説明

グラウト注入用治具

【課題】磁性体プレートの表面にグラウトが漏れてしまうことを防止できるグラウト注入用治具を提供する。
【解決手段】本発明に係るグラウト注入用治具1は、所定の位置に設置された磁性体プレート(ベースプレート90)の裏面と磁性体プレートの裏面に対向する対向面との間に形成されるグラウト充填空間25にグラウトを充填するために磁性体プレートの表面と裏面とに貫通する注入孔93からグラウトを注入するためのグラウト注入用治具において、注入孔93にグラウトを案内するグラウト案内路2と、グラウト案内路と連結されて注入孔の径の中心とグラウト案内路のグラウト出口孔の径の中心とが一致するように位置合わされた状態のグラウト案内路を磁性体プレートの表面に固定する固定具3とを備え、固定具3は、磁石と、磁石を磁性体プレートに対して吸着する状態と吸着しない状態とに設定可能な切換え装置とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層ゴム免震装置の下部のベースプレートのような磁性体プレートの裏面側にグラウトを充填する際に用いるグラウト注入用治具であって、磁性体プレートの表面にグラウトが漏れてしまうことを防止できるグラウト注入用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
免震基礎の上面に積層ゴム免震装置の下部のベースプレートを設置する作業は以下のように行われている。まず、建築物の床版コンクリートを形成し、床版コンクリート上の所定の位置に型枠を組み立て、型枠内にコンクリートを打設して免震基礎の下部コンクリートを形成する。下部コンクリート上にベースプレートを受ける架台を設置するとともに、免震基礎を補強するはかま筋を組み立てる。架台の上部にはベースプレート設置面を形成するための3個以上のベースプレート支持体が設けられており、架台に設けられたベースプレート支持体の上下移動機構を操作してベースプレート支持体の上下位置を調整することによってベースプレート設置面の水平レベルを調整する。架台上部に形成された水平レベル調整後のベースプレート設置面にベースプレートを設置する。ベースプレートは、鉄のような磁性体で円形や正方形に形成された厚さ10〜20mm程度の平板である。ベースプレートの中央部には、ベースプレートの上下面に貫通する注入孔が形成されている。コンクリートやモルタルのようなグラウトを注入孔よりベースプレート下に注入するためのグラウト注入用治具を用い、このグラウト注入用治具のグラウト出口孔とベースプレートの注入孔とが合うようにベースプレートの上面にグラウト注入用治具が設置される。グラウト注入用治具のホッパーのようなグラウト搬入路に入れられたコンクリートがホッパーからグラウト出口及び注入孔を経由して型枠で囲まれたベースプレート下に打設されることによって上部コンクリートが形成される。この際、上部コンクリートの天端がベースプレートの下面より下方に約50mm程度の位置まで来るようにする。即ち、上部コンクリートの天端とベースプレートの下面との間に約50mm程度のグラウト充填空間が形成される。その後、グラウト搬入路に搬入されたモルタルがグラウト搬入路からグラウト出口及び注入孔を経由してグラウト充填空間内に打設充填されて上端部モルタル層が形成される(例えば、特許文献1等参照)。
尚、ホッパーからグラウト出口及び注入孔を介して下部コンクリートの上端とベースプレートの下面との間の部分に普通のコンクリートを打設することにより上部コンクリートを形成する場合もあるが、この場合、コンクリートの流動性の悪さにより、コンクリートがベースプレートの下面に満遍なく付着せずベースプレートの下面下に気泡が生じやすくなるので、ベースプレートの水平度を維持できなくなる可能性がある。また、ホッパーからグラウト出口及び注入孔を介して下部コンクリートの上端とベースプレートの下面との間の部分をすべて流動性の良いモルタルを打設することにより形成してもよいが、流動性の良いモルタルはコストが高いため、不経済である。