説明

グラム陽性球菌検出用培地

【課題】試料中に共存すると考えられる真菌の増殖を抑制しつつ、分離対象とする菌種の増殖を促進することができるグラム陽性球菌の検出用培地およびこの培地を用いてグラム陽性球菌を検出する方法を提供する。
【解決手段】(a)ベンゾイミダゾール系抗菌物質および、(b)βラクタム系抗生物質、を含有することを特徴とするグラム陽性球菌の検出用培地。(a)イマザリルおよび/または5,7-ジクロロ-8-キノリノールおよび、(b)βラクタム系抗生物質、を含有することを特徴とするグラム陽性球菌の検出用培地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラム陽性球菌の検出用培地およびこの培地を用いるグラム陽性球菌の検出法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グラム陽性球菌には、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属細菌、ストレプトコッカス(Streptococcus)属細菌、エンテロコッカス(Enterococcus)属細菌などが含まれ、臨床をはじめとする幅広い分野において重要視されている菌種が数多く含まれる。
【0003】
スタフィロコッカス属細菌は以前はミクロコッカス科(Micrococcaceae)に分類されていたが、現在はバシラス目(Bacillales)スタフィロコッカス科(Staphylococcaceae)に分類されているグラム陽性球菌で、36菌種19亜種が確認されている(非特許文献1、2)。ヒトや動物の皮膚や鼻腔、消化管、その他の粘膜面などに常在している他、自然界に広く分布しており、大部分は非病原性であるが、中にはスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus、以下、黄色ブドウ球菌という。)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis、以下、表皮ブドウ球菌という。)、スタフィロコッカス・サプロフィティクス(Staphylococcus saprophyticus、以下、腐性ブドウ球菌という。)のようにヒトに対する病原性を持つものもある。特に多剤耐性を獲得した黄色ブドウ球菌であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus、以下MRSAという。)は、院内感染の主要な原因菌であり、癌、免疫不全などの疾患、あるいは術後の抵抗力の低下した患者などが感染した場合には重篤な症状を呈することがある。また、表皮ブドウ球菌は、留置血管内カテーテルからの感染で心内膜炎や菌血症の原因となる。MRSAに比べて毒性は高くないが、多剤耐性を獲得したメチシリン耐性表皮ブドウ球菌(Methicillin-Resistant Staphylococcus epidermidis、以下MRSEという。)も確認されている。そのため、これらの菌をより早く、正確に検出することは重要である。
【0004】
黄色ブドウ球菌は臨床分野の他にも、主要な食中毒菌として食品分野において検査頻度が高く、さらに牛や鶏の疾患の原因菌として獣医学分野においても重要視されている。そのため、スタフィロコッカス属細菌の検出は、臨床、食品、環境、動物分野において幅広く実施され、かつ、より短時間で感度良く判定できる方法が望まれている。
【0005】
ストレプトコッカス属細菌の中には、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes、以下、化膿レンサ球菌という。)、ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae、以下、肺炎球菌という。)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス・ソブリナス(Streptococcus sobrinus)などの病原菌が含まれている(非特許文献2)。特に化膿レンサ球菌は、ストレプトコッカス属細菌の中で最も病原性が強く、劇症型溶血性感染症、咽頭炎、扁桃炎、猩紅熱、糸球体腎炎など多くの疾患の起炎菌となる。肺炎球菌、ストレプトコッカス・アガラクティエは、細菌性髄膜炎、敗血症の起炎菌であるが、ペニシリン耐性肺炎球菌(Penicillin-Resistant Streptococcus pneumoniae、以下、PRSPという。)などの薬剤耐性菌は、スタフィロコッカス属細菌の耐性菌と同様に院内感染の原因菌として問題視されている。また、ストレプトコッカス・ミュータンス、ストレプトコッカス・ソブリナスは、う蝕の最も重要な原因菌として知られており、さらに、ストレプトコッカス・アガラクティエは、家畜の乳房炎の起炎菌でもある。そのため、ストレプトコッカス属細菌の検出は、幅広い分野で実施され、かつ、より短時間で感度良く判定できる方法が望まれている。
