説明

グラフェン、蓄電装置および電気機器

【課題】電気機器に用いることのできる、リチウムイオンを透過するグラフェンを提供する。
【解決手段】グラフェン中に、環員数が9以上の炭素環を設ける。環員数が9以上の炭素環は、リチウムイオンに対する最大ポテンシャルがほぼ0電子ボルトであるため、リチウムイオンが透過する間隙として機能させることができる。このようなグラフェンを電極や活物質表面に被覆すると、リチウムイオンの移動を妨げずに、電極や活物質と電解液との反応を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用の材料等に適用できる、リチウムの透過性および導電性に優れたグラフェンあるいは複数層のグラフェンに関する。グラフェンとは、sp結合を有する1原子層の炭素分子のシートである。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、高い導電率や移動度という優れた電気特性、柔軟性や機械的強度という物理的特性のためにさまざまな製品に応用することが試みられている(特許文献1乃至特許文献3参照)。また、グラフェンをリチウムイオン二次電池に応用する技術も提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許公開第2011/0070146号公報
【特許文献2】米国特許公開第2009/0110627号公報
【特許文献3】米国特許公開第2007/0131915号公報
【特許文献4】米国特許公開第2010/0081057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
グラフェンは高い導電率を持つことが知られている。グラフェンは、そのままではイオンを透過させることができないが、グラフェンの一部に間隙を設けることでイオンを透過させる能力を付与することが可能となる。
【0005】
グラフェンに設ける間隙が大きく、また、単位面積当たりの間隙の数が多いほど効率良くイオンを透過させることが可能となるが、グラフェンの機械的強度が低下してしまう。本発明の一態様は、この問題を解決するためになされたもので、グラフェンに設ける間隙の大きさ及び数と、グラフェンの機械的強度を最適な状態とすることを目的の一とする。
【0006】
そのほかに、本発明の一態様は、充放電特性の優れた蓄電装置を提供することを目的の一とする。あるいは、単位重量あたりの蓄電容量を増加させることを目的の一とする。あるいは、サイクル特性を向上させることを目的の一とする。あるいは、長期あるいは繰り返しの使用にも耐える、信頼性の高い電気機器を提供することを目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、グラフェン中に、環員数が9以上の炭素環を設けることを特徴とする。環員数が9の炭素環はリチウムイオンに対する最大ポテンシャルエネルギーがほぼ0電子ボルトであるため、環員数が9以上の炭素環をグラフェン中設けることで、リチウムイオンが透過する間隙として機能させることができる。
【0008】
本発明の一態様は、グラフェン中に、0.149nm以上の間隙を設けることを特徴とする。グラフェン中に設ける間隙の面積を0.149nm以上とすることで、リチウムイオンを容易に透過させることができる。
【0009】
このようなグラフェンを電極や活物質表面に被覆すると、リチウムイオンの移動を妨げずに、電極や活物質と電解液との反応を抑制できる。
【0010】
また、本発明の一態様は、上記のグラフェンを有する電気機器である。また、本発明の一態様は、上記のグラフェンで表面を被覆された電極や活物質である。本発明の一態様は、上記の課題のいずれか一を解決する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、蓄電装置の充放電速度を向上させることができる。
【0012】
本発明の一態様によれば、単位重量当たりの蓄電容量を増加させることができる。
【0013】
本発明の一態様によれば、サイクル特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】グラフェン中に形成する炭素環の最適構造を示す図。
【図2】リチウムイオンが、炭素環から受けるポテンシャルエネルギーの変化を説明する図。
【図3】グラフェンに設ける間隙の面積aと間隙が1つ含まれるグラフェンの面積Sの関係を説明する図。
【図4】リチウムイオンの移動を説明する図。
【図5】コイン型の二次電池の構造を説明する図。
