説明

グリーンノート生成剤の製造方法並びにそのグリーンノート生成剤を用いたグリーンノート生成方法及びグリーンノートが付与された食品又は飲料。

【課題】食品工業において安全性が確保され得る微生物にてヒドロペルオキシドリアーゼ又はリポキシゲナーゼとヒドロペルオキシドリアーゼを生産することにより、グリーンノート生成剤を工業的に製造する方法を提供すること。また、そのような製造方法によって得られたグリーンノート生成剤を用いて、グリーンノートを生成せしめる方法、及びグリーンノートが付与された食品又は飲料を提供すること。
【解決手段】アスペルギルス(Aspergillus)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、リゾプス(Rhizopus)属、ペニシリウム(Penicillium)属及びトリコデルマ(Tricoderma)属からなる群より選ばれた少なくとも1種の糸状菌を固体培養乃至は液体培養して、ヒドロペルオキシドリアーゼ活性を有する酵素又はリポキシゲナーゼ活性及びヒドロペルオキシドリアーゼ活性を有する酵素を含有するグリーンノート生成剤を製造した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリーンノート生成剤の製造方法並びにそのグリーンノート生成剤を用いたグリーンノート生成方法及びグリーンノートが付与された食品又は飲料に係り、特に、糸状菌由来のヒドロペルオキシドリアーゼ活性を有する酵素又はリポキシゲナーゼ活性及びヒドロペルオキシドリアーゼ活性を有する酵素を利用したグリーンノート生成剤の製造方法と、そのような製造方法によって得られたグリーンノート生成剤を用いたグリーンノートを生成する方法及びグリーンノートが付与された食品又は飲料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
「グリーンノート(green note)」は、植物の葉等をちぎったり、揉んだりしたとき等に生じるグリーンな香調(青い香り)である。このグリーンノートを有する化合物としては、n−ヘキサナール、ヘキサノール、シス−3−ヘキセナール、シス−3−ヘキセノール、シス−3−ヘキセニルアセテート、フェニルアセトアルデヒド、ジメチルテトラハイドロベンズアルデヒド、メチルフェニルカルビニルアセテート、メチルオクチンカーボネート等の様々な化合物が知られており、中でも、ヘキサナール、ヘキサノール、シス−3−ヘキセナール、シス−3−ヘキセノール、ノナジエナール、ノナジエノール、シス−3−ノネナール、シス−3−ノネノール等のC6(炭素数:6)若しくはC9の脂肪族アルコールや脂肪族アルデヒドは、爽やかな香りを呈するところから、グリーンノートを付与するための香料乃至はフレーバーとして、用いられている。
【0003】
このグリーンノートを有する天然香料としては、ミント油のような精油を蒸留したもの等があるが、天然には微量しか存在しないため、天然物から抽出した香料は非常に高価なものとなっている。
【0004】
一方、C6若しくはC9の脂肪族アルデヒドは、不飽和脂肪酸を、リポキシゲナーゼ活性及びヒドロペルオキシドリアーゼ活性を有する酵素で過酸化及び分解することによって製造され得ることが知られており、特許文献1には、大豆の粉、小麦粉、トウモロコシの粉砕した芽等の植物に由来する酵素により、不飽和脂肪酸を分解して、C6〜C10のアルデヒド等のグリーンな香りを呈する芳香物質を製造する方法が、また、特許文献2には、スミレの葉等の植物に存在する酵素を用いて不飽和脂肪酸を分解する方法が、それぞれ、明らかにされている。
【0005】
しかしながら、グリーンノートを生成するためのこれらの酵素、特にヒドロペルオキシドリアーゼを微生物から得ている報告はなく、工業的生産のためには、動植物に由来する酵素を用いる必要があったのである。特に、かかる酵素を食品工業において使用する場合にあっては、植物・動物由来の酵素の起源が何であるかが、大きな問題とされているのである。
【0006】
【特許文献1】特表平8−504084号
【特許文献2】特開平11−221091号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、食品工業において安全性が確保され得る微生物にてヒドロペルオキシドリアーゼ又はリポキシゲナーゼとヒドロペルオキシドリアーゼを生産することにより、グリーンノート生成剤を工業的に製造する方法を提供することにあり、また、他の課題とするところは、そのような製造方法によって得られたグリーンノート生成剤を用いて、グリーンノート(具体的には、グリーンノートを有する化合物)を生成せしめる方法、及びグリーンノートが付与された食品又は飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明者らは、かかる課題を解決するために、ヒドロペルオキシドリアーゼの供給源を微生物に求め、鋭意研究した結果、食品工業用に一般的に用いられており、