説明

ケテンシリルアセタ―ルを経由するフェニル酢酸エステル誘導体の製造方法

【課題】種々の置換基を有するフェニル酢酸エステル類のアルコキシメチレン化を高選択的に行い、目的物を高収率かつ高効率に得ることのできる経済的に優れた、フェニル酢酸エステル誘導体のアルコキシメチレン体の工業的な製造方法を提供する。
【解決手段】一般式(I)で表わされるフェニル酢酸誘導体に置換シリルトリフラートを塩基の存在下反応させ一般式(IV)で表わされるケテンシリルアセタールを得、その際生成するトリフラートの塩を分離し、引き続き、ルイス酸存在下ぎ酸エステル類と反応させて一般式(VI)で表わされるフェニル酢酸エステル誘導体のアルコキシメチレン化合物を製造する。
【化1】


【化2】


【化3】

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は農薬、医薬等の中間体として有用な化合物、更に詳しくは農薬、医薬等の中間体として有用なフェニル酢酸エステル誘導体、特にアルコキシメチレン基を有する化合物を高収率かつ、効率よく高い選択性をもって製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】フェニル酢酸エステルのアルコキシメチレン誘導体は農薬、医薬等の中間体として重要であり、例えばWO97/25729号広報には、イソクロマノン等を出発原料とする一連の化合物並びに製造方法が記載されている。
【0003】一方、EP178826号広報にはフェニル酢酸エステル類より、対応するケテンシリルアセタール体を有機金属試薬とシリル化剤から生成させ、次いでアルコキシメチレン化することによるフェニル酢酸エステルのアルコキシメチレン誘導体の製造方法が記載されている。
【0004】更に、M.G.Hutchings等(Tetrahedron、1988、3727)は、エーテル中、メタンスルホン酸トリメチルシリルエステルおよびトリエチルアミンを用いてフェニル酢酸エステル誘導体のシリルアセタール化反応及び、四塩化チタンおよびオルトギ酸メチルによるアルコキシメチレン化反応について報告している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、イソクロマノン等を原料とする場合には、複数の工程を要する上に原料が高価であり、工業的にはその経済性を満足させるものではなかった。また、フェニル酢酸エステルのフェニル基上にハロアルキル基、またはアルキルもしくはアリールスルホニルオキシアルキル基等の反応性の高い官能基が存在する場合、有機金属試薬とシリル化剤を用いる汎用な条件では、望まない分子内環化等の副反応により、目的物の得量が著しく低くなるなど満足すべき結果が得られていなかった。また、ケテンシリルアセタールを経由する方法においてもその収率は33.6%と低く満足のいくものではなかった。また、反応溶媒をエーテルから塩化メチレンに代えることで収率が向上することが記載されているが、本発明者らが追試したところ、反応系はかなり複雑となり収率の向上は認められなかった
【0006】従って、本発明は、上記フェニル酢酸エステルのアルコキシメチレン化を高選択的に行い、目的物を高収率かつ高効率に得ることのできる経済的に優れた、フェニル酢酸エステル誘導体のアルコキシメチレン体の工業的な製造方法を提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、フェニル酢酸エステル誘導体のケテンシリルアセタールを合成する際生成するトリフルオロメタンスルホン酸の塩を除去した後に、オルトギ酸エステルをルイス酸の存在下、反応させることで目的とするフェニル酢酸エステル誘導体のメトキシメチレン化合物を高選択的かつ高収率で製造することができ、本発明を完成するに至った。
【0008】即ち、本発明は、一般式(I)
【化7】


(式中Xは、水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロアルキル基、置換基を有してもよいアリールスルホニルオキシアルキル基、または置換されていてもよい低級アルキルスルホニルオキシアルキル基を表わし、R1は低級アルキル基を表す。)で表されるフェニル酢酸エステル誘導体に、一般式(II)
【化8】


(式中、R2、R3、R4は、同一または異なっていてもよく、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。)で表される3級アミン化合物、及び一般式(III)
【化9】


(式中、R5,R6,及びR7は、同一または異なっていてもよく、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表わす。)で表される有機ケイ素化合物を反応させて、生成するトリフルオロメタンスルホン酸の塩を除去して得られる一般式(IV)
【化10】


(式中、X、R1、R5、R6、またはR7は前記と同じ基を表わす)で表されるケテンシリルアセタール化合物にルイス酸存在下、一般式(V)
【化11】


(式中、R8はアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはハロアルキル基を表す。)で表されるオルトギ酸エステル化合物を反応させることを特徴とする一般式(VI)
【化12】


