説明

グリセロールモノ(メタ)アクリレートの製造方法

【課題】収率がよく、着色が少なく、そして経時安定性に優れるグリセロールモノ(メタ)アクリレートの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、グリシジル(メタ)アクリレートからグリセロールモノ(メタ)アクリレートを得る方法において、全工程中の鉄分含有量を0.1ppm以下で行うことを特徴とする、グリセロールモノ(メタ)アクリレートの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセロールモノ(メタ)アクリレートの製造方法に関する。より詳しくは、純度が高いグリセロールモノ(メタ)アクリレートを収率よく製造する方法であって、着色が少なく、経時安定性に優れたグリセロールモノ(メタ)アクリレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリセロールモノ(メタ)アクリレートは、一分子中に2つの水酸基を有するため、樹脂、繊維などの改質材料として利用されている。
【0003】
従来のグリセロールモノ(メタ)アクリレートの製造方法としては、グリセリンと(メタ)アクリル酸とを反応させる方法、グリセリンと(メタ)アクリル酸エステルとを反応させる方法、グリシドールと(メタ)アクリル酸とを反応させる方法(特許文献1)などが知られている。
【0004】
しかし、グリセリンと(メタ)アクリル酸との反応、またはグリセリンと(メタ)アクリル酸エステルとの反応においては、グリセリンに1分子の(メタ)アクリル酸が付加したグリセロールモノ(メタ)アクリレートのみではなく、多官能モノマーであるグリセロールジ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレートなども同時に生成されやすい。また、グリシドールと(メタ)アクリル酸との反応においては、多官能モノマーのポリグリセリンポリ(メタ)アクリレートが生成されやすい。したがって、これらの製造方法においては、グリセロールモノ(メタ)アクリレートを精製するために蒸留などが必要となる。しかし、蒸留する場合、蒸留器内でグリセロールモノ(メタ)アクリレートが重合しやすく、収率よく精製することが困難であるという問題がある。
【0005】
多官能モノマーが生成しにくいグリセロールモノ(メタ)アクリレートの製造方法として、グリシジル(メタ)アクリレートを水により開環し、グリセロールモノ(メタ)アクリレートを得る方法が知られている。しかし、この方法では、過剰の水を除去する脱水工程において、加熱により二量体や三量体が生成されるという問題がある。そのため、一般的には、キノン系化合物などの重合禁止剤を開環反応前や脱水前に添加することにより対応するが、この重合禁止剤は、得られるグリセロールモノ(メタ)アクリレートを着色させやすいという問題がある。着色を低減させる目的で、グリセロールモノ(メタ)アクリレートを活性炭で処理する場合があるが、活性炭を濾別する必要があり、グリセロールモノ(メタ)アクリレートの収率が低下し、製造工程が煩雑になるという問題がある。
【特許文献1】特開2001−294555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、純度が高いグリセロールモノ(メタ)アクリレートを収率よく製造する方法を提供することにある。得られるグリセロールモノ(メタ)アクリレートは、着色が少なく、経時安定性に優れている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、グリシジル(メタ)アクリレートからグリセロールモノ(メタ)アクリレートを得る方法において、全工程中の鉄分含有量を0.1ppm以下で行うことにより、純度が高いグリセロールモノ(メタ)アクリレートが収率よく得られることを見出した。さらに得られるグリセロールモノ(メタ)アクリレートが、着色が少なく、かつ経時安定性に優れることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明のグリセロールモノ(メタ)アクリレートの製造方法は、グリシジル(メタ)アクリレートからグリセロールモノ(メタ)アクリレートを得る方法において、全工程中の鉄分含有量を0.1ppm以下で行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、純度が高いグリセロールモノ(メタ)アクリレートを収率よく製造することができる。得られるグリセロールモノ(メタ)アクリレートは、着色が少なく、経時安定性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のグリセロールモノ(メタ)アクリレートの製造方法は、グリシジル(メタ)アクリレートからグリセロールモノ(メタ)アクリレートを得る方法において、全工程中の鉄分含有量を0.1ppm以下で行うことを特徴とする。本明細書において、「モノ(メタ)アクリレート」とは、モノアクリレートまたはモノメタクリレートを示す。
