説明

グラム陽性菌によって引き起こされる状態の治療又は予防方法

敗血症、敗血症ショック、全身性炎症反応症候群(SIRS)、臓器不全又は臓器障害によるSIRS、臓器障害、臓器不全等の状態の治療、防止、及び予防が記載される。これらの状態は、グラム陽性菌の感染に関連している。治療は、リン脂質、中性脂肪、および胆汁酸又は胆汁酸塩を含有する組成物の投与を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、ここにその全体が参考文献として合体される2005年8月29日出願の米国仮特許出願第60/712,075号の優先権を主張するものである。
発明の分野
本発明は、グラム陽性菌感染症の治療に関する。詳しくは、器官からグラム陽性毒素を中和/除去するように作用する種々の組成物の投与によるそのような状態の治療、さらに、これらの組成物を利用した予防に関する。もっとも好ましくは、これらの組成物は、コラン酸やコラン酸塩等の胆汁酸又は胆汁酸塩、トリグリセリド等の中性脂肪、ホスファチジルコリン等のリン脂質、を含有し、非限定的に、敗血症、敗血症ショック、全身性炎症反応症候群(SIRS)、臓器不全及び/又は障害によるSIRS、臓器障害、臓器不全等の、グラム陽性菌によって引き起こされる状態の治療又は予防に使用される。
【背景技術】
【0002】
正常な血清は、多様なリポタンパク質粒子を含有し、これらはその密度によって、すなわち、キロミクロン、超低密度リポタンパク質(VLDL)、低密度リポタンパク質(LDL)、高密度リポタンパク質(HDL)、として特徴付けられる。それらは、遊離型、エステル化コレステロール、トリグリセリド、リン脂質、その他いくつかの微量脂質成分、及びタンパク質から成る。VLDLは、体の細胞に、蓄積と使用のためにエネルギーをトリグリセリドとして運搬する。トリグリセリドが送達されると、VLDLはLDLに変換される。LDLは、体内で、細胞にコレステロールと他の脂溶性物質を体内の細胞に運搬し、これに対して、HDLは、余剰又は利用不能な脂質をその排出のために肝臓に運搬する。通常、これらのリポタンパク質は平衡状態であり、脂溶性物質の適切な送達と除去を確保する。異常時には、低HDLによって様々な病状が引き起こされる可能性があり、さらには、他における(in others)二次的な合併症を構成することもある。
【0003】
通常の条件下で、天然のHDLは固体粒子であって、その表面は疎水性コアを取り囲むリン脂質の単層によって被覆されている。アポリポタンパク質A−I及びA−IIは、その表面に、それらのアルファヘリカルドメインの疎水性面の相互作用によって付着する。その新生又は新規分泌形態において、前記粒子は円板形状であり、遊離コレステロールをその二重層内に受け入れる。コレステロールは、レシチン・コレステロール・アシルトランスフェラーゼ(LCAT)の作用によってエステル化され、前記円板の中心へ移動される。このコレステロールエステルの中心への移動は、前記二重層内における空間と溶解性の制限がその原因である。ますます多くのコレステロールがエステル化され中心へと移動するにつれて、前記HDL粒子は、楕円体粒子へと「膨張」する。その後、HDLの「膨張コア」に収集するコレステロールエステルとその他の不水溶性脂質は肝臓によって除去される。
【0004】
Anatharamaiahは、セグレスト(Segrest)ほか, Meth Enzymol. 128: 627〜648 (1986)中で、ペプチド中のアミノ酸が他と相互作用する結果として、「ヘリカルホイール(helical wheels)」を形成する一連のペプチドについて記載している。そのようなヘリカルホイールは、それらの立体配置において無極性面と極性面を提示する。この参考文献は、一般に、これらの粒子中においてペプチドがアポリポタンパク質に置き換わることが可能であることを示している。
【0005】
ジョナス(Jonas)ほか, Meth. Enzym. 128A: 553〜582 (1986)は、HDLに類似の多様な再構成粒子を作り出した。その技術は、標準法(ハッチ(Hatch)ほか, Adv. Lip. Res. 6: 1〜68 (1968); スカヌ(Scanu)ほか, Anal. Biochem. 44: 576〜588 (1971))によってHDLを単離、脱脂してアポHDLタンパク質を得るものである。アポタンパク質は断片化、そして、リン脂質、及びコレステロールとともに、又はそれ無しで再構成が界面活性剤透析を使用してなされる。
【0006】
