説明

グリッパブル容器

【課題】製造ラインでは搬送不良が発生することのない適度な「滑りやすさ」を有しながら、利用者には「滑りにくい」と感じさせる容器を提供すること。
【解決手段】胴部外周面に複数の粗面部が配置された容器であって、該複数の粗面部が、2.0mm以下の間隔をあけて配置されている容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器に関する。特に、手で持って使用する容器の滑り止め技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飲料用缶等の製造や内容物の充填が工業的に行われる容器においては、その外周面は滑りやすいことが求められ、外周面用塗料にワックス等の潤滑剤を添加して摩擦係数を小さくすることが行われている(特許文献1)。これは、容器自体の製造ラインや容器に内容物を充填する充填ライン(以下、単に「製造ライン」ということがある。)において、容器は互いに密集した状態で他の容器又はライン壁面と接触しながら搬送されるため、容器外周面が滑りにくいと、搬送不良を起こすことがあるためである。
【0003】
一方、昨今飲料用容器等の容器の分野においても、“ユニバーサルデザイン”(年齢や障害の有無等に関わらず誰にでも利用しやすいデザイン)という概念が一般的になってきており、容器にも、単なるデザインではなく、ユーザービリティが要求されてきている。そのひとつに、「滑りにくい(グリッパブル)」という要素がある。
【0004】
容器の滑り止め技術としては、容器本体の一部に微細な凹凸部を設ける方法が知られている(特許文献2)。この技術は、容器のテクスチャーによって滑りにくさを持たせるものである。しかし、この技術は、容器表面の摩擦係数を増加させるものであり、製造ラインにおける容器の搬送不良を招く。
【0005】
【特許文献1】特開2007−9097号公報
【特許文献2】特開平10−152159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、工業的に生産され、利用者に手で持って使用される容器には、製造ラインで円滑に搬送されるための「滑りやすさ」と、利用者が掴みやすいようにするための「滑りにくさ」という、相反する2つ性質が要求されるところ、現状では、これら両方の要求を同時に満足する容器は得られていない。
そこで、本発明の目的は、製造ラインにおいては搬送不良が発生することのない適度な「滑りやすさ」を有しながら、利用者には「滑りにくい」と感じさせる容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、容器の「滑りにくさ」について検討したところ、容器に利用者にとっての「滑りにくさ」を付与する技術としては、胴部外周面を粗面化することが効果的であることが判明した。もっとも、単に粗面化するだけでは、前述したような搬送不良等の問題が発生する。
【0008】
そこで、胴部外周面の粗面化と、利用者にとっての容器の「滑りにくさ」及び製造ラインにおける容器の搬送不良の問題それぞれとの関係について鋭意検討したところ、以下の2点を見出した。
1.利用者の「滑りにくい」という感覚は、粗面部を連続面として形成せず、複数に分割して形成しても、隣り合う粗面部どうしの間の間隔を小さくすれば損なわれないこと
2.搬送不良は、容器の胴部外周面に形成された粗面部の総面積を小さくするほど発生しにくくなること
そして、以上の知見に基づき、容器の銅部外周面に、複数の粗面部を、特定の間隔をあけて配置することによって、利用者にとっての「滑りにくさ」と製造ラインで発生する搬送不良等の問題を同時に解決できることに想到した。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
胴部外周面に複数の粗面部が配置された容器であって、
該複数の粗面部が、2.0mm以下の間隔をあけて配置されている容器。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、利用者には「滑りにくい」と感じさせながらも、製造ラインにおいては搬送不良が発生することのない容器を提供することができ、ユーザビリティと工業生産性を両立させることができる。
また、本発明によれば、間隔をあけないで粗面部を形成した場合、すなわち、粗面部を連続面として形成した場合、と比較して、粗面部の総面積を減らすことができるので、製造ラインにおいて容器同士がこすれ合うことにより発生する、インクやオーバーニスの剥離を低減でき、製造ラインの汚染を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の最良の実施形態について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0012】
本発明において、容器は、手に持って使用されるものであれば、その形状、用途に限定はない。形状の具体例としては、例えば、円柱部、多角柱部をその一部に含むものが挙げられる。また、用途としては、例えば、飲食品用、化粧品用、医薬品用等の用途が挙げられる。
容器の素材に限定はなく、例えば、アルミやスチール等の金属;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン等のプラスチック;ガラス等が挙げられる。
【0013】
容器の胴部外周面に複数の粗面部が形成されている。ここで、「粗面部」とは、胴部外周面の他の部位よりも表面粗さが大きい部位をいう。
