説明

グルタミン酸高含有酵母エキス及びその製造方法

本発明は酵母エキス及びその製造方法を提供する。酵母エキスは受託番号が「CCTCC NO: M205130」である酵母菌株により調製され、酵母エキスのグルタミン酸含有量が10%を上回る。本発明の製造方法によれば、グルタミン酸含有量が10%を上回る酵母エキスを量産することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母エキス及びその製造方法に関し、具体的にグルタミン酸高含有酵母エキス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グルタミン酸は、天然に存在するアミノ酸であり、例えば茸、昆布、トマト、堅果、豆類、肉類、及び大多数の乳製品など、タンパク質に富む食べ物に錯体の形で存在することが一般的である。一部の食べ物におけるグルタミン酸は、遊離の形で存在しており、かつ、このような形でのグルタミン酸塩しか食べ物の呈味性を改善することができない。トマト、発酵大豆製品、酵母エキス、いくつかのチーズ、及び発酵・加水分解タンパク質製品(例えば、醤油やビーンズソース)により生じる調味効果は、一部分がグルタミン酸の存在によるものである。
【0003】
近年、生活水準の向上に伴い、飲食の内容についての新しい要求が提出されている。各種の食品は、天然や便宜、美味、及び多機能の方向に進んできており、食品調味料の生産は、従来の調味料醸造又は化学調味料からより高級の味感を持つ天然複合調味料へ転向している。同時に、調味品の市場も、中高級、美味、便宜、天然、栄養の複合調味品の方向に進んでいる。酵母エキスには、アミノ酸やポリへプチドに加えて、ヌクレオチド、ビタミン、有機酸及びミネラルなど、さまざまな有効成分が含まれている。酵母エキスは、味が旨く、濃厚で、肉フレーバーを有すると共に、栄養、調味及び保健という3つの機能が一体となる優れた食品調味料なので、消費者に受けが良くなってきている。
【0004】
バイオテクノロジーの発展によって、酵母エキスの応用が著しく拡大されている。最新世代の酵母エキスには、グルタミン酸及びヌクレオチドが多く含まれることにより、その風味増強の特性を一層強化させる。もともと存在するアミノ酸やポリへプチドと共に、本来の風味を損なうことなくナトリウム塩の含有量を著しく低減させることができる。さらに、このような酵母エキスはピュアナチュラル特性を有して、人工合成又は化学添加剤への心配を避けさせる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現有の酵母エキスにおけるグルタミン酸ナトリウムの含有量は4重量%前後のものが多いが、酵母エキスにおけるグルタミン酸ナトリウムの含有量を更に高めてその風味を向上させることがますます多くの食品企業に望まれている。
【0006】
本発明は、従来技術での酵母エキスにおけるグルタミン酸の含有量が低いという技術的課題を解決するために、グルタミン酸含有量の高い酵母エキス及びその酵母エキスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一つの目的は、酵母菌株を利用することにより調製された酵母エキスを提供することである。前記酵母菌株は、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)(Z2.4)に所属しており、受託番号「CCTCC NO:M205130」として寄託されている。前記酵母菌株を、窒素源に富む培地で培養することで、タンパク質含有量が60%以上の酵母培養物が得られ、当該酵母培養物を原料として前記酵母エキスを調製した。本発明の酵母エキスによれば、そのグルタミン酸の含有量が10%を上回ることである。
【0008】
本発明の他の目的は、A)酵母菌株を窒素源に富む培地で培養して培養物を得て、前記培養物から酵母クリーム(yeast cream)を調製する工程、B)酵母クリームのpHを4.5〜6.8に調整し、45〜60℃まで加熱する工程、C)プロティナーゼ及びグルタミントランスアミナーゼを添加して自己消化・酵素分解の反応を行う工程、D)温度を60℃まで上げて遠心を行う工程、及びE)滅菌、濃縮及び噴霧乾燥を経て前記酵母エキスを得る工程、を含む酵母エキスの製造方法を提供することである。
【0009】
本発明の実施例によれば、添加したプロティナーゼ及びグルタミントランスアミナーゼは、質量比が1:1である。
【0010】
本発明の実施例によれば、添加したプロティナーゼ及びグルタミントランスアミナーゼの質量は、いずれも前記酵母クリームにおける酵母の全質量に対して1.5‰である。
本発明に用いられるプロセスフローは下記の通りである。
酵母クリーム(12−15%濃度)。
45〜60℃まで加熱し、酵母を殺す。
プロティナーゼによる酵素分解、グルタミントランスアミナーゼによる酵素分解。
(pH4.5〜6.8、自己消化・酵素分解16〜20時間、温度45〜68℃)。
熱処理による酵素不活性化、遠心分離、滅菌、濃縮、噴霧乾燥。
【0011】
本発明の実施例によれば、自己消化・酵素分解の反応が16〜20時間行われる。実際の生産中、酵素分解の反応時間が16時間未満であると、完全反応の効果が得られず、20時間を超えると、生産コストの節約にとって不利になるからである。
【0012】
本発明の酵母の寄託情報
出芽酵母(Z2.4)に所属しており、ラテン名が「Saccharomyces cerevisiae_Hanse Z2.4」であり、2005年10月25日に受託番号「CCTCC NO:M205130」として中国典型培養物寄託センター(CCTCC)に寄託されている酵母。
【発明の効果】
【0013】
本発明のプロセスにより調製した酵母エキスは、グルタミン酸を高濃度に含有し、その含有量が10%以上であり、味感がより旨くなり、食品の新鮮な味を強化させる能力がさらに強くなる。本発明の方法は簡単で操作し易く、グルタミン酸ナトリウムの含有量が高い酵母エキスの産業化量産を図ることができ、将来の酵母エキスの商業化量産を満たすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一.菌株の性能
1.菌学的特徴
【表1】

