説明

グルタチオン類縁体を含有する治療用組成物

【課題】医薬組成物およびその使用方法を提供すること。
【解決手段】グルタチオン類縁体の脂質製剤およびその製造方法。造血を刺激する;放射線または化学療法によって引き起こされた損傷から造血細胞を保護する;または造血先祖細胞によるコロニー形成における1種もしくは組合せのサイトカインの刺激作用を増強する;化学療法剤または放射線照射の破壊効果から患者を保護する;または化学療法剤の効果を増強するためのそれらの使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのグルタチオンS−トランスフェラーゼと相互作用するグルタチオン類縁体の組成物、製剤および方法に関する。さらに本発明は、グルタチオン類縁体の脂質製剤およびその製造方法に関する。該脂質製剤は、経腸投与時における薬物不溶性という問題を克服し、その毒性作用を減少する。最後に、本発明は、骨髄または血液における造血の調節およびこのような組成物および製剤によって提供される他の有用な応答に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍および他の適応症の治療に用いられる化学療法剤の副作用は、よく知られている。これらの副作用には、好中球、血小板およびリンパ球などの種々の血液細胞の血中濃度の改変がある。これらの副作用の結果として、好中球減少症、血小板減少症および全身性免疫抑制が生じる。これらの副作用は、不愉快なだけでなく、ガン療法の効力を低下させ、患者を感染および制御不能な出血という重篤な危険に到らしめる。
現在、これらの作用に対する実際的改善は、少ししかない。代表的には、支持的介護、抗生物質の大量投与または成長因子の投与などがそのアプローチである。顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GMCSF)などの成長因子および巨核球成長および発育因子(MGDF)トロンボポエチン(TPO)といったようなさらに新しく発見された因子の投与は高価である。さらに、それらは、それ自体がよくない副作用をもっている。
化学療法の副作用を処理する現在のアプローチおよび別の方法での造血の抑制を処理することに関連する問題は、少なくとも部分的には、グルタチオンS−トランスフェラーゼの種々のイソ酵素のインヒビターである単純なトリペプチド化合物の生物学的活性によって解決される。
【0003】
多くの小さいペプチドベース化合物に関し、このような化合物の製剤は、それらの溶解性および効力において実質的な役割を演じる。脂質製剤[「薬物担体としてのリポソーム」、G.Gregoriadis編。JOHN Wiley and Sons、1988]および乳液または脂質マイクロスフィア[Cummings,J.らのExpert Opin.Ther.Pat.(1988)、8(2)、153;Takenaga,M.のAdv.Drug Delivery Rev.(1996)、20(2,3)、209;Yamaguchi,T.のAdv.Drug Delivery Rev.(1996)、20(2,3)、117;Mizushima,Y.のEP0432697A2;Kraft,M.のWO98・05301]は、溶解性を増強し、薬物動態学的挙動を調節し、生体分布を変更し、酵素による崩壊から化合物を保護する適当な医薬的担体として用いることができる。化合物の親油性を増強することが、エマルジョンおよびリポソーム内に製剤化することを援助することがしばしばある。したがって、長い炭素鎖または他の親油性基を含むエステルを用いて、溶解性を最大化するための化合物を作成することができる。
【0004】
リポソームは、閉じた水の区画を画定する完全に閉じた脂質二重層膜である。リポソームは、部分的にリン脂質から作られる微細なデリバリー小胞であり、水と混合したときに、閉じた液体充填球体を形成する。リポソームは、1つの脂質二重層膜からなる単ラメラまたは二重層以上の多重ラメラのいずれであってもよい。リポソームは、放出時間が延長されることによる投与薬物の制御放出を提供する能力および血流中の有効成分の遊離濃度を制限することによる薬物の副作用を減少する能力をもっている。またリポソームは、薬物の組織分配および取り込みを変更することができ、変更された組織分配は、該薬物の治療上の有効性を有意に増加する。
PCT出願WO96/40205(1996年12月19日公開)、PCT出願WO95/08563(1995年3月30日公開)およびPCT/US94/10797には、グルタチオンの類縁体であるトリペプチド化合物が開示されている。それらは、一般に、グルタチオンS−トランスフェラーゼ活性のインヒビターであり、このグループに含まれる種々の化合物はグルタチオンS−トランスフェラーゼのイソ酵素に関して様々な特異性を示す。これらの特許に開示されたものは、1〜10C単位の対称エステルであり、好ましい具体例としてジエチルエステルが挙げられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(発明の概要)
本発明は、造血の調節に有用であり、腫瘍の化学療法的治療に対する援助として有用な化合物を含む医薬組成物、該化合物それ自体を提供する。本発明は、式A:
【化12】

[式中、各エステルは1−25C;
YCOはγ−gluまたはβ−asp;
はフェニルグリシン;
ZはCH、OまたはS;および
Xは6−8Cアルキル、ベンジルおよびナフチルからなるグループから選ばれる炭化水素ラジカル]
で示されるジエステル化合物またはその医薬的に許容しうる塩を含む、先祖細胞からの造血の調節に使用するための脂質製剤およびそのような製剤の製造方法を提供する。
【0006】
別の態様において、本発明は、式I:
【化13】

[式中、R1およびR2は独立して、直線または分枝アルキル基(1−25C)、シクロアルキル基(6−25C)、置換アルキル基(2−25C)、ヘテロシクロ(6−20C)、エーテルまたはポリエーテル(3−25C)から選ばれる、またはR1−R2が一緒になって(2−20C)式Iで示されるマクロシクロを形成する;および
