説明

ケミカルバイオセンサー

【課題】前処理を必要とせずに、短時間でカテコールアミン類を検出することのできる、新規のケミカルバイオセンサーを提供する。
【解決手段】被検出物質と特異的に化学結合する部位を有するプローブ分子からなる導電性高分子層1を備えた。導電性高分子層1に流れる電流値の変化を電流検出器6により検出することにより、又は、導電性高分子層1により反射される光の反射率の変化を反射光検出器10により検出することにより、前処理を必要とせずに、短時間で被検物質を検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内で分泌されるカテコールアミン類などのストレス性物質の検出に用いられるケミカルバイオセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
カテコールアミンは、分子中にカテコール骨格をもつ生理活性アミンであり、ノルアドレナリン(NAd)(米国ではノルエピネフリン)、アドレナリン(Ad)(同エピネフリン)、ドーパミンなどが知られている。
【0003】
NAdやAdは、副腎から血中に放出されるホルモンであり、血圧上昇、心拍数上昇に関わっているほか、シナプスにおいては神経伝達物質としても作用している。
【0004】
一方、ドーパミンは中枢神経において神経伝達物質として作用し、運動調整、意欲、学習に関わっており、ドーパミン不足が統合失調症やパーキンソン病に関係するとされている。
【0005】
このように、生体内で重要な役割を担っているカテコールアミンの測定は、病気の診断、医薬品の開発、医学、薬学の研究などにおいて不可欠な手段となっているが、現在、液体クロマトグラフを用いた方法が一般的に行われている。液体クロマトグラフ法では、カラムで分離したカテコールアミン類を検出するために、酸化還元電位を測定する方法や、予め蛍光物質を結合させておきその蛍光を検出する方法などがとられているが、前処理が必要であることと時間がかかることが問題となっていた。
【特許文献1】特開平5−113438号公報
【特許文献2】特開平5−93690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、前処理を必要とせずに、短時間でカテコールアミン類を検出することのできる、新規のケミカルバイオセンサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のケミカルバイオセンサーは、被検出物質と特異的に化学結合する部位を有するプローブ分子からなる導電性高分子層を備えたものである。
【0008】
また、前記導電性高分子層は、基板上に形成されたものである。
【0009】
また、前記基板は導電性を有し、前記導電性高分子層は、前記基板上に電気化学的に合成されたものである。
【0010】
また、前記導電性高分子層と前記基板との間に導電層が形成され、前記導電性高分子層は、前記導電層上に電気化学的に合成されたものである。
【0011】
また、前記導電性高分子層に流れる電流値の変化を検出する電流値検出手段を備えたものである。
【0012】
また、前記導電性高分子層により反射される光の反射率の変化を検出する反射率検出手段を備えたものである。
【0013】
また、前記プローブ分子は、ベンジルアミン誘導体、フェニルグリシノニトリル誘導体、ジフェニルエチレンジアミン誘導体のいずれかである。
【0014】
また、前記被検出物質は、カテコール類、カテコールアミン類、ヒドロキシインドール類のいずれかである。
【0015】
また、前記電流値検出手段と前記反射率検出手段により、前記導電性高分子層に流れる電流値の変化と、前記導電性高分子層により反射される光の反射率の変化とを、同時に検出可能に構成されたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のケミカルバイオセンサーによれば、被検出物質と特異的に化学結合する部位を有するプローブ分子からなる導電性高分子層を備えており、導電性高分子層に流れる電流値の変化、又は、導電性高分子層により反射される光の反射率の変化を検出することにより、前処理を必要とせずに、短時間で被検物質を検出することができる。
【0017】
また、前記導電性高分子層は、基板上に形成されたことにより、導電性高分子層を容易に形成することができ、また、取り扱いを容易にすることができる。
【0018】
また、前記基板は導電性を有し、前記導電性高分子層は、前記基板上に電気化学的に合成されたことにより、導電性高分子層を電気化学的に容易に形成することができる。
【0019】
また、前記導電性高分子層と前記基板との間に導電層が形成され、前記導電性高分子層は、前記導電層上に電気化学的に合成されたことにより、導電性高分子層を電気化学的に容易に形成することができる。
【0020】
また、前記導電性高分子層に流れる電流値の変化を検出する電流値検出手段を備えており、導電性高分子層に流れる電流値の変化を電流値検出手段により検出することにより、前処理を必要とせずに、短時間で被検物質を検出することができる。