【0015】
【表2】

【0016】
本発明の出芽酵母菌株CCTCC NO.M 205130が上記菌学的特徴を有することに基づいて、「The yeasts, A Taxonomic Study」(酵母、分類学研究)(1998年、オランダ、Lodder J編集、第4版)に比べた結果、前記菌株が出芽酵母属に所属することが確定される。
【0017】
2.酵母菌株の培養
培地:12Brixの麦芽汁寒天培地、2%の寒天。pHを5.2に調整し、121℃で、蒸気滅菌を20分間行った後、28〜30℃で、前記酵母菌株を上記の方法で培養する。
【0018】
酵母のタンパク質の含有量を高めるために、培地に大量の窒素源を加えればよい。加える材料はアンモニア水であり、培地における窒素源の含有量が培地全質量に対して2%以上であることが確保される。
【0019】
菌種の保存条件:20%脱脂乳、凍結真空乾燥法
培養により得られた培養物を、ケルダール装置を用いて、ケルダール法で測定したところ、そのタンパク質の含有量が60%以上である。
【0020】
酵母の培養発酵により得られた発酵液を遠心して、遠心による沈殿物(或いは重い相)を収集することにより、酵母クリームが得られる。
【0021】
二.酵母エキスの調製
本発明の酵母エキスの製造方法には、
A)受託番号が「CCTCC NO:M205130」である酵母菌株を、アンモニア水を含む培地で培養し、前記得られた培養物を遠心して、遠心後の沈殿物(或いは重い相)を収集することにより酵母クリームを得る工程、
B)酵母クリームのpHを酸性程度(pH4.5〜6.8)になるように調整した後、酵母を殺すように45〜60℃まで加熱する工程(温度を45〜60℃の範囲にする理由は、45℃未満であると、例えばガス産生細菌など有害微生物が成長し易くて原料の変質を招来し、60℃を超えると、タンパク質の変性がひどくなり、分解しにくいことである。)、
C)自己消化・酵素分解:前述の酵母クリームにプロティナーゼ及びグルタミントランスアミナーゼを添加して酵素分解の反応をpH4.5〜6.8の条件で行う工程(添加したプロティナーゼは、大分子のタンパク質を小分子のへプチドやアミノ酸に分解する効果を奏する。添加したグルタミントランスアミナーゼは、遊離グルタミン酸の含有量を向上させる効果を奏する。そして、両者の加入量は、比率が1:1であることが好ましく、自己消化・酵素分解は、反応時間が16〜20時間であることが好ましく、温度は45〜68℃の範囲であればよいが、55〜65℃であることが好ましく、pH 6.0〜6.5であることが好ましい。)、
D)熱処理により酵素を不活性化して、遠心分離する工程、及び
E)遠心により得られた上澄みに濃縮及び噴霧乾燥のプロセスを実施することにより、グルタミン酸に富む酵母エキスを得る工程、を含む。
【0022】
三.グルタミン酸の含有量の測定
計器:2700型生物化学分析計(アメリカYSI社)
試薬:グルタミン酸ナトリウム
測定原理:本方法は酵素センサーによる溶液におけるグルタミン酸の含有量を直接的に読み取るものである。YSIグルタミン酸膜にグルタミン酸酸化酵素が固定されている。
【0023】
基本的反応式は以下の通りである。
【数1】

