説明

グロメット

【課題】グロメットにおいて、高圧水に対する優れた止水性能と軽量化とを両立すること。
【解決手段】グロメット1の止水部20は、波板状硬質鍔部材21及び軟質被覆部22からなる。波板状硬質鍔部材21は、弾性材料よりも硬い材料からなり、弾性材料からなる筒状基部10の周囲を囲むとともに筒状基部10から外側へ張り出した環状かつ板状の部材である。波板状硬質鍔部材21の内縁部211は筒状基部10に固定されている。波板状硬質鍔部材21には、内縁部211側から順に、防水側へ凸状の第一曲がり部213、被水側へ凸状の第二曲がり部214及び防水側へ凸状の第三曲がり部215が形成されている。弾性材料からなる軟質被覆部22には、第一曲がり部213から内縁部211側へ傾斜して起立した環状の第一起立部221と、第三曲がり部215から外縁部212側へ傾斜して起立した環状の第二起立部222とが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のボディなどの支持体の貫通孔の部分においてその貫通孔に通されるワイヤハーネスを保護するグロメットに関する。
【背景技術】
【0002】
グロメットは、ワイヤハーネスが通される筒状の弾性体からなり、自動車のボディなどの支持体における貫通孔が形成された部分に取り付けられる。グロメットは、支持体の貫通孔に通されるワイヤハーネスを保護するとともに、支持体の貫通孔におけるワイヤハーネスとの間の隙間を塞ぎ、止水機能及び防塵機能を果たす。
【0003】
また、グロメットは、特許文献1などに示されるように、環状のくびれ部が形成された筒状の基部から外側に張り出した環状の鍔部を有する場合がある。この鍔部は、基部と一体に形成され、内縁部全体が基部におけるくびれ部よりも基部の軸心方向の一方の側寄りの部分の外周面と連なっている。さらに、鍔部の外縁部には、基部の軸心方向の他方の側へ起立した環状の部分であるリップ部が形成されている。
【0004】
鍔部の外縁のリップ部が支持体に密接することにより、鍔部は、支持体の貫通孔の縁部とグロメットとの間の隙間を塞ぎ、水及び粉塵などが支持体の貫通孔を通じて一方の側(被水側)から他方の側(防水側)へ浸入することを防止する役割を果たす。
【0005】
しかしながら、高圧洗車装置などからの高圧の噴射水が、グロメットの鍔部に吐出された場合、特に、鍔部が接する支持体の表面に対して浅い角度から鍔部に吐出された場合、鍔部が、水圧により変形してめくれ上がり、水が支持体の貫通孔から防水側へ浸入するおそれがある。
【0006】
特許文献1に示されるグロメットは、高圧水に対する鍔部の止水性能を高めるため、鍔部の内部に埋め込まれた環状の樹脂部材を備えている。この樹脂部材は、グロメットの鍔部をその内縁部と外縁部との両方において板状の支持体に密接させることにより、高圧水に対する止水性能を高める役割を果たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−140246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に示されるグロメットにおいて、常時撓んだ状態で保持された樹脂部材が本来の形状に戻ろうとするために生じる樹脂部材の弾性力により、鍔部の内縁部及び外縁部と支持体との密着性が高まる。そのため、高圧水に対する止水性能をより高めるためには、樹脂部材の弾性力を高める必要がある。さらに、樹脂部材を弾性力の高い状態で保持することが可能となるように、弾性材料からなる鍔部及び筒状の基部における鍔部の内縁部と繋がる部分は、より大きな厚みで形成される必要がある。
【0009】
従って、特許文献1に示されるグロメットは、高圧水に対する止水性能がより高められるほど、弾性材料からなる筒状の基部及び鍔部の厚みが大きくなる性質を有する。しかしながら、グロメットにおいて、高圧水に対する優れた止水性能と軽量化とを両立することが求められている。
