説明

グルテン誘発性自己免疫疾患の診断

本発明は、トランスグルタミナーゼファミリーのタンパク質に存在する主セリアックエピトープを利用する結合アッセイにより、グルテン誘発性自己免疫疾患を選択的に診断することに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスグルタミナーゼファミリーのタンパク質に存在する主セリアックエピトープを利用する結合アッセイにより、グルテン誘発性自己免疫疾患を選択的に診断することに関する。
【背景技術】
【0002】
セリアック病(小児脂肪便症、非熱帯性スプルーまたはグルテン感受性腸症としても知られる)は、それについて疾患の環境引金因子が分かっている独特の自己免疫障害である。この障害は、ヒト白血球抗原(HLA)DQ2またはDQ8バックグラウンドをもつ遺伝的素因のある者に発症し、グルテン摂取の結果としての慢性的な腸炎症、吸収不良および自己抗体産生を特徴とする。グルテンは腸症のほかに痒みを伴う水疱性皮疹を誘発する可能性もあり、この場合、疾患は疱疹性皮膚炎と呼ばれる。この疾患は患者の食事からグルテンを除くことによって効果的に処置できるが、持続的応答を得るためにはこの処置を生涯続けなければならない。
【0003】
セリアック病はコムギ、ライムギおよびオオムギのグルテン画分の摂取により起きる。グリアジン(gliadin)がグルテンのアルコール可溶性部分であり、患者に対して有毒であることが示されたペプチドの混合物を含有する。33−merであるα−グリアジン由来ペプチドがグリアジンの最も免疫原性である部分として同定され、これは胃、膵臓および刷子縁膜のプロテアーゼ消化に対して抵抗性であり、腸上皮を通過して粘膜固有層に免疫応答を誘発することができる[Shan L et al, Science. 2002; 297: 2275-9.]。小腸上部の慢性的な炎症細胞浸潤、絨毛萎縮および陰窩(crypt)過形成はこの疾患の特徴的様相であり、一方、それは腸外症状、たとえば貧血、神経障害、または疱疹性皮膚炎と呼ばれる皮膚疾患を引き起こす可能性もある。この疾患はコムギが基礎食物である西洋人集団(欧州、米国、オーストラリア)に主に起きるが、最近では中東、南米、北アフリカおよびアジアにも出現している。これらの疾患はフィンランドの学童の1.0%[Maki M et al, N Engl J Med. 2003; 348(25): 2517-24.]、米国の“非リスク”グループの0.75%[Fasano A et al, Arch Intern Med. 2003; 163(3): 286-92.]、およびスクリーニングによるハンガリーの6歳児の1.4%[Korponay-Szabo IR et al, BMJ. 2007; 335 (7632): 1244-7.]にみられた。
【0004】
この疾患は下痢、腹部膨満、貧血、体重減少、発育遅滞、皮膚症状または神経症状など多種多様な臨床症状をもち、あらゆる年齢で診断される可能性がある。適正な吸収が行なわれない結果として、ビタミンおよび無機質、すなわちビタミンB12、ビタミンK、葉酸、鉄およびカルシウムの欠乏が起きる可能性がある。多くの患者が潜在症状をもつにすぎない可能性があり、そのような症例では適正な診断が遅れる場合がしばしばある。非処置セリアック病は、腺癌(一般集団と比較してほとんど2倍のリスクをもつ)、T細胞性リンパ腫(約50倍のリスクをもつ)および骨粗鬆症のような重篤な合併症を伴う。
【0005】
セリアック病の現在の診断基準はEuropean Society for Pediatric Gastroenterology and Nutritionにより確立され、上皮内リンパ球増加症、陰窩過形成および絨毛萎縮の特徴を示す小腸上部からの生検試料の組織検査(十二指腸生検)を要求し、これに加えて無グルテン食に対する好ましい応答も観察しなければならない。患者が血中に、平滑筋細胞を取り巻く結合組織シートに沿った(筋内膜抗体)またはレチクリン線維に沿った(R−レチクリン抗体結合パターン)正常組織切片に結合しうる特定の自己抗体を提示する場合、それもセリアック病の診断を支持する[Green PH, Cellier C, N Engl J Med. 2007; 357(17): 1731-43.]。
【0006】
この疾患は著しく診断不顕性であり、10人中2人の患者が臨床的に認識されるにすぎない。これについての主な説明は、必ずしもすべての患者が臨床症状を発現するわけではなく(無症状疾患)、ある者は長期間にわたって正常な粘膜形態をもつ場合すらあるというものである[Maki M, Collin P, Lancet. 1997; 349(9067): 1755-9.]。しかし、彼らはレチクリンおよび筋内膜組織の自己抗体についてしばしば陽性であって、高密度の上皮内リンパ球を伴い、またはセリアック様腸抗体パターンが陽性である。潜伏性または潜在性セリアック病と呼ばれるこの疾患サブグループは診断上の難題であり、これらの患者は後年になって絨毛萎縮および陰窩過形成を現わす可能性があり、あるいは他の臓器に重篤な−時には回復不能な−損傷を発現する可能性がある(グルテン運動失調症、心筋障害、糖尿病、甲状腺機能低下症)。潜伏期を伴う患者の診断は、それらの患者が初期には一般的な診断基準を満たさない場合がしばしばありかつ長い追跡時間を要するので、困難である。抗体レベルは経時的に変動する可能性があり、どの対象が近い将来に悪化するかを正確に推定するための良いツールが現在はない[Simell S et al, Scand J Gastroenterol. 2005; 40(10): 1182-91.]。
【0007】
したがって、樹立した小腸絨毛損傷に基づく現在の診断基準は不十分であり、改変する必要がある[Kaukinen K et al, Dig Dis Sci. 2001; 46: 879-87.]。さらに、小腸生検は不快な侵襲的診断方法であり、生検に基づく診断基準を抗体陽性で置き換えることは幾つかの実用的利点をもち、かつ初期疾患を伴う患者を取り込んで適時に治療指示を処方できる可能性もある。
【0008】
より単純でより耐えやすい初期診断ツールの必要性が以前から認識されていた。患者の血中におけるグリアジン、レチクリン、筋内膜および2型トランスグルタミナーゼ(TG2)に対する循環抗体の検出に基づく血清検査の採用が増加しつつある。それらは、軽度の症状または非定型臨床症状を伴う患者を見出すためにも、また一等親またはリスクグループをスクリーニングするためにも有用である。主なリスクグループは、セリアック病としばしば共存する糖尿病、ダウン症候群、選択的IgA欠損症、および種々の自己免疫障害、たとえば自己免疫性甲状腺疾患、シェーグレン症候群、紅斑性狼蒼、自己免疫性肝疾患、脱毛症、糸球体疾患および心疾患を伴う患者からなる[Green PH, Cellier C, N Engl J Med. 2007; 357(17): 1731-43.]。
【0009】
抗グリアジン抗体はセリアック病について十分な選択性または特異性を示さない;それにもかかわらず、TG2との構造類似性をもつ脱アミド化グリアジンペプチドに基づく検査は比較的効果がある[Volta U et al, Dig Dis Sci. 2008; 53(6): 1582-8.; Korponay-Szabo IR et al, J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2008; 46(3): 253-61.]。筋内膜IgA抗体はこの疾患の高特異的マーカーであるので、間接的免疫蛍光アッセイを用いるこれらの抗体のモニタリングは高い精度を提供する可能性がある。しかし、筋内膜抗体検査の評価は観察者依存度が大きく、かつ高度の技術をもつ熟練した職員を必要とし、したがってそれぞれの医療施設で広く利用できるわけではない。選択的IgA欠損症はセリアック病患者に一般的な特徴であり(40例中1例)、このため通常の筋内膜抗体検査により患者を認識するのはきわめて難しい。これらの場合、IgGクラスの抗−TG2抗体を検出すべきである[Korponay-Szabo I et al, Gut. 2003; 52(11): 1567-71]。さらに、筋内膜検査はこの疾患の顕性形態と潜伏性形態を識別できない[Green PH, Cellier C, N Engl J Med. 2007; 357(17): 1731-43.]。したがって、信頼性のある、より使いやすい検査法が当技術分野で求められていた。
【0010】
TG2(組織性、赤血球性または細胞性トランスグルタミナーゼとしても知られる)はセリアック病の主要な自己抗原であって筋内膜抗体およびレチクリン抗体に対する標的であることが見出された。この酵素はトランスグルタミナーゼスーパーファミリーのメンバーであり、これらの酵素はグルタミンのγ−カルボキサミド基とリジン残基のε−アミノ基の間のアシル基転移反応−共有結合によるタンパク質架橋−をCa2+依存性様式で触媒する(EC 2.3.2.13)。このTG2はタンパク質へのアミンの取込み、部位特異的脱アミドを触媒することができるほか、それはイソペプチダーゼ活性をもち、それのGTPase活性によりトランスメンブランシグナル伝達に関与する。TG2は細胞外へ出ることができ、そこでインテグリンおよびフィブロネクチンと複合体を形成し、細胞外マトリックスの再構成および組立てを促進し、細胞−マトリックス相互作用を仲介する。こうしてTG2は創傷治癒および血管新生に関与する。この酵素は核にトランスロケートすることができ、ヒストンおよび網膜芽細胞腫タンパク質と架橋して遺伝子発現を調節することもできる。TG2はアポトーシスに際して誘導および活性化される;さらに、この酵素の欠損はマクロファージによるアポトーシス細胞の抱込みに影響を及ぼす[Fesus L, Piacentini M, Trends Biochem Sci. 2002; 27(10): 534-9.]。
【0011】
TG2は広く存在する酵素であり、全身にわたって細胞内に、また細胞外にも見出すことができる。主自己抗原であるTG2が同定された後、モルモット肝TG2または組換えヒトTG2を抗原として多数の酵素結合イムノアッセイ法(ELISA)が開発された[Schuppan D et al, 1998; WO 98/03872.; Powell M et al, 2002; WO 02/068616 A2.]。さらに、細胞系により産生されたTG2に富む細胞外マトリックスも、診断検査における抗原として使用できる。これらのアッセイ法は筋内膜抗体検査法より安価であり、それらの感度および特異性はヒトTG2抗原の場合には90%を超える。さらに、患者の血液試料の赤血球中の天然自己TG2を用いることによる効率的な迅速抗体検出法が記載された[Maki M et al, 2002; WO 02/086509]。
【0012】
ある患者、特に疱疹性皮膚炎を伴う患者において、相同な皮膚トランスグルタミナーゼタンパク質(TG3)に対する抗体も記載され、これも診断目的に使用できる(Paulsson M. et al., 2001, WO 01/001133)。
【0013】
Hadjivassiliouら[Hadjivassiliou et al, Ann Neurol. 2008; 64: 332-43]は、ヒト白血球抗原タイプならびに抗グリアジン抗体および抗トランスグルタミナーゼ2抗体の検出のほかに、トランスグルタミナーゼ6(TG6)に対する抗体は、神経疾患を発現するリスクをもつ可能性があるグルテン感受性患者サブグループを同定するために、グルテン誘発性自己免疫疾患のマーカーとして使用できることを示唆した。彼らは、TG6 IgGおよびIgA応答が、腸の関与と関係なくグルテン運動失調症に広く存在することを観察した。
【0014】
事実、TG2に基づく検査技術を基礎とする幾つかの研究により、IgA筋内膜抗体陽性を伴う偽陰性IgA TG2結果、およびIgA筋内膜陽性ではない偽陽性IgA TG2結果が記載された[Wong RC et al, J Clin Pathol. 2002; 55(7): 488-94.]。偽陽性であるTG2抗体陽性結果は臨床状況でかなり一般的であり[Lock RJ et al, Eur J Gastroenterol Hepatol. 2004; 16(5): 467-70.; Green PH, Cellier C, N Engl J Med. 2007; 357(17): 1731-43.]、これはTG2抗体陽性を唯一の診断検査として採用するのを著しく制限する。特に、他の自己免疫疾患、腫瘍、心不全、神経障害、乾癬および肝疾患を伴う患者は、TG2と反応する低レベルの抗体を示す可能性がある。これらの組織は比較的高い量のTG2を含有し、それらがあらゆる種類の組織損傷により遊離してTG2に対する非特異的自己抗体を誘導する可能性があるので、これは意外ではなく、この抗体陽性はセリアック病とは無関係な可能性がある。
【0015】
これに対し、セリアック特異的抗体はグルテンに応答して、おそらくハプテン−キャリヤー機序により誘導され[Sollid LM et al, Gut. 1997; 41(6): 851-2.]、免疫蛍光法による筋内膜抗体検査に用いる筋組織切片基体中のフィブロネクチンの表面に結合した形のTG2を認識する。しかし、筋内膜抗体検査法ですら、セリアック病患者の抗TG2抗体とマウスにおいて実験的に誘導した他のTG2抗体とを識別できない[Korponay-Szabo IR et al, J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2008; 46(3): 253-61.]。さらに、よりセリアック病特異的な診断検査法を作成する試みで、グリアジンペプチドと複合体形成したTG2も抗原として用いられたが、これはTG2単独よりさらに信頼性の低い結果を与えた[Rajadhyaksha M et al, WO 01/29090 A1]。したがって、セリアックエピトープに対する抗体と他のTG2エピトープに対する抗体とを識別認識する検証イムノアッセイ法は、将来の診断方法を簡略化するためにきわめて重要であろう。
【0016】
したがって、グルテン誘発性自己免疫疾患または好ましくはセリアック病に特異的な、信頼性のある比較的簡便な診断方法を開発することがなお求められている。特に、潜伏型のこの疾患を同定できる、および/または小児にまたは症状から決定的な回答が得られない症例に適用できる診断アッセイ法を開発することが当技術分野でなお求められている。さらに、価格および患者の快適度に関して空腸生検に基づくものに代わる診断方法も望ましいであろう。
【0017】
事実、セリアック自己抗体の主結合エピトープを同定するために当技術分野で幾つかの試みがなされた。しかし、そのようなユニークエピトープはこれまでに見出されておらず、そのようなエピトープが1つだけ存在するのかあるいは幾つか存在するのかも明らかでなかった。TG2フラグメントを適用した先の研究[Seissler J et al, Clin Exp Immunol. 2001; 125(2): 216-21.; Sblattero D et al, Eur J Biochem. 2002; 269(21): 5175-81.; Nakachi K et al, J Autoimmun. 2004; 22(l): 53-63.]は、C末端ドメインに重要な結合部位のある可能性があると指摘した。しかし、ある患者試料はN末端またはコアドメインをも認識したので、抗体応答は対象によって分散および変動する可能性があると結論された。さらに、若い女性セリアック病患者と他の臨床症状を伴う患者との間に相異が認められた[Tiberti C et al, Clin Immunol. 2003; 109(3): 318- 24.]。他の研究[Byrne G et al, Gut. 2007; 56(3): 336-41.]では、触媒三つ組残基が主結合部位であると示唆された;これらの3つのアミノ酸残基の変異によって患者抗体の結合が少ないタンパク質が生成したからである。この研究においても、IgAクラスとIgGクラスのセリアック抗体の特異性は異なるように思われた。しかしこれらの研究は、著しい欠失、特にコアドメインまたは触媒三つ組残基に影響を及ぼす欠失によって著しく変位する可能性があるタンパク質の三次元構造を考慮に入れていなかった。ファージの表面にディスプレーしたTG2フラグメントにより実施されたさらに他の研究は、セリアック抗体に対する機能性結合部位を形成するためにタンパク質のコンホメーションが高い重要性をもつ可能性があることも指摘した;これらの手段でもセリアック病患者由来のモノクローナル抗体に対するエピトープを同定できなかったからである[Di Niro R et al, Biochem J. 2005; 388(3): 889-94.]。
【0018】
TG2はセリアック病の主要な自己抗原であるので診断に重要な標的分子であるだけでなく、この疾患の発病にも関与している。
セリアック病患者において健康なドナーと比較してTG2の発現および活性の増大が十二指腸生検で検出され、グリアジンペプチドはTG2の良好な基質であることが見出された。この仮説によれば、グリアジン−TG2複合体はTG2特異的B細胞に結合でき、そこでグリアジンとTG2フラグメントの両方がDQ2上に提示される可能性がある。提示されたグリアジン−DQ2複合体はグリアジン特異的T細胞を活性化することができ、これはTG2特異的B細胞がハプテン−キャリヤー機序により抗TG2抗体を産生するための補助を提供することができる[Sollid LM et al, Gut. 1997; 41(6): 851-2.]。セリアック病は主にT細胞仲介性障害であると一般に考えられており、その際にセリアック抗体の役割が論議されている。
【0019】
興味深いことに、セリアック抗体はTG2の架橋活性を遮断せず[Dieterich W et al, Gut. 2003; 52(11): 1562-6.; Roth EB et al, Clin Exp Rheumatol. 2006; 24(1): 12-8.]、むしろそれらはおそらくこの酵素のコンホメーションを安定化することにより、アミド基転移および脱アミドプロセスを増強する可能性すらある[Kiraly R et al, J Autoimmun. 2006; 26(4): 278-87.]。こうして、TG2はより多量のグリアジンを処理し、これによって免疫応答を増強し、次第に多量の抗体を産生するようになり、疾患プロセスをさらに押し進めるであろう。エピトープがコンホメーションをもち、多数のドメインが関与しているという当技術分野における提唱は、明らかにこの所見と矛盾する。
【0020】
幾つかの系列の新たな証拠は、TG2に対する自己抗体もこの疾患の発現に際して実際に発病の役割をもつことを示唆する。これらの抗体の存在はすべての患者に一様な特徴であり、これらの抗体は循環中に検出できない場合には種々の組織に沈着した状態で見出すことができる。組織損傷は抗体のインビボ結合に関係づけられ、血清試料中に抗体に関して陽性が認められない場合でも、細胞外TG2に結合した抗体が小腸、肝臓、筋肉、腎臓、脳などの罹病臓器にインサイチュで見出された[Korponay-Szabo IR et al, Gut. 2004; 53(5): 641-8.]。これらの抗体は外部から添加した組換えTG2に結合できるので機能性であり、かつそれらは絨毛萎縮が発生する前に既に組織中に出現する[Salmi TT et al, Gut. 2006; 55(12): 1746-53.; Salmi TT et al, Aliment Pharmacol Ther. 2006; 24(3): 541-52.]。
【0021】
さらに、セリアック抗体は細胞モデルにおいて上皮細胞分化および血管新生を妨げ[Myrsky E et al, Clin Exp Immunol. 2008; 152(1): 111-9.]、またミトコンドリア経路でアポトーシスを誘導する[Cervio E et al, Gastroenterology. 2007; 133(1): 195-206.]ことが示された。TG2ホモログペプチドで精製した抗体は上皮細胞透過性を増大させ、単球活性化を誘導した[Zanoni G et al, PLoS Med. 2006; 3(9): e358.]。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】WO 98/03872
【特許文献2】WO 02/068616 A2
【特許文献3】WO 02/086509
【特許文献4】WO 01/001133
【特許文献5】WO 01/29090 A1
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Shan L et al, Science. 2002; 297: 2275-9
【非特許文献2】Maki M et al, N Engl J Med. 2003; 348(25): 2517-24
【非特許文献3】Fasano A et al, Arch Intern Med. 2003; 163(3): 286-92
【非特許文献4】Korponay-Szabo IR et al, BMJ. 2007; 335(7632): 1244-7
【非特許文献5】Green PH, Cellier C, N Engl J Med. 2007; 357(17): 1731-43
【非特許文献6】Maki M, Collin P, Lancet. 1997; 349(9067): 1755-9
【非特許文献7】Simell S et al, Scand J Gastroenterol. 2005; 40(10): 1182-91
【非特許文献8】Kaukinen K et al, Dig Dis Sci. 2001; 46: 879-87
【非特許文献9】Volta U et al, Dig Dis Sci. 2008; 53(6): 1582-8
【非特許文献10】Korponay-Szabo IR et al, J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2008; 46(3): 253-61
【非特許文献11】Korponay-Szabo I et al, Gut. 2003; 52(11): 1567-71
【非特許文献12】Fesus L, Piacentini M, Trends Biochem Sci. 2002; 27(10): 534-9
【非特許文献13】Schuppan D et al, 1998
【非特許文献14】Powell M et al, 2002
【非特許文献15】Maki M et al, 2002
【非特許文献16】Paulsson M. et al., 2001
【非特許文献17】Hadjivassiliou et al, Ann Neurol. 2008; 64: 332-43
【非特許文献18】Wong RC et al, J Clin Pathol. 2002; 55(7): 488-94
【非特許文献19】Lock RJ et al, Eur J Gastroenterol Hepatol. 2004; 16(5): 467-70
【非特許文献20】Sollid LM et al, Gut. 1997; 41(6): 851-2
【非特許文献21】Rajadhyaksha M et al
【非特許文献22】Seissler J et al, Clin Exp Immunol. 2001; 125(2): 216-21
【非特許文献23】Sblattero D et al, Eur J Biochem. 2002; 269(21): 5175-81
【非特許文献24】Nakachi K et al, J Autoimmun. 2004; 22(1): 53-63
【非特許文献25】Tiberti C et al, Clin Immunol. 2003; 109(3): 318- 24
【非特許文献26】Byrne G et al, Gut. 2007; 56(3): 336-41
【非特許文献27】Di Niro R et al, Biochem J. 2005; 388(3): 889-94
【非特許文献28】Dieterich W et al, Gut. 2003; 52(11): 1562-6
【非特許文献29】Roth EB et al, Clin Exp Rheumatol. 2006; 24(1): 12-8
【非特許文献30】Kiraly R et al, J Autoimmun. 2006; 26(4): 278-87
【非特許文献31】Korponay-Szabo IR et al, Gut. 2004; 53(5): 641-8
【非特許文献32】Salmi TT et al, Gut. 2006; 55(12): 1746-53
