説明

ケミカルフィルタ及びその梱包体並びにレチクルケース

【課題】 面方向、幅方向ともに均一で薄手のケミカルフィルタを容易に貼り付けるための仕組みと前記ケミカルフィルタを貼り付け設置したレチクルケースを提供する。
【解決手段】 通気性シートで粒状吸着剤を挟持した板状ろ材2を通気性袋体3に収容してなるケミカルフィルタ1の前記通気性袋体3の少なくとも対向する2辺に両面接着テープ10を貼り、該両面接着テープ10と該通気性袋体3を熱接着し、こうして得られたケミカルフィルタ1をレチクルケース20の下方中央部に前記両面接着テープ10で固定し、使用後の該ケミカルフィルタ1を取り外し可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着固定方式のケミカルフィルタ及びその梱包体に関する。更には、前記ケミカルフィルタを用いて化学物質を除去する仕組みのレチクルケースに関する。
【背景技術】
【0002】
レチクル保管ボックスやレチクル搬送ボックスのようなレチクルケースなどは、化学物質を除去するケミカルフィルタの設置が容易ではない。特に、工程の不具合を防ぐためにケミカルフィルタの材質、形状、設置場所、設置方法が厳しく制約されている。
化学物質を除去する材料は一般に吸着剤等が用いられるが、該吸着剤は発塵の要因となる可能性があるため、HEPAフィルタやULPAフィルタろ材のような通気性シートを成形加工した通気性袋体に封入したケミカルフィルタが用いられている。
一方、レチクルケースに該ケミカルフィルタを設置するためには、枠等の治具を用いた専用の設置スペースを設けるか、或いは、接着等により固定することが必要となる。しかしながら、前者は既工程運用中のレチクルケースには適用することができず、また、後者はケミカルフィルタとの接着強度に難があり、使用後、剥がした際に接着成分がレチクルケース表面に残って汚染源となるといった不具合があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、面方向、幅方向ともに均一で薄手のケミカルフィルタを容易に貼り付けるための仕組みと前記ケミカルフィルタを貼り付け設置したレチクルケースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は、かかる要望に応えるべく鋭意検討の結果、通気性シートと粒状吸着剤からなるケミカルフィルタに両面接着テープを熱接着することにより両者が強固に固着することを見出し、本発明をなすに至った。
本発明のケミカルフィルタはかかる知見に基づきなされたもので、請求項1記載の通り、通気性シートで粒状吸着剤を挟持した板状ろ材を通気性袋体に収容してなるケミカルフィルタにおいて、両面接着テープを前記通気性袋体の少なくとも対向する2辺に貼り、該両面接着テープと該通気性袋体を熱接着したことを特徴とする。
また、請求項2記載のケミカルフィルタは、請求項1記載のケミカルフィルタにおいて、前記通気性袋体は区画壁で仕切られた複数の区画室を備えることを特徴とする。
また、請求項3記載のケミカルフィルタは、請求項1または2記載のケミカルフィルタにおいて、前記両面接着テープの構成材が、シリコーン系樹脂を含まないことを特徴とする。
また、請求項4記載のケミカルフィルタは、請求項1乃至3の何れかに記載のケミカルフィルタにおいて、前記両面接着テープの熱接着は、通気性シートを熱接着させて前記通気性袋体を形成する際の加熱温度を利用して行われたものであることを特徴とする。
また、本発明のケミカルフィルタ梱包体は、請求項5に記載の通り、請求項1乃至4の何れかに記載のケミカルフィルタを密封化シートで脱気密封化したことを特徴とする。
また、本発明のレチクルケースは、請求項6に記載の通り、請求項1乃至4の何れかに記載のケミカルフィルタをレチクルケースの下方中央部に両面接着テープで固定し、使用後の該ケミカルフィルタを取り外し可能としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、ケミカルフィルタに両面接着テープを貼って備え付けたため、レチクルケースに格別の工夫をすることなく貼り付け設置することができる。
