説明

グリシノニトリルの製造方法

【課題】 グリシノニトリルの製造方法において、中間生産物のグリコロニトリルの反応を効率的に完結せしめ、未反応の青酸及びホルムアルデヒドを残存させることなく、これを原料にする一通反応で第二工程のグリシノニトリル合成反応を行う、工業的に優れた方法を提供する。
【解決手段】 本発明の製造方法では、水溶媒の存在下に、第一工程として、ホルムアルデヒドと青酸からグリコロニトリルを製造し、第二工程として、得られたグリコロニトリル水溶液とアンモニアからグリシノニトリルを製造する。このとき、第一工程の反応器型式として攪拌槽流通方式の青酸吸収槽と液封流通方式管型反応器の組み合わせを用い、触媒としてアルカリ金属の水溶性塩を原料青酸に対する金属としての重量比で50〜600ppm添加し、第二工程の反応器型式として攪拌槽流通方式のアンモニア吸収槽と液封流通方式管型反応器の組み合わせを用いる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、グリシン等のアミノ酸、医薬、農薬の合成原料として有用な化合物であるグリシノニトリルの製造方法、詳しくは、水溶媒の存在下に、第一工程として、ホルムアルデヒドと青酸からグリコロニトリルを製造し、第二工程として、該グリコロニトリルとアンモニアからグリシノニトリルを製造する、一貫した製造方法についての工業的に優れた改良方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】水溶媒の存在下に、ホルムアルデヒドと青酸からホルムアルデヒドシアンヒドリン(グリコロニトリル)を製造する方法は良く知られている。また、水溶媒の存在下にグリコロニトリルとアンモニアからグリシノニトリルを製造する方法も良く知られている。しかしながら、両工程の反応はそれぞれ以下に示す様な問題点があり、両工程を一貫した流通反応にて実施することが提案されている例は無い。
【0003】第一工程であるグリコロニトリル合成反応は、反応系のpHや、反応温度、或いは、反応時間による影響を大きく受けることが知られている。即ち、生成するグリコロニトリルが不安定であり、着色や分解を生じやすい。また、反応が完結せずに未反応の青酸が残存する場合には、青酸の重合による反応液の着色、重合熱による温度上昇の影響から、さらに製品グリコロニトリルの着色や分解を助長することが懸念される。
【0004】上記のグリコロニトリル合成反応の問題に対処する従来技術として、特開昭51−100027号公報には、反応系のpHを1.5〜2.0に調整する際に、二酸化硫黄を用いることにより、グリコロニトリルの着色や分解反応を抑えることができることが開示されている。また、特開昭53−68725号公報には、pHを4〜5に調整し、酸性亜硫酸イオンの存在下に20〜30℃の反応温度で反応を実施することが報告されている。また、特公平7−30004号公報では、触媒量の酢酸ナトリウムの存在下にpH4.8〜6.0、反応温度15〜30℃で反応を実施する方法が報告されている。また、特開平6−135923号公報では、反応系のpH(P)と反応温度(T)の好ましい範囲として、T×Pが155〜240でグリコロニトリル合成反応を実施する方法が報告されている。
【0005】次に、第二工程であるグリシノニトリル合成反応についても、生成する製品グリシノニトリルが不安定であるので、その変質及び着色を抑制するために、反応条件や過剰に用いられるアンモニアとの分離条件、アンモニア回収方法が課題であるとされている。
【0006】グリシノニトリル合成反応の課題を解決するために、特公昭59−28543号公報では、ガス状にて供給されたシアンヒドリンに対して過剰量のアンモニアを水性溶液中で反応させてαアミノニトリルを製造する方法において、該反応を槽型反応器にて攪拌下に行い、得られた反応液をパイプ型反応器に通して反応を実質的に完結せしめる方法が提案されている。また、特公昭56−8023号公報では、グリコロニトリルとアンモニアとを、アンモニア/グリコロニトリルのモル比を5〜20とし、反応器における流れがピストンフローになる様な管型反応器を用い、80〜150℃の温度範囲で反応させる方法が報告されている。また、特許第2642466号公報では、グリコロニトリルとアンモニアからアミノアセトニトリルを製造する方法において、反応系に蟻酸と亜硫酸塩、または、蟻酸と酸性亜硫酸塩を存在させる方法が報告されている。
