説明

グルコキナーゼ活性化因子として有用なアリールシクロプロピルアセトアミド誘導体

式(A)の化合物:


および糖尿病の処置のための医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
糖尿病は、長寿と生活の質との双方に悪影響を及ぼす進行性疾患である。既存の経口治療は、単独でも組み合わせであっても、糖尿病の患者において適切な、または持続性のグルコース低下効能を呈しない。この結果、糖尿病患者の治療の改善に対する未達成のニーズがある。
【背景技術】
【0002】
グルコキナーゼ活性化因子(GKA)は、膵臓β−細胞および肝臓における修飾作用を介して血糖を低下させるように主として作用する、グルコース低下剤の1つのクラスに相当する。糖尿病の処置のための合成GKAが数多く開示されており、例えば国際公開第04/063179号パンフレットに開示されているものが挙げられる。糖尿病の患者のための治療薬として選択可能なGKAに対するニーズが依然として存在している。
【0003】
グルコキナーゼ(GK)は、ニューロンにおけるグルコースセンシングの媒介に重要であることが示されている。視床下部におけるGKの活性化は、インスリンで誘発される低血糖に対する対抗制御的応答を鈍化する。このため、GKAで脳内のGKが活性化すると、低グルコースレベルにてエピネフリン、ノルエピネフリンおよびグルカゴンの分泌レベルが低減することにより、低血糖の危険性が増大しうる。血液脳関門透過性が限られたGKA化合物では、激しい低血糖をもたらす潜在性が低いであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第04/063179号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の化合物は、インビトロおよびインビボの双方でグルコキナーゼを活性化することが見出されている。本発明の化合物は、既存のGKAよりも向上された効力を示すことが見出されている。本発明の化合物は、限られた血液脳関門透過性を示すことが見出されている。
【0006】
本発明は、グルコキナーゼを活性化する化合物、有効成分としてそれらを含有する医薬組成物、グルコキナーゼ機能障害に関連する障害の処置の方法、および糖尿病、特にII型糖尿病の処置のためのそれらの使用に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記式の化合物:
【化1】

または薬理学的に許容できるその塩を提供する。
【0008】
本発明の化合物は、2つの立体中心()を有しており、このため4つの立体異性体が可能である。各立体異性体、およびラセミ混合物またはジアステレオマー混合物で、純粋または部分的に純粋なものが、本発明の範囲に含まれることが意図される。
【0009】
本発明の化合物の好ましい立体異性体は、以下の構造式:
【化2】

を有する。
【0010】
本発明は、本発明の化合物、または薬理学的に許容できるその塩、および薬理学的に許容できる希釈剤または担体を含む医薬組成物を提供する。
【0011】
本発明は、治療用の、式Iの化合物、または薬理学的に許容できるその塩を提供する。本発明はまた、糖尿病、特にII型糖尿病の処置用の、式Iの化合物、または薬理学的に許容できるその塩も提供する。本発明の他の態様で、糖尿病、特にII型糖尿病の処置のための医薬品の製造のための、式Iの化合物、または薬理学的に許容できるその塩の使用が提供される。
【0012】
本発明は、有効な量の式Iの化合物、または薬理学的に許容できるその塩を、それを必要とするヒトまたは動物に投与することを含む、糖尿病の処置の方法を提供する。本発明はまた、有効な量の式Iの化合物、または薬理学的に許容できるその塩を、それを必要とするヒトまたは動物に投与することを含む、II型糖尿病の処置の方法も提供する。
【0013】
本発明は、本発明の化合物、または薬理学的に許容できるその塩を含む、治療用の医薬組成物を提供する。本発明は、本発明の化合物、または薬理学的に許容できるその塩を含む、糖尿病、特にII型糖尿病用の医薬組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願明細書で使用する場合、用語「薬理学的に許容できる塩」は、生体に対して実質的に無毒である、本発明の化合物の塩類を指す。かかる塩類およびそれらを調製するための一般的な方法論は、当該技術分野で周知である。例えば、P.Stahlら,Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties Selection and Use,(VCHA/Wiley−VCH,2002);およびJ.Pharm.Sci.66,2−19(1977)を参照のこと。薬理学的に許容できる好ましい塩は、塩酸塩である。
【0015】
本発明の化合物は、様々な経路によって投与される医薬組成物として調合されることが好ましい。かかる組成物は、経口投与用であることが最も好ましい。かかる医薬組成物、およびそれらを調製するための方法は、当該技術分野で周知である。例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(A,Gennaroら編,第19版,Mack Publishing Co.,1995)を参照のこと。
【0016】
本発明のさらなる態様において、本発明の化合物は、1以上の作用物質と組み合わせて投与される。かかる作用物質として、例えばメトホルミンが挙げられる。
【0017】
組み合わせでの投与として、同時投与、逐次投与、または個別投与が挙げられる。
【0018】
以下の実施例に対する化合物名は、AutoNom 2000を用いて作成している。
【実施例】
【0019】
一般的手法:
水または空気に感受性の反応はすべて、不活性の雰囲気下で、乾燥溶媒中で行う。質量スペクトル(MS)は、エレクトロスプレーモードで行うAgilent1100 MSD分光計にて得られる。旋光度は、クロロホルム中、JASCO DIP−370デジタル旋光計でナトリウムDラインを用い、20℃にて得られる。
【0020】
実施例1:(1R,2S)−2−シクロヘキシル−1−(4−シクロプロパンスルホニル−フェニル)−シクロプロパンカルボン酸[5−(2−ピロリジン−1−イル−エチルスルファニル)−チアゾール−2−イル]−アミド
【化3】

