説明

グラフェンナノシートおよびこれを製造する方法

【課題】種々の実施形態は、膨張可能な黒鉛の減圧誘導加熱によってグラフェン生成物を作成するための材料および方法を提供する。
【解決手段】グラフェン生成物は、純度が高く、均一な厚みをもつグラフェンナノシートを含むことができる。グラフェンナノシートは、約99重量%を超える炭素を含むことができる。グラフェンナノシートは、半導体ポリマーのマトリックス内に剥離または分散し、グラフェン含有コンポジットを作成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本教示は、炭素材料の分野に関し、より詳細には、膨張黒鉛およびグラフェンを製造する方法ならびに該方法を用いて製造されたグラフェンナノシートに関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、並はずれた電気特性、熱特性、機械特性のため、近年、かなり関心が集まってきている。グラフェンの応用可能性としては、透明な電極および半導体、ナノコンポジット材料、電池、スーパーキャパシタ、水素貯蔵などが挙げられる。
【0003】
グラフェンシートを製造する従来のやり方としては、単層中の炭素原子間sp結合を生成するボトムアップ法が挙げられる。このボトムアップ法には、炭化ケイ素からの化学蒸着(CVD)およびエピタキシャル成長を用いる。グラフェンシートを製造する別の従来のやり方としては、化学物質の酸化還元によって黒鉛を剥離することによるトップダウン法が挙げられる。このトップダウン法は、Hummer法としても知られる。しかし、Hummer法では、酸化剤および毒性のある還元剤を使用しなければならず、これにより、最終的なグラフェンシートに欠陥が生じる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
種々の実施形態によれば、本教示は、膨張黒鉛を製造する方法を含む。まず、膨張可能な黒鉛をチャンバに入れ、次いで、チャンバを減圧状態にすることによって、膨張黒鉛を作成することができる。次いで、この減圧状態で、膨張可能な黒鉛を誘導加熱するために電流を加え、膨張黒鉛を作成することができる。
【0005】
種々の実施形態によれば、本教示は、グラフェン生成物を製造する方法も含む。この方法では、膨張可能な黒鉛をチャンバに入れてもよい。膨張可能な黒鉛は、熱膨張を引き起こすことが可能なインターカレーション剤を含んでいてもよい。次いで、チャンバを減圧状態にしてもよい。この減圧状態で、膨張可能な黒鉛を誘導加熱するために電流を加えることによって、膨張黒鉛を作成してもよい。次いで、膨張黒鉛を溶媒中で剥離し、溶媒中に分散した1つ以上のグラフェンナノシートを作成してもよい。
【0006】
種々の実施形態によれば、本教示は、減圧下、膨張可能な黒鉛を誘導加熱することによって作られるグラフェンナノシートをさらに含む。グラフェンナノシートは、望ましい厚みの±約1nmの範囲内にある均一な厚みをもち、実質的にしわがない状態にすることができる。グラフェンナノシートは、実質的に不純物部分を含まない状態にすることができる。グラフェンナノシートは、炭素含有量が少なくとも約99重量%であるようにすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
種々の実施形態は、グラフェン生成物を作成する材料および方法を提供する。グラフェン生成物は、グラフェンナノシートから作られる膨張黒鉛、剥離したグラフェンナノシート、および/またはグラフェンナノシートと有機半導体とを含むグラフェン含有コンポジットを含んでいてもよい。
【0008】
一実施形態では、グラフェンナノシートは、減圧環境下、膨張可能な黒鉛の誘導加熱を用いて作成することができる。次いで、得られた膨張黒鉛を溶媒(またはガスキャリア)中で剥離し、溶媒に分散したグラフェンナノシートを含むグラフェン分散物を作成することができる。いくつかの実施形態では、グラフェンナノシートを、共役ポリマーまたは他の有機半導体を含む溶液に分散させ、グラフェン分散物を作成し、次いで、グラフェン含有コンポジットを作成することができる。
【0009】
