説明

グロメット

【課題】貫通孔部に対する取り外し作業を容易にすること。
【解決手段】グロメット20は、パネル10に形成されたワイヤーハーネス1挿通用の貫通孔部12において止水を図るための部材である。グロメット20は、ワイヤーハーネス1を挿通可能且つその外周部に密着可能な筒部32と、筒部32の外周側に設けられ、パネル10における貫通孔部12の外周側に立設されたブラケット15の内周側でパネル10における貫通孔部12の外周部分に対して密着可能な環状のシール部36とを有するシール部材30と、シール部36の基端部に接触する環状の押圧部52と、ブラケット15に対して貫通孔部12の貫通方向に係止して押圧部52をシール部36の基端部に押し付け可能な複数の押し付け機構部62とを有する押し付け部材50とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
自動車の金属パネル等に形成されたワイヤーハーネス挿通用の貫通孔における止水技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ワイヤーハーネス挿通用の壁部に形成された貫通孔における止水を行うためのグロメットが開示されている。特許文献1で対象とする貫通孔は、バーリング部を有するバーリング孔である。このグロメットは、弾性材料からなるアウター部材と、剛性材料からなるインナー部材とを備えている。アウター部材は、一方を開口端、他方を閉鎖端とした短円筒状の大径筒部と、大径筒部の開口端の端縁の全周に径方向外向きに突出する楕円環状のリップ部と、リップ部の基端部付近から径方向内向きに突出する楕円環状の孔端当接部と、閉鎖端と孔端当接部との間に形成された嵌合溝を有している。また、インナー部材は、直線枠部と半円枠部とを有する楕円環状に形成され、直線枠部及び半円枠部の全周に径方向外向きに突出する楕円環状のリップ押え部と、直線枠部の両端近傍に壁部に当接する係止面を有する固定用係止爪と直線枠部における固定用係止爪の間隔部分及び半円枠部に設けられた補助係止爪とを有している。固定用係止爪及び補助係止爪は、径方向内側に撓むように形成されている。
【0003】
インナー部材は、リップ押え部が嵌合溝に嵌め込まれることによりアウター部材に組み付けられる。そして、インナー部材を貫通孔に挿入することにより、固定用係止爪及び補助係止爪が径方向内側に撓んでからもとの形状に復帰して壁部に係止し、リップ部が壁部に押し付けられると共に、孔端当接部がバーリング部に押し付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−63385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のグロメットによると、インナー部材が貫通孔部に挿入されて固定用係止爪及び補助係止爪が壁部に係止した状態では、壁部に対してグロメットの取り付け側とは反対側からでないと、取り外し作業を行うことができない。また、壁部に対してグロメットの取り付け側から無理に取り外そうとすると、インナー部材が破損してしまう恐れがある。
【0006】
そこで、本発明は、貫通孔部に対する取り外し作業を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様は、パネルに形成されたワイヤーハーネス挿通用の貫通孔部において止水を図るためのグロメットであって、前記ワイヤーハーネスを挿通可能且つ前記ワイヤーハーネスの外周部に密着可能な筒部と、前記筒部の外周側に設けられ、前記パネルにおける前記貫通孔部の外周側に立設されたブラケットの内周側で前記パネルにおける前記貫通孔部の外周部分に対して密着可能な環状のシール部と、を有するシール部材と、前記シール部の基端部に接触する環状の押圧部と、前記ブラケットに対して前記貫通孔部の貫通方向に係止して前記押圧部を前記シール部の基端部に押し付け可能な複数の押し付け機構部とを有する押し付け部材と、を備える。
【0008】
第2の態様は、第1の態様に係るグロメットであって、前記シール部は、外周部が前記ブラケットの内周部に当接可能な形状に形成されている。
【0009】
第3の態様は、第1又は第2の態様に係るグロメットであって、前記押し付け機構部は、前記押圧部に係止姿勢と被係止姿勢とで姿勢変更可能に回転可能に支持され、前記係止姿勢で前記ブラケットに形成された係止用凹部に係止可能なレバー部を有している。
【0010】
第4の態様は、第3の態様に係るグロメットであって、前記レバー部は、前記被係止姿勢と前記係止姿勢との間における途中の姿勢で前記押圧部に対して押し付けられる切替用張り出し部を有する。