【0007】しかしながら、上に列挙された方法では、それぞれの工程毎に以下に述べる解決すべき課題があり、第一工程と第二工程を一貫して工業的に実施する上では、従来技術をそのまま用いたのでは不利であるといわざるを得ない。
【0008】第一工程と第二工程を連続して実施する場合には、グリシノニトリル合成の際に、工業的な問題となる副生物として、イミノジアセトニトリル、及び、青酸が重合した着色成分があることが知られている。例えば、特開平4−193854号公報によると、グリコロニトリルに対し化学量論量以下のアンモニアを加えると、グリシノニトリルとグリコロニトリルが反応し、イミノジアセトニトリルが副生することが報告されている。一方、特開平3−86856号公報には、アンモニアとホルムアルデヒドを反応させ、そこへ青酸を作用させることで好ましくイミノジアセトニトリルが合成されると報告されている。即ち、グリコロニトリル合成反応に於いて、未反応のホルムアルデヒドが存在すると後者のパスを経由し、イミノジアセトニトリルが副生し易いことが知られている。
【0009】実際に、第一工程であるグリコロニトリル合成反応における課題として、例えば、特開昭51−100027号公報の方法では、その実施例によれば、攪拌槽反応器2器を用いて反応時間として6時間も掛けながら、青酸の転化率は88.1%に止まり、青酸が多量に残存していることが挙げられる。一方で、青酸過剰で実施しながらもホルムアルデヒドの転化率も89%にしか至らず、未反応の青酸、ホルムアルデヒド共に残存する状況で実施されている。
【0010】特開昭53−68725号公報の方法では、その実施例によれば、反応器についての記載は無いが、反応時間として4時間も掛けながら青酸転化率は96%に止まり、また、青酸基準のグリコロニトリル選択率も92%にしかならない。また、ホルムアルデヒド転化率も97%に止まっており、反応製品中に未反応の青酸、ホルムアルデヒド共に残存することが明らかである。
【0011】特開平6−135923号公報の方法に於いては、反応帯域での温度とpHの関係を規定し、その積を155〜240とすることを提案している。しかし、その実施例によれば、提案される反応温度及びpHにて実施されているにもかかわらず、反応方式が完全混合槽の例のみであり、反応時間として2時間も掛けながら青酸転化率は92%に止まり、また、青酸基準のグリコロニトリル選択率は89%と低いものである。一方、青酸過剰系での実施にも関わらずホルムアルデヒド転化率も94%に止まっており、このことから未反応の青酸及びホルムアルデヒドが残存することが明らかである。また、一貫流通反応でグリシノニトリルを製造する場合に、かかるグリコロニトリルを原料に用いる際の不利については一切記載されていない。
【0012】特公平7−30004号公報に記載の方法では、残留青酸の除去法についても触れられており、青酸が残存する前提で明細書の記述がなされている。しかも、当該明細書には、反応方法についての記述は一切見られず、実施例はバッチ反応例のみである。
【0013】これら第一工程の従来技術では、青酸やや過剰系で実施されているにも拘わらず、工業的に有利である流通反応系での実施の際には、青酸転化率は勿論、ホルムアルデヒド転化率も100%に達しておらず、青酸基準のグリコロニトリル選択率も90%前後に止まっている。このことは、この製品液中には、未反応青酸、ホルムアルデヒド及び青酸転化物(重合物、加水分解物と推察される)が存在することを示唆するものである。
【0014】次に、第二工程では、グリコロニトリルはアンモニアと反応させてグリシノニトリルに転換される。この第二工程の課題としては、例えば、特公昭59−28543号公報の方法では、その実施例によれば、グリコロニトリルの転化率は100%に達するが、グリシノニトリルの収率は93%に止まっていることが挙げられる。しかし、その原因及び不純物に関する記載は無く、原料であるグリコロニトリル水溶液の組成等に関する記載も見られない。
【0015】特公昭56−8023号公報の方法では、その実施例によれば、アンモニア/グリコロニトリルのモル比を15とアンモニア大過剰で実施しながら、逆反応による青酸の副生が3%も認められる。また、グリコロニトリルが1%以上残存しており、グリシノニトリルの収率、選択率は低い。その上、アンモニアが大過剰であるのでアンモニアの回収に不利である。しかも、青酸の存在は、製品液の着色を誘引する大きな問題となる。
【0016】特許第2642466号公報の方法では、その実施例によれば、半回分反応方式の例のみであり、また、グリシノニトリル収率は96%に止まっている。この例においても、その原因、その他不純物に関する記載は無い。
