説明

クローディン媒介機能の調節および皮膚疾患の処置に使用するための、プロスタグランジン誘導体を含む医薬組成物

本開示内容は、哺乳類対象におけるクローディン媒介機能を調節するための医薬組成物であって、有効量の特定の脂肪酸誘導体をその必要のある対象に投与することを含む、医薬組成物。本発明はまた、上記と同一の脂肪酸誘導体を用いて、哺乳類対象における皮膚疾患の処置方法およびクローディンの発現を調節するための方法を開示するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クローディン媒介機能を調節するための方法および組成物に関する。本発明はまた、皮膚疾患を処置するための方法および組成物に関する。本発明は、さらに哺乳類対象におけるクローディンの発現を調節するための方法または組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
上皮細胞シートは、タイト・ジャンクション(TJ)で構成される細胞間バリヤーによる様々な組織の区画化およびその局所ホメオスタシスの維持、器官の形態形成の決定ならびにその機能調節における重要な役割を有する。
【0003】
TJとは、様々な細胞タイプおよび組織に存在するバリヤーを形成している細胞−細胞の密着であって、TJはバリヤー活性または上皮細胞シートからの溶質の透過性を調節する。4種の異なるタイプの完全な膜タンパク質が、TJに局在することが判ってきた:オクルディン、ジャンクショナル細胞接着因子、クローディン、およびトリセルリン。
【0004】
細胞間隙のバリヤーを形成するタイト・ジャンクション(TJ)・ストランドの主成分であるクローディンは、マウスおよびヒトでは少なくとも24のファミリーメンバーから成り、現在、機能的なTJストランドを主に構成すると考えられている。クローディンの組合せにより、細胞間の細胞間隙透過性に関するバリヤーの特定の性質が決定されるという証拠が積み重ねられてきた。
【0005】
細胞培養物およびマウスにおける近年のクローディンの機能分析から、クローディンを基にしたTJは、上皮の微小環境の調節において重要な機能を有し、様々な生物学的機能、例えば細胞増殖の調節について重要であるということが示唆されている。
【0006】
連続的なクローディンを基にしたTJが表皮で生じ、このクローディンを基にしたタイト・ジャンクションは、哺乳類の皮膚のバリヤー機能として極めて重要であることが報告されている(J Cell Biol. 2002 Mar 18; 156(6), 1099−1111、引用された文献は、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0007】
クローディン−15は、他のタイプのクローディンとの多様な組合せにて多くのマウスの器官で発現されるクローディンの1つのタイプである。発明者は、イオン伝導度などの微小環境を編成するクローディン−15−を基にしたTJの形成が、正常な大きさの小腸の形態形成に重要であることを報告した(Gastroenterology 2008;134:523−534、引用された文献は参照により本明細書に組み込まれる)。
【0008】
プロスタグランジンン類(以後、PG(類)と示す)は、ヒトまたは他の哺乳類の組織または器官に含まれており、広範な生理学的活性を示す脂肪酸誘導体、即ち有機カルボン酸分類群のメンバーである。天然に存在するPG類(天然PG類)は、一般的に式(A)に示すプロスタン酸骨格を有する:
【化1】

【0009】
一方、天然PG類の幾つかの合成類似体は修飾された骨格を持っている。天然PG類は5員環部分の構造によって、PGA類、PGB類、PGC類、PGD類、PGE類、PGF類、PGG類、PGH類、PGI類およびPGJ類に分類され、さらに炭素鎖部分の不飽和結合の数と位置によって、以下の3つのタイプに分類される。
下付1:13,14−不飽和−15−OH
下付2:5,6−および13,14−ジ不飽和−15−OH
下付3:5,6−、13,14−および17,18−トリ不飽和−15−OH。
【0010】
さらに、PGF類は9位のヒドロキシ基の配置によってαタイプ(ヒドロキシ基がα配置である)およびβタイプ(ヒドロキシ基がβ配置である)に分類される。
【0011】
PG類は、様々な薬理学的および生理学的活性、例えば、血管拡張、炎症の誘導、血小板凝集、子宮筋の刺激、腸筋肉の刺激、抗潰瘍効果などを有することが知られている。
【0012】
幾つかの15−ケト−PG類(すなわち、ヒドロキシ基の代わりに15位にオキソ基を持つ)および13,14−ジヒドロ−15−ケト−PG類(すなわち、13および14位間に単結合を持つ)は、天然PG類の代謝中に酵素の作用によって自然に生成する物質として知られる脂肪酸誘導体である。
【0013】
ウエノらによる米国特許出願公開番号2006/0281818 (引用された文献は参照により本明細書に組み込まれる)は、特定のプロスタグランジン化合物が胃腸粘膜のバリヤー機能の回復をもたらすTJの立体配座変化に対して有意な効果を有することを記述している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許出願公開番号2006/0281818
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】J Cell Biol. 2002 Mar 18; 156(6), 1099−1111
【非特許文献2】Gastroenterology 2008;134:523−534
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
(発明の開示)
本発明は、哺乳類対象におけるクローディン媒介機能を調節するための方法に関し、有効量の式(I)によって表される脂肪酸誘導体を、それを必要とする対象に投与することを含む:
【化2】

[式中、L、MおよびNは、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、ヒドロキシ(低級)アルキル、低級アルカノイルオキシまたはオキソであり、ここでLおよびMの少なくとも1つは水素以外の基であり、5員環は少なくとも1つの二重結合を有してもよく;
Aは、−CH、または−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはそれらの官能性誘導体であり;
Bは、単結合、−CH−CH−、−CH=CH−、−C≡C−、−CH−CH−CH−、−CH=CH−CH−、−CH−CH=CH−、−C≡C−CH−または−CH−C≡C−であり;
Zは、
【化3】