【0010】
本発明は、グロメットにおいて、高圧水に対する優れた止水性能と軽量化とを両立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明に係るグロメットは、以下に示される各構成要素を備える。
(1)第1の構成要素は、弾性材料からなる筒状の部分であり、外周面に板状の支持体における貫通孔の縁部が嵌め入れられる環状のくびれ部が形成された軟質筒部である。
(2)第2の構成要素は、前記弾性材料よりも硬い材料からなり前記軟質筒部の周囲を囲むとともに前記軟質筒部から外側へ張り出した環状かつ板状の部分であり、内縁部が前記軟質筒部における前記くびれ部よりも前記軟質筒部の軸心方向の第一の側寄りの部分に固定され、内縁部と外縁部との間の中間部において、前記軸心方向の第二の側へ凸状に曲がった第一曲がり部、前記第一の側へ凸状に曲がった第二曲がり部及び前記第二の側へ凸状に曲がった第三曲がり部が内縁部側から外縁部側へ順に前記軟質筒部の周囲を囲む同心の環状の稜線をなして形成された波板状硬質鍔部である。
(3)第3の構成要素は、前記弾性材料からなる環状の部分であり、前記波板状硬質鍔部における前記第二の側の面を覆って形成され、前記波板状硬質鍔部における前記第一曲がり部の稜線をなす部分から前記第二の側において前記波板状硬質鍔部の内縁部側へ傾斜して起立した環状の第一起立部及び前記波板状硬質鍔部における前記第三曲がり部の稜線をなす部分から前記第二の側において前記波板状硬質鍔部の外縁部側へ傾斜して起立した環状の第二起立部が形成された軟質被覆部である。
【0012】
第2発明に係るグロメットは、第1発明に係るグロメットの一例である。第2発明に係るグロメットにおいて、前記波板状硬質鍔部における前記軟質筒部に固定された環状の内縁部は、前記軸心方向に沿って前記第二の側へ起立して形成されている。
【発明の効果】
【0013】
第1発明に係るグロメットにおいて、波板状硬質鍔部及び軟質被覆部は、支持体の貫通孔の縁部とワイヤハーネスが通される軟質筒部との間の隙間を塞ぐ止水部である。ここで、波板状硬質鍔部は止水部の骨格として機能し、軟質被覆部は、止水部における表皮及び支持体に密接するリップ部として機能する。また、波板状硬質鍔部は、同心の環状の稜線を形成する3つの曲がり部を有することによって波板状に形成されているため、外縁部側から内縁部側へ弾性的に収縮可能な板バネの性質を備える。
【0014】
そして、第1発明に係るグロメットにおいて、波板状硬質鍔部及び軟質被覆部からなる止水部が軟質筒部の軸心方向における第一の側から第二の側へ向かう方向の水圧を受けた場合、波板状硬質鍔部が、軟質被覆部における2つの起立部を支持体に対してより強く押しつけるように撓む。その際、波板状硬質鍔部は、第三曲がり部の内角を広げるように変形する。
【0015】
さらに、波板状硬質鍔部の第三曲がり部に形成された軟質被覆部の第二起立部は、波板状硬質鍔部における第三曲がり部の部分の変形に応じて、波板状硬質鍔部の外縁部側へ傾斜して起立した状態から直立状態へ近づく方向のトルクを受ける。そのため、第二起立部は、支持体に対してより強い圧力で接触する。以上に示した作用により、グロメットの止水性が向上する。
【0016】
また、第1発明に係るグロメットにおいて、止水部が、支持体の表面に対して浅い角度の方向から水圧を受けた場合、波板状硬質鍔部が、その板バネの性質によって外縁部側から内縁部側へ弾性的に収縮する。そうすると、波板状硬質鍔部は、第一曲がり部の内角を狭めるように変形する。さらに、波板状硬質鍔部の第一曲がり部に形成された軟質被覆部の第一起立部は、波板状硬質鍔部における第一曲がり部の部分の変形に応じて、波板状硬質鍔部の内縁部側へ傾斜して起立した状態から直立状態へ近づく方向のトルクを受ける。そのため、第一起立部が支持体に対してより強い圧力で接触する状態となり、グロメットの止水性が向上する。
【0017】
