説明

クロレラ発酵食品の製造方法

【課題】 フェオフォルバイトの発生を抑制しつつ、藻類特有の風味や臭いを減少させたクロレラ発酵食品の製造方法を提供すること。
【解決手段】 遊離フェオフォルバイトの含有量が18mg%以下であり、かつ、一般生菌数が8000cfu/mL以下である大腸菌群数陰性のクロレラを用いて、このクロレラをパン酵母で発酵させる。上記クロレラは、例えば、発酵前のクロレラを、0〜10℃の水を用いて洗浄することにより、または、加熱殺菌処理を施すことにより、得ることができる。パン酵母は、クロレラに対して、好ましくは、0.1〜15重量%の割合で配合される。また、発酵処理は、好ましくは、ブドウ糖や乳酸菌の存在下で行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロレラ発酵食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロレラは、蛋白質、葉緑素、食物繊維、各種ビタミン、ミネラルが豊富な食品であって、従来、緑黄色野菜の代替品や栄養補助食品として食されている。
しかし、クロレラは、独特の藻類臭を有しており、風味に難があることから、大量にまたは長期にわたって摂取しにくい。しかも、クロレラが分解されると、葉緑素に含まれるクロロフィラーゼという酵素によって、光過敏症の原因物質であるフェオフォルバイトが生成するという不具合もある。
【0003】
一方、従来、クロレラと、酵母を含む酵素原液とを混合して、所定条件下で発酵させるクロレラ酵素の製造方法(特許文献1および2)や、クロレラと、酵母を含む野菜・野草・果物発酵原液および白麹の混合物とを混合して、所定条件下で発酵させるクロレラの製造方法(特許文献3)が提案されている。
【特許文献1】特開平9−322768号公報
【特許文献2】特開2002−218952号公報
【特許文献3】特開2003−88339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載の発明は、クロレラの有効成分を吸収し易い状態に加工する方法に関するものであって、クロレラを食品として摂取し易いものに改良することを目的とするものではない。特に、特許文献1および2に記載の発明では、酵素原液として、酵母菌、放線菌、糸状菌、乳酸菌などを含むものを用いていることから、発酵により、複雑な発酵風味が生じることになる。また、特許文献3に記載の発明では、酵母菌、放線菌、糸状菌、乳酸菌などを含む酵素原液に加えて、野菜などの発酵物による特有の風味が加わる。それゆえ、いずれの場合も、クロレラの摂取し易さは不十分である。
【0005】
また、上記特許文献1〜3に記載の発明では、クロレラがフェオフォルバイトを生成し易い素材であるという点について考慮がなされていない。フェオフォルバイトを生成するクロロフィラーゼは、クロレラだけでなく、野菜類などにも含まれる酵素であり、しかも、アルコールによって酵素活性が増大するものであることから、本来は、系全体に含まれるクロロフィラーゼの量、クロレラと混合する酵素原液の組成、クロロフィラーゼの酵素活性に影響を及ぼす諸因子(例えば、発酵に伴って生成するアルコール)などの種々の点について、十分な注意が必要である。
【0006】
そこで、本発明の目的は、フェオフォルバイトの発生を抑制しつつ、藻類特有の風味や臭いを減少させたクロレラ発酵食品を製造するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、
(1) 遊離フェオフォルバイトの含有量が18mg%以下であり、かつ、一般生菌数が8000cfu/mL以下である大腸菌群数陰性のクロレラを用いて、前記クロレラをパン酵母で発酵させることを特徴とする、クロレラ発酵食品の製造方法、
(2) パン酵母による発酵前のクロレラが、0〜10℃の水を用いて洗浄処理が施されたものであることを特徴とする、前記(1)に記載のクロレラ発酵食品の製造方法、
(3) 加熱殺菌処理が施されたクロレラをパン酵母で発酵させることを特徴とする、クロレラ発酵食品の製造方法、
(4) さらに、糖類の存在下で発酵させることを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれかに記載のクロレラ発酵食品の製造方法、
(5) さらに、乳酸菌の存在下で発酵させることを特徴とする、前記(1)〜(4)のいずれかに記載のクロレラ発酵食品の製造方法、
(6) 前記パン酵母の配合量が、前記クロレラの配合量に対して0.1〜15重量%であることを特徴とする、前記(1)〜(5)のいずれかに記載のクロレラ発酵食品の製造方法、
を提供する。
【0008】
本発明において、遊離フェオフォルバイトの含有量(mg%)は、「食品衛生検査指針 理化学編」、社団法人日本食品衛生協会、289〜290頁(1991年)、「(a)既存フェオホルバイドの定量」に記載の方法に準じて測定される。具体的な測定方法は、次のとおりである。クロレラ100mgを85%アセトンで抽出し、エーテルを加えて分離させた後、エーテル層を取り出す。このエーテル層を17%塩酸で抽出して、得られた塩酸溶液に飽和硫酸ナトリウム溶液を加えて、エーテルで抽出する。こうして得られたエーテル層の667nmの吸光度を測定し、標準品のフェオフォルバイトaの吸光度から、クロロフィルの分解物量を算出して、これを遊離フェオフォルバイトの含有量(既存フェオホルバイド量;単位mg%)とする。
【0009】
本発明において、一般生菌数(cfu/mL)は、標準寒天培地を使用した公定法(「食品衛生検査指針 微生物編」、社団法人日本食品衛生協会、1990年)により測定される。具体的な測定方法は、次のとおりである。クロレラ10gを滅菌水90mLに加えて、得られた懸濁液を試験溶液とする。次いで、この試験溶液を適宜希釈して、標準寒天培地において、35℃で24〜48時間培養させた後、シャーレ中のコロニー数を計測する。
【0010】