【0011】
第5の態様は、第3又は第4の態様に係るグロメットであって、前記レバー部は、前記被係止姿勢で、前記ブラケットに形成された先端側を向く面を有する段部に当接可能に設けられ、前記段部に押し付けられて前記係止姿勢側に姿勢変更する。
【0012】
第6の態様は、第1〜第5のいずれか一態様に係るグロメットであって、前記押圧部は、扁平環状に形成された板部と、前記板部に立設された筒状のリブとを有している。
【0013】
第7の態様は、第1〜第6のいずれか一態様に係るグロメットであって、前記シール部は、先端部から先端側に突起する環状のシール凸部を有している。
【0014】
第8の態様は、第1〜第7のいずれか一態様に係るグロメットであって、前記シール部材は、前記押圧部に対して前記筒部における基端側から接触する規制部を有している。
【発明の効果】
【0015】
第1の態様に係るグロメットによると、複数の押し付け機構部がパネルにおける貫通孔部の外周側に立設されたブラケットに対して貫通孔部の貫通方向に係止して押圧部をシール部の基端部に押し付けることにより、シール部をパネルにおける貫通孔部の外周部分に対して押し付けるため、シール部材の外周側からブラケットに対して係止する押し付け機構部を取り扱うことができ、貫通孔部に対する取り外し作業を容易にすることができる。
【0016】
第2の態様に係るグロメットによると、シール部の外周部がブラケットの内周部に当接可能な形状に形成されているため、シール部が押し付け部材によりパネルに押し付けられる際に外周側に撓み或いは移動することを抑制できる。
【0017】
第3の態様に係るグロメットによると、押し付け機構部は、押圧部に係止姿勢と被係止姿勢とで姿勢変更可能に回転可能に支持され、係止姿勢でブラケットに形成された係止用凹部に係止可能なレバー部を有しているため、貫通孔部に対する取り付け状態をより確実に維持することができる。
【0018】
第4の態様に係るグロメットによると、レバー部は、被係止姿勢と被係止姿勢との間で押圧部に押し付けられる切替用張り出し部を有するため、被係止姿勢から係止姿勢への姿勢変更の途中で、切替用張り出し部が押圧部に対して最も強く押し付けられる姿勢を越えると、切替用張り出し部が押圧部に対して押し付けられる力により、係止姿勢側に維持される。このため、押し付け部材がシール部をパネルに押し付けた状態をより確実に維持することができる。
【0019】
第5の態様に係るグロメットであって、レバー部が、被係止姿勢で、ブラケットに形成された先端側を向く面を有する段部に当接可能に設けられ、段部に当接して係止姿勢側に姿勢変更するように構成されているため、押し付け機構部のブラケットに対する係止動作を、グロメットの貫通孔部に対する取り付け動作に伴って行うことができる。
【0020】
第6の態様に係るグロメットによると、押圧部が、扁平環状に形成された板部と、板部に立設された筒状のリブとを有しているため、グロメット全体をコンパクトにすることができると共に、撓みを抑制してより効果的にシール部を押圧できる。
【0021】
第7の態様に係るグロメットによると、シール部は、先端部から先端側に突起する環状のシール凸部を有しているため、より効果的に止水性能を発揮することができる。
【0022】
第8の態様に係るグロメットによると、シール部材が、押圧部に対して筒部における基端側から接触する規制部をさらに有しているため、押し付け部材をシール部材に対してより確実に位置決めすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】パネルにおける貫通孔部及びブラケットを示す正面図である。
【図2】ブラケットの斜視図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である。
【図4】シール部材の側断面図である。
【図5】押し付け部材の平面図である。
【図6】グロメットの貫通孔部に対する取り付け動作を示す図である。
【図7】グロメットの貫通孔部に対する取り付け動作を示す図である。
【図8】グロメットの貫通孔部に対する取り付け動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施形態に係るグロメット20について説明する(図1参照)。このグロメット20は、ワイヤーハーネス1挿通用の貫通孔部12において止水を図るためのものである。
【0025】
ワイヤーハーネス1は、複数の電線(一本の場合もある)を配索経路に沿って結束して構成された部材である。ワイヤーハーネス1には、電線束の外周部にテープ、シート等の巻き付けが施されている部分もある。
