説明

グロメット

【課題】グロメットにおいて、高圧水に対する優れた止水性能と軽量化とを両立すること。
【解決手段】グロメット1の止水部20は、硬質鍔部材22及び軟質被覆部21により構成されている。硬質鍔部材22は、弾性材料よりも硬い材料からなり、弾性材料からなる筒状基部10の周囲を囲むとともに筒状基部10から外側へ張り出した環状かつ板状の部材である。硬質鍔部材22の内縁部221は筒状基部10に固定されている。硬質鍔部材22には、内縁部221と外縁部222との間の曲がり部225から外縁部222にかけて防水側の方向へ傾斜する傾斜板部224が形成されている。硬質鍔部材22の曲がり部225が形成する環状の窪み226は埋められていない。弾性材料からなる軟質被覆部21は、硬質鍔部材22における被水側の全領域及び外縁部222を覆って形成され、硬質鍔部22の外縁部22から防水側の方向へ起立した環状の起立部212を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のボディなどの支持体の貫通孔の部分においてその貫通孔に通されるワイヤハーネスを保護するグロメットに関する。
【背景技術】
【0002】
グロメットは、ワイヤハーネスが通される筒状の弾性体からなり、自動車のボディなどの支持体における貫通孔が形成された部分に取り付けられる。グロメットは、支持体の貫通孔に通されるワイヤハーネスを保護するとともに、支持体の貫通孔におけるワイヤハーネスとの間の隙間を塞ぎ、止水機能及び防塵機能を果たす。
【0003】
また、グロメットは、特許文献1などに示されるように、環状のくびれ部が形成された筒状の基部から外側に張り出した環状の鍔部を有する場合がある。この鍔部は、基部と一体に形成され、内縁部全体が基部におけるくびれ部よりも基部の軸心方向の一方の側寄りの部分の外周面と連なっている。さらに、鍔部の外縁部には、基部の軸心方向の他方の側へ起立した環状の部分であるリップ部が形成されている。
【0004】
鍔部の外縁のリップ部が支持体に密接することにより、鍔部は、支持体の貫通孔の縁部とグロメットとの間の隙間を塞ぎ、水及び粉塵などが支持体の貫通孔を通じて一方の側(被水側)から他方の側(防水側)へ浸入することを防止する役割を果たす。
【0005】
しかしながら、高圧洗車装置などからの高圧の噴射水が、グロメットの鍔部に吐出された場合、特に、鍔部が接する支持体の表面に対して浅い角度から鍔部に吐出された場合、鍔部が、水圧により変形してめくれ上がり、水が支持体の貫通孔から防水側へ浸入するおそれがある。
【0006】
特許文献1に示されるグロメットは、高圧水に対する鍔部の止水性能を高めるため、鍔部の内部に埋め込まれた環状の樹脂部材を備えている。この樹脂部材は、グロメットの鍔部をその内縁部と外縁部との両方において板状の支持体に密接させることにより、高圧水に対する止水性能を高める役割を果たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−140246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に示されるグロメットにおいて、常時撓んだ状態で保持された樹脂部材が本来の形状に戻ろうとするために生じる樹脂部材の弾性力により、鍔部の内縁部及び外縁部と支持体との密着性が高まる。そのため、高圧水に対する止水性能をより高めるためには、樹脂部材の弾性力を高める必要がある。さらに、樹脂部材を弾性力の高い状態で保持することが可能となるように、弾性材料からなる鍔部及び筒状の基部における鍔部の内縁部と繋がる部分は、より大きな厚みで形成される必要がある。
【0009】
従って、特許文献1に示されるグロメットは、高圧水に対する止水性能がより高められるほど、弾性材料からなる筒状の基部及び鍔部の厚みが大きくなる性質を有する。しかしながら、グロメットにおいて、高圧水に対する優れた止水性能と軽量化とを両立することが求められている。
【0010】
本発明は、グロメットにおいて、高圧水に対する優れた止水性能と軽量化とを両立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明に係るグロメットは、以下に示される各構成要素を備える。
(1)第1の構成要素は、弾性材料からなる筒状の部分であり、外周面に板状の支持体における貫通孔の縁部が嵌め入れられる環状のくびれ部が形成された軟質筒部である。