また、上部コンクリートの上端とベースプレートの下面との間にグラウト充填空間を残しておいて、このグラウト充填空間にベースプレートの横から無収縮モルタルを横から圧入する場合もある。しかし、この場合も、無収縮モルタルがベースプレートの下面下に満遍なく充填されにくくベースプレートの水平度を維持できなくなる可能性がある。そこで、上述したように、上部コンクリートの上端とベースプレートの下面との間にグラウト充填空間を残しておいて、ホッパーからグラウト出口及び注入孔を介してこのグラウト充填空間に流動性の良いモルタルを注入し、さらにグラウト充填空間に注入したモルタルを突き棒で突いてグラウト充填空間内に充填することによって上端部モルタル層を形成する。これにより、モルタルがベースプレートの下面に満遍なく付着しやすくなってベースプレートの下面下に気泡が生じにくくなり、ベースプレートの水平度を維持できるようになるとともに上部構造物から作用する軸力等を負担するために必要な耐力が設計通りに有することが確実にできてコストの高いモルタルの使用量も少なくできるので、経済的となる。
【特許文献1】特開平11−293933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記グラウト注入用治具では、グラウト注入用治具がベースプレートに固定されないため、グラウト注入用治具のグラウト出口孔とベースプレートの注入孔とが位置ずれして、ベースプレートのような磁性体プレートの表面にモルタルやコンクリートのようなグラウトが漏れてしまうという問題点があった。
本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、磁性体プレートの表面にグラウトが漏れてしまうことを防止できるグラウト注入用治具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係るグラウト注入用治具は、所定の位置に設置された磁性体プレートの裏面と磁性体プレートの裏面に対向する対向面との間に形成されるグラウト充填空間にグラウトを充填するために磁性体プレートの表面と裏面とに貫通する注入孔からグラウトを注入するためのグラウト注入用治具において、注入孔にグラウトを案内するグラウト案内路と、グラウト案内路と連結されて注入孔の径の中心とグラウト案内路のグラウト出口孔の径の中心とが一致するように位置合わされた状態のグラウト案内路を磁性体プレートの表面に固定する固定具とを備え、固定具は、磁石と、磁石を磁性体プレートに対して吸着する状態と吸着しない状態とに設定可能な切換え装置とを備えたことを特徴とする。
グラウト出口孔の径が注入孔の径よりも小さく形成されたとともに、注入孔の径の中心とグラウト案内路のグラウト出口孔の径の中心とが一致するように位置合わされた状態においてグラウト出口孔の孔縁より延長して注入孔とグラウト出口孔との間に形成された隙間を塞いで磁性体プレートの表面と接触する塞板を備えたことも特徴とする。
グラウト出口孔の径が注入孔の径よりも小さく形成されたとともに、注入孔の径の中心とグラウト案内路のグラウト出口孔の径の中心とが一致するように位置合わされた状態においてグラウト案内路と固定具とを連結する連結部が、注入孔とグラウト出口孔との間に形成された隙間を塞いで磁性体プレートの表面と接触する設置ベース板により形成されたことも特徴とする。
グラウト案内路は、一端開口がグラウト出口孔と連続するように設置ベース板に設けられた筒孔と、一端が筒孔の他端開口と連続するように設けられて他端側が開口されたグラウト搬入路とにより形成され、グラウト搬入路は、他端側から一端に向けて径が漸次小さくなるよう形成されたことも特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明に係るグラウト注入用治具によれば、グラウト注入用治具が固定具の磁石の磁力によって磁性体プレートに固定された状態となり、グラウト注入用治具のずれを防止できるので、グラウトが漏れてしまうことを防止できる。さらに、磁性体プレートの下に充填されるグラウトの圧力でグラウト注入用治具が浮き上がってしまうようなことを防止できる。