また、本発明において、大腸菌群数についての陰性および陽性の別は、BGLB培地を使用した公定法(「食品衛生検査指針 微生物編」、社団法人日本食品衛生協会、1990年)により判定される。具体的な判定方法は、次のとおりである。クロレラ10gを滅菌水90mLに加えて、得られた懸濁液を試験溶液とする。次いで、得られた試験溶液1mLを、ダーラム管に収容されたBLGB培地に加えて、35℃で24〜48時間培養させた後、ダーラム管内でのガスの発生を確認する。ここで、ガスの発生が認められなかった場合についてのみ、大腸菌群数陰性とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のクロレラ発酵食品の製造方法によれば、クロレラをパン酵母で発酵させることにより、藻類特有の風味や臭いを減少させることができ、摂取し易いクロレラ発酵食品を提供することができる。
また、本発明のクロレラ発酵食品の製造方法によれば、クロレラに対し、あらかじめ遊離フェオフォルバイトの含有量を低減させるための所定の洗浄処理、または、クロロフィラーゼを失活させるための加熱殺菌処理が施されており、しかも、パン酵母を用いて発酵されることで、発酵に伴うアルコールの生成が極力抑制されることから、発酵処理に伴うクロロフィラーゼの活性化や、フェオフォルバイトの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る第1のクロレラ発酵食品の製造方法は、遊離フェオフォルバイトの含有量が18mg%以下であり、かつ、一般生菌数が8000cfu/mL以下で、大腸菌群数陰性となるように調整されたクロレラを用いて、このクロレラをパン酵母で発酵させることを特徴としている。
また、本発明に係る第2のクロレラ発酵食品の製造方法は、加熱殺菌処理が施されたクロレラをパン酵母で発酵させることを特徴としている。
【0013】
パン酵母で発酵させるための原料のクロレラは、特に限定されるものではなく、例えば、太陽光を利用した培養池で培養したもの、タンク培養により培養したものなどの、種々のクロレラが挙げられる。
また、原料のクロレラは、例えば、培養環境などの設定により、各種栄養素の含有量が高められたものであってもよい。上記栄養素としては、例えば、鉄、亜鉛、DHA(ドコサヘキサエン酸)などが挙げられる。
【0014】
原料のクロレラは、上記の洗浄処理がされたクロレラを、乾燥して粉砕させ、または、噴霧乾燥させることにより、粉末状としたものであってもよい。
上記第1のクロレラ発酵食品の製造方法において、クロレラの遊離フェオフォルバイトの含有量を18mg%以下に調整するには、例えば、クロレラの培養、収穫、洗浄および濃縮の各工程において、クロレラ細胞を極力死滅させないようにすることが好ましい。なお、クロレラ細胞が死滅すると、フェオフォルバイトの生成酵素であるクロロフィラーゼが溶出して、遊離フェオフォルバイトの含有量の上昇を招いたり、原料のクロレラ中への遊離のクロロフィラーゼの混入や、発酵処理後における(クロレラ発酵食品中での)フェオフォルバイトの含有量の増大を招いたりするおそれがある。
【0015】
クロレラの遊離フェオフォルバイトの含有量を18mg%以下とし、一般生菌数を8000cfu/mL以下に低減させ、かつ、大腸菌群数が陰性となるように調整するための具体的な一の方法としては、例えば、培養され、かつ、収穫された生のクロレラを、0〜10℃の水を用いて(好ましくは、約4℃の水を用いて)洗浄する方法が挙げられる。洗浄処理には、これに限定されないが、例えば、遠心分離機などを用いることができる。
【0016】
クロレラの洗浄処理は、一般生菌数を低減させ、かつ、大腸菌群数が陰性となるように調整するという観点から、より好ましは、温度が0〜10℃であり、かつ、殺菌作用を有している水を用いてすることが好ましい。殺菌作用を有している水としては、例えば、電解水(電解質水溶液を電気分解して得られる、いわゆる、強酸性水、酸性水、アルカリ水および強アルカリ水)、微量な励起状態の鉄イオンによって活性化された水(いわゆる、πウォーター)、オゾン水などや、殺菌剤(例えば、次亜塩素酸塩など。)を含有する水などが挙げられる。
【0017】
原料のクロレラについての遊離フェオフォルバイトの含有量は、上記のとおり18mg%以下であり、好ましくは、10mg%以下である。なお、遊離フェオフォルバイトの含有量は、クロレラに発酵処理を施すことによって、通常、増加する。それゆえ、クロレラ発酵食品の遊離フェオフォルバイトの含有量を抑制するという観点から、発酵処理前の、原料のクロレラ懸濁液の遊離フェオフォルバイトの含有量は、上記範囲に設定される。
【0018】
発酵処理前のクロレラ(原料)についての遊離フェオフォルバイトの含有量を、上記範囲に設定することにより、発酵処理を経た後のクロレラ(クロレラ発酵食品)についての遊離フェオフォルバイトの含有量を、60mg%以下に設定することができる。
なお、クロレラ加工品の安全性に関連して、旧厚生省環境衛生局長通知(1981年5月8日)によれば、クロレラ加工品中の遊離フェオフォルバイトの含有量が100mg%を超え、または、総フェオフォルバイト量(後述)が160mg%を超えるものであってはならないとされている。また、近年、クロレラ加工品に関する業界の基準値としては、クロレラ加工品中の遊離フェオフォルバイトの含有量が60mg%以下、および、総フェオフォルバイト量が80mg%以下に設定されている。
【0019】
それゆえ、発酵処理前のクロレラ(原料)について、その遊離フェオフォルバイトの含有量が上記範囲となるように、あらかじめ処理を施しておくことにより、本発明のクロレラ発酵食品の安全性を高めることができる。
フェオフォルバイトの含有量を示す指標としては、上記の遊離フェオフォルバイトの含有量とともに、総フェオフォルバイト量(mg%)が挙げられる。この総フェオフォルバイト量(mg%)は、遊離フェオフォルバイトの含有量と、クロロフィラーゼ活性度との和をいう。ここで、クロロフィラーゼ活性度とは、クロレラを緩衝液(例えば、リン酸緩衝液−アセトン混合溶液)中で3時間反応させた場合に、上記反応により増加したフェオフォルバイトの量(mg%)を示す。総フェオフォルバイト量は、例えば、クロレラ100mgにリン酸緩衝液(pH8.0)−アセトン混合溶液(体積比7:3)を加えて、37℃で3時間発酵させた後、得られたクロレラ溶液を10%塩酸で弱酸性とし、次いで、遊離フェオフォルバイトの含有量の測定方法と同様にして測定することにより、求められる。
【0020】
発酵処理を経た後のクロレラ(クロレラ発酵食品)についての総フェオフォルバイトの含有量は、上述のとおり、業界基準値として、80mg%以下である。