または単結合であり、
ここで、RおよびRは、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシまたはヒドロキシ(低級)アルキルであり、RおよびRが同時にヒドロキシおよび低級アルコキシであることはなく;
は、非置換、またはハロゲン、低級アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環基により置換された、二価の飽和または不飽和の低または中級の脂肪族炭化水素残基であり、脂肪族炭化水素中の少なくとも1つの炭素原子は所望により酸素、窒素または硫黄により置換されており;そして
Raは、非置換、またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基によって置換された、飽和または不飽和の低または中級の脂肪族炭化水素残基;低級アルコキシ;低級アルカノイルオキシ;シクロ(低級)アルキル;シクロ(低級)アルキルオキシ;アリール;アリールオキシ;複素環基;複素環オキシ基である]。
【0017】
本発明は、哺乳類対象における皮膚疾患を処置するための方法であって、その必要のある患者に、有効量の式(I)に示される脂肪酸誘導体を投与することを含む方法に関する。
【0018】
本発明はまた、哺乳類対象におけるクローディンの発現を調節するための方法であって、その必要のある患者に有効量の式(I)に示される脂肪酸誘導体を投与することを含む方法に関する。
【0019】
別の態様において、本発明は、哺乳類対象におけるクローディン媒介機能を調節するための、式(I)に示される脂肪酸誘導体を含む医薬組成物に関する。
【0020】
本発明は、哺乳類対象における皮膚疾患を処置するための、式(I)に示される脂肪酸誘導体を含む医薬組成物に関する。
【0021】
本発明はまた、哺乳類対象におけるクローディンの発現を調節するための、式(I)に示される脂肪酸誘導体を含む医薬組成物に関する。
【0022】
別の態様において、本発明は、哺乳類対象におけるクローディン媒介機能を調節するための医薬組成物の製造のための式(I)に示される脂肪酸誘導体の使用を提供する。
【0023】
また、本発明は、皮膚疾患を処置するための医薬組成物の製造のための式(I)に示される脂肪酸誘導体の使用を提供する。
【0024】
本発明はまた、哺乳類対象におけるクローディンの発現を調節するための医薬組成物の製造のための式(I)に示される脂肪酸誘導体の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、メスのマウスの腸におけるタイト・ジャンクション透過性および選択性に対する化合物A [(−)−7−[(2R,4aR,5R,7aR)−2−(1,1−ジフルオロペンチル)−2−ヒドロキシ−6−オキソオクタヒドロシクロペンタ[b]ピラン−5−イル]ヘプタン酸]の効果を示す。
【図2】図2は、マウスの腸におけるクローディン−15の発現に対する化合物Aの効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(発明の詳細な説明)
本明細書において用いる脂肪酸誘導体の命名は、上記式(A)に示したプロスタン酸の番号付け系に基づく。
【0027】
式(A)は、C−20炭素原子の基本骨格を示すが、本発明は同じ炭素原子数を持つものに限定されない。式(A)において、PG化合物の基本骨格を構成する炭素原子の番号は、カルボン酸から始まり(1と番号付け)、5員環に向かって2〜7をα鎖上の炭素原子に、8〜12を5員環の炭素原子に、13〜20をω鎖上の炭素原子に付している。炭素原子数がα鎖上で減少する場合、2位から順次番号を抹消し;α鎖上で炭素原子数が増加する場合、2位にカルボキシ基(C−1)に代わる各置換基を有する置換化合物として化合物を命名する。同様に、ω鎖上で炭素原子数が減少する場合、20位から番号を順次抹消し;ω鎖上で炭素原子数が増加する場合、20位を超える炭素原子は置換基として命名する。化合物の立体配置は、特に断りのない限り、上記式(A)と同じである。
【0028】
一般に、PGD、PGEおよびPGFなる用語はそれぞれ、9位および/または11位にヒドロキシ基を有するPG化合物を表すが、本明細書および特許請求の範囲では、9位および/または11位にヒドロキシ基以外の置換基を有するものも含む。かかる化合物は9−デオキシ−9−置換−PG化合物または11−デオキシ−11−置換−PG化合物と称する。ヒドロキシ基の代わりに水素を有するPG化合物は、単に9−または11−デオキシ−PG化合物と命名する。
【0029】
上述のように、PG化合物の命名はプロスタン酸骨格に基づいている。しかし、化合物がプロスタグランジンと類似の部分的構造を有する場合には、「PG」の略語を利用することがある。従って、α鎖の炭素原子が2つ延長されたPG化合物、すなわち、α鎖の炭素原子数が9であるPG化合物は、2−デカルボキシ−2−(2−カルボキシエチル)−PG化合物と命名する。同様に、α鎖の炭素原子数が11であるPG化合物は、2−デカルボキシ−2−(4−カルボキシブチル)−PG化合物と命名する。また、ω鎖の炭素原子が2つ延長されたPG化合物、すなわち、ω鎖の炭素原子数が10であるPG化合物は、20−エチル−PG化合物と命名する。なお、これらの化合物はIUPAC命名法に基づいて命名することも可能である。
【0030】
類似体(置換誘導体を含む)または誘導体の例は、α鎖末端のカルボキシ基がエステル化されたPG化合物;α鎖が延長された化合物;それらの生理学的に許容される塩;2−3位に二重結合を、または5−6位に三重結合を有する化合物、3、5、6、16、17、18、19および/または20位に置換基を有する化合物;9位および/または11位にヒドロキシ基の代わりに低級アルキルまたはヒドロキシ(低級)アルキル基を有する化合物などである。
【0031】
本発明によると、3、17、18および/または19位の好ましい置換基には、1−4の炭素原子を有するアルキル、特にメチルおよびエチルなどがある。16位の好ましい置換基には、低級アルキル、例えばメチルおよびエチル、ヒドロキシ、ハロゲン原子、例えば塩素およびフッ素、およびアリールオキシ、例えばトリフルオロメチルフェノキシなどがある。17位の好ましい置換基には、低級アルキル、例えばメチルおよびエチル、ヒドロキシ、ハロゲン原子、例えば塩素およびフッ素、アリールオキシ、例えばトリフルオロメチルフェノキシなどがある。20位の好ましい置換基には、飽和または不飽和の低級アルキル、例えばC1−4アルキル、低級アルコキシ、例えばC1−4アルコキシ、および低級アルコキシアルキル、例えばC1−4アルコキシ−C1−4アルキルなどがある。5位の好ましい置換基には、ハロゲン原子、例えば塩素およびフッ素などがある。6位の好ましい置換基には、カルボニル基を形成するオキソ基などがある。9位および/または11位にヒドロキシ、低級アルキルまたはヒドロキシ(低級)アルキル置換基を有するPG類の立体配置は、α、βまたはそれらの混合であり得る。
【0032】
さらに、上記の類似体または誘導体は、天然のPG類よりもω鎖が短く、そのω鎖末端にアルコキシ、シクロアルキル、シクロアルキルオキシ、フェノキシまたはフェニル基を有する化合物であってもよい。
【0033】
本発明において脂肪酸誘導体として用いられる好ましい化合物は式(II)によって表される:
【化4】


