説明

グラチラマーまたはその薬理学的に許容される塩を含むデポーシステム

本発明は、治療有効量のグラチラマーを含む長時間作用性非経口医薬組成物を提供する。特に、本発明は、それを必要とする対象者において医学的に許容される位置で投与するために適したデポー形態で治療有効量の酢酸グラチラマーを含む長時間作用性医薬組成物を提供する。デポー形態は皮下または筋肉内移植または注射に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸グラチラマーおよびグラチラマーの他の薬理学的に許容される塩の長時間作用性投与形態に関する。特に好ましいのは、酢酸グラチラマーの持続放出のためのデポーシステムおよび他の埋め込み型システムである。
【背景技術】
【0002】
酢酸グラチラマー
酢酸グラチラマーとしても知られ、商標名Copaxone(登録商標)で販売されているコポリマー1は、L−グルタミン酸、L−アラニン、L−チロシンおよびL−リシンを含有するポリペプチドの酢酸塩を含む。アミノ酸の平均モル分率は、それぞれ0.141、0.427、0.095および0.338であり、コポリマー1の平均分子量は4,700〜11,000ダルトンである。化学的には、酢酸グラチラマーは、L−アラニン、L−リシンおよびL−チロシン酢酸塩を有するL−グルタミン酸ポリマーと呼ばれる。その構造式は次のとおりである:
(Glu, Ala, Lys, Tyr)xCH3COOH
(C5H9NO4_C3H7NO2_C6H14N2O2_C9H11NO3)xC2H4O2[CAS−147245−92−9]、およその割合Glu14Ala43Tyr10Lyz34x(CH3COOH)20。Copaxone(登録商標)は、透明な無色から若干黄色の皮下注射用滅菌非パイロジェン溶液である。1ミリリットルあたり20mgの酢酸グラチラマーおよび40mgのマンニトールが含まれる。溶液のpH範囲は約5.5〜7.0である。
【0003】
作用機序
酢酸グラチラマーは、ミエリン塩基性タンパク質で見出される4つのアミノ酸から構成されるランダムポリマー(平均分子質量6.4kD)である。酢酸グラチラマーの作用機序はわかっていないが、このコポリマーのいくつかの重要な免疫学的特性が明らかになっている。コポリマー1の投与は、T細胞の集団を炎症誘発性Th1細胞から炎症反応を抑制する調節性Th2細胞までシフトさせる(FDA Copaxone(登録商標)ラベル)。ミエリン塩基性タンパク質との類似点を考慮すると、コポリマー1はおとりとして作用することもでき、ミエリンに対する自己免疫反応を変更する。しかし、血液脳関門の完全性は、少なくとも治療の初期段階では、コポリマー1によりほとんど影響を受けない。
【0004】
コポリマー1は、あらゆるミエリン抗原、たとえば様々な種におけるミエリン塩基性タンパク質(MBP)(Sela M et al., Bull Inst Pasteur (1990) 88 303−314)、プロテオリピドタンパク質(PLP)(Teitelbaum D et al., J Neuroimmunol (1996) 64 209−217)およびミエリン乏突起神経膠細胞糖タンパク質(MOG)(Ben−Nun A et al., J Neurol (1996) 243 (Suppl 1) S14−S22)を含むマウス脊髄ホモジネート(MSCH)をはじめとする種々の脳炎誘発物質により誘発される実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)を抑制することが証明されている非自己抗原である。EAEは、多発性硬化症の認められたモデルである。
【0005】
コポリマー1は、皮下、腹腔内、静脈内または筋肉内注射された場合に活性であることが証明されている(Teitelbaum D et al., Eur J Immunol (1971) 1 242−248; Teitelbaum D et al., Eur J Immunol (1973) 3 273−279)。第III相臨床試験では、コポリマー1を毎日皮下注射することは、身体障害の進行を遅らせ、増悪寛解型多発性硬化症の再発率を低減することが判明した(Johnson KP, Neurology (1995) 1 65−70; www.copaxone.com)。コポリマー1療法は、現在、連日皮下投与に限定されている。摂取または吸入によるコポリマー1での治療は、米国特許第6,214,791号で開示されているが、これらの投与経路がヒト患者において臨床的有効性を達成することは示されていない。
【0006】
有効性
再発寛解型多発性硬化症(RR MS)の患者で再発の頻度の低減における酢酸グラチラマーの有効性を裏付ける証拠は、2つのプラセボ対照試験に由来し、そのどちらも20mg/日の酢酸グラチラマー用量を使用した。他の用量または投薬レジメンはRR MSのプラセボ対照試験で試験されなかった(www.copaxone.com)。承認された20mg用量と40mg用量との比較試験で、これらの用量間で有効性の有意差は示されなかった(The 9006 trial; Cohen JA et al., Neurology (2007) 68 939−944)。酢酸グラチラマーにおける種々の臨床試験が進行中である。これらには、高用量の酢酸グラチラマーを使用する試験(40mg−FORTE試験);最初のエピソードからなる症候群の患者での試験(PreCISe試験)並びにその多数の組み合わせおよび誘導プロトコルが含まれ、ここで、酢酸グラチラマーは、別の活性生成物とともに、または別の活性生成物後に投与される。
【0007】
副作用
現在では、多発性硬化症の具体的に承認された治療はすべて、活性物質の自己注射を含む。しばしば観察される注射部位の問題としては、刺激、過敏症、炎症、痛みおよびさらには壊死(インターフェロン1β治療の場合)および低レベルの患者コンプライアンスが挙げられる。
【0008】
副作用としては、一般的に、注射部位のしこり(注射部位反応)、鈍痛、熱、および悪寒が挙げられる。これらの副作用は、一般的に、本来は軽度である。時には、反応は注射の数分後に起こり、反応では、紅潮、息切れ、不安および頻拍がある。これらの副作用は30分以内に鎮静する。時間が経つにつれて、脂肪萎縮症として知られる脂肪組織の局所的破壊のために、注射部位で明らかなくぼみが発生する可能性がある。したがって、別の投与法が望ましい。
【0009】
FDAの処方ラベルによると、酢酸グラチラマーに関してさらに重大な副作用が報告されており、これらとしては、身体の心血管系、消化系(肝臓を含む)、血液およびリンパ系、筋骨格系、神経系、呼吸器系、特殊感覚(特に、眼)、泌尿生殖系への重篤な副作用が挙げられ;また、代謝および栄養障害も報告されている;しかし、酢酸グラチラマーとこれらの副作用との間の関連性は、明確には解明されていない(FDA Copaxone(登録商標)ラベル)。
【0010】
デポーシステム
静脈内(IV)、筋肉内(IM)、または皮下(SC)注射による非経口経路は、低分子量薬ならびに高分子量薬のための最も一般的かつ有効な送達形態である。しかし、針で刺すことによる痛み、不快感および不便さのために、この様式の薬物送達は患者に最も好まれないものとなる。したがって、最低でも注射の総回数を減少させることができる任意の薬物送達技術が好ましい。実際の投薬の頻度のそのような低減は、ゆっくりであるが予測可能な方法で薬物を放出することができ、結果としてコンプライアンスを改善する注射可能なデポー処方の使用により達成することができる。ほとんどの薬物に関して、用量に応じて、注射頻度を連日から1ヶ月またはさらにそれ以上(6ヶ月)で1回もしくは2回に低減することが可能であり得る。患者の快適さを改善することに加えて、デポー処方の形態の薬物の低頻度の注射は、起伏をなくすことにより血漿濃度−時間プロフィールをならす。そのような血漿プロフィールの平滑化は、ほとんどの場合で治療利益を高めるだけでなく、高分子量薬物に関連することが多い免疫原性などの望ましくない事象も低減する可能性がある。
【0011】
微粒子、インプラントおよびゲルは、体内での薬物の放出を延長するために実際に使用される生分解性ポリマーデバイスの最も一般的な形態である。微粒子を注射直前に水性媒体中に懸濁させ、懸濁液中に40%もの固体を加えることができる。インプラント/ロッド処方はSC/IM組織へ、水性媒体を必要とせずに乾燥状態で特殊な針を用いて送達される。ロッド/インプラントのこの特徴により、さらに多量の処方ならびに薬物含量を送達することが可能になる。さらに、ロッド/インプラントにおいては、微粒子と比較してインプラントでは面積がはるかに小さいために、初期バースト問題が最小限に抑えられる。生分解性システムの他に、体外に着用できる非生分解性インプラントおよび輸液ポンプがある。非生分解性インプラントは、デバイスをSC/IM組織中に移植するためだけでなく、薬物放出期間後にそれらを取り出すためにも医者の往診を必要とする。
【0012】
注射可能な組成物を含む微粒子調製物は、特に問題の影響を受けやすい。微粒子懸濁液は、他の種類の注射可能な懸濁液では0.5〜5%の固形分であるのに比べて、50%もの固形分を含み得る。さらに、注射可能なデポー製品中で用いられる微粒子は、IMまたはSC投与に関して推奨される5μm未満の粒子サイズに対して、約250μm(平均60〜100μm)までのサイズの範囲である。固体の濃度が高いほど、また固体粒子サイズが大きいほど、より大きなサイズの針(18〜12ゲージ付近)が注射のために必要である。全体として、より太く不快な針を低頻度で使用するにもかかわらず、患者は、それでも少ない頻度で投与される投与形態を細い針で毎日薬物注射をするよりも好む。
【0013】
