説明

クロレラ属の新規株

【課題】 暗培養において、増殖能力及びクロロフィル含有量が高いクロレラ属の自然変異株を提供する。
【解決手段】暗培養下において、増殖能力及びクロロフィル含有量が高いクロレラ属の株であって、M15、M19、M34、M46及びM3からなる群から選ばれる、クロレラ属の自然変異株。これらの株は室温付近において、約3日間程度の培養期間で約20倍以上の増殖率を示し、全クロロフィル含有量が乾燥重量で約30mg/g以上である。さらに、全て自然変異株であるため、強制的に変異をおこさせたものと異なり、安全性が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康食品等に利用することができるクロレラ属の株に関する。より詳しくは、暗培養において、増殖能力およびクロロフィル含有量が高いクロレラ属の自然変異株に関する。
【背景技術】
【0002】
クロレラ属は、単細胞で緑藻に分類され、河川、湖沼、水たまりなどに広く分布している。大きさは、種や発育段階によって異なるが、3〜10ミクロン程度で球形をしており、光学顕微鏡で観察できる。
【0003】
クロレラには、葉緑素(クロロフィル)、蛋白質、ビタミン、ミネラル、食物繊維等がバランス良く含まれており、健康食品として古くから愛用されてきた。その中でも、特にクロロフィルは、クロレラの重要成分とされ、健康の維持・増進に有効であると考えられており、健康食品の分野においてはクロロフィル含有量の高いクロレラが望まれてきた。
【0004】
また、クロレラに関してはこれまで、動物成長促進効果、乳酸菌成長促進効果、放射線照射などによる白血球減少防止効果、創傷治癒効果、解毒作用、食品の整味作用等の生理活性が報告されている。このような効果を生じさせる生理活性物質の本体がなにであるかは、未だ解明されていない。しかし、クロレラに含まれるクロロフィルが抗酸化作用、抗変異原性作用等を有することが報告されており、上記の生理活性にもクロロフィルが関与している可能性は高く、健康食品以外の分野でもクロロフィル含有量が高いクロレラの需要がある。
【0005】
自然界のクロレラは、独立栄養性で光合成を行って増殖する。しかし、産業としてクロレラを増殖する場合、日光照射による独立培養では、天候、季節による日光照射量の変動が大きいという問題や、微生物等の汚染を受けやすいという問題がある。このため産業界においては、クロレラをタンク内に入れて外界と遮断し、グルコース等を炭素源とする従属栄養で培養する方法が望まれている。しかし、暗所で従属栄養により増殖したクロレラは、日光照射で独立栄養により増殖したクロレラに比べ、クロロフィルの含有率が少なく緑色が退色するという問題があった。このため、暗培養でもクロロフィルの含有率が高いクロレラ属の株が求められていた。
【0006】
この問題を解決するものとして、有機物を炭素源とする従属栄養的培養にて増殖能を有し、全クロロフィル含有量が乾重量にて3%以上である高クロロフィル含有性クロレラsp.RK−7111が開示されている(特許文献1)。また、有機物を炭素源とする培地で従属栄養培養されたとき、乾燥藻体に対してクロロフィル含量が35mg/g以上、総カロチノイド含量が5.0mg/g以上である高クロロフィル及び高カロチノイド含有性のクロレラ属変異株が開示されている(特許文献2)。
【0007】
【特許文献1】特開平7−255463号公報 高クロロフィル含有性クロレラ属変異株
【特許文献2】特開平11−75823号公報 高クロロフィル及び高カロチノイド含有性のクロレラ属変異株
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前記公開公報に記載されているクロレラ属変異株は化学処理、物理処理を施して、人工的に変異をおこさせている株である。従って、なんらかの部分で多発変異を起こしている可能性があり、有害性を含む危険性がある。クロレラは食品としても摂取されるものであるため、より安全性が高いことが好ましく、強制的に変異を起こさせた株よりも自然変異株が望まれる。すなわち、クロレラは比較的安定していて、変異しにくいとされているので、自然変異のものを長時間かけてスクリーニングした自然変異株であれば、変異はポイントミューテーション的であり、他の部分については親株と変化が少なく、安全性が高いと考えられる。また、継続的なタンク培養を行った場合、人工変異株は再び元の性質に戻るなどの変異を起こしやすいが、自然変異株は安定性があるという利点がある。