【0011】
本発明において、全工程とは、グリシジル(メタ)アクリレートの開環反応開始から、生成物であるグリセロールモノ(メタ)アクリレートを得るまでの一連の工程をいい、具体的には、グリシジル(メタ)アクリレートを、酸触媒の存在下、水中で開環反応させる工程、および得られる反応液を中和し、脱水する工程をいう。
【0012】
以下、まず、本発明に用いられる原料について説明し、次いで、本発明の製造方法について説明する。
【0013】
(原料)
本発明の方法においては、上述のとおり、全工程中において鉄分含有量が0.1ppm以下で行われる。したがって、鉄分含有量が低い原料が好ましく用いられる。本明細書において、鉄分とは、鉄、鉄化合物、および鉄イオンをいい、鉄分含有量とは、試料をケルダール法により分解し、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)によって測定して得られる鉄分の濃度をいう。
【0014】
(1)グリシジル(メタ)アクリレート
本発明においては、出発原料としてグリシジル(メタ)アクリレートが用いられる。グリシジル(メタ)アクリレートの鉄分含有量が高い場合、予め鉄分を除去しておくことが好ましい。例えば、蒸留、吸着剤処理などにより精製することによって除去することができる。グリシジル(メタ)アクリレートの純度は、得られるグリセロールモノ(メタ)アクリレートの純度に大きく影響を与えるため、95%以上の純度を有することが好ましい。
【0015】
(2)水
本発明に用いる水は、特に制限されないが、鉄分含有量が低い点から、工業的に使用されるイオン交換水を用いることが好ましい。
【0016】
(3)酸触媒
本発明に用いる酸触媒としては、均一系酸触媒または不均一系酸触媒が挙げられる。均一系酸触媒としては、硫酸、硝酸、塩酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などが挙げられる。均一系酸触媒を用いる場合は、予め均一系酸触媒を精製し、鉄分を除去して用いることが好ましい。不均一系酸触媒としては、強酸性陽イオン交換樹脂、ジルコニウム化合物(例えば、硫酸ジルコニア)などが挙げられる。
【0017】
(4)重合禁止剤
本発明においては、原料のグリシジル(メタ)アクリレートおよび生成物のグリセロールモノ(メタ)アクリレートの重合を抑制する点から、重合禁止剤が好ましく用いられる。重合禁止剤としては、ヒドロキノン、2−tert−ブチルヒドロキノン、2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、2,5−ジ−tert−アミルヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ヒドロキノンモノベンジルエーテル、ヒドロキノンモノフェニルエーテル、ブチルヒドロキシアニソール、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、フェノチアジンなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
(グリセロールモノ(メタ)アクリレートの製造方法)
本発明のグリセロールモノ(メタ)アクリレートの製造方法は、グリシジル(メタ)アクリレートからグリセロールモノ(メタ)アクリレートを得るに際し、全工程中の鉄分含有量を0.1ppm以下で行うことを特徴とする。
【0019】
本発明の製造方法は、具体的には、以下のようにして行われる。原料(グリシジル(メタ)アクリレート、水、酸触媒、および重合禁止剤)中の鉄分含有量を測定し、全原料を配合した場合の鉄分含有量が0.1ppm以下になるように、原料の種類および量を設定する。この設定した量に基づいて、反応槽に酸触媒を含む水を入れ、これにグリシジル(メタ)アクリレートを加えて開環反応させ、得られる反応液をアルカリで中和し、そして脱水する。重合禁止剤は、原料であるグリシジル(メタ)アクリレートの重合を抑制する点から開環反応前、あるいは生成物であるグリセロールモノ(メタ)アクリレートの重合を抑制する点から脱水前に適宜添加される。重合を防ぐ目的で、全工程において酸素または空気を導入してもよい。全工程中の鉄分含有量は、例えば、反応液および生成されるグリセロールモノ(メタ)アクリレート中の鉄分含有量を測定することによってモニタリングする。
【0020】
本発明に用いる原料(グリシジル(メタ)アクリレート、水、酸触媒、および重合禁止剤)の量は、上記のとおり、原料全体の鉄分含有量が0.1ppmとなるように適宜設定すればよい。なお、酸触媒として不均一系酸触媒を用いる場合、触媒中の鉄分が工程中で溶出しなければ、鉄分含有量は実質的に0ppmとして算出することができる。例えば、硫酸ジルコニアは鉄分含有量を実質0ppmとして用いられる。
【0021】
水の量は、グリセロールモノ(メタ)アクリレートの開環反応が十分に進行する点、および反応後残存する水の除去が容易な点から、グリシジル(メタ)アクリレート1モルに対して、2〜30モルの割合で用いることが好ましく、5〜15モルの割合で用いることがより好ましい。