【0021】
A)(4−シクロプロパンスルホニル−フェニル)−ジアゾ−酢酸エチルエステル
【化4】

【0022】
1.5Lのエタノール中の(4−シクロプロパンスルホニル−フェニル)−オキソ−酢酸エチルエステル(250g、806mmol)およびp−トルエンスルホニルヒドラジド(187g、984mmol)の混合物を、淡黄色溶液が得られるまで室温で撹拌する。次いで濃塩酸(20mL、233mmol)を添加し、得られる混合物を3.5時間、還流加熱する。揮発物を除去して透明な淡黄色オイルを得、これを1.5Lの酢酸エチルに溶解させる。この溶液を次いで、1Lの飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、その後1Lの飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄する。水相を酢酸エチル(2×500ml)で逆抽出して有機層を合わせ、硫酸マグネシウムにより乾燥させて濾過する。この粗製ヒドラゾン溶液(約2.1L、363gのヒドロゾン中間体を含有すると考えられる)を、トリエチルアミン(100mL、890mmol)をゆっくりと添加しながらよく撹拌する。得られる溶液を終夜放置し、この間にある程度の固体が沈降する。その混合物を3Lの容量まで酢酸エチルで希釈して溶液を得、これを1Lの水で洗浄して、その後、飽和塩化ナトリウム水溶液を配合した水の500mL相当で必要に応じて2回洗浄し、エマルジョンをすべて離散させた。得られる有機相を次いで硫酸マグネシウムにより乾燥させて濾過し、濃縮して湿潤固体を得、これをメチルt−ブチルエーテルで粉にする。得られるスラリーを濾過して淡黄色固体を得、これを真空下で乾燥させて155gの標題の化合物を得る。その濾液を濃縮してオイルとし、これを自由流動性の(free−flowing)固体が得られるまで前記と同様に粉にする。この固体を濾過によって単離して乾燥させ、さらに10gの標題の化合物を得る。LCMS(m/e):295(M+H)。
【0023】
B)(1R,2S)−2−シクロヘキシル−1−(4−シクロプロパンスルホニル−フェニル)−シクロプロパンカルボン酸
【化5】