【0021】
また、前記導電性高分子層により反射される光の反射率の変化を検出する反射率検出手段を備えており、導電性高分子層により反射される光の反射率の変化を反射率検出手段により検出することにより、前処理を必要とせずに、短時間で被検物質を検出することができる。
【0022】
また、前記プローブ分子は、ベンジルアミン誘導体、フェニルグリシノニトリル誘導体、ジフェニルエチレンジアミン誘導体のいずれかであり、被検出物質としてのカテコール類、カテコールアミン類、ヒドロキシインドール類などと特異的に化学結合するので、前処理を必要とせずに、短時間でこれらの被検出物質を検出することができる。
【0023】
また、前記電流値検出手段と前記反射率検出手段により、前記導電性高分子層に流れる電流値の変化と、前記導電性高分子層により反射される光の反射率の変化とを、同時に検出可能に構成されたことにより、より確実に被検物質を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明のケミカルバイオセンサーは、被検出物質と特異的に化学結合する部位を有するプローブ分子からなる導電性高分子層を備えたものである。
【0025】
本発明の対象となる被検出物質は、主に、カテコール類、カテコールアミン類、ヒドロキシインドール類であり、カテコールアミン類としては、化1に記載のドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン、ヒドロキシインドール類としては、化1に記載のセロトニンなどが挙げられる。なお、これらは一例であり、本発明の対象とする被検出物質はこれらに限定されるものではない。
【0026】
【化1】

【0027】
そして、これらの被検出物質と特異的に化学結合する部位を有するプローブ分子としては、これらに限定されるものではないが、ベンジルアミン誘導体、フェニルグリシノニトリル誘導体、ジフェニルエチレンジアミン誘導体などが挙げられる。
【0028】
本発明のケミカルバイオセンサーを構成する導電性高分子層は、導電性を有する高分子からなり、例えば、上記のプローブ分子を重合させて形成することができ、化2に示すポリ(3−アミノベンジルアミン)などが導電性高分子として好適に用いられる。
【0029】
【化2】

【0030】
導電性高分子層は、基板上に形成することで容易に形成することができる。また、基板上に形成されたことにより、取り扱いを容易にすることができる。基板の種類は特定のものに限定されず、例えば、金属、ガラス、プラスチック、金属酸化物などからなるものを用いることができる。
【0031】
そして、導電性高分子層を基板上に形成するためには、予め化学的に合成した導電性高分子を基板上に物理的に塗布する方法や基板に化学的に共有結合させる方法、電解重合法などにより電気化学的に導電性を有する基板上で導電性高分子を重合させて合成する方法などを用いることができる。
【0032】
なお、電解重合法などにより電気化学的に合成する場合に用いられる基板は、基板自体に導電性を有するもののほか、基板表面に金属膜などの導電層が形成されたものを用いることができる。基板表面に導電層が形成されたものを用いる場合は、導電層上に導電性高分子層が合成され、導電性高分子層と基板との間に導電層が形成された構成となる。導電性を有する基板や導電層が形成された基板を用いることで、導電性高分子層を電気化学的に容易に形成することができる。
【0033】
つぎに、本発明のケミカルバイオセンサーの一実施例について、図1を参照しながら説明する。
【0034】
1はポリ(3−アミノベンジルアミン)からなる導電性高分子膜であり、この導電性高分子膜1は、基板2上に形成された金薄膜からなる導電層3上に形成されている。なお、導電性高分子層1は、導電層3上に電気化学的に合成されたものである。そして、基板2の導電層3が設けられていない面には、シリンドリカルプリズム4が接している。また、導電性高分子膜1の導電層3に接していない面にはリン酸緩衝液が満たされた溶液槽5が設けられ、この溶液槽5中のリン酸緩衝液が導電性高分子膜1に接触するようになっている。
【0035】
また、6は導電性高分子層1に電圧を印加して、導電性高分子層1に流れる電流値の変化を検出する電流値検出手段としての電流検出器であり、この電流検出器6は、導電層3に接続する作用電極7、溶液槽5中の液体に接する参照電極8と対極電極9を備えている。
【0036】
また、10は導電性高分子層1により反射される光の反射率の変化を検出する反射率検出手段としての反射光検出器である。この反射光検出器10は、光照射器11が発する波長632.8nmのp偏光の光が導電性高分子層1により反射されたときの光強度の変化を検出するように構成されている。
【0037】