【0009】
また、特許文献2に記載されているクロレラ属変異株は、最適な培養温度が36℃とされているが、産業化するためには、より室温に近い温度で培養できる株の方が経済的である。
これに対し、特許文献1に記載されているクロレラ属変異株は、より室温に近い温度である30℃で培養されているが、培養に5日間を費やしている。産業化するためには、より短い期間で培養できる株のほうが好ましい。そのため、室温に近い温度で、より短期間内に増殖できる、増殖能力の優れたクロレラ属の株が求められていた。
【0010】
本発明は、上記従来技術の問題点を考慮してなされたものであり、暗培養において、増殖能力及びクロロフィル含有量が高いクロレラ属の自然変異株を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、暗培養下において、増殖能力及びクロロフィル含有量が高いクロレラ属の自然変異株を単離することに成功し、本発明を完成した。
【0012】
本発明者らは、野外から採取してきたクロレラを長時間かけてスクリーニングした結果、暗培養で増殖する42株のクロレラ属の微細藻を得ることに成功した。その後さらに研究を続け、この42株の中から、暗培養下において、増殖能力及びクロロフィル含有量が高いクロレラ属の自然変異株を5株分離し、これらをM 15株(受託番号:FERM P-20034)、M 19株(受託番号:FERM P-20033)、M 34株(受託番号:FERM P-20066)、M 46株(受託番号:FERM P-20067)およびM 3株(受託番号:FERM P-20035)と命名した。これらの株は暗培養下において、30℃、3日間で細胞増殖量がプラトーに到達する。また、前記培養下におけるクロロフィル含有量を測定した結果、全クロロフィル含有量が乾燥重量で30mg/g以上と高い値を示した。さらに、全て自然変異株であるため、強制的に変異をおこさせたものと異なり、安全性が高く、健康食品等として利用するのに極めて適している。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したことから明らかなように、本発明にかかるクロレラ属の新規株は、安全性の高い自然変異株であって、暗培養下において優れた増殖能力を有し、且つ前記培養下においてクロロフィルを高含有量で有することができる。従って、タンク内で安全に大量生産することができ、且つ日光の照射がなくても高いクロロフィル含有量を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
暗培養とは、日光照射を利用せず、有機化合物を炭素源およびエネルギー源として培養を行う、従属栄養的培養を意味する。
【0015】
本発明において、「増殖能力が高い」とは、約30℃において、約3日間程度の培養期間で約10倍以上の増殖率を示すこと、より好ましくは約15倍以上、さらに好ましくは約20倍以上の増殖率を示すことをいう。また、「クロロフィル含有量が高い」とは、全クロロフィル含有量が乾燥重量で約25mg/g以上であること、より好ましくは約30mg/g以上であることをいう。
【0016】
増殖能力の測定
増殖能力は、液体倍地(グルコース2%、NaNO3 0.2%、MgSO4・7H2O 0.02%、CaCl2・2H2O 0.005%、クエン酸鉄アンモニウム0.002%、K2HPO4 0.08%、KH2PO4 0.02%、酵母エキス 0.1%、A-5溶液0.125%を水道水に溶解したもの)を用いて、振盪培養で、30℃にて測定した。
A-5溶液:H3BO3 2.86g、MnCl2・4H2O 1.81g、ZnSO4・7H2O 0.22g、CuSO4・5H2O 0.08g、Na2MoO4 0.021gを純水1リットルに溶解し、濃硫酸1滴を加えたもの
【0017】
クロレラ含有量の測定
本発明における全クロロフィル含有量は、藻類研究法に記載されている簡易測定法で行った。クロレラ藻体のメタノールおよびアセトン抽出物を、650nmおよび665nmにて吸光度を測定し、以下の計算式で全クロロフィル量を算定した。
全クロロフィル量(μg/ml)=25.5×650nm吸光度測定値+4.0×665nm吸光度測定値
【実施例1】
【0018】
野外からの採取と系統の確立
