グラフト共重合体およびブロック共重合体の多機能混合ミセルならびにその製造方法
【課題】グラフト共重合体およびブロック共重合体に基づく混合ミセルを提供する。
【解決手段】機能性の内部コアならびにグラフト高分子および1以上のブロック共重合体、好ましくはグラフト共重合体および2以上のジブロック共重合体から自己組織化される、親水性の外部シェルを有する、新規の混合ミセルを開示する。グラフト高分子は、骨格構造および前記骨格構造に結合する疎水性側鎖を有し、前記ブロック共重合体は、疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを有し、この際、前記ブロック共重合体は、親水性重合体セグメントの末端に結合した末端官能基をさらに有する。前記末端官能基は、腫瘍細胞の表面の受容体に結合しうる配位子、蛍光性基または色素である。本発明によって合成されたミセルは、癌の診断薬および癌のドラッグデリバリーの担体として用いられうる、約50〜200nmのサイズを有する。
【解決手段】機能性の内部コアならびにグラフト高分子および1以上のブロック共重合体、好ましくはグラフト共重合体および2以上のジブロック共重合体から自己組織化される、親水性の外部シェルを有する、新規の混合ミセルを開示する。グラフト高分子は、骨格構造および前記骨格構造に結合する疎水性側鎖を有し、前記ブロック共重合体は、疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを有し、この際、前記ブロック共重合体は、親水性重合体セグメントの末端に結合した末端官能基をさらに有する。前記末端官能基は、腫瘍細胞の表面の受容体に結合しうる配位子、蛍光性基または色素である。本発明によって合成されたミセルは、癌の診断薬および癌のドラッグデリバリーの担体として用いられうる、約50〜200nmのサイズを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア−シェル構造を有する高分子ミセル、特に、グラフト共重合体および少なくとも1つのジブロック共重合体からの自己組織化によるコア−シェル構造を有する多機能ミセルに関する。
【背景技術】
【0002】
生物医学的応用のための多成分ミセルについての研究は、一般に、事実上あらゆる型および類のミセルが、特定の機能性、特定の腫瘍照準の向上、ナノ粒子の安定化、さまざまな材料の欠陥の克服、および多機能の発揮など、有用な特性を与えることを示している(X.Gao,Y.Cui,R.M.Levenson,L.W.K.Chung,S.Nie,Nat.Biotechnol.2004,22,969.;N.Kang,M.E.Perron,R.E.Prud’Homme,Y.Zhang,G.Gaucher,J.C.Leroux,Nano lett.2005,5,315.;E.S.Lee,K.Na,Y.H.Bae,Nano Lett.2005,5,325.;C.L.Lo,K.M.Lin,C.K.Huang,G.H.Hsiue,Adv.Funct.Mater.(DOI:10.1002/adfm.200500627)。高分子分野では、多成分ミセル(混合ミセルともいう)が、ジ−ジブロック共重合体、ジ−トリブロック共重合体、トリ−トリブロック共重合体、およびグラフト−ジブロック共重合体の系において広く研究されてきた(N.Kang,M.E.Perron,R.E.Prud’Homme,Y.Zhang,G.Gaucher,J.C.Leroux,Nano lett.2005,5,315.;E.S.Lee,K.Na,Y.H.Bae,Nano Lett.2005,5,325.;C.L.Lo,K.M.Lin,C.K.Huang,G.H.Hsiue,Adv.Funct.Mater.(DOI:10.1002/adfm.200500627);D.F.K.Shim,C.Marques,M.E.Cates,Macromolecules 1991,24,5309.;C.Honda,K.Yamamoto,T.Nose,Polymer 1996,37,1975.;A.L.Borovinskii,A.R.Khokhlov,Macromolecules 1998,31,7636.;C.Konak,M.Helmstedt,Macromolecules 2003,36,4603.;W.Mingvanisg,C.Chaibundit,C.Boot,PCCP 2002,4,778.;T.Liu,V.N.Nace,B.Chu,Langmuir 1999,15,3109.)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、グラフト共重合体およびジブロック共重合体またはいくつかのジブロック共重合体に基づく混合ミセルの系を記載した研究はなかった。過去10年間で、ほとんどの研究は、混合ミセルのミセル形成理論に関するものであった(D.F.K.Shim,C.Marques,M.E.Cates,Macromolecules 1991,24,5309.;C.Honda,K.Yamamoto,T.Nose,Polymer 1996,37,1975.;A.L.Borovinskii,A.R.Khokhlov,Macromolecules 1998,31,7636.;C.Konak,M.Helmstedt,Macromolecules 2003,36,4603.;W.Mingvanisg,C.Chaibundit,C.Boot,PCCP 2002,4,778.;T.Liu,V.N.Nace,B.Chu,Langmuir 1999,15,3109.)。しかしながら、ドラッグデリバリーを調べた研究はわずかである(E.S.Lee,K.Na,Y.H.Bae,Nano Lett.2005,5,325.;C.L.Lo,K.M.Lin,C.K.Huang,G.H.Hsiue,Adv.Funct.Mater.(DOI:10.1002/adfm.200500627))。混合ミセルは非常に複雑であり、完全なコア−シェル構造は明瞭に観察できない。これは生物医学的応用におけるボトルネックを生じさせる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、機能性の内部コアとグラフト高分子および1以上のジブロック共重合体から自己組織化された親水性の外部シェルとを有する新規の混合ミセル構造を開示する。本発明において合成されるミセルは、細胞内ドラッグデリバリーにおける応用に有用な、約50〜200nmのサイズを有する(Chun−Liang Lo,et al.,Advanced Functional Materials 2006,16,2309−2316.;Chun−Liang Lo,et al.,Biomaterials 28(2007)1225−1235.)。
【0005】
本発明は、機能性の内部コア、ならびにグラフト高分子および1以上のブロック共重合体、好ましくはグラフト共重合体および2以上のジブロック共重合体から自己組織化された親水性の外部シェルを有する、新規の混合ミセル構造を開示する。この際、前記グラフト高分子は骨格構造および前記骨格構造に結合する疎水性側鎖を含み、前記ブロック共重合体は疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含む。前記ブロック共重合体のうち少なくとも1つは前記親水性重合体セグメントの末端に結合する末端官能基を有し、前記末端官能基は、腫瘍細胞の表面の受容体、蛍光性基、または色素に結合しうる配位子である。本発明において合成されるミセルは、約50〜200nmのサイズを有する。
【0006】
具体的には、本発明は、コアシェル構造を有する高分子ミセルであって、前記構造はグラフト高分子およびブロック共重合体を含み、前記グラフト高分子は骨格構造および前記骨格構造に結合する疎水性側鎖を含み、前記ブロック重合体は疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含み、この際、前記グラフト高分子の疎水性側鎖は凝集しており、前記ブロック共重合体の疎水性重合体セグメントは、グラフト高分子の凝集した疎水性側鎖に、そこから突き出したブロック共重合体の親水性重合体セグメントとともにパッキングされ結合されて疎水性の内部コアおよび親水性の外部シェルを形成し、前記ブロック共重合体は前記親水性重合体セグメントの末端に結合する末端官能基を有し、前記末端官能基は、腫瘍細胞の表面の受容体、蛍光性基または色素に結合しうる配位子であることを特徴とする、コアシェル構造を有する高分子ミセルを提供する。
【0007】
また、本発明は、上述の高分子ミセル、および疎水性内部コアに封入された疎水性の薬剤を含む、薬剤をロードした多機能性ミセルを提供する。
【0008】
さらに、本発明は、以下の段階;
a)グラフト高分子およびブロック共重合体を有機溶媒に溶解する段階;この際、前記グラフト高分子は骨格構造および前記骨格構造に結合する疎水性側鎖を含み、前記ブロック共重合体は疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含み、この際、前記ブロック共重合体は親水性重合体セグメントの末端に結合する末端官能基を有し、前記末端官能基は腫瘍細胞の表面の受容体、蛍光性基、または色素に結合しうる配位子である;
b)段階a)で得られたポリマー溶液を、水に対して透析処理をし、溶液中の有機溶媒を水で置換する段階;
を含む、本発明のコア−シェル構造を有する高分子ミセルの製造方法を提供する。
【0009】
さらに本発明は、以下の段階;
a)薬剤、グラフト高分子およびブロック共重合体を有機溶媒に溶解する段階;この際、前記グラフト高分子は骨格構造および前記骨格構造に結合する疎水性側鎖を含み、前記ブロック共重合体は疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含み、この際、前記ブロック共重合体は親水性重合体セグメントの末端に結合する末端官能基を有し、前記末端官能基は腫瘍細胞の表面の受容体、蛍光性基、または色素に結合しうる配位子である;
b)段階a)で得られたポリマー溶液を、水に対して透析処理をし、溶液中の有機溶媒を水で置換する段階;
を含む、本発明の薬剤をロードした多機能ミセルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の混合ミセルは、癌の診断薬および抗癌剤のドラッグデリバリーの担体として広く用いられうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明では、多成分ミセルがグラフト共重合体(グラフト高分子)およびブロック共重合体(好ましくはジブロック共重合体)から調製され、共重合体のCMCの差が粒子サイズの制御に用いられる。さらに、この構造の混合ミセルは、各成分を操作し、注意深く設計することで多くの応用に拡張されうる。このような応用の1つは、抗癌剤の担体としてのものである。細胞内ドラッグデリバリーは、癌の治療に用いられる重要な経路の1つである。この経路は、照準細胞に対する薬剤の細胞毒性を高め、正常な組織における副作用を最小にする。細胞に取り込まれた後で担体からの薬剤の放出を誘起するメカニズムは、リソソーム酵素および担体を変形させる細胞内pHの変化を含む。本発明以前にも、この経路を達成するために、さまざまな材料が研究され、合成されてきた。しかしながら、このうちのいくつかは、疎水性基または大きな電荷を有し、単核食細胞系(MPS)によって認識され、腫瘍領域では容易に蓄積されず、したがって静脈注射における使用にさえも適さず、細胞内ドラッグデリバリーにはさらに適さない。したがって、粒子の表面に伸びた親水性セグメントが必要である。
【0012】
本発明においては、多機能のコアおよびシェルを有する混合ミセルは、グラフト共重合体およびブロック共重合体から調製され、前記グラフト共重合体は、骨格構造および前記骨格構造に結合する側鎖を含む。前記ブロック共重合体は疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含む。グラフト高分子の疎水性側鎖およびブロック共重合体の疎水性重合体セグメントは同一の繰り返し単位を含んでもよい。好ましくは、前記ブロック共重合体はジブロック共重合体である。
【0013】
好ましくは、前記ジブロック共重合体の前記疎水性重合体セグメントは、500〜2500の数平均分子量を有し、好ましくは、前記親水性重合体セグメントは、2000〜10000の数平均分子量を有する。
【0014】
前記ブロック共重合体の疎水性重合体セグメントは、特に制限されない。好ましくは、前記疎水性重合体セグメントは、生体再吸収性である。より好ましくは、前記ブロック共重合体の疎水性重合体セグメントは、ポリ(エステル)、ポリ(ラクチド)、ポリ(乳酸)、およびポリカプロラクトンから選択される少なくとも1つを含む。ポリ(ラクチド)(ポリ(D,L−ラクチド))が特に好ましい。
【0015】
好ましくは、前記グラフト高分子は、ポリアクリル酸塩またはpH/イオン強度感受性ポリマーを含む。前記pH/イオン強度感受性ポリマーとしては、例えば、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(ブテン二酸)、ポリヒスチジン、およびポリ(ビニルイミダゾール)などが挙げられる。
【0016】
前記ブロック共重合体の親水性重合体セグメントは、特に限定されないが、好ましくは、ポリ(エステル)、ポリ(エチレングリコール)、メトキシ−ポリ(エチレングリコール)、およびポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)から選択される少なくとも1つを含む。
【0017】
前記グラフト高分子の骨格構造は、好ましくは、親水性の第1の繰り返し単位を含み、好ましくは、前記疎水性側鎖は前記第1の繰り返し単位に結合する。より好ましくは、前記第1の繰り返し単位はカルボキシル基を含み、前記疎水性側鎖は生体再吸収性である。
【0018】
前記グラフト高分子の骨格構造は、好ましくは、ポリアクリル酸塩、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(ブテン二酸)、ポリヒスチジン、およびポリ(ビニルイミダゾール)から選択される少なくとも1つを含む。中でも、ポリ(メタクリル酸)が特に好ましい。
【0019】
前記グラフト高分子の前記疎水性側鎖は、好ましくは、ポリ(ラクチド)、ポリ(乳酸)、およびポリカプロラクトンから選択される少なくとも1つを含む。中でも、ポリ(ラクチド)が特に好ましい。
【0020】
前記グラフト高分子の骨格構造は、前記第1の繰り返し単位と異なる第2の繰り返し単位をさらに含みうる。好ましくは、前記第2の繰り返し単位は、温度変化に応じてコア崩壊を引き起こす。例えば、前記グラフト高分子の骨格構造の前記第2の繰り返し単位は、N−イソプロピルアクリルアミドのモノマーから誘導される。N−イソプロピルアクリルアミドおよびメタクリル酸の共重合体が特に好ましい。
【0021】
本発明の高分子ミセルは、好ましくは、50〜200nmの直径を有する。
【0022】
本発明においては、前記ブロック共重合体は親水性重合体セグメントの末端に結合する末端官能基を有し、前記末端官能基は、腫瘍細胞の表面の受容体に結合しうる配位子、蛍光性基、および色素からなる群から選択される少なくとも1つである。腫瘍細胞の表面の受容体に結合しうる配位子としては、例えば、ガラクトース残基が用いられうる。蛍光性基としては、任意の公知の蛍光性基が用いられうる。例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)が好ましく用いられうる。色素としては、特に制限されないが、近赤外色素が好ましく用いられうる。
【0023】
本発明においては、高分子ミセルは、複数の異なるブロック共重合体を含み、各ブロック共重合体は疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含みうる。前記ブロック共重合体は、好ましくは、ジブロック共重合体である。
【0024】
前記異なるブロック共重合体の疎水性重合体セグメントに含まれる繰り返し単位は同一であっても互いに異なっていてもよい。また、前記異なるブロック共重合体の親水性重合体セグメントに含まれる繰り返し単位は、同一であっても互いに異なっていてもよい。
【0025】
前記異なるブロック共重合体は、それぞれ、前記親水性重合体セグメントの末端に結合する、同一または異なった末端官能基を有しうる。好ましくは、前記異なったブロック共重合体の末端官能基は、互いに異なる。好ましくは、前記末端官能基の1つは、腫瘍細胞の表面の受容体に結合しうる配位子、蛍光性基、または色素である。より好ましくは、本発明の高分子ミセルは、腫瘍細胞の表面の受容体に結合しうる配位子を有するブロック共重合体と、末端官能基として蛍光性基を有するブロック共重合体とを含む。
【0026】
本発明の他の実施形態は、上述の高分子ミセル、および疎水性内部コアに封入された疎水性の薬剤を含む、薬剤をロードした多機能性ミセルである。本発明で用いられる疎水性の薬剤は、特に制限されない。任意の既知の抗癌剤が好ましく用いられ、中でも、ドキソルビシンが特に好ましい。
【0027】
本発明においては、多機能性コアおよびシェルを有する混合ミセルは、例えば、環境感受性グラフト共重合体であるポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−メタクリル酸)−g−ポリ(D,L−ラクチド)(P(NIPAAm−co−MAAc)−g−PLA)、ならびに2つのジブロック共重合体である、メトキシ−ポリ(エチレングリコール)−b−ポリ(D,L−ラクチド)(mPEG−PLA)およびポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)−b−ポリ(D,L−ラクチド)(PEOz−PLA)から調製されうる。このナノ構造は、特殊なコア−シェル構造を有するために、グラフト共重合体の大きな負の電荷を完全に遮蔽し、多機能性を示す。細胞内ドラッグデリバリーにおけるこのミセル構造の例は、薬剤の放出と混合ミセルの機能性との間の強い関係を示した。さらに、スクリーニング特性の効率はまた、細胞毒性にも現れる;混合ミセルは、P(NIPAAm−co−MAAc)−g−PLA([NIPAAm]/[MAAc]/[PLA]=84:5.9:2.5mol/mol)からのミセルよりも、より高い薬剤活性およびより低い物質細胞毒性を示す。この例は、グラフト−ジブロック共重合体系を用いて生じる新たなミセル構造を与えるだけでなく、単一または多数のジブロック共重合体を伴うグラフト共重合体からの多機能ミセルの調製が、ドラッグデリバリーにおける応用の基礎となりうるという概念を明らかにする。
【0028】
