが好適である。
【0017】
また、3価クロム化合物として、3価の無機クロム塩も使用し得、特に硫酸クロムが好ましく用いられるが、3価クロム源が硫酸クロム等の無機クロム塩のみの場合、めっき時、水の電解分解による水素発生によって、陰極界面が強アルカリ性になり、硫酸クロムは加水分解され、水酸化クロムや塩基性硫酸クロムが生成され、実用に耐えるめっきができないおそれがある。
【0018】
一方、有機カルボン酸は3価クロムイオンを錯化し、3価クロムイオンの加水分解を防止、緩衝し、更に有機カルボン酸はめっき浴pHの緩衝剤として作用するため、硫酸クロム等の無機クロム塩を用いる場合は、有機カルボン酸のクロム錯体と併用することが好ましい。
【0019】
ここで、全3価クロム濃度は55〜135g/L、特に72〜112g/Lであることが好ましく、また有機カルボン酸のクロム錯体の割合は、3価クロム金属分が全3価クロム金属分に対して質量比で0.5〜1、特に0.6〜1が望ましく、残部が上記無機クロム塩である。この場合、3価クロム源として有機カルボン酸クロム錯体と硫酸クロムを併用することで、建浴直後のめっき膜厚が有機カルボン酸クロム錯体のみの場合と比較すると20%程度厚く付くことから、有機カルボン酸クロム錯体と硫酸クロムを併用することが好ましく、このように併用する場合、有機カルボン酸クロム錯体の3価クロム金属分:硫酸クロムの3価クロム金属分を5:5〜10:0、特に6:4〜10:0(質量比)とすることが望ましい。
【0020】
一方、6価クロム化合物としては、クロム酸(CrO3)、重クロム酸等やこれらの塩が好適に用いられる。6価クロム化合物の配合量としては、6価クロム濃度として5〜40g/L、好ましくは7〜20g/Lであり、この範囲において良好なクロムめっき皮膜が得られる。6価クロム濃度の上記範囲より少なくても多くてもめっき外観不良や外観の不均一が生じる。
【0021】
ここで、全クロム濃度(3価クロム濃度と6価クロム濃度の合計)は60〜140g/Lであり、80〜120g/Lであることが好ましい。この範囲で良好なクロムめっき皮膜が得られるが、上記範囲外ではめっき外観不良や外観の不均一が生じる。
【0022】
またこの場合、6価クロム濃度の割合は全クロム濃度の5〜35質量%であり、好ましくは10〜25質量%である。
【0023】
この割合の範囲において良好なクロムめっきが達成されるが、上記範囲より少なくても多くてもめっき外観不良が生じるおそれがある。
【0024】
本発明のクロムめっき浴は、有機カルボン酸イオンを50〜400g/L、特に100〜300g/L含有する。有機カルボン酸源としては、シュウ酸、クエン酸、蟻酸、酢酸、マロン酸、コハク酸、乳酸などが挙げられ、特にシュウ酸、クエン酸、蟻酸、酢酸イオンが好ましい。上記有機カルボン酸イオンは、上記3価クロムの有機カルボン酸錯体を形成するもので、その量が50g/L未満の場合、有機カルボン酸のクロム錯体が不足し、めっき外観不良や外観の不均一が生じる。一方、400g/Lを超える場合、3価クロムを錯化しすぎることで3価のクロムイオンが遊離しにくくなり、めっき焼けなどの外観不良が生じる。なお、めっき浴中で3価クロムイオンが陽極酸化されて6価クロムイオンが生成し、6価クロム濃度の適正範囲を超えた場合、上記有機カルボン酸を添加することで6価クロムイオンを還元し、適正範囲に戻すことができる。
【0025】
本発明のクロムめっき浴には、更に安定剤あるいは伝導塩として硫酸イオンを20〜200g/L、特に30〜150g/L含有していることが好ましい。この場合、硫酸イオン源としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウムなどが挙げられ、好ましくは硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウムであり、上記硫酸イオン濃度が少なすぎると、めっき電圧が上がるおそれが生じ、多すぎると、わずかではあるがめっき膜厚が低下するおそれが生じる。
【0026】
本発明のクロムめっき浴には、更に必要によりめっき表面に付着した気泡を除去するためのピット防止剤等を添加することができる。