(2)第2の構成要素は、前記弾性材料よりも硬い材料からなり前記軟質筒部の周囲を囲むとともに前記軟質筒部から外側へ張り出した環状かつ板状の部分であり、内縁部が前記軟質筒部における前記くびれ部よりも前記軟質筒部の軸心方向の第一の側寄りの部分に固定され、内縁部と外縁部との間の中間部において前記軟質筒部の周囲を囲む環状の稜線をなす曲がり部から外縁部にかけて前記軸心方向の第二の側へ傾斜する傾斜板部が形成された硬質鍔部である。この硬質鍔部の前記曲がり部が前記第二の側の面において形成する環状の窪みは埋められていない。
(3)第3の構成要素は、前記軟質筒部と一体に形成された前記弾性材料からなる環状の部分であり、内縁部全体が前記軟質筒部の外周面と連なり、前記硬質鍔部における前記第一の側の全領域及び前記硬質鍔部の外縁部を覆って形成され、前記硬質鍔部の外縁部から前記第二の側へ起立した環状の起立部が形成された軟質被覆部である。
【0012】
第2発明に係るグロメットは、第1発明に係るグロメットの一例である。第2発明に係るグロメットにおいて、前記硬質鍔部における前記軟質筒部に固定された環状の内縁部は、前記軸心方向に沿って前記第二の側へ起立して形成されている。
【0013】
第3発明に係るグロメットは、第1発明又は第2発明に係るグロメットの一例である。第3発明に係るグロメットにおいては、前記硬質鍔部の前記傾斜板部に、外縁部から内側へ切れ込む複数のスリットが形成されている。
【0014】
第4発明に係るグロメットは、第1発明から第3発明のいずれかに係るグロメットの一例である。第4発明に係るグロメットにおいては、前記硬質鍔部の前記曲がり部における前記第二の側の面に、前記軟質筒部の周囲を囲む環状の溝が形成されている。
【発明の効果】
【0015】
第1発明に係るグロメットにおいて、硬質鍔部及び軟質被覆部は、支持体の貫通孔の縁部とワイヤハーネスが通される軟質筒部との間の隙間を塞ぐ止水部である。ここで、硬質鍔部は止水部の骨格として機能し、軟質被覆部は、止水部における外皮及び支持体に密接するリップ部として機能する。
【0016】
そして、第1発明に係るグロメットにおいて、板状の硬質鍔部における傾斜板部が支持体側へ傾斜している。そのため、硬質鍔部及び軟質被覆部からなる止水部が高水圧を受けた場合、硬質鍔部が、支持体に接する軟質被覆部の起立部を支持体に対してより強く押しつけるように撓み、グロメットの止水性が向上する。また、硬質鍔部の撓みにより起立部を支持体に押しつける力は、止水部が受ける水圧が高いほど大きくなる。そのため、第1発明に係るグロメットは、高圧水に対する優れた止水性能を発揮する。
【0017】
また、第1発明に係るグロメットは、受けた水圧を利用して止水性能を高める構造を備えるため、硬質鍔部は、常時強い弾性力を発揮する状態、即ち、常時大きな弾性エネルギーを有する状態で保持される必要はない。そのため、硬質鍔部の内縁部が固定された軟質筒状部(基部)及び軟質被覆部は、より大きな厚みで形成される必要がない。また、硬い材料からなる硬質鍔部は、比較的小さな厚みで形成された軽量な部材で構成されていても、止水部の骨格として十分に機能する。
【0018】
以上に示したことから、第1発明に係るグロメットによれば、高圧水に対する優れた止水性能と軽量化とを両立することが可能となる。
【0019】
ところで、第1発明に係るグロメットにおいて、軟質筒状部における、くびれ部と硬質鍔部の内縁部との間に位置する部分である鍔内側部が大きい場合、その鍔内側部が外部から加わる力によって変形し、硬質鍔部及び軟質被覆部からなる止水部全体が支持体から浮き上がってしまう恐れがある。
【0020】
第2発明に係るグロメットにおいて、硬質鍔部における軟質筒部に固定された環状の内縁部は、軟質筒状部の軸心の方向に沿ってくびれ部側、即ち、支持体における貫通孔の縁部側へ起立して形成されている。そのため、軟質筒状部の鍔内側部が小さくなり、そのような小さな鍔内側部は外力によって変形しにくい。その結果、鍔内側部の変形に起因して止水部全体が支持体から浮き上がってしまう不都合は回避される。
【0021】
また、第3発明に係るグロメットにおいても、硬質鍔部は、止水部の強度を確保する骨格として機能する。さらに、第3発明に係るグロメットの硬質鍔部において、傾斜板部は、複数のスリットが形成されているため、支持体側へ変位しやすい。従って、第3発明によれば、硬質鍔部の撓みにより起立部を支持体に押しつける作用がより強化され、高圧水に対するより優れた止水性能が得られる。
【0022】