マッツ(Matz)ほか, J. Biol. Chem. 257 (8): 4535〜4540 (1982)は、アポリポタンパク質A1との、ホスファチジルコリンのミセルについて記載している。前記二つの成分の様々な比率が記載され、そこに記載された方法を使用して他のミセルを作り出すことができることが示唆されている。これらミセルを、酵素基質、又はHDL分子のためのモデルとして使用することも提案されている。しかし、この文献は、これらのミセルのコレステロール除去のための適用に関しては議論しておらず、また、診断又は治療用と、に関する示唆も無い。
【0007】
ウィリアムズ(Williams)ほか, Biochem. & Biophys. Acta 875: 183〜194 (1986)は、血漿にリン脂質リポソームを導入し、それによってアポタンパク質とコレステロールを捕捉することを教示している。リポソームが、イン・ヴィヴォでアポタンパク質を捕捉するとともにコレステロールも捕捉することが開示され、そして、アポタンパク質と作用しそれらを捕捉したリン脂質リポソーム中においてはコレステロールの取り込みが高められることが示唆されている。
【0008】
ウィリアムズ(Williams)ほか, Persp. Biol. & Med. 27(3): 417〜431 (1984)は、コレステロール除去としてのレシチンリポソームについて記載している。この文献は、アポタンパク質を含有するリポソームがそれを含有しないリポソームよりも細胞からコレステロールをイン・ヴィヴォでより効果的に除去することを示すそれ以前の研究をまとめている。それらは、アポタンパク質又はミセルを含有するリポソームのイン・ヴィヴォでの使用については議論しておらず、リポソームを使用するイン・ヴィヴォ作業での注意事項についてなんら忠告していない。
【0009】
米国特許第5,506,218号、第5,344,822号、第5,614,507号、第5,587,366号、第5,674,855号、ここにこれらの全部を参考文献として合体させる、は、ホスファチジルコリン等のリン脂質、トリグリセリド等の天然脂質、コール酸ナトリウム等の、コラン酸又はコラン酸塩等の、胆汁酸、又は胆汁酸塩、を含有する製剤がいかにして、サルモネラ・チフィリウム(S. typhimurium)を介した感染等のグラム陰性菌感染を、リピッドA固定分子「LPS」の不活性化によって防止又は緩和するように作用するかについて記載している。
【0010】
ここに参考文献として合体させる米国特許第5,128,318号において、アポリポタンパク質と会合したHDL、及びと結びついたアポリポタンパク質と、内毒素に結合して不活性化することが可能な脂質の双方を含有する再構築粒子を、毒性を引き起す内毒素を緩和する有効物質として使用することが可能であることが教示された。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
グラム陽性菌感染症の治療を提供する。詳しくは、器官からグラム陽性毒素を中和/除去するように作用する種々の組成物の投与によるそのような状態の治療、さらに、これらの組成物を利用した予防を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
今般、きわめて驚くべきことに、リン脂質を単独、もしくは、中性脂肪、胆汁酸塩、等のその他の物質との組み合わせで、グラム陽性菌感染症を緩和及び/又は予防するための有効物質として使用することが可能であることが見出された。ホスファチジルコリン(以下「PC」)を、単体で、もしくは、スフィンゴ脂質等の他のリン脂質と組み合わせて、アポリポタンパク質やそれらから由来するペプチド等の、ペプチドやタンパク質を実質的に含まない組成物として使用することが特に好ましい。前記組成物が静脈内ボーラスの形態として使用される場合、前記リン脂質に、モノ、ジ、及びトリグリセリド等の中性脂肪を、これら中性脂肪の総量がある一定の重量百分率以下となる限りにおいて、組み合わせてもよい。連続注入による静脈内投与等のその他の投与形態で使用する場合、前記重量百分率はそれほど重要ではないが、それでも望ましいものではある。例えばコール酸ナトリウム等の、コール酸等の、胆汁酸又は胆汁酸塩を、これら他の二つの成分と組み合わせて特に効果の高い製剤を作り出すことができる。
【0013】
本発明の特に好適な実施例は、前記中性脂肪がトリグリセリド、コレステロールエステル、又は、コレステロールエステルとトリグリセリドとの混合物である組成物である。
【0014】