減圧誘導加熱を用いる開示の方法は、従来の酸化還元化学物質を使用しないため、簡単で、きれいで効率的なプロセスを与えることができる。さらに、減圧を使用するため、酸素のような気体状化学物質も含まれない。その結果、高純度のグラフェン生成物を作り出すことができる。さらに、誘導加熱は、加熱速度が大きな迅速な加熱プロセスである。短時間で望ましい高温に達することができる。さらに、膨張可能な黒鉛が導電性であるため、膨張可能な黒鉛を誘導加熱によって均一に加熱することができる。サーマルオーブンを用いる従来の熱膨張法は、特に、黒鉛が大きいときに、熱拡散に制限がある。したがって、この膨張は、減圧状態での誘導加熱ほど有効ではない。この理由のために、開示されている減圧誘導加熱法は、従来のオーブンによる熱膨張プロセスと比較して、もっと均一な厚みをもち、もっと薄い生成物を生成することができる。
【0010】
本明細書で使用する場合、「黒鉛」との用語は、三次元(3D)に炭素原子が規則的に並び、この並んだ元素の平坦なシートが、ある規定された繰り返しパターンに積み重なっているものを指す。「膨張可能な黒鉛」または「熱膨張可能な黒鉛」との用語は、分子(例えば、インターカレーション剤)が平坦なシートの間に組み込まれている黒鉛インターカレーション化合物を指す。インターカレーション剤は、加熱するとインターカレーション剤が液相または固相から気相へと変化し、黒鉛の膨張または熱膨張を引き起こすことができる。転相のときにインターカレーション剤の容積が増加することによって、膨張可能な黒鉛の中で隣接するグラフェン層を強制的に引き離すことができる。
【0011】
いくつかの実施形態では、熱膨張可能な黒鉛は、加熱すると膨張および/または剥離する黒鉛のインターカレーション化合物であってもよい。インターカレーションは、インターカレーション剤が黒鉛結晶または黒鉛粒子の平坦なシートの間に挿入されるプロセスである。「膨張可能な黒鉛」との用語は、「インターカレーションされた黒鉛」と呼ばれることもある。さまざまな化学種またはインターカレーション剤を使用し、黒鉛材料にインターカレーションすることができる。これらのインターカレーション剤としては、ハロゲン、アルカリ金属、サルフェート、ニトレート、種々の有機/無機酸(例えば、HSOまたはHCl)、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、他の金属ハロゲン化物、硫化ヒ素、硫化タリウムなどが挙げられる。一例では、黒鉛インターカレーション化合物としては、「サルフェート」インターカレーション化合物を挙げることができ、時に、これは「黒鉛硫酸水素塩」とも呼ばれる。この材料は、高度に結晶性の天然フレーク状黒鉛を、サルフェートインターカレーションの「触媒作用」を助ける硫酸および特定の他の酸化剤の混合物で処理することによって製造することができる。得られる生成物は、高度に膨張した形態の黒鉛であり、本明細書ではこれを「膨張黒鉛」と呼ぶ。
【0012】
本明細書で使用する場合、「膨張黒鉛」との用語は、高度に膨張した形態の黒鉛生成物を指し、膨張可能な黒鉛を処理することによって得ることができる。一実施形態では、膨張黒鉛は、減圧下、膨張可能な黒鉛の誘導加熱によって作成することができる。膨張可能な黒鉛中のインターカレーション剤は、このプロセスの間に除去することができる。結果として、膨張黒鉛を、インターカレーション剤を含まない状態にすることができる。いくつかの実施形態では、膨張黒鉛をさらに剥離し、グラフェンナノシートを作成することができる。
【0013】
本明細書で使用する場合、「グラフェンナノシート」との用語は、sp結合した炭素原子の1つまたはいくつかの原子単一層を含むグラフェン生成物を指す。開示されているグラフェンナノシートは、平均厚みが、例えば、約0.3nm〜約15nm、または約0.3nm〜約10nm、または約0.3nm〜約6nmの範囲であってもよい。または、開示されているグラフェンナノシートは、約1個のグラフェン層〜約30個のグラフェン層、または約1〜約20個のグラフェン層、または約1〜約10個のグラフェン層を有していてもよい。減圧誘導加熱法によって作成されると、グラフェンナノシートは、しわのない状態にすることができ、各グラフェンナノシート全体にわたって均一な厚みを提供することができる。例えば、グラフェンナノシートは、望ましい厚みの±約1nm、または±約0.5nm、または±約0.3nmの範囲内にある均一な厚みを有していてもよい。Hummer法のような従来法によって作られるグラフェンまたはグラフェンナノシートは、通常は、しわを含み、このしわは、ほとんどは当業者には知られているようなグラフェンナノシートの欠陥によって生じる可能性が高いことを注記しておくべきである。