【0024】
不活性の雰囲気下に25〜30℃で維持した、150mLの無水ジクロロメタン中のビニルシクロヘキサン(300mL、2.72mol)の溶液に、(4−シクロプロパンスルホニル−フェニル)−ジアゾ−酢酸エチルエステル(169.40g、575.5mmol)を一部ずつ加えながら、ビニルシクロヘキサン(40mL)中のテトラキス[N−フタロイル−(R)−tert−ロイシナト]ジロジウムビス(エチルアセテート)付加物(120mg、84μmol)の溶液を滴下する。添加速度は、内部温度を40℃に維持するように調整する。およそ1.5時間後に添加を完了し、その反応混合物をさらに2時間、30℃で撹拌する。その後、揮発物を真空下に除去し、粗製(1R,2S)−2−シクロヘキシル−1−(4−シクロプロパンスルホニル−フェニル)−シクロプロパンカルボン酸エチルエステルを粘稠な褐色オイル(218g、579mmol)として得て、これを1.1Lのメタノールに溶解させて黄褐色溶液を得、これに5Nの水酸化ナトリウム水溶液(500mL、2.5mmol)をゆっくりと添加する。得られるスラリーを、次いで50℃で1時間撹拌し、この間に溶液が生成される。メタノールを真空下に除去して、1Lの酢酸エチルを添加する。得られる混合物は、およそ550mLの5%水性塩酸を添加することにより酸性化し、二層を分離させる。その水層は次いで、酢酸エチルの500mL相当で2回抽出する。有機相を合わせて、500mLの飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸マグネシウムにより乾燥させて濾過し、濃縮して湿性の浅黄色固体を得る。その後この物質を1Lのメタノールに溶解させる。次いでその攪拌用液に、1.5時間かけて水(1L)を添加する。得られるスラリーを30分間室温にて撹拌し、その後濾過する。そのフィルターパッドを1:1のメタノール/水で洗浄して乾燥し、標題の化合物を浅黄色結晶(166g)として得る。計算精密質量(MS exact mass)理論値:349.14735;実測値:349.14679(Agilent 1100LC−TOF、エレクトロスプレーイオン化を使用);
【数1】

【0025】
0.05%トリフルオロ酢酸を含有するヘキサン中の10%エタノールで、35℃にて溶出されるAD−Hカラム(150mm)でのキラルクロマトグラフィーにより分離した場合の、エナンチオマーに対応する2つのピークに対する積分の比較によって求めると、酸の鏡像体過剰率は97.7%である。
【0026】
C)5−(2−ピロリジン−1−イル−エチルスルファニル)−チアゾール−2−イルアミン
【化6】