また、該ケミカルフィルタと該両面接着テープとを熱接着したため、両者間の接着強度が向上し、使用後、レチクルケースから剥がす際に、接着剤等の剥がし残りがなく除去できる。
また、前記ケミカルフィルタの化学物質除去性能が90%以上であるようにした場合、レチクルケースから発生する化学物質によるレチクルの汚染を防止することができる。
また、特に構成材である剥離ライナーは、通常、ポリエステル樹脂フィルムや紙などの表面にシリコーン系樹脂を塗布して剥離性を高めており、これが接着成分に移行することによって汚染源となるので、例えばオレフィン樹脂等の製膜により、両面接着テープの構成材が有害な汚染要因であるシリコーン系樹脂を含まないようにした場合、剥離性と低アウトガス性の両方を満足させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明ケミカルフィルタをレチクルケースに接着固定した状態を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の接着式ケミカルフィルタを実施するための最良の形態について説明する。
吸着材を構成する通気性シートとしては、熱可塑性樹脂等の合成繊維からなる不織布が好ましく、例えば、乾式法、湿式法、スパンレース法、スパンボンド法、メルトブロー法等の方法により製造されるもの等が挙げられ、前記通気性シートは起毛を施されたものが特に好ましい。尚、通気性シートを構成する不織布に起毛が施されていると、起毛によって粒状吸着剤の散布時の分散性が向上し、また、粒状吸着剤と不織布の固着強度が増し、粒状吸着剤が空間的に接着され、除去対象となるガスとの接触がよくなるため、粒状吸着剤の除去効率が向上する。尚、前記不織布への粒状吸着剤の固定は粉末状ホットメルト樹脂による固定が好ましいが、不織布を熱融着繊維で構成したり、熱融着繊維を含ませて、この熱融着繊維で固定する等、固定手段は特に限定されるものではない。
【0008】
これら通気性シートで粒状吸着剤を挟持した吸着材を構成するには、有機ガス除去用粒状活性炭、酸性ガス除去用イオン交換体、アルカリガス除去用イオン交換体等を、前記通気性シートで挟持し、前記球状吸着剤の固定に使用した、粉末状ホットメルト樹脂や熱融着繊維等によって、前記シートを固定して、発生するガス量、ガス種等合わせて適切な大きさに裁断形成すればよい。尚、吸着材の大きさは、例えば、縦110mm×横15mm、厚み1.2mm等任意の大きさに形成することができる。
【0009】
前記吸着材としては、有機ガス用、酸性ガス用、アルカリ性ガス用のものを用いるのが好ましく、有機ガス用としては、粒状活性炭が挙げられ、特に、形状に制限はないが、水分率5%以下のものが好ましい。酸性ガス用としては、アニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂の併用使用とし、アニオン交換樹脂に対して、カチオン交換樹脂を20〜500質量%としたものが好ましい。アルカリ性ガス用としては、カチオン交換樹脂を用いることが好ましい。ここで、アニオン交換樹脂は粒径300〜1300μmの重炭酸型陰イオン交換樹脂を、カチオン交換樹脂は粒径300〜1300μmのH型陽イオン交換樹脂が用いられるが、特にこれに限定されるものではない。
【0010】
前記通気性シートで粒状吸着剤を挟持した吸着材を収容するための通気性袋体を構成するシートとしては、圧損が低く、捕集効率も高く、ボロン、リン等を発生せず、弗酸等の酸性ガスに対する耐性を持ち、しかも長寿命のエアフィルタ用濾材等が挙げられ、ポリテトラフルオロエチレン多孔膜の少なくとも一方の面に補強用支持体層を積層して複合膜としたエアフィルタ用濾材等のHEPA用ろ材、ULPA用ろ材等の多孔膜の使用が好ましい。この場合、多孔膜の密面を外側に、粗面を内側に向けて重ねるようにするのが好ましい。
【0011】
前記通気性シートを袋体にする方法は特に制限はなく、2枚のシートを重ね合わせ、周囲をヒートシールなどによりシールしてもよく、或いは、1枚のシートを折り返して重ね合わせたものの周囲をヒートシールなどによりシールするようにしてもよい。
前記通気性袋体は、例えば、ヒートシールによって、区画壁で仕切られた複数の区画室を備えるようにしてもよい。