野外から採取した緑藻を分離用培養液(硝酸カリウム2g、酵母エキス0.1g、炭酸カルシウム30g、水道水1L)で、弱光下、2週間培養した。これを分離用寒天培地(酢酸ソーダ5g、酵母エキス1g、ポリペプトン2g、水道水1L、寒天15g、pH7.4)に植えて、単一コロニーを採取し、新たに寒天培地に画線して、再び単一コロニーを採取した。
これらのコロニーを増殖用寒天培地(グルコース2%、NaNO3 0.2%、MgSO4・7H2O 0.02%、CaCl2・2H2O 0.005%、クエン酸鉄アンモニウム0.002%、K2HPO4 0.08%、KH2PO4 0.02%、酵母エキス 0.1%、A-5溶液 0.125%、寒天 1.5%を水道水に溶解したもの)に画線し、暗培養を行った。増殖してきたコロニーから、大きいもの、緑の濃いものを採取した。暗培養下でこれを数回繰り返し、単一コロニーを増殖用寒天培地と同様の組成の斜面培地に移した。これらの株は細菌増殖用培地で細菌汚染が無いことを確かめた後、保存斜面培地(グルコース1.5%、NaNO3 0.2%、MgSO4・7H2O 0.02%、CaCl2・2H2O 0.005%、クエン酸鉄アンモニウム0.002%、K2HPO4 0.08%、KH2PO4 0.02%、酵母エキス 0.1%、A-5溶液 0.125%、寒天 1.5%を水道水に溶解したもの)に移し、30℃で5日暗培養した後、14℃で保存した。
【0019】
培地
増殖用培地は以下のものを使用した。
斜面培地:グルコース2%、NaNO3 0.2%、MgSO4・7H2O 0.02%、CaCl2・2H2O 0.005%、クエン酸鉄アンモニウム 0.002%、K2HPO4 0.08%、KH2PO4 0.02%、酵母エキス 0.1%、A-5溶液0.125% 寒天1.5%
液体培地:斜面培地から、寒天を除いたもの
【0020】
上記方法により、42の分離株を得た。この42株について、30 ℃、暗黒下で5日間振盪培養し、1、4、5日目に細胞ペレットについて、色の濃さ、細胞量を相対評価した。増殖性、色の濃さは、各株でかなり異なった。相対評価によって、どちらも優れている5株を選んだ。これら5株は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに、平成16年4月28日付あるいは平成16年5月28日付でそれぞれ受託番号FERM P-20033、FERM P-20034、FERM P-20035、FERM P-20066、FERM P-20067のもとに寄託された。
【0021】
M15株、M19株、M34株、M46株及びM3株の菌学的性質を以下に示す。
【0022】
形態と染色性
単細胞で、球形、2.8〜3.9 × 3.2〜4.2μの大きさである。細胞内にカップ状の葉緑体を1個、ピレノイド1個を持つ。ルテニウムレッドで赤色に染まる。
【0023】
増殖
(1)生育温度20〜40℃、最適温度は30℃である。生育pH 5〜9、最適pH は7.2である。
(2)無性生殖による細胞分裂で2〜6個の娘細胞を形成して増殖する。
(3)明培養で、光合成をおこない独立栄養で増殖するが、暗培養下、グルコースを炭素源とした従属栄養でも増殖する。
(4)光合成のみの増殖よりも、従属栄養で培養するほうが、はるかに増殖がよい。
(5)通常のクロレラは、暗培養で増殖させるとクロロフィルの産生量がおちて、緑色が退色するが、これらの株は、暗培養増殖でも、明培養下で増殖したものと、緑色の濃さに遜色がなく、クロロフィルの産生量が落ちないのが特徴である。
【0024】
分類
形態的な特徴、染色性、増殖様式、DNA分析から、これら5株はいずれもChlorella
vulgarisに分類される。
【0025】
DNA解析の結果、上記5株は、公知のどの株とも異なることから、新規の株であると判断し、M 15株、M 19株、M 34株、M 46株およびM 3株と命名した。
【0026】
以下の実施例2〜7において、M 15株、M 19株、M 34株、M 46株およびM 3株のそれぞれにつき、増殖能力、クロロフィル含有量、抗酸化活性、抗変異原性、マクロファージ殺菌能促進作用および遺伝子配列を調べた。
【実施例2】
【0027】
増殖能力
クロレラ各株をslantから液体培地に移した後、暗所にて一晩振盪前培養した。5.0 × 107/mlに液体培地で調整し、30℃、170rpmで暗所にて振盪培養し、24h毎に一部を採取して、細胞数をカウントし、細胞濃度を算定した。実験は2回行った。