食の安全性を確保することが可能な糸状菌、具体的には、アスペルギルス(Aspergillus)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、リゾプス(Rhizopus)属、ペニシリウム(Penicillium)属及びトリコデルマ(Tricoderma)属に属する糸状菌を固体培養乃至は液体培養した培養産物に、ヒドロペルオキシドリアーゼ活性又はリポキシゲナーゼ活性とヒドロペルオキシドリアーゼ活性の両方が存在することを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明は、アスペルギルス(Aspergillus)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、リゾプス(Rhizopus)属、ペニシリウム(Penicillium)属及びトリコデルマ(Tricoderma)属からなる群より選ばれた少なくとも1種の糸状菌を固体培養乃至は液体培養して、ヒドロペルオキシドリアーゼ活性を有する酵素又はリポキシゲナーゼ活性及びヒドロペルオキシドリアーゼ活性を有する酵素を産生せしめた後、その培養物を抽出して、かかる酵素を取り出すことを特徴とするグリーンノート生成剤の製造方法を、その要旨とするものである。
【0010】
なお、このような本発明に従うグリーンノート生成剤の製造方法において、前記糸状菌としては、有利には、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)が用いられることとなる。
【0011】
また、本発明は、前記グリーンノート生成剤を、不飽和脂肪酸又は過酸化不飽和脂肪酸に接触せしめることにより、グリーンノートを生成させることを特徴とするグリーンノート生成方法をも、その要旨とするものである。
【0012】
そして、このような本発明に従うグリーンノート生成方法における好ましい態様の一つによれば、前記不飽和脂肪酸として、リノレン酸又はリノール酸が用いられる。
【0013】
さらに、本発明は、前記グリーンノート生成剤を、植物又はその組織に接触せしめることにより、グリーンノートを生成させることを特徴とするグリーンノート生成方法も、その要旨とするものである。
【0014】
加えて、本発明は、前記グリーンノート生成剤を、食品又は飲料に作用せしめて得られた、グリーンノートが付与された食品又は飲料をも、その要旨とするものである。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明に従うグリーンノート生成剤の製造方法にあっては、微生物が産生する酵素を取り出すようにしているところから、グリーンノートの工業的な製造が極めて有利に実現され得るのである。また、ヒドロペルオキシドリアーゼ等を産生する微生物として、食品工業用に一般的に用いられていると共に、食の安全性を確保することが可能な糸状菌、アスペルギルス(Aspergillus)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、リゾプス(Rhizopus)属、ペニシリウム(Penicillium)属及びトリコデルマ(Tricoderma)属からなる群より選ばれた少なくとも1種の糸状菌が、採用されるところから、製造されるグリーンノート生成剤は、安全性に優れたものとなっており、食品や飲料に対しても、有利に使用され得るものとなっているのである。
【0016】
なお、本発明に従うグリーンノート生成剤の製造方法の好ましい態様の一つに従って、前記糸状菌として、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)を用いると、リポキシゲナーゼ活性及びヒドロペルオキシドリアーゼ活性の高いグリーンノート生成剤を製造することができる。
【0017】
また、本発明に係るグリーンノート生成方法に従って、前記グリーンノート生成剤を、不飽和脂肪酸や過酸化不飽和脂肪酸、植物又はその組織に接触せしめることにより、安全性に優れたグリーンノートを容易に生成させることができ、そしてその生成されたグリーンノートは、食品や飲料のフレーバーとして、有利に利用され得るのである。
【0018】
なお、本発明に従うグリーンノート生成方法における好ましい態様の一つに従って、前記不飽和脂肪酸として、リノレン酸又はリノール酸を用いれば、爽やかな香りのグリーンノートを生成せしめることができる。
【0019】
さらに、前記グリーンノート生成剤を、食品又は飲料に添加すれば、香料を添加することなく、食品又は飲料に、グリーンノートを付与することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