容器の胴部外周面に粗面部を形成する方法に限定はなく、研磨やエンボス加工(転写)等により形成することもできるが、粗面部の形状、配置、粗面部どうしの間の距離の制御を容易にするという観点からは、無機粒子や樹脂粒子(樹脂ビーズ)を添加したインキを用いた印刷により粗面部を形成することが好ましい。印刷方法に限定はなく、例えば、グラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷等が挙げられる。
【0014】
インキに添加する無機粒子の具体例としては、シリカ、アルミナ、ゼオライト、酸化チタン、炭酸カルシウム等からなる粒子を挙げることができる。その粒径に限定はないが、1〜20μmであることが好ましく、6〜10μmであることがより好ましい。
また、インキに添加する樹脂粒子の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン系樹脂、ナイロン等からなる粒子を挙げることができ、その粒径に限定はないが、1〜50μmであることが好ましく、10〜20μmであることがより好ましい。
無機粒子と樹脂粒子は、それぞれ単独で用いてもよいし、併用してもよい。
なお、本明細書において、粒径とはレーザー回析・光散乱法で測定される平均粒径をいう。
【0015】
インキのビヒクルに含まれる樹脂成分にも限定はなく、容器の外周面用塗料において一般に用いられているものを採用することができ、例えば、ポリエステル、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン系樹脂等を挙げることができる。また、インキには、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等、一般に使用される各種添加剤を添加することができる。
インキ中の無機粒子、樹脂粒子の含有量に限定はなく、使用する無機粒子、樹脂粒子の種類や粒径に応じて、適宜設定すればよい。例えば、インキ中の無機粒子、樹脂粒子の含有量は、インキの不揮発成分に対して1〜50質量%とすることができ、10〜30質量%としてもよい。
【0016】
また、容器にラベルやシュリンクフィルム等のフィルムが貼着される場合、粗面部はこれらのラベルやフィルムに形成してもよい。特に、ラベルやフィルムに予め粗面部を形成しておくと、ラベルやフィルムを容器に貼着する際に生じるブロッキング現象(フィルム同士がくっついて、はがれにくくなる現象)を防止することもできるので有利である。
【0017】
粗面部の形状に限定はなく、例えば、円、正方形等の矩形、菱形等の平行四辺形、多角形、(容器に対して)縦又は横の帯形状等が挙げられる。
また、粗面部の大きさに限定はない。同じ範囲に粗面部を形成する場合、一つ一つの粗面部を小さくすると共に粗面部の数を多くすると、隙間の占める割合が増え、粗面部の総面積は減るため、容器の胴部外周面の摩擦係数は小さくなる。したがって、容器の胴部外周面の摩擦係数を下げるためには、各粗面部の大きさを小さくすればよい。一方、各粗面部があまり小さすぎると、利用者が粗面部を知覚せず「滑りにくい」と感じないことがある。したがって、各粗面部の大きさは、製造ラインにおける搬送性と、利用者にとっての「滑りにくさ」との兼ね合いで適宜決定すればよい。
粗面部の直径(円の場合)、一辺の長さ(矩形又は菱形の場合)及び幅(帯形状の場合)の目安としては、0.1〜5.0mm、0.3〜2.0mm、0.5〜1.5mm、0.7〜1.0mm程度が考えられるが、これに限定されない。
【0018】
また、粗面部の高さに限定はない。粗面部が一定以上の高さを有する方が、粗面部どうしの間の隙間が利用者に知覚されにくい傾向にあるが、あまり高すぎると、製造ラインにおける容器の搬送性が悪くなる。そのため、粗面部の高さは10〜60μm程度であることが好ましい。ここで、粗面部の高さとは、容器表面の粗面部が形成されていない部分と、粗面部の最も高い部分との間の標高差をいう。
粗面部をグラビア印刷で形成する場合、版深は、15〜60μmとすることが好ましい。
【0019】
本発明において、粗面部は、規則的に配置することが好ましい。配置パターンに限定はなく、例えば、縦帯状の粗面部の場合には等間隔の柵状に配置することができるし、横帯状の場合には等間隔の横縞状に配置することができる。
また、円、矩形、多角形等のドットタイプの粗面部の場合には、格子状に配置することが好ましい。格子の具体例としては、正方格子(となりあう正方形の辺と頂点が一致するように正方形で平面を埋め尽くした時の網目、図1(a)参照)、長方格子(となりあう長方形の辺と頂点が一致するように長方形で平面を埋め尽くした時の網目、図1(b)参照)、三角格子(となりあう二等辺三角形の辺と頂点が一致するように二等辺三角形で平面を埋め尽くした時の網目、図1(c)参照)が挙げられる。中でも、三角格子状に配置することが好ましい。なお、本明細書において、格子状に配置するとは、各ドット(粗面部)を、その中心が格子の各格子点に位置するように配置することをいう。
製造ラインにおいて、容器は、搬送装置の上下振動により、せり上がることがある。いったんせり上がった容器は、通常は、その自重により元の位置に戻るが、容器外周面の摩擦係数が大きいと、上側にせり上がったままとなり、搬送不良を引き起こしてしまう。
本発明者らの研究によれば、粗面部の配置パターンを三角格子状にすると、せり上がりが発生しても元の位置に戻りやすく、その結果、搬送不良が発生しにくくなることが判明した。
【0020】
本発明においては、粗面部を利用者の「滑りにくい」という感覚を損ねない程度の隙間をあけて配置し、これにより容器の胴部外表面に対して粗面部が占める総面積を減らし、外表面の摩擦係数を小さくする。具体的には、複数の粗面部は、2.0mm以下の間隔をあけて配置する。