【0026】
<貫通孔部>
説明の便宜上、対象となる貫通孔部12について説明しておく(図1〜図3参照)。対象となる貫通孔部12は、自動車の車体における金属パネル等のパネル10に形成されるものである。ここでは、貫通孔部12は、貫通孔の開口縁部に立設された筒状壁部としてのバーリング部14を有する孔部であり、略円形に形成されている。この貫通孔部12は、パネル10に貫通孔を形成した後に、バーリング加工により前記貫通孔の開口縁部を立ち上げてバーリング部14が形成される。もっとも、貫通孔部12は、立ち壁部全体が貫通孔の開口縁部に溶接して構成されていてもよい。
【0027】
また、この貫通孔部12の外周部には、パネル10上に複数のブラケット15が立設されている。ここでは、ブラケット15は、パネル10におけるバーリング部14が突出する側に、貫通孔部12の周方向において等間隔に3箇所に設けられている。また、ブラケット15は、貫通孔部12の開口縁部(ここではバーリング部14)に対して外周側に間隔をあけて設けられている。すなわち、パネル10におけるバーリング部14とブラケット15との間の部分には、グロメット20のシール部材30が密着するための平面が確保されている。
【0028】
このブラケット15は、略L字状に屈曲された金属板の一端側部分であり、金属板の他端側部分がパネル10上に溶接されることにより、パネル10上に立設されている。ブラケット15は、全体として、貫通孔部12の貫通方向に沿って延在すると共に、貫通孔部12の周方向に扁平となる姿勢でパネル10上に設けられている。このブラケット15は、基端側から先端側に向けて順に、基端側部分16と、段部17と、先端側部分18とを有している。より具体的には、ブラケット15は、基端側部分16より外周側に先端側部分18が位置する形態で、段部17が基端側部分16と先端側部分18とを接続した形状に形成されている。段部17は、ブラケット15の先端側に向かう面を有している。また、先端側部分18は、貫通孔部12の内外方向に沿って内側に開口する係止用凹部19を有している。ここでは、係止用凹部19は、略矩形に開口し、貫通孔部12の内外方向に貫通する形状に形成されている。また、係止用凹部19の内周部における基端側の部位は、段部17の先端側を向く面と略面一に設定されている。
【0029】
この貫通孔部12には、ワイヤーハーネス1が挿通配索される。そして、パネル10を挟んだ両領域間で止水を図るため、貫通孔部12とワイヤーハーネス1との隙間をグロメット20により塞ぐ。
【0030】
<グロメット>
グロメット20は、シール部材30と、シール部材30に取り付けられる押し付け部材50とを備えている(図3参照)。
【0031】
シール部材30は、パネル10に対して貫通孔部12の外周部分とワイヤーハーネス1とに対して密着して、貫通孔部12とワイヤーハーネス1との隙間を塞ぐ部材である。このシール部材30は、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)、エラストマー等の比較的弾性変形しやすい(対象に密着し易い)材料によって形成されている。シール部材30は、全体として略筒状に形成され、筒部32と、接続部35と、シール部36と、規制部38とを有している(図3、図4参照)。
【0032】
筒部32は、ワイヤーハーネス1を挿通可能且つ挿通方向において部分的にワイヤーハーネス1の外周部に密着可能に形成されている。この筒部32は、シール部材30の基端部から先端部に亘って延在する部分である。ここでは、筒部32は、略円筒形状に形成され、小径部33と大径部34とを有している。
【0033】
小径部33は、シール部材30の基端部に位置する部分であり、挿通されるワイヤーハーネス1の外周部に密着する部分である。この小径部33は、ワイヤーハーネス1の外径と同じかそれより小さい内径に設定されている。そして、小径部33を拡げてワイヤーハーネス1を通し、小径部33がワイヤーハーネス1の外周部に密着した状態で、小径部33とそこから延出するワイヤーハーネス1との外周部に水密性を有するテープ(図示省略)を巻きつけること等により、このワイヤーハーネス1と小径部33との間の止水をより確実にしておくとよい。また、ワイヤーハーネス1における電線束の外周部と小径部33との間において止水剤又は止水シート等により止水処理が施されることもある。この場合も、電線束に止水剤が塗布又は止水シートが取り付けられたワイヤーハーネス1に対して、小径部33が密着すると言うものとする。
【0034】