【0017】さて、本発明の様にグリシノニトリルを目的製品とする場合、製品の安定性を考慮すれば、青酸とホルムアルデヒドから生成されるグリコロニトリルを、一通の反応装置にて速やかに、アミノ化反応せしめ、グリシノニトリルに転換すべきである。しかし、上述したような問題があるため、従来の技術のなかには、シアンヒドリン化反応とアミノ化反応を一貫して実施することを検討し、評価した例は無い。
【0018】さらに、第一工程を従来技術に見られる様な攪拌槽流通反応器で実施すると、滞留時間分布が大きく、反応液の過滞留及び反応原料のショートパスは不可避である。そのため、過滞留はグリコロニトリルの分解反応や着色変性が生じ易く工業的に不利であり、一方、原料のショートパスは反応を効率的に完結せしめることを不可能とし、未反応の青酸及びホルムアルデヒドが残存することとなる。従って、従来技術を用いて一通反応で第一工程の製造物を第二工程のアミノ化(グリシノニトリル合成)反応の原料として供給する場合には、不純物の多大な副生を招き、工業的に実施する上で極めて不利であると言わざるを得ない。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】本発明では、第一工程と第二工程を連続して実施することのできるグリシノニトリル製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、上述したような第二工程へ影響を及ぼす第一工程からの副生物を生ずること無く、それぞれの工程でグリコロニトリル及びグリシノニトリルの収率のよい製造方法を提供することを目的とする。
【0020】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、次のようなグリシノニトリルの製造方法を発明するに至った。すなわち、本発明は以下の(1)〜(4)である。
【0021】(1) グリシノニトリルの製造方法であって、水溶媒の存在下に、第一工程として、攪拌槽流通方式の青酸吸収槽と液封流通方式管型反応器の組み合わせを用い、触媒としてアルカリ金属の水溶性塩を、原料青酸に対する金属としての重量比で50〜600ppm添加して、ホルムアルデヒドと青酸からグリコロニトリル溶液を製造し、引き続き第二工程として、攪拌槽流通方式のアンモニア吸収槽と液封流通方式管型反応器の組み合わせを用い、該グリコロニトリル水溶液をそのままアンモニアと反応させグリシノニトリルを製造することを特徴とするグリシノニトリルの製造方法。
【0022】(2) 上記第一工程の液封流通方式管型反応器での平均滞留時間が10〜60分の範囲であり、かつ、当該反応器の反応温度が35〜75℃の範囲であることを特徴とする上記(1)に記載のグリシノニトリルの製造方法。
【0023】(3) 上記アルカリ金属の水溶性塩が、アルカリ金属の水酸化物であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のグリシノニトリルの製造方法。
【0024】(4) 上記第二工程の攪拌槽流通方式のアンモニア吸収槽に於いて、アンモニアがガス状にて供給され、アンモニアのグリコロニトリルに対するモル比が3〜10の範囲であり、反応温度が15〜60℃であること、上記第二工程の液封流通方式の管型反応器での反応温度が40〜70℃であり、反応圧力は溶解するアンモニアが気化しない圧力であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載のグリシノニトリルの製造方法。
【0025】本発明者らの検討によれば、グリシノニトリルを青酸、ホルムアルデヒド及びアンモニアを原料としてシアンヒドリン合成反応、アミノ化反応の二つの工程を一通で実施しようとする場合、第一工程での副生物の問題が、第二工程に大きく影響することが明らかとなった。さらに、本発明者らの検討によれば、第一工程出口製品であるグリコロニトリル水溶液中に特に未反応のホルムアルデヒド及び青酸が共存していると、第二工程でアンモニアと反応させる際に以下に分類するような問題が生じることが分かった。これにより、製品グリシノニトリル収率、ひいては、グリシノニトリルの主たる用途であるグリシン収率が低下することが明らかとなった。