パン酵母で発酵させるための原料のクロレラについての一般生菌数は、上記のとおり8000cfu/mL以下であり、好ましくは、3000cfu/mL以下である。クロレラ発酵食品の原料であるクロレラ懸濁液の一般生菌数が8000cfu/mLを上回ったり、大腸菌群数が陽性であったりすると、クロレラ発酵食品が食品として適さなくなる。
【0021】
上記第2のクロレラ発酵食品の製造方法において、クロレラの加熱殺菌処理としては、これに限定されないが、例えば、スチームを用いたブランチング処理などの、種々の方法が挙げられる。ブランチング処理は、特に限定されるものではなく、例えば、スチームブランチング、熱水中でのブランチングなどの種々のブランチング処理が挙げられる。
加熱殺菌処理の条件は、特に限定されないが、例えば、加熱処理温度は、好ましくは、90〜110℃、より好ましくは、95〜105℃で、加熱処理時間は、好ましくは、20秒間〜5分間、より好ましくは、40秒間〜2分間である。
【0022】
発酵処理前の原料クロレラに加熱殺菌処理を施すことにより、クロレラ中のクロロフィラーゼを死活させることができ、それゆえ、発酵処理後におけるフェオフォルバイトの含有量の増加を防止することができる。また、加熱殺菌処理を施すことによって、クロレラに付着している雑菌を死滅させることができ、発酵処理を施す前の段階において、一般生菌数や大腸菌群数を上述の範囲にまで低下させることができる。
【0023】
上記第1および第2のクロレラ発酵食品の製造方法において、原料のクロレラを粉末とする場合に、クロレラ粉末の粒径は、特に限定されないが、通常、クロレラは細胞同士が凝集しており、二次粒子の平均粒径で、通常、60μm程度である。この凝集物を微粉砕して、二次粒子の平均粒径(50%粒径)が3.0〜10μm程度となるように調整したときには、クロレラの発酵に要する時間を短縮することができ、その結果、クロレラ発酵食品の風味、香り、食感をより一層向上させることができる。さらに、発酵時間が短縮されることで、クロレラ中に残存するクロロフィラーゼによってフェオフォルバイトが生成することを、より一層効果的に抑制することができる。
【0024】
クロレラを微粉砕する方法については、特に限定されないが、例えば、石臼を用いて微粉砕する方法、気流粉砕機などを用いて粉砕する方法などが挙げられる。
クロレラの発酵には、パン酵母が用いられる。これにより、発酵に伴うアルコールの生成を極力抑制することができる。
パン酵母としては、特に限定されるものではなく、食用酵母として利用可能な、種々のタイプのパン酵母が挙げられる。
【0025】
パン酵母の配合量は、クロレラに対して、0.1〜15重量%、好ましくは、0.5〜10重量%、より好ましくは、0.5〜5.0重量%である。
パン酵母による発酵処理の条件は、特に限定されないが、例えば、発酵温度は、好ましくは、15〜45℃、より好ましくは、30〜40℃であり、発酵時間は、好ましくは、1〜7時間、より好ましくは、1.5〜5時間である。
【0026】
パン酵母による発酵処理は、アルコールの生成を抑制するという観点から、酸素のある状態で行うことが好ましい。さらに、アルコールの生成を抑制するという観点から、発酵処理時のクロレラの水分含有量を下記の範囲に設定したり、発酵処理中に、クロレラとパン酵母とを含む混合物を十分に攪拌したりすることが好ましい。
発酵処理時のクロレラの水分含有量(すなわち、水を含むクロレラの総量に対する水分量の割合)は、好ましくは、20〜70重量%、より好ましくは、30〜55重量%である。水分含有量が上記範囲に設定されているときは、酵母に十分な酸素が供給され、アルコールの生成を抑制することができる。
【0027】
クロレラの水分含有量を上記範囲に設定するために、発酵処理の原料となるクロレラは、水中に分散された懸濁液として調製されたものであってもよい。また、発酵処理中のクロレラの撹拌については、特に限定されず、常法に従って撹拌すればよい。
なお、発酵原料となるクロレラは、所定の洗浄処理が施されることで、そのクロロフィラーゼの含有量が十分に低下されているか、または、加熱殺菌処理が施されることで、そのクロロフィラーゼ活性が十分に低下されているものであることから、必ずしも、酸素のある状態で発酵させなくてもよく、例えば、パン酵母を用いた液体培養によって発酵させることもできる。
【0028】
上記液体培養においては、収穫、洗浄したクロレラを、固形分濃度が5〜25重量%、好ましくは、10〜15重量%の懸濁液として調製し、次いで、この懸濁液にブランチング処理を(必要に応じて、繰り返し)施せばよい。その後のパン酵母による発酵処理は、上記懸濁液中のクロレラ固形分に対するパン酵母の配合量の範囲で配合して、発酵させればよい。
【0029】
パン酵母によってクロレラを発酵させた場合には、クロレラ特有の風味が改善されたり、臭いが低減されたりするだけではなく、蛋白質、炭水化物、脂質などの栄養成分がより消化吸収され易くなる。また、後述する実施例の結果より明らかなように、ミネラルなどの各種微量栄養素の含有割合が上昇する。
クロレラの発酵は、好ましくは、糖類の存在下で、より好ましくは、乳酸菌の存在下で行われる。
【0030】
糖類としては、特に限定されないが、例えば、ブドウ糖、トレハロース、ラフィノース、果糖、ショ糖、デンプン、デンプン分解物、糖蜜、廃糖などが挙げられる。これらの糖類は、単独で用いてもよく、2種以上を適宜混合して用いてもよい。
上記の糖類の共存下でクロレラを発酵させることにより、発酵がスムーズに進行して、発酵処理に要する時間を短縮することができる。
【0031】
糖類は、上記例示のなかでも特に、クロレラの発酵の促進効果や、クロレラ発酵食品の風味の調整の観点から、好ましくは、ブドウ糖、または、ブドウ糖とトレハロースとの組み合わせが挙げられる。なお、トレハロースは、水分の保持力が強く、クロレラと混合することによって、水分をクロレラに均一になじませることができる。
糖類の配合量は、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖など糖類の種類、性質により異なることから、特に限定されないが、例えば、ブドウ糖の配合量は、クロレラに対して、好ましくは、0.5〜2.0重量%であり、より好ましくは、1重量%程度である。また、トレハロースの配合量は、クロレラに対して、好ましくは、0.1〜5重量%であり、より好ましくは、0.5〜2.0重量%である。