【0028】
振盪培養時における培養時間と細胞数の表を以下に示す(1回目の実験結果を表1-1に、2回目の実験結果を表1-2に示す)。
【表1】

【0029】
上記2回の測定結果から、72時間後の増殖率の平均値を計算すると、M15株が34倍、M19株が29倍、M34株が26倍、M46株が20倍、M3株が22倍であった。これにより、上記各株が、暗培養下において、30℃・3日間程度で十分に培養が可能である、増力能力の優れた株であることが分かった。特に、M15株とM19株は優れた増殖率を示した。
なお、この結果は三角フラスコ内での振盪培養によるものであり、培地の濃度を濃くしてタンク培養を行った場合は、さらにかなり増殖率が高くなることが期待できる。
【0030】
上記5株について増殖曲線を作成した(図1参照)。24時間目を比較すると、1回目(増殖曲線A)では、M 19、M 46、M 34、M 3、M 15の順に、2回目(増殖曲線B)では、M 19、M 46、M 34、M 15、M 3の順に増殖が良かった。
【実施例3】
【0031】
クロロフィル量の測定
1)クロロフィルの抽出
秤量したクロレラ乾燥末を乳鉢に入れ、5倍量(重量)の石英砂を加えて、均一になるようにかき混ぜた。これに、50mMリン酸緩衝液、pH7.5を加えて湿らせ、粉砕した。
緩衝液の4倍量のメタノールを粉砕しながら徐々に加えていき(80%メタノール抽出)、上清をメスフラスコに入れた。さらに粉砕しながら80%メタノール(50mMリン酸緩衝液、pH7.5)を加えて抽出し、上清をメスフラスコに加えた。この抽出操作を再度行った後、同様に同量のアセトンによって抽出し、メタノール抽出液に加えた。
2)クロロフィルの測定
Arnonらの方法(藻類研究法、西澤一俊・千原光雄 編集、共立出版、1979年)に従い、次式を用いて算出した。
全クロロフィル量(μg/ml)=25.5×650nm吸光度測定値+4.0×665nm吸光度測定値
【0032】
上記式で算出した、抽出液中の全クロロフィル量(μg/ml)から、クロレラ藻体乾燥重量1g当たりの全クロロフィル量(mg/g)を次式により求めた。
クロレラ藻体乾燥重量1g当たりの全クロロフィル量(mg/g)
=抽出液中の全クロロフィル量(μg/ml)÷1000×抽出液量(ml)÷藻体乾燥重量(g)
結果を表2にまとめる。
【0033】
【表2】

【0034】
表2に示すように、上記5株は全て、暗培養において全クロロフィル含有量が乾燥重量で30mg/g以上であった。これにより、上記5株が暗培養においても、多量のクロロフィルを生産することが分かった。とりわけ、M15株、M19株、M34株のクロロフィル含有量が高かった。
【実施例4】
【0035】
クロレラの抗酸化活性
分光光度計による1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl(DPPH)ラジカル消去能の測定
【0036】
凍結乾燥したクロレラ藻体を用い、試験管法とマイクロプレート法により測定した。
【0037】
試験管法
1)クロレラ50mgを80%エタノール1mlで抽出し、抽出液をさらに80%エタノールで5倍希釈してSampleとした。
2)400μM DPPH、200mM MES 緩衝液(pH6.0)、20%エタノールの等量混液0.9 mlに80%エタノールをそれぞれ、50,100,150,200,250,300μl添加した。
3)分析試料をそれぞれ、250,200,150,100,50,0μlを30秒ごとに加え、ボルテックスした。
4)分析試料添加20分後に520nmで吸光度を添加順に、順次測定した。
測定は、すべて二重におこなった。
【0038】
結果を、表3および図2に示す。図2の折れ線グラフが右下がりになるのに比例して、DPPHラジカル消去能が高い、すなわち抗酸化活性が高いことになる。
【表3】

【0039】
マイクロプレート法
1)クロレラ50mgを80%エタノール1mlで抽出し、抽出液をさらに80%エタノールで5倍希釈してsampleとした。
2)分析試料を80%エタノールで2段階希釈し、96ウェル-プレートにそれぞれの希釈液および80%エタノールのみのものを50μlずつ添加した。
3)400μM DPPH、200 mM MES緩衝液(pH6.0)、20%エタノールの等量混液150μlをブランク以外の全ウェルに添加した.