【非特許文献33】Salmi TT et al, Aliment Pharmacol Ther. 2006; 24(3): 541-52
【非特許文献34】Myrsky E et al, Clin Exp Immunol. 2008; 152(1): 111-9
【非特許文献35】Cervio E et al, Gastroenterology. 2007; 133(1): 195-206
【非特許文献36】Zanoni G et al, PLoS Med. 2006; 3(9): e358
【発明の概要】
【0024】
本発明者らは、グルテン誘発性自己免疫疾患において自己抗原として機能するトランスグルタミナーゼ上に主セリアックエピトープが局在している可能性があることを予想外に見出した。意外にも、工学的に作成したフォールドしたベータ−サンドイッチドメインおよびコアドメインをもつトランスグルタミナーゼを基礎とし、セリアック自己抗体の結合パターンを利用することによって、改良された診断方法を提供し、これにより偽陽性結果を除くことができる。さらに、主セリアックエピトープに特異的に結合してセリアック病患者の自己抗体を置換しうるまたはそれらにより置換されうる化合物の使用によって、いっそう改良された診断方法を提供することができる。
【0025】
第1観点によれば、本発明は、対象においてグルテン誘発性自己免疫疾患を診断するための診断方法であって、下記の段階を含む方法に関する:
i)対象から生体試料を採取し、または対象から採取した生体試料を用意し、該試料は対象の自己抗体を含有し、そして場合により該試料から自己抗体を単離する;
ii)該試料の自己抗体を下記のものと接触させる:
−完全な(integral)主セリアックエピトープを有する、トランスグルタミナーゼファミリーに属する標準タンパク質(TGファミリータンパク質)、
−トランスグルタミナーゼファミリーに属する少なくとも1種類の試験タンパク質であって、主セリアックエピトープが完全である標準タンパク質と比較して主セリアックエピトープに関与する少なくとも1つの表面アミノ酸残基の側鎖および/または空間位置が変化しており、したがって主セリアックエピトープに結合しうることが分かっている抗体の結合レベルが損なわれている試験タンパク質、
その際、主セリアックエピトープのこの少なくとも1つの表面アミノ酸残基は下記のものを含むかまたはそれらから選択され:
コアドメインの第1アルファヘリックスの1以上の表面アミノ酸残基、好ましくは該アルファヘリックスの最初の4、3または2つのアミノ酸残基から選択される表面アミノ酸残基、より好ましくは該アルファヘリックスの第1アミノ酸残基、および/または
ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの1以上の表面アミノ酸残基、およびベータ−サンドイッチドメインの保存されたHisHisThrモチーフの1以上の表面アミノ酸残基、好ましくはベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの最後の6、5、4または3つのアミノ酸残基および該HisHisThrモチーフのアミノ酸残基から選択される表面アミノ酸残基、より好ましくは該ヘリックスの第6アミノ酸残基および/または該HisHisThrモチーフの第1アミノ酸、
その際、コアドメインはフォールドした三次元構造、好ましくは天然のフォールドした三次元構造を有し、ベータ−サンドイッチドメインはフォールドした三次元構造、好ましくは天然のフォールドした三次元構造を有し、好ましくはこれらのドメインのフォールドは本質的に完全であるかまたは維持されている;
iii)標準タンパク質および少なくとも1種類の試験タンパク質への自己抗体の結合特性を評価する;
その際、標準タンパク質と比較して試験タンパク質への自己抗体の結合が損なわれた場合、この事実をその対象におけるグルテン誘発性自己免疫疾患の指標とみなす。
【0026】
好ましくは、側鎖が変化している場合、その側鎖の幾何学的形状、側鎖のサイズ、側鎖の官能基またはその電荷が変化している。
好ましくは、結合レベルを評価することにより、あるいは結合の、たとえば会合および/または開離の反応速度またはパラメーターを評価することにより、結合特性を評価する。
【0027】
好ましい態様において、診断方法の段階iii)で試験タンパク質および標準タンパク質への自己抗体の結合レベルを測定することにより結合を評価し、その際、標準タンパク質への自己抗体の結合レベルが前決定閾値を超える場合、および試験タンパク質への自己抗体の結合レベルが標準タンパク質より有意に低いか、または好ましくは少なくとも前決定割合で、標準タンパク質と比較して好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、よりさらに好ましくは少なくとも50%低下している場合、この事実をその対象におけるグルテン誘発性自己免疫疾患の指標とみなす。
【0028】
前決定閾値(またはカットオフ)の設定は常用される最適化プロセスであり、アッセイ条件を設定する技術分野の専門家が十分になしうる範囲のものである。結合分子、たとえば抗体がTGファミリータンパク質、たとえば標準TGファミリータンパク質と反応性であることを明らかにするのに適切なカットオフは、たとえば既知のセリアック試料および非セリアック試料について実施する受容者動作特性曲線(receiver operating characteristic curve (ROC))により確立できる。
【0029】
ある態様において、前決定閾値は最大標準値の、たとえば100%結合レベルの1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、15%、16%、17%、18%、19%または20%に設定される。
【0030】
好ましくは、ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスは、ベータ−サンドイッチドメインのHisHisThrモチーフの最初のHisからN末端方向に8アミノ酸の距離にあるアミノ酸残基から、ベータ−サンドイッチドメインのHisHisThrモチーフの最初のHisまでの範囲である。
【0031】
好ましくは、ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの最後の5つのアミノ酸は、ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの保存されたAsnからベータ−サンドイッチドメインのHisHisThrモチーフの最初のHisまでの範囲であり、好ましくは該ヘリックスの最後の6、5、4または3つのアミノ酸残基はこれに従って計算される。
【0032】
したがって、該ヘリックスの第6アミノ酸残基は、ベータ−サンドイッチドメインの保存されたHisHisThrモチーフからアミノ末端方向に2つ目のアミノ酸、あるいはベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの保存されたAsnからカルボキシ末端方向に2つ目のアミノ酸である。
【0033】
好ましくは、ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの第6アミノ酸はヒトTG2のArg19、またはフォールドしたベータ−サンドイッチドメインおよびフォールドしたコアドメインをもつトランスグルタミナーゼファミリーのタンパク質の配列中の対応するアミノ酸であり;HisHisThrモチーフの最初のHisはヒトTG2のHis22、またはフォールドしたベータ−サンドイッチドメインおよびフォールドしたコアドメインをもつトランスグルタミナーゼファミリーのタンパク質の配列中の対応するアミノ酸である。
【0034】
好ましくは、コアドメインの第1アルファヘリックスは下記の範囲である:
−コアドメインの第1アルファヘリックスの保存されたGluTyrXxxモチーフ(ここで、Xxxは非極性アミノ酸残基、好ましくはValまたはIleまたはLeuである)からアミノ末端方向に5つ目のアミノ酸から、あるいは
−ヒト−トランスグルタミナーゼのコアドメインの第1アルファヘリックスの保存されたArgからアミノ末端方向に3つ目のアミノ酸から、
−少なくとも該GluTyrXxxモチーフのGluまたはTyrまで。
【0035】
したがって、コアドメインの第1アルファヘリックスの第1アミノ酸残基または最初の2、3もしくは4つのアミノ酸残基はこれに従って計算される。
より好ましくは、該アルファヘリックスの第1アミノ酸残基は、大部分のヒト−トランスグルタミナーゼのコアドメインの第1アルファヘリックスの保存されたGluTyrXxxモチーフからアミノ末端方向に5つ目のアミノ酸、またはコアドメインの第1アルファヘリックスの保存されたArgからアミノ末端方向に3つ目のアミノ酸である。
【0036】
好ましい態様において、下記の空間位置または側鎖の幾何学的形状が互いに変化している:
a)コアドメインの第1アルファヘリックスの少なくとも1つの表面アミノ酸残基、好ましくは該アルファヘリックスの最初の4、3または2つのアミノ酸残基から選択される表面アミノ酸残基、より好ましくは該アルファヘリックスの第1アミノ酸残基、ならびに
b)ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスおよびベータ−サンドイッチドメインの保存されたHisHisThrモチーフの、少なくとも1つの表面アミノ酸残基、好ましくは最後の6、5、4または3つのアミノ酸残基および該HisHisThrモチーフから選択される表面アミノ酸残基、より好ましくは該ヘリックスの第6アミノ酸残基。
【0037】
さらに他の態様において、変異はトランスグルタミナーゼファミリーのタンパク質の一部において行なわれ、その結果、該タンパク質が保有する主セリアックエピトープまたはSSEに関与するアミノ酸として本明細書に定めるアミノ酸の転位または空間位置変化が生じる。特定の態様において、アルファヘリックスの比較的大きい部分が転位し、たとえばアルファヘリックスが分解または傾斜する。
【0038】
本発明の診断方法において、好ましくは
コアドメインの第1アルファヘリックスの第1アミノ酸残基は、アミノ酸配列アラインメントに基づいて全長ヒトTG2のアミノ酸ナンバリング法に従って番号を付けたGlu153に対応するかもしくはそれと同等なアミノ酸残基であり、および/または
ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの第6アミノ酸残基は、アミノ酸配列アラインメントに基づいて全長ヒトTG2のアミノ酸ナンバリング法に従って番号を付けたArg19に対応するかもしくはそれと同等なアミノ酸残基であり、および/または
ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスのHisHisThrモチーフの第1アミノ酸残基は、アミノ酸配列アラインメントに基づいて全長ヒトTG2のアミノ酸ナンバリング法に従って番号を付けたHis22に対応するかもしくはそれと同等なアミノ酸残基である。
【0039】
本発明による診断方法の好ましい態様において、TGファミリー試験タンパク質では、主セリアックエピトープが完全である標準タンパク質と比較してさらに他の1つのアミノ酸の側鎖または空間位置が変化し、たとえば1以上のさらに他のアミノ酸が変異しており、
その際、好ましくはこのさらに他のアミノ酸は、多重配列アラインメントに基づいて全長ヒトTG2のアミノ酸ナンバリング法に従って番号を付けたArg151、Glu153、Glu154、Arg156、Arg19、His22、Val431、Arg433、Glu435、Met659、Leu661に対応するかもしくはそれと同等なアミノ酸残基の群から選択され、その際、好ましくはその変化はセリアック抗体結合に影響を及ぼす。
【0040】
さらに他の好ましい態様において、1以上のさらに他のアミノ酸の変化のため、下記のいずれかのアミノ酸残基の空間位置が標準タンパク質と比較して変化している:
該アルファヘリックスの最初の4、3または2つのアミノ酸残基から選択される表面アミノ酸残基、より好ましくは該アルファヘリックスの第1アミノ酸残基、および/または
ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの最後の6、5、4または3つのアミノ酸残基およびHisHisThrモチーフアミノ酸残基から選択される、表面アミノ酸残基、より好ましくは該ヘリックスの第6アミノ酸残基および/または該HisHisThrモチーフの第1アミノ酸残基。
【0041】
この態様の好ましい変形において、このさらに他の変化は、標準タンパク質と比較して、多重配列アラインメントに基づく全長ヒトTG2の下記のアミノ酸:Glu158、Tyr160、Val161、His23、Thr24に対応するかもしくはそれと同等なアミノ酸残基の群から選択される1以上のアミノ酸残基における変異であるか、あるいはベータ−サンドイッチドメインのN末端部分における変化、たとえばベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの第6残基から計算して少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16個のアミノ酸残基の欠失または置換である。
【0042】
好ましくは、試験タンパク質は変異TG2であり、この1以上のアミノ酸の変化は下記の群から選択される変異である:
下記の変異:
Glu153、たとえばE153S、E153T、E153Y、E153K、E153R、E153Q、E153N;
Arg19、たとえばR19S、R19K、R19Q;
Glu154、たとえばE154S、E154T、E154Y、E154K、E154R、E154Q、E154N;
Glu158、たとえばE158S、E158Q、E158L;
His22、たとえばH22S;
およびさらに他の下記の変異:
Ala24、Arg151、Arg156、Val431、Val432、Arg433、Glu435、Met659、Leu661。
【0043】
側鎖における変異または変化の影響が小さい場合、たとえば保存的変異が行なわれた場合、1より多いアミノ酸残基の変異をもつことが適切な可能性があることは当業者には理解されるであろう。
【0044】
本発明のさらに他の態様において、自己抗体または自己抗体パネルを試験タンパク質および所望により標準タンパク質と接触させる前に、それらを単離する。
さらに他の観点において、本発明は、対象においてグルテン誘発性自己免疫疾患を診断するための、下記のものを含む診断キットに関する:
a)トランスグルタミナーゼファミリーに属する試験タンパク質であって、主セリアックエピトープが完全である標準タンパク質と比較して主セリアックエピトープに関与する少なくとも1つの表面アミノ酸残基の側鎖および/または空間位置が変化しているもの、
その際、主セリアックエピトープのこの少なくとも1つの表面アミノ酸残基は下記のものを含むかまたはそれらから選択され:
コアドメインの第1アルファヘリックスの表面アミノ酸残基、好ましくは該アルファヘリックスの最初の4、3または2つのアミノ酸残基から選択される表面アミノ酸残基、より好ましくは該アルファヘリックスの第1アミノ酸残基、および/または
ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの表面アミノ酸残基およびベータ−サンドイッチドメインの保存されたHisHisThrモチーフの表面アミノ酸残基、好ましくはベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの最後の6、5、4または3つのアミノ酸残基および該HisHisThrモチーフのアミノ酸残基から選択される表面アミノ酸残基、より好ましくは該ヘリックスの第6アミノ酸残基および/または該HisHisThrモチーフの第1アミノ酸、
その際、コアドメインはフォールドした三次元構造、好ましくは天然のフォールドした三次元構造を有する;ならびに
b)トランスグルタミナーゼファミリーに属する標準タンパク質であって完全な主セリアックエピトープを有するタンパク質、あるいは少なくとも、トランスグルタミナーゼファミリーに属する標準タンパク質を用意および使用するための指示を保有する媒体;
ならびに場合により
対象からの生体試料であって対象の自己抗体を含有する試料を採取するための手段、および/または該試料から自己抗体を単離するための手段、および/または
該タンパク質への自己抗体の結合のレベルおよび/または反応速度を評価するための手段。
【0045】
本発明の診断キットには、本明細書に定める試験タンパク質および/または試験タンパク質をいずれも適用できる。
好ましい態様において
a)試験タンパク質は変異したトランスグルタミナーゼ(TG)、好ましくは変異したTG2、TG3またはTG6であり、
b)標準タンパク質は野生型TG、好ましくは野生型のTG2、TG3またはTG6である。
【0046】
好ましい態様において、結合のレベルを評価するための手段はウェルを有するプレート、たとえばマイクロタイタープレートを含み、その際、ウェルの第1部分は標準タンパク質でコートされ、ウェルの第2部分は少なくとも1種類の試験タンパク質でコートされる。
【0047】
ある態様において、プレートのウェルもフィブロネクチンによってコートされる。
さらに他の観点において、本発明は、対象においてグルテン誘発性自己免疫疾患を診断するための診断方法であって、下記の段階を含む方法に関する:
i)対象から生体試料を採取し、または対象から採取した生体試料を用意し、該試料は対象の自己抗体を含有し、そして場合により該試料から自己抗体を単離する;
ii)該試料の自己抗体を、トランスグルタミナーゼファミリーに属するタンパク質であって完全な主セリアックエピトープを有するタンパク質と接触させる;そして
iii)試験化合物の不存在下および存在下の両方で、このTGファミリータンパク質への自己抗体の結合レベルを評価する;この試験化合物は主セリアックエピトープに結合しうることが分かっている;
その際、試験化合物の不存在下での自己抗体の結合レベルが前決定閾値を超える場合、および試験化合物の存在下での標準タンパク質への自己抗体の結合レベルが試験抗体の不存在下での自己抗体の結合レベルと比較して有意に低い場合、この事実をその対象におけるグルテン誘発性自己免疫疾患の指標とみなす。好ましくは、試験化合物の存在下での標準タンパク質への自己抗体の結合レベルは、少なくとも前決定割合で、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、70%または80%低下し、これらは残存結合がそれぞれ60%を超えず、好ましくは50%を超えず、より好ましくは40%、30%または20%を超えない結合レベルに対応する。
【0048】
したがって試験化合物は、少なくとも部分的に患者のセリアック抗体を置換するのに十分なほど高い親和性または結合力で主セリアックエピトープに結合しうる化合物でなければならず、あるいはその逆でなければならない。試験化合物は、患者の自己抗体と競合するのに十分なほど高い結合親和性または結合力で、好ましくは患者抗体のものより高い結合親和性または結合力で、主セリアックエピトープを結合しなければならない。試験化合物の結合親和性または結合力が患者の自己抗体のものに匹敵するかまたはそれより低い場合ですら、より高い濃度の試験化合物を用いることによって十分な置換度を達成できることは当業者に理解されるであろう。
【0049】
別態様において、セリアック病患者抗体による試験化合物の置換を検出する。
試験化合物による自己抗体の適切な置換を達成するための濃度を設定することは、十分に当業者がなしうる範囲内にある。
【0050】
好ましい試験化合物は、主セリアックエピトープに対する特異性の高い抗体または抗体フラグメントである。特に好ましい試験化合物は、該エピトープに対して産生されたモノクローナル抗体である。好ましい例はPhadiaのMab885であり、これは適切な国際書式に示されるように、ブダペスト条約に従って2010年3月25日にPhadia AB (P.O.Box 6460 751 37 UPPSALA, Sweden, Visiting address: Rapsgatan 7P 754 50 Uppsala)により、寄託番号 でDSMZ - Deutsche Sammlung von Miroorganismen un Zellkulturen GmbH, Inhoffenstr. 7 B, D-38124 Braunschweig, Germanyに寄託された。
【0051】
好ましい態様において、試験化合物は、トランスグルタミナーゼファミリーに属するタンパク質の主セリアックエピトープに結合しうることが分かっている試験抗体またはそのフラグメント、バリアント、誘導体もしくはアナログであり、該タンパク質はセリアック病の自己抗原、好ましくはTG2、TG3またはTG6、より好ましくはTG2またはTG6、きわめて好ましくはTG2である。
【0052】
好ましい態様において、試験化合物は、Mab885のフラグメント、バリアント、誘導体またはアナログであって、Mab885の可変部のアミノ酸配列またはそれと少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、98%または99%の配列同一性をもつアミノ酸配列を有する結合領域を含むものであり、そのフラグメント、バリアント、誘導体またはアナログはトランスグルタミナーゼファミリーに属するタンパク質の主セリアックエピトープに結合することができる。
【0053】
適切には、対象から採取した生体試料は、組織または身体部分の試料の自然状態または処理した状態のものであり、それらにはセリアック抗体が存在する可能性がある。本発明の好ましい態様において、対象から採取した生体試料は体液試料、たとえば唾液、十二指腸液、便もしくは血液試料、またはそれを処理した試料、たとえば血清試料もしくは適宜な阻害薬を含有する試料である。
【0054】
さらに他の態様において、生体試料は、セリアック抗体が沈着した固形組織試料、たとえば好ましくは小腸、空腸、胎盤または肝臓から採取した試料である[Korponay-Szabo, I.R. et al. Gut 53, 641-648 (2004)]。試料は、抗TG3抗体の存在が報告された皮膚から採取することができる。
【0055】
体液試料を用いる利点は、患者の自己抗体が直接適用できる形態で試料中に存在し、それを単離する必要がないことである。好ましくは、固形組織試料からは、Salmi TT et al, Gut. 2006; 55(12): 1746-53の記載に従って自己抗体を少なくとも部分的に試料から単離または溶離することにより、患者の自己抗体を得るべきである。
【0056】
本発明は、セリアック病の診断のための、または置換アッセイにおいてセリアック病を診断するための方法における、本明細書に開示する試験化合物であって主セリアックエピトープに結合する化合物の使用をも提供する。
【0057】
本発明の使用において、患者の抗体および本発明の試験化合物は両方とも主セリアックエピトープに結合し、これにより結合部位に対して競合する。アッセイ条件は、セリアック病患者の自己抗体が試験化合物を置換するように、あるいは試験化合物がセリアック病患者の自己抗体を置換するように設定することができる。本発明の他の観点によれば、対象においてグルテン誘発性自己免疫疾患を診断するためのさらに他の診断キットが提供され、該キットは下記のものを含む:
a)トランスグルタミナーゼファミリーに属するタンパク質であってセリアック病の自己抗原であるタンパク質の主セリアックエピトープに結合しうることが分かっている試験化合物;
b)トランスグルタミナーゼファミリーに属する標準タンパク質であって完全な主セリアックエピトープを有するタンパク質を用意および使用するための指示を保有する媒体;
ならびに場合により下記のうち1以上:
c)トランスグルタミナーゼファミリーに属する標準タンパク質であって完全な主セリアックエピトープを有するタンパク質;ならびに
c)対象からの生体試料であって対象の自己抗体を含有する試料を採取するための手段、および/または該試料から自己抗体を単離するための手段;および/または
d)該タンパク質への自己抗体の結合のレベルおよび/または反応速度を評価するための手段。
【0058】
好ましくは、試験化合物はトランスグルタミナーゼファミリーに属するタンパク質の主セリアックエピトープに結合しうることが分かっている試験抗体またはそのフラグメント、バリアントもしくはアナログであり、該タンパク質はセリアック病の自己抗原である。より好ましくは、試験抗体はセリアック病患者に由来する抗体またはそのフラグメント、バリアントもしくはアナログであり、患者由来の抗体に典型的な結合部位および/または認識パターンをもつ。