また、第4発明に係るグロメットにおいても、硬質鍔部は、止水部の強度を確保する骨格として機能する。さらに、第3発明に係るグロメットの硬質鍔部において、傾斜板部は、環状の溝が形成された曲がり部から外側に位置するため、支持体側へ変位しやすい。従って、第4発明によれば、硬質鍔部の撓みにより起立部を支持体に押しつける作用がより強化され、高圧水に対するより優れた止水性能が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係るグロメット1の正面図、側面図及び背面図である。
【図2】グロメット1の断面図である。
【図3】グロメット1を構成する硬質鍔部材22の斜視図である。
【図4】支持体に取り付けられたグロメット1の断面図である。
【図5】グロメット1に適用可能な第1応用例に係る硬質鍔部材22Aの斜視図である。
【図6】グロメット1に適用可能な第2応用例に係る硬質鍔部材22Bの斜視図である。
【図7】硬質鍔部材22Bの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。
【0025】
<概略構成>
まず、図1及び図2を参照しつつ、本発明の実施形態に係るグロメット1の概略構成について説明する。グロメット1は、主として弾性材料により構成され、ワイヤハーネスが通される筒状の部材であり、自動車のボディなどの板状の支持体における貫通孔が形成された部分に取り付けられる。なお、図1(a)はグロメット1の正面図、図2(b)はグロメット1の側面図、図2(c)はグロメット1の背面図である。
【0026】
図1及び図2に示されるように、グロメット1は、筒状基部10及び止水部20を有する。また、筒状基部10は、被水側基部11、防水側基部12及びくびれ部13により構成されている。また、止水部20は、硬質鍔部材22及び軟質被覆部21により構成されている。なお、図1(c)において、便宜上、網点模様が硬質鍔部材22に付されている。
【0027】
グロメット1において、筒状基部10及び軟質被覆部21は、それぞれ弾性材料が一体に成形された部材である。筒状基部10及び軟質被覆部21は、例えば、ゴム又はゴム系材料であるエラストマー(elastic polymer)からなる部材である。なお、エラストマーには、天然ゴム及び合成ゴムなどの加硫ゴム、並びにウレタンゴム、シリコーンゴム及びフッ素ゴムなどの熱硬化性樹脂系エラストマーが含まれる。
【0028】
一方、硬質鍔部材22は、金属製もしくは樹脂製の曲がった板状の部材である。硬質鍔部材22は、例えば、ステンレス、鉄もしくはアルミニウムなどの金属、或いはポリプロピレン(PP)又はポリアミド(PA)などの熱可塑性樹脂からなる部材である。即ち、硬質鍔部材22は、筒状基部10及び軟質被覆部21の材料(弾性材料)よりも硬い材料からなる。硬質鍔部材22は、インサート成形により筒状基部10及び軟質被覆部21と一体化されている。
【0029】
続いて、図1から図4を参照しつつ、グロメット1の各構成要素について説明する。図2はグロメット1の断面図であり、図3は硬質鍔部材22の斜視図であり、図4は板状の支持体9に取り付けられたグロメット1の断面図である。
【0030】
<筒状基部>
筒状基部10は、不図示のワイヤハーネスが通される貫通孔14を形成する筒状の部材である。筒状基部10において、筒状の被水側基部11及び筒状の防水側基部12は、くびれ部13の両側各々に連なって形成されている。本実施形態においては、被水側基部11及び防水側基部12は、それぞれ一部に蛇腹構造を有している。
【0031】
くびれ部13は、筒状基部10の外周面に環状に形成され、板状の支持体9における貫通孔91の縁部92が嵌め入れられる部分である。弾性材料からなる筒状基部10は、細く圧縮された状態で支持体9の貫通孔91に挿入される。さらに、筒状基部10の圧縮が開放されつつ、支持体9における貫通孔91の縁部92がくびれ部13に嵌め入れられる。以上のようにして、グロメット1は支持体9に取り付けられる。
【0032】
以上に示したように、筒状基部10は、外周面に板状の支持体9における貫通孔91の縁部92が嵌め入れられる環状のくびれ部13が形成された弾性材料からなる筒状の部分である。なお、筒状基部10は、軟質筒部の一例である。
【0033】
図4に示されるように、グロメット1が支持体9に取り付けられた状態において、被水側基部11は支持体9の一方の側に位置し、防水側基部12は支持体9の他方の側に位置する。支持体9に対して被水側基部11が位置する側は、雨水又は洗車用水などの多量の水分の発生が想定される側である。一方、支持体9に対して防水側基部12が位置する側は、自動車のトランクルーム又は居室など、水分の浸入を避けたい空間が配置される側である。