【0024】
実験試薬と設備:YSI2357緩衝液(YSI2357一袋を高純水500mlに溶解させたもの);L−グルタミン酸標準品(5mmol/L);YSI2754グルタミン酸測定用膜;YSI生物化学分析計。
【0025】
実験パラメータ:YSI膜:2754;測定範囲:0〜10mmol/L;標準液濃度:5.0mmol/L;検出の最大限:10.0mmol/L;精密度:2%;0〜5.0mmol/Lの間の誤差:±2%;5.0mmol/L〜10mmol/Lの間の誤差:±5%;膜の活性化後の有用寿命:7日;O型膜の色:黄色。
【0026】
グルタミン酸の測定方法
1.グルタミン酸標準液5.0mmol/L及びYSI2357緩衝液を高純水で調製して、YSI生物化学分析計に取り付けられる専用瓶にそれぞれ注入する。
【0027】
2.膜の据付:YSI生物化学分析計のプローブを取り出し、プローブの中心部に1滴のYSI生物化学分析計専用の塩化ナトリウム溶液を滴下する。その後、膜入れを丁寧に開け、プローブの中心部への位置合わせを行い、膜をプローブに取り付けて、1滴の塩化ナトリウム溶液を膜の中心部に再び滴下し、プローブを実装し、きつく捻る。RUNボタンを押して、膜を緩衝液で3回洗浄した後、標準液で3回洗浄する。
【0028】
3.L−グルタミン酸測定のプログラム及びパラメータセット:YSI生物化学分析計操作ハンドブック中の、L−グルタミン酸測定章における相応的記載に照らし合わせて、プログラム及びパラメータのセットを行う。
【0029】
4.膜の活性化:電流値の大きさに基づいて膜の活性化が完了しているか否かについて判断するのは、約24時間が必要である。一般的に、電流値が6以下である場合、膜の活性化が完了していると思われる。電流値が小さいほど、膜の活性化が良くなる。膜の活性化が完了すれば、試料の測定階段に入って試料の測定を開始することが可能である。
【0030】
5.試料の測定:酵母エキスを高純水で溶解し、溶液におけるグルタミン酸の含有量が0〜5.0mmol/Lになるように制御する。調製した酵母エキス溶液を試料タンク(1#作業台)又は小さいビーカー(2#作業台)に入れる。そしてディスプレイのsampleボタンを押すと、すぐさま、プローブが試料を抜き取って測定し、30秒後、計器が測定結果をディスプレイに表示し、測定終了のシグナルを示す。この場合、sampleボタンを再び押すと、新たな試料の測定を開始させることができる。
【0031】
以下、本発明の具体的な実施例を示して、本発明をさらに詳細に説明するが、実施例は目的を説明するためのものだけであり、本発明の権利範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
実施例1
原料としては、酵母CCTCC M205130を窒素源が強化された糖蜜で発酵させた酵母クリームを利用して、乾物の含有量が13〜15%の濃度になるように加水希釈した。温度を48〜52℃に調整し、塩酸又は硫酸を添加することでpHを5.5に調整し、そのまま、10時間維持した。その後、温度を55℃に上げて、酵母全質量に対する含有量が1.5‰であるパパインと、酵母全質量に対する含有量が1.5‰であるグルタミントランスアミナーゼとを添加し、pHを6.0〜6.5に調整し、4時間働きかけた。その後、温度を60℃に上げて、4時間働きかけた。その後、65℃で、1時間保温し、酵素製剤を不活性化させて、遠心機にて遠心分離、滅菌を行い、更に、濃縮設備にて濃縮し、噴霧乾燥塔にて噴霧乾燥して、最終的に、製品を調製した。2700型生物化学分析計を用いて、得られた製品のグルタミン酸含有量を測定したところ、最終製品におけるグルタミン酸の含有量が10.8%であることが確認された。
【0033】
実施例2
プロテアーゼの添加量を2‰に、グルタミントランスアミナーゼの添加量を1‰に、pHを6.0〜6.5に、温度を55℃に変えた他は、実施例1と同様に行った。
【0034】
実施例3
プロテアーゼの添加量を1‰に、グルタミントランスアミナーゼの添加量を2‰に、pHを6.0〜6.5に、温度を55℃に変えした他は、実施例1と同様に行った。
【0035】
比較例1
酵素分解の階段においてグルタミントランスアミナーゼを使用することなくパパインだけを使用した他は、実施例と同じ方式及び手順により、この比較例を行った。その結果、得られた製品におけるグルタミン酸はその含有量が4.6%であった。本発明でグルタミントランスアミナーゼを使用するほうが製品におけるグルタミン酸の含有量を大きく向上させることが示された。
【0036】
比較例2
酵素分解の階段においてパパインを使用することなくグルタミントランスアミナーゼだけを使用した他は、実施例1と同じ方式及び手順により、この比較例を行った。その結果、得られた製品におけるグルタミン酸はその含有量が3.0%であった。
【表3】