【0026】第一は、イミノジアセトニトリルが副生することである。二級アミンであるイミノジアセトニトリルは、グリコロニトリルとグリシノニトリルから副生するパスと、ホルムアルデヒドとアンモニアからヘキサメチレンテトラミンが生成し、さらに青酸と反応して生成するパスがあり、原料グリコロニトリル水溶液中にホルムアルデヒド及び青酸の少なくとも一方が残存していると、後者のパスにより、イミノジアセトニトリルの副生が増大する。
【0027】第二は、未反応ホルムアルデヒドが、容易にアミンと反応して、メチレングリシノニトリル及びその重合物等、いわゆるシッフ塩基を副生することである。
【0028】第三は、未反応青酸の過剰な残存が青酸の重合を招き、着色性重合物の副生に至り、収率の低下及び製品液の着色が増大することである。
【0029】従来提案されていた青酸とホルムアルデヒドからグリコロニトリルを製造する方法では、反応の完結が不可能であるために、上述したように青酸及びホルムアルデヒドが共に未反応で残存していた。この段階からの反応生成物をそのまま第二工程の原料とするには、上記第一〜第三の問題点が包含されることになる。そのため、従来はグリコロニトリルからグリシノニトリルへの一貫した流通反応方式で製造する方法に関しては注目されていなかったのみならず、第一工程での反応成績の第二工程への多大なる影響について示された例は一切、無かった。
【0030】上記第一〜第三の問題を回避するために、本発明者らは上記(1)〜(4)の製造方法を発明し、簡便なる反応の制御方法で、より短時間にて第一工程での青酸ないしはホルムアルデヒドの完全転化を達成し、従って、過滞留によるグリコロニトリルの副反応を抑制することが可能となった。これにより、高収率、高選択率で、かつ、未反応青酸ないしはホルムアルデヒドの副生が極めて少なく、無着色のグリコロニトリルを第二工程への原料として提供できる。その結果として、第二工程において、グリシノニトリルを高収率、かつ、高純度、無着色で得ることができるようになった。
【0031】本発明の方法で、従来提案されていなかった、反応方式、触媒及びその添加量を規定することにより、まず、高収率、高純度かつ無着色のグリコロニトリルを製造することが可能となった。これにより、このグリコロニトリル反応液をそのまま第二工程であるグリシノニトリル反応器に供給し、イミノジアセトニトリルの副生を著しく抑制することが可能となり、併せて、青酸過剰で実施される場合には、ホルムアルデヒド由来の不純物(シッフ塩基)の副生を抑止し、ホルムアルデヒド過剰で実施する場合には、未反応青酸に起因する着色を著しく抑制することができる。特に、後述するように好ましい条件である等モル量で反応を実施する場合には、上記第一〜第三の問題を全て解決することができる。
【0032】
【発明の実施の形態】以下、本発明について具体的かつ詳細に説明する。まず、本発明における反応原料であるホルムアルデヒドは、通常、ホルマリンとして供給し得る。ホルマリン中には通常、微量の蟻酸が含まれており、そのpHは2.5〜4の範囲である。また、ホルマリン中には通常、安定剤としてメタノールが3〜10wt%含まれているが、本発明においてはこれら不純物及び安定剤を含むものをそのまま用いることができる。
【0033】本発明における反応原料である青酸は、気体、液体、水溶液等任意な形態で供給し得る。工業的に製造される青酸は、一般的に安定剤として、亜硫酸、硫酸等が添加されているが、本発明における青酸は、一般的な安定剤混入品をそのまま用いることができる。第一工程での攪拌槽流通方式の青酸吸収槽にて、ホルマリンに青酸を吸収させても良いし、青酸吸収槽で純水に青酸を吸収させ青酸水溶液としたのち、管型反応器入り口でホルマリンと混合させても良い。
【0034】本発明における青酸とホルムアルデヒドの供給モル比は、通常、青酸に対してホルムアルデヒドが0.95〜1.05の範囲とする。好ましくは、0.98〜1.0の青酸やや過剰系であり、より好ましくは、等モル量で反応させる。その理由は以下のとおりである。
【0035】即ち、未反応のホルムアルデヒドは、第二工程であるグリシノニトリルへの転換工程に於いてアンモニアと反応しヘキサメチレンテトラミンを生成し、また、グリシノニトリルと反応しメチレングリシノニトリルに転換される。一方、未反応の青酸は水溶液中では重合しやすいことが知られており、いずれは着色性物質に転換されてしまい、反応液の着色の原因となるためである。加えて、本発明者らの検討によれば、第一工程反応液に未反応の青酸やホルムアルデヒドが存在していると、第二工程でアンモニアとグリコロニトリルを反応せしめる際に、ホルムアルデヒドとアンモニアから上記のヘキサメチレンテトラミンが生成し、さらに、青酸との反応によりイミノジアセトニトリルが副生することが確認された。従って、ホルムアルデヒド及び青酸の少なくとも一方は完全に転化させることが好ましく、より好ましくは等量で反応を実施し、反応を完結せしめることである。
