グルタミニルシクラーゼ遺伝子のノックアウト変異を有するマウスモデル
本発明は、ノックアウト非ヒト動物、特にグルタミニルシクラーゼ(EC 2.3.2.5)ノックアウト変異を有するマウスを提供する。本発明は加えて、Qpct関連疾患の治療のための組成物において使用するための、Qpctに影響を及ぼす薬剤を評価するための、個々の細胞及び細胞株並びに方法及び組成物を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的にノックアウト動物、特にQpct遺伝子のノックアウト変異を有するマウスモデルに関する。
【背景技術】
【0002】
グルタミニルシクラーゼ(QC,EC 2.3.2.5)とも命名されたQpct(すなわち、グルタミニルペプチドシクロトランスフェラーゼ)は、アンモニアの遊離下におけるN末端グルタミン残基のピログルタミン酸(5-オキソ-プロリン,pGlu*)への分子内環化、及び水の遊離下におけるN末端グルタミン酸残基のピログルタミン酸への分子内環化を触媒する。
【0003】
グルタミニルシクラーゼ(QC,EC 2.3.2.5)は、アンモニアを遊離しながらN末端グルタミン残基のピログルタミン酸(pGlu*)への分子内環化を触媒する。QCは、Messerによって1963年に熱帯植物パパイヤのラテックスから最初に単離された(Messer,M.の文献(1963 Nature 4874,1299))。24年後、類似の酵素活性が動物の下垂体において発見された(Busby,W.H.Jらの文献(1987 J Biol Chem 262,8532-8536);Fischer,W.H.及びSpiess,J.の文献(1987(Proc Natl Acad Sci U S A 84,3628-3632))。哺乳動物QCについては、QCによるGlnのpGluへの変換が、TRH及びGnRHの前駆体について示されることができた(Busby,W.H.J.らの文献(1987 J Biol Chem 262,8532-8536);Fischer,W.H.及びSpiess,J.の文献(1987 Proc Natl Acad Sci U S A 84,3628-3632))。加えて、QCの初期の局在化実験では、ウシ下垂体における触媒作用の該QCの推定上の産物との共局在が明らかになり、ペプチドホルモン合成における示唆された機能をさらに進歩させた(Bockers,T.M.らの文献(1995 J Neuroendocrinol 7,445-453))。対照的に、植物QCの生理学的機能は、それほど明らかではない。C.パパイヤ由来の酵素の場合、病原性微生物に対する植物防御における役割が示唆された(El Moussaoui,A.らの文献(2001 Cell Mol Life Sci 58,556-570))。その他の植物由来の推定上のQCが、配列比較によって同定された(Dahl,S.W.らの文献(2000 Protein Expr Purif 20,27-36))。しかし、これらの酵素の生理学的機能は、いまだあいまいである。
【0004】
植物及び動物由来の公知のQCは、基質のN末端の位置のL-グルタミンに対する厳密な特異性を示し、これらの動力学的挙動は、ミカエリス-メンテンの式に従うことが見いだされた(Pohl,T.らの文献(1991 Proc Natl Acad Sci U S A 88,10059-10063;Consalvo,A.P.らの文献(1988 Anal Biochem 175,131-138);Gololobov,M.Y.らの文献(1996 Biol Chem Hoppe Seyler 377,395-398))。しかし、C.パパイヤ由来のQCの一次構造と哺乳動物由来の高度に保存されたQCの一次構造との比較では、何ら配列相同性は明らかにならなかった(Dahl,S.W.らの文献(2000 Protein Expr Purif 20,27-36))。植物QCは、新たな酵素ファミリーに属すると思われるのに対して(Dahl,S.W.らの文献(2000 Protein Expr Purif 20,27-36))、哺乳動物QCは、細菌アミノペプチダーゼに対して明白な配列相同性を有することが見いだされており(Bateman,R.C.らの文献(2001 Biochemistry 40,11246-11250))、植物及び動物由来のQCが異なる進化の起源を有するという結論に至った。
【0005】
欧州特許第02 011 349.4号は、昆虫グルタミニルシクラーゼをコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドを開示する。この出願は、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含む宿主細胞をさらに提供する。昆虫QCを含む単離されたポリペプチド及び宿主細胞は、グルタミニルシクラーゼ活性を減少させる薬剤をスクリーニングする方法に有用である。このような薬剤は、殺虫薬として有用であることが記載されている。
【0006】
本発明の主題は、Qpct関連疾患の分野において特に有用であり、その一例は、アルツハイマー病である。アルツハイマー病(AD)は、異栄養性ニューロン、反応性アストロサイト、及びミクログリアと密接に関連した細胞外アミロイド性プラークの異常な蓄積によって特徴づけられる(Terry,R.D.及びKatzman,R.の文献(1983 Ann Neurol 14,497-506);Glenner,G.G.及びWong,C.W.の文献(1984 Biochem Biophys Res Comm 120,885-890);Intagaki,S.らの文献(1989 J Neuroimmunol 24,173-182);Funato,H.らの文献(1998,J Pathol 152,983-992);Selkoe,D.J.の文献(2001 Physiol Rev 81,741-766))。アミロイド-β(Aβと略記される。)ペプチドは、老人斑の主要構成要素であって、ADの病原性及び進行に直接関与するものと考えられており、これは遺伝的研究によって支持される仮説である。(Glenner,G.G.及びWong,C.W.の文献(1984 Biochem Biophys Res Comm 120,885-890);Borchelt,D.R.らの文献(1996 Neuron 17,1005-1013);Lemere,C.A.らの文献(1996 Nat Med 2,1146-1150);Mann,D.M.及びIwatsubo,T.の文献(1996 Neurodegeneration 5,115-120);Citron,M.らの文献(1997 Nat Med 3,67-72);Selkoe,D.J.の文献(2001 Physiol Rev 81,741-766))。Aβは、β-アミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク質分解性プロセシングによって産生され(Kang,J.らの文献(1987 Nature 325,733-736);Selkoe,D.J.の文献(1998 Trends Cell Biol 8,447-453))、これがAβのN末端にてβ-セクレターゼによって、及びC末端にてγ-セクレターゼによって連続して切断される(Haass,C.及びSelkoe,D.J.の文献(1993 Cell 75,1039-1042);Simon,M.らの文献(1996 J Neurosci 16 899-908))。N末端にてL-Aspで始まる優勢なAβペプチド(Aβ1-42/40)に加えて、N末端で切断された形態の際立った不均一性が、老人斑において生じる。このような短くなったペプチドは、全長アイソフォームよりもインビトロにおいて神経毒性があり、かつより迅速に凝集することが報告されている(Pike,C.J.らの文献(1995 J Biol Chem 270,23895-23898))。N切断されたペプチドは、早発性家族性AD(FAD)対象において過剰産生されること(Saido,T.C.らの文献(1995 Neuron 14,457-466);Russo,Cらの文献(2000 Nature 405,531-532))、早期に現れること、及びダウン症候群(DS)脳において加齢と共に増加すること(Russo,C.らの文献(1997 FEBS Lett 409,411-416)、Russo,C.らの文献(2001 Neurobiol Dis 8,173-180);Tekirian,T.L.らの文献(1998 J Neuropathol Exp Neurol 57,76-94))が公知である。最後に、該N切断されたペプチドの量は、該疾患の進行の重度を反映する(Russo,C.らの文献(1997 FEBS Lett 409,411-416);Guntert,A.らの文献(2006 Neuroscience143,461-475))。さらなる翻訳後プロセスでは、位置1及び7におけるアスパラギン酸の異性化又はラセミ化によって、並びに残基3及び11におけるグルタミン酸の環化によって、N末端をさらに修飾するかもしれない。位置3にピログルタミン酸を含むアイソフォーム[pGlu3Aβ3-40/42]は、老人斑におけるN切断された種の顕著な形態―総Aβ量のおよそ50%―を表し(Mori,H.らの文献(1992 J Biol Chem 267,17082-17086)、Saido,T.C.らの文献(1995 Neuron 14,457-466);Russo,C.らの文献(1997 FEBS Lett 409,411-416);Tekirian,T.L.らの文献(1998 J Neuropathol Exp Neurol 57,76-94);Geddes,J.W.らの文献(1999 Neurobiol Aging 20,75-79);Harigaya,Y.らの文献(2000 Biochem Biophys Res Commun 276,422-427))、該アイソフォームはまた、プレアミロイド病変にも存在する(Lalowski,M.らの文献(1996 J Biol Chem 271,33623-33631))。AβN3(pE)ペプチドの蓄積は、凝集を増強し、かつ大部分のアミノペプチダーゼに対する耐性を与える構造修飾に起因する可能性が高い(Saido,T.C.らの文献(1995 Neuron 14,457-466);Tekirian,T.L.らの文献(1999 J Neurochem 73,1584-1589))。この証拠は、AD病原性におけるAβN3(pE)ペプチドの中心的役割についての手掛かりを提供する。しかし、該ペプチドの神経毒性及び凝集特性については、比較的あまり知られていない(He,W.及びBarrow,C.J.の文献(1999 Biochemistry 38,10871-10877);Tekirian,T.L.らの文献(1999 J Neurochem 73,1584-1589))。その上、グリア細胞に及ぼすこれらのアイソフォームの作用、及びこれらのペプチドに対するグリアの反応は、完全に未知であるが、活性化されたグリアは、老人斑に厳密に関連しており、アミロイド沈着の蓄積に能動的に寄与するかもしれない。最近の研究では、Aβ1-42、Aβ1-40、[pGlu3]Aβ3-42、[pGlu3]Aβ3-40、[pGlu11]Aβ11-42、及び[pGlu11]Aβ11-40ペプチドの毒性、凝集特性、並びに異化反応は、ニューロン細胞及びグリア細胞の培養物において研究されており、ピログルタミン酸修飾は、Aβ-ペプチドの毒性特性を増悪させて、また、培養されたアストロサイトによる該ペプチドの分解を阻害することが示された。Shirotaniらは、インビトロにおいてシンドビスウイルスに感染した初代皮質ニューロンにおける[pGlu3]Aβペプチドの産生を研究した。彼らは、アミノ酸の置換及び欠失によって[pGlu3]Aβとなる可能性のある前駆体をコードするアミロイド前駆体タンパク質の相補DNAを構築した。天然の前駆体におけるグルタミン酸の代わりにN末端グルタミン残基で始まる1つの人工の前駆体については、ピログルタミン酸への自然変換又はグルタミニルシクラーゼによる酵素変換が示唆された。[pGlu3]Aβの天然の前駆体における位置3でのN末端グルタミン酸の環化メカニズムは、インビトロでも、インサイチューでも、又はインビボでも決定されなかった(Shirotani,K.らの文献(2002 Neurosci Lett 327,25-28))。
【0007】
このように、ノックアウト動物、特にQpct遺伝子におけるノックアウト変異を有するノックアウトマウスの提供が、当技術分野で明らかに必要であり、好ましくはこの中で、Qpct遺伝子の関連性及び潜在能力に関して正確な研究を可能にするよう、この変異が構成的様式と条件的様式の両方で提供されるべきである。
本研究の目的は、ノックアウト動物、すなわち、Qpct遺伝子の構成的又は条件的ノックアウト変異をそれぞれ有するマウスモデルを開発することであった。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、Qpct関連疾患についての非ヒトノックアウト、特に哺乳動物のモデルのための方法及び組成物を含む。具体的には、本発明は、Qpct遺伝子におけるノックアウト変異を有して結果的にQpctのノックアウトを生じる非ヒト動物モデルを含む。
【0009】
本発明の別の態様は、Qpct阻害剤/エフェクターをスクリーニングする方法及び組成物を含む。
加えて、本発明は、Qpct関連疾患の治療及び/又は予防のための方法及び組成物、特に、Qpctを阻害し又は促進する方法及び組成物を含む。
【0010】
従って、Qpctノックアウト変異を有する動物を提供することが、本発明の1つの目的である。
Qpctノックアウト変異を有しているDNA構築物を提供することが、本発明の別の目的である。
【0011】
プロモーターに連結されたQpctノックアウト変異を有しているDNA構築物を提供することが、本発明の付加的な目的である。
【0012】
Qpctノックアウト変異を有する非ヒト動物モデルシステムを提供することが、本発明のさらなる目的である。
特定の組織タイプにおけるQpctのインビボ及びインビトロでの調節及び効果を研究するための非ヒト動物モデルシステムを提供することが、本発明の付加的な目的である。
【0013】
ピログルタミン酸により修飾されるホルモンの機能及び濃度、最も好ましくはサイトカイン及びケモカインの機能を研究するための非ヒト動物モデルシステムを提供することが、本発明のさらなる目的である。
【0014】
本発明は、QCの少なくとも1つのエフェクターを通例の担体及び/又は賦形剤との組み合わせで任意に含む非経口、腸内又は経口投与のための医薬組成物を提供するものであり、ここで、QCの該エフェクターは、本発明のスクリーニング方法及びQpctノックアウト動物を採用することによって同定された。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明のこれらの及び他の態様に関するさらなる理解は、下記を表す図に対する引用によって得られるであろう:
【図1A−1B】構成的及び条件的ノックアウトQpctマウス系の作出のための原理。 ダッシュを引いた箱はエクソンを表す。実線はイントロン配列を表す。LoxP及びFRTの要素は三角形として示されており、指示されている。Neo及びDTAの箱はそれぞれ、ネオマイシンポジティブ選択カセット及びDTAネガティブ選択カセットを表す。
【図2】Qpct遺伝子座の組織化に関する概略図。 ダイアグラムは一定の比例で拡大して描かれていない。あやめ引きの箱はエクソンを表す。実線は染色体配列を表す。機能的に関連性のある残基が強調されている。
【図3】ターゲティングベクターに関する概略図。 あやめ引きの箱はQpctのエクソンを表す。実線はQpctイントロン配列を表す。LoxP及びFRTの要素は、異なる向きの三角形として示されており、指示されている。Neo及びDTAの箱はそれぞれ、ネオマイシンポジティブ選択カセット及びDTAネガティブ選択カセットを表す。
【図4】マウスQpct遺伝子クローニングに関する概略図。 ダイアグラムは一定の比例で拡大して描かれていない。箱はエクソンを表す。実線はイントロン配列を表す。相同な2つの断片の増幅のために設計されたプライマーの近似位置が半分の矢印によって表されている。結果として生じる2つの断片が上に描かれている。
【図5】ターゲティングベクターの構築戦略に関する概略図。 ダイアグラムは一定の比例で拡大して描かれていない。クローニング工程は、丸囲みの数によって表されており、作業の実施例において記載されている。
【図6】3'末端相同的組換え事象に関するPCR同定。 実線及び点線はそれぞれ、ターゲティングベクターの内側及び外側に位置するQpctイントロン配列を表す。箱はQpctエクソンを表す。FRT部位は二重三角形として示されている。LoxP部位は三角形によって表されている。半分の矢印はプライマーの局在性を示す。 ポジティブコントロールベクターは、スクリーニングの設定のために使用されるであろう。ポジティブコントロールベクター内の点線は、最終的なターゲティングベクターに不在の配列の部分を表す。
【図7】3'末端のPCRスクリーニングに関する設定(GX1406-TOR2-H2/GX2141-TOR2-I2プライマー)。 レーン1及び12:1kb DNAラダー(NEBioLabs) レーン2〜5:TOR2-C+プラスミドの0.1、0.5、1、10ゲノムの等価のコピー、 レーン6〜9:野生型129Sv/Pas ES細胞から抽出した150ngのゲノムDNAに希釈したTOR2-C+プラスミドの0.1、0.5、1、10ゲノムの等価のコピー。 レーン10:野生型129Sv/Pas ES細胞から抽出した150ngのゲノムDNA、 レーン11:二重に蒸留したH2O
【図8】TOR2-C+ベクターをトランスフェクトしたES細胞に及ぼす3'組込み事象のPCR反応に関する設定。 レーン1及び23:1Kbラダー(NEBioLabs) レーン2〜22:TOR2-C+ベクターをトランスフェクトしたES細胞クローン レーン24:1コピーのTOR2-C+ベクター レーン25:二重に蒸留したH2O
【図9】5'末端相同的組換え事象に関するPCR同定 実線及び点線はそれぞれ、ターゲティングベクターの内側及び外側に位置するQpctイントロン配列を表す。箱はQpctエクソンを表す。FRT部位は二重三角形として示されており、LoxP部位は三角形として表されている。 半分の矢印は、プライマーの局在性を示す。PCR産物のサイズは、プライマーの下に与えられており、同様に、PCR産物のSwaIによる消化後に得られる制限特性も与えられている。
【図10】5'末端PCRスクリーニングに関する設定(GX2633-TOR2-J2/GX2634-TOR2-K2プライマー)。 レーン1:1kb DNAラダー(NEBioLabs) レーン2:野生型129Sv/Pas ES細胞から抽出した150ngのゲノムDNA レーン3:野生型C57BL/6尾部生検から抽出した10ngのゲノムDNA レーン4:二重に蒸留したH2O
【図11】相同的組換え事象についての5'及び3'サザンブロットスクリーニングに関する概略図。 実線及び点線はそれぞれ、標的とされた領域の内側及び外側に位置するイントロン性遺伝子配列を表し;あやめ引きの箱はQpctエクソンを表す。LoxP部位は三角形として示されており、FRT部位は二重三角形として表されている。小さな長方形はK及びRのサザンプローブを表す。サザンブロットスクリーニングのための関連する制限部位及び対応する検出された断片は、二重矢印で指示されている。ダイアグラムは一定の比例で拡大して描かれていない。
【図12】野生型DNAに関する3'サザンブロットスクリーニング戦略の設定。 レーン1及び6:1Kbラダー(NEBioLabs) レーン2:野生型129Sv/Pas ES細胞から抽出した4μgのゲノムDNA レーン3:野生型129Sv/Pas ES細胞から抽出した15μgのゲノムDNA レーン4:野生型129Ola ES細胞から抽出した15μgのゲノムDNA レーン5:野生型C57BL/6尾部生検から抽出した15μgのゲノムDNA
【図13】Cre媒介性及びFlp媒介性切除事象に関するPCR同定。 実線及び点線はそれぞれ、ターゲティングベクターの内側及び外側に位置するQpctイントロン配列を表す。あやめ引きの箱はQpctエクソンを表す。FRT部位は二重三角形として示されており、LoxP部位は三角形によって表されている。 半分の矢印は、プライマーの局在性を示す。Cre媒介性事象の検出に使用されるプライマーは、TOR2-N及びTOR2-I1であり、Flp媒介性事象についてはTOR2-N2及びTOR2-I4である。PCR産物のサイズは、プライマーの下に与えられる。
【図14】正確な相同的組換え事象の検出のためのES細胞クローンの3'PCRスクリーニング。 レーン1、26:1Kbラダー(NEBioLabs)、 レーン2〜25:24個の耐性ES細胞クローン、 レーン2:ポジティブES細胞クローン#5A1、 レーン5:ポジティブES細胞クローン#5B2、 レーン9:ポジティブES細胞クローン#5B4、 レーン14:ポジティブES細胞クローン#5A7、 レーン17:ポジティブES細胞クローン#5B8、 レーン19:ポジティブES細胞クローン#5B9、 レーン22:ポジティブES細胞クローン#5A11、 レーン27:ポジティブコントロールESクローン#6A10。
【図15】正確な相同的組換え事象の検出のためのES細胞クローンに関する5'PCRスクリーニング。下部のパネルはより長いゲル泳動後の上部パネルと同一である。 レーン1、8:1Kbラダー(NEBioLabs)、 レーン2:ES細胞クローン#6A3、未切断、 レーン3:クローン#6A3、SwaI消化後、 レーン4:ES細胞クローン#6C10、未切断、 レーン5:クローン#6C10、SwaI消化後、 レーン6:ES細胞クローン#6C3、未切断、 レーン7:クローン#6C3、SwaI消化後。
【図16】5'相同的組換え事象の検出のためのサザンブロットの結果。 レーン1、9:1Kbラダー(NEBioLabs)、 レーン2:ES細胞クローン#5B8、 レーン3:ES細胞クローン#5C5、 レーン4:ES細胞クローン#5C12、 レーン5:ES細胞クローン#6A3、 レーン6:ES細胞クローン#6C3、 レーン7:ES細胞クローン#6C10、 レーン8:野生型ES細胞DNA。
【図17】図17:3'相同的組換え事象の検出のためのサザンブロットの結果。 レーン1、9:1Kbラダー(NEBioLabs)、 レーン2:ES細胞クローン#5B8、 レーン3:ES細胞クローン#5C5、 レーン4:ES細胞クローン#5C12、 レーン5:ES細胞クローン#6A3、 レーン6:ES細胞クローン#6C3、 レーン7:ES細胞クローン#6C10、 レーン8:野生型ES細胞DNA。
【図18】Cre媒介性切除事象の検出のためのF1動物のスクリーニング。 Cre欠失マウスを用いた繁殖(breeding)に由来する7個体の仔の遺伝子型(それぞれ、レーン2〜8における35437〜35443)を、TOR2-N/TOR2-I1のプライマーの組み合わせを使用するPCRによって検査し、Qpct対立遺伝子の切除状態を分析した。標的とされたESクローン5C12(レーン11)、野生型マウス尾部(レーン10)及び1:100の混合物(レーン12)由来のDNAを用いるPCRをポジティブコントロールとして使用した。テンプレートを有さないPCR(レーン9)は、ネガティブコントロールとして機能した。M:1kb DNA-ラダー(NEBioLabs)
【図19】標的とされた未切除の対立遺伝子の検出のためのF1動物のスクリーニング。 Cre欠失マウスを用いた繁殖に由来する7個体の仔の遺伝子型35437〜35443を、TOR2-H2/TOR2-I2のプライマーの組み合わせを使用するPCRによって検査し(それぞれレーン2〜8)、ネオマイシンカセットの存在を分析した。標的とされたESクローン5C12に由来するDNA(レーン11)及び野生型DNAにおけるその1:100希釈物(レーン12)を用いるPCRをポジティブコントロールとして使用した。野生型DNA(レーン10)及びH2O(レーン9)を使用するPCRは、ネガティブコントロールとして機能した。M:1kb DNA-ラダー(NEBioLabs)。
【図20】Cre媒介性切除事象の検出のための、ヘテロ接合性構成的Qpctノックアウト雄に由来する動物のスクリーニング。第一のヘテロ接合性構成的Qpctノックアウト雄と野生型雌との繁殖に由来する12個体の仔の遺伝子型(それぞれ、レーン2〜6における18242〜18246、並びにレーン7及び8における#18156、#18159)を、TOR2-N/TOR2-I1のプライマーの組み合わせを使用するPCRによって検査し、Qpct対立遺伝子の切除状態を分析した。標的とされたESクローン5C12(レーン9)、野生型マウス尾部(レーン11)及び1:100の混合物(レーン10)に由来するDNAを使用するPCRをポジティブコントロールとして使用した。テンプレートを有さないPCR(レーン12)はネガティブコントロールとして機能した。レーン1及び13:1kb DNA-ラダー(NEBioLabs)
【図21】BamHIで消化した4個体のF1ヘテロ接合性QpctノックアウトマウスゲノムDNAの5'サザンブロットスクリーニング。 レーン1及び7:1kb DNAラダー(NEBioLabs)、 レーン2:尾部生検#35438由来の15μgのゲノムDNA、 レーン3:尾部生検#18156由来の15μgのゲノムDNA、 レーン4:尾部生検#18159由来の15μgのゲノムDNA、 レーン5:尾部生検#18244由来の15μgのゲノムDNA、 レーン6:C57Bl/6尾部生検由来の15μgの野生型ゲノムDNA。
【図22】Flp媒介性切除事象についての動物のスクリーニング。Qpctを標的とした雌とFlp欠失雄との繁殖に由来する7個体の仔の遺伝子型(それぞれレーン2〜8における17971〜17977)を、TOR2-N2/TOR2-I4のプライマーの組み合わせを使用するPCRによって検査し、Qpct対立遺伝子の切除状態を分析した。標的とされたESクローン5C12由来のDNA(レーン11)、野生型マウス尾部DNA(レーン10)及び該2つのすでに引用されたDNAの1:100の混合物(レーン12)を用いるPCRをポジティブコントロールとして使用した。テンプレートを有さないPCR(レーン9)は、ネガティブコントロールとして機能した。レーン1及び13:1kb DNA-ラダー(NEBioLabs)。
【図23】標的とされた未切除の対立遺伝子の検出のための動物のスクリーニング。Qpctを標的とした雌とFlp欠失雄との繁殖に由来する7個体の仔の遺伝子型17971〜17977を、TOR2-H2/TOR2-I2のプライマーの組み合わせを使用するPCRによって検査し(それぞれレーン2〜8)、ネオマイシンカセットの存在を分析した。標的とされたESクローン5C12由来のDNA(レーン11)及び野生型DNAにおけるその1:100希釈物(レーン12)を用いるPCRをポジティブコントロールとして使用した。野生型DNAを使用するPCR(レーン10)はネガティブコントロールとして使用した。レーン1及び13:1kb DNA-ラダー(NEBioLabs)。
【図24】Flp媒介性切除事象の検出のための動物のスクリーニング。Qpctを部分的にFlp切除した雄#17973と野生型雌との繁殖に由来する12個体の仔(それぞれレーン2〜13における18825〜18836)の遺伝子型を、TOR2-N2/TOR2-I4のプライマーの組み合わせを使用するPCRによって検査し、Qpct対立遺伝子の切除状態を分析した。レーン1及び14:1kb DNA-ラダー(NEBioLabs)。
【図25】標的とされた未切除の対立遺伝子の検出のための動物のスクリーニング。Qpctを部分的にFlp切除した雄#17973と野生型雌との繁殖に由来する10個体の仔18827〜18836の遺伝子型を、TOR2-H2/TOR2-I2のプライマーの組み合わせを使用するPCRによって検査し(それぞれ、レーン2〜11)、ネオマイシンカセットの存在を分析した。標的とされたESクローン由来のDNA(レーン14)及び野生型DNAにおけるその1:100希釈物(レーン15)を用いるPCRをポジティブコントロールとして使用した。H2O(レーン12)及び野生型DNA(レーン13)を使用するPCRは、ネガティブコントロールとして機能した。レーン1:1kb DNA-ラダー(NEBioLabs)。
【図26】SwaIで消化した3個体のF1ヘテロ接合性条件的QpctノックアウトマウスのゲノムDNAの3'のサザンブロットスクリーニング。 レーン1及び6:1kb DNAラダー(NEBioLabs)、 レーン2:尾部生検#18823由来の15μgのゲノムDNA、 レーン3:尾部生検#18824由来の15μgのゲノムDNA、 レーン4:尾部生検#18825由来の15μgのゲノムDNA、 レーン5:C57Bl/6尾部生検由来の15μgの野生型ゲノムDNA
【図27】マウス系Pbd2のヘテロ接合性動物におけるQpct対立遺伝子の概要構成。
【図28】マウス系Pbd2におけるQpct遺伝子座についてのPCR遺伝子型同定アッセイ。 レーン1:分子量マーカー(100bpラダー)、 レーン2:Pbd2ヘテロ接合性動物に関して製造されたPCR断片。 レーン3:Pbd2ホモ接合性動物(Qpctノックアウト)に関して製造されたPCR断片。
【図29】マウス系Pbd2におけるQpct遺伝子座に関する野生型、ヘテロ接合性、及びホモ接合性ノックアウト動物の血漿におけるQC活性。
【図30】マウス系Pbd2におけるQpct遺伝子座に関する雄野生型、雄ヘテロ接合性、及び雄ホモ接合性ノックアウト動物の血清におけるテストステロン濃度。
【図31】マウス系Pbd2におけるQpct遺伝子座に関する野生型、ヘテロ接合性、及びホモ接合性ノックアウト動物の血清におけるチロキシン(T4)濃度。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のその他の目的、利点、及び特徴は、下記の詳細な説明に関する考慮の下に明らかとなるであろう。
(発明の詳細な説明)
本発明は、下記に関する
1.ノックアウト変異を有するDNA Qpct遺伝子を含む細胞を含む非ヒト動物。
2.前記動物がラットである、項目1記載の非ヒト動物。
3.前記動物がマウスである、項目1記載の非ヒト動物。
4.前記Qpct遺伝子がマウス起源である、項目1〜3のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
5.前記マウスQpct遺伝子が配列番号22の配列を有する、項目4記載の非ヒト動物。
6.前記Qpct遺伝子がヒト起源である、項目1〜3のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
7.前記動物が前記Qpct遺伝子についてヘテロ接合性である、項目1〜6のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
8.前記動物が前記Qpct遺伝子についてホモ接合性である、項目1〜6のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
9.前記Qpct遺伝子が組換え遺伝子である、項目1〜8のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
10.前記Qpct遺伝子が構成的ノックアウト変異を有している、項目1〜9のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
11.前記Qpct遺伝子が条件的ノックアウト変異を有している、項目1〜9のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
12.Qpct関連の障害及び/又は疾患に及ぼす標的化合物の効果を決定することにおける使用のための、項目1〜11のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
13.エクソン4及び5が欠失している少なくとも1つのQpct対立遺伝子を有している、項目1〜11のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
14.前記Qpct対立遺伝子が配列番号23の配列を有する、項目1〜11及び13のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
15.前記動物がマウス系Pbd2のマウスである、項目13又は14のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
16.前記Qpct遺伝子が組織特異的プロモーターに機能し得るように連結されている、項目13〜15のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
17.前記マウスが、Qpct阻害剤を使用して逆転でき又は回復(ameliorate)できる表現型を示す、項目3〜16のいずれか1項に記載のマウス。
18.インビボでQpct産生を阻害し又は促進する生物活性のある薬剤についてのスクリーニング方法であって、項目1〜17のいずれか1項に記載の非ヒト動物に検査薬を投与すること、及び該薬剤の効果を決定することを含む、前記方法。
19.前記非ヒト動物が前記Qpct遺伝子についてヘテロ接合性である、項目18記載の方法。
20.前記非ヒト動物が前記Qpct遺伝子についてホモ接合性である、項目18記載の方法。
21.前記動物がマウスである、項目18〜20のいずれか1項に記載の方法。
22.前記Qpct遺伝子がマウス起源である、項目18〜21のいずれか1項に記載の方法。
23.前記Qpct遺伝子がヒト起源である、項目18〜21のいずれか1項に記載の方法。
24.前記Qpct遺伝子が組換え遺伝子である、項目18〜23のいずれか1項に記載の方法。
25.前記組換えQpct遺伝子が構成的ノックアウト変異を有している、項目18〜24のいずれか1項に記載の方法。
26.前記Qpct遺伝子が条件的ノックアウト変異を有している、項目18〜24のいずれか1項に記載の方法。
27.標的薬物の発見における使用のための、項目18記載の方法。
28.前記動物が、エクソン4及び5が欠失している少なくとも1つのQpct対立遺伝子を有している、項目18〜27のいずれか1項に記載の方法。
29.前記動物が、マウス系Pbd2のマウスである、項目18〜28のいずれか1項に記載の方法。
30.前記Qpct遺伝子が組織特異的プロモーターに機能し得るように連結されている、項目18〜29のいずれか1項に記載の方法。
31.前記マウスが、Qpct阻害剤を使用して逆転でき又は回復できる表現型を示す、項目18〜30のいずれか1項に記載の方法。
32.項目1〜17のいずれか1項に記載の非ヒト動物に由来する細胞又は細胞株。
33.Qpct活性を阻害し又は促進する治療薬についてスクリーニングする方法であって、
(a)項目3〜17のいずれか1項に記載のマウスに検査薬を投与すること
(b)該マウスの表現型に及ぼす該検査薬の効果を評価すること、及び
(c)Qpct活性を阻害し又は促進する検査薬を選択すること
を含む、前記方法。
34.Qpct関連疾患の治療又は予防の方法であって、
(a)項目33記載の選択された検査薬を投与すること;
及び
(b)Qpct関連疾患に対する低い臨床指数について前記患者をモニターすること
を含む、前記方法。
35.前記Qpct関連疾患がアルツハイマー病である、項目34記載の方法。
36.前記Qpct関連疾患が粥状硬化又は再狭窄である、項目34記載の方法。
37.ピログルタミン酸-ペプチド形成に関して、Qpct触媒作用について前記疾患と関連した生理学的機能を分析する方法であって、
(a)項目3〜17のいずれか1項に記載のマウスに検査薬を投与すること
(b)ピログルタミン酸-ペプチド濃度及び、該マウスの表現型に及ぼす該検査薬の効果を評価すること、並びに
(c)ピログルタミン酸-ペプチド活性を阻害し又は促進する検査薬を選択すること
を含む、前記方法。
38.項目34記載の選択された検査薬を含む医薬組成物。
39.Qpct関連疾患の治療及び/又は予防のための医薬の製造のための、項目33に従って選択された検査薬の使用。
40.Qpctによって負の影響を及ぼされるであろう化合物の製造において使用するためのQpct-ノックアウト遺伝子を含む改変された細胞。
41.特定の組織のみ及び/又は特別な時点のみにおけるQpct発現を有するモデルの準備のための、項目1〜17のいずれか1項に記載の非ヒト動物の又は項目32若しくは40記載の細胞の使用。
42.インビボでQpct活性を阻害し又は促進する生物活性のある化合物についてのスクリーニング方法であって、
i)軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群における神経変性、家族性デンマーク型認知症、家族性英国型認知症、関節リウマチ、粥状硬化、再狭窄、及び膵炎から選択された少なくとも1つの疾患の治療に特異的な非ヒト動物モデルに検査化合物を投与する工程、
ii)該非ヒト動物モデルにおける該検査化合物の効果を決定する工程;
iii)該非ヒト動物モデルにおける該検査化合物の効果を、項目1〜17のいずれか1項に記載のQpctノックアウト動物におけるQpct遺伝子破壊の効果と比較する工程、及び
iv)項目1〜17のいずれか1項に記載のQpctノックアウト動物におけるQpct遺伝子破壊の効果と同様に、該非ヒト動物モデルにおいて特定の疾患を軽減する検査化合物を選択する工程
を含む、前記方法。
43.前記非ヒト動物モデルが、軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群における神経変性、家族性デンマーク型認知症(Dementiaand)及び家族性英国型認知症からなる群から選択された疾患に特異的である、項目42記載のスクリーニング方法。
44.前記非ヒト動物モデルがアルツハイマー病特異的である、項目43記載のスクリーニング方法。
45.前記動物モデルが、PDAPP、Tg2576、APP23、TgCRND8、PSEN1M146V又はPSEN1M146L、PSAPP、APPDutch、BRI-Aβ40及びBRI-Aβ42、JNPL3、TauP301S、TauV337M、TauR406W、rTg4510、Htau、TAPP及び3×TgADからなる群から選択される、項目42〜44のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
46.前記検査化合物の効果が、[pGlu3]Aβ3-40/42/43ペプチド又は[pGlu11]Aβ11-40/42/43ペプチドを低下させることである、項目42〜45のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
47.前記検査化合物の効果が、[pGlu3]Aβ3-40ペプチドを低下させることである、項目42〜46のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
48.前記検査化合物の効果が、[pGlu3]Aβ3-42ペプチドを低下させることである、項目42〜47のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
49.前記非ヒト動物モデルが、関節リウマチ、粥状硬化、再狭窄、及び膵炎からなる群から選択された疾患に特異的である、項目42記載のスクリーニング方法。
50.前記非ヒト動物モデルが、関節リウマチに特異的である、項目49記載のスクリーニング方法。
51.前記非ヒト動物モデルが、粥状硬化に特異的である、項目49記載のスクリーニング方法。
52.前記動物モデルが、アポリポタンパク質Eノックアウトマウスモデル、マウスにおけるチオグリコール酸誘発性炎症モデル、ラットにおけるコラーゲン誘発性関節炎モデル及び再狭窄のラットモデルからなる群から選択される、項目42及び49〜50のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
53.前記検査化合物の効果が、THP-1細胞の走化性の阻害である、項目42及び49〜51のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
54.前記検査化合物の効果が、pGlu-MCP-1の形成の阻害である、項目42及び49〜51のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
55.項目42〜54のいずれか1項に記載の選択された検査薬を含む医薬組成物。
56.Qpct関連疾患の治療及び/又は予防のための医薬の製造のための、項目42〜54のいずれか1項に従って選択された検査薬の使用。
57.Qpct関連疾患の治療又は予防の方法であって、
(a)項目42〜54のいずれか1項に従って選択された検査薬を投与すること;及び
(b)Qpct関連疾患に対する低い臨床指数について前記患者をモニターすること
を含む、前記方法。
58.前記Qpct関連疾患が、軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群における神経変性、家族性デンマーク型認知症及び家族性英国型認知症からなる群から選択される、項目56又は57記載の使用又は方法。
59.前記Qpct関連疾患がアルツハイマー病である、項目56又は57記載の使用又は方法。
60.前記Qpct関連疾患が、関節リウマチ、粥状硬化、再狭窄、及び膵炎からなる群から選択される、項目56又は57記載の使用又は方法。
61.前記Qpct関連疾患が関節リウマチである、項目56、57又は60のいずれか1項に記載の使用又は方法。
62.前記Qpct関連疾患が粥状硬化である、項目56、57又は60のいずれかに記載の使用又は方法。
【0017】
非ヒトノックアウト動物、特に上記のノックアウトマウスは、とりわけ下記の態様において有用である:
−Qpct-エフェクター/阻害剤についてのスクリーニングアッセイ
−薬物開発、特に候補薬物の標的についてのスクリーニング、標的特異性及び/又は非特異的効果、
−疾患モデルの提供、
−例えばQpctによって負に影響を及ぼされるであろう化合物の製造における使用のための改変した細胞の回収。この文脈における「負に影響を及ぼされる」は、例えば低い又は減退した収率/製造率及び/又は低い効能及び/又は高い抗原性を包含する。このような化合物は、例えば抗体、ペプチド、タンパク質等であり得る。
−例えば適切な標的薬物となり得る特定の物質の上方調節又は下方調節のような、上記のノックアウト動物において検出される差異を決定することによる標的の発見、
−あるポリペプチド、例えばAβペプチド又はTRH等の重要性を決定するためのアッセイの提供、
−「清潔な」トランスジェニックモデルのための基盤に、例えば特定の細胞/組織及び/又は器官においてのみ、或いは遅れずに特定の時点でのみ、Qpctの制御された発現を提供すること;
-以下に限定されるわけではないがペプチド製剤及び保護基の最適化。
【0018】
(定義)
「ノックアウト動物」という用語は、1つ以上の遺伝子の非活性化をもたらす1つ以上の遺伝子操作を有する非ヒト動物、通常哺乳動物を意味する。
「構築物」という用語は、特定のヌクレオチド配列の発現の目的のために生じた、又は他の組換えヌクレオチド配列の構築において使用されるべき、組換え核酸、一般的には組換えDNAを意味する。組換え核酸は、例えばキメラポリペプチド又はヒト化ポリペプチドをコードすることができる。
本明細書におけるポリペプチドは、10を超えるアミノ酸を含むすべての可能なアミノ酸配列に関する。
【0019】
「機能し得るように連結されている」という用語は、適切な分子(例えば、転写活性化タンパク質)が調節配列に結合するときに遺伝子発現を可能にするような方法でDNA配列及び調節配列が接続されていることを意味する。
【0020】
「機能的に挿入されている」という用語は、関心対象のヌクレオチド配列が、関心対象の導入されたヌクレオチド配列の転写及び翻訳を指揮するヌクレオチド配列の近くに配置されることを意味する。
【0021】
(ノックアウト遺伝子)
本発明の遺伝子を含むQpctポリヌクレオチドは、Qpct cDNAを含み、かつまた修飾されたQpct cDNAを含むものとする。本明細書で使用されるように、核酸の「修飾」は、参照配列に関する1つ又はいくつかのヌクレオチドの付加、欠失、又は置換を含むことができる。核酸の修飾は、遺伝暗号の縮重によるコード化されたアミノ酸配列を変化させない置換、又は保存的置換を結果として生じる置換を含むことができる。このような修飾は、ポリAテールの付加等の故意になされる変化、又は核酸複製の間の変異として生じる変化に相当し得る。
【0022】
本明細書で採用されるように、「実質的に同一のヌクレオチド配列」という用語は、DNAが中程度にストリンジェントな、又はより高いストリンジェンシーのハイブリッド形成条件下で参照ヌクレオチドとハイブリッド形成するであろうように、参照ポリヌクレオチドと十分な同一性を有する該DNAを指す。参照ヌクレオチド配列と「実質的に同一のヌクレオチド配列」を有するDNAは、参照ヌクレオチド配列に関して少なくとも60%から少なくとも95%までの範囲に及ぶ同一性を有することができる。
【0023】
「中程度にストリンジェントなハイブリッド形成」という句は、標的核酸が相補的核酸を結合することができる条件を指す。ハイブリッド形成した核酸は一般的に、少なくとも約60%から少なくとも約95%までの範囲内の同一性を有するであろう。中程度にストリンジェントな条件は、約42℃で50%ホルムアミド、5×デンハート(Denhart)液、5×リン酸ナトリウムEDTA緩衝塩類溶液(SSPE)、0.2%SDS(Aldrich)におけるハイブリッド形成に続く、約42℃で0.2×SSPE、0.2%SDS(Aldrich)における洗浄と同等の条件である。
【0024】
高いストリンジェンシーのハイブリッド形成は、約65℃で0.018M NaClにおいて安定したハイブリッドを形成する核酸配列のみのハイブリッド形成が可能な条件を指し、例えば、ハイブリッドが約65℃で0.018M NaClにおいて安定ではない場合、該ハイブリッドは本明細書で想定される高いストリンジェンシー条件下で安定ではないであろう。高いストリンジェンシー条件は、例えば42℃で50%ホルムアミド、5×デンハート液、5×SSPE、0.2%SDSにおけるハイブリッド形成に続く、約65℃で0.1×SSPE、及び0.1%SDSにおける洗浄によって提供することができる。
【0025】
他の適切な中程度のストリンジェンシー及び高いストリンジェンシーのハイブリッド形成の緩衝液及び条件は、当業者に周知であり、例えばSambrookらの文献「分子クローニング:実験室マニュアル第2版(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed.)」(Cold Spring Harbor Press, Plainview, N. Y. (1989));及びAusubelらの文献「分子生物学における最新プロトコール(増刊第47巻)(Current Protocols in Molecular Biology (Supplement 47))」(John Wiley & Sons, New York (1999))に記載されている。
【0026】
本発明のノックアウト遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は、ヒト由来のQpct配列又は任意の種由来の、好ましくはマウス種由来のQpctホモログであることができる。また、Qpctアミノ酸配列の断片が全長Qpct配列の機能のいくつか又はすべてを有する限り、本発明のノックアウト遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は、該断片であることができる。また、該配列は、修飾されたQpct配列であってもよい。個々の置換、欠失、又は付加は、単一のアミノ酸又はわずかな割合のアミノ酸(典型的には10%未満、より典型的には5%未満、及びなおより典型的には1%未満)を変化させ、付加し、又は欠失する。アミノ酸配列の「修飾」は、アミノ酸配列の保存的置換を包含する。機能的に同様のアミノ酸を提供する保存的置換の表は、当技術分野で周知である。下記の6つの群は各々、互いに対して保存的置換であるアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
及び
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
他の軽微な修飾は、ポリペプチドがQpctポリペプチドの構造的及び/又は機能的特徴のいくつか又はすべてを有する限り、該配列内に含まれる。典型的な構造的又は機能的特徴には、配列同一性又は実質的類似性、抗体反応性、RNA結合ドメイン又は酸性ドメイン等の保存された構造的ドメインの存在が含まれる。
【0027】
(DNA構築物及びベクター)
本発明はさらに、上記のQpctノックアウト遺伝子を含むDNA構築物を提供する。本明細書で使用されるように、「DNA構築物」という用語は、DNA分子における遺伝要素の具体的な明細な配置を指す。ヒトQpct又はその変異体形態に加えて、本発明はまた、他の種由来のポリペプチドを使用するDNA構築物、及び非ヒト種由来のBACE1を発現するQpct変異体非ヒト哺乳動物を使用するDNA構築物を提供する。
【0028】
所望の場合、前記DNA構築物は、プロモーター又はエンハンサー等の適切な発現エレメントに機能的に連結されるように操作して、適切な細胞又は組織においてDNA構築物における遺伝要素を発現させることができる。発現制御機構の使用により、関心対象の遺伝子の標的化した送達、及び発現が可能となる。例えば、本発明の構築物は、転写の5'-3'方向で脳組織における遺伝子発現と関連した転写及び翻訳開始領域、変異体又は野生型のQpctタンパク質をコードするDNA、並びに宿主動物において機能的な転写及び翻訳終止領域を含む発現カセットを使用して構築されてもよい。また、1つ以上のイントロンが存在することもできる。転写開始領域は、宿主動物に対して内因性であることができ、又は宿主動物に対して外来性若しくは外因性であることができる。
【0029】
本明細書に記載されているDNA構築物は、Qpctを過剰発現する変異体非ヒト哺乳動物を作出するために、増殖又は適切な細胞へのトランスフェクションのためのベクターに組み込まれてもよく、該DNA構築物も本発明によって含まれる。当業者は、例えば哺乳動物細胞又は細菌細胞等の特定の細胞におけるベクターの作製のために望ましい特性に基づいたベクターを選択することができる。
【0030】
ベクターは、機能的に連結された核酸の組織特異的な又は誘導性の発現を提供する調節エレメントを含むことができる。当業者であれば、所望の組織においてQpctポリペプチドを発現することができる適切な組織特異的プロモーター又はエンハンサーを容易に決定することができる。本明細書に記載されている組織特異的発現には、好ましい組織以外の組織において発現が完全にないことは必要ではないことに留意すべきである。その代わり、「細胞特異的」、又は「組織特異的」発現は、好ましい細胞タイプ又は組織における関心対象の特定の遺伝子の大部分の発現を指す。
【0031】
また、調節することができるQpctポリペプチド又は核酸の発現のためのベクターに、種々の誘導性プロモーター又はエンハンサーのいずれも含めることができる。このような誘導性の系には、例えば、テトラサイクリン誘導性の系(Gossen及びBizardの文献(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:5547-5551(1992));Gossenらの文献(Science,268:17664769(1995));Clontech,Palo Alto,Calif.);重金属によって誘導されるメタロチオネインプロモーター;エクジソン、又はムリステロン(muristerone)などの関連ステロイドに応答する昆虫ステロイドホルモン(Noらの文献(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93:3346-3351(1996));Yaoらの文献(Nature,366:476-479(1993));Invitrogen,Carlsbad,Calif.);糖質コルチコイド及びエストロゲンなどのステロイドによって誘導されるマウス乳癌ウイルス(MMTV)(Leeらの文献(Nature,294:228-232(1981));並びに温度変化によって誘導可能な熱ショックプロモーター;ラットニューロン特異的エノラーゼ遺伝子プロモーター(Forss-Petterらの文献(Neuron 5;197-197 (1990)));ヒトβ-アクチン遺伝子プロモーター(Rayらの文献(Genes and Development(1991)5:2265-2273));ヒト血小板由来増殖因子B(PDGF-B)鎖遺伝子プロモーター(Sasaharaらの文献(Cell(1991)64:217-227));ラットナトリウムチャネル遺伝子プロモーター(Maueらの文献(Neuron(1990)4:223-231));ヒト銅-亜鉛スーパーオキシドジスムターゼ遺伝子プロモーター(Ceballos-Picotらの文献(Brain Res.(1991)552:198-214));並びに哺乳動物POU-ドメイン調節遺伝子ファミリーのメンバーのためのプロモーター(Xiらの文献((1989)Nature 340:35-42))が含まれる。
【0032】
プロモーター又はエンハンサーを含む調節エレメントは、調節の性質に応じて、構成的であることができ、又は調節することができ、かつ種々の組織、又は1つ若しくは少数の特異的組織において調節することができる。制御配列又は調節エレメントは、ポリヌクレオチド配列と制御配列との間の物理的及び機能的関係により、ポリヌクレオチド配列の転写が可能となるように、本発明のポリヌクレオチド配列の1つに機能的に連結される。真核細胞における発現のために有用なベクターには、例えば、CAGプロモーター、SV40初期プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、マウス乳癌ウイルス(MMTV)ステロイド誘導性プロモーター、Pgtf、モロニーマリン(marine)白血病ウイルス(MMLV)プロモーター、thy-1プロモーター等を含む調節エレメントを含むことができる。
【0033】
所望の場合、ベクターには、選択可能マーカーを含むことができる。本明細書で使用されるように、「選択可能マーカー」は、選択可能マーカーが導入された細胞に選択可能な表現型を提供する遺伝要素を指す。選択可能マーカーは、一般に、その遺伝子産物が細胞増殖を阻害し又は細胞を死滅させる薬剤に対する耐性を提供する遺伝子である。例えばAusubelらの文献(「分子生物学の最新プロトコル(補遺47)(Current Protocols of Molecular Biology(Supplement 47))」,John Wiley & Sons,New York(1999))、及び米国特許第5,981,830号に記載されるように、例えば、Neo、Hyg、hisD、Gpt、及びBle遺伝子を含む種々の選択可能マーカーを本発明のDNA構築物に使用することができる。選択可能マーカーの存在についての選択のために有用な薬物には、例えば、NeoのためのG418、Hygのためのハイグロマイシン、hisDのためのヒスチジノール、Gptのためのキサンチン、及びBleのためのブレオマイシンが含まれる(上記Ausubelらの文献(1999);米国特許第5,981,830号参照)。本発明のDNA構築物には、ポジティブ選択可能マーカー、ネガティブ選択可能マーカー、又は両方を組み込むことができる(例えば、米国特許第5,981,830号参照)。