【図6】電気機器の一例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態について説明する。但し、実施の形態は多くの異なる態様で実施することが可能であり、趣旨およびその範囲から逸脱することなくその形態および詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は、以下の実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0016】
(実施の形態1)
本実施の形態では、グラフェンに設ける間隙の大きさ、間隙の数密度(グラフェン単位面積あたりの間隙の数)、及びグラフェンの機械的強度を最適なものとする方法について説明する。
【0017】
図1は、グラフェン中に形成する炭素環の最適構造を示す図であり、図2は、リチウムイオンが、8員環構造を有する炭素環または9員環構造を有する炭素環から受けるポテンシャルエネルギーの変化を説明する図である。また、図3は、任意の機械的強度における、グラフェンに設ける間隙の面積aと、間隙が1つ含まれるグラフェンの面積S(1/Sが数密度に相当する。)の関係を説明する図である。
【0018】
まず、グラフェン中に設ける最小面積の間隙の候補として、8員環構造を有する炭素環と9員環構造を有する炭素環のリチウムイオンの透過性について第一原理計算により検証した。計算には平面波基底擬ポテンシャル法に基づく第一原理計算ソフトVASPを用いた。
【0019】
図1(A)に、第一原理計算により得られた、グラフェン中に形成する8員環構造を有する炭素環の最適構造を示す。8員環構造を有する炭素環301の環径は最大で0.427nm、最小で0.347nmであり、三角形を用いた初等幾何学的な面積は0.105nmである。
【0020】
また、図1(B)に、第一原理計算により得られたグラフェン中に形成する9員環構造を有する炭素環の最適構造を示す。9員環構造を有する炭素環302の環径は最大で0.428nm、最小で0.422nmであり、三角形を用いた初等幾何学的な面積は0.149nmである。
【0021】
図1(A)及び図1(B)に示した構造に対してリチウムイオンの透過性を検討した結果を図2に示す。図2は、リチウムイオンの炭素環からの距離に対するリチウムイオンが炭素環から受けるポテンシャルエネルギーの変化を示している。図2の横軸はリチウムイオンの炭素環からの距離を示し、縦軸はリチウムイオンが炭素環から受けるポテンシャルエネルギーを示している。図2において、曲線311はリチウムイオンが8員環構造を有する炭素環301から受けるポテンシャルエネルギーの変化を示し、曲線312はリチウムイオンが9員環構造を有する炭素環302から受けるポテンシャルエネルギーの変化を示している。
【0022】
8員環構造を有する炭素環301のポテンシャルエネルギーは、リチウムイオンとの距離が0.2nm近辺で極小となるが、さらに小さくなると増加に転じる。リチウムイオンが炭素環301に達するには1eV程度のポテンシャルエネルギーが必要となるため、リチウムイオンは炭素環301を透過できない。
【0023】
これに対し、9員環構造を有する炭素環302では、リチウムイオンが炭素環302に達した時のポテンシャルエネルギーは−0.26eV程度であり、リチウムイオンは炭素環302を容易に透過できる。
【0024】
一般に、炭素環を透過するためのポテンシャルエネルギーは、炭素環の環員数が減ると大きくなり、環員数が増えると小さくなる。したがって、リチウムイオンを透過させるためにグラフェン中に設ける炭素環(間隙)の環員数は、9以上とする必要がある。すなわち、間隙の面積aを図3に示す直線401よりも大きくする必要がある。
【0025】
リチウムイオンが間隙を有するグラフェンを透過するのに要する時間は、主として、グラフェン面内にあるリチウムイオンが間隙に到達する時間によって決定される。
【0026】
図4(A)に示すように、リチウムイオン103はグラフェン102の面内を移動し、間隙104に到達すると、グラフェン102に接する電極101(蓄電装置であれば活物質)が負の電位の場合は下層のグラフェンに移動する(電極101が正の電位の場合は上層のグラフェンに移動する)。
【0027】
間隙104を有するグラフェン102を移動するリチウムイオンが、環員数が9以上の炭素環である間隙104に到達するまでの時間は、図4(B)のモデルをもとに以下のように算出される。
【0028】
まず、グラフェン上に存在するリチウムイオンの拡散について考える。点Pにあるリチウムイオンが、点Pから時間tかけて移動することができる距離rは、二次元のブラウン運動における平均二乗変位と時間の関係式により、数式1として表すことができる。ここで、Dはリチウムイオンの拡散係数である。
【0029】
【数1】

