説明

グリメピリドを含有する口腔内崩壊錠

【課題】 グリメピリドを有効成分として含有し、製剤上必要な錠剤硬度を維持しつつ、良好な口腔内崩壊性を有する、服用性および保管性に優れた錠剤の提供を目的とする。
【解決手段】 有効成分のグリメピリド、水溶性糖類等の増量剤、デンプングリコール酸ナトリウム、結晶セルロース、ポビドン等の結合剤、および色素を、従来錠剤と同様の組成比で混合した後、滑沢剤のステアリン酸マグネシウムを打錠用顆粒中に添加せず、打錠機の打錠用杵臼に付着させて、より低い打錠圧で打錠することにより製造されることを特徴とする、口腔内崩壊錠である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病を治療する目的で経口的に服用され、有効成分としてグリメピリドを含有する、口腔内崩壊錠に関する。
【背景技術】
【0002】
グリメピリドは、化学名が1−[4−[2−(3−エチル−4−メチル−2−オキソ−3−ピロリン−1−カルボキサミド)エチル]フェニルスルホニル]−3−(トランス−4−メチルシクロヘキシル)ウレアである、2型糖尿病患者に対して有用なスルホニルウレア系の経口血糖降下剤である。
【0003】
グリメピリドを有効成分として含有する錠剤は、最初に販売されたアマリール(登録商標)錠をはじめとして、世界100カ国以上において既に承認・販売されており、その2型糖尿病の治療における有効性はよく知られている。
【0004】
一方、高齢化社会の進行に伴い、グリメピリドのようなスルホニルウレア系の経口血糖降下剤による治療の対象になる、高齢者の2型糖尿病患者の数も増加してきている。そうした高齢の患者では、口から物を飲み込む嚥下機能が低下している場合が多くみられ、従来の通常型錠剤では必ずしも服用が容易ではないことがある。また、高齢者以外でも、小児患者や様々な原因による嚥下機能の低下した患者では、通常錠剤の場合は、服用に困難を感じることが多い。
【0005】
したがって、このような嚥下機能の低下した患者でも服用を容易にするために、グリメピリドの錠剤の場合でも、これまで以下のような錠剤の小型化や口腔内崩壊錠の導入などの様々な改良が考えられてきた。
【0006】
特許文献1には、ポリビニルアルコール類および水溶性ポリオキシエチレン類を含むグリメピリドの口腔内速崩壊錠が記載されている。この口腔内速崩壊錠はさらに崩壊剤が必要であり、実施例1〜3では、スーパー崩壊剤として公知のクロスポビドンまたは大量のトウモロコシデンプンを使用している。
特許文献2には、平均粒径40μm以上の粉末および/または造粒糖アルコール、セルロース類、崩壊剤を含む口腔内崩壊錠が記載され、実施例15には、医薬活性成分としてグリメピリドを、また崩壊剤としてスーパー崩壊剤として公知のクロスポビドン含有口腔内崩壊錠が開示されている。
【0007】
一方これらとは全く異なる方向として、特許文献3には、平均粒子径が10μm以下になるように微粉砕したグリメピリドを有効成分として含み、嚥下機能の低下した患者でも服用可能な小型化錠剤であるグリメピリド含有錠剤が記載されている。
【0008】
しかしながら、上記特許文献に記載された従来技術のグリメピリドの錠剤は、いずれも口腔内崩壊錠とするために特有の成分を使用するか、または微粉砕したグリメピリドを有効成分として用いていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−53043号公報
【特許文献2】特開2009−114113号公報
【特許文献3】特開2007−31377号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】アマリール(登録商標)の医薬品インタビューフォーム(改訂第13版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
高齢の患者等の嚥下機能の低下した患者でも、服用上の利便性が高くなるように、水なしでも口腔内で速やかに崩壊する崩壊性を有し、同時に患者が錠剤を保管している間も十分な硬度を維持し続けるという利点を併せ持ち、しかも別途に崩壊剤を加えることなく、従来の通常製剤の配合成分を変えることのない、グリメピリドの口腔内崩壊錠を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、従来のグリメピリドの錠剤の各添加剤成分の種類および含有量をほとんど変更することなく、滑沢剤であるステアリン酸マグネシウムの使用量のみを、0.1質量%以下の微量の使用に変更し、またステアリン酸マグネシウムを打錠用顆粒中に添加せず、打錠機の打錠用杵臼に付着させて付着させ、より低い打錠圧で打錠することにより、良好な口腔内崩壊性と十分な錠剤の硬度を併せ持つ、患者の利便性の高い口腔内崩壊錠を得られることを見出して、本発明を完成した。