大径部34は、小径部33の先端部からシール部材30の先端部に亘って延在する部分であり、小径部33より大径に形成されている。ここでは、大径部34は、小径部33から先端側に向けて徐々に大径になった後、挿通方向に沿って延在する形状に形成されている。なお、大径部34は、挿通方向の一部分に蛇腹形状の部分を含んでいてもよい。
【0035】
また、大径部34の先端側部分は、グロメット20の貫通孔部12に対する取り付け状態において、貫通孔部12の内周側に配設される。止水性能を向上させる観点から言うと、大径部34の先端側部分は、外径がバーリング部14の内径と同じかそれより僅かに大きく設定されているとよい。すなわち、大径部34の先端側部分がバーリング部14の内周部に接触(好ましくは密着)することにより、大径部34とバーリング部14との間でも補助的に止水される。
【0036】
また、大径部34の先端側部分における外周側には円筒形状のシール部36が設けられている。大径部34とシール部36とは、大径部34の中途部とシール部36の基端部とで接続部35により間隔をあけて接続されている。そして、大径部34、シール部36及び接続部35の内側には、シール部材30の先端側に向けて開口する環状の凹部39が形成されている。この凹部39は、バーリング部14(少なくとも先端側部分)を配設可能な(拡げることにより配設可能でもよい)内部空間を有している。
【0037】
シール部36は、パネル10における貫通孔部12の外周部分に対して、バーリング部14の先端側から密着可能に形成された環状の部分である。シール部36は、全体として筒状(ここでは円筒状)に形成され、その先端部に先端側から突起する環状のシール凸部37を有している。シール凸部37は、先端側に向けて徐々に細くなる形状に形成されている。ここでは、シール凸部37は、周方向に直交する断面視において、先端側に頂点を有する略二等辺三角形を成している。もっとも、シール凸部37は、断面視二等辺三角形に限られず、断面視半円形、台形等の形状に形成されていてもよい。そして、シール部36は、パネル10における貫通孔部12の外周部に対して押し付けられ、主としてシール凸部37の先端部が弾性圧縮されて密着することにより、止水機能を発揮する。
【0038】
もっとも、シール凸部37は、省略されてもよく、その場合、シール部36の先端面全体がパネル10に密着可能に形成されていればよい。
【0039】
また、シール部36は、止水性能の向上の観点から、バーリング部14の外周部に対しても接触可能に形成されているとさらに好ましい。すなわち、シール部36は、バーリング部14の外径と同じかそれより僅かに小さい内径に設定されているとよい。
【0040】
さらに、シール部36は、外周部の半径が、貫通孔部12の中心軸からブラケット15の基端側部分16の内周側面との間隔と略同じ寸法に設定されているとよい。すなわち、この構成により、シール部36は、シール部材30の貫通孔部12に対する取り付け状態において、ブラケット15によって外周側への逃げを抑制される。
【0041】
また、シール部36は、倒れ抑制の観点から、内外方向により肉厚に形成されていてもよい。この場合、シール部に、ブラケット15を挿通する孔部を形成し、ブラケット15の外周側にもシール部36の一部が存在するように構成されていてもよい。
【0042】
規制部38は、シール部材30に対して取り付けられる押し付け部材50に対して、シール部材30の挿通方向基端側から接触して、押し付け部材50のシール部材30に対する取り付け状態を維持する部分である。この規制部38は、筒部32(大径部34)の外周部から外周側に張り出す形状に形成されている。より具体的には、規制部38は、接続部35に対して、シール部材30の挿通方向において押し付け部材50(ここでは後述するリブ56)の略同じ間隔をあけた位置に設けられている。ここでは、規制部38は、シール部材30の基端側から先端側に向けて徐々に張り出し寸法が大きくなる(周方向に直交する断面視において略直角三角形状の)円環鍔状に形成されている。
【0043】
押し付け部材50は、シール部材30に取り付けられ(ここでは外嵌めされ)、シール部材30のシール部36を、パネル10における貫通孔部12の外周部分に対して押し付ける部材である(図3、図5参照)。この押し付け部材50は、金属材料を打抜き、屈曲、溶接又は射出成型等して形成される部材である。もっとも、押し付け部材50は、剛性の高い樹脂成形品であってもよく、また、金属部品と樹脂成形品との組合せにより構成されていてもよい。押し付け部材50は、押圧部52と、押し付け機構部62とを有している。
【0044】