本発明の好ましい一実施形態においては、癌細胞照準、分布イメージング、および抗癌剤デリバリーのための多機能ミセルは、環境感受性グラフト共重合体であるP(NIPAAm−co−MAAc)−g−PLA、ジブロック共重合体であるmPEG−PLAならびに2官能基(two functionalized)ジブロック共重合体であるガラクトサミン−PEG−PLA(Gal−PEG−PLA)およびフルオレセインイソチオシアネート−PEG−PLA(FITC−PEG−PLA)から調製された。多機能ミセルは、アシアログリコプロテイン(HepG2細胞)−Gal(多機能ミセル)受容体−媒介腫瘍照準メカニズムによって、特定の腫瘍を照準とする。細胞内pH変化は、したがって、多機能ミセルの内部コアのP(NIPAAm−co−MAAc)−g−PLAグラフト共重合体の構造変化を誘導し、これによって、ドキソルビシン(Dox)の放出によってHepG2細胞の細胞毒性を増加させる。共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)は、多機能ミセルの明確な分布を明らかにする。注意深く設計され、高度に操作されれば、本発明で合成された高分子ミセルは、癌の診断、癌の照準、および癌の治療に同時に用いられうる。
【0029】
本発明のコア−シェル構造を有する高分子ミセルは、例えば、以下の段階;
a)グラフト高分子およびブロック共重合体を有機溶媒に溶解する段階;この際、前記グラフト高分子は骨格構造および前記骨格構造に結合する疎水性側鎖を含み、前記ブロック共重合体は疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含み、この際、前記ブロック共重合体は親水性重合体セグメントの末端に結合する末端官能基を有し、前記末端官能基は腫瘍細胞の表面の受容体、蛍光性基、または色素に結合しうる配位子である;
b)段階a)で得られたポリマー溶液を、水に対して透析処理をし、溶液中の有機溶媒を水で置換する段階;
を含む方法で調製されうる。
【0030】
任意で、上記b)の段階の後、以下の段階c)をさらに行ってもよい;
c)段階b)で得られた水溶液を凍結乾燥して乾燥した高分子ミセルを得る段階。
【0031】
1以上の異なるブロック共重合体が用いられる場合、前記ブロック共重合体は、好ましくは、段階a)で同時に前記有機溶媒に溶解される。本発明の薬剤をロードした多機能ミセルは、例えば、上記a)の段階で、薬剤を前記グラフト高分子および前記ブロック共重合体とともに前記有機溶媒に溶解させることを除いては、上記と同様の方法を実施することによって調製されうる。
【実施例】
【0032】
本発明は、以下の実施例によってよりよく理解されるであろう。しかしながら、以下の実施例は説明のためのものに過ぎず、本発明の技術的範囲を制限するものではない。
【0033】
実施例1
原料
D,L−ラクチドおよびメタクリル酸(MAAc)をLancaster社から購入した。p−トルエンスルホン酸メチル(MeOTs)、オクタン酸第1スズ、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ピレン、および2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)をAldrich社から購入した。N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)および2−エチル−2−オキサゾリンをTCI社から購入した。mPEG(重量平均分子量Mw=5000Da)をSigma社から購入した。D,L−ラクチドは、使用前に、テトラヒドロフラン(THF)から2回再結晶することによってさらに精製した。NIPAAmおよびAIBNは、それぞれ、ヘキサンおよびアセトンから再結晶することによって精製した。MAAcおよびHEMAは、真空下で蒸留することによって精製した。2−エチル−2−オキサゾリンおよびMeOTsは、CaH2で一晩処理し、真空下で蒸留することによって精製した。他の試薬は、市販のものをそのまま用いた。
【0034】
グラフト共重合体P(NIPAAm−co−MAAc)−g−PLA(グラフトI,G1)の調製
はじめに、エンドキャッピングとしてメタクリレート基を有するPLA(PLA−EMA)を開環重合によって合成した。D,L−ラクチド(4g)、HEMA(0.26g)およびトルエン(5mL)を二口丸底フラスコに、磁気撹拌子とともに入れた。フラスコをオイルバスに入れ、窒素下で130℃で撹拌した。次いで、オクタン酸第1スズ(1重量%)を添加して重合を開始させ、100℃で16時間継続した。重合後、生成物を0.1N KOHメタノール溶液を加えて停止させ、次いで、ジエチルエーテルから2回沈殿させた。1つの末端がメタクリレート基でエンドキャッピングされたPLA−EMA(Mn=2000)が得られた。P(NIPAAm−co−MAAc)−g−PLAグラフト共重合体は、通常のフリーラジカル共重合によって合成した。PLA−EMA(0.35g)、NIPAAm(1.15g)、MAAc(0.16g)およびAIBN(0.023g)を二口丸底フラスコに、磁気撹拌子とともに入れ、混合物をアセトン(15mL)に溶解させた。反応を窒素下で70℃で24時間行った。重合後、生成物をジエチルエーテルからの沈殿によって2回、および蒸留水からに沈殿によって2回精製し、最終的にグラフト共重合体である(P(NIPAAm−co−MAAc)−g−PLA([NIPAAm]:[MAAc]:[PLA]=84:5.9:2.5mol/mol(グラフトI,G1)を得た。
【0035】
ジブロック共重合体 mPEG−PLA(ブロックI,B1)の合成
mPEG−PLAジブロック共重合体は開環重合によって合成した。D,L−ラクチド(1g)、mPEG(Mw=5000Da)(10g)およびトルエン(4mL)を二口丸底フラスコに、磁気撹拌子とともに入れた。混合物をオイルバスで加熱し、窒素下で130℃で撹拌した。次いで、オクタン酸第1スズ(1重量%)を添加して重合を開始させ、130℃で16時間継続した。重合後、生成物を0.1N KOHメタノール溶液を加えて停止させ、−20℃でジクロロメタンとジエチルエーテルとの共溶媒から再結晶した。このようにmPEG−PLA([EG]:[LA]=113:7mol/mol)を得た(ブロックI,B1)。
【0036】
ジブロック共重合体 PEOz−PLA(ブロックII,B2)の合成
PEOz−PLAを、以下のように、文献[G.H.Hsiue,C.Ch.Wang,C.L.Lo,C.H.Wang,J.P.Li,J.L.Yang,Int.J.Pharm.2006,317,69]の手順を改良して調製した。はじめに、2−エチル−2−オキサゾリン(10mL)、開始剤であるp−トルエンスルホン酸メチル(0.232mg)、およびアセトニトリル(30mL)を二口丸底フラスコに磁気撹拌子とともに入れた。フラスコをオイルバスに移動させ、混合物を窒素下で100℃で30時間撹拌した。室温まで冷却した後、0.1N KOHメタノール溶液を加えて反応を停止させ、ジエチルエーテルから2回沈殿させてPEOz−OHを得た。次いで、PEOz−OH(2g)およびD,L−ラクチド(0.426g)を、オクタン酸第1スズ(1重量%)を用いて窒素下で130℃で16時間重合させた。重合後、生成物を0.1N KOHメタノール溶液を加えて停止させ、ジエチルエーテルから2回沈殿させてPEOz−PLA([EOz]:[LA]=52.5:9.7mol/mol)(ブロックII,B2)を得た。
【0037】
上記で調製したそれぞれの共重合体の化学構造および多分散性指数は、1H−NMR(AMX−500,Bruker)およびジメチルホルムアミド(DMF)を溶出溶媒として用いたGPCによって確認した。グラフトのMnは、mPEG(Mn 2000)を標準として用いて、1H−NMR(AMX−500,Bruker)から計算した。さらに、それぞれの臨界ミセル濃度(CMC)を、ピレンを疎水性プローブとして用い、蛍光分光光度計を用いて同定した。共重合体の濃度は0.0001〜10mg/mLで変化させた。蛍光スペクトルは、蛍光分光光度計(F−2500,Hitachi)を用いて取得した。発光スペクトルの励起波長は339nmであり、励起スペクトルは390nmで測定した。これらの結果を表1にまとめる。
【0038】
【表1】
【0039】
P(NIPAAm−co−MAAc)−g−PLA、mPEG−PLAおよびPEOz−PLAからのミセルの調製
ブロックIIを含む、または含まない、さまざまな組成比のグラフトIおよびブロックIを合わせてDMSOに溶解させ、重合体溶液を調製した。次いで重合体溶液を、セルロース膜の袋(分子量カットオフ6000〜8000、SpectrumLabs,Inc.から入手)を用いて、蒸留水に対して20℃で48時間透析した。蒸留水を3時間ごとに交換した。透析後、ミセルまたは混合ミセルの溶液を回収し、凍結乾燥システム(Heto−Holten A/S,Denmark)を用いて凍結して、乾燥生成物を得た。
【0040】
図1Aは、混合ミセルG1B1の平均直径および多分散性指数を、グラフトI(10.0mg/L)の濃度を固定したときのブロックIのモル比の関数として示したプロットである。図1Bは、混合ミセルG1B1B2の平均直径および多分散性指数を、グラフトI(10.0mg/L)およびブロックI(5.625mg/L)の濃度を固定したときのブロックIIのモル比の関数として示したプロットである。
【0041】
表1に、図1Aおよび1Bに示す2つのミセルの調製に用いたグラフトI、ブロックI、およびブロックIIの濃度を示す。
【0042】
【表2】
【0043】
混合ミセルG1B1B2[G1:B1:B2=33.9:55.7:10.4 mol/mol]の3つの共重合体は、自己組織化し、疎水性PLAとパッキングし、結びついて混合ミセルを形成し、0.1mg/mLの濃度の、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の試料からの動的光散乱(DLS)によって決定すると、均一な粒子サイズ(182.3±1.5nm)および狭い分布(多分散性指数、PDI=0.038±0.014)を得た。ジブロック共重合体の遮蔽効果に及ぼす影響を同定するために、混合ミセルのゼータ電位が、PBS中で、0.1mg/mLの濃度で、ドップラーマイクロ電気泳動法(Zetasizer 3000HS,Malvern)によって測定された。グラフトIから構成されるミセルを比較サンプルとして用いた。そのゼータ電位は、−15.5±0.9mVと測定された。MAAcのカルボキシル酸基のわずかなイオン化によってもたらされる大きな負電荷が、混合ミセルのジブロック共重合体によって遮蔽された。混合ミセルのゼータ電位は、親水性セグメントであるmPEGおよびPEOzが混合ミセルの表面に広がり、MAAcのカルボキシル酸基を隠すため、−7.8±1.3mVと測定された。図2に示すように、混合ミセル構造の最も直接的な証拠は、透過電子顕微鏡(TEM;Hitachi H−600顕微鏡、加速電圧=100kV)によって得られる。TEMは、混合ミセルのコア−シェル構造を同定するために、メタクリル酸基を酢酸ウラニル(2重量%)で染色することによって、広く採用される。混合ミセルG1B1B2のTEMイメージは、グラフトI共重合体の暗い領域は内部コアであること、およびmPEGおよびPEOzの親水性セグメントはグラフトIコアの外側に広がっていることを示唆する。さらに、Bioscope AFMを混合ミセルの形状の観察に用い、その結果は、混合ミセルG1B1B2は均一なサイズで、球形であることを示した。粒子のサイズは、DLSで決定されたものと同様であった。
【0044】
ジブロック共重合体の組成が混合ミセルの調製におよぼす影響を比較するために、グラフトIとブロックI(G1B1)およびグラフトIおよびブロックIとブロックII(G1B1B2)から混合ミセルを透析した。3つの共重合体は、異なるCMCを示した:ブロックIのCMCは、ブロックIIおよびグラフトIのCMCと大きく異なった(表1)。固定された濃度のグラフトIを、さまざまなモル比のブロックI(CMCグラフトI<<CMCブロックI)で処理した場合、G1B1混合ミセルの平均直径は、図1Aに示すように、DLSによって決定すると、単一のグラフトIまたは単一のブロックIの平均直径よりも小さく、約160nmで一定のままであった。混合ミセルG1B1のサイズ分布は狭かった。しかしながら、ブロックIIを固定された濃度のG1B1に添加し、この際ブロックIIのCMCがグラフトIのCMCに近接しており、しかしブロックIのCMCより小さい場合、G1B1B2混合ミセルの平均直径は、図1Bに示すように、ブロックIIに依存しなかった;サイズは、1つの共重合体からのミセル、またはグラフトIとブロックIIとの混合ミセルのサイズ(330.2±0.9nm;PDI=0.072±0.011)とは大きく異なった。しかしながら、これらは、G1B1混合ミセルから得られたサイズに近接していた。ブロックIIのモル比が0.54を超えると、G1B1B2混合ミセルは得られなかった。透析が始まると共重合体が凝集し、沈殿した。これらの結果は、最も高いCMCを有する共重合体が粒子サイズを決定することを示す。すなわち、例えばこの系におけるブロックIのような、グラフト−ジブロック共重合体系におけるジブロック共重合体の高いCMCは、粒子サイズを制御し、減少させ、混合ミセルの形成の規則化および制御を助ける。したがって、相対的なCMCは、グラフト共重合体およびジブロック共重合体からの、小さいサイズで低いPDIの混合ミセルの調製において重要な検討事項である。
【0045】
ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)は、水溶液中で下限臨界溶液温度(LCST)より低い温度で延長された鎖状の立体配座を示す、水溶性である親水性のポリマーとして知られている。PNIPAAmはまた、そのLCSTを超えると、不溶性である疎水性の凝集体に相転移しうる。PNIPAAm共重合体中のMAAcの一部をランダムに共重合すると、LCSTは37℃(すなわち、体温)を超える温度に上昇し、ポリマーはpH感受性になる。P(NIPAAm−co−MAAc)は、中性環境で延長された鎖を示す。これは、イオン化したMAAcがP(NIPAAm−co−MAAc)の親水性を高めるためである。酸性環境では、脱イオン化したMAAcがP(NIPAAm−co−MAAc)の親水性を低下させそのLCSTを32℃に低下させるため、共重合体は凝集して沈殿する。MAAcのpH感受性の性質およびPNIPAAmの熱感受性の性質が、相互に関連している。本発明者らの以前の研究は、低pHでの温度変化に対応する、P(NIPAAm−co−MAAc)外部シェルの凝集および崩壊によって、グラフトIミセルが構造変化を示すことを明らかにした[C.L.Lo,K.M.Lin,G.H.Hsiue,J.Controlled Release 2005,104,477]。図3は、混合ミセルG1B1B2[G1:B1:B2=33.9:55.7:10.4mol/mol]の構造変化を、pH4.0での温度の関数として表す。混合ミセルの構造変化は、ピレンを疎水性プローブとして用いた蛍光分光分析によって決定された。第1振動バンドの強度と第3振動バンドとの強度の比であるI1/I3は、したがって、環境の極性の指標として用いられうる[K.Kalyanasundaram,J.K.Thomas,J.Am.Chem.Soc.1997,99,2039]。比が大きいほど、ピレンプローブがより極性の環境にあることに対応する。混合ミセルの構造変化の前後のI1/I3の変化を比較するための参照としてピレン緩衝液が用いられた。ピレン緩衝液のI1/I3比は、熱崩壊によって、温度が上昇するにつれて1.81から1.74まで徐々に減少した。pH4.0での混合ミセルでは、ピレンのスペクトルのI1/I3は、約31℃で減少しはじめた。これはおそらく、ピレン分子がmPEGとMAAcとの間の水素結合領域で分離されたためである。温度が37℃を超えて上昇すると、I1/I3は速やかに1.25から1.46まで上昇し、構造変化によってピレンの環境が混合ミセルの内部コアから緩衝液に変化したことを示した。
【0046】
本発明者らはまた、構造変化の前後の混合ミセルG1B1B2[G1:B1:B2=33.9:55.7:10.4mol/mol]を、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)を用いて分析した。誘起された構造変化の前後の混合ミセルの表面の層の化学組成を、ポジティブおよびネガティブのTOF−SIMSスペクトルから決定した。TOF−SIMSスペクトルからの結果は、誘起された構造変化の後、混合ミセル中のグラフトIは延長されて表面の層に近づくことを示す。構造変化後の混合ミセルを酢酸ウラニルで処理し、TEMで観察し、この発見のさらなる証拠を得た。図4Aおよび4Bに示すように、TEMイメージは、混合ミセルG1B1B2[G1:B1:B2=33.9:55.7:10.4mol/mol]のコア−シェル構造が破壊されたことを示す。グラフトIの暗い領域は、構造変化後の混合ミセルの内部コアおよび外部シェルの両方に存在した。
【0047】
実施例2
本実施例では、その構造が封入された薬剤が血液中を循環する間コアに残ることを可能にする、mPEG−PLA ジブロック共重合体およびP(NIPAAm−co−MAAc)−g−PLAグラフト共重合体から構成される混合ミセルが、疎水性抗癌剤である遊離塩基のドキソルビシン(Dox)の封入に用いられた。
【0048】
ドキソルビシン(Dox)をロードした混合ミセルはまた、透析によって調製された。調製手順は、実施例1で調製した混合ミセルの手順と同様であった。20mgのDox−HClを、8mlのDMFおよび2mlのDMSOに溶解させた。2mgのmPLA−b−PEG(ブロックI)および20mgのP(NIPAAm−co−MAAc)−g−PLA(グラフトI)を、8mlのDMFおよび2mlのDMSOに溶解させた。Dox−HCl溶液を0.3mlのトリエチルアミンと混合し、塩酸を除去した。次いで、遊離塩基のDox溶液を、重合体溶液に添加して室温で2時間撹拌した。混合溶液を水に対して20℃で72時間透析した。蒸留水を3時間ごとに交換した。透析後、ミセルの溶液を回収し、凍結乾燥システムを用いて凍結し、乾燥ミセルを得た。秤量した混合ミセルを室温でDMSOに12時間溶解させた;その後限外ろ過(限外ろ過膜 MWCO 1000,Millipore)を行い、試料を除去し、UV/Vis分光光度計を用いて、485nmで、DoxのDMSO中での検量線を参照して、Doxの含有量を決定するための分析を行った。このように、混合ミセル中のDoxの含有量が決定された。混合ミセル中の薬剤含有量は、以下の式を用いて算出された:薬剤含有量(%w/w)=(混合ミセル中のDoxの合計質量)/(混合ミセル中のDoxの合計質量+混合ミセル中の重合体の合計質量)×100。
