説明

グリコシド誘導体と非還元性二糖およびその製造法

【課題】活性化剤の存在下で、アノマー水酸基遊離のアルドース誘導体とアルコールとを反応させる効率良くグリコシドを得ること、さらに活性化剤の存在下で、同構造のアノマー水酸基遊離のアルドース誘導体同士を反応させる非還元性二糖を効率良く製造する方法の提供。
【解決手段】マイクロ波を照射させて、アノマー水酸基遊離のアルドース誘導体とアルコールとを活性化剤として、僅か数モルから数十モル%のビスマス(III)トリフラート等の活性化剤を用いることで、温和な条件下で効率良くグリコシドが得られる。同構造のアノマー水酸基遊離のアルドース誘導体同士からは効率良く非還元性二糖が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
グリコシド誘導体と非還元性二糖の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
配糖体(グリコシド)は、医薬、診断薬、農薬、試薬や化粧品として有用な生理活性を持つものが広く見出され、これらの簡便効率的な製造法の開発が望まれている。二つの糖分子がアノマー酸素原子を介してグリコシド結合した非還元性二糖にも、食品添加物、医薬、トレハラーゼ阻害剤や素材という有用な機能が見出されている。
ところで、アノマー水酸基遊離のアルドース誘導体とアルコールからグリコシドを製造することは容易ではなく、糖供与体や糖受容体の反応性を高めるために、反応系内でアルドース誘導体のアノマー水酸基にアシル基を導入する方法(非特許文献1)や、同様に反応系内で糖受容体の反応性を高めるためにアルコールの水酸基をトリメチルシリル化するといった方法(非特許文献2)が報告されているに過ぎない。これらの誘導体に変換するための試薬も必要で、煩雑であると言わざるを得ない。アノマー水酸基遊離のアルドース誘導体とアルコールとを、活性化剤としてビスマス(III)トリフラートを活性化剤に用いたグリコシドの製造法が報告されているが、反応の収率は満足のいくものではない。また、同構造のアノマー水酸基遊離のアルドース誘導体同士からの非還元性二糖製造も困難である(非特許文献3)。
【0003】
本発明は、マイクロ波を照射させて、活性化剤の存在下で、アノマー水酸基遊離のアルドース誘導体とアルコールとを反応させるグリコシドの製造法及び、マイクロ波を照射させて、活性化剤の存在下で、同構造のアノマー水酸基遊離のアルドース誘導体同士を反応させる非還元性二糖の製造法である。
【非特許文献1】J.Inanagaら、「Catalytic O- and S-glycosylation of 1-hydroxy sugars」、Journal of Chemical Society, Chemical Communications, 1993年, 1090ページ.
【非特許文献2】T.Mukaiyamaら、「An efficient glycosidation reaction of 1-hydroxy sugars with various nucleophiles using a catalytic amount of activator and hexamethyldisiloxane」、Synthesis, 1994年, 1368ページ.