【0006】
エンテロコッカス属はかつてストレプトコッカス属に含まれていたが、現在ではエンテロコッカス属として独立して分類されている(非特許文献2、3)。ヒトや動物の腸管に常在しており、健常人には病原性を発揮しないが、免疫力の低下した患者などに感染すると、尿路感染症、腹部術後感染症、敗血症、髄膜炎、心内膜炎などを引き起こすため、院内感染の原因菌となる。臨床で分離されるエンテロコッカス属細菌として、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、エンテロコッカス・ガリナラム(Enterococcus gallinarum)、エンテロコッカス・アビウム(Enterococcus avium)などがある。薬剤耐性菌であるバンコマイシン耐性腸球菌(Vancomycin-Resistant Enterococci、以下、VREという。)は、多剤耐性であることが多く、有効な抗生物質が存在しないことが起こりうるため、院内感染の重要な原因菌として世界的に問題視されている。そのため、臨床や環境、食品分野において、エンテロコッカス属細菌を、より短時間で感度良く判定できる方法が望まれている。
【0007】
通常、これらの菌の検出は、マンニット食塩培地、エッグヨーク食塩培地、スタフィロコッカスNo.110培地、羊血液寒天培地、ブレインハートインフュージュン培地などをベースとした選択分離用培地による培養法にて行われる。選択分離用培地は、できるだけ分離対象とする微生物のみが生育できるように工夫された培地の総称で、試料中に共存すると考えられる微生物に対して抑制的に作用し、一方で分離対象とする微生物の生育には影響を与えない抗菌性の化合物を選択剤として添加する。例えばMRSAの場合は、メチシリン感受性菌の増殖を抑制するためにオキサシリン、セフチゾキシム、エリスロマイシンなどの抗生物質を培地に添加し、緑膿菌、枯草菌、真菌などの増殖を抑制するためにポリミキシンB、シノキサシン、アムホテリシンBなどを添加してMRSAの選択分離性を高めている(特許文献1、2、3)。また、B群レンサ球菌とも呼ばれるストレプトコッカス・アガラクティエの場合は、グラム陰性桿菌の増殖を抑制するためにコリスチン、ナリジクス酸、ゲンタマイシンなどの抗生物質を培地に添加して選択分離性を高めている(非特許文献4)。
【0008】
一方、ベンゾイミダゾール系の有機系抗菌物質で、通常、防カビ剤、駆虫薬、農薬などとして使用されているチアベンダゾール(2-(4-チアゾリル)ベンゾイミダゾール)を培地に添加して真菌類の増殖を抑制し、目的とする菌を選択的に培養する方法が開示されている(特許文献4、5)。しかし、ベンゾイミダゾール系抗菌物質やイマザリル(1-[2-(アリルオキシ)-2-(2,4-ジクロロフェニル)エチル]-1H-イミダゾール)、5,7-ジクロロ-8-キノリノールなどによる目的細菌の増殖促進効果に関する報告は行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3298932号公報
【特許文献2】特開2002−034553号公報
【特許文献3】特公平8−013266号公報
【特許文献4】特開昭56−030000号公報
【特許文献5】特開2006−280219号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Bergey's manual of systematic bacteriology second edition,1,2001
【非特許文献2】河村好章,モダンメディア,51(12),313−327,2005
【非特許文献3】谷本弘一ら,モダンメディア,53(6),140−147,2007
【非特許文献4】渋谷理恵ら,感染症学雑誌,83(1),52−55,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、試料中に共存すると考えられる真菌の増殖を抑制しつつ、分離対象とする菌種の増殖を促進することができるグラム陽性球菌の検出用培地およびこの培地を用いてグラム陽性球菌を検出する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記課題を解決するため、種々の選択剤を用いて検討を重ねた結果、ベンゾイミダゾール系抗菌物質とβラクタム系抗生物質を培地に添加することで、試料中に共存すると考えられる真菌の増殖を抑制しつつ、分離対象とするグラム陽性球菌の増殖を促進することができることを新たに見出した。さらに、本発明者は、真菌の増殖を抑制しつつ、分離対象とするグラム陽性球菌の増殖を促進する作用が、イマザリルおよび/または5,7-ジクロロ-8-キノリノールとβラクタム系抗生物質を添加した培地にも認められることを見出して本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下のような構成からなるものである。