波板状硬質鍔部の弾性変形(撓み)により第一起立部及び第二起立部を支持体に押しつける力は、止水部が受ける水圧が高いほど大きくなる。そのため、第1発明に係るグロメットは、高圧水に対する優れた止水性能を発揮する。
【0018】
また、第1発明に係るグロメットは、受けた水圧を利用して止水性能を高める構造を備える。そのため、波板状硬質鍔部は、常時強い弾性力を発揮する状態、即ち、常時大きな弾性エネルギーを有する状態で保持される必要はない。そのため、波板状硬質鍔部の内縁部が固定された軟質筒状部(基部)及び軟質被覆部は、より大きな厚みで形成される必要がない。また、硬い材料からなる波板状硬質鍔部は、比較的小さな厚みで形成された軽量な部材で構成されていても、止水部の骨格として十分に機能する。
【0019】
以上に示したことから、第1発明に係るグロメットによれば、高圧水に対する優れた止水性能と軽量化とを両立することが可能となる。
【0020】
ところで、第1発明に係るグロメットにおいて、軟質筒状部における、くびれ部と波板状硬質鍔部の内縁部との間に位置する部分である鍔内側部が大きい場合、その鍔内側部が外部から加わる力によって変形し、波板状硬質鍔部及び軟質被覆部からなる止水部全体が支持体から浮き上がってしまう恐れがある。
【0021】
第2発明に係るグロメットにおいて、波板状硬質鍔部における軟質筒部に固定された環状の内縁部は、軟質筒状部の軸心の方向に沿ってくびれ部側、即ち、支持体における貫通孔の縁部側へ起立して形成されている。そのため、軟質筒状部の鍔内側部が小さくなり、そのような小さな鍔内側部は外力によって変形しにくい。その結果、鍔内側部の変形に起因して止水部全体が支持体から浮き上がってしまう不都合は回避される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係るグロメット1の正面図、側面図及び背面図である。
【図2】グロメット1の断面図である。
【図3】支持体に取り付けられたグロメット1の第1の断面図である。
【図4】支持体に取り付けられたグロメット1の第2の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。
【0024】
<概略構成>
まず、図1及び図2を参照しつつ、本発明の実施形態に係るグロメット1の概略構成について説明する。グロメット1は、主として弾性材料により構成され、ワイヤハーネスが通される筒状の部材であり、自動車のボディなどの板状の支持体における貫通孔が形成された部分に取り付けられる。なお、図1(a)はグロメット1の正面図、図2(b)はグロメット1の側面図、図2(c)はグロメット1の背面図である。
【0025】
図1及び図2に示されるように、グロメット1は、筒状基部10及び止水部20を有する。また、筒状基部10は、被水側基部11、防水側基部12及びくびれ部13により構成されている。また、止水部20は、波板状硬質鍔部材21及び軟質被覆部22により構成されている。なお、図1(c)において、便宜上、網点模様が波板状硬質鍔部材21に付されている。
【0026】
グロメット1において、筒状基部10及び軟質被覆部22は、それぞれ弾性材料が一体に成形された部材である。筒状基部10及び軟質被覆部22は、例えば、ゴム又はゴム系材料であるエラストマー(elastic polymer)からなる部材である。なお、エラストマーには、天然ゴム及び合成ゴムなどの加硫ゴム、並びにウレタンゴム、シリコーンゴム及びフッ素ゴムなどの熱硬化性樹脂系エラストマーが含まれる。
【0027】
一方、波板状硬質鍔部材21は、金属製もしくは樹脂製の曲がった板状の部材である。波板状硬質鍔部材21は、例えば、ステンレス、鉄もしくはアルミニウムなどの金属、或いはポリプロピレン(PP)又はポリアミド(PA)などの熱可塑性樹脂からなる部材である。即ち、波板状硬質鍔部材21は、筒状基部10及び軟質被覆部22の材料(弾性材料)よりも硬い材料からなる。波板状硬質鍔部材21は、インサート成形により筒状基部10及び軟質被覆部22と一体化されている。