【0049】
Doxを組み込んだ混合ミセル(Doxをロードした混合ミセル)は、AFMイメージに示されるように、約165nmの均一な粒子サイズに形成された。
【0050】
薬剤放出アッセイ
pH5.0およびpH7.4の緩衝液中の、37℃および25℃でのDoxをロードした混合ミセルの放出がそれぞれ試験された。混合ミセルから放出されたDoxは、限外ろ過(限外ろ過膜MWCO 10000,Millipore)によって混合ミセル緩衝液(50mg/L)から単離された。単離された溶液は、UV/Vis分光光度計を用いて485nmで経時的な方法で測定された。
【0051】
細胞毒性評価
各サンプルの細胞毒性を、テトラゾリウム色素(MTT)アッセイを用いた細胞増殖阻害の測定によって決定した。Doxをロードした混合ミセルおよびDoxをロードしたグラフトIミセルを、使用前にPBSで2回洗浄して捕捉されていないDoxを除去した。対数増殖期に採取されたHeLa細胞(5×103細胞/mL)は、5%CO2の加湿雰囲気中、37℃で、10%のウシ胎仔血清(FBS)を含むダルベッコ改良イーグル培地(DMEM)中で96ウェルにシードされた。HeLa細胞が対数増殖期においてインキュベートされた後、48時間の共培養のためにさまざまな濃度のDoxを含む試料が添加された。実験の最後に、MTTアッセイが行われ、細胞生存率のパーセンテージが計算された。さらに、物質の細胞毒性がHeLa細胞(5×103細胞/mL)を用いて測定された。実験的なプロセスは上記と同様であった。
【0052】
インターナリゼーション評価
HepG2細胞に蓄積されたDoxを、Carl Zeiss LSM5 PASCAL共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)によって位置決定した。HeLa細胞をカバースライド上に24時間シードし、次いで遊離DoxまたはDoxをロードした混合ミセルで処理した。Doxをロードした混合ミセルを使用前にPBSで2回洗浄して捕捉されていないDoxを除去した。Doxの濃度は約10μg/mLであった。一定時間後、細胞をPBSで2回洗浄し、次いで、LysoTrackerを、FBSを含まない培地に添加した。30分間インキュベートした後、細胞をPBSで洗浄し、CLSM観察のために、4重量%のパラホルムアルデヒドとともにスライド上に設置した。Doxの検出のために、488nm励起、590nmのLP(ロングパス)フィルターを用いて共焦点顕微鏡で蛍光観察を行った。さらに、LysoTracker観察もまた、504nm励起、検出に511nmのLPフィルターを用いて共焦点顕微鏡で行った。
【0053】
UV/Vis分光光度法によって、Doxを組み込んだ混合ミセルの薬剤含有量は、約19%であることが示された。混合ミセルから放出されたDoxは、限外ろ過膜を用いて、ミセル緩衝液から単離された。図5は、異なるpH値で混合ミセルから放出されたDoxの量を示す。中性環境では、Doxを有する混合ミセルは、37℃または25℃でDoxの約15%を放出する初期のバーストを示した。25℃の酸性環境では、混合ミセルはその完全なコアを維持し、Doxの放出は25%に達した。おそらく、MAAcとmPEGとの間に水素結合が生じ、コアを圧迫しDOXを放出したためである。対照的に、pH5.0および37℃では、P(NIPAAm−co−MAAc)は酸性環境で崩壊し凝集し、内部コアを変形させ、これによって混合ミセルからDoxが放出されるため、Doxのほぼ50%がはじめの2時間で混合ミセルから放出された。これらの結果は、構造変化が薬剤の放出を制御することを強く示している。
【0054】
HeLa細胞(5×103細胞/ml)は、テトラゾリウム色素(MTT)アッセイを用いて細胞増殖阻害を測定することによる、遊離DoxおよびDoxをロードした混合ミセルの細胞毒性の研究に用いられた。グラフトI共重合体からの、Doxを組み込んだミセル(DoxをロードしたグラフトIミセル)であり、粒子サイズが176.2nmであって、薬剤含有量が約17%であるミセルが比較のために用いられた。図6に示すように、遊離Doxは、Doxをロードした混合ミセルおよびDoxをロードしたグラフトIミセルよりも強い活性を示した。これは、48時間のインキュベーション後の混合ミセルまたはグラフトIからのDoxの累積放出は、65%に達し、活性Doxの総量は、Doxをロードした混合ミセルまたはDoxをロードしたグラフトIミセルのものを超えたためである。さらに、DoxをロードしたグラフトIミセルのIC50(50%最大阻害濃度)は、約6μg/mLであり、Doxをロードした混合ミセルの場合(約3μg/mL)よりも高いことがわかった。これは、MAAcの大きな負の電荷がグラフトIミセルの表面を覆い、ミセルとHeLa細胞との間の反発力を生じさせ、HeLa細胞における取り込みおよび蓄積を減少させるためである。空の混合ミセルおよびグラフトIミセルもまた、HeLa細胞で処理され、それぞれIC50が評価された:これらは、それぞれ、約2.5mg/mLおよび約1.5mg/mLであることがわかった。グラフトIミセルの細胞毒性と混合ミセルのそれとの差は、混合ミセル中のグラフトIの組成比は、同様の処理濃度でのグラフトIミセルのものよりもわずかに少ないことによる。これらの結果は、空のグラフトIミセルは有毒であることを示す。すなわち、癌の治療および細胞内ドラッグデリバリーにおけるグラフトIミセルの応用は、限られている。立体的なおよび安定化されたジブロック共重合体を、MAAcの負の電荷が隠されるミセル構造に導入すると、細胞の取り込みが増加し細胞毒性が減少するだけでなく、静脈注射に用いられるポリイオンの制限を克服する。
【0055】
共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)は、混合ミセルの細胞内薬剤放出の観察に用いられた。共焦点イメージは、混合ミセルがHepG2(ヒト肝細胞癌)細胞とともにインキュベートされた後のLysoTrackerおよびDoxの時間依存性蛍光強度を観察するために撮影された。Doxからの赤色の蛍光と、LysoTrackerからの緑色の蛍光とが細胞内区画の中で検出された。LysoTracker分子は、酸性区画に存在する間、指標となる。HepG2をDoxとともに1時間および8時間の両方のインキュベーションの後、遊離Doxからの蛍光は、核に集中した。LysoTrackerからの蛍光は、塩酸ドキソルビシンによって酸性化されるため、核および細胞質の両方で生じた。Doxをロードした混合ミセルが1時間照射された後、少量のDoxが混合ミセルから放出され、LysoTracker分子もまた位置する細胞質中に観察され、混合ミセルがエンドサイトーシスによって外液から細胞に取り込まれたことを示した。そしてエンドソームコンパートメントのpHが変化し、Doxの放出を示した。8時間後、Doxは、強い信号を伴って混合ミセルから放出された。Doxは、細胞質に局在するだけでなく、核にも蓄積された。同様の結果が、チャイニーズハムスターの卵巣細胞(CHO−K1)をDoxをロードした混合ミセルで処理した場合に得られた。
【0056】
本実施例で調製されたDoxをロードした混合ミセルは、細胞内pHが変化すると急速にダメージを受け、Doxを放出することができる;また、大きな負の電荷を遮蔽しその溶解度を向上させる、親水性の外部シェルを有する。
【0057】
実施例3
実施例1と同様の方法で、ブロックIII(mPEG5000−PLA1088,PDI=1.15,CMC=16mg/L)およびブロックIV(mPEG5000−PLA1750,PDI=1.20,CMC=5.4mg/L)共重合体を、オクタン酸第1スズを触媒として用いて、メトキシポリ(エチレングリコール)(mPEG,Mn 5000)およびD,L−ラクチドからの開環重合によって合成した。これらのジブロック共重合体は、同一の化学的性質を有するが組成比が異なる。
【0058】
グラフト共重合体(実施例1で調製したグラフトI)およびジブロック共重合体(ブロックI、ブロックIIIまたはブロックIV)から構成される二成分混合ミセルを、ジブロック共重合体の鎖長およびCMCが、混合ミセルのモルフォロジーおよび構造に及ぼす影響を調べるために採用した。はじめに、グラフト共重合体およびジブロック共重合体を共にジメチルスルホキシド(DMSO)/ジメチルホルムアミド(DMF)(4/1 v/v)共溶媒に溶解させ、重合体溶液を調製した。DMF/DMSO溶媒混合物は、これが最も小さい混合ミセルを製造するために用いられた。グラフト共重合体の濃度を10mg/mLに固定した。グラフト共重合体のジブロック共重合体に対するモル比は、1:9であった。次いで、実施例1で記載した方法を用いて、混合ミセルを透析によって調製した。グラフト共重合体およびジブロック共重合体(ブロックI,ブロックIIIまたはブロックIV)からの3つの混合ミセルのコア−シェル構造および粒子サイズを透過電子顕微鏡(TEM)を用いて観察した。TEM観察は、3つの結果を与えた。(1)すべての混合ミセルにおいて、グラフト共重合体の暗い領域は内部コアであり、mPEGの親水性セグメントはコアの外側に広がっていた。(2)コア領域の半径は、ジブロック共重合体のPLAの鎖長が長くなるほど小さくなった(PLA500>PLA1088>PLA1750)。(3)混合ミセルの粒子サイズは、ジブロック共重合体のPLAの鎖長が長くなるほど大きくなった(PLA1750>PLA1088>PLA500)。短いPLA長は、より小さい混合ミセルを製造する。
【0059】
血清または血清アルブミンの存在下でのミセルの安定性の試験が行われた。この試験では、混合ミセル(25mol%のグラフト共重合体(グラフトI)および75mol%のmPEG5000−PLA1750(ブロックIV))が選択された。混合ミセルの安定性は、動的光散乱(Zetasizer 3000HS,Malvern)によって決定された。PBS中の混合ミセル(2mg/mL)は、PBSに溶解された等容量の4重量%のウシ血清アルブミン(BSA)と混合された。混合物は37℃でインキュベートされ、時間間隔で動的光散乱(DLS)によって決定され、tiとして定義された。CONTIN解析法が用いられた。BSA処理の前のPBS中のミセル(1mg/mL)の平均直径t0もまた測定された。粒子サイズの比がti/t0として算出された。結果は、親水性の外部シェルであるmPEGが混合ミセル上のアルブミンの吸着を防ぐため、混合ミセルは72時間後も安定であったことを示した。これは、混合ミセルは、静脈注射の後、循環を長引かせうることの1つの現われである。
【0060】
実施例4
2官能基でエンドキャップされたジブロック共重合体であるガラクトサミン(Gal)−PEG3400−PLA830(Gal−PEG−PLA,[Gal]:[PEG]:[LA]=8.4.:7.6:84mol/mol)およびフルオレセインイソチオシアネート(FITC)−PEG3400−PLA830(FITC−PEG−PLA,[FITC]:[PEG]:[LA]=4:8:88mol/mol)を、チオール−マレイミドカップリング反応によって合成した。
【0061】
FITC−PEG−PLAジブロック共重合体の合成
PLA−NH2
N−Boc−L−アラニノール(alaninol)は、カリウム/ナフタレンを用いて、対応するアルコキシド(N−Boc−L−アラニノール−OK)に変換された。次いで、D,L−ラクチド(2g)は、N−Boc−L−アラニノール−OK(0.35g)を開始剤として、トルエン(2mL)を溶媒として用いて、100℃で12時間重合され、PLA−NHBocを得た。重合は、反応混合物に酢酸を添加することによって停止され、PLA−NHBocはジエチルエーテルから沈殿された。Boc基は、ギ酸(20mL)とCHCl3(20mL)との混合溶媒で処理することによって、PLA−NHBoc(2.1g)から除去された。室温での9時間の処理後、溶液を大量のジエチルエーテル中に注ぎ、沈殿を得た。沈殿を室温で真空乾燥した。その後、生成物(1.5g)を、トリエチルアミン(20mL)とCHCl3(20mL)との混合溶媒中で、室温で8時間脱プロトン化した。PLA−NH2は、PLA−NHBocと同様の方法で精製された。
【0062】
PLA−SH
チオール化されたPLAは、スルヒドリル部分を付加することによる、PLA−NH2の一級アミノ基の共有結合修飾によって合成された。合成には、PLA−NH2(2g)をアセトニトリル(10mL)に溶解させ、次いで、過剰の2−イミノチオラン塩酸塩(0.458g)と、室温で15時間反応させた。未反応の2−イミノチオランは、5mM HCl溶液、次いで1mM HCl溶液に対する、各24時間の繰り返しの透析によって除去された。精製されたPLA−SHは、真空乾燥された。
【0063】
マレイミド−PEG−NH2
ジメチルスルホキシド(DMSO)(10mL)中のN−メトキシカルボニルマレイミド(0.2g)の一定量を、室温でポリエチレンビス(アミン)(1g)の水溶液に添加した。混合物を6時間反応させた。反応後、得られたマレイミド−PEG−NH2を、ジクロロメタンおよびメタノールの混合溶媒(1/1 vol/vol)から−20℃で再結晶することによって精製した。
【0064】
PLA−PEG−NH2
PLA−SH(0.8g)を0.1Mのトリス/アセトニトリル(1/3 v/v)(aq,pH6.5,0.5M NaOH溶液で調整)(15mL)に溶解させ、次いでマレイミド−PEG−NH2(2g)のトリス溶液(10mL)に添加した。反応混合物を振とうし、室温で6時間持続させた。反応後、生成物を、セルロース膜の袋(分子量カットオフ6000−8000;SpectrumLabs,Inc.から入手)を用いてPBSおよびMilli−Q水に対して透析して精製し、次いで凍結乾燥システム(Heto−Holten A/S,Denmark)で凍結し、乾燥生成物を得た。乾燥生成物をジクロロメタンに溶解させ、ジエチルエーテルから沈殿させて未反応のPLA−SHを除去した。NH2−PEG−PLAは真空下で得られた。
【0065】
FITC−PEG−PLA
NH2−PEG−PLA(1g)をメタノール(40mL)に溶解させ、次いでフルオレセインイソチオシアネート(FITC)(0.15g)を添加した。混合物を室温で24時間撹拌した。次いで、反応混合物を0.5M NaCl溶液に対して透析し、その後Milli−Q水に対して2日間透析し、溶媒のメタノールおよび未反応の低分子を除去した。乾燥FITC−PEG−PLA生成物を凍結乾燥システムによって得た。
【0066】
Gal−PEG−PLA ジブロック共重合体の合成
Gal−マレイミド
ジメチルスルホキシド(DMSO)(10mL)中の一定量のN−メトキシカルボニルマレイミド(0.68g)を、ガラクトサミン塩酸塩(0.5g)水溶液に室温で添加した。混合物を6時間反応させた。得られたGal−マレイミドをジエチルエーテルからの沈殿によって精製した。
【0067】
PLA−PEG−SH
チオール化されたPLAは、スルヒドリル部分の付加によってPLA−PEG−NH2から合成された。合成として、PLA−PEG−NH2(1g)をアセトニトリル(15mL)に溶解させ、過剰の2−イミノチオラン塩酸塩(0.1g)と室温で15時間反応させた。未反応の2−イミノチオランは、5mM HCl溶液、次いで1mM HCl溶液に対する24時間の繰り返しの透析によって除去された。Milli−Q水は3時間ごとに交換された。精製されたPLA−PEG−SHは真空乾燥された。
【0068】
Gal−PEG−PLA
PLA−PEG−SH(1g)をメタノール(15mL)に溶解し、次いでGal−マレイミド(0.1g)を添加した。混合物を室温で24時間撹拌した。次いで、反応混合物を0.5M NaCl溶液に対して透析し、その後Milli−Q水に対して2日間透析し、溶媒のメタノールおよび未反応の低分子を除去した。乾燥したGal−PEG−PLA生成物は凍結乾燥システムによって得られた。
【0069】
実施例5
Doxを組み込んだ多機能ミセルを透析法を用いて調製した。はじめに、DoxをDMSO/DMF(4/1 v/v)に溶解させた1.2モル過剰のトリエチルアミンで中和した。この混合物を撹拌して薬剤を溶解させた。次いで、50mol%のグラフトI、20mol%のブロックIV、15mol%のGal−PEG−PLAおよび15mol%のFITC−PEG−PLAを薬剤溶液に溶解させた。混合物は、室温で、分子量のカットオフが6000〜8000の膜を用いてMilli−Q水に対して透析された。Milli−Q水は3時間ごとに交換した。凍結乾燥工程によって多機能ミセルを得た。DOXのロード量は、約31重量%であり、これはDMSOに溶解させた多機能ミセルとしてUV/Vis分光光度計で決定された。図7に、酢酸ウラニル(2重量%)で染色したDoxをロードした多機能ミセルのTEMイメージを示す。これらの結果は、コア−シェル構造の完全性を示す。Doxをロードした多機能ミセルの粒子サイズは約160nmであった。上述したように、高分子の血管を横切る移送は、間隙(内皮間接合および内皮転換接合)、カベオラ、小胞状液胞細胞小器官、および開窓を介して生じることが示された。ほとんどの腫瘍の研究におけるポアカットオフサイズは、380〜780nmであった。この実施例のDoxをロードした多機能ミセルは、200nmより小さく、上記の通路を通って浸出する。粒子サイズはまた、PEGがコートされたナノ粒子の器官内分布に有意に影響を与えることが明らかになった。200nmより小さい直径が、脾臓のフィルタリング効果を避けるために要求される。粒子サイズはまた、細胞内移行のメカニズムを決定しうる。大きな粒子(500nmまで)は、受容体およびクラスリン非依存性エンドサイトーシスによって細胞に入るが、小さい粒子(<200nm)は、非特異的なクラスリン依存性過程を通して、コートされたピットを介して内部移行されうる。したがって、本実施例のDoxをロードした多機能ミセルは、生理条件下での典型的な要求されるサイズに近い、約160nmのサイズであった。
【0070】
制御ドラッグデリバリーにおける刺激応答挙動の効果を評価するために、Doxをロードした多機能ミセルのインビトロの薬剤放出挙動が、2つの異なる緩衝液(pH7.4および5.0)中で研究された。図8に結果を示す。中性環境(pH7.4)では、Doxをロードした多機能ミセルは、37℃で、約15重量%を失う初期のバースト効果を示した。放出挙動は140時間後一定に保たれた。酸性環境(pH5.0)では、放出挙動は明らかに2つの期間に分かれた。第1期の速い放出の後、物理的に封入されたインテリジェンスドラッグの担体の、100時間までの長期間にわたる、持続する遅い放出がみられた。初期の速い放出(35重量%)がはじめの2時間で観察され、次いで70重量%の放出プロファイルに達するまで、140時間の持続放出が観察された。図8に示す薬剤放出挙動の結果は、本発明のDoxをロードした多機能ミセルがpH感受性であり、pHの変化がコア構造を変形させてDoxを放出するという特許請求の範囲の記載を裏付ける。