(1)(a)ベンゾイミダゾール系抗菌物質および、
(b)βラクタム系抗生物質
を含有することを特徴とするグラム陽性球菌の検出用培地。
(2)(a)イマザリルおよび/または5,7-ジクロロ-8-キノリノールおよび、
(b)βラクタム系抗生物質
を含有することを特徴とするグラム陽性球菌の検出用培地。
(3)ベンゾイミダゾール系抗菌物質がチアベンダゾール、アルベンダゾールおよびフェンベンダゾールから選択されることを特徴とする上記(1)に記載のグラム陽性球菌の検出用培地。
(4)ベンゾイミダゾール系抗菌物質の含有量が5〜5,000mg/Lであることを特徴とする上記(1)または(3)に記載のグラム陽性球菌の検出用培地。
(5)βラクタム系抗生物質の含有量が1〜100mg/Lであることを特徴とする上記(1)から(4)のいずれか1項に記載のグラム陽性球菌の検出用培地。
(6)βラクタム系抗生物質がペニシリン系抗生物質およびセフェム系抗生物質から選択される少なくとも1種類であることを特徴とする上記(1)から(5)のいずれか1項に記載のグラム陽性球菌の検出用培地。
(7)上記(1)から(6)のいずれか1項に記載の培地を用いてグラム陽性球菌を培養する方法。
(8)上記(7)に記載の方法で培養後、グラム陽性球菌を検出する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、抗真菌作用を示すベンゾイミダゾール系抗菌物質、イマザリルおよび/または5,7-ジクロロ-8-キノリノールとβラクタム系抗生物質を培地中に含有させることにより、試料中に共存すると考えられる真菌の増殖を抑制しつつ、グラム陽性球菌の増殖を促進することができる。そのため、従来法に比べ培養開始から結果判定までに要する時間を短縮することが可能となる。本発明のグラム陽性球菌の検出用培地に、MRSA、MSSA(Methicillin-Sensitive Staphylococcus aureus)、MRSE、MSSE(Methicillin-Sensitive Staphylococcus epidermidis)、PRSP、PSSP(Penicillin-Sensitive Streptococcus pneumoniae)、VRE、VSE(Vancomycin- Sensitive Enterococci)などの分離対象とする菌種毎に適した選択剤をさらに添加した各菌種の選択分離用培地は、分離対象菌種のみの増殖が促進され、試料中に少量の菌数しか存在しない場合でも検出可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
真菌の増殖を抑制しつつ、分離対象とするグラム陽性球菌の増殖を促進することができる本発明のグラム陽性球菌検出用培地は、抗真菌物質であるベンゾイミダゾール系抗菌物質、イマザリルおよび/または5,7-ジクロロ-8-キノリノールとβラクタム系抗生物質を培地中に含有させることを特徴とする。実際の培養時は、基礎培地に抗真菌物質(ベンゾイミダゾール系抗菌物質、イマザリルおよび/または5,7-ジクロロ-8-キノリノール)とβラクタム系抗生物質を添加して用いることができる。なお、基礎培地にβラクタム系抗生物質のみを添加した培地による生育状況と比較することにより、抗真菌物質(ベンゾイミダゾール系抗菌物質、イマザリルおよび/または5,7-ジクロロ-8-キノリノール)とβラクタム系抗生物質の併用効果として、増殖促進作用を確認できる。
【0016】
本発明で添加する抗真菌物質は、チアベンダゾール、アルベンダゾール(5-(プロピルチオ)-2-ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル)、フェンベンダゾール(5-(フェニルチオ)-2-ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル)、カルベンダジム(2-ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル)、ベノミル(1-(ブチルカルバモイル)-2-ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル)などのベンゾイミダゾール系抗菌物質、イマザリル、5,7-ジクロロ-8-キノリノールのいずれかを含む少なくとも1種類であれば特に限定されないが、幅広い濃度範囲で増殖促進作用を示すチアベンダゾールが特に好ましい。
【0017】
