説明

ケモカイン受容体88C

【課題】さらなるケモカイン受容体を同定すること。
【解決手段】本発明は、ケモカイン受容体88-2Bまたは88Cをコードするポリヌクレオチドならびにこれら2つのケモカイン受容体の組換え生産のための材料及び方法を提供する。さらに、ケモカイン受容体のリガンド及びモジュレーターの同定を容易ならしめる、ポリヌクレオチドを利用したアッセイも提供される。受容体断片、リガンド、モジュレーター、及び抗体は、アテローム性動脈硬化症、慢性関節リウマチ、腫瘍生長抑制、喘息、ウイルス感染、AIDS、及び他の炎症状態などの、ケモカイン受容体に関わる病態の検出及び処置において有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、1996年6月7日に出願せる米国特許出願第08/661,393号の一部継続出願であり、当該出願は、1995年12月20日に出願せる米国特許出願第08/575,967号の一部継続出願である。
【0002】
本発明は、一般に、シグナルトランスダクション経路に関する。さらに詳細には、本発明は、ケモカイン受容体、ケモカイン受容体をコードする核酸、ケモカイン受容体リガンド、ケモカイン受容体活性のモジュレーター、ケモカイン及びケモカイン受容体を認識する抗体、ケモカイン受容体リガンド及びモジュレーターを同定するための方法、ケモカイン受容体を製造するための方法、ならびにケモカイン受容体を認識する抗体を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
分子生物学の近年の進歩によって、生物学的プロセスにおけるシグナルトランスダクション経路の中心的な役割の正当な認識がなされるようになっている。これらの経路は、多細胞生物の個々の細胞が交信し、それによって生物学的プロセスの整合を行う、中心的な手段を含むものである。1つのモデルとして、非特許文献1の表Iを参照されたい。シグナルトランスダクション経路の1つの分岐点は、グアニンヌクレオチド結合タンパク質(G−タンパク質)の細胞内での関与によって規定されており、これが広範囲にわたる生物学的プロセスに影響を及ぼすものである。
【0004】
非特許文献2は、最小限で以下の成分すなわち、細胞外シグナル(例えば、神経伝達物質、ペプチドホルモン、有機分子、光、または臭気物質)、シグナルを認識する受容体(非特許文献3において概説されており、GPRまたはGPCRとして知られている、G−タンパク質にカップリングする受容体)、ならびに細胞内、ヘテロトリマー性GTP−結合タンパク質、またはGタンパク質を包含する、G−タンパク質シグナルトランスダクション経路について一般的に論じている。特に、これらの経路は、白血球細胞すなわちロイコサイトのトラフィッキング(trafficking)を調節する上での役割のゆえに、注目に値する興味を集めるものである。
【0005】
白血球は、顆粒球(すなわち、好中球、好塩基球及び好酸球)、リンパ球、及び単球を包含する可動性の細胞型の一群を含んでなる。可動化され活性化されると、これらの細胞は第一に外来物質に対する生体防御に関与する。この任務は、白血球が関与する多岐にわたる正常及び病理学的プロセスによって複雑なものになっている。例えば、感染に対する正常の免疫応答において白血球は機能する。白血球はまた、様々な病理学的炎症にも関わっている。要約として、非特許文献4を参照されたい。さらに、これらプロセスの各々は、白血球細胞型の各々に由来する等級(degree)、種類、及び期間において独特な寄与形態に関わることができるのである。
【0006】
これらの免疫反応を研究する上で、研究者は先ず、白血球に対して作用しているシグナルを集中的に調べた。これは、シグナルがあらゆる型の応答を引き出すために必要であると考えられるからである。非特許文献5は、白血球シグナルの重量な一群のメンバーであるペプチドシグナルを概説している。ペプチドシグナルの一つの型は、ケモカイン(化学(ケモ)誘引(attractant)サイトカイン)を含むペプチドシグナルであり、非特許文献6においてインタークライン(intercline)と命名されている。Oppenheimらに加えて、非特許文献7は、同定され、遺伝的及び生化学的分析に供されつつある、ケモカインを詳報しており、これらの数は増加傾向を辿っている。
【0007】
既知のケモカインのアミノ酸配列の比較によって、ケモカインを2群に分かつ分類大系が導き出されており、かかる2群とは、最初の2つのシステインを分離している単一のアミノ酸によって特徴付けられるα群(CXC、N−末端指示対照)、及びこれらのシステインが隣接しているβ群(CC)である。ケモカインと、それらのシグナルに対応する特定の白血球細胞型との間の相関性が、見出されている。Schallら、前出は、CXCケモカインは一般に好中球に影響を及ぼし、そしてCCケモカインは単球、リンパ球、好塩基球、及び好酸球に影響を及ぼす傾向があることを報告している。例えば、Baggioliniら、前出は、CCケモカインであるRANTESが、単球、リンパ球(すなわち、記憶T細胞)、好塩基球、及び好酸球に対して化学誘引物質として機能するが、好中球に対しては機能せず、一方、好塩基球からのヒスタミン遊離を誘導することを述べている。
【0008】
ケモカインは、HIV増殖のサプレッサーであることが、非特許文献8によって最近示された。Cocchiらは、RANTES、MIP−1α、及びMIP−1βが、PM1と称されるCD4+細胞系及びヒト末梢血初代単核細胞系のHIV−1、HIV−2及びSIVによる感染を抑制ことを立証した。
【0009】
しかしながら、近年、細胞外ケモカインが無差別に細胞に接触し、従って、個々の白血球細胞型を調節するのに必要な特異性を欠くようであるために、ケモカインが結合する受容体へと注目の対象が移行してきている。
【0010】
Murphyら、前出は、受容体のGPCRスーパーファミリーが、ケモカイン受容体ファミリーを含んでいることを報告した。典型的なケモカイン受容体構造は、N−末端近傍に位置する細胞外ケモカイン結合ドメインと、それに続く、膜貫通α−ヘリックスを形成することができる主として疎水性の、7つの間隔をあけた領域を包含している。α−ヘリックスドメインの各々の間に疎水性ドメインが、交互に、細胞内及び細胞外空間に位置している。これらの特徴によって、膜に埋没したケモカイン受容体に蛇行状のコンフォメーションが付与される。第3の細胞内ループは、典型的にG−タンパク質と相互作用する。加えて、Murphy、前出は、細胞内カルボキシル末端もG−タンパク質と相互作用できることを認めている。
【0011】
分子クローニング技術によって分析すべき第1のケモカイン受容体は、CXCケモカインであるヒトIL8に対する2つの好中球受容体であった。非特許文献9及び非特許文献10は、IL8に対する2つの受容体のクローニングを報告した。非特許文献11は、これらの受容体をコードするcDNAを分析し、かかるコードされた受容体が各受容体と77%のアミノ酸一致度を有し、G−タンパク質にカップリングする受容体ファミリーの特徴を呈することを見出した。これら受容体の1つは、IL−8に対して特異的であるが、一方、他の受容体は、IL−8、gro/MGSA、及びNAP−2に結合し、それに応答してシグナル伝達を行う。IL−8受容体をコードする遺伝子の遺伝的操作が、これらの受容体が携わる生物学的な役割の理解に貢献してきている。例えば、非特許文献12は、マウスにおけるIL−8受容体相同体の削除の結果、リンパ節障害及び脾腫を包含する多面発現性の表現型が生じることを報告した。加うるに、非特許文献13に記載されたミスセンス変異によって、IL−8結合について重要なIL−8受容体の酸性アミノ酸が明らかになった。Murphy、前出において論じられたドメイン交換実験では、結合特異性の決定因子として、アミノ末端細胞外ドメインが含意された。
【0012】
CCケモカインに対する様々な受容体もまた、同定及びクローニングされた。CCCKR1は、MIP−1α及びRANTESの双方に結合し、そして双方のリガンドに応答して細胞内カルシウムイオンの流出が惹起こされる。非特許文献14は、他のCCケモカイン受容体であるMCP−R1(CCCKR2)が、単一の遺伝子によってコードされ、カルボキシ末端が異なる2つのスプライシング変異体を産生することを報告した。この受容体は、MCP−1に加えてMCP−3に結合及び応答する。
【0013】
CXC及びCCケモカインの双方に結合する特異性の低い受容体も同定されている。この受容体は、元々は赤血球細胞にて同定されたのであり、非特許文献15は、IL−8、NAP−2、GROα、RANTES及びMCP−1に結合することを報告している。赤血球のケモカイン受容体は、他のケモカイン受容体と約25%の一致度を共有しており、循環系でのケモカインレベルの調節を助けたり、標的へのケモカインの呈示を補助したりするのかもしれない。ケモカインの結合に加えて、赤血球ケモカイン受容体はマラリアの主原因である三日熱(マラリア)プラスモジウムに対する受容体であることも示されている(同上)。ケモカイン受容体に密接に関係する他のG−タンパク質にカップリングする受容体である、血小板活性化因子受容体も、ヒトの病原たる細菌である肺炎レンサ球菌に対する受容体であることが示されている(非特許文献16)。
【0014】
哺乳類のケモカイン受容体に加えて、2種のウイルスケモカイン相同体も同定されている。非特許文献17は、IL−8受容体と約30%の一致度を共有し、CXCケモカインに結合するHerpesvirus saimiri由来の遺伝子産物を記載している。非特許文献18は、ヒトサイトメガロウイルスが、MIP−1α、MIP−1β、MCP−1、及びRANTESに結合するCCケモカイン受容体と約30%の一致度を共有する受容体をコードする遺伝子を含んでいることを報告している。これらウイルスの受容体は、ケモカインの通常の役割に影響を及ぼし、ウイルスに対する選択的な病理学上の利点を供給するかもしれない。
【非特許文献1】Springer、Cell 76巻、301〜314頁(1994)
【非特許文献2】Lewin、GENES V 319〜348頁(1994)
【非特許文献3】Probstら、DNA and Cell Biology 11巻、1〜20頁[1992]
【非特許文献4】Schallら、Curr.Opin.Immun-ol. 6巻、865〜873頁(1994)
【非特許文献5】Murphy、Ann.Rev.Immunol. 12巻、593〜633頁(1994)
【非特許文献6】Oppenheimら、Ann.Rev.Immunol. 9巻、617〜648頁(1991)
【非特許文献7】Baggioliniら、Advences in Immunol. 55巻、97〜179頁(1994)
【非特許文献8】Cocchiら、Science、270巻、1811〜1815頁(1995)
【非特許文献9】Holmesら、Science、253巻、178〜1280頁(1991)
【非特許文献10】Murphyら、Science、253巻、1280〜1283頁(1991)
【非特許文献11】Leeら、J.Biol.Chem. 267巻、16823〜16287頁(1992)
【非特許文献12】Cacalanoら、Science、265巻、682〜684頁(1994)
【非特許文献13】Leongら、J.Biol.Chem. 269巻、19343〜19348頁(1994)
【非特許文献14】Charoら、Proc.Natl.Acad.Sci. (USA) 91巻、2752〜2756頁(1994)
【非特許文献15】Horukら、Science、261巻、1182〜1184頁(1993)
【非特許文献16】Cundellら、Nature、377巻、435〜438頁(1995)
【非特許文献17】Ahujaら、J.Biol.Chem. 268巻、20691〜20694頁(1993)
