説明

グラウト材

【課題】高い強度と流動性とを兼ね備えたグラウト材を提供すること。
【解決手段】高い強度と流動性とを兼ね備えるために、本グラウト材は、中庸熱ポルトランドセメント、シリカフューム、ボーキサイトまたはムライト、及び、水が調合されたグラウト材であって、前記中庸熱ポルトランドセメントと前記シリカフュームの合計質量対前記水の質量が100:18〜100:20となるように調合されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高強度のグラウト材に関する。
【背景技術】
【0002】
グラウト材は、主に、岩石や地盤、鉄骨柱などの隙間を埋めるために使用される材料であって、硬化後に所定の強度をもってこれらを固定する。例えば、グラウト材は、プレストレスト・コンクリートをポストテンション方式で製造する際、PC鋼材とシースとの間を埋めるときに使用される。また、プレキャストコンクリート部材における鉄筋継手部分や目地部分の充填用として使用される。
【0003】
現在市販されている高強度グラウトは、鉄筋継手用に開発されたもので120N/mm程度の設計基準強度にまで対応が可能である。しかしながら、施工性が要求される目地用の高強度グラウトについては、現在、100N/mm程度の設計基準強度までにしか対応できない。
【特許文献1】特許第2803406号公報
【特許文献2】特許第2853403号公報
【特許文献3】特開2006−298679号公報
【特許文献4】特開2002−220271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
隙間を埋めるグラウト材としては、施工性を高めるために流動性が求められる一方、より高い設計基準強度に対応可能なものが望まれていた。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高い強度と流動性とを兼ね備えたグラウト材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的を達成するために本発明に係るグラウト材は、中庸熱ポルトランドセメント、シリカフューム、ボーキサイトまたはムライト、及び、水が調合されたグラウト材であって、前記中庸熱ポルトランドセメントと前記シリカフュームの合計質量対前記水の質量が100:18〜100:20となるように調合されたことを特徴とする。
ボーキサイトまたはムライトを含むグラウト材において、このような割合で中庸熱ポルトランドセメント、シリカフューム、及び、水を調合することによって、高い強度と流動性とを兼ね備えたグラウト材を提供することができる。
【0006】
また、本発明に係るグラウト材において、前記中庸熱ポルトランドセメントと前記シリカフュームの合計質量対前記ボーキサイトまたはムライトの質量が100:50〜100:60となるように調合されたことを特徴とする。
このような割合で中庸熱ポルトランドセメント、シリカフューム、及び、ボーキサイトまたはムライトを調合することによって、特に高い強度と流動性とを兼ね備えたグラウト材を提供することができる。
【0007】
また、本発明に係るグラウト材において、前記中庸熱ポルトランドセメントとシリカフュームの合計質量対前記シリカフュームの質量が100:15〜100:20となるように調合されたことを特徴とする。
このような割合でシリカフュームを調合することによって、特に高い強度と流動性とを兼ね備えたグラウト材を提供することができる。
【0008】
また、本発明に係るグラウト材において、前記ボーキサイトまたはムライトにおけるルータイルの含有率が3.5%以下であることを特徴とする。
このように、細骨材としてのボーキサイトまたはムライトにおけるルータイルの含有率を少なくすることによって、より強度の高いグラウト材を提供することができる。
【0009】
また、本発明に係るグラウト材において、前記ボーキサイトまたはムライトの粒径が2.5mm以下であることを特徴とする。
このように、細骨材としてのボーキサイトまたはムライトの粒径を小さくすることによって、より強度の高いグラウト材を提供することができる。
【0010】
また、本発明に係るグラウト材において、前記ボーキサイトがコランダム(α−Al)及びムライト(AlSi13)を主成分としたボーキサイトであるであることを特徴とする。
このようなボーキサイトを細骨材として使用することによって、強度の高いグラウト材を提供することができる。
【0011】
また、本発明に係るグラウト材において、さらに、ポリカルボン酸系化合物の高性能減水剤が調合されたことを特徴とする。
このようにすることによって、調合する水の割合を減らすことができるので強度の高いグラウト材を提供することができる。また、水の割合を減らすことができるのでグラウト材の凝結時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0012】