【非特許文献3】井上亮ら、「ビスマス(III)トリフラレートを用いた脱水縮合型グリコシル化反応の開発と非還元性二糖合成への応用」、第32回反応と合成の進歩シンポジウム要旨, 2006年, 256ページ.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、活性化剤の存在下で、アノマー水酸基遊離のアルドース誘導体とアルコールとを反応させる効率良くグリコシドを得ること、さらに活性化剤の存在下で、同構造のアノマー水酸基遊離のアルドース誘導体同士を反応させる非還元性二糖を効率良く製造する方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記の事情に鑑み鋭意研究した結果、マイクロ波を照射させて、アノマー水酸基遊離のアルドース誘導体とアルコールとを活性化剤として、僅か数モルから数十モル%のビスマス(III)トリフラート等の活性化剤を用いることで、温和な条件下で効率良くグリコシドが得られることを見出し、さらにマイクロ波を照射させて、活性化剤として、数十モル%のビスマス(III)トリフラート等の活性化剤を用いることで、同構造のアノマー水酸基遊離のアルドース誘導体同士から効率良く非還元性二糖が得られることがわかり、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、マイクロ波を照射させて、活性化剤の存在下で、アノマー水酸基遊離のアルドース誘導体とアルコールとを反応させるグリコシドの製造法及びマイクロ波を照射させて、活性化剤の存在下で、同構造のアノマー水酸基遊離のアルドース誘導体同士を反応させる非還元性二糖の製造法であり、当該化合物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、マイクロ波を照射中、僅か数モルから数十モル%のビスマス(III)トリフラート等の活性化剤の存在下で、アノマー水酸基遊離のアルドース誘導体とアルコールからグリコシドを効率良く製造でき、また、マイクロ波を照射中、数十モル%のビスマス(III)トリフラート等の活性化剤の存在下で、同構造のアノマー水酸基遊離のアルドース誘導体同士から非還元性二糖を効率良く製造することができる。
本発明は、前述した医薬、農薬、化粧品や食品添加物として期待される有用なグリコシドや非還元性二糖を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、マイクロ波を照射させて、活性化剤の存在下で、アノマー水酸基遊離のアルドース誘導体とアルコールとを反応させるグリコシドの製造法及びマイクロ波を照射させて、活性化剤の存在下で、同構造のアノマー水酸基遊離のアルドース誘導体同士を反応させる非還元性二糖の製造法である。
【0008】
本発明の他の原料の一つとして使用されるアルコールは、周知のものを使用できる。
例えば脂肪族アルコール、芳香族アルコール、ステロイドアルコール、グリセロール誘導体、糖誘導体、アミノ酸誘導体等が挙げられる。具体的にはメタノール、エタノール、オクチルアルコール、フェノール、ベシジルアルコール、1,2:3,4-ジ-O-イソプロピリデンガラクトピラノース、3β-コレスタノール、イソプロピリデングリセロール、N-ベシジルオキシカルボニル-L-セリンメチルエステルなどが挙げられる。
また、アルコールとしてアノマー水酸基遊離の糖誘導体を用いれば、非還元性二糖を合成することができる。
【0009】
本発明の他の原料の一つとして使用されるアノマー水酸基遊離のアルドース誘導体は、周知のヘキソース及びペンタオースのものを使用できる。これらアルドース誘導体のアノマー水酸基以外の水酸基は周知の保護基で保護することができる。例えば、アセチル基やベンゾイル基等のアシル型保護基や、メチル基、アリル基やベンジル基等のエーテル型保護基、イソプロピリデン基やベンジリデン基等のアセタール型保護基等を挙げることができる。例えば、2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-グルコピラノース、2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-マンノピラノース、2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-ガラクトピラノース、2,3,4-トリ-O-ベンジル-フコピラノース、2-アジド‐3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-グルコピラノース、3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-ベンジルオキシカルボニルアミノ-2-デオキシ-グルコピラノース、2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-グルコピラノース、2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-マンノピラノース、2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-ガラクトピラノース、2,3,4-トリ-O-アセチル-フコピラノース、3,4,6-トリ-O-アセチル-2-アジド-2-デオキシ-グルコピラノース、3,4,6-トリ-O-アセチル‐2-ベンジルオキシカルボニルアミノ-2-デオキシ-グルコピラノース、2,3,4,6-テトラ-O-ベンゾイル-グルコピラノース、2,3,4,6-テトラ-O-ベンゾイル-マンノピラノース、2,3,4,6-テトラ-O-ベンゾイル-ガラクトピラノース、2,3,4-トリ-O-ベンゾイル-フコピラノース、2-アジド‐3,4,6-トリ-O-ベンゾイル-2-デオキシ-グルコピラノース、3,4,6-トリ-O-ベンゾイル-2-ベンジルオキシカルボニルアミノ-2-デオキシ-グルコピラノース、1,2:3,4-ジ-O-イソプロピリデンガラクトピラノースなどが挙げられる。