【非特許文献18】Neoteら、Cell、72巻、415〜425頁(1993)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0015】
ケモカイン及びその活性の広範なる多様性のゆえに、ケモカインに対して数多くの受容体が存在する。その特徴が明らかにされている受容体は、ケモカイン受容体の全体的な補集合の一画分のみを表しているにすぎない。かくして、当該技術分野においてさらなるケモカイン受容体の同定が希求され続けている。これら新規受容体の有用性により、ケモカインまたはケモカイン受容体機能の治療用モジュレーターの開発のための手段が提供されよう。アテローム性動脈硬化症、慢性関節リウマチ、腫瘍生長抑制、喘息、ウイルス感染、及び他の炎症性病態の処置のための療法における、かかるモジュレーターの有用性が本発明によって企図される。あるいは、ケモカイン受容体の断片もしくは変異体、またはそれら受容体を認識する抗体が、前記療法に関わるものとして企図される。
【0016】
本発明は、上記課題を解決するために、以下を提供する。
(項目1) HIV感染のモジュレーターをスクリーニングする方法であって、以下の工程すなわち、
(a)化合物の存在下及び非存在下に、哺乳動物88C受容体を含む第1組成物とヒト免疫不全ウイルス(HIV)エンベロープタンパク質を含む第2組成物とを接触させ、
(b)該化合物の存在下及び非存在下での、哺乳動物88C受容体とHIVエンベロープタンパク質との相互作用を測定し、ならびに
(c)該化合物の非存在下に対して該化合物の存在下で、哺乳動物88C受容体とHIVとの相互作用が低減または増大することを、該化合物がHIV感染のモジュレーターであることの指標として、HIV感染のモジュレーターをスクリーニングする、
工程を含む方法。
(項目2) 前記哺乳動物88C受容体が、配列番号:2に示すアミノ酸配列を有するヒト88Cを含む、項目1記載の方法。
(項目3) 第1組成物が、哺乳動物88C受容体を表面上に発現するように組換え法によって改変されている細胞を含む項目1または2記載の方法。
(項目4) 第2組成物が、ヒト免疫不全ウイルスを含む項目1乃至3のいずれかに記載の方法。
(項目5) 前記測定を行なう工程が、細胞のHIV感染を測定することを含む項目4記載の方法。
(項目6) HIV感染のモジュレーターをスクリーニングする方法であって、以下の工程すなわち、
(a)化合物の存在下及び非存在下に、哺乳動物88-2B受容体を含む第1組成物とヒト免疫不全ウイルス(HIV)エンベロープタンパク質を含む第2組成物とを接触させ、
(b)該化合物の存在下及び非存在下での、哺乳動物88-2B受容体とHIVエンベロープタンパク質との相互作用を測定し、ならびに
(c)該化合物の非存在下に対して該化合物の存在下で、哺乳動物88-2B受容体とHIVとの相互作用が低減または増大することを、該化合物がHIV感染のモジュレーターであることの指標として、HIV感染のモジュレーターをスクリーニングする、
工程を含む方法。
(項目7) 前記哺乳動物88-2B受容体が、配列番号:4に示すアミノ酸配列を有するヒト88-2Bを含む、項目6記載の方法。
(項目8) 第1組成物が、哺乳動物88-2B受容体を表面上に発現するように組換え法によって改変されている細胞を含む項目6または7記載の方法。
(項目9) 第2組成物が、ヒト免疫不全ウイルスを含む項目6乃至8のいずれかに記載の方法。
(項目10) 前記測定を行なう工程が、細胞のHIV感染を測定することを含む項目9記載の方法。
(項目11) 項目1乃至10のいずれかに記載の方法によって、HIV感染のモジュレーターとして同定された化合物。
(項目12) 細胞のHIV感染を予防するための医薬組成物であって、項目11記載の化合物を含む医薬組成物。
(項目13) 細胞のHIV感染を予防する方法であって、ヒト以外の動物で項目11記載の化合物を適用する工程を含む方法。
(項目14) 細胞のHIV感染の予防のための医薬を製造する方法であって、項目11記載の化合物を使用する工程を含む方法。
(項目15) HIV感染を検出するための方法であって、以下の工程すなわち、
(a)ヒトケモカイン受容体88C及び88-2Bの少なくとも一つを発現するように、組換え法により改変されている細胞を、HIVに接触させ、ならびに
(b)細胞のHIV感染を検出する、
工程を含む方法。
【0017】
本発明は、白血球のトラフィッキングに関与するケモカイン受容体をコードする、精製及び単離された核酸を提供する。本発明のポリヌクレオチド(センス鎖及びそのアンチセンス鎖の双方)には、ゲノミックDNA、cDNA、及びRNAが包含され、さらに完全にまたは部分的に合成された核酸も含まれる。本発明の好ましいポリヌクレオチドには、配列番号:3に示されるケモカイン受容体88-2BをコードするDNA、配列番号:1に示されるケモカイン受容体88CをコードするDNA、及び標準的なストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件下でそれらのDNAとハイブリダイズする、または遺伝コードの重複なしにハイブリダイズすると思われるDNAが包含される。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例は、以下の通りである。すなわち、42℃にて、50%ホルムアミド、5XSSC、20 mMリン酸ナトリウム、pH 6.8でハイブリダイゼーションを行い、そして55℃にて、0.2X SSCで洗浄する。当業者には、ハイブリダイズされるべき配列の長さ及びGCヌクレオチド含量に基づいてこれらの条件を変更することが想起されることは理解される。当該技術分野における標準の常則が、正確なハイブリダイゼーション条件を決定するためには適切である。Sambrookら、MolecularCloning: A Laboratory Manual、ColdSpring Harbor Laboratory Press、Cold SpringHarbor、ニューヨーク(1989)の、§§9.47〜9.51を参照のこと。さらにまた本発明によって企図されるのは、88-2Bまたは88Cのドメインをコードするポリヌクレオチドであり、例えば、いずれかのタンパク質の1以上の細胞外ドメインまたはその、生物学的活性を有する他の断片をコードするポリヌクレオチドである。88-2B細胞外ドメインは、配列番号:3及び配列番号:4で、アミノ酸残基1〜36、93〜107、171〜196、及び263〜284に対応する。88-2Bの細胞外ドメインは、配列番号:3で、ヌクレオチド362〜469、638〜682、872〜949、及び1148〜1213に対応するポリヌクレオチド配列によってコードされている。88Cの細胞外ドメインは、配列番号:1及び配列番号:2で、アミノ酸残基1〜32、89〜112、166〜191、及び259〜280に対応する。88Cの細胞外ドメインは、配列番号:1で、ヌクレオチド55〜150、319〜390、550〜627、及び829〜894に対応するポリヌクレオチド配列によってコードされている。本発明はまた、これらケモカイン受容体の細胞内ドメインをコードするポリヌクレオチドも企図している。88-2Bの細胞内ドメインには、配列番号:3及び配列番号:4のアミノ酸60〜71、131〜151、219〜240、及び306〜355が包含される。それらのドメインは、配列番号:3で、ヌクレオチド539〜574、752〜814、1016〜1081、及び1277〜1426にそれぞれ対応するポリヌクレオチド配列によってコードされている。88Cの細胞内ドメインには、配列番号:1及び配列番号:2のアミノ酸残基56〜67、125〜145、213〜235、及び301〜352が包含される。88Cの細胞内ドメインは、配列番号:1で、ヌクレオチド220〜255、427〜489、691〜759、及び955〜1110に対応するポリヌクレオチド配列によってコードされている。細胞外もしくは細胞内ドメインの1つ以上に対応するペプチド、またはそれらペプチドに対して作製された抗体が、受容体活性、特に受容体のリガンド及びGタンパク質結合活性のモジュレーターとして企図される。
【0018】
本発明のヌクレオチド配列は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で88-2Bまたは88CをコードするゲノミックDNAを単離するために標識付けしたプローブとして用いる(すなわち、サザン分析及びポリメラーゼ連鎖反応方法論による)ための、オリゴヌクレオチドを設計するために使用してもよい。さらに、これらのオリゴヌクレオチドプローブは、88-2Bまたは88Cをコードする遺伝子の、特定の対立遺伝子を検出するために使用することができ、それによって、かかる対立遺伝子に関わる病態の診断及び遺伝子療法による処置が容易ならしめられる。加えて、これらのオリゴヌクレオチドは、ケモカイン受容体のモジュレーターの同定を容易にすべく、ケモカイン受容体の遺伝的性質を改変するのにも使用することができる。さらに、そのヌクレオチド配列は、88-2Bまたは88Cの遺伝的性質及び発現を探索または改変する上で使用するアンチセンス遺伝要素を設計するためにも使用できる。本発明は、また、本発明のDNAの生物学的複製物(すなわち、invivo または in vitro でつくられ、単離されたDNAのコピー)も企図するものである。効率的に88-2Bまたは88Cポリヌクレオチドを組み込んでいる、プラスミド、ウイルス、及び染色体(例えば、YAC)核酸ベクターなどの自己複製する組換え構築体、ならびに、特に88-2Bまたは88Cを有効にコードするDNAが1以上の内在性または異種由来の発現制御配列に作動可能に連結されたベクターも提供される。
【0019】
88-2B及び88C受容体は、天然に、組換えによって、または合成によって製造してもよい。標準法によって本発明のポリヌクレオチドを用いて形質転換またはトランスフェクトした宿主細胞(原核細胞性または真核細胞性)もまた、88-2B及び88Cケモカイン受容体を発現するために使用することができる。本来のままの88-2Bまたは88C遺伝子産物以上に、88-2Bまたは88Cの生物学的に活性を有する断片、88-2Bまたは88Cの類似体、及び配列番号:4に示される88-2B、または配列番号:2に示される88Cのアミノ酸配列由来の合成ペプチドが、本発明により企図される。さらに、真核細胞にて製造する場合、88-2Bもしくは88C遺伝子産物、またはいずれかの遺伝子産物の生物学的に活性を有する断片は、転写後に修飾(例えば、ジスルフィド結合の形成、グリコシル化、リン酸化、ミリストイル化、パルミトイル化、アセチル化等による)してもよい。本発明はさらに、88-2B及び88C遺伝子産物、または生物学的に活性を有するそれらの断片の、モノマー、ホモマルチマー、またはヘテロマルチマーの形態のものを企図する。
【0020】
特に、本発明の1つの特徴は、88-2Bまたは88Cケモカイン受容体に特異的に結合することができる抗体産物に関わるものである。抗体産物は、組換え88-2Bもしくは88C受容体、88-2Bもしくは88C受容体の合成ペプチドもしくはペプチド断片、表面に88-2Bもしくは88Cを発現している宿主細胞、または天然の供給源から精製した88-2Bもしくは88C受容体を免疫原として使用して、当該技術分野における標準方法により作製される。抗体産物には、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体が包含され、いかなる供給源のものでも、いかなるサブタイプのものでもかまわない。さらには、モノマー、ホモマルチマー、及びヘテロマルチマー抗体、ならびにそれらの断片が、本発明によって企図される。さらに本発明は、CDR−組織移植抗体、「ヒト化」抗体、及びケモカイン受容体に特異的に結合する能力を保持する他の修飾された抗体産物を企図する。