【0032】
乳酸菌としては、食用の乳酸菌であること以外は、特に限定されないが、例えば、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)、エンテロコッカス(Enterococcus)、ラクトバチルス(Lactobacillus)などが挙げられる。
乳酸菌の配合量は、特に限定されないが、例えば、クロレラに対して、好ましくは、0.05〜5.0重量%、より好ましくは、0.2〜3.0重量%である。
【0033】
クロレラ発酵食品は、その目的および用途に応じて、例えば、粉剤、粒剤、錠剤などの公知の種々の剤型に製剤化することができる。
また、本発明の製造方法により得られたクロレラ発酵食品は、剤型、目的および用途などに応じて、クロレラ発酵食品を単独で製剤化してもよく、賦形剤とともに製剤化してもよい。賦形剤に対する上記クロレラ発酵食品の配合割合は、0.1〜99重量%の範囲から適宜選択することができる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
<試験例1>
実施例1
太陽光を利用した天然培養池で培養されたクロレラを、100℃のスチームで1分間ブランチング処理して、加熱殺菌処理を施した後、噴霧乾燥した。こうして得られたクロレラ粉末に対して、パン酵母(ドライイースト)0.05重量%と、水とを配合して、混合、練り込みすることにより、水分量が40重量%に調節された混合物を得た。
【0035】
次に、上記混合物を、35℃で、3時間静置することにより、発酵させた。さらに、110℃で加熱、乾燥して、水分量を5重量%以下に調節することによって、クロレラ発酵物を得た。
実施例2〜8
クロレラ粉末の配合量に対するパン酵母の配合割合を、下記の表1に示す割合に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、クロレラ発酵物を得た。
【0036】
比較例1
太陽光を利用した天然培養池で培養されたクロレラに対し、100℃のスチームで1分間ブランチング処理をすることにより、加熱殺菌した後、噴霧乾燥した。こうして得られたクロレラ粉末と、水とを練り込んだ後、得られた混合物を110℃で加熱、乾燥することにより、上記混合物の水分量が5重量%以下となるように調節した。
【0037】
味覚および臭いの評価
実施例1〜8で得たクロレラ発酵物および比較例1で得た乾燥後の混合物を、実際に、被験者5名(成人男性2名、および成人女性3名)に試食してもらい、その風味および臭いについての評価を聞き取り、評価の平均を集計した。評価基準は、次のとおりである。
・風味
強:藻類または酵母の風味を強く感じて、食べにくかった。
あり:藻類または酵母の風味が感じられたが、食べることに不都合は感じなかった。
弱:藻類または酵母の風味をわずかに感じた。
微弱:藻類または酵母の風味をごくわずかに感じた。
なし:藻類または酵母の風味がほとんど感じられなかった。
【0038】
・臭い
強:藻類臭または酵母臭を強く感じて、食べにくかった。
あり:藻類臭または酵母臭が感じられたが、食べることに不都合は感じなかった。
弱:藻類臭または酵母臭をわずかに感じた。
微弱:藻類臭または酵母臭をごくわずかに感じた。
なし:藻類臭または酵母臭がほとんど感じられなかった。
【0039】
上記の評価結果を、下記の表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1中、パン酵母の配合量は、クロレラ粉末の配合量に対する重量割合(重量%)を示している。
表1に示す結果より明らかなように、クロレラをパン酵母で発酵させることによって、藻類の風味や臭いを抑制して、摂取し易いクロレラ発酵物を得ることができた。また、3時間という比較的短時間で、クロレラを発酵させることができ、さらに加えて、発酵に伴うアルコールの生成を抑制できることから、フェオフォルバイトの生成を抑制することもできた。
【0042】
パン酵母の配合量は、クロレラの配合量に対して、0.1〜15重量%の範囲で設定することにより、藻類と酵母の双方について、その風味や臭いを低減することができた。また、表1に示す結果より、パン酵母の配合量は、上記範囲の中でも特に、0.5〜5重量%であることが好ましいことがわかった。
一方、パン酵母による発酵処理を施していない比較例1では、藻類の風味および臭いが強く、食べにくいという不具合があった。
【0043】
<試験例2>
実施例9
太陽光を利用した天然培養池で培養されたクロレラを、100℃のスチームで1分間ブランチング処理して、加熱殺菌処理を施した後、噴霧乾燥した。こうして得られたクロレラ粉末に対して、パン酵母(ドライイースト)3.0重量%およびトレハロース1.0重量%と、水とを配合して、混合、練り込みすることにより、水分量が40重量%に調節された混合物を得た。
【0044】
次に、上記混合物を、35℃で、3時間静置することにより、発酵させた。さらに、110℃で加熱、乾燥して、水分量を5重量%以下に調節することによって、クロレラ発酵物を得た。
実施例10
トレハロースに代えてブドウ糖を配合し、さらに、発酵時間を、3時間から2時間へと変更したこと以外は、実施例9と同様にして、クロレラ発酵物を得た。ブドウ糖の配合量は、クロレラ粉末の配合量に対して、1.0重量%となるように調節した。
【0045】
実施例11
トレハロースとともにブドウ糖をも配合し、さらに、発酵時間を、3時間から2時間へと変更したこと以外は、実施例9と同様にして、クロレラ発酵物を得た。トレハロースおよびブドウ糖の配合量は、クロレラ粉末の配合量に対して、それぞれ、1.0重量%となるように調節した。
【0046】
比較例2
パン酵母に代えてビール酵母を配合し、このビール酵母を用いて発酵させたこと以外は、実施例9と同様にして、クロレラ発酵物を得た。
味覚および臭いの評価
実施例9〜11および比較例2で得られたクロレラ発酵物について、上述したのと同じ評価方法および評価基準で、味覚および臭いを評価した。
【0047】
フェオフォルバイト含有量の評価
実施例1、実施例9〜11および比較例2において得られたクロレラ発酵物と、比較例1で得られた乾燥後の混合物とについて、それぞれ、総フェオフォルバイト量(mg%)を測定した。総フェオフォルバイト量の測定方法は、上述のとおりである。