押圧部52は、シール部36の基端部に接触して配設され、押し付け機構部62の押し付け力によりシール部36の基端部を押圧する環状の部分である。ここでは、押圧部52は、全体として円環状に形成されている。この押圧部52は、板部54と、リブ56とを有している。
【0045】
板部54は、円環板状に形成され、その一方側の面がシール部36の基端面に接触する面である。ここでは、板部54は、シール部材30の接続部35及びシール部36に接触可能なサイズに設定されている。すなわち、板部54は、内径が筒部32の大径部34の外径と同じかそれより僅かに大きく設定されると共に、外径がシール部36の外径と略同じ大きさに設定されている。
【0046】
リブ56は、円筒状に形成され、板部54の他方側の面における内周部に立設されている。このリブ56は、板部54の曲げに対する強度を向上させる部分である。また、リブ56は、シール部材30の規制部38が係止する部分でもある。すなわち、押し付け部材50は、シール部材30に取り付けられた状態において、板部54がシール部36及び接続部35の基端側の部分に接触すると共に、リブ56の先端部が規制部38に接触することにより、シール部材30に対して挿通方向に位置決めされる。
【0047】
押し付け機構部62は、押圧部52に対して押し付け力を作用させる部分である。より具体的には、押し付け機構部62は、ブラケット15の係止用凹部19に対して係止しつつブラケット15の先端側に向けて力を作用可能に構成されている。ここでは、押し付け機構部62は、押圧部52の板部54上に周方向に等間隔の3箇所に(ブラケット15に対応した数)設けられている。押し付け機構部62は、支持部64と、レバー部65とを有している。
【0048】
支持部64は、押圧部52における板部54の他方側(リブ56側)の面上に固定され、レバー部65を姿勢変更可能に支持する部分である。より具体的には、支持部64は、レバー部65を軸周りに回転可能に支持する。例えば、支持部64は、軸部とこの軸部の両端部を支持する一対の基部とを有する構成を採用することができる。ここでは、支持部64は、板部54に対して溶接により固定されている。
【0049】
レバー部65は、係止用凹部19に対して係止する係止姿勢と、被係止姿勢とで姿勢変更可能に設けられている(図6〜図8参照)。このレバー部65は、支持部64により回転軸周りに支持される被支持部66と、被支持部66から突出して回転軸周りに移動される作用部69とを有している。
【0050】
被支持部66は、レバー部65が被係止姿勢から係止姿勢に姿勢変更される途中で、切替姿勢を越えると係止姿勢に姿勢変更するように付勢される形状に形成されている。すなわち、被支持部66は、被係止姿勢と係止姿勢との間で押圧部52に対して押し付けられる切替用張り出し部67を有している。より具体的には、切替用張り出し部67は、レバー部65が被係止姿勢と係止姿勢との間で姿勢変更する際に、回転軸と板部54とを結ぶ位置を通過する部分において、回転軸からの寸法が他の部分より大きく設定されている部位である。この切替用張り出し部67は、外周部における中心軸からの寸法が、中心軸と板部54との間隔より大きく(ここでは僅かに大きく)設定されている。すなわち、切替用張り出し部67は、レバー部65が被係止姿勢から係止姿勢に姿勢変更される際に、回転軸と板部54とを結ぶライン上付近に移動されると、板部54に押し付けられる。そして、この状態から、レバー部65が係止姿勢側に回転されて切替用張り出し部67が回転軸と板部54とを結ぶラインを越えた位置に移動されると、切替用張り出し部67が板部54に押し付けられる力により、切替用張り出し部67が回転軸と板部54との間から逃げようとする向きに付勢された状態となる。これにより、レバー部65は、切替用張り出し部67が回転軸と板部54とを結ぶライン上に位置する切替姿勢を越えて係止姿勢側に回転されると、切替用張り出し部67による付勢力により自立して係止姿勢に姿勢変更する。
【0051】
もっとも、切替用張り出し部67は、板部54に押し付けられる場合に限られず、リブ56又は押圧部52に設けられる押し付け用の他の部位に押し付けられる構成であってもよい。
【0052】
また、被支持部66は、レバー部65が係止姿勢に姿勢変更した状態を維持可能な形状に形成されている。より具体的には、被支持部66は、レバー部65が係止姿勢の状態で板部54に面接触する平面部68を有している。この平面部68は、レバー部65の回転軸に対する周方向において、切替用張り出し部67の側方に設けられている。そして、この平面部68が板部54に接触した状態で、レバー部65は、係止姿勢に維持される。
【0053】