【0021】
本発明はさらに、88-2Bもしくは88C遺伝子産物、それらの類似体、またはそれらの生物学的に活性を有する断片を検出するための、抗体産物の使用も企図するものである。例えば、抗体産物は、88-2Bまたは88Cの発現と、様々な正常または病理学的状態との間の相関を明らかにするために計画される診断方法において使用してもよい。加えて、抗体産物は、88-2Bもしくは88C、それらの類似体、またはそれらの生物学的に活性を有する断片の発現における、組織特異的な変動を診断するために使用することができる。88-2B及び88Cケモカイン受容体に対して特異的な抗体産物は、受容体活性のモジュレーターとしても作用するかもしれない。他の特徴として、88-2Bまたは88C受容体に対する抗体は、治療上の目的のために有用である。
【0022】
本発明のケモカイン受容体と相互作用することができるリガンドのためアッセイも提供される。これらのアッセイは、例えば、標識付けしたリガンドへの受容体の結合をモニターすることによるなどといった、ケモカイン受容体活性の直接的な検出を包含しうる。加えて、これらのアッセイは、ケモカイン受容体とのリガンドの相互作用を間接的に評価するために使用しうる。本明細書中において、「リガンド」なる語は、88-2Bまたは88Cのアゴニスト及びアンタゴニストである分子、ならびに受容体に結合する他の分子を含むものである。
【0023】
ケモカイン受容体へのリガンド結合の直接的な検出は、以下のアッセイを使用して成し遂げられうる。供試化合物(すなわち、リガンドと推定される物質)は、検出可能となるように標識付け(例えば、放射性同位体ヨウ素付加)される。検出可能に標識付けされた供試化合物は、次いで、本発明のケモカイン受容体を含む膜調製物と接触させられる。好ましくは、かかる膜は、組換えベクターから本発明のケモカイン受容体を発現している宿主細胞より調製される。膜に埋込まれたケモカイン受容体と、検出可能に標識付けされた供試化合物との間の接触を促すインキュベーション期間に続き、減圧濾過を使用してフィルター上に膜物質が採集される。次いで、フィルターに会合した検出可能な標識を定量する。例えば、液体シンチレーションスペクトル光学測定法を使用して、放射性同位体の標識を定量する。この技術を使用して、ケモカイン受容体へのリガンド結合を同定する。リガンドの同定を確証するために、標識付けされていない状態にある供試化合物の量を増加して存在させた下で、検出可能に標識付けされた供試化合物を、ケモカイン受容体を呈示する膜調製物に曝す。標識付けしていない供試化合物の添加量を増加するに従って、フィルターに会合している標識のレベルが漸減すれば、リガンドの同定が確証される。
【0024】
アゴニストは受容体に結合するリガンドであり、細胞内シグナルトランスダクションを導き出し、そしてアンタゴニストは、受容体に結合するリガンドであるが、細胞内シグナルトランスフェクトを導き出すことはない。特定のリガンドがアゴニストであるかまたはアンタゴニストであるかどうかは、例えば、Gタンパク質に関わるシグナルトランスダクション経路をアッセイすることによって定量することができる。これらの経路の活性化は、他のアッセイに加えて、細胞内Ca++流出、ホスフォリパーゼC活性またはアデニル酸シクラーゼ活性を測定することによって定量することができる(実施例5及び6を参照されたい)。
【0025】
本明細書における実施例において詳説しているように、88C受容体に結合するケモカインには、RANTES、MIP−1α、及びMIP−1βが包含され、そして88-2B受容体に結合するケモカインには、RANTESが包含される。
【0026】
他の特徴において、88C及び88-2B受容体とそれらのリガンドとの間の相互作用のモジュレーターが、本発明によって特に企図される。ケモカイン受容体機能のモジュレーターは、リガンドを同定するために使用されたものと類似のアッセイを使用して同定しうる。ケモカイン受容体を呈示している膜調製物が、一定且つ既知量の検出可能に標識付けされた機能性リガンドに曝される。加えて、膜に結合したケモカイン受容体は、そのケモカイン受容体の活性をモジュレートすることが推測される供試化合物にその量を増加させて曝される。フィルターに会合した標識のレベルが供試化合物の量に呼応するならば、その供試化合物は、ケモカイン受容体の活性のモジュレーターである。フィルターに会合した標識のレベルが、供試化合物の増加量に伴って増加すれば、活性化物質が同定される。反対に、フィルターに会合した標識のレベルが、供試化合物の量と逆に変化するのであれば、ケモカイン受容体活性の阻害物質が同定される。このようにして受容体結合のモジュレーターを試験することによって、同じ反応で同時に多くのモジュレーターの可能性がある物質を含有するプールを試験することができるので、多くのモジュレーターと推定される物質を迅速にスクリーニングすることが可能となる。
【0027】
受容体結合のための間接的なアッセイには、関連するシグナルトランスダクション経路に見出される成分のうちのいずれかの活性の濃度またはレベルの測定が包含される。ケモカイン受容体の活性化は、細胞内Ca++流出に関係していることがある。ケモカイン受容体を発現している細胞に、カルシウム感受性の染料を付してもよい。発現された受容体の活性化に伴って、Ca++流出が染料によりスペクトル光学測定で検出可能になるであろう。あるいは、かかるCa++流出を顕微鏡で検出することができる。いずれかの技術を用いて、リガンドと推定される物質の存在下及び非存在下に平行したアッセイを実施してもよい。例えば、Ca++流出についての顕微鏡でのアッセイを使用して、CCケモカインであるRANTESが、88-2Bケモカイン受容体のリガンドとして同定された。当業者であれば、それらのアッセイが受容体活性のモジュレーターの精製を同定及びモニターするためにも有用であることを認めるであろう。受容体活性化物質及び阻害物質は、これらのアッセイにおいて受容体とそのリガンドとの相互作用を、それぞれ活性化または阻害するであろう。
【0028】
あるいは、ケモカイン受容体とGタンパク質との会合によって、Gタンパク質活性をモニターすることによる受容体活性を評価する機会が与えられる。Gタンパク質の特徴的な活性であるGTP加水分解を、例えば、32P−標識付けGTPを使用してモニターしてもよい。
【0029】
Gタンパク質は、シグナルトランスダクション経路における関与を通じて、様々な他の分子にも影響を及ぼしている。Gタンパク質エフェクター分子には、アデニル酸シクラーゼ、ホスフォリパーゼC、イオンチャンネル、及びホスフォジエステラーゼが包含される。これらのエフェクターのいずれかに焦点をおくアッセイを使用して、興味の対照であるケモカイン受容体を発現しており、且つ適切なリガンドに接触せしめられている宿主細胞にて、リガンド結合によって誘導されるケモカイン受容体活性をモニターしてもよい。例えば、ケモカイン受容体の活性を検出しうる一つの方法として、ホスフォリパーゼC活性の測定が挙げられる。このアッセイにおいて、アゴニストの存在下で、ケモカイン受容体を発現している宿主細胞による、放射性同位体で標識付けしたイノシトールホスフェートの生産が検出される。ホスフォリパーゼ活性の検出は、外来性のGタンパク質をコードするDNAと共にトランスフェクション(コトランスフェクション)することを必要とするかもしれない。コトランスフェクションが必要である場合には、このアッセイは、キメラGタンパク質DNA、例えば、Gqi5(Conklinら、Nature、363巻、274〜276頁(1993))を、88-2Bまたは88CのDNAとコトランスフェクトし、そのコトランスフェクトされた細胞が88-2Bまたは88C受容体のアゴニストに曝された際のホスフォイノシトール生産を検出することによって行うことができる。当業者であれば、Gタンパク質エフェクター分子に焦点をおいたアッセイもまた、受容体活性の精製を同定及びモニターするために有用であることを認めるであろう。受容体の活性化物質及び阻害物質は、これらのアッセイにおいて、受容体とそれらのリガンドの相互作用をそれぞれ、活性化または阻害するであろう。
【0030】
ケモカインは、乾癬、関節炎、肺線維症及びアテローム性動脈硬化症などの多くの炎症性疾患に関わっている。Baggioliniら、前出を参照されたい。ケモカイン作用の阻害物質は、これらの病態を処置する上でも有用かもしれない。一例として、Broaddusら、J.of Immunol.、152巻、2960〜2967頁(1994)は、ウサギ肺における急性炎症のモデルである、内毒素誘導性の胸膜炎での好中球補充(recruitment)を阻害できるIL−8に対する抗体を記載している。88C受容体に結合する、またはこれを活性化するリガンドまたはモジュレーターが、HIV感染及びHIV関連病態の処置に有用であるかもしれないことも、本発明において企図するところである。本発明にて企図される特異的受容体へのケモカインの結合のモジュレーターは、ケモカインもしくは受容体に対して作製された抗体、生物学的もしくは化学的小分子、またはケモカインもしくは受容体の断片に対応する合成ペプチドが包含されうる。
【0031】
正常または病理学的免疫反応ならびに、HIV−1、HIV−2及びSIVなどのレトロウイルスによる感染を包含するウイルス感染をモニターまたは治療改善することを目的として、哺乳類被験者に88-2Bまたは88Cモジュレーターを含有する組成物を投与することが、本発明によって企図される。特に、本発明は、製薬的に容認しうる量の88-2Bまたは88Cケモカイン受容体モジュレーターを輸送することによる、炎症性応答、異常な造血プロセス、及びウイルス感染の鎮静を企図している。本発明はさらに、担体、希釈剤、または薬物を含んでなる製薬上容認しうる組成物にて、これらの活性物質を輸送することを企図する。本発明はまた、様々な投与経路も企図している。例えば、活性物質は、以下の経路、すなわち、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、経口、肛門(すなわち、座剤に調剤して)、または経肺(すなわち、吸入、アトマイザー、ネブライザー等)によって投与しうる。
【0032】
他の特徴において、本発明により提供されるDNA配列の情報によって、相同組換えまたは「ノックアウト」戦略[例えば、Kapecchiら、Science、244巻、1288〜1292頁(1989)を参照されたい]による、機能を有する88Cもしくは88-2Bケモカイン受容体を発現しない齧歯類、または受容体の変異体を発現する齧歯類の開発が可能となる。あるいはクローン化された88-2Bまたは88C受容体を発現するトランスジェニックマウスを、周知の実験技術(マウス胚の操作(Manipulatingthe Mouse Embryo)、A Laboratory Manual、Brigid Hohan、Frank Costantini及びElizabethLacy編(1986) Cold Spring Harbor Laboratory ISBN 0-87969-175-I)によって調製することができる。かかる齧歯類は、88Cまたは88-2Bのinvivoの活性を研究するためのモデルとして有用である。
【0033】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の実施例を考慮すれば、当業者に明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下の実施例が、本発明を例証するものである。実施例1には、88-2B及び88
Cケモカイン受容体をコードするゲノミックDNAの単離を記載する。実施例2
には、ヒト88-2B及び88Cならびにマカーク88CをコードするcDNAの単離及