【0028】
続いて、図1から図4を参照しつつ、グロメット1の各構成要素について説明する。図2はグロメット1の断面図であり、図3及び図4は板状の支持体9に取り付けられたグロメット1の断面図である。
【0029】
<筒状基部>
筒状基部10は、不図示のワイヤハーネスが通される貫通孔14を形成する筒状の部材である。筒状基部10において、筒状の被水側基部11及び筒状の防水側基部12は、くびれ部13の両側各々に連なって形成されている。本実施形態においては、被水側基部11及び防水側基部12は、それぞれ一部に蛇腹構造を有している。
【0030】
くびれ部13は、筒状基部10の外周面に環状に形成され、板状の支持体9における貫通孔91の縁部92が嵌め入れられる部分である。弾性材料からなる筒状基部10は、細く圧縮された状態で支持体9の貫通孔91に挿入される。さらに、筒状基部10の圧縮が開放されつつ、支持体9における貫通孔91の縁部92がくびれ部13に嵌め入れられる。以上のようにして、グロメット1は支持体9に取り付けられる。
【0031】
以上に示したように、筒状基部10は、外周面に板状の支持体9における貫通孔91の縁部92が嵌め入れられる環状のくびれ部13が形成された弾性材料からなる筒状の部分である。なお、筒状基部10は、軟質筒部の一例である。
【0032】
図3に示されるように、グロメット1が支持体9に取り付けられた状態において、被水側基部11は支持体9の一方の側に位置し、防水側基部12は支持体9の他方の側に位置する。支持体9に対して被水側基部11が位置する側は、雨水又は洗車用水などの多量の水分の発生が想定される側である。一方、支持体9に対して防水側基部12が位置する側は、自動車のトランクルーム又は居室など、水分の浸入を避けたい空間が配置される側である。
【0033】
以下の説明において、便宜上、支持体9に対して被水側基部11が位置する側のことを被水側、防水側基部12が位置する側のことを防水側と称する。また、各図に示される座標軸において、X軸方向は、筒状基部10の軸心Ctに沿う方向(軸心Ctに平行な方向)であり、Y軸方向及びZ軸方向は、それぞれX軸方向に対して直交するとともに、相互に直交する方向である。また、以下の説明において、防水側へ向かう方向(X軸負方向)のことを防水側方向、被水側へ向かう方向(X軸正方向)のことを被水側方向と称する。
【0034】
<止水部>
止水部20は、筒状基部10の周囲を囲むとともに筒状基部10から外側へ張り出した環状の部分である。止水部20は、支持体9の貫通孔91の縁部92とワイヤハーネスが通される筒状基部10との間の隙間を塞ぐ。グロメット1が支持体9に取り付けられた状態において、止水部20は、被水側基部11と同様に、くびれ部13よりも被水側に位置する。
【0035】
<波板状硬質鍔部材>
止水部20を構成する波板状硬質鍔部材21は、筒状基部10の周囲を囲むとともに筒状基部10から外側へ張り出した環状かつ板状の部材である。波板状硬質鍔部材21の内縁部211は、筒状基部10におけるくびれ部13よりも軸心方向Ctの被水側寄り(X軸正方向側寄り)の部分に固定されている。以下の説明において、筒状基部10における、波板状硬質鍔部材21の内縁部211が固定された部分のことを固定部110と称する。
【0036】
波板状硬質鍔部材21の内縁部211は、不図示の接着剤により、或いは筒状基部10の一部に埋め込まれることにより、筒状基部10の固定部110に固定されている。本実施形態においては、波板状硬質鍔部材21の内縁部211は、不図示の接着剤によって筒状基部10の固定部110に固定されている。なお、接着剤は、インサート成形の前に波板状硬質鍔部材21の表面に塗布される。
【0037】