【0012】
HEPA・ULPA用ろ材の補強用不織布は表面の粗さにより、両面接着テープなどの接着剤との相性がよくないため接着強度が弱くて、そのままレチクルケースの表面などに貼ると、剥すときに接着剤がレチクルケース側に残ってしまう。これを防ぐために、本発明では、両面テープをHEPA・ULPA用ろ材の不織布の表面に貼り、熱接着することにより接着強度を強くした。
【0013】
両面接着テープは、接着成分としてアクリル樹脂系やゴム系の材料を用い、必要に応じて芯材として不織布やポリエステルフィルムなどを用いて補強し、表裏両面の接着性を達成する。特に、発塵防止を考慮する場合には、繊維素材により発塵汚染源となる不織布を用いず、ポリエステルフィルムを用いるとよい。さらに、接着剤の両面に剥離性の良い剥離ライナーを設けることにより、使用時まで接着性を保護する。この剥離ライナーは、ポリエステルフィルムや不織布などの表面に、剥離性を向上する目的でシリコーン系樹脂膜やオレフィン膜などを設けたものを用いることができる。特に、低アウトガス性を考慮する場合には、接着剤に移行することにより汚染源となるシリコーン系樹脂を用いず、オレフィン系の製膜を施したものを用いるとよい。
【0014】
両面接着テープの貼る位置と形状は特に限定はないが、接着剤からの発ガスなどを考慮してなるべく使用量は少ないのが好ましい。また、レチクルのロード作業に不具合を起こさない形状が好ましい。従って、例えば、図1に示すように、レチクルケース20のドア側フロント方向にH字型に10mm巾の両面接着テープ10を貼る態様等が挙げられる。尚、図1中、1はケミカルフィルタを示し、板状ろ材2を収容した通気性袋体3が4つの区画室3a,3a,3a,3aに区画形成され、各区画室3aのそれぞれに板状ろ材2が収容されている。図1に示すものは、通気性袋体を形成する際のヒートシールに際しての加熱温度を利用して、前記両面接着テープ10と前記通気性袋体3を熱接着するようにしたものである。
【実施例】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施例を説明する。本実施例は、本発明のケミカルフィルタをレチクルケースに設置した例を示すものである。
まず、粒状吸着材を有機繊維製不織布からなる通気性シートで挟持して、粉末状ホット
メルト樹脂で通気性シートと有機ガス用粒状吸着剤(粒状活性炭、目付500g/m2)を固定した吸着シートを得て、これを裁断し、縦110mm×横15mm×厚み1.2mmの吸着材を得た。
上記吸着材を、ULPA用ろ材(PET製不織布とPTFE膜を交互積層したもの)からなる袋体に収容した。尚、この袋体は、粗面を内側にして2枚のULPA用ろ材(1枚に難燃剤や可塑剤などアウトガスとなるものを少なくした芯材のないタイプの0.15mmアクリル接着剤層の両面に0.075mmの剥離ライナーを有する0.30mmの両面接着テープをH字型に貼った状態)を重ね合わせ、周囲を加熱温度180℃で熱接着するとともに3本の区画壁を設け、4個の区画室を設け、各区画室に前記吸着材を、それぞれ1つ宛収容させてケミカルフィルタを作成した。
本実施例では、前記2枚のULPA用ろ材を袋体にする際の熱接着時に、その加熱温度を利用して前記両面接着テープを前記ULPA用ろ材に熱接着するようにした。
【0016】
(実施例1)
両面接着テープの通気性袋体への接着は、熱接着で両面接着テープを固定した。このとき、両面接着テープの剥離ライナーは、ポリエステル樹脂フィルムにオレフィン製膜を施した、シリコーン系樹脂を用いないものとした。
【0017】
(実施例2)
両面接着テープの通気性袋体への接着は、熱接着で両面接着テープを固定した。このとき、両面接着テープの剥離ライナーは、ポリエステル樹脂フィルムにシリコーン系樹脂製膜を施したものとした。
【0018】
(比較例1)
両面接着テープの通気性袋体への接着は、熱接着せずに両面接着テープを貼り付けた。
【0019】
(比較例2)
ケミカルフィルタを使用しなかった。
【0020】
【表1】

【0021】
接着性は、レチクルケースにケミカルフィルタを貼り付けたときの不具合(剥れや浮き)について目視にて確認した。
【0022】