コール酸等の、胆汁酸又は胆汁酸塩の、グラム陽性菌感染症の治療、予防及び/又は防止における有効性、及び/又は、ホスファチジルコリン及び/又はトリグリセリド等の中性脂肪の有効性がここに示される。これらの組成物は、好ましくは上述したような、さらに好ましくはエマルジョン形態の組成物を使用して、非限定的に上述したものを含む状態の治療又は予防に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下の例は、その一態様において、グラム陽性菌によって引き起こされる、敗血症、敗血症ショック、全身性炎症反応症候群(SIRS)、臓器不全/臓器障害によるSIRS、グラム陽性細菌によって引き起こされる臓器不全及び臓器障害の治療又は阻止(prevention)の方法に関する本発明を詳述するものである。
【0016】
これらの例は、更に、例えば、グラム陽性細菌感染症の予防、緩和、阻止、又は治療のために、コラン酸やコラン酸塩等の胆汁酸又は胆汁酸塩のファミリーのメンバーの投与を、リン脂質及び中性脂肪、あるいは、リン脂質のみ、と組み合わせて使用することができることも示している。このように、胆汁酸/胆汁酸塩とリン脂質の一方又は両方を含有する、ペプチド及びタンパク質を含まない組成物をそのような感染症を治療するために使用することができる。コラン酸は、例えば、ここに参考文献として合体させるホフマン(Hofmann), Hepatology 4(5): 4S〜14S (1984)によって記載されている。特に、コラン酸の構造的特徴を示す、ここに参考文献として合体させるそのページ5S、図1及び図2に注目。
【0017】
治療対象体は、好ましくは人間であるが、本発明の実施は獣医療においても同様に適用可能である。
【0018】
ここで「緩和」とは、グラム陽性菌(例えば、バチルス・スブチリス(B. subtilis))によって作り出された種々の毒素によって引き起こされる感染症の負担を軽減するための治療を言う。予防は、対象体が、グラム陽性菌に対する曝露があるかもしれない状況にある、又は状況に入ろうとする時点で前記薬剤を投与することによって達成することができる。古典的に、これは、外科手術中に起こる。したがって、外科処置をこれから受けようとしている対象体に、その処置に対する準備として前記活性成分を投与させることができる。
【0019】
対象体の治療のために必要なリン脂質と胆汁酸との組み合わせの有効量はさまざまなものとなりうる。一般に、対象体の体重キログラム当たり約200mg〜約800mgの総投与量が好ましい。ただし、その量は、その感染症の重度、又は、予防の観点からのリスク度に応じて増減可能である。コラン酸やそれらの塩等の胆汁酸又は胆汁酸塩については、体重当たり約10mg〜約300mg/kg、より好ましくは、体重のkg当たり15mg〜約275mgの投与量が使用される。
【0020】
前記胆汁酸/胆汁酸塩及びリン脂質を、更に中性脂肪も含有する組成物として投与することが望ましいが、これは必ずしも必要ではなく、リン脂質の中性脂肪を含まないエマルジョンも可能である。 リン脂質を中性脂肪と組み合わせて投与することが望ましい理由は、中性脂肪とリン脂質がリポタンパク質に類似するが、リポタンパク質中には勿論必ず存在するタンパク質やペプチド成分は含まない点でリポタンパク質と異なる粒子へと結合するからである。
【0021】
治療の特に好ましい形態は、前記リン脂質が、卵黄ホスファチジルコリンや大豆系ホスファチジルコリン又はスフィンゴ脂質等のホスファチジルコリンである。前記胆汁酸/胆汁酸塩については、好適であるのは、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム等のコラン酸及び/又はその塩である。前記中性脂肪については、コレステロールエステルやトリグリセリドを使用することが好ましいが、スクアレン又は他の炭化水素油、ジ及びモノグリセリド及びビタミンE等の抗酸化物質も使用可能である。
【0022】
前記組成物の投与形態は様々なものとすることができるが、ボーラス又はその他の静脈内形態が特に好ましい。ボーラス形態が使用され、前記組成物が例えばトリグリセリドを含有している場合は、その投与においてある種の注意が必要である。トリグリセリドは、特に大量に投与された場合、毒性であることはよく知られている。しかし、当業者は、トリグリセリド中毒のリスクが減少又は除去されるように前記組成物を容易に調合することが可能である。一般に、ボーラス形態が使用される場合、前記組成物は、トリグリセリド又はその他の中性脂肪を、約80重量%、好ましくは、70重量%以上含むべきではない。より好ましくは、前記組成物は、ボーラスで投与される時、中性脂肪を約50重量%以下含有する。