【0034】
(非ヒトノックアウト動物)
本発明は、主に、そのゲノムがノックアウトQpct遺伝子を含む非ヒトノックアウト動物を提供する。DNA断片は、当業者に公知の任意の方法によって動物のゲノムに組み込むことができる。所望の遺伝子配列を含むDNA分子は、導入された分子がその相同領域において組換えを受けることができるであろう任意の方法によって、ES細胞などの多能性細胞に導入することができる。使用することができる技術には、リン酸カルシウム/DNA共沈降、核へのDNAの微量注入、電気穿孔法、無処置細胞との細菌プロトプラスト融合、トランスフェクション、及びポリカチオン(例えば、ポリブレン、ポリオルニチン等)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。DNAは、直鎖状又は環状の一本鎖又は二本鎖DNAであることができる(例えば、Hoganらの文献(「マウス胚の操作:実験室マニュアル(Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual)」Cold Spring Harbor Laboratory(1986));Hoganらの文献(「マウス胚の操作:実験室マニュアル第2版(Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual, second ed.)」,Cold Spring Harbor Laboratory(1994)、米国特許第5,602,299号;第5,175,384号;第6,066,778号;第4,873,191号、及び第6,037,521号;レトロウイルスを媒介した生殖系列への遺伝子導入(Van der Puttenらの文献(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:6148-6152(1985)));胚性幹細胞における遺伝子ターゲティング(Thompsonらの文献(Cell 56:313-321(1989)));胚の電気穿孔法(Loの文献(Mol Cell.Biol.3:1803-1814(1983)));及び精子を媒介した遺伝子導入(Lavitranoらの文献(Cell 57:717-723(1989)))参照)。
例えば、接合体は、微量注入のための優良な標的であり、接合体を微量注入する方法は周知である(米国特許第4,873,191号参照)。
【0035】
また、種々の発生段階の胚細胞を使用して、ノックアウト動物の作出のために遺伝子を導入することができる。胚細胞の発生の段階に応じて、異なる方法が使用される。胚盤胞期胚の胞胚腔に導入され、その後、このようなトランスフェクトされた胚性幹(ES)細胞は、胚にコロニー形成し、結果として生じるキメラ動物の生殖系列に寄与することができる(Jaenischの文献(Science 240:1468-1474(1988))において概説されている。)。トランスフェクトされたES細胞を胞胚腔へ導入する前に、ノックアウト遺伝子がこのような選択のための手段を提供する場合、トランスフェクトされたES細胞を種々の選択プロトコルに供して、ノックアウト遺伝子が組み込まれたES細胞の比率を高めることができる。或いは、PCRを使用して、ノックアウト遺伝子を組み込んだES細胞をスクリーニングすることができる。
【0036】
加えて、また、レトロウイルス感染も、ノックアウト遺伝子を非ヒト動物に導入するために使用することができる。発生中の非ヒト胚は、インビトロで胚盤胞期まで培養することができる。この間、割球は、レトロウイルス感染のための標的となることができる(Jaenischの文献(Proc.Nati.Acad.Sci.USA 73:1260-1264 (1976)))。割球の効率的な感染は、透明帯を除去するための酵素処理によって得られる(上記Hoganらの文献,1986)。ノックアウトを導入するために使用されるウイルスベクター系は、典型的には、ノックアウトを有する複製欠陥のあるレトロウイルスである(Jahnerらの文献(Proc.Natl.Acad Sci.USA 82:6927-6931(1985));Van der Puttenらの文献(Proc.Natl.Acad Sci.USA 82:6148-6152(1985)))。トランスフェクションは、単層のウイルス産生細胞上で割球を培養することによって容易にかつ効率的に行われる(Van der Putten 1985,上記;Stewartらの文献(EMBO J.6:383-388(1987)))。或いは、感染は、より後期に行うことができる。ウイルス又はウイルス産生細胞を胞胚腔に注射することができる(Jahner D.らの文献(Nature 298:623-628(1982)))。組込みは、ノックアウト動物を形成する細胞のサブセットのみにおいて生じるので、大部分の創立細胞(founder)は、ノックアウト遺伝子についてモザイクであるだろう。さらに、創立細胞は、ゲノムの異なる位置にて、一般に子孫において分離するであろうノックアウト遺伝子の種々のレトロウイルス挿入を含むことができる。加えて、ノックアウト遺伝子は、妊娠中期胚の子宮内レトロウイルス感染によって生殖系列に導入してもよい(Jahnerらの文献,1982,上記)。当業者に公知のノックアウト動物を作出するためのレトロウイルス又はレトロウイルスベクターを使用するさらなる手段には、レトロウイルス粒子の微量注入、又は受精卵若しくは初期胚の囲卵腔にレトロウイルスを生じるマイトマイシンC処理した細胞を含む(WO 90/08832(1990);Haskell及びBowenの文献(Mal.Reprod.Dev.40: 386(1995)))。
【0037】
また、ノックアウト遺伝子を非ヒト動物に導入するための任意の他の技術、例えばノックイン又はレスキュー技術を使用して、本発明の問題を解決することができる。ノックイン技術は、例えばCasasらの文献(Am J Pathol 165, 1289-1300(2004))に記載されているように、当技術分野において周知である。
【0038】
一旦創立動物が作出されると、特定の動物の群体を作出するために該動物を繁殖させ、同系交配させ、異系交配させ、又は交雑させることができる。このような繁殖戦略の例には、下記を含むがこれらに限定されるわけではない:分離した系統を確立するために2つ以上の組込み部位をもつ創立動物の異系交配;各導入遺伝子の相加発現の効果のため、より高レベルにて導入遺伝子を発現させる複合トランスジェニクス(compound transgenics)を生じるための、分離した系統の同系交配;発現を増大させるため、及びDNA分析による動物のスクリーニングの必要性を除去するための両方のために、所与の組込み部位についてホモ接合性であるマウスを作出するためのヘテロ接合性トランスジェニックマウスの交雑;複合のヘテロ接合性又はホモ接合性系統を作出するための、分離したホモ接合性系統の交雑;導入遺伝子の発現及び発現の効果に及ぼす対立遺伝子を修飾する効果を検討するための、異なる近交系の遺伝的背景への動物の繁殖。
【0039】
ノックアウト動物は、関心対象の表現型を有する動物を選択するために、スクリーニングされ及び評価される。例えばサザンブロット分析又はPCR技術を使用して初期スクリーニングを実施し、動物組織を解析して、ノックアウト遺伝子の組込みが起こったことを検証することができる。また、ノックアウト動物の組織におけるノックアウト遺伝子のmRNA発現のレベルは、動物から得られる組織試料のノザンブロット分析、インサイチューハイブリッド形成分析、及び逆転写酵素-PCR(rt-PCR)を含むがこれらに限定されない技術を使用して評価することができる。Qpctに特異的な抗体を使用して、又はEGFP等のタグを用いて、適切な組織の試料を免疫細胞化学的に評価することができる。本発明の方法に有用な表現型を有する動物を同定するために、ノックアウト非ヒト哺乳動物をさらに特徴づけることができる。特に、Qpctを過剰発現するノックアウト非ヒト哺乳動物は、本明細書に開示した方法を使用してスクリーニングすることができる。例えば、組織切片では、リポーター遺伝子の存在を示す蛍光の存在する色素について蛍光顕微鏡下で見ることができる。
【0040】
組織特異的発現に影響を及ぼす別の方法は、組織特異的プロモーターを使用することによる。適切な組織特異的プロモーターの非限定的な例には、アルブミンプロモーター(肝臓特異的;Pinkertらの文献((1987)Genes Dev. 1:268-277));リンパ系特異的プロモーター(Calame及びEatonの文献((1988)Adv. Immunol. 43:235-275))、特にT細胞受容体(Winoto及びBaltimoreの文献((1989)EMBO J. 8:729-733))、及び免疫グロブリン(Banerjiらの文献((1983)Cell 33:729-740);Queen及びBaltimoreの文献((1983)Cell 33:741-748))のプロモーター、ニューロン特異的プロモーター(例えば、神経フィラメントプロモーター、Thy-1プロモーター、又はBri-タンパク質プロモーター;Sturchler-Pierratらの文献((1997)Proc. Natl. Acad Sci. USA 94:13287-13292)、Byrne及びRuddleの文献((1989)PNAS 86:5473-5477))、膵臓特異的プロモーター(Edlundらの文献((1985)Science 230:912-916))、心臓特異的発現(αミオシン重鎖プロモーター、Subramaniam, A, Jones WK, Gulick J, Wert S, Neumann J, 及びRobbins J.の文献(「トランスジェニックマウスにおけるα-ミオシン重鎖遺伝子プロモーターの組織特異的制御(Tissue-specific regulation of the alpha-myosin heavy chain gene promoter in transgenic mice.)」,J Biol Chem 266:24613-24620,1991)、並びに乳腺特異的プロモーター(例えば、乳清プロモーター;米国特許第4,873,316号、及び欧州出願公開第264,166号)を含む。
【0041】
本発明はさらに、本発明のDNA構築物を含む単離された細胞を提供する。DNA構築物は、周知の任意のトランスフェクション方法によって細胞に導入することができる(Sambrookらの文献(「分子クローニング:実験室マニュアル第2版(Molecular Cloning:A Laboratory Manual, 2nd ed.)」、Cold Spring Harbor Press, Plainview, N. Y.(1989))
;Ausubelらの文献、上記、(1999))。或いは、細胞は、本明細書に記載したように作出した変異体非ヒト哺乳動物から細胞を単離することによって得ることができる。このように、本発明は、本発明のQpct変異体非ヒト哺乳動物、特にQpct変異体ノックアウトマウスから単離された細胞を提供する。細胞は、マウス等のホモ接合性Qpct変異体非ヒト哺乳動物、又はマウス等のヘテロ接合性Qpct変異体非ヒト哺乳動物から得ることができる。
【0042】
(エフェクター)
エフェクターは、該用語が本明細書で使用されるときに、酵素に結合し、かつインビトロ及び/又はインビボで該酵素の活性を増大させ(すなわち、促進し)、又は低下させる(すなわち、阻害する)分子として定義される。いくつかの酵素は、該酵素の触媒活性に影響を及ぼす分子に対する結合部位を有しており;刺激分子は、活性化因子と呼ばれている。酵素はさらに、2つ以上の活性化因子又は阻害剤を認識するための多数の部位を有していてもよい。酵素は、種々の分子の濃度を検出することができ、かつ該酵素自体の活性を変化させるためにその情報を使用することができる。
【0043】
酵素は、活性のある高次構造及び不活性な高次構造の両方を想定することができるので、エフェクターは、酵素活性を調整することができ:活性化因子は、正のエフェクターであり、阻害剤は、負のエフェクターである。エフェクターは、酵素の活性部位においてだけでなく、調節部位、又は調節部位が触媒部位とは異なる酵素のエレメントであることを強調するために、及び触媒部位における基質と阻害剤との間の競合によるこの形態の調節を区別するために使用される用語であるアロステリック部位においても作用する(Darnell, J., Lodish, H. 及びBaltimore, D.の文献(1990, 「分子細胞細胞生物学第2版(Molecular Cell Biology 2"d Edition)」, Scientific American Books, New York, page 63))。
【0044】
(ペプチド)
ペプチド又はアミノ酸が、本発明において言及される場合、各アミノ酸残基は、下記の従来の一覧に従って、アミノ酸の慣用名に対応する1文字又は3文字命名によって表される:
【表1】
【0045】
(QC)
本明細書で使用される「QC」又は「Qpct」という用語は両方とも、同一のものを指すこと、及びグルタミニルシクラーゼ(QC)、すなわちグルタミニル-ペプチドシクロトランスフェラーゼ(EC2.3.2.5.)を含むことが意図される。好ましくは、本明細書で使用されるQpctは、哺乳動物Qpct、より好ましくは非ヒトQpct、最も好ましくはマウスQpctである。
【0046】
(QC様酵素)
QC及びQC様酵素は、さらにQC活性として定義される同一又は類似の酵素活性を有する。この点について、QC様酵素は、該QC様酵素の分子構造においてQCとは基本的に異なることができる。
【0047】
本明細書で使用される「QC活性」という用語は、アンモニアの遊離下でのN末端グルタミン残基のピログルタミン酸(pGlu*)への、又はN末端L-ホモグルタミン若しくはL-β-ホモグルタミンの環状ピロ-ホモグルタミン誘導体への分子内環化として定義される。スキーム1及び2を参照されたい。
【0048】
【化1】
【化2】
【0049】
本明細書で使用される「EC」という用語は、グルタミン酸シクラーゼ(EC)活性としてさらに定義される、QCの及びECのようなQC様酵素の付随的な活性を含む。
本明細書で使用される「EC活性」という用語は、QCによるN末端グルタミン酸残基のピログルタミン酸(pGlu*)への分子内環化として定義される。スキーム3を参照されたい。
【0050】
本明細書で使用される「金属依存性酵素」という用語は、該酵素の触媒機能を満たすために結合した金属イオンを必要とする、及び/又は触媒活性のある構造を形成するために結合した金属イオンを必要とする酵素として定義される。
【0051】
【化3】
本明細書で使用される「Qpct関連疾患」という用語は、Qpctによって調節されるすべての疾患、障害、又は容態を指す。
【0052】
(治療薬のアッセイ及び同定)
本発明の方法及び組成物は、Qpctのエフェクターの評価において、並びに軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群における神経変性、家族性デンマーク型認知症、及び家族性英国型認知症などのアミロイド関連疾患の治療及び予防のための薬物及び治療薬の開発のために特に有用である。
【0053】
その上、本発明の方法及び組成物はまた、Qpctのエフェクターの評価において、並びに慢性及び急性炎症性疾患、例えば、関節リウマチ、粥状硬化、再狭窄、膵炎の治療及び予防のための薬物及び治療薬の開発のために有用である。
【0054】
本発明のノックアウト動物又はノックアウト動物の細胞は、種々のスクリーニングアッセイに使用することができる。例えば、Qpct及びアミロイド蓄積に影響を及ぼすことが疑われる種々の有望な任意の薬剤、並びに適切なアンタゴニスト及び遮断性治療薬は、ノックアウト動物への投与、並びに細胞の機能及び表現型に対する、及びノックアウト動物の表現型、すなわち神経学的表現型に及ぼすこれらの薬剤の効果を評価することによってスクリーニングすることができる。
【0055】
また、運動技能、学習、及び記憶の欠損を評価するために立案された研究などの行動研究を使用して、有望な治療薬を試験してもよい。このような試験の例は、モリス水迷路である(Morrisの文献((1981)Learn Motivat 12:239-260))。加えて、行動研究には、ローター-ロッド及びオープンフィールドでのものなどの自発運動活動の評価を含んでいてもよい。
【0056】
本発明の好ましい実施態様は、Qpct遺伝子のヘテロ接合性又はホモ接合性欠損から結果的に生じる表現型の結果を検討するためのインビボ動物モデルに関し、ここで、該動物モデルは、Qpct遺伝子のヘテロ接合性又はホモ接合性の破壊を有する哺乳動物である。
【0057】
本発明のさらなる好ましい実施態様において、Qpct遺伝子はヒト起源であり、より好ましくはマウス起源である。また、本発明に従ったQpct遺伝子は、組換え遺伝子であってもよい。
【0058】
本発明に従った最も好ましいものは、配列番号22のマウスQpct遺伝子である。
マウスQpct遺伝子、好ましくは配列番号22のマウスQpct遺伝子の破壊は、例えば、Qpctタンパク質における単一のアミノ酸の欠失又は置換をもたらす遺伝子変異によって達成されてもよい。本発明に従って好ましいのは、エクソン3における残基H141及びD160、エクソン4における残基E202及びE203、エクソン5における残基D249、並びにエクソン7における残基H331からなる群から選択されるアミノ酸の少なくとも1つに関するQpctタンパク質における欠失をもたらす、Qpct遺伝子における変異である。
【0059】
本発明のさらなる実施態様において、Qpct遺伝子の破壊はまた、1つ以上のエクソンの欠失によっても達成することができる。Qpct遺伝子の任意の単一のエクソンの欠失によって、Qpct遺伝子の破壊が生じてもよい。本発明に従って好ましいのは、Qpct遺伝子の、より好ましくはマウスQpct遺伝子のエクソン4及び/又は5の欠失である。最も好ましくは、マウスQpct遺伝子は、エクソン4及び5の欠失後の、配列番号23の配列を有する。
【0060】
Qpctは、神経変性疾患、例えば軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群における神経変性、家族性デンマーク型認知症、及び家族性英国型認知症;並びに慢性及び急性炎症性疾患、例えば関節リウマチ、粥状硬化、再狭窄、膵炎を含むがこれらに限定されるわけではない種々の生物学的、医学的、又は生理学的過程又は現象に関与するので、Qpct遺伝子のヘテロ接合性又はホモ接合性欠損を有する動物モデルは、上記の過程/現象の機構及び/又は病因を研究するために有用である。特定の実施態様において、Qpct遺伝子のヘテロ接合性又はホモ接合性欠損を有する本発明の動物モデルは、これらの及び他の過程/現象を研究するための哺乳動物インビボスクリーニングモデルとして有用であろう。
【0061】
「動物モデル」が意味するのは、問題の生理学的又は病理学的情況を研究するために使用される、医学研究において使用されるための、解剖学、生理学、又は病原体に対する応答においてヒトに十分類似した動物である。本発明によると、動物モデルは、生物学的機構、例えばアミロイドβペプチド形成を理解することを目的とした探索的モデル、又は多かれ少なかれ複雑な生物学的問題を理解することを目的とする説明的モデルであることができる。
【0062】
神経変性疾患、例えば軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群における神経変性、家族性デンマーク型認知症、及び家族性英国型認知症;並びに慢性及び急性炎症性疾患、例えば関節リウマチ、粥状硬化、再狭窄、膵炎の発達についてのインビボでのQpctの生理学的機能の分析は、本発明のヘテロ接合性又はホモ接合性Qpctノックアウト動物を採用して実施することができる。上記の疾患の治療において有用であるQpct阻害剤について効果的なスクリーニングは、具体的な疾患についての既存の動物モデルを検査化合物で治療すること、及びこのような治療の結果をQpctノックアウト動物におけるQpct遺伝子破壊の効果と比較することによって実施され得る。
【0063】
従って、インビボでQpct産生を阻害し又は促進する生物学的に活性のある薬剤をスクリーニングする好ましい方法は、下記の工程を含む:
i)軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群における神経変性、家族性デンマーク型認知症、家族性英国型認知症、関節リウマチ、粥状硬化、再狭窄、及び膵炎から選択された少なくとも1つの疾患の治療に特異的な非ヒト動物モデルに検査化合物を投与する工程、
ii)該検査化合物の効果を決定する工程;
iii)該検査化合物の効果を、Qpctノックアウト動物におけるQpct遺伝子破壊の効果と比較する工程、及び
iv)具体的な疾患に及ぼすQpct遺伝子破壊の効果と同様の効能を有する検査化合物を選択する工程。
【0064】
特に、Qpct阻害剤のスクリーニングについてのこの方法の使用が好ましい。
さらなる好ましい実施態様において、この方法は、アルツハイマー病又はダウン症候群における神経変性の治療のためのQpct阻害剤のスクリーニングのために使用される。
さらに別の好ましい実施態様において、この方法は、家族性英国型認知症又は家族性デンマーク型認知症の治療のためのQpct阻害剤のスクリーニングのために使用される。
【0065】
さらに、この方法は好ましくは、関節リウマチ、粥状硬化、再狭窄、及び膵炎から選択された疾患の治療のためのQpct阻害剤のスクリーニングのために使用される。
【0066】
アルツハイマー病、家族性英国型認知症又は家族性デンマーク型認知症、及び例えばダウン症候群における神経変性の治療のためのQpct阻害剤の有効性は、アルツハイマー病の既存の動物モデルにおいて検査することができる。
【0067】
アルツハイマー病の適切な動物モデルは、McGowanらの文献(TRENDS in Genetics, Vol.22, No. May 2006, pp281-289)に概説されており、以下に記載されるように、PDAPP、Tg2576、APP23、TgCRND8、PSEN1M146V又はPSEN1M146L、PSAPP、ADDDutch、BRI-Aβ40及びBRI-Aβ42、JNPL3、TauP301S、TauV337M、TauR406W、rTg4510、Htau、TAPP、3×TgADから選択される。
【0068】
PDAPP:頑強なプラーク病状を有する第一の変異体APPトランスジェニックモデル。マウスはインディアナ型変異(APPV717F)を有するヒトAPP cDNAを発現する。プラーク病状は、ヘミ接合性PDAPPマウスにおいて6〜9ヶ月間の間に始まる。シナプスは失われているが、明らかな細胞の損失及びNFT病状は観察されない。このモデルは、ワクチン接種治療法戦略において広く使用されてきた。
【0069】
Tg2576:マウスは、ハムスタープリオンプロモーターの制御下で変異体APPSWEを発現する。プラーク病状は、9ヶ月齢から観察される。これらのマウスは、認知障害を有するが、細胞の損失又はNFT病状がない。最も広く使用されるトランスジェニックモデルの1つである。
【0070】
APP23:マウスは、Thy1プロモーターの制御下で変異体APPSWEを発現する。顕著な脳血管アミロイド、アミロイド沈着が6ヶ月齢から観察され、いくつかの海馬ニューロンの損失がアミロイドプラーク形成と関連している。
【0071】
TgCRND8:マウスは、複数のAPP変異を発現する(スウェーデン型+インディアナ型)。認知障害は、3ヶ月齢までにおける迅速な細胞外プラーク発達と一致している。認知障害は、Aβワクチン接種治療法によって逆転することができる。
【0072】
PSEN1M146V又はPSEN1M146L(それぞれ、6.2系及び8.9系):これらのモデルは、変異体PSEN1がAβ42を選択的に上昇させることをインビボで最初に示している。明らかなプラーク病状は観察されない。
【0073】
PSAPP(Tg2576×PSEN1M146L、PSEN1-A246E+APPSWE):二遺伝子トランスジェニックマウスであり、変異体PSEN1導入遺伝子の付加によって、単一トランスジェニック変異体APPマウスと比較してアミロイド性病態が著しく促進しており、PSEN1により駆動されるAβ42の上昇がプラーク病態を亢進することを示した。
【0074】
APPDUTCH:マウスは、ヒトにおけるアミロイドーシス-オランダ型とともに遺伝性脳出血を生じるオランダ型変異を有するAPPを発現する。APPDUTCHマウスは、重度のコンゴーレッド親和性アミロイド血管障害を発症する。変異体PSEN1導入遺伝子の付加は、脈管及び実質性アミロイド病態におけるAβ40及びAβ42について異なる役割を示す実質に対してアミロイド病態を再配分する。
【0075】
BRI-Aβ40及びBRI-Aβ42:マウスは、APPを過剰発現しない個々のAβアイソフォームを発現する。Aβ42を発現するマウスのみが老年性プラーク及びCAAを発症するのに対し、BRI-Aβ40はプラークを発症せず、Aβ42がプラーク形成に必須であることを示唆している。
【0076】
JNPL3:マウスは、P301L変異を有する4R0N MAPTを発現する。これは顕著な混乱した病態及び細胞の損失を有する最初のトランスジェニックモデルであり、このことはMAPT単独で細胞性損傷及び損失を生じることができることを示す。JNPL3マウスは、脊髄における重度の病態及び運動ニューロンの損失による加齢随伴性運動障害を発症する。
【0077】
TauP301S:P301S変異を有する4R MAPTの最も短いアイソフォームを発現するトランスジェニックマウス。ホモ接合性マウスは、脳及び脊髄における広範な神経原線維の病態並びに脊髄におけるニューロンの損失とともに、5〜6ヶ月齢で重度の不全対麻痺を発症する。
【0078】
TauV337M:血小板由来増殖因子(PDGF)のプロモーターによって駆動されるV337M変異を有する4R MAPTの低レベルの合成(1/10の内因性MAPT)。これらのマウスにおける神経原線維の病態の発症は、絶対的なMAPT細胞内濃度が病態を駆動するよりもむしろ、MAPTの性質を示唆する。
【0079】
TauR406W:CAMKIIプロモーターの制御下でR406W変異を有する4RヒトMAPTを発現するマウス。マウスは、18ヶ月齢から前脳におけるMAPT封入を発症し、かつ連合記憶障害を有する。
【0080】
rTg4510:TETオフシステムを使用する誘導性MAPTトランスジェニックマウス。異常なMAPT病態が1ヶ月齢から生じる。マウスは、進行性NFT病態及び重度の細胞損失を有する。認知欠陥は2.5ヶ月齢から顕性である。導入遺伝子をオフにすることによって、認知能力が改善されるが、NT病態は悪化する。
【0081】
Htau:ヒトゲノムMAPTのみを発現するトランスジェニックマウス(マウスMAPTノックアウト)。Htauマウスは、高リン酸化型のMAPT形態6ヶ月齢を蓄積し、15ヶ月齢の時点までチオ-S-ポジティブのNFTを発症する。
【0082】
TAPP(Tg2576×JNPL3):変異体APP及び/又はAβが下流のMAPT病態に影響を及ぼすことができることを示唆する、TAPPマウスにおけるJNPL3と比較して高いMAPT前脳病態。
3×TgAD:PSEN1M146V「ノックイン」背景(PSNE1-KI)における変異体APPSWE、MAPTP301Lを発現する三重トランスジェニックモデル。マウスは6ヶ月齢からプラークを、12ヶ月齢の時点からMAPT病態を発症し、APP又はAβが神経原線維病態に直接影響を及ぼすことができるという仮説を強化する。
【0083】
Qpctを過剰発現し、かつ上記のスクリーニング方法において有用である非ヒトトランスジェニック動物がWO2008/087197に開示されている。
適切な研究立案は、下記の表に概略されるように可能であろう。QC阻害剤は、飲用溶液若しくは固形飼料を介して、又は任意の他の従来の投与経路、例えば経口的に、静脈内に若しくは皮下に適用されるであろう。
【表2】
【0084】
アルツハイマー病に関して、SDS及びギ酸を使用するAβの連続抽出によって、Qpct阻害剤の有効性をアッセイすることができる。まず、総Aβ(x-42)又はAβ(x-40)、及び[pGlu3]Aβ3-40/42/43又は[pGlu11]Aβ11-40/42/43を定量化するELISAを使用して、最大Aβ濃度を含むSDS及びギ酸の画分を分析することができる。上記のスクリーニング方法を採用して同定され、かつさらなる医薬の開発に適した検査化合物は、[pGlu3]Aβ3-40/42/43又は[pGlu11]Aβ11-40/42/43の形成を減少させるべきである。特に、適切な検査化合物は、[pGlu3]Aβ3-40及び/又は[pGlu3]Aβ3-42の形成を減少させることができる。
【0085】
[pGlu3]Aβ3-42の定量化のためのELISAキットは、IBL,カタログ番号JP27716から市販されている。
[pGlu3]Aβ3-40の定量化のためのELISAは、2008年にSchillingら(Schilling S, Appl T, Hoffmann T, Cynis H, Schulz K, Jagla W, Friedrich D, Wermann M, Buchholz M, Heiser U, von Horsten S, Demuth HUの文献(「グルタミニルシクラーゼの阻害はインビボ/インサイチューでの皮質内/海馬への微量注入後のpGlu-Aβ形成を予防する。(Inhibition of glutaminyl cyclase prevents pGlu-Abeta formation after intracortical/hippocampal microinjection in vivo/in situ.)」, J Neurochem. 2008 Aug;106(3):1225-36))によって記載されている。
【0086】
択一的な処置方法を下記に示す。
【表3】
続いて、Qpct阻害剤処置後に、行動変化に関してAD動物を検査することができる。適切な行動検査パラダイムは例えば、海馬依存性学習の異なる態様を扱うものである。このような神経学的検査についての例は、モリス水迷路検査及び前後関係の記憶の変化をみる恐怖条件付け検査である(Comery, TAらの文献(2005, J Neurosci 25: 8898-8902);Jacobsen JSらの文献(2006, Proc Natl. Acad. Sci USA 103: 5161-5166))。
【0087】
炎症性疾患、例えば本発明によって想定される粥状硬化の動物モデルは、既存の粥状硬化動物モデル、例えばアポE欠乏マウスであることができ、又はQpct遺伝子過剰発現を若しくはアポE欠乏の背景のある遺伝子欠乏症を有するトランスジェニックマウスを準備することによって準備できる。アポリポタンパク質Eノックアウトマウスモデルは、粥状硬化についての主要なモデルのうちの1つとなってきている(Arterioscler Thromh Vase Biol., 24: 1006-1014, 2004;Trends Cardiovasc Med, 14: 187-190, 2004)。研究は、Johnsonらの文献(Circulation, 111: 1422-1430, 2005)によって記載されているように、又はその変法を使用して実施してもよい。アポリポタンパク質E欠乏マウスモデルアポリポタンパク質E(アポE)は、カイロミクロン、VLDL、及びHDLを含むいくつかの血漿リポタンパク質のうちの1つの成分である。これらのリポタンパク質粒子の受容体仲介性異化作用は、アポEとLDL受容体(LDLR)との又はLDLR関連タンパク質(LRP)との相互作用を通じて媒介される。アポE欠乏性マウスは高コレステロール血症を呈し、ヒトにおいてみられるのと同様の複雑なアテローム性病変を発症する。また、この動物モデルを使用して、本発明の化合物の有効性も評価した。
【0088】
上記のスクリーニング方法における使用に適した炎症性疾患についての他の動物モデルは、マウスにおけるチオグリコール酸誘発性炎症モデル、ラットにおけるコラーゲン誘発性関節炎モデル、及びラットにおける再狭窄のモデルである(例えば、バルーンカテーテル損傷に対するラット頚動脈応答に及ぼす検査化合物の効果)。
【0089】
炎症性疾患に関して、Qpct阻害剤の有効性は、インビトロでのヒトMCP-1によって誘導されるヒト単球細胞株(THP-1細胞)の走化性の阻害を測定することによってアッセイすることができる。該アッセイは、実施例16に記載されている。また、この阻害効果はインビボでも観察された。効果的な検査化合物は、マウスにおけるチオグリコール酸誘発性炎症モデルにおいて低い単球浸潤を示すべきである。
さらに、pGlu-MCP-1の形成は、インビトロ及びインビボで検査することができる。
【0090】
本発明の方法は、ホモ接合性又はヘテロ接合性Qpct変異体非ヒト哺乳動物から単離された細胞を有利に使用して、アミロイド蓄積を研究することができ及び有望な治療化合物を検査することができる。また、本発明の方法は、トランスフェクトした細胞株など、Qpctを発現する細胞とともに使用することができる。
【0091】
Qpctノックアウト細胞をインビトロでの方法において使用して、Aβ関連疾患を治療するための有望な治療薬としての化合物をスクリーニングすることができる。このような方法において、化合物をQpctノックアウト細胞、トランスフェクトした細胞、又はQpct変異体非ヒト動物に由来する細胞と接触させて、Qpctの発現と関連した表現型における変化をスクリーニングする。細胞アッセイ及びノックアウト動物におけるAβ産生の変化は、当業者に周知の方法によって評価することができる。
【0092】
Qpctの発現は蛍光強度によってモニターすることができるので、Qpct等のQpct融合ポリペプチドは、このようなスクリーニング方法にとって特に有用であることができる。他の典型的な融合ポリペプチドには、他の蛍光タンパク質若しくはその修飾物、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質、ポリHis、及びそれらの類似物、又は任意の種類のエピトープタグが含まれる。このような融合ポリペプチドは、例えば融合ポリペプチドに特異的な抗体を使用して検出することができる。融合ポリペプチドは、完全ポリペプチド又は、その機能的部分が、所望の特性、例えば抗体結合活性又は蛍光活性を有する限り、該その機能的部分であることができる。
【0093】
本発明はさらに、上記の疾患を治療する上で使用するための有望な治療薬を同定する方法を提供する。該方法には、上記のDNA構築物を含む細胞を1つの化合物と接触させる工程、及び観察されるべき結果について該細胞をスクリーニングし、それによりQpct関連疾患を治療する上で使用するための有望な治療薬を同定する工程を含む。該細胞は、Qpct DNA構築物を含む有核細胞を有するノックアウト非ヒト哺乳動物から単離することができる。或いは、該細胞は、緑色蛍光タンパク質又は他の融合ポリペプチドとQpctポリペプチドとの融合物をコードする核酸を含むDNA構築物を含むことができる。
【0094】
加えて、Qpctポリペプチドを発現するQpctノックアウト細胞を予備的スクリーニングに使用して、Qpct発現と関連した表現型を変化させる活性を有する有望な治療薬として化合物を同定することができる。Qpctノックアウト非ヒト哺乳動物を使用するインビボでのスクリーニングの場合、適切なコントロール細胞を使用して、スクリーニングの結果を比較することができる。Qpctノックアウト細胞を使用してインビトロでの初期的なスクリーニングによって同定される化合物の有効性は、所望の場合、本発明のQpctノックアウト非ヒト哺乳動物を使用してインビボでさらに検査することができる。このように、本発明は、細胞ベースのアッセイを使用して、例えば高処理量スクリーニングを使用して多数の化合物をスクリーニングする方法、及びAβ関連障害の動物モデルにおける治療薬としての化合物をさらに検査する方法を提供する。
【0095】
また、本発明は、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病、家族性デンマーク型認知症、家族性英国型認知症、及びダウン症候群における神経変性の治療のための新たな方法も提供する。アルツハイマー病及びダウン症候群患者の脳に沈着したアミロイドβ-ペプチドのN末端、並びにその上、家族性デンマーク型認知症及び家族性英国型認知症の患者において沈着したアミロイドペプチドADan及びABriは、ピログルタミン酸を有する。pGlu形成は、該疾患の発症及び進行における重要な事象であり、その理由として、修飾されたアミロイドβ-ペプチド、ADan及びABriは、該疾患の始まり及び進行を悪化させる見込みのあるアミロイドの凝集及び毒性をもたらす高い傾向を示しているからである(Russo, C.らの文献(2002 J Neurochem 82, 1480-1489);Ghiso, J.らの文献(2001 Amyloid 8, 277-284))。
天然Aβ-ペプチド(3-40/42)において、グルタミン酸は、N末端アミノ酸として存在する。
【0096】
Qpctは、アミロイドβ-ペプチドの凝集を優勢にするピログルタミン酸の形成に関与する。従って、QCの阻害は、アルツハイマー病及びダウン症候群の始まり及び進行の原因となるプラーク形成する[pGlu3]Aβ3-40/42/43又は[pGlu11]Aβ11-40/42/43の沈殿の予防をもたらす。
【0097】
グルタミン酸は、アミロイドβ-ペプチドの位置3、11及び22において見いだされる。これらの中で、位置22のグルタミン酸(E)からグルタミン(Q)への変異(アミロイド前駆体タンパク質APP770のアミノ酸693に対応する、Swissprotエントリー:P05067)は、いわゆるオランダ型脳動脈性アミロイドーシス変異として記載されている。
【0098】
位置3、11及び/又は22にピログルタミン酸残基を有するβ-アミロイドペプチドは、Aβ1-40/42/43よりも細胞毒性及び疎水性が高い(Saido T.C.の文献(2000 Medical Hypotheses 54(3): 427-429))。
【0099】
複数のN末端の変異は、異なる部位にてβ-セクレターゼ酵素アミロイド前駆体タンパク質β-部位切断酵素(BACE)により(Huse J.T.らの文献、2002 Biol. Chem. 277(18):16278-16284)、及び/又はアミノペプチダーゼプロセシングにより産生することができる。
【0100】
未知のグルタミルシクラーゼ(EC)によるpGlu-ペプチドへのGlu1-ペプチドの酵素変換を裏付ける実験的証拠はなかった(Garden, R. W., Moroz, T. P., Gleeson, J. M., Floyd, P. D., Li, L. J., Rubakhin, S. S., 及びSweedler, J. V.の文献((1999) J Neurochem 72, 676-681);Hosoda R.らの文献((1998) J Neuropathol Exp Neurol. 57, 1089-1095))。N末端でプロトン化されており、かつ穏やかなアルカリ性又は中性のpH条件下で負に荷電したGlu1γ-カルボキシラート部分を有するGlu1-ペプチドを環化することができるような酵素活性は、同定されていなかった。
【0101】
Gln1基質に対するQC活性は、pH7.0未満では激減する。対照的に、Glu1変換は、酸性反応条件にて生じることができるようである(例えば、Iwatsubo, T., Saido, T. C., Mann, D. M., Lee, V. M., 及びTrojanowski, J. Q.の文献((1996) Am J Pathol 149, 1823-1830))。
【0102】
以前に、Qpctが、穏やかな酸性条件下でアミロイド-β由来ペプチドを認識することができかつ代謝回転することができるかどうかが研究された(WO 2004/098625)。それゆえ、該酵素の有望な基質としてのペプチド[Gln3]Aβ1-11a、Aβ3-11a、[Gln3]Aβ3-11a、Aβ3-21a、[Gln3]Aβ3-21a、及び[Gln3]Aβ3-40を合成し及び調査した。これらの配列は、天然のN末端で及びC末端で切断された[Glu3]Aβペプチド、並びに翻訳後のGlu-アミド化によって生じることのできる[Gln3]Aβペプチドを模倣するために選択した。
【0103】
パパイヤ及びヒトのQpctは、グルタミニル環化及びグルタミル環化の両方を触媒することが示された。明らかに、Qpctの一次生理機能は、ホルモン分泌過程の前に又は間に、グルタミン環化による内分泌細胞におけるホルモン成熟を終えることである。このような分泌小胞は、pHが酸性であることが知られている。従って、5.0〜7.0の狭いpH範囲における酵素の副活性は、Glu-Aβペプチドをも環化する、該酵素の新たに発見されたグルタミルシクラーゼ活性であり得る。しかし、Gln変換と比較して非常により遅く生じるGlu環化により、グルタミル環化が有意な生理学的役割を担っているかどうかは疑問である。しかし、神経変性障害の病態において、グルタミル環化は関連性がある。
【0104】
この酵素反応のpH依存性を調査すると、プロトン化されていないN末端は、Gln1-ペプチドの環化のために必須であったこと、従って基質のpKa値は、Qpct触媒作用についてのpKa値と同一であったことが示された。このように、Qpctは、γ-カルボニル炭素に対するプロトン化されていないα-アミノ部分の分子内求核攻撃を安定化させる。
【0105】
N末端グルタミン含有ペプチドに存在する一価の電荷とは対照的に、Glu含有ペプチドにおけるN末端Glu残基は、中性pHにて主に二価に荷電される。グルタミン酸は、γ-カルボン酸部分について、及びα-アミノ部分について、それぞれ約4.2及び7.5のpKa値を示し、すなわち中性pH以上の状態にあり、α-アミノ態窒素は、部分的に又は完全にプロトン化されておらず、かつ求核性であるが、γ-カルボン酸基は、プロトン化されておらず、そして求電子性カルボニル活性を働かせない。それゆえ、分子内環化は不可能である。
【0106】
しかし、約5.2〜6.5のpH範囲において、これらのそれぞれのpKa値の間では、2つの官能基は、両方とも非電離型で、総N末端Glu含有ペプチドの約1〜10%(-NH2)又は10〜1%(-C00H)の濃度で存在する。その結果、穏やかな酸性pH範囲にわたって、両方とも無電荷の基を有するN末端Gluペプチドの種が存在し、それゆえ、QpctがpGlu-ペプチドへの分子内環化の中間体を安定化させ得、すなわちγ-カルボン酸基がプロトン化される場合、カルボニル炭素は、プロトン化されていないα-アミノ基による求核攻撃ができるのに十分に求電子性である。このpHにて、ヒドロキシルイオンは、脱離基として機能する。これらの仮定は、Glu-βNAのQpct触媒性変換について得られたpH依存性データによって確証される。QpctによるGln-βNAのグルタミン変換とは対照的に、触媒作用の最適pHは、pH 6.0近辺の酸性範囲に、すなわち基質分子種が、プロトン化されたγ-カルボキシルとプロトン化されていないα-アミノ基とを同時に豊富に有するpH範囲に移行する。さらに、動力学的に決定される7.55±0.02のpKa値は、滴定によって決定されたGlu-β3NAのα-アミノ基のpKa値(7.57±0.05)と非常によく一致する。
【0107】
生理的には、pH 6.0にて、Qpctで触媒されるグルタミン酸環化の二次速度定数(又は特異性定数、kcat/KM)は、グルタミン環化についての二次速度定数よりも1×105〜1×106倍遅い範囲にあるかもしれない。しかし、モデル基質Glu-βNA及びGln-βNAの両方の非酵素的代謝回転はごくわずかであり、観察されたごくわずかなpGluペプチド形成と一致する。それゆえ、QpctによるpGlu形成については、少なくとも108の加速を、酵素対非酵素速度定数の比から概算することができる(酵素触媒作用についての二次速度定数をそれぞれの非酵素性環化の一次速度定数と比較すると、触媒作用熟達因子(proficiency factor)は、Gln変換及びGlu変換について、それぞれ109〜1010M-1である。)。これらのデータからの結論は、インビボにおいて、pGlu形成を結果的に生じる酵素経路だけが考えられるようであるということである。
【0108】
Qpctは、脳において非常に豊富であり、30μMの(Gln-)TRH様ペプチドの成熟について最近発見された0.9/分の高い代謝回転速度を考慮すると(Prokal, L., Prokai-Tatrai, K., Ouyang, X., Kim, H. S., Wu, W. M., Zharikova, A. 及びBodor, N.の文献((1999)J Med Chem 424563-4571))、同様の反応条件が提供された場合、適切なグルタミン酸基質について約100時間の環化半減期を予測することができる。その上、分泌経路における脳Qpctの区画化及び局在化を考慮すると、実際のインビボでの酵素及び基質の濃度並びに反応条件は、無処置の細胞における酵素性環化にとってさらにより好都合かもしれない。また、N末端GluがGlnに変換される場合、Qpctによって媒介される非常により迅速なpGlu形成を期待することができるであろう。インビトロでは、両反応は、Qpct活性の阻害剤を適用することによって抑制された。
【0109】
要約すると、脳において非常に豊富であるヒトQpctは、アルツハイマー病において見いだされるプラーク沈着物の50%超を構成する、Glu-Aβ前駆体及びGln-Aβ前駆体からのアミロイド形成性pGlu-Aβペプチドの形成の触媒であるらしいことが示された。これらの知見により、老人斑形成における担い手として、及び従って、アルツハイマー病、ダウン症候群における神経変性、家族性デンマーク型認知症、及び家族性英国型認知症の治療における新規薬物標的として、Qpctを同定する。例えば、WO 2004/098625及びWO 2005/039548を参照されたい。
【0110】
好ましい実施態様において、本発明は、軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群、家族性デンマーク型認知症及び家族性英国型認知症におけるpGlu-アミロイドペプチド形成の抑制のための、本発明の動物モデルを使用して選択されるQpctの活性低下エフェクターの使用を提供する。
【0111】
さらなる実施態様において、本発明は、胃腸管細胞増殖、特に胃粘膜細胞増殖、上皮細胞増殖、酸を産生する壁細胞及びヒスタミンを分泌する腸クロム親和様(ECL)細胞の分化、並びにECL細胞におけるヒスタミンの合成及び貯蔵と関連した遺伝子発現の刺激のための、並びに活性型[pGlu1]-ガストリンの濃度を維持すること又は増大させることによる哺乳動物における一過性の酸分泌の刺激のための、本発明の動物モデルを使用して選択されるQpctの活性増大エフェクターの使用を提供する。
【0112】
好ましい実施態様において、本発明は、アルツハイマー病、ダウン症候群、家族性デンマーク型認知症及び家族性英国型認知症、粥状硬化並びに再狭窄におけるpGlu-サイトカイン機能、好ましくはケモカイン機能、最も好ましくは単球走化性因子の機能の抑制のための、本発明の動物モデルを使用して選択されるQpctの活性低下エフェクターの使用を提供する。
【0113】
いくつかの研究は特に、粥状硬化(Gu, L.らの文献((1998) Mol.Cell 2, 275-281);Gosling, J.らの文献((1999) J Clin.Invest 103, 773-778);関節リウマチ(Gong, J. H.らの文献((1997) J Exp.Med 186, 131-137);Ogata, H.らの文献((1997) J Pathol. 182, 106-114);膵炎(Bhatia, M.らの文献((2005) Am.J Physiol Gastrointest.Liver Physiol 288, G1259-G1265);アルツハイマー病(Yamamoto, M.らの文献((2005) Am.J Pathol. 166, 1475-1485);肺線維症(Inoshima, I.らの文献((2004) Am.J Physiol Lung Cell Mol.Physiol 286, L1038-L1044);腎線維症(Wada, T.らの文献((2004) J Am.Soc.Nephrol. 15, 940-948)、及び移植片拒絶反応(Saiura, A.らの文献((2004) Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 24, 1886-1890)の発症についてのMCP-1の決定的な役割を明示している。さらにまた、MCP-1は、妊娠中毒症(Katabuchi, H.らの文献((2003) Med Electron Microsc. 36, 253-262))において、腫瘍の発達(Ohta, M.らの文献((2003) Int.J Oncol. 22, 773-778);Li, S.らの文献((2005) J Exp.Med 202, 617-624))、神経因性疼痛(White, F. A.らの文献((2005) Proc. Natl. Acad.Sci.U.S.A))及びエイズ(Park, I. W., Wang, J. F., 及びGroopman, J. E.の文献((2001) Blood 97, 352-358);Coll, B.らの文献((2006) Cytokine 34, 51-55))におけるパラクリン因子として、ある役割を担い得る。
【0114】
ヒト及び齧歯類MCP-1の成熟型は、グルタミニルシクラーゼ(Qpct)によって翻訳後修飾され、N末端ピログルタミル(pGlu)残基を有する。MCP-1の走化性による効力がそのN末端によって媒介されるので重要であるアミノぺプチダーゼによるN末端分解に対して、N末端pGlu修飾によって、耐性のあるタンパク質となる(Van Damme, J.らの文献((1999) Chem Immunol 72, 42-56))。人工的な伸長又は分解によって機能は損なわれるが、MCP-1はなおもその受容体(CCR2)に結合している(Proost, P.らの文献((1998), J Immunol 160, 4034-4041);Zhang, Y. J.らの文献(1994, J Biol.Chem 269, 15918-15924);Masure, S.らの文献(1995, J Interferon Cytokine Res. 15, 955-963);Hemmerich, S.らの文献((1999) Biochemistry 38, 13013-13025))。
【0115】
いくつかの疾患容態におけるMCP-1の主要な役割により、抗MCP-1戦略が必要とされる。それゆえ、MCP-1の作用を阻害する小さな経口的に利用可能な化合物は、薬物開発のための候補と見込まれる。グルタミニルシクラーゼの阻害剤は、MCP-1のN末端におけるpGlu形成の重要な工程を標的とする小さな経口的に利用可能な化合物である(Cynis, H.らの文献((2006) Biochim.Biophys.Acta 1764, 1618-1625);Buchholz, M.らの文献((2006) J Med Chem 49, 664-677))。結果として、Qpct阻害によって生じる場合、MCP-1のN末端はpGlu残基によって保護されない。その代わりに、N末端は、内皮において及び血液循環内で豊富であるジぺプチジルぺプチダーゼ、例えばジペプチジルペプチダーゼ4及び線維芽細胞活性化タンパク質(FAP、セプラーゼ)によって分解されやすいグルタミン-プロリンモチーフを有する。この切断の結果、N末端切断型MCP-1が形成される。これらの分子は折りたたまれておらず、それが順にCCR2におけるアンタゴニスト性作用を、それゆえ単球関連疾患の容態も効率よく抑制する。
【0116】
さらなる実施態様において、本発明は、不活性型[Gln1]ガストリンの活性型[pGlu1]ガストリンへの変換速度を低下させることによって、哺乳動物におけるヘリコバクターピロリ感染を伴う又は伴わない十二指腸潰瘍疾患及び胃癌の治療のための、本発明の動物モデルを使用して選択されるQpctの活性低下エフェクターの使用を提供する。
【0117】
ニューロテンシン(NT)は、神経伝達物質系を特異的に調節する統合失調症の病態生理に関係する神経ペプチドであり、この障害において誤調整されることが以前に示されている。脳脊髄液(CSF)NT濃度を測定した臨床研究により、統合失調症患者のサブセットの有する低いCSF NT濃度が、有効な抗精神病薬治療によって回復されることが明らかにされた。また、抗精神病薬の作用機序におけるNT系の関与と一致するかなりの証拠が存在する。中枢に投与されたNTの行動的な及び生化学的な効果は、全身投与された抗精神病薬の行動的な及び生化学的な効果に著しく似ており、抗精神病薬は、NT神経伝達を増大させる。この知見の結びつきにより、NTが、内因性抗精神病薬として機能するという仮説に至った。その上、典型的な及び非典型的な抗精神病薬は、黒質線条体及び中脳辺縁系のドーパミン末端領域におけるNT神経伝達を差動的に変化させ、これらの効果はそれぞれ、副作用の傾向及び有効性を予測させる(Binder, E. B.らの文献(2001 Biol Psychiatry 50 856-872))。
【0118】
別の実施態様において、本発明は、抗精神病薬の製造のための、及び/又は哺乳動物における統合失調症の治療のための、本発明の動物モデルを使用して選択されるQpctの活性増大エフェクターの使用を提供する。Qpctのエフェクターは、活性型[pGlul]ニューロテンシンの濃度を維持するか又は増大させるかのいずれかである。
【0119】
甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)に関連するトリペプチドである受精促進ペプチド(FPP)は、精漿において見いだされる。インビトロ及びインビボで得られた最近の証拠は、FPPが精子受精能を調節する際に重要な役割を担っていることを示した。具体的には、FPPはまず、非受精(受精能をなくした)精子を刺激して「スイッチを入れ」、より急速に受精可能になるが、次に、精子が自発的な先体喪失を受けないように、従って受精能を失わないように、受精能獲得を停止する。これらの反応は、アデニリルシクラーゼ(AC)/cAMPシグナル伝達経路を調節することが知られているアデノシンによって模倣され、実際に増大する。FPP及びアデノシンは両方とも、受精能をなくした細胞におけるcAMP産生を刺激するが、受精能を獲得した細胞におけるcAMP産生を阻害することが示されており、FPP受容体は、どういうわけかアデノシン受容体及びGタンパク質と相互作用してACの調節を達成する。これらの事象は、種々のタンパク質のチロシンリン酸化状態に影響を及ぼし、いくつかは、最初の「スイッチを入れる」のに重要であり、その他は、おそらくそれ自体が先体反応に関与している。カルシトニン及びアンジオテンシンIIは、精漿においても見いだされ、受精能をなくした精子に対してインビトロで同様の効果を有しており、FPPに対する反応を増大させることができる。これらの分子は、インビボでも同様の効果を有しており、受精能を刺激し、次いで維持することによって、受精能に影響を及ぼす。FPP、アデノシン、カルシトニン、及びアンジオテンシンIIの利用能における減少、又はこれらの受容体の欠損は、いずれも雄不妊症に寄与する(Fraser, L.R. 及びAdeoya-Osiguwa, S. A.の文献(2001 Vitam Horm 63, 1-28))。
