説明

グリコシドの製造方法

【課題】 色相及び匂いの安定なアルキルグリコシドの製造方法の提供。
【解決手段】 糖と高級アルコールとを反応させるか、又は糖と低級アルコールとを反応させたのち次いで高級アルコールを反応させることにより得られるアルキルグリコシドを含む水溶液をpH8.5以上に維持しながら下記式(I)で表されるアルコールと過酸化水素で脱色した後、更に下記式(II)で表される水素化ホウ素化合物と接触させて残留過酸化水素を分解するアルキルグリコシドの製造方法。
1OH (I)
(式中、R1は炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。)
M(BH4x (II)
(式中、Mはアルカリ金属、Ca、Zn又は(CH34Nであり、Mがアルカリ金属又は(CH34Nの時xは1、MがCa又はZnの時xは2である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコシドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖誘導体界面活性剤である疎水鎖を有するグリコシドは、生分解性の良好な低刺激性界面活性剤であり、しかも、非イオン性界面活性剤であるにもかかわらず、それ自身安定な泡を生成するだけではなく、他の陰イオン性界面活性剤に対して泡安定剤として作用することが知られており、家庭用洗浄基剤として広く用いられている。
【0003】
疎水鎖を有するグリコシド(以下単に「グリコシド」とも言う)は糖類とアルコールとの反応によって製造されるが、製造工程における種々の操作によって色相の劣化が容易に起こる問題があった。特に、実際の商品に配合するにあたって、何ら問題のないレベルの色相良好なグリコシドを得るためには、糖類とアルコールとの反応によって得られたグリコシドを脱色する工程が必要不可欠である。しかしながら、有効な脱色剤として従来知られている過酸化水素を用いてグリコシドの脱色を行った場合には、その保存時において酸敗臭、アルデヒド臭の発生といった匂いの劣化及び色相の経日劣化という新たな問題が発生する。
【0004】
この匂い及び色相の経日劣化という課題に対し、特許文献1では、糖類とアルコールとの反応によって得られたグリコシドの、過酸化水素による脱色の後、水素化ホウ素化合物と接触させる製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−7299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された水素化ホウ素化合物の併用による匂い及び色相の経日劣化、特に匂いの経日劣化に対する抑制効果は十分なものとは言えない。
【0007】
本発明の課題は、色相及び匂いの安定なグリコシドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記過酸化水素によるグリコシド脱色時の問題点を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、グリコシド水溶液のpHを8.5以上に維持しながら特定のアルコールの存在下で過酸化水素により脱色処理した後、更に水素化ホウ素化合物と接触させて残留過酸化水素を分解する処理を行った場合には、得られるグリコシドについて、保存時の色相及び匂いの安定性が著しく改善されることを見出し本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、糖と高級アルコールとを反応させるか、又は糖と低級アルコールとを反応させたのち次いで高級アルコールを反応させることにより得られるグリコシドを含む水溶液をpH8.5以上に維持しながら下記式(I)で表されるアルコールと過酸化水素で脱色した後、更に下記式(II)で表される水素化ホウ素化合物と接触させるグリコシドの製造方法を提供する。
【0010】
1OH (I)
(式中、R1は炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。)
M(BH4x (II)
(式中、Mはアルカリ金属、Ca、Zn又は(CH34Nであり、Mがアルカリ金属又は(CH34Nの時xは1、MがCa又はZnの時xは2である。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、色相及び匂いの安定なアルキルグリコシドの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明におけるグリコシドは周知の合成方法で得られるものであって、糖類と高級アルコールを酸触媒の存在下に直接反応させる方法、あるいは予め糖類を酸触媒の存在下にメタノール、エタノール、プロパノール又はブタノールなどの低級アルコールと反応させ、低級アルキルグリコシドとしたのち高級アルコールと反応させる方法のいずれの方法で得られたものであってもよい。