【0023】
他の静脈内形態等の、非ボーラス形態が使用される場合、中毒のリスクは減少する。それでも、静脈内又はその他の投与形態の場合、上に規定した範囲が好適ではある。ただし、それらは必ずしも必須ではないことが理解される。好ましくは、体重kg当たり最大200mgの胆汁酸/胆汁酸塩又はリン脂質が投与される。最大約800mg/kgの投与も実施可能である。ただし、投与量は一般的なものであり、対象体及び投与形態に応じて変化するであろう。
【0024】
上述したように、前記タンパク質及びペプチドを含まない製剤は少なくとも一種類のリン脂質又は胆汁酸/胆汁酸塩が含まれていることを要件とする。リン脂質に関しては、トリグリセリド、ジグリセリド、又はモノグリセリド等の中性脂肪が含まれていることが好ましい。前記組成物は、更に、ステロール(例えば、コレステロール、ベータ-シトステロール)、エステル化又は非エステル化脂質(例えば、コレステロールエステル又は非エステル化コレステロール)、スクアレン等の炭化水素油、ビタミンE等の抗酸化物質等のその他の物質を含むものであってもよい。ただし、それらは必須ではない。勿論、そのようないかなる製剤中においても一種類以上のリン脂質及び/又は一種類以上の中性脂肪が使用されてもよい。中性脂肪とリン脂質との組み合わせが使用される場合、中性脂肪はその組成物中の脂質の総量の約3重量%〜約50重量%含まれるべきである。
【0025】
前記胆汁酸/胆汁酸塩の場合、これらは、別々に、又は、リン脂質、中性脂肪、あるいはこれらの両方との組み合わせで使用することができる。これらの追加物質(例えば、リン脂質と中性脂肪)に関して、その好適な種類は上述したものである。オプションとしての追加成分は上述したものを含む。
【0026】
上述したこれらの状態等の細菌による感染に関連する特定の病状の治療における組成物の利用も本発明の一部を構成するものである。これらの組成物は、好ましくは、重量%で、約5%〜約30%の胆汁酸/胆汁酸塩と、約3%〜約50%の中性脂肪と、約10%〜約95%のリン脂質とを含有し、タンパク質とペプチドとは含まない。好ましくは、これら組成物は、エマルジョン形態である。特に好適であるのは、約10〜15重量%の胆汁酸/胆汁酸塩と、約5重量%〜約10重量%の中性脂肪とを含有し、その組成物のバランスがリン脂質である組成物である。ここで、「タンパク質及びペプチドを含まない」という文言は、ここに記載したもののような状態を治療又は阻止するために十分なタンパク質、又はペプチド、又は双方を含有していないが、残渣(residual)の不十分な量のタンパク質又はペプチドは含むことは可能な組成物をいう。
【0027】
尚、これらの重量%は三つの成分から成る組成物に対するものであることが銘記される。前記三成分系が、例えば、キャリア、アジュバント、又は、上述したもののような任意の成分と組み合わされる場合は、その組成物全体に対する重量百分率は低下するが、各成分の互いに対する比率は変わらない。また、そのような治療用組成物は常に、実質的にタンパク質を含まず、そしてペプチドを含まないことが銘記される。
【0028】
胆汁又は胆汁塩を含有しない組成物の場合、そのようなタンパク質を含まない、ペプチドを含まない組成物は、好ましくは、少なくとも約3重量%で最大約50%の中性脂肪を含有し、そのバランスは少なくとも一種類のリン脂質である。好ましくは、前記中性脂肪は、トリグリセリドであるが、それは上述した他の中性脂肪のいずれであってもよい。更に、前記リン脂質は好ましくはホスファチジルコリンである。
【0029】
本発明の前記組成物は、非限定的に、敗血症、敗血症ショック症候群、全身性炎症反応症候群(SIRS)、臓器不全又は臓器障害によるSIRS、臓器障害、臓器不全及び/又は、グラム陽性菌によって引き起こされる臓器不全を含む、グラム陽性菌によって引き起こされる状態の治療又は阻止に有効である。
【0030】
本発明のその他の態様は当業者にとって明らかであろうからここでは繰り返す必要がない。
【0031】
尚、この明細書及び実施例は本発明を例示するものであって限定するものではなく、本発明の要旨及び範囲内においてその他の実施例も当業者にとっては自明であろうと理解される。
【0032】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0033】
好適実施例の詳細説明
下記の例において、ホスファチジルコリン、トリグリセリド、及びコール酸ナトリウムを含有するエマルジョンが血液からグラム陽性菌毒素を除去するのに有効であることが判った。