【0036】本発明において、第一工程の触媒として、アルカリ金属の水溶性塩を添加する。この水溶性塩としては、アルカリ金属の水酸化物、ハロゲン化物、亜硫酸塩、酸性亜硫酸塩、硫酸塩、蟻酸塩等が用いられるが、好ましくはアルカリ金属の水酸化物、亜硫酸塩及び蟻酸塩のいずれかであり、より好ましくは、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである。これらの触媒は予め水溶液としておき、青酸吸収槽内で青酸吸収水やホルマリンに加えても良いし、管型反応器入り口でホルマリン、青酸水溶液及び触媒水溶液の三種を混合させても構わない。
【0037】本発明における第一工程の触媒添加量は、少なすぎると充分な反応速度が得られず、所定の反応時間内に反応を完結させることが難しい。一方で過剰に過ぎると、生成したグリコロニトリルが変質または着色しやすくなる傾向がある。そこで、添加量は金属として青酸供給量に対する重量比として50〜600ppmの範囲であり、好ましくは100〜400ppmの範囲であり、より好ましくは、200〜300ppmの範囲である。
【0038】本発明における第一工程であるグリコロニトリル合成反応での反応器型式は、攪拌槽流通方式の青酸吸収槽を第一段(前段)反応器として設け、第二段(後段)反応器として、液封流通方式管型反応器を設けた型式により実施される。第一段の攪拌槽流通方式青酸吸収槽では、青酸を後述するようなホルマリンに吸収させて、反応を同時に行わせながらでも良いし、純水に青酸のみを吸収させて青酸水溶液としたのち、管型反応器入り口でホルマリンと混合させても良い。第二段(後段)反応器には、液封流通方式管型反応器が用いられる。当該反応器形式は、一般に、栓流(プラグフロー)管型流通反応器と言われ、管内を流れる流体の流速分布は一様であり、原料液のショートパス、過滞留を抑制する反応器形式である。本発明において、第一工程である、青酸とホルムアルデヒドとの反応の後段反応器(フィニッシャー反応器)に当該反応器を用いることにより、反応を極めて効率的に完結せしめることができ、青酸、ないしはホルムアルデヒドの少なくとも一方を完全に消費することが可能となる
【0039】本発明における第一工程の反応時間、即ち、平均滞留時間は、添加する触媒量と反応温度との兼ね合いであるが、時間が短いと反応が完結し難く、時間が長いと製品グリコロニトリルの変性着色が懸念されるので、第一段の撹拌槽流通方式青酸吸収槽で10〜60分、第二段の液封流通方式管型反応器で10〜60分の範囲である。好ましくは、それぞれの滞留時間が20〜50分、より好ましくは、第一段の青酸吸収槽での滞留時間が10〜30分の範囲で、かつ、第二段の管型反応器での滞留時間が20〜40分の範囲である。
【0040】本発明における第一工程の反応温度は、上記の触媒添加量及び反応時間との兼ね合いであるが、攪拌槽流通方式の青酸吸収槽である第一段反応器では、青酸の吸収を促進するため、かつ、青酸の重合を抑止するために、例えば、第一段反応器にて青酸を水へ吸収させて青酸水溶液とするのみの場合には、10〜50℃の範囲である。第一段反応器内で、ホルムアルデヒド、触媒と青酸が混合される(即ち、シアンヒドリン合成反応を行おうとする)場合には、反応速度との兼ね合いもあり、好ましくは、35〜70℃の範囲であり、より好ましくは、40〜70℃の範囲である。第一工程の第二段反応器である、液封流通方式管型反応器での反応温度は35〜75℃の範囲であり、好ましくは40〜70℃、より好ましくは45〜60℃の範囲である。
【0041】本発明における第一工程の操作圧力は、反応液が液体を維持できるだけの加圧系で行われるので、反応器内温度との兼ね合いであるが、通常は、0.1〜1.0MPa/Gの範囲である(/Gはゲージ圧を意味する)。
【0042】本発明における第一工程反応器入り口(青酸、ホルムアルデヒド及び触媒各々の水溶液が混合された時点)でのpHは、原料であるホルマリン中の蟻酸(カニッツアロ反応平衡により生成する。例えば和光純薬試薬特級ホルムアルデヒド液中では400ppm以下と記載されている。)の量と、原料青酸中に一般的な安定剤として含まれる亜硫酸及び硫酸の量と、上記触媒添加量とによって二次的に定まるものである。そのため、本発明の反応条件として特に規定されるものではないが、通常は2〜6の範囲である。最適なpHは反応温度との兼ね合いであるが、高pHでは、青酸及びグリコロニトリルの安定性の点で問題であり、また、着色変性の原因となるので好ましくない。一方、低pHでは、反応完結に時間を要することとなるので、好ましくは3〜5の範囲である。