【0014】
いくつかの実施形態では、減圧誘導加熱によって作られる膨張黒鉛および/またはグラフェンナノシートは、実質的に炭素で構成されることが可能で、例えば、少なくとも約98重量%、または少なくとも約99重量%(約99重量%〜約99.99重量%を含む)の炭素を含む。ある実施形態では、減圧誘導加熱によって作られる膨張黒鉛および/またはグラフェンナノシートは、Hummer法を用いて作られるグラフェンナノシートでは通常検出される、S、Cl、Nまたは他の不純物原子を実質的に含まない状態にすることができる。これらの原子の検出は、任意の適切な方法(例えば、SEM EDS分析)を用いて行うことができる。ある実施形態では、減圧誘導加熱によって作られる膨張黒鉛/グラフェンナノシートは、実質的に酸素を含まない状態にすることができる。これは、酸素含有量を、例えば、減圧誘導加熱から作られた生成物全体の約2重量%未満(約1%未満、または約0.5%未満、または約0.1重量%未満を含む)にすることができることを意味する。種々の実施形態にしたがって調製された膨張黒鉛/グラフェンナノシートは、実質的に、O、S、Cl、Nなどの不純物種を実質的に含まない状態にすることができるが、グラフェンナノシートは、例えば、その後に表面改質などで改質することができ、その結果、改質グラフェンは、特定の用途のためにこれらの種を含んでいてもよい。
【0015】
種々の実施形態は、熱膨張可能な黒鉛を用いて膨張黒鉛/グラフェン生成物を作成する方法を提供する。例示的な膨張可能な黒鉛は、フレーク状の黒鉛を、黒鉛結晶内のグラフェン層の間を移動し、安定な種のまま存在する種々のインターカレーション試薬(例えば、Carbon Asbury Inc.(アズベリー、NJ)によって供給されるもの)で処理することによって製造されるものであってもよい。
【0016】
熱膨張可能な黒鉛をチャンバに入れてもよい。チャンバは、誘導加熱を行うための減圧チャンバであってもよい。いくつかの実施形態では、熱膨張可能な黒鉛に加えられる減圧は、減圧チャンバ内の減圧が約1mbar〜約10−7mbar、または約0.1mbar〜約10−6mbar、または約10−4mbar〜約10−7mbarの範囲であってもよい。
【0017】
減圧環境で、次いで、加熱温度に達するまで、電流をかけ、減圧チャンバ内の熱膨張可能な黒鉛を誘導加熱してもよい。いくつかの実施形態では、加熱温度は、約500℃〜約1100℃、または約600℃〜約1050℃、または約700℃〜約1000℃であってもよい。熱膨張可能な黒鉛を、この加熱温度で約0.1秒〜約5分、または約1秒〜約5分、または約30秒〜約2分加熱してもよい。加熱温度、加熱時間、および加熱温度と加熱時間の組み合わせは、制限がない。減圧および/または誘導加熱を適用するのに適した任意の既知のデバイスを使用することができる。次いで、熱膨張可能な黒鉛を膨張させることができる。場合により、膨張黒鉛を室温まで冷却してもよい。
【0018】
いくつかの実施形態では、膨張可能な/膨張黒鉛は、膨張速度が、減圧誘導可能プロセスの前の元々の熱膨張可能な黒鉛の約200容積%以上、または約200容積%〜約1000容積%、または約300容積%〜約800容積%であってもよい。いくつかの実施形態では、膨張黒鉛は、元々の膨張可能な黒鉛には含まれているインターカレーション剤を含まないように作成することができる。
【0019】