また、グロメット1において、波板状硬質鍔部材21における筒状基部10に固定された環状の内縁部211は、軸心Ctの方向に沿って防水側方向(X軸負方向)の側へ起立して形成されている。そのため、波板状硬質鍔部材21において、内縁部211とそれより外側の部分(後述する平板部216)との間には、概ね90°をなすもう一つの曲がり部が形成されている。
【0038】
以下の説明において、波板状硬質鍔部材21における防水側方向(X軸負方向)に向く面を防水側面、波板状硬質鍔部材21における被水側方向(X軸正方向)に向く面を被水側面と称する。
【0039】
また、波板状硬質鍔部材21は、内縁部211と外縁部212との間の中間部において筒状基部10の周囲を囲む環状の稜線をなす3つの曲がり部213,214,215が形成されている。以下の説明において、3つの曲がり部213,214,215各々のことを第一曲がり部213、第二曲がり部214及び第三曲がり部215と称する。また、波板状硬質鍔部材21における内縁部211と第一曲がり部213との間には、平坦な環状の部分である平板部216が形成されている。
【0040】
3つの曲がり部213,214,215のうち、第一曲がり部213及び第三曲がり部215は、軸心方向Ctの防水側方向(X軸負方向)の側へ凸状に曲がった部分である。一方、第二曲がり部214は、軸心方向Ctの被水側方向(X軸性方向)の側へ凸状に曲がった部分である。第一曲がり部213、第二曲がり部214及び第三曲がり部215は、内縁部211側から外縁部212側へ順に、筒状基部10の周囲を囲む同心の環状の稜線をなして形成されている。
【0041】
即ち、第二曲がり部214は、第一曲がり部213よりも外縁部212側に形成され、第三曲がり部215は、第二曲がり部214よりも外縁部212側に形成されている。波板状硬質鍔部材21は、同心の環状の稜線を形成する3つの曲がり部213,214,215を有することによって波板状に形成されているため、外縁部212側から内縁部211側へ弾性的に収縮可能な板バネの性質を備える。
【0042】
また、後述するように、波板状硬質鍔部材21の防水側面は、軟質被覆部22により覆われている。一方、波板状硬質鍔部材21の被水側面は、筒状基部10の固定部110に固定された部分を除き、弾性材料などの他の部材で覆われていない露出した状態となっている。
【0043】
なお、波板状硬質鍔部材21の被水側面における露出した部分は、筒状基部10及び軟質被覆部22が、波板状硬質鍔部材21をインサート品としてインサート成形される際に、波板状硬質鍔部材21を支持する金型が接触する部分である。
【0044】
<軟質被覆部>
止水部20を構成する軟質被覆部22は、波板状硬質鍔部材21の防水側面に接着された弾性材料からなる環状の部分である。この軟質被覆部22は、波板状硬質鍔部材21の防水側面を覆って形成されている。さらに、軟質被覆部22の一部には、波板状硬質鍔部材21から防水側方向(X軸負方向)の側へ起立した環状の第一起立部221及び第二起立部222が形成されている。
【0045】
第一起立部221は、図2に示されるように、軟質被覆部22における波板状硬質鍔部材21の第一曲がり部213を覆う部分である。この第一起立部221は、波板状硬質鍔部材21における第一曲がり部213の稜線をなす部分から、防水側方向(X軸負方向)の側において波板状硬質鍔部材21の内縁部211側へ傾斜して起立した環状の起立部である。
【0046】
一方、第二起立部222は、図2に示されるように、軟質被覆部22における波板状硬質鍔部材21の第三曲がり部215を覆う部分である。この第二起立部222は、波板状硬質鍔部材21における第三曲がり部215の稜線をなす部分から、防水側方向(X軸負方向)の側において波板状硬質鍔部材21の外縁部212側へ傾斜して起立した環状の起立部である。
【0047】
図3に示されるように、グロメット1が支持体9に取り付けられた状態において、軟質被覆部22の第一起立部221及び第二起立部222は、支持体9に押し付けられ、支持体9と密接する。これにより、被水側から防水側への水の浸入が防がれる。
