説明

グリース組成物

【課題】樹脂部材同士または、樹脂部材と金属部材との摺動部分に用いるグリース組成物において、潤滑機能(動摩擦係数が低いこと)と共に静止機能(静摩擦係数が高いこと)を併せ持つ潤滑グリース組成物を提供すること。
【解決手段】樹脂部材同士または樹脂部材と金属部材との摺動部分に用いるグリース組成物において、基油、増稠剤、固体潤滑剤としてメラミンシアヌレート(MCA)とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含み、該MCAと該PTFEの合計の配合量が全グリース重量に対して0.1〜25wt%の範囲であり、MCAとPTFEの配合比率が、MCA/PTFE(重量比)=0.05〜50の範囲であることを特徴とするグリース組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物に関し、詳しくは、樹脂部材同士または、樹脂部材と金属部材との摺動部分に用いるグリース組成物において、潤滑機能(動摩擦係数が低いこと)と共に静止機能(静摩擦係数が高いこと)を併せ持つ潤滑グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から歯車、および摺動部に使用される潤滑剤組成物としてグリースが使用されているが、近年の自動車部品、家電製品、電子情報機器、OA機器などでは軽量化、低コスト化を目的として歯車、および摺動部に樹脂部材が使用されることが多くなってきている。また近年、自動車やOA機器の減速装置内の減速ギア部等において、静止時のすべり防止のため高い静摩擦係数が必要とされている。このような樹脂部材同士または、樹脂部材と金属部材との摺動部分に使用されるグリースには、潤滑機能(動摩擦係数が低いこと)と共に静止機能(静摩擦係数が高いこと)を併せ持つことが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1で樹脂製摺動部材同士または、樹脂製摺動部材と金属製摺動部材との間の摩擦係数を低減するグリース組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2は固体潤滑剤としてメラミン樹脂、シリコーン樹脂、パラフィンワックスおよびフッ素樹脂を開示している。
【特許文献1】特開2006−89575号公報
【特許文献2】特開平11−332177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術では、静止機能の部分では十分な機能を有していないという問題がある。
【0006】
また、特許文献2には、固体潤滑剤としてメラミン樹脂が記載されているが、メラミンシアヌレート(MCA)についての記載がない。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決するものであり、本発明の課題は、樹脂部材同士または、樹脂部材と金属部材との摺動部分に用いるグリース組成物において、潤滑機能(動摩擦係数が低いこと)と共に静止機能(静摩擦係数が高いこと)を併せ持つ潤滑グリース組成物を提供することにある。
【0008】
また本発明の他の課題は、以下の記載により明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0010】
(請求項1)
樹脂部材同士または樹脂部材と金属部材との摺動部分に用いるグリース組成物において、基油、増稠剤、固体潤滑剤としてメラミンシアヌレート(MCA)とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含み、該MCAと該PTFEの合計の配合量が全グリース重量に対して0.1〜25wt%の範囲であり、MCAとPTFEの配合比率が、MCA/PTFE(重量比)=0.05〜50の範囲であることを特徴とするグリース組成物。
【0011】
(請求項2)
前記基油は、合成炭化水素油、エステル系合成油、エーテル系合成油、グリコール系合成油の少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1記載のグリース組成物。
【0012】
(請求項3)
前記増稠剤は、金属石けん系、複合金属石けん系の少なくとも1種からなる増稠剤であることを特徴とする請求項1又は2記載のグリース組成物。
【0013】
(請求項4)
動摩擦係数が0.048以下であり、静摩擦係数が0.053以上であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のグリース組成物。
【0014】
(請求項5)
樹脂部材同士または樹脂部材と金属部材との摺動部分に用いるグリース組成物において、基油、増稠剤、固体潤滑剤を含み、動摩擦係数が0.048以下であり、静摩擦係数が0.053以上であることを特徴とするグリース組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、樹脂部材同士または、樹脂部材と金属部材との摺動部分に用いるグリース組成物において、潤滑機能(動摩擦係数が低いこと)と共に静止機能(静摩擦係数が高いこと)を併せ持つ潤滑グリース組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0017】
本発明のグリース組成物は、樹脂部材同士または樹脂部材と金属部材との摺動部分に用いるグリース組成物において、基油、増稠剤、固体潤滑剤としてメラミンシアヌレート(MCA)とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含み、該MCAと該PTFEの合計の配合量は全グリース重量に対して0.1〜25wt%の範囲とし、MCAとPTFEの配合比率は、MCA/PTFE(重量比)=0.05〜50の範囲であることを特徴とする。
【0018】
本発明に用いられる基油としては、例えば、合成炭化水素油、エステル系合成油、エーテル系合成油、グリコール系合成油から選ばれる少なくとも1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0019】