び配列決定を表す。実施例3では、様々な組織における88-2B及び88C受容体の
発現パターンを明らかにするノザン分析を記載する。実施例4では、88-2B及び
88C受容体の組換え発現を詳説する。実施例5には、Ca++流出アッセイ、ホス
フォイノシトール加水分解アッセイ、ならびに様々なリガンドである可能性を有
する物質に応答した88-2B及び88C受容体活性についての結合アッセイを記載す
る。HIVに対する共受容体としての88C及び88-2Bの役割を記載する実験を、
実施例6及び7に記載する。88Cと免疫反応性を有するモノクローナル及びポリ
クローナル抗体の調製及び特徴付けを、実施例8に記載する。実施例9には、88
-2Bまたは88Cリガンドまたはモジュレーターを同定するために計画したさらな
るアッセイを記載する。
【0035】
[実施例1]
本発明の新規ケモカイン受容体遺伝子をコードする部分的なゲノミッククローンを、以前に同定された遺伝子に見出される保存配列に基づき、且つヒトゲノム内でのこれらケモカイン受容体遺伝子のクラスター形成(clustering)に基づいて、PCRによって単離した。縮重オリゴヌクレオチドプライマーを使用して、標準PCR法によってゲノミックDNAを増幅した。
【0036】
PCR増幅のための鋳型は、酵母人工染色体(Yeast Arti-ficial Chromosomes、すなわち、YAC)(Research Gene-tics, Inc.、Huntsville、アラバマ、YACLibrary Pools、カタログ番号第95011 B)にクローニングした組換えヒトゲノミックDNAの市販されている供給源の一つであった。YACベクターは、500〜1000kbpのインサートに適応できるものである。最初に、YACクローンDNAのプールを、CCCKR1をコードする遺伝子に対して特異的なプライマーを使用したPCRによってスクリーニングした。詳細には、センス鎖プライマー(CCCKR1のセンス鎖に対応する)である、CCCKR(2)-5'は配列番号:15に示される。プライマーCCCKR(2)-5'は、5'-CGTAAGCTTAGAGAAGCCGGGATGGGAA-3'の配列からなり、配列で下線を付したヌクレオチドは、CCCKR1に対する翻訳開始コドンである。アンチセンス鎖プライマーは、CCCKR-3'(CCCKR1のアンチセンス鎖に対応する)であり、その配列は、配列番号:16に示される。CCCKR-3'の配列である5'-GCCTCTAGAGTCAGAGACCAGCAGA-3'は、CCCKR1翻訳終止コドン(下線を付した)の逆相補的配列を含んでいる。検出可能なPCR産物(すなわち、ゲル電気泳動でのDNAのバンド)を生じるYACクローンDNAのプールで、商標権を有する同定スキーム(ResearchGenetics, Inc.、Huntsville、アラバマ)に基づいてYACクローンの適切なサブプールを同定した。PCR反応は、94℃にて4分間のインキュベーションを行うことをもって開始した。配列の増幅は、94℃にて1分間の変性、55℃にて1分間のアニーリング、そして72℃にて2分間の伸長の33サイクルを使用して成し遂げた。
【0037】
YACクローンDNAのサブプールは、次いで第1回のPCRにおいて使用した条件及びプライマーを使用して、第2回のPCR反応に供した。サブプールのスクリーニングの結果によって、CCCKRに特異的なプライマーでのPCR反応を支持することができる個々のクローンが同定された。1つのクローンである881F10は、PCR及びハイブリダイゼーションによって調べると、CCCKR1及びCCCKR2に対する遺伝子を含む染色体3p21由来のヒトゲノミックDNAの640kbを含んでいた。重複するYACクローンである941A7は、ヒトゲノミックDNAの700 kbを含んでおり、やはりCCCKR1及びCCCKR2に対する遺伝子を含んでいた。それゆえに、これら2つのYACクローンを使用して、さらなるマッピング実験を行った。サザン分析により、CCCKR1とCCCKR2とは互いにおよそ100kb以内に位置していることが明らかになった。
【0038】
CCCKR1とCCCKR2との遺伝子が極めて近接していることにより、新規の関連遺伝子がCCCKR1及びCCCKR2に連接しているかもしれないことが示唆された。YACクローンの881F10及び941A7を含む酵母由来のDNAを鋳型として使用して、何らかの関連受容体遺伝子を増幅するためにPCR反応を実施した。PCRプライマーとして、縮重オリゴデオキシリボヌクレオチドを設計した。これらのオリゴヌクレオチドは、CCCKR1、CCCKR2、及びV28のアラインメントでの配列比較から推定して、CCケモカイン受容体の第2の細胞内ループ及び第6の膜貫通ドメインをコードする領域に対応するものであった。V28は、ケモカイン受容体の特徴を呈示するオーファン受容体であるので使用した。V28もまた、ヒト第3染色体にマッピングされている。Raportら、Gene、163巻、295〜299頁(1995)。さらに注目すべきは、CCCKR2の2つのスプライシング変異体であるCCCKR2A及びCCCKR2Bは、分析に使用した第2の細胞内ループ及び第6の膜貫通ドメイン領域にて同じであることである。V28degf2と称される5'プライマーは、内部BamHI制限部位(下記参照)を含み、その配列は配列番号:5に示す。プライマーV28degf2の配列は、規範的な受容体構造の第2の細胞内ループ領域をコードするDNAに対応している。Probstら、前出を参照されたい。3'プライマーであるV28degr2は、内部HindIII制限部位(下記参照)を含み、その配列は配列番号:6に示す。プライマーV28degr2の配列は、規範的な受容体構造の第6の膜貫通ドメインをコードするDNAに対応している。
【0039】
増幅されたPCR DNAを、次に、BamHI及びHindIIIで消化し、規範配列を調べた結果から予測される断片のサイズに一致するおよそ390bpの断片を作製した。エンドヌクレアーゼで消化した後、これらPCR断片をpBluescript(Staragene Inc.、La Jolla、カリフォルニア)へとクローニングした。合計で54のクローニングされた断片を、自動ヌクレオチド配列分析に供した。CCCKR1及びCCCKR2由来の配列に加えて、本発明の2つの新規ケモカイン受容体遺伝子由来の配列が同定された。これらの2つの新規ケモカイン受容体遺伝子を、88-2B及び88Cと命名した。
【0040】
制限エンドヌクレアーゼマッピング及びハイブリダイゼーションを利用して、受容体88C、88-2B、CCCKR1、及びCCCKR2をコードする遺伝子の相対的な位置をマッピングした。88Cに対する遺伝子は、ヒト染色体3p21でCCCKR2遺伝子からおよそ18KBPに位置するので、これら4つの遺伝子は近くに連接している。
【0041】
[実施例2]
以下の方法によって、マクロファージcDNAライブラリーから全長の88-2B及び88C cDNAを単離した。先ず、Tjoelkerら、Nature、374巻、549〜553頁(1995)に記載されるcDNAライブラリーを、ヒトマクロファージmRNAからのpMcRCMV(InvitrogenCorp.、San Diego、カリフォルニア)にて構築した。当該cDNAを、88-2Bまたは88Cに対応する独特なプライマー対を使用したPCRによって、88-2B及び88CcDNAクローンの存在についてスクリーニングした。PCRのプロトコルは、94℃にて4分間、最初に変性を行う工程を含むものであった。次いで、以下の条件の下でPCRを33サイクル行なってポリヌクレオチドを増幅した:94℃にて1分間変性、55℃にて1分間アニーリング、そして72℃にて2分間伸長。88-2Bに対して特異的な第1のプライマーは、プライマー88-2B-f1であり、配列番号:11に示される。これは、配列番号:3のヌクレオチド844〜863のセンス鎖に対応する。88-2Bをコードする遺伝子に対して特異的な第2のPCRプライマーは、プライマー88-2B-r1であり、配列番号:12に示され、この88-2B-r1配列は配列番号:3のヌクレオチド1023〜1042のアンチセンス鎖に対応する。同様に、88Cをコードする遺伝子に対して特異的な第1のプライマーであるプライマー88C-f1の配列は、配列番号:13に示され、配列番号:1のヌクレオチド453〜471のセンス鎖に対応する。88Cをコードする遺伝子に対して特異的な第2のプライマーは、プライマー88C-r3であり、配列番号:14に示されており、88C-r3の配列は、配列番号:1のヌクレオチド744〜763のアンチセンス鎖に対応する。
【0042】
スクリーニングによって、88-2BのcDNAクローンであるクローン777を同定した。クローン777は、以下の特徴によって判定したところ88-2Bの全長のコード配列を包含する1915bpのDNAインサートを含んでいた:当該クローンは、ATGコドンで開始する長い読み取り枠を含み、Kozak配列を呈し、そして枠内の上流終止コドンを有していた。クローン777のDNA及びインサートの導き出されたアミノ酸配列を、配列番号:3及び配列番号:4にそれぞれ表す。88-2Bの転写物は、マクロファージのcDNAライブラリー中には、比較的稀少であった。ライブラリーのスクリーニングに際し、合計300万と見積もられるクローンからわずか3つの88-2Bクローンのみが同定された。
【0043】
88Cケモカイン受容体をコードするcDNAクローンに対するスクリーニングによって、開始コドンと推定されるコドンを包含する、88Cの全コード領域を含むと考えられるクローン101及び134が同定された。しかしながら、これらのクローンは、開始コドンの実体を確証するのに必要なさらなる5'配列を欠いていた。88Cの転写物は、マクロファージcDNAライブラリーにおいて比較的豊富に存在していた。ライブラリーのスクリーニングに際して、3000の転写物当たり1つ(ライブラリー中、合計でおよそ300万のクローンのうち)の88Cが存在すると見積もられた。
【0044】
手元にある88Cクローン配列を伸長するためにRACEPCR(cDNA端部の迅速増幅(Rapid Amplification of cDNA Ends))を実施し、それによって88CcDNAの5'端の正確な特徴付けをすすめた。ヒト脾臓5'-RACE-ready cDNAは、Clontech Laboratories, Inc.、PaloAlto、カリフォルニアより購入し、製造業者の推奨事項に従って使用した。cDNAは、cDNA断片の5'端にアンカー配列を連結することによって「5'-RACE-ready」とした。アンカー配列は、ClontechLaboratories, Inc.、Palo Alto、カリフォルニアにより供給されたアンカープライマーに相補的なものである。アンカー配列とアンカープライマーの二重のポリヌクレオチドには、EcoRI制限部位が含まれている。ヒト脾臓cDNAを、鋳型DNAとして選択した。これは、この組織に88Cが発現されていることがノザンブロットによって明らかになっていたためである。PCR反応は、94℃にて4分間、試料を変性させることをもって開始した。次いで、94℃にて1分間変性、60℃にて45秒間アニーリング、そして72℃にて2分間伸長する工程を含む35サイクルを用いて配列を増幅した。PCRの第1回目は、50μlの総反応液容量に2μlの5'-RACE-ready脾臓cDNA、1μlのアンカープライマー、及び1μlのプライマー88c-r4(100ng/μl)を含有する反応混合液にて実施した。88Cに特異的なプライマーである88c-r4(5'-GATAAGCCTCACAGCCCTGTG-3')は、配列番号:7に示されている。プライマー88c-r4の配列は、配列番号:1のヌクレオチド745〜765のアンチセンス鎖に対応する。第2回のPCRは、1μlのアンカープライマー及び、以下の配列(5'-GCTAAGCTTGATGACTATCTTTAATGTC-3')(配列番号:8に示される)を含むプライマー88C-rlb(100ng/μl)の1μlと共に1μlの第1PCR反応液を含む反応混合液について実施した。プライマー88C-rlbの配列は、内部HindIIIクローニング部位(下線部)を含んでいる。そのHindIII部位の3'側の配列は、配列番号:1のヌクレオチド636〜654のアンチセンス鎖に対応している。このようにして得られたPCR産物は、EcoRI及びHindIIIを用いて消化し、1%アガロースゲルにて分画した。およそ700bpの断片が単離され、pBluescriptにクローニングされた。最も大きなインサートを有するクローンを配列決定に供した。あるいは、市販のTAクローニングキット(InvitrogenCorp.、San Diego、カリフォルニア)を使用して、その後のヌクレオチド配列決定用に、PCR産物をそのままpCRベクターに連結した。