[式中、LおよびMは水素原子、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、ヒドロキシ(低級)アルキル、低級アルカノイルオキシまたはオキソであり、ここでLおよびMの少なくとも1つは水素以外の基であり、5員環は1以上の二重結合を有してもよく;
Aは、−CH、または−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはそれらの官能性誘導体であり;
Bは、単結合、−CH−CH−、−CH=CH−、−C≡C−、−CH−CH−CH−、−CH=CH−CH−、−CH−CH=CH−、−C≡C−CH−または−CH−C≡C−であり;
Zは、
【化5】

または単結合であり;
ここで、RおよびRは、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシまたはヒドロキシ(低級)アルキルであり、RおよびRが同時にヒドロキシおよび低級アルコキシであることはなく;
およびXは、水素、低級アルキル、またはハロゲンであり;
は、非置換、またはハロゲン、低級アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環基により置換された、二価の飽和または不飽和の低または中級の脂肪族炭化水素残基であり、脂肪族炭化水素中の少なくとも1つの炭素原子は所望により酸素、窒素または硫黄により置換されており;
は、単結合または低級アルキレンであり;そして
は、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基である]。
【0034】
上式において、RおよびRaについての定義における「不飽和」なる用語は、主鎖および/または側鎖の炭素原子間に孤立して、分離してまたは連続して存在する、少なくとも1つまたはそれ以上の二重結合および/または三重結合を含むことを意図している。通常の命名法に従って、2つの連続した位置の間の不飽和結合は、2つの位置の低い数を表示することによって表され、2つの遠位の間の不飽和結合は、その両方の位置を表示することによって表される。
【0035】
「低または中級の脂肪族炭化水素」なる用語は、1〜14の炭素原子(側鎖においては、1〜3の炭素原子が好ましい)、好ましくは1〜10、特に1〜8の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖の炭化水素基を意味する。
【0036】
「ハロゲン原子」なる用語は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素を包含する。
【0037】
「低級」なる用語は、本明細書を通して、特に断りのない限り、1〜6の炭素原子を有する基を含むことを意図する。
【0038】
「低級アルキル」なる用語は、1〜6の炭素原子を含有する、直鎖または分岐鎖の飽和炭化水素基を意味し、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチルおよびヘキシルを含む。
【0039】
「低級アルキレン」なる用語は、1〜6の炭素原子を含有する、直鎖または分枝鎖の、二価の飽和炭化水素基を意味し、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、t−ブチレン、ペンチレンおよびヘキシレンを含む。
【0040】
「低級アルコキシ」なる用語は、低級アルキル−O−の基を意味し、ここで低級アルキルは上記に定義されるとおりである。
【0041】
「ヒドロキシ(低級)アルキル」なる用語は、少なくとも1つのヒドロキシ基、例えばヒドロキシメチル、1−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシエチルおよび1−メチル−1−ヒドロキシエチルにより置換されている、上記に定義される低級アルキルを意味する。
【0042】
「低級アルカノイルオキシ」なる用語は、式RCO−O−により表される基を意味し、ここでRCO−は、上記に定義される低級アルキル基の酸化により形成されるアシル基、例えばアセチルである。
【0043】
「シクロ(低級)アルキル」なる用語は、上記に定義されるが、3以上の炭素原子を含有する、低級アルキル基の環化により形成される環状基を意味し、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルを含む。
【0044】
「シクロ(低級)アルキルオキシ」なる用語は、シクロ(低級)アルキル−O−の基を意味し、ここでシクロ(低級)アルキルは上記に定義されるとおりである。
【0045】
「アリール」なる用語は、非置換または置換芳香族炭化水素環(好ましくは単環式の基)、例えば、フェニル、トリル、キシリルを含み得る。置換基の例は、ハロゲン原子およびハロ(低級)アルキルであり、ここでハロゲン原子および低級アルキルは上記に定義される通りである。
【0046】
「アリールオキシ」なる用語は、式ArO−により表される基を意味し、ここでArは上記に定義されるアリールである。
【0047】
「複素環基」なる用語は、所望により置換された炭素原子、および、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選択される1種または2種のヘテロ原子を1〜4、好ましくは1〜3個有する、5〜14、好ましくは5〜10員環の、単環式から三環式の、好ましくは単環式の複素環基を含み得る。複素環基の例は、フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、フラザニル、ピラニル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジル、ピラジニル、2−ピロリニル、ピロリジニル、2−イミダゾリニル、イミダゾリジニル、2−ピラゾリニル、ピラゾリジニル、ピペリジノ、ピペラジニル、モルホリノ、インドリル、ベンゾチエニル、キノリル、イソキノリル、プリニル、キナゾリニル、カルバゾリル、アクリジニル、フェナントリジニル、ベンズイミダゾリル、ベンズイミダゾリニル、ベンゾチアゾリル、フェノチアジニルを含む。この場合、置換基の例は、ハロゲン、およびハロゲン置換低級アルキル基を含み、ここでハロゲン原子および低級アルキル基は上記の通りである。
【0048】
「複素環オキシ基」なる用語は、式HcO−により表される基を意味し、ここでHcは上記に記載の複素環基である。
【0049】
Aの「官能性誘導体」なる用語は、塩(好ましくは医薬上許容される塩)、エーテル、エステルおよびアミドを含む。
【0050】
好適な「医薬上許容される塩」は、慣用される非毒性塩、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)、アンモニウム塩等、の無機塩基との塩;または、例えばアミン塩(例えばメチルアミン塩、ジメチルアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、ベンジルアミン塩、ピペリジン塩、エチレンジアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、トリス(ヒドロキシメチルアミノ)エタン塩、モノメチル−モノエタノールアミン塩、プロカイン塩、カフェイン塩等)、塩基性アミノ酸塩(例えばアルギニン塩、リジン塩等)、テトラアルキルアンモニウム塩等、の有機塩基との塩を含む。これらの塩類は、例えば対応する酸および塩基から常套の反応によって、または塩交換によって調製され得る。