ポリ(乳酸)(PLA)ならびにポリ(ラクチド−コ−グリコリド)(PLGA)と称するラクチドおよびグリコリドのコポリマーの生分解性ポリエステルは、生分解性投与形態で用いられる最も一般的なポリマーである。PLAは疎水性分子であり、PLGAは、親水性グリコリド基が存在するために、PLAよりも急速に分解する。これらの生体適合性ポリマーはエステル結合のランダムな非酵素的加水分解を受けて、体内での正常な代謝化合物である乳酸とグリコール酸とを形成する。吸収性縫合糸、クリップおよびインプラントがこれらのポリマーの最も初期の適用である。Southern Research Instituteは、最初の合成吸収性縫合糸(Dexon(登録商標))を1970年に開発した。持続放出性投与形態におけるPLGAポリマーの使用を記載する最初の特許は、1973年に記載されている(米国特許第3,773,919号)。
【0014】
今日、PLGAポリマーは、複数の供給元;Alkermes(Medisorb polymers)、Absorbable Polymers International [以前は、Birmingham Polymers (a Division of Durect)]、Purac and Boehringer Ingelheimから市販されている。PLGAおよびPLAの他に、天然のセルロース系ポリマー、例えばデンプン、デンプン誘導体、デキストランおよび非PLGA合成ポリマーもまた、そのような系における生分解性ポリマーとして調査されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
現在、利用可能な酢酸グラチラマーの長時間作用性投与形態はない。これらの処方は多くの患者にとって、特に神経学的症状または身体障害を有する患者にとって、非常に有益であるからであるので、これは満たされていない大きな医学的必要性である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、治療有効量のグラチラマーの薬剤的に許容される塩、たとえば酢酸グラチラマーを含む長時間作用性非経口医薬組成物を提供する。特に、本発明は、それを必要とする対象者において医学的に許容される位置での非経口投与に適したデポー形態で治療有効量のグラチラマー塩を含む長時間作用性医薬組成物を提供する。本発明は、治療有効量のグラチラマーの薬剤的に許容される塩、好ましくは酢酸グラチラマーを含む組成物の非経口投与または移植を含む、多発性硬化症を治療する方法をさらに提供する。
【発明の効果】
【0017】
意外にも、本発明の原則による長時間作用性医薬組成物は、市販の連日注射可能な投与形態と同等またはよりすぐれた治療有効性を提供し、局所および/または全身性レベルで副作用の発生率および/または重篤度が低減されることが見出された。
【0018】
いくつかの実施形態によれば、酢酸グラチラマーはL−アラニン、L−グルタミン酸、L−リシン、およびL−チロシンの酢酸塩を、約0.14のグルタミン酸、約0.43のアラニン、約0.10のチロシンおよび約0.33のリシンのモル比で含む。
【0019】
他の実施形態によれば、酢酸グラチラマーまたは他のグラチラマーの薬剤的に許容される塩は、約15〜約100のアミノ酸を含む。
【0020】
ある実施形態によれば、移植可能なデポーは皮下または筋肉内移植に適している。
【0021】
別の実施形態によれば、長時間作用性非経口医薬組成物は、グラチラマー塩、例えば酢酸グラチラマーの薬剤的に許容される生分解性または非生分解性担体を含む。
【0022】
いくつかの実施形態によれば、担体は、PLGA、PLA、PGA、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチラート、ポリオルトエステル、ポリアルカンアンヒドリド、ゼラチン、コラーゲン、酸化セルロース、およびポリホスファゼンから選択される。それぞれの可能性は本発明の別の実施形態を表す。
【0023】
特定の実施形態によれば、本発明の長時間作用性医薬組成物は、水中油中水二重乳化プロセスにより調製される微粒子の形態である。現在好ましい実施形態において、本発明の長時間作用性医薬組成物は、治療有効量のグラチラマーの薬剤的に許容される塩を含む内部水性相、生分解性および非生分解性ポリマーから選択される担体を含む水非混和性ポリマー相、ならびに外部水性相を含む。他の現在好ましい実施形態において、水非混和性ポリマー相は、PLAおよびPLGAから選択される生分解性ポリマーを含む。それぞれの可能性は本発明の別の実施形態を表す。更なる実施形態において、外部水性相は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリソルベート、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドブロックコポリマーおよびセルロースエステルから選択される界面活性剤を含む。それぞれの可能性は本発明の別の実施形態を表す。
【0024】
本発明は、多発性硬化症を治療するために、それを必要とする個体への移植に適したデポー形態における酢酸グラチラマーまたは任意の他のグラチラマーの薬剤的に許容される塩の使用を含む。
【0025】
本発明は、対象者においてグラチラマーの持続放出または持効性作用を提供するために適した酢酸グラチラマーの移植可能なデポーの使用をさらに含む。
【0026】
本発明の範囲内に含まれるのは、多発性硬化症の治療で、または対象者においてグラチラマーの持続放出または持効性作用を提供する際の使用に適したデポー形態におけるグラチラマーの薬剤的に許容される塩である。
【0027】
本発明は、酢酸グラチラマーと、少なくとも1つのさらなる薬物、好ましくは免疫抑制剤、特にフィンゴリモドとの組み合わせをさらに含む。
【0028】
いくつかの実施形態によれば、長時間作用性医薬組成物は、週1回から6ヶ月ごとに1回までの投薬スケジュールに適している。
【0029】
特定の実施形態によれば、組成物は、2週間ごとに1回から月1回までの投薬に適している。
【0030】
いくつかの実施形態によれば、長時間作用性組成物は、注射1回あたり20〜750mgの酢酸グラチラマーの用量を含む。
【0031】
長時間作用性組成物の具体例は、生分解性または非生分解性微小球、任意の好適な幾何学的形状のインプラント、移植型ロッド、移植型カプセル、移植型リング、持続放出ゲルおよび浸食性マトリックスを含む。それぞれの可能性は、本発明の別の実施形態を表す。
【0032】
本発明のさらなる実施形態および適用性の全容は、以下に記載する詳細な説明から明らかになるであろう。しかし、詳細な説明および具体例は本発明の好ましい実施形態を示すが、例示のためのみに記載されるものであると理解されるべきである。なぜなら、本発明の精神および範囲内の種々の変更および修正は、この詳細な説明から当業者には明らかになるからである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】PBS中、37℃でのPLGA微粒子処方MPG−02〜07からの酢酸グラチラマーの放出の図である。示したデータは、同じ条件で保存された標準的ペプチド溶液に対して基準化される。
【図2】PBS中、37℃でのPLGA微粒子処方MPG−05R、08〜11およびコハク酸トコフェリル(1:1)からの酢酸グラチラマーの放出の図である。示したデータは、同じ条件で保存された標準的ペプチド溶液に対して基準化される。
【図3】PBS中37℃でのPLGA微粒子処方MPG−12〜15からの酢酸グラチラマーの放出の図である。示したデータは、同じ条件で保存された標準的ペプチド溶液に対して基準化される。
【図4】PBS中、37℃、pH7.4、インビトロでのPLGA微粒子処方MPG−14SU−1およびMPG−15SU−1からの酢酸グラチラマーの放出の図である。
【図5】PBS中、37℃、pH7.4、インビトロでのPLGA微粒子処方MPG−14SU−2およびMPG−15SU−2からの酢酸グラチラマーの放出の図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、連日注射と同等またはよりすぐれた治療有効性を提供し、したがって改善された患者コンプライアンスをもたらすグラチラマーの薬剤的に許容される塩、好ましくは酢酸グラチラマーの長時間作用性非経口医薬品を提供する。同じ治療有効性を提供することに加えて、長時間作用性注射またはインプラントは、頻回注射射に起因するグラチラマー副作用(局所および/または全身性)を低減する。
【0035】
第1の態様によれば、本発明は、治療有効量の酢酸グラチラマーまたは任意の他のグラチラマーの薬剤的に許容される塩を含む長時間作用性非経口医薬組成物を提供する。「非経口」という用語は、本明細書中で用いられる場合、皮下(SC)、静脈内(IV)、筋肉内(IM)、皮内(ID)、腹腔内(IP)などから選択される経路を指す。それぞれの可能性は本発明の別の実施形態を表す。「治療有効量」という用語は、本明細書中で用いられる場合、多発性硬化症の症状の緩和の目標を達成するコポリマーの量を特定することを意図する。好適な用量は、これらに限定されるものではないが、各投与形態に関して20〜750mgを含む。しかし、投与されるコポリマーの量は、選択された投与経路、年齢、体重、および患者の症状の重篤度をはじめとする種々のパラメータにしたがって、医師により決定されると理解される。本発明の種々の実施形態によれば、少なくとも1つのコポリマーの治療有効量は、約1mg〜約500mg/日の範囲である。あるいは少なくとも1つのコポリマーのそのような治療有効量は、約20mg〜約100mg/日である。
【0036】