【0013】
グリコシド合成の原料として用いられる高級アルコールとしては、炭素数6〜18の直鎖若しくは分岐のアルキルアルコール、アルケニルアルコール、アルキルフェノールあるいはこれらに対し、炭素数2〜4のアルキレンオキシドが0〜5モル付加したアルキレンオキシド付加物が挙げられる。
【0014】
グリコシド合成の原料として用いられる糖類としては、単糖類、オリゴ糖類あるいは多糖類が使用される。単糖類の具体例としてはアルドース類、例えばアロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソースなどが挙げられる。オリゴ糖類の具体例としては、マルトース、ラクトース、スクロース、マルトトリオースなどが挙げられる。多糖類の具体例としてはヘミセルロース、イヌリン、デキストリン、デキストラン、キシラン、デンプン、加水分解デンプンなどが挙げられる。この内汎用性の観点から、グルコース、ガラクトースが好ましく、グルコースがより好ましい。
【0015】
グリコシドの合成は、上記の出発物質を用い、触媒、反応温度等の条件については公知の方法に従って行われる(特公昭47−24532号、米国特許第3839318号、欧州特許第092355号等)。
【0016】
本発明の方法により脱色されるグリコシドとしては、特に式(III)で表される化合物が好ましい。
【0017】
2(OR3xy (III)
(式中、R2は炭素数6〜18の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアルキルフェニル基を示し、R3は炭素数2〜4のアルキレン基を表し、Gは炭素数5〜6を有する還元糖からアノマー位水酸基の水素を除いた残基を示し、xはOR3で示されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す0〜5の数であり、yはGで示される還元糖残基の平均縮合度を示す1〜10の数である。)
一般式(III)において、得られるグリコシドの界面活性剤としての性能、及び品質の観点から、R2は直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基若しくはアルケニル基が好ましく、直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基がより好ましく、直鎖のアルキル基が特に好ましい。また前記観点からR2の炭素数は、6〜16が好ましく、8〜14がより好ましい。R3としては前記観点から炭素数2〜3のアルキレン基が好ましく、xは前記観点から0〜3が好ましく、0が特に好ましい。一般式(III)においてGで示される炭素数5〜6を有する還元糖からアノマー位水酸基の水素を除いた残基において炭素数5〜6を有する還元糖としては、上記のグリコシド合成の原料として用いられる糖類に記載した単糖類が挙げられる。この内汎用性の観点から、グルコース、ガラクトースが好ましく、グルコースがより好ましい。得られるグリコシドの界面活性剤としての性能、及び品質の観点から、yとしては1〜5が好ましく、1〜3がより好ましい。
【0018】
本発明において、グリコシドの過酸化水素による脱色は、pHをアルカリ性に維持した系において上記式(I)で表されるアルコールの存在下に行われる。
【0019】
式(I)で表されるアルコールとしては、本発明で得られるグリコシドの匂いを安定化する観点から、エタノール、イソプロピルアルコールが好ましく、エタノールが特に好ましい。これらアルコールの添加量は、保存時の色相及び匂いを安定化する観点から、グリコシドの重量に対し0.1〜30重量%、好ましくは1.0〜20重量%、より好ましくは5.0〜15重量%である。
【0020】
本発明の方法において用いる過酸化水素は、ハンドリング性の観点から通常水溶液の形態で添加する。水溶液中における過酸化水素の濃度は特に限定されないが、1〜80重量%が好ましく、10〜40重量%がより好ましい。用いる過酸化水素の量は、有効分換算でグリコシドに対し好ましくは0.05〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%である。脱色すべきグリコシドは水溶液の形態で用いられ、水溶液中のアルキルグリコシド有効分の濃度は好ましくは15〜75重量%、より好ましくは20〜65重量%である。
【0021】