4)反応液をプレート・リーダーにセットし、分析試料添加20分後に540-630nmで吸光度を測定した。
測定は、すべて二重におこなった。
【0040】
結果を、表4および図3に示す。図2と同じく、図3の折れ線グラフが右下がりになるのに比例して、DPPHラジカル消去能が高い、すなわち抗酸化活性が高いことになる。
【表4】

【0041】
表3および表4、図2および図3に示すように、すべての株に抗酸化活性が認められた。これらのうち、M 15、M 19が特に強いことが分かった。
【実施例5】
【0042】
クロレラ抽出液による抗変異原性試験
クロレラの抽出液、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium TA98)、Trp-P2(変異原物質)を用いて実験を行った。
【0043】
[実験方法]
クロレラ抽出液は次の2通りの方法で作製した。
1)クロレラ藻体3 gに石英砂15 gを加え、乳鉢ですりつぶしながら、DW 30 mlを徐々に加えた。15分氷上に置いて、6000rpm 10’4℃遠心し、上清を採取して、凍結乾燥した。凍結乾燥品を10 mg/mlの濃度でDWに溶解し、AMESテストに用いた。
2)クロレラ藻体50mgに、80%エタノールを500μl添加して、60分氷上に置いた後、6000rpm 2’遠心し上清を採取した。風乾でエタノールを飛ばし、上清時容量の半分のDMSOで溶解した後、DMSOと等量のDWを添加して、サンプルとした。
【0044】
以下の混合物を作製した。
(1)石英砂による抽出サンプル
A:Trp-2(0.01μg/1ml DMSO)100μl、クロレラ抽出液100μl(10mg/ml)
B:DMSO 100μl、クロレラ抽出液100μl(10mg/ml)
C:Trp-2(0.01μg/1ml DMSO)100μl、DW 100μl
D:DMSO 100μl、DW 100μl
(2)80%エタノールによる抽出サンプル
A:Trp-2(0.02μg/1ml DMSO)50 μl、クロレラ抽出液 100μl(10mg/ml)
B:DMSO 50μl、クロレラ抽出液 100μl(10mg/ml)
C:Trp-2 50μl(0.02μg/1ml DMSO)、50% DMSO(DW中)100μl
D:DMSO 50μl、50% DMSO(DW中) 100μl
【0045】
石英砂による抽出サンプル(1)には0.1M Na-PB 600 μl、S-9 Mix 100μlを、80%エタノールによる抽出サンプル(2)には0.1M Na-PB 650μl、S-9 Mix 100μlをそれぞれ添加した後、18時間振盪培養を行ったSalmonella typhimurium TA98培養液 100μlを加え、37℃で、20分間振盪した。
【0046】
上記各混合物にTop agar(寒天末 0.75g、NaCl 0.54g、脱イオン水 100ml、ビオチン-ヒスチジン溶液 10ml)2mlを加え、最少グルコースプレート(寒天末 30g、脱イオン水 1,860ml、50倍濃度Vogel-Bonnner塩溶液40ml、40%グルコース溶液 100ml)に播種した後、37℃で2日間培養した。実験は、石英砂による抽出サンプル(1)、エタノールによる抽出サンプル(2)について、それぞれ2回ずつ行った。
【0047】
コロニーの数を求め、下記の算定方法で抗変異原性(%)を求めた。
【数1】

【0048】
結果を、表5(石英砂抽出物。表5-1は1回目の結果、表5-2は2回目の結果)および表6(エタノール抽出物。表6-1は1回目の結果、表6-2は2回目の結果)に示す。また各抽出物についての2回の平均値をグラフに示す(図4参照。図4Aは石英砂抽出物、図4Bはエタノール抽出物)。
【0049】
【表5】

【0050】
【表6】

【0051】
表5および表6、図4に示すように、いずれの株にも抗変異原性が認められた。特に、80%エタノールによる抽出物が、高い抗変異原性を示した。このことから、抗変異原性作用がクロレラの色素類によるものであることが示唆される。株間の比較では、クロレラ石英砂抽出物では、M 34とM 3が、エタノール抽出物では、M 15、M 34、M 3が優れていた。
【実施例6】
【0052】
マクロファージ殺菌能の促進試験
クロレラ藻体、腸炎菌(Salmonella enteritidis)、C57BL/6CrSIcマウス(雌 7〜9週令)を用いて実験を行った。
【0053】
(1)4.05%(DW中)のTGC培地(ニッスイ)2mlをマウスに腹腔内注射した。
(2)3日後、腹腔滲出細胞(PEC)を採取し、10%FBS RPMIにて2×106/mlに調整した。