作用部69は、レバー部65が係止姿勢の状態で、ブラケット15の係止用凹部19に係止可能に被支持部66から突出するように設けられている。ここでは、作用部69は、レバー部65が係止姿勢の状態で、係止用凹部19内に配設され、ブラケット15の先端側に位置する内周部に当接することにより係止用凹部19に対して係止する。
【0054】
また、上記押し付け機構部62は、グロメット20が貫通孔部12に取り付けられて作用部69が係止用凹部19の内周部に当接した状態で、切替用張り出し部67が板部54に押し付けられることによって作用する付勢力により、押圧部52をシール部36を押圧する向きに押し付けるように構成されている。すなわち、切替用張り出し部67は、作用部69が係止用凹部19の内周部に当接した状態においても、板部54に接触して押し付けられるように設けられている。換言すると、上記状態においても、レバー部65の回転軸と板部54との間には、その間隔より大きい寸法の切替用張り出し部67が介在している。これにより、レバー部65は、係止用凹部19をブラケット15の先端側に向けて押圧して、押圧部52をパネル10側に付勢した状態を維持する。また、シール部材30のシール部36は、押圧部52によりパネル10に押し付けられ、先端側のシール凸部37が弾性圧縮変形されてパネル10に密着した状態に維持される。
【0055】
なお、レバー部65が係止姿勢に姿勢変更された状態では、押し付け部材50に対してシール部36が弾性変形された状態から元の形状に戻ろうとする力が作用するが、レバー部65における切替用張り出し部67の一部及び平面部68(一部又は全体)が板部54に対して接触して、レバー部65が係止姿勢に維持されることにより、シール部36のパネル10に対する密着状態が維持される。
【0056】
また、押し付け機構部62は、グロメット20の貫通孔部12に対する取り付け作業において、レバー部65が、グロメット20を貫通孔部12に貫通方向に近接させる動作に伴って、被係止姿勢から係止姿勢に姿勢変更するように構成されている。より具体的には、作用部69は、レバー部65が被係止姿勢の状態で、グロメット20が貫通孔部12に取り付けられる際に、ブラケット15の段部17に当接可能に被支持部66から突出するように設けられている。また、この作用部69は、レバー部65が被係止姿勢の状態で、すなわち、レバー部65は、グロメット20が貫通孔部12に取り付けられる動作に伴って、作用部69が段部17に当接して姿勢変更を開始する。
【0057】
さらに、押し付け機構部62は、グロメット20が貫通孔部12に取り付けられる際に、シール部36がパネル10における貫通孔部12の外周部分に接触して押し付けられる(弾性圧縮変形される)前に、レバー部65が切替姿勢を越えるように設定されている。すなわち、シール部36をパネル10に押し付ける際に、自立して係止姿勢に姿勢変更したレバー部65がブラケット15の係止用凹部19を押圧して、シール部36をパネル10に押し付ける作業を補助するように設定されている。
【0058】
上記押し付け部材50をシール部材30に対して取り付ける際には、押し付け部材50を、接続部35及びシール部36と規制部38との間で筒部32の大径部34の外周部に外嵌めする。より具体的には、押し付け部材50は、板部54の一方側の面がシール部36の基端側からシール部36及び接続部35に対して面接触する姿勢で、シール部材30に対して取り付けられる。これにより、シール部材30と押し付け部材50とを備えるグロメット20が構成される。
【0059】
また、グロメット20を貫通孔部12に取り付ける際には、グロメット20を、シール部36のシール凸部37がパネル10における貫通孔部12の外周部に対して接触する位置にパネル10に対して押し付ける。なお、グロメット20を貫通孔部12に取り付ける際には、押し付け部材50のレバー部65は、被係止姿勢に維持されているとよい。
【0060】
この際、シール部材30の凹部39内にバーリング部14が配設される。また、シール部36は、ブラケット15の基端側部分16とバーリング部14との間に配設される。そして、筒部32の先端側部分がバーリング部14の内周部に接触し、シール部36の内周部がバーリング部14の外周部に接触して補助的に止水機能を発揮する。
【0061】
また、グロメット20がパネル10に近接される際に、押し付け部材50のレバー部65における作用部69がブラケット15の段部17に当接して被係止姿勢から係止姿勢側に姿勢変更を始める。レバー部65が切替姿勢を越える位置までグロメット20が移動されると、レバー部65は、自立して係止姿勢側にさらに姿勢変更する。この状態から、さらにグロメット20をパネル10に対して押し付けることにより、シール部36がパネル10に対して密着する。このとき、シール部36がパネル10に対して押し付けられる方向には、押し付け機構部62による押圧部52を押す付勢力も作用する。さらにここでは、接続部35がバーリング部14の先端部に接触して、補助的に止水機能を発揮する。