グラウト出口孔の径が注入孔の径よりも小さく形成されたとともに、塞板を備えたので、グラウトが注入される場合に、グラウトがベースプレートの表面に接触せず、ベースプレートの表面にグラウトが付着するのを防止できる。また、グラウト出口孔の径を注入孔の径よりも小さく形成したことによって、磁性体プレートの下に落下するグラウトの落下速度を速くでき、グラウト内への空気の巻き込みを少なくできるので、グラウトが密実に充填されて空気溜まりの少ない上端部グラウト層を形成できる。
グラウト出口孔の径が注入孔の径よりも小さく形成されたとともに、塞板及び連結部として機能する設置ベース板を備えたので、構成を簡単にできるとともに、グラウトが注入される場合に、グラウトがベースプレートの表面に接触せず、ベースプレートの表面にグラウトが付着するのを防止できる。
グラウト案内路は、筒孔とグラウト搬入路とにより形成され、グラウト搬入路は、グラウトが流下する方向に向けて流路径が漸次小さくなるように形成されたので、筒孔に流下するグラウトの圧力が増すため、ベースプレートの下方の空間へのグラウトの充填性が良くなる。即ち、グラウト案内路が圧力付与部を備えるため、グラウト出口孔より落下するグラウトの落下速度がさらに速くなるため、グラウト内への空気の巻き込みをさらに少なくでき、さらに空気溜まりの少ない上端部グラウト層を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
最良の形態1
図1乃至図6は最良の形態1を示し、図1はグラウト注入用治具を示し、図2はグラウト注入用治具の縦断面を示し(ロート架台の図示は省略してある)、図3は固定具の断面を示し、図4はベースプレート上に設置されたグラウト注入用治具の固定具を上から見て示し(グラウト注入用治具の上部の図示は省略してある)、図5は注入孔とグラウト出口孔との関係を拡大して示す。図6はグラウト出口孔の孔径と注入孔の孔径との径の違いによるグラウトの充填状況を示す。
【0007】
図2;4;5に示すように、免震基礎16の上面16aに設置されることになる磁性体プレートとしてのベースプレート90は、例えば厚さ10〜20mm程度の鉄板により形成され、ベースプレート90の表面(以下、上面という)91と裏面(以下、下面という)92とに貫通する注入孔93を備える。本発明のグラウト注入用治具は、ベースプレート90の上面91に設置されて、ベースプレート90の下方のグラウト充填空間25にコンクリートやモルタルやセメントペーストのようなグラウトを充填する際に用いる治具である。
【0008】
図1を参照し、グラウト注入用治具の構成について説明する。グラウト注入用治具1は、グラウト案内路2、固定具3、設置ベース板4を備える。
【0009】
グラウト案内路2のグラウト出口孔6は設置ベース板4に形成される。グラウト出口孔6の孔径14は、ベースプレート90に形成された注入孔93の孔径15よりも小さく形成される(図5参照)。
ここでは、注入孔93の孔の中心(軸中心)Aとグラウト案内路2のグラウト出口孔6の孔の中心(軸中心)Bとが一致するように位置合わされた状態においてグラウト案内路2と固定具3とを連結する連結部5が、注入孔93とグラウト出口孔6との間に形成された隙間7(図5参照)を塞いでベースプレート90の上面91と接触する設置ベース板4により形成された場合を示す。即ち、グラウト案内路2と固定具3とを連結する連結部5の機能と注入孔93とグラウト出口孔6との間に形成された隙間7を塞ぐ塞板の機能とを備えた設置ベース板4を備えたので、構成を簡単にできる。設置ベース板4は、グラウト出口孔6の孔の中心Bを中心とした正方形の4角を除去したような平板形状の鉄板により形成される。
【0010】
設置ベース板4に形成されたグラウト出口孔6の孔径14が注入孔93の孔径15よりも小さく、注入孔93の孔の中心Aとグラウト出口孔6の孔の中心Bとが一致するように位置合わされた状態で設置ベース板4が隙間7を塞ぐので、グラウトが注入される場合に、グラウトがベースプレート90の上面91に接触せず、ベースプレート90の上面91にグラウトが付着するのを防止できる。