上記のケミカルバイオセンサーにおいて、作用電極7に正の電圧を印加して導電性高分子層1を電気化学的に酸化させた状態で、溶液槽5のリン酸緩衝液に被検出物質として、例えばアドレナリンを添加すると、アドレナリン分子は導電性高分子層1と結合する。なお、アドレナリン分子が導電性高分子層1と結合したときの化学構造は、化3又は化4に示すようになっていると推定される。
【0038】
【化3】

【0039】
【化4】

【0040】
この結合により、導電性高分子層1にアノード電流が流れる。この電流は、電流検出器6により電流値の変化として検出される。また、この結合により、導電性高分子層1の膜厚が増加する。この膜厚の増加は、反射光検出器10により反射率の変化として検出される。なお、電流検出器6による電流値の変化の検出、反射光検出器10による反射率の変化の検出は、同時に行うことができるように構成されている。
【0041】
本実施例で導電性高分子として用いたポリ(3−アミノベンジルアミン)は導電性であり、電気化学的に酸化した状態でアドレナリンなどのカテコールアミン類と反応すると化学結合し、膜厚が増加することにより反射率が増加するという性質がある。この変化を反射光検出器10で測定することにより、カテコールアミン類を検出することが可能である。さらに、カテコールアミン類が導電性高分子膜に結合すること誘電率が変化するので、この変化を電流の変化として検出することでカテコールアミン類を検出することも可能である。
【0042】
このように、本実施例のケミカルバイオセンサーによれば、被検出物質と特異的に化学結合する部位を有するプローブ分子からなる導電性高分子層1を備えており、導電性高分子層1に流れる電流値の変化、又は、導電性高分子層により反射される光の反射率の変化を検出することにより、前処理を必要とせずに、短時間で被検物質を検出することができる。
【0043】
また、前記導電性高分子層1は、基板2上に形成されたことにより、導電性高分子層1を容易に形成することができ、また、取り扱いを容易にすることができる。
【0044】
また、前記導電性高分子層1と前記基板2との間に導電層3が形成され、前記導電性高分子層1は、前記導電層3上に電気化学的に合成されたことにより、導電性高分子層を電気化学的に容易に形成することができる。
【0045】
また、前記導電性高分子層1に流れる電流値の変化を検出する電流値検出手段としての電流検出器6を備えており、導電性高分子層1に流れる電流値の変化を電流検出器6により検出することにより、前処理を必要とせずに、短時間で被検物質を検出することができる。
【0046】
また、前記導電性高分子層1により反射される光の反射率の変化を検出する反射率検出手段としての反射光検出器10を備えており、導電性高分子層1により反射される光の反射率の変化を反射光検出器10により検出することにより、前処理を必要とせずに、短時間で被検物質を検出することができる。
【0047】
また、電流検出器6と反射光検出器10により、前記導電性高分子層1に流れる電流値の変化と、前記導電性高分子層1により反射される光の反射率の変化とを、同時に検出可能に構成されたことにより、より確実に被検物質を検出することができる。
【0048】
さらに、試料を前処理することなく、その場で連続的にカテコールアミン類を測定することが可能となるので、臨床分野、研究開発分野で応用されることが期待される。
【0049】
以下、より具体的な実施例に基づいて、本発明について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって制限されるものではない。
【実施例1】
【0050】
0.05Mの3−アミノベンジルアミン、0.5Mの硫酸を溶解した溶液中に金電極を浸した。金電極に通電して3−アミノベンジルアミンを電解重合することによって、金電極上に電気化学的にポリ(3−アミノベンジルアミン)膜を堆積した。
【0051】
ここで、電解重合は、以下の条件で行った。銀・塩化銀参照電極に対して−0.2V〜0.9Vの間を掃引速度20mV/sで10サイクル −0.2V〜0.95Vを10サイクル、−0.2V〜1.1を10サイクル行った。なお、対電極には白金を用いた。膜厚はおおよそ9.2nmであった。
【実施例2】
【0052】
リン酸緩衝液中で、実施例1で作製したポリ(3−アミノベンジルアミン)膜に電圧を印加して電気化学的に酸化させた状態とし、この状態でリン酸緩衝液にアドレナリンを投入し、膜表面での反射率を測定した。
【0053】
ここで、測定は、以下の条件で行った。電圧を0.65V一定に保ち、反射率が一定になった約250秒後にリン酸緩衝役中で0.1mMの濃度になるようにカテコールアミンを投入した。反射率は、入射角度53.5°に固定することにより測定を行った。
【0054】
その結果、図2に示すように、アドレナリンの投入により、膜表面での反射率が増加した。これは、アドレナリンが膜表面に結合して膜厚が増加したことに起因するものである。
【実施例3】
【0055】
実施例1で作製したポリ(3−アミノベンジルアミン)膜を電気的に酸化させた状態で、電流値の変化と反射率の変化を同時測定した。
【0056】