【0062】
そして、レバー部65が係止姿勢に姿勢変更された状態で、グロメット20の貫通孔部12に対する取り付け状態が維持される。もっとも、レバー部65が完全に係止姿勢に姿勢変更される前の状態でも、グロメット20は、貫通孔部12に対して取り付けられた状態に維持され得る。
【0063】
これまで、グロメット20が、円形の貫通孔部12に対応して全体として円環状に形成されている例で説明したが、貫通孔部12が楕円形又は多角形に形成されている場合にはその形状に対応して楕円環状又は多角形の環状に形成されていてもよい。グロメット20は、バーリング部14を省略した形状の貫通孔部12に適用されてもよい。
【0064】
また、ブラケット15が貫通孔部12の外周側の3箇所に設けられる例について説明してきたが、ブラケット15は、複数設けられていればよく、2箇所又は4箇所以上に設けられてもよい。もっとも、止水性能の安定性の観点から言うと、周方向において3箇所以上設けられていることが好ましい。この場合、押し付け部材50の押し付け機構部62は、ブラケット15の数に対応して2箇所又は4箇所以上に設けられていればよい。なお、押し付け部材50における板部54の撓み抑制の観点から、押し付け機構部62は、周方向において3箇所以上設けられていることが好ましい。
【0065】
また、ブラケット15の係止用凹部19は、貫通孔部12の内外方向に貫通する形状に限られず、貫通孔部12の内周側に開口する有底の穴部であってもよいし、ブラケット15を構成する金属板がU字状に屈曲されて内周側に開口する凹形状に形成されてもよい。この場合も、被係止姿勢のレバー部65の作用部69が当接可能な段部17に相当する内周側に張り出した部位が設けられるとよい。
【0066】
また、ブラケットは、周方向に連続した筒状に形成されていてもよい。この場合、係止用凹部は、周方向に連続していても(貫通孔形状の場合を除く)、断続的に形成されていてもよい。
【0067】
また、シール部材30について、筒部32の大径部34における先端側部分を囲って外周側にシール部36が設けられる例で説明したが、シール部36が筒部32の先端部から外周側に張り出す接続部によって筒部32の外周側に設けられてもよい。
【0068】
また、押し付け機構部62のレバー部は、切替姿勢を越えて係止姿勢側に姿勢変更された際に係止姿勢側に付勢力を作用させるバネにより付勢された状態で設けられていてもよい。そして、このバネの付勢力により、グロメット20の貫通孔部12に対する取り付け状態を維持可能であるとよい。
【0069】
また、押圧部52は、上記形状に限られるものではなく、リブ56が省略された形状、その他の形状に形成されていてもよい。
【0070】
本実施形態に係るグロメット20によると、複数の押し付け機構部62がパネル20における貫通孔部12の外周側に立設されたブラケット15に対して貫通孔部12の貫通方向に係止して押圧部52をシール部36の基端部に押し付けることにより、シール部36をパネル10における貫通孔部12の外周部分に対して押し付けるため、シール部材30の外周側からブラケット15に対して係止する押し付け機構部62を取り扱うことができ、貫通孔部12に対する取り外し作業を容易にすることができる。
【0071】
また、シール部36の外周部がブラケット15の内周部に当接可能な形状に形成されているため、シール部36が押し付け部材50によりパネル10に押し付けられる際に外周側に撓み或いは移動することを抑制できる。
【0072】
また、押し付け機構部62は、押圧部52に係止姿勢と被係止姿勢とで姿勢変更可能に回転可能に支持され係止姿勢でブラケット15に形成された係止用凹部19に係止可能なレバー部65を有しているため、貫通孔部12に対する取り付け状態をより確実に維持することができる。
【0073】
また、レバー部65は、被係止姿勢と被係止姿勢との間の途中の姿勢で押圧部52に押し付けられる切替用張り出し部67を有するため、被係止姿勢から係止姿勢への姿勢変更の途中で、切替用張り出し部67が押圧部52に対して最も強く押し付けられる姿勢を越えると、切替用張り出し部67が押圧部52に対して押し付けられる力により、係止姿勢側に維持される。このため、押し付け部材50がシール部36をパネル10に押し付けた状態をより確実に維持することができる。
【0074】