【0030】
すなわち、点Pにあるリチウムイオンは、時間t後には点Pを中心とする半径rの円105の中に存在すると言える。
【0031】
次に、環員数が9以上の炭素環である間隙104が1つ含まれるグラフェンの面積(平均面積)をSとして、グラフェン上を移動するリチウムイオンが間隙104に到達するまでの時間について考える。なお、Sの逆数(1/S)は、グラフェン102の単位面積あたりの間隙104の数(間隙の数密度)である。
【0032】
点Pにあるリチウムイオンが間隙104に到達する時間を時間tとすると、数式1及び円の面積を求める公式から数式2を導くことができる。すなわち、グラフェン上を移動するリチウムイオンは、数式2を満たす時間t後に、間隙104に到達する可能性があると言える。数式2を時間tについて解いた式を、数式3に示す。
【0033】
【数2】

【0034】
【数3】

【0035】
次に、時間t後にリチウムイオンが間隙104に到達する確率について考える。時間t後にリチウムイオンが間隙104に到達する確率は、間隙104が1つ含まれるグラフェンの面積Sと、間隙104の面積aから、a/Sと表すことができる。また、時間t後にリチウムイオンが間隙104に到達していない確率は、1−a/Sと表すことができる。このことから、時間t後にリチウムイオンが間隙104に到達していない確率を、数式4で表すことができる。
【0036】
【数4】

【0037】
よって、時間t後にリチウムイオンが間隙104に到達する(グラフェン102上にいない)確率P(t)は、数式5で表すことができる。
【0038】
【数5】

【0039】
また、a/Sが十分に小さい場合には、テイラー展開により数式5を数式6のように近似することができる。
【0040】
【数6】

【0041】
そして、リチウムイオンが間隙104に到達している(グラフェン102上にいない)時間を時間tとすれば、その確率P(t)は1である。数式6の時間tに数式3を代入すると、時間tを数式7で表すことができる。
【0042】
【数7】

【0043】
したがって、間隙104を有するグラフェン102上を移動するリチウムイオンが面積aを有する間隙104に到達するまでの時間は、数式7を用いて算出することができる。
【0044】
グラフェン面でのリチウムイオンの拡散係数Dは、1×10−11cm/sである。時間tを実際に用いる電池の充放電時間よりも充分短い時間、例えば10秒以下とするという条件を課すと数式7より図3の直線402が求まる。Sは直線402以下の値をとらなければならないため、数式8の条件を充足する必要がある。
【0045】
【数8】

【0046】
当然のことながら、間隙の数密度が多ければリチウムイオンが間隙に到達する時間は短くなる。一方で、間隙の数密度が増加すると、グラフェンの機械的強度が低下することとなるため、間隙の数密度には上限を設ける必要がある。
【0047】
1次元方向の引っ張りや圧縮に対する機械的強度は、グラフェンの1次元方向に対する間隙の割合によって決まる。近似的には1次元方向の機械的強度をUとして数式9により求められる。
【0048】
【数9】

【0049】
例えば、グラフェンの1次元方向の機械的強度のk倍(k<1、kは間隙の無いグラフェンの機械的強度に対する比率)を確保するには、グラフェンの1次元方向に対する間隙の割合を(1−k)倍とすれば良い。つまり、間隙のグラフェンの2次元方向に対する割合は、面積Sの(1−k)倍となるように設定すればよい。この条件から図3の直線403が決まる。Sは直線403以上の値を取らなければならないため、数式10の条件を充足する必要がある。なお、直線403はk=2/3の場合を示している。
【0050】
【数10】