本発明者らが成人に対して行った官能試験によれば、粗面部どうしの間の間隔が3mm程度であると、評価者は粗面部の不連続性を知覚し、粗面部が連続形成されている場合と比較して滑りやすいと感じることもあるが、粗面部の間の間隔を2.0mm以下とすると、評価者はほぼ連続のものとして知覚し、粗面部の間の隙間が滑りにくさに対して影響を及ぼさなくなることが判明した。
【0021】
粗面部の間の間隔は、1.5mm以下であることが好ましく、1.0mm以下であることがより好ましい。
粗面部の間の間隔に下限値はないが、同じ範囲に粗面部を形成する場合、間隔を大きくした方が粗面部の総面積を小さくできるため好ましい。このような観点から、粗面部の間の間隔は、0.3mm以上、0.5mm以上、又は0.7mm以上とすることが好ましい。
【0022】
粗面部の間の「間隔」とは、隣り合う粗面部の外周どうしの間の最短距離をいう。
粗面部が正方格子状、長方格子状に配置されている場合、「隣り合う」粗面部とは、上又は下に位置する粗面部と左又は右に位置する粗面部をいい、三角格子状に配置されている場合、「隣り合う」粗面部とは、三角格子を構成する二等辺三角形の他の2頂点に配置された粗面部をいう。図1(a)〜(c)において、粗面部の間の「間隔」は、XとYであり、本発明においては、これらは共に2.0mm以下でなければならない。
また、粗面部が不規則に配置されている場合、前記「隣り合う粗面部」とは、容器の垂直及び水平方向それぞれにおいて最も近接している粗面部をいうものとする。
【0023】
更に、粗面部は、容器の胴部外周面の全範囲に施す必要はなく、滑りにくさ、握りやすさと、容器のデザインを考慮し、可能な限り狭い範囲に施すことが、外周面の摩擦係数を下げ、製造ラインにおける搬送不良の問題を防ぐ観点から好ましい。具体的には、利用者が容器を持つ(握る)際に手が触れる範囲を予め想定しておき、その範囲にのみ粗面部を形成することが好ましい。
【0024】
粗面部を胴部外周面の一部にのみ形成する場合、粗面部が形成される領域は、胴部の全周に亘ってぐるりと一周していることが好ましい。
また、粗面部を胴部外周面の一部にのみ形成する場合、その領域は複数であってもよい。この場合、それぞれの領域における粗面部の配置パターンは、同じであっても、異なっていてもよい。
さらに、容器外周面に配置された複数の粗面部は、必ずしも、同一の形状、大きさを有している必要はないが、同一の領域内においては、複数の粗面部の形状、大きさを統一した方が「滑りにくさ」が向上する傾向にある。
【0025】
本発明において、容器には、仕上がった状態において本発明で規定する条件を満たす粗面部が存在している限り、オーバーニスの塗布等、一般の容器に施される仕上げ処理等を施してもよい。
【0026】
次に、本発明の実施形態について具体例を挙げて説明する。
図2に、本発明の容器の一例の概略図を示す。容器20は円筒状の金属缶であり、その胴部外周面の一部の2箇所の領域(20a、20b)には、複数の正方形の粗面部21が三角格子状に、全周に亘って配置されている。
図3は、利用者が容器20を握ったときの、利用者の親指と粗面部21の関係を示す拡大図である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、工業的に生産され、手に持って利用されるあらゆる容器に利用できる。特に、飲料用の金属缶、ペットボトル及び瓶;スプレー缶;ボディーソープやシャンプー等を収容するための濡れた手で持つプラスチックボトル等に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】格子状配置について説明する図である。
【図2】本発明の容器の一例を示す概略図である。
【図3】容器を握った利用者の指と粗面部の関係を示す拡大図である。
【符号の説明】
【0029】
20 本発明の容器
20a 粗面部が設けられた範囲
20b 粗面部が設けられた範囲
21 粗面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴部外周面に複数の粗面部が配置された容器であって、
該複数の粗面部が、2.0mm以下の間隔をあけて配置されている容器。
【請求項2】
前記複数の粗面部が、1.0mm以下の間隔をあけて配置されている、請求項1に記載の容器。
【請求項3】
前記複数の粗面部が、規則的に配置されている、請求項1又は2に記載の容器。
【請求項4】
前記複数の粗面部が、格子状に配置されている、請求項1又は2に記載の容器。
【請求項5】
前記複数の粗面部が、三角格子状に配置されている、請求項1又は2に記載の容器。
【請求項6】
前記粗面部が、無機粒子又は樹脂粒子を含むインキを用いた印刷により形成されたものである、請求項1〜5いずれか1項に記載の容器。
【請求項7】
前記粗面部が、直径が0.5〜1.5mm以下の円又は一辺の長さが0.5〜1.5mmの正方形若しくは菱形である、請求項1〜6いずれか1項に記載の容器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−155616(P2010−155616A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333700(P2008−333700)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(391026058)ザ・コカ−コーラ・カンパニー (238)
【氏名又は名称原語表記】THE COCA−COLA COMPANY
【Fターム(参考)】