【0045】
88-2B及び88CcDNAは、PRISM(登録商標)ReadyReaction DyeDeoxy(登録商標)Terminator Cycle SequencingKit(PerkinElmer Corp.、Foster City、カリフォルニア)及びApplied Biosystems 373A DNA Sequencerを使用して配列決定した。88-2BcDNA配列を決定するために使用される、配列決定反応用の二本鎖の鋳型が、クローン777のインサートより提供された。クローン777のインサートの全配列を決定し、そして88-2BcDNA配列及びアミノ酸配列として配列番号:3に示している。その配列は1915 bpの長さであり、5'非翻訳DNAの361 bp(配列番号:3のヌクレオチド1〜361に対応する)、1065bpのコード領域(配列番号:3のヌクレオチド362〜1426に対応する)、及び3'非翻訳DNAの489 bp(配列番号:3のヌクレオチド1427〜1915に対応する)を含む。前記実施例1にて述べた88-2BのゲノミックDNAは、配列番号:3のヌクレオチド746〜1128に対応する。88CcDNA配列、及び導き出されたアミノ酸配列は、配列番号:1に示される。88C cDNA配列は、RACE−PCR cDNAのクローン134、及びクローン101から得られた配列を合わせたものである。RACE−PCRcDNAを、配列番号:1のヌクレオチド1〜654を決定するための配列決定用鋳型として使用したが、それには、配列番号:1のヌクレオチド1〜9における9 bpの5'非翻訳cDNA配列が独自に同定されていた。RACEPCR cDNAから得られた配列によって、配列番号:1のヌクレオチド55〜57に最初のメチオニンコドンが位置することが確認され、しかして、クローン134及びクローン101が88Cコード領域の全長のコピーを含んでいるという結論が支持された。クローン134は、5'非翻訳cDNAの45bp(配列番号:1のヌクレオチド10〜54に対応する)、1056 bpの88Cコード領域(配列番号:1のヌクレオチド55〜1110に対応する)、及び3'非翻訳cDNAの492bp(配列番号:1のヌクレオチド1111〜1602に対応する)を含んでいた。クローン101は、5'非翻訳cDNAの25 bp(配列番号:1のヌクレオチド30〜54に対応する)、1056bpの88Cコード領域(配列番号:1のヌクレオチド55〜1110に対応する)、及び3'非翻訳cDNAの2273 bp(配列番号:1のヌクレオチド1111〜3383に対応する)を含んでいた。前記実施例1にて述べた88CのゲノミックDNAは、配列番号:1のヌクレオチド424〜809に対応する。
【0046】
88-2B及び88Cの導き出されたアミノ酸配列によって、GPCR膜貫通ドメインに対応する7つの疎水性ドメインを含む、GPCRに特異的な疎水性についての概観が明らかになった。他のGPCRとの配列の比較によって、一致度の程度も明らかになった。意義深いことに、88-2B及び88Cの双方の導き出されたアミノ酸配列は、ケモカイン受容体の配列と最も高い一致度を有していた。表1に、これらのアミノ酸配列の比較の結果を表す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1により、88-2BはCCCKR1に最も類似しており(アミノ酸レベルで62%一致)、そして88Cは、CCCKR2に最も類似している(アミノ酸レベルで72%一致)ことが示される。
【0049】
88-2B及び88Cの導き出されたアミノ酸配列によって、GPCRに特異的な細胞内及び細胞外ドメインも明らかになっている。88-2Bの細胞外ドメインは、配列番号:3及び配列番号:4にて提供されるアミノ酸配列のアミノ酸残基1〜36、93〜107、171〜196、及び263〜284に対応する。88-2Bの細胞外ドメインは、配列番号:3で、ヌクレオチド362〜469、638〜682、872〜949、及び1148〜1213に対応するポリヌクレオチド配列によってコードされている。88Cの細胞外ドメインは、配列番号:1及び配列番号:2における、アミノ酸残基1〜32、89〜112、166〜191、及び259〜280を包含する。88Cの細胞外ドメインは、配列番号:1で、ヌクレオチド55〜150、319〜390、550〜627、及び829〜894に対応するポリヌクレオチド配列によってコードされている。88-2Bの細胞内ドメインには、配列番号:3及び配列番号:4のアミノ酸60〜71、131〜151、219〜240、及び306〜355が包含される。それらのドメインは、配列番号:3で、ヌクレオチド539〜574、752〜814、1016〜1081、及び1277〜1426にそれぞれ対応するポリヌクレオチド配列によってコードされている。88Cの細胞内ドメインには、配列番号:1及び配列番号:2のアミノ酸残基56〜67、125〜145、213〜235、及び301〜352が包含される。88Cの細胞内ドメインは、配列番号:1で、ヌクレオチド220〜255、427〜489、691〜759、及び955〜1110に対応するポリヌクレオチド配列によってコードされている。
【0050】
加えて、ヒト88CcDNAの5'及び3'フランキング領域に対応するプライマーを使用して、マカークのゲノミックDNAからPCRによってマカーク88C DNAを増幅した。5'プライマーは、開始のMetコドンを含み、そのコドンの直ぐ上流の領域に対応していた。3'プライマーは、終止コドンの直ぐ下流の領域に相補的なものであった。プライマーは、発現ベクターへのクローニング用の制限酵素部位を含んでいた。5'プライマーの配列は、GACAAGCTTCACAGGGTGGAACAAGATG(HindIII制限部位に下線を付した)(配列番号:17)であり、3'プライマーの配列は、GTCTCTAGACCACTTGAGTCCGTGTCA(XbaI制限部位に下線を付した)(配列番号:18)であった。PCR増幅の条件は、94℃にて8分間、続いて、94℃にて1分間、55℃にて45秒間、そして72℃にて1分間の40サイクルであった。増幅産物は、pcDNA3のHindIII及びXbaI制限部位へとクローニングし、そしてクローンを得て配列決定した。マカークの全長のcDNA及び導き出されたアミノ酸配列を、それぞれ配列番号:19及び20に表す。マカークの88Cのヌクレオチド配列は、ヒト88C配列と98%の一致度を有している。導き出されたアミノ酸配列は、97%の一致度を有するものである。
【0051】
[実施例3]
88-2B及び88CのmRNA発現パターンをノザンブロット分析によって調べた。
【0052】
様々なヒト組織からのポリA+RNAを固定化した状態で含むノザンブロットは、Clontech Laboratories,Inc.、Palo Alto、カリフォルニアより購入した。詳細には、以下の組織すなわち、心臓、脳、胎盤、肺、肝臓、骨格筋、腎臓、膵臓、脾臓、胸腺、前立腺、精巣、卵巣、小腸、結腸及び末梢血白血球を試験に供した。
【0053】
88-2Bヌクレオチド配列に対して特異的なプローブを、cDNAクローン478から作製した。クローン478のcDNAインサートは、配列番号:3のヌクレオチド641〜1915に対応する配列を含んでいる。プローブを作製するために、クローン478を消化し、そのインサートDNA断片をゲル電気泳動によって単離した。単離されたインサート断片は、次いで当該技術分野において知られている技術を使用して、32Pで標識付けしたヌクレオチドで、放射性同位体による標識付けを行った。
【0054】
88Cヌクレオチド配列に対して特異的なプローブを、クローン493に認められるインサートDNA断片を単離し、そして放射性同位体による標識付けを行うことによって作製した。クローン493由来のインサート断片は、配列番号:1のヌクレオチド421〜1359に対応する配列を含んでいる。再度、32Pで標識付けしたヌクレオチドに関わる旧来の技術を使用して、プローブを作製した。
【0055】
88-2Bをプローブとして用いて行ったノザンブロットには、およそ1.8kbのmRNAが末梢血白血球に現れた。88Cのノザン分析では、様々なヒト組織におよそ4 kbのmRNAが示され、それらのうち、脾臓または胸腺組織をプローブで探索したものは強いシグナルが認められ、そして末梢血白血球及び小腸からのmRNAを分析した場合には、もっと強度の低いシグナルが認められた。肺組織及び卵巣組織では、88Cに対するシグナルは比較的弱かった。
【0056】
ヒトT細胞及び造血細胞系における88Cの発現も、ノザンブロット分析によって調べた。CD4+及びCD8+ T細胞における88Cのレベルは非常に高かった。転写物は、骨髄細胞系のTHP1及びHL−60に比較的高レベルに存在しており、そしてB細胞系のJijoyeにも認められた。加えて、このcDNAは、ライブラリーサブ画分のPCR増幅に基づくと、ヒトマクロファージcDNAライブラリーにて比較的多く転写されていた。
【0057】
[実施例4]
88-2B及び88CcDNAを、組換え法によって哺乳動物細胞にて発現させた。
【0058】
一過性のトランスフェクション実験のためには、88Cを哺乳動物細胞発現ベクターpBJ1へとサブクローニングした(Ishi, K.ら、J.Biol.Chem.、270巻、16435〜16440頁(1995))。構築体には、効率的な細胞表面発現のためのプロラクチンシグナル配列、及び発現されたタンパク質の検出を容易にするために88Cのアミノ末端にFLAGエピトープをコードする配列が含まれていた。FLAGエピトープは、「DYKDDDD」の配列からなるものである。COS−7細胞を、Lipofectamine(LifeTechnology, Inc.、Grand Island、ニューヨーク)を使用して製造業者のプロトコルに従って、88C発現プラスミドでトランスフェクトした。手短に説明すると、細胞は、24ウェルのプレートに、ウェル当たり4x 104 細胞の密度で播種し、終夜生育した。次いで細胞をPBSで洗浄し、各ウェルに1.5μlのリポフェクタミンに混合した0.3 mgのDNAを含むOpti−MEM0.25 mlを添加した。37℃にて5時間経過した後、培地を10%FCSを含有する培地に交換した。FLAGエピトープに対して特異的なM1抗体(EastmanCo.、New Haven、コネチカット)を使用して定量的ELISA法によって、一過性にトランスフェクトされたCOS−細胞において、その細胞表面に88Cが発現されていることが確認された。
【0059】