(式中、X、R1、またはR8は前記と同じ基を表わす。)で表されるフェニル酢酸エステル誘導体のメトキシメチレン化合物の製造方法に関する。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明の方法に用いられる一般式(I)で表わされる化合物中、Xは、水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロアルキル基、置換基を有してもよいアリールスルホニルオキシアルキル基、または置換されていてもよい低級アルキルスルホニルオキシアルキル基を表わす。具体的には、メチル基、メトキシ基、クロルメチル基、メタンスルホニルオキシメチル基、p−トルエンスルホニルオキシメチル基等を例示することができる。
【0010】本発明の方法に用いられる一般式(I)で表わされる化合物中、R1は、低級アルキル基を表わし、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、またはイソプロピル基等を例示することができる。
【0011】本発明において、一般式(I)で表されるフェニル酢酸エステル誘導体を一般式(IV)で表わされるケテンシリルアセタール体に変換する方法は、一般式(II)で表わされる3級アミンを塩基として用い、一般式(III)で表わされるシリルトリフラートをシリル化剤に用いケテンシリルアセタール体に変換する方法が、特にXとしてハロアルキル基等の反応活性な官能基を有する場合、有効である。
【0012】一般式(II)で表わされる3級アミン中、R2〜R4は同一または異なっていてもよく、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。具体的には、エチル基、プロピル基、ブチル基、またはベンジル基等を例示することができる。更にこれらの組み合わせとして、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等を例示ことができる。これらのアミンはトリフルオロメタンスルホン酸シリルエステルに対して通常1等量用いる。
【0013】一般式(III)で表わされる化合物中、R5〜R7は同一または異なっていてもよく、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。具体的には、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基またはベンジル基等を例示することができる。更に組み合わせとして、トリメチルシリルトリフレート、ジメチルフェニルシリルトリフレート、トリイソプロピルシリルトリフレート、またはt−ブチルジメチルシリルトリフレート等を例示することができる。これらのシリルエステルは、通常フェニル酢酸に対して1〜1.5等量用い、好ましくは1〜1.2等量用いる。
【0014】反応は、0℃〜室温で行われるが、化合物の安定性等を考慮すると通常は0℃で行われる。反応の溶媒として、生成するトリフルオロメタンスルホン酸の塩を取り除くために、トルエン等の炭化水素、ジエチルエーテル等のエーテル類が好ましく用いられる。
【0015】トリフルオロメタンスルホン酸の塩を取り除く方法としては、特に限定はされないが、例えば、反応系から遊離した塩を注射器で系外に吸い出す方法、または分液する方法等を例示することができる。一般式(IV)で表わされるシリルエーテルは水分に対して不安定であるため、これらの操作は外気を遮断した不活性ガス中で行うのが好ましい。しかし、シリル基がt−ブチルジメチル基のような嵩高い置換基である場合には、空気中で分液等の操作を行うこともできる。
【0016】本発明において一般式(IV)で表わされるケテンシリルアセタールから一般式(VI)のフェニル酢酸エステル誘導体のアルコキシメチレン化合物に導くためには、ルイス酸存在下、一般式(V)で表わされるオルトギ酸エステルと縮合させる方法が採られる。
【0017】本発明において、反応を促進し、反応の選択性を高めるために添加するルイス酸類としては、例えばハロゲン化チタン、ハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化ホウ素、ハロゲン化鉄、ハロゲン化鉛、ハロゲン化亜鉛等のハロゲン化金属類を、またはジクロロチタンジイソプロポキシドのような部分的に低級アルコキシ基で置換されたハロゲン化金属等を例示することができる。本発明において添加するルイス酸類は、上記のルイス酸類の中から適宜選ばれ、単独または混合して使用される。上記のルイス酸類の量は、特に限定されるものではなく、反応がスムーズに行われる適量を用いればよいが、ケテンシリルアセタール1モルに対して1モルの添加によって所望の反応が好ましく促進され、更に過剰量を用いても反応の好ましい促進を期待できる。
【0018】一般式(V)で表わされるオルトぎ酸エステル中、R8はアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはハロアルキル基を表わす。具体的には、メチル基、ベンジル基、フェニル基、またはクロルエチル基等を例示することができる。
【0019】アルコキシメチレン化反応に用いる溶媒としては、具体的にはクロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類を例示することができる。これらの溶媒は反応において適宜選ばれ、単独又は混合して使用される。溶媒の使用量は特に限定されるものでなく、できるだけ均一な反応を行いうる程度の量で良く、必要量又は適量以上に使用する必要はない。反応に使用される溶媒量(リットル)は通常の等モル反応における原料物質の全添加量に対し、2から20リットル/Kg程度であり、更に好ましくは4から8リットル/Kgが用いられる。
【0020】以下、実施例により、更に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定される物ではない。尚、実施例及び比較例中において示される%は、重量%を意味する。
【0021】
【実施例】実施例1(2−(2−クロロメチルフェニル)−1−メトキシ−1−トリメチルシリルオキシエチレンの製造)
トリメチルシリルトリフレート2.22gとトリエチルアミン1.01gを10mlのジエチルエーテルに溶解し室温で10分撹拌した後に滴下ロートへ移した。この溶液をメチル−2−クロロメチルフェニルアセテート1.59gをジエチルエーテル10mlに溶解させた溶液へ0℃で滴下した。室温で4時間撹拌し、静置した後に分離した2層のうち下の層をシリンジで抜き取り、残りのエーテル層のエーテルを0℃で減圧留去し表記化合物2.73gを得た。
1H−NMR(CD2Cl2)δ 0.19(9H、TMS)、3.68(3H、OCH3)、4.60(2H、CH2)、4.76(1H、CH)、7.18−7.26(2H、ArH)、7.68(1H、ArH)
【0022】実施例2(2−クロロメチルフェニル−3−メトキシアクリル酸メチルの製造)
実施例1で得られた2−(2−クロロメチルフェニル)−1−メトキシ−1−トリメチルシリルオキシエチレン2.73gに10mlのジクロロメタンを加え、この溶液を四塩化チタン1.9g及びオルトギ酸トリメチル1.1gを0℃で、20mlのジクロロメタンに加えた溶液に0℃で滴下した。室温で2時間反応させ、高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、65.9%で目的のメトキシメチレン体が生成した。得られた反応混合物に水及び塩酸を加え酸性とし抽出した。有機層を水洗し硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去して表記化合物を得た。
1H−NMR(CDCl3)δ 3.22(3H、CH3)、3.34(3H、CH3)、4.00(2H、CH2)、7.24(1H、CH)
【0023】比較例1(2−(2−クロロメチルフェニル)−1−メトキシ−1−トリメチルシリルオキシエチレンの製造)
トリメチルシリルトリフレート2.22gとトリエチルアミン1.01gを10mlのジクロロメタンに溶解し室温で10分撹拌した後に滴下ロートへ移した。この溶液をメチル−2−クロロメチルフェニルアセテート1.59gをジクロロメタン10mlに溶解させた溶液へ0℃で滴下した。室温で4時間撹拌し、得られたケテンシリルアセタールのジクロロメタン溶液を四塩化チタン1.9g及びオルトギ酸トリメチル1.1gを0℃で、10mlのジクロロメタンに加えた溶液に0℃で滴下した。室温で12時間反応させ、高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、13.0%で目的のメトキシメチレン体が得られた。
【0024】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の方法を用いれば、一般式(IV)で表わされるフェニル酢酸エステル誘導体のアルコキシメチレン化合物を効率よく合成することができる。特に、Xとして反応活性な置換基を有する場合、本発明の方法は有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】一般式(I)
【化1】