【0022】
酸触媒の量は、均一系触媒の場合、グリシジル(メタ)アクリレート1モルに対して、0.0001〜0.01モルの割合で用いることが好ましく、0.0005〜0.005モルの割合で用いることがより好ましい。0.0001モル未満の場合、触媒としての作用が不十分となる場合があり、0.01モルを超える場合、開環反応中に重合物を生成し、グリセロールモノ(メタ)アクリレートの収率が低下する場合がある。不均一系触媒の場合、グリシジル(メタ)アクリレート100質量部に対して、好ましくは1〜30質量部の割合で用いることが好ましく、2〜20質量部の割合で用いることがより好ましい。1質量部未満の場合、触媒としての作用が不十分となる場合があり、30質量部を超える場合、開環反応中に重合物を生成し、グリセロールモノ(メタ)アクリレートの収率が低下する場合がある。
【0023】
重合禁止剤の量は、グリシジル(メタ)アクリレート100質量部に対して、0.03〜0.3質量部の割合で用いることが好ましく、0.05〜0.15質量部の割合で用いることが好ましい。
【0024】
本発明に用いる反応槽は、反応設備由来の不要な鉄分混入を避けるべく、内壁に耐腐食性層を有するものが用いられる。耐腐食性層を有する反応槽としては、ガラスまたはフッ素樹脂を槽の内壁にライニングまたはコーティングした反応槽などが挙げられる。
【0025】
さらに反応槽表面に付着する鉄錆などの鉄分除去を行うために、予め硝酸、硫酸などの無機酸による洗浄が行われる。例えば、反応槽を、無機酸水溶液で満たし、必要に応じて、50〜90℃、好ましくは80℃にて1〜3時間、好ましくは2時間攪拌しながら洗浄を行う。洗浄に使用する無機酸水溶液中の無機酸濃度は0.1〜10質量%、好ましくは1〜5質量%である。
【0026】
開環反応は、上記反応槽に、上記酸触媒を含む水を入れ、これに上記グリシジル(メタ)アクリレートを一括に、あるいは滴下などにより連続的に加えることによって行われる。グリシジル(メタ)アクリレートを滴下して加える場合、滴下に要する時間は好ましくは3〜8時間である。
【0027】
開環反応は、50〜100℃で行うことが好ましい。反応温度が50℃未満の場合、反応速度が遅くなる。反応温度が100℃を超える場合、反応中に重合物を生成するため、グリセロールモノ(メタ)アクリレートの収率が低下する場合がある。
【0028】
開環反応は、グリシジル(メタ)アクリレートを加えた後、さらに0.5〜2時間保持することが好ましい。これによって、開環反応を完結される。
【0029】
開環反応終了後、さらに水酸化ナトリウムなどのアルカリで中和し、脱水を行う。不均一系酸触媒を用いる場合は、脱水前に濾過などにより除去する。脱水は、当業者が通常用いる方法が採用される。重合物の生成を防ぐ点から、例えば、系内に空気などを吹き込み込むこと、脱水温度を20〜100℃にて行うこと、および減圧下(0.133〜13.3kPa)で行うことを適宜組み併せて行うことが好ましい。
【0030】
本発明の製造方法によって、純度が高いグリセロールモノ(メタ)アクリレートが収率よく得られる。グリセロールモノ(メタ)アクリレートの純度は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上であり、収率は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上である。さらに得られたグリセロールモノ(メタ)アクリレートは、着色が少なく(例えば、APHAが100以下)、経時安定性にも優れている。
【実施例】
【0031】
以下に、本発明の製造方法を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各実施例および比較例中の鉄分含有量、重合物の有無、そしてグリセロールモノ(メタ)アクリレートの純度、色相、および経時安定性については以下に従い行った。
【0032】
(鉄分含有量の測定方法)
試料を0.5〜2.0g秤量してケルダール分解フラスコに入れ、これに濃硝酸5〜10mlと過塩素酸(60%)5〜10mlとを等量ずつ加えて加熱分解した。冷却後、蒸留水を約50ml加え、再び10〜20分間加熱した。冷却後、濾過し、100mlの定容とし試料溶液とした。試料溶液をICP発光分光測定装置(ICP−AES)に供して鉄分含有量を測定した。ただし、検出限界は0.01ppmであり、検出限界以下は0ppmとした。
【0033】
(重合物の有無の確認方法)
アセトンに、試料が10質量%となるように加え、白濁の有無を目視にて観察した。白濁が確認された場合は、重合物が生成されていると判断し、白濁が確認されない場合は、重合物が生成されていないと判断した。
【0034】
(グリセロールモノ(メタ)アクリレートの純度の測定方法)
グリセロールモノ(メタ)アクリレートの純度は、GC−14Bガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製)を用いて以下の測定条件にて測定した。検出される全物質のピーク面積の合計に対するグリセロールモノ(メタ)アクリレートのピーク面積の割合を百分率で示した。