合成炭化水素油としては、例えば、ポリ−α−オレフィン(PAO)、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどから選ばれる少なくとも1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0020】
エステル系合成油としては、例えば、ジエステルやポリオールエステル、芳香族エステル等のエステル油などから選ばれる少なくとも1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0021】
エーテル系合成油としては、例えば、アルキルジフェニルエーテル等などから選ばれる少なくとも1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0022】
グリコール系合成油としてはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどから選ばれる少なくとも1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0023】
本発明に用いられる基油としては、樹脂に対する影響の少ない(劣化させにくい)合成炭化水素油が好ましく、より好ましくはPAOである。
【0024】
本発明に用いられる増稠剤としては、例えば、金属石けん、金属複合石けんが挙げられ、金属石けんとしては、例えば、Li石けん、Ca石けん、アルミニウム石けんなどが挙げられ、Li石けんとしては、例えば、12−ヒドロキシステアリン酸やステアリン酸を使用したものなどが挙げられる。また、金属複合石けんとしては、例えば、Li複合石けん、Ca複合石けん、Ba複合石けんなどが挙げられる。
【0025】
本発明において、ウレア化合物を用いると熱や時間とともに硬化するものが発生するという問題があるので、好ましくない。
【0026】
本発明に用いられる増稠剤としては、Li石けんが好ましい。
【0027】
本発明において、固体潤滑剤は、MCAとPTFEを併用し、その配合比率および配合量を特定の範囲とすることで、潤滑機能(低動摩擦係数)と共に静止機能(高静摩擦係数)を併せ持つことが可能となる。
【0028】
MCAとPTFEの配合比率は、MCA/PTFE(重量比)=0.05〜50の範囲であり、好ましくは 0.1〜20の範囲である。
【0029】
0.05未満であると、静摩擦係数が低くなってしまい、必要な静止機能が得られず、50以上であると静摩擦係数が高くなるが、動摩擦係数も高くなってしまい、必要な潤滑機能が得られない。
【0030】
固体潤滑剤であるMCAとPTFEの合計の配合量は全グリース重量に対して0.1〜25wt%の範囲であり、好ましくは1〜8wt%の範囲であり、より好ましくは6〜8wt%の範囲である。
【0031】
0.1wt%未満であると、静摩擦係数が低くなってしまい、必要な静止機能が得られない。また固体潤滑剤の機能を発揮しない。25wt%より多いと、グリース組成物が硬くなりすぎるため、動摩擦係数が高くなってしまい、必要な潤滑機能が得られない。
【0032】
MCAはメラミンとイソシアヌル酸の付加物であることから、特開平11−332177号公報に記載のメラミン樹脂とは異なる。
【0033】
本発明のグリース組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で酸化防止剤や極圧剤、防錆剤、腐食防止剤、粘度指数向上剤、油性剤等を適宜選択して添加することができる。
【0034】
酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)などのフェノール系や、アルキルジフェニルアミン(アルキル基は炭素数4〜20のもの)、トリフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、フェノチアジン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン、フェニチアジン、アルキル化フェノチアジンなどのアミン系酸化防止剤などが挙げられ、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0035】
極圧添加剤としては、例えば、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステルアミン塩などのリン系化合物、スルフィド類、ジスルフィド類などの硫黄系化合物、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニルなどの塩素系化合物、及びジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTP)などの金属有機化合物などが挙げられる。
【0036】
防錆剤としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸石けん、アルキルスルホン酸塩、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0037】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾールやベンゾイミダゾール、チアジアゾールなどが挙げられる。
【0038】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、エチレン-プロピレン共重合体、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、スチレン-イソプレン共重合体水素化物などが挙げられる。
【0039】
油性剤としては、例えば、脂肪酸、高級アルコール、多価アルコール、多価アルコールエステル、脂肪族エステル、脂肪族アミン、脂肪酸モノグリセライドなどが挙げられる。
【0040】
本発明のグリース組成物を用いて潤滑する樹脂部材の樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ABS樹脂(ABS)、ポリアセタール(POM)、ナイロン(PA)、ポリカーボネート(PC)、フェノール樹脂(PF)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等が挙げられる。
【0041】
本発明のグリース組成物は、樹脂部材同士または樹脂部材と金属部材との摺動において、動摩擦係数が0.048以下であり、静摩擦係数が0.053以上となる物性を有するものが好ましい。