場合により、室温まで冷却した後、膨張黒鉛を、例えば、溶媒に分散させることによって剥離することができる。いくつかの実施形態では、超音波発生装置または他の機械的な混合技術を用い、膨張黒鉛の剥離および/または分散を促進することができる。限定されないが、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロトルエン、キシレン、メシチレン、クロロエタン、クロロメタン、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの種々の溶媒を使用することができる。次いで、溶媒に分散した1つ以上のグラフェンナノシートを含むグラフェン分散物を作成することができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、膨張黒鉛を剥離/分散させ、グラフェン分散物を作成するために、溶媒に安定剤が含まれていてもよい。例示的な安定剤としては、界面活性剤、絶縁性ポリマー(例えば、ポリスチレン、PMMA、ポリウレタンなど)、低分子化合物のような有機半導体を含む共役化合物および/または半導体ポリマーを挙げることができる。
【0021】
いくつかの実施形態では、グラフェンナノシートは、有機半導体が存在するか否かに関わらず、グラフェン分散物の約0.0001重量%〜約0.5重量%、または約0.0005重量%〜約0.1重量%、または約0.001重量%〜約0.06重量%の範囲の量で存在してもよい。いくつかの実施形態では、有機半導体を使用する場合、有機半導体は、グラフェン分散物の約0.001重量%〜約20重量%、または約0.1重量%〜約10重量%、または約0.1重量%〜約5重量%の範囲の量で存在してもよい。
【0022】
例示的な有機半導体としては、同時係属中の2009年10月8日に出願された米国特許出願第12/575,739号、名称「Electronic Device」に記載されているものを挙げることができ、この開示内容は、本明細書にその全体が参考として組み込まれる。
【0023】
例示的な低分子化合物としては、ペンタセンおよびペンタセン誘導体(ペンタセン前駆体およびペンタセン類似体)、オリゴチオフェン、フタロシアニン、ナフタレン−ビスイミド、および/または他の縮合環芳香族化合物が挙げられる。
【0024】
例示的な半導体ポリマーとしては、例えば、式(I)のポリチオフェンを挙げることができ、
【化1】

式中、Aは、二価の接続であり;各Rは、独立して、水素、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、アルコキシまたは置換アルコキシ、ヘテロ原子を含有する基、ハロゲン、−CNまたは−NOから選択され;nは、2〜約5,000である。ある実施形態では、Rは、水素ではない。
【0025】
「アルキル」との用語は、もっぱら炭素原子と水素原子で構成され、完全に飽和であり、式C2n+1を有する基を指す。「アリール」との用語は、もっぱら炭素原子と水素原子で構成される芳香族基を指す。「アルコキシ」との用語は、酸素原子に接続したアルキル基を指す。
【0026】
置換アルキル基、置換アリール基、置換アルコキシ基は、例えば、アルキル、ハロゲン、−CN、−NOで置換されていてもよい。例示的な置換アルキル基は、ペルハロアルキル基であってもよく、ここで、アルキル基の1個以上の水素原子が、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、ヨウ素、臭素)と置き換わっている。「ヘテロ原子を含有する基」との用語は、元々は、直鎖骨格、分枝鎖骨格または環状骨格を形成する炭素原子と水素原子で構成される基を指す。この元々の基は、飽和であっても不飽和であってもよい。次いで、この骨格の1個以上の炭素原子を、ヘテロ原子(一般的には、窒素、酸素または硫黄)と置き換え、ヘテロ原子を含有する基を得てもよい。「ヘテロアリール」との用語は、一般的に、炭素原子と置き換わった少なくとも1個のヘテロ原子を含む芳香族化合物を指し、ヘテロ原子を含有する基の一部であると考えてもよい。
【0027】
特定の実施形態では、R基は、両方とも炭素原子を約6〜約18個含むアルキルである。特定の例では、両R基は同じである。さらに望ましい実施形態では、両R基は、アルキル、特に、−C1225である。
【0028】
二価の接続Aは、式(I)の2個のチエニル部分それぞれに対し、単結合を形成することができる。例示的な二価の接続Aとしては、以下のもの
【化2】

【化3】

およびこれらの組み合わせを挙げることができ、各R’は、独立して、水素、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、アルコキシまたは置換アルコキシ、ヘテロ原子を含有する基、ハロゲン、−CNおよび/または−NOから選択される。