【0035】
(測定条件)
カラム:50%phenyl methyl silicone OV−17(2m)
インジェクション温度:320℃
ディテクター温度:320℃
カラム温度:50℃から300℃までの間で10℃/分の割合で昇温した後、300℃にて20分間保持
He流量:50ml/分
検出器:FID
インジェクション・ボリューム:0.2μl
(グリセロールモノ(メタ)アクリレートの色相の測定方法)
JOCS 2.2.1.4−1996に準拠して測定した。
【0036】
(グリセロールモノ(メタ)アクリレートの経時安定性の評価方法)
グリセロールモノメタクリレート30gをスクリュー管にとり、90℃の恒温槽で24時間保存して加速試験を行った。室温まで冷却後、加速試験したグリセロールモノ(メタ)アクリレートの粘度と、加速試験していないグリセロールモノ(メタ)アクリレートのと粘度の差を目視により比較した。加速試験の前後で粘度変化がない場合は、経時安定性が良好であると判断し(○)、加速試験後に明らかな増粘が認められる場合は、経時安定性に劣ると判断した(×)。
【0037】
(実施例1)
還流冷却器、滴下ロート、温度計、空気導入管、および攪拌機を備えた1リットルのガラス製4つ口フラスコを用意した。各原料(グリシジルメタクリレート、98%硫酸、水、およびハイドロキノン)の量は、予め各原料の鉄分含有量を測定しておき、反応系全体で0.1ppm以下となるように設定した。反応前に1質量%硫酸水溶液を加え、80℃にて2時間攪拌して反応器内の洗浄を行った。硫酸水溶液を排水した後、水(鉄分含有量:0.05ppm)450g(25.0モル)および98質量%硫酸(鉄分含有量:0ppm)0.25g(0.0025モル)を仕込み、油浴で加熱し、攪拌しながら昇温した。その後、空気を導入しながら、予めハイドロキノン(鉄分含有量:0ppm)0.18g(グリシジルメタクリレート100質量部に対して、0.05質量部に相当)を加えたグリシジルメタクリレート(鉄分含有量:0.01ppm)355g(2.50モル)を5時間にわたり滴下して反応させた。滴下終了後、反応液を採取し、鉄分含有量を確認したところ、0.03ppmであった。さらに、温度を80〜85℃に保ちながら2時間反応を続けた。
【0038】
反応終了後、反応液の酸価を測定し、酸価に対して当量となるように2%水酸化ナトリウム水溶液を加えて中和した。さらに、ハイドロキノン(鉄分含有量:0ppm)0.18g(グリシジルメタクリレート100質量部に対して、0.05質量部に相当)を加え、空気を吹き込みながら、油浴中で70℃まで昇温し、約4.0〜13.3kPaの減圧下、脱水を行った。なお、反応中および脱水中に任意の時間でサンプリングし、サンプリング液中の重合物の有無を調べたところ、重合物は確認されなかった。
【0039】
脱水終了後、濾過を行い、純度96.0%のグリセロールモノメタクリレート384g(収率92.0%)を得た。得られたグリセロールモノメタクリレートの鉄分含有量は0.06ppmであり、色相(APHA)は70であり、グリセロールモノメタクリレート中に重合物は確認されなかった。さらに経時安定性の評価を行った。これらの結果をまとめて表1に示す。
【0040】
(実施例2)
実施例1で用いたグリシジルメタクリレート355gの代わりに、グリシジルアクリレート(鉄分含有量:0.01ppm)320gを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でグリセロールモノアクリレートを調製した。反応液の鉄分含有量は0.03ppm、および生成物(グリセロールモノアクリレート)中の鉄分含有量は0.06ppmであった。なお、反応中および脱水中において重合物の生成は確認されなかった。
【0041】
得られたグリセロールアクリレートの純度は96.1%、収量は348g(収率91.6%)、および色相(APHA)は65であり、このグリセロールモノアクリレート中に重合物は確認されなかった。さらに経時安定性の評価を行った。これらの結果をまとめて表1に示す。
【0042】
(実施例3)
還流冷却器、滴下ロート、温度計、空気導入管、および攪拌機を備えた1リットルのガラス製4つ口フラスコを用意し、反応前に1質量%硫酸水溶液を加え、80℃にて2時間攪拌して反応器内の洗浄を行った。硫酸水溶液を排水した後、水(鉄分含有量:0.05ppm)450g(25.0モル)および硫酸ジルコニア(鉄分含有量:40ppm)3.55g(グリシジルメタクリレート100質量部に対して1質量部に相当)を仕込み、油浴で加熱し、攪拌しながら昇温した。その後、空気を導入しながら、予めフェノチアジン(鉄分含有量:0ppm)0.18g(グリシジルメタクリレート100質量部に対して、0.05質量部に相当)を加えたグリシジルメタクリレート(鉄分含有量:0.01ppm)355g(2.50モル)を5時間にわたり滴下して反応させた。滴下終了後、反応液を採取し、鉄分含有量を確認したところ、0.03ppmであり、硫酸ジルコニア中の鉄分(40ppm)が反応液中に溶出されていないことが確認された。さらに、温度を80〜85℃に保ちながら2時間反応を続けた。