本発明で添加するベンゾイミダゾール系抗菌物質濃度は、βラクタム系抗生物質と共存することにより、真菌の増殖を抑制しつつグラム陽性球菌の増殖を促進する濃度範囲である。実施例に示した様に、5〜5,000mg/Lの範囲でグラム陽性球菌に対する増殖促進作用が認められていることから、ベンゾイミダゾール系抗菌物質含有量は5〜5,000mg/Lの範囲とすることが好ましい。
【0018】
本発明で添加するβラクタム系抗生物質は、ペニシリン系またはセフェム系の抗生物質であれば特に限定されない。セフェム系抗生物質は、セファロスポリン系、セファマイシン系およびオキサセフェム系からなる抗生物質の総称である。以下の表1にペニシリン系抗生物質、表2にセフェム系抗生物質の具体例を示す。これらの薬剤は通常は塩として流通している。また、後に示す実施例においては、表1および2のカッコ内の略称を使用した。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
本発明で添加するβラクタム系抗生物質濃度は、抗真菌物質と共存することにより、真菌の増殖を抑制しつつグラム陽性球菌の増殖を促進する濃度範囲である。実施例に示した様に、1〜100mg/Lの範囲でグラム陽性球菌に対する増殖促進作用が認められていることから、βラクタム系抗生物質の含有量は1〜100mg/Lの範囲とすることが好ましい。
【0022】
本発明で検出対象となる菌種はグラム陽性球菌であれば特に限定されない。具体例としては黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、腐性ブドウ球菌、スタフィロコッカス・カプラエ(Staphylococcus caprae)、スタフィロコッカス・ヘモリティカス(Staphylococcus haemolyticus)、スタフィロコッカス・カピティス(Staphylococcus capitis)、スタフィロコッカス・スキウリ(Staphylococcus sciuri)などのスタフィロコッカス属細菌、化膿レンサ球菌、ストレプトコッカス・アガラクティエ、ストレプトコッカス・ディスガラクティエ(Streptococcus dysgalactiae)、肺炎球菌、ストレプトコッカス・ミュータンス、ストレプトコッカス・ソブリナス、ストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)、ストレプトコッカス・スイス(Streptococcus suis)などのストレプトコッカス属細菌、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、エンテロコッカス・ガリナラム、エンテロコッカス・アビウム、エンテロコッカス・カセリフラバス(Enterococcus casseliflavus)、エンテロコッカス・ラフィノサス(Enterococcus raffinosus)、エンテロコッカス・デュランス(Enterococcus durans)などのエンテロコッカス属細菌が挙げられる。
【0023】
本発明で用いられる基礎培地は、普通寒天培地、血液寒天培地、マンニット食塩培地、エッグヨーク食塩培地、スタフィロコッカスNo.110培地、羊血液寒天培地、ブレインハートインフュージュン培地などのグラム陽性球菌が生育可能な培地であれば特に限定されない。
【0024】
本発明のグラム陽性球菌検出用培地は、必要に応じて、分離対象とする菌種に適した発色酵素基質、分離対象とする菌以外の増殖を抑制するための選択剤、その他の成分をさらに添加することも可能である。通常、選択分離培地で使用されうる成分の種類、濃度における添加であれば、本発明の作用が影響を受けることはない。
【0025】
本発明で使用される試料は、ヒトまたは動物由来、食品、環境由来などのグラム陽性球菌の存在が疑われるものであれば特に限定されない。
【0026】
本発明の検出用培地の形態は特に限定されない。液体、半流動、固形、シート状などのいずれの形態もとりうるが、検出のしやすさなどの観点から、固形培地が好ましく、より好ましくは平板固形培地の形態である。
固形培地の固化剤としては、寒天、アガロースなど通常使用されているものが挙げられる。
【実施例】
【0027】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
なお、各実施例で使用した供試菌株一覧を以下の表3に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
実施例1.抗真菌作用物質のスクリーニング
抗真菌作用を示す可能性がある物質について、βラクタム系抗生物質であるCFX共存下における、真菌およびMRSAの増殖に及ぼす影響を調べた。
【0030】
(1)培地の準備
以下に示した基礎培地成分を秤量し、精製水に懸濁後、pHを調整し、121℃で15分間高圧滅菌した。
【0031】
【表4】