上記の評価結果および測定結果を、下記の表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2中、パン酵母、トレハロースおよびブドウ糖の配合量は、それぞれ、クロレラ粉末の配合量に対する重量割合(重量%)を示している。また、フェオフォルバイトの含有量(mg%)は、クロレラ発酵物100g当たりの含有量(mg)を示している。なお、比較例2では、パン酵母に代えて、ビール酵母を使用した(*1)。
発酵処理に際して、トレハロースおよび/またはブドウ糖が配合された実施例9〜11では、パン酵母による発酵がスムーズに進行して、いずれの実施例においても、藻類の風味、臭いを軽減することができた。なお、比較例2では、ビール酵母で発酵させたことから、パン酵母で発酵させた実施例とは風味が異なっているものの、藻類の風味や臭いは、いずれも軽減される傾向がみられた。
【0050】
特に、ブドウ糖を配合した実施例10および11では、発酵時間が3時間から2時間へと短縮されたにもかかわらず、藻類の風味、臭いの改善効果を十分に発揮することができた。また、トレハロースを配合した実施例9および10では、クロレラ発酵物の風味、臭いが改善されるだけでなく、クロレラ発酵物に保湿性を付与することができ、しっとりした感触の発酵物を得ることができた。このため、クロレラ発酵物を錠剤などに加工する際の加工性が良好であった。
【0051】
フェオフォルバイトの含有量については、ブランチング処理を施した場合であっても、クロレラ中のクロロフィラーゼを完全に除去できないことから、実施例1、9、10および11では、発酵処理に伴って、フェオフォルバイトの含有量がわずかながら増加した。しかしながら、その増加量は、極めて少量であった。
一方、比較例2のように、発酵によってアルコールが生成する場合には、発酵処理に伴うフェオフォルバイトの含有量の増加が顕著であった。
【0052】
<試験例3>
実施例12
太陽光を利用した天然培養池で培養されたクロレラを、100℃のスチームで1分間ブランチング処理して、加熱殺菌処理を施した後、微粉砕して、噴霧乾燥した。こうして得られたクロレラ粉末に対して、パン酵母(ドライイースト)3.0重量%、ラフィノース1.0重量%およびブドウ糖1.0重量%と、水とを配合して、混合、練り込みすることにより、水分量が40重量%に調節された混合物を得た。
【0053】
次に、上記混合物を、35℃で、3時間静置することにより、発酵させた。さらに、110℃で加熱、乾燥して、水分量を5重量%以下に調節することによって、クロレラ発酵物を得た。
実施例12のクロレラ発酵物と、上記比較例1で得られた混合物とについて、その栄養成分の分析をした。分析結果を、表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
表3に示す分析結果より明らかなように、クロレラ発酵物は、ブランチング処理が施されただけのクロレラに比べて、マグネシウムなどのミネラルの含有量が上昇することがわかった。
<試験例4>
実施例13
太陽光を利用した天然培養池で培養されたクロレラを、100℃のスチームで1分間ブランチング処理して、加熱殺菌処理を施した後、噴霧乾燥した。さらに、こうして得られたクロレラ粉末を、気流粉砕機で微粉砕することにより、その粒径が3.0〜10μm程度となるように調整した。
【0056】
次に、こうして得られた、微粉砕されたクロレラ粉末を用いたこと以外は、実施例11と同様にして、クロレラ発酵物を得た。すなわち、上記の微粉砕されたクロレラ粉末に対して、パン酵母を3.0重量%、トレハロースを1.0重量%、ブドウ糖を1.0重量%の割合で、それぞれ配合して、混合、練り込みすることにより、水分量が40重量%に調整された混合物を得た。次いで、上記混合物を、35℃で、3時間静置することにより、発酵させた。さらに、110℃で加熱、乾燥して、水分量を5重量%以下に調節することによって、クロレラ発酵物を得た。
【0057】
こうして得られた発酵生成物を、実施例11で得られたクロレラ発酵物と比較したところ、発酵条件が同等であるにもかかわらず、あらかじめ微粉砕処理が施されたクロレラを用いた実施例13によれば、実施例11に比べて、クロレラ発酵物における藻類の風味や臭いを、より一層改善し、低減することができた。
<試験例5>
実施例14
太陽光を利用した天然培養池で培養されたクロレラを、100℃のスチームで1分間ブランチング処理して、加熱殺菌処理を施した後、噴霧乾燥した。こうして得られたクロレラ粉末に対して、パン酵母(ドライイースト)3.0重量%、ブドウ糖1.0重量%および乳酸菌(Enterococcus faecium FA−5)1.0重量%と、水とを配合して、混合、練り込みすることにより、水分量が40重量%に調節された混合物を得た。
【0058】
次に、上記混合物を、35℃で、3時間静置することにより、発酵させた。さらに、110℃で加熱、乾燥して、水分量を5重量%以下に調節することによって、クロレラ発酵物を得た。
こうして得られたクロレラ発酵物は、藻類の風味や臭いが、いずれも十分に低減、改善されていた。また、フェオフォルバイトの含有量は57mg%であって、低く抑えることができた。
【0059】
<試験例6>
実施例15
太陽光を利用した天然培養池で培養されたクロレラを収穫、洗浄・濃縮して、固形分含量が10重量%となるように調節した。こうして得られた懸濁液を、100℃のスチームで1分間ブランチング処理して、加熱殺菌処理を施した。さらに、ブランチング処理後の懸濁液の一部を噴霧乾燥することによって、クロレラ粉末を得た。このクロレラ粉末のフェオフォルバイト含有量は、35.27mg%であった。
【0060】
次いで、上記の、ブランチング処理後の懸濁液に、この懸濁液中のクロレラ固形分に対して、パン酵母が3.0重量%、ブドウ糖が1.0重量%、乳酸菌が1.0重量%となるように、それぞれ配合して、35℃で3時間、軽く撹拌することにより、発酵させた(液体発酵)。さらに、発酵後の懸濁液を、再度、100℃のスチームで1分間ブランチング処理して、加熱殺菌処理を施した後、噴霧乾燥によって粉末化した。こうして得られたクロレラ発酵物の粉末のフェオフォルバイト含有量は、39.42mg%であった。また、上記クロレラ発酵物は、藻類の風味や臭いが、いずれも十分に低減、改善されていた。