ところで、かかる本発明において、ヒドロペルオキシドリアーゼやリポキシゲナーゼの供給源として用いられる微生物は、食品工業用に一般的に用いられており、食の安全性を確保することが可能なアスペルギルス(Aspergillus)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、リゾプス(Rhizopus)属、ペニシリウム(Penicillium)属及びトリコデルマ(Tricoderma)属の糸状菌であって、入手が容易なものである。より具体的に、アスペルギルス(Aspergillus)属としては、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)を、リゾムコール(Rhizomucor)属としては、リゾムコール・ミーヘイ(Rhizomucor meihei)を、リゾプス(Rhizopus)属としては、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)を、ペニシリウム(Penicillium)属としては、ペニシリウム・シトリナム(Penicillium citrinum)を、トリコデルマ(Tricoderma)属としては、トリコデルマ・ロンギブラキアタム(Tricoderma longibrachiatum)を、それぞれ、例示することができ、これらの糸状菌のうちの1種又は2種以上が適宜に選択されて、用いられる。そして、このような糸状菌を用いて培養することにより、グリーンノートを生成するためのヒドロペルオキシドリアーゼのみが、或いはヒドロペルオキシドリアーゼとリポキシゲナーゼの両方が生産され得ることとなるのである。
【0021】
なお、上記糸状菌の培養方法としては、好気的培養法であれば、特に制約はなく、固体培養及び液体培養の何れの方法であっても採用可能であるが、本発明においては、培養管理と共に、使用する糸状菌によるヒドロペルオキシドリアーゼの生産性の面等から、固体培養が有利に採用されることとなる。
【0022】
そして、本発明において、使用する培地としては、前記の糸状菌が良好に成育し得るものであれば、特に制限はなく、採用する培養方法に応じた公知の固体培地乃至は液体培地が、適宜に採用されることとなる。通常、固体培養では、小麦フスマが培地として用いられることとなる。一方、液体培養では、炭素源として、デンプン等の多糖類、グルコース、フルクトース、シュークロース等の少糖類を用いることができ、窒素源としては、ペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー、肉エキス、尿素等の有機窒素、及び塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等のアンモニウム塩、更には他の無機窒素化合物を用いることができる。また、無機塩としては、リン酸塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等を用いることが出来る。加えて、補助添加物として、小麦フスマ等の天然固体原料を用い、それを液体培地に添加することも可能である。
【0023】
なお、上記糸状菌の培養に際して、その培養期間中の培養温度としては、一般に20℃〜40℃程度、好ましくは25℃〜35℃程度の範囲の温度で管理されることとなる。また、培地pHにあっては、適宜に設定され得るものの、一般に、2〜8程度、好ましくは3〜6程度の範囲内に維持されることとなる。更に、培養時間は、2〜6日程度でよい。
【0024】
このようにして、前述の糸状菌が培養されることによって、ヒドロペルオキシドリアーゼのみが、或いはヒドロペルオキシドリアーゼとリポキシゲナーゼの両方が生産され、そして、生産された酵素は、固体培養においては、その培養物を、常法に従って水により抽出して、粗酵素液として得られる。また一方、液体培養の場合には、その培養液を常法に従って濾過又は遠心分離することにより、粗酵素液が得られる。
【0025】
また、以上のようにして得られた粗酵素液の精製は、公知の方法に従って行うことができるのである。例えば、硫酸アンモニウム等による塩析、有機溶媒等による沈殿法、カラムクロマトグラフィー、ゲル濾過、電気泳動等を、適宜組み合わせて精製することができ、これによって、精製ヒドロペルオキシドリアーゼのみを、又は精製ヒドロペルオキシドリアーゼと精製リポキシゲナーゼを共に得ることができる。また、この精製したヒドロペルオキシドリアーゼやリポキシゲナーゼは、必要に応じて、脱水或いは乾燥を施すことにより、酵素粉末として採取することができる。また、場合によっては、限外濾過膜により濃縮した粗酵素液を、そのまま、或いは脱水・乾燥して、標品とすることも可能である。
【0026】
このようにして製造されたヒドロペルオキシドリアーゼ活性のみを有する酵素剤やリポキシゲナーゼ活性及びヒドロペルオキシドリアーゼ活性を有する酵素剤は、グリーンノートを生成するグリーンノート生成剤として、用いられるのである。なお、グリーンノート生成剤は、上述のように、精製物であっても、或いは粗製物であってもよく、また、脱水・乾燥の施された粉末状のものであっても、或いは脱水・乾燥の施されていない溶液状のものであってもよい。