【0051】
エーテルの例には、アルキルエーテル、例えば、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、イソブチルエーテル、t−ブチルエーテル、ペンチルエーテル、1−シクロプロピルエチルエーテル等の低級アルキルエーテル;およびオクチルエーテル、ジエチルヘキシルエーテル、ラウリルエーテル、セチルエーテル等の中または高級アルキルエーテル;オレイルエーテル、リノレニルエーテル等の不飽和エーテル;ビニルエーテル、アリルエーテル等の低級アルケニルエーテル;エチニルエーテル、プロピニルエーテル等の低級アルキニルエーテル;ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシイソプロピルエーテル等のヒドロキシ(低級)アルキルエーテル;メトキシメチルエーテル、1−メトキシエチルエーテル等の低級アルコキシ(低級)アルキルエーテル;フェニルエーテル、トシルエーテル、t−ブチルフェニルエーテル、サリチルエーテル、3,4−ジメトキシフェニルエーテル、ベンズアミドフェニルエーテル等の所望により置換されたアリールエーテル;およびベンジルエーテル、トリチルエーテル、ベンズヒドリルエーテル等のアリール(低級)アルキルエーテルなどがある。
【0052】
エステルの例には、脂肪族エステル、例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、t−ブチルエステル、ペンチルエステル、1−シクロプロピルエチルエステル等の低級アルキルエステル;ビニルエステル、アリルエステル等の低級アルケニルエステル;エチニルエステル、プロピニルエステル等の低級アルキニルエステル;ヒドロキシエチルエステル等のヒドロキシ(低級)アルキルエステル;メトキシメチルエステル、1−メトキシエチルエステル等の低級アルコキシ(低級)アルキルエステル;および、例えばフェニルエステル、トリルエステル、t−ブチルフェニルエステル、サリチルエステル、3,4−ジメトキシフェニルエステル、ベンズアミドフェニルエステル等の所望により置換されたアリールエステル;およびベンジルエステル、トリチルエステル、ベンズヒドロキシルエステル等のアリール(低級)アルキルエステルなどがある。
【0053】
Aのアミドは、式−CONR'R''で表される基を意味し、ここでR'およびR''はそれぞれ水素、低級アルキル、アリール、アルキルもしくはアリールスルホニル、低級アルケニルおよび低級アルキニルであり、例えば、メチルアミド、エチルアミド、ジメチルアミド、ジエチルアミド等の低級アルキルアミド;アニリドおよびトルイジド等のアリールアミド;メチルスルホニルアミド、エチルスルホニルアミドおよびトリルスルホニルアミド等のアルキルもしくはアリールスルホニルアミド等を含む。
【0054】
好ましいLおよびMの例には、水素、ヒドロキシおよびオキソが含まれ、特に、Mがヒドロキシまたは水素であり、Lがオキソである。
【0055】
好ましいAの例は、−COOH、その医薬上許容される塩、エステルまたはアミドである。
【0056】
好ましいXおよびXの例は、両方がハロゲン原子、より好ましくはフッ素原子であり、16,16−ジフルオロ型と称される。
【0057】
好ましいRは、1−10の炭素原子、好ましくは6−10の炭素原子を含有する炭化水素残基である。さらに、脂肪族炭化水素中の少なくとも1つの炭素原子は、所望により酸素、窒素または硫黄により置換される。
【0058】
の例には、例えば、以下の基が含まれる:
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH=CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH=CH−、
−CH−C≡C−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−O−CH−、
−CH−CH=CH−CH−O−CH−、
−CH−C≡C−CH−O−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH=CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH=CH−、
−CH−C≡C−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH(CH)−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH(CH)−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH=CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH=CH−、
−CH−C≡C−CH−CH−CH−CH−CH−、および
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH(CH)−CH−。
【0059】
好ましいRaは、1−10の炭素原子、より好ましくは1−8の炭素原子を含有する炭化水素である。Raは1の炭素原子を有する1または2の側鎖を有し得る。
【0060】
好ましい化合物には、式(I)においてRaがハロゲンにより置換され、および/またはZがC=Oであるもの、または式(II)においてXおよびXの1つがハロゲンにより置換され、および/またはZがC=Oであるものなどがある。
【0061】
好ましい実施態様の例は、(−)−7−[(2R,4aR,5R,7aR)−2−(1,1−ジフルオロペンチル)−2−ヒドロキシ−6−オキソオクタヒドロシクロペンタ[b]ピラン−5−イル]ヘプタン酸、(−)−7−{(2R,4aR,5R,7aR)−2−[(3S)−1,1−ジフルオロ−3−メチルペンチル]−2−ヒドロキシ−6−オキソオクタヒドロシクロペンタ[b]ピラン−5−イル}ヘプタン酸および(−)−7−[(1R,2R)−2−(4,4−ジフルオロ−3−オキソオクチル)−5−オキソシクロペンチル]ヘプタン酸およびそれらの官能性誘導体である。
【0062】
上記の式(I)および(II)において環およびαおよび/またはω鎖の立体配置は、天然のPG類の立体配置と同じかまたは異なっていてもよい。しかしながら、本発明は、天然タイプの立体配置を有する化合物および非天然タイプの立体配置の化合物の混合物も含む。
【0063】
本発明において、13および14位の間に飽和結合を有し、15位にケト(=O)を有する脂肪酸誘導体は、11位のヒドロキシと15位のケトの間にヘミアセタールが形成されることにより、ケト−ヘミアセタール平衡の状態にある場合がある。
【0064】
例えば、XおよびXの両方がハロゲン原子、特にフッ素原子である場合は、その化合物は互変異性体として二環式化合物を含むことが確認されている。
【0065】
かかる上記の互変異性体が存在する場合、両互変異性体の比率は分子の残りの構造または存在する置換基の種類により変動する。場合により、一方の異性体が他方と比較して圧倒的に存在することもある。しかし、本発明は両方の異性体を含むと解されたい。
【0066】
さらに、本発明において用いられる15−ケト−PG化合物は、二環式化合物およびその類似体または誘導体を含む。
【0067】
二環式化合物は、式(III)によって表される:
【化6】