また、レバー部65が、被係止姿勢で、ブラケット15に形成された先端側を向く面を有する段部17に当接可能に設けられ、段部17に当接して係止姿勢側に姿勢変更するように構成されているため、押し付け機構部62のブラケット15に対する係止動作を、グロメット20の貫通孔部12に対する取り付け動作に伴って行うことができる。
【0075】
また、押圧部52が、扁平環状に形成された板部54と、板部54に立設された筒状のリブ56とを有しているため、グロメット20全体をコンパクトにすることができると共に、撓みを抑制してより効果的にシール部36を押圧できる。
【0076】
また、シール部36は、先端部から先端側に突起する環状のシール凸部37を有しているため、より効果的に止水性能を発揮することができる。
【0077】
また、シール部材30が、押圧部52に対して筒部32における基端側から接触する規制部38をさらに有しているため、押し付け部材50をシール部材30に対してより確実に位置決めすることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 ワイヤーハーネス
10 パネル
12 貫通孔部
15 ブラケット
17 段部
19 係止用凹部
20 グロメット
30 シール部材
32 筒部
36 シール部
37 シール凸部
38 規制部
39 凹部
50 押し付け部材
52 押圧部
54 板部
56 リブ
62 押し付け機構部
65 レバー部
67 切替用張り出し部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネルに形成されたワイヤーハーネス挿通用の貫通孔部において止水を図るためのグロメットであって、
前記ワイヤーハーネスを挿通可能且つ前記ワイヤーハーネスの外周部に密着可能な筒部と、前記筒部の外周側に設けられ、前記パネルにおける前記貫通孔部の外周側に立設されたブラケットの内周側で前記パネルにおける前記貫通孔部の外周部分に対して密着可能な環状のシール部と、を有するシール部材と、
前記シール部の基端部に接触する環状の押圧部と、前記ブラケットに対して前記貫通孔部の貫通方向に係止して前記押圧部を前記シール部の基端部に押し付け可能な複数の押し付け機構部とを有する押し付け部材と、
を備える、グロメット。
【請求項2】
請求項1に記載のグロメットであって、
前記シール部は、外周部が前記ブラケットの内周部に当接可能な形状に形成されている、グロメット。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のグロメットであって、
前記押し付け機構部は、前記押圧部に係止姿勢と被係止姿勢とで姿勢変更可能に回転可能に支持され、前記係止姿勢で前記ブラケットに形成された係止用凹部に係止可能なレバー部を有している、グロメット。
【請求項4】
請求項3に記載のグロメットであって、
前記レバー部は、前記被係止姿勢と前記係止姿勢との間における途中の姿勢で前記押圧部に対して押し付けられる切替用張り出し部を有する、グロメット。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載のグロメットであって、
前記レバー部は、前記被係止姿勢で、前記ブラケットに形成された先端側を向く面を有する段部に当接可能に設けられ、前記段部に押し付けられて前記係止姿勢側に姿勢変更する、グロメット。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のグロメットであって、
前記押圧部は、扁平環状に形成された板部と、前記板部に立設された筒状のリブとを有している、グロメット。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載のグロメットであって、
前記シール部は、先端部から先端側に突起する環状のシール凸部を有している、グロメット。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載のグロメットであって、
前記シール部材は、前記押圧部に対して前記筒部における基端側から接触する規制部を有している、グロメット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−38986(P2013−38986A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174857(P2011−174857)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】