なお、微量であるステアリン酸マグネシウムの「0.1質量%以下」の含量の表現は、有効数字1桁の観点から、実測値としては0.149・・・質量%等の「0.15質量%未満」の含量を包含しており、当該医薬製剤技術分野の当業者にとってもそのように解される。
【0013】
したがって、
(1)本発明は、有効成分としてグリメピリド、ならびに添加物として結晶セルロース、乳糖水和物、ポピドン、デンプングリコール酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムを含み、ステアリン酸マグネシウムの含量が0.15質量%未満であるグリメピリド含有口腔内崩壊錠である。
(2)本発明は、ステアリン酸マグネシウムを打錠用顆粒中に添加せず、打錠機の打錠用杵臼に付着させて、打錠することにより製造されるグリメピリド含有口腔内崩壊錠である。
(3)本発明は、ステアリン酸マグネシウムを打錠用顆粒中に添加せず、打錠機の打錠用杵臼に付着させて、打錠する工程を含む、グリメピリド含有口腔内崩壊錠の製造方法である。
【0014】
本発明の口腔内崩壊錠は、グリメピリド含有錠剤、例えばアマリール(登録商標)錠剤に比べて、口腔内での崩壊性が優れていることで、嚥下機能の低下した2型糖尿病患者であっても服用しやすく、さらに錠剤硬度は従来のグリメピリド含有錠剤と同等に維持されて壊れにくく、保管時の安定性にも優れているために、患者の取扱上も利便性が高い。
【0015】
このような利便性を有することから、本発明の口腔内崩壊錠は安定性が高く、硬度の低下がないために、従来の口腔内崩壊錠では不可能とされた病院や薬局等での分包にも耐えうる。特に、高齢患者では同時に複数の錠剤を服用することが多く、その場合に1回分の服用分の複数の錠剤を分包して保管することが多い。そうした場合であっても、本発明の口腔内崩壊錠は、取扱っていく上で十分な硬度を有する口腔内崩壊錠である。
【0016】
さらに、本発明の口腔内崩壊錠は、ステアリン酸マグネシウム以外の添加成分と含有量は、市販のグリメピリド含有錠剤、例えばアマリール(登録商標)錠剤と同じであり、さらに製造方法も大部分共通した工程を用いることができるので、製造上のメリットも大きい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、グリメピリドを経口剤として用いる患者の利便性の向上のために、水なしでも口腔内で速やかに崩壊する崩壊性を有し、同時に患者による錠剤の保管において十分な硬度を有するという利点を併せ持った、グリメピリド含有口腔内崩壊錠が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】グリメピリド口腔内崩壊錠1mg錠の25℃60%保管下での錠剤硬度の変化を、本発明の口腔内崩壊錠(saKK)と、市販の4種類のグリメピリド口腔内崩壊錠(A〜D)との間で比較して測定した結果を示す。縦軸は錠剤硬度(kg)、横軸は保管期間(日)を示す。
【図2】グリメピリド口腔内崩壊錠1mg錠の30℃80%保管下での錠剤硬度の変化を、本発明の口腔内崩壊錠(saKK)と、市販の4種類のグリメピリド口腔内崩壊錠(A〜D)との間で比較して測定した結果を示す。縦軸は錠剤硬度(kg)、横軸は保管期間(時間)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明を実施の形態に即して詳細に説明する。
本発明の口腔内崩壊錠は、1錠中に有効成分のグリメピリドを0.2〜12mg、好ましくは0.5〜6mg、特に好ましくは1〜3mg含有する錠剤である。