【0032】
(2)βラクタム系抗生物質および抗真菌作用スクリーニング物質の添加
高圧滅菌後、50℃に冷却した後、CFX、抗真菌作用スクリーニング物質を以下に示す濃度となるように添加した。その後、培地を20mLずつシャーレに分注して固化した。なお、対照としてCFXのみを添加した培地も同様に作製した。
【0033】
【表5】

【0034】
(3)菌の接種と培養
前培養した菌株を滅菌生理食塩水に懸濁し、McFarland No. 1の菌液を作製した。その後、10倍連続希釈液を作製し、100〜10-6希釈の菌液を滴下した。
滴下した菌液が培地に吸収された後、35℃で好気培養を行い、45時間後に判定を行った。
【0035】
(4)結果
各物質の添加濃度ごとの真菌およびMRSAに対する作用の結果を、表6〜10に示す。菌の発育が認められたものを+、認められなかったものを−で示している。
【0036】
【表6】

【0037】
【表7】

【0038】
【表8】

【0039】
【表9】

【0040】
【表10】

【0041】
上記の表に示す様に、すべての抗真菌作用スクリーニング物質で抗真菌作用が認められた。一方、MRSAに対する作用に関しては、イマザリル、 5,7-ジクロロ-8-キノリノール、チアベンダゾールで増殖促進作用が認められた。
【0042】
実施例2.チアベンダゾール濃度範囲の検討
βラクタム系抗生物質であるCFXの濃度を固定して、MRSAに対する増殖促進作用を示すチアベンダゾール添加濃度範囲を調べた。
以下に示す実施例12までのすべてにおいて培地調製、薬剤調製、菌液調製、判定の各操作は実施例1と同様に行った。なお、以下の実施例には、抗真菌作用に関するデータを示さないが、すべての検討において、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)を用いて抗真菌作用があることを確認している。
【0043】
(1)基礎培地成分
実施例1と同様の基礎培地成分に選択剤17mg/Lを添加した。
(2)チアベンダゾールおよびCFXの添加
チアベンダゾールおよびCFXを以下の表11に示す濃度となるように添加した。
【0044】
【表11】

【0045】
(3)結果
24、45時間後の判定結果を以下の表12に示す。
【0046】
【表12】

【0047】
表12に示す様に、MRSAに対して、チアベンダゾール5から5,000mg/Lの濃度範囲まで増殖促進作用が認められた。
【0048】
実施例3.βラクタム系抗生物質濃度範囲の検討
βラクタム系抗生物質としてセファマイシン系のCFXまたはオキサセフェム系のLMOXを使用し、チアベンダゾール共存下で黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌に対する増殖促進作用を示す添加濃度範囲を調べた。
【0049】
(1)基礎培地成分
実施例1と同様の基礎培地成分を用いた。
(2)チアベンダゾールおよびCFX、LMOXの添加
チアベンダゾール、CFX、LMOXを以下の表13に示す濃度となるように添加した。
【0050】
【表13】

【0051】
(3)結果
24、45時間後の判定結果を以下の表14および15に示す。結果は、対照として作製したチアベンダゾール添加なしの培地との比較により示している。
【0052】
【表14】

【0053】
【表15】

【0054】
上記の表に示す様に、チアベンダゾール添加なしの培地との比較により示されるチアベンダゾールとの併用効果はCFX、LMOXとも下限1mg/L、上限100mg/Lで認められた。
【0055】
実施例4.MPIPCまたはCZXとチアベンダゾールの併用効果の検討
βラクタム系抗生物質としてペニシリン系のMPIPCまたはセファロスポリン系のCZXを使用し、チアベンダゾール共存下でMRSA、表皮ブドウ球菌に対する増殖促進作用の検討を行った。
【0056】
(1)基礎培地成分
以下に示した基礎培地成分を用い、121℃で15分間高圧滅菌し、50℃に冷却した後に羊血液を添加した。
【0057】
【表16】

【0058】
(2)チアベンダゾールおよびMPIPC、CZXの添加
チアベンダゾール、MPIPC、CZXを以下の表17に示す濃度となるように添加した。
【0059】
【表17】

【0060】
(3)結果
24、45時間後の判定結果を以下の表18および19に示す。結果は、対照として作製したチアベンダゾール添加なしの培地との比較により示している。
【0061】
【表18】

【0062】
【表19】

【0063】
上記の表に示す様に、チアベンダゾール添加なしの培地との比較により示されるチアベンダゾールとの併用効果がMPIPC、CZXともに認められた。
【0064】
実施例5.スタフィロコッカス属細菌の各菌種に対する作用の検討
MRSA、表皮ブドウ球菌、スタフィロコッカス・カプラエ、スタフィロコッカス・ヘモリティカス、スタフィロコッカス・カピティス、スタフィロコッカス・スキウリに対する増殖促進作用の有無を調べた。
【0065】
(1)基礎培地成分
実施例1と同様の基礎培地成分を用いた。
(2)チアベンダゾールおよびCFXの添加
チアベンダゾール、CFXを以下の表20に示す濃度となるように添加した。
【0066】
【表20】