【0051】
なお、図3、数式9、及び数式10は、グラフェンが1層の場合について示しているが、複数のグラフェンが積層されている場合であっても、本実施の形態で開示した内容を勘案して決定することが可能である。
【0052】
また、グラフェンに設ける間隙は、炭素環に限らず、酸素、窒素、及び硫黄から選ばれた1つまたは複数の元素と、炭素を含む環状化合物構造を有してもよい。
【0053】
このように、面積a及び面積Sを、図3に示す直線401乃至直線403で囲まれた範囲内に設定することで、任意の機械的強度において、グラフェンに設ける間隙の大きさ、及び間隙の数密度を最適なものとすることができる。
【0054】
上記グラフェンで被覆した電極や活物質を蓄電装置に適用することで、蓄電装置の充放電速度を向上させることが可能となる。また、蓄電装置の単位重量当たりの蓄電容量を増加させることができる。また、蓄電装置のサイクル特性を向上させることができる。
【0055】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0056】
(実施の形態2)
本実施の形態では、シリコン粒子の表面にグラフェンを1層以上50層以下有するグラフェン層を形成する例について説明する。最初に、グラファイトを酸化して、酸化グラファイトを作製し、これに超音波振動を加えることで酸化グラフェンを得る。詳細は特許文献2を参照すればよい。また、市販の酸化グラフェンを利用してもよい。
【0057】
次に、酸化グラフェンとシリコン粒子を混合する。酸化グラフェンの割合は、全体の1重量%乃至15重量%、好ましくは1重量%乃至5重量%とするとよい。さらに、真空中あるいは不活性ガス(窒素あるいは希ガス等)中等の還元性の雰囲気で150℃、好ましくは200℃以上の温度で加熱する。加熱する温度が高いほど、酸化グラフェンがよく還元され、純度の高い(すなわち、炭素以外の元素の濃度の低い)グラフェンが得られる。なお、酸化グラフェンは150℃で還元されることがわかっている。
【0058】
なお、得られるグラフェンの電子伝導性を高めるためには、高温での処理が好ましい。例えば、加熱温度100℃(1時間)では多層グラフェンの抵抗率は240MΩcm程度であるが、加熱温度200℃(1時間)では4kΩcmとなり、300℃(1時間)では2.8Ωcmとなる。
【0059】
このようにしてシリコン粒子の表面に形成された酸化グラフェンは還元され、グラフェンとなる。その際、隣接するグラフェン同士が結合し、より巨大な網目状あるはシート状のネットワークを形成する。このようにして形成されたグラフェンは、上記で説明したような数密度の間隙があるため、リチウムイオンが透過する。
【0060】
以上の処理を経たシリコン粒子を適切な溶媒(水やクロロホルムやN,N−dimethylformamide(DMF)やN−methylpyrrolidone(NMP)等の極性溶媒が好ましい)に分散させスラリーを得る。このスラリーを用いて二次電池を作製できる。
【0061】
図5はコイン型の二次電池の構造を示す模式図である。図5に示すように、コイン型の二次電池は、負極204、正極232、セパレータ210、電解液(図示せず)、筐体206および筐体244を有する。このほかにはリング状絶縁体220、スペーサー240およびワッシャー242を有する。
【0062】
負極204は、負極集電体200上に負極活物質層202を有する。負極集電体200としては、例えば銅を用いるとよい。負極活物質としては、上記スラリー単独、あるいは上記スラリーにバインダーで混合したものを負極活物質層202として用いるとよい。
【0063】
正極集電体228の材料としては、アルミニウムを用いるとよい。正極活物質層230は、正極活物質の粒子をバインダーや導電助剤ともに混合したスラリーを正極集電体228上に塗布して、乾燥させたものを用いればよい。
【0064】
正極活物質の材料としては、コバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム、珪酸マンガンリチウム、珪酸鉄リチウム等を用いることができるが、これに限らない。活物質粒子の粒径は20nm乃至100nmとするとよい。また、焼成時にグルコース等の炭水化物を混合して、正極活物質粒子にカーボンがコーティングされるようにしてもよい。この処理により導電性が高まる。
【0065】
電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒にLiPFを溶解させたものを用いるとよいが、これに限られない。
【0066】
セパレータ210には、空孔が設けられた絶縁体(例えば、ポリプロピレン)を用いてもよいが、リチウムイオンを透過させる固体電解質を用いてもよい。
【0067】
筐体206、筐体244、スペーサー240およびワッシャー242は、金属(例えば、ステンレス)製のものを用いるとよい。筐体206および筐体244は、負極204および正極232を外部と電気的に接続する機能を有している。
【0068】
これら負極204、正極232およびセパレータ210を電解液に含浸させ、図5に示すように、筐体206を下にして負極204、セパレータ210、リング状絶縁体220、正極232、スペーサー240、ワッシャー242、筐体244をこの順で積層し、筐体206と筐体244とを圧着してコイン型の二次電池を作製する。
【0069】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0070】
(実施の形態3)
本実施の形態では、集電体上に形成されたシリコン活物質層の表面にグラフェンを1層以上50層以下有するグラフェン層を形成する例について説明する。最初に、酸化グラフェンを水やNMP等の溶媒に分散させる。溶媒は極性溶媒であることが好ましい。酸化グラフェンの濃度は1リットル当たり0.1g乃至10gとすればよい。
【0071】
この溶液にシリコン活物質層を集電体ごと浸漬し、これを引き上げた後、乾燥させる。さらに、真空中あるいは不活性ガス(窒素あるいは希ガス等)中等の還元性の雰囲気で200℃以上の温度で加熱する。以上の工程により、シリコン活物質層表面にグラフェンを1層以上50層以下有するグラフェン層を形成することができる。このようにして形成されたグラフェン層は、上記で説明したような数密度の間隙があるため、リチウムイオンが透過する。
【0072】
なお、このようにして一度、グラフェンの層を形成した後、もう一度、同じ処理を繰り返して、さらに同様にグラフェンを1層以上50層以下有するグラフェン層を形成してもよい。同じことを3回以上繰り返してもよい。このように多層のグラフェンを形成すると、グラフェン層全体の強度が高くなる。
【0073】
なお、一度に厚いグラフェン層を形成する場合には、グラフェンのsp結合の向きに乱雑さが生じ、グラフェン層の強度が厚さに比例しなくなるが、このように何度かに分けてグラフェン層を形成する場合には、グラフェンのsp結合が概略シリコンの表面と平行であるため、厚くするほどグラフェン層全体の強度が増す。