【0120】
さらなる実施態様において、本発明は、受精抑制薬の製造のための、及び/又は哺乳動物における受精能を減少させるための、本発明の動物モデルを使用して選択されるQpct活性低下エフェクターの使用を提供する。Qpctの活性低下エフェクターは、活性型[pGlu1]FPPの濃度を減少させて、精子の受精能獲得の予防、及び精細胞の非活性化を引き起こす。対照的に、Qpctの活性増大エフェクターは、雄における受精能を刺激して、不妊症を治療することができることを示すことができた。
【0121】
別の実施態様において、本発明は、骨髄系前駆細胞の増殖の抑制、腫瘍、炎症性宿主反応、癌、悪性転移、メラノーマ、乾癬、関節リウマチ、粥状硬化、肺線維症、肝線維症、腎線維症、移植片拒絶反応、後天性免疫不全症候群、液性の及び細胞を媒介した免疫応答の障害、内皮における白血球接着及び遊走過程など、病態生理学的状態の治療のための医薬の製造のための、本発明の動物モデルを使用して選択されるQpctのエフェクターの使用を提供する。
【0122】
さらなる実施態様において、本発明は、摂食障害及び睡眠-覚醒状態、エネルギー代謝の恒常性調節の障害、自律神経機能の障害、ホルモンバランスの障害、並びに体液の調節の障害の治療のための医薬の製造のための、本発明の動物モデルを使用して選択されるQpctのエフェクターの使用を提供する。
【0123】
いくつかのタンパク質におけるポリグルタミン増大は、ハンチントン舞踏病、パーキンソン病、及びケネディ病などの神経変性障害を引き起こす。従って、メカニズムは、主として未知のままである。ポリグルタミンリピートの生化学的特性は、1つの可能性のある説明を示唆する:グルタミニル-グルタミニル結合の内溶解性(endolytic)切断後のピログルタミン酸形成は、ポリグルタミニルタンパク質の異化安定性、疎水性、アミロイド形成、及び神経毒性を増大させることを通じて、病原性に寄与し得る(Saido, T.C.の文献(Med Hypotheses(2000)Mar; 54(3):427-9))。
【0124】
従って、さらなる実施態様において、本発明は、パーキンソン病、及びハンチントン病の治療のための医薬の製造のための、本発明の動物モデルを使用して選択されるQpctのエフェクターの使用を提供する。
【0125】
別の実施態様において、本発明は、上記に選択された検査薬を使用することによって、Qpctの酵素活性を減少させ又は阻害する一般的な方法を提供する。
哺乳動物Qpctの阻害は、1,10-フェナントロリン及び還元型6-メチルプテリンについて初期に検出されたのみであった(Busby, W. H. J.らの文献(1987 J Biol Chem 262, 8532-8536))。EDTAはQpctを阻害せず、従って、Qpctは金属依存性酵素ではないと結論付けられた(Busby, W. H. J.らの文献(1987 J Biol Chem 262, 8532-8536)、Bateman, R.C.J.らの文献(2001 Biochemistry 40, 11246-11250)、Booth, R.E.らの文献(2004 BMC Biology 2))。しかし、1,10-フェナントロリン、ジピコリン酸、8-ヒドロキシ-キノリン及び他のキレート剤によるQpctの阻害特徴、並びに遷移金属イオンによるQpctの再活性化によって明らかにされるように、ヒトQpct及び他の哺乳動物Qpctは金属イオン性酵素であることが示された。最後に、金属依存性は、他の金属依存性酵素との配列比較によって概略が表され、ヒトQpctにおいてもキレートするアミノ酸残基の保存を示している。化合物と活性部位に結合した金属イオンとの相互作用は、Qpct活性を減少させ又は阻害する一般的な方法を表す。
【0126】
上記のスクリーニング方法によって選択された薬剤は、Qpctの少なくとも1つの基質の変換を低下させることによって(負のエフェクター、阻害剤)、又はQpctの少なくとも1つの基質の変換を増大させることによって(正のエフェクター、活性化因子)作用することができる。
【0127】
本発明の化合物は、酸付加塩、特に医薬として許容し得る酸付加塩に変換することができる。
本発明の化合物の塩は、無機塩又は有機塩の形態でもよい。
【0128】
本発明の化合物は、酸付加塩、特に医薬として許容し得る酸付加塩に変換することができる。医薬として許容し得る塩は、一般に、塩基性側鎖が無機酸又は有機酸でプロトン化された形態をとる。代表的な有機酸又は無機酸には、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、シュウ酸、パモ酸、2-ナフタレンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、シクロヘキサンスルファミン酸、サリチル酸、サッカリン酸、又はトリフルオロ酢酸を含む。本発明の化合物の医薬として許容し得るすべての酸付加塩形態は、本発明の範囲に包含されることが意図される。
【0129】
遊離化合物とこれらの塩の形態の化合物との間の緊密な関係からみて、化合物が、この状況において言及されるときはいつでも、対応する塩も意図されるが、ただし、これが該状況下で可能であり又は適切であることを条件とする。
【0130】
本発明に従った化合物が少なくとも1つのキラル中心を有する場合、該化合物は、従って鏡像異性体として存在してもよい。該化合物が2つ以上のキラル中心を有する場合、該化合物は、加えてジアステレオマーとして存在してもよい。このような異性体及び該異性体の混合物がすべて、本発明の範囲内に包含されることを理解すべきである。さらに、化合物の結晶形態のいくつかは、多形として存在してもよく、従って本発明に含まれることが意図される。加えて、化合物のいくつかは、水(すなわち、水和物)又は共通の有機溶媒と溶媒和物を形成してもよく、このような溶媒和物も本発明の範囲内に包含されることが意図される。
また、それらの塩を含む化合物は、これらの水和物の形態で得ることができ、又はこれらの結晶化のために使用されるその他の溶媒を含むことができる。
【0131】
さらなる実施態様において、本発明は、Qpct酵素活性の調節によって媒介される容態を予防し又は治療する必要のある対象において、該容態を予防し又は治療する方法であって、容態を治療するために治療的に有効な量及び投与計画で、本発明の任意の化合物又はその医薬組成物を投与することを含む、前記方法を提供する。加えて、本発明は、対象においてQpct活性の調節によって媒介される容態の予防又は治療のための医薬の製造のための、本発明の化合物及びこれらの対応する医薬として許容し得る酸付加塩形態の使用を含む。該化合物は、静脈内、経口、皮下、筋肉内、皮内、非経口的、及びこれらの組み合わせを含むがそれらに限定されるわけではない任意の従来の投与経路によって患者に投与してもよい。
【0132】
さらに好ましい実施の形態において、本発明は、少なくとも1つの本発明の化合物又はその塩を、任意に1つ以上の医薬として許容し得る担体及び/又は溶媒と組み合わせて含む医薬組成物に、いわば医薬に関する。
【0133】
前記医薬組成物は、例えば、非経口製剤又は経腸製剤の形態であってもよく、かつ適切な担体を含んでいてもよく、又は該医薬組成物は、経口投与に適した適切な担体を含んでいてもよい経口製剤の形態であってもよい。好ましくは、該医薬組成物は、経口製剤の形態である。
【0134】
本発明に従って投与されるQpct活性のエフェクターは、医薬として投与可能な製剤若しくは製剤複合体において、哺乳動物におけるQpctタンパク質濃度を減少させる、阻害剤として、又は阻害剤、基質、偽基質、Qpct発現の阻害剤、結合タンパク質、若しくはこれらの酵素タンパク質の抗体と組み合わせて使用してもよい。本発明の化合物は、治療を患者及び疾患に対して個々に調整することができ、特に個々の不耐性、アレルギー、及び副作用を回避することができる。
【0135】
また、前記化合物は、時間の関数として、異なる程度の活性を示す。これにより、治療を提供する医師は、個々の患者の状況に対して異なって反応する機会が与えられ:彼は、正確に、一方では、作用開始の速度を、もう一方では、作用の期間及び特に作用の強度を調整することができる。
【0136】
本発明に従った好ましい治療方法は、哺乳動物においてQpct酵素活性の調節によって媒介される容態の予防又は治療のための新たなアプローチになる。これは、特に哺乳動物、特にヒトの医療における生理活性のあるQpct基質のアンバランスな濃度に基づく疾患の治療において、都合よく簡便であり、市販の適用の余地があり、かつ使用に適している。
【0137】
前記化合物は、例えば、従来技術から知られている希釈剤、賦形剤、及び/又は担体のような通例の添加物と組み合わせて活性成分を含む医薬製剤の形態で、都合よく投与してもよい。例えば、該化合物は、非経口的に(例えば、生理塩類溶液における静脈内投与)、又は経腸的に投与することができる(例えば、通例の担体と共に製剤されたものを経口的に)。
【0138】
前記化合物の内因的安定性及び該化合物の生物学的利用能に応じて、血糖値の望ましい正常化を達成するために、化合物の1回以上の用量を1日につき与えることができる。例えば、ヒトにおけるこのような薬用量範囲は、1日あたり約0.01mg〜250.0mgの範囲であってもよく、好ましくは、体重1kgあたり約0.01〜100mgの範囲であってもよい。
【0139】
哺乳動物に対してQpct活性のエフェクターを投与することにより、軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群、家族性デンマーク型認知症、家族性英国型認知症、ハンチントン病、ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)感染を伴う又は伴わない潰瘍疾患及び胃癌、病原性精神病性容態、統合失調症、不妊症、腫瘍、炎症性宿主反応、癌、乾癬、再狭窄、膵炎、関節リウマチ、粥状硬化、肺線維症、肝線維症、腎線維症、移植片拒絶反応、後天性免疫不全症候群、液性の及び細胞を媒介した免疫応答の障害、内皮における白血球接着及び遊走過程、摂食障害、睡眠-覚醒状態、エネルギー代謝の恒常性調節の障害、自律神経機能の障害、ホルモンバランスの障害、並びに体液の調節障害から選択された容態を予防し又は軽減し又は治療することが可能であり得る。
【0140】
さらに、哺乳動物に対してQpct活性のエフェクターを投与することにより、胃腸管細胞増殖、好ましくは胃粘膜細胞、上皮細胞の増殖、一過性の酸分泌、並びに酸を産生する壁細胞及びヒスタミンを分泌する腸クロム親和様細胞の分化を刺激することが可能であろう。
【0141】
加えて、哺乳動物に対するQpct阻害剤の投与は、従って、雄の受精能を抑制する精細胞機能の喪失を引き起こすかもしれない。従って、予防(prevent)発明は、雄の受精能の調節及び制御のための方法、並びに雄のための避妊薬物の製造のためのQpctの活性低下エフェクターの使用を提供する。
さらに、哺乳動物に対してQpct活性のエフェクターを投与することにより、骨髄系前駆細胞の増殖を抑制することが可能であるかもしれない。
【0142】
従って、本発明に従って使用される化合物は、それ自体公知の様式で、例えば錠剤、カプセル、糖衣錠、丸剤、坐剤、顆粒、エアロゾル、シロップ、液体、固体、及びクリーム様の乳剤及び懸濁液、並びに溶液などの従来の製剤に、不活性な、非毒性の、医薬として適切な担体及び添加物又は溶媒を使用して変換することができる。これらの製剤の各々において、治療的に有効な化合物は、好ましくは総混合物のおよそ0.1〜80重量%、より好ましくは1〜50重量%の濃度で、すなわち、言及した薬用量の許容範囲が得られるのに十分な量で存在する。
【0143】
物質は、糖衣錠、カプセル、かむことができるカプセル、錠剤、ドロップ、シロップの形態の医薬として、又は坐剤として若しくは点鼻スプレーとしても、使用することができる。
製剤は、例えば溶媒及び/又は担体を使用して、任意に乳化剤及び/又は分散剤を使用して、活性成分を希釈することによって、都合よく調製してもよく、例えば、水が希釈剤として使用される場合、有機溶媒を補助的な溶媒として任意に使用することができる。
【0144】
本発明と関連して有用な賦形剤の例には、下記を含む:水、パラフィン(例えば、天然の油画分)、植物油(例えば、菜種油、落花生油、ゴマ油)、アルコール(例えば、エチルアルコール、グリセロール)、グリコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)などの非毒性有機溶媒;例えば、天然の粉末状ミネラル(例えば、高度に分したシリカ、ケイ酸)、糖(例えば、粗糖、乳糖、及びデキストロース)などの固体担体;非イオン性及び陰イオン性の乳化剤などの乳化剤(例えば、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル、スルホン酸アルキル、及びスルホン酸アリール)、分散剤(例えば、リグニン、亜硫酸蒸煮液、メチルセルロース、デンプン、及びポリビニルピロリドン)、及び潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、滑石、ステアリン酸、及びラウリル硫酸ナトリウム)、及び任意に調味料。
【0145】
投与は、通常の様式で、好ましくは経腸的又は非経口的に、特に経口的に実施してもよい。経腸投与の場合、記載した担体に加えて、錠剤は、デンプン、好ましくはジャガイモデンプン、ゼラチン等などの種々の添加物と共に、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、及びリン酸カルシウムなどのさらなる添加物を含んでいてもよい。さらに、錠剤化するために、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、及び滑石などの潤滑剤を付随して使用することができる。経口投与が意図される水性懸濁液及び/又はエリキシル剤の場合、上記の賦形剤に加えて、種々の食味調整剤又は着色料を活性成分に添加することができる。
【0146】
非経口投与の場合、適切な液体担体を使用する活性成分の溶液を使用することができる。一般に、静脈内投与の場合、有効な結果を得るために1日あたりおよそ0.01〜2.0mg/体重kg、好ましくはおよそ0.01〜1.0mg/体重kgの量を投与することが有利であることが見いだされており、経腸投与の場合、薬用量は、1日あたりおよそ0.01〜2mg/体重kgに、好ましくはおよそ0.01〜1mg/体重kgである。
【0147】
それにもかかわらず場合によっては、実験動物若しくは患者の体重に応じて、又は投与経路のタイプに応じて、それだけでなく、動物の種及び医薬に対するその個々の反応又は投与が実施される間隔に基づいて、明示された量から逸脱することが必要であるかもしれない。従って、場合によっては、上記の最小量未満の使用で十分かもしれないが、他の場合には、言及した上限を上回られなければならないであろう。比較的多量が投与されている場合、該量を1日にわたって数回の単回用量に分けることが望ましいかもしれない。ヒトの医療における投与のためには、同じ薬用量の許容範囲が提供される。上記の所見は、その場合に類似して適用される。
【0148】
医薬製剤の例については、それらのすべての内容が全体として引用により本明細書に組み込まれるWO 2004/098625の50〜52ページの実施例に対して具体的に参照される。
上記の開示は、一般に本発明を記載している。より完全な理解は、下記の実施例を参照することによって得ることができる。これらの実施例は、単に例証の目的のみのために記載してあり、本発明の範囲を限定するよう意図するものではない。具体的な用語を本明細書に使用したが、このような用語は、説明的な意味で意図されており、限定目的のためではない。
【0149】
図1に示される一般的な戦略を使用して、本発明に従ったQpct構成的及び条件的ノックアウトマウス系統の発生は、下記の工程を含んだ:
―129Sv/Pas遺伝的背景におけるマウスQpct遺伝子座の標的とされた領域のクローニング及び配列決定
―ターゲティングベクター及びポジティブコントロールベクターの設計及び構築
―相同的組換え事象、Cre媒介性及びFlp媒介性切除事象の検出のためのスクリーニング条件の設定(PCR及びサザンブロット)
―ES細胞における相同的組換え
―胚盤胞へのES細胞の注入及びキメラの作出
―キメラと遍在的にFlpを発現する動物との繁殖、及びQcptにLoxP遺伝子を導入したヘテロ接合性マウス系統の作出
―キメラ又はヘテロ接合性動物と遍在的にCreを発現する動物との繁殖、及びノックアウトQpct対立遺伝子を有するヘテロ接合性変異体マウスの作出。
【0150】
(本発明を実施するための最良の形態)
図1に示される一般的な戦略を使用して、本発明に従ったQpct構成的及び条件的ノックアウトマウス系統の発生は、下記の工程を含んだ:
・129Sv/Pas遺伝的背景におけるマウスQpct遺伝子座の標的とされた領域のクローニング及び配列決定
・ターゲティングベクター及びポジティブコントロールベクターの設計及び構築
・相同的組換え事象、Cre媒介性及びFlp媒介性切除事象の検出のためのスクリーニング条件の設定(PCR及びサザンブロット)
・ES細胞における相同的組換え
・胚盤胞へのES細胞の注入及びキメラの作出
・キメラと遍在的にFlpを発現する動物との繁殖、及びQcptにLoxP遺伝子を導入したヘテロ接合性マウス系統の作出
・キメラ又はヘテロ接合性動物と遍在的にCreを発現する動物との繁殖、及びノックアウトQpct対立遺伝子を有するヘテロ接合性変異体マウスの作出。
【実施例】
【0151】
実施例1
1.マウスQpct遺伝子の特徴づけ
マウスQpct遺伝子は、多くの神経内分泌ペプチドにおけるピログルタミル残基の存在の原因であるグルタミニルシクラーゼをコードする。
1.1 マウスQpct遺伝子座
マウスQpct遺伝子座は、17番染色体に局在し、37.5kbにわたって伸びている。C57BL/6マウスの配列は、Ensemblデータベースにおいて入手可能である(www.ensembl.org,ENSMUSG00000024084)。cDNA配列NM_128770を使用して、該遺伝子のエクソン/イントロン組織化を確立した。このマウスの遺伝子は、6個のイントロンによって割り込まれる7個のエクソンからなる。翻訳開始部位は、最初のエクソンに位置し、終止コドンはエクソン7に位置する。
【0152】
また、Ensemblデータベース検索によって、同一の鎖に位置し、Qpct遺伝子の40kb上流にあるPRKCN遺伝子の存在が明らかとなった。Qpct遺伝子の下流の80kb領域内に遺伝子は知られておらず又は推定されておらず、相補鎖についてもそうである。Qpct遺伝子座のターゲティングは従って、いずれの他の遺伝子発現にも影響するとは推定されていない。
【0153】
1.2 マウスQpctタンパク質
マウスQpctタンパク質について2つのアイソフォームが公知である。これら2つのアイソフォーム(それぞれ362アミノ酸長及び313アミノ酸長)は2つのmRNAから翻訳される:すべてのエクソンを含むもの(AK045974)、及びエクソン2がスプライシングにより外れたスプライスバリアント(BC020023)。
【0154】
機能的レベルにおいて、前記タンパク質の触媒機能に重要な残基は、エクソン3(残基H141、図2参照)、エクソン4(E202及びE203)及びエクソン7(H331)にあることが公知である。また、基質に結合するのに重要な残基もエクソン3(D160)及びエクソン5(D249)において特徴づけられた。
【0155】
2.Qpctノックアウトモデルの発生のための戦略
Cre-リコンビナーゼ作用後の遍在的又は組織特異的欠失を可能にするよう、標的とされる領域を2つのLoxP部位と隣接させることによって、本発明の目的―構成的及び条件的Qpctノックアウトの両モデルの作出―を達成した。
【0156】
Qpct遺伝子のサイズにより、古典的なゲノム操作方法論を使用して遺伝子全体を欠失することは可能ではない。下記に記載される機能的データに基づいて、Qpctのエクソン4及び5を標的とした。
【0157】
(Qpctのエクソン4及び5のターゲティング)
・エクソン4における2つの触媒残基を欠失する。
・エクソン5においてコードされた基質結合残基D248を欠失する。
・欠失されるべき標的領域のサイズの減少。このことは、相同的組換え工程の確率を高め、効率的なCre媒介性組換えを可能にする。
・ノックアウトは、エクソン6における早期終止コドンの発生を引き起こすフレームシフトを、従ってタンパク質のN末端部分の損失を結果として生じる。
・代替的スプライシングは、標的領域の欠失後のエクソン3と7の間で一様に生じるべきであり、また、早期終止コドンは、エクソン7の最初に現れる。このことは、エクソン6もエクソン7も、提唱されるノックアウト戦略では翻訳できないことを保証する。
【0158】
2つのモデルの発生の中枢であるターゲティングベクターの設計が図3に示されており、下記の特徴を示す:
・Qpctエクソン4及び5と隣接する2つのLoxP部位の導入。これらのLoxP部位のうちの1つ(遠位LoxP部位)は、長い相同性アームにおいてイントロン3に挿入されるであろう。第二のLoxP部位は、イントロン5に挿入されるであろう。このLoxP部位は、ネオマイシン選択カセットと結合するであろう(下記参照)。
・ネガティブ及びポジティブ選択カセットの挿入:
―FRTの隣接するネオマイシンポジティブ選択カセットが、(LoxP部位と結合して)ターゲティングベクターに挿入され、トランスフェクトされたES細胞クローンの選択を可能にするであろう。該FRT部位によって、Flp-リコンビナーゼ作用の下でネオマイシン選択カセットを欠失することができる。
―また、ターゲティングベクターの5'において相同的組換え事象を高めるために、ジフテリア毒素A(DTA)のネガティブ選択カセットが、ターゲティングベクターの1つの先端に含まれるであろう。
【0159】
実施例2
2.1.マウスQpct相同性領域のクローニング及び配列決定
2.1.1 マウスQpct相同性領域のクローニング
本プロジェクトの第一の工程は、Qpctのエクソン4〜6を包含する約12kbのマウスゲノムDNA断片のクローニングからなった。この材料を使用して、ターゲティングベクターの構築に必要とされる相同性アームを生じた。図4に示すように、この材料を2つの重複する断片としてクローニングした:
・5'相同性アームに相当するQpctエクソン4及び5を含む5'断片。
・3'相同性アームに相当するQpctエクソン5及び6を含む3'断片。
【0160】
相同性領域をうまく増幅するのを確実にするために、Qpctエクソン5を含む544bpプローブを使用するマウス(murine)129-マウス(mouse)BAC DNAライブラリ(CT7/Invitrogen)のスクリーニングによって、2つのBACクローンを単離した。これらのBACクローンを該ライブラリのメンブレン201上に局在化させる(Invitrogen/ResGen,BACメンブレンオーダーカタログ番号96051)。クローンは、参照された201L13及び201L14である(Invitrogen/ResGen,BACクローンオーダーカタログ番号96022)。
【0161】
各相同性断片の増幅のために3つのプライマーセットを設計した。3つのプライマー対を各増幅について検査し、Qpct相同性アームの増幅のために最適な組み合わせを選択した。増幅中に導入される変異の危険性を減少させるために、201L13BACクローンに関して15PCRサイクルで増幅を実施した。
【0162】
2つの断片についてのPCR増幅の詳細は下記のとおりである:
・プルーフリーディング熱安定Taqポリメラーゼ:「Expand long template PCR system」キット(Roche Diagnostics)。
・PCRマトリックス:201L13BACベクターを使用して増幅を実施した(Invitrogen/ResGen,BACクローンオーダーカタログ番号96022)。
・プライマー配列:
【表4】
・PCR条件:
94℃で2分間
94℃で30秒間、
65℃で30秒間×15サイクル
68℃でA/Bプライマーについて7分間
C/Dプライマーについて4分間
68℃で10分間
・期待されるサイズ:
A1/B1断片:7299pb
C3/D3断片:4901pb
【0163】
2.2 マウスQpct相同性領域の配列決定
次に、それぞれ長い及び短い相同性アームを含むA1/B1及びC3/D3 PCR断片をpCR4−TOPOベクターにサブクローニングした(Stratagene)。各断片について、3つの独立したサブクローンを完全に配列決定した。
【0164】
・長い相同性アーム
129Sv/Pas遺伝的背景をPCR増幅したA1/B1断片を含む3つのクローンから得られた配列をまず互いに整列させて、PCR増幅によって導入された推定変異を同定した。
【0165】
次に、作製した129Sv/Pas配列を、公共のデータベースにおいて入手可能なC57BL/6配列と整列させた。このことによって、関心対象の領域におけるC57BL/6鎖と129Sv/Pas鎖の間の多型性の決定が可能となった。
【0166】
配列決定されたクローンのうちの1つは、増幅された領域全体において変異を呈さなかった。このクローンは、下記のクローニング工程のために選択されており、TOR2-TOPO-LAと呼ばれる。TOR2-TOPO-LAクローンに含まれるQpct DNA配列の断片は、配列番号24の配列によって表される。2つの他のクローンはそれぞれ、2個及び5個の変異を呈した。
【0167】
C57BL/6配列との配列比較によって、下記の結論をもたらす:
・配列の欠失:5個の小さな領域(1〜22bp長)が、C57BL/6配列と比較して129Sv/Pas配列にはない。これらの欠失はすべて、イントロン3に局在する。
・配列の挿入:3個の小さな領域(1〜9bp長)が、129Sv/Pas配列にのみ存在する。これらの挿入のうちの2つはイントロン3に位置し、最後の1つはイントロン4に挿入される。
・184個の塩基置換が、長い相同性アームの配列のすべてにわたって配置される。
【0168】
ひとまとめに考えると、これらのデータは、7.3kbの長い相同性アーム内でのC57BL/6と129Sv/Pasの遺伝的背景間の多型率が約2.5%であることを示唆している。この多型率は、他の遺伝子座において通常観察される平均的な率よりも10倍高い。
【0169】
・短い相同性アーム
129Sv/Pas遺伝的背景をPCR増幅したC3/D3断片を含む3つのクローンから得られた配列をまず互いに配列比較し、PCR増幅によって導入される推定変異を同定した。
【0170】
次に、生じた129Sv/Pas配列を、公共のデータベースにおいて入手可能なC57BL/6配列と配列比較した。このことによって、関心対象の領域におけるC57BL/6鎖と129Sv/Pas鎖の間の多型性の決定が可能となった。
【0171】
配列決定されたクローンのうちの2つは、増幅された領域全体において変異を呈さなかった。これら2つのクローンのうちの1つを、下記のクローニング工程のために選択し、TOR2-TOPO-SAと呼ぶ。TOR2-TOPO-SAクローンに含まれるQpct DNA配列の断片を配列番号25の配列によって表す。配列決定された第三のクローンは、2個の変異を呈した。
【0172】
C57BL/6配列との配列比較によって、下記の結論をもたらす:
・配列挿入:28bp領域は、いくつかのリピートを呈する領域において、129Sv/Pas配列にのみ存在する。
・122個の塩基置換は、短い相同性アームの配列のすべてにわたって配置される。
【0173】
ひとまとめに考えると、これらのデータは、4.9kbの短い相同性アーム内でのC57BL/6と129Sv/Pasとの遺伝的背景の間の多型率がかなり高いことを示唆している(約3%)。
Qcptエクソン3〜6のクローニングから生じた配列に基づいて、 ターゲティングベクター構築戦略及びスクリーニング戦略を設計した。
【0174】
実施例3:
ターゲティングベクター及びポジティブコントロールベクターの構築
最終的なターゲティングベクター構築のための包括的な戦略を図5に概略的に描いている。この構築は、並行して実施される8工程(図5の丸囲み数字)に再分することができる。
【0175】
工程1a及び1b:5'及び3'の相同性アームをマウス129Sc/PasゲノムDNAからPCR増幅した。短い相同性アームは、最終的なターゲティングベクターには存在しない伸長した領域(図5の3bにおいて緑色の点線として示されている。)を含む(図5の4a及び5a参照)。
【0176】
工程2a及び2b:ターゲティングベクターの構築に使用されるすべての制限部位を有する修飾されたリンカーを含むpScriptベクターにおいて、2つの相同性アームをサブクローニングした。
工程3a:イントロン3のBsgI部位に遠位LoxP部位を導入した。この遠位LoxP部位を、LoxP部位の下流に位置するSwaI及びBamHI制限部位とともに導入した。ES細胞クローンにおける遠位LoxP部位の検出のために、及び該クローンのサザン分析のために、制限部位を使用する。
【0177】
工程3b:ES細胞において効率的であることが立証されているFRT-PGK-ネオマイシンFRT-LoxPポジティブ選択カセットを、伸長した3'相同性アームの上流のイントロン5にサブクローニングした。この工程によって、PCRスクリーニング設定のために続いて使用されるポジティブコントロールベクターが生じる(下記参照)。
【0178】
工程4:遠位LoxP部位を含む5'の長い相同性アームを、3'の短い相同性アームとともにクローニングした。この後者の短いアームは、その最終的なサイズで短くなり、イントロン6のNotI部位で終わる。
結果として得られるベクターを、TOR2-LSAベクターと呼び、ターゲティングベクターとして使用して、ES細胞に電気穿孔した。
【0179】
工程5:5'の長い相同性アームの上流にあるジフテリア毒素A(DTA)ネガティブ選択カセットのサブクローニング。
TOR2-LSAベクター(DTAを有さないベクター)をES細胞に電気穿孔し、その間、DTAカセットをサブクローニングすることを試行した。実際、DTA選択カセットは、ターゲティングベクターがゲノムに無作為に組み込まれたES細胞クローンを対抗選択するのに役立つが、必須ではない。
【0180】
ターゲティングベクターは下記の特徴を示す:
・使用されるであろうES細胞株と同質遺伝子的な相同性アーム(129Sv/Pas)。
・Qpct遺伝子のエクソン4〜6の存在。
・約9kbの標的対立遺伝子との総相同性。
・非対称的な相同性アーム(5'の長いアーム:6.6kb、3'の短いアーム:2.4kb)
・FRT部位によって隣接されるポジティブ選択ネオマイシン遺伝子。FRTによって隣接される選択カセットは、Flpリコンビナーゼを使用して除去することができる。
・エクソン4及び5に隣接しかつCre-リコンビナーゼ作用の下で欠失することができるLoxP部位。Qpctノックアウト動物を作出するこの欠失は、該系統をCre発現マウスと繁殖させることによってインビボで実施することができる。使用されるマウスの系統におけるCreの遍在的又は組織特異的発現に応じて、構成的又は条件的Qpctノックアウトが得られるであろう。
・ネオマイシン選択カセットから短い距離(3kb)に、遠位LoxP部位を導入する。このことは、相同的組換え工程の間のその組込みを優勢にする。
【0181】
実施例4:
相同的組換え事象の検出のためのスクリーニング戦略の立案および設定
ES細胞における相同的組換え事象の迅速かつ明確な同定を可能にするスクリーニング戦略を立案することは絶対的に重要である。スクリーニング戦略は、3'ターゲティング事象についての最初のPCRスクリーニングに、次いで5'ターゲティング事象についてのPCRスクリーニングに基づいている。次に、PCRによって同定されたクローンは、サザンブロット分析によって確認されるであろう。
【0182】
4.1 相同的組換え事象の検出のためのPCRスクリーニング
(3'ターゲティング事象のためのスクリーニング:)
ターゲティングベクターの期待される組込みの検出のための最初のスクリーニングを、3'の短い相同性アームにわたるPCR増幅によって達成する。このPCRは、ネオマイシン選択カセットにおいてハイブリッド形成する順方向プライマー(TOR2-H、図6)、及びターゲティングベクター相同性配列の下流に位置する逆方向プライマー(TOR2-I、図6)を使用して実施する。その局在性のために、このプライマーセットによって、Qpct遺伝子座におけるターゲティングベクターの3'の組込みの明確かつ特異的な検出が可能となる。
【0183】
3セットのH/Iプライマー(TOR2-H1/TOR2-I1〜TOR2-H3/TOR2-I3、下記参照)を設計して、スクリーニングの質を最適化した。このスクリーニングをまずポジティブコントロールベクター(下記及び図6参照)に関して、野生型129Sv/PasゲノムDNA及びゲノムDNAに希釈されたポジティブコントロールベクターに関して、下記の通り設定した:
・DNAなし
・0.1コピーと等価のゲノム*のコントロールDNA
・0.5コピーと等価のゲノム*のコントロールDNA
・1コピーと等価のゲノムのコントロールDNA
・10コピーと等価のゲノムのコントロールDNA
・150ngの129Sv/PasゲノムDNA
・150ngのゲノムDNA+0.1コピーと等価のゲノムのコントロールDNA
・150ngのゲノムDNA+0.5コピーと等価のゲノムのコントロールDNA
・150ngのゲノムDNA+1コピーと等価のゲノムのコントロールDNA
・150ngのゲノムDNA+10コピーと等価のゲノムのコントロールDNA
【0184】
(*)1コピーと等価のゲノムのコントロールDNAは、150ngのゲノムDNAにあるのと同一コピー数を含むコントロールDNAの重量である。
1コピーと等価のゲノム=コントロールベクターの長さ(bp)×150/6.109bp。従って、7975bpのTOR2-C+ベクターについては、1コピーと等価のゲノムは2.0 10−4ngである。
【0185】
この手法によって、ゲノムDNAにおける1コピーと等価のゲノムのコントロールDNAを検出するのに十分な感度のあるPCRスクリーニングを設定することができる。このことは、ES細胞の信頼性のあるスクリーニングに必要とされる。
【0186】
(3'末端PCR条件:)
・Taqポリメラーゼ:「Expand long template PCR system」キット(Roche diagnostics)由来。
【表5】
・PCR混合物及びプログラム:
【表6】
・期待されるサイズ:
TOR2-H1/TOR2-I1プライマーセット:3284bp
TOR2-H2/TOR2-I2プライマーセット:2900bp
TOR2-H3/TOR2-I3プライマーセット:3555bp
【0187】
TOR2-Hがネオマイシンカセットとハイブリッド形成するので、野生型DNAに関して増幅は期待されない。
上記の野生型129Sv/Pas ES細胞から抽出されたゲノムDNAにおいて加えられたポジティブコントロールベクタープラスミドTOR2-C+の連続希釈物に関して、3セットのプライマーを検査した。
【0188】
プライマーセットTOR2-H2/TOR2-I2は、最適な結果を与え、スクリーニングのために選択された。図7に示すように、TOR2-H2/TOR2-I2プライマーは、期待された2.9kbのバンドの検出を生じる。PCR感度によって、0.1コピーと等価のゲノムを検出することができ(図7のレーン2及び6)、PCR設定の必要条件を満たした。さらに、野生型129Sv/Pas ES細胞から抽出されたゲノムDNAに関してシグナルが観察されないので、PCR反応の特異性が検証されている(図7のレーン10参照)。
【0189】
組換えゲノム構造と同様の条件下で、プライマーセットTOR2-H2/TOR2-I2を検査した。このことは、ES細胞にTOR2-C+ポジティブコントロールベクターをトランスフェクトすることによって達成した。プライマーの特異性及びPCR反応の感度を検査するために、このプロトコルを確立した。結果を図8に示す。
【0190】
スクリーニングされた39個の耐性コントロールES細胞クローンのうち、13個は、図8の7個のクローンについて示されるように、期待された2.9kbのバンドを示した。このことは、PCRスクリーニングがTOR2-C+ベクターの電気穿孔後に得られた耐性クローンのスクリーニングについて信頼性があることを示した。相同的組換え事象のスクリーニングの間のポジティブコントロールとして使用するために、ES細胞安定トランスフェクタントクローン1B9及び1A1を選択した。
【0191】
(5'ターゲティング事象についてのスクリーニング:)
ターゲティングベクターの5'末端の期待された組込みを検出するために、TOR2-J2/TOR-K2プライマーを設計した。順方向プライマー(TOR2-J2、図9)は、長い相同性アームの上流に位置し、逆方向プライマー(TOR2-K2、図9)は、イントロン4に位置する。その局在性に起因して、このプライマーセットによって、Qpct遺伝子座におけるターゲティングベクターの5'での組込みの明確かつ特異的な検出が可能となる。
【0192】
(5'末端PCR条件:)
・Taqポリメラーゼ:「Expand long template PCR system」キット(Roche diagnostics)由来。
【表7】
・PCR混合物及びプログラム:
【表8】
・PCR産物について期待されるサイズは下記のとおりである:
PCR産物 SwaI消化後のプロファイル
野生型対立遺伝子 4597bp 4597bp
標的とされる対立遺伝子 4649bp 4018+631bp
【0193】
TOR2-J2/TOR2-K2セットのプライマーを使用する5'末端PCRスクリーニングを、ES細胞及び尾部生検から抽出した野生型DNAに関して設定した。結果を下記の図10に示す。
図10に示すように、GX2633-TOR2-J2/GX2634-TOR2-K2プライマーを使用して、期待される4.6kbバンドが、(ES細胞及び尾部生検から抽出された)ゲノムDNAに関する増幅後に観察される。このことは、ES細胞及び尾部生検の両方における遠位LoxP部位の検出のためのPCRスクリーニングを検証している。
【0194】
4.2 5'及び3'ターゲティング事象の検出のためのサザンブロット分析
Qpct遺伝子座における相同的組換え後の5'及び3'の両末端領域の組込みは、サザンブロットを使用してPCRにより選択されたES細胞クローンに関して評価される。内因性で標的とされたQpctのFlp欠失した及びCre欠失した遺伝子座の制限マップが図11に描かれている。
【0195】
5'相同性アームの上流又は3'相同性アームの下流を切断する制限酵素を使用して、5'及び3'の両方のサザンブロットを実施した(図11)。
インシリコでの分析に基づいた最良の特異性を有するプローブを選択するために、マウスゲノムデータベースに対してK及びRプローブ配列をBLAST処理した。確認スクリーニング自体に移る前にプローブの特異性を検証するために、野生型ゲノムDNAに関してサザンブロットを設定した。
【0196】
(5'ターゲティング事象のサザンブロット検証:)
5'末端相同的組換えを検査するためのサザンブロット分析は、ゲノムDNAのBamHI消化、及びイントロン3に位置する482bpの5'内部Kプローブを使用する検出に基づいている(図11参照)。このKプローブは、TOR2-TOPO-LAベクターからサブクローニングされたAvrII/SacIである。
【0197】
BamHIによって消化され、設計されたKプローブとハイブリッド形成した野生型ゲノムDNAは、1つのバンドを与え、そのサイズは約13.2kbであるのに対し、組換えたゲノムDNAは、8.9kbのバンドを与えると期待される(図11参照)。
【0198】
使用されるハイブリッド形成条件を下記に示す:
・プレハイブリッド形成及びハイブリッド形成:4×SSC、1%SDS、0.5%脱脂乳、20mM EDTA、100μg/mLニシン精子、65℃で18時間。
・洗浄:65℃で3×SSC、1%SDSで15分間を2回、次に、65℃で0.5×SSC、1%SDSで15分間を2回。
・露光:BioMax補力スクリーンを使用してBioMax MSフィルムに3日間。
【0199】
5'Kサザンブロットプローブの製造:
TOR2-TOPO-LAベクターをAvrII/SacI酵素によって消化し、8231、2588及び482bpの3つの断片を得る。
482bp断片の精製によって、Kプローブを得る。
(期待されるバンドのサイズ):
―野生型Qpct対立遺伝子:13.2kb
―組換えたQpct対立遺伝子:8.9kb
【0200】
野生型129Sv/Pas及び129Ola ES細胞並びにC57BL/6野生型尾部生検から抽出したゲノムDNAに関して、このサザンブロット戦略を試験した(データ未表示)。ES細胞の遺伝子型同定並びにヘテロ接合性及びホモ接合性マウスの特徴づけの両方のために、5'Kプローブをうまく検証した。
【0201】
(3'ターゲティング事象のサザンブロット検証:)
3'末端相同的組換えを検査するためのサザンブロット分析は、ゲノムDNAのSwaI消化、及びエクソン6に位置する406bpの3'内部Rプローブを使用する検出に基づいている(図11参照)。このRプローブを、TOR2-R1及びTOR2-R2プライマーを使用するPCRによって増幅する(下記参照)。
【0202】
SwaIによって消化され、かつ設計されたRプローブとハイブリッド形成した野生型ゲノムDNAは、そのサイズが約6kbである1つのバンドを与えるのに対し、組換えたゲノムDNAは、10.5kbのバンドを与えると期待される(図11参照)。
【0203】
使用されるハイブリッド形成条件を下記に示す:
・プレハイブリッド形成及びハイブリッド形成:4×SSC、1%SDS、0.5%脱脂乳、20mM EDTA、100μg/mLニシン精子、65℃で18時間。
・洗浄:65℃で3×SSC、1%SDSで15分間を2回、次に、65℃で0.5×SSC、1%SDSで15分間を2回。
・露光:BioMax補力スクリーンを使用してBioMax MSフィルムに3日間。
【表9】
【0204】
ES細胞の遺伝子型同定並びにヘテロ接合性及びホモ接合性マウスの特徴づけの両方のためのプローブを検証するために、野生型129Sv/Pas及び129Ola ES細胞並びにC57BL/6野生型尾部生検から抽出したゲノムDNAに関して、このサザンブロット戦略を試験した(図12参照)。
図12にあるように、129Sv/Pas及びC57BL/6ゲノムDNAのSwaI消化後に、期待された6kbバンドを観察した。この結果は、3'末端サザンブロット戦略を検証している。
【0205】
実施例5
Flp媒介性及びCre媒介性切除事象のためのスクリーニング戦略の立案
Flp媒介性切除によって、ネオマイシンカセットを欠失することができる。この欠失は、検証されたFlp発現プラスミドを、標的とされるES細胞クローンにトランスフェクトすることによってインビトロで、又はQpctを標的とした動物を遍在的にFlpを発現するマウスと繁殖させることによってインビボで実施することができる。Qpctのエクソン4及び5のCre媒介性欠失によってQpctノックアウトマウス系統を作出することが、インビボで実施されるであろう。
PCR及びサザンブロットスクリーニングによって、野生型、標的とされたFlp媒介性の及びCre媒介性のノックアウト対立遺伝子を欠失することができる。
【0206】
5.1 Flp媒介性及びCre媒介性切除事象の検出のためのPCRスクリーニング戦略
Cre媒介性切除事象の検出のために、TOR2-N/TOR2-I1プライマーを設計した。順方向プライマーTOR2-I1は、ネオマイシンカセットの上流の長い相同性アームに位置する(図13)。順方向プライマーTOR2-Nは、3'の短い相同性アームの下流に位置する。
プライマーセットの局在性により、このPCRによって、エクソン4〜5及びネオマイシン選択カセットのCre媒介性切除の明確な検出が可能となる。
【0207】
Flp媒介性切除事象の検出のために、TOR2-N2/TOR2-I4プライマーを設計した。順方向プライマーTOR2-N2は、ネオマイシンカセットのすぐ上流にある長い相同性アームに位置する(図13)。順方向プライマーTOR2-I4は、ネオマイシンカセットの下流の短い相同性アームに位置する。
【0208】
プライマーセットの局在性により、このPCRによって、ネオマイシン選択カセットのFlp媒介性切除の検出が可能となる。このPCRは、ターゲティングベクターに対して内部に位置するプライマーを使用しているので、動物の遺伝子型同定は、サザンブロット分析によって確認されなければならない。
【0209】
(Cre媒介性切除PCR条件:)
・Taqポリメラーゼ:「Expand long template PCR system」キット(Roche diagnostics)由来。
【表10】
・PCRプログラム:
【表11】
・ PCR産物について期待されるサイズは下記のとおりである:
【表12】
【0210】
Flp媒介性切除のPCR条件:
・Taqポリメラーゼ:「Expand long template PCR system」キット(Roche diagnostics)由来。
【表13】
・PCRプログラム:
【表14】
・PCR産物について期待されるサイズは下記のとおりである:
【表15】
【0211】
Cre媒介性及びFlp媒介性切除事象の検出のためのPCRスクリーニング(GX2147-TOR2-N/GX2140-TOR2-I2セットのプライマー及びGX4354-TOR2-N2/GX4353-TOR2-I4セットのプライマーをそれぞれ使用)を、ES細胞及び尾部生検から抽出した野生型DNAに関してうまく設定した(データ未表示)。
【0212】
実施例6
ターゲティングベクターの製造
線形化形態を得るために、NotIによってTOR2-LSAプラスミドを消化した。結果として生じる13.6kbの断片をフェノール/クロロホルム抽出、次いでエタノール沈殿によって精製した。次に、この製造物をES細胞電気穿孔に使用した。
【0213】
実施例7
ゲネチシン耐性ES細胞クローンの選択及び増幅
下記の電気穿孔手法に従って、線形TOR2-LSAプラスミドをES細胞にトランスフェクトした:
100μgの線形化したプラスミドの存在下での100×106個のES細胞、800V、300μF。電気穿孔の48時間後に、200μg/mLのG418の添加によってポジティブ選択を開始した。
【0214】
この電気穿孔によって、237個の耐性クローンが生じた。これらのES細胞クローンを96ウェルプレートにおいて増幅し、二つ組の96ウェルプレートを作製した。相同的組換え事象の検出のために、ゼラチン上で増幅したES細胞クローンを含むプレートのセットをPCRによってスクリーニングした。
【0215】
得られた第一シリーズのクローンの注入の際の困難さを迂回するために(下記参照)、線形TOR2-LSAプラスミドの第二の電気穿孔を同一条件下で実施した。この第二の電気穿孔によって、184個の耐性クローンが生じた。これらのクローンを増幅し、第一の穿孔と同じように二つ組にした。
【0216】
実施例8
ゲネチシン耐性ES細胞クローンのスクリーニング
8.1 3'末端での相同的組換えについてのPCRスクリーニング
PCRを使用して、237個のゲネチシン耐性クローン(第一の電気穿孔後に回収)+184個のゲネチシン耐性クローン(第二の電気穿孔後に回収)を、ターゲティングベクターの3'末端での期待される相同的組換え事象の検出のためにスクリーニングした。
【0217】
GX1406-TOR2-H2/GX2141-TOR2-I2プライマーを使用する3'PCRスクリーニングによって、期待されるサイズ(2.9kb)の増幅した断片を示す14個(第一の電気穿孔)+21個(第二の電気穿孔)のポジティブクローンが明らかとなった。これらのポジティブクローンのうちの7個が図14に示されている。
【0218】
35個の3'PCRポジティブクローンを第二の3'PCRによって確認した。第一の電気穿孔から同定した14個のポジティブクローン及び第二の電気穿孔から同定したポジティブクローンのうちの10個をさらに、ターゲティングベクターの5'末端での相同的組換え事象について分析した。
【0219】
8.2 5'末端での相同的組換えについてのPCRスクリーニング
TOR2-J2(GX2633)及びTOR2-K2(GX2634)プライマーを使用して、ターゲティングベクターの5'末端での相同的組換え事象の検出のためのスクリーニングを実施した(図9参照)。順方向プライマー(GX2633-TOR2-J2)は、ターゲティングベクターの上流に位置し、逆方向プライマー(GX2634)は、遠位LoxP部位の下流の長い相同性アームに位置する(図9参照)。
【0220】
PCR産物のSwaI消化によって、野生型と標的とされた対立遺伝子とを識別することができ、かつ長い相同性アームの内側の遠位LoxP部位の存在を検出することができる(図9参照)。プライマーセットの局在性により、このPCR、次いでPCR産物のSwaI消化によって、Qpct遺伝子座におけるターゲティングベクターの5'組込みの明確かつ特異的な検出が可能となる。
【0221】
5'PCRの結果を、3つのクローンについて下記に示す(図15)。
5'PCRを使用してポジティブと同定された14+10個のES細胞クローンのうち:
・11個のクローンは5'側で明白にポジティブであった:すなわち、クローン#6A3、#6C3、6C10、5B8、5C5、5C12、10A9、10B2、11B4、12A2及び15B2。図15に示される2つのクローン#6A3及び#6C10のように、6個のポジティブクローンは、SwaI消化後に4kb及び0.6kbの断片に再分される4.6PCR産物を示した。
・5'PCRの結果は、2つのクローン#5A11及び#5D4について不明瞭であった(これら2つのクローンについての弱いPCR増幅)。
・残りの11個のクローン(#5A1、5B2、5B4、5A7、5B9、5D4、9A2、9B1、10A3、10A10及び11B7)については、図15においてクローン#6C30について示すように、PCR産物はSwaIによって切断されなかった。このことは、これら11個のクローンが、ターゲティングベクターの5'側で、期待された相同的組換えを受けなかったことを示している。
【0222】
このように、11個のポジティブクローン#6A3、#6C3、6C10、5B8、5C5、5C12、10A9、10B2、11B4、12A2及び15B2は、5'及び3'の両方のPCRスクリーニングに対してポジティブである。このことは、これらのクローンが、5'の長い相同性アーム及び3'の短い相同性アームの両方において、期待された組換え事象を受けていることを示した。さらに、標的とされたQpct遺伝子座におけるLoxP部位の存在を、PCR産物のSwaI消化によって示した。この点は、Cre-リコンビナーゼ作用の下でのエクソン4及び5のさらなる欠失、従ってQpct遺伝子ノックアウトを可能にするのに重要である。
11個のポジティブクローンを24ウェルプレートにおいて再度増幅し、ターゲティングベクターの5'側及び3'側におけるサザンブロットによってさらに分析した。
【0223】
8.3 サザンブロットスクリーニング
PCRによって同定した11個のポジティブES細胞クローンを、5'サザンブロットによってさらに検査した。この5'サザンブロットは、ゲノムDNAのBamHI消化、及び長い相同性アームにおいてイントロン3に位置する482bpプローブである5'Kプローブを使用する検出に基づいている(実施例4、項目1.2及び図5参照)。
期待されるバンドのサイズ:
―野生型Qpct対立遺伝子:13.2kb
―組換えたQpct対立遺伝子:8.9kb
【0224】
第一の電気穿孔の6個のポジティブクローンについて図16に示すように、野生型及び標的とされたQpct対立遺伝子に相当する2つのバンドの存在によって、分析した11個のクローンについてのPCRスクリーニング結果が確認された。クローンのうちの4個、すなわちクローン#6C10、10A9、11B4及び12A2は、予期せぬサイズでさらなるバンドを示した。使用したプローブが、(ターゲティングベクターの内側でハイブリッド形成している)内部プローブであったので、このさらなるバンドの検出は、Qpct遺伝子座における、相同的組換え事象を通じての、ターゲティングベクターの期待された組込みに加えて、未知の遺伝子座におけるターゲティングベクターの無作為な組込みの存在を示した。たとえ、このランダムな組込み体が、標的とされたQpct対立遺伝子から容易に分離されるであろうとしても、その他のクローンが、本プロジェクトのさらなる展開のために優先的に選択された。
【0225】
次に、11個のES細胞クローンを3'サザンブロットによって検査した。3'サザンブロットは、ゲノムDNAのSwaI消化、及びエクソン6に位置する406bpの3'内部Rプローブを使用する検出に基づいている(実施例4の1.2及び図5参照)。
期待されるバンドのサイズ:
―野生型Qpct対立遺伝子:6.0kb
―組換えたQpct対立遺伝子:10.5kb
【0226】
第一の電気穿孔の6個のポジティブクローンについて図17に示すように、野生型及び標的とされたQpct対立遺伝子に相当する2つのバンドの存在によって、分析した11個のクローンについてのPCRスクリーニングが確認された。また、クローン#6C10、10A9、11B4及び12A2は、予期せぬサイズのさらなるバンドを示しており、Qpct遺伝子座における、相同的組換え事象を通じての、ターゲティングベクターの期待された組込みに加えて、未知の遺伝子座におけるターゲティングベクターの無作為な組込みの存在が確認された。
【0227】
このように、7個のESクローン#5B8、#5C5、#5C12、#6A3、#6C3、#10B2及び#15B2を、ターゲティングベクターの5'及び3'の両端で正確に標的とされたものとして、サザンブロットによって確認した。残りの4個のクローン#6C10、10A9、11B4及び12A2もターゲティングベクターの5'及び3'の両端で正確に標的とされたものとして確認されたが、これらのクローンには未知の遺伝子座での該ターゲティングベクターのさらなる無作為な組込みが存在した。
胚盤胞への注入に対応する本プロジェクトの次の段階のために、ES細胞クローン#5C5、#5C12、#6A3、#6C3、#15B2、#10B2及び#11B4を選択した。
【0228】
実施例9
組換えES細胞胚盤胞注入及びキメラの作出
9.1 注入セッション
妊娠中のC57BL/6雌からレシピエント胚盤胞を単離した(健康状態SPF-特定病原体除去)。形態学的特徴に基づいて、ES細胞クローン#5C5、#5C12、#6A3、#6C3、#15B2、#10B2及び#11B4を選択して、胚盤胞に注入した。
【0229】
次に、注入した胚盤胞をOF1偽妊娠雌(健康状態SOPF-特定病原体及び日和見病原体除去)に再移植した。表1は、該注入セッションから得られた結果を要約する。
【0230】
9.2 キメラ
クローン#6A3を86個の胚盤胞に注入して、19個体の仔を作出した。11個体のキメラを同定した:
・キメラ化の割合が20%、15%、10%、5%(各2個体)である8個体の雄キメラ。
・キメラ化の割合が20%(2個体)、10%である3個体の雌キメラ