[式中、Aは、−CH、または−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはそれらの官能性誘導体であり;
'およびX'は、水素、低級アルキル、またはハロゲンであり;
Yは、
【化7】

であり、
ここで、R'およびR'は、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシまたはヒドロキシ(低級)アルキルであり、R'およびR'が同時にヒドロキシおよび低級アルコキシであることはなく、
は、非置換、またはハロゲン、アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環基により置換された、二価の飽和または不飽和の低または中級の脂肪族炭化水素残基であり、脂肪族炭化水素中の少なくとも1つの炭素原子は所望により酸素、窒素または硫黄により置換されており;
'は、非置換、またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基により置換された、飽和または不飽和の低または中級の脂肪族炭化水素残基;低級アルコキシ;低級アルカノイルオキシ;シクロ(低級)アルキル;シクロ(低級)アルキルオキシ;アリール;アリールオキシ;複素環基;複素環オキシ基であり;
'は水素、低級アルキル、シクロ(低級)アルキル、アリールまたは複素環基である]。
【0068】
さらに、本発明において用いられる化合物は、異性体の存在の有無にかかわらずケト型に基づく式または名称により表し得るが、かかる構造または名称はヘミアセタール型の化合物を除外することを意図するものではないことに留意されたい。
【0069】
本発明においては、いずれかの異性体、例えば、個々の互変異性体、それらの混合物、または光学異性体、それらの混合物、ラセミ混合物、および他の立体異性体を、同じ目的に用いることが可能である。
【0070】
本発明において用いられるいくつかの化合物は、米国特許第5,073,569号、5,166,174号、5,221,763号、5,212,324号、5,739,161号および6,242,485号明細書(これらの引用文献は参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている方法により調製し得る。
【0071】
該哺乳類対象は、ヒトを含むいずれの哺乳類対象であってもよい。本化合物は全身的にまたは局所的に適用し得る。本化合物は、経口投与、静脈内注射(点滴を含む)、皮下注射、鼻腔内投与、吸入投与、直腸内投与、膣内投与、経皮投与などにより投与し得る。
【0072】
投与量は、動物の系統、年齢、体重、処置すべき症状、望む治療効果、投与経路、処置期間等に応じて変化し得る。1日に0.00001−500mg/kg、より好ましくは0.0001−100mg/kgの量を、1日に1−4回全身投与または連続投与することにより、満足のいく効果を得ることができる。
【0073】
本化合物は、従来法により投与に適した医薬組成物として製剤化するのが好ましい。その組成物は、経口投与、鼻腔内投与、吸入投与、注射またはかん流に適したもの、ならびに外用薬、坐薬、腟坐薬または局所用の皮膚投薬形態(例えば、液体、軟膏、ペーストまたはパッチ)であり得る。
【0074】
本発明の組成物は生理学的に許容し得る添加剤をさらに含んでもよい。そのような添加剤には本発明の化合物とともに用いる成分、例えば、賦形剤、希釈剤、増量剤、溶剤、潤滑剤、補助剤、結合剤、崩壊剤、被覆剤、カプセル化剤、軟膏基剤、坐薬用基剤、エアゾール剤、乳化剤、分散剤、懸濁剤、増粘剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、保存剤、抗酸化剤、矯味剤、芳香剤、着色剤、機能性物質(例えばシクロデキストリン、生体内分解高分子等)、安定剤等があり得る。これらの添加剤は当業者によく知られており、一般的な製剤学の参考書に記載されているものから選択すればよい。
【0075】
本発明の組成物における上記に規定の化合物の量は、組成物の処方に応じて変化させてよく、一般に0.000001−10.0%、より好ましくは0.00001−5.0%、最も好ましくは0.0001−1%であり得る。
【0076】
経口投与のための固体組成物の例には、錠剤、トローチ剤、舌下錠剤、カプセル剤、丸剤、粉末剤、顆粒剤等がある。固体組成物は1以上の活性成分と少なくとも1つの不活性希釈剤を混合して調製してもよい。その組成物に、不活性希釈剤以外の添加剤、例えば、潤滑剤、崩壊剤および安定剤をさらに含ませてもよい。カプセル、錠剤および丸剤は、所望により、腸溶性または胃腸溶性フィルムによって被覆してもよい。それらは2以上の層によって被覆してもよい。それらは徐放性物質に吸収させても、またはマイクロカプセル化してもよい。さらに、本組成物は、ゼラチン等の易分解性物質を用いてカプセル化してもよい。それらは、脂肪酸またはそのモノ、ジもしくはトリグリセリド等の適切な溶媒にさらに溶解させて軟カプセルとしてもよい。即効性が必要な場合は舌下錠を用いてもよい。
【0077】
経口投与のための液体組成物の例には、乳剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤およびエリキシル剤等がある。そのような組成物は、慣用される不活性希釈剤、例えば精製水またはエチルアルコールをさらに含んでもよい。この組成物は、不活性希釈剤以外の添加剤、例えば湿潤剤や懸濁剤といった補助剤、甘味剤、香味剤、芳香剤および保存剤等を含んでもよい。
【0078】
本発明の組成物は、1以上の活性成分を含有する噴霧用組成物の形態であってもよく、これは既知の方法によって調製することができる。
【0079】
鼻腔内用製剤の例は、1以上の活性成分を含む水性もしくは油性溶液剤、懸濁剤または乳剤であり得る。活性成分の吸入による投与のためには、本発明の組成物は、エアロゾルとして提供可能な懸濁液、溶液または乳液の形態、または乾燥粉末の吸入に適する粉末形態であってもよい。吸入による投与のための組成物は、慣用される噴射剤をさらに含み得る。
【0080】
非経口投与のための本発明の注射用組成物の例には、滅菌した水性もしくは非水性溶液剤、懸濁剤および乳剤等がある。水性溶液剤または懸濁剤のための希釈剤には、例えば、注射用蒸留水、生理食塩水およびリンゲル液等があり得る。
【0081】
溶液剤および懸濁剤のための非水性希釈剤には、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(オリーブ油等)、アルコール(エタノール等)およびポリソルベート等があり得る。この組成物は、保存剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤等の添加剤をさらに含んでもよい。それらは、例えば細菌保留フィルターを通して濾過することによって、滅菌剤を配合することによって、またはガスもしくは放射性同位体照射滅菌によって滅菌してもよい。注射用組成物は、使用前に注射用の滅菌溶媒に溶解させる滅菌粉末組成物として提供することもできる。