【0034】
以下の説明において、便宜上、支持体9に対して被水側基部11が位置する側のことを被水側、防水側基部12が位置する側のことを防水側と称する。また、各図に示される座標軸において、X軸方向は、筒状基部10の軸心Ctに沿う方向(軸心Ctに平行な方向)であり、Y軸方向及びZ軸方向は、それぞれX軸方向に対して直交するとともに、相互に直交する方向である。また、以下の説明において、防水側へ向かう方向(X軸負方向)のことを防水側方向、被水側へ向かう方向(X軸正方向)のことを被水側方向と称する。
【0035】
<止水部>
止水部20は、筒状基部10の周囲を囲むとともに筒状基部10から外側へ張り出した環状の部分である。止水部20は、支持体9の貫通孔91の縁部92とワイヤハーネスが通される筒状基部10との間の隙間を塞ぐ。グロメット1が支持体9に取り付けられた状態において、止水部20は、被水側基部11と同様に、くびれ部13よりも被水側に位置する。
【0036】
<硬質鍔部材>
止水部20を構成する硬質鍔部材22は、筒状基部10の周囲を囲むとともに筒状基部10から外側へ張り出した環状かつ板状の部材である。硬質鍔部材22の内縁部221は、筒状基部10におけるくびれ部13よりも軸心方向Ctの被水側寄り(X軸正方向側寄り)の部分に固定されている。以下の説明において、筒状基部10における、波板状鍔部材21の内縁部211が固定された部分のことを固定部110と称する。
【0037】
硬質鍔部材22の内縁部221は、不図示の接着剤により、或いは筒状基部10の一部に埋め込まれることにより、筒状基部10の固定部110にに固定されている。本実施形態においては、硬質鍔部材22の内縁部221は、不図示の接着剤によって筒状基部10の固定部110に固定されている。なお、接着剤は、インサート成形の前に硬質鍔部材22の表面に塗布される。
【0038】
また、グロメット1において、硬質鍔部22における筒状基部10に固定された環状の内縁部221は、軸心Ctの方向に沿って防水側方向(X軸負方向)の側へ起立して形成されている。そのため、硬質鍔部22において、内縁部221とそれより外側の部分(後述する平板部223)との間には、概ね90°をなすもう一つの曲がり部が形成されている。
【0039】
以下の説明において、硬質鍔部材22における防水側方向(X軸負方向)に向く面を防水側面、硬質鍔部材22における被水側方向(X軸正方向)に向く面を被水側面と称する。
【0040】
また、硬質鍔部材22は、内縁部221と外縁部222との間の中間部において筒状基部10の周囲を囲む環状の稜線をなす曲がり部225が形成されている。そして、硬質鍔部材22には、平板部223と傾斜板部224とが形成されている。
【0041】
平板部223は、硬質鍔部材22における内縁部221と曲がり部225との間において筒状基部10の外側へ張り出した平板状の部分である。一方、傾斜板部224は、硬質鍔部材22における曲がり部225から外縁部222にかけて防水側方向(X軸負方向)の側へ傾斜する板状の部分である。
【0042】
本実施形態においては、曲がり部225は、硬質鍔部材22の防水側面において鈍角を形成する屈曲部である。しかしながら、曲がり部225が、硬質鍔部材22の防水側面の側へ湾曲した湾曲部であることも考えられる。
【0043】
また、後述するように、硬質鍔部22の外縁部222は、軟質被覆部21により覆われている。しかしながら、硬質鍔部22の曲がり部225が防水側面(X軸負方向に向く面)において形成する環状の窪み226は、弾性部材などの他の部材によって埋められていない。即ち、硬質鍔部22の防水側面における曲がり部225の部分は、弾性材料などの他の部材で覆われていない露出した状態となっている。
【0044】
なお、硬質鍔部22の防水側面における露出した部分は、筒状基部10及び軟質被覆部21が、硬質鍔部22をインサート品としてインサート成形される際に、硬質鍔部22を支持する金型が接触する部分である。
【0045】
<軟質被覆部>
止水部20を構成する軟質被覆部21は、筒状基部10と一体に形成された弾性材料からなる環状の部分である。軟質被覆部21は、内縁部全体が筒状基部10の外周面と連なって形成されている。
【0046】