【0059】
好ましくは、試験抗体は、同じ結合特性の結合部位をもつモノクローナル抗体またはそのフラグメント、バリアントもしくはアナログである。きわめて好ましい態様において、モノクローナル抗体はコアドメインの第1アルファヘリックスの最初の1〜4つのアミノ酸の表面部分に結合しうる抗体である。好ましくは、抗体はMab885モノクローナル抗体である。
【0060】
本発明のさらに他の観点は、グルテン誘発性自己免疫疾患を診断するための方法における試験タンパク質の使用に関する:
試験タンパク質はトランスグルタミナーゼファミリーに属し、その際、主セリアックエピトープが完全である標準タンパク質と比較して主セリアックエピトープに関与する少なくとも1つの表面アミノ酸残基の側鎖および/または空間位置が変化しており、
その際、主セリアックエピトープのこの少なくとも1つの表面アミノ酸残基は下記のものを含むかまたはそれらから選択され:
コアドメインの第1アルファヘリックスの表面アミノ酸残基、好ましくは該アルファヘリックスの最初の4、3または2つのアミノ酸残基から選択される表面アミノ酸残基、より好ましくは該アルファヘリックスの第1アミノ酸残基、および/または
ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの表面アミノ酸残基およびベータ−サンドイッチドメインの保存されたHisHisThrモチーフの表面アミノ酸残基、好ましくはベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの最後の6、5、4または3つのアミノ酸残基および該HisHisThrモチーフのアミノ酸残基から選択される表面アミノ酸残基、より好ましくは該ヘリックスの第6アミノ酸残基および/または該HisHisThrモチーフの第1アミノ酸、
その際、コアドメインはフォールドした三次元構造、好ましくは天然のフォールドした三次元構造を有する。
【0061】
好ましくは、本発明の使用において、試験タンパク質および標準タンパク質は、それぞれ本明細書に定めるいずれかの試験タンパク質および標準タンパク質である。
好ましくは、本発明の使用において、セリアック病を診断するための方法は、本明細書に定めるいずれかの診断方法である。
【0062】
たとえば、本発明による使用、診断方法または検査キットにおいて、
試験タンパク質は、トランスグルタミナーゼファミリーに属するセリアック病の自己抗原である野生型タンパク質の変異体であり、
標準タンパク質は、トランスグルタミナーゼファミリーに属するセリアック病の自己抗原である野生型タンパク質である。
【0063】
好ましくは、標準タンパク質は野生型のアミノ末端ベータ−サンドイッチドメインおよびコアドメインを含むTG2、TG3またはTG6であり、試験タンパク質は変異型のベータ−サンドイッチドメインおよびコアドメインを含むTG2、TG3またはTG6である。
【0064】
さらに他の観点において、本発明は、対象においてセリアック病を診断するための診断方法に有用なトランスグルタミナーゼファミリーに属する試験タンパク質を調製するための調製方法であって、下記の段階を含む方法に関する:
i)トランスグルタミナーゼファミリーに属し、セリアックエピトープが完全である標準タンパク質を選択する;
ii)該タンパク質の変異バリアントであって、主セリアックエピトープが完全である標準タンパク質と比較して主セリアックエピトープに関与する少なくとも1つの表面アミノ酸残基の側鎖および/または空間位置が変化しているものを設計する;
その際、主セリアックエピトープのこの少なくとも1つの表面アミノ酸残基は下記のものを含むかまたはそれらから選択され:
コアドメインの第1アルファヘリックスの表面アミノ酸残基、好ましくは該アルファヘリックスの最初の4、3または2つのアミノ酸残基から選択される表面アミノ酸残基、より好ましくは該アルファヘリックスの第1アミノ酸残基、および/または
ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの表面アミノ酸残基およびベータ−サンドイッチドメインの保存されたHisHisThrモチーフの表面アミノ酸残基、好ましくはベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの最後の6、5、4または3つのアミノ酸残基および該HisHisThrモチーフのアミノ酸残基から選択される表面アミノ酸残基、より好ましくは該ヘリックスの第6アミノ酸残基および/または該HisHisThrモチーフの第1アミノ酸、
その際、コアドメインはフォールドした三次元構造、好ましくは天然のフォールドした三次元構造を有する;
iii)上記の変異を含む変異アミノ酸配列をコードする変異した組換え核酸を調製する;
ix)この変異した組換え核酸を宿主において発現させる;
v)宿主から変異タンパク質を採取して試験タンパク質を得る;これは、セリアック抗体と接触させた際に、対応する野生型標準タンパク質と比較して低下した結合レベル(好ましくは少なくとも30%低い、より好ましくは少なくとも40%低い、よりさらに好ましくは少なくとも50%低い結合レベル)を示す。
【0065】
さらに他の観点において、本発明は、対象においてセリアック病を診断するための診断方法に有用なトランスグルタミナーゼファミリーに属する標準タンパク質を調製するための調製方法であって、下記の段階を含む方法に関する:
i)トランスグルタミナーゼファミリーに属し、セリアックエピトープが損傷を受け、欠如し、または存在しない試験タンパク質を選択する;
ii)試験タンパク質の変異バリアントであって、主セリアックエピトープが損傷を受けている試験タンパク質と比較して主セリアックエピトープに関与する少なくとも1つの表面アミノ酸残基の側鎖および/または空間位置が変化しているものを設計して、主セリアックエピトープが完全である標準タンパク質を得る;
その際、主セリアックエピトープのこの少なくとも1つの表面アミノ酸残基は下記のものを含むかまたはそれらから選択され:
コアドメインの第1アルファヘリックスの表面アミノ酸残基、好ましくは該アルファヘリックスの最初の4、3または2つのアミノ酸残基から選択される表面アミノ酸残基、より好ましくは該アルファヘリックスの第1アミノ酸残基、および/または
ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの表面アミノ酸残基およびベータ−サンドイッチドメインの保存されたHisHisThrモチーフの表面アミノ酸残基、好ましくはベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの最後の6、5、4または3つのアミノ酸残基および該HisHisThrモチーフのアミノ酸残基から選択される表面アミノ酸残基、より好ましくは該ヘリックスの第6アミノ酸残基および/または該HisHisThrモチーフの第1アミノ酸、
その際、コアドメインはフォールドした三次元構造、好ましくは天然のフォールドした三次元構造を有する;
iii)上記の変異を含む変異アミノ酸配列をコードする変異した組換え核酸を調製する;
ix)この変異した組換え核酸を宿主において発現させる;
v)宿主から変異タンパク質を採取して標準タンパク質を得る;これは、セリアック抗体と接触させた際に、対応する野生型標準タンパク質と比較して増大した結合レベル(好ましくは少なくとも30%高い、より好ましくは少なくとも40%高い、よりさらに好ましくは少なくとも50%高い結合レベル)を示す。
【0066】
定義
タンパク質またはドメイン構造の「フォールド(fold)」は、本明細書において、それの二次構造要素(「主構造要素(main structural element)」、たとえばヘリックス、たとえばアルファ−ヘリックス、および伸展構造、たとえばベータ構造、たとえばベータ鎖、平行および逆平行ベータシート、ベータバレル、ならびに「副構造要素(minor structural element)」、たとえば各種ターン、たとえばベータまたはガンマターン、ループなどを含む)の相互の空間(三次元)配列であると理解される。
【0067】
「二次構造要素(secondary structural element:SSE)」は、一定のコンホメーションをもつタンパク質の特定の部分またはセグメントの二次構造の単位である。SSEは種々の方法(後記を参照)により評価、推定または計算することができる。たとえば、ある態様によれば、2または場合により3つのタイプのSSEを用いる:アルファ−ヘリックス、伸展構造、および場合によりコイルまたはランダム構造(後記を参照)。
【0068】
2つのタンパク質または2つのタンパク質ドメインのフォールドは、一方のタンパク質またはドメインの主SSEまたはその各々の少なくとも大部分、好ましくは60%、70%、80%または少なくとも90%を他方のものに対応させることができれば、本明細書において類似または同様とみなされる。それのフォールドが少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%同一である場合、それらは本質的に同一と呼ばれる。これは、たとえば第1のタンパク質またはドメイン中の特定の他の要素に結合または隣接している特定の二次構造要素に対して、第1のタンパク質またはドメイン中のこの特定の他の要素と同じタイプの要素に結合または隣接している同じタイプの対応する要素を第2のタンパク質またはドメイン中に見出すことができる場合である。対応するSSEの比率は、アミノ酸の数またはSSEの数により計算できる。
【0069】
何らかの事象または作用の後のタンパク質のフォールドは、下記の基準が満たされている場合、本質的に無傷のままであるか、あるいは維持されている:
i)少なくとも主SSE(ヘリックス、たとえばアルファ−ヘリックス、ならびに伸展構造、たとえばベータ構造、たとえばベータシートおよびベータバレル)の空間配列が維持されている場合、および/またはフォールドが類似もしくは同様または本質的に同一のままである場合;
ii)主構造要素の変化率が最大で40%または30%、好ましくは最大で25%または20%、より好ましくは最大で15%、10%または5%であり、ランダム構造の変化率が最大で40%または30%、好ましくは最大で25%または20%、より好ましくは最大で15%、10%または5%である場合;
iii)そのタンパク質のいずれかの活性が検出可能なままである場合;
iv)そのタンパク質のいずれかの複合またはコンホメーション(不連続)エピトープが免疫学的に検出可能なままである場合。
【0070】
上記の基準を調べるのに有用ないずれの技術的方法も本発明に適用できることを理解すべきである。これらのすべての方法にはそれらの制限があり、したがって上記の定義は必然的にこれらの制限を考慮して解釈すべきであることは当業者に分かるであろう。
【0071】
変異体、バリアントまたはホモログを含めたタンパク質またはタンパク質ドメインは、それのフォールドが野生型タンパク質と同様であるかもしくは類似するかまたは本質的に同一であれば、「天然のフォールド(native fold)」をもつ。タンパク質またはドメインの「トランスグルタミナーゼフォールド(transglutaminase fold)」は、本明細書において、TGファミリーのタンパク質またはその各ドメイン(たとえば、ドメインI、II、IIIまたはIV)のフォールドと類似もしくは同様または本質的に同一のフォールドであると理解され、好ましくは、その際TGファミリーのタンパク質はセリアック病における自己抗原であってもよく、好ましくはその際TGファミリーのタンパク質は真核細胞、動物、脊椎動物または哺乳動物のタンパク質である。
【0072】
タンパク質またはドメインの「フォールドした三次元構造(folded three dimensional structure)」は、本明細書において、空間的に(三次元的に)規定された構造要素、たとえばSSE(主構造要素、たとえばヘリックス、たとえばアルファ−ヘリックス、および伸展構造またはベータ構造)がフレキシブルではあるが空間的に規定された三次元構造で配列され、これによって一定の条件下でそのタンパク質またはドメインにある程度の熱力学的安定性が付与された構造であると理解される。あるいは、フォールドしたタンパク質またはドメインは確定したまたは確定できるフォールドをもつ。アンフォールドしたタンパク質もしくはドメインまたはモルテングロビュール(molten globule)状態はフォールドしているとはみなされない。
【0073】
タンパク質またはドメインの「フォールドした三次元構造(folded three dimensional structure)」は、それが天然のフォールドをもつならば「天然(native)」である。
好ましい態様において、フォールドしたまたは天然のフォールドした三次元構造では、タンパク質またはドメインのフォールドが本質的に無傷のままであるか、または維持されている。当業者に自明のとおり、これは多数の構造分析法により実験的に示すことができる。これらのいずれかの方法を用いてそのタンパク質またはドメインのフォールド性を解明することができるが、ただしこの場合のフォールド性の定義は適用する方法によって制限または拘束される。
【0074】
同様に当業者に自明のとおり、タンパク質が活性なままであれば、そのタンパク質は本質的にまたは少なくとも部分的にフォールドしているはずであり、これは本明細書においてフォールドしているとみなすべきである。さらに、複合またはコンホメーション(不連続)エピトープが存在すれば、そのタンパク質またはドメインもフォールドしているとみなすべきであり、この事実は適切な抗体により検出できる。
【0075】
特定のタンパク質またはタンパク質ドメインの「変異体(mutant)」は、その配列においてその特定のタンパク質またはタンパク質ドメインの配列と比較して1以上のアミノ酸残基が遺伝子工学的方法またはランダム変異誘発法により欠失、置換または挿入されたタンパク質またはタンパク質ドメインである。
【0076】
特定のタンパク質またはタンパク質ドメインの「バリアント(variant)」は、その配列がその特定のタンパク質またはタンパク質ドメインの配列と比較して1以上のアミノ酸残基において異なるタンパク質またはタンパク質ドメインであり、その際、バリアントは欠失、置換または挿入を含むことができる。
【0077】
特定のタンパク質もしくはタンパク質ドメインの「ホモログ(homologue)」、またはそれに相同なタンパク質もしくはドメインは、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または95%の配列同一性をもち、それのフォールドは類似または同様である。好ましくは、特定のタンパク質ファミリーの保存領域の少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または95%がタンパク質またはドメインおよびそれのホモログにおいて同じである。
【0078】
「変異体(mutant)」、「バリアント(variant)」または「ホモログ(homologue)」は、好ましくは特定のタンパク質またはタンパク質ドメインと類似または本質的に同一のフォールドをもち、よりさらに好ましくは、変異体、バリアントまたはホモログ(互いに独立して)と特定のタンパク質またはタンパク質ドメインとの間のアミノ酸配列同一性は、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、少なくとも60%、またはより好ましくは少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%もしくは95%である。好ましい態様の変異体またはバリアントの場合、変異体またはバリアントは特定のものとは異なる。
【0079】
特定のタンパク質において、すなわちアミノ酸配列または三次元構造において、アミノ酸残基の「側鎖が変化すること(altering the side chain)」は、側鎖の幾何学的形状、側鎖のサイズ、側鎖の官能基または側鎖の電荷が、部位特異的もしくはランダムな変異誘発を含めた変異誘発により、または化学的誘導体化により変化することを含むことができる。
【0080】
ポリペプチドまたはタンパク質分子中に存在するアミノ酸の「側鎖の幾何学的形状(side chain geometry)」は、分子幾何学的計算に適したいずれかの方法またはモデルにより解明することができる。たとえば側鎖の幾何学的形状は、たとえば側鎖の三次元表面、たとえばファン−デル−ワールス表面の形状(分子体積を含む)、または側鎖を形成する一連の原子(水素原子を含むか、または含まない)の原子核相互の空間配列などとして理解することができる。側鎖の幾何学的形状は、当業者に周知のとおり、いずれか適切な数学的方法により計算できる。
【0081】
ポリペプチドまたはタンパク質分子中に存在するアミノ酸の「側鎖のサイズ(side chain size)」は、その側鎖のサイズに関係するかまたはそれに特徴的ないずれかの幾何学的尺度、たとえばそのアミノ酸の側鎖の長さ(たとえばpmまたはÅで表わされる)、表面積(たとえばpmまたはÅで表わされる)または分子体積(たとえばpmまたはÅで表わされる)に関係する。
【0082】
「側鎖の官能基(side chain functional group)」は、本明細書において、ポリペプチドまたはタンパク質分子中に存在するアミノ酸の側鎖中に存在する化学的官能基であると理解される。
【0083】
ポリペプチドまたはタンパク質分子における、すなわち三次元タンパク質構造、たとえばトランスグルタミナーゼにおけるアミノ酸残基の「空間位置(spatial position)」は、本明細書において、タンパク質の三次元構造におけるそれの原子の一連のまたは全体的な位置、あるいは特定のタンパク質三次元構造について求めた、それにより規定した、またはそれに当てはめた座標系における一連のまたは全体的な原子または位置の座標であると理解される。したがって、アミノ酸残基の空間位置が変化すること(altering the spatial position of an amino acid residue)は、タンパク質の構造が変化または変異し、それによりこれらの位置または座標が特定条件下でそのタンパク質のフレキシビリティーまたはコンホメーション移動から生じるものより高度に変化することであると理解すべきである。たとえばあるアミノ酸の空間位置の変化は、そのアミノ酸の近辺または隣における変異であって側鎖の位置またはコンホメーションの変化を生じる変異から、あるいはそのアミノ酸に関係するアルファ炭素原子またはペプチド主鎖の位置にも影響を及ぼす変異から生じる可能性がある。
【0084】
特に、トランスグルタミナーゼファミリーに属し、フォールドしたベータ−サンドイッチドメインおよびフォールドしたコアドメインをもつタンパク質において、コアドメインの第1アルファヘリックスの表面アミノ酸残基およびベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの表面アミノ酸残基の空間位置におけるそのような変化は、これらの一連のアミノ酸間の距離、すなわちそれら相互の空間位置により特徴付けることができる。
【0085】
「トランスグルタミナーゼスーパーファミリー(transglutaminase superfamily)」または「トランスグルタミナーゼファミリー(transglutaminase family)」のタンパク質(TGファミリーのタンパク質)という表現は互換性をもって用いることができ、本明細書において、EC 2.3.2.13と分類されるタンパク質クラスであると理解される;これらのタンパク質は、N末端ベータ−サンドイッチドメイン、これらのタンパク質が活性をもつ場合にはその触媒ドメインであるコアドメイン、第1ベータ−バレルドメインおよび第2ベータ−バレルドメイン(ドメインI、II、IIIおよびIVとも呼ばれ、ドメインIIがコアドメインである)を含むドメイン構造をもち、あるいはその変異体またはフラグメントであって、少なくともフォールドしたN末端ベータ−サンドイッチドメインおよびフォールドしたコアドメインを含む。総説として、たとえば[Lorand, L., and Graham, R. M., Nat Rev Mol Cell Biol 2003, 4, 140-156]を参照。上記に定めたトランスグルタミナーゼファミリーに属するタンパク質を、本明細書において「TGファミリーのタンパク質(TG family protein)」と略称する。
【0086】
好ましくは、コアドメインは下記のいずれかの遺伝子のいずれかの産物のコアドメインと類似するかまたは本質的に同一のフォールドをもつ:たとえばGrenard et al, [J. Biol. Chem. (2001) vol. 276(35) pages 33056-33078]の表1および図7に示されたF13A1、TGMl、TGM2、TGM3、TGM4、TGM5、TGM6、TGM7もしくはEPB42、またはその真核細胞均等物もしくはホモログであってただし上記フォールドを備えたコアドメインをもつもの、またはそのいずれかの変異体、バリアントもしくはホモログ。好ましくは、後記または発明の概要に定めるように、これらの遺伝子産物において、ベータ−サンドイッチドメインは「ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックス(first alpha helix of the beta sandwich domain)」をもち、コアドメインも「コアドメインの第1アルファヘリックス(first alpha helix of the core domain)」をもつ。
【0087】
トランスグルタミナーゼファミリーに属するタンパク質の「コアドメインの第1アルファヘリックス(first alpha helix of the core domain)」は、コアドメインまたはドメインII(これはトランスグルタミナーゼファミリーの活性メンバーの触媒ドメインであるが、このファミリーの不活性メンバー中にも触媒不活性形態で存在する)のN末端から1番目のアルファヘリックスである。コアドメインの第1アルファヘリックスは、天然トランスグルタミナーゼフォールドにおいてベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスに隣接する。したがって、「コアドメインの第1アルファヘリックス(first alpha helix of the core domain)」は、下記のアルファヘリックス二次構造要素(SSE)のいずれかに対応するアルファヘリックスSSEである:
ヒトトランスグルタミナーゼ2のGlu153から少なくともTyr159またはVal160までの範囲のSSE
ヒトXIII因子のGlu198から少なくともTyr204またはVal205までの範囲のSSE
ヒトトランスグルタミナーゼ1のGlu153から少なくともTyr159またはVal160までの範囲のSSE
ヒトTG3のHis148から少なくともTyr154またはVal155までの範囲のSSE
たとえばLorand and Graham, Nature Reviews 2003, Vol. 4, page 140, figure 3に示される。
【0088】
トランスグルタミナーゼファミリーに属するタンパク質の「ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックス(first alpha helix of the beta sandwich domain)」は、N末端ベータ−サンドイッチドメインまたはドメインIのN末端から1番目のアルファヘリックスである。ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスは、天然トランスグルタミナーゼフォールドにおいてコアドメインの第1アルファヘリックスに隣接する。したがって、「ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックス(first alpha helix of the beta sandwich domain)」は、下記のアルファヘリックス二次構造要素(SSE)のいずれかに対応するアルファヘリックスSSEである:
ヒトトランスグルタミナーゼ1のSer14からHis21までの範囲のSSE
ヒトトランスグルタミナーゼ2のLeu14からHis21までの範囲のSSE
ヒトTG3のThr12からHis19までの範囲のSSE
ヒトXIII因子のTrp57からHis64までの範囲のSSE