(3)PECを400μl/ウェルで24-ウェル プレートに播種し、37℃で、5%CO2インキュベーター下に1.5時間おいて、マクロファージを付着させた。
(4)浮遊細胞を洗浄して除いた後、37℃、5%CO2インキュベーターで1日馴致培養した。
(5)各クロレラ藻体を10%FBS RPMIに0.5μg/mlで浮遊させたもの、あるいはコントロールとして培養液のみのものをそれぞれ500μl/ウェルで、マクロファージを付着させたウェルに添加し、一晩培養した。
(6)1回洗浄した後、1×108/mlのSalmonella enteritidis浮遊液を250μl/ウェル添加し、37℃、5%CO2下で、30分間マクロファージに食菌させた。食菌後、細胞外の細菌は洗浄して除いた。
(7)0、60分後にマクロファージをDWで溶解させて、細胞内の細菌を回収した。
(8)回収した細菌は、普通寒天平板培地に播いて生菌数を数えた。
【0054】
実験は、1回目はM15株、M3株、M46株について、2回目はM19株、M34株について、3回目はM46株、M3株、M19株について行った。各サンプルについてduplicateで実験を行った。数えた生菌数から細胞内部での60分間殺菌率を算定し、コントロールの殺菌率を1とした場合の各クロレラ処理細胞のコントロール比を求めた。結果を表7に示す(表7-1は1回目、表7-2は2回目、表7-3は3回目の結果を示す)。また、結果をまとめて図5に示す(2回実験を行った株については平均値をとった)。
【0055】
【表7】

【0056】
表7および図5に示すように、クロレラ抽出液で処理したマクロファージは、処理しなかったコントロールに比し、殺菌率の上昇が認められた。殺菌率が高かったのは、M 34、M 19で、M 46はコントロールとあまり差がなかった。
【実施例7】
【0057】
クロレラ18S rRNA遺伝子配列の解析
クロレラM-15, M-19, M-34およびM-46株からそれぞれ、ISOPLANT(ニッポンジーン)を用いたベンジルクロライドによる抽出法によりゲノムDNAを調製した。次に、Nakayamaら(Phycological Reseach A 1996. 44: 47-55)に記載されているクロレラの18SリボソーマルRNA遺伝子の配列に基づき、オリゴヌクレオチドプライマー1 (5'-tacctggttgatcctgccag-3')、および、プライマー2(5'-ccttccgcaggttcacctac-3')を合成した。これらのプライマーを用い、上記のようにしてそれぞれの藻体から調製したゲノムDNA(約0.5μg)を鋳型として、TaKaRa LA Taq DNAポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社)を用いてPCR反応を行った。PCR反応は、まず、95℃で6分間、次いで58℃で1分間、さらに68℃で4分間保温した後、95℃で1分間、次いで58℃で1分間、さらに68℃で4分間を1サイクルとする保温を30サイクル行なった。PCR産物をアガロースゲル電気泳動してエチジウムブロマイドで染色した結果、いずれのサンプルにおいても約1700bpのDNA断片が検出された。これらの断片を含むゲル部分をそれぞれ切り出した後、QIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン)を用いゲル部分からDNAを回収した。回収されたDNA(約1.0 μg)をTAクローニング法によってpGEM-T Easy Vector (プロメガ)に挿入した。大腸菌株HB101に形質導入したのち大腸菌株をTB培地で増殖し、大腸菌内のプラスミドDNAをQiagen Maxi EndoFree plasmid purification Kitを用いて,回収した。回収したプラスミドDNAをテンプレートとして,GeneBankに記載(AB080307)されているChlorella sorokiniana gene for 18S rRNA, partial sequenceの塩基配列の一部を有するプライマー(5’-tacctggttgatcctgccag-3’, 5’-agggcaagtctggtgccag-3’, 5’-ggattgacagattgagagagct-3’, 5’-gcgcaaattacccaatcctg-3’, 5’-gagtaatgattaagagggac-3’, 5’-atagtgaggattgacagatt-3’, 5'-ccttccgcaggttcacctac-3')を用いて、ABI PRISM DyeTerminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit(パーキンエルマー・ジャパン)によってシークエンスサンプルを調製し、これをDNAシーケンサー PRIZM310にかけて塩基配列を解析した。得られた18SリボソーマルRNA遺伝子の塩基配列を既報のクロレラ属緑藻の18SリボソーマルRNA遺伝子の塩基配列と比較した。