【0067】
(3)結果
24、45時間後の判定結果を以下の表21〜26に示す。結果は、対照として作製したチアベンダゾール添加なしの培地との比較により示している。
【0068】
【表21】

【0069】
【表22】

【0070】
【表23】

【0071】
【表24】

【0072】
【表25】

【0073】
【表26】

【0074】
上記の表に示す様に、検討したすべての菌種において、チアベンダゾールとβラクタム系抗生物質の併用による増殖促進効果が認められた。
【0075】
実施例6.普通寒天培地を用いた検討
基礎培地として普通寒天培地を用いた場合のMRSAに対する増殖促進作用の有無を調べた。
【0076】
(1)基礎培地の調製
以下に示した普通寒天培地の成分表に従い、基礎培地を調製した。
【0077】
【表27】

【0078】
(2)チアベンダゾールおよびCFXの添加
チアベンダゾールを80mg/L、CFXを5mg/Lとなるように添加した。
【0079】
(3)結果
24、45時間後の判定結果を以下の表28に示す。結果は、対照として作製したチアベンダゾール添加なしの培地との比較により示している。
【0080】
【表28】

【0081】
表28に示す様に、普通寒天培地を基礎培地とした場合も、MRSAに対する増殖促進作用が認められた。
【0082】
実施例7.培養時間短縮の検討
培養時間を16、18、20時間として、チアベンダゾールおよびCFXの添加によるMRSAに対する増殖促進作用を調べた。
【0083】
(1)基礎培地成分
実施例1と同様の基礎培地成分を用いた。
(2)チアベンダゾールおよびCFXの添加
チアベンダゾールおよびCFXを以下の表29に示す濃度となるように添加した。
【0084】
【表29】

【0085】
(3)結果
16、18、20時間後の判定結果を以下の表30に示す。
【0086】
【表30】

【0087】
表30に示す様に、チアベンダゾール2,000mg/Lまでは16時間培養後の判定においても増殖促進作用が認められた。この結果から、本発明の薬剤を添加した培地は、少量の菌数の検出がより短時間で可能となることが示唆された。
【0088】
実施例8.CFXとアルベンダゾールの併用効果の検討
ベンゾイミダゾール系抗菌物質としてアルベンダゾールを使用し、CFXの共存下でMRSAに対する増殖促進作用の検討を行った。
【0089】
(1)基礎培地成分
実施例1と同様の基礎培地成分を用いた。
(2)アルベンダゾールおよびCFXの添加
アルベンダゾール(ABZ)を80mg/L、CFXを5mg/Lとなるように添加した。
【0090】
(3)結果
24、45時間後の判定結果を以下の表31に示す。結果は、対照として作製したアルベンダゾール添加なしの培地との比較により示している。
【0091】
【表31】

【0092】
表31に示す様に、ベンゾイミダゾール系抗菌物質としてアルベンダゾールを使用した場合も、CFXとの併用によるMRSAに対する増殖促進作用が認められた。
【0093】
実施例9.CFXとフェンベンダゾールの併用効果の検討
ベンゾイミダゾール系抗菌物質としてフェンベンダゾールを使用し、CFXの共存下でMRSAに対する増殖促進作用の検討を行った。
【0094】
(1)基礎培地成分
実施例1と同様の基礎培地成分を用いた。
(2)フェンベンダゾールおよびCFXの添加
フェンベンダゾール(FBZ)を80mg/L、CFXを5mg/Lとなるように添加した。
【0095】
(3)結果
24、45時間後の判定結果を以下の表32に示す。結果は、対照として作製したフェンベンダゾール添加なしの培地との比較により示している。
【0096】
【表32】

【0097】
表32に示す様に、ベンゾイミダゾール系抗菌物質としてフェンベンダゾールを使用した場合も、CFXとの併用によるMRSAに対する増殖促進作用が認められた。
【0098】
実施例10.ストレプトコッカス属細菌の各菌種に対する作用の検討
チアベンダゾールとβラクタム系抗生物質の併用による化膿レンサ球菌、ストレプトコッカス・アガラクティエ、肺炎球菌に対する増殖促進作用の有無を調べた。
【0099】
(1)基礎培地成分
実施例4と同様の基礎培地成分を用いた。
(2)チアベンダゾールおよびCFX、LMOXの添加
チアベンダゾール、CFX、LMOXを以下の表33に示す濃度となるように添加した。
【0100】
【表33】