Xは6−8Cアルキル、ベンジルおよびナフチルからなるグループから選ばれる炭化水素ラジカル]
で示されるジエステル化合物またはその医薬的に許容しうる塩を含む、先祖細胞からの造血の調節に使用するための脂質製剤およびそのような製剤の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の完成に先立って、R1またはR2の少なくとも1つが高級アルキル(少なくとも6C)基である高級アルキルエステルを製造することによって上記化合物のバイオアベイラビリティーを増加させる努力を行った。しかし、これは、より困難で高価なプロセスであることが判明した。続いて、本発明者らは、脂質製剤、特にリポソーム製剤を用いることによって、適当な標的化を介した化合物の取り込みを増強することができ、それによって、前述したような困難さや高級アルキルエステルの高価な製造にたよることなく、バイオアベイラビリティーを増加することができることを見出した。
【0008】
本発明の脂質製剤または組成物は、リポソーム、脂質マイクロスフィアおよび脂質エマルジョンを含む。脂質マイクロスフィアは、本発明化合物を含有する脂質コアおよび/またはマトリックスからなる球状の粒子である。リポソームは、本発明化合物を含有する水性区画に境界をつけている脂質層からなるリン脂質小胞である。
式AまたはIの化合物は、水溶液、特に高浸透性溶液において制限された溶解性をもつことがわかっている。脂質に配合されたこれらの化合物は、生物学的媒体に入れたときに、より高い溶解性をもつことが明らかである。これらの化合物はさらに、脂質マイクロスフィアに配合したときに、より大きいプロテアーゼ耐性をもち、血液中での半減期が長くなることがわかっている。
【0009】
1つの態様において、本発明は、医薬的に許容しうる油でコーティングされた式AまたはIの化合物のコアを特徴とする小滴の脂質媒体の製造方法を提供する。したがって、本発明は、脂質ベース製剤の製造方法を提供する。
別の態様において、本発明は、式AまたはIの化合物がリポソームに会合しているのが見出されるリン脂質ベースリポソームの調製方法を提供する。
別の態様において、本発明は、式AまたはIの化合物を含有するリン脂質ベースリポソームの製造方法に関する。
別の態様において、本発明は、患者に処置された化学療法剤および放射線療法の破壊作用からの回復が促進される作用モードといったような該破壊作用に対する保護に用いるための、保護効果を発揮するのに有効な量の式AまたはIの化合物を含む脂質製剤およびそのような製剤の製造方法に関する。
【0010】
他の態様において、本発明は、好中球、血小板およびリンパ球の生成を促進し、損傷を受けた骨髄を回復させ、骨髄を細胞障害性療法から保護し、化学療法、感染または血液学的疾患によって引き起こされた好中球減少症、血小板減少症、リンパ球減少症および貧血症に対する保護効果を発揮し、および骨髄移植の間に細胞集団を増加するための式AまたはIの化合物、式AまたはIの化合物を含む製剤および脂質製剤に関する。このような化合物は、上記式AまたはIの化合物またはその対応するアミド、エステル/アミド、塩または遊離ジ酸である。好ましい具体例は、脂質製剤中に低級アルキルエステルを包入したものである。さらに本発明は、治療効果を増強する腫瘍特異的な化学または放射線敏感剤および全身性化学保護剤としての本発明化合物の使用に関する。本発明の別の態様は、貧血症、感染などの治療のための一般的免疫刺激剤に関する。
【0011】
本発明のさらに別の態様は、以下の作法によって製造される式AまたはIの化合物を含有する脂質製剤に関する:(i)薬物および脂質をアルコール/水からなる共溶媒に溶解し;(ii)混合物を緩衝液で迅速に希釈してリポソームを形成し;(iii)リポソーム調製物を1つまたは2つ以上の積み重ねフィルターを通して押し出して所定のサイズの単ラメラ小胞を生成し;次いで(iv)凍結乾燥する。
【0012】
(発明の詳細な記載)
多くの式AおよびIの化合物は、グルタチオンS−トランスフェラーゼイソ酵素の少なくとも1つのイソ酵素サブクラスの活性を阻害するのに有用である。またこれらの化合物の組成物は、通常、造血を維持するのに必要な細胞の大部分を破壊する作用剤の存在下でさえも、骨髄における造血を調節する。さらに、これらの組成物は、骨髄および血液細胞において他の有用な効果を示す。
【0013】
式AおよびIの本発明化合物は、遊離酸、塩、モノエステル、ジエステル、モノアミド、ジアミドまたはエステル/アミド混成体として存在する。エステルまたはアミド体は一般に、アルキル(1−25C);アルケニル(1−25C);およびアリールアルキル(1−25C)アルコールならびにアミンである。特に、ジエステルはいずれも、1C原子を有する第1エステル基および1C,2C,3C,4C,5C,6C,7C,8C,9C,10C,11C,12C,13C,14C,15C,16C,17C,18C,19C,20C,21C,22C,23C,24Cまたは25C原子を有する第2エステル基をもつ。同様に、それらは、前記の第2エステル基のいずれかと1C,2C,3C,4C,5C,6C,7C,8C,9C,10C,11C,12C,13C,14C,15C,16C,17C,18C,19C,20C,21C,22C,23C,24Cまたは25C原子をもつ第1エステル基の組合せであってもよい。このような基は、直鎖であるか、または十分な数の炭素原子をもつ場合、1つまたは2つ以上の分枝を含んでもよい。特に、少なくとも1つのエステル基は、いずれか1つの10〜25C原子をもつ。本発明に有用な代表的なエステルとして、ジオレイル、パルミチル/エチル、ラウリル/エチル、ジラウリル、ステアリル/エチルなどが挙げられる。Xがベンジルである式AまたはIの化合物のパルミチル/エチル体が特に好ましい。同様に、モノアミドまたはモノエステルについて、エステルまたはアミド基は、上記の数のC原子のいずれかをもつ。ジアミドまたはエステル/アミド混成体の場合、2つのアミド基それぞれまたはアミドおよびエステル基は、ジエステルにおいて記載したC原子の組合せと同じである。置換基が正の医薬的効果(少なくともいずれか1つの本明細書に記載した効果)を示すのを妨げない場合、このような基および式AまたはIの残りのものが、1つまたは2つ以上の置換基をもってもよいことが理解されるであろう。このような置換基として、1つまたは2つ以上(2または3など)のハロゲンまたはヒドロキシが挙げられる。