【0027】
なお、本発明のクロムめっき浴は、不純物としてのハロゲン以外は含有しないことが好ましく、ハロゲン化物を含有しないものである。ハロゲン化物が含まれると、発生するハロゲンガスの臭気が強く、実用的ではない、めっき外観不良が生じる、ハロゲンガスが溶解し、生成した化合物によりクロムめっきやめっき素材の腐食が生じる、ハロゲンイオンによるめっき素材の腐食が生じる等の問題が生じるおそれがある。
【0028】
また、本発明のクロムめっき浴は、本質的に鉛フリーであることが必要である。この場合、鉛イオンとしては、2mg/L以下であれば許容し得るが、少ないほどよい。即ち、上述したように、めっき浴には、めっき浴原料由来及び外部から混入した鉛イオンが含まれるが、これが2mg/Lを超えると陽極で酸化され、酸化鉛として、陽極に付着し、電極触媒として機能し、3価クロムイオンを6価クロムイオンに電解酸化させるおそれがあり、後述する酸化イリジウム含有陽極本来の性能が発揮できない。これに対し、鉛イオンを2mg/L以下とすることにより、金属への置換反応や電解で鉛イオンを低減化し、酸化イリジウム含有電極本来の性能(100%酸素発生反応)を発揮させることができる。
【0029】
なお、このように鉛イオンを2mg/L以下に抑える方法としては、めっき浴原料由来の鉛イオンを極力排除することが望ましく、高純度の原料を使用するか、これが困難な場合は公知の鉛除去法、例えばイオン交換樹脂やキレート樹脂を用いて鉛を除去する方法、電解により鉛を除去する方法、鉄、ニッケル、コバルト、銅金属などをめっき浴に浸漬し、置換析出により鉛を除去する方法などを採用し得る。
【0030】
本発明のクロムめっき浴は、酸性であり、pHが1.8〜2.6、特に2.0〜2.3であることが好ましい。なお、pH調整剤としてはpHを上げる場合はアンモニアや水酸化物(NaOH、KOH、水酸化クロムなど)を使用することができ、pHを下げる場合は硫酸を使用することができる。
【0031】
本発明の上記クロムめっき浴を用いたクロムめっき方法は、被めっき物(陰極)と陽極をクロムめっき浴に浸漬し、所用の電流密度で電解を行うという通常の方法が採用されるが、本発明においては、少なくとも表面に酸化イリジウム含有膜を有する陽極を使用する。
【0032】
この場合、かかる電極としては、チタン、タンタル、ジルコニウム、ニオブ又はこれらの合金等の所用の陽極形状に応じた基板の表面に酸化イリジウム単独膜、又は酸化イリジウムとTa、Si、Mo、Ti、Zr、Wなどの酸化物、その他の酸化イリジウムの耐食性向上を目的とした酸化物とを混合した複合膜を塗布、形成したものが好適に用いられる。この場合、酸化錫、酸化鉛等の6価クロムめっき液中で3価クロムの陽極酸化を目的としたものは使用しない。なお、上記複合膜の場合、酸化イリジウムの含有量は20〜95質量%、特に30〜90質量%とすることが酸化イリジウムの性能を発揮させる点で好ましい。また、上記酸化イリジウム単独膜又は酸化イリジウム含有複合膜の塗布量は、イリジウム金属に換算して0.2〜1g/dm2、特に0.2〜0.6g/dm2であることが好ましい。
【0033】
このように、酸化イリジウム含有陽極を用いることにより、陽極においてほぼ100%の酸素発生が可能となり、めっき液成分の陽極酸化や陽極反応が起こらないものである。これは、酸化イリジウム含有陽極は、酸素発生過電圧が低いことから、酸素発生の触媒作用が大きい、陽極反応としては、酸素発生がほぼ100%となる、陽極において3価クロムイオンの6価クロムイオンへの酸化がほとんど起こらない、陽極において有機酸の酸化分解も起こりにくいという効果を与えるものである。なお、鉛、炭素、白金めっき陽極では、酸素発生、3価クロムイオンの酸化、有機酸の酸化分解が全部起こる。これらの陽極では、3価クロムイオンの陽極酸化は電解量に比例して起こる。ついには、3価クロムイオンの全部が6価クロムイオンになるものである。
【0034】