【0027】
チイラン(550mL、9.2mol)を、不活性の雰囲気下、2.5Lの無水ジオキサン中のピロリジンの混合物(543mL、6.57mol)に添加する。温度はゆっくりと上昇し、その反応混合物は内部温度が54℃に達したら氷浴において冷却する。温度が45℃まで下降すれば、冷却浴を除いて反応混合物を60℃まで加熱する。3時間後に、混合物を室温にまで冷却して、真空下に濃縮する。その後、残渣を6mmHgで蒸留して50℃で沸騰する画分を集め、2−ピロリジン−1−イル−エタンチオールを無色オイル(643g)として得る。MS(m/e):132(M+H)。
【0028】
炭酸水素ナトリウム(1.232kg、14.7mol)を、7.5Lのイソプロパノール中の5−ブロモ−チアゾール−2−イルアミン臭化水素酸塩(1.53Kg、5.87mol)の混合物にゆっくりと一部ずつ添加する。その後、2−ピロリジン−1−イル−エタンチオール(1.060Kg、8.07mol)を15分間かけて添加し、得られる混合物を60℃にて96時間撹拌する。温度を1時間、70℃に上げ、次いでその混合物を室温に冷却する。イソプロパノールのほとんどは真空下に除去し、その残渣を4Lのイソプロパノール/クロロホルム溶液(1:9)中に取り出す。水性飽和炭酸水素ナトリウム(4L)を添加し、得られる混合物を30分間撹拌する。層を分離させ、その水相をイソプロパノール/クロロホルム溶液(1:9)の4L相当で3回抽出する。有機層を合わせて、硫酸ナトリウムにより乾燥させて濾過し、真空下に濃縮する。得られる残渣を3Lのジエチルエーテルで粉にして濾取し、標題の化合物の第1部分を浅黄色固体(410g)として得る。濾液を橙色固体にまで濃縮し、これを2Lのジエチルエーテルで粉にして、濾過によりベージュ色の固体として単離する。この固体を次いで2Lのメタノールに溶解させ、その溶液を45℃で30分間加熱する。室温に冷却すると、固体が形成される。この物質を濾過によって単離し、前記と同様にジエチルエーテルで粉にして真空下に乾燥し、さらに310gの標題の化合物を得る。MS(m/e):230[M+H]
【0029】
D)(1R,2S)−2−シクロヘキシル−1−(4−シクロプロパンスルホニル−フェニル)−シクロプロパンカルボン酸[5−(2−ピロリジン−1−イル−エチルスルファニル)−チアゾール−2−イル]−アミド
【0030】
10Lの無水ジクロロメタン中の(1R,2S)−2−シクロヘキシル−1−(4−シクロプロパンスルホニル−フェニル)−シクロプロパンカルボン酸(295.00g、0.847mol)の撹拌溶液に、塩化オキサリル(146.89mL、1.69mol)を不活性の雰囲気下、15分間かけて添加する。その後ジメチルホルムアミド(654.61μL、8.5mmol)を一度に添加し、得られる溶液を終夜撹拌する。次いで揮発物を真空下に40℃で除去してオイルを得、これを3Lの無水ジクロロメタンに溶解させる。不活性の雰囲気を再構築し、その溶液を5℃未満に冷却する。トリエチルアミン(177mL、1.27mol)をその後20分間かけて滴下すると、暗色溶液が得られる。硫酸ナトリウム(120.25g、0.847mol)を添加し、その後5−(2−ピロリジン−1−イル−エチルスルファニル)−チアゾール−2−イルアミン(213.60g、0.931mole)を添加する。内部温度が20℃に上昇する。反応混合物を冷却下に10分間撹拌し、次いで室温まで昇温させる。終夜撹拌後に、反応混合物を3Lの水に注加する。得られる混合物を数分間撹拌し、その後2層を分離させる。水層を1Lジクロロメタンで抽出し、そのジクロロメタン溶液を合わせてMgSOにより乾燥させて濾過し、40℃で真空下に濃縮する。得られるオイル(556g)を、ジクロロメタン溶液としてシリカゲルプラグ(silica gel plug)に付す。メタノール中の2Mアンモニア/メチルt−ブチルエーテル/ヘプタン(1:12:7)、次いで(メタノール中の)2Mアンモニア/酢酸エチル(1:19)でプラグを溶出し、褐色泡状物(351g)を得る。この物質320gをメチルt−ブチルエーテルおよびヘプタンから結晶化して、45℃で2日間乾燥させた後、灰白色固体として標題の化合物(279.4g)を得る。LCMS(m/e):560(M+H);
【数2】