【0034】
エマルジョンを、ホスファチジルコリン(以下、「PC」と称す)を99.7mg/ml、18mMのコール酸ナトリウム、及びトリグリセリド(TG)を、グリセロールの水溶液(2.6%)中、前記エマルジョン中において総脂質重量の7.5%となる量の溶液を含んで調製した。
【0035】
コントロールとして、2.6%のグリセロール溶液を使用した。
【0036】
前記エマルジョンと前記対照とを1:10に希釈し、これらを50%希釈でEDTA処理全血のテスト溶液に添加し、これに、バチルス・スブチリス(B. subtilis)から得たリポテイコ酸(lipoteicholic acid:「LTA」)の5mg/ml溶液の種々の希釈物を添加した。
【0037】
前記サンプルを混合し、37℃4時間インキュベートし、その後、それらを氷上で急冷した。サンプルを遠心分離し(1000 RPM,2000xg)、標準市販ELISAを使用して、血漿腫瘍壊死因子(「TNF」)を測定した。
【0038】
表1(エマルジョン)と表2(コントロール)とに提示するその結果は、前記エマルジョンが血液から毒素を除去するのに有効であることを示している。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

以下の例は、その一態様において、グラム陽性菌によって引き起こされる、敗血症、敗血症ショック、全身性炎症反応症候群(SIRS)、臓器不全/臓器障害によるSIRS、グラム陽性細菌によって引き起こされる臓器不全及び臓器障害の治療又は阻止(prevention)の方法に関する本発明を詳述するものである。
【0041】
これらの例は、更に、例えば、グラム陽性細菌感染症の予防、緩和、阻止、又は治療のために、コラン酸やコラン酸塩等の胆汁酸又は胆汁酸塩のファミリーのメンバーの投与を、リン脂質及び中性脂肪、あるいは、リン脂質のみ、と組み合わせて使用することができることも示している。このように、胆汁酸/胆汁酸塩とリン脂質の一方又は両方を含有する、ペプチド及びタンパク質を含まない組成物をそのような感染症を治療するために使用することができる。コラン酸は、例えば、ここに参考文献として合体させるホフマン(Hofmann), Hepatology 4(5): 4S〜14S (1984)によって記載されている。特に、コラン酸の構造的特徴を示す、ここに参考文献として合体させるそのページ5S、図1及び図2に注目。
【0042】
治療対象体は、好ましくは人間であるが、本発明の実施は獣医療においても同様に適用可能である。
【0043】
ここで「緩和」とは、グラム陽性菌(例えば、バチルス・スブチリス(B. subtilis))によって作り出された種々の毒素によって引き起こされる感染症の負担を軽減するための治療を言う。予防は、対象体が、グラム陽性菌に対する曝露があるかもしれない状況にある、又は状況に入ろうとする時点で前記薬剤を投与することによって達成することができる。古典的に、これは、外科手術中に起こる。したがって、外科処置をこれから受けようとしている対象体に、その処置に対する準備として前記活性成分を投与させることができる。
【0044】
対象体の治療のために必要なリン脂質と胆汁酸との組み合わせの有効量はさまざまなものとなりうる。一般に、対象体の体重キログラム当たり約200mg〜約800mgの総投与量が好ましい。ただし、その量は、その感染症の重度、又は、予防の観点からのリスク度に応じて増減可能である。コラン酸やそれらの塩等の胆汁酸又は胆汁酸塩については、体重当たり約10mg〜約300mg/kg、より好ましくは、体重のkg当たり15mg〜約275mgの投与量が使用される。
【0045】
前記胆汁酸/胆汁酸塩及びリン脂質を、更に中性脂肪も含有する組成物として投与することが望ましいが、これは必ずしも必要ではなく、リン脂質の中性脂肪を含まないエマルジョンも可能である。 リン脂質を中性脂肪と組み合わせて投与することが望ましい理由は、中性脂肪とリン脂質がリポタンパク質に類似するが、リポタンパク質中には勿論必ず存在するタンパク質やペプチド成分は含まない点でリポタンパク質と異なる粒子へと結合するからである。
【0046】
治療の特に好ましい形態は、前記リン脂質が、卵黄ホスファチジルコリンや大豆系ホスファチジルコリン又はスフィンゴ脂質等のホスファチジルコリンである。前記胆汁酸/胆汁酸塩については、好適であるのは、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム等のコラン酸及び/又はその塩である。前記中性脂肪については、コレステロールエステルやトリグリセリドを使用することが好ましいが、スクアレン又は他の炭化水素油、ジ及びモノグリセリド及びビタミンE等の抗酸化物質も使用可能である。