更に、上記酸化イリジウム含有陽極を用いることで、6価クロムが生成しにくく、有機酸の酸化分解しにくい、めっき液の長寿命化(長期安定)、めっき管理容易、酸化イリジウムを陽極として使用すると、6価クロムの生成がほとんどなくなり、この折衷浴における6価クロムの適正範囲に収まる、6価と3価の折衷めっき浴であるため、6価クロムの濃度範囲も広く、めっき管理が容易であるという効果を与えることができる。
【0035】
上記クロムめっき浴及び酸化イリジウム含有陽極を用いたクロムめっきの条件としては、めっき温度35〜60℃、特に40〜50℃が好ましく、陰極電流密度は5〜15A/dm2、特に6〜12A/dm2であることが好ましい。なお、めっきの種類としては、ラックめっきのほか、電流中断があるバレルめっきに適用することができる。また、陽極電流密度は3〜20A/dm2、特に5〜14A/dm2とすることが好ましい。液撹拌、液濾過は液温ばらつきを防止するめっき液の緩い撹拌を兼ねて連続液濾過を行うことが好ましい。めっき時間は、要求するめっき膜厚に応じて選定され、めっき時間を長くして厚付けすることが可能である。なお、陰極電流効率は通常5〜20%である。
【0036】
本発明のめっき方法において、イオン交換膜等の隔膜は不要である。隔膜を使用すれば、めっき操作や管理が面倒になるので、実用的なめっきには望ましくない。酸化イリジウム含有陽極を使用することで、6価クロムの生成や有機酸の陽極分解が抑制され、めっき浴管理が容易になり、隔膜は使用しなくても良くなったものである。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されることはない。
【0038】
[実施例1]
下記クロムめっき浴を調製した。
<クロムめっき浴組成>
シュウ酸クロム Cr3+として78g/L
硫酸アンモニウム 120g/L
クロム酸 20g/L
pH 2.2
上記クロムめっき浴中の3価クロムイオン、6価クロムイオン、シュウ酸イオン、硫酸イオンは以下の通りである。なお、Pb分は1mg/Lとした。
3価クロムイオン 78g/L
6価クロムイオン 10g/L
シュウ酸イオン 248g/L(シュウ酸・2水塩に換算して)
硫酸イオン 87g/L
【0039】
陽極として、チタン板に酸化タンタルを金属換算で30モル%の割合で混合した酸化イリジウムをイリジウム金属に換算して0.5g/dm2の割合で塗布した酸化イリジウム複合陽極を使用し、被めっき物(陰極)として電気ニッケルまで施した樹脂めっきを用い、めっき液ポリプロピレン製フィルターを装着した濾過器で濾過循環しながら、陰極電流密度10A/dm2、陽極電流密度6A/dm2の条件で10分間クロムめっきを行った。
その結果、良好な外観を有し、耐食性の優れるクロムめっき皮膜が得られた。なお、その平均膜厚は0.5μmであった。
また、陽極性能については、100AH/Lまで電解を行い、表1に示す陽極電流効率の結果を得た。この場合、100AH/Lまでの電解で6価クロム濃度は上昇したが、その電流効率は7%であり、シュウ酸の陽極分解の効率は1%であった。これからその残りを酸素発生の効率とし、92%の酸素発生電流効率を得た。
【0040】
[比較例1]
実施例1において、陽極として酸化イリジウム複合陽極の代りに鉛陽極を使用した以外は実施例1と同様にしてクロムめっきを行った。
得られたクロムめっき皮膜は、同様に良好な外観を有しているものであった。
実施例1と同様にして陽極性能を評価した結果を表1に示すが、6価クロム生成効率は40%、シュウ酸分解効率は10%、酸素発生効率は50%であった。実施例1と比較すると、6価クロム生成効率が高い上に、シュウ酸の分解効率も大きく、6価クロム濃度を下げるために多くのシュウ酸を要し、めっき液管理が頻繁になり、煩雑となる。
なお、鉛陽極の代りにPt−Ti陽極や炭素陽極を用いてもほぼ同じ陽極電流効率であった。
【0041】
[実施例2]
実施例2では6価クロムを20g/L、Pb濃度を2mg/Lとした以外は実施例1と同様にクロムめっきを行った。得られたクロムめっき皮膜は実施例1と同様に良好な外観を有していた。
【0042】
[実施例3]
実施例1の複合陽極を単体の酸化イリジウム陽極とした以外は実施例1と同様にクロムめっきを行った。得られたクロムめっき皮膜の外観は良好であった。
【0043】
[実施例4]