本発明の方法において、過酸化水素処理を行っている間、グリコシド水溶液のpHは8.5以上であれば高い脱色効果が得られる。過酸化水素処理中、8.5〜12、更には8.5〜10に維持しておくことが好ましい。過酸化水素処理に伴って、グリコシド水溶液のpHは低下するので、系のpHを8.5以上に維持するため、処理中を通じ、適宜、アルカリを添加するとよい。
【0022】
pHの維持には、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属の水酸化物、あるいは炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのようなアルカリ金属の炭酸塩が固体であるいは水溶液の形態で使用される。
【0023】
本発明において、過酸化水素処理は、グリコシド水溶液に式(I)で表されるアルコールを必要量加え、さらにグリコシド水溶液のpHを8.5以上に調整した後、必要量の過酸化水素を加えて、撹拌又は熟成を30分以上、好ましくは30分〜3時間行うことにより行われる。処理温度は、5〜80℃、好ましくは20〜70℃、より好ましくは30〜60℃である。
【0024】
本発明において使用される、式(II)で表される水素化ホウ素化合物としては、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素テトラメチルアンモニウム、水素化ホウ素カルシウムあるいは水素化ホウ素亜鉛などが挙げられるが、入手製の観点から水素化ホウ素ナトリウムが特に好ましい。
【0025】
本発明において使用される式(II)で表される水素化ホウ素化合物は粉末のまま、あるいは水溶液又はアルカリ水溶液の形態で脱色処理を行ったグリコシド水溶液に添加される。添加すべき水素化ホウ素化合物の量は、脱色に使用した過酸化水素に対し0.05〜2モル当量、好ましくは0.3〜1モル当量である。処理温度は10〜80℃、好ましくは20〜50℃である。処理に要する時間は15分間〜5時間、好ましくは30分間〜1時間である。処理を行うpHは7以上、好ましくは7〜12、より好ましくは8〜10であり、必要に応じて水素化ホウ素化合物の添加に先立ち、適切な酸又は塩基を添加することによって調整することができる。ここで酸としては、硫酸、塩酸、パラトルエンスルホン酸、酢酸、乳酸などが挙げられ、塩基としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0026】
水素化ホウ素化合物により残存した過酸化水素の分解を行なった後、必要に応じて系内に残留する過剰の水素化ホウ素化合物を酸によって分解することができる。酸としては、上記の水素化ホウ素化合物の処理の際のpH調整の項で挙げた酸を用いることができる。過剰の水素化ホウ素化合物を含むアルキルグリコシド水溶液に、撹拌下で酸を徐々に添加することによってpHを弱酸性に維持する。水素化ホウ素化合物の分解速度、ならびに本発明で得られるグリコシドの品質の観点からpHは3〜7が好ましく、4〜6がより好ましい。水素化ホウ素化合物の分解に要する時間は約30分間である。
【0027】
分解終了後、必要に応じて適切な塩基、例えば水酸化ナトリウムを加えることによってpHを中性にもどすことができる。
【0028】
以上の処理によってアルキルグリコシド水溶液中の残留過酸化水素を完全に分解することができる。系内に残留する過酸化水素の量は、例えばヨウ素滴定法(日本薬学会編「衛生試験法注解」第192頁、1973年発行)によって容易に測定することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0030】
製造例1
デシルアルコール12000g(77.9mol)、無水グルコース3410g(18.9mol)及びパラトルエンスルホン酸1水和物101g(0.53mol)を、窒素ガスを500ml/minの割合で液中に吹き込みながら、30L反応槽中で加熱撹拌した。95℃まで昇温の後、系内圧力を40mmHgとして脱水反応を開始した。この際、反応混合液中にN2を5L/minで吹き込み、生成する水を効率よく除去する様にした。5時間後、減圧を解除し冷却してNaOH 20gで中和し、130℃、0.4mmHgの蒸留条件(トッピング)で未反応のデシルアルコールを留去し、固形分としてデシルグリコシド4320gと未反応回収デシルアルコールとを分離した。得られたデシルグルコシドのグルコース残基の平均縮合度をNMR測定結果から算出したところ、1.35であった。
【0031】
(NMR測定結果からのグルコース残基の平均縮合度算出法)