別の態様において、本発明は、それを必要とする対象者の医学的に許容される位置で投与するために適したデポー形態において治療有効量の酢酸グラチラマーまたは任意の他のグラチラマーの薬剤的に許容される塩を含む長時間作用性医薬組成物を提供する。「長時間作用性」という用語は、本明細書中で用いられる場合、対象者の全体的な体循環または対象者における局所的作用部位に対するグラチラマー塩の延長された放出、持続放出または徐放を提供する組成物を指す。この用語はさらに、対象者においてグラチラマー塩の延長、持続、または拡張された作用時間(薬物動態学)を提供する組成物を指す可能性がある。特に、本発明の長時間作用性医薬組成物は、週1回から6ヶ月ごとに1回までの範囲の投薬レジメンを提供する。現在のところより好ましい実施形態によれば、投薬レジメンは、週に1回、月に2回(およそ2週間ごとに1回)から月1回までの範囲である。必要な作用時間によって、本発明の各デポーまたは移植可能なデバイスは、典型的には、2、3週から数ヶ月の範囲の期間にわたって放出されるように設計された活性成分約20〜750mgを含む。
【0037】
いくつかの実施形態において、本発明のデポー処方としては、これらに限定されるものではないが、グラチラマーまたはその薬剤的に許容される塩の水、油またはワックス相中懸濁液;グラチラマーまたはその薬剤的に許容される塩の難溶性高分子電解質複合体;水混和性溶媒のグラチラマーまたはその薬剤的に許容される塩との組み合わせに基づく「インサイチュ」ゲル形成マトリックス;およびグラチラマーまたはその薬剤的に許容される塩が組み込まれた生分解性ポリマー微粒子が挙げられる。それぞれの可能性は本発明の別の実施形態を表す。特に、本発明の組成物は、グラチラマーまたはその薬剤的に許容される塩が生分解性または非生分解性担体中にトラップされた、注射可能な微粒子の形態である。本発明の微粒子組成物は、水中油中水二重エマルジョンを含み得る。本発明の範囲内に含まれるのは、グラチラマーまたはその任意の薬剤的に許容される塩を含む内部水性相、生分解性もしくは非生分解性ポリマーを含む油相または水非混和性相、および外部水性相を含む微粒子組成物である。外部水性相は、界面活性剤、好ましくはポリビニルアルコール(PVA)、ポリソルベート、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドブロックコポリマーまたはセルロースエステルをさらに含み得る。「油相」および「水非混和性相」という用語は、本明細書中で交換可能に用いられ得る。
【0038】
本発明はさらに、それを必要とする対象者に対して治療有効量の酢酸グラチラマーまたは任意の他のグラチラマーの薬剤的に許容される塩を含む長時間作用性医薬組成物を非経口投与することにより多発性硬化症を治療する方法を提供する。本発明の範囲内に含まれるのは、それを必要とする個体に、デポー形態の酢酸グラチラマーまたは任意の他のグラチラマーの薬剤的に許容される塩を投与することによる、多発性硬化症の治療法である。「治療する」という用語は、本明細書中で用いられる場合、多発性硬化症の発症後の症状の抑制または緩和を指す。多発性硬化症の発症後の一般的な症状としては、これらに限定されるものではないが、視力低下または失明、よろめきおよび不均等な歩行、ろれつが回らないこと、ならびに頻尿および失禁が挙げられる。加えて、多発性硬化症は、情緒の変化および鬱病、筋痙攣および重篤な麻痺を引き起こし得る。薬物を投与する「対象者」は、ほ乳類であり、好ましくはヒトであるが、これに限定されるものではない。「多発性硬化症」という用語は、本明細書中で用いられる場合、本明細書中で前述された症状の1以上を伴う中枢神経系の自己免疫疾患を指す。
【0039】
「酢酸グラチラマー」という用語は、本明細書中で用いられる場合、Copaxone(登録商標)という商品名で販売され、4つの天然に存在するアミノ酸:L−グルタミン酸、L−アラニン、L−チロシン、およびL−リシンをそれぞれ0.141、0.427、0.095、および0.338の平均モル分率で含む合成ポリペプチドの酢酸塩からなる、かつてはコポリマー1として知られた化合物を指す。Copaxone(登録商標)中の酢酸グラチラマーの平均分子量は4,700〜11,000ダルトン(FDA Copaxone(登録商標)ラベル)であり、アミノ酸数は、約15〜約100のアミノ酸である。この用語はさらに、化学誘導体および化合物の類似体を指す。典型的には、化合物は、米国特許第5,981,589号;同第6,054,430号;同第6,342,476号;同第6,362,161号;同第6,620,847号;および同第6,939,539号(これらの参考文献のそれぞれの内容は、その全体が参照により本明細書中に組み込まれる)のいずれかで明記されるようにして調製し、特性化される。
【0040】
いくつかの実施形態において、組成物は、硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、酢酸塩、硝酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、ギ酸塩、イソ酪酸塩、カプリン酸塩、ヘプタン酸塩、プロピオール酸塩(propiolate)、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、コハク酸トコフェリル、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ブチン−1,4−二酸塩、ヘキシン−1,6−二酸塩、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、フタル酸塩、テレフタル酸塩、スルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニル酪酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、β−ヒドロキシ酪酸塩、グリコール酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン−2−スルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、マンデル酸塩などの塩をはじめとするが、これらに限定されない任意の他のグラチラマーの薬剤的に許容される塩を含み得る。それぞれの可能性は本発明の別の実施形態を表す。
【0041】
コポリマーは、当業者に利用可能な任意の手順により作製することができる。たとえば、コポリマーは、溶液中で所望のモル比のアミノ酸を用いて縮合条件下で、または固相合成手順により作製することができる。縮合条件には、1つのアミノ酸のカルボキシル基を別のアミノ酸のアミノ基と縮合してペプチド結合を形成するために適切な温度、pH、および溶媒条件が含まれる。縮合剤、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミドを用いて、ペプチド結合の形成を促進することができる。
【0042】
保護基を用いて、官能基、例えば側鎖部分および望ましくない副反応に対するアミノ基またはカルボキシル基のいくつかを保護することができる。米国特許第3,849,550号(その内容は、その全体が参照により本明細書中に組み込まれる)で開示されているプロセスを、本発明のコポリマーを調製するために用いることができる。たとえば、チロシンのN−カルボキシアンヒドリド、アラニン、グルタミン酸γ−ベンジルおよびN,ε−トリフルオロアセチル−リシンを周囲温度にて開始剤としてジエチルアミンを含む無水ジオキサン中で重合させる。グルタミン酸のγ−カルボキシル基を、氷酢酸中臭化水素により脱保護することができる。トリフルオロアセチル基をリシンから1モルのピペリジンにより除去することができる。当業者は、グルタミン酸、アラニン、チロシン、またはリシンのいずれか1つに関連する反応を選択的に除去することにより、所望のアミノ酸、すなわちコポリマー1中の4つのアミノ酸のうちの3つを含むペプチドおよびポリペプチドを作製することができることを容易に理解する。米国特許第6,620,847号;同第6,362,161号;同第6,342,476号;同第6,054,430号;同第6,048,898号および同第5,981,589号(その内容は、その全体が参照により本明細書中に組み込まれる)は、酢酸グラチラマー(Cop−1)を調製するための改善法を開示する。本出願に関して、「周囲温度」および「室温」という用語は、典型的には、約20℃〜約26℃に及ぶ温度を意味する。
【0043】
コポリマーの分子量を、ポリペプチド合成中またはポリマーが作製された後に調節することができる。ポリペプチド合成中に分子量を調節するために、ポリペプチドがほぼ所望の長さに達したら合成が停止するように、合成条件またはアミノ酸の量を調節する。合成後、任意の利用可能なサイズ選択手順、例えば分子量サイジングカラムまたはゲル上でのポリペプチドのクロマトグラフィー、および所望の分子量範囲の収集により、所望の分子量を有するポリペプチドを得ることができる。本発明のポリペプチドはまた、たとえば、酸または酵素的加水分解により部分的に加水分解して高分子量種を除去することができ、次いで精製して、酸または酵素を除去することができる。
【0044】
1つの実施形態において、保護されたポリペプチドを臭化水素酸と反応させて、所望の分子量プロフィールを有するトリフルオロアセチル−ポリペプチドを形成することを含むプロセスにより、所望の分子量を有するコポリマーを調製することができる。1以上の試験反応によりあらかじめ決められた時間および温度で反応を実施する。試験反応中、時間および温度は変化し、試験ポリペプチドの所定のバッチの分子量範囲が決定される。ポリペプチドのバッチについて最適の分子量範囲を提供する試験条件をそのバッチに関しして用いる。したがって、所望の分子量プロフィールを有するトリフルオロアセチル−ポリペプチドは、保護されたポリペプチドを臭化水素酸と試験反応によりあらかじめ決められた時間および温度で反応させることを含むプロセスにより製造することができる。所望の分子量プロフィールを有するトリフルオロアセチル−ポリペプチドを次いで水性ピペリジン溶液でさらに処理して、所望の分子量を有する脱保護されたポリペプチドを形成する。