(式中Xは、水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロアルキル基、置換基を有してもよいアリールスルホニルオキシアルキル基、または置換されていてもよい低級アルキルスルホニルオキシアルキル基を表わし、R1は低級アルキル基を表す。)で表されるフェニル酢酸エステル誘導体に、一般式(II)
【化2】


(式中、R2、R3、R4は、同一または異なっていてもよく、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。)で表される3級アミン化合物、及び一般式(III)
【化3】


(式中、R5,R6,及びR7は、同一または異なっていてもよく、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表わす。)で表される有機ケイ素化合物を反応させて、生成するトリフルオロメタンスルホン酸の塩を除去して得られる一般式(IV)
【化4】


(式中、X、R1、R5、R6、またはR7は前記と同じ基を表わす)で表されるケテンシリルアセタール化合物にルイス酸存在下、一般式(V)
【化5】


(式中、R8はアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはハロアルキル基を表す。)で表されるオルトギ酸エステル化合物を反応させることを特徴とする一般式(VI)
【化6】


(式中、X、R1、またはR8は前記と同じ基を表わす。)で表されるフェニル酢酸エステル誘導体のアルコキシメチレン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2000−212122(P2000−212122A)
【公開日】平成12年8月2日(2000.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−14319
【出願日】平成11年1月22日(1999.1.22)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】