【0014】
式AまたはIの特定のジエステル(式Iのジエステルなど)は、対応するジエチルエステルよりも親油性が大きい。このことは、化合物が、リポソーム組成物に配合される場合に特に遊離である。対応する遊離のジ酸体よりもヒト細胞におけるクロラムブチル細胞障害性の効力が強化されたジエステル[参考文献である米国特許第5955432号の実施例1に記載されている]または対応する遊離のジ酸体よりも無血清培地に懸濁するHT−29(ヒト結腸腺癌)などのヒトガン細胞による取り込みが強化されたジエステル[上記特許の実施例1に記載されている]を選択してもよい。対応する遊離のジ酸体よりもマウスまたはラットの骨髄の強化された分化を提供するジエステル[上記特許の実施例9に記載されている]を選択してもよい。
【0015】
本発明のトリペプチドが、1つまたは2つ以上のキラル中心をもつことは明らかである。上記事項は、これらのキラル中心の存在から得られるジアステレオマーに関係している。本発明の好ましいアミノ酸は、L配置である。
本発明組成物は、化学療法の佐剤や他の指示薬として有用な幾つかの特性をもっている。第1の特性として、骨髄の崩壊は化学療法の通例の副作用であるが、本発明化合物は、骨髄における造血を調節する。第2の特性として、本発明化合物は、通常、腫瘍細胞において特に広く行き渡っているπサブクラスなどの少なくとも1つのクラスのGSTイソ酵素を阻害する。最後の特性として、式AまたはIの本発明化合物は、腫瘍細胞の破壊において化学療法剤の効果を直接強化する。この品質の組合せにより、本発明化合物は、直接的造血強化剤ならびに化学療法プロトコルの悪作用の改善剤および標的細胞への毒性作用の強化剤の両方として有用になる。インビボ用製剤または無傷の細胞と接触して用いる製剤とする場合、式AまたはIの本発明化合物は、エステルとして供給されるのが好ましく、ジエステルがさらに好ましい。
【0016】
Remington's Pharmaceutical Sciences(マック・パブリッシング・カンパニー、イーストン、PA)およびLiposome Technology、Vol.III、Targeted Drug Delivery and Biological Interaction(1984、CRCプレス・インコーポレイテッド、ボカラトン、フロリダ) に記載されている標準的方法ならびに特定の製剤を用いて投与用製剤を調製する。特に有用な式AまたはIの本発明化合物は、脂質組成物である。脂質組成物には、脂質エマルジョン(水性脂質エマルジョンなど)、リポソームおよび脂質マイクロスフィアがある。脂質組成物製剤は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、コレステロール、ホスファチジル酸、オレイン酸、カルジオリピン、スルファチド、ガングリオシド、脂肪酸、ペパーミント油、オリーブ油、大豆油、鉱物油、ピーナツ油、紅花油、トウモロコシ油、レシチンなどを含むことができる。脂質組成物製剤に配合できるその他の物質として、パルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、糖置換PE、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジロイルホスファチジルコリン(DOPC)、スフィンゴミエリン、ジミリストイルレシチン(DML)、ジパルミトイルレシチン(DPL)、ジステアロイルレシチン(DSL)、ジラウロイルレシチン(DLL)およびジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)が挙げられる。
【0017】
ひとつの好ましい組成物は、R1がパルミチル、R2がエチル、Xがベンジルである化合物Iの組成物であり、大豆油、卵黄レシチンおよびグリセロールの混合物に配合される。
本発明において、脂質は、5〜50%(W/V)の大豆油などのグリセリドおよびグリセリド100部当たり1〜50部、好ましくは5〜30部のホスホリピド(卵黄レシチンなど)からなるのが好ましい。1〜50重量部、好ましくは10〜40重量部のグリセロールなどの等張剤を佐剤としてさらに含むことができる。脂質エマルジョンなどの脂質組成物中のグルタチオン類縁体の含量は、エマルジョンの形体および目的に応じて適当に調節し、通常、0.02〜5mg/mlのレベルである。
別の好ましい組成物は、R1およびR2がエチル、Xがベンジルである化合物Iの組成物であり、卵ホスファチジルコリン(EPC)および卵黄レシチンおよび卵ホスファチジルグリセロール(EPG)の混合物に配合される。
【0018】
脂質製剤は、脂質:式AまたはIの化合物の比率が、3:1〜6:1である。卵ホスファチジルコリン(EPC):卵黄レシチンおよび卵ホスファチジルグリセロール(EPG)の比率が3:1、2:2または1:3重量であり、式AまたはIの化合物:スクロースの比率が1:7部である脂質製剤が好ましい。卵ホスファチジルコリン(EPC):卵黄レシチンおよび卵ホスファチジルグリセロール(EPG)の比率が2:2重量であり、式AまたはIの化合物:スクロースの比率が1:7部である脂質製剤が最も好ましい。さらに、pHを調節するためにクエン酸緩衝液などの添加剤を加えてもよい。脂質製剤の正味電荷は、マイナスから中性である。脂質製剤の正味電荷がマイナスであるのが好ましい。脂質化合物/製剤の製造方法は、押し出し成形機を用い、次いで濾過して約50〜2000nmの大きさの単ラメラ小胞を生成するのが好ましい。生成される単ラメラ小胞の大きさが約50〜1000nmであるのがさらに好ましい。生成される単ラメラ小胞の大きさが約400〜600nmであるのが最も好ましい。リポソームは凍結乾燥し、医薬的に許容しうる希釈剤で戻すことができる。