さらに、軟質被覆部21は、硬質鍔部22における被水側面の全領域と、硬質鍔部22の外縁部222とを覆って形成されている。軟質被覆部21における、硬質鍔部22の被水側面全体を覆う部分のことを外皮部211と称する。さらに、軟質被覆部21における硬質鍔部22の外縁部222を覆う部分には、硬質鍔部22の外縁部222から防水側方向(X軸負方向)の側へ起立した環状の起立部212が形成されている。
【0047】
図4に示されるように、グロメット1が支持体9に取り付けられた状態において、軟質被覆部21の起立部212は、支持体9に押し付けられ、支持体9と密接する。これにより、被水側から防水側への水の浸入が防がれる。
【0048】
<効果>
グロメット1において、硬質鍔部22及び軟質被覆部21は、支持体9の貫通孔91の縁部92とワイヤハーネスが通される筒状基部10との間の隙間を塞ぐ止水部である。ここで、硬質鍔部22は止水部の骨格として機能し、軟質被覆部21は、止水部における外皮及び支持体9に密接するリップ部として機能する。
【0049】
そして、グロメット1において、板状の硬質鍔部22における傾斜板部224が支持体9側へ傾斜している。そのため、硬質鍔部22及び軟質被覆部21からなる止水部20が、図4にF1で示されるような高水圧を受けた場合、硬質鍔部22が、支持体9に接する軟質被覆部21の起立部212を支持体9に対してより強く押しつけるように撓み、グロメット1の止水性が向上する。また、硬質鍔部22の撓みにより起立部212を支持体9に押しつける力は、止水部20が受ける水圧が高いほど大きくなる。そのため、グロメット1は、高圧水に対する優れた止水性能を発揮する。
【0050】
また、グロメット1は、受けた水圧を利用して止水性能を高める構造を備えるため、硬質鍔部22は、常時強い弾性力を発揮する状態で保持される必要はない。そのため、硬質鍔部22の内縁部221が固定された筒状基部10の固定部110及び軟質被覆部22は、より大きな厚みで形成される必要がない。また、硬い材料からなる硬質鍔部材22は、比較的小さな厚みで形成された軽量な部材で構成されていても、止水部20の骨格として十分に機能する。
【0051】
以上に示したことから、グロメット1が採用されることにより、高圧水に対する優れた止水性能と軽量化とを両立することが可能となる。
【0052】
ところで、グロメット1において、筒状基部10における、くびれ部13と硬質鍔部22の内縁部221との間に位置する部分である鍔内側部111が大きい場合、その鍔内側部111が外部から加わる力によって変形し、硬質鍔部22及び軟質被覆部21からなる止水部20全体が支持体9から浮き上がってしまう恐れがある。
【0053】
しかしながら、グロメット1において、硬質鍔部22における筒状基部10に固定された環状の内縁部221は、筒状基部10の軸心Ctの方向(X軸方向)に沿ってくびれ部13側、即ち、支持体9における貫通孔91の縁部92側へ起立して形成されている。そのため、筒状基部10の鍔内側部111が小さくなり、そのような小さな鍔内側部111は外力によって変形しにくい。その結果、鍔内側部111の変形に起因して止水部20全体が支持体9から浮き上がってしまう不都合は回避される。
【0054】
<硬質鍔部材の第1応用例>
次に、図5を参照しつつグロメット1に適用可能な第1応用例に係る硬質鍔部材22Aについて説明する。図5は、グロメット1に適用可能な第1応用例に係る硬質鍔部材22Aの斜視図である。
【0055】
図5に示されるように、硬質鍔部材22Aの傾斜板部224には、外縁部222から内側へ切れ込む複数のスリット2241が形成されている。第1応用例に係る硬質鍔部材22Aは、図3に示された硬質鍔部材22と比較して、スリット2241が形成されている点のみが異なる。図5において、図1から図4に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。
【0056】
グロメット1において、硬質鍔部材22Aが硬質鍔部材22の代わりに採用された場合、硬質鍔部材22Aは、止水部20の強度を確保する骨格として機能するとともに、複数のスリット2241が形成された傾斜板部224が支持体9側へ変位しやすい。
【0057】
従って、硬質鍔部材22Aを含むグロメット1が採用された場合、硬質鍔部22Aの撓みにより軟質被覆部21の起立部212を支持体9に押しつける作用がより強化され、高圧水に対するより優れた止水性能が得られる。
【0058】
<硬質鍔部材の第2応用例>