【0082】
本発明の外用薬には、皮膚科学および耳鼻科学の分野において用いられるあらゆる外用製剤が含まれ、軟膏剤、クリーム剤、液剤、ローション剤、パッチおよびスプレー剤などがある。
【0083】
本発明の別の形態は坐剤または腟坐剤であり、これらは通常用いられる基剤、例えば体温で軟化するカカオバターに活性成分を混合することによって調製することができ、吸収性を向上させるために適切な軟化温度を有する非イオン性界面活性剤を用いてもよい。
【0084】
本発明に従って、本発明の脂肪酸誘導体は、哺乳類対象においてクローディン媒介機能を調節するために有用である。
【0085】
本明細書において用いる「クローディン媒介機能」なる用語には、細胞接着、細胞増殖、血管透過性および上皮/表皮のバリヤー機能が含まれる。本発明に従って、上記した1以上のクローディン媒介機能が調節される。このクローディン媒介機能とは、例えばクローディン1、4、7、8、10、11、12、15または17の機能であり得る。特に、クローディン1、4および15の機能を調節できる。
【0086】
本明細書において用いる「調節する」または「調節」なる用語は、増加、低下、増強、刺激、または阻害することをいう。
【0087】
上記のとおり、連続的なクローディンを基にしたTJは、表皮で生じ、このクローディンを基にしたタイト・ジャンクションは、哺乳類の皮膚のバリヤー機能に非常に重要である。本発明の別の実施形態は、哺乳類対象における皮膚疾患を処置するための方法であって、それを必要とする対象に有効量の式(I)の脂肪酸誘導体を投与することを含む方法に関する。
【0088】
本明細書において用いる「皮膚疾患」なる用語は、あらゆる皮膚疾患、例えば、にきび、湿疹、皮膚炎、酒さ、アレルギー性皮膚疾患、皮膚癌、皮膚潰瘍 (例えば、糖尿病性皮膚潰瘍)および褥瘡(褥瘡潰瘍)を包含する。本発明の方法は、皮膚潰瘍、特に、糖尿病性皮膚潰瘍の処置に好ましい。本発明の方法は、褥瘡の処置にも好ましい。
【0089】
本明細書において用いる「処置する」または「処置」なる用語は、例えば、症状の予防、治療、軽減、症状の減弱、進行の阻害などのあらゆる疾患または症状の管理手段をいう。
【0090】
本発明の医薬組成物は、さらに本発明の目的を損なわない限り、1以上のその他の薬理成分を含んでいてもよい。
【0091】
本発明のさらなる詳細は、試験例を参照してすすめるが、本発明を限定することを意図するものではない。
【0092】
試験例1
1.正常なマウスの腸における組織の伝導度 (conductance) および希釈電位 (dilution potential) に対する化合物A:(−)−7−[(2R,4aR,5R,7aR)−2−(1,1−ジフルオロペンチル)−2−ヒドロキシ−6−オキソオクタヒドロシクロペンタ[b]ピラン−5−イル]ヘプタン酸の効果
【0093】
(方法)
メスC57BL/6 マウス(7−8週齢)に、飲料水中の化合物A(10μM)を用いて投与し、標準食を7〜14日間与えた。この期間中、マウスは自由に水を飲用できる。この期間の終了時に、マウスを屠殺して、腸を採取した。おおよそ5cmの切片を、空腸の頂部から切り出した。この腸切片を腹側から開いて、次いでリンガー溶液で数回洗浄した。腸粘膜を、鉗子を用いて漿膜から注意深く剥離した。該粘膜を、標準チャンバー(暴露される表面領域の直径が5mm)に入れ、緩衝溶液に浸積した。経上皮短絡電流(Isc)を測定し、全体の組織伝導度を、1mV/分の経上皮パルスから生じる電流の偏向を測定し、オームの法則を適用することにより決定した。安定なIscの計測を達成したときに、緩衝溶液をカリウム不含溶液で置換した。次いで、内腔浴中の溶液を、75mM NaCl、150mM LiCl、150mM KCl、75mM MgCl2 および 75mM CaCl2 を含有する溶液にて順に置換し、各溶液中での希釈電位を測定した。
【0094】
(結果)
図1に示したとおりに、化合物A処理群は、非処理群に比べて一価のカチオンの伝導度および希釈電位の低下を示す。
【0095】
この結果は、化合物Aが、上皮のタイト・ジャンクションの特性変化を誘導することを示唆する。
【0096】
2.マウスの腸におけるクローディンタンパク質の発現
(方法)
マウスの処置および腸の採取を上記と同様の方法により行った。採取した腸を、液体窒素で凍結させて、凍結薄片を作成した。クローディン−15タンパク質の発現および細胞内分布を、免疫蛍光染色により行った。
【0097】
(結果)
図2に示したとおり、クローディン−15タンパク質の発現は、化合物A−処理群では低下した。
【0098】
(結論)
化合物Aの連続投与は、タイト・ジャンクションタンパク質の発現変化、例えば、タイト・ジャンクションの電気生理学的特性の変化を誘導するクローディン−15の低下を引き起こした。タイト・ジャンクションにおけるクローディン−15の発現の低下は、タイト・ジャンクションの緊密性(tightness)を増強させて、毒性物質に対して上皮シートを強化する。
【0099】
試験例2
一般的な糖尿病マウスである、メスBKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jclマウス(db/db マウス, SPF; CLEA Japan, Inc.)を、本試験に使用した。背面部の毛を除去した後に、背面部中央の中心にある1.5×1.5cmの面積を覆っている皮膚を、麻酔下に眼科用のハサミを用いて切除し、皮膚潰瘍および/または褥瘡動物モデルとする。その後、切除された皮膚領域(潰瘍領域)を、寸法4×4cmの多孔質膜の包帯により覆った。投与用調製物を、0.1mL/部位の投薬量にて潰瘍領域に適用した。この適用は、潰瘍作成日から12日の間1日に2回行った。化合物Aを、1回あたり10または30μg/部位にて潰瘍に用いた。同一量のビヒクル(1%ポリソルベート80:1% PS80を含有する生理食塩水)を、コントロール群の動物に適用した。適用開始日を1日目と規定した。1日目および13日目に、各潰瘍の上皮前面の端部または再生上皮をプラスチックシート上にトレースした。トレースした潰瘍領域を面積計で測定した。13日目の潰瘍領域(%)を、1日目の潰瘍領域を基準に計算した。群の平均値を標準誤差と共に、潰瘍領域について計算した(%)。この結果を表1に示す。
【0100】
表1
一般的な糖尿病マウス(db/db マウス)における皮膚潰瘍治癒に対する化合物Aの効果
【表1】