【0071】
Doxを含まない多機能ミセルもまた、FITC−PEG−PLA、Gal−PEG−PLA、ブロックIV(mPEG5000−PLA1750)およびグラフトI共重合体を含む4つの成分で、Doxを用いないことを除いてはDoxをロードした多機能ミセルの調製の手順を繰り返すことによって調製された。多機能ミセル中のグラフト共重合体(グラフトI)は、抗癌剤を封入でき、pHまたは温度の変化に応じて薬剤の放出を制御できる。ミセル中のブロックIVは、コアシェル構造の制御および均一なミセル分布の取得を助ける。ミセル中の蛍光色素が結合したジブロック共重合体であるFITC−PEG−PLAは、細胞取り込み後にミセルが蓄積する位置の直接的な証拠を与えた。一方、照準部位(Gal)が結合したジブロック共重合体であるGal−PEG−PLAは、活性腫瘍照準においてHepG2細胞のアシアログリコプロテインと結合しうる。
【0072】
Doxをロードした多機能ミセルおよび遊離Doxについて、テトラゾリウム色素アッセイ(MTT)法を用いてインビトロの細胞毒性を試験した。Doxをロードした多機能ミセルおよび遊離DoxのMTTを用いた細胞毒性を、HeLa細胞を用いた24時間および72時間のインキュベーションの後で比較した。Doxをロードした多機能ミセルの阻害濃度(IC50)は、24時間で25μg/mLであったが、72時間で4μg/mLに減少した。Doxをロードした多機能ミセルの72時間での細胞毒性は、遊離Dox(IC50=1.2μg/mL)と同等であった。一方、空の多機能ミセルのIC50は、72時間のインキュベーション後、792μg/mLであった。これは、HeLa細胞の細胞毒性は、Doxをロードした多機能ミセルによって放出されたDoxによることを示す。
【0073】
バイオマーカーの応用におけるDoxをロードした多機能ミセルの機能を評価するために、共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)が、Doxをロードした多機能ミセルおよびHeLa細胞の取り込み(6時間のインキュベーション)後の放出されたDoxの蛍光イメージを観察するために用いられた。ほとんどの粒子状の担体のトリガをかけるメカニズムは、エンドソームで生じ、細胞質に薬剤を放出する。CLSM蛍光イメージは、HeLa細胞が細胞質中で、多機能ミセルがそこに位置することを表す、緑色の蛍光を与えることを示す。さらに、赤色の蛍光を伴う放出されたDoxは、細胞質および核に局在した。粒子状の担体が運搬された明瞭な経路が、FITC標識ミセルによって観察された。
【0074】
実施例6
特定の腫瘍照準における多機能ミセルの機能を評価するために、実施例5で調製されたDoxをロードした多機能ミセルおよび実施例2で調製されたDoxをロードした混合ミセルをHepG2(肝細胞癌)細胞とともにインキュベートした。
【0075】
腫瘍照準評価
HepG2細胞(2×104細胞/mL)を、5%CO2の加湿雰囲気中、37℃で、10%のウシ胎仔血清(FBS)を含むDMEM培地の25−Tフラスコにシードした。HepG2細胞を対数増殖期においてインキュベートした後、Doxをロードした多機能ミセルまたはDoxをロードした混合ミセルを、4℃で、2時間で添加した。HepG2細胞をPBS溶液で2回洗浄し、新しい培地を、5%CO2の加湿雰囲気中、37℃での24時間および48時間のインキュベーションのために添加した。実験の最後に、位相差顕微鏡を用いてトリパンブルー染色によって細胞生存率を算出した(ポジティブコントロール)。同様の工程を、ネガティブコントロールとして全工程を37℃で繰り返した。阻害アッセイの実施のためには、ガラクトース(150mM)もまた系に添加することを除いてこの手順を繰り返した。
【0076】
肝細胞は、その表面に、ガラクトース残基を認識する多数のアシアログリコプロテイン受容体を有する。その特異的な配位子−受容体結合のため、Doxをロードした多機能ミセル(照準部分Galを含む)の癌細胞への内部移行は、受容体媒介エンドサイトーシス過程(活性腫瘍照準)によって行われ、リソソームに運搬されうる。Doxをロードした多機能ミセルの、24時間および48時間のインキュベーション後のHepG2細胞の生存率(生存する細胞のパーセンテージ)を、Doxをロードした混合ミセルと比較した。図9は、受容体媒介エンドサイトーシスにおけるミセルの特異的腫瘍照準および非特異的腫瘍照準の効果を示す。ポジティブコントロールについては、細胞をミセルとともに4℃でインキュベートし、2時間、結合(内在化はせず)を生じさせた。その後、これらを新しい培地と交換し、さまざまな時間の長さで37℃に加熱した。ネガティブコントロールとして、細胞をミセルとともに37℃でインキュベートし、ポジティブコントロールと同様の手法を行った。Doxをロードした多機能ミセルは、Galを含まないDoxをロードした混合ミセルよりも、ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールのいずれにおいても、より低い細胞生存率を有した。これは、Doxをロードした多機能ミセルはアシアログリコプロテインに結合し、そして癌細胞に内在化して細胞内pHの変化によってDoxを放出するためである。さらに、37℃で、Doxをロードした多機能ミセルとともにインキュベートしたすべての細胞の生存率は、4℃でインキュベートした細胞のそれよりも低く、エンドサイトーシス過程および大きな蓄積を示唆した。特異的なアシアログリコプロテイン−多機能ミセル相互作用は、阻害アッセイによって検証された。阻害アッセイの結果を図10に示す。150mMのガラクトースを含む細胞のインキュベーションは、ミセルと細胞との結合を完全に破壊し、含まれる過程の糖特異性を示した。
【0077】
実施例5および6から、癌の診断剤および癌のドラッグデリバリーの担体として用いられうる、Doxを封入した多機能ミセルが、透析によって正常に調製されたことがわかる。TEMイメージは、Doxをロードした多機能ミセルが、球形であり、静脈注射に適し、生理条件下で典型的に要求されるサイズに近い、約160nmのサイズであることを明らかにする。腫瘍照準アッセイおよびCLSM測定は、Doxをロードした多機能ミセルが、受容体媒介エンドサイトーシスによって高い細胞毒性を示し、その分布の明瞭な蛍光イメージを示すことを明らかにする。これは、概念立証:すなわち、長い循環時間を有する理想的なミセルの製造、腫瘍認識および組み合わせた癌の診断および癌の治療のための制御ドラッグデリバリー:を示す。FITCの代わりに近赤外色素(例えばCy5.5)と結合した多機能ミセルは、動物モデルに延長されて体内における分布を評価され、さらに癌の治療に延長されうることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1A】本願実施例1で調製した混合ミセルG1B1の平均直径および多分散性指数を、グラフト共重合体グラフトIの濃度(10.0mg/L)を固定してジブロック共重合体ブロックIのモル比の関数として示したプロットである。
【図1B】本願実施例1で調製した混合ミセルG1B1B2の平均直径および多分散性指数を、グラフト共重合体グラフトIの濃度(10.0mg/L)およびジブロック共重合体ブロックIの濃度(5.625mg/L)を固定してジブロック共重合体ブロックIIのモル比の関数として示したプロットである。
【図2】本願実施例1で調製した混合ミセルG1B1B2の透過電子顕微鏡(TEM)イメージである(スケールバーは500nmである)。
【図3】本願実施例1で調製した混合ミセルG1B1B2のピレンの蛍光スペクトルの振動バンドの強度比(I1/I3)を、pH4.0で温度の関数としてプロットした図である。
【図4A】本願実施例1で調製した混合ミセルG1B1B2の、構造変化前のTEMイメージである(スケールバーは200nmである)。
【図4B】本願実施例1で調製した混合ミセルG1B1B2の、構造変化前のTEMイメージである(スケールバーは200nmである)。
【図5】25℃および37℃で、酸性および中性の条件下で、本願実施例2で調製したDoxをロードした混合ミセルから放出されたDoxの量を示す。
【図6】さまざまな濃度の、本願実施例2で調製したDoxをロードした混合ミセル、遊離Dox、およびDoxをロードしたグラフトIミセルで処理したHeLa細胞の増殖阻害を示す。
【図7】本願実施例5で調製したDoxをロードした多機能ミセルのTEMイメージを示す。
【図8】37℃で、酸性(pH5.0)および中性(pH7.4)の条件下で、本願実施例5で調製したDoxをロードした多機能ミセルから放出されたDoxの量を示す。平均±sd(n=3)。
【図9】本願実施例5で調製したDoxをロードした多機能ミセルおよび実施例2で調製したDoxをロードした混合ミセルで処理したHepG2細胞の、ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールにおける24時間後および48時間のインキュベーションの後の増殖阻害を示すプロットである。
【図10】本願実施例5で調製したDoxをロードした多機能ミセルおよび実施例2で調製したDoxをロードした混合ミセルで処理したHepG2細胞の、ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールにおけるインキュベーションアッセイを伴う(150mMのガラクトースの存在下で)24時間後および48時間のインキュベーションの後の増殖阻害を示すプロットである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア−シェル構造を有する高分子ミセル、特に、グラフト共重合体および少なくとも1つのジブロック共重合体からの自己組織化によるコア−シェル構造を有する多機能ミセルに関する。
【背景技術】
【0002】
生物医学的応用のための多成分ミセルについての研究は、一般に、事実上あらゆる型および類のミセルが、特定の機能性、特定の腫瘍照準の向上、ナノ粒子の安定化、さまざまな材料の欠陥の克服、および多機能の発揮など、有用な特性を与えることを示している(X.Gao,Y.Cui,R.M.Levenson,L.W.K.Chung,S.Nie,Nat.Biotechnol.2004,22,969.;N.Kang,M.E.Perron,R.E.Prud’Homme,Y.Zhang,G.Gaucher,J.C.Leroux,Nano lett.2005,5,315.;E.S.Lee,K.Na,Y.H.Bae,Nano Lett.2005,5,325.;C.L.Lo,K.M.Lin,C.K.Huang,G.H.Hsiue,Adv.Funct.Mater.(DOI:10.1002/adfm.200500627)。高分子分野では、多成分ミセル(混合ミセルともいう)が、ジ−ジブロック共重合体、ジ−トリブロック共重合体、トリ−トリブロック共重合体、およびグラフト−ジブロック共重合体の系において広く研究されてきた(N.Kang,M.E.Perron,R.E.Prud’Homme,Y.Zhang,G.Gaucher,J.C.Leroux,Nano lett.2005,5,315.;E.S.Lee,K.Na,Y.H.Bae,Nano Lett.2005,5,325.;C.L.Lo,K.M.Lin,C.K.Huang,G.H.Hsiue,Adv.Funct.Mater.(DOI:10.1002/adfm.200500627);D.F.K.Shim,C.Marques,M.E.Cates,Macromolecules 1991,24,5309.;C.Honda,K.Yamamoto,T.Nose,Polymer 1996,37,1975.;A.L.Borovinskii,A.R.Khokhlov,Macromolecules 1998,31,7636.;C.Konak,M.Helmstedt,Macromolecules 2003,36,4603.;W.Mingvanisg,C.Chaibundit,C.Boot,PCCP 2002,4,778.;T.Liu,V.N.Nace,B.Chu,Langmuir 1999,15,3109.)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、グラフト共重合体およびジブロック共重合体またはいくつかのジブロック共重合体に基づく混合ミセルの系を記載した研究はなかった。過去10年間で、ほとんどの研究は、混合ミセルのミセル形成理論に関するものであった(D.F.K.Shim,C.Marques,M.E.Cates,Macromolecules 1991,24,5309.;C.Honda,K.Yamamoto,T.Nose,Polymer 1996,37,1975.;A.L.Borovinskii,A.R.Khokhlov,Macromolecules 1998,31,7636.;C.Konak,M.Helmstedt,Macromolecules 2003,36,4603.;W.Mingvanisg,C.Chaibundit,C.Boot,PCCP 2002,4,778.;T.Liu,V.N.Nace,B.Chu,Langmuir 1999,15,3109.)。しかしながら、ドラッグデリバリーを調べた研究はわずかである(E.S.Lee,K.Na,Y.H.Bae,Nano Lett.2005,5,325.;C.L.Lo,K.M.Lin,C.K.Huang,G.H.Hsiue,Adv.Funct.Mater.(DOI:10.1002/adfm.200500627))。混合ミセルは非常に複雑であり、完全なコア−シェル構造は明瞭に観察できない。これは生物医学的応用におけるボトルネックを生じさせる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、機能性の内部コアとグラフト高分子および1以上のジブロック共重合体から自己組織化された親水性の外部シェルとを有する新規の混合ミセル構造を開示する。本発明において合成されるミセルは、細胞内ドラッグデリバリーにおける応用に有用な、約50〜200nmのサイズを有する(Chun−Liang Lo,et al.,Advanced Functional Materials 2006,16,2309−2316.;Chun−Liang Lo,et al.,Biomaterials 28(2007)1225−1235.)。
【0005】
本発明は、機能性の内部コア、ならびにグラフト高分子および1以上のブロック共重合体、好ましくはグラフト共重合体および2以上のジブロック共重合体から自己組織化された親水性の外部シェルを有する、新規の混合ミセル構造を開示する。この際、前記グラフト高分子は骨格構造および前記骨格構造に結合する疎水性側鎖を含み、前記ブロック共重合体は疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含む。前記ブロック共重合体のうち少なくとも1つは前記親水性重合体セグメントの末端に結合する末端官能基を有し、前記末端官能基は、腫瘍細胞の表面の受容体、蛍光性基、または色素に結合しうる配位子である。本発明において合成されるミセルは、約50〜200nmのサイズを有する。
【0006】
具体的には、本発明は、コアシェル構造を有する高分子ミセルであって、前記構造はグラフト高分子およびブロック共重合体を含み、前記グラフト高分子は骨格構造および前記骨格構造に結合する疎水性側鎖を含み、前記ブロック重合体は疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含み、この際、前記グラフト高分子の疎水性側鎖は凝集しており、前記ブロック共重合体の疎水性重合体セグメントは、グラフト高分子の凝集した疎水性側鎖に、そこから突き出したブロック共重合体の親水性重合体セグメントとともにパッキングされ結合されて疎水性の内部コアおよび親水性の外部シェルを形成し、前記ブロック共重合体は前記親水性重合体セグメントの末端に結合する末端官能基を有し、前記末端官能基は、腫瘍細胞の表面の受容体、蛍光性基または色素に結合しうる配位子であることを特徴とする、コアシェル構造を有する高分子ミセルを提供する。
【0007】
また、本発明は、上述の高分子ミセル、および疎水性内部コアに封入された疎水性の薬剤を含む、薬剤をロードした多機能性ミセルを提供する。
【0008】
さらに、本発明は、以下の段階;
a)グラフト高分子およびブロック共重合体を有機溶媒に溶解する段階;この際、前記グラフト高分子は骨格構造および前記骨格構造に結合する疎水性側鎖を含み、前記ブロック共重合体は疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含み、この際、前記ブロック共重合体は親水性重合体セグメントの末端に結合する末端官能基を有し、前記末端官能基は腫瘍細胞の表面の受容体、蛍光性基、または色素に結合しうる配位子である;
b)段階a)で得られたポリマー溶液を、水に対して透析処理をし、溶液中の有機溶媒を水で置換する段階;
を含む、本発明のコア−シェル構造を有する高分子ミセルの製造方法を提供する。
【0009】
さらに本発明は、以下の段階;
a)薬剤、グラフト高分子およびブロック共重合体を有機溶媒に溶解する段階;この際、前記グラフト高分子は骨格構造および前記骨格構造に結合する疎水性側鎖を含み、前記ブロック共重合体は疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含み、この際、前記ブロック共重合体は親水性重合体セグメントの末端に結合する末端官能基を有し、前記末端官能基は腫瘍細胞の表面の受容体、蛍光性基、または色素に結合しうる配位子である;
b)段階a)で得られたポリマー溶液を、水に対して透析処理をし、溶液中の有機溶媒を水で置換する段階;
を含む、本発明の薬剤をロードした多機能ミセルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の混合ミセルは、癌の診断薬および抗癌剤のドラッグデリバリーの担体として広く用いられうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明では、多成分ミセルがグラフト共重合体(グラフト高分子)およびブロック共重合体(好ましくはジブロック共重合体)から調製され、共重合体のCMCの差が粒子サイズの制御に用いられる。さらに、この構造の混合ミセルは、各成分を操作し、注意深く設計することで多くの応用に拡張されうる。このような応用の1つは、抗癌剤の担体としてのものである。細胞内ドラッグデリバリーは、癌の治療に用いられる重要な経路の1つである。この経路は、照準細胞に対する薬剤の細胞毒性を高め、正常な組織における副作用を最小にする。細胞に取り込まれた後で担体からの薬剤の放出を誘起するメカニズムは、リソソーム酵素および担体を変形させる細胞内pHの変化を含む。本発明以前にも、この経路を達成するために、さまざまな材料が研究され、合成されてきた。しかしながら、このうちのいくつかは、疎水性基または大きな電荷を有し、単核食細胞系(MPS)によって認識され、腫瘍領域では容易に蓄積されず、したがって静脈注射における使用にさえも適さず、細胞内ドラッグデリバリーにはさらに適さない。したがって、粒子の表面に伸びた親水性セグメントが必要である。