薬物のリポソーム内への包入の程度は、50%以上が好ましく、80%以上がさらに好ましく、最終の凍結乾燥によって粘度および小胞の大きさが増加する(75〜600nm)。薬物のリポソーム内への包入の程度が約95%であるのが最も好ましい。
【0019】
(投与および使用)
「骨髄または末梢血液における造血を調節すること」は、コロニー形成または分化細胞の能力によって測定される血液細胞形成の速度を変えることを意味する。分化細胞として、好中球、血小板、赤血球、リンパ球、マクロファージ、顆粒球、顆粒球−マクロファージなどが挙げられる。本明細書で用いる「骨髄または末梢血液における造血を調節すること」は、非処理の骨髄の能力とは異なるレベルでコロニー形成または分化細胞の生成を示すように本発明組成物で処理した骨髄または末梢血液の能力を意味する。同様に、適当な先祖細胞を含む骨髄または末梢血液のフラクションもこの効果を示す。本明細書で用いる「末梢血液」は、特に臍帯血を含むことに留意すべきである。
【0020】
一般に、骨髄または血液の造血において代表的に破壊的作用をもつ作用剤を用いる場合、本発明組成物は、保護効果を発揮する。「保護効果」は、骨髄またh血液が得る損傷が、該組成物を投与しない場合よりも少ないことを意味する。
本発明組成物の保護効果が有用である状況は多い。これらには、放射線照射が行われた結果よくない効果がもたらされた、あるいは将来的にもたらされることが予測される場合、患者が何らかの理由で免疫システムがそこなわれている場合、患者が腎臓に損傷がある場合および患者が化学療法を処置された場合が含まれる。さらに、本発明組成物は、移植手術の設定に用いて、ドナーの骨髄細胞の数を増加することができる;代表的には、この場合、該組成物をインビボまたはエクスビボ投与する。この設定においても、本発明組成物は、先祖細胞がドナーの末梢血液内へ移動するのを促進し、このドナーにおける末梢白血球の回復を改善する;同様に、本発明組成物は、レシピエントにおける末梢白血球の回復を改善することができる。一般に、本発明組成物をインビボまたはエクスビボで処理した後、該組成物は増加を改善し、移植細胞の最終的植付けを促進する。本発明組成物は、回復を促進するためにレシピエントに直接使用することができる。
【0021】
本発明組成物は、インビトロまたはエクスビトロのいずれかで用いることができる。たとえば、これらの組成物を同種または異種移植前に用いて、骨髄中の造血細胞を増加あるいは調節することができる。相対的に未分化の細胞の増加が実現されるエクスビボ技術を用いる患者の処置を用いてもよい。本発明組成物は、インビボ投与用に製剤することもできる。
エクスビボ投与を採用する場合、骨髄または末梢血液(臍帯血を含む)のいずれか、または両方を直接本発明組成物に接触させることができるが、あるいはこれら材料のフラクションを該フラクションが適当な標的先祖細胞を含むまで処理してもよい。
【0022】
化合物は、注射用、経口投与用または経粘膜もしくは経皮投与などの別の投与法用に製剤することができる。注射は、経静脈、腹膜内、筋肉内またはいずれかの他の慣例の経路で行うことができる。
製剤中の有効成分化合物(または化合物の混合物)の割合は、約0.5%w/w〜約95%w/wといったような広範囲で変化させることができる。有効成分の好ましい割合は、本質的に製剤の性質に応じて変化する。したがって、本発明の“医薬組成物”は、たとえば、本発明化合物のみを含むか、または化合物と他の成分(非毒性が好ましい)を含むことができる。有効成分の好ましい割合は、本質的に製剤の性質に応じて変化する。さらに、本発明組成物は、免疫刺激剤または成長因子などの他の有益な作用剤と混合してもよいし、共に用いてもよい。
【0023】
必要な用量は、患者の素質、身体状態の性質、投与方法および担当医または担当獣医の診断に応じて変化する。適当な用量範囲は、これらのパラメーターに従って決定する。一般に、患者当たりの代表的な用量は、0.1〜100mg/kg/日の範囲で10〜40日間、さらに好ましくは、1〜10mg/kg/日の範囲で14〜28日間である。これらの範囲は、例示に過ぎず、正確な用量最適化は、慣例の方法により決定することができる。
本発明組成物を化学療法に関する保護剤として用いる場合、投与のタイミングも関連してくる。しかし、タイミングは、使用する化学療法の性質によって変わる。採用した特定の化学療法剤に対する適当なタイミングを決定するのは、明らかに慣例の技術の範囲内である。
好ましくは少なくとも1つのエステル基のC原子数が多く、加水分解速度が小さく、動物やヒトの血漿中での半減期が長いジエステルを選択する(たとえば、C16/C2 vs 対応するC2/C2ジエステル)。同様に、少なくとも1つのエステル基のC原子数が多く(C16/C2ジエステルなど)、少ない数のエステル基C原子(C2/C2ジエステルなど)をもつ、対応するジエステルと比較して動物またはヒトの細胞の造血の強化された調節を示すジエステルを選択する。
【0024】
後記実施例は、本発明をさらに詳しく説明する。特定の化合物については、前記米国特許第5955432号においてさらなる実施例が提供されるが、本明細書に記載した他の化合物も同様の方法で用いることができる。実施例は、本発明の範囲を制限するものではなく、本発明化合物をどのように製造し、使用するかを示すために提供するものである。後記実施例において温度はすべて℃であり、RTは室温を示す。グルタチオン類縁体は、米国特許第5786336号に記載されているような当業界で公知の代表的な有機合成手順によって製造することができる。幾つかの場合において、保護基を導入するが、最終的には除去する。アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基のための適当な保護基は、“Protective Groups in Organic Synthesis”、第2版、ジョン・ウイリーアンド・サンズ、ニューヨーク(1991年)に記載されている。カルボン酸の活性化は、“Comprehensive Organic Transformations”、VCHパブリッシャーズ、ニューヨーク(1989年)に記載されている多数の異なる試薬を用いて達成することができる。