【0045】
好ましい実施形態において、所与のバッチから得られる保護されたポリペプチドの試験試料を臭化水素酸と約10〜50時間、約20〜28℃の温度で反応させる。そのバッチに関して最善の条件は、いくつかの試験反応を実施することにより決定される。たとえば、1つの実施形態において、保護されたポリペプチドを臭化水素酸と約17時間、約26℃の温度で反応させる。
【0046】
ある実施形態において、投与形態としては、これらに限定されるものではないが、生分解性注射可能なデポーシステム、たとえばPLGAベースの注射可能なデポーシステム;非PLGAベースの注射可能なデポーシステム、および注射可能な生分解性ゲルまたは分散液が挙げられる。それぞれの可能性は本発明の別の実施形態を表す。「生分解性」という用語は、本明細書中で用いられる場合、少なくとも1つには、周囲の組織液中で見出される物質と接触するために、または細胞作用により、時間が経つにつれてその表面で腐食または分解する成分を指す。特に、生分解性成分は、ポリマー、例えばこれらに限定されるものではないが、例えばポリ(D,L−ラクチド)、すなわちPLAなどのポリラクチドなどの乳酸系ポリマー;例えばDurect製のLactel(登録商標)などのポリグリコリド(PGA)などのグリコール酸系ポリマー;ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)、すなわちPLGA、(Boehringer製のResomer(登録商標)RG−504、Resomer(登録商標)RG−502、Resomer(登録商標)RG−504H、Resomer(登録商標)RG−502H、Resomer(登録商標)RG−504S、Resomer(登録商標)RG−502S、Durect製のLactel(登録商標));ポリ(e−カプロラクトン)、すなわちPCL(Durect製のLactel(登録商標))などのポリカプロラクトン;ポリアンヒドリド;ポリ(セバシン酸)SA;ポリ(リシノール酸)RA;ポリ(フマル酸)、FA;ポリ(脂肪酸ディマー)、FAD;ポリ(テレフタル酸)、TA;ポリ(イソフタル酸)、IPA;ポリ(p−{カルボキシフェノキシ}メタン)、CPM;ポリ(p−{カルボキシフェノキシ}プロパン)、CPP;ポリ(p−{カルボキシフェノキシ}ヘキサン)CPH;ポリアミン、ポリウレタン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル{CHDM:シス/トランス−シクロヘキシルジメタノール、HD:1,6−ヘキサンジオール。DETOU:(3,9−ジエチリデン−2,4,8,10−テトラオキサスピロウンデカン)};ポリジオキサノン;ポリヒドロキシ酪酸塩;ポリアルキレンシュウ酸塩;ポリアミド;ポリエステルアミド;ポリウレタン;ポリアセタール;ポリケタール;ポリカーボネート;ポリオルトカーボネート;ポリシロキサン;ポリホスファゼン;コハク酸塩;ヒアルロン酸;ポリ(リンゴ酸);ポリ(アミノ酸);ポリヒドロキシ吉草酸塩;ポリアルキレンコハク酸塩;ポリビニルピロリドン;ポリスチレン;合成セルロースエステル;ポリアクリル酸;ポリ酪酸;トリブロックコポリマー(PLGA−PEG−PLGA)、トリブロックコポリマー(PEG−PLGA−PEG)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)、ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)−ポリ(エチレンオキシド)トリブロックコポリマー(PEO−PPO−PEO)、ポリ吉草酸;ポリエチレングリコール;ポリヒドロキシアルキルセルロース;キチン;キトサン;ポリオルトエステルおよびコポリマー、ターポリマー;脂質、例えばコレステロール、レシチン;ポリ(グルタミン酸−コ−エチルグルタミン酸塩)など、またはそれらの混合物である。
【0047】
いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、これらに限定されるものではないが、PLGA、PLA、PGA、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチラート、ポリオルトエステル、ポリアルカンアンヒドリド、ゼラチン、コラーゲン、酸化セルロース、ポリホスファゼンなどから選択される生分解性ポリマーを含む。それぞれの可能性は別の実施形態を表す。
【0048】
現在好ましい生分解性ポリマーは、乳酸系ポリマーであり、さらに好ましくはポリラクチド、またはポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)、すなわちPLGAである。好ましくは、生分解性ポリマーは組成物の約10%〜約98%w/wの量で存在する。乳酸系ポリマーは、100:0〜約0:100、好ましくは100:0〜約10:90の範囲の乳酸:グリコール酸のモノマー比を有し、約1,000〜200,000ダルトンの平均分子量を有する。しかし、生分解性ポリマーの量は、使用期間などのパラメータにより決定されると理解される。
【0049】
本発明の組成物は、これらに限定されるものではないが、補助界面活性剤、溶媒/共溶媒、水非混和性溶媒、水、水混和性溶媒、油性成分、親水性溶媒、乳化剤、防腐剤、抗酸化剤、消泡剤、安定剤、緩衝剤、pH調節剤、浸透圧性薬剤、チャンネル形成剤、浸透圧調節剤、または当該技術分野で公知の任意の他の賦形剤から選択される1以上の薬剤的に許容される賦形剤(複数可)をさらに含み得る。好適な補助界面活性剤としては、これらに限定されるものではないが、ポリエチレングリコール、「ポロキサマー」として知られるポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリグリセリン脂肪酸エステル、たとえばデカグリセリルモノラウレートおよびデカグリセリルモノミリステート、ソルビタン脂肪酸エステル、たとえばソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、たとえばポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween)、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、たとえばポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、たとえばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油および硬化ヒマシ油、たとえばポリオキシエチレン硬化ヒマシ油など、またはそれらの混合物が挙げられる。それぞれの可能性は本発明の別の実施形態を表す。好適な溶媒/共溶媒としては、これらに限定されるものではないが、アルコール、トリアセチン、ジメチルイソソルビド、グリコフロール(glycofurol)、炭酸プロピレン、水、ジメチルアセトアミドなど、またはそれらの混合物が挙げられる。それぞれの可能性は本発明の別の実施形態を表す。好適な消泡剤としては、これらに限定されるものではないが、シリコンエマルジョンまたはソルビタンセスキオレエートが挙げられる。本発明の組成物中の成分の劣化を防止または軽減するために好適な安定剤としては、これらに限定されるものではないが、抗酸化剤、たとえばグリシン、α−トコフェロールまたはアスコルベート、BHA、BHTなど、またはそれらの混合物が挙げられる。それぞれの可能性は本発明の別の実施形態を表す。好適な張性調整剤としては、これらに限定されるものではないが、マンニトール、塩化ナトリウム、およびグルコースが挙げられる。それぞれの可能性は本発明の別の実施形態を表す。好適な緩衝剤としては、これらに限定されるものではないが、好適なカチオンとの酢酸塩、リン酸塩、およびクエン酸塩が挙げられる。それぞれの可能性は本発明の別の実施形態を表す。
【0050】
本発明の組成物は、当該技術分野で公知の任意の方法により調製することができる。現在好ましいのは、グラチラマーまたはその塩コポリマーをコロイド状送達系、たとえば生分解性微粒子中に組み込み、かくして、粒子のポリマー壁を通した拡散により、そして体内で水媒体または生体液中でのポリマーの分解により、放出遅延を可能にすることである。本発明の組成物は、「二重乳化」として知られるプロセスにより、注射可能な微粒子の形態で調製することができる。手短に言うと、水溶性コポリマーの濃縮溶液を、生分解性または非生分解性ポリマーの水非混和性揮発性有機溶媒(例えば、塩化メチレン、クロロホルムなど)中溶液中に分散させる。このようにして得られた「油中水」(w/o)エマルジョンを次いで、界面活性剤(例えば、ポリビニルアルコール−PVA、ポリソルベート、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドブロックコポリマー、セルロースエステルなど)を含む連続した外部水相中に分散させて、「水中油中水(w/o/w)二重エマルジョン」液滴を形成する。有機溶媒の蒸発後、微粒子は凝固し、ろ過または遠心分離により集める。集めた微粒子(MP)を精製水で洗浄して、大部分の界面活性剤および非結合ペプチドを除去し、再度遠心分離する。洗浄したMPを集め、添加剤なしで、または抗凍結剤(マンニトール)を添加して凍結乾燥して、それらのその後の再構成を容易にする。
【0051】