【0043】第一工程における反応温度と反応系のpHとの関係は、第一工程の反応温度をT℃、反応系中のpHをPとした時、TとPの積(T×P)が70〜450であることが好ましく、より好ましくは70〜150または250〜450である。
【0044】本発明における第二工程であるグリシノニトリル合成反応での反応器型式は、攪拌槽流通方式のアンモニア吸収槽を第三段(前段)反応器として設け、第四段(後段)反応器として、液封流通方式の管型反応器を設けた反応器型式により実施される。第三段の攪拌槽流通方式アンモニア吸収槽に於いては、アンモニアはガス状にて供給される。第四段(後段)管型反応器では、攪拌槽で吸収されたアンモニアを気化させない操作圧力下で、液封反応として実施される。上記、第一工程の場合と同様に、第四段(後段)反応器として、液封流通方式の管型反応器を用いることで、原料液のショートパス、過滞留を抑制し、効率的に反応を完結せしめ、また、製品グリシノニトリルの変性着色を抑制することができるのである。
【0045】本発明における第二工程でのアンモニアのグリコロニトリルに対するモル比(アンモニア/グリコロニトリルモル比)は、第三段の撹拌槽流通方式の反応器(アンモニア吸収槽)でのアンモニア圧力と温度によって定まるアンモニア溶解度により定まる。通常、アンモニア/グリコロニトリルモル比が低い場合には逆反応が生じるか、或いは、イミノジアセトニトリルの副生により収率が低下する。逆にモル比が高い場合には、アンモニアの回収及びリサイクルの負荷が高くなる。そこで、通常は3〜10の範囲である。好ましくは4〜8の範囲であり、より好ましくは5〜7の範囲である。アンモニアを反応器に加える際には、その回収、再使用が容易にできるのでガス状で供給することが好ましい。
【0046】本発明の第二工程において、第三段のアンモニア吸収槽の反応温度は、アンモニアの吸収に発熱を伴うので冷却される必要があり、さらに、所定のアンモニア/グリコロニトリルモル比を達成するため、操作圧力との兼ね合いではあるが、通常、15〜60℃である。好ましくは20〜40℃の範囲であり、より好ましくは20〜30℃の範囲である。第四段の液封流通方式管型反応器での反応温度は、滞留時間との兼ね合いではあるが、通常、40〜70℃の範囲であり、好ましくは、40〜60℃、より好ましくは、45〜55℃の範囲である。温度が低過ぎる場合には反応完結し難く、逆に温度が高過ぎる場合には、逆反応によるグリコロニトリル副生、イミノジアセトニトリルの副生及びグリシノニトリルの変性着色等が起こり易いためである。
【0047】本発明における第二工程での反応圧力は、第三段のアンモニア吸収槽では、所定のアンモニア/グリコロニトリルモル比を達成するため、操作温度との兼ね合いではあるが、通常、0.1〜1.0MPa/Gの範囲である。好ましくは0.15〜0.8MPa/Gの範囲であり、より好ましくは0.2〜0.6MPa/Gの範囲である。第四段の液封流通方式管型反応器での反応圧力は、反応温度との兼ね合いではあるが、第三段反応器で溶解しているアンモニアが気化することのない圧力で実施される。通常、0.15〜1.2MPa/Gの範囲であり、好ましくは0.2〜0.9MPa/Gの範囲であり、より好ましくは0.3〜0.7MPa/Gの範囲である。
【0048】本発明における第二工程の反応時間、即ち、平均滞留時間は、反応温度との兼ね合いであるが、時間が短いと反応完結し難く、時間が長いと製品グリシノニトリルの変性着色が懸念されるので、第三段のアンモニア吸収槽で10〜60分、第四段の管型反応器で30〜90分の範囲である。好ましくは、第三段アンモニア吸収槽での滞留時間が20〜40分の範囲で、かつ、第四段管型反応器での滞留時間が40〜80分の範囲であり、より好ましくは、第三段アンモニア吸収槽での滞留時間が25〜35分の範囲で、かつ、第四段管型流通反応器での滞留時間が50〜70分の範囲である。
【0049】以下、実施例を挙げて本発明を説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものでは無く、その要旨を変えない限り、様々な変更、修飾等が可能である。