ボーキサイトまたはムライトを含むグラウト材において、このような割合で中庸熱ポルトランドセメント、シリカフューム、及び、水を調合することによって、高い強度と流動性とを兼ね備えたグラウト材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本実施形態におけるグラウト材の調合を説明するための表である。図には、本実施形態におけるグラウト材の試験体No.1〜No.4に対する各材料の構成比を示す。
【0014】
表における「W」は水Wを示し、「C」は中庸熱ポルトランドセメントCを示す。また、「ZFF」はシリカフュームZFFを示し、「EX」は膨張剤EXを示す。また、「S2」はボーキサイトS2を示し、「Ad」は高性能減水剤を示す。また、「消泡」は消泡剤を示す。
【0015】
さらに、表には中庸熱ポルトランドセメントCとシリカフュームZFFとの合計質量に対する水Wの質量の割合(W/(C+ZFF))(%)が示されている。また、中庸熱ポルトランドセメントCとシリカフュームZFFの合計質量に対するボーキサイトS2の質量の割合(S2/(C+ZFF))が示されている。
【0016】
また、表における「標水」は、標準水中養生における材齢28日の圧縮強度(N/mm)を示す。また、「封かん」は、封かん養生における材齢28日の圧縮強度(N/mm)を示す。ここでは、圧縮強度の試験方法として、JIS A 1108が採用される。本実施形態では、標準水中養生及び封かん養生における材齢28日の圧縮強度が150N/mmを超えるグラウト材を提供する。
【0017】
表の「J14」は、下端内径を14mmの漏斗(所謂、JP漏斗)を採用したPCグラウトの流動性試験方法(土木学会制定:JSCE−F 531−1999)の流下試験(以下、J14漏斗試験という)における流下時間を示す。
【0018】
プレキャストコンクリート部材の目地材としてグラウト材を使用する場合、圧縮強度が150N/mmを超えるグラウト材であったとしても、実用性の観点からJ14漏斗試験における流下時間は50秒以内であることが望ましく、さらに、流下時間を30秒以内にすることができれば生産性を向上させることができる。本実施形態では、J14漏斗試験における流下時間が50秒以内のグラウト材を提供し、特に試験体No.1及びNo.2については、流下時間が30秒以内であるグラウト材を提供する。
【0019】
以下、本実施形態におけるグラウト材が採用する材料の詳細について説明する。本実施形態では、セメントとして、例えば、密度が3.21g/cmである中庸熱ポルトランドセメントが採用される。グラウト材は部材間に圧入され部材同士を固定するため、ひび割れ等の不具合を生じないことが重要である。中庸熱ポルトランドセメントCは、水和熱を低く抑えることができるので、グラウト材の硬化前後の体積変化を少なくして、ひび割れ等の不具合の発生率を低くすることができる。
【0020】
また、中庸熱ポルトランドセメントCは低熱ポルトランドセメントよりも流動性が高い。よって、本実施形態のように、中庸熱ポルトランドセメントCを採用することによって流動性が高く施工性の良好なグラウト材を提供することができる。また、中庸熱ポルトランドセメントCを採用することで、グラウト材の強度を向上させることができる。
【0021】
シリカフュームZFFは、例えば、酸化珪素SiOを質量比で85%以上含有し、比表面積が8〜20m/gの微粉末であって、密度が2.30±0.20g/cmのものが採用される。また、本実施形態において、中庸熱ポルトランドセメントCとシリカフュームZFFの合計質量に対するシリカフュームZFFの質量は、(ZFF/(C+ZFF))=15〜20%となるように調合される。
【0022】
ボーキサイトS2は、グラウト材の細骨材としての役割を果たす。ボーキサイトS2は、例えば、表乾密度が3.39g/cmのガイアナ産ボーキサイトである。また、ボーキサイトS2は、焼成ボーキサイトであって、コランダム(α−Al)及びムライト(AlSi13)を主成分とする。また、このボーキサイトS2のルータイル(TiO)の含有量は3.5%以下である。また、本実施形態では、2.5mm以下の粒径のボーキサイトを採用し、グラウト材の流動性を改善している。
【0023】
図2は、細骨材に珪砂を調合した場合のグラウト材を説明するための表である。この表におけるグラウト材の調合では、細骨材としてボーキサイトS2ではなく珪砂S1が採用される。表における「S1」は、珪砂S1を示す。ここでは、例えば、密度2.60g・cmの宇部珪砂7号が採用される。材齢28日の強度を参照すると、封かん養生における圧縮強度は156.4N/mmとなっており、150N/mmを超えているものの、標準水中養生における圧縮強度は127.1N/mmとなっており、150N/mmの圧縮強度を満たさない。
【0024】
一方、図1の表を参照すると、標準水中養生及び封かん養生において試験体No.1〜No.4のいずれも150N/mmを超える圧縮強度を実現している。このように、細骨材として強度発現性の優れるボーキサイトS2を採用することによって、150N/mmを超える高い圧縮強度を有するグラウト材を提供することができる。