【0074】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0075】
(実施の形態4)
本実施の形態では、集電体上に形成されたシリコン活物質層の表面にグラフェンを1層以上50層以下有するグラフェン層を形成する別の例について説明する。実施の形態2と同様に、酸化グラフェンを水やNMP等の溶媒に分散させる。グラフェンの濃度は1リットル当たり0.1g乃至10gとすればよい。
【0076】
酸化グラフェンを分散させた溶液にシリコン活物質層が形成された集電体を入れ、これを正極とする。また、溶液に負極となる導電体を入れ、正極と負極の間に適切な電圧(例えば、5V乃至20V)を加える。酸化グラフェンは、ある大きさのグラフェンシートの端の一部がカルボキシル基(−COOH)で終端されているため、水等の溶液中では、カルボキシル基から水素イオンが離脱し、酸化グラフェン自体は負に帯電する。そのため、正極に引き寄せられ、付着する。なお、この際、電圧は一定でなくてもよい。正極と負極の間を流れる電荷量を測定することで、シリコン活物質層に付着した酸化グラフェンの層の厚さを見積もることができる。
【0077】
必要な厚さの酸化グラフェンが得られたら、集電体を溶液から引き上げ、乾燥させる。さらに、真空中あるいは不活性ガス(窒素あるいは希ガス等)中等の還元性の雰囲気で200℃以上の温度で加熱する。このようにしてシリコン活物質の表面に形成された酸化グラフェンは還元され、グラフェンとなる。その際、隣接するグラフェン同士が結合し、より巨大な網目状あるはシート状のネットワークを形成する。
【0078】
上記のように形成されたグラフェンは、シリコン活物質に凹凸があっても、その凹部にも凸部にもほぼ均一な厚さで形成される。このようにして、シリコン活物質層の表面にグラフェンを1層以上50層以下有するグラフェン層を形成することができる。このようにして形成されたグラフェンの層は、上記で説明したような数密度の間隙があるため、リチウムイオンが透過する。
【0079】
なお、このようにグラフェンの層を形成した後に、本実施の形態の方法によるグラフェンの層の形成や、実施の形態2の方法によるグラフェンの層の形成を1回以上おこなってもよい。
【0080】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0081】
(実施の形態5)
本発明の一態様に係る蓄電装置は、電力により駆動する様々な電気機器の電源として用いることができる。
【0082】
本発明の一態様に係る蓄電装置を用いた電気機器の具体例として、表示装置、照明装置、デスクトップ型或いはノート型のパーソナルコンピュータ、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に記憶された静止画または動画を再生する画像再生装置、携帯電話、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、電子書籍、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器、電気洗濯機、エアコンディショナーなどの空調設備、電気冷蔵庫、電気冷凍庫、電気冷凍冷蔵庫、DNA保存用冷凍庫、透析装置などが挙げられる。また、蓄電装置からの電力を用いて電動機により推進する移動体なども、電気機器の範疇に含まれるものとする。上記移動体として、例えば、電気自動車、内燃機関と電動機を併せ持った複合型自動車(ハイブリッドカー)、電動アシスト自転車を含む原動機付自転車などが挙げられる。
【0083】
なお、上記電気機器は、消費電力の殆ど全てを賄うための蓄電装置(主電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。或いは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電力の供給が停止した場合に、電気機器への電力の供給を行うことができる蓄電装置(無停電電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。或いは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電気機器への電力の供給と並行して、電気機器への電力の供給を行うための蓄電装置(補助電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。
【0084】
図6に、上記電気機器の具体的な構成を示す。図6において、表示装置5000は、本発明の一態様に係る蓄電装置5004を用いた電気機器の一例である。具体的に、表示装置5000は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体5001、表示部5002、スピーカー部5003、蓄電装置5004等を有する。本発明の一態様に係る蓄電装置5004は、筐体5001の内部に設けられている。表示装置5000は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5004に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5004を無停電電源として用いることで、表示装置5000の利用が可能となる。
【0085】
表示部5002には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Device)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field Emission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
【0086】
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
【0087】
図6において、据え付け型の照明装置5100は、本発明の一態様に係る蓄電装置5103を用いた電気機器の一例である。具体的に、照明装置5100は、筐体5101、光源5102、蓄電装置5103等を有する。図6では、蓄電装置5103が、筐体5101及び光源5102が据え付けられた天井5104の内部に設けられている場合を例示しているが、蓄電装置5103は、筐体5101の内部に設けられていても良い。照明装置5100は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5103に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5103を無停電電源として用いることで、照明装置5100の利用が可能となる。
【0088】