【0027】
そして、かかるグリーンノート生成剤を用いて、グリーンノートを生成する(具体的には、グリーンノートを有する化合物を生成する)には、ヒドロペルオキシドリアーゼ活性を少なくとも有するグリーンノート生成剤を、不飽和脂肪酸や過酸化不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸を含有する植物又はその組織、食品、飲料等に、添加,混合する等して、接触せしめるようにすればよい。こうすることによって、リポキシゲナーゼが存在する場合には、リポキシゲナーゼが、先ず、不飽和脂肪酸に作用して、不飽和脂肪酸の過酸化物が生成される。そして、不飽和脂肪酸の過酸化物(過酸化不飽和脂肪酸)にヒドロペルオキシドリアーゼが作用して、グリーンノート(青い香り)を有するアルデヒド類が生成されるのである。特に、本発明のグリーンノート生成剤を、食品や飲料に作用せしめた場合には、食品や飲料中の不飽和脂肪酸が過酸化及び分解して、グリーンノートが付与された乃至は増強された食品や飲料が有利に製造されることとなるのである。なお、グリーンノート生成剤にリポキシゲナーゼ活性がない場合やリポキシゲナーゼ活性が弱い場合には、リポキシゲナーゼが添加されることが望ましい。
【0028】
ここで、本発明に従うグリーンノート生成剤に接触せしめられ、グリーンノート(グリーンノートを有する化合物)を生成する不飽和脂肪酸としては、炭素数が18以上の高級不飽和脂肪酸を挙げることができる。特に、これらの中でも、爽やかな香りのグリーンノートを生成するリノレン酸やリノール酸が、好適である。また、過酸化不飽和脂肪酸としては、リノレン酸又はリノール酸の過酸化物である、13(S)−ヒドロペルオキシ−(9Z,11E,15Z)−オクタデカトリエン酸又は13(S)−ヒドロペルオキシ−(9E,11Z)−オクタデカジエン酸が、好適である。更にまた、植物やその組織、食品、飲料としては、上述せる如き不飽和脂肪酸を含有しているものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、茶葉、日本茶、紅茶、焼酎等を挙げることができる。
【0029】
なお、かかるグリーンノート生成方法において、グリーンノート生成剤の添加量は、グリーンノート生成剤の酵素活性のレベル等に応じて適宜に設定され得るものの、不飽和脂肪酸や過酸化不飽和脂肪酸に直接添加する場合には、好ましくは、不飽和脂肪酸や過酸化不飽和脂肪酸の重量の0.05〜1%、更に好ましくは0.01〜0.1%となる割合で用いられる。また、植物やその組織、食品、飲料に対して添加する場合にも、好ましくは、それらの重量の0.05〜1%、更に好ましくは0.01〜0.1%となる割合で用いられる。
【0030】
また、本発明に従ってグリーンノートを生成するに際し、その温度やpH等の各種条件にあっても、グリーンノート生成剤の酵素活性のレベル等に応じて適宜に設定され得る。温度としては、一般には、20〜60℃、好ましくは25〜35℃程度の範囲が採用される。また、pHにあっては、一般に、5.0〜7.0程度、好ましくは5.5〜6.5程度の範囲が採用される。更に、反応時間としては、一般に30分〜10時間程度、好ましくは、1時間〜2時間が採用される。
【0031】
かくして、グリーンノート生成剤が不飽和脂肪酸等に接触せしめられることによって、グリーンノートが生成されることとなるのであるが、本発明に従って生成されるグリーンノートを有する化合物としては、例えば、n−ヘキサナール、シス−3−ヘキセナール等が挙げられる。更に、この生成したアルデヒドに、酵母由来のアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)を添加することにより、爽やかな香りのヘキサノール、シス−3−ヘキセノールを生成することも可能である。
【0032】
そして、このようにして生成されるグリーンノートは、食品工業において食の安全性が確保され得る糸状菌由来の酵素から生成されるものであるため、食品や飲料のフレーバーとして、有利に採用され得るのである。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等が加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0034】
−ヒドロペルオキシドリアーゼ活性の測定方法−
ヒドロペルオキシドリアーゼ活性を、J. Agric. Food Chem. 2004, 52, p2315-2321に記載されたGhitaらの方法に準じて測定した。即ち、NADH(還元ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の酸化状態の下で、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)が、ヒドロペルオキシドに対するヒドロペルオキシドリアーゼの反応生成物であるアルデヒドを変化させる反応を、340nmの吸光度をモニターすることによって、測定した。