「水中油中水(w/o/w)二重エマルジョン」の粒子サイズは、これらに限定されるものではないが、このステップで加えられる力の量、混合速度、界面活性剤の種類および濃度などをはじめとする種々のパラメータにより決定することができる。好適な粒子サイズは約1〜100μmに及ぶ。
【0052】
本発明のデポーシステムは、当業者に公知の任意の形態を含む。好適な形態としては、これらに限定されるものではないが、生分解性または非生分解性微小球、移植型ロッド、移植型カプセル、および移植型リングが挙げられる。それぞれの可能性は本発明の別の実施形態を表す。さらに想定されるのは、持続放出ゲルデポーおよび浸食性マトリックスである。それぞれの可能性は本発明の別の実施形態を表す。好適な埋め込み型システムは、たとえば。米国特許第2008/0063687号(その内容は、その全体が参照により本明細書中に組み込まれる)に記載されている。移植型ロッドは、たとえば、http://www.randcastle.com/prodinfo.htmlで記載されているものなどの好適なマイクロ押出機(micro−extruder)を用いて当該技術分野で知られているのと同様にして調製することができる。
【0053】
本発明の原則にしたがって、本発明の長時間作用性医薬組成物は、市販の連日注射可能な投与形態と同等またはさらに優れた治療有効性を提供し、局所および/または全身性レベルで、副作用の発生率が減少し、副作用の重篤度が低減される。いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、実質的に類似した用量の酢酸グラチラマーの即時放出処方と比較して、対象者においてグラチラマーの持続放出または持効性作用を提供する。
【0054】
本発明に含まれるのは、酢酸グラチラマーまたは任意の他のグラチラマーの薬剤的に許容される塩と少なくとも1つの他の活性剤との併用療法である。本発明の範囲内の活性剤としては、これらに限定されるものではないが、インターフェロン、たとえばペグ化もしくは非ペグ化α−インターフェロン、またはβ−インターフェロン、たとえばインターフェロンβ−1aもしくはインターフェロンβ−1b、またはτ−インターフェロン;場合によって抗増殖/抗腫瘍活性を有する免疫抑制剤、たとえばミトキサントロン、メトトレキサート、アザチオプリン、シクロホスファミド、またはステロイド、例えばメチルプレドニゾロン、プレドニゾンまたはデキサメタゾン、またはステロイド分泌剤、例えばACTH;アデノシンデアミナーゼ阻害剤例えばクラドリビン;IV免疫グロブリンG(例えば、Neurology, 1998, May 50(5):1273−81で開示されているとおり)種々のT細胞表面マーカーに対するモノクローナル抗体、たとえばナタリズマブ(ANTEGREN(登録商標))またはアレムツズマブ;TH2促進サイトカイン、たとえばIL−4、IL−10、またはTH1促進サイトカインの発現を阻害する化合物、たとえば、ホスホジエステラーゼ阻害薬、例えばペントキシフィリン;バクロフェン、ジアゼパム、ピラセタム、ダントロレン、ラモトリジン、リフルゾール(rifluzole)、チザニジン、クロニジン、ベータ受容体遮断薬、シプロヘプタジン、オルフェナドリンまたはカンナビノイドを含む抗痙縮剤;AMPAグルタメート受容体拮抗物質、たとえば、2,3−ジヒドロキシ−6−ニトロ−7−スルファモイルベンゾ(f)キノキサリン、[1,2,3,4,−テトラヒドロ−7−モルホリン−イル−2,3−ジオキソ−6−(トリフルオロメチル)キノキサリン−i−イル]メチルホスホネート、1−(4−アミノフェニル)−4−メチル−7,8−メチレン−ジオキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン、または(−)1−(4−アミノフェニル)−4−メチル−7,8−メチレン−ジオキシ−4,5−ジヒドロ−3−メチルカルバモイル−2,3−ベンゾジアゼピン;VCAM−1発現の阻害剤またはそのリガンドの拮抗物質、たとえばα4β1インテグリンVLA−4および/またはα−4−β−7インテグリンの拮抗物質、たとえばナタリズマブ(ANTEGREN(登録商標));抗マクロファージ遊走阻止因子(抗MIF);xii)カテプシンS阻害剤;xiii)mTor阻害剤が挙げられる。それぞれの可能性は本発明の別の実施形態を表す。現在好ましい他の1つの活性剤は、免疫抑制剤のクラスに属するFTY720(2−アミノ−2−[2−(4−オクチルフェニル)エチル]プロパン−1,3−ジオール;フィンゴリモド)である。
【0055】
以下の実施例は、本発明のある実施形態をさらに十分に説明するために提示する。しかし、これらは決して本発明の広い範囲を制限するものと解釈されるべきではない。当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書中で開示される原則の多くの変更および修正を容易に考案することができる。
【0056】
実施例
実施例1:一般的調製法
PLGAベースの注射可能なデポー粒子
微粒子を溶媒抽出/蒸発法により調製した(単一エマルジョン)。250mgのPLGAおよび200mgの酢酸グラチラマーを含む50:50ジクロロメタン/エタノールの溶液を、2%のPVAを含む水溶液(200ml)中にゆっくりと注ぎ、メカニカルスターラー(300rpm)を用いて25℃で乳化させた。有機溶媒を撹拌下(100rpm)で2時間蒸発させた。かくして形成された微粒子を遠心分離により集め、蒸留水で洗浄して、過剰の乳化剤を除去した。最終懸濁液を次いで凍結乾燥して、微粉末を得た。
【0057】
ポリカプロラクトンベースの注射可能なデポー粒子
微粒子を溶媒抽出/蒸発法により調製した(単一エマルジョン)。500mgのポリカプロラクトンおよび200mgの酢酸グラチラマーを含む70:30ジクロロメタン/アセトンの溶液を、2%のPVA、1%のTween80を含む水溶液(200ml)中にゆっくりと注ぎ、メカニカルスターラー(500rpm)を用いて25℃で乳化させた。有機溶媒を撹拌下(300rpm)で4時間蒸発させた。形成された微粒子を遠心分離により集め、蒸留水で洗浄して、過剰の乳化剤を除去した。最終懸濁液を次いで凍結乾燥して、微粉末を得た。
【0058】
PLGAベースのインプラント−ロッド
PLGAベースの生分解性ロッド形インプラント(長さ20mm、直径2mm)を、溶媒抽出/蒸発法により調製した。250mgのPLGAおよび200mgの酢酸グラチラマーを含む50:50ジクロロメタン/エタノールの溶液を特別なロッド形型中にゆっくりと注いだ。有機溶媒を真空オーブン中で12時間室温にて蒸発させた。別法として、250mgのPLGAと200mgのグラチラマーとの混合物を85〜90℃にて、直径0.8または1.0mmのダイを有するスクリュー型押出機(Microtruder Rancastle RCP−0250または類似のもの)を用いて押し出すことにより、ロッド形インプラントを調製した。
【0059】
実施例2:分析法−酢酸グラチラマーのアッセイ
装置
分光光度計
分析用天秤(0.01mgまで正確に重さを量ることができる)
【0060】
材料および試薬
標準試料として酢酸グラチラマー83%
2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS、ピクリルスルホン酸、170.5mM)MeOH中5%
0.1Mのホウ酸塩緩衝液pH9.3(テトラホウ酸ナトリウム10水和物 MW381.37)
精製水
0.5、1.0、2.0および7.0mLのホールピペット
種々のガラス器具。
【0061】
調製
グラチラマーストック溶液400μg/mLの調製
4.8mgの酢酸グラチラマー(標準試料用塩基として効力83%)を10mlのメスフラスコ中に量りとった。約7mlの0.1Mホウ酸塩緩衝液を添加して、酢酸グラチラマーを超音波浴中で溶解させた。溶液を0.1Mホウ酸塩緩衝液でさらに希釈して、グラチラマーストック溶液400μg/ml(塩基として)を得た。
【0062】
0.25%のTNBS希釈標準溶液の調製
使用前に、TNBSの5%ストック溶液を水で希釈(20倍;例えば50μlおよび950μlの水)して、0.25%のTNBS希釈標準溶液を得た。
【0063】
較正曲線標準の調製
8つのグラチラマー較正標準溶液(cSTD;それぞれ4ml)を表1にしたがって調製した。
【表1】

【0064】
光学密度測定
1.0mlの各グラチラマー較正標準溶液、試料(2連)および試薬ブランク(0.1Mホウ酸塩緩衝液)を1.5mlのポリプロピレン遠心管に移し、これに50μlの0.25%TNBS希釈標準溶液を添加した。溶液をよく混合し、室温で30分間保持した。得られた溶液のそれぞれの光学密度を420nmおよび700nmで読み取り、これらの密度の差を計算して、コロイド状系における光分散によるエラーを回避した。選択された濃度範囲の較正曲線を計算した。
【0065】
判定基準
2連の試料調製物に関する結果間の差は、次式:
【数1】


(式中、Rspl1は試料1について得られた結果であり、Rspl2は試料2について得られた結果である)により計算するとNMT5%であった。
【0066】
実施例3:酢酸グラチラマーを添加したPLGA微粒子の調製
外部(連続)水相:0.75%のNaClの精製水中溶液30ml、界面活性剤として0.5%部分加水分解(87〜89%)ポリビニルアルコール(PVA)、MPG−10に関して0.2%のポリソルベート−80(Tween−80)およびブランクMP調製に関して2%PVAをさらに含む。
内部水相(ペプチド溶液に関して):25〜30mgの酢酸グラチラマーにつき150〜200μlの精製水。超音波浴を使用して酢酸グラチラマーを水中に溶解させた。
有機ポリマー溶液(油相):2〜5mlの塩化メチレン中165〜300mgのPLGA。場合によって、カウンターイオンを有機相中にさらに溶解または分散させた。