【0010】
活性化剤は、周知のルイス酸を使用することができる。周知のルイス酸としては、三フッ化ホウ素、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリルや金属塩としてイッテリビウム、イットリウム、ランタン、スカンジウム、銅、スズ、ジルコニウム等で構成される周知のトリフラート塩およびパークレートを挙げることができるが、特に、ビスマス(III)トリフラートが好ましい。
【0011】
溶媒は、アルコールを除く周知の有機溶媒を使用することができる。例えば、ジエチルエーテル、ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。
【0012】
アルコールのアノマー水酸基遊離のアルドース誘導体に対する使用量については特に制限はない。アルコールはアノマー水酸基遊離のアルドース誘導体に対して過剰に用いることもできるが、通常1〜10当量の範囲である。好ましくは、アルドース誘導体に対して1〜2.0当量で使用する。また逆に、アノマー水酸基遊離のアルドース誘導体をアルコールに対して過剰に用いることが出来るのは言うまでもない。
【0013】
活性剤の使用量についても特に制限はない。通常、アノマー水酸基遊離のアルドース誘導体に対して0.1〜200モル%用いることができるが、好ましくは0.5〜30モル%で使用する。
【0014】
反応温度は特に制限はないが、通常、−20℃〜120℃で行う。好ましくは、室温℃〜80℃の範囲である。反応時間は反応温度、原料の種類等によって異なるが、数十秒から数時間の範囲である。反応中は、マイクロ波を照射させて行うことは言うまでもない。
【0015】
精製は通常の糖の精製に用いる方法で行う。例えば、シリカゲルによる薄層クロマトグラフィーまたはカラムクロマトグラフィー等が挙げられる。
【実施例】
【0016】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、以下の実施例により何等の制限をうけるものではない。
【0017】
[実施例1]
セプタムキャップをした二口ナスフラスコに乾燥剤として無水硫酸カルシウム(Drielite)(約100 mg)とビスマス(III)トリフラート(Bi(OTf)3)(8.0 mg, 0.0122 mmol)に、2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-D-グルコピラノース(66.0 mg, 0.122 mmol)をジクロロメタン(2.5 ml)に溶解して加えて、反応混合物を60分間、マイクロ波を照射しながら撹拌した後に、飽和の重曹水とジクロロメタンを加えて、有機層を抽出した。有機層をNa2SO4で乾燥して、無機物を濾別後、溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。粗生成物を薄層クロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:酢酸エチル=3:1)で単離して、2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-D-グルコピラノシル- 2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-D-グルコピラノシドをオイルとして得た(48.8 mg, 収率75 %)。
三種類の異性体のNMRスペクトル
1H-NMR(600 MHz,CDCl3)
αα: δ = 5.23 (1H, d, J = 3.44 Hz, H-1)
αβ−α: δ = 5.16 (1H, d, J = 3.44 Hz, H-1α)
αβ−β: δ = 4.58 (1H, d, J = 7.56 Hz, H-1β)
ββ: δ = 4.90 (1H, d, J = 8.24Hz, H-1)
13C-NMR(150 MHz,CDCl3)
αα: δ= 94.39(C-1αα)
αβ−α: δ = 99.44(C-1αβ−α)
αβ−β: δ = 104.14(C-1αβ−β)
ββ: δ = 99.29(C-1ββ)
【0018】
[実施例2] Man-Man-Trehalose
セプタムキャップをした二口ナスフラスコに乾燥剤として無水硫酸カルシウム(Drielite)(約100 mg)とビスマス(III)トリフラート(Bi(OTf)3)(8.8 mg, 0.0134 mmol)に、2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-D-マンノピラノース(72.5 mg, 0.134 mmol)をジクロロメタン(2.5 ml)に溶解して加えて、反応混合物を20分間、マイクロ波を照射しながら撹拌した後に、飽和の重曹水とジクロロメタンを加えて、有機層を抽出した。有機層をNa2SO4で乾燥して、無機物を濾別後、溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。粗生成物を薄層クロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:酢酸エチル=3:1)で単離して、2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-D-マンノピラノシル- 2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-D-マンノピラノシドをオイルとして得た(61.4 mg, 収率86 %)。
二種類の異性体のNMRスペクトル
13C-NMR(150 MHz,CDCl3)
αα: δ= 93.30(C-1)