実施例1のシュウ酸クロムの代りにクエン酸クロムを用いた以外は実施例1と同様にクロムめっきを行った。得られたクロムめっき皮膜の外観は実施例1と同様に良好であった。
【0044】
[実施例5]
実施例1のめっき浴に硫酸クロムをCr3+濃度で5g/L添加した以外は実施例1と同様にクロムめっきを行った。得られたクロムめっき皮膜の外観は実施例1と同様に良好であった。更に、実施例1と比較してめっき平均膜厚は1.2倍であった。
【0045】
[比較例2]
実施例1でPbイオンを10mg/Lとした以外は実施例1と同様にクロムめっきを行った。得られためっき皮膜は、Pbイオンに由来すると考えられる外観不良が見られた。
【0046】
[比較例3]
実施例1で6価クロムを2g/Lとした以外は実施例1と同様にクロムめっきを行った。6価クロム濃度が管理範囲下限以下であり、めっき不良が発生した。
【0047】
[比較例4]
実施例1で6価クロムを50g/Lとした以外は実施例1と同様にクロムめっきを行った。6価クロム濃度が管理範囲上限以上であり、めっき不良が発生した。
【0048】
また、上記実施例2〜5、比較例2〜4の陽極性能を実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

※ クロム析出における当量は3電子反応では、17.3である。即ち、1F=26.8AHで17.3gのクロムが析出する。電流効率が7%では1.21gのクロムが析出し、AH当たりでは1.21gクロム/26.8AH=0.045gクロムとなる。従って、100AH/Lの電解では6価クロム濃度が4.5g/L上昇する。
【0050】
200時間めっき後(100AH/L電解後)のめっき浴中の組成変化及び皮膜外観を評価した。上記の実施例1〜3及び比較例1〜4のめっき浴とめっき条件で200時間めっき(100AH/L電解)処理を行い、それぞれのめっき浴組成変化と皮膜外観を表2に示す。
【0051】
【表2】

※ 0.5A/Lで200時間の電解で100AH/Lとなる。比較例3では、6価クロム5g/L以上が良好であるので、初めは2g/Lで外観不良だが、めっき後6価クロム濃度が6.5g/Lとなり、良好な外観となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価クロム化合物と6価クロム化合物とを、3価クロムと6価クロムとの合計クロム濃度が60〜140g/Lであり、6価クロム濃度が5〜40g/Lであると共に、6価クロム濃度の割合が合計クロム濃度の5〜35質量%である割合で含み、かつ有機カルボン酸イオンを50〜400g/L含み、鉛イオン濃度が2mg/L以下である酸性の電気クロムめっき浴に被めっき物を浸漬し、陽極として酸化イリジウム含有膜を少なくとも表面に有する陽極を用いて電解することを特徴とするクロムめっき方法。
【請求項2】
3価クロム化合物が、有機カルボン酸クロム、又は硫酸クロムと有機カルボン酸クロム錯体との混合物であって、該混合物における有機カルボン酸クロム錯体の割合が3価クロム濃度として全3価クロム濃度の50質量%以上である請求項1記載のクロムめっき方法。
【請求項3】
クロムめっき浴が、更に硫酸イオンを20〜200g/L含み、pHが1.8〜2.6である請求項1又は2記載のクロムめっき方法。
【請求項4】
クロムめっき浴がハロゲンフリーである請求項1乃至3のいずれか1項記載のクロムめっき方法。
【請求項5】
被めっき物と陽極とが互いに隔膜によって隔離されることなく同一めっき槽内のめっき浴に浸漬された状態でめっきを行うようにした請求項1乃至4のいずれか1項記載のクロムめっき方法。

【公開番号】特開2011−140700(P2011−140700A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2712(P2010−2712)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000189327)上村工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】