【0012】
本発明においては、多機能のコアおよびシェルを有する混合ミセルは、グラフト共重合体およびブロック共重合体から調製され、前記グラフト共重合体は、骨格構造および前記骨格構造に結合する側鎖を含む。前記ブロック共重合体は疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含む。グラフト高分子の疎水性側鎖およびブロック共重合体の疎水性重合体セグメントは同一の繰り返し単位を含んでもよい。好ましくは、前記ブロック共重合体はジブロック共重合体である。
【0013】
好ましくは、前記ジブロック共重合体の前記疎水性重合体セグメントは、500〜2500の数平均分子量を有し、好ましくは、前記親水性重合体セグメントは、2000〜10000の数平均分子量を有する。
【0014】
前記ブロック共重合体の疎水性重合体セグメントは、特に制限されない。好ましくは、前記疎水性重合体セグメントは、生体再吸収性である。より好ましくは、前記ブロック共重合体の疎水性重合体セグメントは、ポリ(エステル)、ポリ(ラクチド)、ポリ(乳酸)、およびポリカプロラクトンから選択される少なくとも1つを含む。ポリ(ラクチド)(ポリ(D,L−ラクチド))が特に好ましい。
【0015】
好ましくは、前記グラフト高分子は、ポリアクリル酸塩またはpH/イオン強度感受性ポリマーを含む。前記pH/イオン強度感受性ポリマーとしては、例えば、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(ブテン二酸)、ポリヒスチジン、およびポリ(ビニルイミダゾール)などが挙げられる。
【0016】
前記ブロック共重合体の親水性重合体セグメントは、特に限定されないが、好ましくは、ポリ(エステル)、ポリ(エチレングリコール)、メトキシ−ポリ(エチレングリコール)、およびポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)から選択される少なくとも1つを含む。
【0017】
前記グラフト高分子の骨格構造は、好ましくは、親水性の第1の繰り返し単位を含み、好ましくは、前記疎水性側鎖は前記第1の繰り返し単位に結合する。より好ましくは、前記第1の繰り返し単位はカルボキシル基を含み、前記疎水性側鎖は生体再吸収性である。
【0018】
前記グラフト高分子の骨格構造は、好ましくは、ポリアクリル酸塩、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(ブテン二酸)、ポリヒスチジン、およびポリ(ビニルイミダゾール)から選択される少なくとも1つを含む。中でも、ポリ(メタクリル酸)が特に好ましい。
【0019】
前記グラフト高分子の前記疎水性側鎖は、好ましくは、ポリ(ラクチド)、ポリ(乳酸)、およびポリカプロラクトンから選択される少なくとも1つを含む。中でも、ポリ(ラクチド)が特に好ましい。
【0020】
前記グラフト高分子の骨格構造は、前記第1の繰り返し単位と異なる第2の繰り返し単位をさらに含みうる。好ましくは、前記第2の繰り返し単位は、温度変化に応じてコア崩壊を引き起こす。例えば、前記グラフト高分子の骨格構造の前記第2の繰り返し単位は、N−イソプロピルアクリルアミドのモノマーから誘導される。N−イソプロピルアクリルアミドおよびメタクリル酸の共重合体が特に好ましい。
【0021】
本発明の高分子ミセルは、好ましくは、50〜200nmの直径を有する。
【0022】
本発明においては、前記ブロック共重合体は親水性重合体セグメントの末端に結合する末端官能基を有し、前記末端官能基は、腫瘍細胞の表面の受容体に結合しうる配位子、蛍光性基、および色素からなる群から選択される少なくとも1つである。腫瘍細胞の表面の受容体に結合しうる配位子としては、例えば、ガラクトース残基が用いられうる。蛍光性基としては、任意の公知の蛍光性基が用いられうる。例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)が好ましく用いられうる。色素としては、特に制限されないが、近赤外色素が好ましく用いられうる。
【0023】
本発明においては、高分子ミセルは、複数の異なるブロック共重合体を含み、各ブロック共重合体は疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含みうる。前記ブロック共重合体は、好ましくは、ジブロック共重合体である。
【0024】
前記異なるブロック共重合体の疎水性重合体セグメントに含まれる繰り返し単位は同一であっても互いに異なっていてもよい。また、前記異なるブロック共重合体の親水性重合体セグメントに含まれる繰り返し単位は、同一であっても互いに異なっていてもよい。
【0025】
前記異なるブロック共重合体は、それぞれ、前記親水性重合体セグメントの末端に結合する、同一または異なった末端官能基を有しうる。好ましくは、前記異なったブロック共重合体の末端官能基は、互いに異なる。好ましくは、前記末端官能基の1つは、腫瘍細胞の表面の受容体に結合しうる配位子、蛍光性基、または色素である。より好ましくは、本発明の高分子ミセルは、腫瘍細胞の表面の受容体に結合しうる配位子を有するブロック共重合体と、末端官能基として蛍光性基を有するブロック共重合体とを含む。
【0026】
本発明の他の実施形態は、上述の高分子ミセル、および疎水性内部コアに封入された疎水性の薬剤を含む、薬剤をロードした多機能性ミセルである。本発明で用いられる疎水性の薬剤は、特に制限されない。任意の既知の抗癌剤が好ましく用いられ、中でも、ドキソルビシンが特に好ましい。
【0027】
本発明においては、多機能性コアおよびシェルを有する混合ミセルは、例えば、環境感受性グラフト共重合体であるポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−メタクリル酸)−g−ポリ(D,L−ラクチド)(P(NIPAAm−co−MAAc)−g−PLA)、ならびに2つのジブロック共重合体である、メトキシ−ポリ(エチレングリコール)−b−ポリ(D,L−ラクチド)(mPEG−PLA)およびポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)−b−ポリ(D,L−ラクチド)(PEOz−PLA)から調製されうる。このナノ構造は、特殊なコア−シェル構造を有するために、グラフト共重合体の大きな負の電荷を完全に遮蔽し、多機能性を示す。細胞内ドラッグデリバリーにおけるこのミセル構造の例は、薬剤の放出と混合ミセルの機能性との間の強い関係を示した。さらに、スクリーニング特性の効率はまた、細胞毒性にも現れる;混合ミセルは、P(NIPAAm−co−MAAc)−g−PLA([NIPAAm]/[MAAc]/[PLA]=84:5.9:2.5mol/mol)からのミセルよりも、より高い薬剤活性およびより低い物質細胞毒性を示す。この例は、グラフト−ジブロック共重合体系を用いて生じる新たなミセル構造を与えるだけでなく、単一または多数のジブロック共重合体を伴うグラフト共重合体からの多機能ミセルの調製が、ドラッグデリバリーにおける応用の基礎となりうるという概念を明らかにする。
【0028】
本発明の好ましい一実施形態においては、癌細胞照準、分布イメージング、および抗癌剤デリバリーのための多機能ミセルは、環境感受性グラフト共重合体であるP(NIPAAm−co−MAAc)−g−PLA、ジブロック共重合体であるmPEG−PLAならびに2官能基(two functionalized)ジブロック共重合体であるガラクトサミン−PEG−PLA(Gal−PEG−PLA)およびフルオレセインイソチオシアネート−PEG−PLA(FITC−PEG−PLA)から調製された。多機能ミセルは、アシアログリコプロテイン(HepG2細胞)−Gal(多機能ミセル)受容体−媒介腫瘍照準メカニズムによって、特定の腫瘍を照準とする。細胞内pH変化は、したがって、多機能ミセルの内部コアのP(NIPAAm−co−MAAc)−g−PLAグラフト共重合体の構造変化を誘導し、これによって、ドキソルビシン(Dox)の放出によってHepG2細胞の細胞毒性を増加させる。共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)は、多機能ミセルの明確な分布を明らかにする。注意深く設計され、高度に操作されれば、本発明で合成された高分子ミセルは、癌の診断、癌の照準、および癌の治療に同時に用いられうる。
【0029】
本発明のコア−シェル構造を有する高分子ミセルは、例えば、以下の段階;
a)グラフト高分子およびブロック共重合体を有機溶媒に溶解する段階;この際、前記グラフト高分子は骨格構造および前記骨格構造に結合する疎水性側鎖を含み、前記ブロック共重合体は疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含み、この際、前記ブロック共重合体は親水性重合体セグメントの末端に結合する末端官能基を有し、前記末端官能基は腫瘍細胞の表面の受容体、蛍光性基、または色素に結合しうる配位子である;
b)段階a)で得られたポリマー溶液を、水に対して透析処理をし、溶液中の有機溶媒を水で置換する段階;
を含む方法で調製されうる。
【0030】
任意で、上記b)の段階の後、以下の段階c)をさらに行ってもよい;
c)段階b)で得られた水溶液を凍結乾燥して乾燥した高分子ミセルを得る段階。
【0031】
1以上の異なるブロック共重合体が用いられる場合、前記ブロック共重合体は、好ましくは、段階a)で同時に前記有機溶媒に溶解される。本発明の薬剤をロードした多機能ミセルは、例えば、上記a)の段階で、薬剤を前記グラフト高分子および前記ブロック共重合体とともに前記有機溶媒に溶解させることを除いては、上記と同様の方法を実施することによって調製されうる。
【実施例】
【0032】
本発明は、以下の実施例によってよりよく理解されるであろう。しかしながら、以下の実施例は説明のためのものに過ぎず、本発明の技術的範囲を制限するものではない。
【0033】
実施例1
原料
D,L−ラクチドおよびメタクリル酸(MAAc)をLancaster社から購入した。p−トルエンスルホン酸メチル(MeOTs)、オクタン酸第1スズ、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ピレン、および2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)をAldrich社から購入した。N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)および2−エチル−2−オキサゾリンをTCI社から購入した。mPEG(重量平均分子量Mw=5000Da)をSigma社から購入した。D,L−ラクチドは、使用前に、テトラヒドロフラン(THF)から2回再結晶することによってさらに精製した。NIPAAmおよびAIBNは、それぞれ、ヘキサンおよびアセトンから再結晶することによって精製した。MAAcおよびHEMAは、真空下で蒸留することによって精製した。2−エチル−2−オキサゾリンおよびMeOTsは、CaH2で一晩処理し、真空下で蒸留することによって精製した。他の試薬は、市販のものをそのまま用いた。
【0034】
グラフト共重合体P(NIPAAm−co−MAAc)−g−PLA(グラフトI,G1)の調製
はじめに、エンドキャッピングとしてメタクリレート基を有するPLA(PLA−EMA)を開環重合によって合成した。D,L−ラクチド(4g)、HEMA(0.26g)およびトルエン(5mL)を二口丸底フラスコに、磁気撹拌子とともに入れた。フラスコをオイルバスに入れ、窒素下で130℃で撹拌した。次いで、オクタン酸第1スズ(1重量%)を添加して重合を開始させ、100℃で16時間継続した。重合後、生成物を0.1N KOHメタノール溶液を加えて停止させ、次いで、ジエチルエーテルから2回沈殿させた。1つの末端がメタクリレート基でエンドキャッピングされたPLA−EMA(Mn=2000)が得られた。P(NIPAAm−co−MAAc)−g−PLAグラフト共重合体は、通常のフリーラジカル共重合によって合成した。PLA−EMA(0.35g)、NIPAAm(1.15g)、MAAc(0.16g)およびAIBN(0.023g)を二口丸底フラスコに、磁気撹拌子とともに入れ、混合物をアセトン(15mL)に溶解させた。反応を窒素下で70℃で24時間行った。重合後、生成物をジエチルエーテルからの沈殿によって2回、および蒸留水からに沈殿によって2回精製し、最終的にグラフト共重合体である(P(NIPAAm−co−MAAc)−g−PLA([NIPAAm]:[MAAc]:[PLA]=84:5.9:2.5mol/mol(グラフトI,G1)を得た。
【0035】
ジブロック共重合体 mPEG−PLA(ブロックI,B1)の合成
mPEG−PLAジブロック共重合体は開環重合によって合成した。D,L−ラクチド(1g)、mPEG(Mw=5000Da)(10g)およびトルエン(4mL)を二口丸底フラスコに、磁気撹拌子とともに入れた。混合物をオイルバスで加熱し、窒素下で130℃で撹拌した。次いで、オクタン酸第1スズ(1重量%)を添加して重合を開始させ、130℃で16時間継続した。重合後、生成物を0.1N KOHメタノール溶液を加えて停止させ、−20℃でジクロロメタンとジエチルエーテルとの共溶媒から再結晶した。このようにmPEG−PLA([EG]:[LA]=113:7mol/mol)を得た(ブロックI,B1)。
【0036】
ジブロック共重合体 PEOz−PLA(ブロックII,B2)の合成
PEOz−PLAを、以下のように、文献[G.H.Hsiue,C.Ch.Wang,C.L.Lo,C.H.Wang,J.P.Li,J.L.Yang,Int.J.Pharm.2006,317,69]の手順を改良して調製した。はじめに、2−エチル−2−オキサゾリン(10mL)、開始剤であるp−トルエンスルホン酸メチル(0.232mg)、およびアセトニトリル(30mL)を二口丸底フラスコに磁気撹拌子とともに入れた。フラスコをオイルバスに移動させ、混合物を窒素下で100℃で30時間撹拌した。室温まで冷却した後、0.1N KOHメタノール溶液を加えて反応を停止させ、ジエチルエーテルから2回沈殿させてPEOz−OHを得た。次いで、PEOz−OH(2g)およびD,L−ラクチド(0.426g)を、オクタン酸第1スズ(1重量%)を用いて窒素下で130℃で16時間重合させた。重合後、生成物を0.1N KOHメタノール溶液を加えて停止させ、ジエチルエーテルから2回沈殿させてPEOz−PLA([EOz]:[LA]=52.5:9.7mol/mol)(ブロックII,B2)を得た。
【0037】
上記で調製したそれぞれの共重合体の化学構造および多分散性指数は、1H−NMR(AMX−500,Bruker)およびジメチルホルムアミド(DMF)を溶出溶媒として用いたGPCによって確認した。グラフトのMnは、mPEG(Mn 2000)を標準として用いて、1H−NMR(AMX−500,Bruker)から計算した。さらに、それぞれの臨界ミセル濃度(CMC)を、ピレンを疎水性プローブとして用い、蛍光分光光度計を用いて同定した。共重合体の濃度は0.0001〜10mg/mLで変化させた。蛍光スペクトルは、蛍光分光光度計(F−2500,Hitachi)を用いて取得した。発光スペクトルの励起波長は339nmであり、励起スペクトルは390nmで測定した。これらの結果を表1にまとめる。
【0038】
【表1】
【0039】
P(NIPAAm−co−MAAc)−g−PLA、mPEG−PLAおよびPEOz−PLAからのミセルの調製
ブロックIIを含む、または含まない、さまざまな組成比のグラフトIおよびブロックIを合わせてDMSOに溶解させ、重合体溶液を調製した。次いで重合体溶液を、セルロース膜の袋(分子量カットオフ6000〜8000、SpectrumLabs,Inc.から入手)を用いて、蒸留水に対して20℃で48時間透析した。蒸留水を3時間ごとに交換した。透析後、ミセルまたは混合ミセルの溶液を回収し、凍結乾燥システム(Heto−Holten A/S,Denmark)を用いて凍結して、乾燥生成物を得た。
【0040】
図1Aは、混合ミセルG1B1の平均直径および多分散性指数を、グラフトI(10.0mg/L)の濃度を固定したときのブロックIのモル比の関数として示したプロットである。図1Bは、混合ミセルG1B1B2の平均直径および多分散性指数を、グラフトI(10.0mg/L)およびブロックI(5.625mg/L)の濃度を固定したときのブロックIIのモル比の関数として示したプロットである。
【0041】
表1に、図1Aおよび1Bに示す2つのミセルの調製に用いたグラフトI、ブロックI、およびブロックIIの濃度を示す。
【0042】
【表2】
【0043】
混合ミセルG1B1B2[G1:B1:B2=33.9:55.7:10.4 mol/mol]の3つの共重合体は、自己組織化し、疎水性PLAとパッキングし、結びついて混合ミセルを形成し、0.1mg/mLの濃度の、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の試料からの動的光散乱(DLS)によって決定すると、均一な粒子サイズ(182.3±1.5nm)および狭い分布(多分散性指数、PDI=0.038±0.014)を得た。ジブロック共重合体の遮蔽効果に及ぼす影響を同定するために、混合ミセルのゼータ電位が、PBS中で、0.1mg/mLの濃度で、ドップラーマイクロ電気泳動法(Zetasizer 3000HS,Malvern)によって測定された。グラフトIから構成されるミセルを比較サンプルとして用いた。そのゼータ電位は、−15.5±0.9mVと測定された。MAAcのカルボキシル酸基のわずかなイオン化によってもたらされる大きな負電荷が、混合ミセルのジブロック共重合体によって遮蔽された。混合ミセルのゼータ電位は、親水性セグメントであるmPEGおよびPEOzが混合ミセルの表面に広がり、MAAcのカルボキシル酸基を隠すため、−7.8±1.3mVと測定された。図2に示すように、混合ミセル構造の最も直接的な証拠は、透過電子顕微鏡(TEM;Hitachi H−600顕微鏡、加速電圧=100kV)によって得られる。TEMは、混合ミセルのコア−シェル構造を同定するために、メタクリル酸基を酢酸ウラニル(2重量%)で染色することによって、広く採用される。混合ミセルG1B1B2のTEMイメージは、グラフトI共重合体の暗い領域は内部コアであること、およびmPEGおよびPEOzの親水性セグメントはグラフトIコアの外側に広がっていることを示唆する。さらに、Bioscope AFMを混合ミセルの形状の観察に用い、その結果は、混合ミセルG1B1B2は均一なサイズで、球形であることを示した。粒子のサイズは、DLSで決定されたものと同様であった。