FLAGでタグ付けした88C受容体は、さらにトランスフェクション用試薬DOTAP(N-[1-[(2,3-ジオレオイロキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムメチルサルフェート、Boehringer-Mannheim,Inc.、Indianapolis、インディアナ)を製造業者の推奨事項に従って使用して、ヒト胎児腎臓細胞系であるHEK−293にも安定にトランスフェクトした。薬剤G418の存在下で、安定な系を選択した。トランスフェクトされたHEK−293細胞を、FLAGエピトープに対するM1抗体を使用して、ELISAによって細胞表面での88Cの発現について評価した。ELISAにより、安定に形質転換されたHEK−293細胞の細胞表面に、FLAGエピトープを有するタグ付けした88Cが発現していることが示された。
【0060】
88-2B及び88CcDNAを、安定なHEK−293トランスフェクト体をつくるために使用した。88-2B受容体cDNAは、PCRに基づく戦略を使用して、pRc/CMV(InvitrogenCorp.、San Diego、カリフォルニア)にてサイトメガロウイルスプロモーターの後にクローニングした。PCR反応のための鋳型は、クローン777中のcDNAインサートであった。PCRプライマーは、88-2B-3(内部XbaI制限部位を含む)及び88-2B-5(内部HindIII制限部位を含む)であった。プライマー88-2B-3のヌクレオチド配列は、配列番号:9に示され、プライマー88-2B-5のヌクレオチド配列は、配列番号:10に示される。cDNAの1104bpの領域を増幅した。増幅の後、DNAをXbaI及びHindIIIを用いて消化し、そして同様に消化されたpRc/CMVへとクローニングした。この結果得られたプラスミドは、777XP2と名付けられ、これは18bpの5'非翻訳配列、88-2Bの全コード領域、及び3 bpの3'非翻訳配列を含んでいる。88Cの配列については、HEK−293細胞にトランスフェクトするに先駆けてクローン134における全長のcDNAインサートにさらに修飾を施すことはしなかった。
【0061】
安定に形質転換された細胞系を作出するために、pRc/CMV組換えクローンを、トランスフェクション用試薬DOTAP(N-[1-[(2,3-ジオレオイロキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムメチルサルフェート、Boehringer-Mannheim,Inc.、Indianapolis、インディアナ)を製造業者の推奨事項に従って使用して、ヒト胎児腎臓細胞系であるHEK−293にトランスフェクトした。薬剤G418の存在下で、安定な系を選択した。88-2B及び88CmRNAを最高のレベルで発現している安定な細胞系を同定するために、標準的なスクリーニング方法(すなわち、ノザンブロット分析)を実施した。
【0062】
[実施例5]
A. Ca++流出アッセイ
ポリペプチドの発現を分析するために、ケモカイン受容体活性についての機能性アッセイを用いた。既知のケモカイン受容体を通じたシグナル伝達の一般的な特徴は、シグナルトランスダクションが細胞内カルシウム陽イオンの遊離に関わっていることである。従って、トランスフェクトされたHEK−293細胞での細胞内Ca++濃度をアッセイし、88-2Bまたは88C受容体が既知のケモカインのいずれかのものに応答するか否かを調べた。
【0063】
88-2B、88C(FLAGエピトープ配列は含まない)、または対照のコード領域(IL8RまたはCCCKR2をコードするもの、下記参照のこと)で前記のごとくに安定に形質転換されたHEK−293細胞を、MEM+10%血清中でおよそ90%の周密度までT75フラスコにて生育した。次いで細胞を洗浄し、バーセン(versene)(0.6mM EDTA、10 mM Na2HPO4、0.14 M NaCl、3 mM KCl、及び1 mM グルコース)を用いて回収し、そしてMEM+10%血清+1μMFura-2 AM(Molecular Probes,Inc.、Eugene、オレゴン)中で、室温にて30分間インキュベートした。Fura-2 AMは、Ca++に感受性を有する染料である。細胞は、0.9mM CaCl2及び0.5 mM MgCl2を含有するダルベッコのリン酸緩衝性生理食塩水(D−PBS)におよそ107細胞/mlの濃度で再度懸濁し、蛍光分光光度計(HitachiModel F-4010)を用いて蛍光の変化をモニターした。およそ106の細胞を、キュベット中で1.8 mlのD−PBSに懸濁し、37℃に維持した。励起波長を4秒間隔で340から380nmの間で変化させ、検出波長は510 nmとした。供試化合物は、投入口を介してキュベットに加え、イオノマイシン添加に伴うCa++流出の最高値を測定した。
【0064】
IL−8RAを発現している細胞でIL−8を用いて刺激した際に、及びMCP−1またはMCP−3を用いてCCCKR2を刺激した際には、陽性の応答が観察された。しかしながら、88-2Bまたは88Cのいずれかを発現しているHEK−293細胞は、以下のケモカイン:MCP−1、MCP−2、MCP−3、MIP−1α、MIP−1β、IL8、NAP−2、gro/MGSA、IP−10、ENA−78、またはPF−4のいずれに曝された場合においても細胞内Ca++濃度の流出が示されることはなかった。(Peprotech,Inc.、Rocky Hill、ニュージャージー)。
【0065】
さらに感度の高いアッセイを使用して、RANTESに対するCa++流出の応答を、88-2Bを発現している、Fura-2 AMを付した細胞で顕微鏡によって観察した。アッセイには、前記の通りに調製した細胞及び試薬が包含されていた。RANTES(活性化調節、正常T発現及び分泌(Regulatedon Activati-on, Normal T Expressed and Secreted))は、好酸球の化学誘引物質及び活性化物質として同定されているケモカインである。Neoteら、前出を参照されたい。このケモカインは、好塩基球によるヒスタミンの遊離も媒介し、invitroで記憶T細胞に対する化学誘引物質として機能することも示されている。88-2B受容体活性のモジュレーションは、従って、白血球活性化をモジュレートする上で有用であることが含意される。
【0066】
FLAGでタグを付けた88C受容体をHEK−293細胞において発現させ、そしてCa++流出アッセイにて、ケモカイン相互作用について試験した。88Cの細胞表面での発現は、M1抗体を使用して、ELISAによって、及びFACScan分析によって確認した。ケモカインであるRANTES、MIP−1α、及びMIP−1βがすべて100nMの濃度で添加された場合に、88Cがトランスフェクトされた細胞におけるCa++流出を誘導した。
【0067】
Ca++流出はさらに、ケモカイン受容体結合のモジュレーターを同定するためにもデザインされうる。供試化合物の存在下で、前記した蛍光分析または顕微鏡による分析に基づくアッセイを実施する。もしCa++流出が供試化合物の存在下で増加すれば、その供試化合物はケモカイン受容体結合の活性化物質である。反対に、Ca++流出の低減によって、当該供試化合物がケモカイン受容体結合の阻害物質であるとの同定がなされる。
【0068】
B. ホスファチジルイノシトール加水分解
リガンドまたはモジュレーターのための別のアッセイとして、Hungら、J.Biol.Chem.、116巻、827〜832頁(1992)に記載されるように、ホスフォリパーゼC活性をモニターすることが挙げられる。先ず、ケモカイン受容体を発現している宿主細胞を、24時間、3H−イノシトールに負荷する。次いで、供試化合物(すなわち、リガンドの可能性があるもの)を細胞に添加し、37℃にて15分間インキュベートする。次に細胞を20mMのギ酸に曝して、加水分解されたホスファチジルイノシトール代謝の代謝物(すなわち、ホスフォリパーゼCによって媒介された加水分解の産物)を安定化及び抽出する。抽出物は、AG1X8陰イオン交換カラム(フォルメート型)を使用した、陰イオン交換クロマトグラフィーに供する。イノシトールホスフェートを、2Mギ酸アンモニウム塩/0.1 Mギ酸で溶出し、その化合物に会合した3Hを液体シンチレーションスペクトル光学測定法を使用して定量する。このホスフォリパーゼCアッセイは、ケモカイン受容体活性のモジュレーターを同定するためにも利用することができる。このアッセイは、モジュレーターの可能性がある物質を添加すること以外は上述通りに実施される。検出可能な標識のレベルが上昇すれば、そのモジュレーターがケモカイン受容体活性の活性化物質であることを示唆するであろうし、検出可能な標識のレベルが低下すれば、そのモジュレーターがケモカイン受容体活性の阻害物質であることを示唆するであろう。
【0069】
ホスフォリパーゼCアッセイを実施して、FLAGでタグ付けした88C受容体のケモカインリガンドを同定した。トランスフェクション後およそ24時間で、88Cを発現しているCOS−7細胞を、透析したFCSを10%含有するイノシトール不含の培地中で、myo-[2-3H]イノシトール(1μCi/ml)を用いて20〜24時間標識付けした。標識付けされた細胞を、10mMLiClを含有するイノシトール不含のDMEMで洗浄し、そして10 mMLiCl及び以下のケモカイン、すなわち、RANTES、MIP−1β、MIP−1α、MCP−1、IL−8、またはネズミMCP−1相同体のJEのうちの1つを含有する、イノシトール不含のDMEMと37℃にて1時間インキュベートした。イノシトールホスフェート(IP)形成は、前節に記載の通りにアッセイした。ケモカインと共にインキュベートした後、培地を吸引除去し、細胞は、20mMの氷冷したギ酸を0.75 ml添加することによって溶解した(30分間)。上清画分は、Ag1−X8 Dowexカラム(Biorad、Hercules、カリフォルニア)に付し、続いて即座に50mM H4OHを3 ml加えた。次いで、カラムを4 mlの40 mM ギ酸アンモニウム塩で洗浄し、続いて2 Mのギ酸アンモニウム塩で溶出した。イノシトールホスフェートの総量を、β線放射を計数することによって定量した。
【0070】
IL8RA及びIL8RBなどの、特定のケモカイン受容体は、COS−7細胞にてシグナル伝達を検出することができるに先駆けて外来性のGタンパク質と共にトランスフェクトする必要があることが示されているので、88C受容体は、キメラGタンパク質のGqi5と共に発現させた(Conklinら、Nature、363巻、274〜276頁(1993)。Gqi5は、スプライシングを受けてGαqになるGi(受容体に結合する)のカルボキシル末端の5つのアミノ酸を有するGタンパク質である。Gqi5と共にトランスフェクションを行って88CがRANTES、MIP−1β、及びMIP−1αに応答して良好なシグナル伝達を行うが、MCP−1、IL−8、またはネズミMCP−1相同体のJEには応答しないことが明らかになった。用量依存性曲線によって、RANTESについては1nM、MIP−1βについては6 nM、そしてMIP−1αについては22 nMの、EC50値であることが明らかになった。
【0071】
88Cは、MIP−1βに応答したシグナル伝達を行うヒトの受容体で最初にクローニングされたものである。他のCCケモカイン受容体に比べて、MIP−1βは、明らかに独特な細胞での活性化パターンを有している。それは、T細胞を活性化するようであるが、単球は活性化しないらしく(Baggioliniら、前出)、これは受容体刺激試験の結果に一致している。例えば、MIP−1βは、CCCKR1に結合するが、カルシウム流出を誘導しない(Neoteら、前出)。対照的に、MIP−1α及びRANTESは、CCCKR1及びCCCKR5に結合して、シグナル伝達を惹き起こす(RANTESは、CCCKR3の活性化も惹き起こす)。MIP−1βは、かくのごとくCCケモカインファミリーの他のケモカインよりも随分選択性が高いようである。一般的な前炎症性活性を惹き起こす複数の白血球個体集団なしで、特定の有益な活性が刺激されうるので(HIV感染の抑制など)、かかる選択性は、治療的に重要なものである。