[参照:Lorand and Graham, Nature Reviews Volume 4, page 140, 2003]。
【0089】
SSEの「最初のアミノ酸残基または最初のn個のアミノ酸残基(first, or the first n amino acid residue(s))」は、N末端からみてそのSSEの最初のアミノ酸残基または最初のn個のアミノ酸残基、すなわちそのSSEの最もアミノ末端側に位置するアミノ酸残基(単数または複数)であり、その際nは正の整数である。SSEの「最後のアミノ酸残基または最後のn個のアミノ酸残基(last, or the last n amino acid residue(s))」は、C末端からみてそのSSEの最後のアミノ酸残基または最後のn個のアミノ酸残基、すなわちそのSSEの最もカルボキシ末端側に位置するアミノ酸残基(単数または複数)であり、その際nは正の整数である。あるアミノ酸残基が特定のSSEに属するかどうかの確認は、配列アラインメントもしくは相同性モデリングまたは他のいずれかの方法により関係づける場合にはそのタンパク質または相同タンパク質の三次元構造に基づくことができ、および/または各アミド平面(単数または複数)のねじれ角値(単数または複数)に基づくことができ、および/またはいずれか適切な検出、計算または推定方法によることができる。特定のアミノ酸からC末端(カルボキシ末端)またはN末端(アミノ末端)方向に「n個のアミノ酸の距離(in n amino acid distance)」にあるアミノ酸残基の位置は、その方向で特定のアミノ酸に隣接する第1アミノ酸から出発してその方向にあるn個のアミノ酸残基それぞれを計数することにより計算すべきであり、その際nは正の整数である。
【0090】
「グルテン誘発性自己免疫疾患(gluten-induced autoimmune disease)」は、その症状をグルテンにより誘発することができ、疾患経過中に患者にトランスグルタミナーゼ(TG)、好ましくはTG2、TG3またはTG6に対する自己抗体が誘発される、潜在性(latent)または顕性(explicit、overt)形態のいずれかの疾患を伴う。グルテン誘発性自己免疫疾患には、たとえば、一般にヒト白血球抗原(HLA)DQ2またはDQ8バックグラウンドをもつ遺伝的素因のある者に発症するセリアック病(小児脂肪便症、非熱帯性スプルーまたはグルテン感受性腸症としても知られる)、および腸の障害のほかに皮膚乳頭下領域に顆粒状IgA沈着がある疱疹性皮膚炎が一般に含まれる。
【0091】
「エピトープ(epitope)」は、抗体または抗体の結合領域が結合しうる、タンパク質分子上のパッチまたは部位、好ましくはそれの分子表面の一部である。
エピトープは、たとえば、分子上のこのパッチもしくは部位またはその分子表面の形成に関与するアミノ酸残基またはその座標を求めることにより;あるいはそのタンパク質のフォールドに関与する構造要素に関してタンパク質分子上の位置を求めることにより;あるいは数学的計算法によって分子表面部分を決定することにより決定できる。
【0092】
エピトープの「ミモトープ(mimotope)」は、エピトープに対するものと同じ抗体または結合領域が結合しうる、分子上のパッチまたは部位、好ましくはそれの分子表面の一部である。
【0093】
ある分子の分子表面部分としてのエピトープを求め、そしてたとえば[Goede, Andrean et al.: BMC Bioinformatics 2005, 6:223]の記載に従ってミモトープを作成することができる。
【0094】
「主セリアックエピトープ(main celiac epitope)」は、下記の特徴のうち少なくとも1つがそれに当てはまるエピトープであると理解される:
a)TGファミリータンパク質の分子表面の一部であって、そこにセリアック病を伴う対象の疾患特異的自己抗体が結合しうる部分;その際、この自己抗体は分子表面のその部分に結合することができるのに対し、TG2に結合しうる他のいずれかの疾患を伴う対象の自己抗体は通常または一般にこの分子表面部分に結合しない;あるいは
TGファミリータンパク質の分子表面の一部であって、そこまたはその一部にMab885が結合しうる部分;場合により、Mab885が結合した際にカバーする領域から2、3、4、5、6または7Å以内の表面領域を含む;あるいは
TGファミリータンパク質の分子表面の一部であって、自己抗体が競合アッセイに際してMab885により置換されうる様式で、そこにセリアック病を伴う対象のセリアック?自己抗体が前記に説明したように結合しうる部分;
b)TGファミリータンパク質(セリアック病の自己抗原の可能性がある)の分子表面の一部であって、この分子表面部分が少なくとも部分的に下記のものにより形成または付与されるもの:
コアドメインの第1アルファヘリックスの1以上の表面アミノ酸残基、好ましくは該アルファヘリックスの最初の4、3または2つのアミノ酸残基から選択される表面アミノ酸残基、より好ましくは該アルファヘリックスの第1アミノ酸残基、および/または
ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスおよびベータ−サンドイッチドメインの保存されたHisHisThrモチーフの、1以上の表面アミノ酸残基、好ましくはベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの最後の6、5、4または3つのアミノ酸残基および該HisHisThrモチーフのアミノ酸残基から選択される表面アミノ酸残基、より好ましくは該ヘリックスの第6アミノ酸残基および/または該HisHisThrモチーフの第1アミノ酸;
c)TGファミリータンパク質(セリアック病の自己抗原の可能性がある)の分子表面の一部であって、多重配列アラインメントに基づく全長ヒトTG2のアミノ酸ナンバリング法に従ったGlu153のいずれかの原子から計算して6,7Åの半径をもつ球内および/またはArg19のいずれかの原子から計算して6,7Åの半径をもつ球内にある表面部分とオーバーラップするかまたはそれを含む部分、あるいは動物(好ましくは脊椎動物、より好ましくは哺乳動物)TG2においてそれぞれこれらに対応する/同等なアミノ酸残基から計算した同部分;
d)TGファミリータンパク質(セリアック病の自己抗原の可能性がある)の分子表面の一部であって、多重配列アラインメントに基づく全長ヒトTG2のアミノ酸ナンバリング法に従って番号を付けたGlu153および/またはArg19に対応する/同等なアミノ酸残基によって少なくとも部分的に形成される部分;
e)分子の分子表面のパッチ、たとえばタンパク質、好ましくはTGファミリータンパク質の分子表面の一部であって、表面認識分子、好ましくは抗体を結合しうるもの;その際、この表面認識分子はa)〜d)に定めた主セリアックエピトープに結合することができる;
その際、好ましくはTGファミリータンパク質は下記のものである:
−真核細胞タンパク質、好ましくは動物タンパク質、より好ましくは脊椎動物または哺乳動物またはヒトのタンパク質、
−TG2および/またはTG6タンパク質、
−工学的に作成したTGファミリータンパク質であって、好ましくは主セリアックエピトープが変異により形成されたもの、または主セリアックエピトープが変異により損傷を受けたもの。
【0095】
下記の場合、主セリアックエピトープは「完全(integral)」であるとみなすことができる:
それが無傷であり、すなわちセリアック病の自己抗原である野生型TGファミリータンパク質の分子表面と本質的に同一の分子表面をもつ場合、および/または
主セリアックエピトープ、たとえばTG2の該エピトープに結合しうることが分かっているセリアック抗体が、それに検出可能な状態で結合することができる場合、および/または
下記に定めるようにコアドメインのN末端アルファヘリックスのN末端表面に露出した少なくとも最初のアミノ酸残基の側鎖の幾何学的形状、側鎖のサイズ、側鎖の官能基、電荷および空間位置が、セリアック病の自己抗原である可能性がある対応する野生型トランスグルタミナーゼファミリータンパク質(TGファミリータンパク質)の同じものと本質的に同一であるかまたは免疫学的に識別できない場合、および/または
主セリアックエピトープが損傷を受けている試験タンパク質と比較して、主セリアックエピトープが完全であるかまたはセリアック抗体により認識可能である標準タンパク質が得られるように変化している場合。
【0096】
下記の場合、「主セリアックエピトープは損傷を受けているかまたは欠損している(main celiac epitope is impaired or deficient)」:セリアック病の自己抗原である野生型トランスグルタミナーゼと比較して、それが異なる分子表面をもち、したがって、より低い親和性もしくは結合力でこの損傷を受けた主セリアックエピトープに結合するかまたは結合できないセリアック抗体を見出すことができる。
【0097】
ある態様において、結合親和性および/または結合力および/または結合反応速度が標準タンパク質と比較して低下している場合、好ましくは平均(average、mean)結合レベルが少なくとも前決定割合で、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、よりさらに好ましくは少なくとも50%低下している場合、セリアックエピトープが無傷セリアックエピトープとは異なる試験タンパク質へのセリアック抗体の結合は損なわれている。
【0098】
「セリアック抗体(celiac antibody)」は、主セリアックエピトープを特異的に認識してそれに結合しうる抗体である。
「セリアック自己抗体(celiac autoantibody)」はセリアック病を伴う対象の自己抗体であるセリアック抗体であり、この自己抗体は、野生型TGファミリータンパク質であってセリアック病の自己抗原であるタンパク質、好ましくはTG2および/またはTG6および場合によりTG3、より好ましくはTG2に結合することができ、および/またはそれは前記に定めた主セリアックエピトープに結合することができる。
【0099】
「筋内膜抗体(endomysial antibody)」は、ヒトもしくは霊長類の食道の平滑筋細胞を取り巻く結合組織構造または平滑筋細胞を含む他の組織切片に結合しうるセリアック抗体であり、この抗体は間接免疫蛍光法により凍結組織切片に検出される。
【0100】
タンパク質分子、たとえばTGファミリータンパク質の「分子表面(molecular surface)」は、該タンパク質分子の三次元表面を表わす表面領域であり、ここには他の化学物質、たとえば溶剤または他の分子、たとえばイオンもしくはタンパク質分子、たとえば抗体がアクセスできる。本発明の目的について、分子表面の意味には“アクセス可能な表面領域”または“Lee-Richards表面領域”、溶剤除外表面またはConnolly表面またはファン−デル−ワールス表面も含まれる。したがって分子表面は、計算に用いるモデルが科学的に正しい表面推定をもたらす限り、計算方法間の変動に関係なく、そのような三次元表面の計算に適したいずれかのアルゴリズムにより計算できる。
【0101】
本明細書中で用いる「結合親和性(binding affinity)」は、抗原結合部位と抗原決定基の間の相互作用の強さ(したがって、それらの間の立体化学的適合性)の熱力学的表現である。好ましい意味において、この用語は抗原決定基と抗体の結合部位との間の相互作用に適用される。結合親和性は、解離定数またはその関数から計算した、またはそれに相関する量または尺度、たとえば解離定数の逆数1/K(解離定数)により特性付けることができ、あるいは解離定数またはその関数の負の対数、たとえば−log10[K/NA(mol/l)−1]により特性付けることができ、これはpKとも表示される。たとえば結合親和性は、平衡状態またはその後で結合している分子、たとえばリガンドまたは抗体の、量または割合により表わすことができる。一般に、特定の特異性をもつ抗体分子の集団における親和性は不均質であるため、結合親和性(および、たとえば解離定数またはpK)は実際には一種の平均値である。
【0102】
ある観点において本明細書中で用いる「結合力(avidity)」は、タンパク質−リガンド複合体の親和性の強さを合わせたものに関する。他の観点において、結合力はタンパク質間の多重結合相互作用の結合強度を表わす。好ましくは、結合力は抗体−抗原結合の強さを表わす。本明細書中で結合力は親和性を含む用語としてのものであるが、より広義には結合力は多重結合の強さを表わすためにも適用できる。たとえば、IgGの2つの強い結合部位と異なり、IgMの単一の結合部位は低い親和性をもつ可能性があるが、IgMは弱い結合部位が10あるためなお高い結合力をもつ。
【0103】
「セリアックエピトープへのセリアック抗体の結合の阻害薬(inhibitor of the binding of a celiac antibody to a celiac epitope)」は、TG2(トランスグルタミナーゼ)またはセリアック抗体に結合することができ、それに結合した際にその阻害薬の不存在下での結合と比較して結合の検出可能なレベルまたは親和性を低下させる化合物である。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】図1は、組換えトランスグルタミナーゼ2(TG2)変異タンパク質の特性解明を示す。(A)ウェスタンブロット。上パネル:一次抗体であるポリクローナルヤギ抗TG2;下パネル:一次抗体であるモノクローナルマウス抗トランスグルタミナーゼ2抗体TG100。Wt,野生型TG2、R,R19S、E,E153S、M,M659S、RE,R19S−E153S二重変異体、RM,R19S−M659S二重変異体、EM,E153S−M659S二重変異体、REM,R19S−E153S−M659S三重変異体、154K,E154K変異体、433,R433S−E435S二重変異体、D,ドメインI−III−IVのみを含むドメイン変異体。(B)野生型TG2のそれぞれの数値に対するパーセントとしての変異タンパク質のトランスグルタミナーゼ(TGase)およびGTPase活性。三重に行なった2つの別個の測定からの平均として数値を提示する。
【図2】図2は、TG2変異体のフィブロネクチン結合を示す。プレート(aTG-ELISA)に直接コートするかまたはフィブロネクチンに付加したタンパク質を、コアドメイン(II)を認識するモノクローナル抗TG2抗体TG100により測定した。結果は、アッセイに際してプレート上で相互に比較して等しい抗原量を示した。これらの量をセリアック試料についての以後の測定に用いた。二重に行なった2つの別個の測定からの平均として数値を提示する。タンパク質の略号については図1を参照。
【図3】図3は、プレートに抗原を直接コートして実施したELISAにおける、セリアック病患者(n=14)からの血清IgA抗体の、部位4変異(A)およびドメイン変異TG2タンパク質(B)への結合を示す。結果を野生型TG2に対比した結合のパーセントとして示す。S4,部位4変異体、S4.1/4/5,D151N−E154Q−E155Q組合わせ変異体。
【図4】図4は、重篤な吸収不良を呈するセリアック病小児(上パネル)および吸収不良を呈する成人患者(下パネル)からの血清IgA抗体の、変異TG2タンパク質への結合を示す。抗TG2 ELISAを、プレートに抗原を直接コートして実施した。結合結果を、抗TG2モノクローナル抗体TG100と比較して野生型TG2への結合量に対するパーセントとして示す。すべての血清試料を二重に試験した。ダッシュはメジアンを示す。変異体の略号については図1を参照。
【図5】図5は、(A)TG2およびXIII因子における推定セリアックエピトープの構造、(B)セリアック病の小児(n=20)および成人(n=17)の血清IgA抗体の、野生型TG2およびXIII因子の表面を模倣したTG2変異体への結合を示す。K,E154K、RKM,R19S−E154K−M659S三重変異体。
【図6】図6は、ELISAにおける、セリアック病の小児および成人からの血清IgA抗体の、フィブロネクチン結合TG2変異体への結合を示す。結果を、抗TG2モノクローナル抗体TG100と比較して野生型TG2への結合量に対するパーセントとして示す。
【図7】図7は、閉鎖および開放タンパク質形態のTG2のセリアックエピトープの構造を示す。
【図8】図8は、セリアックエピトープのターゲティングの疾患特異性を示す。セリアック病患者および他の自己免疫疾患を伴う患者(n=11)からの抗TG2抗体の、野生型および変異TG2タンパク質への結合。
【図9A】図9は、種々の患者からのセリアック病抗体が競合アッセイにおいて同じエピトープを認識することを示す。(A)56人のIgA欠損セリアック病患者からのIgGクラス抗TG2抗体を含有する血清試料は、野生型TG2を用いたELISAにおいて同じセリアックIgAと競合し、この競合はそれらの血清濃度に比例する(A2)。3人の患者はIgMクラス抗TG2をも有する。非セリアックIgA欠損症の対象(n=23)およびIgAコンピテント対象(n=22)からの血清試料は干渉を示さない(A1)。(B)精製したIgGセリアック抗体であってN末端R19S変異体と反応する(G1)かまたはこのR19S変異体と反応しない(G5)けれども両方ともR19S−E153S複合(RE)変異体に対しては等しく非反応性であるものは、同じ用量依存性様式で、R19Sと反応しない精製セリアックIgAと競合し、これに対し非セリアック対象から調製した全IgG画分(K4)は干渉を示さない。ELISAプレートに結合したIgA抗体およびIgG抗体は個別に認識された。
【図9B】図9は、種々の患者からのセリアック病抗体が競合アッセイにおいて同じエピトープを認識することを示す。(A)56人のIgA欠損セリアック病患者からのIgGクラス抗TG2抗体を含有する血清試料は、野生型TG2を用いたELISAにおいて同じセリアックIgAと競合し、この競合はそれらの血清濃度に比例する(A2)。3人の患者はIgMクラス抗TG2をも有する。非セリアックIgA欠損症の対象(n=23)およびIgAコンピテント対象(n=22)からの血清試料は干渉を示さない(A1)。(B)精製したIgGセリアック抗体であってN末端R19S変異体と反応する(G1)かまたはこのR19S変異体と反応しない(G5)けれども両方ともR19S−E153S複合(RE)変異体に対しては等しく非反応性であるものは、同じ用量依存性様式で、R19Sと反応しない精製セリアックIgAと競合し、これに対し非セリアック対象から調製した全IgG画分(K4)は干渉を示さない。ELISAプレートに結合したIgA抗体およびIgG抗体は個別に認識された。
【図10】図10は、野生型TG2と比較した部位4および部位5変異体へのセリアック抗体の結合の相関性を示す。
【図11】図11は、食事療法および血清陰性の期間後に診断用グルテン攻撃を受けているセリアック病患者(A〜B)および食事療法なしで5年間追跡したセリアック病患者(C)におけるセリアックエピトープターゲティングの安定性を示す。
【図12】図12は、組織沈着および受動伝達した病原性抗TG2抗体が、セリアック病患者の血清中の抗体と同じエピトープ特異性をもつことを示す。(A)活動性疾患を伴うセリアック病の女性の乳児の絨毛膜絨毛構造体の表面および胎盤の母体部分に沈着した、母性抗TG2 IgA抗体。受動伝達された母性IgGは新生児の臍帯組織に筋内膜抗体として沈着した。(B)これらの組織から溶出した抗体は、TG2変異タンパク質を用いた場合、血清抗体と同様なエピトープ特異性を示す。(C)母性セリアック抗体をもつ新生児からのヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)は、食事療法を受けている抗TG2抗体をもたないセリアック病の母親の新生児からのHUVECと比較して、異常な形状、拡散、および短縮した細胞長さを示す。
【図13】図13は、プラズモン表面共鳴を用いた同量の野生型TG2および部位4変異TG2への精製セリアックIgAの結合反応速度の測定を示す。結合の低下およびより早い解離がみられる。
【図14】図14は、潜在性(CDL,n=11)および顕性(CD,n=11)セリアック病を伴う対象における血清抗体のエピトープ特異性が類似することを示す。
【図15】図15は、非セリアック病対象からの凍結小腸切片を、セリアック病患者からの血清抗体ならびにモノクローナル抗体885(A)およびCUB7402(B)と共にインキュベートしたものを示す。結合したヒトIgAは蛍光イソチオシアネートにコンジュゲートした緑色蛍光二次抗体で認識され、マウス抗体はローダミンにコンジュゲートした赤色蛍光二次抗体で標識された。これらの条件下で885は筋内膜に沿った組織に結合できず、患者抗体はここに結合した。CUBは患者IgAの結合に沿って筋内膜構造に結合して、混合した黄色を生じた。
【発明を実施するための形態】
【0105】
本発明者らは、複合した構造的、生化学的および免疫学的方法を適用してヒトTG2を調べた。
モノマー状のヒトTG2は687個のアミノ酸からなり、分子量76kDaをもち、4つの構造ドメインから構成される:フィブロネクチン結合領域をもつN末端ベータ−サンドイッチドメイン、触媒三つ組残基をもつ触媒性コアドメイン、および2つのC末端ベータ−バレルドメイン。GDP結合形のTG2が数年前に結晶化され、これは“閉鎖”コンホメーションの酵素である[Liu S et al, Proc Natl Acad Sci U S A. 2002; 99(5): 2743-7.]。本発明者らはこのモデルについてセリアック抗体の潜在結合部位の位置判定を開始した。このコンホメーションにおいて、GDPは触媒性コアと第1β−バレルの間の溝に結合し、アミド基転移活性に関与する触媒三つ組残基は分子の内側に隠され、2つのループにより阻害されているので、この酵素はトランスグルタミナーゼとして作動することができない。最近、この酵素の“開放”形がグルテンペプチドから誘導された阻害薬との複合体状で結晶化された[Pinkas DM et al, PLoS Biol. 2007; 5(12): e327.]。この場合、C末端β−バレルドメインが120Åずれており−GDP結合形と比較して−、活性部位残基が基質にアクセス可能となる。この活性形TG2は、このモデルでは触媒性アミノ酸に結合した活性部位阻害薬で“凍結”されている。この所見にもかかわらず、基質または阻害薬を含まない状態のCa2+結合形TG2はまだ知られていない。セリアック自己抗体を認識できる細胞外に、どの形態のTG2が出現するかは依然として疑問である。一連のタンパク質工学的実験の後、本発明者らは、グルテン誘発性自己免疫疾患、好ましくはセリアック病において患者の自己抗体に対するエピトープを形成するにはTG2構造中の2つのアンカー部位が必須であることを見出した。基質結合部位もCa2+イオンもセリアックエピトープの部分を形成しないけれどもCa2+結合部位4がそれとオーバーラップすることが見出された。このエピトープはコンホメーション性のものであるが、これら2つのアンカー部位はN末端ベータ−サンドイッチドメインおよびコアドメインに位置するので、大部分の患者自己抗体の結合はこの酵素の開放−閉鎖コンホメーション転移を遮断しない。
【0106】
意外にも、分子のこの表面パッチはセリアック病患者またはグルテン誘発性自己免疫疾患を伴う患者からの自己抗体と他の自己免疫疾患を伴う患者からの自己抗体とを識別できることも本発明者らは見出した。これにより、これらの疾患に対する特異性の高い診断法を提供することができる。
【0107】
当業者に自明のとおり、そのような複雑な疾患におけるエピトープは、患者毎に、または疾患症状のタイプもしくは疾患の進行に応じて異なる可能性がある。この一般的知見を考慮すると、本発明者らが見出した複合エピトープ領域がセリアック自己免疫にきわめて特徴的、すなわち選択的であること、およびセリアック病の成人からの血清試料についての測定によれば後年に疾患エピトープの有意ではない拡散が起きるにすぎないことは重要である。
【0108】
本発明において見出されたエピトープ領域は疾患の初期の前臨床段階で既に存在し、後年にもセリアック病の診断のための予測価をもつという証拠も本発明で得ている。しかし、厳密なセリアックエピトープは疾患進行に伴って他のアミノ酸へ拡散する可能性があることを認識すべきであり、本発明の検査法の特定の態様においてはこれを考慮することができる。たとえば、限定ではないが、自己抗体の結合を低下させるためにTG2中の下記のアミノ酸またはそれに対応するアミノ酸を変異させることができる:全長ヒトTG2のアミノ酸ナンバリング法に従って番号を付けたArg19、His22、Asp151、Glu153、Glu154、Arg156、Glul57、Leu161、Val431、Arg433、Glu435、Met659、Leu661。対応するアミノ酸はアミノ酸配列アラインメントに基づいて見出すことができる。