【0031】
グルコキナーゼアッセイ
ヒト小島(islet)GKアイソフォームを、大腸菌において(His)―タグ化融合蛋白質として発現させ、金属キレート親和性クロマトグラフィーで精製する(例えば、Tiedgeら、Biochem.Biophys.Acta 1337,175−190,1997を参照のこと)。精製後、酵素は、25mMリン酸ナトリウム、150mM塩化ナトリウム、100mMイミダゾール、1mMジチオスレイトール、50%グリセリン中、0.8mg/mlの濃度で、一定分量にて−80℃で保存する。アッセイは、平底96穴プレートにおいて100μLの最終インキュベーション容量で実施する。インキュベーション混合物は、25mM 4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)(pH7.4)、50mM塩化カリウム、2.5mM塩化マグネシウム、2mMジチオスレイトール、4U/mlグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(リゥコノストック・メゼンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)由来)、5mM ATP、1mM NAD、および所定濃度のグルコースからなる。試験化合物をジメチルスルホキシドに溶解させ、その後反応混合物に添加して最終ジメチルスルホキシド濃度を10%とする。反応は、20μLのGKの添加によって開始し、37℃で20分間実施する。生成されるNADHの量を、マイクロプレートリーダーを用いて340nmでの吸光度の増加量として測定する。吸光度値を、EC50算出に使用する。
【0032】
実施例1は、10mMグルコースで、EC50=42±42nM(n=5)にてGKを活性化した。実施例1ではまた、低グルコース濃度で濃度依存的に酵素活性の増加もなされた。
【0033】
解糖アッセイ
ラット膵島細胞腺腫INS−1E細胞を、11mMグルコース、5%ウシ胎仔血清、50μM 2−メルカプトエタノール、1mMピルビン酸塩、10mM HEPESおよび抗生物質を追加した1640培地中で、37℃、5%CO、湿度95%にて維持する。アッセイの前に細胞をトリプシン処理し、遠心分離によってペレット化して30,000細胞/ウェルの密度で96−穴組織培養アッセイプレートに播種する。細胞を接着させて、37℃、5%COで48時間インキュベートする。アッセイ日に、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を追加した200μLのアール平衡塩溶液(EBSS)バッファーで細胞を洗浄およびインキュベートする。30分間インキュベーションした後バッファーを除去して、0.1%BSA、8mMグルコースおよび前記化合物を含有する100μL EBSSバッファーを細胞に添加する。直後に、20μLのCellTiter 96(登録商標)AQueous One Solution Reagentを細胞に添加し、37℃でさらに1時間、細胞をインキュベートする。インキュベーション終了時に、490nmの吸光度を読み取る。吸光度値を、EC50の算出に使用する。
【0034】
実施例1は、ラット膵島細胞腺腫INS1−E細胞における糖代謝を刺激する(平均EC50=579±139nM、n=4)。
【0035】
このように、本発明の化合物はインビトロでGKを活性化することが示される。
【0036】
経口耐糖能試験(OGTT)
225〜250gの体重の雄性ウィスターラットを、標準食餌、ならびに正常の光サイクルおよび条件で飼育する。実験用にラットの正確な体重を測定する前に終夜絶食し、同様の体重の群に無作為化する(1群当たりn=4)。前記化合物を、超音波浴の中でソルトール(solutol)/エタノールの1:1混合物中に懸濁させる(総容量の10%)。得られた懸濁液は次いで、9倍容量の10%ソルトール水溶液で希釈し、前記化合物を経口的に1、3、6、10、20、および30mg/kgで経口服用させる。化合物投与後2時間に、2g/kgの経口グルコースボーラスをラットに与える。グルコース投与後0、15、30、60、90および120分間で、尾採血によって血液を採取する。採取した血液は、1試料当たり400μLの容量にてエチレンジアミン四酢酸(EDTA)チューブに入れ、前記試料を氷上に置いておく。血漿を単離し、試料をグルコースおよび化合物への曝露について分析するまで、−20℃で保管する。血漿グルコース曲線下の面積(グルコースAUC)を、各群につき算出し、対照群に対するグルコースAUCの低下パーセントを、化合物による、血漿グルコースを低減する効能の尺度として使用する。
【0037】
実施例1は、絶食および食後グルコースレベルの双方で、用量依存的に血漿グルコースを低下させる。未処置対照群に対するグルコースAUCの最大の低下は、高用量(30mg/kg)で観察され、42%の低減が示される。データの補間によって、20%のグルコースAUC低減は、血漿中99ng/ml(179nM)の化合物平均濃度で起こり、これは6.9mg/kgの化合用量に相当していることが示された。
【0038】
よって、本発明の化合物は、インビボでGKを活性化することが示される。
【0039】
血液脳関門透過性
ストック化合物溶液を、ジメチルスルホキシド中10mMに調製する。次いで900μLのプロピレングリコールで100μLのストックを希釈することにより、投与溶液を1mMに調製する。この用量の投与は、2.17μmole/kgの標的用量となるよう、静脈内(IV)ボーラス(2.2mL/kg)として、6匹の雄性CF−1マウス(およそ23g)に尾静脈を介して行う。マウスをCOおよび頸椎脱臼の双方を用いて安楽死させる。3匹のマウスを投与後5分に、そして投与後60分に3匹を犠牲にする。各々の動物から心臓刺によって血液を採取し、ナトリウムEDTAを用いて血漿を調製し、ポリプロピレンサンプル管に移して直ちにドライアイスを用いて凍結する。各々の動物から全脳を採取して、正中で二等分し、その半分を各々ポリプロピレンサンプル管の中に移して直ちにドライアイスを使用して凍結する。一分量の血漿に二分量の抽出溶媒(sovent)(アセトニトリル中の10%テトラヒドロフラン)を用いてタンパク質を沈殿させ、ボルテックスミキサーで混合することにより、分析用に血漿試料を調製する。脳組織については、1mgの脳組織をおよそ1μL容量と考え、一分量の組織に二分量の抽出溶媒を添加する。試料は直ちに超音波細胞粉砕機(dismemberator)を用いてホモジナイズする。較正標準は既知濃度の化合物を盲検マウス血漿にスパイクすることよって調製し、その後血漿試料として処置する。すべての試料を6000RCFで5分間、遠心分離する。各試料からの上清の一定分量をポリプロピレン96穴プレートに移して、LC−MS/MSによる分析用に封止する。
【0040】
MS/MSは、ターボイオンスプレーソースを取り付けたSciex API 4000三連四重極質量分析計を用いて実施する。高性能液体クロマトグラフィーは、50℃に加熱したPhenomenex Hyrdro RP分析用カラム(100×2.0mm、4μ)を用いて実施し、0.6mL/分の一定流量で操作する。60:40の5mM水性ギ酸アンモニウム:メタノール中5mMギ酸アンモニウムの初発移動相、1分間の保持時間、その後10:90の5mM水性ギ酸アンモニウム:メタノール中5mMギ酸アンモニウムへの2分間の直線勾配、そして1分間の最終保持時間からなる、移動相勾配を利用する。カラム溶出液は、廃液に0〜2.8分間逸流させ、次いで質量分析計に2.8〜4.0分間導き、監視されるMS/MS転移は560/84である。試験試料中の化合物の定量は、ピーク面積値を、較正標準の基準濃度から算出される二次方程式加重(quadratic equation weighted)1/x、およびそれらのそれぞれのピーク面積と比較することにより成し遂げる。定量の上限および下限は、理論値の+/−20%を超える較正標準の逆回帰(back calculated recoveries)によって求める。16μLの血漿/グラムのマウス脳の、文献上の換算係数を用いて、脳組織濃度を血漿の寄与に対して補正する。
【0041】
実施例1の、インビボの血液脳関門透過性の結果、投与後5分で0.17の平均脳/血漿比と、同じ時間で0.539nmol/gの平均総脳レベルが導かれる。
【0042】
本発明の化合物は、血液脳関門透過性が限られており、そのため激しい低血糖をもたらす潜在性が限られていることが示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式の化合物:
【化1】