【0025】
ところで、一般に、中庸熱ポルトランドセメントCとシリカフュームZFFと水Wを混合したペースト中の水Wの割合を減らした方が高い圧縮強度を得られる傾向があり、中庸熱ポルトランドセメントCとシリカフュームZFFの合計質量に対する水Wの質量の割合(W/(C+ZFF))を少なくすることが望ましいと考えられる。図示しないが、中庸熱ポルトランドセメントCとシリカフュームZFFの合計質量に対する水Wの割合(W/(C+ZFF))を20%より大きくした場合は所望の強度を得られない。また、水の割合を増やすこととすると、ボーキサイトCの比重が高いため、細骨材の分離という不具合を生ずるおそれもある。
【0026】
その一方で、中庸熱ポルトランドセメントCとシリカフュームZFFの合計質量に対する水Wの質量の割合(W/(C+ZFF))を少なくしすぎると、グラウト材としての流動性が悪化し、J14漏斗試験において50秒以下という流下時間を実現することが困難となる。
【0027】
図3は、水の調合を少なくした場合のグラウト材を説明するための表である。この表において、中庸熱ポルトランドセメントCとシリカフュームZFFの合計質量に対する水Wの質量の割合(W/(C+ZFF))は、17%となっている。このときの、材齢28日の標準水中養生及び封かん養生における圧縮強度は、共に150N/mmを超える。これは、水の割合を減らしたことで圧縮強度が増したためである。しかしながら、J14漏斗試験における流下時間を参照すると56.5秒となっており、本実施形態において所望される50秒を超えてしまう。
【0028】
図1の表を参照すると、試験体No.1〜No.4のJ14漏斗試験における流下時間はいずれも50秒を下回る。このように、中庸熱ポルトランドセメントCとシリカフュームZFFの合計質量に対する水Wの質量の割合(W/(C+ZFF))を本実施形態のように18%〜20%の範囲とすることで、J14漏斗試験において50秒以下という流下時間、及び、150N/mmという圧縮強度を実現しつつ、不具合の生じないグラウト材を提供することができる。
【0029】
ところで、細骨材の割合を少なくするとグラウト材の流動性は高くなると考えられ、中庸熱ポルトランドセメントCとシリカフュームZFFに対するボーキサイトS2の割合を少なくすることで、流下時間を短くすることができると考えられる。しかしながら、ボーキサイトS2は前述の通り優れた強度発現性を有するため、その調合を少なくすると本実施形態で所望される圧縮強度を実現することが困難となる。
【0030】
図4は、ボーキサイトS2の調合を少なくした場合のグラウト材を説明するための表である。この表において、中庸熱ポルトランドセメントCとシリカフュームZFFの合計質量に対するボーキサイトS2の質量の割合(S2/(C+ZFF))は、0.3となっている。これは、ペースト成分に対するボーキサイトS2の割合が本実施形態のグラウト材よりも少ない。このときの材齢28日の標準水中養生における圧縮強度は157.6N/mmとなっており、本実施形態で所望される150N/mmを超えることができたものの、封かん養生における圧縮強度は143.7N/mmとなっており、所望される圧縮強度を満たさない。
【0031】
一方、図1の表を参照すると、標準水中養生及び封かん養生において試験体No.1〜No.4のいずれも150N/mmを超える圧縮強度を実現している。このように、中庸熱ポルトランドセメントCとシリカフュームZFFの合計質量に対するボーキサイトS2の質量の割合(S2/(C+ZFF))を0.5〜0.6の範囲とすることで、J14漏斗試験において50秒以下という流下時間、及び、150N/mmという圧縮強度を実現して、高い強度と流動性とを兼ね備えたグラウト材を提供することができる。
【0032】
高性能減水剤Adは、例えば、ポリカルボン酸系化合物の粉体状高性能減水剤または液体状高性能減水剤が採用される。グラウト材の強度は、水に対するセメント比にも大きく左右され、一般的に水の割合が少ないほどその強度は増す。また、比重の高いボーキサイトS2がセメントペーストから分離しないようにするためにも、水の割合を少なくすることが望ましい。しかしながら、水の割合を少なくするとグラウト材の流動性が悪化する。ここでは、水の割合を少なくしつつグラウト材の高い流動性を確保するために高性能減水剤が使用される。特に、ポリカルボン酸系化合物の粉体状高性能減水剤または液体状高性能減水剤は、例えばナフタリン系の減水剤よりも水の割合を少なくすることができるので、これを採用することで高い強度を有するグラウト材を提供することができる。また、水の割合を少なくすることができるので、グラウト材の凝結時間を短縮することができる。
【0033】