【0109】
エピトープとみなされる分子表面パッチの厳密な領域が前記のように変動する可能性があることは明らかである。したがって、エピトープの最中心領域の外側のアミノ酸の入換えまたは他の変異が抗体結合に影響を及ぼす可能性があることを理解すべきである。そのような領域は、すべてではないが、アミノ末端ベータ−バレルドメインの特定の領域またはコアドメイン、たとえばCa2+結合部位5にある可能性がある。当業者は、本発明に使用するためのトランスグルタミナーゼ変異体を設計する際に、これらの変動を考慮し、本明細書に提示する教示に基づいて変異体を特定の目的に最適化することができるであろう。
【0110】
本発明者らは最初に、コンホメーションエピトープとして、先行技術において探査されたが見出されなかった主セリアックエピトープを同定した。主セリアックエピトープの幾つかのオーバーラップバリアントが存在する可能性がある。ある特定の抗体がセリアックエピトープに結合するか否かという事実は、本明細書に提示する教示に基づいて明らかに決定することができる。本発明者らはエピトープの必須部分を同定した;これは当業者に、診断方法、それに有用な変異トランスグルタミナーゼ、その目的のための診断キットを設計するための鍵を提供する。
【0111】
診断方法およびキット
本明細書に提示する教示に基づいて、本発明のある態様によれば診断方法が2つの重要な特徴をもつことを当業者は認識するであろう。一方では、セリアックエピトープが損傷を受けているか、欠失するか、または欠如し、そのためセリアック自己抗体がそれに結合できないかまたは低下したレベルでしか結合できない試験TGファミリータンパク質を用意すべきである。他方では、その方法の選択性を確実にするために他のエピトープは存在することが好ましく、したがって少なくともベータ−サンドイッチドメインおよびコアドメインはフォールドした構造をもつ。好ましくは、ベータ−バレルドメインのいずれかまたは両方ともフォールドしている。したがって、本発明の診断方法において陽性結果は、その患者がセリアック病に罹患していることのきわめて信頼性のある指標である。
【0112】
ドメインのフォールド特性は幾つかの手段で解明できる。
簡便な方法は、活性を検査することである。したがって、好ましい態様において、変異TG2は下記のうち1以上の検出可能な機能活性をもつ:トランスグルタミナーゼ酵素活性、GTPase活性、および/またはフィブロネクチン結合性。変異のためトランスグルタミナーゼ活性が低下すれば、それはその変異部位がCa2+結合に関与するという事実によるものであるという可能性がある。
【0113】
非セリアックコンホメーション抗体がそのタンパク質に結合しうるという事実も、それのフォールド特性の指標である。
当業者に自明のとおり、適正なタンパク質フォールディングは多数の構造分析法、たとえばCD(円偏光二色性)分光法、FT−IR(フーリエ変換赤外分光法)、DSC(示差走査)微小熱量測定法、NMR(核磁気共鳴)分光法、DPI(二重分極干渉測定法)、原子間力顕微鏡などにより実験的に示すことができ、あるいはChou-Fasmanの方法およびGOR法、神経ネットワークモデル、または最近接配列分析法により推定できる:たとえば[Simossis VA, and Heringa J, “Integrating protein secondary structure prediction and multiple sequence alignment”, Curr Protein Pept Sci. 2004 5(4) 249-66; Rost B, “Review: protein secondary structure prediction continues to rise” J Struct Biol. 2001 134(2-3) 204-18.]に概説。
【0114】
これらの方法は、そのフォールドのフィンガープリントとして、あるいは異なるタンパク質もしくはドメイン、たとえば野生型もしくはその変異体のフォールド間の、または異なる状態の同一タンパク質のフォールド間の、何らかの相異を検出するために使用できる。
【0115】
実在生命の診断方法においては、完全なセリアックエピトープを含む、あるいは野生型トランスグルタミナーゼ、たとえばTG2もしくはTG6、または特定の態様においてTG3を用いる場合には、たとえば無傷のセリアックエピトープを含む、標準タンパク質を用意すべきである。TG6のエピトープ領域の分子表面はTG2のものに著しく類似し、したがって所望によりこれらのエピトープ領域を部位特異的変異形成によって容易に相互変換できることを留意すべきである。さらに、疾患の異型におけるTG6に対する自己抗体がTG2に対するものと異なるならば、TG6のそのエピトープをその特定の疾患異型の診断に適用すべきである。これは、グルテン誘発性自己免疫疾患における自己抗原である他のトランスグルタミナーゼにも当てはまる。
【0116】
ある方法では自己抗体の差示結合を示す。たとえば、結合親和性および/または結合力および/または結合反応速度に相関する数値、好ましくは平均値(averageまたはmean value)が試験タンパク質において標準タンパク質と比較して低下していれば、好ましくはその数値が少なくとも前決定割合で、好ましくは少なくとも20%、30%、より好ましくは少なくとも40%、よりさらに好ましくは少なくとも50%または60%または70%または80%低下していれば、あるいは対応する残存値がそれぞれ80%、70%を超えず、より好ましくは60%を超えず、よりさらに好ましくは50%または40%または30%または20%を超えなければ、この結果はその疾患の存在の指標とみなされる。標準タンパク質への自己抗体の平均結合レベルが前決定閾値を超えれば、それも好ましい。この閾値は、標準セリアック試料またはセリアック病を伴うことが分かっている患者から得た試料を用いて標準トランスグルタミナーゼについて予備測定を実施するだけで決定できる。前決定閾値をそれぞれの場合に数値で規定する必要はなく、結合を安全に検出できれば十分である可能性がある。本明細書に開示するように、結合は通常は完全なセリアックエピトープをもつトランスグルタミナーゼへの結合特性をもつことが分かっている自己抗体の結合と比較した相対値として得られる。
【0117】
試験タンパク質および標準タンパク質は両方とも、野生型タンパク質であってもよく、あるいはセリアック病における自己抗原であるタンパク質に十分に類似するかまたは相同である適宜な骨格からタンパク質工学により作成することもできる。たとえば、すべてではないが、そのような“骨格”としてのヒトまたは動物のTG1、TG3、TG4、TG5、TG7、XIII因子またはEBP42[たとえば、Lorand, L., and Graham, R. M., Nat Rev Mol Cell Biol 2003, 4, 140-156、およびGrenard et al, J. Biol. Chem. (2001) vol. 276(35) pages 33056-33078を参照]。
【0118】
トランスグルタミナーゼまたはトランスグルタミナーゼ由来タンパク質において適切な変異体を設計するために、鍵となるアミノ酸残基を同定することを推奨する。その目的のために、当技術分野で周知のようにアミノ酸配列アラインメントを実施でき、これには当技術分野で周知の手段、たとえばShyuらが概説した方法によるもの[Shyu et al. Genetic Programming and Evolvable Machines 2004 June; 5(2): 121-144]、またはEuropean Bioinformatics Instituteのホームページ上で得られる方法、たとえばClustalW2、MAFFT、MUSCLE、T-Coffeeなどによるもの、および/またはGenetic Data Environment (GDE)ソフトウェアパッケージを用いるもの[Smith SW et al. Comput Appl Biosci. 1994 Dec;10(6):671-5.]が含まれる。
【0119】
現在、適宜なエピトープを形成する分子表面のパッチを含む変異体を作成することも当業者がなしうる範囲にある。タンパク質の分子表面の計算方法は当技術分野で得られ、たとえば下記により実施できる:WHATIFプログラム[G.Vriend, J. Mol. Graph. (1990) 8, 52-56]、Molecular Surface Package of Michael L. Connolly, Version 3.9.3 [1259 El Camino Real, #184 Menlo Park, CA 94025, U.S.A.]; Molecular Surfaces Computation (MSMS) [M.F. Sanner et al. Biopolymers, 1996 Vol. 38, (3), 305-320. ]; SURFNET [R.A. Laskowski J. Mol. Graph., (1995) 13, 323-330.]; The Analytic Surface Calculation Package (ASC) [F. Eisenhaber et al. J. Comp. Chem. 1995 16(3): 273-284.]; SUPERFICIAL [Goede, Andrean et al. BMC Bioinformatics 2005, 6:223]、ならびにXiangおよびHuの方法[Xiang and Hu, BioMedical Engineering and Informatics, 2008. BMEI 2008. International Conference on; Volume 1, Issue , 27-30 Page(s): 52-56]。
【0120】
試験タンパク質および標準タンパク質は両方とも、本明細書に定める要件を満たすならば、タンパク質フラグメントであってもよい。それにもかかわらず、好ましい態様において、試験タンパク質および標準タンパク質はフォールドしたN末端ベータ−バレルドメインをも含む。
【0121】
前記のように適切な骨格であるいずれかのタンパク質を本発明に使用できることも理解されるであろう。したがって、トランスグルタミナーゼファミリーに属するタンパク質は、真核細胞、より好ましくは動物、よりさらに好ましくは脊椎動物、場合により両生類、爬虫類、魚類、鳥類、またはきわめて好ましくは哺乳動物もしくはヒトのタンパク質であってもよい。
【0122】
本発明の特定の好ましい態様において、本発明の試験タンパク質は当技術分野の変異タンパク質、好ましくは下記のいずれかの刊行物に具体的に記載された変異体とは異なる[Sblattero et al. Eur J Biochem. 2002 Nov; 269(21): 5175-81, Nakachi K et al. J Autoimmun. 2004 Feb; 22(1): 53-63. Seissler et al. Clin Exp Immunol. 2001 Aug; 125(2): 216-21.]。一般にこれらの変異体は欠失変異体であり、これらはセリアックエピトープが損傷を受けているかまたは欠如するとすれば、フォールドしたベータ−サンドイッチドメインおよびコアドメインの両方を含むことはない。逆が成り立つ場合、および特定の方法によりこれらのエピトープ欠如タンパク質において少なくともこれらのドメインについてフォールドした構造が示される場合、それらの変異体は好ましくは特許請求の範囲から除外される。
【0123】
特定の好ましい態様において、適切であれば、TG2 E153S(E),R19S(R),M659S(M)三重変異体、およびR19S(R),M659S(M)二重変異体(その際、その配列はそれ以上の変異を含まない)は特許請求の範囲から除外される。特定の好ましい態様において、適切であれば、TG2 Met659変異またはM659S変異を含む(その際、その配列はそれ以上の変異を含まない)は、好ましくは除外される。さらに他の態様において、Kiraly et al. FEBS J. 2009 Dec; 276(23): 7083-96]に開示された変異トランスグルタミナーゼは本発明の範囲から除外される。ある態様において、Met659はTG2において変異していない。さらに他の態様において、前記刊行物のひとつまたは全部またはいずれかの組合わせに開示されたあらゆる変異体は、本発明の範囲から除外される。さらに他の態様において、診断における先行技術変異体のいずれかまたは全部またはいずれかの組合わせの使用は、本発明の範囲から除外される。
【0124】
自己抗体結合を検出することは、当業者が容易になしうる範囲にある。反応速度法および結合親和性または結合力を解明する方法の両方を適用できることは当業者に自明である。たとえば、限定ではないが、下記のいずれかの方法を適用できる:
イムノアッセイ法、たとえばELISA、RIA、ラテラルフロー法、免疫沈降法;
結合アッセイ法、たとえばBiacore、蛍光消光法;
分光光度法、たとえばFT−IR、円偏光二色法、NMR;
物理化学的方法、たとえば熱量測定法、超遠心法など。
【0125】
好ましい態様において、診断方法はイムノアッセイ法、たとえばRIAもしくはDELPHIA、または好ましくはイムノソルベントアッセイ法、たとえばELISAの形で実施される。
【0126】
本発明の診断方法の好ましい態様において、トランスグルタミナーゼはフィブロネクチン結合形である。フィブロネクチン結合によりトランスグルタミナーゼタンパク質の前配向が得られ、これによりそれのセリアックエピトープが抗体に対して露出する。これによって、診断検査法はより感度が高くなる。
【0127】
しかし、特定の態様において、目的は、患者のセリアック自己抗体と、セリアック抗体ではない他の抗体、すなわちセリアック病に典型的なものではない抗体とを、選択的に識別するアッセイ法を提供することである。そのような場合、試験タンパク質および標準タンパク質の両方の全表面にアクセスできるように、フィブロネクチンを除くことを推奨できる。この場合、好ましくはセリアック病患者の非セリアック自己抗体は試験タンパク質および標準タンパク質の両方にほぼ等しい結合親和性で結合するであろう。この態様の変法において、アッセイは液相で実施される。両方法とも、コンホメーションエピトープの提示はある程度はより良好であると考えられる。好ましい変法において、IgAまたはIgGを自己抗体として測定する;ただし、患者はこれらのタイプのいずれも欠如していない。
【0128】
本発明は前記に概説した診断方法を実施するためのキットにも関する。これらのキットは前記に述べたパーツ、または前記に概説した診断方法を実施するのに有用なパーツを含むことができる。キットは必然的に、試験タンパク質、および少なくとも標準タンパク質を得るための指示または標準タンパク質をも含む。
【0129】
好ましくは、キットはヒトTGファミリータンパク質およびそれへの抗体結合を検出するための手段を含む。したがって、キットは免疫学的キットであることが推奨され、検出のための手段は直接マーカーおよび/または二次マーカーの使用を含む。直接マーカーは蛍光性マーカーまたは放射性マーカーであってもよく、二次マーカーは二次抗体、場合によりコンジュゲート、マーキングまたは酵素結合した抗体であってもよい。したがって、キットはELISA、EMA、DELFIA、RIAなどの原理で作動することができる。
【0130】
本発明の好ましい態様において、本発明の試験タンパク質を、セリアック病の検出に有用なTissue Transglutaminase Antibody Assay(組織トランスグルタミナーゼ抗体アッセイ)として有用なアッセイキットに追加する。そのようなアッセイキット、いわゆる第2世代のヒト組織トランスグルタミナーゼ抗体アッセイは、van Meensel et al [Clinical Chemistry 50:11 2125-2135 (2004)]に概説されている。このアッセイは、本質的に記載に従って実施でき、ただし試験タンパク質への患者自己抗体の結合をも評価し、そして本明細書中に標準タンパク質として述べた完全な主セリアックエピトープをもつヒトTGファミリータンパク質と比較した結合の差を評価する。
【0131】
上記のvan Meenselらにより示されるように、信号値自体を利用するために、信号、たとえばELISAにおけるODを抗体レベルの関数で示す検量曲線を作成するのが好ましいことは当業者には理解されるであろう。たとえば、既知の結合特性をもつ抗体、たとえばTG100抗体を適宜希釈したものを用いて検量曲線を作成することができる。
【0132】
抗体置換に基づく診断方法、使用およびキット
これらの態様において、発明の概要に定めたように、主セリアックエピトープに特異的に結合しうる前選択した試験化合物により患者の自己抗体が置換されると、これはその患者の自己抗体がセリアック自己抗体であり、したがってこの疾患自体の自己抗体であること、すなわちその患者がグルテン誘発性自己免疫疾患、または好ましくはセリアック病に罹患しているか、またはそれに罹患しやすいことの指標となる。
【0133】
好ましくは、試験化合物は、トランスグルタミナーゼファミリーに属するタンパク質の主セリアックエピトープに結合しうることが分かっている試験抗体またはそのフラグメント、バリアントもしくはアナログであり、そのタンパク質はセリアック病の自己抗原であり、好ましくはTG2、TG3またはTG6から選択される。原則として、十分な親和性または結合力で主セリアックエピトープに結合する抗体はいずれもこの態様に適用できる。そのような抗体は、たとえば実施例7の場合のように単離された患者自己抗体であってもよい。
【0134】
より好ましくは、セリアックエピトープに対するモノクローナル抗体を調製する。そのような抗体は既知の技術、たとえばハイブリドーマ法により調製できる。ハイブリドーマ法の技術は周知であり、たとえばKontermann, Roland; Duebel, Stefan (Eds.) Antibody Engineering Series: Springer Lab Manuals 2001, XII, 792 p. ISBN: 978-3-540-41354-7; Gary C. Howard, Matthew R. Kaser (Eds) Making and Using Antibodies: A Practical Handbook, CRC Press, 2006, ISBN: 9780849335280に示されている。さらに、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの作成は多数の企業に注文できる;たとえばGL Biochem Ltd. (中国上海)、LC Sciences (米国テキサス州ヒューストン)またはLAMPIRE Biological Laboratories (米国ペンシルベニア州パイパースビル)、FusionAntibodies (Pembroke Loop Rd. BTl 7 OQL Northern Ireland)。
【0135】
本発明において、抗体選択はエピトープに対する選択を伴う。1態様において、これは無傷のTG2または他のトランスグルタミナーゼタンパク質に結合するけれども損傷を受けたセリアックエピトープをもつ変異体には結合しない抗体を分泌するクローンを選択することにより実施できる。あるいは、本明細書に開示するセリアックエピトープに結合しうることが分かっている抗体により置換できる抗体を分泌するクローンを選択する。これは常用される免疫学的試験法、たとえば実施例に記載するELISAにより実施できる。
【0136】
ハイブリドーマの方式でモノクローナル抗体が得られると、それらを容易に配列決定することができる。配列決定サービスは、たとえばcDNA配列に基づくFusionAntibodies (Pembroke Loop Rd. BTl 7 OQL Northern Ireland)に注文することができる。
【0137】
別法において、抗体の配列はアミノ酸配列決定法により、たとえばEdman法により得ることができる。これは、時には扱いにくいけれども常法であり、そのようなサービスは種々の企業、たとえばProteome Factory AG, Magnusstr. 11D-12489 Berlin Germanyに注文することができる。あるいは、比較的最近の方法であるショットガン配列決定法を適用できる[Nuno Bandeira et al. Nature Biotechnology, December 2008, v26, n12, pp1336-1338]。
【0138】
通常は可変ドメインのみまたは可変ドメインとリーダー配列を配列決定することで十分な可能性がある。特定の場合、全抗体配列を得ることができる。この配列に基づいて、抗体またはそのフラグメントの遺伝子をクローン化し、特定の用途に合わせることができる;たとえば、ヒト化することができ[たとえば、HAMA(human anti-mouse antibody、ヒト抗マウス抗体)を作成できる;FusionAntibodiesによりサービスも提供されている]、直接進化法により結合親和性を高めることができるなど。
【0139】
抗体フラグメント、たとえば可変部を保有する一本鎖抗体フラグメント(scFv)およびFabフラグメントを得ることができ、これらはそれらのサイズおよび信頼性のため幾つかの利点をもつ。Fabフラグメントは、可変ドメインのほかに定常部を含み2つのシステイン残基により連結された二量体であるという点で、scFvと異なる。
【0140】
FabおよびscFvはキャリヤーとしてのモノクローナル抗体に優る幾つかの利点、それらのサイズがより小さいことによるより低い感受性、およびヒト免疫系によるより低い陰性応答を提供する。これらのフラグメントは、合成DNAまたはモノクローナル細胞系の両方から作成できる。そのようなフラグメントは可変部の配列のみが既知である場合ですら作成できる。
【0141】
当業者は、たとえば[Marzari, R. et al. J. Immunol. 166, 4170-4176 (2001)]に示されるファージディスプレー法を使用でき、これによりscFvも作成できる。ファージディスプレー法に基づく診断用抗体の作成方法の例を実施例に記載する。
【0142】
本明細書に提示する教示に基づけば、さらに他の試験化合物を同定することは当業者が容易になしうる範囲にあるであろう。
本明細書において抗体および抗体フラグメントの代わりにさらに他の認識分子、たとえばタンパク質をベースとする当技術分野の他の受容体を使用できることを理解すべきである。たとえば、IgGドメインについて観察した原理を適用して、本来は受容体特性をもたないタンパク質上に特定の標的分子に特異的な結合部位を構築する試みが成功した[Xu, L. et al. Chemistry & Biology 2002, 9, 933-942; Skerra, A. Rev. Mol Biotech. 2001, 74, 257-275; Nygren P. and Uhlen, M. Curr. Op. Struct. Biol. 1997, 7, 463-469]。適切な骨格は、たとえばフィブロネクチン3型およびリポカリンタンパク質であり、結合部位の形成は指向性進化法をたとえばディスプレー法と組み合わせることにより達成できる。これらの分子の表面は前記に述べた方法により設計できる。
【0143】
好ましくは、自己抗体を置換するために、試験化合物はより強く結合すべきであり、および/またはそれはより高い濃度で使用すべきである。
好ましい態様において、試験化合物の結合を検出する。結合は、試験化合物に特異的に結合する標識化合物により検出できる。あるいは、試験化合物自体を標識することができる。そのような場合、たとえば患者の試料または抗体が無い場合の信号を0%阻害(試験化合物の最大結合−疾患なし)、ブランクについての信号を100%阻害(患者抗体による試験化合物の全置換に対応する)と定義することができる。理論的に、試験化合物がきわめて強く結合すれば疾患が認識されないことがありうる。しかし当技術分野で周知のように結合レベルは濃度により影響される可能性があり、したがって実施例7に示すようにアッセイ条件を設定することは当業者がなしうる範囲にある。好ましい態様において、結合した抗体を検出する。この場合、たとえばコンジュゲートした二次抗体を用いて抗体結合を検出することができる。二次抗体は試験抗体に対して特異的であって患者抗体を認識すべきではない。好ましい態様において、抗体のタイプは異なる(たとえば、IgA抗体欠損症患者をIgA抗体により診断する)。あるいは、試験抗体は特異的配列を保有し、たとえばそれはヒト以外の抗体である。工学的に作成した抗体または抗体フラグメント(たとえば、scFvまたはFab)の場合、二次抗体に対して特異的な認識部位を提供する配列を遺伝子工学により付加することは容易である(Kontermann et al., 2001, Howard and Kaser, 2006, 前記を参照)。当技術分野で既知のように、二次抗体、抗体のフラグメントおよび誘導体のほかに、他の認識分子も使用できる。