【0050】
【実施例1】図1に示す反応装置を用いて、下記の反応条件にてグリシノニトリル合成連続流通反応を行った。図1中反応器1は、攪拌器を備えた内容積100mLのジャケット式ステンレス製オートクレーブであり、本発明における第一工程の撹拌槽流通方式の青酸吸収槽である。この反応器1において純水と青酸が供給され、青酸水溶液となる。次いで、付属の液面計の作動によりホールドアップ30mLに保つ様にポンプP−3が作動し、青酸水溶液を反応器2へ送液する。別途、ポンプP−4及びP−5により、和光純薬試薬特級ホルムアルデヒド液及び水酸化ナトリウム水溶液が供給され、反応器2の入り口で混合される。ここで、下記の表1に示すように、原料青酸に対する水酸化ナトリウム中の金属の重量比は288ppmであった。反応器2は内容積60mLのジャケット式蛇管型反応器であって、本発明における液封流通方式管型反応器である。反応器2のジャケットには温水を循環させた。反応器2の出口には背圧弁が設置され、系内圧を0.5MPa/Gに保持した。ここで、反応器1は単に青酸を水溶液としているだけであって、シアンヒドリン化反応は反応器2で行われ、グリコロニトリルが生成する。なお、この時、反応器2入り口液のpHは3.2であり、反応器2の温度は45℃であった。即ち、第一工程反応帯域でのpH、Pと温度T℃の積は、T×P=144であった。
【0051】次に、第二工程の第三段として、反応器2の背圧弁からの出口製品グリコロニトリル水溶液が反応器3に導入される。反応器3は攪拌器を備えた内容積200mLのジャケット式ステンレス製オートクレーブであり、本発明における撹拌槽流通方式のアンモニア吸収槽である。この反応器3の別供給口より、液中へアンモニアガスが導入される。アンモニアのガス圧を減圧弁により0.22MPa/Gに設定し、反応器3の圧力を保持した。反応器3のジャケットには冷却水を循環し、アンモニア吸収熱を除去した。
【0052】第二工程の第四段に続くように、反応器3に付属の液面計の作動により、ホールドアップ110mLに保つ様にポンプP−6が作動し、反応器3内液を反応器4へ送液する。反応器4はジャケット式管型反応器であって、本発明に言う液封流通方式管型反応器である。反応器4のジャケットには温水を循環させて、反応器内を所定の温度に保ち、液は反応器下より導入される。反応器4出口には背圧弁が設置され、系内圧を0.4MPa/Gに保持した。反応器3及び4では、アミノ化反応が行われ、グリシノニトリルが生成する。反応器4の背圧弁の出口には、製品タンクを設けており、製品グリシノニトリル水溶液は窒素雰囲気に保たれた製品タンクに貯えられた。
【0053】本発明の方法を評価するために、反応器2及び4の出口に、サンプリングラインを設けた。このラインから、反応開始後及び3時間経過後に、第一及び第二工程反応液をそれぞれ採取し、組成分析及び吸光度分析を行った。各工程の反応条件及び反応成績の結果を下記の表1に示す。
【0054】
【表1】


【0055】本実施例の評価結果から明らかなように、本発明の方法によれば、反応器2におけるグリコロニトリルの収率が99.47%と、第一工程での反応を極めて効率的に完結せしめることが可能となった。さらに、第二工程でのグリシノニトリルが98.16%と高収率であり、かつ、無着色で得られることが分かった。
【0056】
【実施例2】実施例2では、別ロットの青酸を原料に用いた以外は実施例1と同様にグリシノニトリルを製造し、同様に反応成績を評価した。なお、このときの反応器2の入り口液のpHは5.6であった。即ち、第一工程反応帯域でのpH、Pと温度T℃の積は、T×P=252となった。
【0057】実施例2における反応成績は、以下の通りであった。
第一工程(反応器2出口)
グリコロニトリル収率 =99.6%反応液色度 =0.008第二工程(反応器4出口)
グリシノニトリル 収率 =98.26グリコロニトリル 収率 = 0.33イミノジアセトニトリル収率 = 1.41反応液色度 =0.033
【0058】本実施例の反応成績から明らかなように、本発明の方法によれば、第一工程入り口におけるP×Tが252の場合にも、第一工程において高収率で無着色のグリコロニトリルを得ることができた。さらに、第二工程でも高収率で無着色のグリシノニトリルを得ることができた。本発明の方法によれば、第一工程でのpHが、原料ホルマリン中の蟻酸や青酸中の安定剤(亜硫酸、硫酸等)の含有量によって変化したとしても、安定した高い収率でグリシノニトリルを得られることが分かった。
【0059】