【0037】
以上の実験データから、本発明によれば、特有の酵母菌株を培養し、得られた、たんぱく質に富む培養物にプロテアーゼ及びグルタミントランスアミナーゼを所定比率で添加することにより、酵母エキスにおけるグルタミン酸の含有量が10%以上になり、従来の酵母エキスにおけるグルタミン酸の含有量よりも多くなることが分かった。そして、製造方法は簡単で操作し易く、酵母エキスの商業化量産を満たすことができる。
【0038】
以上、本発明の好適な実施形態について記載して来たが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、当業者にとって、本発明では各種の変更及び変形が可能である。本発明の趣旨及び原則から逸脱しない限り、いかなる添削、同等な代替、改良などを行っても、本発明の権利範囲に含まれるべきである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母菌株の培養物を原料として採用することにより調製された酵母エキスであって、前記酵母菌株が受託番号「CCTCC NO:M205130」として寄託されており、前記培養物におけるたんぱく質の含有量が60%を上回ることを特徴する酵母エキス。
【請求項2】
グルタミン酸の含有量が10%を上回ることを特徴とする請求項2に記載の酵母エキス。
【請求項3】
A)前記酵母菌株を窒素源に富む培地で培養して培養物を得て、前記培養物から酵母クリームを調製する工程、
B)前記酵母クリームのpHを4.5〜6.8に調整し、45〜60℃まで加熱する工程、
C)プロティナーゼ及びグルタミントランスアミナーゼを前記酵母クリームに添加して自己消化・酵素分解の反応を行う工程、
D)温度を60℃まで上げて遠心を行う工程、及び
E)滅菌、濃縮及び噴霧乾燥を経て前記酵母エキスを得る工程、を含むことを特徴とする請求項1に記載の酵母エキスの製造方法。
【請求項4】
前記添加したプロティナーゼ及びグルタミントランスアミナーゼの質量比が1:1であることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記プロティナーゼがパパインであり、その添加量が前記酵母クリームにおける酵母の全質量に対して1.5‰であることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項6】
前記グルタミントランスアミナーゼの添加量が前記酵母クリームにおける酵母の全質量に対して1.5‰であることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項7】
前記自己消化・酵素分解の反応を約16〜20時間行うことを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項8】
前記自己消化・酵素分解のpHが4.5〜6.8の範囲であることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項9】
前記窒素源がアンモニア水であることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。



【公表番号】特表2012−507265(P2012−507265A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532480(P2011−532480)
【出願日】平成21年9月27日(2009.9.27)
【国際出願番号】PCT/CN2009/074263
【国際公開番号】WO2010/072094
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(509019026)安▲チ▼酵母股▲フェン▼有限公司 (4)
【氏名又は名称原語表記】ANGELYEAST CO., LTD
【住所又は居所原語表記】168 Chengdong Road,Yichang,Hubei P.R. China
【Fターム(参考)】