αβ−α or αβ−β: δ = 98.77, 100.27 (C-1αβ−α, C-1αβ−β)
【0019】
[実施例3]
セプタムキャップをした二口ナスフラスコに乾燥剤として無水硫酸カルシウム(Drielite)(約100 mg)とビスマス(III)トリフラート(Bi(OTf)3)(81.8 mg, 0.125 mmol)に、2-アジド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-D-グルコピラノース(59.4 mg, 0.125 mmol)をジクロロメタン(2.5 ml)に溶解して加えて、反応混合物を分間、マイクロ波を照射しながら撹拌した後に、飽和の重曹水とジクロロメタンを加えて、有機層を抽出した。有機層をNa2SO4で乾燥して、無機物を濾別後、溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。粗生成物を薄層クロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:酢酸エチル=3:1)で単離して、2-アジド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-D-グルコピラノシル-2-アジド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-D-グルコピラノシドをオイルとして得た(17.4mg, 収率30%)。
三種類の異性体のNMRスペクトル
13C-NMR(150 MHz,CDCl3)
αα or αβ−α: δ= 93.34, 99.44 (C-1αα, C-1αβ−α)
αβ−β: δ= 104.14(C-1αβ−β)
ββ: δ= 99.29(C-1ββ)
【0020】
[実施例4]
マイクロ波用試験官に乾燥剤として無水硫酸カルシウム(Drielite)(約100 mg)とビスマス(III)トリフラート(Bi(OTf)3)(6.0 mg, 0.00914 mmol)に、フェネチルアルコール(22.4 mg, 0.183 mmol)と 2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-D-グルコピラノース(98.9 mg, 0.183 mmol)をジクロロメタン(2.5 ml)に溶解して加えて、反応混合物を25分間、マイクロ波を照射しながら撹拌した後に、飽和の重曹水と酢酸エチルを加えて、有機層を抽出した。有機層をNa2SO4で乾燥して、無機物を濾別後、溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。粗生成物を薄層クロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:酢酸エチル=3:1)で単離して、フェネチル 2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-D-グルコピラノシドをオイルとして得た(98.2 mg, 収率83 %)。本条件でマイクロ波を用いない時には、収率35 %でフェネチル 2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-D-グルコピラノシドを得た。
二種類の異性体のNMRスペクトル
13C-NMR(150 MHz,CDCl3) α: δ= 96.75 (C-1α)、 β: δ= 103.55 (C-1β)
【0021】
[実施例5]
マイクロ波用試験官に乾燥剤として無水硫酸カルシウム(Drielite)(約100 mg)とビスマス(III)トリフラート(Bi(OTf)3)(6.8 mg, 0.0104 mmol)に、フェネチルアルコール(24.5 mg, 0.201 mmol)と 2-アジド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-D-グルコピラノース(95.2 mg, 0.200 mmol)をジクロロメタン(2.5 ml)に溶解して加えて、反応混合物を40分間、マイクロ波を照射しながら撹拌した後に、飽和の重曹水と酢酸エチルを加えて、有機層を抽出した。有機層をNa2SO4で乾燥して、無機物を濾別後、溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。粗生成物を薄層クロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:酢酸エチル=3:1)で単離して、フェネチル 2-アジド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-D-グルコピラノシドをオイルとして得た(59.5 mg, 収率51 %)。本条件でマイクロ波を用いない時には、反応は全く進行せず、生成物を得られなかった。
13C-NMR(150 MHz,CDCl3)
α: δ = 97.65 (C-1α)
β: δ = 102.08 (C-1β)
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明で製造されるグリコシド誘導体及び非還元性二糖は、医薬、診断薬、農薬、機能性食品添加物、化粧品、トレハラーゼ阻害剤や試薬などの製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波を照射させて、ルイス酸の存在下で、アノマー水酸基遊離のアルドース誘導体とアルコールとを反応させるグリコシドの製造法。
【請求項2】
マイクロ波を照射させて、ルイス酸の存在下で、同構造のアノマー水酸基遊離のアルドース誘導体同士を反応させる非還元性二糖の製造法。
【請求項3】
ルイス酸として、ビスマス(III)トリフラートを用いることを特徴とする請求項1または2記載のグリコシドの製造法。