なお、図6では天井5104に設けられた据え付け型の照明装置5100を例示しているが、本発明の一態様に係る蓄電装置は、天井5104以外、例えば側壁5105、床5106、窓5107等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓上型の照明装置などに用いることもできる。
【0089】
また、光源5102には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができる。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
【0090】
図6において、室内機5200及び室外機5204を有するエアコンディショナーは、本発明の一態様に係る蓄電装置5203を用いた電気機器の一例である。具体的に、室内機5200は、筐体5201、送風口5202、蓄電装置5203等を有する。図6では、蓄電装置5203が、室内機5200に設けられている場合を例示しているが、蓄電装置5203は室外機5204に設けられていても良い。或いは、室内機5200と室外機5204の両方に、蓄電装置5203が設けられていても良い。エアコンディショナーは、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5203に蓄積された電力を用いることもできる。特に、室内機5200と室外機5204の両方に蓄電装置5203が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5203を無停電電源として用いることで、エアコンディショナーの利用が可能となる。
【0091】
なお、図6では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナーを例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一体型のエアコンディショナーに、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることもできる。
【0092】
図6において、電気冷凍冷蔵庫5300は、本発明の一態様に係る蓄電装置5304を用いた電気機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫5300は、筐体5301、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303、蓄電装置5304等を有する。図6では、蓄電装置5304が、筐体5301の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫5300は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5304に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5304を無停電電源として用いることで、電気冷凍冷蔵庫5300の利用が可能となる。
【0093】
なお、上述した電気機器のうち、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器などの電気機器は、短時間で高い電力を必要とする。よって、商用電源では賄いきれない電力を補助するための補助電源として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることで、電気機器の使用時に商用電源のブレーカーが落ちるのを防ぐことができる。
【0094】
また、電気機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量のうち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、蓄電装置に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まるのを抑えることができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫5300の場合、気温が低く、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303の開閉が行われない夜間において、蓄電装置5304に電力を蓄える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303の開閉が行われる昼間において、蓄電装置5304を補助電源として用いることで、昼間の電力使用率を低く抑えることができる。
【0095】
本実施の形態は、上記実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【符号の説明】
【0096】
101 電極
102 グラフェン
103 リチウムイオン
104 間隙
105 円
200 負極集電体
202 負極活物質層
204 負極
206 筐体
210 セパレータ
220 リング状絶縁体
228 正極集電体
230 正極活物質層
232 正極
240 スペーサー
242 ワッシャー
244 筐体
301 炭素環
302 炭素環
311 曲線
312 曲線
401 直線
402 直線
403 直線
5000 表示装置
5001 筐体
5002 表示部
5003 スピーカー部
5004 蓄電装置
5100 照明装置
5101 筐体
5102 光源
5103 蓄電装置
5104 天井
5105 側壁
5106 床
5107 窓
5200 室内機
5201 筐体
5202 送風口
5203 蓄電装置
5204 室外機
5300 電気冷凍冷蔵庫
5301 筐体
5302 冷蔵室用扉
5303 冷凍室用扉
5304 蓄電装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隙を有するグラフェンであって、
前記間隙が1つ含まれる前記グラフェンの面積Sが、
数式1と数式2を充足することを特徴とするグラフェン。
【数1】

【数2】

(数式中、aは前記間隙の面積を示し、Dはリチウムイオンの拡散係数を示し、t1は前記グラフェン上のイオンが前記間隙に到達するまでの時間を示し、kは間隙の無いグラフェンの機械的強度に対する前記間隙を有するグラフェンの機械的強度の比率を示す。)
【請求項2】
請求項1において、
前記間隙は、環員数が9以上の炭素環であることを特徴とするグラフェン。
【請求項3】
請求項1あるいは請求項2記載のグラフェンを有する蓄電装置。
【請求項4】
請求項1あるいは請求項2記載のグラフェンを有する電気機器。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−28525(P2013−28525A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−138429(P2012−138429)
【出願日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】