【0011】
グラウト案内路2は、グラウト出口孔6と、一端開口6aがグラウト出口孔6と連続するように設置ベース板4に接続された筒孔体8と、一端10の開口12aが筒孔体8の他端開口9と連続するように設けられて他端11側が開口されたグラウト搬入路としてのロート12とにより形成される。ロート12は、他端11側から一端10に向けて径が漸次小さくなる円錐面や角錐面のような内壁20を備えた構成である。つまり、ロート12は、グラウトが流下する方向に向けて流路径が漸次小さくなるように形成される(図2参照)。
【0012】
ロート12と筒孔体8とにより、ロート12から筒孔体8に流下するグラウトの圧力を大きくする圧力付与部21が構成される。即ち、グラウトがロート12の流路径の大きい部分から流路径の漸次小さくなるロート12を経由して流路径の小さい筒孔体8に流下するため、ベルヌーイの法則によって筒孔体8に流下するグラウトの圧力が増し、グラウト出口孔6より落下するグラウトの落下速度が速くなるため、ベースプレート90の下方のグラウト充填空間25へのグラウトの充填性が良くなる(図2参照)。
【0013】
筒孔体8は、例えば、図2;図5に示すように、下部筒孔体26と上部筒孔体27とにより形成され、同じ孔径に形成された下部筒孔体26の一端開口6aとグラウト出口孔6とが同軸に連続するように下部筒孔体26の一端開口縁面26aとグラウト出口孔6の孔縁面となる設置ベース板4の上面4bとが例えば溶接により結合されている。そして、下部筒孔体26の他端開口38と上部筒孔体27の一端開口38aとが連続するように位置合わせされた状態でカップリングのような接続具28によって互いに結合される。また、上部筒孔体27の他端開口9とロート12の一端開口12aとが連続するように位置合わせされた状態でカップリングのような接続具28によって互いに結合される。上部筒孔体27には、筒孔体8の内部空間23で形成される流路を開閉する周知の開閉バルブ装置29が設けられる。上部筒孔体27やロート12が接続具28で接続されているので、上部筒孔体27やロート12の交換が容易となる。
【0014】
図1に示すように、設置ベース板4には、設置ベース板4の4つの角部近傍より上方に延長するように設けられた4本の支柱30と、横に隣り合う支柱30の上端31同士を連結する連結板32により四角枠形状に形成されたロート取付枠33とにより形成されたロート架台34が設けられる。ロート12にはロート取付部35が設けられ、各ロート取付部35が、ロート取付枠33を形成する4つの連結板32のそれぞれにボルト及びナットのような締結固定具36によって取付けられることによって、ロート12がロート取付枠33に取付けられる。従って、ボルト及びナットを取り外して、ロート12を交換することが可能である。
【0015】
固定具3は、設置ベース板4の除去された4角部にそれぞれ位置するように、連結片41a及びボルト・ナットなどによって設置ベース板4に固定されている。
図3に示すように、固定具3は、永久磁石41、切換え装置50を備える。永久磁石41は、例えば鉄製の磁石取付板43の下面44に固定される。永久磁石41と磁石取付板43とにより磁石体45が形成される。切換え装置50は、永久磁石41をベースプレート90に対して吸着する状態と吸着しない状態とに設定可能とするための機構であり、装置筐体51、磁石体引っ張りばね52、磁石体押圧機構53、磁石体移動規制部54を備える。装置筐体51は中空の正方立方体により形成される。装置筐体51のベースプレート90と接触する下板46は薄厚の非磁性体により形成され、装置筐体51を形成するその他の上板47及び4つの側板48は磁性体により形成される。非磁性体の下板46と磁性体の上板47、側板48、磁石取付板43とにより、磁石の磁力回路が形成され、永久磁石41による磁力が大きくなる。装置筐体51のベースプレート90と接触する下板46の下面49と設置ベース板4の下面4aとが同一平面上に位置する(図1参照)。