ここで、測定は、以下の条件で行った。電圧を0.65V一定に保ち、反射率が一定になった約250秒後にリン酸緩衝役中で0.1mMの濃度になるようにカテコールアミンを投入した。反射率は、入射角度53.5°に固定することにより測定を行った。金電極と白金電極の間を流れる電流も同時に検出を行った。
【0057】
その結果、アドレナリンの吸着により酸化状態のポリ(3−アミノベンジルアミン)膜がさらに酸化され、図3に示すように、電流の増大が確認された。また、同時に反射率が増加した。
【実施例4】
【0058】
0.05Mのアニリン、0.5Mの硫酸を溶解した溶液中に金電極を浸した。金電極に通電してアニリンを電解重合することによって、金電極上に電気化学的にポリアニリン膜を堆積した。ここで、−0.2V〜0.9Vの間を20mV/sで2サイクル行うことによりポリアニリン膜を作製した。
【0059】
そして、リン酸緩衝液中で、実施例1で作製したポリ(3−アミノベンジルアミン)膜と、上記で作製したポリアニリン膜にそれぞれ電圧を印加して電気化学的に酸化させた状態とし、この状態でリン酸緩衝液にアドレナリンを投入し、電流値の変化を測定した。
【0060】
ここで、測定は、以下の条件で行った。ポリ(3−アミノベンジルアミン)膜、ポリアニリン膜、それぞれの場合において、銀・塩化銀参照電極に対して0.65Vの電圧で膜を酸化状態にして、ほぼ一定となるように2分以上経過してから、リン酸緩衝液中で1mMのカテコールアミンを投入し、金電極と白金電極の間に流れる電流値を測定した。
【0061】
その結果、図4に示すように、ポリアニリン膜では電流値の変化はほとんどないのに対し、ポリ(3−アミノベンジルアミン)膜では、大きな電流値の変化が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明のケミカルバイオセンサーの一実施例を示す概略図である。
【図2】実施例2における反射率の変化の測定結果を示すグラフである。
【図3】実施例3における電流値と反射率の変化の同時測定結果を示すグラフである。
【図4】実施例4における電流値の変化の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0063】
1 導電性高分子層
2 基板
3 導電層
6 電流検出器(電流値検出手段)
10 反射光検出器(反射率検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出物質と特異的に化学結合する部位を有するプローブ分子からなる導電性高分子層を備えたことを特徴とするケミカルバイオセンサー。
【請求項2】
前記導電性高分子層は、基板上に形成されたことを特徴とする請求項1記載のケミカルバイオセンサー。
【請求項3】
前記基板は導電性を有し、前記導電性高分子層は、前記基板上に電気化学的に合成されたことを特徴とする請求項2記載のケミカルバイオセンサー。
【請求項4】
前記導電性高分子層と前記基板との間に導電層が形成され、前記導電性高分子層は、前記導電層上に電気化学的に合成されたことを特徴とする請求項2記載のケミカルバイオセンサー。
【請求項5】
前記導電性高分子層に流れる電流値の変化を検出する電流値検出手段を備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のケミカルバイオセンサー。
【請求項6】
前記導電性高分子層により反射される光の反射率の変化を検出する反射率検出手段を備えたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のケミカルバイオセンサー。
【請求項7】
前記プローブ分子は、ベンジルアミン誘導体、フェニルグリシノニトリル誘導体、ジフェニルエチレンジアミン誘導体のいずれかであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のケミカルバイオセンサー。
【請求項8】
前記被検物質は、カテコール類、カテコールアミン類、ヒドロキシインドール類のいずれかであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載のケミカルバイオセンサー。
【請求項9】
前記電流値検出手段と前記反射率検出手段により、前記導電性高分子層に流れる電流値の変化と、前記導電性高分子層により反射される光の反射率の変化とを、同時に検出可能に構成されたことを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項記載のケミカルバイオセンサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−180704(P2009−180704A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22509(P2008−22509)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】