【0025】
脂質エマルジョンおよびリポソームの製造は、当業界で公知の技術で成し遂げることができる。ここでは、グリセリドとして用いた大豆油を、高純度大豆油として精製する(トリグリセリド、ジグリセリドおよびモノグリセリドとして少なくとも99.9%の純度)。通常の有機溶媒を用いる分離法によって製造される卵黄レシチンまたは大豆レシチンをリン脂質として精製する。一般に、予定量の大豆油、脂質、グルタチオン類縁体および前記の他の添加剤を混合し、加熱して溶液にし、通常のホモジナイザー(圧力ジェット型ホモジナイザーまたは超音波ホモジナイザー)を用いて25〜90℃の温度にて均質化処理し、油中水型分散液を得る。次いで、必要な量の水を加え、前記ホモジナイザーを用いて混合物を再度均質化し、水中油型エマルジョンにして本発明のエマルジョンを調製する。生成物に便利さを与えるために、エマルジョン形成後に、安定剤または等張化剤などの添加剤を加えることもできる。
【0026】
当業界で公知であり、“Liposome Technology, Volume III, Targeted Drug Delivery and Biological Interaction”(1984、CRCプレス・インコーポレイテッド、ボカラトン、フロリダ)に記載されている方法にしたがって、リポソームを調製する。脂質およびアルコール/水中のAまたはIの化合物を溶解し、混合物を適当な緩衝液で迅速に希釈し、少なくとも1つのフィルターを通して生成物を押し出し、次いで濾液を凍結乾燥することによって、リポソームを製造することもできる。
【実施例】
【0027】
実施例1
グルタチオン類縁体の調製
【化1】

上記反応工程式には中間体(7)(N−a−t−Boc−a−エチル−g−グルタミル−S(ベンジル)システインスクシンイミドエステル)は示されていない。
【0028】
ジ−t−ブチルジカルボン酸を用いて、塩基性条件下、L−グルタミン酸(1)を保護する。次いで、化合物(2)を環化し、触媒量のp−トルエンスルホン酸およびパラホルムアルデヒドの反応を介してオキサゾリジノン(3)を得る。オキサゾリジノンおよびR'ONaの反応によって化合物(4)を製造する。N−ヒドロキシスクシンイミドとg遊離酸(4)とのDCCカップリングによりスクシンイミドエステル(5)を製造し、次いで、S−ベンジル−L−システインを反応させて保護ジペプチド(6)を形成する。DCCカップリングによりスクシンイミドエステルを製造し、フェニルグリシンと反応させて、保護トリペプチド(8)を得る。脱保護およびエステル化して最終生成物(9)を得る。
【0029】
実施例2
N−α−t−Boc−L−グルタミン酸(2)
500gのL−グルタミン酸(6.8モル)2部を4Lの10%THF水溶液にそれぞれ懸濁する。NaCO粉末を加えてpH9にすると透明な溶液が得られる。各溶液を40℃まで加熱し(最初の10時間Boc無水物を添加)、次いで、1kgのジカルボン酸ジ−t−ブチル(4.58モル)を、NaCOを加えてpHを9に維持しながら、30分毎に各フラスコに50gずつ固体で加える。反応物を室温で一夜攪拌する。翌日、さらに1kgのジカルボン酸ジ−t−ブチルを上記のように加える。3日目の朝、各溶液を2LのEtOAcで2回抽出する(1当量のBoc無水物の添加後、ブタノールの形成が反応を止め、EtOAc抽出物それを除去し、収量を有意に増加することがわかる)。水層を集め、1kgのジカルボン酸ジ−t−ブチルを再度上記のように加える(40℃加熱および500g/日、50gずつ、各フラスコに2日間にわたって)。全反応時間は4日間であり、4kg(18.32モル)のジカルボン酸ジ−t−ブチルを加える。長い反応時間および加熱によって良好な収量が得られる。次いで、反応混合物を各2LのEtOAcで2回抽出する。各水層を集め、氷浴で0℃に冷却し、濃HClを30分間にわたって滴下して(1滴/秒)pH3まで酸性化する(BocGluはこの酸性化ステップに敏感であることがわかる。もしpHが低くなりすぎるか、またはHClを速く加えすぎるならば、いくらかの脱保護が起こり、大量のグルタミン酸が溶液から沈澱する)。酸性化が成功すると、オフホワイトのゲルが形成されるが、これはNaClを溶液の飽和点のわずかに手前まで多量に添加することによって強化される。得られる溶液を各2LのEtOAcで2回抽出する。水層からのBoc−L−Gluの除去をTLCでモニターする。EtOAc層を合せ、乾燥(NaSO)し、濾過し、35℃にて回転蒸発器に節、透明な黄色がかった油状物を得る。これを一夜減圧乾燥して、1097.1gのBocGlu(4.44モル)を得る;収率65%。
【0030】
(S)−t−ブチルオキシカルボニル−5−オキソ−4−オキサゾリジンプロピオン酸(3)
Boc−L−Glu(2)(1077g、4.36モル)をCHCN(1L)に暖めながら溶解する。これを5Lの三つ首フラスコに入れる。この溶液にパラホルムアルデヒド(196g、6.54モル)およびp−トルエンスルホン酸(40g、0.26モル)を加える。丸底フラスコに2つのディーン−スターク装置、−10℃におけるデュアルコンデンサーおよびメカニカルスターラーを取り付け、反応混合物を70℃にし、6時間還流する(反応完了時、ディーン−スターク装置から水(100ml)が集められた)。反応混合物(透明な赤褐色の溶液)を室温まで冷却し、回転蒸発器にて赤褐色の油状物を得る。油状物を2Lのエーテルに再溶解し、1Lの水で3回抽出する。水層を合せ、2Lのエーテルで抽出して水中の生成物を移す。両方のエーテル層を合せ、乾燥(NaSO)し、濾過し、回転蒸発器にて透明な黄色油状物を得る。これを減圧乾燥して不純物の混在する化合物(3)(952g、3.67モル、収率84.3%)を得る。