【0072】
C. 結合アッセイ
ケモカインとの受容体の相互作用にかかる他のアッセイは、Ernstら、J.Immunol.、152巻、3541〜3549頁(1994)によって記載されている結合アッセイを改変したものであった。MIP−1βは、Bolton及びHunter試薬(二ヨウ素剤、NEN、Wilmington、デラウェア)を使用して、製造業者の指示に従って標識付けした。接合しなかったヨウ素は、PBS及びBSA(1%重量/容量)で平衡化されたPD−10カラム(Pharmacia)を使用して溶出することにより、標識付けされたタンパク質から分離した。比活性は、典型的には2200Ci/mmoleであった。ポリプロピレンチューブ中にて、総容量で300μl(50 mM HEPES、pH 7.4、1 mM CaCl2、MgCl2、0.5%BSA)とした、FLAGエピトープでタグ付けした88Cをトランスフェクトした、5x 105のHEK−293細胞に、125Iで標識付けしたリガンドを単独で、または100倍量の過剰の標識付けしていないリガンドと共に添加し、150rpmで攪拌しながら27℃にて90分間インキュベートすることによって、平衡結合(equilib-rium binding)を実施した。細胞は、Skatronセルハーベスター(SkatronInstruments Inc.、Sterling、バージニア)を使用して、0.3%ポリエチレンイミン及び0.2%BSAに予め浸しておいたガラス繊維フィルターの上に集めた。洗浄後、フィルターを取り出し、ガンマ線放射を計数することによって結合していたリガンドを定量した。標識付けしていないリガンドとの競合によるリガンド結合性は、5x 105のトランスフェクトされた細胞(前記の通り)を、1.5 nMの放射性同位体で標識付けしたリガンド及び示唆された濃度の標識付けしていないリガンドとインキュベートすることによって定量した。前記のごとくに試料を集め、洗浄し、計数した。データは、曲線適合(curve-fitting)プログラムであるPrism(GraphPadInc.、San Diego、カリフォルニア)及び反復非回帰曲線プログラムであるLIGAND(PM220)を使用して分析した。
【0073】
平衡結合アッセイにおいて、88C受容体は、放射性同位体により標識付けしたMIP−1βに、特異的且つ飽和可能な態様で結合した。Scatchardの方法によるこの結合の分析によって、1.6nMの解離定数(Kd)が明らかにされた。標識付けしたMIP−1βを使用した競合結合アッセイによって、MIP−1β(IC50=7.4 nM)、RANTES(IC50=6.9nM)、及びMIP−1α(IC50=7.4 nM)の高親和性結合が明らかになり、これは、前記Bセクションにおいて議論したごとき、一過性にトランスフェクトされたCOS−7細胞にて得られたシグナル伝達にかかるデータに一致していた。
【0074】
[実施例6]
ケモカインであるMIP−1α、MIP−1β及びRANTESは、ヒト末梢血単核球細胞及びPM1細胞においてHIV−1及びHIV−2の複製を阻害することが示されている(Cocchiら、前出)。この発見に鑑みて、そして実施例5に記載した結果に鑑みて、本発明は、88C受容体の活性化、またはそのリガンド結合によってHIV感染における防衛的役割を提供しうることを企図するものである。
【0075】
近年、Gタンパク質にカップリングするオーファン受容体であるフシン(fusin)が、HIVの進入に対して共受容体として作用できることが報告されている。フシン/CXCR4は、本来の(primary)HIVの受容体であるCD4と組み合わされて、培養T細胞にHIV感染を明らかに促進する(Fengら、Science、272巻、872〜877頁(1996))。フシンとケモカイン受容体の相同性ならびに88Cのケモカイン結合の概観に基づいて、そして、88CがT細胞で構成的に発現されており、マクロファージにて豊富に発現されているので、88Cは、ウイルス及びHIV感染に関わっているらしいと考えられる。
【0076】
HIVに対する共受容体としての88C及び88-2Bの機能は、CD4と共に88Cまたは88-2Bを発現する細胞をトランスフェクトし、そしてそのコトランスフェクトされた細胞をHIVで攻撃することによって調べた。CD4及び機能性を有するHIVに対する共受容体の双方を発現する細胞のみが、感染されるようになった。HIVの感染は、様々な方法によって調べることができる。HIV抗原の発現について試験するELISA、例えば、CoulterHIV−1 p24抗原アッセイ(米国特許第4,886,742号)、Coulter Corp.、11800 SW 147th Ave.、Miami、フロリダ33196が市販されている。あるいは、供試細胞を、HIV LTRプロモーターに付けたLACZなどのレポーター遺伝子を発現するように作出することができる[Kimptonら、J.Viol.、66巻、2232〜2239頁(1992)]。この方法において、HIVで感染された細胞は、比色分析アッセイによって検出される。
【0077】
88Cは、ヒトCD4を発現するように安定に形質転換しておいたネコ細胞系であるCCC[Claphemら、181巻、703〜715頁(1991)]に一過性にトランスフェクトした(CCC−CD4)。これらの細胞は、88Cを内在的に発現していないので、HIV−1のいずれの株による感染に対しても正常状態では耐性である。これらの実験において、CCC/CD4細胞はリポフェクタミン(GibcoBRL、Gaithersburg、メリーランド)を使用して発現ベクターpcDNA3.1(Invitrogen Corp.、San Diego、カリフォルニア)へとクローニングした88Cを、一過性にトランスフェクトした。トランスフェクトを行った後2日目に、細胞をHIVで攻撃した。4日間インキュベートした後、細胞を固定し、HIV感染の指標としてp24抗原についての染色を行った。これらの細胞による88C発現によって、かかる細胞がHIV−1の様々な株による感染に対して感受性を有するようになった。これらの株には、共受容体としてフシンではなく88Cのみを使用することが示された初代の(primary)非シンシチウム誘導性HIV−1分離株(M23、E80、SL−2及びSF−162)が含まれていた。初代のHIV−1の様々なシンシチウム誘導性HIV−1分離株(2006、M13、2028及び2076)は、共受容体として88Cまたはフシンのいずれかを使用した。また、2つの樹立されたクローンのHIV−1ウイルス(GUN−1及び89.6)は、88Cまたはフシンのいずれかを共受容体として使用した。
【0078】
HIV−2のある株は所定のCD4陰性細胞系に感染でき、しかしてCD4以外の受容体とのHIV−2の直接的な相互作用が含意されることが報告されている[Claphamら、J.Viol.、66巻、3531〜3537頁(1992)]。HIV−2のある株については、この感染は可溶性CD4(sCD4)の存在によって促進される。88-2BはHIV共受容体(すなわち、88C及びフシン)として作用する他のケモカイン受容体と高い配列の類似性を共有しているので、88-2BはHIV−2の共受容体であるらしいと考えられた。HIV−2共受容体としての88-2Bの役割を、HIV−2株であるROD/Bを使用して立証した。CD4を内在的に発現していないネコのCCC細胞を88-2Bでトランスフェクトした。これらの実験において、細胞はリポフェクタミンを使用して88-2Bを含むpcDNA3.1でトランスフェクトし、そしてHIV−2で48時間感染させた。感染後3日目に、細胞はHIV−2エンベロープの糖タンパク質の存在について免疫染色した。HIV−2ROD/Bによる攻撃の間にsCD4が存在することで、これらの細胞の感染は10倍増加した。88-2Bがトランスフェクトされた細胞へのHIV−2の進入は、88-2Bに対するリガンドの1つであるエオタキシン(eotaxin)400〜800ng/mlの存在によって阻害することができた。CCC/88-2Bの感染性の基線レベル(可溶性CD4を含まない場合)は、88-2BでトランスフェクトされなかったCCC細胞と同等であった。
【0079】
88-2B及び88CのHIVに対する共受容体としての役割は、88Cまたは88-2Bを発現するように安定に形質転換した細胞系を調製し、様々なHIV及びSIVの株で攻撃することによって確認した。これらの結果は実施例7に記載する。
【0080】
あるいは、88C及び88-2Bの共受容体としての役割は、生存ウイルスの使用を必要としない実験方法によって立証することができる。この方法では、88Cまたは88-2B、CD4及びLACZレポーター遺伝子を共に発現している細胞系を、HIVエンベロープ糖タンパク質(ENV)及び受容体遺伝子構築体のための転写因子を共に発現している細胞系と混合する(Nussbaumら、J.Virol.、68巻、5411頁(1994))。機能を有する、HIVに対する共受容体を発現している細胞は、ENVを発現している細胞と融合し、それによってレポーター遺伝子の発現が許容されるであろう。この方法において、比色分析アッセイによるレポーター遺伝子産物の検出によって、HIVに対する共受容体としての88Cまたは88-2Bの機能が示唆される。
【0081】
ケモカインがウイルス感染を阻害する機構は、未だ解明されていない。可能性が考えられる1つの機構としては、ケモカインの結合による受容体の活性化が挙げられる。ケモカインの結合によって、ウイルス感染に対して細胞が耐性になり、及び/または、細胞内でのウイルスの複製が防止されるシグナルトランスダクションの事象が細胞内に惹起こされる。インターフェロン誘導の場合と同様に、細胞がウイルス感染に対して耐性となるように、または抗ウイルス状態が確立されるように、細胞が分化するのかもしれない。あるいは、第2の機構としては、ケモカイン結合によって共受容体にウイルスエンベロープ糖タンパク質が接近することが阻害され、これによる細胞内へのウイルスの侵入の直接的な干渉がなされることが挙げられる。この機構において、G−タンパク質シグナル伝達は、HIV感染のケモカイン抑制には必要でない。
【0082】
ウイルスまたはHIV感染に対する共受容体として機能しうる、88Cまたは88-2Bによる2つの機構を区別するために、受容体へのケモカイン結合をシグナルトランスダクションから分け、そしてウイルス感染の抑制へのケモカインの効果を調べる。
【0083】
G−タンパク質によって媒介されるシグナル伝達を阻害する化合物を添加することによって、リガンド結合をシグナルトランスダクションから分かつことができる。これらの化合物には、例えば、百日咳毒及びコレラ毒が含まれる。加えて、下流のエフェクターポリペプチドは、ウォートマンニン(wortmannin)などの他の化合物によって阻害されうる。もしウイルス感染の抑制にG−タンパク質シグナル伝達が関わっているのであれば、かような化合物を添加することでケモカインによるウイルス感染の抑制は妨げられるであろう。あるいは、G−タンパク質のカップリングに必要な、88Cまたは88-2B受容体の鍵となる残基または受容体ドメインを、G−タンパク質のカップリングを改変または破壊させるが、ケモカイン結合には影響を及ぼさないように改変または欠失させることができる。
【0084】
これらの条件の下に、ケモカインがウイルスまたはHIV感染を抑制できなければ、G−タンパク質を通じたシグナル伝達がウイルスまたはHIV感染の抑制に必要なのである。しかしながら、もしケモカインがウイルス感染を抑制することができれば、その場合はG−タンパク質シグナル伝達経路はウイルス感染のケモカインによる抑制には不要なのであり、ケモカインの保護的効果は、ウイルスに対する受容体の利用可能性のケモカインによる阻害に起因するかもしれないと考えられる。