** コントロール群との比較 p<0.01 (ダネット検定)
【0101】
10および30μg/部位にて化合物Aは、コントロール群と比べて潰瘍治癒を顕著に促進した(表1)。この結果は、化合物Aが、皮膚疾患、例えば、皮膚潰瘍、特に糖尿病性皮膚潰瘍および褥瘡の処置に有用であるということを示唆している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)により表される有効量の脂肪酸誘導体を含む、哺乳類対象における皮膚疾患を処置するための医薬組成物:
【化1】

[式中、L、MおよびNは、水素原子、ヒドロキシ、ハロゲン原子、低級アルキル、ヒドロキシ(低級)アルキル、低級アルカノイルオキシまたはオキソであり、ここでLおよびMの少なくとも1つは水素以外の基であり、5員環は少なくとも1つの二重結合を有していてもよく;
Aは、−CH、または−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはそれらの官能性誘導体であり;
Bは、単結合、−CH−CH−、−CH=CH−、−C≡C−、−CH−CH−CH−、−CH=CH−CH−、−CH−CH=CH−、−C≡C−CH−または−CH−C≡C−であり;
Zは、
【化2】

または単結合であり、
ここでRおよびRは、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシまたはヒドロキシ(低級)アルキルであり、RおよびRが同時にヒドロキシおよび低級アルコキシであることはなく;
は、非置換、またはハロゲン、低級アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環基により置換された、二価の飽和または不飽和の低または中級の脂肪族炭化水素残基であり、脂肪族炭化水素中の少なくとも1つの炭素原子は所望により酸素、窒素または硫黄により置換されており;そして
Raは、非置換、またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基により置換された、飽和または不飽和の低または中級の脂肪族炭化水素残基;低級アルコキシ;低級アルカノイルオキシ;シクロ(低級)アルキル;シクロ(低級)アルキルオキシ;アリール;アリールオキシ;複素環基;複素環オキシ基である]。
【請求項2】
Raが1または2のハロゲンにより置換されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ZがC=Oである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
Bが−CH−CH−であり、Raが1または2のハロゲンにより置換されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
Bが−CH−CH−であり、ZがC=Oである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
Bが−CH−CH−であり、ZがC=Oであり、Raが1または2のハロゲンにより置換されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
Bが−CH−CH−であり、Raが1または2のフッ素により置換されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
ZがC=Oであり、Raが1または2のフッ素により置換されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
Bが−CH−CH−であり、ZがC=Oであり、Raが1または2のフッ素により置換されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
Lがオキソであり、Mが水素またはヒドロキシであり、Nが水素であり、Bが−CH−CH−であり、Raが1または2のハロゲンにより置換されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
Lがオキソであり、Mが水素またはヒドロキシであり、Nが水素であり、ZがC=Oであり、Raが1または2のハロゲンにより置換されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
Lがオキソであり、Mが水素またはヒドロキシであり、Nが水素であり、Bが−CH−CH−であり、ZがC=Oであり、Raが1または2のハロゲンにより置換されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
Lがオキソであり、Mが水素またはヒドロキシであり、Nが水素であり、Bが−CH−CH−であり、Rが二価の飽和の低級または中級脂肪族炭化水素であり、Raが1または2のフッ素により置換されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
Lがオキソであり、Mが水素またはヒドロキシであり、Nが水素であり、Bが−CH−CH−であり、ZがC=Oであり、Rは二価の飽和の低級または中級脂肪族炭化水素である、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
該脂肪酸誘導体が、(−)−7−[(2R,4aR,5R,7aR)−2−(1,1−ジフルオロペンチル)−2−ヒドロキシ−6−オキソオクタヒドロシクロペンタ[b]ピラン−5−イル]ヘプタン酸またはその官能性誘導体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