30cmの伸長部を備えた3Lの目の粗い焼結ガラスロートを用いて化合物(3)を精製する。40μmフラッシュクロマトグラフィー用ベイカーシリカゲル2kgを4LのCHClでスラリー化し、カラムに注ぎ入れる。樹脂床に達するまで溶媒を流す。さらに2LのCHClを加え、シリカゲルを落ち着かせるために樹脂床まで流す。この時点で、緩やかに加熱してCHCl(750ml)に溶解した化合物をカラムに入れ、溶媒を流す。溶媒が樹脂床に達した時点で、さらに1LのCHClを加え、生成物のローディングが完了するまで流す。次いで、20LのCHClで溶離し、400mlの画分を集める。蒸発して油状物にし、減圧乾燥して白っぽい黄色の泡状物を得る(745.7g、2.88モル、収率66.2%)。
【0031】
N−α−t−Boc−L−グルタミン酸α−エチルエステル(4)
トルエン(500ml)を入れた容器にナトリウム棒(150g、6.5モル)を入れ、表面の曇りをこすり落とし、薄い四角片を切り出す。四角片50gを秤量して、トルエン100mlを入れた風袋控除した容器に入れ、トルエンを排出し、N気流下、0℃にて3Lのエタノールにナトリウムを加える。泡立ちがおさまった後、さらに50gの上記ナトリウムを加える。全部で200gを加えるまでこれを繰り返す。次いで、N気流下、室温にて該溶液を一夜攪拌すると粘稠な透明溶液が得られる。化合物(3)(745.7g、2.88モル)を3Lのエタノールに暖めながら加え、メカニカルスターラーを備えた5Lの三つ首丸底フラスコに入れる。N気流下、この溶液に、平衡滴下ロートを用いてNaOEtを滴下する(1滴/秒)。反応物を一夜攪拌すると大量の白色沈澱を含む黄色がかった白色の溶液が得られる。氷浴にて反応混合物を0℃に冷却し、濃HClを滴下(1滴/秒)してpH9にする(反応後のpHは13である)。6Lの水を加え、透明な溶液を得る。これをエーテル:石油エーテル(1:1)混合物各3Lで2回抽出する。水層を合わせ、氷浴にて0℃に冷却し、攪拌しながらHClを滴下して(1滴/秒)、pH3にする。酸性化した溶液を各3Lのエーテルで2回抽出する。エーテル層を合せ、乾燥(NaSO)し、濾過し、蒸発して透明な黄色油状物を得る。これを高減圧乾燥して、609g(2.11モル、収率73.5%)を得る。
【0032】
N−α−t−Boc−L−グルタミン酸α−エチルエステル・γ−スクシンイミドエステル(5)
N−α−t−Boc−L−グルタミン酸α−エチルエステル(4)(609g、2.11モル)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(280.4g、2.43、モル)をメカニカルスターラーを備えた5Lの三つ首丸底フラスコ内で3LのCHClに溶解する。CHCl(500ml)にN,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド(547.1g、2.65モル)を溶解し、N気流下、攪拌しながら滴下する。さらに50g(0.24モル)のDCCをCHCl(100ml)に溶解し、反応混合物に滴下し、一夜攪拌する。TLCにより、反応の完了がわかる。DCC尿素を反応物から濾去し、濾液を回転蒸発器で処理して油状物を得、高減圧乾燥して、泡状物を得る;粗化合物(5)(1042.7g、2.81モル)が得られる。
化合物(3)の精製に用いたオープンカラムを用いて化合物(5)を精製する。40μmフラッシュクロマトグラフィー用ベイカーシリカゲル2kgを4LのCHClでスラリー化し、カラムに注ぎ入れる。これを樹脂床に達するまで溶媒を流す。さらに2LのCHClを加え、シリカゲルをパックするために樹脂床まで流す。溶媒レベルが樹脂床の頂部に到達した時点で、緩やかに加熱してCHCl(750ml)に溶解した化合物をカラムに入れ、重力でローディングする。溶媒が樹脂床に達した時点で、1LのCHClを加え、生成物のローディングが完了するように流す。生成物を20LのCHClで溶離し、400mlのアリコートを集める。画分を蒸発して油状物にし、高減圧乾燥して泡状物を得る(853g、2.28モル、収率108.0%)(サプリメント#5の純度を記載)。
【0033】
N−α−t−Boc−α−エチル−γ−グルタミル−S(ベンジル)−L−システイン(6)
S(ベンジル)−L−システイン(465g、2.2モル)を4Lの20%THF水溶液でスラリー化する。磁気攪拌しながら溶液にNaCO粉末を加えてpH9にする。これは、部分的に溶解したスラリーになる。緩やかに加熱しながら化合物(5)(853g、2.28モル)を1.5LのTHFに溶解する。これを、該攪拌溶液にNaCOにてpH9を維持しながら滴下する(2滴/秒)。反応混合物を各2Lのエーテル:石油エーテル(1:1)で2回抽出する。大量のTHFのために水相に生成物が残留していることを確かめるためにTLCをチェックする。水相を分離し、氷浴で0℃に冷却する。溶液を磁気攪拌しながらpHが3になるまで濃HClを滴下する。次いで、生成した油状沈澱を2L部のエーテルで2回抽出する。エーテル層を合せ、NaSOに注ぎ、濾過し、蒸発して油状物を得、高減圧乾燥して、泡状物を得る(895.8g、1.91モル、収率90.4%)。
【0034】
N−α−t−Boc−α−エチル−L−γ−グルタミル−L−S(ベンジル)システインスクシンイミドエステル(7)
化合物(6)(895g、1.91モル)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(240.6g、2.09モル)をメカニカルスターラーを備えた5Lの三つ首丸底フラスコ内で3LのCHClに溶解する。CHCl(500ml)にN,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド(472.5g、2.29モル)を溶解し、N気流下、攪拌しながら滴下する(2滴/秒)。5時間後、TLCは出発物質の実質的量を示す。さらに50g(0.24モル)のDCCをCHCl(50ml)に溶解し、反応混合物に滴下し、一夜攪拌する。TLCは反応の完了を示す。DCC尿素を反応混合物から濾去し、濾液を蒸発して1Lにする。もやもやとしたものが生じるまでエーテルを加え、溶液を氷浴で0℃に冷却する。スクラッチすると結晶の形成が始まる。もやもやを維持するために少量のエーテル加え、生成物を押し出す。溶液を4℃にて一夜貯蔵する。濾過により結晶を集め、高減圧乾燥して、生成物を得る(953g、1.67モル、収率87.4%)。