【0042】
動摩擦係数および静摩擦係数は以下の試験方法により測定される。
【0043】
(試験方法)
動摩擦係数、静摩擦係数は、金属プレート上にグリースを塗布し、上から樹脂製POM(ポリアセタール)ボールを押しつけ往復動させる。往復摺動させた時の樹脂製POMボールと金属プレートの間に発生する摩擦力から摩擦係数を測定した。
【0044】
(測定条件)
試験条件:上部試験片 :POMボール(直径10mm)(樹脂製ボール)
下部試験片 :S45Cプレート(金属プレート)
試験荷重 :3kgf
グリース塗布量:0.05g
摺動速度 :1mm/sec
試験温度 :80℃
摺動距離 :10mm
【0045】
本発明に係るグリース組成物は、複写機、プリンター等の事務機器用部品、減速機・増速機、ギヤ、チェーン、モーター等の動力伝達装置、走行系部品、ABS等の制御系部品、操舵系部品、変速機等の駆動系部品、パワーウィンドウモーター、パワーシートモーター、サンルーフモーター等の自動車補強部品、電子情報機器、携帯電話等のヒンジ部品、食品・薬品工業、鉄鋼、建設、ガラス工業、セメント工業、フィルムテンター等化学・ゴム・樹脂工業、環境・動力設備、製紙・印刷工業、木材工業、繊維・アパレル工業における各種部品や相対運動する機械部品等に広く適用可能であり、また、転がり軸受、スラスト軸受、動圧軸受、樹脂軸受、直動装置等の軸受等にも適用可能である。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0047】
実施例1
<配合成分とその配合量>
(1)基油
ポリ−α−オレフィン(イオネスオリゴマー社製「DURASYN 166」)
80重量%
(2)増稠剤
Li石けん(勝田化工社製「Li−OHST」) 8重量%
(3)固体潤滑剤
MCA(日産化学工業社製「MC−6000」) 10重量%
PTFE(住友スリーエム社製「ダイニオン TF9207」) 1重量%
(4)酸化防止剤
フェニルナフチルアミン(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製
「イルガノックス L06」) 1重量%
【0048】
<グリースの調製>
上記基油及び増稠剤を混合撹拌釜に配合し、加熱攪拌した。溶融温度まで加熱攪拌した
後、冷却を行った。生成したゲル状物質に各種添加剤を加え、攪拌した後、ロールミルに
通し、グリース組成物を調製した。
【0049】
得られたグリース組成物について、静摩擦係数、動摩擦係数および混和稠度を測定した。
【0050】
その結果を表1に示す。
【0051】
<測定方法>
(稠度)
試験温度:25℃
試験方法:JIS K2220に準拠し、稠度測定を行った。
【0052】
(動摩擦係数および静摩擦係数)
試験方法:金属プレート上にグリースを塗布し、上から樹脂製のボールを押しつけ往復動させる。往復摺動させた時の樹脂製ボールと金属プレートの間に発生する摩擦力から摩擦係数を測定した。
試験条件:上部試験片 :POMボール(直径10mm)(樹脂製ボール)
下部試験片 :S45Cプレート(金属プレート)
試験荷重 :3kgf
グリース塗布量:0.05g
摺動速度 :1mm/sec
試験温度 :80℃
摺動距離 :10mm
【0053】
実施例2−3
実施例1において、基油の配合量と、固体潤滑剤であるMCAおよびPTFEの配合量を表1に示すように代えた以外は同様にして評価した結果を表1に示す。
【0054】
実施例4
実施例1において、基油の配合量と、増稠剤の配合量と、固体潤滑剤であるMCAおよびPTFEの配合量を表1に示すように代えた以外は同様にして評価した結果を表1に示す。
【0055】
比較例1−3
実施例1において、基油の配合量と、固体潤滑剤であるMCAおよびPTFEの配合量を表1に示すように代えた以外は同様にして評価した結果を表1に示す。
【0056】
比較例4
実施例1において、基油の配合量および固体潤滑剤であるPTFEの配合量を表1に示すように代えた以外は同様にして評価した結果を表1に示す。
【0057】
比較例5
実施例1において、基油の配合量と、増稠剤の配合量と、固体潤滑剤であるMCAおよびPTFEの配合量を表1に示すように代えた以外は同様にして評価した結果を表1に示す。
【0058】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂部材同士または樹脂部材と金属部材との摺動部分に用いるグリース組成物において、基油、増稠剤、固体潤滑剤としてメラミンシアヌレート(MCA)とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含み、該MCAと該PTFEの合計の配合量が全グリース重量に対して0.1〜25wt%の範囲であり、MCAとPTFEの配合比率が、MCA/PTFE(重量比)=0.05〜50の範囲であることを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
前記基油は、合成炭化水素油、エステル系合成油、エーテル系合成油、グリコール系合成油の少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記増稠剤は、金属石けん系、複合金属石けん系の少なくとも1種からなる増稠剤であることを特徴とする請求項1又は2記載のグリース組成物。
【請求項4】
動摩擦係数が0.048以下であり、静摩擦係数が0.053以上であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のグリース組成物。
【請求項5】
樹脂部材同士または樹脂部材と金属部材との摺動部分に用いるグリース組成物において、基油、増稠剤、固体潤滑剤を含み、動摩擦係数が0.048以下であり、静摩擦係数が0.053以上であることを特徴とするグリース組成物。

【公開番号】特開2009−13351(P2009−13351A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178891(P2007−178891)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000102670)NOKクリューバー株式会社 (36)
【Fターム(参考)】