【0061】
なお、実施例15では、原料のクロレラ(発酵処理前)のフェオフォルバイトの含有量が18mg%を超えている。しかし、加熱殺菌処理が施されることで、クロロフィラーゼが失活されていることから、その後に発酵処理が施されたとしても、クロロフィラーゼの含有量が大幅に増加することがなく、クロレラ発酵食品中でのクロロフィラーゼの含有量については、60mg%を大きく下回る値(39.42mg%)とすることができた。
【0062】
蛋白質消化試験
次に、この実施例15で得られたクロレラ発酵物と比較例1の未発酵物とを用いて、蛋白質消化率を比較した。
試験は、予備飼育開始時に4週齢であるウイスター系ラット(雄、1群6匹、計2群)を用いて、下記の予備飼育期、第一期、第二期および第三期(各7日間)を経ることにより行った。
【0063】
予備飼育期には、各群のラットに対して、固形飼料(品番「CE−2」、日本クレア(株)製)を摂取させた。第一期および第三期には、各群のラットに対して、それぞれ、下記表4に示す組成の「無蛋白飼料」を摂取させた。また、第二期には、一方の群(A群)に対して、下記表4に示す組成の「未発酵クロレラ飼料」を摂取させ、他方の群(B群)に対して、下記表4に示す組成の「発酵クロレラ飼料」を摂取させた。
【0064】
上記無蛋白飼料、発酵クロレラ飼料および未発酵クロレラ飼料についての配合組成は、次のとおりである。
【0065】
【表4】

【0066】
表4中、無機塩類には、Philis−Hartの混合液IVを用いた。また、ビタミン混合物は、ビタミンA 50000IU、ビタミンB 20mg、ニコチン酸アミド200mg、葉酸10mg、ビタミンB12 20μg、ビタミンE 20mg、ビタミンD 4000IU、ビタミンB 30mg、ビタミンB 80mg、パントテン酸カルシウム200mg、ビタミンC 750mg、ビタミンK 4mg、塩化コリン10gおよびイノシトール1.0gに、小麦粉を加えて、全量を100gとしたものを使用した。
【0067】
次いで、各上記飼育期間中の後半3日間の糞を回収して、ミクロケルダール法により、蛋白質量を測定した。また、飼料の摂取量および蛋白質量を同時に測定することにより、蛋白質の消化率(%)を算出した(「栄養と食料」、Vol.30、pp.93−98(1977)参照)。
以上の結果を、表5に示す。
【0068】
【表5】

【0069】
表5に示す分析結果より明らかなように、発酵クロレラ飼料を摂取したラットと、未発酵クロレラを摂取したラットとには、その蛋白質消化率について有意な差異が生じており、発酵クロレラ飼料を摂取することで、蛋白質消化率が向上するという結果が得られた。
β−グルカンおよびγ−アミノ酪酸の含有量測定
さらに、上記実施例15で得られたクロレラ発酵物と比較例1の未発酵物とを用いて、β−グルカンおよびγ−アミノ酪酸の含有量を比較した。
【0070】
・β−グルカンの含有量の測定法
実施例15のクロレラ発酵物および比較例1の未発酵物からそれぞれ採取されたサンプルに対し、リン酸緩衝溶液(pH6.0)を加えて、懸濁させた後、耐熱性アミラーゼを加えて、静置することにより、サンプルを消化させた。次いで、アルカリを加えて、pHを7.5に調整した後、プロテアーゼを加えて、サンプルを消化させた。さらに、酸を加えて、pHを4.3に調整して、アミログルコシダーゼを加えて、消化させた。こうして得られた消化物に対して、95%エタノールを加え、沈殿物をろ別した。次いで、ろ別した沈殿物を硫酸で加水分解した後、中和して、ブドウ糖の含有量を測定した。また、ブドウ糖の含有量の測定値を用いて、下記式により、β−グルカンの含有量(mg%)を求めた。
【0071】
β−グルカン含有量(mg%)=ブドウ糖の含有量(g/100g)×0.9
・γ−アミノ酪酸の含有量の測定法
実施例15のクロレラ発酵物および比較例1の未発酵物からそれぞれ採取されたサンプルを容器に収容して、20%塩酸を加えた後、上記容器内を脱気して、封管した。こうして、サンプルを加水分解した後、アミノ酸自動分析器で測定することにより、サンプル中のγ−アミノ酪酸の含有量(mg%)を求めた。
【0072】
以上の結果を表6に示す。
【0073】
【表6】

【0074】
表6に示すとおり、発酵処理を施すことにより、β−グルカンおよびγ−アミノ酪酸の含有量を著しく増大させ得ることが認められた。すなわち、発酵処理を経ることにより、クロレラ特有の風味や臭いを改善できるだけでなく、蛋白消化率の向上や、β−グルカン、γ−アミノ酪酸といった生理機能成分の含有量の増加といった効果を得ることができ、食品としてより好ましいものへと変化させ得ることがわかった。
【0075】
<試験例7>
実施例16
太陽光を利用した天然培養池に鉄分を添加して、クロレラを培養した。得られたクロレラの鉄分含有量は、300mg%以上であった。なお、太陽光を利用した天然培養地で培養されたクロレラの鉄分含有量は、通常、80〜200mg%である。上記の鉄分含有量が300mg%以上のクロレラを収穫、洗浄・濃縮して、懸濁液中の固形分含有量が10重量%となるように調整した。
【0076】
次いで、上記懸濁液に対して、100℃のスチームで1分間ブランチング処理し、こうして得られた懸濁液の固形分に対して、パン酵母3.0重量%および乳酸菌1.0重量%を加え、35℃で3時間、軽く攪拌することにより、発酵させた。発酵後、懸濁液を100℃のスチームで1分間加熱することにより、殺菌した後、噴霧乾燥によって、クロレラ粉末を得た。
【0077】
こうして得られたクロレラ粉末は、鉄分の含有量が321.1mg%であり、藻類特有の風味や臭いが改善されていた。また、上記のクロレラ粉末は、フェオフォルバイトの含有量が42.29mg%であって、発酵処理に伴うフェオフォルバイトの増加量が極めて低く抑えられていた。
実施例17
太陽光を利用した天然培養池に鉄分および亜鉛を添加して、クロレラを培養した。得られたクロレラの鉄分含有量は、300mg%以上であり、亜鉛含有量は、200mg%以上であった。なお、太陽光を利用した天然培養地で培養されたクロレラの亜鉛含有量は、通常、2〜4mg%である。上記の鉄分含有量が300mg%以上、亜鉛含有量が200mg%以上のクロレラを収穫、洗浄・濃縮して、懸濁液中の固形分含有量が10重量%となるように調整した。