【0035】
N−α−t−Boc−α−エチル−L−γ−グルタミル−L−S(ベンジル)システイニル−R−フェニルグリシン(8)
(R)−(−)−フェニルグリシン(253g、1.67モル)を4Lの20%THF水溶液でスラリー化する。磁気攪拌しながら溶液にNaCO粉末を加えてpH9にすると、部分的に溶解したスラリーになる。緩やかに加熱しながら化合物(7)(953g、1.67モル)を1.5LのTHFに溶解する。これを、該攪拌溶液にNaCOにてpH9を維持しながら滴下する(2滴/秒)。反応物を6時間攪拌すると透明な黄色がかったオレンジ色溶液が得られる。反応混合物を各2Lのエーテル:石油エーテル(1:1)で2回抽出する。大量のTHFのために水相に生成物が残留していることを確かめるためにTLCをチェックする。水相を分離し、氷浴で0℃に冷却する。溶液を磁気攪拌しながらpHが3になるまで濃HClを滴下する(1滴/秒)。次いで、生成物を各2Lのエーテルで2回抽出する。エーテル層を合せ、NaSOに注ぎ、濾過し、蒸発して油状物を得、高減圧乾燥して、泡状物を得る(853g、1.45モル、収率86.8%)。
【0036】
γ−グルタミル−L−S(ベンジル)システイニル−R−フェニルグリシンジエチルエステルヒドロクロリド(9)
化合物(8)(767.5g、1.26モル)を2つに分け、メカニカルスターラーを備えた5Lの三つ首丸底フラスコ内でそれぞれを2.4Lのエタノールに溶解する各溶液を氷浴上に置き、アルゴン下、攪拌しながら0℃に冷却する。温度を0℃に維持しながら、各溶液に(CHSiCl(385ml、6.32モル)を滴下する(1滴/秒)。(CHSiClを加えた後(2.5時間後)、反応物から氷浴を取り外し、室温まで暖める。反応物を一夜攪拌する。18時間後、反応混合物は、白色固体の塊になる。次いで固体を壊してスラリーにし、それぞれを30℃の回転蒸発器にて体積2Lにする。メカニカルスターラーで激しく攪拌しながら、室温にて2.5時間にわたって各スラリーに無水エーテル(2L)を滴下する(1滴/秒)。不溶物質を濾過して集める。濾過ケーキを一夜高減圧乾燥して、合計312.8gの化合物(9)を得る。これ(312.8g)を7Lの熱いCHCN(79℃)に攪拌しながら溶解し、熱いまま濾過して不溶物を除去し、濾液を室温まで冷却する。溶液が冷えると、小さい白色針状結晶が形成され始め、室温になったとき、固化して固体塊になる。これを粉砕し、濾過して固体を集める。濾過ケーキをNaOHペレット上で16時間高減圧乾燥する。乾燥した物質は、277.0g(0.49モル)であり、38.8%の収率が得られる。化合物(10)、(11)および(13)が同様の方法で得られる。濃HClで切断することによりt−Bocを除去すると化合物(8)から化合物(12)が得られる。
【0037】
表1:化合物(9)−(13)における置換基R1、R2およびR3の説明
【表1】

【0038】
実施例3
脂質マイクロスフィアの製造
化合物(9)(30mg)、精製大豆油(10g)および精製卵黄レシチン(1.8g)を合せ、ホモジナイザーを用いて混合物を加熱して溶かす。次いで、グリセロール(2.21g)および体積を100mlにするのに十分な蒸留水(約90ml)を加え、次いで、ホモジナイザーを用いて、大まかに乳化する。次いで、マントンゴウリン型ホモジナイザーを用いて生成物をさらに乳化する。次いで、溶液を1.2μmのフィルターに通して、約220nmの粒子の最終エマルジョンを300μg/mlで得る。同様の方法で、化合物(10)〜(12)を含む脂質マイクロスフィアを製造する。
【0039】
表2:脂質マイクロスフィアの測定された特徴
【表2】

上記表2に記載したKの減少は、本発明のグルタチオン類縁体の強化されたバイオアベイラビリティの指標である。もちろん、上記本発明への変更および修飾は可能である。したがって、本発明は上記詳細に記載した具体例に限定されるものでばない。
【0040】
実施例4
リポソーム製造方法
他に特記しない限り、以下の一般的手順を用いて、脂質製剤を製造する:(i)化合物(9)(1573mg)、卵ホスファチジルコリン(EPC)および卵ホスファジチルグリセロール(EPG)を無水エタノール(14.3ml)およびHO(2.2ml)に周囲温度で攪拌することによって溶解し;(ii)溶液を20ゲージの針を用いて30ml容の注射器に吸い上げ、攪拌している370mMスクロース80.9mlに直ちに(1分以内)注入して多重ラメラ小胞(MLV)を形成し;(iii)1Mクエン酸塩(pH4.0)2.5mlを攪拌緩衝液に加え;(iv)100ml EXTRUDER(Lipex Biomembranes、バンクーバー、カナダ)を用い、2つの積み重ねた80nmポリカーボネートフィルターを通して溶液を10回押し出して単ラメラ小胞を形成し;(v)0.22ミクロンフィルターを通して滅菌し;次いで(vi)凍結乾燥して水およびエタノールを除去する。凍結乾燥サイクルは、サンプル温度を−50℃にする急速凍結、1次水を除去するために−35℃のトレーに42時間置く凍結乾燥、および2次水を除去するために20℃で2時間置くことからなる。