次に、図6及び図7を参照しつつグロメット1に適用可能な第2応用例に係る硬質鍔部材22Bについて説明する。図6は、グロメット1に適用可能な第2応用例に係る硬質鍔部材22Bの斜視図である。また、図7は、硬質鍔部材22Bの断面図である。
【0059】
図6及び図7に示されるように、硬質鍔部22Bの曲がり部225における防水側面(X軸負方向に向く面)には、筒状基部10の周囲を囲む環状の溝2251が形成されている。第2応用例に係る硬質鍔部材22Bは、図3に示された硬質鍔部材22と比較して、環状の溝2251が形成されている点のみが異なる。図6及び図7において、図1から図4に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。
【0060】
グロメット1において、硬質鍔部材22Bが硬質鍔部材22の代わりに採用された場合、硬質鍔部材22Aは、止水部20の強度を確保する骨格として機能するとともに、環状の溝2251が形成された曲がり部225から外側の傾斜板部224が支持体9側へ変位しやすい。
【0061】
従って、硬質鍔部材22Bを含むグロメット1が採用された場合、硬質鍔部22Bの撓みにより軟質被覆部21の起立部212を支持体9に押しつける作用がより強化され、高圧水に対するより優れた止水性能が得られる。
【0062】
<その他>
グロメット1の硬質鍔部材22が、硬質鍔部材22Aが備える複数のスリット2241と、硬質鍔部材22Bが備える環状の溝2251との両方を備えることも考えられる。また、各図に示された例において、筒状基部10及び止水部20の断面の輪郭形状は円形である。しかしながら、筒状基部10及び止水部20の断面の輪郭形状が、楕円形又は多角形などの他の形状であることも考えられる。
【符号の説明】
【0063】
1 グロメット
9 支持体
10 筒状基部
11 被水側基部
12 防水側基部
13 くびれ部
14 貫通孔
20 止水部
21 軟質被覆部
22,22A,22B 硬質鍔部材
91 支持体の貫通孔
92 貫通孔の縁部
110 固定部
111 鍔内側部
211 外皮部
212 起立部
221 硬質鍔部材の内縁部
222 硬質鍔部材の外縁部
223 硬質鍔部材の平板部
224 硬質鍔部材の傾斜板部
225 硬質鍔部材の曲がり部
226 窪み
2241 スリット
2251 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性材料からなる筒状の部分であり、外周面に板状の支持体における貫通孔の縁部が嵌め入れられる環状のくびれ部が形成された軟質筒部と、
前記弾性材料よりも硬い材料からなり前記軟質筒部の周囲を囲むとともに前記軟質筒部から外側へ張り出した環状かつ板状の部分であり、内縁部が前記軟質筒部における前記くびれ部よりも前記軟質筒部の軸心方向の第一の側寄りの部分に固定され、内縁部と外縁部との間の中間部において前記軟質筒部の周囲を囲む環状の稜線をなす曲がり部から外縁部にかけて前記軸心方向の第二の側へ傾斜する傾斜板部が形成された硬質鍔部と、
前記軟質筒部と一体に形成された前記弾性材料からなる環状の部分であり、内縁部全体が前記軟質筒部の外周面と連なり、前記硬質鍔部における前記第一の側の全領域及び前記硬質鍔部の外縁部を覆って形成され、前記硬質鍔部の外縁部から前記第二の側へ起立した環状の起立部が形成された軟質被覆部と、を備え、
前記硬質鍔部の前記曲がり部が前記第二の側の面において形成する環状の窪みは埋められていないことを特徴とするグロメット。
【請求項2】
前記硬質鍔部における前記軟質筒部に固定された環状の内縁部は、前記軸心方向に沿って前記第二の側へ起立して形成されている、請求項1に記載のグロメット。
【請求項3】
前記硬質鍔部の前記傾斜板部に、外縁部から内側へ切れ込む複数のスリットが形成されている、請求項1又は請求項2に記載のグロメット。
【請求項4】
前記硬質鍔部の前記曲がり部における前記第二の側の面に、前記軟質筒部の周囲を囲む環状の溝が形成されている、請求項1から請求項3のいずれかに記載のグロメット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−90476(P2013−90476A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229683(P2011−229683)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】