クローン#6C3を90個の胚盤胞に注入して、16個体の仔を作出した。8個体のキメラを同定した:
・キメラ化の割合が30%及び5%(2個体)である3個体の雄キメラ。
・キメラ化の割合が20%(3個体)、15%及び2%である5個体の雌キメラ。
クローン#5C12を54個の胚盤胞に注入して、4個体の仔を作出した。2個体のキメラを同定した:
・キメラ化の割合が35%及び15%である2個体の雄キメラ。
クローン#5C5を54個の胚盤胞に注入して、3個体の仔を作出した。3個体のキメラを同定した:
・キメラ化の割合が90%、60%及び10%である3個体の雌キメラ。
クローン#15B2を30個の胚盤胞に注入して、6個体の仔を作出した。3個体のキメラを同定した:
・キメラ化の割合が75%である1個体の雄キメラ。
・キメラ化の割合が90%及び1%である2個体の雌キメラ。
クローン#10B2を30個の胚盤胞に注入して、仔は1個体も作出されなかった。
クローン#11B4を30個の胚盤胞に注入して、4個体の仔を作出した。3個体のキメラを同定した:
・キメラ化の割合が75%、35%及び8%である3個体の雄キメラ。
【0231】
下記の表1は、実施されたES細胞胚盤胞注入セッション及びキメラ作出の結果を編集している。
【表16】
表1:ES細胞クローン#6A3、#6C3、#5C12、#5C5、#15B2、#10B2及び#11B4胚盤胞注入からの結果
雌キメラが、低い確率の生殖系列伝達を有するので、得られた雌キメラをさらなる繁殖のためには選択しなかった。
【0232】
作出した雄キメラのうち、20%(クローン#6A3、2個体)、30%(クローン#6C3)及び35%(クローン#5C12)での4個体の雄を繁殖相のために選択した。生殖系列伝達がこれらのキメラのうちの1つから得られた後、作出した最後のキメラ(75%のキメラ化、クローン#15B2及び#11B4)が性成熟したので、これらの後者のキメラは、その後の繁殖相には使用しなかった。
【0233】
実施例10
キメラの繁殖、及び標的とされた又はCre切除した対立遺伝子についてのF1ヘテロ接合体の作出
ESクローン#6A3、#6C3及び#5C12の胚盤胞注入によって先の相において作出した4個体のキメラ雄(20%〜35%のキメラ化を示す。)を野生型C57BL/6J雌(健康状態SOPF-特定病原体及び日和見病原体除去)と交配して、標的とされたES細胞が胚葉に寄与したかどうかを研究した。また、キメラをFlp「欠失体」雌又はCre「欠失体」雌(健康状態SOPF-特定病原体及び日和見病原体除去)と繁殖させて、ネオマイシン選択カセット又はQpctエクソン4〜5及び選択カセットの欠失をそれぞれ得た。
【0234】
下記の表2は、キメラ繁殖の結果を要約する。
【表17−1】
【表17−2】
表2:キメラ繁殖の結果報告
前記動物の遺伝子型を括弧の中に付与する(下記の本文も参照されたい。)。WT:野生型;標的とされたHet:標的とされたQpct対立遺伝子を有するヘテロ接合体;部分的にCre切除したHet:Cre媒介性切除したQpct対立遺伝子及び標的とされたQpct対立遺伝子を有するヘテロ接合体;Cre切除したHet:Cre媒介性切除したQpct対立遺伝子を有するヘテロ接合体。
【0235】
ES細胞がキメラの胚葉に寄与したかどうかを評価するために、マウス外被色マーカーを使用した。129Sv/Pas ES細胞の外被色マーカーは、C57BL/6Jマウスの黒の外被色よりも優性である。それゆえ、該キメラをC57BL/6Jマウスと交配することによって、キメラ生殖細胞がC57BL/6J細胞に由来する場合、黒色の仔を作出するか、又はES細胞が生殖細胞に寄与した場合、アグーチ着色した仔を作出するかのいずれかであるべきである。
【0236】
繁殖のためにC57BL/6Jマウスを使用する場合、F1作出におけるアグーチ色の仔の存在は従って、ES細胞の生殖系列伝達についての証拠である。ES細胞において、常染色体性標的遺伝子のたった1つのコピーが標的とされ、結果として、生殖系列伝達が生じると仮定すると、結果的に生じるアグーチ色の仔の50%が、変異した染色体をES細胞から受けるべきであり、50%が野生型染色体を受けるべきである。
【0237】
上記のように、いくつかの異なる雌との交配にもかかわらず、3ヶ月間の繁殖中に同腹仔が1匹も観察されなかったので、ケージ4135における20%の雄キメラ(クローン#6A3)は不妊であると思われる。
【0238】
ケージ4134における20%雄キメラ(クローン#6A3)及びケージ4136における30%雄キメラ(クローン#6C3)を使用して、キメラがそれぞれ2個体及び3個体の黒色同腹仔を作出したので、生殖系列伝達は観察されなかった。
【0239】
最後に、ケージ4416における35%雄キメラ(クローン#5C12)と交配したC57BL/6野生型雌に由来する2個体のアグーチ色のF1動物が観察されたことは、Qpct変異の生殖系列伝達が成功した証拠である。これらの動物は、野生型として遺伝子型を同定した(データ未表示)。
【0240】
この雄キメラ及び129Sv/Pas CMV-Cre#91雌に由来するF1動物の遺伝子型を同定して、構成的ノックアウト対立遺伝子を有するヘテロ接合性マウスを同定した。雌の背景が129Sv/Pasであるので、マウス外被色マーカーは使用することができない。従って、F1動物#34709〜34716及び35437〜35443のすべての遺伝子型を下記の通り同定した。
【0241】
10.1 F1作出のPCR遺伝子型同定
結果として生じる15個体の仔から採取した尾部生検からDNAを調製し、2つの異なるPCR戦略によって遺伝子型を同定した:
・標的とされたQpct対立遺伝子内でLoxPの隣接する領域のCre媒介性切除の検出のためのCre切除PCR(図18参照)。このPCRは、使用したテンプレートに応じて異なるサイズの増幅産物を生じる:野生型、標的とされた、又はCre切除した対立遺伝子。
・ES細胞における相同的組換え事象の検出のために既に使用された3'PCRスクリーニング(図19参照)。このPCR戦略は、LoxP-FRT-ネオマイシン-FRTカセット及び遠位LoxP部位の隣接するエクソン4及び5を有する未切除の標的とされたQpct対立遺伝子を検出する。
【0242】
10.2 Cre媒介性切除事象についてのPCRスクリーニング
遠位LoxP部位の上流の5'相同性アームにおいてハイブリッド形成する順方向プライマーTOR2-Nと、エクソン6の下流でハイブリッド形成する逆方向プライマーTOR2-I1とを使用して、Cre切除PCRを実施した(図13参照)。その局在性のため、このプライマー対によって、Cre媒介性切除事象の特異的検出が可能となる。
【0243】
Cre切除した対立遺伝子は、上記のプライマー対を使用して4.4kbの増幅産物を生じるのに対し、標的とされた(未切除の)対立遺伝子は、9.2kbの増幅産物を生じる(図13参照)。両方のプライマーが野生型で標的とされていない対立遺伝子においてハイブリッド形成するので、野生型対立遺伝子に相当する7.3kbのさらなる増幅産物が、すべての動物から得られるであろう。遺伝子型を同定するPCRの結果の代表的な例を図18に示す。図18に示すように、PCRは常に、より小さなPCR産物を生じる対立遺伝子の増幅を優勢にする。ヘテロ接合性野生型又はヘテロ接合性の標的とされた対立遺伝子の大きなサイズの増幅産物は結果として、増幅効率が乏しいかもしれない。
【0244】
Cre切除PCRによる遺伝子型同定によって、生まれた15個体の検査動物のうち、2個体の動物(#35437及び#35438)が、Cre切除した対立遺伝子を有することが示された。その他の13個体の検査動物は、野生型マウスであるか又は標的とされた対立遺伝子を有しているかのいずれかであった。この後者の標的とされた対立遺伝子は、Cre切除した及び野生型の対立遺伝子に対応するより短いPCR産物の優先的な増幅のため、このPCR戦略によって明確には検出されなかった。
【0245】
10.3 相同的組換え事象についての3'PCRスクリーニング
推定上の切除したヘテロ接合体におけるネオマイシンカセット及びQpct標的領域の切除をさらに確認するために、3'PCRスクリーニングを使用して、標的された対立遺伝子を検出した。従って、このPCRに対してポジティブである検査動物は、Qpct遺伝子座内に組み込まれたネオマイシンカセットをなおも有している。
【0246】
ネオマイシン選択カセット内に位置する順方向プライマーTOR2-H2と、下流でハイブリッド形成する逆方向プライマーTOR2-I2とを使用して、3'PCRスクリーニングを実施した(図6参照)。プライマー配列及び最適化されたPCR条件を表4及び表5に列挙する。
【0247】
その局在性のため、このプライマーセットによって、標的とされた未切除のQpct対立遺伝子の特異的検出が可能となり、標的とされたが未切除のQpct対立遺伝子を有するヘテロ接合性仔において2900bpのサイズの増幅産物を生じる。遺伝子型を同定するPCRの結果の代表的な例を図19に示す。
3'PCRスクリーニングによる遺伝子型の同定によって、生まれた15個体の検査動物のうち、2個体(#35437及び#35441)が、標的とされた対立遺伝子を有していることが示された。
【0248】
総合すると、これら2つのPCRスクリーニングの結果は、15個体の検査動物のうち下記であることを示した:
・2個体(#35437及び#35438)は、切除した対立遺伝子に相当する増幅産物を生じ、これらのマウスがCre切除したノックアウト対立遺伝子についてヘテロ接合性であることを示唆した。
・雄#35437は、Cre切除した対立遺伝子及び標的とされた未切除の対立遺伝子の両方に相当する増幅産物を示した。このことは、このマウスが、切除した細胞タイプと未切除の細胞タイプからなるモザイクであることを意味する不完全な切除事象を有していることを示唆している。この動物は屠殺された。
・雄#35438は、標的とされた未切除の対立遺伝子に特異的なPCRに対して何ら増幅産物を示さず、従って、完全な切除事象を確認した。それゆえ、この雄は、特徴づけられた最初のヘテロ接合性構成的Qpctノックアウトマウスである。次に、よりヘテロ接合性の構成的Qpctノックアウト動物を作出するために、このヘテロ接合性雄を野生型雌と交配した。該結果は、下記の実施例11に記載する。
・最後に、雌#35441は、野生型対立遺伝子及び標的とされた未切除の対立遺伝子を有しているが、Cre切除した対立遺伝子を有していない。従って、この雌は、Qpct標的領域がLoxP遺伝子を導入されており、かつネオマイシン選択カセットをなおも含むヘテロ接合性Qpct標的動物である。選択カセットのインビボでの切除を得るために、この雌#35441をFlp発現雄と交配した。該結果は、下記の実施例12に記載する。
【0249】
実施例11
最初のヘテロ接合性構成的Qpctノックアウト動物と野生型マウスとの繁殖
いくつかのヘテロ接合性構成的Qpctノックアウト動物を作出するために、作出した最初のヘテロ接合性構成的Qpctノックアウトマウス(実施例10参照)を野生型雌と交配した。
【0250】
下記の表3は、この繁殖の結果を要約する。
【表18】
表3:第1のヘテロ接合性構成的Qpctノックアウト動物繁殖の結果報告。動物の遺伝子型は、括弧に与えられる(下記の本文も参照)。WT:野生型;Cre切除したHet:Cre媒介性切除されたQpct対立遺伝子を有する異型接合体。
上記のように、この繁殖から12個体の仔を得た:8個体の雄及び4個体の雌。
これらの動物の遺伝子型を同定して、構成的ノックアウト対立遺伝子を有しているさらなるヘテロ接合性マウスを同定した。
【0251】
11.1 前記動物のPCR遺伝子型同定
結果として作出した12個体の仔から採取した尾部生検からDNAを調製し、2つの異なるPCR戦略によって遺伝子型を同定した:
・標的とされたQpct対立遺伝子内でLoxPの隣接する領域のCre媒介性切除の検出のためのCre切除PCR(図20、第13.2節参照)。このPCRによって、使用したテンプレートに応じた異なるサイズの増幅産物が生じる:野生型、標的とされた又はCre切除した対立遺伝子。
・ES細胞における相同的組換え事象の検出のために既に使用された3'PCRスクリーニング(第13.3節参照)。このPCR戦略は、LoxP-FRT-ネオマイシン-FRTカセット及び遠位LoxP部位の隣接するエクソン4及び5を有する未切除の標的とされたQpct対立遺伝子を検出する。
【0252】
11.2 Cre媒介性切除事象についてのPCRスクリーニング
遠位LoxP部位の上流の5'相同性アームにおいてハイブリッド形成する順方向プライマーTOR2-Nと、エクソン6の下流でハイブリッド形成する逆方向プライマーTOR2-I1とを使用して、Cre切除PCRを実施した(図13参照)。その局在性のため、このプライマー対によって、Cre媒介性切除事象の特異的検出が可能となる。
【0253】
Cre切除した対立遺伝子は、上記のプライマー対を使用して4.4kbの増幅産物を生じるのに対し、標的とされた(未切除の)対立遺伝子は、9.2kbの増幅産物を生じる(図13参照)。両プライマーは、野生型で標的とされていない対立遺伝子とハイブリッド形成するので、野生型対立遺伝子に相当する7.3kbのさらなる増幅産物が、すべての動物から得られるであろう。遺伝子型を同定するPCRの結果の代表的な例を図20に示す。
【0254】
Cre切除PCRによる遺伝子型同定によって、生まれた12個体の検査動物のうち、3個体(#18244、#18156及び#18159)がCre切除した対立遺伝子を有していることが示された。その他の9個体の検査動物は野生型マウスである。
【0255】
11.3 相同的組換え事象についての3'PCRスクリーニング
新たなヘテロ接合性構成的Qpctノックアウトマウスにおけるネオマイシンカセットの切除の最後の確証を得るために、同定された最初のヘテロ接合体に対して実施されたように、プライマーTOR2-H2/TOR2-I2を用いる3'PCRスクリーニングを使用して、標的とされた対立遺伝子を検出した。
検査した12個体の動物は、TOR2-H2/TOR2-I2 PCRに対してネガティブであった(データ未表示)。このことは、ネオマイシン選択カセットが、変異したQpct対立遺伝子から完全に欠失していることを示した。
【0256】
総合すると、これら2つのスクリーニングのPCR結果によって、生まれた12個体の検査動物のうち、3個体の雄#18244、#18156及び#18159は、ヘテロ接合性構成的Qpctノックアウト動物であることが示された。この遺伝子型の最終的なサザンブロットでの確認をこれらの動物について実施した。
【0257】
11.4 最終的なヘテロ接合性構成的Qpctノックアウト動物についてのサザンブロットでの遺伝子型同定の確認
5'サザンブロットスクリーニング戦略を使用して、4個体のF1ヘテロ接合性構成的Qpctノックアウト動物の遺伝子型をさらに確認し、PCR遺伝子型同定を検証した。この5'サザンブロットは、ゲノムDNAのBamHI消化、及び482bpの5'内部Kプローブ(5'Kプローブ)を使用する検出に基づいている(実施例5の項目1.2参照)。
【0258】
得られた結果を図21に示す。
図21に示すように、サザンブロット分析によってPCR結果が確認され、これらの動物の遺伝子型の最終的な立証が与えられた:4個体の雄#35438、#18156、#18159及び#18244は、ヘテロ接合性構成的Qpctノックアウト動物である。
【0259】
実施例12
ヘテロ接合性でQpctを標的とした雌とFlp発現雄との繁殖
先に、Qpct標的領域にLoxPが導入され、ネオマイシン選択カセットをなおも含む雌#35441のヘテロ接合性Qpct標的動物を作出した(実施例10参照)。選択カセットのインビボでの切除を得るために、この雌#35441をFlp発現雄と交配した。
【0260】
下記の表4は、この繁殖を要約する。
【表19】
表4:ヘテロ接合性でQpctを標的とした雌とFlp発現雄との繁殖の結果。動物の遺伝子型は、括弧に与えられる(下記の本文も参照)。WT:野生型;標的とされたHet:標的とされたQpct対立遺伝子を有するヘテロ接合性;部分的にFlp切除したHet:Flp媒介性切除されたQpct対立遺伝子及び標的とされたQpct対立遺伝子を有する異型接合体。
この繁殖によって7個体の動物が生じ、該動物の遺伝子型を同定して、条件的ノックアウト対立遺伝子を有しているヘテロ接合性マウスを同定した。
【0261】
12.1 前記動物のPCR遺伝子型同定
結果として生じた7個体の仔から採取した尾部生検からDNAを調製し、2つの異なるPCR戦略によって遺伝子型を同定した:
・ネオマイシン選択カセットのFlp媒介性切除の検出のためのFlp切除PCR(図22、実施例12の第2項参照)。このPCRは、使用したテンプレートに応じて異なるサイズの増幅産物を生じる:野生型、標的とされた又はCre切除した対立遺伝子。
・ES細胞における相同的組換え事象の検出のために既に使用された3'PCRスクリーニング(図23、実施例12の第3項参照)。このPCR戦略は、LoxP-FRT-ネオマイシン-FRTカセット及び遠位LoxP部位の隣接するエクソン4及び5を有している未切除の標的とされたQpct対立遺伝子を検出する。
【0262】
12.2 Flp媒介性切除事象についてのPCRスクリーニング
ネオマイシン選択カセットの上流の長い5'相同性アームにおいてハイブリッド形成する順方向プライマーTOR2-N2と、ネオマイシン選択カセットの下流の短い3'相同性アームにおいてハイブリッド形成する逆方向プライマーTOR2-I4とを使用して、Flp切除PCRを実施した(図13、実施例5.2参照)。プライマーセットの局在性により、このPCRによって、ネオマイシン選択カセットのFlp媒介性切除の検出が可能となる。
【0263】
Flp切除した対立遺伝子は、上記のプライマー対を使用して538bpの増幅産物を生じるべきであるのに対し、標的とされた(未切除の)対立遺伝子は、2211bpの増幅産物を生じるべきである(図13参照)。両プライマーが、野生型の標的とされていない対立遺伝子とハイブリッド形成するので、野生型対立遺伝子に相当する419bpのさらなる増幅産物が、すべての動物から得られるであろう。遺伝子型を同定するPCRの結果を図22に示す。
【0264】
Flp切除PCRによる遺伝子型同定は、生まれた7個体の検査動物のうち、4個体(#17973、#17974、#1796及び#17977)がFlp切除した対立遺伝子を有していることを示した。検査したその他の3個体の動物は、野生型マウスであるか又は標的とされた対立遺伝子を有しているかのいずれかであった。
【0265】
12.3 相同的組換え事象についての3'PCRスクリーニング
Flp媒介性切除した対立遺伝子を有している動物におけるネオマイシンカセットの完全な切除を評価するために、3'PCRスクリーニング(TOR2-H2/TOR2-I2プライマーを使用)を使用して、標的とされた対立遺伝子を検出した。このPCRに対してポジティブの検査動物は従って、Qpct遺伝子座内に組み込まれたネオマイシンカセットをなおも有する。
3'PCRスクリーニングによる遺伝子型同定によって、生まれた7個体の検査動物のうち、6個体(#17972〜#17977)が標的とされた対立遺伝子を有していることが示された。
【0266】
総合すると、これら2つのPCRスクリーニングの結果は、生まれた7個体の検査動物のうち、下記を示した:
・雄#17971は、野生型Qpct対立遺伝子のみを有していた。この動物は屠殺された。
【0267】
・動物#17972及び#17975は、野生型対立遺伝子及び標的とされた未切除の対立遺伝子を有していたが、Flp切除した対立遺伝子を有していなかった。これら2個体の動物は従って、Qpct標的領域にLoxPを導入され、かつネオマイシン選択カセットをなおも含むヘテロ接合性のQpctを標的とした動物である。これらの動物は屠殺された。
【0268】
・最後に、4個体の動物(2個体の雄#17973及び#17974並びに4個体の雌#17976及び#17977)は、Flp媒介性切除した対立遺伝子、野生型対立遺伝子及びQpct標的対立遺伝子に相当する増幅産物を生じた。このことは、これらのマウスが、ネオマイシン選択カセットの不完全な切除を有していることを示唆しており、該マウスが、切除した細胞タイプと未切除の細胞タイプからなるモザイクからなることを意味している。次に、ヘテロ接合性条件的Qpctノックアウトマウス系統を作出するために、これらの動物を野生型マウスと繁殖させた。
【0269】
実施例13
部分的にFlp媒介性でネオマイシンを切除した動物の繁殖
13.1 繁殖
条件的Qpctノックアウト対立遺伝子から標的Qpct対立遺伝子を分離するために、作出した4個体の部分的にFlp媒介性でネオマイシンを切除した動物のうち、雄#17973を野生型マウスと交配し、このようにして、純粋なヘテロ接合性条件的Qpctノックアウトマウスを作出した。この繁殖の結果は、下記の表5に要約する。
【表20】
表5:ヘテロ接合性で部分的にFlp切除したQpct雄と野生型雌との繁殖の結果。動物の遺伝子型は、括弧に与えられる(下記の本文も参照)。WT:野生型;標的とされたHet:標的とされたQpct対立遺伝子を有するヘテロ接合体;部分的にFlp切除したHet:Flp媒介性切除されたQpct対立遺伝子及び標的とされたQpct対立遺伝子を有する異型接合体;Flp切除したHet:Flp媒介性切除されたQpct対立遺伝子を有する異型接合体。
【0270】
13.2 Flp媒介性切除事象についてのPCRスクリーニング
TOR2-N2/TOR2-I4 PCRを使用して、先に記載したとおり、Flp切除スクリーニングを実施した。
Flp切除した対立遺伝子は、上記のプライマー対を使用して538bpの増幅産物を生じるのに対し、標的された(未切除の)対立遺伝子は、2211bpの増幅産物を生じる(図13参照)。両プライマーが、野生型の標的とされていない対立遺伝子とハイブリッド形成するので、野生型対立遺伝子に相当する419bpのさらなる増幅産物が、すべての動物から得られるであろう。遺伝子型を同定するPCRの結果の代表的な例を図24に示す。
【0271】
図24に示すように、Flp切除PCRによる遺伝子型同定によって、14個体の検査動物のうち、8個体(#18823、#18824、#18825、#18826、#18828、#18830、#18833及び#18836)がFlp切除した対立遺伝子を有していることが示された。その他の6個体の検査動物は、野生型マウスであったか又は標的とされた対立遺伝子を有しているかのいずれかである。
【0272】
13.3 相同的組換え事象についての3'PCRスクリーニング
Flp媒介性切除した対立遺伝子を有している動物におけるネオマイシンカセットの完全な切除を評価するために、3'PCRスクリーニング(TOR2-H2/TOR2-I2プライマーを使用)を使用して、標的とされた対立遺伝子を検出した。このPCRに対してポジティブである検査動物は、Qpct遺伝子座内に組み込まれたネオマイシンカセットをなおも有する。
【0273】
3'PCRスクリーニングによる遺伝子型同定によって、産生した14個体の検査動物のうち、3個体の動物(#18826、#18829及び#18833)は、標的対立遺伝子を有していることが示された。
総合すると、これら2つのPCRスクリーニングの結果は、生まれた14個体の検査動物のうち、下記を示した:
・動物#18827、#18831、#18832、#18834及び#18835は、野生型のQpct対立遺伝子のみを有している。これらの動物は屠殺された。
・動物#18829は、野生型対立遺伝子及び標的とされた未切除の対立遺伝子を有していたが、Flp切除した対立遺伝子を有していなかった。この動物は従って、Qpct標的領域にLoxPが導入され、かつネオマイシン選択カセットをなおも含むヘテロ接合性のQpctを標的とした動物である。この動物は屠殺された。
・動物#18826及び#18833は、Flp媒介性切除した対立遺伝子、野生型対立遺伝子及びQpct標的対立遺伝子に相当する増幅産物を生じた。このことは、これらのマウスがネオマイシン選択カセットの不完全な切除を有していることを示唆しており、該マウスが、切除した細胞タイプと未切除の細胞タイプからなるモザイクからなることを意味する。これらの動物は屠殺された。
・最後に、6個体の動物(5個体の雄#18823、#18824、#18825、#18828、#18830及び雌#18836)は、Flp切除した対立遺伝子及び野生型対立遺伝子の両方に相当する増幅産物を生じた。これらのマウスは従って、ネオマイシン選択カセットの完全な切除を有しており、純粋なヘテロ接合性条件的Qpctノックアウト動物である。この遺伝子型の最終的なサザンブロットによる確認を、これらの動物について実施した。
【0274】
1.14 最終的なヘテロ接合性条件的Qpctノックアウト動物についてのサザンブロットによる遺伝子型同定確認
3'サザンブロットスクリーニング戦略を使用して、3個体のF1ヘテロ接合性条件的Qpctノックアウト動物の遺伝子型をさらに検査し、PCR遺伝子型同定を確認した。この3'サザンブロットは、ゲノムDNAのSwaI消化、及び406bpの3'内部Rプローブ(3'Rプローブ)を使用する検出に基づいている(実施例4の第1.2項、実施例7の第1.2項及び図11参照)。
【0275】
得られた結果を図26に示す。
図26に示すように、サザンブロット分析によってPCRの結果を確認し、これらの動物の遺伝子型の最終的な立証を与えた:3個体の雄#18823、#18824及び#18825は、ヘテロ接合性条件的Qpctノックアウト動物である。
【0276】
条件的Qpctノックアウトモデルの発生のための戦略は、標的とされたエクソン4及び5を2つのLoxP部位と隣接させ、Cre-リコンビナーゼの作用下でその遍在的又は組織特異的欠失が可能となることによって達成した。
【0277】
本発明者は、TOR2-HRターゲティングベクターの作製に必要とされる2つの相同性アームの増幅、クローニング及び配列決定において成功した。
該本発明者は、両相同性アームについて、いずれの変異も全くない少なくとも1つのクローンを単離し及び配列決定した。これらのクローンをターゲティングベクターの構築のために使用した。
【0278】
ターゲティングベクター及びポジティブコントロールベクターを従来技術の方法論に従って、及び上記の戦略に従って作製した。
下記の事象を同定するために、PCR及びサザンブロットスクリーニング戦略を立案し及び検証した:
・ターゲティングベクターの5'及び3'の両末端におけるQpct遺伝子座での相同的組換え事象。
・最終的な条件的Qpctノックアウト対立遺伝子の作製を可能にするネオマイシン選択カセットのFlp媒介性切除。
・構成的Qpctノックアウト対立遺伝子の作製を可能にするQpctエクソン4及び5のCre媒介性切除。
【0279】
TOR2-HRターゲティングベクターの電気穿孔後、421個のG418耐性クローンを単離し、96ウェルプレートにおいて二つ組で増幅した。これらのES細胞クローンのPCR及びサザンブロットスクリーニングによって、正確に標的とされた7個のクローンの完全な特徴づけをすることができた:クローン#5C5、#5C12、#6A3、#6C3、#15B2、#10B2及び#11B4。
【0280】
ES細胞スクリーニング結果及び形態学的基準に基づいて、7個のES細胞クローン5C5、#5C12、#6A3、#6C3、#15B2、#10B2及び#11B4を胚盤胞注入のために選択した。これらのES細胞クローンを合計374個の胚盤胞に注入し及び再移植して、下記のキメラ化の割合で合計17個体の雄のキメラを作出した:
【0281】
・クローン#6A3で、5%〜20%の範囲のキメラ化の割合で8個体の雄のキメラを作出した。
・クローン#6C3で、5%〜30%の範囲のキメラ化の割合で3個体の雄のキメラを作出した。
・クローン#5C12で、35%及び15%のキメラ化の割合で2個体の雄のキメラを作出した。
・クローン#5C5では、いずれの雄のキメラも作出しなかった。
・クローン#15B2で、75%のキメラ化の割合で1個体の雄のキメラを作出した。
・クローン#10B2では、いずれの仔も作出しなかった。
・クローン#11B4で、75%、35%及び8%のキメラ化の割合で3個体の雄のキメラを作出した。
【0282】
4個体のキメラの雄(20%〜35%のキメラ化を示し、ESクローン#6A3、#6C3及び#5C12に由来)を野生型C57BL/6J雌(健康状態SOPF―特定病原体及び日和見病原体除去)と交配して、生殖系列伝達を得、Qpctを標的としたヘテロ接合性動物を作出した。また、キメラをFlp欠失体雌又はCre欠失体雌(健康状態SOPF―特定病原体及び日和見病原体除去)とも繁殖させて、ネオマイシン選択カセット及びQpctエクソン4〜5並びに選択カセットの欠失をそれぞれ得た。
【0283】
この繁殖は結果として、17個体のF1仔を作出した。PCR及びサザンブロットスクリーニングを使用して、これらのマウスをスクリーニングし、下記の特徴づけをすることができた:
・Cre媒介性でネオマイシン切除したQcpt対立遺伝子を有する1個体の雄#35438。この雄は、最初のF1ヘテロ接合性構成的Qpctノックアウトマウスであった。該雄を野生型雌と交配して、3個体のさらなるヘテロ接合性構成的Qpctノックアウトマウスを作出した。
・標的とされた対立遺伝子を有している1個体の雌#35441。この雌は、F1ヘテロ接合性Qpct標的マウスを表しており、ネオマイシン選択カセットのインビボでの欠失を得るために、Flp発現マウスと交配した。
【0284】
最初のヘテロ接合性構成的Qpctノックアウト雄#35438を野生型雌と繁殖させることによって、3個体のさらなるヘテロ接合性構成的Qpctノックアウト雄#18156、#18159及び#18244を作出することができた。
【0285】
ヘテロ接合性の標的Qpctノックアウト雌#35441を、C57BL/6JのCCAG-Flpを発現する欠失体雄と繁殖させることによって、7個体の動物を作出し、そのうち4個体の動物(2個体の雄#17973及び#17974並びに2個体の雌#17976及び#17977)は、野生型対立遺伝子に加えて、Qpct標的対立遺伝子及びFlp媒介性のネオマイシン切除したQpct対立遺伝子(条件的Qpctノックアウト対立遺伝子)の両方を有していた。従って、これらの動物は、ネオマイシン選択カセットの部分的な切除を受けており、Flp-リコンビナーゼが結果として、これらのF1動物のいくらかではあるがすべてではない個体において、選択カセットの欠失を生じることを意味した。
【0286】
次に、ネオマイシン選択カセットをなおも含む標的対立遺伝子からFlp媒介性切除した対立遺伝子(条件的Qpctノックアウト対立遺伝子)を分離するために、これらのモザイク動物のうちの1個体である部分的にFlp媒介性で切除した、すなわち雄#17973を、野生型雌と交配した。この第三のF1繁殖によって、新たなシリーズの14個体のF1動物が作出された。該F1動物のPCR及びサザンブロット遺伝子型同定によって、Flp切除した対立遺伝子及び野生型対立遺伝子の両方を示す6個体の動物(5個体の雄#18823、#18824、#18825、#18828、#18830及び雌#18836)の特徴づけをすることができた。これらのマウスは従って、ネオマイシン選択カセットの完全な切除を有しており、純粋なヘテロ接合性条件的Qpctノックアウト動物である。
【0287】
実施例14
Qpct遺伝子における構成的ノックアウト変異を有しているマウスモデルの作出
14.1 ターゲティング戦略及びQpctKOマウス系Pbd2の作出
不活性化したQpctタンパク質機能を有するマウス系統の発生のために、マウス胚性幹細胞(ES細胞、129SvPas系由来)を遺伝子操作して、ゲノムに下記を有するクローンを選択した。
・FRT部位に隣接するネオマイシン選択カセット、及びそれに続くQpctイントロン5へと挿入されたLoxP部位
及び
・Qpctイントロン3に位置する遠位LoxP部位
ES細胞を胚盤胞に注入し、胚の転移を介してキメラを作出した。ネオマイシン選択カセットの除去のために、キメラをFlp発現動物と交配させた後、仔をQpct1エクソン4及び5の欠失のためのCre発現動物と繁殖させた。Qpct遺伝子座についてヘテロ接合性であり、かつ野生型対立遺伝子に加えて、エクソン4及び5の欠失したQpct対立遺伝子を有している仔を同定した(図27)。これらの動物は、マウス系Pbd2についての創立動物(founder)として機能した。
【0288】
14.2 マウス系Pbd2についての遺伝子型同定アッセイ
系Pbd2のQpct遺伝子型のPCR評価のために、下記のオリゴヌクレオチドプライマーを設計した:
【表21】
プライマーPbd2-1、Pbd2-2及びPbd2-WT1を含む50ngの染色体DNAに関する標準的なPCR反応において、野生型対立遺伝子は、およそ735bpの断片として検出することができるのに対し、標的ノックアウト対立遺伝子は、およそ525bpの断片として検出される(図28参照)。
【0289】
実施例15
Qpct遺伝子における構成的ノックアウト変異を有しているマウスの特徴づけ
ノックアウト動物の作出が成功したことを証明するために、遺伝子操作に関して野生型、ヘテロ接合性及びホモ接合性の動物の血漿を分析し、Qpctの酵素活性を測定した。戦略が成功している場合、Qpct活性の有意な低下又は欠乏が期待された。
【0290】
血漿中のQpctによって触媒されるL-グルタミニル-β-ナフチルアミンからのL-pGlu-β-ナフチルアミンの形成の検出に基づいた方法を適用して、血漿中のQpct活性を決定した(Cynis, H.らの文献(2006 Biochim Biophys Acta 1764, 1618-1625))。簡潔には、該アッセイは、H-Gln-βNAのpGlu-βNAへの変換に基づいている。試料は、1mLの最終容積における25mM MOPS(pH7.0)中の50μM H-Gln-βNA、0.1mM N-エチルマレインイミド(NEM)及び酵素溶液からなった。基質及びNEMを30℃で15分間プレインキュベートした。試料を4℃、16.000×gで20分間遠心分離した。100μLの血漿試料の添加によって、反応を開始した。反応混合物を30℃でさらにインキュベートし、サーモミキサー(Eppendorf, Germany)において300rpmで定常的に振蘯した。検査試料を0、5、10、15、22、30及び45分の時点で取り出した。反応は、4分間煮沸することによって即時停止した。検査試料を氷上で冷却し、−20℃で保存した。分析のために、試料を氷上で解凍し、4℃、16,000×gで20分間遠心分離した。RP18 LiChroCART HPLC-カートリッジ及びHPLCシステムD-7000(Merck-Hitachi)を使用して、すべてのHPLC測定を実施した。簡潔には、20μLの試料を注入し、溶媒B(0.1%TFAを含むH2O)における溶媒A(0.1%TFAを含むアセトニトリル)の濃度を8%から20%へと増大させることによって分離した。アッセイ条件下で決定したpGlu-βNAの標準曲線から、Qpct活性を定量化した(Bachem, Bubendorf, Switzerland)。
【0291】
動物の遺伝子型に応じたQpct活性が図29に描かれている。ホモ接合性Qpctノックアウト動物における機能的Qpct遺伝子の完全な損失に起因して、血漿中のQpct活性は検出することができない。ヘテロ接合性動物、すなわち、1つの機能的に破壊された対立遺伝子とともにQpctの1つの無処置の対立遺伝子をなおも有している動物において、野生型動物の血漿中の活性のおよそ60%はなおもそのままである。
【0292】
従って、本結果は、下記を証明している:1.実施例1〜14において描かれたように、Qpct対立遺伝子を標的とする戦略は成功し、これらの動物におけるQpctの完全な損失を誘発するのに十分であった。2.Qpct活性の遺伝子-用量依存性が観察されている。1つのコピーの損失はすでに、Qpct活性の部分的な損失を結果として生じている。この観察は、これらの動物とヒト疾患の他の動物モデルとを交雑してQpct活性を標的とする薬物を製造する試みを証明することを包含する次に続く研究にとって重要である。3.重要なことに、酵素活性のあるQpctは、生存可能な仔の発生及び動物の発生にとって必要ではなく、このことはQpctの薬理学的阻害が明らかな有害な副作用を有さないことを証明している。
【0293】
ホルモン調節カスケードの機能に及ぼすQpctの欠乏の効果をさらに特徴づけるために、テストステロン及びチロキシンの濃度をpbd2マウス由来の血清において決定した。
【0294】
テストステロン(6,17-ドデカヒドロシクロペンタ[a]フェナントレン-3-オン)は、主な男性ホルモンであり、雄の精巣及び雌の卵巣において主として分泌されるステロイドホルモンである。また、テストステロンは、副腎によっても分泌される。テストステロンは、健康及び幸福において並びに性的機能において重要な役割を担っている。性腺からの性ホルモンの放出は、下垂体ホルモン(hypophyseal hormone)LH及びFSHによって調節されている。これらの下垂体ホルモン(pituitary hormone)の放出が順に、視床下部ホルモンである性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)によって刺激される。GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)は、弓状核における小細胞ニューロンから正中隆起へと分泌される。次に、GnRHは、下垂体門脈系に入り、下垂体前葉に到達するまで長い静脈を移動し、下垂体前葉において性腺刺激ホルモン産生細胞に作用して、LH(黄体形成ホルモン)及びFSH(卵胞刺激ホルモン)を血流に放出し戻す。LH及びFSHは両方とも、性腺に作用して、性ホルモンの放出を含みかつ性腺の完全性を維持することを含む多様な効果を生じる。GnRH、下垂体ホルモン及び性腺ホルモンの分泌を包含する事象の該カスケードによって、いわゆる視床下部-下垂体-性腺軸(HPG)の軸が構築される。他のホルモン軸と同様に、ゴナドトープ(gonadotopes)の分泌に関する負のフィードバック調節がある。GnRHは、pGluによってN末端修飾され、それゆえ、Qpctの基質である。GnRHのN末端におけるpGlu形成の減少は、ホルモンの非活性化を結果的に生じるよう意図されており、その結果、HPG軸の妨害及びテストステロン濃度の調節解除が生じるよう意図される。
【0295】
テストステロン濃度に及ぼすQpctの欠乏の効果を図30に描いている。競合的ELISA法を適用して、雄マウスの血清中のテストステロン濃度を決定した(IBL,Hamburg,Germany,カタログ番号RE52631)。製造元の説明書に従って、該決定を実施した。
【0296】
該結果は、野生型マウスとQpctノックアウトマウスとの間にテストステロン濃度の差がないことを示す。Qpctの全体的な損失でさえ性腺ホルモンの妨害を結果的に生じず、Qpctの薬理学的阻害が生殖軸に対して望ましくない副作用を結果的に生じないことを立証している。
【0297】
チロキシン(3,5,3',5'-テトラヨードチロニン,T4)は、甲状腺の濾胞細胞によって分泌されるホルモンである。T4は、代謝過程の制御においてある役割を担っている。チロキシンは、心拍出量、心拍数及び基礎代謝率を増大させ、脳の発達を増強する。甲状腺ホルモンであるチロキシン及びトリヨードチロニン(T3)の分泌は、視床下部-下垂体−甲状腺軸を介して調節される。視床下部は、低レベルで循環している甲状腺ホルモンを感知し、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)を放出することによって反応する。トリペプチドであるTRHは、pGluによってN末端修飾され、それゆえ、Qpctの基質である。TRHは、下垂体を刺激して、甲状腺刺激ホルモン(TSH)を産生する。TSHは順に、甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンを産生する。TRHのN末端におけるpGlu形成の減少は、該ホルモンの非活性化を結果的に生じるよう意図されており、その結果、HPT軸の妨害及び調節解除されたチロキシン濃度を結果的に生じるよう意図されている。
【0298】
チロキシン濃度に及ぼすQpctの欠乏の効果を図31に描いている。競合的ELISA法を適用して、マウスの血漿中のチロキシン濃度を決定した(IBL,Hamburg,Germany,カタログ番号RE55261)。製造元の説明書に従って、該決定を実施した。
【0299】
該結果は、ホモ接合性構成的QpctノックアウトマウスにおけるT4濃度のわずかだが統計的には有意ではない減少を含意している。ヘテロ接合性マウスにおいて、チロキシンレベルの差は観察されなった。該結果は、Qpctの部分的な減少がHPT軸に影響をまったく及ぼさないことを示唆している。Qpctの全体的な損失でさえ、甲状腺ホルモンの妨害を結果的に生じず、Qpctの薬理学的阻害の結果として、望ましくない副作用を生じないことを立証している。
【0300】
実施例16:TransWell走化性アッセイ
RPMI1640、10%FBSにおいて、ヒト急性単球性白血病細胞株THP-1を37℃で5%CO2の加湿した大気下で培養した。5μmの孔サイズの24ウェルTransWellプレート(Corning)を使用して、走化性アッセイを実施した。600μLの化学誘引物質溶液を下部チャンバーに適用した。無血清RPMIをネガティブコントロールとして適用した。THP-1細胞を回収し、1×106個/100μLの濃度でRPMI1640に再懸濁し、100μLの一定分量で上部チャンバーに適用した。細胞は、化学誘引物質に向けて37℃で2時間遊走することができた。その後、上部チャンバー由来の細胞を廃棄し、下部チャンバーをPBSにおける70mM EDTA50μLと混合し、37℃で15分間インキュベートして、メンブレンに付着した細胞を遊離した。その後、細胞計数器システム(Scharfe System, Reutlingen)を使用して、遊走した細胞を計数した。刺激に向けて遊走した細胞を、ネガティブコントロールに向けて遊走した細胞で除することによって、走化性指数を算出した。
【図1A】
【図1B】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的にノックアウト動物、特にQpct遺伝子のノックアウト変異を有するマウスモデルに関する。
【背景技術】
【0002】
グルタミニルシクラーゼ(QC,EC 2.3.2.5)とも命名されたQpct(すなわち、グルタミニルペプチドシクロトランスフェラーゼ)は、アンモニアの遊離下におけるN末端グルタミン残基のピログルタミン酸(5-オキソ-プロリン,pGlu*)への分子内環化、及び水の遊離下におけるN末端グルタミン酸残基のピログルタミン酸への分子内環化を触媒する。
【0003】
グルタミニルシクラーゼ(QC,EC 2.3.2.5)は、アンモニアを遊離しながらN末端グルタミン残基のピログルタミン酸(pGlu*)への分子内環化を触媒する。QCは、Messerによって1963年に熱帯植物パパイヤのラテックスから最初に単離された(Messer,M.の文献(1963 Nature 4874,1299))。24年後、類似の酵素活性が動物の下垂体において発見された(Busby,W.H.Jらの文献(1987 J Biol Chem 262,8532-8536);Fischer,W.H.及びSpiess,J.の文献(1987(Proc Natl Acad Sci U S A 84,3628-3632))。哺乳動物QCについては、QCによるGlnのpGluへの変換が、TRH及びGnRHの前駆体について示されることができた(Busby,W.H.J.らの文献(1987 J Biol Chem 262,8532-8536);Fischer,W.H.及びSpiess,J.の文献(1987 Proc Natl Acad Sci U S A 84,3628-3632))。加えて、QCの初期の局在化実験では、ウシ下垂体における触媒作用の該QCの推定上の産物との共局在が明らかになり、ペプチドホルモン合成における示唆された機能をさらに進歩させた(Bockers,T.M.らの文献(1995 J Neuroendocrinol 7,445-453))。対照的に、植物QCの生理学的機能は、それほど明らかではない。C.パパイヤ由来の酵素の場合、病原性微生物に対する植物防御における役割が示唆された(El Moussaoui,A.らの文献(2001 Cell Mol Life Sci 58,556-570))。その他の植物由来の推定上のQCが、配列比較によって同定された(Dahl,S.W.らの文献(2000 Protein Expr Purif 20,27-36))。しかし、これらの酵素の生理学的機能は、いまだあいまいである。
【0004】
植物及び動物由来の公知のQCは、基質のN末端の位置のL-グルタミンに対する厳密な特異性を示し、これらの動力学的挙動は、ミカエリス-メンテンの式に従うことが見いだされた(Pohl,T.らの文献(1991 Proc Natl Acad Sci U S A 88,10059-10063;Consalvo,A.P.らの文献(1988 Anal Biochem 175,131-138);Gololobov,M.Y.らの文献(1996 Biol Chem Hoppe Seyler 377,395-398))。しかし、C.パパイヤ由来のQCの一次構造と哺乳動物由来の高度に保存されたQCの一次構造との比較では、何ら配列相同性は明らかにならなかった(Dahl,S.W.らの文献(2000 Protein Expr Purif 20,27-36))。植物QCは、新たな酵素ファミリーに属すると思われるのに対して(Dahl,S.W.らの文献(2000 Protein Expr Purif 20,27-36))、哺乳動物QCは、細菌アミノペプチダーゼに対して明白な配列相同性を有することが見いだされており(Bateman,R.C.らの文献(2001 Biochemistry 40,11246-11250))、植物及び動物由来のQCが異なる進化の起源を有するという結論に至った。
【0005】
欧州特許第02 011 349.4号は、昆虫グルタミニルシクラーゼをコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドを開示する。この出願は、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含む宿主細胞をさらに提供する。昆虫QCを含む単離されたポリペプチド及び宿主細胞は、グルタミニルシクラーゼ活性を減少させる薬剤をスクリーニングする方法に有用である。このような薬剤は、殺虫薬として有用であることが記載されている。
【0006】
本発明の主題は、Qpct関連疾患の分野において特に有用であり、その一例は、アルツハイマー病である。アルツハイマー病(AD)は、異栄養性ニューロン、反応性アストロサイト、及びミクログリアと密接に関連した細胞外アミロイド性プラークの異常な蓄積によって特徴づけられる(Terry,R.D.及びKatzman,R.の文献(1983 Ann Neurol 14,497-506);Glenner,G.G.及びWong,C.W.の文献(1984 Biochem Biophys Res Comm 120,885-890);Intagaki,S.らの文献(1989 J Neuroimmunol 24,173-182);Funato,H.らの文献(1998,J Pathol 152,983-992);Selkoe,D.J.の文献(2001 Physiol Rev 81,741-766))。アミロイド-β(Aβと略記される。)ペプチドは、老人斑の主要構成要素であって、ADの病原性及び進行に直接関与するものと考えられており、これは遺伝的研究によって支持される仮説である。(Glenner,G.G.及びWong,C.W.の文献(1984 Biochem Biophys Res Comm 120,885-890);Borchelt,D.R.らの文献(1996 Neuron 17,1005-1013);Lemere,C.A.らの文献(1996 Nat Med 2,1146-1150);Mann,D.M.及びIwatsubo,T.の文献(1996 Neurodegeneration 5,115-120);Citron,M.らの文献(1997 Nat Med 3,67-72);Selkoe,D.J.の文献(2001 Physiol Rev 81,741-766))。Aβは、β-アミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク質分解性プロセシングによって産生され(Kang,J.らの文献(1987 Nature 325,733-736);Selkoe,D.J.の文献(1998 Trends Cell Biol 8,447-453))、これがAβのN末端にてβ-セクレターゼによって、及びC末端にてγ-セクレターゼによって連続して切断される(Haass,C.及びSelkoe,D.J.の文献(1993 Cell 75,1039-1042);Simon,M.らの文献(1996 J Neurosci 16 899-908))。N末端にてL-Aspで始まる優勢なAβペプチド(Aβ1-42/40)に加えて、N末端で切断された形態の際立った不均一性が、老人斑において生じる。このような短くなったペプチドは、全長アイソフォームよりもインビトロにおいて神経毒性があり、かつより迅速に凝集することが報告されている(Pike,C.J.らの文献(1995 J Biol Chem 270,23895-23898))。N切断されたペプチドは、早発性家族性AD(FAD)対象において過剰産生されること(Saido,T.C.らの文献(1995 Neuron 14,457-466);Russo,Cらの文献(2000 Nature 405,531-532))、早期に現れること、及びダウン症候群(DS)脳において加齢と共に増加すること(Russo,C.らの文献(1997 FEBS Lett 409,411-416)、Russo,C.らの文献(2001 Neurobiol Dis 8,173-180);Tekirian,T.L.らの文献(1998 J Neuropathol Exp Neurol 57,76-94))が公知である。最後に、該N切断されたペプチドの量は、該疾患の進行の重度を反映する(Russo,C.らの文献(1997 FEBS Lett 409,411-416);Guntert,A.らの文献(2006 Neuroscience143,461-475))。さらなる翻訳後プロセスでは、位置1及び7におけるアスパラギン酸の異性化又はラセミ化によって、並びに残基3及び11におけるグルタミン酸の環化によって、N末端をさらに修飾するかもしれない。位置3にピログルタミン酸を含むアイソフォーム[pGlu3Aβ3-40/42]は、老人斑におけるN切断された種の顕著な形態―総Aβ量のおよそ50%―を表し(Mori,H.らの文献(1992 J Biol Chem 267,17082-17086)、Saido,T.C.らの文献(1995 Neuron 14,457-466);Russo,C.らの文献(1997 FEBS Lett 409,411-416);Tekirian,T.L.らの文献(1998 J Neuropathol Exp Neurol 57,76-94);Geddes,J.W.らの文献(1999 Neurobiol Aging 20,75-79);Harigaya,Y.らの文献(2000 Biochem Biophys Res Commun 276,422-427))、該アイソフォームはまた、プレアミロイド病変にも存在する(Lalowski,M.らの文献(1996 J Biol Chem 271,33623-33631))。AβN3(pE)ペプチドの蓄積は、凝集を増強し、かつ大部分のアミノペプチダーゼに対する耐性を与える構造修飾に起因する可能性が高い(Saido,T.C.らの文献(1995 Neuron 14,457-466);Tekirian,T.L.らの文献(1999 J Neurochem 73,1584-1589))。この証拠は、AD病原性におけるAβN3(pE)ペプチドの中心的役割についての手掛かりを提供する。しかし、該ペプチドの神経毒性及び凝集特性については、比較的あまり知られていない(He,W.及びBarrow,C.J.の文献(1999 Biochemistry 38,10871-10877);Tekirian,T.L.らの文献(1999 J Neurochem 73,1584-1589))。その上、グリア細胞に及ぼすこれらのアイソフォームの作用、及びこれらのペプチドに対するグリアの反応は、完全に未知であるが、活性化されたグリアは、老人斑に厳密に関連しており、アミロイド沈着の蓄積に能動的に寄与するかもしれない。最近の研究では、Aβ1-42、Aβ1-40、[pGlu3]Aβ3-42、[pGlu3]Aβ3-40、[pGlu11]Aβ11-42、及び[pGlu11]Aβ11-40ペプチドの毒性、凝集特性、並びに異化反応は、ニューロン細胞及びグリア細胞の培養物において研究されており、ピログルタミン酸修飾は、Aβ-ペプチドの毒性特性を増悪させて、また、培養されたアストロサイトによる該ペプチドの分解を阻害することが示された。Shirotaniらは、インビトロにおいてシンドビスウイルスに感染した初代皮質ニューロンにおける[pGlu3]Aβペプチドの産生を研究した。彼らは、アミノ酸の置換及び欠失によって[pGlu3]Aβとなる可能性のある前駆体をコードするアミロイド前駆体タンパク質の相補DNAを構築した。天然の前駆体におけるグルタミン酸の代わりにN末端グルタミン残基で始まる1つの人工の前駆体については、ピログルタミン酸への自然変換又はグルタミニルシクラーゼによる酵素変換が示唆された。[pGlu3]Aβの天然の前駆体における位置3でのN末端グルタミン酸の環化メカニズムは、インビトロでも、インサイチューでも、又はインビボでも決定されなかった(Shirotani,K.らの文献(2002 Neurosci Lett 327,25-28))。
【0007】
このように、ノックアウト動物、特にQpct遺伝子におけるノックアウト変異を有するノックアウトマウスの提供が、当技術分野で明らかに必要であり、好ましくはこの中で、Qpct遺伝子の関連性及び潜在能力に関して正確な研究を可能にするよう、この変異が構成的様式と条件的様式の両方で提供されるべきである。
本研究の目的は、ノックアウト動物、すなわち、Qpct遺伝子の構成的又は条件的ノックアウト変異をそれぞれ有するマウスモデルを開発することであった。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、Qpct関連疾患についての非ヒトノックアウト、特に哺乳動物のモデルのための方法及び組成物を含む。具体的には、本発明は、Qpct遺伝子におけるノックアウト変異を有して結果的にQpctのノックアウトを生じる非ヒト動物モデルを含む。
【0009】
本発明の別の態様は、Qpct阻害剤/エフェクターをスクリーニングする方法及び組成物を含む。
加えて、本発明は、Qpct関連疾患の治療及び/又は予防のための方法及び組成物、特に、Qpctを阻害し又は促進する方法及び組成物を含む。
【0010】
従って、Qpctノックアウト変異を有する動物を提供することが、本発明の1つの目的である。
Qpctノックアウト変異を有しているDNA構築物を提供することが、本発明の別の目的である。
【0011】
プロモーターに連結されたQpctノックアウト変異を有しているDNA構築物を提供することが、本発明の付加的な目的である。