磁石体45は、永久磁石41が装置筐体51の下板46側を向くように装置筐体51内に配置される。磁石体引っ張りばね52は、一端55が装置筐体51の上板47の内面56に取付けられ、他端57が磁石取付板43の上面58に取付けられて、永久磁石41を常に上方に引っ張っている。磁石体押圧機構53は、操作つまみ70、回転軸71、回転軸支持部72、押圧体73、押圧体引っ張りばね74を備える。回転軸71は、図外の一端側が装置筐体51の一の側板48を突き抜けて突出し、他端76側が回転軸支持部72に回転可能に支持される。回転軸支持部72は装置筐体51に固定される。操作つまみ70が回転軸71の一端に取付けられ、押圧体73の一端78が回転軸71の他端76に取付けられる。操作つまみ70を回すと回転軸71が回転し、回転軸71の回転と一緒に押圧体73が押圧体73の一端78を回転中心として時計の針のような運動を一定角度範囲で行う。押圧体引っ張りばね74は、一端79が回転軸支持部72より下方に突出するばね取付け部80に取付けられ、他端81が押圧体73に取付けられる。押圧体引っ張りばね74は、押圧体73の一端78が上方に他端86が下方に位置して一端78と他端86とが垂直線上に位置した磁石押圧状態となる当該押圧体73を当該磁石押圧状態に維持するように引っ張るばねである。操作つまみ70が操作されて回転軸71が一方方向(押圧回転方向)83に回転することによって、当該磁石押圧状態に維持された押圧体73の他端86が磁石体45の磁石取付板43の上面84に接触して押圧体73により磁石体45が下方に押圧される。つまり、永久磁石41と下板46とが接触した状態に維持される「ON」状態となる。操作つまみ70が操作されて回転軸71が他方方向(押圧解除方向)84に回転することによって、押圧体73が押圧体引っ張りばね74をのばす方向に回転されて、磁石体45に対する押圧体73の押圧力が除かれ、磁石体45が磁石体引っ張りばね52により上方に引っ張られることにより、磁石体45が上方に移動して、磁石とベースプレート90との吸着が解除された後、磁石体移動規制部54が磁石体45の上方への移動を規制する。磁石体移動規制部54は、磁石体45が一定位置以上に上方へ移動するのを規制できるように装置筐体51の内部77に設けられる。尚、磁石取付板43の上面58には、押圧体73の一端78と他端86とが垂直線上に位置した磁石押圧状態となった後に、押圧体73の他端86が押圧回転方向83に回転しないように規制する規制溝87が形成される。
【0016】
次に図3に基いて固定具3の操作方法を説明する。操作つまみ70が「OFF」位置に設定された場合、図3(a)に示すように、押圧体73が磁石体45を押圧していない状態となり、磁石体45が磁石体引っ張りばね74により上方に引っ張られて、永久磁石41とベースプレート90との間に磁力による吸着力が作用しない。よって、ベースプレート90上に設置ベース板4を置いたとしても、グラウト注入用治具1を自由に移動でき、注入孔93の孔の中心Aとグラウト案内路2のグラウト出口孔6の孔の中心Bとが一致するように位置合わせすることができる。
位置合わせが終了した後に、操作つまみ70が回転されて「ON」位置に設定された場合、図3(b)に示すように、磁石体45が押圧体73により下方に押圧されることによって、永久磁石41とベースプレート90とが永久磁石41の磁力によって吸着する状態となり、これによって、注入孔93の孔の中心Aとグラウト案内路2のグラウト出口孔6の孔の中心B軸とが一致するように位置合わされた状態に、グラウト注入用治具1がベースプレート上に固定されることとなる。
【0017】