【0067】
調製手順
油中水(w/o)エマルジョン調製:溶解した酢酸グラチラマーを含む内部水相を、試験管中で、CH2Cl2中PLGA溶液を含む油相と直接混合した。混合物を十分に振とうし、超音波インデンター(チタンチップ、最大出力120ワット、仕事率10〜15%、5秒を3〜5サイクル)で処理した。場合によって氷または氷水を用いて冷却して、塩化メチレンの沸騰を回避した。
【0068】
二重エマルジョン(w/o/w)調製:このようにして得られたポリマーPLGA有機溶液中酢酸グラチラマー溶液のw/oエマルジョンを高剪断ミキサー(小型ミキサー、VDI−12、シャフト直径10mm、およびさらに大型のミキサー、OMNI−1100、シャフト直径18mm)を用いて種々の速度で30〜120秒間さらに処理した。
【0069】
溶媒除去:このようにして形成された二重エマルジョンを入れたふたをしてないビーカーをマグネティックプレートスターラー上に置き、3〜4時間室温にて換気フード中で、すべての塩化メチレンが蒸発し、微粒子が凝固するまで撹拌した。
【0070】
微粒子の遠心分離:凝固した微粒子の懸濁液を2000〜5000gで10分間遠心分離し、上清を別の容器に移し、酢酸グラチラマー含有量に関して分析して、ペプチド組み込みおよび結合を評価した。
【0071】
微粒子の洗浄:前記手順から得られた沈殿した微粒子を、ボルテックスおよび超音波浴を用いて10mlの精製水中に懸濁させ、2〜3分間振とうまたは超音波処理した。微粒子の懸濁液を2000〜5000gで10分間再度遠心分離し、上清を別の容器に移し、酢酸グラチラマー含有量に関して分析した。
【0072】
凍結乾燥:微粒子の洗浄した沈殿を3〜5mlの精製水または5%マンニトール中に再懸濁させ、10mlのあらかじめ計量したガラスバイアル中に移し、−37〜−43℃に設定された凍結乾燥機プレートを用いて凍結させ、そして凍結乾燥した(主乾燥:16〜48時間、−20℃および真空0.05バール、最終乾燥:12〜16時間+20℃および0.025バール)。凍結乾燥後のバイアルを計量し、ブロモブチルゴム栓で閉じ、使用するまで冷蔵庫保存条件で保存した。
【0073】
粒子サイズ評価:微粒子の粒子サイズを、対物レンズ40×および10×ならびに1〜1000μmの範囲のステージミクロメーターで明視野および位相差顕微鏡法(Leutz Orthoplan(商標)(ドイツ国))を用いて評価した。
【0074】
すべての微粒子処方は、0.75%の塩化ナトリウムを含む水相を用いて調製して、外部浸透圧を増大させ、水溶性荷電薬物の組み込みを改善した。ブランク(空)微粒子(第1実験)は、界面活性剤として2%のPVAを用いて得られ、一方、すべてのペプチド負荷処方に関しては0.5%のPVAを使用した。
【0075】
組成物および調製プロセスのパラメータを表2〜5に示す。
【表2】

【0076】
小直径の固定子(シャフト12mm)および8〜30,000rpmの速度範囲のIKA Germany製のVWR VDI−12高剪断ミキサーを位置#5に配置した(約24,000rpm)。2%PVA相中約10%の塩化メチレン中PLGA溶液の短時間処理(30秒)を用いて、ブランクMP試料を調製し、その結果、比較的広いサイズ分布(10〜50μm)を有する平滑球状微粒子を得た。発泡のために、さらなるプロセスは低濃度の界面活性剤で実施した。均質化時間も延長(1または2分の処理)して、さらに狭いサイズ分布を得た。
【0077】
二重エマルジョン中に内部水相が存在するため、グラチラマーペプチドを用いて調製した微粒子はすべて、光学顕微鏡下で観察した場合、可視介在物を有し、MP表面上または粒子内部のいずれかで多孔性の徴候を有していた。
【表3】

【0078】
形成された酢酸グラチラマーを負荷した微粒子を遠心分離し;ペレットを精製水中に再懸濁させ、洗浄し、繰り返し遠心分離した。上清および場合によっては洗浄水を酢酸グラチラマー含有量に関して分析した。遠心分離した沈殿を精製水または5%マンニトール溶液中に再懸濁させ、凍結乾燥した。
【表4】

【0079】
あらかじめ等モル量のコハク酸トコフェリルを溶解させた塩化メチレン中にグラチラマーの水溶液を、超音波インデンターを用い、60秒間(6×10秒)、氷冷しながら懸濁させることにより、コハク酸トコフェリル(MW530、1COOHeq.265ダルトン)および酢酸グラチラマー(MW4,700〜11,000、1NH2eq.約693ダルトン)の等モル複合体(塩)の処方を調製した。有機溶媒および水の蒸発後、かくして形成された水不溶性生成物を集め、精製水および乾燥エタノールで洗浄し、さらに精製することなくさらなる調査のために使用した。
【表5】

【0080】
凍結乾燥
遠心分離および洗浄後の微粒子処方を、精製水中に沈殿を再懸濁させた後に「そのまま」、または場合によっては抗凍結剤を添加して(沈殿を5%のマンニトール溶液中に再懸濁させた)、凍結乾燥した。試料を、1時間−37〜−43℃で、凍結乾燥機プレートを使用して凍結させ、凍結乾燥機「Alpha 2−4 LSC」 (Christ(ドイツ国))を用いて24〜48時間、0.050ミリバールの圧力および−20℃(最終乾燥0.025ミリバールおよび+20℃で10〜16時間)で凍結乾燥した。どちらの再懸濁手順においても、凍結乾燥された生成物は容易に再構成することができた。マンニトールの使用は、抗凍結剤を含まない処方と比較して容易に再構成される生成物をもたらすが、そのような組成物は顕著な量のバラスト材料を含み、活性材料の実際の濃度を測定するためにより複雑な計算を必要とした。
【0081】
実施例4:PLGA微粒子からの酢酸グラチラマーのインビトロ放出
装置
20mlバイアル
マルチポイントマグネティックスターラー
インキュベーター
ピペッター
UV−Vis分光光度計Shimadzu 1601
試薬およびプラスチック/ガラス器具
【0082】
試験品
処方MPG−02、03、04、05、05R、06、07、12、13、14、および15〜50mgの凍結乾燥微粒子。
処方MPG−08、09、10、および11 5%のマンニトールを用いて凍結乾燥させた50mgの乾燥微粒子に対応する量
対照酢酸グラチラマー溶液 0.05%のアジ化ナトリウムを含むPBS中20〜50μg/mL(塩基として))
温度:37℃
【0083】
酢酸グラチラマーを負荷した生分解性PLGA微粒子(種々の処方)からの組み込まれた酢酸グラチラマーの放出を評価するために、以下のプロセスを利用した。
【0084】
プロセスの説明:20mlのPBS(0.01Mのリン酸塩、0.05%のNaN3)pH7.4を各バイアルに添加した。バイアルを37℃に置き、小型磁石で撹拌した。600μlの試料を10,000gで5分間遠心分離した。500μlの上清を1.5mlのマイクロチューブに移し、続いて500μlの0.1Mホウ酸塩緩衝液(2倍希釈)および50μlのTNBSを添加した。結果として得られた組成物を激しく混合し、ベンチ上で30分間保持した。TNBS法を用いて分析を実施した。
【0085】
500μlの新鮮なPBS(NaN3を含む)で再懸濁させた、残りの沈殿した粒子をバイアルに戻した。酢酸グラチラマーの放出量の正確な計算を、各時点について2.5%のさらなる放出プロセスで実施した。
【0086】
組み込まれた酢酸グラチラマーの放出を、密閉された20mlのガラスバイアル中で、マルチポイントマグネティックスターラーを備えた37℃のインキュベーターを用いて実施した。pH7.4のリン酸塩緩衝塩溶液(PBS)を放出媒体として使用した。
【0087】
酢酸グラチラマーの放出を10〜32日の期間にわたって試験した。
【0088】
1〜200μg/mlの範囲における較正曲線についての等式を次のようにして計算した(Shimadzu UV−1601):
OD=0.035+0.0132*C(r2=0.9985)
(式中、OD:光学密度(420および700nmでの差)
C:酢酸グラチラマー塩基の濃度、μg/ml)
【0089】
処方MPG01〜MPG07のペプチド放出の結果を図1に示す。疎水性カウンターイオンを含まず、酸性末端基を有する低分子量PLGAポリマー(Resomer RG 502H)を基準として、組み込まれた酢酸グラチラマーの最も速い放出(第1〜10日について40%)は、処方MPG−05で得られた。カウンターイオンとして比較的少量のコハク酸トコフェリルを有する中性ポリマーRG502(MPG−03)も、顕著な放出(第2〜12日で約30%)を示したが、絶対的放出値は低かった。多量のカウンターイオンを含む処方は、薬物放出の抑制を示した。いかなる理論または作用機序によっても拘束されないが、これは、形成された複合体の高い疎水性に起因する可能性がある。さらに、DCPまたはDMPGを含む微粒子の調製は、凝集体の形成および広い粒子サイズ分布を伴った。
【0090】
VDI−12(12mmシャフト)の代わりにさらに大型のより強力な高剪断ミキサーOMNI GLH(シャフト直径20mm、5000〜30000rpm)を使用することにより、微粒子(処方8〜11)のサイズが著しく減少し、表面平滑性が増大する。有機溶媒の量を増大させると(MPG−02)、微粒子中へのペプチドの組み込みが減少した。いかなる理論または作用機序によっても拘束されないが、これはおそらくは中間o/w/o二重エマルジョン液滴サイズの増加に起因する。同様に、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベートの使用も、薬物負荷にマイナスの影響を及ぼした(0.2%のTween−80を含むMPG−10)。疎水性カウンターイオン(コハク酸トコフェリル、ジミリストイルホスファチジルグリセロールDMPG、リン酸ジセチルDCP)の添加は、カウンターイオンを含まない処方(MPG−05、MPG−05R)と比較して、ポリマー微粒子からのペプチド放出を著しく遅らせた。いかなる理論または作用機序によっても拘束されないが、疎水性カウンターイオンの添加は、特性が損なわれた微粒子(MPG−06)を提供する可能性がある。