【0043】
反応終了後、反応液を濾過して硫酸ジルコニアを除去した。さらに、フェノチアジン(鉄分含有量:0ppm)0.18g(グリシジルメタクリレート100質量部に対して、0.05質量部に相当)を加え、空気を吹き込みながら、油浴中で70℃まで昇温し、約4.0〜13.3kPaの減圧下、脱水を行った。なお、反応中および脱水中に任意の時間でサンプリングし、サンプリング液中の重合物の有無を調べたところ、重合物は確認されなかった。
【0044】
脱水終了後、濾過を行い、純度96.7%のグリセロールモノメタクリレート388g(収率93.6%)を得た。得られたグリセロールモノメタクリレートの鉄分含有量は0.06ppmであり、色相(APHA)は50であり、グリセロールモノメタクリレート中に重合物は確認されなかった。さらに経時安定性の評価を行った。これらの結果をまとめて表1に示す。
【0045】
(比較例1)
鉄分含有量が250ppmの硫酸(98質量%)を酸触媒として用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でグリセロールモノメタクリレートを調製した。反応液の鉄分含有量は0.19ppm、および生成物(グリセロールモノメタクリレート)中の鉄分含有量は0.40ppmであった。なお、反応中および脱水中において重合物の生成は確認されなかった。
【0046】
得られたグリセロールモノメタクリレートの純度は88.4%、収量は382g(収率84.4%)、および色相(APHA)は250であり、このグリセロールモノアクリレート中に重合物は確認されなかった。さらに経時安定性の評価を行った。これらの結果をまとめて表1に示す。
【0047】
(比較例2)
反応液の鉄分含有量が1.35ppmとなるように、硫酸鉄(III)0.0038gを水450gに溶解させ、鉄分含有量が2.41ppmの水を調製した(鉄高濃度水1とする)。実施例1で用いた水の代わりに、上記鉄高濃度水1を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で行い、グリセロールモノメタクリレートを調製した。脱水中にサンプリングした液の重合物の有無を確認したところ、重合物の生成を示す白濁が認められたため、脱水を中止した。脱水を中止した反応液の鉄分含有量は1.43ppmであり、色相(APHA)は400であった。
【0048】
(比較例3)
反応液の鉄分含有量が0.22ppmとなるように、硫酸鉄(III)0.0005gを水450gに溶解させ、鉄分含有量が0.36ppmの水を調製した(鉄高濃度水2とする)。実施例1で用いた水の代わりに、上記鉄高濃度水2を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で行い、グリセロールモノメタクリレートを調製した。脱水中にサンプリングした液の重合物の有無を確認したところ、重合物の生成を示す白濁が認められたため、脱水を中止した。脱水を中止した反応液の鉄分含有量は0.25ppmであり、色相(APHA)は300であった。
【0049】
【表1】

【0050】
表1の結果から、実施例1〜3の方法で得られたグリセロールモノ(メタ)アクリレートは、純度および収率も高かった。さらに、着色が少なく、経時安定性にも優れていた。
【0051】
一方、比較例1で得られたグリセロールモノ(メタ)アクリレートは、反応液中の鉄分含有量が0.19ppmであるため、得られるグリセロールモノ(メタ)アクリレートの純度や収率は低く、さらに色調および安定性も悪かった。比較例2および比較例3では、反応液中の鉄分含有量がさらに高いために(比較例2:1.35ppm、および比較例3:0.22ppm)、調製中に重合物の生成が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、グリシジルモノ(メタ)アクリレートを開環反応させて、グリセロールモノ(メタ)アクリレートを得るに際し、全工程中の鉄分含有量を0.1ppm以下に制御することによって、純度の高いグリセロールモノ(メタ)アクリレートを収率よく得ることができる。得られたグリセロールモノ(メタ)アクリレートは、着色が少なく、さらに経時安定性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシジル(メタ)アクリレートからグリセロールモノ(メタ)アクリレートを得る方法において、全工程中の鉄分含有量を0.1ppm以下で行うことを特徴とする、グリセロールモノ(メタ)アクリレートの製造方法。

【公開番号】特開2007−230874(P2007−230874A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−50844(P2006−50844)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【Fターム(参考)】