【0035】
より具体的には、0.2Mリン酸緩衝液(pH6)の1.8mL、2.2mMのNADHの300μL、200unit/mLのADHの200μL、及び0.1w/w%のグリーンノート生成剤水溶液(酵素液)300μLを、マグネチック攪拌子と共に、1cm厚さの容器に入れて、攪拌しながら30℃に保った後、分光光度計(日立製U−2000)を用いて、340nmにおける吸光度の測定を開始した。そして、そこに、不飽和脂肪酸又は0.56mMの過酸化不飽和脂肪酸の溶液(基質溶液)を加えて、300秒間以上、吸光度を測定し続けた。
【0036】
かかる測定方法により、不飽和脂肪酸又は過酸化不飽和脂肪酸から生成されるアルデヒドの定量を行うことができ、基質として不飽和脂肪酸を用いた場合には、リポキシゲナーゼ活性を含むヒドロペルオキシドリアーゼ活性を測定することが可能である一方、基質として過酸化不飽和脂肪酸を用いた場合には、ヒドロペルオキシドリアーゼ活性のみを測定することが可能である。なお、不飽和脂肪酸としては、リノレン酸又はリノール酸を用いる一方、過酸化物としては、リノレン酸又はリノール酸の過酸化物である、13(S)−ヒドロペルオキシ−(9Z,11E,15Z)−オクタデカトリエン酸又は13(S)−ヒドロペルオキシ−(9E,11Z)−オクタデカジエン酸を用いた。
【0037】
実施例 1 (ヒドロペルオキシドリアーゼの量的比較)
グリーンノート生成剤として、アスペルギルス(Aspergillus)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、リゾプス(Rhizopus)属、ペニシリウム(Penicillium)属及びトリコデルマ(Tricoderma)属の糸状菌を、常法に従って、固体培養乃至は液体培養し、その培養物を抽出して得られた、以下の市販の粉末酵素剤(何れも、新日本化学工業株式会社製)を準備した。
(1)アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)から調製された粉末酵素剤:スミチームAC,スミチームACH,スミチームAGS,スミチームAP,スミチームAP2,スミチームARS,スミチームINS,スミチームINV,スミチームNLS,スミチームNX,スミチームPHY,スミチームPM,スミチームSPG,スミチームCTS
(2)アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)から調製された粉末酵素剤:スミチームAS,スミチームFP,スミチームGLL,スミチームL,スミチームLP,スミチームLPL
(3)リゾムコール・ミーヘイ(Rhizomucor meihei)から調製された粉末酵素剤:スミチームMMR
(4)リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)から調製された粉末酵素剤:スミチームMC,スミチームCU
(5)ペニシリウム・シトリナム(Penicillium citrinum)から調製された粉末酵素剤:スミチームNP
(6)トリコデルマ・ロンギブラキアタム(Tricoderma longibrachiatum)から調製された粉末酵素剤:スミチームX,スミチームC1,スミチームTG
【0038】
そして、上記(1)〜(6)の菌株により生産されるグリーンノート生成剤(酵素剤)のヒドロペルオキシドリアーゼ活性を、上記ヒドロペルオキシドリアーゼ活性の測定方法により測定した。その結果、上記(1)〜(6)の菌株から調製されたグリーンノート生成剤(酵素剤)は、何れも、ヒドロペルオキシドリアーゼ活性を有しており、グリーンノートを有するアルデヒドが生成されることがわかった。また、スミチームAGS及びスミチームINSは、ヒドロペルオキシドリアーゼ活性と共に、リポキシゲナーゼ活性を有していることもわかった。
【0039】
加えて、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来のグリーンノート生成剤を用いた場合の、過酸化不飽和脂肪酸から生成されるアルデヒド生成量(ヒドロペルオキシドリアーゼ活性)の平均値を100とし、他のグリーンノート生成剤の過酸化不飽和脂肪酸から生成されるアルデヒド生成量(リゾムコール属及びペニシリウム属以外はアルデヒド生成量の平均値)の相対値を算出して、図1に示した。
【0040】
かかる図1より明らかなように、上記(1)〜(6)の菌株から調製されたグリーンノート生成剤(酵素剤)のうち、特に、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来のグリーンノート生成剤(酵素剤)が、最も高い活性を示しており、工業生産において、最も有効であることが認められる。
【0041】
実施例 2 (不飽和脂肪酸を用いたグリーンノート官能試験)