【0047】
前記組成物の投与形態は様々なものとすることができるが、ボーラス又はその他の静脈内形態が特に好ましい。ボーラス形態が使用され、前記組成物が例えばトリグリセリドを含有している場合は、その投与においてある種の注意が必要である。トリグリセリドは、特に大量に投与された場合、毒性であることはよく知られている。しかし、当業者は、トリグリセリド中毒のリスクが減少又は除去されるように前記組成物を容易に調合することが可能である。一般に、ボーラス形態が使用される場合、前記組成物は、トリグリセリド又はその他の中性脂肪を、約80重量%、好ましくは、70重量%以上含むべきではない。より好ましくは、前記組成物は、ボーラスで投与される時、中性脂肪を約50重量%以下含有する。
【0048】
他の静脈内形態等の、非ボーラス形態が使用される場合、中毒のリスクは減少する。それでも、静脈内又はその他の投与形態の場合、上に規定した範囲が好適ではある。ただし、それらは必ずしも必須ではないことが理解される。好ましくは、体重kg当たり最大200mgの胆汁酸/胆汁酸塩又はリン脂質が投与される。最大約800mg/kgの投与も実施可能である。ただし、投与量は一般的なものであり、対象体及び投与形態に応じて変化するであろう。
【0049】
上述したように、前記タンパク質及びペプチドを含まない製剤は少なくとも一種類のリン脂質又は胆汁酸/胆汁酸塩が含まれていることを要件とする。リン脂質に関しては、トリグリセリド、ジグリセリド、又はモノグリセリド等の中性脂肪が含まれていることが好ましい。前記組成物は、更に、ステロール(例えば、コレステロール、ベータ-シトステロール)、エステル化又は非エステル化脂質(例えば、コレステロールエステル又は非エステル化コレステロール)、スクアレン等の炭化水素油、ビタミンE等の抗酸化物質等のその他の物質を含むものであってもよい。ただし、それらは必須ではない。勿論、そのようないかなる製剤中においても一種類以上のリン脂質及び/又は一種類以上の中性脂肪が使用されてもよい。中性脂肪とリン脂質との組み合わせが使用される場合、中性脂肪はその組成物中の脂質の総量の約3重量%〜約50重量%含まれるべきである。
【0050】
前記胆汁酸/胆汁酸塩の場合、これらは、別々に、又は、リン脂質、中性脂肪、あるいはこれらの両方との組み合わせで使用することができる。これらの追加物質(例えば、リン脂質と中性脂肪)に関して、その好適な種類は上述したものである。オプションとしての追加成分は上述したものを含む。
【0051】
上述したこれらの状態等の細菌による感染に関連する特定の病状の治療における組成物の利用も本発明の一部を構成するものである。これらの組成物は、好ましくは、重量%で、約5%〜約30%の胆汁酸/胆汁酸塩と、約3%〜約50%の中性脂肪と、約10%〜約95%のリン脂質とを含有し、タンパク質とペプチドとは含まない。好ましくは、これら組成物は、エマルジョン形態である。特に好適であるのは、約10〜15重量%の胆汁酸/胆汁酸塩と、約5重量%〜約10重量%の中性脂肪とを含有し、その組成物のバランスがリン脂質である組成物である。ここで、「タンパク質及びペプチドを含まない」という文言は、ここに記載したもののような状態を治療又は阻止するために十分なタンパク質、又はペプチド、又は双方を含有していないが、残渣(residual)の不十分な量のタンパク質又はペプチドは含むことは可能な組成物をいう。
【0052】
尚、これらの重量%は三つの成分から成る組成物に対するものであることが銘記される。前記三成分系が、例えば、キャリア、アジュバント、又は、上述したもののような任意の成分と組み合わされる場合は、その組成物全体に対する重量百分率は低下するが、各成分の互いに対する比率は変わらない。また、そのような治療用組成物は常に、実質的にタンパク質を含まず、そしてペプチドを含まないことが銘記される。
【0053】
胆汁又は胆汁塩を含有しない組成物の場合、そのようなタンパク質を含まない、ペプチドを含まない組成物は、好ましくは、少なくとも約3重量%で最大約50%の中性脂肪を含有し、そのバランスは少なくとも一種類のリン脂質である。好ましくは、前記中性脂肪は、トリグリセリドであるが、それは上述した他の中性脂肪のいずれであってもよい。更に、前記リン脂質は好ましくはホスファチジルコリンである。
【0054】