【0091】
使用したポリマーの化学構造は、PLGAの分子量よりも放出特性に対して大きな影響を示した。Resomers RG502HおよびRG502(MW約17,000ダルトン)は非常に類似した拡散係数を有していたが、ポリマーマトリックスからの含まれるペプチドの放出を決定する主な因子は、酢酸グラチラマーの正に荷電したLys部分とPLGAポリマー中のカルボキシル末端基との間の多点イオン相互作用であった。中性Resomer(登録商標)RG502は、カウンターイオンの存在下でさえも低い結合能力を示し(MPG−02、03)、一方、さらに高分子量を有する中性Resomer(登録商標)RG503は、さらに良好な結合を示したが、非常に遅い放出を示した(MPG−10、11)。
【0092】
別に調製した同じ処方(MPG−05およびMPG−05R)からの反復放出実験は、そのような小規模バッチに関して適度に類似した挙動および良好な再現性を示した。Resomer(登録商標)RG 502Hを含む酢酸グラチラマーの処方は、類似したバースト効果(約30%)、良好な初期ペプチド結合および迅速な薬物放出を示した(図2)。
【0093】
コハク酸トコフェリルの等モル複合体(塩)の処方は、高結合および非常に低い水溶性(約5μg/ml)を有していた。いかなる理論または作用機序によっても拘束されないが、これは、二酸(コハク酸トコフェリル)とポリマーのポリアミン分子とのイオン性架橋結合が原因である可能性がある。PBS中でこの塩からのポリマーの放出は非常に遅かった。ポリマー微粒子に関して、コハク酸トコフェリルがPLGAマトリックス中に組み込まれる場合、この二酸の一部だけがポリマーと相互作用することができ、完全な放出抑制のためには、さらに多量のコハク酸トコフェリルが必要である。したがって、グラチラマーおよびPLGA間の比により放出速度を調節することができる。使用した有機溶媒の量も、程度は低いが重要であり得る。
【0094】
薬物およびポリマー間の比が異なるResomer(登録商標)RG 502Hを基準とした処方12〜15は、比が、初期バースト効果、結合レベルおよび放出速度の制御において重要な役割を果たすことを示した。PLGAおよびペプチドの量の調節ならびに疎水性カウンターイオン、例えばコハク酸トコフェリルの添加は、高結合、低初期バーストおよび適度の放出速度の微粒子処方(MPG−12〜15)の調製を可能にする(図3)。
【0095】
実施例5:スケールアップ
酢酸グラチラマー微粒子処方の凍結乾燥試料
さらに大きな反応容器およびさらに大型のホモジナイザー(OMNI GLH)を低速で用いて、MPG−14SU−1(MPG−014の処方)を製造した。
【0096】
合計13個のバイアル;各バイアルは約235mgの凍結乾燥処方を含み、酢酸グラチラマーの合計含有量は1バイアルあたり約18.2mgであり、約75μg/mgの凍結乾燥処方に等しかった。
【0097】
さらに大きな反応容器およびさらに大型のホモジナイザー(OMNI GLH)を低速で用いて、MPG−15 SU−1(MPG−015の処方)を製造した。
【0098】
合計10個のバイアル;各バイアルは約145mgの凍結乾燥処方を含み、酢酸グラチラマーの合計含有量は1バイアルあたり約14.9mgであり、約100μg/mgの凍結乾燥処方に等しかった。
【0099】
同じ反応容器、同じホモジナイザー(VDI 12)および同じパラメータを用いてMPG−14 SU−2(MPG−014の処方)を製造し、プロセスを数時間繰り返した。組成物を十分に洗浄して、初期バーストを減少させた。
【0100】
合計12個のバイアル;各バイアルは約88mgの凍結乾燥処方を含み、酢酸グラチラマーの合計含有量は1バイアルあたり約6.3mgであり、約72μg/mgの凍結乾燥処方に等しかった。
【0101】
同じ反応容器、同じホモジナイザー(VDI 12)および同じパラメータを用いてMPG−15 SU−2(MPG−015の処方)を製造し、プロセスを数時間繰り返した。組組成物を十分に洗浄して、初期バーストを減少させた。
【0102】
合計12個のバイアル;各バイアルは約55mgの凍結乾燥処方を含み、酢酸グラチラマーの合計含有量は1バイアルあたり約5.6mgであり、約100μg/mgの凍結乾燥処方に等しかった。
【0103】
全ての凍結乾燥試料を冷蔵庫中、+4℃で保存し、使用前に再構成した。
【0104】
処方および希釈剤(グルコース溶液)間の比は、少なくとも1:5であり、好ましくは1:10以上であった。激しく振とうした後、再構成した試料を投与した。これらの処方の放出プロフィールを図4および5に示す。
【0105】
このように、酢酸グラチラマーの高水溶性ペプチドの生分解性ポリマー微粒子中への組み込みが示された。微粒子は、ポリマーの良好な結合、適度な薬物負荷および減少した初期放出バーストを示し、これは異なる組成物および調製プロセスを利用することにより調節することができる。Resomer(登録商標)502Hから作製され、酢酸グラチラマーが負荷されたPLGA微粒子は、撹拌された水性媒体(リン酸塩緩衝塩溶液、pH7.4)中37℃で10〜15日間、1日あたり3〜5%の放出速度で組み込まれたペプチドのインビトロ放出をもたらす。
【0106】
実施例6:実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデル
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)は、ミエリン塩基性タンパク質の注射により実験動物において誘発することができる炎症性自己免疫脱髄疾患である。そのような疾患は、臨床的および実験的自己免疫疾患を研究するための標準的実験室モデルになっている。実際、多くの論文(例えば、Abramsky et. al., J Neuroimmunol (1982) 2 1およびBolton et al., J Neurol Sci. (1982) 56 147)が、動物における慢性再発性EAEのヒトにおける多発性硬化症に対する類似性は、特に多発性硬化症などの自己免疫脱髄疾患の研究に関してEAE値を意味づけることを記載している。したがって、EAE試験モデルを用いて、多発性硬化症に対する本発明の処方の活性を証明する。そのような試験は以下の手順に従って実施する。
【0107】
メスLewisラットの足蹠に、完全フロイントアジュバント中ミエリン塩基性タンパク質(MBP)(モルモット脊髄から張性)12.5μgを注射する。本発明の処方を、様々な投与量で毎週/2週/月に1回の注射により試験動物に投与する。対照処方を他のある試験動物に投与する。動物を次いで体重測定し、0から3のスケールにしたがってEAEの症状について毎日記録する(0=変化なし;1=弛緩した尾;2=後肢身体障害および3=後四半身麻痺/瀕死)。スコア3に達したら、動物を次いで屠殺する。
【0108】
実施例7:EAEモデルを用いたインビボ検査
MSのネズミモデルに対する本発明の処方の効果を測定するために、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を実施する。25−ヒドロキシビタミンD3−1α−ヒドロキシラーゼノックアウトマウス(1α−OH KO)を、EAE免疫化の前に、0.87%のカルシウムおよび1ngの1,25−(OH)2D3(Vit D)を含む精製飼料を2〜3週間摂らせる。ミエリン乏突起神経膠細胞グリコプロタンパク質(glycoproprotein)(MOG35−55)に対する免疫優性ペプチド200μgの皮下免疫化により、EAEを6〜10週令のマウスに誘発させる。
【0109】
標準的9−フルオレニル−メトキシ−カルボニル化学を用いてペプチドを合成する。mg/mlの熱不活性化結核菌(Mycobacterium tuberculosis)H837aを含むフロイント完全アジュバント(CFA;Sigma)中にペプチドを、溶解させる。
【0110】
マウスは、以下の採点法を利用してEAEの臨床徴候に関して毎日調べる:0、徴候なし;1、だらりと垂れた尾;2、後肢虚弱;3、後肢麻痺;4,前肢麻痺;5、瀕死または死亡。
【0111】
2以上のスコアのEAEの臨床徴候を呈するマウスを本発明の処方で治療し、本発明の処方は、種々の用量で毎週/隔週/月1回の注射により投与する。対照群を、プラセボまたは酢酸グラチラマーの代表的なレジメン[たとえば、PNAS, 2005, vol. 102, no. 52, 19045−19050]のいずれかで治療する。マウスを次に体重測定し、EAEの症状について毎日記録する。統計解析は、発生率に関して両側フィッシャー直接確立計算法および他の測定値すべてに関して独立スチューデントt検定を用いて実施する。P<0.05の値は統計的に有意と見なされる。
【0112】
本発明を詳細に記載しているが、当業者は、多くの変更および修正をなす事が可能であることを理解するであろう。したがって、本発明は、詳細に記載された実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、本発明の範囲および概念は、以下の請求の範囲を参照することによりさらに容易に理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量のグラチラマーの薬剤的に許容される塩を含む長時間作用性非経口医薬組成物。
【請求項2】
それを必要とする対象者において医学的に許容される位置で移植するのに適したデポー形態において治療有効量のグラチラマーの薬剤的に許容される塩を含む長時間作用性医薬組成物。
【請求項3】