ベースプレート90の設置方法を説明する。グラウト注入用治具1を用いたグラウト注入作業以外は、従来と同じ作業を行う。即ち、図2に示すように、建築物の床版コンクリート100を形成し、床版コンクリート100上の所定の位置に型枠105を組み立て、型枠内94にコンクリートを打設して免震基礎16の下部コンクリート95を形成する。下部コンクリート95上にベースプレート90を受ける架台96を設置するとともに、免震基礎16を補強する図外のはかま筋を組み立てる。架台96の上部にはベースプレート設置面98を形成するための3個以上のベースプレート支持体99が設けられており、架台96に設けられたベースプレート支持体99の上下移動機構101(ねじ式上下機構など)を操作してベースプレート支持体99の上下位置を調整することによってベースプレート設置面98の水平レベルを調整する。架台96の上部に形成された水平レベル調整後のベースプレート設置面98にベースプレート90を設置する。そして、注入孔93の孔の中心とグラウト案内路2のグラウト出口孔6の孔の中心とが一致するように位置合わせしてグラウト注入用治具1をベースプレートの上面91に設置した後に、操作つまみ70を「OFF」位置から「ON」位置に設定する。これにより、位置合わせ後のグラウト注入用治具1が永久磁石41の磁力によってベースプレート90上に固定される。そして、ベースプレート90上に固定されたグラウト注入用治具1のロート12内に普通のコンクリートを搬入して、開閉バルブ装置29を開けると、コンクリートがグラウト注入用治具1のグラウト出口孔6及びベースプレート90のグラウト注入孔93を経由して型枠105内に打設されて上部コンクリート102が形成される。この際、上部コンクリート102の天端103がベースプレート90の下面92より下方に約30mm〜50mm程度の位置まで来るようにする。この上部コンクリート102の天端103とベースプレート90の下面92との隙間により形成されたグラウト充填空間25に、上部コンクリート102となるコンクリートがまだ固化していない状態において流動性の良いモルタルやセメントペーストのようなグラウトを注入して充填する。つまり、グラウト注入用治具1のロート12内に入れられたグラウトがグラウト注入用治具1の出口孔6及びベースプレート90のグラウト注入孔93を経由してから注入具の出口及び注入孔を経由してグラウト充填空間25に打設されて上端部グラウト層104が形成される。このグラウトがグラウト充填空間25に充填されたことの確認は、ベースプレート90の周辺と型枠105との間に形成された隙間Dから覗いて上端部グラウト層104の天端115がベースプレート90の下面92よりも上方に到達していることを確認することにより可能である。
【0018】
尚、コンクリートグラウト注入時に使用するロートとモルタルやセメントペーストグラウト注入時に使用するロートとを別々に用意しておいて、ロート12を取り替えることにより、モルタルやセメントペーストとコンクリートとが混合することを防止できる。
【0019】
最良の形態1のグラウト注入用治具1によれば、操作つまみ70を「OFF」位置に設定した状態で、注入孔93とグラウト案内路2の出口孔6とが合致するようにベースプレート90上にグラウト注入用治具1を設置してから、操作つまみ70を「ON」位置に設定することによって、グラウト注入用治具1が固定具3の永久磁石41の磁力によってベースプレート90に固定された状態となり、グラウト注入用治具1のずれを防止できるので、ベースプレート90の上面91にグラウトが漏れてしまうことを防止できる。また、グラウト注入用治具1を人力で固定するなどの作業が不要となるので、作業の効率化が図れる。
【0020】
最良の形態1のグラウト注入用治具1によれば、グラウト出口孔6の孔径14が注入孔93の孔径15よりも小さく形成されたので、グラウト出口孔6の孔径14と注入孔93の孔径15とを同径とした場合に比べて、ベースプレート90下に落下するグラウトの落下速度を速くできる。このため、グラウトが上部コンクリート102の天端103より上方向に山状に盛り上がるように積み重ねられた後にベースプレート90の下面92に接する山ができた後に放射状に周囲に拡がるので、グラウト充填空間25の空気を押出しながら充填するため、グラウト内への空気の巻き込みを少なくできる(図6(a)参照)。よって、グラウト充填空間25に対するグラウトの充填性が向上し、グラウトが密実に充填されて空気溜まりの少ない上端部グラウト層104を形成できる。一方、グラウト出口孔6の孔径14と注入孔93の孔径15とを同径とした場合、最良の形態1と比べて、ベースプレート90に落下するグラウトの落下速度が遅くなるので、グラウトが上部コンクリート102の天端103より上方向に山状に盛り上がるように積み重なりにくく、上部コンクリート102の天端103に落下したグラウトがすぐに周辺に拡がって面状になり、広い面を形成したままベースプレート90の下面92に面接触するため、その下面92の真下に存在する空気が押出されないまま充填されるので、グラウト内への空気の巻き込みが多くなる(図6(b)参照)。