【0044】
ジブロック共重合体の組成が混合ミセルの調製におよぼす影響を比較するために、グラフトIとブロックI(G1B1)およびグラフトIおよびブロックIとブロックII(G1B1B2)から混合ミセルを透析した。3つの共重合体は、異なるCMCを示した:ブロックIのCMCは、ブロックIIおよびグラフトIのCMCと大きく異なった(表1)。固定された濃度のグラフトIを、さまざまなモル比のブロックI(CMCグラフトI<<CMCブロックI)で処理した場合、G1B1混合ミセルの平均直径は、図1Aに示すように、DLSによって決定すると、単一のグラフトIまたは単一のブロックIの平均直径よりも小さく、約160nmで一定のままであった。混合ミセルG1B1のサイズ分布は狭かった。しかしながら、ブロックIIを固定された濃度のG1B1に添加し、この際ブロックIIのCMCがグラフトIのCMCに近接しており、しかしブロックIのCMCより小さい場合、G1B1B2混合ミセルの平均直径は、図1Bに示すように、ブロックIIに依存しなかった;サイズは、1つの共重合体からのミセル、またはグラフトIとブロックIIとの混合ミセルのサイズ(330.2±0.9nm;PDI=0.072±0.011)とは大きく異なった。しかしながら、これらは、G1B1混合ミセルから得られたサイズに近接していた。ブロックIIのモル比が0.54を超えると、G1B1B2混合ミセルは得られなかった。透析が始まると共重合体が凝集し、沈殿した。これらの結果は、最も高いCMCを有する共重合体が粒子サイズを決定することを示す。すなわち、例えばこの系におけるブロックIのような、グラフト−ジブロック共重合体系におけるジブロック共重合体の高いCMCは、粒子サイズを制御し、減少させ、混合ミセルの形成の規則化および制御を助ける。したがって、相対的なCMCは、グラフト共重合体およびジブロック共重合体からの、小さいサイズで低いPDIの混合ミセルの調製において重要な検討事項である。
【0045】
ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)は、水溶液中で下限臨界溶液温度(LCST)より低い温度で延長された鎖状の立体配座を示す、水溶性である親水性のポリマーとして知られている。PNIPAAmはまた、そのLCSTを超えると、不溶性である疎水性の凝集体に相転移しうる。PNIPAAm共重合体中のMAAcの一部をランダムに共重合すると、LCSTは37℃(すなわち、体温)を超える温度に上昇し、ポリマーはpH感受性になる。P(NIPAAm−co−MAAc)は、中性環境で延長された鎖を示す。これは、イオン化したMAAcがP(NIPAAm−co−MAAc)の親水性を高めるためである。酸性環境では、脱イオン化したMAAcがP(NIPAAm−co−MAAc)の親水性を低下させそのLCSTを32℃に低下させるため、共重合体は凝集して沈殿する。MAAcのpH感受性の性質およびPNIPAAmの熱感受性の性質が、相互に関連している。本発明者らの以前の研究は、低pHでの温度変化に対応する、P(NIPAAm−co−MAAc)外部シェルの凝集および崩壊によって、グラフトIミセルが構造変化を示すことを明らかにした[C.L.Lo,K.M.Lin,G.H.Hsiue,J.Controlled Release 2005,104,477]。図3は、混合ミセルG1B1B2[G1:B1:B2=33.9:55.7:10.4mol/mol]の構造変化を、pH4.0での温度の関数として表す。混合ミセルの構造変化は、ピレンを疎水性プローブとして用いた蛍光分光分析によって決定された。第1振動バンドの強度と第3振動バンドとの強度の比であるI1/I3は、したがって、環境の極性の指標として用いられうる[K.Kalyanasundaram,J.K.Thomas,J.Am.Chem.Soc.1997,99,2039]。比が大きいほど、ピレンプローブがより極性の環境にあることに対応する。混合ミセルの構造変化の前後のI1/I3の変化を比較するための参照としてピレン緩衝液が用いられた。ピレン緩衝液のI1/I3比は、熱崩壊によって、温度が上昇するにつれて1.81から1.74まで徐々に減少した。pH4.0での混合ミセルでは、ピレンのスペクトルのI1/I3は、約31℃で減少しはじめた。これはおそらく、ピレン分子がmPEGとMAAcとの間の水素結合領域で分離されたためである。温度が37℃を超えて上昇すると、I1/I3は速やかに1.25から1.46まで上昇し、構造変化によってピレンの環境が混合ミセルの内部コアから緩衝液に変化したことを示した。
【0046】
本発明者らはまた、構造変化の前後の混合ミセルG1B1B2[G1:B1:B2=33.9:55.7:10.4mol/mol]を、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)を用いて分析した。誘起された構造変化の前後の混合ミセルの表面の層の化学組成を、ポジティブおよびネガティブのTOF−SIMSスペクトルから決定した。TOF−SIMSスペクトルからの結果は、誘起された構造変化の後、混合ミセル中のグラフトIは延長されて表面の層に近づくことを示す。構造変化後の混合ミセルを酢酸ウラニルで処理し、TEMで観察し、この発見のさらなる証拠を得た。図4Aおよび4Bに示すように、TEMイメージは、混合ミセルG1B1B2[G1:B1:B2=33.9:55.7:10.4mol/mol]のコア−シェル構造が破壊されたことを示す。グラフトIの暗い領域は、構造変化後の混合ミセルの内部コアおよび外部シェルの両方に存在した。
【0047】
実施例2
本実施例では、その構造が封入された薬剤が血液中を循環する間コアに残ることを可能にする、mPEG−PLA ジブロック共重合体およびP(NIPAAm−co−MAAc)−g−PLAグラフト共重合体から構成される混合ミセルが、疎水性抗癌剤である遊離塩基のドキソルビシン(Dox)の封入に用いられた。
【0048】
ドキソルビシン(Dox)をロードした混合ミセルはまた、透析によって調製された。調製手順は、実施例1で調製した混合ミセルの手順と同様であった。20mgのDox−HClを、8mlのDMFおよび2mlのDMSOに溶解させた。2mgのmPLA−b−PEG(ブロックI)および20mgのP(NIPAAm−co−MAAc)−g−PLA(グラフトI)を、8mlのDMFおよび2mlのDMSOに溶解させた。Dox−HCl溶液を0.3mlのトリエチルアミンと混合し、塩酸を除去した。次いで、遊離塩基のDox溶液を、重合体溶液に添加して室温で2時間撹拌した。混合溶液を水に対して20℃で72時間透析した。蒸留水を3時間ごとに交換した。透析後、ミセルの溶液を回収し、凍結乾燥システムを用いて凍結し、乾燥ミセルを得た。秤量した混合ミセルを室温でDMSOに12時間溶解させた;その後限外ろ過(限外ろ過膜 MWCO 1000,Millipore)を行い、試料を除去し、UV/Vis分光光度計を用いて、485nmで、DoxのDMSO中での検量線を参照して、Doxの含有量を決定するための分析を行った。このように、混合ミセル中のDoxの含有量が決定された。混合ミセル中の薬剤含有量は、以下の式を用いて算出された:薬剤含有量(%w/w)=(混合ミセル中のDoxの合計質量)/(混合ミセル中のDoxの合計質量+混合ミセル中の重合体の合計質量)×100。
【0049】
Doxを組み込んだ混合ミセル(Doxをロードした混合ミセル)は、AFMイメージに示されるように、約165nmの均一な粒子サイズに形成された。
【0050】
薬剤放出アッセイ
pH5.0およびpH7.4の緩衝液中の、37℃および25℃でのDoxをロードした混合ミセルの放出がそれぞれ試験された。混合ミセルから放出されたDoxは、限外ろ過(限外ろ過膜MWCO 10000,Millipore)によって混合ミセル緩衝液(50mg/L)から単離された。単離された溶液は、UV/Vis分光光度計を用いて485nmで経時的な方法で測定された。
【0051】
細胞毒性評価
各サンプルの細胞毒性を、テトラゾリウム色素(MTT)アッセイを用いた細胞増殖阻害の測定によって決定した。Doxをロードした混合ミセルおよびDoxをロードしたグラフトIミセルを、使用前にPBSで2回洗浄して捕捉されていないDoxを除去した。対数増殖期に採取されたHeLa細胞(5×103細胞/mL)は、5%CO2の加湿雰囲気中、37℃で、10%のウシ胎仔血清(FBS)を含むダルベッコ改良イーグル培地(DMEM)中で96ウェルにシードされた。HeLa細胞が対数増殖期においてインキュベートされた後、48時間の共培養のためにさまざまな濃度のDoxを含む試料が添加された。実験の最後に、MTTアッセイが行われ、細胞生存率のパーセンテージが計算された。さらに、物質の細胞毒性がHeLa細胞(5×103細胞/mL)を用いて測定された。実験的なプロセスは上記と同様であった。
【0052】
インターナリゼーション評価
HepG2細胞に蓄積されたDoxを、Carl Zeiss LSM5 PASCAL共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)によって位置決定した。HeLa細胞をカバースライド上に24時間シードし、次いで遊離DoxまたはDoxをロードした混合ミセルで処理した。Doxをロードした混合ミセルを使用前にPBSで2回洗浄して捕捉されていないDoxを除去した。Doxの濃度は約10μg/mLであった。一定時間後、細胞をPBSで2回洗浄し、次いで、LysoTrackerを、FBSを含まない培地に添加した。30分間インキュベートした後、細胞をPBSで洗浄し、CLSM観察のために、4重量%のパラホルムアルデヒドとともにスライド上に設置した。Doxの検出のために、488nm励起、590nmのLP(ロングパス)フィルターを用いて共焦点顕微鏡で蛍光観察を行った。さらに、LysoTracker観察もまた、504nm励起、検出に511nmのLPフィルターを用いて共焦点顕微鏡で行った。
【0053】
UV/Vis分光光度法によって、Doxを組み込んだ混合ミセルの薬剤含有量は、約19%であることが示された。混合ミセルから放出されたDoxは、限外ろ過膜を用いて、ミセル緩衝液から単離された。図5は、異なるpH値で混合ミセルから放出されたDoxの量を示す。中性環境では、Doxを有する混合ミセルは、37℃または25℃でDoxの約15%を放出する初期のバーストを示した。25℃の酸性環境では、混合ミセルはその完全なコアを維持し、Doxの放出は25%に達した。おそらく、MAAcとmPEGとの間に水素結合が生じ、コアを圧迫しDOXを放出したためである。対照的に、pH5.0および37℃では、P(NIPAAm−co−MAAc)は酸性環境で崩壊し凝集し、内部コアを変形させ、これによって混合ミセルからDoxが放出されるため、Doxのほぼ50%がはじめの2時間で混合ミセルから放出された。これらの結果は、構造変化が薬剤の放出を制御することを強く示している。
【0054】
HeLa細胞(5×103細胞/ml)は、テトラゾリウム色素(MTT)アッセイを用いて細胞増殖阻害を測定することによる、遊離DoxおよびDoxをロードした混合ミセルの細胞毒性の研究に用いられた。グラフトI共重合体からの、Doxを組み込んだミセル(DoxをロードしたグラフトIミセル)であり、粒子サイズが176.2nmであって、薬剤含有量が約17%であるミセルが比較のために用いられた。図6に示すように、遊離Doxは、Doxをロードした混合ミセルおよびDoxをロードしたグラフトIミセルよりも強い活性を示した。これは、48時間のインキュベーション後の混合ミセルまたはグラフトIからのDoxの累積放出は、65%に達し、活性Doxの総量は、Doxをロードした混合ミセルまたはDoxをロードしたグラフトIミセルのものを超えたためである。さらに、DoxをロードしたグラフトIミセルのIC50(50%最大阻害濃度)は、約6μg/mLであり、Doxをロードした混合ミセルの場合(約3μg/mL)よりも高いことがわかった。これは、MAAcの大きな負の電荷がグラフトIミセルの表面を覆い、ミセルとHeLa細胞との間の反発力を生じさせ、HeLa細胞における取り込みおよび蓄積を減少させるためである。空の混合ミセルおよびグラフトIミセルもまた、HeLa細胞で処理され、それぞれIC50が評価された:これらは、それぞれ、約2.5mg/mLおよび約1.5mg/mLであることがわかった。グラフトIミセルの細胞毒性と混合ミセルのそれとの差は、混合ミセル中のグラフトIの組成比は、同様の処理濃度でのグラフトIミセルのものよりもわずかに少ないことによる。これらの結果は、空のグラフトIミセルは有毒であることを示す。すなわち、癌の治療および細胞内ドラッグデリバリーにおけるグラフトIミセルの応用は、限られている。立体的なおよび安定化されたジブロック共重合体を、MAAcの負の電荷が隠されるミセル構造に導入すると、細胞の取り込みが増加し細胞毒性が減少するだけでなく、静脈注射に用いられるポリイオンの制限を克服する。
【0055】
共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)は、混合ミセルの細胞内薬剤放出の観察に用いられた。共焦点イメージは、混合ミセルがHepG2(ヒト肝細胞癌)細胞とともにインキュベートされた後のLysoTrackerおよびDoxの時間依存性蛍光強度を観察するために撮影された。Doxからの赤色の蛍光と、LysoTrackerからの緑色の蛍光とが細胞内区画の中で検出された。LysoTracker分子は、酸性区画に存在する間、指標となる。HepG2をDoxとともに1時間および8時間の両方のインキュベーションの後、遊離Doxからの蛍光は、核に集中した。LysoTrackerからの蛍光は、塩酸ドキソルビシンによって酸性化されるため、核および細胞質の両方で生じた。Doxをロードした混合ミセルが1時間照射された後、少量のDoxが混合ミセルから放出され、LysoTracker分子もまた位置する細胞質中に観察され、混合ミセルがエンドサイトーシスによって外液から細胞に取り込まれたことを示した。そしてエンドソームコンパートメントのpHが変化し、Doxの放出を示した。8時間後、Doxは、強い信号を伴って混合ミセルから放出された。Doxは、細胞質に局在するだけでなく、核にも蓄積された。同様の結果が、チャイニーズハムスターの卵巣細胞(CHO−K1)をDoxをロードした混合ミセルで処理した場合に得られた。
【0056】
本実施例で調製されたDoxをロードした混合ミセルは、細胞内pHが変化すると急速にダメージを受け、Doxを放出することができる;また、大きな負の電荷を遮蔽しその溶解度を向上させる、親水性の外部シェルを有する。
【0057】
実施例3
実施例1と同様の方法で、ブロックIII(mPEG5000−PLA1088,PDI=1.15,CMC=16mg/L)およびブロックIV(mPEG5000−PLA1750,PDI=1.20,CMC=5.4mg/L)共重合体を、オクタン酸第1スズを触媒として用いて、メトキシポリ(エチレングリコール)(mPEG,Mn 5000)およびD,L−ラクチドからの開環重合によって合成した。これらのジブロック共重合体は、同一の化学的性質を有するが組成比が異なる。
【0058】
グラフト共重合体(実施例1で調製したグラフトI)およびジブロック共重合体(ブロックI、ブロックIIIまたはブロックIV)から構成される二成分混合ミセルを、ジブロック共重合体の鎖長およびCMCが、混合ミセルのモルフォロジーおよび構造に及ぼす影響を調べるために採用した。はじめに、グラフト共重合体およびジブロック共重合体を共にジメチルスルホキシド(DMSO)/ジメチルホルムアミド(DMF)(4/1 v/v)共溶媒に溶解させ、重合体溶液を調製した。DMF/DMSO溶媒混合物は、これが最も小さい混合ミセルを製造するために用いられた。グラフト共重合体の濃度を10mg/mLに固定した。グラフト共重合体のジブロック共重合体に対するモル比は、1:9であった。次いで、実施例1で記載した方法を用いて、混合ミセルを透析によって調製した。グラフト共重合体およびジブロック共重合体(ブロックI,ブロックIIIまたはブロックIV)からの3つの混合ミセルのコア−シェル構造および粒子サイズを透過電子顕微鏡(TEM)を用いて観察した。TEM観察は、3つの結果を与えた。(1)すべての混合ミセルにおいて、グラフト共重合体の暗い領域は内部コアであり、mPEGの親水性セグメントはコアの外側に広がっていた。(2)コア領域の半径は、ジブロック共重合体のPLAの鎖長が長くなるほど小さくなった(PLA500>PLA1088>PLA1750)。(3)混合ミセルの粒子サイズは、ジブロック共重合体のPLAの鎖長が長くなるほど大きくなった(PLA1750>PLA1088>PLA500)。短いPLA長は、より小さい混合ミセルを製造する。
【0059】
血清または血清アルブミンの存在下でのミセルの安定性の試験が行われた。この試験では、混合ミセル(25mol%のグラフト共重合体(グラフトI)および75mol%のmPEG5000−PLA1750(ブロックIV))が選択された。混合ミセルの安定性は、動的光散乱(Zetasizer 3000HS,Malvern)によって決定された。PBS中の混合ミセル(2mg/mL)は、PBSに溶解された等容量の4重量%のウシ血清アルブミン(BSA)と混合された。混合物は37℃でインキュベートされ、時間間隔で動的光散乱(DLS)によって決定され、tiとして定義された。CONTIN解析法が用いられた。BSA処理の前のPBS中のミセル(1mg/mL)の平均直径t0もまた測定された。粒子サイズの比がti/t0として算出された。結果は、親水性の外部シェルであるmPEGが混合ミセル上のアルブミンの吸着を防ぐため、混合ミセルは72時間後も安定であったことを示した。これは、混合ミセルは、静脈注射の後、循環を長引かせうることの1つの現われである。
【0060】
実施例4
2官能基でエンドキャップされたジブロック共重合体であるガラクトサミン(Gal)−PEG3400−PLA830(Gal−PEG−PLA,[Gal]:[PEG]:[LA]=8.4.:7.6:84mol/mol)およびフルオレセインイソチオシアネート(FITC)−PEG3400−PLA830(FITC−PEG−PLA,[FITC]:[PEG]:[LA]=4:8:88mol/mol)を、チオール−マレイミドカップリング反応によって合成した。