【0101】
(3)結果
24、45時間後の判定結果を以下の表34〜36に示す。結果は、対照として作製したチアベンダゾール添加なしの培地との比較により示している。
【0102】
【表34】

【0103】
【表35】

【0104】
【表36】

【0105】
上記の表に示す様に、検討したすべての菌種において、チアベンダゾールとβラクタム系抗生物質の併用による増殖促進効果が認められた。
【0106】
実施例11.CFXとアルベンダゾールの併用効果の検討
ベンゾイミダゾール系抗菌物質としてアルベンダゾールを使用し、CFXの共存下でストレプトコッカス・アガラクティエに対する増殖促進作用の検討を行った。
【0107】
(1)基礎培地成分
実施例4と同様の基礎培地成分を用いた。
(2)アルベンダゾールおよびCFXの添加
アルベンダゾールを80mg/L、CFXを3mg/Lとなるように添加した。
【0108】
(3)結果
24、45時間後の判定結果を以下の表37に示す。結果は、対照として作製したアルベンダゾール添加なしの培地との比較により示している。
【0109】
【表37】

【0110】
表37に示す様に、ベンゾイミダゾール系抗菌物質としてアルベンダゾールを使用した場合も、CFXとの併用によるストレプトコッカス・アガラクティエに対する増殖促進作用が認められた。
【0111】
実施例12.CFXとフェンベンダゾールの併用効果の検討
ベンゾイミダゾール系抗菌物質としてフェンベンダゾールを使用し、CFXの共存下でストレプトコッカス・アガラクティエに対する増殖促進作用の検討を行った。
【0112】
(1)基礎培地成分
実施例4と同様の基礎培地成分を用いた。
(2)フェンベンダゾールおよびCFXの添加
フェンベンダゾールを80mg/L、CFXを3mg/Lとなるように添加した。
【0113】
(3)結果
24、45時間後の判定結果を以下の表38に示す。結果は、対照として作製したフェンベンダゾール添加なしの培地との比較により示している。
【0114】
【表38】

【0115】
表38に示す様に、ベンゾイミダゾール系抗菌物質としてフェンベンダゾールを使用した場合も、CFXとの併用によるストレプトコッカス・アガラクティエに対する増殖促進作用が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明によるグラム陽性球菌検出用培地は、抗真菌作用を示すベンゾイミダゾール系抗菌物質、イマザリルおよび/または5,7-ジクロロ-8-キノリノールとβラクタム系抗生物質を培地中に含有させることにより、試料中に共存すると考えられる真菌の増殖を抑制しつつ、グラム陽性球菌の増殖を促進することができ、従来法に比べ培養開始から結果判定までに要する時間を短縮することが可能である。そのため、臨床をはじめ、食品、環境、動物などの幅広い分野において、各種のグラム陽性球菌の検出に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ベンゾイミダゾール系抗菌物質および、
(b)βラクタム系抗生物質
を含有することを特徴とするグラム陽性球菌の検出用培地。
【請求項2】
(a)イマザリルおよび/または5,7-ジクロロ-8-キノリノールおよび、
(b)βラクタム系抗生物質
を含有することを特徴とするグラム陽性球菌の検出用培地。
【請求項3】
ベンゾイミダゾール系抗菌物質がチアベンダゾール、アルベンダゾールおよびフェンベンダゾールから選択されることを特徴とする請求項1に記載のグラム陽性球菌の検出用培地。
【請求項4】
ベンゾイミダゾール系抗菌物質の含有量が5〜5,000mg/Lであることを特徴とする請求項1または3に記載のグラム陽性球菌の検出用培地。
【請求項5】
βラクタム系抗生物質の含有量が1〜100mg/Lであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のグラム陽性球菌の検出用培地。
【請求項6】
βラクタム系抗生物質がペニシリン系抗生物質およびセフェム系抗生物質から選択される少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のグラム陽性球菌の検出用培地。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の培地を用いてグラム陽性球菌を培養する方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法で培養後、グラム陽性球菌を検出する方法。

【公開番号】特開2009−273460(P2009−273460A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99633(P2009−99633)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000120456)栄研化学株式会社 (67)
【Fターム(参考)】