【0078】
次いで、上記懸濁液を用いたこと以外は、実施例16と同様にして、ブランチング処理、発酵、加熱殺菌および噴霧乾燥をすることにより、クロレラ粉末を得た。
こうして得られたクロレラ粉末は、鉄分の含有量が334.5mg%、亜鉛の含有量が287.7mg%であり、藻類特有の風味や臭いが改善されていた。また、上記のクロレラ粉末は、フェオフォルバイトの含有量が42.29mg%であって、発酵処理に伴うフェオフォルバイトの増加量が極めて低く抑えられていた。
【0079】
<試験例8>
比較例3
太陽光を利用した天然培養池で培養されたクロレラを収穫し、冷却下(4℃)、4℃の水を用いて洗浄・濃縮を繰り返すことにより、遊離フェオフォルバイト値が0mg%であるクロレラ懸濁液(固形分含量が10重量%)を得た。
【0080】
次いで、上記懸濁液に対し、100℃のスチームで1分間ブランチング処理をすることにより、加熱殺菌した後、噴霧乾燥することにより、クロレラの粉末を得た。
実施例18
比較例3と同様にして得られた、遊離フェオフォルバイト値が0mg%であるクロレラ懸濁液に対し、100℃のスチームで1分間ブランチング処理をすることにより、加熱殺菌した。次いで、クロレラ懸濁液の固形分量に対して、パン酵母(ドライイースト)3.0重量%、ブドウ糖1.0重量%、乳酸菌(Bifidobacterium longum BB536)1.0重量%および水を配合して、35℃で、3時間静置することにより、発酵させた。こうして得られた発酵溶液を、100℃のスチームで1分間加熱することにより、殺菌した後、噴霧乾燥をすることにより、クロレラ発酵物の粉末を得た。
【0081】
実施例19
比較例3と同様にして得られた、遊離フェオフォルバイト値が0mg%であるクロレラ懸濁液を使用し、この懸濁液にブランチング処理を施さなかったこと以外は、実施例18と同様にして、パン酵母、ブドウ糖、乳酸菌および水の配合、発酵、加熱殺菌および噴霧乾燥をすることにより、クロレラ発酵物の粉末を得た。
【0082】
実施例20
太陽光を利用した天然培養池で培養されたクロレラを収穫し、冷却下(4℃)、4℃の水を用いて洗浄・濃縮を繰り返すことにより、固形分含量が10重量%であるクロレラ懸濁液を得た。なお、洗浄回数を比較例3よりも少なく設定したことにより、洗浄後のクロレラの遊離フェオフォルバイト値は、4mg%であった。
【0083】
こうして得られた懸濁液を使用し、この懸濁液にブランチング処理を施さなかったこと以外は、実施例18と同様にして、パン酵母、ブドウ糖、乳酸菌および水の配合、発酵、加熱殺菌、噴霧乾燥をすることにより、クロレラ発酵物の粉末を得た。
実施例21
太陽光を利用した天然培養池で培養されたクロレラを収穫し、冷却下(4℃)、4℃の水を用いて洗浄・濃縮を繰り返すことにより、固形分含量が10重量%であるクロレラ懸濁液を得た。なお、洗浄回数を比較例3よりも少なく設定したことにより、洗浄後のクロレラの遊離フェオフォルバイト値は、5mg%であった。
【0084】
こうして得られた懸濁液を使用し、この懸濁液にブランチング処理を施さなかったこと以外は、実施例18と同様にして、パン酵母、ブドウ糖、乳酸菌および水の配合、発酵、加熱殺菌、噴霧乾燥をすることにより、クロレラ発酵物の粉末を得た。
実施例22
太陽光を利用した天然培養池で培養されたクロレラを収穫し、冷却下(4℃)、4℃の水を用いて洗浄・濃縮を繰り返すことにより、固形分含量が10重量%であるクロレラ懸濁液を得た。なお、洗浄回数を比較例3よりも少なく設定したことにより、洗浄後のクロレラの遊離フェオフォルバイト値は、10mg%であった。
【0085】
こうして得られた懸濁液を使用し、この懸濁液にブランチング処理を施さなかったこと以外は、実施例18と同様にして、パン酵母、ブドウ糖、乳酸菌および水の配合、発酵、加熱殺菌、噴霧乾燥をすることにより、クロレラ発酵物の粉末を得た。
比較例4
太陽光を利用した天然培養池で培養されたクロレラを収穫し、冷却下(4℃)、4℃の水を用いて洗浄・濃縮を繰り返すことにより、固形分含量が10重量%であるクロレラ懸濁液を得た。なお、洗浄回数を比較例3よりも少なく設定したことにより、洗浄後のクロレラの遊離フェオフォルバイト値は、20mg%であった。
【0086】
こうして得られた懸濁液を使用し、この懸濁液にブランチング処理を施さなかったこと以外は、実施例18と同様にして、パン酵母、ブドウ糖、乳酸菌および水の配合、発酵、加熱殺菌、噴霧乾燥をすることにより、クロレラ発酵物の粉末を得た。
フェオフォルバイトの含有量の評価
実施例18〜22および比較例3〜4について、洗浄処理後のクロレラ懸濁液における遊離フェオフォルバイトの含有量(mg%)と総フェオフォルバイトの含有量(mg%)とを測定した。遊離フェオフォルバイトの含有量(mg%)および総フェオフォルバイトの含有量(mg%)の測定方法は、いずれも、上述のとおりである。
【0087】
また、クロレラ発酵物(実施例18〜22および比較例4)と、加熱殺菌処理後のクロレラ懸濁液(比較例3)とについて、遊離フェオフォルバイトの含有量(mg%)と総フェオフォルバイトの含有量(mg%)とを測定した。
葉緑素の含有量の評価
実施例18〜22および比較例4で得られたクロレラ発酵物(粉末)と、比較例3で得られたクロレラ粉末とから、サンプルをそれぞれ5〜10mgを採取し、各サンプルに水10mLを加えて、時々攪拌しながら、30分間放置した。次いで、得られた懸濁液に、アルカリ性ピリジン溶液5mLを加えて15分間放置した後、遠心分離処理を施して、上澄み液を採取した。次に、遠心分離後の残渣に対し、アルカリ性ピリジン溶液3mLを加えて、15分間放置後、遠心分離処理を施して、上澄み液を採取し、先に得られた上澄み液と混合した。さらに、遠心分離後の残渣に対して、上記と同様の処理を繰り返すことにより、上澄み液の総量を10mLとした。なお、上記のアルカリ性ピリジン溶液には、水酸化ナトリウム1.4gと、ピリジン16.6gとに水を加えて、全量が100mLに調整されたものを用いた。
【0088】
次に、上記上澄み液について、波長419nmにおける吸光度E419と、波長454nmにおける吸光度E454とを測定して、下記式(1)により、サンプル1mgあたりの葉緑素の含有量(μg)を算出した。