【0061】
FITC−PEG−PLAジブロック共重合体の合成
PLA−NH2
N−Boc−L−アラニノール(alaninol)は、カリウム/ナフタレンを用いて、対応するアルコキシド(N−Boc−L−アラニノール−OK)に変換された。次いで、D,L−ラクチド(2g)は、N−Boc−L−アラニノール−OK(0.35g)を開始剤として、トルエン(2mL)を溶媒として用いて、100℃で12時間重合され、PLA−NHBocを得た。重合は、反応混合物に酢酸を添加することによって停止され、PLA−NHBocはジエチルエーテルから沈殿された。Boc基は、ギ酸(20mL)とCHCl3(20mL)との混合溶媒で処理することによって、PLA−NHBoc(2.1g)から除去された。室温での9時間の処理後、溶液を大量のジエチルエーテル中に注ぎ、沈殿を得た。沈殿を室温で真空乾燥した。その後、生成物(1.5g)を、トリエチルアミン(20mL)とCHCl3(20mL)との混合溶媒中で、室温で8時間脱プロトン化した。PLA−NH2は、PLA−NHBocと同様の方法で精製された。
【0062】
PLA−SH
チオール化されたPLAは、スルヒドリル部分を付加することによる、PLA−NH2の一級アミノ基の共有結合修飾によって合成された。合成には、PLA−NH2(2g)をアセトニトリル(10mL)に溶解させ、次いで、過剰の2−イミノチオラン塩酸塩(0.458g)と、室温で15時間反応させた。未反応の2−イミノチオランは、5mM HCl溶液、次いで1mM HCl溶液に対する、各24時間の繰り返しの透析によって除去された。精製されたPLA−SHは、真空乾燥された。
【0063】
マレイミド−PEG−NH2
ジメチルスルホキシド(DMSO)(10mL)中のN−メトキシカルボニルマレイミド(0.2g)の一定量を、室温でポリエチレンビス(アミン)(1g)の水溶液に添加した。混合物を6時間反応させた。反応後、得られたマレイミド−PEG−NH2を、ジクロロメタンおよびメタノールの混合溶媒(1/1 vol/vol)から−20℃で再結晶することによって精製した。
【0064】
PLA−PEG−NH2
PLA−SH(0.8g)を0.1Mのトリス/アセトニトリル(1/3 v/v)(aq,pH6.5,0.5M NaOH溶液で調整)(15mL)に溶解させ、次いでマレイミド−PEG−NH2(2g)のトリス溶液(10mL)に添加した。反応混合物を振とうし、室温で6時間持続させた。反応後、生成物を、セルロース膜の袋(分子量カットオフ6000−8000;SpectrumLabs,Inc.から入手)を用いてPBSおよびMilli−Q水に対して透析して精製し、次いで凍結乾燥システム(Heto−Holten A/S,Denmark)で凍結し、乾燥生成物を得た。乾燥生成物をジクロロメタンに溶解させ、ジエチルエーテルから沈殿させて未反応のPLA−SHを除去した。NH2−PEG−PLAは真空下で得られた。
【0065】
FITC−PEG−PLA
NH2−PEG−PLA(1g)をメタノール(40mL)に溶解させ、次いでフルオレセインイソチオシアネート(FITC)(0.15g)を添加した。混合物を室温で24時間撹拌した。次いで、反応混合物を0.5M NaCl溶液に対して透析し、その後Milli−Q水に対して2日間透析し、溶媒のメタノールおよび未反応の低分子を除去した。乾燥FITC−PEG−PLA生成物を凍結乾燥システムによって得た。
【0066】
Gal−PEG−PLA ジブロック共重合体の合成
Gal−マレイミド
ジメチルスルホキシド(DMSO)(10mL)中の一定量のN−メトキシカルボニルマレイミド(0.68g)を、ガラクトサミン塩酸塩(0.5g)水溶液に室温で添加した。混合物を6時間反応させた。得られたGal−マレイミドをジエチルエーテルからの沈殿によって精製した。
【0067】
PLA−PEG−SH
チオール化されたPLAは、スルヒドリル部分の付加によってPLA−PEG−NH2から合成された。合成として、PLA−PEG−NH2(1g)をアセトニトリル(15mL)に溶解させ、過剰の2−イミノチオラン塩酸塩(0.1g)と室温で15時間反応させた。未反応の2−イミノチオランは、5mM HCl溶液、次いで1mM HCl溶液に対する24時間の繰り返しの透析によって除去された。Milli−Q水は3時間ごとに交換された。精製されたPLA−PEG−SHは真空乾燥された。
【0068】
Gal−PEG−PLA
PLA−PEG−SH(1g)をメタノール(15mL)に溶解し、次いでGal−マレイミド(0.1g)を添加した。混合物を室温で24時間撹拌した。次いで、反応混合物を0.5M NaCl溶液に対して透析し、その後Milli−Q水に対して2日間透析し、溶媒のメタノールおよび未反応の低分子を除去した。乾燥したGal−PEG−PLA生成物は凍結乾燥システムによって得られた。
【0069】
実施例5
Doxを組み込んだ多機能ミセルを透析法を用いて調製した。はじめに、DoxをDMSO/DMF(4/1 v/v)に溶解させた1.2モル過剰のトリエチルアミンで中和した。この混合物を撹拌して薬剤を溶解させた。次いで、50mol%のグラフトI、20mol%のブロックIV、15mol%のGal−PEG−PLAおよび15mol%のFITC−PEG−PLAを薬剤溶液に溶解させた。混合物は、室温で、分子量のカットオフが6000〜8000の膜を用いてMilli−Q水に対して透析された。Milli−Q水は3時間ごとに交換した。凍結乾燥工程によって多機能ミセルを得た。DOXのロード量は、約31重量%であり、これはDMSOに溶解させた多機能ミセルとしてUV/Vis分光光度計で決定された。図7に、酢酸ウラニル(2重量%)で染色したDoxをロードした多機能ミセルのTEMイメージを示す。これらの結果は、コア−シェル構造の完全性を示す。Doxをロードした多機能ミセルの粒子サイズは約160nmであった。上述したように、高分子の血管を横切る移送は、間隙(内皮間接合および内皮転換接合)、カベオラ、小胞状液胞細胞小器官、および開窓を介して生じることが示された。ほとんどの腫瘍の研究におけるポアカットオフサイズは、380〜780nmであった。この実施例のDoxをロードした多機能ミセルは、200nmより小さく、上記の通路を通って浸出する。粒子サイズはまた、PEGがコートされたナノ粒子の器官内分布に有意に影響を与えることが明らかになった。200nmより小さい直径が、脾臓のフィルタリング効果を避けるために要求される。粒子サイズはまた、細胞内移行のメカニズムを決定しうる。大きな粒子(500nmまで)は、受容体およびクラスリン非依存性エンドサイトーシスによって細胞に入るが、小さい粒子(<200nm)は、非特異的なクラスリン依存性過程を通して、コートされたピットを介して内部移行されうる。したがって、本実施例のDoxをロードした多機能ミセルは、生理条件下での典型的な要求されるサイズに近い、約160nmのサイズであった。
【0070】
制御ドラッグデリバリーにおける刺激応答挙動の効果を評価するために、Doxをロードした多機能ミセルのインビトロの薬剤放出挙動が、2つの異なる緩衝液(pH7.4および5.0)中で研究された。図8に結果を示す。中性環境(pH7.4)では、Doxをロードした多機能ミセルは、37℃で、約15重量%を失う初期のバースト効果を示した。放出挙動は140時間後一定に保たれた。酸性環境(pH5.0)では、放出挙動は明らかに2つの期間に分かれた。第1期の速い放出の後、物理的に封入されたインテリジェンスドラッグの担体の、100時間までの長期間にわたる、持続する遅い放出がみられた。初期の速い放出(35重量%)がはじめの2時間で観察され、次いで70重量%の放出プロファイルに達するまで、140時間の持続放出が観察された。図8に示す薬剤放出挙動の結果は、本発明のDoxをロードした多機能ミセルがpH感受性であり、pHの変化がコア構造を変形させてDoxを放出するという特許請求の範囲の記載を裏付ける。
【0071】
Doxを含まない多機能ミセルもまた、FITC−PEG−PLA、Gal−PEG−PLA、ブロックIV(mPEG5000−PLA1750)およびグラフトI共重合体を含む4つの成分で、Doxを用いないことを除いてはDoxをロードした多機能ミセルの調製の手順を繰り返すことによって調製された。多機能ミセル中のグラフト共重合体(グラフトI)は、抗癌剤を封入でき、pHまたは温度の変化に応じて薬剤の放出を制御できる。ミセル中のブロックIVは、コアシェル構造の制御および均一なミセル分布の取得を助ける。ミセル中の蛍光色素が結合したジブロック共重合体であるFITC−PEG−PLAは、細胞取り込み後にミセルが蓄積する位置の直接的な証拠を与えた。一方、照準部位(Gal)が結合したジブロック共重合体であるGal−PEG−PLAは、活性腫瘍照準においてHepG2細胞のアシアログリコプロテインと結合しうる。
【0072】
Doxをロードした多機能ミセルおよび遊離Doxについて、テトラゾリウム色素アッセイ(MTT)法を用いてインビトロの細胞毒性を試験した。Doxをロードした多機能ミセルおよび遊離DoxのMTTを用いた細胞毒性を、HeLa細胞を用いた24時間および72時間のインキュベーションの後で比較した。Doxをロードした多機能ミセルの阻害濃度(IC50)は、24時間で25μg/mLであったが、72時間で4μg/mLに減少した。Doxをロードした多機能ミセルの72時間での細胞毒性は、遊離Dox(IC50=1.2μg/mL)と同等であった。一方、空の多機能ミセルのIC50は、72時間のインキュベーション後、792μg/mLであった。これは、HeLa細胞の細胞毒性は、Doxをロードした多機能ミセルによって放出されたDoxによることを示す。
【0073】
バイオマーカーの応用におけるDoxをロードした多機能ミセルの機能を評価するために、共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)が、Doxをロードした多機能ミセルおよびHeLa細胞の取り込み(6時間のインキュベーション)後の放出されたDoxの蛍光イメージを観察するために用いられた。ほとんどの粒子状の担体のトリガをかけるメカニズムは、エンドソームで生じ、細胞質に薬剤を放出する。CLSM蛍光イメージは、HeLa細胞が細胞質中で、多機能ミセルがそこに位置することを表す、緑色の蛍光を与えることを示す。さらに、赤色の蛍光を伴う放出されたDoxは、細胞質および核に局在した。粒子状の担体が運搬された明瞭な経路が、FITC標識ミセルによって観察された。
【0074】
実施例6
特定の腫瘍照準における多機能ミセルの機能を評価するために、実施例5で調製されたDoxをロードした多機能ミセルおよび実施例2で調製されたDoxをロードした混合ミセルをHepG2(肝細胞癌)細胞とともにインキュベートした。
【0075】
腫瘍照準評価
HepG2細胞(2×104細胞/mL)を、5%CO2の加湿雰囲気中、37℃で、10%のウシ胎仔血清(FBS)を含むDMEM培地の25−Tフラスコにシードした。HepG2細胞を対数増殖期においてインキュベートした後、Doxをロードした多機能ミセルまたはDoxをロードした混合ミセルを、4℃で、2時間で添加した。HepG2細胞をPBS溶液で2回洗浄し、新しい培地を、5%CO2の加湿雰囲気中、37℃での24時間および48時間のインキュベーションのために添加した。実験の最後に、位相差顕微鏡を用いてトリパンブルー染色によって細胞生存率を算出した(ポジティブコントロール)。同様の工程を、ネガティブコントロールとして全工程を37℃で繰り返した。阻害アッセイの実施のためには、ガラクトース(150mM)もまた系に添加することを除いてこの手順を繰り返した。
【0076】
肝細胞は、その表面に、ガラクトース残基を認識する多数のアシアログリコプロテイン受容体を有する。その特異的な配位子−受容体結合のため、Doxをロードした多機能ミセル(照準部分Galを含む)の癌細胞への内部移行は、受容体媒介エンドサイトーシス過程(活性腫瘍照準)によって行われ、リソソームに運搬されうる。Doxをロードした多機能ミセルの、24時間および48時間のインキュベーション後のHepG2細胞の生存率(生存する細胞のパーセンテージ)を、Doxをロードした混合ミセルと比較した。図9は、受容体媒介エンドサイトーシスにおけるミセルの特異的腫瘍照準および非特異的腫瘍照準の効果を示す。ポジティブコントロールについては、細胞をミセルとともに4℃でインキュベートし、2時間、結合(内在化はせず)を生じさせた。その後、これらを新しい培地と交換し、さまざまな時間の長さで37℃に加熱した。ネガティブコントロールとして、細胞をミセルとともに37℃でインキュベートし、ポジティブコントロールと同様の手法を行った。Doxをロードした多機能ミセルは、Galを含まないDoxをロードした混合ミセルよりも、ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールのいずれにおいても、より低い細胞生存率を有した。これは、Doxをロードした多機能ミセルはアシアログリコプロテインに結合し、そして癌細胞に内在化して細胞内pHの変化によってDoxを放出するためである。さらに、37℃で、Doxをロードした多機能ミセルとともにインキュベートしたすべての細胞の生存率は、4℃でインキュベートした細胞のそれよりも低く、エンドサイトーシス過程および大きな蓄積を示唆した。特異的なアシアログリコプロテイン−多機能ミセル相互作用は、阻害アッセイによって検証された。阻害アッセイの結果を図10に示す。150mMのガラクトースを含む細胞のインキュベーションは、ミセルと細胞との結合を完全に破壊し、含まれる過程の糖特異性を示した。
【0077】
実施例5および6から、癌の診断剤および癌のドラッグデリバリーの担体として用いられうる、Doxを封入した多機能ミセルが、透析によって正常に調製されたことがわかる。TEMイメージは、Doxをロードした多機能ミセルが、球形であり、静脈注射に適し、生理条件下で典型的に要求されるサイズに近い、約160nmのサイズであることを明らかにする。腫瘍照準アッセイおよびCLSM測定は、Doxをロードした多機能ミセルが、受容体媒介エンドサイトーシスによって高い細胞毒性を示し、その分布の明瞭な蛍光イメージを示すことを明らかにする。これは、概念立証:すなわち、長い循環時間を有する理想的なミセルの製造、腫瘍認識および組み合わせた癌の診断および癌の治療のための制御ドラッグデリバリー:を示す。FITCの代わりに近赤外色素(例えばCy5.5)と結合した多機能ミセルは、動物モデルに延長されて体内における分布を評価され、さらに癌の治療に延長されうることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1A】本願実施例1で調製した混合ミセルG1B1の平均直径および多分散性指数を、グラフト共重合体グラフトIの濃度(10.0mg/L)を固定してジブロック共重合体ブロックIのモル比の関数として示したプロットである。
【図1B】本願実施例1で調製した混合ミセルG1B1B2の平均直径および多分散性指数を、グラフト共重合体グラフトIの濃度(10.0mg/L)およびジブロック共重合体ブロックIの濃度(5.625mg/L)を固定してジブロック共重合体ブロックIIのモル比の関数として示したプロットである。
【図2】本願実施例1で調製した混合ミセルG1B1B2の透過電子顕微鏡(TEM)イメージである(スケールバーは500nmである)。
【図3】本願実施例1で調製した混合ミセルG1B1B2のピレンの蛍光スペクトルの振動バンドの強度比(I1/I3)を、pH4.0で温度の関数としてプロットした図である。
【図4A】本願実施例1で調製した混合ミセルG1B1B2の、構造変化前のTEMイメージである(スケールバーは200nmである)。
【図4B】本願実施例1で調製した混合ミセルG1B1B2の、構造変化前のTEMイメージである(スケールバーは200nmである)。
【図5】25℃および37℃で、酸性および中性の条件下で、本願実施例2で調製したDoxをロードした混合ミセルから放出されたDoxの量を示す。
【図6】さまざまな濃度の、本願実施例2で調製したDoxをロードした混合ミセル、遊離Dox、およびDoxをロードしたグラフトIミセルで処理したHeLa細胞の増殖阻害を示す。
【図7】本願実施例5で調製したDoxをロードした多機能ミセルのTEMイメージを示す。
【図8】37℃で、酸性(pH5.0)および中性(pH7.4)の条件下で、本願実施例5で調製したDoxをロードした多機能ミセルから放出されたDoxの量を示す。平均±sd(n=3)。
【図9】本願実施例5で調製したDoxをロードした多機能ミセルおよび実施例2で調製したDoxをロードした混合ミセルで処理したHepG2細胞の、ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールにおける24時間後および48時間のインキュベーションの後の増殖阻害を示すプロットである。
【図10】本願実施例5で調製したDoxをロードした多機能ミセルおよび実施例2で調製したDoxをロードした混合ミセルで処理したHepG2細胞の、ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールにおけるインキュベーションアッセイを伴う(150mMのガラクトースの存在下で)24時間後および48時間のインキュベーションの後の増殖阻害を示すプロットである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシェル構造を有する高分子ミセルであって、
前記構造はグラフト高分子およびブロック共重合体を含み、前記グラフト高分子は骨格構造および前記骨格構造に結合する疎水性側鎖を含み、前記ブロック重合体は疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含み、
この際、前記グラフト高分子の疎水性側鎖は凝集しており、前記ブロック共重合体の疎水性重合体セグメントは、グラフト高分子の凝集した疎水性側鎖に、そこから突き出したブロック共重合体の親水性重合体セグメントとともにパッキングされ結合されて疎水性の内部コアおよび親水性の外部シェルを形成し、
前記ブロック共重合体は前記親水性重合体セグメントの末端に結合する末端官能基を有し、前記末端官能基は、腫瘍細胞の表面の受容体、蛍光性基または色素に結合しうる配位子であることを特徴とする、コアシェル構造を有する高分子ミセル。
【請求項2】
前記グラフト高分子の疎水性側鎖および前記ブロック共重合体の疎水性重合体セグメントは、同一の繰り返し単位を含む、請求項1に記載の高分子ミセル。
【請求項3】
前記ブロック共重合体はジブロック共重合体である、請求項1または2に記載の高分子ミセル。
【請求項4】
前記ジブロック共重合体の疎水性重合体セグメントは、500〜2500の数平均分子量を有し、親水性重合体セグメントは、2000〜10000の数平均分子量を有する、請求項3に記載の高分子ミセル。