【0058】
各株の18SリボソーマルRNA遺伝子の塩基配列を解析した結果、M15は配列番号1に示す塩基配列を、M19は配列番号2に示す塩基配列を、M34は配列番号3に示す塩基配列を、M46は配列番号4に示す塩基配列を有していた。
【0059】
[結論]
実施例2および3から、本発明にかかるクロレラ新規株が、暗培養下においても非常に高い増殖力とクロロフィル生産力を示すことが分かった。中でも、M15株とM19株が特に優れた増殖率とクロロフィル含有量を有することが分かった。
【0060】
また、実施例4から、いずれの株も高い坑酸化活性を有することが、実施例5から、いずれの株も高い抗変異原性を有することが分かった。抗酸化活性および抗変異原性が高いことから、これらのクロレラ株は糖尿病改善効果、抗腫瘍効果等が期待でき、また、生体全体に調節的に働きかけて、免疫作用を高めるという効果も期待できる。さらに、実施例6から、これらのクロレラ株が、免疫担当細胞であるマクロファージの活性をある程度促進することが分かった。しかし、この程度はあまり強くなく、穏やかであった。従って、本発明にかかるクロレラ属の株を食品等として利用しても、正常な個体の免疫細胞に、直接過度に働きかけることはなく、安心して利用できることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】クロレラ属M15株、M19株、M34株、M46株およびM3株の増殖曲線を示す折れ線グラフである。Aは1回目の実験による増殖曲線を、Bは2回目の実験による増殖曲線を示す。
【図2】クロレラ属M15株、M19株、M34株、M46株およびM3株の抗酸化活性を示す折れ線グラフである。
【図3】クロレラ属M15株、M19株、M34株、M46株およびM3株の抗酸化活性を示す折れ線グラフである。
【図4】クロレラ属M15株、M19株、M34株、M46株およびM3株抽出物の抗変異原性を示す棒グラフである。Aは石英砂による抽出物の、Bはエタノールによる抽出物の抗変異原性を示す。
【図5】クロレラ属M15株、M19株、M34株、M46株およびM3株抽出液によるマクロファージ殺菌能を示す棒グラフである。
【図6】クロレラ属M15株のリボソームRNAの部分配列を示す。
【図7】クロレラ属M19株のリボソームRNAの部分配列を示す。
【図8】クロレラ属M34株のリボソームRNAの部分配列を示す。
【図9】クロレラ属M46株のリボソームRNAの部分配列を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0062】
配列番号1 クロレラ属M15株のリボソームRNAの部分配列
配列番号2 クロレラ属M19株のリボソームRNAの部分配列
配列番号3 クロレラ属M34株のリボソームRNAの部分配列
配列番号4 クロレラ属M46株のリボソームRNAの部分配列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
暗培養下において、増殖能力及びクロロフィル含有量が高いクロレラ属の株であって、M15、M19、M34、M46及びM3からなる群から選ばれる、クロレラ属の自然変異株。
【請求項2】
前記株がクロレラ属M15株(受託番号:FERM P-20034)である、請求項1記載のクロレラ属の自然変異株。
【請求項3】
前記株がクロレラ属M19株(受託番号:FERM P-20033)である、請求項1記載のクロレラ属の自然変異株。
【請求項4】
前記株がクロレラ属M34株(受託番号:FERM P-20066)である、請求項1記載のクロレラ属の自然変異株。
【請求項5】
前記株がクロレラ属M46株(受託番号:FERM P-20067)である、請求項1記載のクロレラ属の自然変異株。
【請求項6】
前記株がクロレラ属M3株(受託番号:FERM P-20035)である、請求項1記載のクロレラ属の自然変異株。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−14700(P2006−14700A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−198022(P2004−198022)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(304021152)
【出願人】(592242408)財団法人ルイ・パストゥール医学研究センター (2)
【出願人】(503083052)ジュピターライフサイエンス株式会社 (3)
【Fターム(参考)】