上記実施例1において最も高い活性を示した糸状菌であるアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)を用い、この菌体希釈液の8mlを、小麦フスマ:10gからなる固体培地に摂取し、30℃で120時間培養した。その培養物を水で抽出した後、アルコール沈殿することにより、粉末状の酵素剤を得、これを、グリーンノート生成剤として使用した。
【0042】
かかるグリーンノート生成剤を、不飽和脂肪酸に接触せしめることにより、香気の変化が見られるか否かを評価した。具体的には、不飽和脂肪酸であるリノール酸が最終的に4μMとなるように、リノール酸2.3mgと、グリーンノート生成剤(酵素剤)の粉末20mgとを、pH6.0のリン酸緩衝液に混合し、その時に発生する香気の変化を、10人の被験者に評価してもらい、その結果を、グリーンノート生成剤を添加しない場合の結果と共に、下記表1に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
かかる表1から明らかなように、80%の被験者が、グリーンノート生成剤(酵素剤)を添加したリノール酸において香気の変化があり、青葉の香りがしたと評価しており、グリーンノートが効果的に生成されていることが、わかる。
【0045】
実施例 3 (食品及び飲料へのグリーンノートの付与試験)
一般的に家庭で飲用に利用されている煎茶葉を、5w/w%となるように熱湯に入れ、5分間浸漬して、取り出した。その後、得られたお茶を40℃程度まで冷却し、対液の0.1%となるように、上記実施例2で用いた粉末のグリーンノート生成剤(酵素剤)を添加した。攪拌を十分に行いながら、40℃で30分間程度反応させた後、80℃まで加熱することにより、酵素を失活させた。そして、10人の被験者に、グリーンノート生成剤(酵素剤)を添加した場合と無添加の場合の香りの違いを評価してもらい、その結果を、下記表2に示した。
【0046】
【表2】

【0047】
かかる表2から明らかなように、70%の被験者が、グリーンノート生成剤(酵素剤)を添加したお茶において、「渋い香りがする」、「青い香りがする」、「少し高級感のある香りがする」等のコメント共に、「グリーンな香気が増強する」と評価しており、グリーンノート生成剤により、飲料であるお茶においても、グリーンな香りが増強乃至は付与せしめられたことが、わかる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1において得られた、各菌株から調製されたグリーンノート生成剤(酵素剤)におけるアルデヒドの相対生成量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペルギルス(Aspergillus)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、リゾプス(Rhizopus)属、ペニシリウム(Penicillium)属及びトリコデルマ(Tricoderma)属からなる群より選ばれた少なくとも1種の糸状菌を固体培養乃至は液体培養して、ヒドロペルオキシドリアーゼ活性を有する酵素又はリポキシゲナーゼ活性及びヒドロペルオキシドリアーゼ活性を有する酵素を産生せしめた後、その培養物を抽出して、かかる酵素を取り出すことを特徴とするグリーンノート生成剤の製造方法。
【請求項2】
前記糸状菌が、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)である請求項1記載のグリーンノート生成剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のグリーンノート生成剤を、不飽和脂肪酸又は過酸化不飽和脂肪酸に接触せしめることにより、グリーンノートを生成させることを特徴とするグリーンノート生成方法。
【請求項4】
前記不飽和脂肪酸が、リノレン酸又はリノール酸である請求項3に記載のグリーンノート生成方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2記載のグリーンノート生成剤を、植物又はその組織に接触せしめることにより、グリーンノートを生成させることを特徴とするグリーンノート生成方法。
【請求項6】
請求項1又は請求項2記載のグリーンノート生成剤を、食品又は飲料に作用せしめて得られた、グリーンノートが付与された食品又は飲料。


【図1】
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【公開番号】特開2008−125405(P2008−125405A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312415(P2006−312415)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000191146)新日本化学工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】