膨張剤EXは、例えば、石灰系の膨張材であって、密度が3.19g/cmの膨張材が採用される。グラウト材は主に部材間の隙間を埋めることに使用されるため、硬化前後においてその伸縮量が少ないことが望ましい。膨張剤EXは、グラウト材の水和収縮を緩和させることができる。また、隙間に対するグラウト材の充填性を良好にすることができる。
【0034】
また、本実施形態における消泡剤は、例えば、日本シーカ社製アンチフォームが使用される。
【0035】
このように、図1の表に示されるような調合にすることで、標準水中養生及び封緘養生における材齢28日のグラウト材は、いずれも150N/mmを超える圧縮強度を実現する。また、これらのグラウト材のJ14漏斗試験における流下時間はいずれも50秒を下回る。このような調合にすることで、高い強度と流動性とを兼ね備えるグラウト材を提供することができる。
【0036】
特に、試験体No.1及びNo.2のグラウト材のJ14漏斗試験における流下時間は、いずれも30秒を下回る。よって、グラウト材の調合を試験体No.1及びNo.2のようにすることで、超高強度のグラウト材の中でも流動性の高いグラウト材を提供することができる。このように流動性に優れるので、部材間に容易に圧入することができる。
【0037】
また、本実施形態におけるグラウト材は、流動性に優れ、かつ、圧縮強度が150N/mmを超えるので、設計基準強度120N/mm以上の超高強度コンクリートを用いたプレキャスト部材の接続に採用することもできる。このように超高強度コンクリート部材の接続が行えるようになるので、様々な態様の超高強度コンクリートのプレキャスト化が可能とし、現場における打継ぎ処理を省くことができるようになる。また、超高強度コンクリート部材の製作精度を向上させることができ、施工上の不具合を生じにくくすることができるので、品質のよいコンクリート構造物を構築できるようになる。また、超高強度コンクリート部材の接続が行えることにより超高層鉄筋コンクリート造の建設において、現場サイクル工程を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本実施形態におけるグラウト材の調合を説明するための表である。
【図2】細骨材に珪砂を調合した場合のグラウト材を説明するための表である。
【図3】水の調合を少なくした場合のグラウト材を説明するための表である。
【図4】ボーキサイトの調合を少なくした場合のグラウト材を説明するための表である。
【符号の説明】
【0039】
W 水、ZFF シリカフューム、C 中庸熱ポルトランドセメント、
EX 膨張剤、S1 珪砂、S2 ボーキサイト、Ad 減水剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中庸熱ポルトランドセメント、シリカフューム、ボーキサイトまたはムライト、及び、水が調合されたグラウト材であって、前記中庸熱ポルトランドセメントと前記シリカフュームの合計質量対前記水の質量が100:18〜100:20となるように調合されたことを特徴とするグラウト材。
【請求項2】
前記中庸熱ポルトランドセメントと前記シリカフュームの合計質量対前記ボーキサイトまたはムライトの質量が100:50〜100:60となるように調合されたことを特徴とする請求項1に記載のグラウト材。
【請求項3】
前記中庸熱ポルトランドセメントとシリカフュームの合計質量対前記シリカフュームの質量が100:15〜100:20となるように調合されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のグラウト材。
【請求項4】
前記ボーキサイトまたはムライトにおけるルータイルの含有率が3.5%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のグラウト材。
【請求項5】
前記ボーキサイトまたはムライトの粒径が2.5mm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のグラウト材。
【請求項6】
前記ボーキサイトがコランダム(α−Al)及びムライト(AlSi13)を主成分としたボーキサイトであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のグラウト材。
【請求項7】
さらに、ポリカルボン酸系化合物の減水剤が調合されたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のグラウト材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−120411(P2009−120411A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293539(P2007−293539)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(597038356)日本シーカ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】