【0012】
Qpctノックアウト変異を有する非ヒト動物モデルシステムを提供することが、本発明のさらなる目的である。
特定の組織タイプにおけるQpctのインビボ及びインビトロでの調節及び効果を研究するための非ヒト動物モデルシステムを提供することが、本発明の付加的な目的である。
【0013】
ピログルタミン酸により修飾されるホルモンの機能及び濃度、最も好ましくはサイトカイン及びケモカインの機能を研究するための非ヒト動物モデルシステムを提供することが、本発明のさらなる目的である。
【0014】
本発明は、QCの少なくとも1つのエフェクターを通例の担体及び/又は賦形剤との組み合わせで任意に含む非経口、腸内又は経口投与のための医薬組成物を提供するものであり、ここで、QCの該エフェクターは、本発明のスクリーニング方法及びQpctノックアウト動物を採用することによって同定された。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明のこれらの及び他の態様に関するさらなる理解は、下記を表す図に対する引用によって得られるであろう:
【図1A−1B】構成的及び条件的ノックアウトQpctマウス系の作出のための原理。 ダッシュを引いた箱はエクソンを表す。実線はイントロン配列を表す。LoxP及びFRTの要素は三角形として示されており、指示されている。Neo及びDTAの箱はそれぞれ、ネオマイシンポジティブ選択カセット及びDTAネガティブ選択カセットを表す。
【図2】Qpct遺伝子座の組織化に関する概略図。 ダイアグラムは一定の比例で拡大して描かれていない。あやめ引きの箱はエクソンを表す。実線は染色体配列を表す。機能的に関連性のある残基が強調されている。
【図3】ターゲティングベクターに関する概略図。 あやめ引きの箱はQpctのエクソンを表す。実線はQpctイントロン配列を表す。LoxP及びFRTの要素は、異なる向きの三角形として示されており、指示されている。Neo及びDTAの箱はそれぞれ、ネオマイシンポジティブ選択カセット及びDTAネガティブ選択カセットを表す。
【図4】マウスQpct遺伝子クローニングに関する概略図。 ダイアグラムは一定の比例で拡大して描かれていない。箱はエクソンを表す。実線はイントロン配列を表す。相同な2つの断片の増幅のために設計されたプライマーの近似位置が半分の矢印によって表されている。結果として生じる2つの断片が上に描かれている。
【図5】ターゲティングベクターの構築戦略に関する概略図。 ダイアグラムは一定の比例で拡大して描かれていない。クローニング工程は、丸囲みの数によって表されており、作業の実施例において記載されている。
【図6】3'末端相同的組換え事象に関するPCR同定。 実線及び点線はそれぞれ、ターゲティングベクターの内側及び外側に位置するQpctイントロン配列を表す。箱はQpctエクソンを表す。FRT部位は二重三角形として示されている。LoxP部位は三角形によって表されている。半分の矢印はプライマーの局在性を示す。 ポジティブコントロールベクターは、スクリーニングの設定のために使用されるであろう。ポジティブコントロールベクター内の点線は、最終的なターゲティングベクターに不在の配列の部分を表す。
【図7】3'末端のPCRスクリーニングに関する設定(GX1406-TOR2-H2/GX2141-TOR2-I2プライマー)。 レーン1及び12:1kb DNAラダー(NEBioLabs) レーン2〜5:TOR2-C+プラスミドの0.1、0.5、1、10ゲノムの等価のコピー、 レーン6〜9:野生型129Sv/Pas ES細胞から抽出した150ngのゲノムDNAに希釈したTOR2-C+プラスミドの0.1、0.5、1、10ゲノムの等価のコピー。 レーン10:野生型129Sv/Pas ES細胞から抽出した150ngのゲノムDNA、 レーン11:二重に蒸留したH2O
【図8】TOR2-C+ベクターをトランスフェクトしたES細胞に及ぼす3'組込み事象のPCR反応に関する設定。 レーン1及び23:1Kbラダー(NEBioLabs) レーン2〜22:TOR2-C+ベクターをトランスフェクトしたES細胞クローン レーン24:1コピーのTOR2-C+ベクター レーン25:二重に蒸留したH2O
【図9】5'末端相同的組換え事象に関するPCR同定 実線及び点線はそれぞれ、ターゲティングベクターの内側及び外側に位置するQpctイントロン配列を表す。箱はQpctエクソンを表す。FRT部位は二重三角形として示されており、LoxP部位は三角形として表されている。 半分の矢印は、プライマーの局在性を示す。PCR産物のサイズは、プライマーの下に与えられており、同様に、PCR産物のSwaIによる消化後に得られる制限特性も与えられている。
【図10】5'末端PCRスクリーニングに関する設定(GX2633-TOR2-J2/GX2634-TOR2-K2プライマー)。 レーン1:1kb DNAラダー(NEBioLabs) レーン2:野生型129Sv/Pas ES細胞から抽出した150ngのゲノムDNA レーン3:野生型C57BL/6尾部生検から抽出した10ngのゲノムDNA レーン4:二重に蒸留したH2O
【図11】相同的組換え事象についての5'及び3'サザンブロットスクリーニングに関する概略図。 実線及び点線はそれぞれ、標的とされた領域の内側及び外側に位置するイントロン性遺伝子配列を表し;あやめ引きの箱はQpctエクソンを表す。LoxP部位は三角形として示されており、FRT部位は二重三角形として表されている。小さな長方形はK及びRのサザンプローブを表す。サザンブロットスクリーニングのための関連する制限部位及び対応する検出された断片は、二重矢印で指示されている。ダイアグラムは一定の比例で拡大して描かれていない。
【図12】野生型DNAに関する3'サザンブロットスクリーニング戦略の設定。 レーン1及び6:1Kbラダー(NEBioLabs) レーン2:野生型129Sv/Pas ES細胞から抽出した4μgのゲノムDNA レーン3:野生型129Sv/Pas ES細胞から抽出した15μgのゲノムDNA レーン4:野生型129Ola ES細胞から抽出した15μgのゲノムDNA レーン5:野生型C57BL/6尾部生検から抽出した15μgのゲノムDNA
【図13】Cre媒介性及びFlp媒介性切除事象に関するPCR同定。 実線及び点線はそれぞれ、ターゲティングベクターの内側及び外側に位置するQpctイントロン配列を表す。あやめ引きの箱はQpctエクソンを表す。FRT部位は二重三角形として示されており、LoxP部位は三角形によって表されている。 半分の矢印は、プライマーの局在性を示す。Cre媒介性事象の検出に使用されるプライマーは、TOR2-N及びTOR2-I1であり、Flp媒介性事象についてはTOR2-N2及びTOR2-I4である。PCR産物のサイズは、プライマーの下に与えられる。
【図14】正確な相同的組換え事象の検出のためのES細胞クローンの3'PCRスクリーニング。 レーン1、26:1Kbラダー(NEBioLabs)、 レーン2〜25:24個の耐性ES細胞クローン、 レーン2:ポジティブES細胞クローン#5A1、 レーン5:ポジティブES細胞クローン#5B2、 レーン9:ポジティブES細胞クローン#5B4、 レーン14:ポジティブES細胞クローン#5A7、 レーン17:ポジティブES細胞クローン#5B8、 レーン19:ポジティブES細胞クローン#5B9、 レーン22:ポジティブES細胞クローン#5A11、 レーン27:ポジティブコントロールESクローン#6A10。
【図15】正確な相同的組換え事象の検出のためのES細胞クローンに関する5'PCRスクリーニング。下部のパネルはより長いゲル泳動後の上部パネルと同一である。 レーン1、8:1Kbラダー(NEBioLabs)、 レーン2:ES細胞クローン#6A3、未切断、 レーン3:クローン#6A3、SwaI消化後、 レーン4:ES細胞クローン#6C10、未切断、 レーン5:クローン#6C10、SwaI消化後、 レーン6:ES細胞クローン#6C3、未切断、 レーン7:クローン#6C3、SwaI消化後。
【図16】5'相同的組換え事象の検出のためのサザンブロットの結果。 レーン1、9:1Kbラダー(NEBioLabs)、 レーン2:ES細胞クローン#5B8、 レーン3:ES細胞クローン#5C5、 レーン4:ES細胞クローン#5C12、 レーン5:ES細胞クローン#6A3、 レーン6:ES細胞クローン#6C3、 レーン7:ES細胞クローン#6C10、 レーン8:野生型ES細胞DNA。
【図17】図17:3'相同的組換え事象の検出のためのサザンブロットの結果。 レーン1、9:1Kbラダー(NEBioLabs)、 レーン2:ES細胞クローン#5B8、 レーン3:ES細胞クローン#5C5、 レーン4:ES細胞クローン#5C12、 レーン5:ES細胞クローン#6A3、 レーン6:ES細胞クローン#6C3、 レーン7:ES細胞クローン#6C10、 レーン8:野生型ES細胞DNA。
【図18】Cre媒介性切除事象の検出のためのF1動物のスクリーニング。 Cre欠失マウスを用いた繁殖(breeding)に由来する7個体の仔の遺伝子型(それぞれ、レーン2〜8における35437〜35443)を、TOR2-N/TOR2-I1のプライマーの組み合わせを使用するPCRによって検査し、Qpct対立遺伝子の切除状態を分析した。標的とされたESクローン5C12(レーン11)、野生型マウス尾部(レーン10)及び1:100の混合物(レーン12)由来のDNAを用いるPCRをポジティブコントロールとして使用した。テンプレートを有さないPCR(レーン9)は、ネガティブコントロールとして機能した。M:1kb DNA-ラダー(NEBioLabs)
【図19】標的とされた未切除の対立遺伝子の検出のためのF1動物のスクリーニング。 Cre欠失マウスを用いた繁殖に由来する7個体の仔の遺伝子型35437〜35443を、TOR2-H2/TOR2-I2のプライマーの組み合わせを使用するPCRによって検査し(それぞれレーン2〜8)、ネオマイシンカセットの存在を分析した。標的とされたESクローン5C12に由来するDNA(レーン11)及び野生型DNAにおけるその1:100希釈物(レーン12)を用いるPCRをポジティブコントロールとして使用した。野生型DNA(レーン10)及びH2O(レーン9)を使用するPCRは、ネガティブコントロールとして機能した。M:1kb DNA-ラダー(NEBioLabs)。
【図20】Cre媒介性切除事象の検出のための、ヘテロ接合性構成的Qpctノックアウト雄に由来する動物のスクリーニング。第一のヘテロ接合性構成的Qpctノックアウト雄と野生型雌との繁殖に由来する12個体の仔の遺伝子型(それぞれ、レーン2〜6における18242〜18246、並びにレーン7及び8における#18156、#18159)を、TOR2-N/TOR2-I1のプライマーの組み合わせを使用するPCRによって検査し、Qpct対立遺伝子の切除状態を分析した。標的とされたESクローン5C12(レーン9)、野生型マウス尾部(レーン11)及び1:100の混合物(レーン10)に由来するDNAを使用するPCRをポジティブコントロールとして使用した。テンプレートを有さないPCR(レーン12)はネガティブコントロールとして機能した。レーン1及び13:1kb DNA-ラダー(NEBioLabs)
【図21】BamHIで消化した4個体のF1ヘテロ接合性QpctノックアウトマウスゲノムDNAの5'サザンブロットスクリーニング。 レーン1及び7:1kb DNAラダー(NEBioLabs)、 レーン2:尾部生検#35438由来の15μgのゲノムDNA、 レーン3:尾部生検#18156由来の15μgのゲノムDNA、 レーン4:尾部生検#18159由来の15μgのゲノムDNA、 レーン5:尾部生検#18244由来の15μgのゲノムDNA、 レーン6:C57Bl/6尾部生検由来の15μgの野生型ゲノムDNA。
【図22】Flp媒介性切除事象についての動物のスクリーニング。Qpctを標的とした雌とFlp欠失雄との繁殖に由来する7個体の仔の遺伝子型(それぞれレーン2〜8における17971〜17977)を、TOR2-N2/TOR2-I4のプライマーの組み合わせを使用するPCRによって検査し、Qpct対立遺伝子の切除状態を分析した。標的とされたESクローン5C12由来のDNA(レーン11)、野生型マウス尾部DNA(レーン10)及び該2つのすでに引用されたDNAの1:100の混合物(レーン12)を用いるPCRをポジティブコントロールとして使用した。テンプレートを有さないPCR(レーン9)は、ネガティブコントロールとして機能した。レーン1及び13:1kb DNA-ラダー(NEBioLabs)。
【図23】標的とされた未切除の対立遺伝子の検出のための動物のスクリーニング。Qpctを標的とした雌とFlp欠失雄との繁殖に由来する7個体の仔の遺伝子型17971〜17977を、TOR2-H2/TOR2-I2のプライマーの組み合わせを使用するPCRによって検査し(それぞれレーン2〜8)、ネオマイシンカセットの存在を分析した。標的とされたESクローン5C12由来のDNA(レーン11)及び野生型DNAにおけるその1:100希釈物(レーン12)を用いるPCRをポジティブコントロールとして使用した。野生型DNAを使用するPCR(レーン10)はネガティブコントロールとして使用した。レーン1及び13:1kb DNA-ラダー(NEBioLabs)。
【図24】Flp媒介性切除事象の検出のための動物のスクリーニング。Qpctを部分的にFlp切除した雄#17973と野生型雌との繁殖に由来する12個体の仔(それぞれレーン2〜13における18825〜18836)の遺伝子型を、TOR2-N2/TOR2-I4のプライマーの組み合わせを使用するPCRによって検査し、Qpct対立遺伝子の切除状態を分析した。レーン1及び14:1kb DNA-ラダー(NEBioLabs)。
【図25】標的とされた未切除の対立遺伝子の検出のための動物のスクリーニング。Qpctを部分的にFlp切除した雄#17973と野生型雌との繁殖に由来する10個体の仔18827〜18836の遺伝子型を、TOR2-H2/TOR2-I2のプライマーの組み合わせを使用するPCRによって検査し(それぞれ、レーン2〜11)、ネオマイシンカセットの存在を分析した。標的とされたESクローン由来のDNA(レーン14)及び野生型DNAにおけるその1:100希釈物(レーン15)を用いるPCRをポジティブコントロールとして使用した。H2O(レーン12)及び野生型DNA(レーン13)を使用するPCRは、ネガティブコントロールとして機能した。レーン1:1kb DNA-ラダー(NEBioLabs)。
【図26】SwaIで消化した3個体のF1ヘテロ接合性条件的QpctノックアウトマウスのゲノムDNAの3'のサザンブロットスクリーニング。 レーン1及び6:1kb DNAラダー(NEBioLabs)、 レーン2:尾部生検#18823由来の15μgのゲノムDNA、 レーン3:尾部生検#18824由来の15μgのゲノムDNA、 レーン4:尾部生検#18825由来の15μgのゲノムDNA、 レーン5:C57Bl/6尾部生検由来の15μgの野生型ゲノムDNA
【図27】マウス系Pbd2のヘテロ接合性動物におけるQpct対立遺伝子の概要構成。
【図28】マウス系Pbd2におけるQpct遺伝子座についてのPCR遺伝子型同定アッセイ。 レーン1:分子量マーカー(100bpラダー)、 レーン2:Pbd2ヘテロ接合性動物に関して製造されたPCR断片。 レーン3:Pbd2ホモ接合性動物(Qpctノックアウト)に関して製造されたPCR断片。
【図29】マウス系Pbd2におけるQpct遺伝子座に関する野生型、ヘテロ接合性、及びホモ接合性ノックアウト動物の血漿におけるQC活性。
【図30】マウス系Pbd2におけるQpct遺伝子座に関する雄野生型、雄ヘテロ接合性、及び雄ホモ接合性ノックアウト動物の血清におけるテストステロン濃度。
【図31】マウス系Pbd2におけるQpct遺伝子座に関する野生型、ヘテロ接合性、及びホモ接合性ノックアウト動物の血清におけるチロキシン(T4)濃度。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のその他の目的、利点、及び特徴は、下記の詳細な説明に関する考慮の下に明らかとなるであろう。
(発明の詳細な説明)
本発明は、下記に関する
1.ノックアウト変異を有するDNA Qpct遺伝子を含む細胞を含む非ヒト動物。
2.前記動物がラットである、項目1記載の非ヒト動物。
3.前記動物がマウスである、項目1記載の非ヒト動物。
4.前記Qpct遺伝子がマウス起源である、項目1〜3のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
5.前記マウスQpct遺伝子が配列番号22の配列を有する、項目4記載の非ヒト動物。
6.前記Qpct遺伝子がヒト起源である、項目1〜3のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
7.前記動物が前記Qpct遺伝子についてヘテロ接合性である、項目1〜6のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
8.前記動物が前記Qpct遺伝子についてホモ接合性である、項目1〜6のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
9.前記Qpct遺伝子が組換え遺伝子である、項目1〜8のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
10.前記Qpct遺伝子が構成的ノックアウト変異を有している、項目1〜9のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
11.前記Qpct遺伝子が条件的ノックアウト変異を有している、項目1〜9のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
12.Qpct関連の障害及び/又は疾患に及ぼす標的化合物の効果を決定することにおける使用のための、項目1〜11のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
13.エクソン4及び5が欠失している少なくとも1つのQpct対立遺伝子を有している、項目1〜11のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
14.前記Qpct対立遺伝子が配列番号23の配列を有する、項目1〜11及び13のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
15.前記動物がマウス系Pbd2のマウスである、項目13又は14のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
16.前記Qpct遺伝子が組織特異的プロモーターに機能し得るように連結されている、項目13〜15のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
17.前記マウスが、Qpct阻害剤を使用して逆転でき又は回復(ameliorate)できる表現型を示す、項目3〜16のいずれか1項に記載のマウス。
18.インビボでQpct産生を阻害し又は促進する生物活性のある薬剤についてのスクリーニング方法であって、項目1〜17のいずれか1項に記載の非ヒト動物に検査薬を投与すること、及び該薬剤の効果を決定することを含む、前記方法。
19.前記非ヒト動物が前記Qpct遺伝子についてヘテロ接合性である、項目18記載の方法。
20.前記非ヒト動物が前記Qpct遺伝子についてホモ接合性である、項目18記載の方法。
21.前記動物がマウスである、項目18〜20のいずれか1項に記載の方法。
22.前記Qpct遺伝子がマウス起源である、項目18〜21のいずれか1項に記載の方法。
23.前記Qpct遺伝子がヒト起源である、項目18〜21のいずれか1項に記載の方法。
24.前記Qpct遺伝子が組換え遺伝子である、項目18〜23のいずれか1項に記載の方法。
25.前記組換えQpct遺伝子が構成的ノックアウト変異を有している、項目18〜24のいずれか1項に記載の方法。
26.前記Qpct遺伝子が条件的ノックアウト変異を有している、項目18〜24のいずれか1項に記載の方法。
27.標的薬物の発見における使用のための、項目18記載の方法。
28.前記動物が、エクソン4及び5が欠失している少なくとも1つのQpct対立遺伝子を有している、項目18〜27のいずれか1項に記載の方法。
29.前記動物が、マウス系Pbd2のマウスである、項目18〜28のいずれか1項に記載の方法。
30.前記Qpct遺伝子が組織特異的プロモーターに機能し得るように連結されている、項目18〜29のいずれか1項に記載の方法。
31.前記マウスが、Qpct阻害剤を使用して逆転でき又は回復できる表現型を示す、項目18〜30のいずれか1項に記載の方法。
32.項目1〜17のいずれか1項に記載の非ヒト動物に由来する細胞又は細胞株。
33.Qpct活性を阻害し又は促進する治療薬についてスクリーニングする方法であって、
(a)項目3〜17のいずれか1項に記載のマウスに検査薬を投与すること
(b)該マウスの表現型に及ぼす該検査薬の効果を評価すること、及び
(c)Qpct活性を阻害し又は促進する検査薬を選択すること
を含む、前記方法。
34.Qpct関連疾患の治療又は予防の方法であって、
(a)項目33記載の選択された検査薬を投与すること;
及び
(b)Qpct関連疾患に対する低い臨床指数について前記患者をモニターすること
を含む、前記方法。
35.前記Qpct関連疾患がアルツハイマー病である、項目34記載の方法。
36.前記Qpct関連疾患が粥状硬化又は再狭窄である、項目34記載の方法。
37.ピログルタミン酸-ペプチド形成に関して、Qpct触媒作用について前記疾患と関連した生理学的機能を分析する方法であって、
(a)項目3〜17のいずれか1項に記載のマウスに検査薬を投与すること
(b)ピログルタミン酸-ペプチド濃度及び、該マウスの表現型に及ぼす該検査薬の効果を評価すること、並びに
(c)ピログルタミン酸-ペプチド活性を阻害し又は促進する検査薬を選択すること
を含む、前記方法。
38.項目34記載の選択された検査薬を含む医薬組成物。
39.Qpct関連疾患の治療及び/又は予防のための医薬の製造のための、項目33に従って選択された検査薬の使用。
40.Qpctによって負の影響を及ぼされるであろう化合物の製造において使用するためのQpct-ノックアウト遺伝子を含む改変された細胞。
41.特定の組織のみ及び/又は特別な時点のみにおけるQpct発現を有するモデルの準備のための、項目1〜17のいずれか1項に記載の非ヒト動物の又は項目32若しくは40記載の細胞の使用。
42.インビボでQpct活性を阻害し又は促進する生物活性のある化合物についてのスクリーニング方法であって、
i)軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群における神経変性、家族性デンマーク型認知症、家族性英国型認知症、関節リウマチ、粥状硬化、再狭窄、及び膵炎から選択された少なくとも1つの疾患の治療に特異的な非ヒト動物モデルに検査化合物を投与する工程、
ii)該非ヒト動物モデルにおける該検査化合物の効果を決定する工程;
iii)該非ヒト動物モデルにおける該検査化合物の効果を、項目1〜17のいずれか1項に記載のQpctノックアウト動物におけるQpct遺伝子破壊の効果と比較する工程、及び
iv)項目1〜17のいずれか1項に記載のQpctノックアウト動物におけるQpct遺伝子破壊の効果と同様に、該非ヒト動物モデルにおいて特定の疾患を軽減する検査化合物を選択する工程
を含む、前記方法。
43.前記非ヒト動物モデルが、軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群における神経変性、家族性デンマーク型認知症(Dementiaand)及び家族性英国型認知症からなる群から選択された疾患に特異的である、項目42記載のスクリーニング方法。
44.前記非ヒト動物モデルがアルツハイマー病特異的である、項目43記載のスクリーニング方法。
45.前記動物モデルが、PDAPP、Tg2576、APP23、TgCRND8、PSEN1M146V又はPSEN1M146L、PSAPP、APPDutch、BRI-Aβ40及びBRI-Aβ42、JNPL3、TauP301S、TauV337M、TauR406W、rTg4510、Htau、TAPP及び3×TgADからなる群から選択される、項目42〜44のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
46.前記検査化合物の効果が、[pGlu3]Aβ3-40/42/43ペプチド又は[pGlu11]Aβ11-40/42/43ペプチドを低下させることである、項目42〜45のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
47.前記検査化合物の効果が、[pGlu3]Aβ3-40ペプチドを低下させることである、項目42〜46のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
48.前記検査化合物の効果が、[pGlu3]Aβ3-42ペプチドを低下させることである、項目42〜47のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
49.前記非ヒト動物モデルが、関節リウマチ、粥状硬化、再狭窄、及び膵炎からなる群から選択された疾患に特異的である、項目42記載のスクリーニング方法。
50.前記非ヒト動物モデルが、関節リウマチに特異的である、項目49記載のスクリーニング方法。
51.前記非ヒト動物モデルが、粥状硬化に特異的である、項目49記載のスクリーニング方法。
52.前記動物モデルが、アポリポタンパク質Eノックアウトマウスモデル、マウスにおけるチオグリコール酸誘発性炎症モデル、ラットにおけるコラーゲン誘発性関節炎モデル及び再狭窄のラットモデルからなる群から選択される、項目42及び49〜50のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
53.前記検査化合物の効果が、THP-1細胞の走化性の阻害である、項目42及び49〜51のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
54.前記検査化合物の効果が、pGlu-MCP-1の形成の阻害である、項目42及び49〜51のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
55.項目42〜54のいずれか1項に記載の選択された検査薬を含む医薬組成物。
56.Qpct関連疾患の治療及び/又は予防のための医薬の製造のための、項目42〜54のいずれか1項に従って選択された検査薬の使用。
57.Qpct関連疾患の治療又は予防の方法であって、
(a)項目42〜54のいずれか1項に従って選択された検査薬を投与すること;及び
(b)Qpct関連疾患に対する低い臨床指数について前記患者をモニターすること
を含む、前記方法。
58.前記Qpct関連疾患が、軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群における神経変性、家族性デンマーク型認知症及び家族性英国型認知症からなる群から選択される、項目56又は57記載の使用又は方法。
59.前記Qpct関連疾患がアルツハイマー病である、項目56又は57記載の使用又は方法。
60.前記Qpct関連疾患が、関節リウマチ、粥状硬化、再狭窄、及び膵炎からなる群から選択される、項目56又は57記載の使用又は方法。
61.前記Qpct関連疾患が関節リウマチである、項目56、57又は60のいずれか1項に記載の使用又は方法。
62.前記Qpct関連疾患が粥状硬化である、項目56、57又は60のいずれかに記載の使用又は方法。
【0017】
非ヒトノックアウト動物、特に上記のノックアウトマウスは、とりわけ下記の態様において有用である:
−Qpct-エフェクター/阻害剤についてのスクリーニングアッセイ
−薬物開発、特に候補薬物の標的についてのスクリーニング、標的特異性及び/又は非特異的効果、
−疾患モデルの提供、
−例えばQpctによって負に影響を及ぼされるであろう化合物の製造における使用のための改変した細胞の回収。この文脈における「負に影響を及ぼされる」は、例えば低い又は減退した収率/製造率及び/又は低い効能及び/又は高い抗原性を包含する。このような化合物は、例えば抗体、ペプチド、タンパク質等であり得る。
−例えば適切な標的薬物となり得る特定の物質の上方調節又は下方調節のような、上記のノックアウト動物において検出される差異を決定することによる標的の発見、
−あるポリペプチド、例えばAβペプチド又はTRH等の重要性を決定するためのアッセイの提供、
−「清潔な」トランスジェニックモデルのための基盤に、例えば特定の細胞/組織及び/又は器官においてのみ、或いは遅れずに特定の時点でのみ、Qpctの制御された発現を提供すること;
-以下に限定されるわけではないがペプチド製剤及び保護基の最適化。
【0018】
(定義)
「ノックアウト動物」という用語は、1つ以上の遺伝子の非活性化をもたらす1つ以上の遺伝子操作を有する非ヒト動物、通常哺乳動物を意味する。
「構築物」という用語は、特定のヌクレオチド配列の発現の目的のために生じた、又は他の組換えヌクレオチド配列の構築において使用されるべき、組換え核酸、一般的には組換えDNAを意味する。組換え核酸は、例えばキメラポリペプチド又はヒト化ポリペプチドをコードすることができる。
本明細書におけるポリペプチドは、10を超えるアミノ酸を含むすべての可能なアミノ酸配列に関する。
【0019】
「機能し得るように連結されている」という用語は、適切な分子(例えば、転写活性化タンパク質)が調節配列に結合するときに遺伝子発現を可能にするような方法でDNA配列及び調節配列が接続されていることを意味する。
【0020】
「機能的に挿入されている」という用語は、関心対象のヌクレオチド配列が、関心対象の導入されたヌクレオチド配列の転写及び翻訳を指揮するヌクレオチド配列の近くに配置されることを意味する。
【0021】
(ノックアウト遺伝子)
本発明の遺伝子を含むQpctポリヌクレオチドは、Qpct cDNAを含み、かつまた修飾されたQpct cDNAを含むものとする。本明細書で使用されるように、核酸の「修飾」は、参照配列に関する1つ又はいくつかのヌクレオチドの付加、欠失、又は置換を含むことができる。核酸の修飾は、遺伝暗号の縮重によるコード化されたアミノ酸配列を変化させない置換、又は保存的置換を結果として生じる置換を含むことができる。このような修飾は、ポリAテールの付加等の故意になされる変化、又は核酸複製の間の変異として生じる変化に相当し得る。
【0022】
本明細書で採用されるように、「実質的に同一のヌクレオチド配列」という用語は、DNAが中程度にストリンジェントな、又はより高いストリンジェンシーのハイブリッド形成条件下で参照ヌクレオチドとハイブリッド形成するであろうように、参照ポリヌクレオチドと十分な同一性を有する該DNAを指す。参照ヌクレオチド配列と「実質的に同一のヌクレオチド配列」を有するDNAは、参照ヌクレオチド配列に関して少なくとも60%から少なくとも95%までの範囲に及ぶ同一性を有することができる。
【0023】
「中程度にストリンジェントなハイブリッド形成」という句は、標的核酸が相補的核酸を結合することができる条件を指す。ハイブリッド形成した核酸は一般的に、少なくとも約60%から少なくとも約95%までの範囲内の同一性を有するであろう。中程度にストリンジェントな条件は、約42℃で50%ホルムアミド、5×デンハート(Denhart)液、5×リン酸ナトリウムEDTA緩衝塩類溶液(SSPE)、0.2%SDS(Aldrich)におけるハイブリッド形成に続く、約42℃で0.2×SSPE、0.2%SDS(Aldrich)における洗浄と同等の条件である。
【0024】
高いストリンジェンシーのハイブリッド形成は、約65℃で0.018M NaClにおいて安定したハイブリッドを形成する核酸配列のみのハイブリッド形成が可能な条件を指し、例えば、ハイブリッドが約65℃で0.018M NaClにおいて安定ではない場合、該ハイブリッドは本明細書で想定される高いストリンジェンシー条件下で安定ではないであろう。高いストリンジェンシー条件は、例えば42℃で50%ホルムアミド、5×デンハート液、5×SSPE、0.2%SDSにおけるハイブリッド形成に続く、約65℃で0.1×SSPE、及び0.1%SDSにおける洗浄によって提供することができる。
【0025】
他の適切な中程度のストリンジェンシー及び高いストリンジェンシーのハイブリッド形成の緩衝液及び条件は、当業者に周知であり、例えばSambrookらの文献「分子クローニング:実験室マニュアル第2版(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed.)」(Cold Spring Harbor Press, Plainview, N. Y. (1989));及びAusubelらの文献「分子生物学における最新プロトコール(増刊第47巻)(Current Protocols in Molecular Biology (Supplement 47))」(John Wiley & Sons, New York (1999))に記載されている。
【0026】
本発明のノックアウト遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は、ヒト由来のQpct配列又は任意の種由来の、好ましくはマウス種由来のQpctホモログであることができる。また、Qpctアミノ酸配列の断片が全長Qpct配列の機能のいくつか又はすべてを有する限り、本発明のノックアウト遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は、該断片であることができる。また、該配列は、修飾されたQpct配列であってもよい。個々の置換、欠失、又は付加は、単一のアミノ酸又はわずかな割合のアミノ酸(典型的には10%未満、より典型的には5%未満、及びなおより典型的には1%未満)を変化させ、付加し、又は欠失する。アミノ酸配列の「修飾」は、アミノ酸配列の保存的置換を包含する。機能的に同様のアミノ酸を提供する保存的置換の表は、当技術分野で周知である。下記の6つの群は各々、互いに対して保存的置換であるアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
及び
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
他の軽微な修飾は、ポリペプチドがQpctポリペプチドの構造的及び/又は機能的特徴のいくつか又はすべてを有する限り、該配列内に含まれる。典型的な構造的又は機能的特徴には、配列同一性又は実質的類似性、抗体反応性、RNA結合ドメイン又は酸性ドメイン等の保存された構造的ドメインの存在が含まれる。
【0027】
(DNA構築物及びベクター)
本発明はさらに、上記のQpctノックアウト遺伝子を含むDNA構築物を提供する。本明細書で使用されるように、「DNA構築物」という用語は、DNA分子における遺伝要素の具体的な明細な配置を指す。ヒトQpct又はその変異体形態に加えて、本発明はまた、他の種由来のポリペプチドを使用するDNA構築物、及び非ヒト種由来のBACE1を発現するQpct変異体非ヒト哺乳動物を使用するDNA構築物を提供する。
【0028】
所望の場合、前記DNA構築物は、プロモーター又はエンハンサー等の適切な発現エレメントに機能的に連結されるように操作して、適切な細胞又は組織においてDNA構築物における遺伝要素を発現させることができる。発現制御機構の使用により、関心対象の遺伝子の標的化した送達、及び発現が可能となる。例えば、本発明の構築物は、転写の5'-3'方向で脳組織における遺伝子発現と関連した転写及び翻訳開始領域、変異体又は野生型のQpctタンパク質をコードするDNA、並びに宿主動物において機能的な転写及び翻訳終止領域を含む発現カセットを使用して構築されてもよい。また、1つ以上のイントロンが存在することもできる。転写開始領域は、宿主動物に対して内因性であることができ、又は宿主動物に対して外来性若しくは外因性であることができる。
【0029】
本明細書に記載されているDNA構築物は、Qpctを過剰発現する変異体非ヒト哺乳動物を作出するために、増殖又は適切な細胞へのトランスフェクションのためのベクターに組み込まれてもよく、該DNA構築物も本発明によって含まれる。当業者は、例えば哺乳動物細胞又は細菌細胞等の特定の細胞におけるベクターの作製のために望ましい特性に基づいたベクターを選択することができる。
【0030】
ベクターは、機能的に連結された核酸の組織特異的な又は誘導性の発現を提供する調節エレメントを含むことができる。当業者であれば、所望の組織においてQpctポリペプチドを発現することができる適切な組織特異的プロモーター又はエンハンサーを容易に決定することができる。本明細書に記載されている組織特異的発現には、好ましい組織以外の組織において発現が完全にないことは必要ではないことに留意すべきである。その代わり、「細胞特異的」、又は「組織特異的」発現は、好ましい細胞タイプ又は組織における関心対象の特定の遺伝子の大部分の発現を指す。
【0031】
また、調節することができるQpctポリペプチド又は核酸の発現のためのベクターに、種々の誘導性プロモーター又はエンハンサーのいずれも含めることができる。このような誘導性の系には、例えば、テトラサイクリン誘導性の系(Gossen及びBizardの文献(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:5547-5551(1992));Gossenらの文献(Science,268:17664769(1995));Clontech,Palo Alto,Calif.);重金属によって誘導されるメタロチオネインプロモーター;エクジソン、又はムリステロン(muristerone)などの関連ステロイドに応答する昆虫ステロイドホルモン(Noらの文献(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93:3346-3351(1996));Yaoらの文献(Nature,366:476-479(1993));Invitrogen,Carlsbad,Calif.);糖質コルチコイド及びエストロゲンなどのステロイドによって誘導されるマウス乳癌ウイルス(MMTV)(Leeらの文献(Nature,294:228-232(1981));並びに温度変化によって誘導可能な熱ショックプロモーター;ラットニューロン特異的エノラーゼ遺伝子プロモーター(Forss-Petterらの文献(Neuron 5;197-197 (1990)));ヒトβ-アクチン遺伝子プロモーター(Rayらの文献(Genes and Development(1991)5:2265-2273));ヒト血小板由来増殖因子B(PDGF-B)鎖遺伝子プロモーター(Sasaharaらの文献(Cell(1991)64:217-227));ラットナトリウムチャネル遺伝子プロモーター(Maueらの文献(Neuron(1990)4:223-231));ヒト銅-亜鉛スーパーオキシドジスムターゼ遺伝子プロモーター(Ceballos-Picotらの文献(Brain Res.(1991)552:198-214));並びに哺乳動物POU-ドメイン調節遺伝子ファミリーのメンバーのためのプロモーター(Xiらの文献((1989)Nature 340:35-42))が含まれる。
【0032】
プロモーター又はエンハンサーを含む調節エレメントは、調節の性質に応じて、構成的であることができ、又は調節することができ、かつ種々の組織、又は1つ若しくは少数の特異的組織において調節することができる。制御配列又は調節エレメントは、ポリヌクレオチド配列と制御配列との間の物理的及び機能的関係により、ポリヌクレオチド配列の転写が可能となるように、本発明のポリヌクレオチド配列の1つに機能的に連結される。真核細胞における発現のために有用なベクターには、例えば、CAGプロモーター、SV40初期プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、マウス乳癌ウイルス(MMTV)ステロイド誘導性プロモーター、Pgtf、モロニーマリン(marine)白血病ウイルス(MMLV)プロモーター、thy-1プロモーター等を含む調節エレメントを含むことができる。
【0033】
所望の場合、ベクターには、選択可能マーカーを含むことができる。本明細書で使用されるように、「選択可能マーカー」は、選択可能マーカーが導入された細胞に選択可能な表現型を提供する遺伝要素を指す。選択可能マーカーは、一般に、その遺伝子産物が細胞増殖を阻害し又は細胞を死滅させる薬剤に対する耐性を提供する遺伝子である。例えばAusubelらの文献(「分子生物学の最新プロトコル(補遺47)(Current Protocols of Molecular Biology(Supplement 47))」,John Wiley & Sons,New York(1999))、及び米国特許第5,981,830号に記載されるように、例えば、Neo、Hyg、hisD、Gpt、及びBle遺伝子を含む種々の選択可能マーカーを本発明のDNA構築物に使用することができる。選択可能マーカーの存在についての選択のために有用な薬物には、例えば、NeoのためのG418、Hygのためのハイグロマイシン、hisDのためのヒスチジノール、Gptのためのキサンチン、及びBleのためのブレオマイシンが含まれる(上記Ausubelらの文献(1999);米国特許第5,981,830号参照)。本発明のDNA構築物には、ポジティブ選択可能マーカー、ネガティブ選択可能マーカー、又は両方を組み込むことができる(例えば、米国特許第5,981,830号参照)。
【0034】
(非ヒトノックアウト動物)
本発明は、主に、そのゲノムがノックアウトQpct遺伝子を含む非ヒトノックアウト動物を提供する。DNA断片は、当業者に公知の任意の方法によって動物のゲノムに組み込むことができる。所望の遺伝子配列を含むDNA分子は、導入された分子がその相同領域において組換えを受けることができるであろう任意の方法によって、ES細胞などの多能性細胞に導入することができる。使用することができる技術には、リン酸カルシウム/DNA共沈降、核へのDNAの微量注入、電気穿孔法、無処置細胞との細菌プロトプラスト融合、トランスフェクション、及びポリカチオン(例えば、ポリブレン、ポリオルニチン等)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。DNAは、直鎖状又は環状の一本鎖又は二本鎖DNAであることができる(例えば、Hoganらの文献(「マウス胚の操作:実験室マニュアル(Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual)」Cold Spring Harbor Laboratory(1986));Hoganらの文献(「マウス胚の操作:実験室マニュアル第2版(Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual, second ed.)」,Cold Spring Harbor Laboratory(1994)、米国特許第5,602,299号;第5,175,384号;第6,066,778号;第4,873,191号、及び第6,037,521号;レトロウイルスを媒介した生殖系列への遺伝子導入(Van der Puttenらの文献(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:6148-6152(1985)));胚性幹細胞における遺伝子ターゲティング(Thompsonらの文献(Cell 56:313-321(1989)));胚の電気穿孔法(Loの文献(Mol Cell.Biol.3:1803-1814(1983)));及び精子を媒介した遺伝子導入(Lavitranoらの文献(Cell 57:717-723(1989)))参照)。
例えば、接合体は、微量注入のための優良な標的であり、接合体を微量注入する方法は周知である(米国特許第4,873,191号参照)。
【0035】
また、種々の発生段階の胚細胞を使用して、ノックアウト動物の作出のために遺伝子を導入することができる。胚細胞の発生の段階に応じて、異なる方法が使用される。胚盤胞期胚の胞胚腔に導入され、その後、このようなトランスフェクトされた胚性幹(ES)細胞は、胚にコロニー形成し、結果として生じるキメラ動物の生殖系列に寄与することができる(Jaenischの文献(Science 240:1468-1474(1988))において概説されている。)。トランスフェクトされたES細胞を胞胚腔へ導入する前に、ノックアウト遺伝子がこのような選択のための手段を提供する場合、トランスフェクトされたES細胞を種々の選択プロトコルに供して、ノックアウト遺伝子が組み込まれたES細胞の比率を高めることができる。或いは、PCRを使用して、ノックアウト遺伝子を組み込んだES細胞をスクリーニングすることができる。
【0036】
加えて、また、レトロウイルス感染も、ノックアウト遺伝子を非ヒト動物に導入するために使用することができる。発生中の非ヒト胚は、インビトロで胚盤胞期まで培養することができる。この間、割球は、レトロウイルス感染のための標的となることができる(Jaenischの文献(Proc.Nati.Acad.Sci.USA 73:1260-1264 (1976)))。割球の効率的な感染は、透明帯を除去するための酵素処理によって得られる(上記Hoganらの文献,1986)。ノックアウトを導入するために使用されるウイルスベクター系は、典型的には、ノックアウトを有する複製欠陥のあるレトロウイルスである(Jahnerらの文献(Proc.Natl.Acad Sci.USA 82:6927-6931(1985));Van der Puttenらの文献(Proc.Natl.Acad Sci.USA 82:6148-6152(1985)))。トランスフェクションは、単層のウイルス産生細胞上で割球を培養することによって容易にかつ効率的に行われる(Van der Putten 1985,上記;Stewartらの文献(EMBO J.6:383-388(1987)))。或いは、感染は、より後期に行うことができる。ウイルス又はウイルス産生細胞を胞胚腔に注射することができる(Jahner D.らの文献(Nature 298:623-628(1982)))。組込みは、ノックアウト動物を形成する細胞のサブセットのみにおいて生じるので、大部分の創立細胞(founder)は、ノックアウト遺伝子についてモザイクであるだろう。さらに、創立細胞は、ゲノムの異なる位置にて、一般に子孫において分離するであろうノックアウト遺伝子の種々のレトロウイルス挿入を含むことができる。加えて、ノックアウト遺伝子は、妊娠中期胚の子宮内レトロウイルス感染によって生殖系列に導入してもよい(Jahnerらの文献,1982,上記)。当業者に公知のノックアウト動物を作出するためのレトロウイルス又はレトロウイルスベクターを使用するさらなる手段には、レトロウイルス粒子の微量注入、又は受精卵若しくは初期胚の囲卵腔にレトロウイルスを生じるマイトマイシンC処理した細胞を含む(WO 90/08832(1990);Haskell及びBowenの文献(Mal.Reprod.Dev.40: 386(1995)))。
【0037】
また、ノックアウト遺伝子を非ヒト動物に導入するための任意の他の技術、例えばノックイン又はレスキュー技術を使用して、本発明の問題を解決することができる。ノックイン技術は、例えばCasasらの文献(Am J Pathol 165, 1289-1300(2004))に記載されているように、当技術分野において周知である。
【0038】
一旦創立動物が作出されると、特定の動物の群体を作出するために該動物を繁殖させ、同系交配させ、異系交配させ、又は交雑させることができる。このような繁殖戦略の例には、下記を含むがこれらに限定されるわけではない:分離した系統を確立するために2つ以上の組込み部位をもつ創立動物の異系交配;各導入遺伝子の相加発現の効果のため、より高レベルにて導入遺伝子を発現させる複合トランスジェニクス(compound transgenics)を生じるための、分離した系統の同系交配;発現を増大させるため、及びDNA分析による動物のスクリーニングの必要性を除去するための両方のために、所与の組込み部位についてホモ接合性であるマウスを作出するためのヘテロ接合性トランスジェニックマウスの交雑;複合のヘテロ接合性又はホモ接合性系統を作出するための、分離したホモ接合性系統の交雑;導入遺伝子の発現及び発現の効果に及ぼす対立遺伝子を修飾する効果を検討するための、異なる近交系の遺伝的背景への動物の繁殖。
【0039】
ノックアウト動物は、関心対象の表現型を有する動物を選択するために、スクリーニングされ及び評価される。例えばサザンブロット分析又はPCR技術を使用して初期スクリーニングを実施し、動物組織を解析して、ノックアウト遺伝子の組込みが起こったことを検証することができる。また、ノックアウト動物の組織におけるノックアウト遺伝子のmRNA発現のレベルは、動物から得られる組織試料のノザンブロット分析、インサイチューハイブリッド形成分析、及び逆転写酵素-PCR(rt-PCR)を含むがこれらに限定されない技術を使用して評価することができる。Qpctに特異的な抗体を使用して、又はEGFP等のタグを用いて、適切な組織の試料を免疫細胞化学的に評価することができる。本発明の方法に有用な表現型を有する動物を同定するために、ノックアウト非ヒト哺乳動物をさらに特徴づけることができる。特に、Qpctを過剰発現するノックアウト非ヒト哺乳動物は、本明細書に開示した方法を使用してスクリーニングすることができる。例えば、組織切片では、リポーター遺伝子の存在を示す蛍光の存在する色素について蛍光顕微鏡下で見ることができる。
【0040】
組織特異的発現に影響を及ぼす別の方法は、組織特異的プロモーターを使用することによる。適切な組織特異的プロモーターの非限定的な例には、アルブミンプロモーター(肝臓特異的;Pinkertらの文献((1987)Genes Dev. 1:268-277));リンパ系特異的プロモーター(Calame及びEatonの文献((1988)Adv. Immunol. 43:235-275))、特にT細胞受容体(Winoto及びBaltimoreの文献((1989)EMBO J. 8:729-733))、及び免疫グロブリン(Banerjiらの文献((1983)Cell 33:729-740);Queen及びBaltimoreの文献((1983)Cell 33:741-748))のプロモーター、ニューロン特異的プロモーター(例えば、神経フィラメントプロモーター、Thy-1プロモーター、又はBri-タンパク質プロモーター;Sturchler-Pierratらの文献((1997)Proc. Natl. Acad Sci. USA 94:13287-13292)、Byrne及びRuddleの文献((1989)PNAS 86:5473-5477))、膵臓特異的プロモーター(Edlundらの文献((1985)Science 230:912-916))、心臓特異的発現(αミオシン重鎖プロモーター、Subramaniam, A, Jones WK, Gulick J, Wert S, Neumann J, 及びRobbins J.の文献(「トランスジェニックマウスにおけるα-ミオシン重鎖遺伝子プロモーターの組織特異的制御(Tissue-specific regulation of the alpha-myosin heavy chain gene promoter in transgenic mice.)」,J Biol Chem 266:24613-24620,1991)、並びに乳腺特異的プロモーター(例えば、乳清プロモーター;米国特許第4,873,316号、及び欧州出願公開第264,166号)を含む。
【0041】
本発明はさらに、本発明のDNA構築物を含む単離された細胞を提供する。DNA構築物は、周知の任意のトランスフェクション方法によって細胞に導入することができる(Sambrookらの文献(「分子クローニング:実験室マニュアル第2版(Molecular Cloning:A Laboratory Manual, 2nd ed.)」、Cold Spring Harbor Press, Plainview, N. Y.(1989))
;Ausubelらの文献、上記、(1999))。或いは、細胞は、本明細書に記載したように作出した変異体非ヒト哺乳動物から細胞を単離することによって得ることができる。このように、本発明は、本発明のQpct変異体非ヒト哺乳動物、特にQpct変異体ノックアウトマウスから単離された細胞を提供する。細胞は、マウス等のホモ接合性Qpct変異体非ヒト哺乳動物、又はマウス等のヘテロ接合性Qpct変異体非ヒト哺乳動物から得ることができる。
【0042】
(エフェクター)
エフェクターは、該用語が本明細書で使用されるときに、酵素に結合し、かつインビトロ及び/又はインビボで該酵素の活性を増大させ(すなわち、促進し)、又は低下させる(すなわち、阻害する)分子として定義される。いくつかの酵素は、該酵素の触媒活性に影響を及ぼす分子に対する結合部位を有しており;刺激分子は、活性化因子と呼ばれている。酵素はさらに、2つ以上の活性化因子又は阻害剤を認識するための多数の部位を有していてもよい。酵素は、種々の分子の濃度を検出することができ、かつ該酵素自体の活性を変化させるためにその情報を使用することができる。
【0043】
酵素は、活性のある高次構造及び不活性な高次構造の両方を想定することができるので、エフェクターは、酵素活性を調整することができ:活性化因子は、正のエフェクターであり、阻害剤は、負のエフェクターである。エフェクターは、酵素の活性部位においてだけでなく、調節部位、又は調節部位が触媒部位とは異なる酵素のエレメントであることを強調するために、及び触媒部位における基質と阻害剤との間の競合によるこの形態の調節を区別するために使用される用語であるアロステリック部位においても作用する(Darnell, J., Lodish, H. 及びBaltimore, D.の文献(1990, 「分子細胞細胞生物学第2版(Molecular Cell Biology 2"d Edition)」, Scientific American Books, New York, page 63))。
【0044】
(ペプチド)
ペプチド又はアミノ酸が、本発明において言及される場合、各アミノ酸残基は、下記の従来の一覧に従って、アミノ酸の慣用名に対応する1文字又は3文字命名によって表される:
【表1】
【0045】
(QC)
本明細書で使用される「QC」又は「Qpct」という用語は両方とも、同一のものを指すこと、及びグルタミニルシクラーゼ(QC)、すなわちグルタミニル-ペプチドシクロトランスフェラーゼ(EC2.3.2.5.)を含むことが意図される。好ましくは、本明細書で使用されるQpctは、哺乳動物Qpct、より好ましくは非ヒトQpct、最も好ましくはマウスQpctである。
【0046】
(QC様酵素)
QC及びQC様酵素は、さらにQC活性として定義される同一又は類似の酵素活性を有する。この点について、QC様酵素は、該QC様酵素の分子構造においてQCとは基本的に異なることができる。