該皮膚疾患が、皮膚潰瘍または褥瘡である、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
下記一般式(I)により表される有効量の脂肪酸誘導体を含む、哺乳類対象におけるクローディン媒介機能を調節するための医薬組成物:
【化3】

[式中、L、MおよびNは、水素原子、ヒドロキシ、ハロゲン原子、低級アルキル、ヒドロキシ(低級)アルキル、低級アルカノイルオキシまたはオキソであり、ここでLおよびMの少なくとも1つは水素以外の基であり、5員環は少なくとも1つの二重結合を有していてもよく;
Aは、−CH、または−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはそれらの官能性誘導体であり;
Bは、単結合、−CH−CH−、−CH=CH−、−C≡C−、−CH−CH−CH−、−CH=CH−CH−、−CH−CH=CH−、−C≡C−CH−または−CH−C≡C−であり;
Zは、
【化4】

または単結合であり、
ここでRおよびRは、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシまたはヒドロキシ(低級)アルキルであり、RおよびRが同時にヒドロキシおよび低級アルコキシであることはなく;
は、非置換、またはハロゲン、低級アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環基により置換された、二価の飽和または不飽和の低または中級の脂肪族炭化水素残基であり、脂肪族炭化水素中の少なくとも1つの炭素原子は所望により酸素、窒素または硫黄により置換されており;そして
Raは、非置換、またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基により置換された、飽和または不飽和の低または中級の脂肪族炭化水素残基;低級アルコキシ;低級アルカノイルオキシ;シクロ(低級)アルキル;シクロ(低級)アルキルオキシ;アリール;アリールオキシ;複素環基;複素環オキシ基である]。
【請求項18】
該クローディンがクローディン−15である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
該クローディン媒介機能が、上皮のバリヤー機能である、請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
哺乳類対象においてクローディンの発現を調節するための医薬組成物であって、下記一般式(I)により表される有効量の脂肪酸誘導体を、それを必要とする哺乳類対象に投与することを含む医薬組成物:
【化5】

[式中、L、MおよびNは、水素原子、ヒドロキシ、ハロゲン原子、低級アルキル、ヒドロキシ(低級)アルキル、低級アルカノイルオキシまたはオキソであり、ここでLおよびMの少なくとも1つは水素以外の基であり、5員環は少なくとも1つの二重結合を有していてもよく;
Aは、−CH、または−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはそれらの官能性誘導体であり;
Bは、単結合、−CH−CH−、−CH=CH−、−C≡C−、−CH−CH−CH−、−CH=CH−CH−、−CH−CH=CH−、−C≡C−CH−または−CH−C≡C−であり;
Zは、
【化6】

または単結合であり、
ここでRおよびRは、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシまたはヒドロキシ(低級)アルキルであり、RおよびRが同時にヒドロキシおよび低級アルコキシであることはなく;
は、非置換、またはハロゲン、低級アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環基により置換された、二価の飽和または不飽和の低または中級の脂肪族炭化水素残基であり、脂肪族炭化水素中の少なくとも1つの炭素原子は所望により酸素、窒素または硫黄により置換されており;そして
Raは、非置換、またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基により置換された、飽和または不飽和の低または中級の脂肪族炭化水素残基;低級アルコキシ;低級アルカノイルオキシ;シクロ(低級)アルキル;シクロ(低級)アルキルオキシ;アリール;アリールオキシ;複素環基;複素環オキシ基である]。
【請求項21】
該クローディンがクローディン−15である、請求項20記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−528077(P2012−528077A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550343(P2011−550343)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【国際出願番号】PCT/JP2010/059300
【国際公開番号】WO2010/137731
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(501131276)スキャンポ・アーゲー (37)
【氏名又は名称原語表記】Sucampo AG
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】