【0029】
いくつかの実施形態では、半導体ポリマーは、重量平均分子量が約1,000〜約1,000,000、または約5000〜約100,000であってもよい。
【0030】
いくつかの実施形態では、グラフェン含有コンポジットは、グラフェンナノシートを含有するグラフェン分散物から作成することができる。例えば、開示されているグラフェン分散物を基板に塗布(例えば、コーティングまたは印刷)し、次いで、乾燥させるか、または他の方法で硬化させ、グラフェン分散物から溶媒を除去し、グラフェン含有コンポジットを作成することができる。基板は、グラフェン含有コンポジットを作成した後に除去されてもよく、除去されなくてもよい。例えば、半導体、金属、セラミック、プラスチック、ガラス、紙および/または木材といった任意の剛性または可とう性の基板を用いてもよい。
【0031】
一実施形態では、グラフェン含有コンポジットは、半導体ポリマーのマトリックス内に分散した複数のグラフェンナノシートを含んでいてもよい。グラフェンナノシートは、グラフェン含有コンポジットの約0.001重量%〜約5.0重量%、または約0.01重量%〜約3.0重量%、または約0.01重量%〜約0.5重量%の量で存在してもよい。
【実施例】
【0032】
(実施例1)
熱膨張可能な黒鉛フレークをAsbury Carbon Inc.(アズベリー、NJ)から得た。この黒鉛フレークをタングステン真空蒸着用ボートに加え、次いで、減圧チャンバ(Edwards Auto 306エバポレーションシステム)に入れた。その後、この減圧チャンバを、約2×10−6mbarの圧力までポンプで減圧した。次いで、出力の約70%(220V、7Amの入力)を用い、このボートを約1分間加熱した。温度は約850℃に達した。黒鉛は、黒色のねじれた固体として顕著に膨張し、膨張黒鉛を生成した。
【0033】
(実施例2)
実施例1で製造した膨張黒鉛を少量、ジクロロベンゼン溶媒に加え、超音波浴で数分間音波処理し、その後、プローブによる音波処理(約50%の出力)を約3分間行い、個々のグラフェン層を良好に剥離させ、分離した。浴による音波処理手順およびプローブによる音波処理手順の後、混合物を約3500rpmで約10分間遠心分離処理し、うまく剥離しなかった大きな粒子を除去した。遠心分離処理の後、溶液が暗色または灰色であることからわかるように、グラフェンナノシートを含む安定なグラフェン分散物が得られた。この溶液中のグラフェンナノシートの濃度は、吸光係数を用いたLambert−Beer則を用い、波長約660nmでUV−Vis吸光スペクトルから計算した。Casey UV−Vis−NIR分光光度計を用いて実施したUV−Vis分光法は、生成したグラフェンナノシートの濃度が約0.017mg/mlまでであることを示していた。
【0034】
生成したグラフェンナノシートを調べるために、グラフェン分散物をケイ素ウエハにスピンコーティングし、試験した。SEM画像は、ケイ素ウエハ上でグラフェンナノシートが平坦であり、しわがないことを示していた。窒化ケイ素基板上のグラフェンナノシートのEDS分析では、S、N、Clなどのような不純物原子がないことを示していた。酸素原子は検出されなかった。これらの結果は、減圧誘導加熱法によって作られるグラフェンナノシートが、高純度であることを示していた。AFMによってグラフェンナノシートの厚みを測定し、本実施例では、厚みが約10nm未満であることがわかった。積層したグラフェンナノシートおよび/または折りたたまれた1つのグラフェンナノシートも製造し、観察した。
【0035】
(実施例3)
膨張黒鉛を、安定剤を含有する溶媒中で剥離した。この例では、膨張黒鉛を、0.03wt%のポリ(3,3’”−ジドデシルクアテルチオフェン)(PQT)を1,2−ジクロロベンゼン溶媒中に含む溶液に加えた。膨張黒鉛は、PQTの保持率が約50wt%であった。音波処理し、遠心分離処理した後、沈殿は実質的に観察されなかった。つまり、膨張黒鉛は、グラフェン分散物中で剥離し、安定化された。次いで、グラフェンナノシートとPQTとを含有するグラフェン分散物を、ケイ素ウエハ上にスピンキャスト成型し、グラフェン−PQTコンポジット膜を作成した。SEM画像は、グラフェン−PQTコンポジットが、PQTのポリマーマトリックスに分散したグラフェンナノシートを含むことを示していた。