本発明の口腔内崩壊錠の錠剤の重量は通常20mg〜300mg、好ましくは40〜200mgであり、有効成分以外の配合成分として、結晶セルロース、乳糖水和物、ポピドン、デンプングリコール酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムが含まれる。結晶セルロース、乳糖水和物、ポピドンおよびデンプングリコール酸ナトリウムの配合割合は製剤の分野で通常使用される範囲であり、特に限定されない。例えば、結晶セルロースは2〜20質量%、好ましくは5〜15質量%の範囲で、乳糖水和物は50〜90質量%、好ましくは65〜85質量%の範囲で、ポピドンは0.1〜5質量%、好ましくは0.5〜3質量%の範囲で、そしてデンプングリコール酸ナトリウムは1〜15質量%、好ましくは3〜10質量%の範囲で、それぞれ使用できる。また、ステアリン酸マグネシウムは0.005から0.15質量%未満、好ましくは0.01から0.15質量%未満の範囲で使用することができる。これらの成分はいずれも日本薬局方第16改正に記載されているものを使用できる。
さらに、錠剤を識別する必要がある場合は、適量の色素、例えば、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄等を0.001〜0.1質量%、好ましくは0.003〜0.05質量%の範囲で使用することができる。
【0020】
本発明の口腔内崩壊錠は、ステアリン酸マグネシウム以外の含有成分の種類とその比率は、従来の市販の錠剤と同じものが望ましい。例えば、本発明の口腔内崩壊錠には、従来のアマリール(登録商標)錠剤と同じ含有比率のグリメピリド、結晶セルロース、乳糖水和物、ポピドンおよびデンプングリコール酸ナトリウムを含むことができる。
【0021】
ステアリン酸マグネシウムは打錠用顆粒中に添加せずに、打錠杵側に付着させる。これにより、打錠用顆粒への圧縮成形性を損なうことなく、低打錠圧での打錠が可能となり、結果として錠剤密度が低く崩壊性の良い口腔内崩壊剤の製造が可能となる。
より具体的には、従来の錠剤の製造においては、例えば、約30〜40N以上または3〜4kg以上の錠剤硬度を必要とする場合、例えば約6〜8kN以上の打錠圧が必要とされていたが、本発明の口腔内崩壊錠では、それより20〜30%低い打錠圧で必要な錠剤硬度を有する錠剤が製造できる。他の錠剤硬度を得る場合でも、本発明の口腔内崩壊は、20〜30%低い打錠圧で必要な錠剤硬度を有する錠剤が製造できる。
また、打錠のための装置は、例えば菊水製作所製のELS−P1を用いることができる。
【0022】
本発明の口腔内崩壊錠は、従来のアマリール(登録商標)錠剤とほぼ同じ処方を用いている。しかし、上記のように打錠圧を低くしても成形できることから、錠剤径を従来の錠剤より大きくすることもでき、これら2種類の剤形の識別性を高める効果も得られる。
【0023】
本発明の口腔内崩壊錠は、2型糖尿病の治療に用いられる。特に、食事療法・運動療法のみで十分な効果が得られない場合に有効である。
【0024】
本発明の口腔内崩壊錠は、従来のグリメピリド含有錠剤、例えばアマリール(登録商標)錠剤と同様の用法および用量で使用するのが好ましい。現在、アマリール(登録商標)錠剤では、通常、グリメピリドとして1日0.5〜1mgより開始し、1日1〜2回朝または朝夕、食前または食後に経口投与する。維持量は通常1日0.5〜4mgで、必要に応じて適宜増減する。1日最高投与量は6mgまでとされている。
【実施例】
【0025】
次に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
[製剤例]グリメピリド口腔内崩壊錠の処方例
グリメピリド口腔内崩壊錠0.5mg錠の白色素錠の処方例を以下に示す。
【表1】

【0027】
[実施例1]グリメピリドの口腔内崩壊錠0.5mg錠の製造
1)有効成分のグリメピリド、ならびに、添付剤の乳糖水和物、デンプングリコール酸ナトリウム、結晶セルロースおよびポビドンを、上記処方にしたがって準備し、高速混合機中で混合した。
2)上記混合物に、さらに、適量の精製水を加えて、高速混合機中で混練し、顆粒状の薬剤を得た。
3)篩過装置により、湿式で、顆粒のサイズを整えた。
4)湿式で整えた顆粒を、流動層乾燥機で乾燥した。
5)適量の結晶セルロース、デンプングリコール酸ナトリウムおよび色素を再度顆粒に加えた。
6)さらに、篩過装置により、顆粒のサイズを整えた。
7)ボーレ型混合機(PM1000、1200L)を用いて上記材料を混合し打錠用顆粒を得た。
8)錠剤全体の0.15質量%未満のステアリン酸マグネシウムを、錠剤製造機(菊水製作所ELS−P1)を用いて、打錠用杵と臼に付着させ、上記打錠用顆粒を圧縮打錠し、目的のグリメピリドの口腔内崩壊錠の0.5mg錠を製造した。
【0028】
[実施例2]グリメピリドの口腔内崩壊錠1mg錠および3mg錠の製造