このように、グラウト出口孔6の孔径14を注入孔93の孔径15よりも小さく形成した場合に、グラウトが上部コンクリート102の天端103より上方向に山状に盛り上がるように積み重ねられてベースプレート90の下面92まで達した後は注入孔93を経由して設置ベース板4を上方に押し上げようとするが、最良の形態1のように、設置ベース板4が固定具3によってベースプレート90上に固定された場合に、グラウト充填空間25に充填されたグラウトの圧力で設置ベース板4が浮き上がってしまうようなことを防止できることに固定具3を設けた意義がある。
さらに、グラウト出口孔6の上流側には、ロート12から筒孔体8に流下するグラウトの圧力を大きくする圧力付与部21を備えるため、筒孔体8に流下するグラウトの圧力が増し、グラウト出口孔6より落下するグラウトの落下速度がさらに速くなるため、グラウト内への空気の巻き込みをさらに少なくできるので、さらに空気溜まりの少ない上端部グラウト層104を形成できる。
【0021】
最良の形態2
グラウト注入用治具1は、図7に示すように、少なくとも、グラウト案内路2と、固定具3と、グラウト案内路2と固定具3とを連結する連結部5とを備えていればよい。この場合、グラウト案内路2を少なくとも1つの筒孔体8により形成し、少なくとも3個の固定具3を備え、各固定具3と筒孔体8とがそれぞれ連結体40により連結された構成とすればよい。尚、各固定具3の下面49は同一平面上に位置するように構成され、また、各固定具3の配置は、筒孔体8を安定にベースプレート90上に設置可能なように、例えば、正三角形の頂点に配置する。また、注入孔93の径の中心Aとグラウト案内路2のグラウト出口孔6の径の中心Bとが一致するように位置合わされた状態において注入孔93とグラウト出口孔6との間に形成される隙間7を塞いでベースプレート90の表面91と接触する塞板が必要になるが、この塞板はグラウト出口孔6の孔縁より延長するように予めグラウト出口孔6の孔縁面に溶接などで連結された構成としてもよいし、グラウト注入用治具1とは別体の蓋板を用意しておいて注入時に隙間7を塞ぐように設置してもよい。
【0022】
グラウト注入用治具1が、図7に示すように、グラウト出口孔6を有した筒孔体8を備えたことによって、筒孔体8の他端開口9にグラウト案内路2を形成する開閉バルブ装置29付きの管106を連結する作業が容易となる。開閉バルブ装置29付きの管106の上部開口107に、上述したロート12を接続すればよい。
【0023】
最良の形態3
また、グラウト出口孔6の孔径14が注入孔93の孔径15よりも大きい場合であっても、図7に示すように、注入孔93の孔径15と同じ孔径の孔112を有して外周径113がグラウト出口孔6の孔径14よりも大きい径に形成されたリング状のベースプレート覆板114を用いることによって、ベースプレート90の上面91にグラウトが漏れてしまうことを防止できる。つまり、注入前に、注入孔93の径の中心とベースプレート覆板114の孔の中心とが一致するようにベースプレート覆板114をベースプレート90上に接着テープなどで接着しておいてから、注入孔93の径の中心とグラウト出口孔6の径の中心とが一致するように位置合わせした後に注入作業を行えば良い。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明のグラウト注入用治具1は、鋼製セグメントの内部にグラウトを充填する際や、船の底板下の空間にグラウトを充填する際にも用いることが可能である。