以下の条件でNMR測定を行い、得られたスペクトルのグルコースのアノマー位の水素のシグナルの積分値と、デシル基の末端メチル基の水素のシグナルの積分値の比から算出した。
【0032】
(NMR分析条件)
装置:Varian社製 Mercury400BB
分析核:1H(400MHz)
重溶媒:CD3OD
緩和時間:10秒
積算回数:64回

実施例1
製造例1で得られた固形分の一部を水に溶解し、暗赤色のデシルグリコシド50%水溶液を調製した。このデシルグリコシド水溶液400gを45℃まで加熱し、エタノールを20g、3%NaOH水溶液10gを添加してpHを9に調整した後、処理剤A:30%過酸化水素水溶液4gを加えて30分間45℃で撹拌を続けた。この間3%NaOH水溶液を適宜加えることによりpHを8.7〜9.3に維持した。
【0033】
次に処理剤B:水素化ホウ素ナトリウム0.67gを加えて室温(25℃)で30分間撹拌した。5%パラトルエンスルホン酸水溶液を加えてpHを5に調整して30分間撹拌の後、3%NaOH水溶液を加えてpHを7に調整した。
【0034】
実施例2
実施例1においてエタノールの代わりにイソプロピルアルコール20gを用いた以外は同様の処理を行いデシルグリコシド水溶液を得た。
【0035】
比較例1
エタノール添加を行わないこと以外は、実施例1と同じ方法にてデシルグリコシド水溶液を得た。
【0036】
比較例2
水素化ホウ素ナトリウムの代わりに亜硫酸ナトリウム2.2gを用いる以外は、実施例1と全く同じ方法にてデシルグルコシド水溶液を得た。
【0037】
比較例3
エタノール添加せず、かつ水素化ホウ素ナトリウムの代わりに亜硫酸ナトリウム2.2gを用いた以外は、実施例1と全く同じ方法にてデシルグルコシド水溶液を得た。
【0038】
試験例
実施例1−2及び比較例1−3で得られたデシルグリコシド水溶液を、水の添加によりデシルグリコシド含量30%に濃度調整したものを用いて色相(ガードナー値)及び匂いを評価した。評価は、製造直後、並びに空気中、50℃で120時間、240時間保存後のサンプルについて行った。結果を表1に示す。
【0039】
表1において、ガードナー値の低い方が色相が良好であることを示す。尚、匂いは5人のパネラーにより、無臭を0とした10段階評価でスコア付けし、パネラー5人の平均値を示した。ここで、平均値が5以下であれば許容可能な匂いと判断される。
【0040】
【表1】

【0041】
表1から本発明の方法により、色相及び匂いが極めて安定なグリコシドが得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖と高級アルコールとを反応させるか、又は糖と低級アルコールとを反応させたのち次いで高級アルコールを反応させることにより得られるグリコシドを含む水溶液をpH8.5以上に維持しながら下記式(I)で表されるアルコールと過酸化水素で脱色した後、更にpH7以上の条件下で、下記式(II)で表される水素化ホウ素化合物と接触させる、グリコシドの製造方法。
1OH (I)
(式中、R1は炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。)
M(BH4x (II)
(式中、Mはアルカリ金属、Ca、Zn又は(CH34Nであり、Mがアルカリ金属又は(CH34Nの時xは1、MがCa又はZnの時xは2である。)
【請求項2】
グリコシドが下記式(III)で表される化合物である請求項1記載のグリコシドの製造方法。
2(OR3)xy (III)
(式中、R2は炭素数6〜18の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はアルキルフェニル基を示し、R3は炭素数2〜4のアルキレン基を表し、Gは炭素数5〜6を有する還元糖からアノマー位水酸基の水素を除いた残基を示し、xはOR3で示されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す0〜5の数であり、yはGで示される還元糖残基の平均縮合度を示す1〜10の数である。)
【請求項3】
式(I)で表されるアルコールの添加量が、0.1〜30重量%(対グリコシド)である請求項1記載のグリコシドの製造方法。
【請求項4】
式(II)で表される水素化ホウ素化合物が、水素化ホウ素ナトリウムである請求項1記載のグリコシドの製造方法。

【公開番号】特開2011−79790(P2011−79790A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234838(P2009−234838)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】