【請求項5】
前記ジブロック共重合体の疎水性重合体セグメントは、生体再吸収性である、請求項3または4に記載の高分子ミセル。
【請求項6】
前記ジブロック共重合体の疎水性重合体セグメントは、ポリ(エステル)、ポリ(ラクチド)、ポリ(乳酸)、およびポリカプロラクトンから選択される少なくとも1つを含む、請求項5に記載の高分子ミセル。
【請求項7】
前記ジブロック共重合体の疎水性重合体セグメントは、ポリ(ラクチド)である、請求項6に記載の高分子ミセル。
【請求項8】
前記グラフト高分子は、ポリアクリル酸塩、または、pH/イオン強度感受性ポリマーを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の高分子ミセル。
【請求項9】
前記pH/イオン強度感受性ポリマーは、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(ブテン二酸)、ポリヒスチジン、またはポリ(ビニルイミダゾール)である、請求項8に記載の高分子ミセル。
【請求項10】
前記ジブロック共重合体の親水性重合体セグメントは、ポリ(エステル)、ポリ(エチレングリコール)、メトキシ−ポリ(エチレングリコール)、およびポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)から選択される少なくとも1つを含む、請求項3〜9のいずれか1項に記載の高分子ミセル。
【請求項11】
前記ジブロック共重合体は、メトキシ−ポリ(エチレングリコール)−b−ポリ(D,L−ラクチド)である、請求項3〜10のいずれか1項に記載の高分子ミセル。
【請求項12】
前記グラフト高分子の骨格構造は、親水性の第1の繰り返し単位を含み、前記疎水性側鎖は前記第1の繰り返し単位に結合する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の高分子ミセル。
【請求項13】
前記第1の繰り返し単位はカルボキシル基を含み、前記疎水性側鎖は生体再吸収性である、請求項12に記載の高分子ミセル。
【請求項14】
前記グラフト高分子の骨格構造は、ポリアクリル酸塩、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(ブテン二酸)、ポリヒスチジン、およびポリ(ビニルイミダゾール)から選択される少なくとも1つを含む、請求項13に記載の高分子ミセル。
【請求項15】
前記グラフト高分子の骨格構造は、ポリ(メタクリル酸)である、請求項14に記載の高分子ミセル。
【請求項16】
前記疎水性側鎖は、ポリ(ラクチド)、ポリ(乳酸)、またはポリカプロラクトンから選択される少なくとも1つを含む、請求項13〜15のいずれか1項に記載の高分子ミセル。
【請求項17】
前記疎水性側鎖は、ポリ(ラクチド)を含む、請求項16に記載の高分子ミセル。
【請求項18】
前記グラフト高分子の骨格構造は、前記第1の繰り返し単位と異なる第2の繰り返し単位を含み、前記第2の繰り返し単位は、温度変化に応じてコア崩壊を引き起こす、請求項12〜17のいずれか1項に記載の高分子ミセル。
【請求項19】
前記グラフト高分子の骨格構造の前記第2の繰り返し単位は、N−イソプロピルアクリルアミドのモノマーから誘導される、請求項18に記載の高分子ミセル。
【請求項20】
前記グラフト高分子の骨格構造は、N−イソプロピルアクリルアミドおよびメタクリル酸の共重合体である、請求項19に記載の高分子ミセル。
【請求項21】
50〜200nmの直径を有する、請求項1〜20のいずれか1項に記載の高分子ミセル。
【請求項22】
前記末端官能基は、腫瘍細胞の表面の受容体に結合しうる配位子である、請求項1〜21のいずれか1項に記載の高分子ミセル。
【請求項23】
前記配位子は、ガラクトース残基である、請求項22に記載の高分子ミセル。
【請求項24】
前記末端官能基は、蛍光性基である、請求項1〜21のいずれか1項に記載の高分子ミセル。
【請求項25】
前記蛍光性基は、フルオレセインイソチオシアネートである、請求項24に記載の高分子ミセル。
【請求項26】
前記末端官能基は、色素である、請求項1〜21のいずれか1項に記載の高分子ミセル。
【請求項27】
前記色素は、近赤外色素である、請求項26に記載の高分子ミセル。
【請求項28】
前記構造は複数の異なるブロック共重合体を含み、各ブロック共重合体は疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含む、請求項1〜27のいずれか1項に記載の高分子ミセル。
【請求項29】
前記複数の異なるブロック共重合体は、それぞれ、疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含むジブロック共重合体である、請求項28に記載の高分子ミセル。
【請求項30】
前記異なるブロック共重合体の疎水性重合体セグメントは、同一の繰り返し単位を有する、請求項29に記載の高分子ミセル。
【請求項31】
前記異なるブロック共重合体の親水性重合体セグメントは、同一の繰り返し単位を有する、請求項29に記載の高分子ミセル。
【請求項32】
前記異なるブロック共重合体の親水性重合体セグメントは、異なる繰り返し単位を有する、請求項29に記載の高分子ミセル。
【請求項33】
前記複数の異なるブロック共重合体は、前記親水性重合体セグメントの末端に結合する、異なる末端官能基を有する、請求項29に記載の高分子ミセル。
【請求項34】
前記末端官能基の1つは、腫瘍細胞の表面の受容体に結合しうる配位子である、請求項33に記載の高分子ミセル。
【請求項35】
前記末端官能基の1つは、蛍光性基である、請求項33または34に記載の高分子ミセル。
【請求項36】
前記末端官能基の1つは、色素である、請求項33または34に記載の高分子ミセル。
【請求項37】
請求項1〜36のいずれか1項に記載の高分子ミセル、および疎水性内部コアに封入された疎水性の薬剤を含む、薬剤をロードした多機能性ミセル。
【請求項38】
前記疎水性の薬剤がドキソルビシンである、請求項37に記載の薬剤をロードした多機能性ミセル。
【請求項39】
以下の段階;
a)グラフト高分子およびブロック共重合体を有機溶媒に溶解する段階;この際、前記グラフト高分子は骨格構造および前記骨格構造に結合する疎水性側鎖を含み、前記ブロック共重合体は疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含み、この際、前記ブロック共重合体は親水性重合体セグメントの末端に結合する末端官能基を有し、前記末端官能基は腫瘍細胞の表面の受容体、蛍光性基、または色素に結合しうる配位子である;
b)段階a)で得られたポリマー溶液を、水に対して透析処理をし、溶液中の有機溶媒を水で置換する段階;
を含む、請求項1〜36のいずれか1項に記載のコア−シェル構造を有する高分子ミセルの製造方法。
【請求項40】
c)段階b)で得られた水溶液を凍結乾燥して乾燥した高分子ミセルを得る段階;をさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記段階a)において、1以上の異なるブロック共重合体が前記有機溶媒に溶解される、請求項39または40に記載の方法。
【請求項42】
以下の段階;
a)薬剤、グラフト高分子およびブロック共重合体を有機溶媒に溶解する段階;この際、前記グラフト高分子は骨格構造および前記骨格構造に結合する疎水性側鎖を含み、前記ブロック共重合体は疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含み、この際、前記ブロック共重合体は親水性重合体セグメントの末端に結合する末端官能基を有し、前記末端官能基は腫瘍細胞の表面の受容体、蛍光性基、または色素に結合しうる配位子である;
b)段階a)で得られたポリマー溶液を、水に対して透析処理をし、溶液中の有機溶媒を水で置換する段階;
を含む、請求項37または38に記載の薬剤をロードした多機能ミセルの製造方法。
【請求項1】
コアシェル構造を有する高分子ミセルであって、
前記構造はグラフト高分子およびブロック共重合体を含み、前記グラフト高分子は骨格構造および前記骨格構造に結合する疎水性側鎖を含み、前記ブロック重合体は疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含み、
この際、前記グラフト高分子の疎水性側鎖は凝集しており、前記ブロック共重合体の疎水性重合体セグメントは、グラフト高分子の凝集した疎水性側鎖に、そこから突き出したブロック共重合体の親水性重合体セグメントとともにパッキングされ結合されて疎水性の内部コアおよび親水性の外部シェルを形成し、
前記ブロック共重合体は前記親水性重合体セグメントの末端に結合する末端官能基を有し、前記末端官能基は、腫瘍細胞の表面の受容体、蛍光性基または色素に結合しうる配位子であることを特徴とする、コアシェル構造を有する高分子ミセル。
【請求項2】
前記グラフト高分子の疎水性側鎖および前記ブロック共重合体の疎水性重合体セグメントは、同一の繰り返し単位を含む、請求項1に記載の高分子ミセル。
【請求項3】
前記ブロック共重合体はジブロック共重合体である、請求項1または2に記載の高分子ミセル。
【請求項4】
前記ジブロック共重合体の疎水性重合体セグメントは、500〜2500の数平均分子量を有し、親水性重合体セグメントは、2000〜10000の数平均分子量を有する、請求項3に記載の高分子ミセル。
【請求項5】
前記ジブロック共重合体の疎水性重合体セグメントは、生体再吸収性である、請求項3または4に記載の高分子ミセル。
【請求項6】
前記ジブロック共重合体の疎水性重合体セグメントは、ポリ(エステル)、ポリ(ラクチド)、ポリ(乳酸)、およびポリカプロラクトンから選択される少なくとも1つを含む、請求項5に記載の高分子ミセル。
【請求項7】
前記ジブロック共重合体の疎水性重合体セグメントは、ポリ(ラクチド)である、請求項6に記載の高分子ミセル。
【請求項8】
前記グラフト高分子は、ポリアクリル酸塩、または、pH/イオン強度感受性ポリマーを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の高分子ミセル。
【請求項9】
前記pH/イオン強度感受性ポリマーは、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(ブテン二酸)、ポリヒスチジン、またはポリ(ビニルイミダゾール)である、請求項8に記載の高分子ミセル。
【請求項10】
前記ジブロック共重合体の親水性重合体セグメントは、ポリ(エステル)、ポリ(エチレングリコール)、メトキシ−ポリ(エチレングリコール)、およびポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)から選択される少なくとも1つを含む、請求項3〜9のいずれか1項に記載の高分子ミセル。
【請求項11】
前記ジブロック共重合体は、メトキシ−ポリ(エチレングリコール)−b−ポリ(D,L−ラクチド)である、請求項3〜10のいずれか1項に記載の高分子ミセル。
【請求項12】
前記グラフト高分子の骨格構造は、親水性の第1の繰り返し単位を含み、前記疎水性側鎖は前記第1の繰り返し単位に結合する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の高分子ミセル。
【請求項13】
前記第1の繰り返し単位はカルボキシル基を含み、前記疎水性側鎖は生体再吸収性である、請求項12に記載の高分子ミセル。
【請求項14】
前記グラフト高分子の骨格構造は、ポリアクリル酸塩、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(ブテン二酸)、ポリヒスチジン、およびポリ(ビニルイミダゾール)から選択される少なくとも1つを含む、請求項13に記載の高分子ミセル。
【請求項15】
前記グラフト高分子の骨格構造は、ポリ(メタクリル酸)である、請求項14に記載の高分子ミセル。
【請求項16】
前記疎水性側鎖は、ポリ(ラクチド)、ポリ(乳酸)、またはポリカプロラクトンから選択される少なくとも1つを含む、請求項13〜15のいずれか1項に記載の高分子ミセル。
【請求項17】
前記疎水性側鎖は、ポリ(ラクチド)を含む、請求項16に記載の高分子ミセル。
【請求項18】
前記グラフト高分子の骨格構造は、前記第1の繰り返し単位と異なる第2の繰り返し単位を含み、前記第2の繰り返し単位は、温度変化に応じてコア崩壊を引き起こす、請求項12〜17のいずれか1項に記載の高分子ミセル。
【請求項19】
前記グラフト高分子の骨格構造の前記第2の繰り返し単位は、N−イソプロピルアクリルアミドのモノマーから誘導される、請求項18に記載の高分子ミセル。
【請求項20】
前記グラフト高分子の骨格構造は、N−イソプロピルアクリルアミドおよびメタクリル酸の共重合体である、請求項19に記載の高分子ミセル。
【請求項21】
50〜200nmの直径を有する、請求項1〜20のいずれか1項に記載の高分子ミセル。
【請求項22】
前記末端官能基は、腫瘍細胞の表面の受容体に結合しうる配位子である、請求項1〜21のいずれか1項に記載の高分子ミセル。
【請求項23】
前記配位子は、ガラクトース残基である、請求項22に記載の高分子ミセル。
【請求項24】
前記末端官能基は、蛍光性基である、請求項1〜21のいずれか1項に記載の高分子ミセル。
【請求項25】
前記蛍光性基は、フルオレセインイソチオシアネートである、請求項24に記載の高分子ミセル。
【請求項26】
前記末端官能基は、色素である、請求項1〜21のいずれか1項に記載の高分子ミセル。
【請求項27】
前記色素は、近赤外色素である、請求項26に記載の高分子ミセル。
【請求項28】
前記構造は複数の異なるブロック共重合体を含み、各ブロック共重合体は疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含む、請求項1〜27のいずれか1項に記載の高分子ミセル。
【請求項29】
前記複数の異なるブロック共重合体は、それぞれ、疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含むジブロック共重合体である、請求項28に記載の高分子ミセル。
【請求項30】
前記異なるブロック共重合体の疎水性重合体セグメントは、同一の繰り返し単位を有する、請求項29に記載の高分子ミセル。
【請求項31】
前記異なるブロック共重合体の親水性重合体セグメントは、同一の繰り返し単位を有する、請求項29に記載の高分子ミセル。
【請求項32】
前記異なるブロック共重合体の親水性重合体セグメントは、異なる繰り返し単位を有する、請求項29に記載の高分子ミセル。
【請求項33】
前記複数の異なるブロック共重合体は、前記親水性重合体セグメントの末端に結合する、異なる末端官能基を有する、請求項29に記載の高分子ミセル。
【請求項34】
前記末端官能基の1つは、腫瘍細胞の表面の受容体に結合しうる配位子である、請求項33に記載の高分子ミセル。
【請求項35】
前記末端官能基の1つは、蛍光性基である、請求項33または34に記載の高分子ミセル。
【請求項36】
前記末端官能基の1つは、色素である、請求項33または34に記載の高分子ミセル。
【請求項37】
請求項1〜36のいずれか1項に記載の高分子ミセル、および疎水性内部コアに封入された疎水性の薬剤を含む、薬剤をロードした多機能性ミセル。
【請求項38】
前記疎水性の薬剤がドキソルビシンである、請求項37に記載の薬剤をロードした多機能性ミセル。
【請求項39】
以下の段階;
a)グラフト高分子およびブロック共重合体を有機溶媒に溶解する段階;この際、前記グラフト高分子は骨格構造および前記骨格構造に結合する疎水性側鎖を含み、前記ブロック共重合体は疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含み、この際、前記ブロック共重合体は親水性重合体セグメントの末端に結合する末端官能基を有し、前記末端官能基は腫瘍細胞の表面の受容体、蛍光性基、または色素に結合しうる配位子である;
b)段階a)で得られたポリマー溶液を、水に対して透析処理をし、溶液中の有機溶媒を水で置換する段階;
を含む、請求項1〜36のいずれか1項に記載のコア−シェル構造を有する高分子ミセルの製造方法。
【請求項40】
c)段階b)で得られた水溶液を凍結乾燥して乾燥した高分子ミセルを得る段階;をさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記段階a)において、1以上の異なるブロック共重合体が前記有機溶媒に溶解される、請求項39または40に記載の方法。
【請求項42】
以下の段階;
a)薬剤、グラフト高分子およびブロック共重合体を有機溶媒に溶解する段階;この際、前記グラフト高分子は骨格構造および前記骨格構造に結合する疎水性側鎖を含み、前記ブロック共重合体は疎水性重合体セグメントおよび親水性重合体セグメントを含み、この際、前記ブロック共重合体は親水性重合体セグメントの末端に結合する末端官能基を有し、前記末端官能基は腫瘍細胞の表面の受容体、蛍光性基、または色素に結合しうる配位子である;
b)段階a)で得られたポリマー溶液を、水に対して透析処理をし、溶液中の有機溶媒を水で置換する段階;
を含む、請求項37または38に記載の薬剤をロードした多機能ミセルの製造方法。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2009−185261(P2009−185261A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−29548(P2008−29548)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年8月8日 WILEY−VCH Verlag GmbH & Co.KGa発行の「Advanced Functional Materials 2007年 17巻」に発表
【出願人】(501008945)国立清華大学 (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29548(P2008−29548)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年8月8日 WILEY−VCH Verlag GmbH & Co.KGa発行の「Advanced Functional Materials 2007年 17巻」に発表
【出願人】(501008945)国立清華大学 (8)
【Fターム(参考)】
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