固定具3は、電磁石により磁力の発生を制御できる機能を備えた磁力固定具を含むものである。
グラウトの供給方法は、自然落下、圧送のいずれでもよい。例えば、図2の筒孔体8の他端開口9や図7の管106の上部開口107に、図7に示すようなグラウト圧送ホース111を繋げてグラウトを図外のグラウト加圧供給源からグラウト注入用治具1に圧送供給してもよい。
筒孔体8の一端開口をグラウト出口孔として利用する場合は、筒孔体8の一端開口部側の筒外周面と注入孔93との間を塞ぐ塞板を設けることによって、注入孔93とグラウト出口孔との間に形成された隙間を塞ぐようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】グラウト注入用治具を示す斜視図(最良の形態1)
【図2】グラウト注入用治具の縦断面図(最良の形態1)
【図3】固定具の断面図(最良の形態1)
【図4】ベースプレート上に設置されたグラウト注入用治具の固定具を上から見た図(最良の形態1)
【図5】注入孔とグラウト出口孔との関係を表した要部拡大図(最良の形態1)。
【図6】グラウト出口孔の孔径と注入孔の孔径との径の違いによるグラウトの充填状況を示す図(最良の形態1)。
【図7】グラウト注入用治具を表す斜視図(最良の形態2;3)。
【符号の説明】
【0026】
1 グラウト注入用治具、2 グラウト案内路、3 固定具、
4 設置ベース板(塞板)、5 連結部、6 グラウト出口孔、6a 一端開口、
7 隙間、14;15 孔径、25 充填空間、41 磁石(永久磁石)、
50 切換え装置、90 ベースプレート(磁性体プレート)、
91 ベースプレートの表面、92 ベースプレートの裏面、93 注入孔、
A 注入孔の孔の中心(軸中心)、B グラウト出口孔の孔の中心(軸中心)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の位置に設置された磁性体プレートの裏面と磁性体プレートの裏面に対向する対向面との間に形成されるグラウト充填空間にグラウトを充填するために磁性体プレートの表面と裏面とに貫通する注入孔からグラウトを注入するためのグラウト注入用治具において、注入孔にグラウトを案内するグラウト案内路と、グラウト案内路と連結されて注入孔の径の中心とグラウト案内路のグラウト出口孔の径の中心とが一致するように位置合わされた状態のグラウト案内路を磁性体プレートの表面に固定する固定具とを備え、固定具は、磁石と、磁石を磁性体プレートに対して吸着する状態と吸着しない状態とに設定可能な切換え装置とを備えたことを特徴とするグラウト注入用治具。
【請求項2】
グラウト出口孔の径が注入孔の径よりも小さく形成されたとともに、注入孔の径の中心とグラウト案内路のグラウト出口孔の径の中心とが一致するように位置合わされた状態においてグラウト出口孔の孔縁より延長して注入孔とグラウト出口孔との間に形成された隙間を塞いで磁性体プレートの表面と接触する塞板を備えたことを特徴とする請求項1に記載のグラウト注入用治具。
【請求項3】
グラウト出口孔の径が注入孔の径よりも小さく形成されたとともに、注入孔の径の中心とグラウト案内路のグラウト出口孔の径の中心とが一致するように位置合わされた状態においてグラウト案内路と固定具とを連結する連結部が、注入孔とグラウト出口孔との間に形成された隙間を塞いで磁性体プレートの表面と接触する設置ベース板により形成されたことを特徴とする請求項1に記載のグラウト注入用治具。
【請求項4】
グラウト案内路は、一端開口がグラウト出口孔と連続するように設置ベース板に設けられた筒孔と、一端が筒孔の他端開口と連続するように設けられて他端側が開口されたグラウト搬入路とにより形成され、グラウト搬入路は、他端側から一端に向けて径が漸次小さくなるよう形成されたことを特徴とする請求項3に記載のグラウト注入用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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