またはその薬理学的に許容できる塩。
【請求項2】
下記式の、請求項1記載の化合物:
【化2】

またはその薬理学的に許容できる塩。
【請求項3】
請求項1もしくは2記載の化合物、またはその薬理学的に許容できる塩、および薬理学的に許容できる希釈剤または担体を含む医薬組成物。
【請求項4】
治療用の、請求項1もしくは2記載の化合物、またはその薬理学的に許容できる塩。
【請求項5】
糖尿病の処置用の、請求項1もしくは2記載の化合物、またはその薬理学的に許容できる塩。
【請求項6】
II型糖尿病の処置用の、請求項5記載の化合物、またはその薬理学的に許容できる塩。
【請求項7】
有効な量の請求項1もしくは2記載の化合物、またはその薬理学的に許容できる塩を、それを必要とするヒトまたは動物に投与することを含む、糖尿病の処置の方法。
【請求項8】
II型糖尿病の処置のための、請求項7記載の方法。
【請求項9】
請求項1もしくは2記載の化合物、またはその薬理学的に許容できる塩を含む、治療用の医薬組成物。
【請求項10】
請求項1もしくは2記載の化合物、またはその薬理学的に許容できる塩を含む、糖尿病の処置用の医薬組成物。
【請求項11】
II型糖尿病の処置用の、請求項10記載の医薬組成物。

【公表番号】特表2012−512874(P2012−512874A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542276(P2011−542276)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【国際出願番号】PCT/US2009/067603
【国際公開番号】WO2010/080333
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(594197872)イーライ リリー アンド カンパニー (301)
【Fターム(参考)】