剥離性は、レチクルケースからケミカルフィルタを剥がしたときに接着剤が該レチクルケースに残るか否かを目視にて確認し、残分がない場合を○とした。
【0023】
TOC除去率は、レチクルケース(内寸:207×196×50mm、容積:2リットル)のドア側にケミカルフィルタを接着設置し本発明の効果を確認した。即ち、ケミカルフィルタの設置前後の有機ガスをテナックス系の捕集剤に吸着凝集し、ガスクロマトグラフ質量分析法を用いて分析した。
具体的には、P&T(日本分析工業製JHS-100A)付のGC-MS(日立製M-9000)を用い、下記の条件で発ガス分析を行った。
<ガスクロマトグラフ分析条件>
カラム:J&WキャピラリカラムDB-5MS(長さ30m、内径0.25mm)
カラム温度:40℃、3分ホールド
40〜220℃、20分(昇温速度: 9℃/分)
220〜300℃、8分(昇温速度:10℃/分)
300℃、3分ホールド
注入口温度:250℃
キャリアガス:He 1.5ml/min
スプリット比:1:10
<質量分析計条件>
イオン化法:EI(エレクトロンイオン化法)
検出器(3DQ)温度:250℃
フォトマルチプライア:350V
<P&T条件>
吸着管パージ温度:230℃
コールドトラップ温度:−60℃
パージガス流量:He 50ml/min
吸着管パージ時間:15分
【0024】
表から明らかなとおり、本発明品によりレチクルケースから発生したTOCを90%以上除去できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、面方向、幅方向ともに均一で、薄手のシート状に形状付与が容易で、しかも吸着容量の大きなケミカルフィルタ及びその梱包体並びに前記ケミカルフィルタを設置したレチクルケースが得られ、また前記ケミカルフィルタをウェーハを保管するFOUP、FOSBなどの半導体用密閉容器にも適用でき、産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0026】
1 ケミカルフィルタ
2 板状ろ材
3 通気性袋体
3a 区画室
10 両面接着テープ
20 レチクルケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性シートで粒状吸着剤を挟持した板状ろ材を通気性袋体に収容してなるケミカルフィルタにおいて、両面接着テープを前記通気性袋体の少なくとも対向する2辺に貼り、該両面接着テープと該通気性袋体を熱接着したことを特徴とするケミカルフィルタ。
【請求項2】
前記通気性袋体は区画壁で仕切られた複数の区画室を備えることを特徴とする請求項1記載のケミカルフィルタ。
【請求項3】
前記両面接着テープの構成材が、シリコーン系樹脂を含まないことを特徴とする請求項1または2記載のケミカルフィルタ。
【請求項4】
前記両面接着テープの熱接着は、通気性シートを熱接着させて前記通気性袋体を形成する際の加熱温度を利用して行われたものであることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のケミカルフィルタ。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載のケミカルフィルタを密封化シートで脱気密封化したことを特徴とするケミカルフィルタ梱包体。
【請求項6】
請求項1乃至4の何れかに記載のケミカルフィルタをレチクルケースの下方中央部に両面接着テープで固定し、使用後の該ケミカルフィルタを取り外し可能としたことを特徴とするレチクルケース。

【図1】
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【公開番号】特開2011−31142(P2011−31142A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177846(P2009−177846)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(500296147)大日商事株式会社 (4)
【出願人】(000232760)日本無機株式会社 (104)
【Fターム(参考)】