【0047】
本明細書で使用される「QC活性」という用語は、アンモニアの遊離下でのN末端グルタミン残基のピログルタミン酸(pGlu*)への、又はN末端L-ホモグルタミン若しくはL-β-ホモグルタミンの環状ピロ-ホモグルタミン誘導体への分子内環化として定義される。スキーム1及び2を参照されたい。
【0048】
【化1】
【化2】
【0049】
本明細書で使用される「EC」という用語は、グルタミン酸シクラーゼ(EC)活性としてさらに定義される、QCの及びECのようなQC様酵素の付随的な活性を含む。
本明細書で使用される「EC活性」という用語は、QCによるN末端グルタミン酸残基のピログルタミン酸(pGlu*)への分子内環化として定義される。スキーム3を参照されたい。
【0050】
本明細書で使用される「金属依存性酵素」という用語は、該酵素の触媒機能を満たすために結合した金属イオンを必要とする、及び/又は触媒活性のある構造を形成するために結合した金属イオンを必要とする酵素として定義される。
【0051】
【化3】
本明細書で使用される「Qpct関連疾患」という用語は、Qpctによって調節されるすべての疾患、障害、又は容態を指す。
【0052】
(治療薬のアッセイ及び同定)
本発明の方法及び組成物は、Qpctのエフェクターの評価において、並びに軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群における神経変性、家族性デンマーク型認知症、及び家族性英国型認知症などのアミロイド関連疾患の治療及び予防のための薬物及び治療薬の開発のために特に有用である。
【0053】
その上、本発明の方法及び組成物はまた、Qpctのエフェクターの評価において、並びに慢性及び急性炎症性疾患、例えば、関節リウマチ、粥状硬化、再狭窄、膵炎の治療及び予防のための薬物及び治療薬の開発のために有用である。
【0054】
本発明のノックアウト動物又はノックアウト動物の細胞は、種々のスクリーニングアッセイに使用することができる。例えば、Qpct及びアミロイド蓄積に影響を及ぼすことが疑われる種々の有望な任意の薬剤、並びに適切なアンタゴニスト及び遮断性治療薬は、ノックアウト動物への投与、並びに細胞の機能及び表現型に対する、及びノックアウト動物の表現型、すなわち神経学的表現型に及ぼすこれらの薬剤の効果を評価することによってスクリーニングすることができる。
【0055】
また、運動技能、学習、及び記憶の欠損を評価するために立案された研究などの行動研究を使用して、有望な治療薬を試験してもよい。このような試験の例は、モリス水迷路である(Morrisの文献((1981)Learn Motivat 12:239-260))。加えて、行動研究には、ローター-ロッド及びオープンフィールドでのものなどの自発運動活動の評価を含んでいてもよい。
【0056】
本発明の好ましい実施態様は、Qpct遺伝子のヘテロ接合性又はホモ接合性欠損から結果的に生じる表現型の結果を検討するためのインビボ動物モデルに関し、ここで、該動物モデルは、Qpct遺伝子のヘテロ接合性又はホモ接合性の破壊を有する哺乳動物である。
【0057】
本発明のさらなる好ましい実施態様において、Qpct遺伝子はヒト起源であり、より好ましくはマウス起源である。また、本発明に従ったQpct遺伝子は、組換え遺伝子であってもよい。
【0058】
本発明に従った最も好ましいものは、配列番号22のマウスQpct遺伝子である。
マウスQpct遺伝子、好ましくは配列番号22のマウスQpct遺伝子の破壊は、例えば、Qpctタンパク質における単一のアミノ酸の欠失又は置換をもたらす遺伝子変異によって達成されてもよい。本発明に従って好ましいのは、エクソン3における残基H141及びD160、エクソン4における残基E202及びE203、エクソン5における残基D249、並びにエクソン7における残基H331からなる群から選択されるアミノ酸の少なくとも1つに関するQpctタンパク質における欠失をもたらす、Qpct遺伝子における変異である。
【0059】
本発明のさらなる実施態様において、Qpct遺伝子の破壊はまた、1つ以上のエクソンの欠失によっても達成することができる。Qpct遺伝子の任意の単一のエクソンの欠失によって、Qpct遺伝子の破壊が生じてもよい。本発明に従って好ましいのは、Qpct遺伝子の、より好ましくはマウスQpct遺伝子のエクソン4及び/又は5の欠失である。最も好ましくは、マウスQpct遺伝子は、エクソン4及び5の欠失後の、配列番号23の配列を有する。
【0060】
Qpctは、神経変性疾患、例えば軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群における神経変性、家族性デンマーク型認知症、及び家族性英国型認知症;並びに慢性及び急性炎症性疾患、例えば関節リウマチ、粥状硬化、再狭窄、膵炎を含むがこれらに限定されるわけではない種々の生物学的、医学的、又は生理学的過程又は現象に関与するので、Qpct遺伝子のヘテロ接合性又はホモ接合性欠損を有する動物モデルは、上記の過程/現象の機構及び/又は病因を研究するために有用である。特定の実施態様において、Qpct遺伝子のヘテロ接合性又はホモ接合性欠損を有する本発明の動物モデルは、これらの及び他の過程/現象を研究するための哺乳動物インビボスクリーニングモデルとして有用であろう。
【0061】
「動物モデル」が意味するのは、問題の生理学的又は病理学的情況を研究するために使用される、医学研究において使用されるための、解剖学、生理学、又は病原体に対する応答においてヒトに十分類似した動物である。本発明によると、動物モデルは、生物学的機構、例えばアミロイドβペプチド形成を理解することを目的とした探索的モデル、又は多かれ少なかれ複雑な生物学的問題を理解することを目的とする説明的モデルであることができる。
【0062】
神経変性疾患、例えば軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群における神経変性、家族性デンマーク型認知症、及び家族性英国型認知症;並びに慢性及び急性炎症性疾患、例えば関節リウマチ、粥状硬化、再狭窄、膵炎の発達についてのインビボでのQpctの生理学的機能の分析は、本発明のヘテロ接合性又はホモ接合性Qpctノックアウト動物を採用して実施することができる。上記の疾患の治療において有用であるQpct阻害剤について効果的なスクリーニングは、具体的な疾患についての既存の動物モデルを検査化合物で治療すること、及びこのような治療の結果をQpctノックアウト動物におけるQpct遺伝子破壊の効果と比較することによって実施され得る。
【0063】
従って、インビボでQpct産生を阻害し又は促進する生物学的に活性のある薬剤をスクリーニングする好ましい方法は、下記の工程を含む:
i)軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群における神経変性、家族性デンマーク型認知症、家族性英国型認知症、関節リウマチ、粥状硬化、再狭窄、及び膵炎から選択された少なくとも1つの疾患の治療に特異的な非ヒト動物モデルに検査化合物を投与する工程、
ii)該検査化合物の効果を決定する工程;
iii)該検査化合物の効果を、Qpctノックアウト動物におけるQpct遺伝子破壊の効果と比較する工程、及び
iv)具体的な疾患に及ぼすQpct遺伝子破壊の効果と同様の効能を有する検査化合物を選択する工程。
【0064】
特に、Qpct阻害剤のスクリーニングについてのこの方法の使用が好ましい。
さらなる好ましい実施態様において、この方法は、アルツハイマー病又はダウン症候群における神経変性の治療のためのQpct阻害剤のスクリーニングのために使用される。
さらに別の好ましい実施態様において、この方法は、家族性英国型認知症又は家族性デンマーク型認知症の治療のためのQpct阻害剤のスクリーニングのために使用される。
【0065】
さらに、この方法は好ましくは、関節リウマチ、粥状硬化、再狭窄、及び膵炎から選択された疾患の治療のためのQpct阻害剤のスクリーニングのために使用される。
【0066】
アルツハイマー病、家族性英国型認知症又は家族性デンマーク型認知症、及び例えばダウン症候群における神経変性の治療のためのQpct阻害剤の有効性は、アルツハイマー病の既存の動物モデルにおいて検査することができる。
【0067】
アルツハイマー病の適切な動物モデルは、McGowanらの文献(TRENDS in Genetics, Vol.22, No. May 2006, pp281-289)に概説されており、以下に記載されるように、PDAPP、Tg2576、APP23、TgCRND8、PSEN1M146V又はPSEN1M146L、PSAPP、ADDDutch、BRI-Aβ40及びBRI-Aβ42、JNPL3、TauP301S、TauV337M、TauR406W、rTg4510、Htau、TAPP、3×TgADから選択される。
【0068】
PDAPP:頑強なプラーク病状を有する第一の変異体APPトランスジェニックモデル。マウスはインディアナ型変異(APPV717F)を有するヒトAPP cDNAを発現する。プラーク病状は、ヘミ接合性PDAPPマウスにおいて6〜9ヶ月間の間に始まる。シナプスは失われているが、明らかな細胞の損失及びNFT病状は観察されない。このモデルは、ワクチン接種治療法戦略において広く使用されてきた。
【0069】
Tg2576:マウスは、ハムスタープリオンプロモーターの制御下で変異体APPSWEを発現する。プラーク病状は、9ヶ月齢から観察される。これらのマウスは、認知障害を有するが、細胞の損失又はNFT病状がない。最も広く使用されるトランスジェニックモデルの1つである。
【0070】
APP23:マウスは、Thy1プロモーターの制御下で変異体APPSWEを発現する。顕著な脳血管アミロイド、アミロイド沈着が6ヶ月齢から観察され、いくつかの海馬ニューロンの損失がアミロイドプラーク形成と関連している。
【0071】
TgCRND8:マウスは、複数のAPP変異を発現する(スウェーデン型+インディアナ型)。認知障害は、3ヶ月齢までにおける迅速な細胞外プラーク発達と一致している。認知障害は、Aβワクチン接種治療法によって逆転することができる。
【0072】
PSEN1M146V又はPSEN1M146L(それぞれ、6.2系及び8.9系):これらのモデルは、変異体PSEN1がAβ42を選択的に上昇させることをインビボで最初に示している。明らかなプラーク病状は観察されない。
【0073】
PSAPP(Tg2576×PSEN1M146L、PSEN1-A246E+APPSWE):二遺伝子トランスジェニックマウスであり、変異体PSEN1導入遺伝子の付加によって、単一トランスジェニック変異体APPマウスと比較してアミロイド性病態が著しく促進しており、PSEN1により駆動されるAβ42の上昇がプラーク病態を亢進することを示した。
【0074】
APPDUTCH:マウスは、ヒトにおけるアミロイドーシス-オランダ型とともに遺伝性脳出血を生じるオランダ型変異を有するAPPを発現する。APPDUTCHマウスは、重度のコンゴーレッド親和性アミロイド血管障害を発症する。変異体PSEN1導入遺伝子の付加は、脈管及び実質性アミロイド病態におけるAβ40及びAβ42について異なる役割を示す実質に対してアミロイド病態を再配分する。
【0075】
BRI-Aβ40及びBRI-Aβ42:マウスは、APPを過剰発現しない個々のAβアイソフォームを発現する。Aβ42を発現するマウスのみが老年性プラーク及びCAAを発症するのに対し、BRI-Aβ40はプラークを発症せず、Aβ42がプラーク形成に必須であることを示唆している。
【0076】
JNPL3:マウスは、P301L変異を有する4R0N MAPTを発現する。これは顕著な混乱した病態及び細胞の損失を有する最初のトランスジェニックモデルであり、このことはMAPT単独で細胞性損傷及び損失を生じることができることを示す。JNPL3マウスは、脊髄における重度の病態及び運動ニューロンの損失による加齢随伴性運動障害を発症する。
【0077】
TauP301S:P301S変異を有する4R MAPTの最も短いアイソフォームを発現するトランスジェニックマウス。ホモ接合性マウスは、脳及び脊髄における広範な神経原線維の病態並びに脊髄におけるニューロンの損失とともに、5〜6ヶ月齢で重度の不全対麻痺を発症する。
【0078】
TauV337M:血小板由来増殖因子(PDGF)のプロモーターによって駆動されるV337M変異を有する4R MAPTの低レベルの合成(1/10の内因性MAPT)。これらのマウスにおける神経原線維の病態の発症は、絶対的なMAPT細胞内濃度が病態を駆動するよりもむしろ、MAPTの性質を示唆する。
【0079】
TauR406W:CAMKIIプロモーターの制御下でR406W変異を有する4RヒトMAPTを発現するマウス。マウスは、18ヶ月齢から前脳におけるMAPT封入を発症し、かつ連合記憶障害を有する。
【0080】
rTg4510:TETオフシステムを使用する誘導性MAPTトランスジェニックマウス。異常なMAPT病態が1ヶ月齢から生じる。マウスは、進行性NFT病態及び重度の細胞損失を有する。認知欠陥は2.5ヶ月齢から顕性である。導入遺伝子をオフにすることによって、認知能力が改善されるが、NT病態は悪化する。
【0081】
Htau:ヒトゲノムMAPTのみを発現するトランスジェニックマウス(マウスMAPTノックアウト)。Htauマウスは、高リン酸化型のMAPT形態6ヶ月齢を蓄積し、15ヶ月齢の時点までチオ-S-ポジティブのNFTを発症する。
【0082】
TAPP(Tg2576×JNPL3):変異体APP及び/又はAβが下流のMAPT病態に影響を及ぼすことができることを示唆する、TAPPマウスにおけるJNPL3と比較して高いMAPT前脳病態。
3×TgAD:PSEN1M146V「ノックイン」背景(PSNE1-KI)における変異体APPSWE、MAPTP301Lを発現する三重トランスジェニックモデル。マウスは6ヶ月齢からプラークを、12ヶ月齢の時点からMAPT病態を発症し、APP又はAβが神経原線維病態に直接影響を及ぼすことができるという仮説を強化する。
【0083】
Qpctを過剰発現し、かつ上記のスクリーニング方法において有用である非ヒトトランスジェニック動物がWO2008/087197に開示されている。
適切な研究立案は、下記の表に概略されるように可能であろう。QC阻害剤は、飲用溶液若しくは固形飼料を介して、又は任意の他の従来の投与経路、例えば経口的に、静脈内に若しくは皮下に適用されるであろう。
【表2】
【0084】
アルツハイマー病に関して、SDS及びギ酸を使用するAβの連続抽出によって、Qpct阻害剤の有効性をアッセイすることができる。まず、総Aβ(x-42)又はAβ(x-40)、及び[pGlu3]Aβ3-40/42/43又は[pGlu11]Aβ11-40/42/43を定量化するELISAを使用して、最大Aβ濃度を含むSDS及びギ酸の画分を分析することができる。上記のスクリーニング方法を採用して同定され、かつさらなる医薬の開発に適した検査化合物は、[pGlu3]Aβ3-40/42/43又は[pGlu11]Aβ11-40/42/43の形成を減少させるべきである。特に、適切な検査化合物は、[pGlu3]Aβ3-40及び/又は[pGlu3]Aβ3-42の形成を減少させることができる。
【0085】
[pGlu3]Aβ3-42の定量化のためのELISAキットは、IBL,カタログ番号JP27716から市販されている。
[pGlu3]Aβ3-40の定量化のためのELISAは、2008年にSchillingら(Schilling S, Appl T, Hoffmann T, Cynis H, Schulz K, Jagla W, Friedrich D, Wermann M, Buchholz M, Heiser U, von Horsten S, Demuth HUの文献(「グルタミニルシクラーゼの阻害はインビボ/インサイチューでの皮質内/海馬への微量注入後のpGlu-Aβ形成を予防する。(Inhibition of glutaminyl cyclase prevents pGlu-Abeta formation after intracortical/hippocampal microinjection in vivo/in situ.)」, J Neurochem. 2008 Aug;106(3):1225-36))によって記載されている。
【0086】
択一的な処置方法を下記に示す。
【表3】
続いて、Qpct阻害剤処置後に、行動変化に関してAD動物を検査することができる。適切な行動検査パラダイムは例えば、海馬依存性学習の異なる態様を扱うものである。このような神経学的検査についての例は、モリス水迷路検査及び前後関係の記憶の変化をみる恐怖条件付け検査である(Comery, TAらの文献(2005, J Neurosci 25: 8898-8902);Jacobsen JSらの文献(2006, Proc Natl. Acad. Sci USA 103: 5161-5166))。
【0087】
炎症性疾患、例えば本発明によって想定される粥状硬化の動物モデルは、既存の粥状硬化動物モデル、例えばアポE欠乏マウスであることができ、又はQpct遺伝子過剰発現を若しくはアポE欠乏の背景のある遺伝子欠乏症を有するトランスジェニックマウスを準備することによって準備できる。アポリポタンパク質Eノックアウトマウスモデルは、粥状硬化についての主要なモデルのうちの1つとなってきている(Arterioscler Thromh Vase Biol., 24: 1006-1014, 2004;Trends Cardiovasc Med, 14: 187-190, 2004)。研究は、Johnsonらの文献(Circulation, 111: 1422-1430, 2005)によって記載されているように、又はその変法を使用して実施してもよい。アポリポタンパク質E欠乏マウスモデルアポリポタンパク質E(アポE)は、カイロミクロン、VLDL、及びHDLを含むいくつかの血漿リポタンパク質のうちの1つの成分である。これらのリポタンパク質粒子の受容体仲介性異化作用は、アポEとLDL受容体(LDLR)との又はLDLR関連タンパク質(LRP)との相互作用を通じて媒介される。アポE欠乏性マウスは高コレステロール血症を呈し、ヒトにおいてみられるのと同様の複雑なアテローム性病変を発症する。また、この動物モデルを使用して、本発明の化合物の有効性も評価した。
【0088】
上記のスクリーニング方法における使用に適した炎症性疾患についての他の動物モデルは、マウスにおけるチオグリコール酸誘発性炎症モデル、ラットにおけるコラーゲン誘発性関節炎モデル、及びラットにおける再狭窄のモデルである(例えば、バルーンカテーテル損傷に対するラット頚動脈応答に及ぼす検査化合物の効果)。
【0089】
炎症性疾患に関して、Qpct阻害剤の有効性は、インビトロでのヒトMCP-1によって誘導されるヒト単球細胞株(THP-1細胞)の走化性の阻害を測定することによってアッセイすることができる。該アッセイは、実施例16に記載されている。また、この阻害効果はインビボでも観察された。効果的な検査化合物は、マウスにおけるチオグリコール酸誘発性炎症モデルにおいて低い単球浸潤を示すべきである。
さらに、pGlu-MCP-1の形成は、インビトロ及びインビボで検査することができる。
【0090】
本発明の方法は、ホモ接合性又はヘテロ接合性Qpct変異体非ヒト哺乳動物から単離された細胞を有利に使用して、アミロイド蓄積を研究することができ及び有望な治療化合物を検査することができる。また、本発明の方法は、トランスフェクトした細胞株など、Qpctを発現する細胞とともに使用することができる。
【0091】
Qpctノックアウト細胞をインビトロでの方法において使用して、Aβ関連疾患を治療するための有望な治療薬としての化合物をスクリーニングすることができる。このような方法において、化合物をQpctノックアウト細胞、トランスフェクトした細胞、又はQpct変異体非ヒト動物に由来する細胞と接触させて、Qpctの発現と関連した表現型における変化をスクリーニングする。細胞アッセイ及びノックアウト動物におけるAβ産生の変化は、当業者に周知の方法によって評価することができる。
【0092】
Qpctの発現は蛍光強度によってモニターすることができるので、Qpct等のQpct融合ポリペプチドは、このようなスクリーニング方法にとって特に有用であることができる。他の典型的な融合ポリペプチドには、他の蛍光タンパク質若しくはその修飾物、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質、ポリHis、及びそれらの類似物、又は任意の種類のエピトープタグが含まれる。このような融合ポリペプチドは、例えば融合ポリペプチドに特異的な抗体を使用して検出することができる。融合ポリペプチドは、完全ポリペプチド又は、その機能的部分が、所望の特性、例えば抗体結合活性又は蛍光活性を有する限り、該その機能的部分であることができる。
【0093】
本発明はさらに、上記の疾患を治療する上で使用するための有望な治療薬を同定する方法を提供する。該方法には、上記のDNA構築物を含む細胞を1つの化合物と接触させる工程、及び観察されるべき結果について該細胞をスクリーニングし、それによりQpct関連疾患を治療する上で使用するための有望な治療薬を同定する工程を含む。該細胞は、Qpct DNA構築物を含む有核細胞を有するノックアウト非ヒト哺乳動物から単離することができる。或いは、該細胞は、緑色蛍光タンパク質又は他の融合ポリペプチドとQpctポリペプチドとの融合物をコードする核酸を含むDNA構築物を含むことができる。
【0094】
加えて、Qpctポリペプチドを発現するQpctノックアウト細胞を予備的スクリーニングに使用して、Qpct発現と関連した表現型を変化させる活性を有する有望な治療薬として化合物を同定することができる。Qpctノックアウト非ヒト哺乳動物を使用するインビボでのスクリーニングの場合、適切なコントロール細胞を使用して、スクリーニングの結果を比較することができる。Qpctノックアウト細胞を使用してインビトロでの初期的なスクリーニングによって同定される化合物の有効性は、所望の場合、本発明のQpctノックアウト非ヒト哺乳動物を使用してインビボでさらに検査することができる。このように、本発明は、細胞ベースのアッセイを使用して、例えば高処理量スクリーニングを使用して多数の化合物をスクリーニングする方法、及びAβ関連障害の動物モデルにおける治療薬としての化合物をさらに検査する方法を提供する。
【0095】
また、本発明は、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病、家族性デンマーク型認知症、家族性英国型認知症、及びダウン症候群における神経変性の治療のための新たな方法も提供する。アルツハイマー病及びダウン症候群患者の脳に沈着したアミロイドβ-ペプチドのN末端、並びにその上、家族性デンマーク型認知症及び家族性英国型認知症の患者において沈着したアミロイドペプチドADan及びABriは、ピログルタミン酸を有する。pGlu形成は、該疾患の発症及び進行における重要な事象であり、その理由として、修飾されたアミロイドβ-ペプチド、ADan及びABriは、該疾患の始まり及び進行を悪化させる見込みのあるアミロイドの凝集及び毒性をもたらす高い傾向を示しているからである(Russo, C.らの文献(2002 J Neurochem 82, 1480-1489);Ghiso, J.らの文献(2001 Amyloid 8, 277-284))。
天然Aβ-ペプチド(3-40/42)において、グルタミン酸は、N末端アミノ酸として存在する。
【0096】
Qpctは、アミロイドβ-ペプチドの凝集を優勢にするピログルタミン酸の形成に関与する。従って、QCの阻害は、アルツハイマー病及びダウン症候群の始まり及び進行の原因となるプラーク形成する[pGlu3]Aβ3-40/42/43又は[pGlu11]Aβ11-40/42/43の沈殿の予防をもたらす。
【0097】
グルタミン酸は、アミロイドβ-ペプチドの位置3、11及び22において見いだされる。これらの中で、位置22のグルタミン酸(E)からグルタミン(Q)への変異(アミロイド前駆体タンパク質APP770のアミノ酸693に対応する、Swissprotエントリー:P05067)は、いわゆるオランダ型脳動脈性アミロイドーシス変異として記載されている。
【0098】
位置3、11及び/又は22にピログルタミン酸残基を有するβ-アミロイドペプチドは、Aβ1-40/42/43よりも細胞毒性及び疎水性が高い(Saido T.C.の文献(2000 Medical Hypotheses 54(3): 427-429))。
【0099】
複数のN末端の変異は、異なる部位にてβ-セクレターゼ酵素アミロイド前駆体タンパク質β-部位切断酵素(BACE)により(Huse J.T.らの文献、2002 Biol. Chem. 277(18):16278-16284)、及び/又はアミノペプチダーゼプロセシングにより産生することができる。
【0100】
未知のグルタミルシクラーゼ(EC)によるpGlu-ペプチドへのGlu1-ペプチドの酵素変換を裏付ける実験的証拠はなかった(Garden, R. W., Moroz, T. P., Gleeson, J. M., Floyd, P. D., Li, L. J., Rubakhin, S. S., 及びSweedler, J. V.の文献((1999) J Neurochem 72, 676-681);Hosoda R.らの文献((1998) J Neuropathol Exp Neurol. 57, 1089-1095))。N末端でプロトン化されており、かつ穏やかなアルカリ性又は中性のpH条件下で負に荷電したGlu1γ-カルボキシラート部分を有するGlu1-ペプチドを環化することができるような酵素活性は、同定されていなかった。
【0101】
Gln1基質に対するQC活性は、pH7.0未満では激減する。対照的に、Glu1変換は、酸性反応条件にて生じることができるようである(例えば、Iwatsubo, T., Saido, T. C., Mann, D. M., Lee, V. M., 及びTrojanowski, J. Q.の文献((1996) Am J Pathol 149, 1823-1830))。
【0102】
以前に、Qpctが、穏やかな酸性条件下でアミロイド-β由来ペプチドを認識することができかつ代謝回転することができるかどうかが研究された(WO 2004/098625)。それゆえ、該酵素の有望な基質としてのペプチド[Gln3]Aβ1-11a、Aβ3-11a、[Gln3]Aβ3-11a、Aβ3-21a、[Gln3]Aβ3-21a、及び[Gln3]Aβ3-40を合成し及び調査した。これらの配列は、天然のN末端で及びC末端で切断された[Glu3]Aβペプチド、並びに翻訳後のGlu-アミド化によって生じることのできる[Gln3]Aβペプチドを模倣するために選択した。
【0103】
パパイヤ及びヒトのQpctは、グルタミニル環化及びグルタミル環化の両方を触媒することが示された。明らかに、Qpctの一次生理機能は、ホルモン分泌過程の前に又は間に、グルタミン環化による内分泌細胞におけるホルモン成熟を終えることである。このような分泌小胞は、pHが酸性であることが知られている。従って、5.0〜7.0の狭いpH範囲における酵素の副活性は、Glu-Aβペプチドをも環化する、該酵素の新たに発見されたグルタミルシクラーゼ活性であり得る。しかし、Gln変換と比較して非常により遅く生じるGlu環化により、グルタミル環化が有意な生理学的役割を担っているかどうかは疑問である。しかし、神経変性障害の病態において、グルタミル環化は関連性がある。
【0104】
この酵素反応のpH依存性を調査すると、プロトン化されていないN末端は、Gln1-ペプチドの環化のために必須であったこと、従って基質のpKa値は、Qpct触媒作用についてのpKa値と同一であったことが示された。このように、Qpctは、γ-カルボニル炭素に対するプロトン化されていないα-アミノ部分の分子内求核攻撃を安定化させる。
【0105】
N末端グルタミン含有ペプチドに存在する一価の電荷とは対照的に、Glu含有ペプチドにおけるN末端Glu残基は、中性pHにて主に二価に荷電される。グルタミン酸は、γ-カルボン酸部分について、及びα-アミノ部分について、それぞれ約4.2及び7.5のpKa値を示し、すなわち中性pH以上の状態にあり、α-アミノ態窒素は、部分的に又は完全にプロトン化されておらず、かつ求核性であるが、γ-カルボン酸基は、プロトン化されておらず、そして求電子性カルボニル活性を働かせない。それゆえ、分子内環化は不可能である。
【0106】
しかし、約5.2〜6.5のpH範囲において、これらのそれぞれのpKa値の間では、2つの官能基は、両方とも非電離型で、総N末端Glu含有ペプチドの約1〜10%(-NH2)又は10〜1%(-C00H)の濃度で存在する。その結果、穏やかな酸性pH範囲にわたって、両方とも無電荷の基を有するN末端Gluペプチドの種が存在し、それゆえ、QpctがpGlu-ペプチドへの分子内環化の中間体を安定化させ得、すなわちγ-カルボン酸基がプロトン化される場合、カルボニル炭素は、プロトン化されていないα-アミノ基による求核攻撃ができるのに十分に求電子性である。このpHにて、ヒドロキシルイオンは、脱離基として機能する。これらの仮定は、Glu-βNAのQpct触媒性変換について得られたpH依存性データによって確証される。QpctによるGln-βNAのグルタミン変換とは対照的に、触媒作用の最適pHは、pH 6.0近辺の酸性範囲に、すなわち基質分子種が、プロトン化されたγ-カルボキシルとプロトン化されていないα-アミノ基とを同時に豊富に有するpH範囲に移行する。さらに、動力学的に決定される7.55±0.02のpKa値は、滴定によって決定されたGlu-β3NAのα-アミノ基のpKa値(7.57±0.05)と非常によく一致する。
【0107】
生理的には、pH 6.0にて、Qpctで触媒されるグルタミン酸環化の二次速度定数(又は特異性定数、kcat/KM)は、グルタミン環化についての二次速度定数よりも1×105〜1×106倍遅い範囲にあるかもしれない。しかし、モデル基質Glu-βNA及びGln-βNAの両方の非酵素的代謝回転はごくわずかであり、観察されたごくわずかなpGluペプチド形成と一致する。それゆえ、QpctによるpGlu形成については、少なくとも108の加速を、酵素対非酵素速度定数の比から概算することができる(酵素触媒作用についての二次速度定数をそれぞれの非酵素性環化の一次速度定数と比較すると、触媒作用熟達因子(proficiency factor)は、Gln変換及びGlu変換について、それぞれ109〜1010M-1である。)。これらのデータからの結論は、インビボにおいて、pGlu形成を結果的に生じる酵素経路だけが考えられるようであるということである。
【0108】
Qpctは、脳において非常に豊富であり、30μMの(Gln-)TRH様ペプチドの成熟について最近発見された0.9/分の高い代謝回転速度を考慮すると(Prokal, L., Prokai-Tatrai, K., Ouyang, X., Kim, H. S., Wu, W. M., Zharikova, A. 及びBodor, N.の文献((1999)J Med Chem 424563-4571))、同様の反応条件が提供された場合、適切なグルタミン酸基質について約100時間の環化半減期を予測することができる。その上、分泌経路における脳Qpctの区画化及び局在化を考慮すると、実際のインビボでの酵素及び基質の濃度並びに反応条件は、無処置の細胞における酵素性環化にとってさらにより好都合かもしれない。また、N末端GluがGlnに変換される場合、Qpctによって媒介される非常により迅速なpGlu形成を期待することができるであろう。インビトロでは、両反応は、Qpct活性の阻害剤を適用することによって抑制された。
【0109】
要約すると、脳において非常に豊富であるヒトQpctは、アルツハイマー病において見いだされるプラーク沈着物の50%超を構成する、Glu-Aβ前駆体及びGln-Aβ前駆体からのアミロイド形成性pGlu-Aβペプチドの形成の触媒であるらしいことが示された。これらの知見により、老人斑形成における担い手として、及び従って、アルツハイマー病、ダウン症候群における神経変性、家族性デンマーク型認知症、及び家族性英国型認知症の治療における新規薬物標的として、Qpctを同定する。例えば、WO 2004/098625及びWO 2005/039548を参照されたい。
【0110】
好ましい実施態様において、本発明は、軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群、家族性デンマーク型認知症及び家族性英国型認知症におけるpGlu-アミロイドペプチド形成の抑制のための、本発明の動物モデルを使用して選択されるQpctの活性低下エフェクターの使用を提供する。
【0111】
さらなる実施態様において、本発明は、胃腸管細胞増殖、特に胃粘膜細胞増殖、上皮細胞増殖、酸を産生する壁細胞及びヒスタミンを分泌する腸クロム親和様(ECL)細胞の分化、並びにECL細胞におけるヒスタミンの合成及び貯蔵と関連した遺伝子発現の刺激のための、並びに活性型[pGlu1]-ガストリンの濃度を維持すること又は増大させることによる哺乳動物における一過性の酸分泌の刺激のための、本発明の動物モデルを使用して選択されるQpctの活性増大エフェクターの使用を提供する。
【0112】
好ましい実施態様において、本発明は、アルツハイマー病、ダウン症候群、家族性デンマーク型認知症及び家族性英国型認知症、粥状硬化並びに再狭窄におけるpGlu-サイトカイン機能、好ましくはケモカイン機能、最も好ましくは単球走化性因子の機能の抑制のための、本発明の動物モデルを使用して選択されるQpctの活性低下エフェクターの使用を提供する。
【0113】
いくつかの研究は特に、粥状硬化(Gu, L.らの文献((1998) Mol.Cell 2, 275-281);Gosling, J.らの文献((1999) J Clin.Invest 103, 773-778);関節リウマチ(Gong, J. H.らの文献((1997) J Exp.Med 186, 131-137);Ogata, H.らの文献((1997) J Pathol. 182, 106-114);膵炎(Bhatia, M.らの文献((2005) Am.J Physiol Gastrointest.Liver Physiol 288, G1259-G1265);アルツハイマー病(Yamamoto, M.らの文献((2005) Am.J Pathol. 166, 1475-1485);肺線維症(Inoshima, I.らの文献((2004) Am.J Physiol Lung Cell Mol.Physiol 286, L1038-L1044);腎線維症(Wada, T.らの文献((2004) J Am.Soc.Nephrol. 15, 940-948)、及び移植片拒絶反応(Saiura, A.らの文献((2004) Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 24, 1886-1890)の発症についてのMCP-1の決定的な役割を明示している。さらにまた、MCP-1は、妊娠中毒症(Katabuchi, H.らの文献((2003) Med Electron Microsc. 36, 253-262))において、腫瘍の発達(Ohta, M.らの文献((2003) Int.J Oncol. 22, 773-778);Li, S.らの文献((2005) J Exp.Med 202, 617-624))、神経因性疼痛(White, F. A.らの文献((2005) Proc. Natl. Acad.Sci.U.S.A))及びエイズ(Park, I. W., Wang, J. F., 及びGroopman, J. E.の文献((2001) Blood 97, 352-358);Coll, B.らの文献((2006) Cytokine 34, 51-55))におけるパラクリン因子として、ある役割を担い得る。
【0114】
ヒト及び齧歯類MCP-1の成熟型は、グルタミニルシクラーゼ(Qpct)によって翻訳後修飾され、N末端ピログルタミル(pGlu)残基を有する。MCP-1の走化性による効力がそのN末端によって媒介されるので重要であるアミノぺプチダーゼによるN末端分解に対して、N末端pGlu修飾によって、耐性のあるタンパク質となる(Van Damme, J.らの文献((1999) Chem Immunol 72, 42-56))。人工的な伸長又は分解によって機能は損なわれるが、MCP-1はなおもその受容体(CCR2)に結合している(Proost, P.らの文献((1998), J Immunol 160, 4034-4041);Zhang, Y. J.らの文献(1994, J Biol.Chem 269, 15918-15924);Masure, S.らの文献(1995, J Interferon Cytokine Res. 15, 955-963);Hemmerich, S.らの文献((1999) Biochemistry 38, 13013-13025))。
【0115】
いくつかの疾患容態におけるMCP-1の主要な役割により、抗MCP-1戦略が必要とされる。それゆえ、MCP-1の作用を阻害する小さな経口的に利用可能な化合物は、薬物開発のための候補と見込まれる。グルタミニルシクラーゼの阻害剤は、MCP-1のN末端におけるpGlu形成の重要な工程を標的とする小さな経口的に利用可能な化合物である(Cynis, H.らの文献((2006) Biochim.Biophys.Acta 1764, 1618-1625);Buchholz, M.らの文献((2006) J Med Chem 49, 664-677))。結果として、Qpct阻害によって生じる場合、MCP-1のN末端はpGlu残基によって保護されない。その代わりに、N末端は、内皮において及び血液循環内で豊富であるジぺプチジルぺプチダーゼ、例えばジペプチジルペプチダーゼ4及び線維芽細胞活性化タンパク質(FAP、セプラーゼ)によって分解されやすいグルタミン-プロリンモチーフを有する。この切断の結果、N末端切断型MCP-1が形成される。これらの分子は折りたたまれておらず、それが順にCCR2におけるアンタゴニスト性作用を、それゆえ単球関連疾患の容態も効率よく抑制する。
【0116】
さらなる実施態様において、本発明は、不活性型[Gln1]ガストリンの活性型[pGlu1]ガストリンへの変換速度を低下させることによって、哺乳動物におけるヘリコバクターピロリ感染を伴う又は伴わない十二指腸潰瘍疾患及び胃癌の治療のための、本発明の動物モデルを使用して選択されるQpctの活性低下エフェクターの使用を提供する。
【0117】
ニューロテンシン(NT)は、神経伝達物質系を特異的に調節する統合失調症の病態生理に関係する神経ペプチドであり、この障害において誤調整されることが以前に示されている。脳脊髄液(CSF)NT濃度を測定した臨床研究により、統合失調症患者のサブセットの有する低いCSF NT濃度が、有効な抗精神病薬治療によって回復されることが明らかにされた。また、抗精神病薬の作用機序におけるNT系の関与と一致するかなりの証拠が存在する。中枢に投与されたNTの行動的な及び生化学的な効果は、全身投与された抗精神病薬の行動的な及び生化学的な効果に著しく似ており、抗精神病薬は、NT神経伝達を増大させる。この知見の結びつきにより、NTが、内因性抗精神病薬として機能するという仮説に至った。その上、典型的な及び非典型的な抗精神病薬は、黒質線条体及び中脳辺縁系のドーパミン末端領域におけるNT神経伝達を差動的に変化させ、これらの効果はそれぞれ、副作用の傾向及び有効性を予測させる(Binder, E. B.らの文献(2001 Biol Psychiatry 50 856-872))。
【0118】
別の実施態様において、本発明は、抗精神病薬の製造のための、及び/又は哺乳動物における統合失調症の治療のための、本発明の動物モデルを使用して選択されるQpctの活性増大エフェクターの使用を提供する。Qpctのエフェクターは、活性型[pGlul]ニューロテンシンの濃度を維持するか又は増大させるかのいずれかである。
【0119】
甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)に関連するトリペプチドである受精促進ペプチド(FPP)は、精漿において見いだされる。インビトロ及びインビボで得られた最近の証拠は、FPPが精子受精能を調節する際に重要な役割を担っていることを示した。具体的には、FPPはまず、非受精(受精能をなくした)精子を刺激して「スイッチを入れ」、より急速に受精可能になるが、次に、精子が自発的な先体喪失を受けないように、従って受精能を失わないように、受精能獲得を停止する。これらの反応は、アデニリルシクラーゼ(AC)/cAMPシグナル伝達経路を調節することが知られているアデノシンによって模倣され、実際に増大する。FPP及びアデノシンは両方とも、受精能をなくした細胞におけるcAMP産生を刺激するが、受精能を獲得した細胞におけるcAMP産生を阻害することが示されており、FPP受容体は、どういうわけかアデノシン受容体及びGタンパク質と相互作用してACの調節を達成する。これらの事象は、種々のタンパク質のチロシンリン酸化状態に影響を及ぼし、いくつかは、最初の「スイッチを入れる」のに重要であり、その他は、おそらくそれ自体が先体反応に関与している。カルシトニン及びアンジオテンシンIIは、精漿においても見いだされ、受精能をなくした精子に対してインビトロで同様の効果を有しており、FPPに対する反応を増大させることができる。これらの分子は、インビボでも同様の効果を有しており、受精能を刺激し、次いで維持することによって、受精能に影響を及ぼす。FPP、アデノシン、カルシトニン、及びアンジオテンシンIIの利用能における減少、又はこれらの受容体の欠損は、いずれも雄不妊症に寄与する(Fraser, L.R. 及びAdeoya-Osiguwa, S. A.の文献(2001 Vitam Horm 63, 1-28))。
【0120】
さらなる実施態様において、本発明は、受精抑制薬の製造のための、及び/又は哺乳動物における受精能を減少させるための、本発明の動物モデルを使用して選択されるQpct活性低下エフェクターの使用を提供する。Qpctの活性低下エフェクターは、活性型[pGlu1]FPPの濃度を減少させて、精子の受精能獲得の予防、及び精細胞の非活性化を引き起こす。対照的に、Qpctの活性増大エフェクターは、雄における受精能を刺激して、不妊症を治療することができることを示すことができた。
【0121】
別の実施態様において、本発明は、骨髄系前駆細胞の増殖の抑制、腫瘍、炎症性宿主反応、癌、悪性転移、メラノーマ、乾癬、関節リウマチ、粥状硬化、肺線維症、肝線維症、腎線維症、移植片拒絶反応、後天性免疫不全症候群、液性の及び細胞を媒介した免疫応答の障害、内皮における白血球接着及び遊走過程など、病態生理学的状態の治療のための医薬の製造のための、本発明の動物モデルを使用して選択されるQpctのエフェクターの使用を提供する。
【0122】
さらなる実施態様において、本発明は、摂食障害及び睡眠-覚醒状態、エネルギー代謝の恒常性調節の障害、自律神経機能の障害、ホルモンバランスの障害、並びに体液の調節の障害の治療のための医薬の製造のための、本発明の動物モデルを使用して選択されるQpctのエフェクターの使用を提供する。
【0123】
いくつかのタンパク質におけるポリグルタミン増大は、ハンチントン舞踏病、パーキンソン病、及びケネディ病などの神経変性障害を引き起こす。従って、メカニズムは、主として未知のままである。ポリグルタミンリピートの生化学的特性は、1つの可能性のある説明を示唆する:グルタミニル-グルタミニル結合の内溶解性(endolytic)切断後のピログルタミン酸形成は、ポリグルタミニルタンパク質の異化安定性、疎水性、アミロイド形成、及び神経毒性を増大させることを通じて、病原性に寄与し得る(Saido, T.C.の文献(Med Hypotheses(2000)Mar; 54(3):427-9))。
【0124】
従って、さらなる実施態様において、本発明は、パーキンソン病、及びハンチントン病の治療のための医薬の製造のための、本発明の動物モデルを使用して選択されるQpctのエフェクターの使用を提供する。
【0125】
別の実施態様において、本発明は、上記に選択された検査薬を使用することによって、Qpctの酵素活性を減少させ又は阻害する一般的な方法を提供する。
哺乳動物Qpctの阻害は、1,10-フェナントロリン及び還元型6-メチルプテリンについて初期に検出されたのみであった(Busby, W. H. J.らの文献(1987 J Biol Chem 262, 8532-8536))。EDTAはQpctを阻害せず、従って、Qpctは金属依存性酵素ではないと結論付けられた(Busby, W. H. J.らの文献(1987 J Biol Chem 262, 8532-8536)、Bateman, R.C.J.らの文献(2001 Biochemistry 40, 11246-11250)、Booth, R.E.らの文献(2004 BMC Biology 2))。しかし、1,10-フェナントロリン、ジピコリン酸、8-ヒドロキシ-キノリン及び他のキレート剤によるQpctの阻害特徴、並びに遷移金属イオンによるQpctの再活性化によって明らかにされるように、ヒトQpct及び他の哺乳動物Qpctは金属イオン性酵素であることが示された。最後に、金属依存性は、他の金属依存性酵素との配列比較によって概略が表され、ヒトQpctにおいてもキレートするアミノ酸残基の保存を示している。化合物と活性部位に結合した金属イオンとの相互作用は、Qpct活性を減少させ又は阻害する一般的な方法を表す。
【0126】
上記のスクリーニング方法によって選択された薬剤は、Qpctの少なくとも1つの基質の変換を低下させることによって(負のエフェクター、阻害剤)、又はQpctの少なくとも1つの基質の変換を増大させることによって(正のエフェクター、活性化因子)作用することができる。
【0127】
本発明の化合物は、酸付加塩、特に医薬として許容し得る酸付加塩に変換することができる。
本発明の化合物の塩は、無機塩又は有機塩の形態でもよい。
【0128】
本発明の化合物は、酸付加塩、特に医薬として許容し得る酸付加塩に変換することができる。医薬として許容し得る塩は、一般に、塩基性側鎖が無機酸又は有機酸でプロトン化された形態をとる。代表的な有機酸又は無機酸には、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、シュウ酸、パモ酸、2-ナフタレンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、シクロヘキサンスルファミン酸、サリチル酸、サッカリン酸、又はトリフルオロ酢酸を含む。本発明の化合物の医薬として許容し得るすべての酸付加塩形態は、本発明の範囲に包含されることが意図される。
【0129】
遊離化合物とこれらの塩の形態の化合物との間の緊密な関係からみて、化合物が、この状況において言及されるときはいつでも、対応する塩も意図されるが、ただし、これが該状況下で可能であり又は適切であることを条件とする。
【0130】
本発明に従った化合物が少なくとも1つのキラル中心を有する場合、該化合物は、従って鏡像異性体として存在してもよい。該化合物が2つ以上のキラル中心を有する場合、該化合物は、加えてジアステレオマーとして存在してもよい。このような異性体及び該異性体の混合物がすべて、本発明の範囲内に包含されることを理解すべきである。さらに、化合物の結晶形態のいくつかは、多形として存在してもよく、従って本発明に含まれることが意図される。加えて、化合物のいくつかは、水(すなわち、水和物)又は共通の有機溶媒と溶媒和物を形成してもよく、このような溶媒和物も本発明の範囲内に包含されることが意図される。
また、それらの塩を含む化合物は、これらの水和物の形態で得ることができ、又はこれらの結晶化のために使用されるその他の溶媒を含むことができる。
【0131】
さらなる実施態様において、本発明は、Qpct酵素活性の調節によって媒介される容態を予防し又は治療する必要のある対象において、該容態を予防し又は治療する方法であって、容態を治療するために治療的に有効な量及び投与計画で、本発明の任意の化合物又はその医薬組成物を投与することを含む、前記方法を提供する。加えて、本発明は、対象においてQpct活性の調節によって媒介される容態の予防又は治療のための医薬の製造のための、本発明の化合物及びこれらの対応する医薬として許容し得る酸付加塩形態の使用を含む。該化合物は、静脈内、経口、皮下、筋肉内、皮内、非経口的、及びこれらの組み合わせを含むがそれらに限定されるわけではない任意の従来の投与経路によって患者に投与してもよい。
【0132】
さらに好ましい実施の形態において、本発明は、少なくとも1つの本発明の化合物又はその塩を、任意に1つ以上の医薬として許容し得る担体及び/又は溶媒と組み合わせて含む医薬組成物に、いわば医薬に関する。
【0133】
前記医薬組成物は、例えば、非経口製剤又は経腸製剤の形態であってもよく、かつ適切な担体を含んでいてもよく、又は該医薬組成物は、経口投与に適した適切な担体を含んでいてもよい経口製剤の形態であってもよい。好ましくは、該医薬組成物は、経口製剤の形態である。
【0134】
本発明に従って投与されるQpct活性のエフェクターは、医薬として投与可能な製剤若しくは製剤複合体において、哺乳動物におけるQpctタンパク質濃度を減少させる、阻害剤として、又は阻害剤、基質、偽基質、Qpct発現の阻害剤、結合タンパク質、若しくはこれらの酵素タンパク質の抗体と組み合わせて使用してもよい。本発明の化合物は、治療を患者及び疾患に対して個々に調整することができ、特に個々の不耐性、アレルギー、及び副作用を回避することができる。
【0135】
また、前記化合物は、時間の関数として、異なる程度の活性を示す。これにより、治療を提供する医師は、個々の患者の状況に対して異なって反応する機会が与えられ:彼は、正確に、一方では、作用開始の速度を、もう一方では、作用の期間及び特に作用の強度を調整することができる。
【0136】
本発明に従った好ましい治療方法は、哺乳動物においてQpct酵素活性の調節によって媒介される容態の予防又は治療のための新たなアプローチになる。これは、特に哺乳動物、特にヒトの医療における生理活性のあるQpct基質のアンバランスな濃度に基づく疾患の治療において、都合よく簡便であり、市販の適用の余地があり、かつ使用に適している。
【0137】
前記化合物は、例えば、従来技術から知られている希釈剤、賦形剤、及び/又は担体のような通例の添加物と組み合わせて活性成分を含む医薬製剤の形態で、都合よく投与してもよい。例えば、該化合物は、非経口的に(例えば、生理塩類溶液における静脈内投与)、又は経腸的に投与することができる(例えば、通例の担体と共に製剤されたものを経口的に)。
【0138】
前記化合物の内因的安定性及び該化合物の生物学的利用能に応じて、血糖値の望ましい正常化を達成するために、化合物の1回以上の用量を1日につき与えることができる。例えば、ヒトにおけるこのような薬用量範囲は、1日あたり約0.01mg〜250.0mgの範囲であってもよく、好ましくは、体重1kgあたり約0.01〜100mgの範囲であってもよい。
【0139】
哺乳動物に対してQpct活性のエフェクターを投与することにより、軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群、家族性デンマーク型認知症、家族性英国型認知症、ハンチントン病、ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)感染を伴う又は伴わない潰瘍疾患及び胃癌、病原性精神病性容態、統合失調症、不妊症、腫瘍、炎症性宿主反応、癌、乾癬、再狭窄、膵炎、関節リウマチ、粥状硬化、肺線維症、肝線維症、腎線維症、移植片拒絶反応、後天性免疫不全症候群、液性の及び細胞を媒介した免疫応答の障害、内皮における白血球接着及び遊走過程、摂食障害、睡眠-覚醒状態、エネルギー代謝の恒常性調節の障害、自律神経機能の障害、ホルモンバランスの障害、並びに体液の調節障害から選択された容態を予防し又は軽減し又は治療することが可能であり得る。
【0140】
さらに、哺乳動物に対してQpct活性のエフェクターを投与することにより、胃腸管細胞増殖、好ましくは胃粘膜細胞、上皮細胞の増殖、一過性の酸分泌、並びに酸を産生する壁細胞及びヒスタミンを分泌する腸クロム親和様細胞の分化を刺激することが可能であろう。
【0141】
加えて、哺乳動物に対するQpct阻害剤の投与は、従って、雄の受精能を抑制する精細胞機能の喪失を引き起こすかもしれない。従って、予防(prevent)発明は、雄の受精能の調節及び制御のための方法、並びに雄のための避妊薬物の製造のためのQpctの活性低下エフェクターの使用を提供する。
さらに、哺乳動物に対してQpct活性のエフェクターを投与することにより、骨髄系前駆細胞の増殖を抑制することが可能であるかもしれない。
【0142】
従って、本発明に従って使用される化合物は、それ自体公知の様式で、例えば錠剤、カプセル、糖衣錠、丸剤、坐剤、顆粒、エアロゾル、シロップ、液体、固体、及びクリーム様の乳剤及び懸濁液、並びに溶液などの従来の製剤に、不活性な、非毒性の、医薬として適切な担体及び添加物又は溶媒を使用して変換することができる。これらの製剤の各々において、治療的に有効な化合物は、好ましくは総混合物のおよそ0.1〜80重量%、より好ましくは1〜50重量%の濃度で、すなわち、言及した薬用量の許容範囲が得られるのに十分な量で存在する。
【0143】
物質は、糖衣錠、カプセル、かむことができるカプセル、錠剤、ドロップ、シロップの形態の医薬として、又は坐剤として若しくは点鼻スプレーとしても、使用することができる。
製剤は、例えば溶媒及び/又は担体を使用して、任意に乳化剤及び/又は分散剤を使用して、活性成分を希釈することによって、都合よく調製してもよく、例えば、水が希釈剤として使用される場合、有機溶媒を補助的な溶媒として任意に使用することができる。
【0144】
本発明と関連して有用な賦形剤の例には、下記を含む:水、パラフィン(例えば、天然の油画分)、植物油(例えば、菜種油、落花生油、ゴマ油)、アルコール(例えば、エチルアルコール、グリセロール)、グリコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)などの非毒性有機溶媒;例えば、天然の粉末状ミネラル(例えば、高度に分したシリカ、ケイ酸)、糖(例えば、粗糖、乳糖、及びデキストロース)などの固体担体;非イオン性及び陰イオン性の乳化剤などの乳化剤(例えば、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル、スルホン酸アルキル、及びスルホン酸アリール)、分散剤(例えば、リグニン、亜硫酸蒸煮液、メチルセルロース、デンプン、及びポリビニルピロリドン)、及び潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、滑石、ステアリン酸、及びラウリル硫酸ナトリウム)、及び任意に調味料。
【0145】