なお、吸光度E419と、E454とは、それぞれの測定波長において、ブランクセルの透過光強度Iと、サンプルセルの透過光強度Iとを用いて、下記式(2)により算出された値である。
【0089】
【数1】

【0090】
風味の評価
実施例18〜22および比較例4で得られたクロレラ発酵物と、比較例3で得られた加熱殺菌処理後のクロレラ懸濁液とについて、実際に食したときの風味、臭いについて、評価を行った。評価は、クロレラ本来の海藻臭が顕著に残存していた場合をBとし、海藻臭が低減されて、あまり感じられなくなっている場合をAとして、2段階で評価した。
【0091】
以上の結果を表7に示す。
【0092】
【表7】

【0093】
表7中、「フェオフォルバイトの含有量」について「総量」とは、“総フェオフォルバイト量(mg%)”を示す。また、葉緑素含有量は、g%に換算した値である。
表7に示すように、発酵処理前において、クロレラ懸濁液の遊離フェオフォルバイトの含有量を10mg%に低減させておくことにより、発酵処理前にブランチング処理を施さなくても、フェオフォルバイトの含有量が低い(具体的には、発酵処理後において、遊離フェオフォルバイト含有量が60mg%以下、総フェオフォルバイト量が80mg%以下である)クロレラ発酵物を得ることができた。
【0094】
また、実施例18と、実施例19〜22との対比より、発酵処理前のブランチング処理を省略することによって、発酵処理および加熱殺菌処理後においても、葉緑素の含有量を維持することができた。
なお、実施例18〜22および比較例4のクロレラ発酵物、および、比較例3の混合物は、いずれも、一般生菌数が、3000cfu/mL以下であって、大腸菌群数が陰性であった。
【0095】
<試験例9>
太陽光を利用した天然培養池で培養されたクロレラを収穫、洗浄・濃縮して、固形分含量が10重量%となるように調節し、さらに、こうして得られた懸濁液を、冷却下(4℃)、4℃の水で繰り返し洗浄した。この際、洗浄回数を適宜調節することにより、洗浄後の一般生菌数が300cfu/mL未満である試料1、洗浄後の一般生菌数が約3000cfu/mLである試料2、および、洗浄後の一般生菌数が約10000cfu/mLである試料3の、計3種の試料(クロレラ懸濁液)を調製した。
【0096】
次いで、上記試料1〜3のクロレラ懸濁液のクロレラの固形分量に対して、それぞれ、パン酵母(ドライイースト)3.0重量%、ブドウ糖1.0重量%、乳酸菌(Bifidobacterium longum BB536)1.0重量%および水を配合して、35℃で、3時間静置することにより、発酵させた。こうして得られた発酵溶液を、100℃のスチームで1分間加熱することにより、殺菌した後、噴霧乾燥をすることにより、クロレラの水分量を5重量%以下に調節して、クロレラ発酵物を得た。
【0097】
上記クロレラ発酵物のうち、上記試料1を原料とするものについては、発酵処理後の懸濁液から、クロレラの海藻臭と、発酵臭が感じられたものの、噴霧乾燥後には、これらの臭いが大幅に改善されていた。
一方、上記試料2を原料とするクロレラ発酵物は、発酵処理後の懸濁液および噴霧乾燥後のクロレラ発酵物のいずれについても、クロレラの海藻臭と、発酵臭が感じられたが、いずれの臭いも、実際の食用に際して問題のない程度であった。
【0098】
また、上記試料3を原料とするクロレラ発酵物については、発酵処理後の懸濁液および噴霧乾燥後のクロレラ発酵物のいずれについても、腐敗臭が感じられた。
<製造例>
製造例1
実施例1および実施例14で得られたクロレラ発酵物各30kgと、賦形剤(バインダ)としてのキサンタンガム0.15kgとを、吹き上げ造粒機に投入して、それぞれ、顆粒状に成形した。
【0099】
こうして得られた顆粒は、いずれも、藻類の風味や臭いが無く、美味しく、食べ易いものであった。
製造例2
実施例1および実施例14で得られたクロレラ発酵物を、それぞれ、打錠機にて成型して、円形の錠剤(1錠200mg)を製造した。
【0100】
こうして得られた錠剤は、いずれも、藻類の風味や臭いが無く、美味しく、食べ易いものであった。
本発明は、以上の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲において、種々の設計変更を施すことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明のクロレラ発酵食品の製造方法は、摂取し易いクロレラ発酵食品を、簡易な処理によって製造する方法として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離フェオフォルバイトの含有量が18mg%以下であり、かつ、一般生菌数が8000cfu/mL以下である大腸菌群数陰性のクロレラを用いて、前記クロレラをパン酵母で発酵させることを特徴とする、クロレラ発酵食品の製造方法。
【請求項2】
パン酵母による発酵前のクロレラが、0〜10℃の水を用いて洗浄処理が施されたものであることを特徴とする、請求項1に記載のクロレラ発酵食品の製造方法。
【請求項3】
加熱殺菌処理が施されたクロレラをパン酵母で発酵させることを特徴とする、クロレラ発酵食品の製造方法。
【請求項4】
さらに、糖類の存在下で発酵させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のクロレラ発酵食品の製造方法。
【請求項5】
さらに、乳酸菌の存在下で発酵させることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のクロレラ発酵食品の製造方法。
【請求項6】
前記パン酵母の配合量が、前記クロレラの配合量に対して0.1〜15重量%であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のクロレラ発酵食品の製造方法。

【公開番号】特開2006−180868(P2006−180868A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240251(P2005−240251)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(594123608)株式会社京都栄養化学研究所 (1)
【出願人】(000231637)日本製粉株式会社 (144)
【Fターム(参考)】