【0144】
別法において、患者抗体の結合はそのような抗体を特異的に認識する分子、たとえば二次抗体により検出することができる。この場合、セリアックエピトープへの患者セリアック抗体の特異的結合は、試験化合物によるその抗体の置換、およびこれによる最大結合時に測定した信号の低下により検出される。
【0145】
本発明は、前記に概説した診断方法を実施するためのキットにも関する。
この態様のキットは前記のキットの構成要素を含むことができ、ただし、試験タンパク質の代わりにまたはそのほかにここに定めた試験化合物がこのキットに含まれる点で異なる。
【0146】
本発明の好ましい態様において、本発明に定める試験化合物を、セリアック病の検出に有用なTissue Transglutaminase Antibody Assay(組織トランスグルタミナーゼ抗体アッセイ)として有用な既知のアッセイキットに追加することができる。これにより、そのようなアッセイを、偽陽性所見の排除に有用な本明細書に教示する置換アッセイとして使用できる。アッセイを本発明の試験化合物の存在下で実施すべきである。検出方法に応じて、患者自己抗体による試験化合物の置換または試験化合物による患者自己抗体の置換をモニターすることができる。そのようなアッセイキット、いわゆる第2世代のヒト組織トランスグルタミナーゼ抗体アッセイは、van Meensel et al [Clinical Chemistry 50: 11 2125-2135 (2004)]に概説されている。製造業者のガイドラインから出発してアッセイ条件を最適化することができるが、操作は基本的に記載に従って実施できる。
【0147】
本発明は、本明細書に開示するようにグルテン誘発性自己免疫疾患の診断における本発明の試験化合物の使用にも関する。
好ましい態様において、本発明の試験化合物は以下の文献のいずれかに示される抗体、抗体フラグメントまたは誘導体と異なる:Sblattero et al. Eur J Biochem. 2002 Nov; 269(21): 5175-81, Nakachi K et al. J Autoimmun. 2004 Feb; 22(1): 53-63. Seissler et al. Clin Exp Immunol. 2001 Aug; 125(2): 216-21]が、ただしこの抗体は主セリアックエピトープに結合することができ、好ましくは特異的に結合することができる。あるいは、前記刊行物のひとつもしくは全部もしくはいずれかの組合わせに示されたあらゆる抗体、抗体フラグメントもしくは誘導体、または診断におけるその使用は、本発明の範囲から除外される。
【実施例】
【0148】
実施例1
材料および方法
1.1 分子モデリング
結晶構造のヒトTG2(PDB code: 1KV3)には残基1−14、44−55および123−132が失われていた[Liu S et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2002: 99(5): 2743-7.]が、TG3構造(PDB code: IVJJ,)には対応する領域がみられた[Ahvazi B et al., EMBO J. 2002; 21(9): 2055-67.]ので、これを全長TG2のモデリングに用いた。相同モデルをModeller [Sali A, Blundell TL, J Mol Biol. 1993; 234(3): 779-815.]により、プログラムの多重鋳型オプションを用いて構築した。図形分析を、Silicon Graphics FuelワークステーションによりSybylプログラムパッケージ(Tripos, ミズーリ州セントルイス)を用いて行ない、互いに十分に近くに位置するけれども異なるドメインに属するアミノ酸を検索する研究を行なった。特に、コアドメインとN末端(I)ドメインの境界およびコアドメインとC末端(IV)ドメインの境界を調べた。TG2のCa2+結合変異体についての所見に基づいて、荷電アミノ酸を優先した。
【0149】
本発明者らにより、セリアックエピトープの構成に関与する可能性のある一連のアミノ酸、たとえば下記のものが示唆された:
Arg19、His22、Glu153、Glu154、Arg156、Arg433、Glu435、Met659、Leu661
【0150】
Arg19、Glu153、Met659は互いに比較的近接することも観察された:
Arg19 Glu153−12.9Å
Arg19 Met659−7.7Å
Glu153 Met659−16.8Å。
【0151】
これらの残基はすべて分子の表面に位置し、おそらく共通のコンホメーションエピトープを形成すると推定された。実験結果による必要に応じて、さらに他のアミノ酸に関する位置および電荷の影響を評価した。
【0152】
1.2 TG2変異体の作成
Hisタグ付きヒト組換えTG2を得るために、TG2遺伝子をコードするDNA構築体(pGEX−2T−TG2; Ambrus A et al, 2001)をポリメラーゼ連鎖反応における鋳型として用い、この反応を特異的プライマーを用いて実施した(Ek/LIC Cloning Kitによる, Novagen);オリゴヌクレオチドプライマー1、5'- gac gac gac aag atg aga att cag acc atg gcc gag gag ctg g - 3'、およびプライマー2、5'- gag gag aag ccc ggt tga att cgg tta ggc ggg gcc aat gat gac - 3'。PCR増幅したDNAをpET-30 Ek/LICベクター中へサブクローニングすることにより、Hisタグ付きTG2を作成した。
【0153】
QuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit (Stratagene)に従い、pET-30 Ek/LICベクター中のHisタグ付きTG2構築体(前記)を鋳型として用いて、TG2変異体を作成した。変異体につき、目的とする変異を含む一対のオリゴヌクレオチドプライマーを設計した。PCR反応後、親鎖をDpnI消化により除去した。ABI PRISM(登録商標)3100-Avant Genetic Analyzerを用いるDNA配列決定により、変異を確認した。
【0154】
調べたすべての位置が分子の表面に位置し、Ala変異形成により導入される疎水性部分がフォールディング問題の原因となる可能性があったので、セリンをより一般的なAlaの代わりに置換に用いた。
【0155】
変異形成に用いたプライマーを表1に挙げる。
【0156】
【表1】

【0157】
用いたTG2配列はUniProtKB/Swiss-Prot Database, ID: P21980 (TGM2_HUMAN)に示されたものであり、これを本明細書に援用する。
この配列に基づいてさらに他のプライマーを同じ方法により作成することができる。
【0158】
1.3 TG2タンパク質の発現および精製
Rosetta 2(商標)細胞(Novagen)を発現ベクターで形質転換し、LB中において37℃でOD600 0.6〜0.8になるまで増殖させた。Hisタグ付きタンパク質の発現を誘導するために、培養物を20℃で5時間、0,3mMイソプロピル β−D−チオガラクトシド(IPTG)の存在下で増殖させ、次いで細胞を4℃での遠心により収穫した。
【0159】
すべての精製段階を氷上で実施した。1mMフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)を含む溶解用緩衝液[50mMリン酸ナトリウム(pH7.4),500mM NaCl,5mMイミダゾール,20mM β−メルカプトエタノール,10%(v/v)グリセロール,1%(v/v)Triton X-100]に細胞を再懸濁した。音波処理により細胞溶解を実施し、続いて20000gで35分間遠心した。上清を2mlのNi Sepharose High Performanceカラム(GE Healthcare Bio-Sciences AB)に20mMイミダゾールの存在下で装填した。カラムを80mLの洗浄1緩衝液[50mMリン酸ナトリウム(pH7.4),800mM NaCl,20mMイミダゾール,20mM β−メルカプトエタノール]、次いで40mLの洗浄2緩衝液[50mMリン酸ナトリウム(pH7.4),500mM NaCl,30mMイミダゾール,20mM β−メルカプトエタノール]で洗浄した。250mMイミダゾールを含有する洗浄2緩衝液12mLでタンパク質を溶離した。溶出液をAmicon Centricon-YM 50 MW (Millipore)で濃縮し、緩衝液を貯蔵用緩衝液[20mM Tris−HCl(pH7.2),150mM NaCl,1mM DTT,1mM EDTA,10%(v/v)グリセロール]に3回交換した。
【0160】
ドメイン欠失変異体を[Korponay-Szabo I et al., J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2008; 46: 253-61に従って作成した。
1.4 変異タンパク質の特性解明
A)ウェスタンブロット法
SDS/PAGEを標準法に従って実施した。TG2タンパク質をSDS/PAGEにより分離し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜(Millipore)に移した。0,1%(v/v)Tween 20を含有する50mM Tris緩衝化生理食塩水中の1%ウシ血清アルブミン(BSA)(TTBS)により室温で1時間、膜をブロックし、続いてTTBS中に1:20000希釈したヤギポリクローナル抗TG2抗体(Upstate)と共に、または1:15000希釈したマウスモノクローナル抗TG2抗体TG100(NeoMarkers)と共に、室温で1時間インキュベートした。膜をTTBSで徹底的に洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)(Sigma)とコンジュゲートした抗ヤギ抗体または抗マウス抗体をTTBS中に1:30000希釈したものと共に、室温で1時間インキュベートした。バンドをChemiluminescent ECL Detection System (Millipore)により解析した。すべての変異TG2を細菌内で発現させるのに成功し、野生型(Wt)酵素と比較してタンパク質収率およびタンパク質バンド強度にごくわずかな差があった(図1A)。この現象はおそらく変異体の特性の相異によるものであり、それらが発現または精製効率に影響を及ぼした可能性がある。SDSゲルのクーマシーブリリアントブルー染色は、発現したすべてのタンパク質について80%を超える純度を示した。
【0161】
B)トランスグルタミナーゼ活性
固定化したN,N−ジメチル化カゼイン(DMC)中への5−(ビオチンアミド)ペンチルアミンの取込みに基づくマイクロタイタープレートアッセイにより、トランスグルタミナーゼ活性を測定した[Kiraly R et al, J Autoimmun. 2006; 26(4): 278-87.]。
【0162】
ウェルを100mM Tris/HCl pH8.0中の4mg N,N−ジメチル化カゼイン(Sigma)で4℃において一夜コートした。洗浄後、ウェルを0,5%粉乳溶液により室温で30分間ブロックした。次いで、10mMジチオトレイトール、1mM N−(5−アミノペンチル)ビオチンアミド(Molecular Probes, オレゴン州ユージーン)、5mM CaClおよび0.5μg TG2を含有する反応混合物を添加した(総体積200μLの100mM Tris/HCl pH 8.0中)。反応を37℃で30分間実施した。プレートを200mM EDTA pH8.5で洗浄し、0.42μg/ウェルのストレプトアビジン−アルカリホスファターゼ(Sigma)と共にインキュベートした。200mlの25mM p−ニトロフェニルホスフェート(Sigma)を添加し、405nmにおける吸光度を測定することにより、酵素反応を解析した。酵素活性値を10分と30分の間の発色の△A405/分から求めた。反応ブランクは10mM EDTAを含有し、CaClが添加されなかった。
【0163】
変異体RはCa依存性TGase活性を示し、これは野生型(Wt)トランスグルタミナーゼより約30%高かった(図1B)。他の変異体はすべて、低下してはいるけれども測定可能なTGase活性を示した(図1B)。ドメインI−III−IVは存在するけれども触媒コア(II)ドメインを欠失した対照変異体(D)は、TGase活性を示さなかった。
【0164】
C)GTPase活性のアッセイ
GTPase活性を活性炭法により測定した[Kiraly R et al, J Autoimmun. 2006; 26(4): 278-87.]。100μLの反応混合物は、2μgの組換え野生型または変異TG2を50mM Tris−HCl,pH7.5、4mM MgC12、1mM DTT、1mM EDTA、10%(v/v)グリセロール、9.9mM GTPおよび0.1mM[g−32P]GTP(3000Ci/mmol, Institute of Isotopes Ltd., ハンガリー、ブダペスト)中に含有していた。反応を37℃で30分間実施し、氷冷した50mM NaHPO pH7.5中の6%(w/v)活性炭700μLで停止した。混合物を遠心し、150μLの上清試料を計数することにより、放出された[32P]Pを測定した。酵素を含まないブランクを測定した。
【0165】
野生型酵素の比活性(pmol開裂GTP/分/mg酵素)を100%に設定した。ヒトRM、EMおよびREMのGTPase活性は野生型の活性より2倍以上高かった(図1B)。単一変異体および他の二重変異体は24〜50%を示した。
【0166】
D)変異体のフィブロネクチン結合能(フィブロネクチン−TG2 ELISA)
マイクロタイタープレート(ImmunoPlate Maxisorp, Nunc, デンマーク)を、炭酸水素緩衝液中に希釈した0.3μgのヒトフィブロネクチン(FBN)(Sigma)で室温において1時間コートした。10mM EDTAを含有するTTBS(TTBS+EDTA)でプレートを3回洗浄し、5mM CaClおよび0.1%(v/v)Tween 20を含有するTBS(Ca−TBS−Tween)中、0.8μgのTG2と共に、室温で1時間インキュベートした。モノクローナル抗体[TG100,1:500,TTBS+EDTA中;(HeoMarkers, カリフォルニア州フリーモント)]を室温で1時間インキュベートした。プレートを洗浄し、HRPコンジュゲートした抗マウスIgG(1:4000, Sigma)と共に室温で1時間インキュベートした。100μLの3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン基質(Sigma)の添加により呈色反応させ、次いで50μLの1N HSOで停止した。450nmで吸光度を読み取った。TG100モノクローナル抗体の希釈液から各変異体について標準曲線を作成した。
【0167】
変異体は、FBNに結合した場合、野生型と同程度にモノクローナルマウスTG100抗体と反応した(図2)。これらのデータは、これらの変異体がセリアック血清についての以後の測定に用いるための適正なコンホメーションをもつことを支持する。
【0168】
1.5 患者
異なる条件を明記しない限り、合計216人の年齢0.9〜78歳のセリアック病患者からの血清試料を用い、そのうち56人は選択的な体液性IgA欠損症を伴っていた(総血清IgA<0.05g/l);全員が小腸生検により少なくともMarshグレードIIIの絨毛萎縮を示すと診断された。試料は、処置前に、また彼らのうち22人からは最高17年間の追跡期間中に採集された。11人の対象は最初は小腸絨毛構造を保存していたが、その後、前向き追跡期間中にセリアックタイプの絨毛萎縮を発現した(潜在性症例)。含めた非セリアック対照は正常な小腸絨毛構造をもっていた。
【0169】
1.6 抗体および一本鎖可変部フラグメント(ScFv)
Phadiaのマウスモノクローナル抗体クローンMab885(Cl.885A)は、適切な国際書式に示されるように、ブダペスト条約に従ってPhadia AB (Box 6460 751 37 UPPSALA, Sweden, Visiting address: Rapsgatan 7P 754 50 Uppsala)により、寄託番号 でDSMZ - Deutsche Sammlung von Miroorganismen un Zellkulturen GmbH, Inhoffenstr. 7 B, D-38124 Braunschweig, Germanyに寄託された。Mab885の融合パートナーはSP2/0(ラット)cl.321Bである。
【0170】
Cl.885Aの培養条件は下記のとおりである:
培地:F−DMEM+4mM L−グルタミン+5%ウシ胎仔血清
好ましい温度:37℃
気相:6% CO2
最適分裂比:約1/10
長期保存はF−DMEM+10%ウシ胎仔血清+7.5% DMSO中、−150℃が好ましい。
【0171】
1.7 抗TG2 ELISA
ELISA測定を先に記載された試験法と同様に実施した[Sulkanen, S. et al., Gastroenterology 115, 1322-1328 (1998)]。要約すると、マイクロタイタープレート(ImmunoPlate Maxisorp, Nunc)を、5mM CaC12(pH7.4)を含有する100μLのTBS中における0.6μgのTG2でコートした。10mM EDTAを含有するTTBS(TTBS+EDTA)でプレートを3回洗浄した。すべての抗体をTTBS+EDTA中に希釈した。血清試料(1:200希釈)またはモノクローナル抗体(TG100,1:500;NeoMarkers)を室温で1時間インキュベートした。プレートを洗浄し、HRPコンジュゲートしたウサギ抗ヒトIgAまたはIgG(1:5000;Dako)のいずれか、続いてHRPコンジュゲートした抗マウスIgG(1:5000;Sigma)と共に、室温で1時間インキュベートした。100μLの3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン基質(Sigma)の添加により呈色反応させ、次いで50μLの1N H2SO4で停止した。450nmで吸光度を読み取った。TG100モノクローナル抗体の希釈液から各変異体について標準曲線を作成し、野生型TG2の結合を100%とした場合の他の抗体の結合を4パラメーター当てはめにより計算した。すべての血清試料を二重に試験した。
【0172】
1.8 競合ELISAアッセイ
マイクロタイタープレートを、5mM CaC12(pH7.4)を含有する100μLのTBS中における0.6μg以下の野生型(Wt)TG2でコートした。ウェルをセリアック血清(1:800)および漸増量の精製した全セリアックIgG抗体(希釈度1:200〜l:50)またはIgA欠損症患者の血清と共にインキュベートし、IgAおよびIgG抗体の結合を検出した。さらに他の競合アッセイにおいて、セリアック血清を漸増量(最高18μg/ウェル)のモノクローナルマウス抗体(885,CUB7402,H23)と一緒にプレートに添加し、結合したIgAを測定した。
【0173】
1.9 免疫蛍光試験
固定していない凍結切片を抗ヒトIgAまたはIgG(DAKO)と共にインキュベートして、インビボ結合した免疫グロブリンを単独でまたはTG2に対する二重標識との組合わせで検出した;先の記載に従って実施[Korponay-Szabo, I.R. et al. J. Pediatr. Gastroenterol. Nutr. 31, 520-527 (2000), Korponay-Szabo, I.R. et al. Gut 53, 641-648 (2004)]。TG2特異的MAbとの競合の検出は、MAbをPBS中で組織に30分間添加し、インキュベーション溶液を除去し、それらを患者IgAおよびマウス抗体について検査することにより行なわれた。MAbの結合をAlexa-Fluor 594コンジュゲートまたはローダミンコンジュゲートした抗マウス抗体により検出した。
【0174】
1.10 HUVECの調製および細胞培養実験
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を新鮮な臍帯から調製し、標準法により培養した[Palatka K. et al. World J. Gastroenterol. 12, 1730-1738 (2006)]。細胞分化に対する抗体の作用を分析するために、HUVECをコラーゲンI上で48時間培養し[Myrsky, E. et al. Clin. Exp. Immunol. 152, 111-119 (2008)]、内皮小管(endothelial tubule)の長さをImage Jソフトウェアにより分析した。50,000細胞/ウェルの3つのウェルから10の異なる画像を撮影した。
【0175】
1.11 統計分析
ELISA測定からのデータを、GraphPad Prism SoftwareおよびSTATISTICAを用いて分析した。変異TG2への抗体結合を比較するために、適宜、下記を用いてデータを分析した:repeated measures ANOVAに続くDunnett's Multiple post test、one way ANOVAに続くTukeys post test、またはKruskal-Wallis testに続くDunn's multiple comparison test。p値<0.05を有意とみなした。
【0176】
実施例2
セリアックエピトープの位置を決定するための予備実験
セリアック抗体の結合はTG2のカルシウム結合部位に関係する
ヒトTG2のCa2+結合を調べた際、本発明者らは相互に近接したCa2+結合部位として作用する可能性のある負に荷電した2つの表面パッチをコアドメイン上に同定した。酸性のグルタミン酸およびアスパラギン酸残基から中性のグルタミンおよびアスパラギンへの多重変異:部位4(151 DSEEERQE 158→151 NSQQQRQQ 158)または部位5(434 DERED 438→434 NQRQN 438)により、TG2分子当たり結合したCa2+イオンの数が6から3に減少し、酵素結合イムノアッセイ(ELISA)におけるセリアック病患者血清試料の結合も実質的に(部位4,野生型TG2と比較した残存結合11.6±8.5%)または中程度に(部位5,51.3±16.0%)低下した。これらのELISAアッセイは、62人のセリアック病患者(診断時の年齢1〜42歳)および20人の疾患対照対象(年齢1〜17歳)からの血清試料について実施された。血清試料を最初の臨床診断時に採集し、セリアック病は血清中に抗TG2および筋内膜抗体をもち、かつ小腸生検による重篤な絨毛萎縮を伴っていたのに対し、対照はそれぞれ正常な小腸構造および陰性の血清結果を伴っていた。
【0177】
ELISAを実施するために、野生型および変異TG2タンパク質をCa−TBS−Tween中に希釈し、次いでMaxisorpプレートに(0.6μg/ウェル)室温で1時間コートした。次いで実施例1の記載に従ってアッセイ用緩衝液中1:200の患者抗体希釈液を添加することによりELISAを実施し、ウサギ抗IgAポリクローナル抗体(DAKO, アッセイ用緩衝液中に1:4000に希釈)を用いて信号を検出した。プレートが同等量の野生型および変異TG2抗原を含むように制御するために、TG100モノクローナル抗体標準品を用いて野生型TG2への結合を100%に設定し、患者試料の結合をこれに比例して計算した。
【0178】
液相方式のアッセイにおいて、マイクロタイタープレート(Maxisorp, Nunc, デンマーク)を0,6μgの野生型(Wt)TG2でコートした。セリアック病血清を、Ca−TBS−Tween中の種々の量の野生型または変異TG2と共に室温で10分間プレインキュベートした。この混合物をウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。コートした野生型TG2に結合したIgA抗体を、抗TG2 ELISAの場合と同様に検出した。
【0179】