【比較例1】本比較例では、図2に反応装置図を示すように、実施例1における反応器2の液封流通方式管型反応器を撤去し、反応器1を反応器3と同じ型式の撹拌槽流通方式400mLオートクレーブとし、原料ホルマリン(和光純薬試薬特級ホルムアルデヒド液)も反応器1へ供給する方法とした。青酸は予めタンク内で水溶液としておき、反応器1へ供給した。反応器1のホールドアップを200mLとし、滞留時間を約90分とした。また、触媒の水酸化ナトリウム水溶液の代わりに、純水を反応器1へ供給した。即ち、第一工程は触媒を添加しないCSTR1槽反応方式とした。本比較例における反応条件及び結果を以下の表2に示す。なお、この時、反応器1入り口でのpHは2.8であり、反応器1の槽内温度を65℃とした。即ち、第一工程反応帯域でのpH、Pと温度T℃の積は、T×P=182であった。
【0060】
【表2】


【0061】本比較例によれば、触媒が存在せず、しかも、第一工程反応器が撹拌槽流通方式槽型反応器である場合には、シアンヒドリン化反応を完結せしめることは適わないことが分かった。その上、この第一工程からの原料をそのまま用いた第二工程では、イミノジアセトニトリルの副生が増加し、グリシノニトリル収率が低下してしまうこと、加えて、転化率を上げるためには反応時間を長くする必要があり、グリシノニトリルの着色も進行してしまうことが判った。
【0062】
【発明の効果】本発明によれば、従来提案されていなかった、反応方式、触媒及びその添加量を用いることにより、簡便な反応制御方法にて、高収率、高純度かつ、無着色のグリコロニトリルを製造することが可能となる。さらに、このグリコロニトリル反応液をそのまま第二工程であるグリシノニトリル反応器に供給することによって、イミノジアセトニトリルの副生、ホルムアルデヒド由来の不純物(シッフ塩基)の副生、未反応青酸に起因する着色を著しく抑制することができ、高収率で、高純度かつ無着色のグリシノニトリルを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1で用いた反応装置図である。
【図2】 比較例1で用いた反応装置図である。
【符号の説明】
P−1〜P−6 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 グリシノニトリルの製造方法であって、水溶媒の存在下に、第一工程として、攪拌槽流通方式の青酸吸収槽と液封流通方式管型反応器の組み合わせを用い、触媒としてアルカリ金属の水溶性塩を、原料青酸に対する金属としての重量比で50〜600ppm添加して、ホルムアルデヒドと青酸からグリコロニトリル溶液を製造し、引き続き第二工程として、攪拌槽流通方式のアンモニア吸収槽と液封流通方式管型反応器の組み合わせを用い、該グリコロニトリル水溶液をそのままアンモニアと反応させグリシノニトリルを製造することを特徴とするグリシノニトリルの製造方法。
【請求項2】 上記第一工程の液封流通方式管型反応器での平均滞留時間が10〜60分の範囲であり、かつ、当該反応器の反応温度が35〜75℃の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のグリシノニトリルの製造方法。
【請求項3】 上記アルカリ金属の水溶性塩が、アルカリ金属の水酸化物であることを特徴とする請求項1または2に記載のグリシノニトリルの製造方法。
【請求項4】 上記第二工程の攪拌槽流通方式のアンモニア吸収槽に於いて、アンモニアがガス状にて供給され、アンモニアのグリコロニトリルに対するモル比が3〜10の範囲であり、反応温度が15〜60℃であること及び上記第二工程の液封流通方式の管型反応器での反応温度が40〜70℃であり、反応圧力は溶解するアンモニアが気化しない圧力であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のグリシノニトリルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2003−192655(P2003−192655A)
【公開日】平成15年7月9日(2003.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−395826(P2001−395826)
【出願日】平成13年12月27日(2001.12.27)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】