Nicomp Particle Sizer(モデル270)を用いて、サンプルに準弾性光散乱分析(Quasi Elastic Light Scattering:QELS)を行って、平均小胞径を決定する。小胞の薬物包含レベル(包入パーセント)を2つの別のアプローチを用いて決定する。第1のアプローチでは、製剤0.1mlを水和セファデックスG−50を入れた1.0mlツベルクリン注射器に吸い込み;卓上遠心分離機にてサンプルを2000rpmで5分間遠心分離し、次いで空の小胞を回収する(>70%)。包入されなかったかまたは沈澱した薬物をこの過程で除去し、残りをゲル濾過カラムに入れる。カラムクロマトグラフィー前後の薬物/脂質比から包入レベル(%)を計算する。第2のアプローチは、30000ダルトンの分子量カットオフをもつMicron30フィルター(Amicon)を通して遠心分離することによって包入されなかった薬物からリポソームを分離することに基いている。包入レベル(%)を1−([遊離薬物]/[合計薬物])100から計算する。
【0041】
実施例5
下記の表3に示す結果は、薬物/脂質比の関数としての幾つかの脂質製剤における化合物(9)の包入および脂質組成物をまとめたものである。スクロース緩衝液をエタノール溶液で希釈すると、相対的に大きく(平均直径700nm)、異種成分からなるが、可視の脂質または薬物沈澱を含まないリポソーム(多重ラメラ小胞、MLV)が自発的に形成される。EXTRUDER(Lipex Biomembranes、バンクーバー、カナダ)を用いて、積み重ねたポリカーボネートフィルター(孔径80nm)にMLVを通す(5〜10回)。この過程で、沈澱した薬物(<2%)が除去され、小胞サイズが平均径140nm(±20nm)に減少する。
【0042】
表3:エタノール希釈によるリポソームへの化合物(9)の包入
【表3】

NDは、測定されずを意味する。
【0043】
実施例6
凍結乾燥の影響と小胞サイズ
下記の表4に示す結果は、凍結乾燥条件と得られる小胞サイズ、および薬物包入レベルの関係をまとめたものである。他に特記しない限り、小胞は、実施例4の記載にしたがって製造し、滅菌濾過し、2.5mlのアリコートをバイアルに入れた。続いて、サンプルの温度が−50℃になり、サンプル温度が棚温度まで低下するのに十分な時間、バイアルを凍結する。次いで、減圧(50〜200mトル)下に、1次水を除去するのに十分な時間(24〜48時間)、サンプルを指示された棚温度にさらし、続いて、周囲温度に2〜6時間さらす。
【0044】
表4:化合物(9)のリポソームにおける異なる凍結乾燥サイクルの影響
【表4】

【0045】
実施例7
包入レベルにおける薬物/脂質比の影響
下記の表5に示す結果は、包入レベルにおける初期薬物/脂質比の影響をまとめたものである。化合物(9)は、0.33までの薬物/脂質比(重量/重量)においてEPC/EPGリポソーム内に効率よく包入することができる。
【0046】
表5:薬物/脂質比の関数としてのEPC/EPGリポソームにおける化合物(9)の包入
【表5】

【0047】
実施例8
小胞サイズ安定性
下記の表6に示すように、試験したすべてのバッチについて、包入のレベルは、2〜8℃で48時間の貯蔵によって影響されなかった。
【0048】
表6:エタノール含量の関数としての押し出しに続く小胞サイズの安定性
【表6】

【0049】
実施例9
包入における凍結乾燥時間の効果
下記の表7に示す結果は、化合物(9)EPC/EPG性材の包入効率、粘度およびサイズにおける凍結乾燥条件の影響をまとめたものである。
【0050】
表7:化合物(9)EPC/EPG性材の包入、小胞サイズおよび粘度における初期凍結乾燥サイクルの影響
【表7】

【0051】
実施例10
化学療法誘発好中球減少症のラットモデル
実施例4の記載にしたがって製剤された化合物(9)は、ラットにおいて化学療法誘発好中球減少症からの回復を促進した。雄性CDラット(250〜300g)に、抗新生物薬フルオロウラシル(125mg/kg)または等量のそのビヒクル(生理的食塩水)のいずれかを腹膜内注射した。フルオロウラシル注射後1日目から開始して、各フルオロウラシル処置ラットに化合物(9)(35mg/kg、n=4)、G−CSF(10μg/kg、n=5)またはビヒクル(生理的食塩水、n=4)のいずれかを1日8回静脈注射した。初めからフルオロウラシルではなくて生理的食塩水を注射されたラットには、食塩水を静脈注射した(n=7)。フルオロウラシル処置前および処置後14日間1〜2日毎に、好中球レベルを測定するために採血した。化合物(9)のリポソーム製剤によるフルオロウラシル誘発好中球減少症からの回復の促進を図1に示す。
【0052】
実施例11
正常ラットにおける化合物(9)の効果
実施例4に記載した化合物(9)(35mg/kg、i.v.)は、正常ラットにおける循環好中球レベルも増加させた(図B)。雄性CDラット(250〜300g)に、化合物(9)(35mg/kg、n=9)、G−CSF(10μg/kg、n=4)またはビヒクル(生理的食塩水、n=11)のいずれかを1日5回静脈注射した。毎日、好中球レベルを測定するために採血した。正常ラットにおける化合物(9)の脂質製剤による循環好中球レベルの上昇を図2に示す。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】化合物(9)のリポソーム製剤によるフルオロウラシル誘発好中球減少症からの回復の促進を示すグラフである。
【図2】正常ラットにおける化合物(9)の脂質製剤による循環好中球レベルの上昇を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載されたいずれかの発明。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−326877(P2007−326877A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229798(P2007−229798)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【分割の表示】特願2000−595670(P2000−595670)の分割
【原出願日】平成12年1月27日(2000.1.27)
【出願人】(593182956)テリック,インコーポレイテッド (18)
【Fターム(参考)】