部位4におけるセリアックエピトープを形成している可能性のあるアンカー残基の探査に際して、D151N、E153Q、E154Q、E155Q、E158QおよびE158L変異を個別に保有する変異TG2分子を作成した。これらのうち、残基153または158の変異はセリアック抗体の結合を有意に低下させた(p<0.000l)(図3A)のに対し、他の変化は何ら影響をもたなかった。E158は表面に露出していないので、これらの結果はGlu153の重要性を示し、これが抗体結合のアンカーポイントを形成している可能性があった。しかし、この位置のGluからGlnへの変異は患者抗体の結合を完全に失わせるのには十分でなく、あるいは機能性エピトープを形成するためにはGlu153は他の表面部分と協同する必要があるという可能性もあった。
【0180】
部位特異的変異形成を部位5においても実施した。表面特性を分析して、部位5の推定エピトープの中央にある荷電した側鎖をもつ2つの候補アミノ酸(Arg433およびGlu435)をセリンに交換した(変異体433);これらは部位4に最も近かったからである。しかし、変異体433はセリアック病患者血清試料との結合の変化を示さなかった。さらに、部位5に結合エピトープをもつモノクローナルマウス抗TG2抗体H23[Korponay-Szabo I et al. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2008; 46: 253-61.]は、ELISAにおいてセリアック病血清試料と一緒に過剰に添加した際に野生型TG2へのセリアック病抗体の結合と干渉しなかった。
【0181】
本発明者らはトランスグルタミナーゼ活性部位変異体(C277S)も作成したが、このタンパク質は野生型TG2と同様に良好にセリアック抗体を結合した。
カルシウムイオンはセリアックエピトープの一部を形成しない
部位4はCa2+結合部位であり、先の臨床検査室試験によりセリアック抗体はCa2+の存在下で優先的にTG2を認識することが示された[Sulkanen S et al, Gastroenterology 1998; 115: 1322-8.]。部位4または部位5においてCa2+の配位に関与する表面アミノ酸はセリアック抗体結合に全く応答しなかったので、さらにカルシウムイオン自体がエピトープに関与するかどうかも探査した。この目的のために、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)中で徹底的に透析した後のTG2調製物を抗原として用い、ELISAにおけるすべての緩衝液中にEDTAを用いた。しかし、この方法では、その強いCa2+結合部位(部位1,アミノ酸229−233,TG3の強いCa2+結合部位と相同)を変異させた際、すべての結合Ca2+をそのタンパク質から除くことができたにすぎない。部位4および部位5のアミノ酸が無傷である場合、この部位1変異体はセリアック抗体に対する良好な抗原であり、ELISAにおいてCa2+の存在下および不存在下でそれらを同等に良好に結合した(≧100%)。この結果により、部位4においても部位5においても、潜在セリアックエピトープ(単数または複数)におけるCaイオンの構造的役割は除外される。
【0182】
コアドメインの外側におけるエピトープアンカーポイントの存在
Glu153がドメイン間の境界付近にあったので、コアドメイン以外のどのドメインがさらに他のエピトープをもつ可能性があるか、あるいは抗体結合に際してGlu153と協同する可能性があるかを確認することを試みた。トランケートしたTG2フラグメントについての以前の結果が従来技術において相反していたので、それぞれTG2の1つの構造ドメインを欠如するTG2変異体を記載に従って発現させた[Korponay-Szabo et al, J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2008; 46: 253-61.]。これらのドメイン変異構築体を等モル濃度で固相および液相イムノアッセイに適用した際、ドメインIII(アミノ酸472−584)が全く存在しない場合ですらセリアック抗体結合が正常に進行することを本発明者らは見出した。これに対し、ドメインIまたはIIのいずれかが欠如すると、セリアック抗体を全く結合しないタンパク質が得られ(図3B)、これによりこれらのドメインは両方とも抗体結合に際して直接または間接的な役割をもつことが示唆された。ドメインIV(アミノ酸585−687)の欠失もある程度は結合に影響を及ぼした(野生型TG2と比較したO.D.は0.8,p<0.0001)。しかし意外にも、ドメインI−III−IVからなりドメインIIを含まない構築体は、同様にコアドメインと無関係にこれらのドメインがそれらのフォールドした形態をとることも知られている[Hang J et al, J Biol Chem. 2005;280(25):23675-83. ; Pinkas DM et al, PLoS Biol. 2007; 5(12): e327.]にもかかわらず、セリアック抗体を結合しないことも認められた。したがってこれらの結果は、効果的な結合のためにはセリアックエピトープ(単数または複数)においてコアドメインアンカー残基の存在が必要であり、したがってそれらの不存在下では他のエピトープ部分は機能的結合部位を形成できないことを指摘した。
【0183】
実施例3
推定セリアックエピトープおよび関連する表面領域における変異の影響
予備実験結果およびコンピューター分析に基づいて、より大きなアミノ酸の組のうちTG2の部位4に関係する表面またはその近辺にあり、かつ潜在的に複合エピトープを形成するのに十分なほど互いに近接する6つのアミノ酸(R19、D151、E153、E154、E155、M659)を同定した。これらの残基を1つずつ(単一変異体)または組み合わせて(二重または三重変異体)部位特異的変異形成によりセリンに交換し、あるいは酸性残基の場合はそれらの中性ホモログに交換した。
【0184】
下記の点変異TG2分子:E153S(E)、R19S(R)、M659S(M)または各変異の組合わせ(D151N/E154Q/E155Q、RE、EM、RM、REM、E154K/R19S/M659S[RKM])を作成し、これらのタンパク質を大きな一組の連続した患者血清試料(n=76)について試験した。アミノ酸447−538に線状エピトープをもつマウスモノクローナル抗TG2抗体TGl00の濃度依存性結合から作成した検量曲線との比較により、結合した抗体の相対量を計算した。
【0185】
それぞれの単一変異の結果、セリアック抗体結合が有意に低下し(R、EおよびMについて、それぞれ26.5%、28.8%および39.1%の残存結合)、二重および三重変異はそれに比例して変化を生じた。D151N/E154Q/E155Q変異体もそれの単一点変異体より有意に少ない抗体を結合した(図3A)が、それの結合能を完全に失うことはなかった。RM変異体はなお35.8%の結合能を保持し、EMは18.5%をもち、REMおよび意外にもREは最低であってそれぞれ13.4%および6.6%の結合を生じた。連続診断した小児および成人両方のセリアック病患者に同じ結合パターンが見られ(図4)、これらの結果は合わせて、抗体結合におけるコアドメインの第1アルファヘリックスの重要性を指摘した。
【0186】
セリアック抗体の結合低下にもかかわらず、これらの変異TG2タンパク質は、大きな一組のマウスモノクローナル抗TG2抗体[Korponay-Szabo I et al, J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2008; 46: 253-61.]を正常に結合し、実施例1に示すようにフィブロネクチン結合において、およびTG2−aseまたはGTP−aseアッセイのいずれかにおいて、機能性を示した。さらに、選択した変異体(R、S4、E153およびE158変異体)のCDスペクトル分析により、それらのタンパク質は無秩序セグメントの割合が有意に増大することなく(<5%)、フォールドした構造をもつことが示された。
【0187】
Glu153の周囲の表面へのセリアック抗体の直接結合を、推定複合エピトープの他のコアドメインアンカーポイントの修飾によってさらに確証した。前記に示したように、Glu154から中性Glnへの交換(E154Q)はセリアック抗体結合を変化させるのに不十分であったが、TG2における交換(E154K)をRおよびMの変異と組み合わせると(RKM)、REM変異と同様にセリアック抗体結合の劇的な低下が生じた(残存結合22.0%)(図5)。この結果は、トランスグルタミナーゼファミリーの他のメンバーのひとつであってセリアック抗体が結合しないXIII因子[Sjoeber et al, Autoimmunity 2002; 35: 357-64.]が、それ以外は著しく相同な表面内の対応する位置に正に荷電したリジンを含むという事実によっても支持される。これに対し、多様な種およびヒトのTGからのTG2配列のライブラリー検索により、ELISA(モルモット)または組織切片を用いる伝統的な免疫蛍光アッセイ(サル、ラット、ウサギ、マウス)による臨床検査室でのセリアック病抗体検出のための高感度抗原として役立つことが知られているすべての動物TG2タンパク質が、相同な負に荷電した表面およびアンカーポイントを対応する位置に実際に含むことが示された(表2)。類似の表面がヒトTG6にもみられる。
【0188】
推定セリアックエピトープに関与する可能性のある表面領域を表示するために、変異体433(図4)について得られたデータを用いた;これは、推定セリアックエピトープが部位5の方向のこれらの残基にまで拡大されないことを示す。
【0189】
【表2】

【0190】
2つのアンカーポイントで十分にセリアックエピトープが決定される
セリアック抗体結合におけるArg19およびMet659の相対的重要性を確認するために、患者において抗体が抗原に主に出会う細胞外マトリックス中でのエピトープのアクセス適性を模倣したフィブロネクチン結合TG2について、さらに試験を実施した。このために、実施例1の記載に従って0.8μgのTG2/ウェルをフィブロネクチンにコートし、結合したIgAクラスのセリアック抗体を、アッセイ用緩衝液中に1:4000希釈した抗IgA二次ウサギ抗体(DAKO)により検出した。これらの条件下で、Arg19およびMet659の変異は、ELISAプレートに直接結合したTG2について試験した場合と類似の効果をもっていた。しかし意外にも、Met659単独の変異は小児または成人のいずれにおいてもセリアック抗体結合を変化させず(図6)、他の2つの変異と組み合わせて用いた場合にも相加効果をもたなかった。したがってこれらの結果は、Glu153とArg19を合わせると抗体結合に十分であり、したがってMet659を含むドメインIVがスイングアウトした開放伸展コンホメーションをTG2がとるそれの触媒活性形態[Pinkas DM et al, PLoS Biol. 2007; 5(12): e327.]においても、セリアック抗体はTG2に結合できることを示す。Arg19は閉鎖コンホメーションにおいてGlu153(12.9Å)よりMet659(7.7Å)に有意に近接するので、これはなおさら意外である。他方、開放形態の結晶構造(2Q3Z)におけるArg19とGlu153の位置についての測定は、閉鎖コンホメーションと比較して差を示さなかった(1KV3,2,8−Å)(図7)。
【0191】
液相アッセイにおいて抗体は固相ELISAの場合と同じパターンを示し、これはGlu153およびArg19が抗体結合において主要な役割をもつという所見を支持する。
実施例4
セリアックエピトープに間接的に影響を及ぼす他の変異
図3Aに示すように、コアドメインにおける単一点変異(E158QまたはE158L)も、ELISAにおいてTG2へのセリアック自己抗体の結合を著しく低下させた。このアミノ酸は表面に露出していないので、この変異の効果を探査するためにさらにin silico分析および分子モデリングを実施した。Glu158はコアドメインの第1アルファヘリックスの基部に位置し、それの側鎖にある陰電荷の喪失は水素結合の破壊を生じ、ヘリックスに不安定さをもたらす。このプロセスは、表面残基153、154および155相互またはN末端ドメインのArg19に対する相対位置に影響を及ぼす可能性がある。
【0192】
部位5のアミノ酸の位置も評価して、これらの変化も部位4のヘリックスに間接的に、ただしより低い程度に影響を及ぼす可能性があると結論された。
さらに、N末端ドメイン第1アルファヘリックスのArg19の変異以外の変化がセリアック抗体結合に対して影響をもつかどうかを評価した。そのために全長TG2のN末端の最初の14個のアミノ酸を欠失した変異TG2を作成し、これもこのヘリックスに影響を及ぼすことを支持した。セリアック抗体はこの変異体への著しく低下した結合を示した(野生型TG2と比較して8.4%の残存結合)。
【0193】
これらすべての変異アミノ酸について、それらはセリアックエピトープの分子表面の一部を形成しないけれども変異は間接的にそのエピトープに影響を及ぼすということは真実である。
【0194】
実施例5
複合エピトープの疾患特異性および臨床関連性
疾患特異性
同定した複合エピトープがセリアック自己免疫性についてのみ特徴的であるかどうかを評価した。そのために、筋内膜抗体および抗TG2抗体の両方について陽性である11のセリアック病試料の結合パターンを、他の自己免疫疾患(SLE、シェーグレン症候群、リウマチ性関節炎)のため血清中に抗TG2抗体をもつ11人の患者からの血清試料のものと比較した。非セリアックグループの結合パターンはセリアックエピトープとは明らかに異なり、それとは無関係であり(図8)、これらの対象は筋内膜および脱アミド化グリアジンに対する抗体についても陰性であった。これらの自己免疫患者は吸収不良または他の腸症状を伴わず、小腸の組織検査を実施した際に(1症例において)、小腸は正常であった。
【0195】
異なるセリアック病患者の抗体が同じエピトープの部分を認識す
天然の患者抗体はポリクローナルであり、異なるエピトープ特性をもつ抗体の混合物を含む可能性があるので、次にこの新たに同定したコンホメーションエピトープがすべてのセリアック病の症例において抗体応答を決定しているかどうかを調べた。そのために、血清試料および精製した患者IgGおよびIgA免疫グロブリンについて競合試験を実施した。調べた56人すべてのIgGまたはIgMクラスの抗TG2抗体をもつIgA欠損セリアック病患者(年齢0.9〜78歳)からの血清試料は、同じIgAコンピテントセリアック病患者からの同じ抗TG2セリアック抗体を置換することができた(図9)が、抗TG2抗体をもたない23人の非セリアックIgA欠損症の対照対象の血清は無効であった。置換効果は血清中のIgGまたはIgMクラスの抗TG2抗体の濃度に比例し、したがって臨床検査室で未知の非IgAセリアック抗体を測定するのに適していた。
【0196】
すべてのセリアック病患者試料がREM、RKM三重変異体およびRE二重変異体との著しく低下した反応を示したが、それらの反応は、図4に示すようにN末端アンカーポイント(Arg19)のみが交換されたR点変異体については若干の変動を示した。しかし、その抗体がRと実際に反応したセリアック病患者からの精製IgG抗体について競合試験を実施した場合、Rと反応しなかった他のIgGセリアック抗体を用いた場合と同じ競合効果が同じIgAセリアック抗体について得られた(図9)。
【0197】
さらに、最初に調べた62のセリアック病血清試料について得られた部位4および5のCa2+結合変異体への抗体結合の結果を比較した場合、個々の試料について部位5への結合は部位4への結合の対数値と相関していた(図10)。この結果は、結合は主に部位4のヘリックスにより決定されるけれども近辺の部位5における変化、すなわち部位4の表面領域の縁にあって部位4のヘリックスの位置に影響を及ぼす可能性のある変化も相応する効果をもつことを示し、これはすべての患者について単一の主結合部位が存在することを指摘する。この系列は成人も含み、彼らについても同様な結果が得られた。
【0198】
疾患進行に際してのエピトープ結合パターンの安定性および進化
セリアック病は絶対的グルテン依存性の臨床状態であり、TG2に対する自己抗体の産生はグルテン摂取に依存し、グルテンの排除および再導入に伴って消失および再現する。したがって、最初に得た血清試料およびその後に得た血清試料からの個々の患者の循環TG2自己抗体のエピトープ特異性を調べた。食事療法に際して抗体が消失したけれども以前に臨床的に採用したように後に(1〜4年後)診断用グルテン攻撃のためにグルテンを再導入した一連の7人の患者において、患者はグルテン攻撃に際して同じエピトープ特異性の抗体と反応した。同様に、食事療法に対するコンプライアンスがなく小児期から成人期まで長期間にわたって血清中TG2抗体について常に陽性であった症例では、3.5〜14年間、エピトープ結合パターンの安定性がみられた(図11)。
【0199】
循環抗体と患者組織にインビボ結合したものとのエピトープ特異性の類似
次に複合エピトープに対する抗体が臨床疾患の発現にも関連するかどうかを評価した。高い結合力の抗体は組織に捕捉されて循環しない可能性があるという幾つかの臨床所見があり、これは少数の患者における血清陰性セリアック病の症例を説明している[Salmi TT et al, Gut. 2006; 55(12): 1746-53.]。組織に沈着したセリアック抗体はすべての罹患臓器に存在し[Korponay-Szabo IR et al, Gut. 2004; 53(5): 641-8.]、それらは外部から添加した組換えTG2に結合したので機能性であることが示され[Salmi TT et al, Gut. 2006; 55(12): 1746-53.]、したがってそれらは疾患発現について血中抗体より重要である可能性がある。したがって、組織結合TG2抗体のエピトープ特異性が血中抗体と類似するかどうかを試験することを試みた。患者の組織に沈着した患者IgA抗体を組織切片から溶離し、それらを精製後の関連する変異TG2タンパク質のパネルについて試験した。TG2抗原に結合する機能性患者抗体のみを得るために、かつこの疾患プロセスに必ずしも関与しない形質細胞または上皮細胞に含まれる非特異的IgAによりIgA画分が汚染されるのを避けるために、腸生検試料ではなくIgAを局所産生しない腸外臓器の使用を選択した。そのような患者組織は、血清学的に活動性の疾患を伴っている間に出産した2人のセリアック病の母親からの胎盤を検査した際に、侵襲処置を実施することなく生化学的試験に十分な量で容易に入手できた。事実、セリアック病の胎盤には脱落膜部分および絨毛膜絨毛構造表面の両方に、TG2に結合した多量の母性抗体が含まれることが観察された(図12)。このIgAは先の記載に従ってクロロ酢酸で胎盤組織から溶離され[Korponay-Szabo I et al, Gut. 2004; 53(5): 641-8.9]、セリアック病血清試料についてみられる典型的パターンと等しいエピトープターゲティングパターンを示した。
【0200】
同定した複合エピトープをターゲティングするセリアック抗体は受動伝達に際して疾患を引き起こす
本発明者らが同定したセリアックエピトープをターゲティングする抗体が疾患現象に関与するかどうかを評価するために、免疫反応の体液成分および細胞成分を別個に調べることができる疾患モデルを求めた。残念ながらセリアック病は絶対的ヒト障害であり、TG2特異的抗体が作動性である関連動物モデルはない。したがって、ヒトの新生児において母性抗体の自然伝達が起きるかどうか、およびこのプロセスに病的症状が伴うかどうかを探査した。これらの子はしばしば低体重であり、正常な母親の子より産科合併症を伴う頻度が高い[Hadziselimovic F, et al. Fetal Pediatr Pathol. 2007; 26: 125-34]。したがって、母親がセリアック病を伴う8出産例において胎盤、臍帯および血清検体を調べ、ヒト臍帯内皮細胞(HUVEC)を調製した。これらの母親のうち3人は、それらの血清試料についてのELISAにより評価して典型的な特異性を備えた循環TG2抗体をもつ活動性疾患を伴っていた。これらの母親のうち1人は、高い血清レベルのIgGクラス抗体をもつIgA欠損症であった。IgGクラス抗TG2抗体は、乳児3人すべての血清中にみられた。これらの抗体は、彼らの母親のIgG抗体と類似のエピトープ特異性をもっていた(図12)。これらのIgG抗体はIgA欠損症の母親からの新生児の臍帯組織にも検出され、この乳児は低体重であり、肝損傷を伴っていた;これについて他の臨床原因は見当たらず、これは血中の血清抗体レベルの低下と平行して消散した。この乳児においては倫理的な理由により空腸生検はできなかった。出生前に母性抗体に曝露された他の乳児から調製したHUVEC細胞は、抗体陰性のセリアック病の母親をもつ乳児からの細胞と比較して、細胞生存低下、それらの形態および表面拡散の異常を示した。
【0201】
実施例6
TG2以外の診断用トランスグルタミナーゼ変異体の設計
分子モデリングを用いて、トランスグルタミナーゼファミリーメンバーのタンパク質の構造およびTG2において同定した複合セリアックエピトープに対応するそれらの表面を評価した。表2に示すように、コアドメインの第1N末端ヘリックスはXIII因子およびTG3においても類似するが、それらはセリアックエピトープの若干のアンカーポイントにおいて異なり、一般に古典的セリアック自己抗体と交差反応しない。これらの分子の全体的な構造フレームワークの類似性を考えると、セリアックエピトープの主アンカーポイントに対応するアミノ酸を交換することによってそれらの結合特性が増強されるであろうと予想される。分子モデリングで得た結果およびTG2におけるE154K変異についての本発明者らの実験データに基づいて、XIII因子のLys199をGluに交換するとXIII因子のセリアック抗原性が高まると推定された(図5)。この工学的に作成したTG抗原は、セリアックエピトープ特異的な方法でELISAまたは他のイムノアッセイにおいて患者試料を測定するために、試験タンパク質としての元のXIII因子と一緒に標準タンパク質として使用できるであろう。この態様において、工学的に作成したタンパク質についての、ただし元のXIII因子についての信号が無い場合の信号は、セリアックタイプの抗体結合の指標となるであろう。同様に、TG3におけるGly146および/またはHis148、あるいは他のヒトまたは真核細胞TGファミリーメンバーにおける対応するアミノ酸の交換が同様な効果をもつ可能性がある。
【0202】
実施例7
診断キットの開発
変異体TG2に基づく診断キット
実施例1〜3に記載したTG2の特異的セリアック抗体結合部位およびアッセイ条件に基づいて、診断キットを開発することができる。このキットはELISA法、他のイムノアッセイ、または無標識結合アッセイに基づく。ELISA設定において、野生型TG2および変化したセリアックエピトープをもつ1種類以上の変異TG2をプレートの表面に結合させると、調べた試料の結合パターンは偽陽性セリアック血清と“真の”セリアック血清を識別するであろう。無傷のセリアックエピトープをもつTG2タンパク質が標準品であり、セリアックエピトープ特異的変異体との抗体結合の低下はセリアック型結合パターンの指標となるであろう。標準タンパク質への結合が検出され、ただし試験タンパク質の結合に少なくとも30%の変化がなければ、その結果を非セリアック型TG2抗体の結果と解釈し、それ以上の臨床検査を行なわない。こうして、上部内視鏡検査および小腸生検のような不必要な侵襲検査を避けることができる。標準タンパク質および試験タンパク質の両方についての結果が前決定カットオフレベルより低いと判明した場合、その試料はTG2抗体を含まず、したがって同様に侵襲検査を避けることができる。抗体が標準TG2タンパク質と反応性であると宣言するのに適切なカットオフは、既知のセリアック試料および非セリアック試料について実施する受容者動作特性曲線(ROC)により確立できる。実施例5の結果に基づいて、非処置セリアック病を伴う患者からの試料について得られた結合の5%のカットオフが示唆される。
【0203】
全長野生型TG2のほかに、本発明者らの下記の組換えタンパク質が野生型TG2と同様な結合を示し、前記アッセイに標準タンパク質として用いるのに適切である:D151N、E154Q、E155Q、C277S、変異体433、ドメイン変異体B(ドメインI−II−IV)およびA(ドメインI−II−III)、ならびに部位l Ca2+結合変異体であってCa2+イオンを含むものまたは含まないもの。後者はカルシウムの添加が望ましくないアッセイ設定に有用である。さらに標準タンパク質は、それ自体はセリアック抗体に対して非抗原性であるTGファミリーフレームワーク上に構築したセリアックエピトープをもつ工学的に作成したタンパク質であってもよい。試験タンパク質としては、変異体R、E、E158Q、E158L、ただしより好ましくは組合わせ変異体RE、REM、RKM、部位4変異体、または相同TGタンパク質であって工学的に作成したタンパク質のカウンターパートとなるセリアック結合エピトープを含まないものが示唆される。