【0048】
グロメット1において、波板状硬質鍔部材21及び軟質被覆部22からなる止水部20は、支持体9の貫通孔91の縁部92とワイヤハーネスが通される筒状基部10との間の隙間を塞ぐ部分である。ここで、波板状硬質鍔部材21は止水部20の骨格として機能し、軟質被覆部22は、止水部における骨格を覆う表皮及び支持体9に密接するリップ部として機能する。即ち、第一起立部221及び第二起立部222が、リップ部として機能する。
【0049】
また、波板状硬質鍔部材21は、同心の環状の稜線を形成する3つの曲がり部213,214,215を有することによって波板状に形成されているため、外縁部212側から内縁部211側へ弾性的に収縮可能な板バネの性質を備える。
【0050】
<効果>
図3に示されるように、グロメット1において、波板状硬質鍔部材21及び軟質被覆部22からなる止水部20が、筒状基部10の軸心方向Ctにおける被水側から防水側へ向かう方向の高水圧F1を受けた場合、波板状硬質鍔部材21は、軟質被覆部22における第一起立部221及び第二起立部222を支持体9に対してより強く押しつけるように撓む。
【0051】
より具体的には、波板状硬質鍔部材21が、高水圧F1を受けて防水側方向へ撓むことにより、第一起立部221は、波板状硬質鍔部材21から図3の矢印D1で示される方向へ押され、支持体9に対してより強く押しつけられる。
【0052】
また、波板状硬質鍔部材21が、高水圧F1を受けて防水側方向へ撓むことにより、第二起立部222は、波板状硬質鍔部材21の第三曲がり部215の部分の変形に応じて、波板状硬質鍔部材21から図3の矢印D2で示される方向へ押され、支持体9に対してより強く押しつけられる。その際、波板状硬質鍔部21は、第三曲がり部215の内角を広げるように変形する。
【0053】
さらに、波板状硬質鍔部21の第三曲がり部215に形成された第二起立部222は、波板状硬質鍔部21における第三曲がり部215の部分の変形に応じて、波板状硬質鍔部材21の外縁部212側へ傾斜して起立した状態から直立状態へ近づく方向のトルクを受ける。そのため、第二起立部222が支持体9に対してより強い圧力で接触する。以上に示された作用により、グロメット1の止水性が向上する。
【0054】
また、図4に示されるように、グロメット1において、止水部20が、支持体9の表面に対して浅い角度の方向から高水圧F2を受けた場合、波板状硬質鍔部材21が、その板バネの性質によって外縁部212側から内縁部211側へ弾性的に収縮する。そうすると、波板状硬質鍔部材21は、第一曲がり部213の内角(被水側方向においてなす角度)を狭めるように変形する。
【0055】
さらに、波板状硬質鍔部材21の第一曲がり部213に形成された軟質被覆部22の第一起立部221は、波板状硬質鍔部材21における第一曲がり部213の部分の変形に応じて、波板状硬質鍔部材21の内縁部211側へ傾斜して起立した状態から直立状態へ近づく方向D3のトルクを受ける。そのため、第一起立部221が支持体9に対してより強い圧力で接触する。
【0056】
また、波板状硬質鍔部材21の弾性変形(撓み)により第一起立部221及び第二起立部222を支持体9に押しつける力は、止水部20が受ける水圧が高いほど大きくなる。そのため、グロメット1は、高圧水に対する優れた止水性能を発揮する。
【0057】
また、グロメット1は、受けた水圧を利用して止水性能を高める構造を備えるため、波板状硬質鍔部材21は、常時強い弾性力を発揮する状態、即ち、常時大きな弾性エネルギーを有する状態で保持される必要はない。そのため、波板状硬質鍔部材21の内縁部211が固定された筒状基部10の固定部110及び軟質被覆部22は、より大きな厚みで形成される必要がない。また、硬い材料からなる波板状硬質鍔部材21は、比較的小さな厚みで形成された軽量な部材で構成されていても、止水部20の骨格として十分に機能する。