投与は、通常の様式で、好ましくは経腸的又は非経口的に、特に経口的に実施してもよい。経腸投与の場合、記載した担体に加えて、錠剤は、デンプン、好ましくはジャガイモデンプン、ゼラチン等などの種々の添加物と共に、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、及びリン酸カルシウムなどのさらなる添加物を含んでいてもよい。さらに、錠剤化するために、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、及び滑石などの潤滑剤を付随して使用することができる。経口投与が意図される水性懸濁液及び/又はエリキシル剤の場合、上記の賦形剤に加えて、種々の食味調整剤又は着色料を活性成分に添加することができる。
【0146】
非経口投与の場合、適切な液体担体を使用する活性成分の溶液を使用することができる。一般に、静脈内投与の場合、有効な結果を得るために1日あたりおよそ0.01〜2.0mg/体重kg、好ましくはおよそ0.01〜1.0mg/体重kgの量を投与することが有利であることが見いだされており、経腸投与の場合、薬用量は、1日あたりおよそ0.01〜2mg/体重kgに、好ましくはおよそ0.01〜1mg/体重kgである。
【0147】
それにもかかわらず場合によっては、実験動物若しくは患者の体重に応じて、又は投与経路のタイプに応じて、それだけでなく、動物の種及び医薬に対するその個々の反応又は投与が実施される間隔に基づいて、明示された量から逸脱することが必要であるかもしれない。従って、場合によっては、上記の最小量未満の使用で十分かもしれないが、他の場合には、言及した上限を上回られなければならないであろう。比較的多量が投与されている場合、該量を1日にわたって数回の単回用量に分けることが望ましいかもしれない。ヒトの医療における投与のためには、同じ薬用量の許容範囲が提供される。上記の所見は、その場合に類似して適用される。
【0148】
医薬製剤の例については、それらのすべての内容が全体として引用により本明細書に組み込まれるWO 2004/098625の50〜52ページの実施例に対して具体的に参照される。
上記の開示は、一般に本発明を記載している。より完全な理解は、下記の実施例を参照することによって得ることができる。これらの実施例は、単に例証の目的のみのために記載してあり、本発明の範囲を限定するよう意図するものではない。具体的な用語を本明細書に使用したが、このような用語は、説明的な意味で意図されており、限定目的のためではない。
【0149】
図1に示される一般的な戦略を使用して、本発明に従ったQpct構成的及び条件的ノックアウトマウス系統の発生は、下記の工程を含んだ:
―129Sv/Pas遺伝的背景におけるマウスQpct遺伝子座の標的とされた領域のクローニング及び配列決定
―ターゲティングベクター及びポジティブコントロールベクターの設計及び構築
―相同的組換え事象、Cre媒介性及びFlp媒介性切除事象の検出のためのスクリーニング条件の設定(PCR及びサザンブロット)
―ES細胞における相同的組換え
―胚盤胞へのES細胞の注入及びキメラの作出
―キメラと遍在的にFlpを発現する動物との繁殖、及びQcptにLoxP遺伝子を導入したヘテロ接合性マウス系統の作出
―キメラ又はヘテロ接合性動物と遍在的にCreを発現する動物との繁殖、及びノックアウトQpct対立遺伝子を有するヘテロ接合性変異体マウスの作出。
【0150】
(本発明を実施するための最良の形態)
図1に示される一般的な戦略を使用して、本発明に従ったQpct構成的及び条件的ノックアウトマウス系統の発生は、下記の工程を含んだ:
・129Sv/Pas遺伝的背景におけるマウスQpct遺伝子座の標的とされた領域のクローニング及び配列決定
・ターゲティングベクター及びポジティブコントロールベクターの設計及び構築
・相同的組換え事象、Cre媒介性及びFlp媒介性切除事象の検出のためのスクリーニング条件の設定(PCR及びサザンブロット)
・ES細胞における相同的組換え
・胚盤胞へのES細胞の注入及びキメラの作出
・キメラと遍在的にFlpを発現する動物との繁殖、及びQcptにLoxP遺伝子を導入したヘテロ接合性マウス系統の作出
・キメラ又はヘテロ接合性動物と遍在的にCreを発現する動物との繁殖、及びノックアウトQpct対立遺伝子を有するヘテロ接合性変異体マウスの作出。
【実施例】
【0151】
実施例1
1.マウスQpct遺伝子の特徴づけ
マウスQpct遺伝子は、多くの神経内分泌ペプチドにおけるピログルタミル残基の存在の原因であるグルタミニルシクラーゼをコードする。
1.1 マウスQpct遺伝子座
マウスQpct遺伝子座は、17番染色体に局在し、37.5kbにわたって伸びている。C57BL/6マウスの配列は、Ensemblデータベースにおいて入手可能である(www.ensembl.org,ENSMUSG00000024084)。cDNA配列NM_128770を使用して、該遺伝子のエクソン/イントロン組織化を確立した。このマウスの遺伝子は、6個のイントロンによって割り込まれる7個のエクソンからなる。翻訳開始部位は、最初のエクソンに位置し、終止コドンはエクソン7に位置する。
【0152】
また、Ensemblデータベース検索によって、同一の鎖に位置し、Qpct遺伝子の40kb上流にあるPRKCN遺伝子の存在が明らかとなった。Qpct遺伝子の下流の80kb領域内に遺伝子は知られておらず又は推定されておらず、相補鎖についてもそうである。Qpct遺伝子座のターゲティングは従って、いずれの他の遺伝子発現にも影響するとは推定されていない。
【0153】
1.2 マウスQpctタンパク質
マウスQpctタンパク質について2つのアイソフォームが公知である。これら2つのアイソフォーム(それぞれ362アミノ酸長及び313アミノ酸長)は2つのmRNAから翻訳される:すべてのエクソンを含むもの(AK045974)、及びエクソン2がスプライシングにより外れたスプライスバリアント(BC020023)。
【0154】
機能的レベルにおいて、前記タンパク質の触媒機能に重要な残基は、エクソン3(残基H141、図2参照)、エクソン4(E202及びE203)及びエクソン7(H331)にあることが公知である。また、基質に結合するのに重要な残基もエクソン3(D160)及びエクソン5(D249)において特徴づけられた。
【0155】
2.Qpctノックアウトモデルの発生のための戦略
Cre-リコンビナーゼ作用後の遍在的又は組織特異的欠失を可能にするよう、標的とされる領域を2つのLoxP部位と隣接させることによって、本発明の目的―構成的及び条件的Qpctノックアウトの両モデルの作出―を達成した。
【0156】
Qpct遺伝子のサイズにより、古典的なゲノム操作方法論を使用して遺伝子全体を欠失することは可能ではない。下記に記載される機能的データに基づいて、Qpctのエクソン4及び5を標的とした。
【0157】
(Qpctのエクソン4及び5のターゲティング)
・エクソン4における2つの触媒残基を欠失する。
・エクソン5においてコードされた基質結合残基D248を欠失する。
・欠失されるべき標的領域のサイズの減少。このことは、相同的組換え工程の確率を高め、効率的なCre媒介性組換えを可能にする。
・ノックアウトは、エクソン6における早期終止コドンの発生を引き起こすフレームシフトを、従ってタンパク質のN末端部分の損失を結果として生じる。
・代替的スプライシングは、標的領域の欠失後のエクソン3と7の間で一様に生じるべきであり、また、早期終止コドンは、エクソン7の最初に現れる。このことは、エクソン6もエクソン7も、提唱されるノックアウト戦略では翻訳できないことを保証する。
【0158】
2つのモデルの発生の中枢であるターゲティングベクターの設計が図3に示されており、下記の特徴を示す:
・Qpctエクソン4及び5と隣接する2つのLoxP部位の導入。これらのLoxP部位のうちの1つ(遠位LoxP部位)は、長い相同性アームにおいてイントロン3に挿入されるであろう。第二のLoxP部位は、イントロン5に挿入されるであろう。このLoxP部位は、ネオマイシン選択カセットと結合するであろう(下記参照)。
・ネガティブ及びポジティブ選択カセットの挿入:
―FRTの隣接するネオマイシンポジティブ選択カセットが、(LoxP部位と結合して)ターゲティングベクターに挿入され、トランスフェクトされたES細胞クローンの選択を可能にするであろう。該FRT部位によって、Flp-リコンビナーゼ作用の下でネオマイシン選択カセットを欠失することができる。
―また、ターゲティングベクターの5'において相同的組換え事象を高めるために、ジフテリア毒素A(DTA)のネガティブ選択カセットが、ターゲティングベクターの1つの先端に含まれるであろう。
【0159】
実施例2
2.1.マウスQpct相同性領域のクローニング及び配列決定
2.1.1 マウスQpct相同性領域のクローニング
本プロジェクトの第一の工程は、Qpctのエクソン4〜6を包含する約12kbのマウスゲノムDNA断片のクローニングからなった。この材料を使用して、ターゲティングベクターの構築に必要とされる相同性アームを生じた。図4に示すように、この材料を2つの重複する断片としてクローニングした:
・5'相同性アームに相当するQpctエクソン4及び5を含む5'断片。
・3'相同性アームに相当するQpctエクソン5及び6を含む3'断片。
【0160】
相同性領域をうまく増幅するのを確実にするために、Qpctエクソン5を含む544bpプローブを使用するマウス(murine)129-マウス(mouse)BAC DNAライブラリ(CT7/Invitrogen)のスクリーニングによって、2つのBACクローンを単離した。これらのBACクローンを該ライブラリのメンブレン201上に局在化させる(Invitrogen/ResGen,BACメンブレンオーダーカタログ番号96051)。クローンは、参照された201L13及び201L14である(Invitrogen/ResGen,BACクローンオーダーカタログ番号96022)。
【0161】
各相同性断片の増幅のために3つのプライマーセットを設計した。3つのプライマー対を各増幅について検査し、Qpct相同性アームの増幅のために最適な組み合わせを選択した。増幅中に導入される変異の危険性を減少させるために、201L13BACクローンに関して15PCRサイクルで増幅を実施した。
【0162】
2つの断片についてのPCR増幅の詳細は下記のとおりである:
・プルーフリーディング熱安定Taqポリメラーゼ:「Expand long template PCR system」キット(Roche Diagnostics)。
・PCRマトリックス:201L13BACベクターを使用して増幅を実施した(Invitrogen/ResGen,BACクローンオーダーカタログ番号96022)。
・プライマー配列:
【表4】
・PCR条件:
94℃で2分間
94℃で30秒間、
65℃で30秒間×15サイクル
68℃でA/Bプライマーについて7分間
C/Dプライマーについて4分間
68℃で10分間
・期待されるサイズ:
A1/B1断片:7299pb
C3/D3断片:4901pb
【0163】
2.2 マウスQpct相同性領域の配列決定
次に、それぞれ長い及び短い相同性アームを含むA1/B1及びC3/D3 PCR断片をpCR4−TOPOベクターにサブクローニングした(Stratagene)。各断片について、3つの独立したサブクローンを完全に配列決定した。
【0164】
・長い相同性アーム
129Sv/Pas遺伝的背景をPCR増幅したA1/B1断片を含む3つのクローンから得られた配列をまず互いに整列させて、PCR増幅によって導入された推定変異を同定した。
【0165】
次に、作製した129Sv/Pas配列を、公共のデータベースにおいて入手可能なC57BL/6配列と整列させた。このことによって、関心対象の領域におけるC57BL/6鎖と129Sv/Pas鎖の間の多型性の決定が可能となった。
【0166】
配列決定されたクローンのうちの1つは、増幅された領域全体において変異を呈さなかった。このクローンは、下記のクローニング工程のために選択されており、TOR2-TOPO-LAと呼ばれる。TOR2-TOPO-LAクローンに含まれるQpct DNA配列の断片は、配列番号24の配列によって表される。2つの他のクローンはそれぞれ、2個及び5個の変異を呈した。
【0167】
C57BL/6配列との配列比較によって、下記の結論をもたらす:
・配列の欠失:5個の小さな領域(1〜22bp長)が、C57BL/6配列と比較して129Sv/Pas配列にはない。これらの欠失はすべて、イントロン3に局在する。
・配列の挿入:3個の小さな領域(1〜9bp長)が、129Sv/Pas配列にのみ存在する。これらの挿入のうちの2つはイントロン3に位置し、最後の1つはイントロン4に挿入される。
・184個の塩基置換が、長い相同性アームの配列のすべてにわたって配置される。
【0168】
ひとまとめに考えると、これらのデータは、7.3kbの長い相同性アーム内でのC57BL/6と129Sv/Pasの遺伝的背景間の多型率が約2.5%であることを示唆している。この多型率は、他の遺伝子座において通常観察される平均的な率よりも10倍高い。
【0169】
・短い相同性アーム
129Sv/Pas遺伝的背景をPCR増幅したC3/D3断片を含む3つのクローンから得られた配列をまず互いに配列比較し、PCR増幅によって導入される推定変異を同定した。
【0170】
次に、生じた129Sv/Pas配列を、公共のデータベースにおいて入手可能なC57BL/6配列と配列比較した。このことによって、関心対象の領域におけるC57BL/6鎖と129Sv/Pas鎖の間の多型性の決定が可能となった。
【0171】
配列決定されたクローンのうちの2つは、増幅された領域全体において変異を呈さなかった。これら2つのクローンのうちの1つを、下記のクローニング工程のために選択し、TOR2-TOPO-SAと呼ぶ。TOR2-TOPO-SAクローンに含まれるQpct DNA配列の断片を配列番号25の配列によって表す。配列決定された第三のクローンは、2個の変異を呈した。
【0172】
C57BL/6配列との配列比較によって、下記の結論をもたらす:
・配列挿入:28bp領域は、いくつかのリピートを呈する領域において、129Sv/Pas配列にのみ存在する。
・122個の塩基置換は、短い相同性アームの配列のすべてにわたって配置される。
【0173】
ひとまとめに考えると、これらのデータは、4.9kbの短い相同性アーム内でのC57BL/6と129Sv/Pasとの遺伝的背景の間の多型率がかなり高いことを示唆している(約3%)。
Qcptエクソン3〜6のクローニングから生じた配列に基づいて、 ターゲティングベクター構築戦略及びスクリーニング戦略を設計した。
【0174】
実施例3:
ターゲティングベクター及びポジティブコントロールベクターの構築
最終的なターゲティングベクター構築のための包括的な戦略を図5に概略的に描いている。この構築は、並行して実施される8工程(図5の丸囲み数字)に再分することができる。
【0175】
工程1a及び1b:5'及び3'の相同性アームをマウス129Sc/PasゲノムDNAからPCR増幅した。短い相同性アームは、最終的なターゲティングベクターには存在しない伸長した領域(図5の3bにおいて緑色の点線として示されている。)を含む(図5の4a及び5a参照)。
【0176】
工程2a及び2b:ターゲティングベクターの構築に使用されるすべての制限部位を有する修飾されたリンカーを含むpScriptベクターにおいて、2つの相同性アームをサブクローニングした。
工程3a:イントロン3のBsgI部位に遠位LoxP部位を導入した。この遠位LoxP部位を、LoxP部位の下流に位置するSwaI及びBamHI制限部位とともに導入した。ES細胞クローンにおける遠位LoxP部位の検出のために、及び該クローンのサザン分析のために、制限部位を使用する。
【0177】
工程3b:ES細胞において効率的であることが立証されているFRT-PGK-ネオマイシンFRT-LoxPポジティブ選択カセットを、伸長した3'相同性アームの上流のイントロン5にサブクローニングした。この工程によって、PCRスクリーニング設定のために続いて使用されるポジティブコントロールベクターが生じる(下記参照)。
【0178】
工程4:遠位LoxP部位を含む5'の長い相同性アームを、3'の短い相同性アームとともにクローニングした。この後者の短いアームは、その最終的なサイズで短くなり、イントロン6のNotI部位で終わる。
結果として得られるベクターを、TOR2-LSAベクターと呼び、ターゲティングベクターとして使用して、ES細胞に電気穿孔した。
【0179】
工程5:5'の長い相同性アームの上流にあるジフテリア毒素A(DTA)ネガティブ選択カセットのサブクローニング。
TOR2-LSAベクター(DTAを有さないベクター)をES細胞に電気穿孔し、その間、DTAカセットをサブクローニングすることを試行した。実際、DTA選択カセットは、ターゲティングベクターがゲノムに無作為に組み込まれたES細胞クローンを対抗選択するのに役立つが、必須ではない。
【0180】
ターゲティングベクターは下記の特徴を示す:
・使用されるであろうES細胞株と同質遺伝子的な相同性アーム(129Sv/Pas)。
・Qpct遺伝子のエクソン4〜6の存在。
・約9kbの標的対立遺伝子との総相同性。
・非対称的な相同性アーム(5'の長いアーム:6.6kb、3'の短いアーム:2.4kb)
・FRT部位によって隣接されるポジティブ選択ネオマイシン遺伝子。FRTによって隣接される選択カセットは、Flpリコンビナーゼを使用して除去することができる。
・エクソン4及び5に隣接しかつCre-リコンビナーゼ作用の下で欠失することができるLoxP部位。Qpctノックアウト動物を作出するこの欠失は、該系統をCre発現マウスと繁殖させることによってインビボで実施することができる。使用されるマウスの系統におけるCreの遍在的又は組織特異的発現に応じて、構成的又は条件的Qpctノックアウトが得られるであろう。
・ネオマイシン選択カセットから短い距離(3kb)に、遠位LoxP部位を導入する。このことは、相同的組換え工程の間のその組込みを優勢にする。
【0181】
実施例4:
相同的組換え事象の検出のためのスクリーニング戦略の立案および設定
ES細胞における相同的組換え事象の迅速かつ明確な同定を可能にするスクリーニング戦略を立案することは絶対的に重要である。スクリーニング戦略は、3'ターゲティング事象についての最初のPCRスクリーニングに、次いで5'ターゲティング事象についてのPCRスクリーニングに基づいている。次に、PCRによって同定されたクローンは、サザンブロット分析によって確認されるであろう。
【0182】
4.1 相同的組換え事象の検出のためのPCRスクリーニング
(3'ターゲティング事象のためのスクリーニング:)
ターゲティングベクターの期待される組込みの検出のための最初のスクリーニングを、3'の短い相同性アームにわたるPCR増幅によって達成する。このPCRは、ネオマイシン選択カセットにおいてハイブリッド形成する順方向プライマー(TOR2-H、図6)、及びターゲティングベクター相同性配列の下流に位置する逆方向プライマー(TOR2-I、図6)を使用して実施する。その局在性のために、このプライマーセットによって、Qpct遺伝子座におけるターゲティングベクターの3'の組込みの明確かつ特異的な検出が可能となる。
【0183】
3セットのH/Iプライマー(TOR2-H1/TOR2-I1〜TOR2-H3/TOR2-I3、下記参照)を設計して、スクリーニングの質を最適化した。このスクリーニングをまずポジティブコントロールベクター(下記及び図6参照)に関して、野生型129Sv/PasゲノムDNA及びゲノムDNAに希釈されたポジティブコントロールベクターに関して、下記の通り設定した:
・DNAなし
・0.1コピーと等価のゲノム*のコントロールDNA
・0.5コピーと等価のゲノム*のコントロールDNA
・1コピーと等価のゲノムのコントロールDNA
・10コピーと等価のゲノムのコントロールDNA
・150ngの129Sv/PasゲノムDNA
・150ngのゲノムDNA+0.1コピーと等価のゲノムのコントロールDNA
・150ngのゲノムDNA+0.5コピーと等価のゲノムのコントロールDNA
・150ngのゲノムDNA+1コピーと等価のゲノムのコントロールDNA
・150ngのゲノムDNA+10コピーと等価のゲノムのコントロールDNA
【0184】
(*)1コピーと等価のゲノムのコントロールDNAは、150ngのゲノムDNAにあるのと同一コピー数を含むコントロールDNAの重量である。
1コピーと等価のゲノム=コントロールベクターの長さ(bp)×150/6.109bp。従って、7975bpのTOR2-C+ベクターについては、1コピーと等価のゲノムは2.0 10−4ngである。
【0185】
この手法によって、ゲノムDNAにおける1コピーと等価のゲノムのコントロールDNAを検出するのに十分な感度のあるPCRスクリーニングを設定することができる。このことは、ES細胞の信頼性のあるスクリーニングに必要とされる。
【0186】
(3'末端PCR条件:)
・Taqポリメラーゼ:「Expand long template PCR system」キット(Roche diagnostics)由来。
【表5】
・PCR混合物及びプログラム:
【表6】
・期待されるサイズ:
TOR2-H1/TOR2-I1プライマーセット:3284bp
TOR2-H2/TOR2-I2プライマーセット:2900bp
TOR2-H3/TOR2-I3プライマーセット:3555bp
【0187】
TOR2-Hがネオマイシンカセットとハイブリッド形成するので、野生型DNAに関して増幅は期待されない。
上記の野生型129Sv/Pas ES細胞から抽出されたゲノムDNAにおいて加えられたポジティブコントロールベクタープラスミドTOR2-C+の連続希釈物に関して、3セットのプライマーを検査した。
【0188】
プライマーセットTOR2-H2/TOR2-I2は、最適な結果を与え、スクリーニングのために選択された。図7に示すように、TOR2-H2/TOR2-I2プライマーは、期待された2.9kbのバンドの検出を生じる。PCR感度によって、0.1コピーと等価のゲノムを検出することができ(図7のレーン2及び6)、PCR設定の必要条件を満たした。さらに、野生型129Sv/Pas ES細胞から抽出されたゲノムDNAに関してシグナルが観察されないので、PCR反応の特異性が検証されている(図7のレーン10参照)。
【0189】
組換えゲノム構造と同様の条件下で、プライマーセットTOR2-H2/TOR2-I2を検査した。このことは、ES細胞にTOR2-C+ポジティブコントロールベクターをトランスフェクトすることによって達成した。プライマーの特異性及びPCR反応の感度を検査するために、このプロトコルを確立した。結果を図8に示す。
【0190】
スクリーニングされた39個の耐性コントロールES細胞クローンのうち、13個は、図8の7個のクローンについて示されるように、期待された2.9kbのバンドを示した。このことは、PCRスクリーニングがTOR2-C+ベクターの電気穿孔後に得られた耐性クローンのスクリーニングについて信頼性があることを示した。相同的組換え事象のスクリーニングの間のポジティブコントロールとして使用するために、ES細胞安定トランスフェクタントクローン1B9及び1A1を選択した。
【0191】
(5'ターゲティング事象についてのスクリーニング:)
ターゲティングベクターの5'末端の期待された組込みを検出するために、TOR2-J2/TOR-K2プライマーを設計した。順方向プライマー(TOR2-J2、図9)は、長い相同性アームの上流に位置し、逆方向プライマー(TOR2-K2、図9)は、イントロン4に位置する。その局在性に起因して、このプライマーセットによって、Qpct遺伝子座におけるターゲティングベクターの5'での組込みの明確かつ特異的な検出が可能となる。
【0192】
(5'末端PCR条件:)
・Taqポリメラーゼ:「Expand long template PCR system」キット(Roche diagnostics)由来。
【表7】
・PCR混合物及びプログラム:
【表8】
・PCR産物について期待されるサイズは下記のとおりである:
PCR産物 SwaI消化後のプロファイル
野生型対立遺伝子 4597bp 4597bp
標的とされる対立遺伝子 4649bp 4018+631bp
【0193】
TOR2-J2/TOR2-K2セットのプライマーを使用する5'末端PCRスクリーニングを、ES細胞及び尾部生検から抽出した野生型DNAに関して設定した。結果を下記の図10に示す。
図10に示すように、GX2633-TOR2-J2/GX2634-TOR2-K2プライマーを使用して、期待される4.6kbバンドが、(ES細胞及び尾部生検から抽出された)ゲノムDNAに関する増幅後に観察される。このことは、ES細胞及び尾部生検の両方における遠位LoxP部位の検出のためのPCRスクリーニングを検証している。
【0194】
4.2 5'及び3'ターゲティング事象の検出のためのサザンブロット分析
Qpct遺伝子座における相同的組換え後の5'及び3'の両末端領域の組込みは、サザンブロットを使用してPCRにより選択されたES細胞クローンに関して評価される。内因性で標的とされたQpctのFlp欠失した及びCre欠失した遺伝子座の制限マップが図11に描かれている。
【0195】
5'相同性アームの上流又は3'相同性アームの下流を切断する制限酵素を使用して、5'及び3'の両方のサザンブロットを実施した(図11)。
インシリコでの分析に基づいた最良の特異性を有するプローブを選択するために、マウスゲノムデータベースに対してK及びRプローブ配列をBLAST処理した。確認スクリーニング自体に移る前にプローブの特異性を検証するために、野生型ゲノムDNAに関してサザンブロットを設定した。
【0196】
(5'ターゲティング事象のサザンブロット検証:)
5'末端相同的組換えを検査するためのサザンブロット分析は、ゲノムDNAのBamHI消化、及びイントロン3に位置する482bpの5'内部Kプローブを使用する検出に基づいている(図11参照)。このKプローブは、TOR2-TOPO-LAベクターからサブクローニングされたAvrII/SacIである。
【0197】
BamHIによって消化され、設計されたKプローブとハイブリッド形成した野生型ゲノムDNAは、1つのバンドを与え、そのサイズは約13.2kbであるのに対し、組換えたゲノムDNAは、8.9kbのバンドを与えると期待される(図11参照)。
【0198】
使用されるハイブリッド形成条件を下記に示す:
・プレハイブリッド形成及びハイブリッド形成:4×SSC、1%SDS、0.5%脱脂乳、20mM EDTA、100μg/mLニシン精子、65℃で18時間。
・洗浄:65℃で3×SSC、1%SDSで15分間を2回、次に、65℃で0.5×SSC、1%SDSで15分間を2回。
・露光:BioMax補力スクリーンを使用してBioMax MSフィルムに3日間。
【0199】
5'Kサザンブロットプローブの製造:
TOR2-TOPO-LAベクターをAvrII/SacI酵素によって消化し、8231、2588及び482bpの3つの断片を得る。
482bp断片の精製によって、Kプローブを得る。
(期待されるバンドのサイズ):
―野生型Qpct対立遺伝子:13.2kb
―組換えたQpct対立遺伝子:8.9kb
【0200】
野生型129Sv/Pas及び129Ola ES細胞並びにC57BL/6野生型尾部生検から抽出したゲノムDNAに関して、このサザンブロット戦略を試験した(データ未表示)。ES細胞の遺伝子型同定並びにヘテロ接合性及びホモ接合性マウスの特徴づけの両方のために、5'Kプローブをうまく検証した。
【0201】
(3'ターゲティング事象のサザンブロット検証:)
3'末端相同的組換えを検査するためのサザンブロット分析は、ゲノムDNAのSwaI消化、及びエクソン6に位置する406bpの3'内部Rプローブを使用する検出に基づいている(図11参照)。このRプローブを、TOR2-R1及びTOR2-R2プライマーを使用するPCRによって増幅する(下記参照)。
【0202】
SwaIによって消化され、かつ設計されたRプローブとハイブリッド形成した野生型ゲノムDNAは、そのサイズが約6kbである1つのバンドを与えるのに対し、組換えたゲノムDNAは、10.5kbのバンドを与えると期待される(図11参照)。
【0203】
使用されるハイブリッド形成条件を下記に示す:
・プレハイブリッド形成及びハイブリッド形成:4×SSC、1%SDS、0.5%脱脂乳、20mM EDTA、100μg/mLニシン精子、65℃で18時間。
・洗浄:65℃で3×SSC、1%SDSで15分間を2回、次に、65℃で0.5×SSC、1%SDSで15分間を2回。
・露光:BioMax補力スクリーンを使用してBioMax MSフィルムに3日間。
【表9】
【0204】
ES細胞の遺伝子型同定並びにヘテロ接合性及びホモ接合性マウスの特徴づけの両方のためのプローブを検証するために、野生型129Sv/Pas及び129Ola ES細胞並びにC57BL/6野生型尾部生検から抽出したゲノムDNAに関して、このサザンブロット戦略を試験した(図12参照)。
図12にあるように、129Sv/Pas及びC57BL/6ゲノムDNAのSwaI消化後に、期待された6kbバンドを観察した。この結果は、3'末端サザンブロット戦略を検証している。
【0205】
実施例5
Flp媒介性及びCre媒介性切除事象のためのスクリーニング戦略の立案
Flp媒介性切除によって、ネオマイシンカセットを欠失することができる。この欠失は、検証されたFlp発現プラスミドを、標的とされるES細胞クローンにトランスフェクトすることによってインビトロで、又はQpctを標的とした動物を遍在的にFlpを発現するマウスと繁殖させることによってインビボで実施することができる。Qpctのエクソン4及び5のCre媒介性欠失によってQpctノックアウトマウス系統を作出することが、インビボで実施されるであろう。
PCR及びサザンブロットスクリーニングによって、野生型、標的とされたFlp媒介性の及びCre媒介性のノックアウト対立遺伝子を欠失することができる。
【0206】
5.1 Flp媒介性及びCre媒介性切除事象の検出のためのPCRスクリーニング戦略
Cre媒介性切除事象の検出のために、TOR2-N/TOR2-I1プライマーを設計した。順方向プライマーTOR2-I1は、ネオマイシンカセットの上流の長い相同性アームに位置する(図13)。順方向プライマーTOR2-Nは、3'の短い相同性アームの下流に位置する。
プライマーセットの局在性により、このPCRによって、エクソン4〜5及びネオマイシン選択カセットのCre媒介性切除の明確な検出が可能となる。
【0207】
Flp媒介性切除事象の検出のために、TOR2-N2/TOR2-I4プライマーを設計した。順方向プライマーTOR2-N2は、ネオマイシンカセットのすぐ上流にある長い相同性アームに位置する(図13)。順方向プライマーTOR2-I4は、ネオマイシンカセットの下流の短い相同性アームに位置する。
【0208】
プライマーセットの局在性により、このPCRによって、ネオマイシン選択カセットのFlp媒介性切除の検出が可能となる。このPCRは、ターゲティングベクターに対して内部に位置するプライマーを使用しているので、動物の遺伝子型同定は、サザンブロット分析によって確認されなければならない。
【0209】
(Cre媒介性切除PCR条件:)
・Taqポリメラーゼ:「Expand long template PCR system」キット(Roche diagnostics)由来。
【表10】
・PCRプログラム:
【表11】
・ PCR産物について期待されるサイズは下記のとおりである:
【表12】
【0210】
Flp媒介性切除のPCR条件:
・Taqポリメラーゼ:「Expand long template PCR system」キット(Roche diagnostics)由来。
【表13】
・PCRプログラム:
【表14】
・PCR産物について期待されるサイズは下記のとおりである:
【表15】
【0211】
Cre媒介性及びFlp媒介性切除事象の検出のためのPCRスクリーニング(GX2147-TOR2-N/GX2140-TOR2-I2セットのプライマー及びGX4354-TOR2-N2/GX4353-TOR2-I4セットのプライマーをそれぞれ使用)を、ES細胞及び尾部生検から抽出した野生型DNAに関してうまく設定した(データ未表示)。
【0212】
実施例6
ターゲティングベクターの製造
線形化形態を得るために、NotIによってTOR2-LSAプラスミドを消化した。結果として生じる13.6kbの断片をフェノール/クロロホルム抽出、次いでエタノール沈殿によって精製した。次に、この製造物をES細胞電気穿孔に使用した。
【0213】
実施例7
ゲネチシン耐性ES細胞クローンの選択及び増幅
下記の電気穿孔手法に従って、線形TOR2-LSAプラスミドをES細胞にトランスフェクトした:
100μgの線形化したプラスミドの存在下での100×106個のES細胞、800V、300μF。電気穿孔の48時間後に、200μg/mLのG418の添加によってポジティブ選択を開始した。
【0214】
この電気穿孔によって、237個の耐性クローンが生じた。これらのES細胞クローンを96ウェルプレートにおいて増幅し、二つ組の96ウェルプレートを作製した。相同的組換え事象の検出のために、ゼラチン上で増幅したES細胞クローンを含むプレートのセットをPCRによってスクリーニングした。
【0215】
得られた第一シリーズのクローンの注入の際の困難さを迂回するために(下記参照)、線形TOR2-LSAプラスミドの第二の電気穿孔を同一条件下で実施した。この第二の電気穿孔によって、184個の耐性クローンが生じた。これらのクローンを増幅し、第一の穿孔と同じように二つ組にした。
【0216】
実施例8
ゲネチシン耐性ES細胞クローンのスクリーニング
8.1 3'末端での相同的組換えについてのPCRスクリーニング
PCRを使用して、237個のゲネチシン耐性クローン(第一の電気穿孔後に回収)+184個のゲネチシン耐性クローン(第二の電気穿孔後に回収)を、ターゲティングベクターの3'末端での期待される相同的組換え事象の検出のためにスクリーニングした。
【0217】
GX1406-TOR2-H2/GX2141-TOR2-I2プライマーを使用する3'PCRスクリーニングによって、期待されるサイズ(2.9kb)の増幅した断片を示す14個(第一の電気穿孔)+21個(第二の電気穿孔)のポジティブクローンが明らかとなった。これらのポジティブクローンのうちの7個が図14に示されている。
【0218】
35個の3'PCRポジティブクローンを第二の3'PCRによって確認した。第一の電気穿孔から同定した14個のポジティブクローン及び第二の電気穿孔から同定したポジティブクローンのうちの10個をさらに、ターゲティングベクターの5'末端での相同的組換え事象について分析した。
【0219】
8.2 5'末端での相同的組換えについてのPCRスクリーニング
TOR2-J2(GX2633)及びTOR2-K2(GX2634)プライマーを使用して、ターゲティングベクターの5'末端での相同的組換え事象の検出のためのスクリーニングを実施した(図9参照)。順方向プライマー(GX2633-TOR2-J2)は、ターゲティングベクターの上流に位置し、逆方向プライマー(GX2634)は、遠位LoxP部位の下流の長い相同性アームに位置する(図9参照)。
【0220】
PCR産物のSwaI消化によって、野生型と標的とされた対立遺伝子とを識別することができ、かつ長い相同性アームの内側の遠位LoxP部位の存在を検出することができる(図9参照)。プライマーセットの局在性により、このPCR、次いでPCR産物のSwaI消化によって、Qpct遺伝子座におけるターゲティングベクターの5'組込みの明確かつ特異的な検出が可能となる。
【0221】
5'PCRの結果を、3つのクローンについて下記に示す(図15)。
5'PCRを使用してポジティブと同定された14+10個のES細胞クローンのうち:
・11個のクローンは5'側で明白にポジティブであった:すなわち、クローン#6A3、#6C3、6C10、5B8、5C5、5C12、10A9、10B2、11B4、12A2及び15B2。図15に示される2つのクローン#6A3及び#6C10のように、6個のポジティブクローンは、SwaI消化後に4kb及び0.6kbの断片に再分される4.6PCR産物を示した。
・5'PCRの結果は、2つのクローン#5A11及び#5D4について不明瞭であった(これら2つのクローンについての弱いPCR増幅)。
・残りの11個のクローン(#5A1、5B2、5B4、5A7、5B9、5D4、9A2、9B1、10A3、10A10及び11B7)については、図15においてクローン#6C30について示すように、PCR産物はSwaIによって切断されなかった。このことは、これら11個のクローンが、ターゲティングベクターの5'側で、期待された相同的組換えを受けなかったことを示している。
【0222】
このように、11個のポジティブクローン#6A3、#6C3、6C10、5B8、5C5、5C12、10A9、10B2、11B4、12A2及び15B2は、5'及び3'の両方のPCRスクリーニングに対してポジティブである。このことは、これらのクローンが、5'の長い相同性アーム及び3'の短い相同性アームの両方において、期待された組換え事象を受けていることを示した。さらに、標的とされたQpct遺伝子座におけるLoxP部位の存在を、PCR産物のSwaI消化によって示した。この点は、Cre-リコンビナーゼ作用の下でのエクソン4及び5のさらなる欠失、従ってQpct遺伝子ノックアウトを可能にするのに重要である。
11個のポジティブクローンを24ウェルプレートにおいて再度増幅し、ターゲティングベクターの5'側及び3'側におけるサザンブロットによってさらに分析した。
【0223】
8.3 サザンブロットスクリーニング
PCRによって同定した11個のポジティブES細胞クローンを、5'サザンブロットによってさらに検査した。この5'サザンブロットは、ゲノムDNAのBamHI消化、及び長い相同性アームにおいてイントロン3に位置する482bpプローブである5'Kプローブを使用する検出に基づいている(実施例4、項目1.2及び図5参照)。
期待されるバンドのサイズ:
―野生型Qpct対立遺伝子:13.2kb
―組換えたQpct対立遺伝子:8.9kb
【0224】
第一の電気穿孔の6個のポジティブクローンについて図16に示すように、野生型及び標的とされたQpct対立遺伝子に相当する2つのバンドの存在によって、分析した11個のクローンについてのPCRスクリーニング結果が確認された。クローンのうちの4個、すなわちクローン#6C10、10A9、11B4及び12A2は、予期せぬサイズでさらなるバンドを示した。使用したプローブが、(ターゲティングベクターの内側でハイブリッド形成している)内部プローブであったので、このさらなるバンドの検出は、Qpct遺伝子座における、相同的組換え事象を通じての、ターゲティングベクターの期待された組込みに加えて、未知の遺伝子座におけるターゲティングベクターの無作為な組込みの存在を示した。たとえ、このランダムな組込み体が、標的とされたQpct対立遺伝子から容易に分離されるであろうとしても、その他のクローンが、本プロジェクトのさらなる展開のために優先的に選択された。
【0225】
次に、11個のES細胞クローンを3'サザンブロットによって検査した。3'サザンブロットは、ゲノムDNAのSwaI消化、及びエクソン6に位置する406bpの3'内部Rプローブを使用する検出に基づいている(実施例4の1.2及び図5参照)。
期待されるバンドのサイズ:
―野生型Qpct対立遺伝子:6.0kb
―組換えたQpct対立遺伝子:10.5kb
【0226】
第一の電気穿孔の6個のポジティブクローンについて図17に示すように、野生型及び標的とされたQpct対立遺伝子に相当する2つのバンドの存在によって、分析した11個のクローンについてのPCRスクリーニングが確認された。また、クローン#6C10、10A9、11B4及び12A2は、予期せぬサイズのさらなるバンドを示しており、Qpct遺伝子座における、相同的組換え事象を通じての、ターゲティングベクターの期待された組込みに加えて、未知の遺伝子座におけるターゲティングベクターの無作為な組込みの存在が確認された。
【0227】
このように、7個のESクローン#5B8、#5C5、#5C12、#6A3、#6C3、#10B2及び#15B2を、ターゲティングベクターの5'及び3'の両端で正確に標的とされたものとして、サザンブロットによって確認した。残りの4個のクローン#6C10、10A9、11B4及び12A2もターゲティングベクターの5'及び3'の両端で正確に標的とされたものとして確認されたが、これらのクローンには未知の遺伝子座での該ターゲティングベクターのさらなる無作為な組込みが存在した。
胚盤胞への注入に対応する本プロジェクトの次の段階のために、ES細胞クローン#5C5、#5C12、#6A3、#6C3、#15B2、#10B2及び#11B4を選択した。
【0228】
実施例9
組換えES細胞胚盤胞注入及びキメラの作出
9.1 注入セッション
妊娠中のC57BL/6雌からレシピエント胚盤胞を単離した(健康状態SPF-特定病原体除去)。形態学的特徴に基づいて、ES細胞クローン#5C5、#5C12、#6A3、#6C3、#15B2、#10B2及び#11B4を選択して、胚盤胞に注入した。
【0229】
次に、注入した胚盤胞をOF1偽妊娠雌(健康状態SOPF-特定病原体及び日和見病原体除去)に再移植した。表1は、該注入セッションから得られた結果を要約する。
【0230】
9.2 キメラ
クローン#6A3を86個の胚盤胞に注入して、19個体の仔を作出した。11個体のキメラを同定した:
・キメラ化の割合が20%、15%、10%、5%(各2個体)である8個体の雄キメラ。
・キメラ化の割合が20%(2個体)、10%である3個体の雌キメラ
クローン#6C3を90個の胚盤胞に注入して、16個体の仔を作出した。8個体のキメラを同定した:
・キメラ化の割合が30%及び5%(2個体)である3個体の雄キメラ。
・キメラ化の割合が20%(3個体)、15%及び2%である5個体の雌キメラ。
クローン#5C12を54個の胚盤胞に注入して、4個体の仔を作出した。2個体のキメラを同定した:
・キメラ化の割合が35%及び15%である2個体の雄キメラ。
クローン#5C5を54個の胚盤胞に注入して、3個体の仔を作出した。3個体のキメラを同定した:
・キメラ化の割合が90%、60%及び10%である3個体の雌キメラ。
クローン#15B2を30個の胚盤胞に注入して、6個体の仔を作出した。3個体のキメラを同定した:
・キメラ化の割合が75%である1個体の雄キメラ。
・キメラ化の割合が90%及び1%である2個体の雌キメラ。
クローン#10B2を30個の胚盤胞に注入して、仔は1個体も作出されなかった。
クローン#11B4を30個の胚盤胞に注入して、4個体の仔を作出した。3個体のキメラを同定した:
・キメラ化の割合が75%、35%及び8%である3個体の雄キメラ。
【0231】
下記の表1は、実施されたES細胞胚盤胞注入セッション及びキメラ作出の結果を編集している。
【表16】
表1:ES細胞クローン#6A3、#6C3、#5C12、#5C5、#15B2、#10B2及び#11B4胚盤胞注入からの結果
雌キメラが、低い確率の生殖系列伝達を有するので、得られた雌キメラをさらなる繁殖のためには選択しなかった。
【0232】
作出した雄キメラのうち、20%(クローン#6A3、2個体)、30%(クローン#6C3)及び35%(クローン#5C12)での4個体の雄を繁殖相のために選択した。生殖系列伝達がこれらのキメラのうちの1つから得られた後、作出した最後のキメラ(75%のキメラ化、クローン#15B2及び#11B4)が性成熟したので、これらの後者のキメラは、その後の繁殖相には使用しなかった。
【0233】
実施例10
キメラの繁殖、及び標的とされた又はCre切除した対立遺伝子についてのF1ヘテロ接合体の作出
ESクローン#6A3、#6C3及び#5C12の胚盤胞注入によって先の相において作出した4個体のキメラ雄(20%〜35%のキメラ化を示す。)を野生型C57BL/6J雌(健康状態SOPF-特定病原体及び日和見病原体除去)と交配して、標的とされたES細胞が胚葉に寄与したかどうかを研究した。また、キメラをFlp「欠失体」雌又はCre「欠失体」雌(健康状態SOPF-特定病原体及び日和見病原体除去)と繁殖させて、ネオマイシン選択カセット又はQpctエクソン4〜5及び選択カセットの欠失をそれぞれ得た。
【0234】
下記の表2は、キメラ繁殖の結果を要約する。
【表17−1】
【表17−2】
表2:キメラ繁殖の結果報告
前記動物の遺伝子型を括弧の中に付与する(下記の本文も参照されたい。)。WT:野生型;標的とされたHet:標的とされたQpct対立遺伝子を有するヘテロ接合体;部分的にCre切除したHet:Cre媒介性切除したQpct対立遺伝子及び標的とされたQpct対立遺伝子を有するヘテロ接合体;Cre切除したHet:Cre媒介性切除したQpct対立遺伝子を有するヘテロ接合体。
【0235】
ES細胞がキメラの胚葉に寄与したかどうかを評価するために、マウス外被色マーカーを使用した。129Sv/Pas ES細胞の外被色マーカーは、C57BL/6Jマウスの黒の外被色よりも優性である。それゆえ、該キメラをC57BL/6Jマウスと交配することによって、キメラ生殖細胞がC57BL/6J細胞に由来する場合、黒色の仔を作出するか、又はES細胞が生殖細胞に寄与した場合、アグーチ着色した仔を作出するかのいずれかであるべきである。
【0236】
繁殖のためにC57BL/6Jマウスを使用する場合、F1作出におけるアグーチ色の仔の存在は従って、ES細胞の生殖系列伝達についての証拠である。ES細胞において、常染色体性標的遺伝子のたった1つのコピーが標的とされ、結果として、生殖系列伝達が生じると仮定すると、結果的に生じるアグーチ色の仔の50%が、変異した染色体をES細胞から受けるべきであり、50%が野生型染色体を受けるべきである。
【0237】
上記のように、いくつかの異なる雌との交配にもかかわらず、3ヶ月間の繁殖中に同腹仔が1匹も観察されなかったので、ケージ4135における20%の雄キメラ(クローン#6A3)は不妊であると思われる。
【0238】
ケージ4134における20%雄キメラ(クローン#6A3)及びケージ4136における30%雄キメラ(クローン#6C3)を使用して、キメラがそれぞれ2個体及び3個体の黒色同腹仔を作出したので、生殖系列伝達は観察されなかった。
【0239】
最後に、ケージ4416における35%雄キメラ(クローン#5C12)と交配したC57BL/6野生型雌に由来する2個体のアグーチ色のF1動物が観察されたことは、Qpct変異の生殖系列伝達が成功した証拠である。これらの動物は、野生型として遺伝子型を同定した(データ未表示)。
【0240】
この雄キメラ及び129Sv/Pas CMV-Cre#91雌に由来するF1動物の遺伝子型を同定して、構成的ノックアウト対立遺伝子を有するヘテロ接合性マウスを同定した。雌の背景が129Sv/Pasであるので、マウス外被色マーカーは使用することができない。従って、F1動物#34709〜34716及び35437〜35443のすべての遺伝子型を下記の通り同定した。
【0241】
10.1 F1作出のPCR遺伝子型同定
結果として生じる15個体の仔から採取した尾部生検からDNAを調製し、2つの異なるPCR戦略によって遺伝子型を同定した:
・標的とされたQpct対立遺伝子内でLoxPの隣接する領域のCre媒介性切除の検出のためのCre切除PCR(図18参照)。このPCRは、使用したテンプレートに応じて異なるサイズの増幅産物を生じる:野生型、標的とされた、又はCre切除した対立遺伝子。
・ES細胞における相同的組換え事象の検出のために既に使用された3'PCRスクリーニング(図19参照)。このPCR戦略は、LoxP-FRT-ネオマイシン-FRTカセット及び遠位LoxP部位の隣接するエクソン4及び5を有する未切除の標的とされたQpct対立遺伝子を検出する。
【0242】
10.2 Cre媒介性切除事象についてのPCRスクリーニング
遠位LoxP部位の上流の5'相同性アームにおいてハイブリッド形成する順方向プライマーTOR2-Nと、エクソン6の下流でハイブリッド形成する逆方向プライマーTOR2-I1とを使用して、Cre切除PCRを実施した(図13参照)。その局在性のため、このプライマー対によって、Cre媒介性切除事象の特異的検出が可能となる。
【0243】
Cre切除した対立遺伝子は、上記のプライマー対を使用して4.4kbの増幅産物を生じるのに対し、標的とされた(未切除の)対立遺伝子は、9.2kbの増幅産物を生じる(図13参照)。両方のプライマーが野生型で標的とされていない対立遺伝子においてハイブリッド形成するので、野生型対立遺伝子に相当する7.3kbのさらなる増幅産物が、すべての動物から得られるであろう。遺伝子型を同定するPCRの結果の代表的な例を図18に示す。図18に示すように、PCRは常に、より小さなPCR産物を生じる対立遺伝子の増幅を優勢にする。ヘテロ接合性野生型又はヘテロ接合性の標的とされた対立遺伝子の大きなサイズの増幅産物は結果として、増幅効率が乏しいかもしれない。
【0244】
Cre切除PCRによる遺伝子型同定によって、生まれた15個体の検査動物のうち、2個体の動物(#35437及び#35438)が、Cre切除した対立遺伝子を有することが示された。その他の13個体の検査動物は、野生型マウスであるか又は標的とされた対立遺伝子を有しているかのいずれかであった。この後者の標的とされた対立遺伝子は、Cre切除した及び野生型の対立遺伝子に対応するより短いPCR産物の優先的な増幅のため、このPCR戦略によって明確には検出されなかった。
【0245】
10.3 相同的組換え事象についての3'PCRスクリーニング
推定上の切除したヘテロ接合体におけるネオマイシンカセット及びQpct標的領域の切除をさらに確認するために、3'PCRスクリーニングを使用して、標的された対立遺伝子を検出した。従って、このPCRに対してポジティブである検査動物は、Qpct遺伝子座内に組み込まれたネオマイシンカセットをなおも有している。
【0246】
ネオマイシン選択カセット内に位置する順方向プライマーTOR2-H2と、下流でハイブリッド形成する逆方向プライマーTOR2-I2とを使用して、3'PCRスクリーニングを実施した(図6参照)。プライマー配列及び最適化されたPCR条件を表4及び表5に列挙する。
【0247】
その局在性のため、このプライマーセットによって、標的とされた未切除のQpct対立遺伝子の特異的検出が可能となり、標的とされたが未切除のQpct対立遺伝子を有するヘテロ接合性仔において2900bpのサイズの増幅産物を生じる。遺伝子型を同定するPCRの結果の代表的な例を図19に示す。
3'PCRスクリーニングによる遺伝子型の同定によって、生まれた15個体の検査動物のうち、2個体(#35437及び#35441)が、標的とされた対立遺伝子を有していることが示された。
【0248】
総合すると、これら2つのPCRスクリーニングの結果は、15個体の検査動物のうち下記であることを示した:
・2個体(#35437及び#35438)は、切除した対立遺伝子に相当する増幅産物を生じ、これらのマウスがCre切除したノックアウト対立遺伝子についてヘテロ接合性であることを示唆した。
・雄#35437は、Cre切除した対立遺伝子及び標的とされた未切除の対立遺伝子の両方に相当する増幅産物を示した。このことは、このマウスが、切除した細胞タイプと未切除の細胞タイプからなるモザイクであることを意味する不完全な切除事象を有していることを示唆している。この動物は屠殺された。
・雄#35438は、標的とされた未切除の対立遺伝子に特異的なPCRに対して何ら増幅産物を示さず、従って、完全な切除事象を確認した。それゆえ、この雄は、特徴づけられた最初のヘテロ接合性構成的Qpctノックアウトマウスである。次に、よりヘテロ接合性の構成的Qpctノックアウト動物を作出するために、このヘテロ接合性雄を野生型雌と交配した。該結果は、下記の実施例11に記載する。
・最後に、雌#35441は、野生型対立遺伝子及び標的とされた未切除の対立遺伝子を有しているが、Cre切除した対立遺伝子を有していない。従って、この雌は、Qpct標的領域がLoxP遺伝子を導入されており、かつネオマイシン選択カセットをなおも含むヘテロ接合性Qpct標的動物である。選択カセットのインビボでの切除を得るために、この雌#35441をFlp発現雄と交配した。該結果は、下記の実施例12に記載する。
【0249】
実施例11
最初のヘテロ接合性構成的Qpctノックアウト動物と野生型マウスとの繁殖
いくつかのヘテロ接合性構成的Qpctノックアウト動物を作出するために、作出した最初のヘテロ接合性構成的Qpctノックアウトマウス(実施例10参照)を野生型雌と交配した。
【0250】
下記の表3は、この繁殖の結果を要約する。
【表18】
表3:第1のヘテロ接合性構成的Qpctノックアウト動物繁殖の結果報告。動物の遺伝子型は、括弧に与えられる(下記の本文も参照)。WT:野生型;Cre切除したHet:Cre媒介性切除されたQpct対立遺伝子を有する異型接合体。
上記のように、この繁殖から12個体の仔を得た:8個体の雄及び4個体の雌。
これらの動物の遺伝子型を同定して、構成的ノックアウト対立遺伝子を有しているさらなるヘテロ接合性マウスを同定した。
【0251】
11.1 前記動物のPCR遺伝子型同定
結果として作出した12個体の仔から採取した尾部生検からDNAを調製し、2つの異なるPCR戦略によって遺伝子型を同定した:
・標的とされたQpct対立遺伝子内でLoxPの隣接する領域のCre媒介性切除の検出のためのCre切除PCR(図20、第13.2節参照)。このPCRによって、使用したテンプレートに応じた異なるサイズの増幅産物が生じる:野生型、標的とされた又はCre切除した対立遺伝子。
・ES細胞における相同的組換え事象の検出のために既に使用された3'PCRスクリーニング(第13.3節参照)。このPCR戦略は、LoxP-FRT-ネオマイシン-FRTカセット及び遠位LoxP部位の隣接するエクソン4及び5を有する未切除の標的とされたQpct対立遺伝子を検出する。
【0252】
11.2 Cre媒介性切除事象についてのPCRスクリーニング
遠位LoxP部位の上流の5'相同性アームにおいてハイブリッド形成する順方向プライマーTOR2-Nと、エクソン6の下流でハイブリッド形成する逆方向プライマーTOR2-I1とを使用して、Cre切除PCRを実施した(図13参照)。その局在性のため、このプライマー対によって、Cre媒介性切除事象の特異的検出が可能となる。
【0253】
Cre切除した対立遺伝子は、上記のプライマー対を使用して4.4kbの増幅産物を生じるのに対し、標的とされた(未切除の)対立遺伝子は、9.2kbの増幅産物を生じる(図13参照)。両プライマーは、野生型で標的とされていない対立遺伝子とハイブリッド形成するので、野生型対立遺伝子に相当する7.3kbのさらなる増幅産物が、すべての動物から得られるであろう。遺伝子型を同定するPCRの結果の代表的な例を図20に示す。
【0254】
Cre切除PCRによる遺伝子型同定によって、生まれた12個体の検査動物のうち、3個体(#18244、#18156及び#18159)がCre切除した対立遺伝子を有していることが示された。その他の9個体の検査動物は野生型マウスである。
【0255】
11.3 相同的組換え事象についての3'PCRスクリーニング
新たなヘテロ接合性構成的Qpctノックアウトマウスにおけるネオマイシンカセットの切除の最後の確証を得るために、同定された最初のヘテロ接合体に対して実施されたように、プライマーTOR2-H2/TOR2-I2を用いる3'PCRスクリーニングを使用して、標的とされた対立遺伝子を検出した。