グラチラマーの薬剤的に許容される塩が酢酸グラチラマーである、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
皮下または筋肉内移植に適した、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
グラチラマーが、約0.14のグルタミン酸、約0.43のアラニン、約0.10のチロシンおよび約0.33のリシンのモル比でL−アラニン、L−グルタミン酸、L−リシン、およびL−チロシンを含む、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
グラチラマーが約15〜約100のアミノ酸を含む、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項7】
グラチラマーの薬剤的に許容される塩が、約20〜約750mgの範囲の用量である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項8】
薬剤的に許容される生分解性または非生分解性担体をさらに含む、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項9】
担体が、PLGA、PLA、PGA、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチラート、ポリオルトエステル、ポリアルカンアンヒドリド、ゼラチン、コラーゲン、酸化セルロース、およびポリホスファゼンから選択される、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
水中油中水二重乳化プロセスにより調製される微粒子の形態の、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項11】
治療有効量のグラチラマーの薬剤的に許容される塩を含む内部水性相、生分解性または非生分解性ポリマーを含む水非混和性ポリマー相、および外部水性相を含む、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項12】
水非混和性ポリマー相がPLAおよびPLGAから選択される生分解性ポリマーを含む、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
外部水相が、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリソルベート、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドブロックコポリマーおよびセルロースエステルから選択される界面活性剤を含む、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項14】
週1回から6ヶ月ごとに1回までの投薬スケジュールに適した、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項15】
2週間ごとに1回から月1回までの投薬スケジュールに適した、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
生分解性微小球、非生分解性微小球、任意の好適な幾何学的形状のインプラント、移植型ロッド、移植型カプセル、移植型リング、または持続放出ゲルもしくは浸食性マトリックスの形態の、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項17】
組成物が、酢酸グラチラマーの市販の連日注射可能な投与形態と等しいかまたはさらに優れた治療有効性を提供し、副作用の発生率が低減され、および/または局所および/または全身レベルで副作用の重篤度が低減された、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項18】
組成物が、実質的に類似した用量の酢酸グラチラマーの即時放出処方と比較して、対象者においてグラチラマーの持続放出または持効性作用を提供する、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
請求項1に記載の長時間作用性医薬組成物の非経口投与により多発性硬化症を治療する方法。
【請求項20】
それを必要とする対象者に請求項2に記載の長時間作用性医薬組成物を移植するステップを含む、多発性硬化症を治療する方法。
【請求項21】
医薬組成物を皮下投与または筋肉内移植するステップを含む、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
医薬組成物が酢酸グラチラマーを含む、請求項19または20に記載の方法。
【請求項23】
酢酸グラチラマーがL−アラニン、L−グルタミン酸、L−リシン、およびL−チロシンを、約0.14のグルタミン酸、約0.43のアラニン、約0.10のチロシンおよび約0.33のリシンのモル比で含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
グラチラマーが約15〜約100のアミノ酸を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
医薬組成物がグラチラマーの薬剤的に許容される塩を約20〜約750mgの範囲の用量で含む、請求項19または20に記載の方法。
【請求項26】
医薬組成物が薬剤的に許容される生分解性または非生分解性担体をさらに含む、請求項19または20に記載の方法。
【請求項27】
担体が、PLGA、PLA、PGA、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチラート、ポリオルトエステル、ポリアルカンアンヒドリド、ゼラチン、コラーゲン、酸化セルロース、およびポリホスファゼンからなる群から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
医薬組成物が、水中油中水二重乳化プロセスにより調製される微粒子の形態である、請求項19または20に記載の方法。
【請求項29】
医薬組成物が、治療有効量のグラチラマーの薬剤的に許容される塩を含む内部水性相、生分解性または非生分解性ポリマーを含む水非混和性ポリマー相、および外部水性相を含む、請求項19または20に記載の方法。
【請求項30】
水非混和性ポリマー相がPLAおよびPLGAから選択される生分解性ポリマーを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
外部水相が、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリソルベート、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドブロックコポリマーおよびセルロースエステルから選択される界面活性剤を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
投与または移植のステップが、週1回から6ヶ月ごとに1回までの投薬スケジュールで実施される、請求項19または20に記載の方法。
【請求項33】
投薬スケジュールが2週間ごとに1回から月1回までである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
医薬組成物が、生分解性微小球、非生分解性微小球、任意の好適な幾何学的形状のインプラント、移植型ロッド、移植型カプセル、もしくは移植型リング、持続放出ゲルまたは浸食性マトリックスの形態である、請求項19または20に記載の方法。
【請求項35】
医薬組成物が、市販の連日注射可能な投与形態と等しいかまたはさらに優れた治療有効性を提供し、副作用の発生率が低減され、局所および/または全身レベルで副作用の重篤度が低減された、請求項19または20に記載の方法。
【請求項36】
医薬組成物が、実質的に類似した用量の酢酸グラチラマーの即時放出処方と比較して、対象者においてグラチラマーの持続放出または持効性作用を提供する、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
多発性硬化症を治療するために、それを必要とする個体に移植するのに適したデポー形態におけるグラチラマーの薬剤的に許容される塩の使用。
【請求項38】
対象者においてグラチラマーの持続放出または持効性作用を提供するための請求項37に記載の移植可能なデポーの使用。
【請求項39】
グラチラマーの薬剤的に許容される塩が酢酸グラチラマーである、請求項37〜38のいずれかに記載の使用。
【請求項40】
多発性硬化症の治療における使用に適したデポー形態におけるグラチラマーの薬剤的に許容される塩。
【請求項41】
対象者においてグラチラマーの持続放出または持効性作用を提供する際の使用に適したデポー形態におけるグラチラマーの薬剤的に許容される塩。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−516403(P2013−516403A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−546553(P2012−546553)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際出願番号】PCT/IL2010/000679
【国際公開番号】WO2011/080733
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(511224254)マピ ファーマ リミテッド (6)
【Fターム(参考)】