【0058】
以上に示したことから、グロメット1が採用されることにより、高圧水に対する優れた止水性能と軽量化とを両立することが可能となる。
【0059】
ところで、グロメット1において、筒状基部10における、くびれ部13と波板状硬質鍔部材21の内縁部211との間に位置する部分である鍔内側部111が大きい場合、その鍔内側部111が外部から加わる力によって変形し、波板状硬質鍔部材21及び軟質被覆部22からなる止水部20全体が支持体9から浮き上がってしまう恐れがある。
【0060】
しかしながら、グロメット1において、波板状硬質鍔部材21における筒状基部10に固定された環状の内縁部211は、筒状基部10の軸心Ctの方向(X軸方向)に沿ってくびれ部13側、即ち、支持体9における貫通孔91の縁部92側へ起立して形成されている。そのため、筒状基部10の鍔内側部111が小さくなり、そのような小さな鍔内側部111は外力によって変形しにくい。その結果、鍔内側部111の変形に起因して止水部20全体が支持体9から浮き上がってしまう不都合は回避される。
【0061】
<その他>
各図に示された例において、筒状基部10及び止水部20の断面の輪郭形状は円形である。しかしながら、筒状基部10及び止水部20の断面の輪郭形状が、楕円形又は多角形などの他の形状であることも考えられる。
【符号の説明】
【0062】
1 グロメット
9 支持体
10 筒状基部
11 被水側基部
12 防水側基部
13 くびれ部
20 止水部
21 波板状硬質鍔部材
22 軟質被覆部
91 支持体の貫通孔
92 貫通孔の縁部
110 固定部
111 鍔内側部
211 波板状硬質鍔部材の内縁部
212 波板状硬質鍔部材の外縁部
213 波板状硬質鍔部材の第一曲がり部
214 波板状硬質鍔部材の第二曲がり部
215 波板状硬質鍔部材の第三曲がり部
216 波板状硬質鍔部材の平板部
221 第一起立部
222 第二起立部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性材料からなる筒状の部分であり、外周面に板状の支持体における貫通孔の縁部が嵌め入れられる環状のくびれ部が形成された軟質筒部と、
前記弾性材料よりも硬い材料からなり前記軟質筒部の周囲を囲むとともに前記軟質筒部から外側へ張り出した環状かつ板状の部分であり、内縁部が前記軟質筒部における前記くびれ部よりも前記軟質筒部の軸心方向の第一の側寄りの部分に固定され、内縁部と外縁部との間の中間部において、前記軸心方向の第二の側へ凸状に曲がった第一曲がり部、前記第一の側へ凸状に曲がった第二曲がり部及び前記第二の側へ凸状に曲がった第三曲がり部が内縁部側から外縁部側へ順に前記軟質筒部の周囲を囲む同心の環状の稜線をなして形成された波板状硬質鍔部と、
前記弾性材料からなる環状の部分であり、前記波板状硬質鍔部における前記第二の側の面を覆って形成され、前記波板状硬質鍔部における前記第一曲がり部の稜線をなす部分から前記第二の側において前記波板状硬質鍔部の内縁部側へ傾斜して起立した環状の第一起立部及び前記波板状硬質鍔部における前記第三曲がり部の稜線をなす部分から前記第二の側において前記波板状硬質鍔部の外縁部側へ傾斜して起立した環状の第二起立部が形成された軟質被覆部と、を備えることを特徴とするグロメット。
【請求項2】
前記波板状硬質鍔部における前記軟質筒部に固定された環状の内縁部は、前記軸心方向に沿って前記第二の側へ起立して形成されている、請求項1に記載のグロメット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−90439(P2013−90439A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228700(P2011−228700)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】