検査した12個体の動物は、TOR2-H2/TOR2-I2 PCRに対してネガティブであった(データ未表示)。このことは、ネオマイシン選択カセットが、変異したQpct対立遺伝子から完全に欠失していることを示した。
【0256】
総合すると、これら2つのスクリーニングのPCR結果によって、生まれた12個体の検査動物のうち、3個体の雄#18244、#18156及び#18159は、ヘテロ接合性構成的Qpctノックアウト動物であることが示された。この遺伝子型の最終的なサザンブロットでの確認をこれらの動物について実施した。
【0257】
11.4 最終的なヘテロ接合性構成的Qpctノックアウト動物についてのサザンブロットでの遺伝子型同定の確認
5'サザンブロットスクリーニング戦略を使用して、4個体のF1ヘテロ接合性構成的Qpctノックアウト動物の遺伝子型をさらに確認し、PCR遺伝子型同定を検証した。この5'サザンブロットは、ゲノムDNAのBamHI消化、及び482bpの5'内部Kプローブ(5'Kプローブ)を使用する検出に基づいている(実施例5の項目1.2参照)。
【0258】
得られた結果を図21に示す。
図21に示すように、サザンブロット分析によってPCR結果が確認され、これらの動物の遺伝子型の最終的な立証が与えられた:4個体の雄#35438、#18156、#18159及び#18244は、ヘテロ接合性構成的Qpctノックアウト動物である。
【0259】
実施例12
ヘテロ接合性でQpctを標的とした雌とFlp発現雄との繁殖
先に、Qpct標的領域にLoxPが導入され、ネオマイシン選択カセットをなおも含む雌#35441のヘテロ接合性Qpct標的動物を作出した(実施例10参照)。選択カセットのインビボでの切除を得るために、この雌#35441をFlp発現雄と交配した。
【0260】
下記の表4は、この繁殖を要約する。
【表19】
表4:ヘテロ接合性でQpctを標的とした雌とFlp発現雄との繁殖の結果。動物の遺伝子型は、括弧に与えられる(下記の本文も参照)。WT:野生型;標的とされたHet:標的とされたQpct対立遺伝子を有するヘテロ接合性;部分的にFlp切除したHet:Flp媒介性切除されたQpct対立遺伝子及び標的とされたQpct対立遺伝子を有する異型接合体。
この繁殖によって7個体の動物が生じ、該動物の遺伝子型を同定して、条件的ノックアウト対立遺伝子を有しているヘテロ接合性マウスを同定した。
【0261】
12.1 前記動物のPCR遺伝子型同定
結果として生じた7個体の仔から採取した尾部生検からDNAを調製し、2つの異なるPCR戦略によって遺伝子型を同定した:
・ネオマイシン選択カセットのFlp媒介性切除の検出のためのFlp切除PCR(図22、実施例12の第2項参照)。このPCRは、使用したテンプレートに応じて異なるサイズの増幅産物を生じる:野生型、標的とされた又はCre切除した対立遺伝子。
・ES細胞における相同的組換え事象の検出のために既に使用された3'PCRスクリーニング(図23、実施例12の第3項参照)。このPCR戦略は、LoxP-FRT-ネオマイシン-FRTカセット及び遠位LoxP部位の隣接するエクソン4及び5を有している未切除の標的とされたQpct対立遺伝子を検出する。
【0262】
12.2 Flp媒介性切除事象についてのPCRスクリーニング
ネオマイシン選択カセットの上流の長い5'相同性アームにおいてハイブリッド形成する順方向プライマーTOR2-N2と、ネオマイシン選択カセットの下流の短い3'相同性アームにおいてハイブリッド形成する逆方向プライマーTOR2-I4とを使用して、Flp切除PCRを実施した(図13、実施例5.2参照)。プライマーセットの局在性により、このPCRによって、ネオマイシン選択カセットのFlp媒介性切除の検出が可能となる。
【0263】
Flp切除した対立遺伝子は、上記のプライマー対を使用して538bpの増幅産物を生じるべきであるのに対し、標的とされた(未切除の)対立遺伝子は、2211bpの増幅産物を生じるべきである(図13参照)。両プライマーが、野生型の標的とされていない対立遺伝子とハイブリッド形成するので、野生型対立遺伝子に相当する419bpのさらなる増幅産物が、すべての動物から得られるであろう。遺伝子型を同定するPCRの結果を図22に示す。
【0264】
Flp切除PCRによる遺伝子型同定は、生まれた7個体の検査動物のうち、4個体(#17973、#17974、#1796及び#17977)がFlp切除した対立遺伝子を有していることを示した。検査したその他の3個体の動物は、野生型マウスであるか又は標的とされた対立遺伝子を有しているかのいずれかであった。
【0265】
12.3 相同的組換え事象についての3'PCRスクリーニング
Flp媒介性切除した対立遺伝子を有している動物におけるネオマイシンカセットの完全な切除を評価するために、3'PCRスクリーニング(TOR2-H2/TOR2-I2プライマーを使用)を使用して、標的とされた対立遺伝子を検出した。このPCRに対してポジティブの検査動物は従って、Qpct遺伝子座内に組み込まれたネオマイシンカセットをなおも有する。
3'PCRスクリーニングによる遺伝子型同定によって、生まれた7個体の検査動物のうち、6個体(#17972〜#17977)が標的とされた対立遺伝子を有していることが示された。
【0266】
総合すると、これら2つのPCRスクリーニングの結果は、生まれた7個体の検査動物のうち、下記を示した:
・雄#17971は、野生型Qpct対立遺伝子のみを有していた。この動物は屠殺された。
【0267】
・動物#17972及び#17975は、野生型対立遺伝子及び標的とされた未切除の対立遺伝子を有していたが、Flp切除した対立遺伝子を有していなかった。これら2個体の動物は従って、Qpct標的領域にLoxPを導入され、かつネオマイシン選択カセットをなおも含むヘテロ接合性のQpctを標的とした動物である。これらの動物は屠殺された。
【0268】
・最後に、4個体の動物(2個体の雄#17973及び#17974並びに4個体の雌#17976及び#17977)は、Flp媒介性切除した対立遺伝子、野生型対立遺伝子及びQpct標的対立遺伝子に相当する増幅産物を生じた。このことは、これらのマウスが、ネオマイシン選択カセットの不完全な切除を有していることを示唆しており、該マウスが、切除した細胞タイプと未切除の細胞タイプからなるモザイクからなることを意味している。次に、ヘテロ接合性条件的Qpctノックアウトマウス系統を作出するために、これらの動物を野生型マウスと繁殖させた。
【0269】
実施例13
部分的にFlp媒介性でネオマイシンを切除した動物の繁殖
13.1 繁殖
条件的Qpctノックアウト対立遺伝子から標的Qpct対立遺伝子を分離するために、作出した4個体の部分的にFlp媒介性でネオマイシンを切除した動物のうち、雄#17973を野生型マウスと交配し、このようにして、純粋なヘテロ接合性条件的Qpctノックアウトマウスを作出した。この繁殖の結果は、下記の表5に要約する。
【表20】
表5:ヘテロ接合性で部分的にFlp切除したQpct雄と野生型雌との繁殖の結果。動物の遺伝子型は、括弧に与えられる(下記の本文も参照)。WT:野生型;標的とされたHet:標的とされたQpct対立遺伝子を有するヘテロ接合体;部分的にFlp切除したHet:Flp媒介性切除されたQpct対立遺伝子及び標的とされたQpct対立遺伝子を有する異型接合体;Flp切除したHet:Flp媒介性切除されたQpct対立遺伝子を有する異型接合体。
【0270】
13.2 Flp媒介性切除事象についてのPCRスクリーニング
TOR2-N2/TOR2-I4 PCRを使用して、先に記載したとおり、Flp切除スクリーニングを実施した。
Flp切除した対立遺伝子は、上記のプライマー対を使用して538bpの増幅産物を生じるのに対し、標的された(未切除の)対立遺伝子は、2211bpの増幅産物を生じる(図13参照)。両プライマーが、野生型の標的とされていない対立遺伝子とハイブリッド形成するので、野生型対立遺伝子に相当する419bpのさらなる増幅産物が、すべての動物から得られるであろう。遺伝子型を同定するPCRの結果の代表的な例を図24に示す。
【0271】
図24に示すように、Flp切除PCRによる遺伝子型同定によって、14個体の検査動物のうち、8個体(#18823、#18824、#18825、#18826、#18828、#18830、#18833及び#18836)がFlp切除した対立遺伝子を有していることが示された。その他の6個体の検査動物は、野生型マウスであったか又は標的とされた対立遺伝子を有しているかのいずれかである。
【0272】
13.3 相同的組換え事象についての3'PCRスクリーニング
Flp媒介性切除した対立遺伝子を有している動物におけるネオマイシンカセットの完全な切除を評価するために、3'PCRスクリーニング(TOR2-H2/TOR2-I2プライマーを使用)を使用して、標的とされた対立遺伝子を検出した。このPCRに対してポジティブである検査動物は、Qpct遺伝子座内に組み込まれたネオマイシンカセットをなおも有する。
【0273】
3'PCRスクリーニングによる遺伝子型同定によって、産生した14個体の検査動物のうち、3個体の動物(#18826、#18829及び#18833)は、標的対立遺伝子を有していることが示された。
総合すると、これら2つのPCRスクリーニングの結果は、生まれた14個体の検査動物のうち、下記を示した:
・動物#18827、#18831、#18832、#18834及び#18835は、野生型のQpct対立遺伝子のみを有している。これらの動物は屠殺された。
・動物#18829は、野生型対立遺伝子及び標的とされた未切除の対立遺伝子を有していたが、Flp切除した対立遺伝子を有していなかった。この動物は従って、Qpct標的領域にLoxPが導入され、かつネオマイシン選択カセットをなおも含むヘテロ接合性のQpctを標的とした動物である。この動物は屠殺された。
・動物#18826及び#18833は、Flp媒介性切除した対立遺伝子、野生型対立遺伝子及びQpct標的対立遺伝子に相当する増幅産物を生じた。このことは、これらのマウスがネオマイシン選択カセットの不完全な切除を有していることを示唆しており、該マウスが、切除した細胞タイプと未切除の細胞タイプからなるモザイクからなることを意味する。これらの動物は屠殺された。
・最後に、6個体の動物(5個体の雄#18823、#18824、#18825、#18828、#18830及び雌#18836)は、Flp切除した対立遺伝子及び野生型対立遺伝子の両方に相当する増幅産物を生じた。これらのマウスは従って、ネオマイシン選択カセットの完全な切除を有しており、純粋なヘテロ接合性条件的Qpctノックアウト動物である。この遺伝子型の最終的なサザンブロットによる確認を、これらの動物について実施した。
【0274】
1.14 最終的なヘテロ接合性条件的Qpctノックアウト動物についてのサザンブロットによる遺伝子型同定確認
3'サザンブロットスクリーニング戦略を使用して、3個体のF1ヘテロ接合性条件的Qpctノックアウト動物の遺伝子型をさらに検査し、PCR遺伝子型同定を確認した。この3'サザンブロットは、ゲノムDNAのSwaI消化、及び406bpの3'内部Rプローブ(3'Rプローブ)を使用する検出に基づいている(実施例4の第1.2項、実施例7の第1.2項及び図11参照)。
【0275】
得られた結果を図26に示す。
図26に示すように、サザンブロット分析によってPCRの結果を確認し、これらの動物の遺伝子型の最終的な立証を与えた:3個体の雄#18823、#18824及び#18825は、ヘテロ接合性条件的Qpctノックアウト動物である。
【0276】
条件的Qpctノックアウトモデルの発生のための戦略は、標的とされたエクソン4及び5を2つのLoxP部位と隣接させ、Cre-リコンビナーゼの作用下でその遍在的又は組織特異的欠失が可能となることによって達成した。
【0277】
本発明者は、TOR2-HRターゲティングベクターの作製に必要とされる2つの相同性アームの増幅、クローニング及び配列決定において成功した。
該本発明者は、両相同性アームについて、いずれの変異も全くない少なくとも1つのクローンを単離し及び配列決定した。これらのクローンをターゲティングベクターの構築のために使用した。
【0278】
ターゲティングベクター及びポジティブコントロールベクターを従来技術の方法論に従って、及び上記の戦略に従って作製した。
下記の事象を同定するために、PCR及びサザンブロットスクリーニング戦略を立案し及び検証した:
・ターゲティングベクターの5'及び3'の両末端におけるQpct遺伝子座での相同的組換え事象。
・最終的な条件的Qpctノックアウト対立遺伝子の作製を可能にするネオマイシン選択カセットのFlp媒介性切除。
・構成的Qpctノックアウト対立遺伝子の作製を可能にするQpctエクソン4及び5のCre媒介性切除。
【0279】
TOR2-HRターゲティングベクターの電気穿孔後、421個のG418耐性クローンを単離し、96ウェルプレートにおいて二つ組で増幅した。これらのES細胞クローンのPCR及びサザンブロットスクリーニングによって、正確に標的とされた7個のクローンの完全な特徴づけをすることができた:クローン#5C5、#5C12、#6A3、#6C3、#15B2、#10B2及び#11B4。
【0280】
ES細胞スクリーニング結果及び形態学的基準に基づいて、7個のES細胞クローン5C5、#5C12、#6A3、#6C3、#15B2、#10B2及び#11B4を胚盤胞注入のために選択した。これらのES細胞クローンを合計374個の胚盤胞に注入し及び再移植して、下記のキメラ化の割合で合計17個体の雄のキメラを作出した:
【0281】
・クローン#6A3で、5%〜20%の範囲のキメラ化の割合で8個体の雄のキメラを作出した。
・クローン#6C3で、5%〜30%の範囲のキメラ化の割合で3個体の雄のキメラを作出した。
・クローン#5C12で、35%及び15%のキメラ化の割合で2個体の雄のキメラを作出した。
・クローン#5C5では、いずれの雄のキメラも作出しなかった。
・クローン#15B2で、75%のキメラ化の割合で1個体の雄のキメラを作出した。
・クローン#10B2では、いずれの仔も作出しなかった。
・クローン#11B4で、75%、35%及び8%のキメラ化の割合で3個体の雄のキメラを作出した。
【0282】
4個体のキメラの雄(20%〜35%のキメラ化を示し、ESクローン#6A3、#6C3及び#5C12に由来)を野生型C57BL/6J雌(健康状態SOPF―特定病原体及び日和見病原体除去)と交配して、生殖系列伝達を得、Qpctを標的としたヘテロ接合性動物を作出した。また、キメラをFlp欠失体雌又はCre欠失体雌(健康状態SOPF―特定病原体及び日和見病原体除去)とも繁殖させて、ネオマイシン選択カセット及びQpctエクソン4〜5並びに選択カセットの欠失をそれぞれ得た。
【0283】
この繁殖は結果として、17個体のF1仔を作出した。PCR及びサザンブロットスクリーニングを使用して、これらのマウスをスクリーニングし、下記の特徴づけをすることができた:
・Cre媒介性でネオマイシン切除したQcpt対立遺伝子を有する1個体の雄#35438。この雄は、最初のF1ヘテロ接合性構成的Qpctノックアウトマウスであった。該雄を野生型雌と交配して、3個体のさらなるヘテロ接合性構成的Qpctノックアウトマウスを作出した。
・標的とされた対立遺伝子を有している1個体の雌#35441。この雌は、F1ヘテロ接合性Qpct標的マウスを表しており、ネオマイシン選択カセットのインビボでの欠失を得るために、Flp発現マウスと交配した。
【0284】
最初のヘテロ接合性構成的Qpctノックアウト雄#35438を野生型雌と繁殖させることによって、3個体のさらなるヘテロ接合性構成的Qpctノックアウト雄#18156、#18159及び#18244を作出することができた。
【0285】
ヘテロ接合性の標的Qpctノックアウト雌#35441を、C57BL/6JのCCAG-Flpを発現する欠失体雄と繁殖させることによって、7個体の動物を作出し、そのうち4個体の動物(2個体の雄#17973及び#17974並びに2個体の雌#17976及び#17977)は、野生型対立遺伝子に加えて、Qpct標的対立遺伝子及びFlp媒介性のネオマイシン切除したQpct対立遺伝子(条件的Qpctノックアウト対立遺伝子)の両方を有していた。従って、これらの動物は、ネオマイシン選択カセットの部分的な切除を受けており、Flp-リコンビナーゼが結果として、これらのF1動物のいくらかではあるがすべてではない個体において、選択カセットの欠失を生じることを意味した。
【0286】
次に、ネオマイシン選択カセットをなおも含む標的対立遺伝子からFlp媒介性切除した対立遺伝子(条件的Qpctノックアウト対立遺伝子)を分離するために、これらのモザイク動物のうちの1個体である部分的にFlp媒介性で切除した、すなわち雄#17973を、野生型雌と交配した。この第三のF1繁殖によって、新たなシリーズの14個体のF1動物が作出された。該F1動物のPCR及びサザンブロット遺伝子型同定によって、Flp切除した対立遺伝子及び野生型対立遺伝子の両方を示す6個体の動物(5個体の雄#18823、#18824、#18825、#18828、#18830及び雌#18836)の特徴づけをすることができた。これらのマウスは従って、ネオマイシン選択カセットの完全な切除を有しており、純粋なヘテロ接合性条件的Qpctノックアウト動物である。
【0287】
実施例14
Qpct遺伝子における構成的ノックアウト変異を有しているマウスモデルの作出
14.1 ターゲティング戦略及びQpctKOマウス系Pbd2の作出
不活性化したQpctタンパク質機能を有するマウス系統の発生のために、マウス胚性幹細胞(ES細胞、129SvPas系由来)を遺伝子操作して、ゲノムに下記を有するクローンを選択した。
・FRT部位に隣接するネオマイシン選択カセット、及びそれに続くQpctイントロン5へと挿入されたLoxP部位
及び
・Qpctイントロン3に位置する遠位LoxP部位
ES細胞を胚盤胞に注入し、胚の転移を介してキメラを作出した。ネオマイシン選択カセットの除去のために、キメラをFlp発現動物と交配させた後、仔をQpct1エクソン4及び5の欠失のためのCre発現動物と繁殖させた。Qpct遺伝子座についてヘテロ接合性であり、かつ野生型対立遺伝子に加えて、エクソン4及び5の欠失したQpct対立遺伝子を有している仔を同定した(図27)。これらの動物は、マウス系Pbd2についての創立動物(founder)として機能した。
【0288】
14.2 マウス系Pbd2についての遺伝子型同定アッセイ
系Pbd2のQpct遺伝子型のPCR評価のために、下記のオリゴヌクレオチドプライマーを設計した:
【表21】
プライマーPbd2-1、Pbd2-2及びPbd2-WT1を含む50ngの染色体DNAに関する標準的なPCR反応において、野生型対立遺伝子は、およそ735bpの断片として検出することができるのに対し、標的ノックアウト対立遺伝子は、およそ525bpの断片として検出される(図28参照)。
【0289】
実施例15
Qpct遺伝子における構成的ノックアウト変異を有しているマウスの特徴づけ
ノックアウト動物の作出が成功したことを証明するために、遺伝子操作に関して野生型、ヘテロ接合性及びホモ接合性の動物の血漿を分析し、Qpctの酵素活性を測定した。戦略が成功している場合、Qpct活性の有意な低下又は欠乏が期待された。
【0290】
血漿中のQpctによって触媒されるL-グルタミニル-β-ナフチルアミンからのL-pGlu-β-ナフチルアミンの形成の検出に基づいた方法を適用して、血漿中のQpct活性を決定した(Cynis, H.らの文献(2006 Biochim Biophys Acta 1764, 1618-1625))。簡潔には、該アッセイは、H-Gln-βNAのpGlu-βNAへの変換に基づいている。試料は、1mLの最終容積における25mM MOPS(pH7.0)中の50μM H-Gln-βNA、0.1mM N-エチルマレインイミド(NEM)及び酵素溶液からなった。基質及びNEMを30℃で15分間プレインキュベートした。試料を4℃、16.000×gで20分間遠心分離した。100μLの血漿試料の添加によって、反応を開始した。反応混合物を30℃でさらにインキュベートし、サーモミキサー(Eppendorf, Germany)において300rpmで定常的に振蘯した。検査試料を0、5、10、15、22、30及び45分の時点で取り出した。反応は、4分間煮沸することによって即時停止した。検査試料を氷上で冷却し、−20℃で保存した。分析のために、試料を氷上で解凍し、4℃、16,000×gで20分間遠心分離した。RP18 LiChroCART HPLC-カートリッジ及びHPLCシステムD-7000(Merck-Hitachi)を使用して、すべてのHPLC測定を実施した。簡潔には、20μLの試料を注入し、溶媒B(0.1%TFAを含むH2O)における溶媒A(0.1%TFAを含むアセトニトリル)の濃度を8%から20%へと増大させることによって分離した。アッセイ条件下で決定したpGlu-βNAの標準曲線から、Qpct活性を定量化した(Bachem, Bubendorf, Switzerland)。
【0291】
動物の遺伝子型に応じたQpct活性が図29に描かれている。ホモ接合性Qpctノックアウト動物における機能的Qpct遺伝子の完全な損失に起因して、血漿中のQpct活性は検出することができない。ヘテロ接合性動物、すなわち、1つの機能的に破壊された対立遺伝子とともにQpctの1つの無処置の対立遺伝子をなおも有している動物において、野生型動物の血漿中の活性のおよそ60%はなおもそのままである。
【0292】
従って、本結果は、下記を証明している:1.実施例1〜14において描かれたように、Qpct対立遺伝子を標的とする戦略は成功し、これらの動物におけるQpctの完全な損失を誘発するのに十分であった。2.Qpct活性の遺伝子-用量依存性が観察されている。1つのコピーの損失はすでに、Qpct活性の部分的な損失を結果として生じている。この観察は、これらの動物とヒト疾患の他の動物モデルとを交雑してQpct活性を標的とする薬物を製造する試みを証明することを包含する次に続く研究にとって重要である。3.重要なことに、酵素活性のあるQpctは、生存可能な仔の発生及び動物の発生にとって必要ではなく、このことはQpctの薬理学的阻害が明らかな有害な副作用を有さないことを証明している。
【0293】
ホルモン調節カスケードの機能に及ぼすQpctの欠乏の効果をさらに特徴づけるために、テストステロン及びチロキシンの濃度をpbd2マウス由来の血清において決定した。
【0294】
テストステロン(6,17-ドデカヒドロシクロペンタ[a]フェナントレン-3-オン)は、主な男性ホルモンであり、雄の精巣及び雌の卵巣において主として分泌されるステロイドホルモンである。また、テストステロンは、副腎によっても分泌される。テストステロンは、健康及び幸福において並びに性的機能において重要な役割を担っている。性腺からの性ホルモンの放出は、下垂体ホルモン(hypophyseal hormone)LH及びFSHによって調節されている。これらの下垂体ホルモン(pituitary hormone)の放出が順に、視床下部ホルモンである性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)によって刺激される。GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)は、弓状核における小細胞ニューロンから正中隆起へと分泌される。次に、GnRHは、下垂体門脈系に入り、下垂体前葉に到達するまで長い静脈を移動し、下垂体前葉において性腺刺激ホルモン産生細胞に作用して、LH(黄体形成ホルモン)及びFSH(卵胞刺激ホルモン)を血流に放出し戻す。LH及びFSHは両方とも、性腺に作用して、性ホルモンの放出を含みかつ性腺の完全性を維持することを含む多様な効果を生じる。GnRH、下垂体ホルモン及び性腺ホルモンの分泌を包含する事象の該カスケードによって、いわゆる視床下部-下垂体-性腺軸(HPG)の軸が構築される。他のホルモン軸と同様に、ゴナドトープ(gonadotopes)の分泌に関する負のフィードバック調節がある。GnRHは、pGluによってN末端修飾され、それゆえ、Qpctの基質である。GnRHのN末端におけるpGlu形成の減少は、ホルモンの非活性化を結果的に生じるよう意図されており、その結果、HPG軸の妨害及びテストステロン濃度の調節解除が生じるよう意図される。
【0295】
テストステロン濃度に及ぼすQpctの欠乏の効果を図30に描いている。競合的ELISA法を適用して、雄マウスの血清中のテストステロン濃度を決定した(IBL,Hamburg,Germany,カタログ番号RE52631)。製造元の説明書に従って、該決定を実施した。
【0296】
該結果は、野生型マウスとQpctノックアウトマウスとの間にテストステロン濃度の差がないことを示す。Qpctの全体的な損失でさえ性腺ホルモンの妨害を結果的に生じず、Qpctの薬理学的阻害が生殖軸に対して望ましくない副作用を結果的に生じないことを立証している。
【0297】
チロキシン(3,5,3',5'-テトラヨードチロニン,T4)は、甲状腺の濾胞細胞によって分泌されるホルモンである。T4は、代謝過程の制御においてある役割を担っている。チロキシンは、心拍出量、心拍数及び基礎代謝率を増大させ、脳の発達を増強する。甲状腺ホルモンであるチロキシン及びトリヨードチロニン(T3)の分泌は、視床下部-下垂体−甲状腺軸を介して調節される。視床下部は、低レベルで循環している甲状腺ホルモンを感知し、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)を放出することによって反応する。トリペプチドであるTRHは、pGluによってN末端修飾され、それゆえ、Qpctの基質である。TRHは、下垂体を刺激して、甲状腺刺激ホルモン(TSH)を産生する。TSHは順に、甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンを産生する。TRHのN末端におけるpGlu形成の減少は、該ホルモンの非活性化を結果的に生じるよう意図されており、その結果、HPT軸の妨害及び調節解除されたチロキシン濃度を結果的に生じるよう意図されている。
【0298】
チロキシン濃度に及ぼすQpctの欠乏の効果を図31に描いている。競合的ELISA法を適用して、マウスの血漿中のチロキシン濃度を決定した(IBL,Hamburg,Germany,カタログ番号RE55261)。製造元の説明書に従って、該決定を実施した。
【0299】
該結果は、ホモ接合性構成的QpctノックアウトマウスにおけるT4濃度のわずかだが統計的には有意ではない減少を含意している。ヘテロ接合性マウスにおいて、チロキシンレベルの差は観察されなった。該結果は、Qpctの部分的な減少がHPT軸に影響をまったく及ぼさないことを示唆している。Qpctの全体的な損失でさえ、甲状腺ホルモンの妨害を結果的に生じず、Qpctの薬理学的阻害の結果として、望ましくない副作用を生じないことを立証している。
【0300】
実施例16:TransWell走化性アッセイ
RPMI1640、10%FBSにおいて、ヒト急性単球性白血病細胞株THP-1を37℃で5%CO2の加湿した大気下で培養した。5μmの孔サイズの24ウェルTransWellプレート(Corning)を使用して、走化性アッセイを実施した。600μLの化学誘引物質溶液を下部チャンバーに適用した。無血清RPMIをネガティブコントロールとして適用した。THP-1細胞を回収し、1×106個/100μLの濃度でRPMI1640に再懸濁し、100μLの一定分量で上部チャンバーに適用した。細胞は、化学誘引物質に向けて37℃で2時間遊走することができた。その後、上部チャンバー由来の細胞を廃棄し、下部チャンバーをPBSにおける70mM EDTA50μLと混合し、37℃で15分間インキュベートして、メンブレンに付着した細胞を遊離した。その後、細胞計数器システム(Scharfe System, Reutlingen)を使用して、遊走した細胞を計数した。刺激に向けて遊走した細胞を、ネガティブコントロールに向けて遊走した細胞で除することによって、走化性指数を算出した。
【図1A】
【図1B】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノックアウト変異を有するDNA Qpct遺伝子を含む細胞を含む非ヒト動物。
【請求項2】
前記動物がラットである、請求項1記載の非ヒト動物。
【請求項3】
前記動物がマウスである、請求項1記載の非ヒト動物。
【請求項4】
前記Qpct遺伝子がマウス起源である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項5】
前記マウスQpct遺伝子が配列番号22の配列を有する、請求項4記載の非ヒト動物。
【請求項6】
前記Qpct遺伝子がヒト起源である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項7】
前記動物が前記Qpct遺伝子についてヘテロ接合性である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項8】
前記動物が前記Qpct遺伝子についてホモ接合性である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項9】
前記Qpct遺伝子が組換え遺伝子である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項10】
前記Qpct遺伝子が構成的ノックアウト変異を有している、請求項1〜9のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項11】
前記Qpct遺伝子が条件的ノックアウト変異を有している、請求項1〜9のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項12】
Qpct関連の障害及び/又は疾患に及ぼす標的化合物の効果を決定における使用のための、請求項1〜11のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項13】
エクソン4及び5が欠失している少なくとも1つのQpct対立遺伝子を有している、請求項1〜11のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項14】
前記Qpct対立遺伝子が配列番号23の配列を有する、請求項1〜11及び13のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項15】
前記動物がマウス系Pbd2のマウスである、請求項13又は14のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項16】
前記Qpct遺伝子が組織特異的プロモーターに機能し得るように連結されている、請求項13〜15のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項17】
前記マウスが、Qpct阻害剤を使用して逆転でき又は回復できる表現型を示す、請求項3〜16のいずれか1項に記載のマウス。
【請求項18】
インビボでQpct産生を阻害し又は促進する生物活性のある薬剤についてのスクリーニング方法であって、請求項1〜17のいずれか1項に記載の非ヒト動物に検査薬を投与すること、及び該薬剤の効果を決定することを含む、前記方法。
【請求項19】
前記非ヒト動物が前記Qpct遺伝子についてヘテロ接合性である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記非ヒト動物が前記Qpct遺伝子についてホモ接合性である、請求項18記載の方法。
【請求項21】
前記動物がマウスである、請求項18〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記Qpct遺伝子がマウス起源である、請求項18〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記Qpct遺伝子がヒト起源である、請求項18〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記Qpct遺伝子が組換え遺伝子である、請求項18〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記組換えQpct遺伝子が構成的ノックアウト変異を有している、請求項18〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記Qpct遺伝子が条件的ノックアウト変異を有している、請求項18〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
標的薬物の発見において使用するための、請求項18記載の方法。
【請求項28】
前記動物が、エクソン4及び5が欠失している少なくとも1つのQpct対立遺伝子を有している、請求項18〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記動物が、マウス系Pbd2のマウスである、請求項18〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記Qpct遺伝子が組織特異的プロモーターに機能し得るように連結されている、請求項18〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記マウスが、Qpct阻害剤を使用して逆転でき又は回復できる表現型を示す、請求項18〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の非ヒト動物に由来する細胞又は細胞株。
【請求項33】
Qpct活性を阻害し又は促進する治療薬についてスクリーニングする方法であって、
(a)請求項3〜17のいずれか1項に記載のマウスに検査薬を投与すること
(b)該マウスの表現型に及ぼす該検査薬の効果を評価すること、及び
(c)Qpct活性を阻害し又は促進する検査薬を選択すること
を含む、前記方法。
【請求項34】
Qpct関連疾患の治療又は予防の方法であって、
(d)請求項33記載の選択された検査薬を投与すること;
及び
(e)Qpct関連疾患に対する低い臨床指数について前記患者をモニターすること
を含む、前記方法。
【請求項35】
前記Qpct関連疾患がアルツハイマー病である、請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記Qpct関連疾患が粥状硬化又は再狭窄である、請求項34記載の方法。
【請求項37】
ピログルタミン酸-ペプチド形成に関して、Qpct触媒作用について前記疾患と関連した生理学的機能を分析する方法であって、
(f)請求項3〜17のいずれか1項に記載のマウスに検査薬を投与すること
(g)ピログルタミン酸-ペプチド濃度、及び該マウスの表現型に及ぼす該検査薬の効果を評価すること、並びに
(h)ピログルタミン酸-ペプチド活性を阻害し又は促進する検査薬を選択すること
を含む、前記方法。
【請求項38】
請求項34記載の選択された検査薬を含む医薬組成物。
【請求項39】
Qpct関連疾患の治療及び/又は予防のための医薬の製造のための、請求項33に従って選択された検査薬の使用。
【請求項40】
Qpctによって負の影響を及ぼされるであろう化合物の製造において使用するためのQpct-ノックアウト遺伝子を含む改変された細胞。
【請求項41】
特定の組織のみ及び/又は特別な時点のみにおけるQpct発現を有するモデルの準備のための、請求項1〜17のいずれか1項に記載の非ヒト動物の又は請求項32若しくは40記載の細胞の使用。
【請求項42】
インビボでQpct活性を阻害し又は促進する生物活性のある化合物についてのスクリーニング方法であって、
i)軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群における神経変性、家族性デンマーク型認知症、家族性英国型認知症、関節リウマチ、粥状硬化、再狭窄、及び膵炎から選択された少なくとも1つの疾患の治療に特異的な非ヒト動物モデルに検査化合物を投与する工程、
ii)該非ヒト動物モデルにおける該検査化合物の効果を決定する工程;
iii)該非ヒト動物モデルにおける該検査化合物の効果を、請求項1〜17のいずれか一項記載のQpctノックアウト動物におけるQpct遺伝子破壊の効果と比較する工程、及び
iv)請求項1〜17のいずれか一項記載のQpctノックアウト動物におけるQpct遺伝子破壊の効果と同様に、該非ヒト動物モデルにおいて特定の疾患を軽減する検査化合物を選択する工程
を含む、前記方法。
【請求項43】
前記非ヒト動物モデルが、軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群における神経変性、家族性デンマーク型認知症及び家族性英国型認知症からなる群から選択された疾患に特異的である、請求項42記載のスクリーニング方法。
【請求項44】
前記非ヒト動物モデルがアルツハイマー病特異的である、請求項43記載のスクリーニング方法。
【請求項45】
前記動物モデルが、PDAPP、Tg2576、APP23、TgCRND8、PSEN1M146V又はPSEN1M146L、PSAPP、APPDutch、BRI-Aβ40及びBRI-Aβ42、JNPL3、TauP301S、TauV337M、TauR406W、rTg4510、Htau、TAPP及び3×TgADからなる群から選択される、請求項42〜44のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項46】
前記検査化合物の効果が、[pGlu3]Aβ3-40/42/43ペプチド又は[pGlu11]Aβ11-40/42/43ペプチドを低下させることである、請求項42〜45のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項47】
前記検査化合物の効果が、[pGlu3]Aβ3-40ペプチドを低下させることである、請求項42〜46のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項48】
前記検査化合物の効果が、[pGlu3]Aβ3-42ペプチドを低下させることである、請求項42〜47のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項49】
前記非ヒト動物モデルが、関節リウマチ、粥状硬化、再狭窄、及び膵炎からなる群から選択された疾患に特異的である、請求項42記載のスクリーニング方法。
【請求項50】
前記非ヒト動物モデルが、関節リウマチに特異的である、請求項49記載のスクリーニング方法。
【請求項51】
前記非ヒト動物モデルが、粥状硬化に特異的である、請求項49記載のスクリーニング方法。
【請求項52】
前記動物モデルが、アポリポタンパク質Eノックアウトマウスモデル、マウスにおけるチオグリコール酸誘発性炎症モデル、ラットにおけるコラーゲン誘発性関節炎モデル及び再狭窄のラットモデルからなる群から選択される、請求項42及び49〜50のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項53】
前記検査化合物の効果が、THP-1細胞の走化性の阻害である、請求項42及び49〜51のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項54】
前記検査化合物の効果が、pGlu-MCP-1の形成の阻害である、請求項42及び49〜51のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項55】
請求項42〜54のいずれか1項に記載の選択された検査薬を含む医薬組成物。
【請求項56】
Qpct関連疾患の治療及び/又は予防のための医薬の製造のための、請求項42〜54のいずれか1項に従って選択された検査薬の使用。
【請求項57】
Qpct関連疾患の治療又は予防の方法であって、
(i)請求項42〜54のいずれか1項に従って選択された検査薬を投与すること;及び
(j)Qpct関連疾患に対する低い臨床指数について前記患者をモニターすること
を含む、前記方法。
【請求項58】
前記Qpct関連疾患が、軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群における神経変性、家族性デンマーク型認知症及び家族性英国型認知症からなる群から選択される、請求項56又は57記載の使用又は方法。
【請求項59】
前記Qpct関連疾患がアルツハイマー病である、請求項56又は57記載の使用又は方法。
【請求項60】
前記Qpct関連疾患が、関節リウマチ、粥状硬化、再狭窄、及び膵炎からなる群から選択される、請求項56又は57記載の使用又は方法。
【請求項61】
前記Qpct関連疾患が関節リウマチである、請求項56、57又は60のいずれか1項に記載の使用又は方法。
【請求項62】
前記Qpct関連疾患が粥状硬化である、請求項56、57又は60のいずれか1項に記載の使用又は方法。
【請求項1】
ノックアウト変異を有するDNA Qpct遺伝子を含む細胞を含む非ヒト動物。
【請求項2】
前記動物がラットである、請求項1記載の非ヒト動物。
【請求項3】
前記動物がマウスである、請求項1記載の非ヒト動物。
【請求項4】
前記Qpct遺伝子がマウス起源である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項5】
前記マウスQpct遺伝子が配列番号22の配列を有する、請求項4記載の非ヒト動物。
【請求項6】
前記Qpct遺伝子がヒト起源である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項7】
前記動物が前記Qpct遺伝子についてヘテロ接合性である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項8】
前記動物が前記Qpct遺伝子についてホモ接合性である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項9】
前記Qpct遺伝子が組換え遺伝子である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項10】
前記Qpct遺伝子が構成的ノックアウト変異を有している、請求項1〜9のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項11】
前記Qpct遺伝子が条件的ノックアウト変異を有している、請求項1〜9のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項12】
Qpct関連の障害及び/又は疾患に及ぼす標的化合物の効果を決定における使用のための、請求項1〜11のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項13】
エクソン4及び5が欠失している少なくとも1つのQpct対立遺伝子を有している、請求項1〜11のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項14】
前記Qpct対立遺伝子が配列番号23の配列を有する、請求項1〜11及び13のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項15】
前記動物がマウス系Pbd2のマウスである、請求項13又は14のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項16】
前記Qpct遺伝子が組織特異的プロモーターに機能し得るように連結されている、請求項13〜15のいずれか1項に記載の非ヒト動物。
【請求項17】
前記マウスが、Qpct阻害剤を使用して逆転でき又は回復できる表現型を示す、請求項3〜16のいずれか1項に記載のマウス。
【請求項18】
インビボでQpct産生を阻害し又は促進する生物活性のある薬剤についてのスクリーニング方法であって、請求項1〜17のいずれか1項に記載の非ヒト動物に検査薬を投与すること、及び該薬剤の効果を決定することを含む、前記方法。
【請求項19】
前記非ヒト動物が前記Qpct遺伝子についてヘテロ接合性である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記非ヒト動物が前記Qpct遺伝子についてホモ接合性である、請求項18記載の方法。
【請求項21】
前記動物がマウスである、請求項18〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記Qpct遺伝子がマウス起源である、請求項18〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記Qpct遺伝子がヒト起源である、請求項18〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記Qpct遺伝子が組換え遺伝子である、請求項18〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記組換えQpct遺伝子が構成的ノックアウト変異を有している、請求項18〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記Qpct遺伝子が条件的ノックアウト変異を有している、請求項18〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
標的薬物の発見において使用するための、請求項18記載の方法。
【請求項28】
前記動物が、エクソン4及び5が欠失している少なくとも1つのQpct対立遺伝子を有している、請求項18〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記動物が、マウス系Pbd2のマウスである、請求項18〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記Qpct遺伝子が組織特異的プロモーターに機能し得るように連結されている、請求項18〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記マウスが、Qpct阻害剤を使用して逆転でき又は回復できる表現型を示す、請求項18〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の非ヒト動物に由来する細胞又は細胞株。
【請求項33】
Qpct活性を阻害し又は促進する治療薬についてスクリーニングする方法であって、
(a)請求項3〜17のいずれか1項に記載のマウスに検査薬を投与すること
(b)該マウスの表現型に及ぼす該検査薬の効果を評価すること、及び
(c)Qpct活性を阻害し又は促進する検査薬を選択すること
を含む、前記方法。
【請求項34】
Qpct関連疾患の治療又は予防の方法であって、
(d)請求項33記載の選択された検査薬を投与すること;
及び
(e)Qpct関連疾患に対する低い臨床指数について前記患者をモニターすること
を含む、前記方法。
【請求項35】
前記Qpct関連疾患がアルツハイマー病である、請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記Qpct関連疾患が粥状硬化又は再狭窄である、請求項34記載の方法。
【請求項37】
ピログルタミン酸-ペプチド形成に関して、Qpct触媒作用について前記疾患と関連した生理学的機能を分析する方法であって、
(f)請求項3〜17のいずれか1項に記載のマウスに検査薬を投与すること
(g)ピログルタミン酸-ペプチド濃度、及び該マウスの表現型に及ぼす該検査薬の効果を評価すること、並びに
(h)ピログルタミン酸-ペプチド活性を阻害し又は促進する検査薬を選択すること
を含む、前記方法。
【請求項38】
請求項34記載の選択された検査薬を含む医薬組成物。
【請求項39】
Qpct関連疾患の治療及び/又は予防のための医薬の製造のための、請求項33に従って選択された検査薬の使用。
【請求項40】
Qpctによって負の影響を及ぼされるであろう化合物の製造において使用するためのQpct-ノックアウト遺伝子を含む改変された細胞。
【請求項41】
特定の組織のみ及び/又は特別な時点のみにおけるQpct発現を有するモデルの準備のための、請求項1〜17のいずれか1項に記載の非ヒト動物の又は請求項32若しくは40記載の細胞の使用。
【請求項42】
インビボでQpct活性を阻害し又は促進する生物活性のある化合物についてのスクリーニング方法であって、
i)軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群における神経変性、家族性デンマーク型認知症、家族性英国型認知症、関節リウマチ、粥状硬化、再狭窄、及び膵炎から選択された少なくとも1つの疾患の治療に特異的な非ヒト動物モデルに検査化合物を投与する工程、
ii)該非ヒト動物モデルにおける該検査化合物の効果を決定する工程;
iii)該非ヒト動物モデルにおける該検査化合物の効果を、請求項1〜17のいずれか一項記載のQpctノックアウト動物におけるQpct遺伝子破壊の効果と比較する工程、及び
iv)請求項1〜17のいずれか一項記載のQpctノックアウト動物におけるQpct遺伝子破壊の効果と同様に、該非ヒト動物モデルにおいて特定の疾患を軽減する検査化合物を選択する工程
を含む、前記方法。
【請求項43】
前記非ヒト動物モデルが、軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群における神経変性、家族性デンマーク型認知症及び家族性英国型認知症からなる群から選択された疾患に特異的である、請求項42記載のスクリーニング方法。
【請求項44】
前記非ヒト動物モデルがアルツハイマー病特異的である、請求項43記載のスクリーニング方法。
【請求項45】
前記動物モデルが、PDAPP、Tg2576、APP23、TgCRND8、PSEN1M146V又はPSEN1M146L、PSAPP、APPDutch、BRI-Aβ40及びBRI-Aβ42、JNPL3、TauP301S、TauV337M、TauR406W、rTg4510、Htau、TAPP及び3×TgADからなる群から選択される、請求項42〜44のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項46】
前記検査化合物の効果が、[pGlu3]Aβ3-40/42/43ペプチド又は[pGlu11]Aβ11-40/42/43ペプチドを低下させることである、請求項42〜45のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項47】
前記検査化合物の効果が、[pGlu3]Aβ3-40ペプチドを低下させることである、請求項42〜46のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項48】
前記検査化合物の効果が、[pGlu3]Aβ3-42ペプチドを低下させることである、請求項42〜47のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項49】
前記非ヒト動物モデルが、関節リウマチ、粥状硬化、再狭窄、及び膵炎からなる群から選択された疾患に特異的である、請求項42記載のスクリーニング方法。
【請求項50】
前記非ヒト動物モデルが、関節リウマチに特異的である、請求項49記載のスクリーニング方法。
【請求項51】
前記非ヒト動物モデルが、粥状硬化に特異的である、請求項49記載のスクリーニング方法。
【請求項52】
前記動物モデルが、アポリポタンパク質Eノックアウトマウスモデル、マウスにおけるチオグリコール酸誘発性炎症モデル、ラットにおけるコラーゲン誘発性関節炎モデル及び再狭窄のラットモデルからなる群から選択される、請求項42及び49〜50のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項53】
前記検査化合物の効果が、THP-1細胞の走化性の阻害である、請求項42及び49〜51のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項54】
前記検査化合物の効果が、pGlu-MCP-1の形成の阻害である、請求項42及び49〜51のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項55】
請求項42〜54のいずれか1項に記載の選択された検査薬を含む医薬組成物。
【請求項56】
Qpct関連疾患の治療及び/又は予防のための医薬の製造のための、請求項42〜54のいずれか1項に従って選択された検査薬の使用。
【請求項57】
Qpct関連疾患の治療又は予防の方法であって、
(i)請求項42〜54のいずれか1項に従って選択された検査薬を投与すること;及び
(j)Qpct関連疾患に対する低い臨床指数について前記患者をモニターすること
を含む、前記方法。
【請求項58】
前記Qpct関連疾患が、軽度認知障害、アルツハイマー病、ダウン症候群における神経変性、家族性デンマーク型認知症及び家族性英国型認知症からなる群から選択される、請求項56又は57記載の使用又は方法。
【請求項59】
前記Qpct関連疾患がアルツハイマー病である、請求項56又は57記載の使用又は方法。
【請求項60】
前記Qpct関連疾患が、関節リウマチ、粥状硬化、再狭窄、及び膵炎からなる群から選択される、請求項56又は57記載の使用又は方法。
【請求項61】
前記Qpct関連疾患が関節リウマチである、請求項56、57又は60のいずれか1項に記載の使用又は方法。
【請求項62】
前記Qpct関連疾患が粥状硬化である、請求項56、57又は60のいずれか1項に記載の使用又は方法。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【公表番号】特表2011−511622(P2011−511622A)
【公表日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−541803(P2010−541803)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【国際出願番号】PCT/EP2009/050387
【国際公開番号】WO2009/090190
【国際公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(505403119)プロビオドルグ エージー (39)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【国際出願番号】PCT/EP2009/050387
【国際公開番号】WO2009/090190
【国際公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(505403119)プロビオドルグ エージー (39)
【Fターム(参考)】
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