実施例1と同様の工程により、グリメピリドの口腔内崩壊錠1mg錠および3mg錠を製造した。これらグリメピリドの口腔内崩壊錠1mg錠および3mg錠は、ステアリン酸マグネシウムの含量が0.15質量%未満である他は、それぞれ従来のアマリール1mg錠および3mg錠と同じ含有比率の処方を用いて製造した。
【0029】
[実施例3]崩壊性試験:本発明のグリメピリド口腔内崩壊錠と従来のアマリール錠剤との比較
本発明のグリメピリド口腔内崩壊錠と、従来のアマリール錠剤の崩壊性および錠剤硬度を、以下の2つの方法、すなわち、口腔内崩壊錠崩壊試験器を用いた方法、および、日本薬局方第15改正に記載の崩壊試験法(補助板なし)で測定した。その結果を、それぞれ、表1および表2に示す。それぞれ数値は崩壊時間(単位:秒)を示し、それぞれ6回の試験を行った。また各錠剤の錠剤硬度(単位:kgf)を、錠剤硬度計(TS−75N、岡田精工製)を用いて測定した。
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
これら2つの崩壊性確認試験のいずれにおいても、本発明の口腔内崩壊錠は、従来の錠剤より短時間で崩壊し、同時に、錠剤硬度はほとんど変わらない錠剤が得られたことがわかった。
【0033】
[実施例4]保管中の錠剤硬度変化の試験:本発明のグリメピリド口腔内崩壊錠と、市販のグリメピリドの口腔内崩壊錠との比較
本発明のグリメピリド口腔内崩壊錠の1mg錠(sakk)と、現在市販されている4種類全てのグリメピリド口腔内崩壊錠(A〜D)の各1mg錠について、室温保存を模した25℃、湿度60%の条件下の保管中での錠剤硬度(kg)の変化、および、より苛酷な30℃、湿度80%の条件下の保管中の錠剤硬度(kg)の変化を、比較検討した。
各錠剤の錠剤硬度(単位:kg)を、錠剤硬度計(TS−75N、岡田精工製)を用いて測定した。試験は、それぞれ10回ずつ行い、結果はその平均値を表す。
【0034】
その結果、図1に示すように、室温保存を模した25℃、湿度60%の条件下の保管では、本発明のグリメピリド口腔内崩壊錠は、保管期間の7日間にわたり、錠剤硬度の変化は±0〜+6%とほぼ一定しており、硬度は維持されていた。
これに対して、市販のグリメピリド口腔内崩壊錠(A〜D)ではいずれも保管後1日目に錠剤硬度が13〜33%急激に減少し、7日後には22〜36%の減少がみられた。
【0035】
また、図2に示すように、より苛酷な30℃、湿度80%の条件下での保管では、いずれの口腔内崩壊錠も30分後から錠剤硬度の急激な低下がみられたが、その変化の程度は市販のグリメピリド口腔内崩壊錠(A〜D)が51〜64%の減少であったのに対し、本発明のグリメピリド口腔内崩壊錠は22%の減少にとどまった。さらにこの苛酷条件下の保管の24時間後でも、市販のグリメピリド口腔内崩壊錠(A〜D)が67〜76%の減少であったのに対し、本発明のグリメピリド口腔内崩壊錠は43%の減少にとどまった。
【0036】
以上のように、本発明のグリメピリドの口腔内崩壊錠は、市販のグリメピリドの口腔内崩壊錠のいずれかに比べて、室温条件下および苛酷条件下のいずれの保管条件でも、より優れた錠剤硬度を有することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリメピリド、結晶セルロース、乳糖水和物、ポピドン、デンプングリコール酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムを含み、ここでステアリン酸マグネシウムの含量が0.15質量%未満であることを特徴とする、グリメピリド含有口腔内崩壊錠。
【請求項2】
スステアリン酸マグネシウムを打錠用顆粒中に添加せず、打錠機の打錠用杵臼に付着させて、打錠することにより製造されることを特徴とする、請求項1記載のグリメピリド含有口腔内崩壊錠。
【請求項3】
ステアリン酸マグネシウムを打錠用顆粒中に添加せず、打錠機の打錠用杵臼に付着させて、打錠する工程を含む、請求項1または2記載のグリメピリド含有口腔内崩壊錠の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−35826(P2013−35826A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−152025(P2012−152025)
【出願日】平成24年7月6日(2012.7.6)
【出願人】(596124690)サノフィ・アベンティス株式会社 (1)
【Fターム(参考)】