本発明の前記組成物は、非限定的に、敗血症、敗血症ショック症候群、全身性炎症反応症候群(SIRS)、臓器不全又は臓器障害によるSIRS、臓器障害、臓器不全及び/又は、グラム陽性菌によって引き起こされる臓器不全を含む、グラム陽性菌によって引き起こされる状態の治療又は阻止に有効である。
【0055】
本発明のその他の態様は当業者にとって明らかであろうからここでは繰り返す必要がない。
【0056】
尚、この明細書及び実施例は本発明を例示するものであって限定するものではなく、本発明の要旨及び範囲内においてその他の実施例も当業者にとっては自明であろうと理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
敗血症、敗血症ショック、全身性炎症反応症候群(SIRS)、臓器不全、臓器障害によるSIRS、臓器障害、及び臓器不全から成るグループから選択される、グラム陽性菌によって引き起こされる状態を治療又は阻止する方法であって、それを必要とする対象体に、その対象体の前記状態の治療又は阻止するために十分な量の胆汁酸又は胆汁酸塩及びリン脂質を含有し、かつ有効量のタンパク質を含まず、ペプチドを含まない組成物を、静脈内投与する工程を含む方法。
【請求項2】
前記胆汁酸又は胆汁酸塩が、コラン酸又はコラン酸塩である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リン脂質が、ホスファチジルコリンである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物が、中性脂肪を含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記中性脂肪が、トリグリセリドである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記胆汁酸が、コラン酸である請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記胆汁酸塩が、コール酸塩である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記コール酸塩が、コール酸ナトリウムである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物が、中性脂肪を含む請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記リン脂質がホスファチジルコリンであり、前記中性脂肪がトリグリセリドである請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物を静脈内投与する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記グラム陽性菌が、バチラス・スブチリス(Bacillus subtilis)である請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記グラム陽性菌が、リポテイコ酸(lipoteicholic酸:「LTA」)を産生する請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物が、エマルジョン形態である請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物が、約5〜約30重量%の胆汁酸又は胆汁酸塩と、約3〜約50重量%の中性脂肪と、約10〜約95重量%のリン脂質とを含む請求項4に記載の方法。
【請求項16】
グラム陽性菌による感染症を治療また阻止する方法であって、それを必要とする対象体に、前記対象体の感染症を治療又は阻止するのに十分な量の胆汁酸又は胆汁酸塩及びリン脂質を含有し、かつ有効量のタンパク質を含まず、ペプチドを含まない組成物を、静脈内で投与する工程を含む方法。

【公表番号】特表2009−506120(P2009−506120A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−529172(P2008−529172)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【国際出願番号】PCT/US2006/033581
【国際公開番号】WO2007/027636
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(506076374)セプシキュア、リミテッド、ライアビリティ、カンパニー (1)
【Fターム(参考)】