【0204】
図13は、Biacore法によるセリアック抗体結合の無標識測定についての例を示し、この場合、野生型TG2と比較して部位4変異体に対するセリアック抗体の結合と解離の両方が変化している。
【0205】
抗体置換に基づく診断キット
セリアック病患者の血清から精製した天然のIgAおよびIgG抗体であってR19Sを識別認識するものは、相互に同様に競合するが、他のセリアックヒトIgGとは競合しない(図9Bl〜B3)。この知見に基づいて、選択的体液性IgA欠損症を伴う対象のIgGクラスセリアック抗体の測定につき、既知のセリアックIgAトレーサー抗体に対するそれらの濃度依存効果(r=0.88)により、98%の感度および96%の特異性を備えた診断用ELISAを開発した(図9Al〜A2)。
【0206】
この例示アッセイ法において、IgAセリアック病患者抗体の置換によりIgA欠損患者の血清IgGクラス抗TG2抗体を測定した。選択的IgA欠損症(総血清IgA<0.05g/l)を伴う年齢0.9〜73歳(メジアン10.5)の56人の非処置セリアック病患者、23人の非セリアックIgA欠損症対照および22人の正常血清IgA対照であって正常な小腸構造をもつ者(対照の年齢1〜18歳、メジアン5.5)からの血清試料を、野生型TG2抗原についてのELISAで測定した。大部分の患者はIgGクラスの患者抗体をもっていたが、彼らのうち3人はIgMクラス抗TG2ももっていた。調べた血清試料は1:500希釈したセリアックIgAトレーサー抗体を含有するアッセイ用緩衝液中に1:100希釈され、IgA抗体の結合は抗IgAペルオキシダーゼコンジュゲート二次抗体により測定された。ブランクについて得られた光学濃度値(OD)を100%阻害と定め、IgA欠損試料を添加しないIgAトレーサー抗体についての信号を0%阻害と定めた。調べた試料について得られた阻害を100−(ODトレーサー−OD試料/ODトレーサー)として計算した。アッセイ内変動率は5.9%であり、アッセイ間変動率は9.2%であった。受容者動作特性曲線から計算した前決定閾値として最適なカットオフは11%阻害であり、その際、この置換アッセイ法はIgA欠損者におけるセリアック病の診断について98.2%の感度(95%の信頼区間:94.5〜100)および95.6%の特異性(95%の信頼区間:89.9〜100)を備えていた(図9.Al)。モノクローナルマウス抗ヒトIgG(Phadia)によるヒトIgGの直接認識および抗マウス二次HRPコンジュゲート抗体により測定した、置換効果とIgG抗TG2抗体の血清濃度との相関性;r=0.88(図9.A2)。この実験で、最も好ましい置換比の設定はIgG希釈度1:100およびIgA希釈度1:500においてみられた。
【0207】
実施例8
患者抗体のエピトープ特異性による将来の臨床疾患の推定
同定した複合セリアックエピトープに対する反応が疾患の初期の前臨床段階で既にみられるかどうか、また将来のセリアック病の診断についても推定値をもつかどうかを調べるために、筋内膜抗体およびTG2抗体について陽性であり、血清採集時に腸疾患の徴候が存在せず(正常な絨毛構造)、したがってセリアック病の診断を直ちに行なうことができなかった患者からの11の血清試料を試験した。これらの対象のうち6人は既知のセリアック病患者の無症状の家族構成員であり、家族スクリーニングにより選ばれた。0.8〜3年間の追跡期間中、これらの対象のうち7人は小腸に局所抗体沈着を伴う重篤な絨毛萎縮を発現し、さらに2人には他の小病変を伴う抗体沈着があった。疾患潜伏期に採集した試料は11の症例すべてにおいて、顕性疾患を伴うセリアック病患者の試料と類似のエピトープ認識パターンを示し(図14)、野生型TG2と変異体REおよびREMに対する反応の差はよりいっそう大きかった。
【0208】
診断が困難であるさらに他の症例は、TG2抗体が循環しない対象である。そのような場合、抗体は組織内に捕捉されていて、溶出液の形で診断に使用できる可能性がある。これらの症例は他の疾患によっても誘発される可能性のある腸外症状を呈することがしばしばあるので、エピトープ特異性は観察された病状がグルテン関連であるか否かを確定するのに役立つであろう。
【0209】
実施例9
ファージディスプレー法による診断用モノクローナル抗体の調製
セリアックエピトープをターゲティングするモノクローナル抗体を調製するためのさらに他のツールは、ファージディスプレー法によりヒト抗体の可変部からライブラリーを作成することである。この方法に際しては、特定の抗原に対する一本鎖可変フラグメント(scFv)をヒト試料からクローニング、調製および選択する[Marzari, R. et al. J. Immunol. 166, 4170-4176 (2001)]。症候性患者からのセリアック抗体と同じ結合部位をもつTG2特異的抗体を見出す可能性がある。全抗体ライブラリー作成のプロセスにおける第1段階は、腸リンパ球からTrizolにより全RNAを単離することである。次に、単離したRNAを鋳型として用いて第1鎖cDNAを合成し、IgA抗体のH、κおよびλ鎖の可変部をPCR法によって特異的プライマーで増幅する。リンカー領域を付加した後、重鎖(VH+リンカー)および軽鎖(Vκ+リンカー、およびVλ+リンカー)の増幅した可変部を他のPCRにより組み立てる。ライブラリー作成のために、組み立てたVH−VκおよびVH−Vλを制限酵素で消化し、同じ酵素で消化したpDAN5ベクターにライゲートさせる。この段階の後、ベクターは組み立てたscFvを挿入配列として含み、それをDH5△F’エレクトロコンピテント大腸菌(E. coli)細胞にエレクトロポレーションにより形質転換する。この抗体ライブラリーを含む細菌を選択培地で一夜増殖させ、翌日、ライブラリーを収穫し、−80Cで保存する。人体内での抗体の変動性に匹敵する変動性を維持するために、ライブラリーは約10クローンを含むべきである。
【0210】
特定の抗原についてのライブラリーの選択をファージディスプレー法により実施する。このために、ライブラリーを含む細菌を選択培地で増殖させ、そしてヘルパーファージを感染させる。ヘルパーファージは、コーティングタンパク質p3に融合したscFvを含む新たな組換えファージを組み立てるための酵素および他のタンパク質を供給する。産生後、Maxisorp (DAKO)表面をもつTG2タンパク質抗原コートしたイムノチューブで、TG2と反応する組換えファージを選択する。この抗原は無傷のセリアックエピトープを含む。コートされていない表面を、ウシ血清アルブミン含有緩衝液でブロックし、同じブロッキング溶液でファージをイムノチューブに添加する。TG2特異的scFvをそれらの表面に含むファージは、コートされた抗原に結合するであろう。これらのファージを次いでイムノチューブからDH5△F’細菌と共に溶離し、平板培養した細菌内で一夜増幅させ、翌日、選択の第1流出物として収穫する。クローンの特異性を高めるために、セリアックエピトープが変化したTG2タンパク質−好ましくは本発明者らのEまたはRE変異体−を用いて2回目以上の選択ラウンドを実施し(前の流出物からの細菌を第1ラウンドと同じ段階で増幅させる)、次いで無傷のTG2に対して特異的であるけれども変化したセリアックエピトープをもつTG2タンパク質に対しては特異的でない挿入配列を含む細菌のみを増殖させる。こうして、目的とするTG2エピトープをターゲティングする抗体を含むクローンを特異的に選択して選択培地でそらに増殖させることができ、一方、TG2の他のエピトープに反応するクローンは廃棄される。クローンのエピトープ特異性は産生された抗体を用いるELISAにより証明され、フィンガープリンティングPCRおよび制限酵素による消化により特性解明される。ELISAプレートを全長ヒト組換えTG2および変異TG2タンパク質でカバーし、次いでファージと共にインキュベートする。ペルオキシダーゼとコンジュゲートした抗ファージM13抗体(GE Healthcare)で結合を検出し、テトラメチルベンジジンで発色させ、硫酸で反応を停止する。吸光度値をOD450で分光光度計により読み取る。
【0211】
実施例10
診断用患者試料をエピトープ特異性について評価するための競合ELISA
患者試料中のTG2に対する抗体は、それらの抗体クラスの検出が困難な場合がある(IgMのように)か、あるいはそれらのエピトープが不明であるので、診断を困難にする可能性がある。疾患特異的な抗体結果を得るために2種類の競合ELISAを設計した:その際、無傷のセリアックエピトープをもつTG2抗原への患者抗体の結合を、エピトープレベルで患者抗体−セリアック抗原結合に干渉する試験抗体の存在下および不存在下で評価する。このELISA法について、試験抗体のイソ型は測定すべき抗体と異なっていた。
【0212】
a)第1タイプのELISAにおいては、患者抗体と部分的にオーバーラップするエピトープをもつモノクローナル抗体885を競合用試験抗体として過剰に用い、野生型TG2へのセリアックIgA患者抗体の残存結合を実施例9の記載に従って測定した。885と患者抗体を一緒に添加する前に、最適化実験を行なった。特定の希釈度の患者抗体について低下を比較できる約O.D.0.8〜1.0の信号がなお得られるように、プレートにコートするTG2の量を最小にした。本発明者らは、これらの条件下で置換効果は885の量の減少に伴って同じ患者試料に関して用量依存的に90.6%、85%、64%であり、したがって885の存在下では9.3%、15%および36%の患者抗体が結合したにすぎないことを示した。このELISAは、1態様において、患者抗体の大部分が885または類似の試験抗体により置換されれば、調べたその患者抗体のエピトープ特異性は本発明者らが同定した主要な複合セリアックエピトープをターゲティングするものであるということを示すこともできる。
【0213】
b)試験抗体の量を一定に保持し、かつ試験抗体の結合量をHRPコンジュゲートにより測定する様式でELISAを実施すれば、信号の低下はセリアックタイプのエピトープ特異性をもつ競合性のTG2特異的抗体がその試料中に存在することの証明となる。これにより、IgG、IgMまたはIgAのフレームワークをもつ未知の患者抗体を、患者抗体が過剰であっても高希釈度の885試験抗体の使用によって同時に測定できる。適宜希釈した885抗体を用いて、正常な組織試料についての免疫蛍光試験において、患者IgAが筋内膜中のTG2抗原に結合し、一方ではMab 885の結合についての信号が低下する状態を達成できた(図16)。このタイプのELlSAは、実施例5に記載するように、既知のIgAクラスのセリアック病患者抗体を用いて実施し、IgA欠損症患者のIgGクラスのセリアック特異的抗体を測定することもできる。しかし、試験抗体を標識し(たとえば、ビオチニル化)、その標識を特異的に認識すれば、2種類のIgAクラスのセリアック抗体間の競合を同様に証明することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象においてグルテン誘発性自己免疫疾患を診断するための方法であって、
(1) 対象から採取した生体試料であって対象の自己抗体を含有する試料を用意し、場合により該試料から自己抗体を単離する工程;
(2) 該試料の自己抗体を下記:
−トランスグルタミナーゼファミリーに属する、無傷の主セリアックエピトープを有する標準タンパク質、
−トランスグルタミナーゼファミリーに属する少なくとも1種類の試験タンパク質であって、主セリアックエピトープが無傷である標準タンパク質と比較して主セリアックエピトープに関与する少なくとも1つの表面アミノ酸残基の側鎖および/または空間位置が変化しているもの、
と接触させる工程であって、主セリアックエピトープの少なくとも1つの表面アミノ酸残基は下記:
コアドメインの第1アルファヘリックスの表面アミノ酸残基、好ましくは該アルファヘリックスの第1アミノ酸残基、および/または
ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの表面アミノ酸残基、およびベータ−サンドイッチドメインの保存されたHisHisThrモチーフの表面アミノ酸、好ましくは該ヘリックスの第6アミノ酸残基および/または該HisHisThrモチーフの第1アミノ酸、
を含むかまたはそれらから選択され、コアドメインはフォールドした三次元構造を有する上記工程;
(3) 標準タンパク質および少なくとも1種類の試験タンパク質への自己抗体の結合性を評価する工程;
を含み、標準タンパク質と比較して試験タンパク質への自己抗体の結合が損なわれた場合、この事実をその対象におけるグルテン誘発性自己免疫疾患の指標とする方法。
【請求項2】
工程(3)において、試験タンパク質および標準タンパク質への自己抗体の結合レベルを測定することにより結合を評価し、その際、標準タンパク質への自己抗体の平均結合レベルが前決定閾値を超える場合、および試験タンパク質への自己抗体の平均結合レベルが標準タンパク質と比較して有意に低く、好ましくは少なくとも30%低下している場合、この事実をその対象におけるグルテン誘発性自己免疫疾患の指標とみなす、請求項1に記載の対象においてグルテン誘発性自己免疫疾患を診断するための診断方法。
【請求項3】
コアドメインの第1アルファヘリックスの第1アミノ酸残基が、アミノ酸配列アラインメントに基づいて全長ヒトTG2のアミノ酸ナンバリング法に従って番号を付けたGlu153に対応するかもしくはそれと同等なアミノ酸残基であり、および/または
ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの第6アミノ酸残基が、アミノ酸配列アラインメントに基づいて全長ヒトTG2のアミノ酸ナンバリング法に従って番号を付けたArg19に対応するかもしくはそれと同等なアミノ酸残基であり、および/または
ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスのHisHisThrモチーフの第1アミノ酸残基が、アミノ酸配列アラインメントに基づいて全長ヒトTG2のアミノ酸ナンバリング法に従って番号を付けたHis22に対応するかもしくはそれと同等なアミノ酸残基であり、
その際、好ましくは
a)試験タンパク質は変異したトランスグルタミナーゼ(TG)、好ましくは変異TG2、TG3またはTG6であり、
b)標準タンパク質は野生型TG、好ましくは野生型TG2、TG3またはTG6である、
請求項1または2に記載の診断方法。
【請求項4】
トランスグルタミナーゼファミリーに属する試験タンパク質において、主セリアックエピトープが無傷である標準タンパク質と比較して少なくとも1つのさらに他のアミノ酸の側鎖または空間位置が変化しており、
その際、好ましくはこのさらに他のアミノ酸は、多重配列アラインメントに基づいて全長ヒトTG2のアミノ酸ナンバリング法に従って番号を付けたArg151、Glu153、Glu154、Arg156、Arg19、His22、Val431、Arg433、Glu435、Met659、Leu661に対応するかもしくはそれと同等なアミノ酸残基の群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項5】
試験タンパク質がトランスグルタミナーゼファミリーに属し、その際、主セリアックエピトープが無傷である標準タンパク質と比較して主セリアックエピトープに関与する少なくとも1つの表面アミノ酸残基の側鎖および/または空間位置が変化しており、
その際、主セリアックエピトープのこの少なくとも1つの表面アミノ酸残基は下記のものを含むかまたはそれらから選択され:
コアドメインの第1アルファヘリックスの表面アミノ酸残基、および/または
ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの表面アミノ酸残基、およびベータ−サンドイッチドメインの保存されたHisHisThrモチーフの表面アミノ酸残基、
その際、コアドメインはフォールドした三次元構造を有する、
セリアック病の診断のための方法における請求項1〜4のいずれか1項に記載の試験タンパク質の使用。
【請求項6】
対象においてグルテン誘発性自己免疫疾患を診断するための診断方法であって、
(1)対象から採取した生体試料であって対象の自己抗体を含有する試料を用意し、場合により該試料から自己抗体を単離する;
(2)該試料の自己抗体を、トランスグルタミナーゼファミリーに属するタンパク質であって無傷の主セリアックエピトープを有するタンパク質と接触させる;
(3)試験化合物の不存在下および存在下の両方で、このトランスグルタミナーゼファミリータンパク質への自己抗体の結合レベルを評価する;この試験化合物は、少なくとも部分的に下記のものにより形成または付与される主セリアックエピトープに結合しうることが分かっている:
コアドメインの第1アルファヘリックスの1以上の表面アミノ酸残基、および/または
ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスおよびベータ−サンドイッチドメインの保存されたHisHisThrモチーフの、1以上の表面アミノ酸残基;
その際、試験化合物の不存在下での自己抗体の平均結合レベルが前決定閾値を超える場合、および試験化合物の存在下での標準タンパク質への自己抗体の平均結合レベルが試験抗体の不存在下での自己抗体の結合レベルと比較して有意に低く、好ましくは少なくとも50%低下している場合、この事実をその対象におけるグルテン誘発性自己免疫疾患の指標とみなす、上記方法。
【請求項7】
対象においてグルテン誘発性自己免疫疾患を診断するための診断方法であって、
(1)対象から採取した生体試料を用意する;
(2)試験化合物を、トランスグルタミナーゼファミリーに属するタンパク質であって無傷の主セリアックエピトープを有するタンパク質と接触させる;この試験化合物は、少なくとも部分的に下記のものにより形成または付与される主セリアックエピトープに結合しうることが分かっている:
コアドメインの第1アルファヘリックスの1以上の表面アミノ酸残基、および/または
ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスおよびベータ−サンドイッチドメインの保存されたHisHisThrモチーフの、1以上の表面アミノ酸残基;
(3)生体試料の不存在下および存在下の両方で、このトランスグルタミナーゼファミリータンパク質への試験化合物の結合レベルを評価する;
その際、試料の存在下での標準タンパク質への試験化合物の平均結合レベルが試料の不存在下での結合レベルより低い場合、この事実は、その対象における主セリアックエピトープに結合しうる自己抗体の存在およびグルテン誘発性自己免疫疾患の指標である上記方法。
【請求項8】
対象においてグルテン誘発性自己免疫疾患を診断するための診断方法における、少なくとも部分的に下記のものにより形成または付与される主セリアックエピトープに結合しうることが分かっている試験化合物の使用:
コアドメインの第1アルファヘリックスの1以上の表面アミノ酸残基、および/または
ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスおよびベータ−サンドイッチドメインの保存されたHisHisThrモチーフの、1以上の表面アミノ酸残基。
【請求項9】
試験化合物はトランスグルタミナーゼファミリーに属するタンパク質の主セリアックエピトープに結合しうることが分かっている試験抗体または抗体のフラグメント、バリアントもしくはアナログであり、該タンパク質はセリアック病の自己抗原であり、
その際、好ましくは該化合物はMab885、または同一エピトープ領域に結合しうるそのフラグメントもしくは誘導体である、請求項6もしくは7に記載の診断方法または請求項8に記載の使用。
【請求項10】
対象においてグルテン誘発性自己免疫疾患を診断するための診断キットであって:
a)請求項1〜4のいずれか1項に記載のトランスグルタミナーゼファミリーに属する試験タンパク質であって、主セリアックエピトープが無傷である標準タンパク質と比較して主セリアックエピトープに関与する少なくとも1つの表面アミノ酸残基の側鎖および/または空間位置が変化しているもの;
その際、主セリアックエピトープのこの少なくとも1つの表面アミノ酸残基は下記のものを含むかまたはそれらから選択され:
コアドメインの第1アルファヘリックスの表面アミノ酸残基、および/または
ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスの表面アミノ酸残基およびベータ−サンドイッチドメインの保存されたHisHisThrモチーフの表面アミノ酸残基、
その際、コアドメインはフォールドした三次元構造を有する;ならびに
b)トランスグルタミナーゼファミリーに属する標準タンパク質であって無傷の主セリアックエピトープを有するタンパク質、および/またはトランスグルタミナーゼファミリーに属する標準タンパク質であって無傷の主セリアックエピトープを有するタンパク質を用意および使用するための指示を保有する媒体;
ならびに場合により
対象からの生体試料であって対象の自己抗体を含有する試料を採取または処理するための手段、および/または
該試料から自己抗体を単離するための手段、および/または
該タンパク質への自己抗体の結合のレベルおよび/または反応速度を評価するための手段、
を含むキット。
【請求項11】
結合のレベルを評価するための手段がウェルを有するプレートを含み、その際、ウェルの第1部分は標準タンパク質、好ましくは野生型TG2またはTG6でコートされ、ウェルの第2部分は少なくとも1種類の試験タンパク質、好ましくは少なくとも1種類の変異したTG2またはTG6でコートされている、請求項10に記載の診断キット。
【請求項12】
対象においてグルテン誘発性自己免疫疾患を診断するための診断キットであって:
a)トランスグルタミナーゼファミリーに属する無傷の主セリアックエピトープを有する標準タンパク質であって、コアドメインがフォールドした三次元構造を有する標準タンパク質、および/またはトランスグルタミナーゼファミリーに属するこの標準タンパク質を用意および使用するための指示を保有する媒体;ならびに
b)トランスグルタミナーゼファミリーに属する標準タンパク質の主セリアックエピトープに結合しうることが分かっている試験化合物;主セリアックエピトープは少なくとも部分的に下記のものにより形成または付与される:
コアドメインの第1アルファヘリックスの1以上の表面アミノ酸残基、および/または
ベータ−サンドイッチドメインの第1アルファヘリックスおよびベータ−サンドイッチドメインの保存されたHisHisThrモチーフの、1以上の表面アミノ酸残基;
ならびに場合により
対象からの生体試料であって対象の自己抗体を含有する試料を採取または処理するための手段、および/または
該試料から自己抗体を単離するための手段、および/または
標準タンパク質への試験化合物の結合のレベルおよび/または反応速度を評価するための手段
を含むキット。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9B】
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【図10】
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【図13】
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【図1】
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【図2】
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【図9A】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2012−522981(P2012−522981A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502829(P2012−502829)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【国際出願番号】PCT/IB2010/000742
【国際公開番号】WO2010/113025
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(511235995)ユニバーシティ・オブ・デブレツェン (1)
【Fターム(参考)】