【0036】
(比較例1)
実施例1で使用したのと同じ熱膨張可能な黒鉛を、比較のためにサーマルオーブンに入れた。生成ガス(約4.5wt%の水素を含む窒素)流のもとで、黒鉛を約850℃で約1分間加熱した。次いで、膨張黒鉛を作成し、オーブンから取り出し、実施例2に示したのと同じ様式で音波処理した。スピンコーティングした膜のAFM画像は、剥離したグラフェンナノシートが約40nm〜約50nmの厚みを有し、この厚みが、実施例2で製造したグラフェンナノシートよりもかなり厚いことを示していた。このことは、減圧誘導加熱法が、従来のオーブンによる膨張よりも効果的であることを示していた。
【0037】
本開示の広い範囲を記載する数値範囲およびパラメーターは概算値であるが、具体的な例に記載する数値は、可能な限り正確に報告される。しかし、任意の数値範囲は、それぞれの試験測定でみられる標準的な偏差から必然的に得られる特定の誤差を固有に含んでいる。さらに、本明細書に開示する全ての範囲は、その範囲に包含される任意の部分範囲およびあらゆる部分範囲を包含すると理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張黒鉛を製造する方法であって、
膨張可能な黒鉛をチャンバに入れることと、
このチャンバを減圧状態にすることと、
この減圧状態で、前記膨張可能な黒鉛を誘導加熱するために電流を加え、膨張黒鉛を作成することとを含む、方法。
【請求項2】
前記膨張可能な黒鉛が、前記チャンバ内に入れられた膨張可能な黒鉛に対し、約200容積%〜約1000容積%膨張する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記膨張可能な黒鉛がインターカレーション剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記インターカレーション剤が、ハロゲン、アルカリ金属、サルフェート、ニトレート、酸、金属ハロゲン化物、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
グラフェン生成物を製造する方法であって、
熱膨張を引き起こすことが可能なインターカレーション剤を含む膨張可能な黒鉛をチャンバに入れることと、
このチャンバを減圧状態にすることと、
この減圧状態で、膨張可能な黒鉛を誘導加熱するために電流を加え、膨張黒鉛を作成することと、
前記膨張黒鉛を溶媒中で剥離し、溶媒に分散した1つ以上のグラフェンナノシートを作成することとを含む、方法。
【請求項6】
前記膨張黒鉛を剥離する工程は、前記膨張黒鉛を音波処理し、前記溶媒中で1つ以上のグラフェンナノシートを作成することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記膨張黒鉛を剥離する工程は、共役ポリマー存在下で行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記共役ポリマーがポリチオフェンを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記グラフェン分散物を基板上にコーティングし、前記共役ポリマーのマトリックスに分散した1つ以上のグラフェンナノシートを含むグラフェン含有コンポジットを作成することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記1つ以上のグラフェンナノシートが、前記1つ以上のグラフェンナノシートおよび前記共役ポリマーを合わせた量の約0.001重量%〜約5.0重量%の範囲の量で存在する、請求項7に記載の方法。

【公開番号】特開2013−112604(P2013−112604A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−246084(P2012−246084)
【出願日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】