【0085】
他の研究手段として、88Cまたは88-2Bに対して作製した抗体の使用が挙げられる。G−タンパク質シグナル伝達を導き出さないことが示されうる、88Cまたは88-2Bに結合する抗体は、ケモカインまたは受容体のウイルス結合部位への接近を阻害するかもしれない。88Cまたは88-2Bに対する抗体の存在下にウイルス感染が抑制されれば、その場合にはケモカインの保護的効果の機構は、その受容体へのウイルスの接近を阻害することにある。Fengらは、フシン受容体のアミノ末端に対する抗体は、HIV感染を抑制すると報告した(Fengら、1996)。
【0086】
[実施例7]
HIV感染における88C及び88-2Bの役割の輪郭をさらに明らかにするために、88Cまたは88-2Bで細胞を安定に形質転換させた。Kimpton及びEmermen、「Detectionof Replication-Competent and Pseudotyped Human Immunodeficiency Virus with aSensitive Cell Line on the Basis of Activation ofan IntegratedBeta-Galactosidase Gene」J.Virol、66巻5号、3026〜3031頁(1992)は、以前に指標(indicator)細胞系を記載しており、当該細胞は、本明細書にてHeLa−MAGI細胞とする。HeLa−MAGI細胞は、核に局在したβ−ガラクトシダーゼ遺伝子の発現を駆動する、統合されたHIV−1LTRのみならず、CD4も発現するように安定に形質転換されているHeLa細胞である。細胞でのHIVプロウイルスの統合によって、ウイルスのトランス活性化物質であるTatの生産が導かれ、次にβ−ガラクトシダーゼ遺伝子の発現が開始される。insitu でβ−ガラクトシダーゼ活性に対してX−galで陽性に染まる細胞の数は、感染細胞数に直接比例するものである。
【0087】
これらのHeLa−MAGI細胞は、実験室で馴化したHIV−1の分離株を検出することができるが、初代分離株についてはごくわずかしか検出できず[Kimpton及びEmermen、前出]、そしてほとんどのSIV分離株は検出できない[Chackerianら、「Characterizationof a CD4-Expressing Macaque Cell Line that can Detect Virus After A SingleReplication Cycle and can be infected by Diverse Simian Immunodefi-ciency VirusIsolates」Virology、213巻2号、6499〜6505頁(1995)]。
【0088】
加えて、Harrington及びGeballe、「Co-FactorRequirement for Human Immunodeficiency Virus Type 1 Entry into a CD4-ExpressingHuman Cell Line」J.Virol、67巻、5939〜5947頁(1993)は、CD4及び同じLTR−β−ガラクトシダーゼ構築体を発現するように作出されていたU373細胞に基づく細胞系を記載していた。この細胞系(本明細書中では、U373−MAGIとしする)は以前に、HIVのいずれのHIV(MまたはT向性(tropic))株でも感染できないが、HeLa細胞との融合によって感受性とすることができることが示されていた[Harrington及びGeballe、前出]。
【0089】
マクロファージまたはT細胞向性ウイルスのいずれかを検出できる指標細胞系を構築するために、エピトープでタグ付けをした88Cまたは88-2BをコードするDNAを、HeLa−MAGIまたはU373−MAGI細胞にレトロウイルスベクターを用いた感染によってトランスフェクトし、それぞれHeLa−MAGI−88CまたはU373−MAGI−88C細胞系をつくった。細胞表面での共受容体の発現は、抗FLAGM1抗体及びRT−PCRを使用して生存細胞を免疫染色することによって立証した。
【0090】
HeLa−MAGI−88C及びU373−MAGI−88Cを構築するために利用した88C及び88-2B遺伝子は、プロラクチンシグナルペプチドと、それに続く、実施例4に記載したようなFLAGエピトープをコードする配列を含んでいた。この遺伝子を、レトロウイルスベクターのpBabe-Puro[Morgenstern及びLand、NucleicAcids Research、18巻12号、3587〜3596頁(1990)]に挿入した。VSV−Gタンパク質で偽分類した(pseudo-typed)タイターの高いレトロウイルスベクターのストックを、Bartxら、J.Virol、70巻、2324〜2331頁(1996)に記載のごとくに一過性トランスフェクションによってつくり、そしてHeLa−MAGI及びU373−MAGI細胞を感染させるために使用した。0.6μg/mlのピューロマイシン(HeLA)または1μg/mlのピューロマイシン(U373)に対して耐性の細胞を集めた。各プールには、少なくとも1000の別個のトランスダクションの事象が含まれていた。元のHeLa−MAGI細胞の早期継代(第2継代)のストック[Kimpton及びEmerman、前出]を使用して、HeLa−MAGI−88C細胞を作出した。
【0091】
指標細胞系のHIVによる感染は、12ウェルのプレートにて、前記の通りDEAE−Dextranの30μg/ml存在下に300μlのウイルスを連続的に10倍に希釈して実施した[Kimpton及びEmerman、前出]。
【0092】
すべてのHIV株及びSIVmac239は、NIH AIDS Reference and ReagentProgramから入手した。初代のHIV−27312A[Gaoら、「Genetic Diversity of HumanImmunodefi-ciency Virus Type 2: Evidence for Distinct Sequence Subtypes withDifferences in Virus Biology」、J.Virol、68巻11号、7433〜7447頁(1992)]及びSIVsmPbj1.9[Dewhurstら、「SequenceAnalysis and Acute Pathogenici-ty of Molecular Cloned SIVs1nm-PBj14」Nature、345巻、636〜640頁(1990)]の分子クローンは、B.Hahn(UAB)から入手した。他のSIVmne分離株はすべてJulieOverbaugh(U. Washington、Seattle)から入手した。クローニング化したプロウイルス由来のストックは、293細胞の一過性トランスフェクションによって作製した。他のウイルスのストックは、ヒト末梢血単核細胞にてまたはCEMx174細胞(SIVストック用)にて、ウイルスを継代することで作製した。ウイルスストックの標準化は、HIV−1及びHIV−2/SIVについてそれぞれ、ELISAまたはp24gag(CoulterImmunology)またはp27gag(Coulter Immunology)によって、製造業者によって提供された標準技術を用いて行った。
【0093】
U373−MAGI-88C細胞及びU373−MAGI細胞(対照)は、HIV−1のT向性株(HIVLAI)、M向性株(HIVYU-2)、及びSIV分離株であるSIVMAC239を限界希釈して感染させた。感染性は、ウイルスの単位容量当たりウェル当たりの青色細胞数を計数することによって測定した(表2)。
【0094】
【表2】

【0095】
感染後2日目に、細胞を固定し、X−galでβ−ガラクトシダーゼ活性に対する染色を行った。U373由来のMAGI細胞は、37℃にて120分間染色し、HeLa由来のMAGI細胞は、37℃にて50分間染色した。バックグラウンドたる非感染細胞の染色は、ウェル当たりおよそ3つの青色細胞を越えることはなかった。濃青色の細胞のみを計数し、複数の核を有するシンシチウムは、単一の感染細胞として計数した。感染のタイターは、ウェル当たりの青色細胞の数にウイルスの希釈率をかけて1mlに標準化したものである。U373−MAGI−88C細胞へのHIVYU-2のタイターは、2 x 106であった。これに対して、U373−MAGI−88C細胞へのHIVLAIのタイターは、100未満であった。しかして、88Cに対する特定のHIV株の特異性は、4桁の大きさで変動するものであった。
【0096】
SIVMAC239の感染は、U373−MAGI−88Cで4 x 105に増大したが、このウイルスは明らかにU373−MAGI細胞を感染した(表2)。
【0097】
次に、一連のクローン化されていない初代HIV株及びクローン化されたHIV−1のM向性株を、88Cを発現している指標細胞系の感染能力について分析した。
【0098】
前記したように、HeLa−MAGI及びHeLa−MAGI−88C細胞を、様々なHIV株を限界希釈して感染させた。2つのクローン化されたM向性ウイルスである、HIVJR-CSF及びHIVYU-2は、双方ともHeLa−MAGI−88Cを感染したがHeLa−MAGI細胞は感染せず、双方の株が88Cを共受容体として使用することが示された(表3、注記cを参照のこと)、しかしながら、これら2つのウイルス株の各々がHeLa−MAGI−88C細胞を感染する能力には大きな格差が観察され、すなわち、HIVYU-2については6.2x 105 IU/mlであり、HIVJR-CSFについては1.2 x 104 IU/mlであった。ウイルスストックの感染性(表3)は、物理的粒子数(ここでは、ウイルスコアタンパク質の量で表す)当たりの感染単位数である。加えて、これらの2つのクローン化されたウイルス株の感染性は、別々に調製されたウイルスストックで50倍を越える相違があることが観察された。
【0099】
本来のウイルスの分離株の感染性の多様性について、3つの異なるクレード由来のクローン化されていないウイルスストックの異なる12種を収集したものを分析することによってさらに実験した(表3)。地理学的に別種の起源より由来する、3つのクレードA初代分離株、3つのクレードE分離株、及び3つのさらなるクレードB分離株を使用した。すべての9つの株で、HIVの初代株は、HeLa−MAGI−88C細胞で検出できたが、HeLa−MAGI細胞では検出できなかった(表3)。しかしながら、感染効率は、ngのp24gag当たり5感染単位から、ngのp24gag当たり100感染単位を越えるまで、様々であった(表3)。これらの結果から、M向性株の絶対的な感染性はかなり変動するものであり、クレードとは無関係であることが示唆される。このような不一致を説明しうる仮説は、CD4結合の後の88Cに対する各ウイルス株のV3ループの親和性に関するものでありうる[Trkolaら、Nature、384巻6605号、184〜187頁(1996);Wuら、Nature、384巻6605号、179〜183頁(1996)]。
【0100】
【表3】

【0101】
HeLa−MAGI−88C細胞のHIV−2及び他のSIV株検出能力も調べた。HIV−2Rodは、CD4が存在しなくても受容体としてフシンを使用することが報告されている[Endresら、Cell、87巻4号、745〜756頁(1996)]。HIV−2Rodは、HeLa−MAGI細胞に感染することができるのであるが、その感染性は、HeLa−MAGI−88C細胞で少なくとも10倍増強される(表4)。HeLa細胞は、内在的にフシンを発現している。しかして、HIV−2Rodの分子クローンは双向性であり、CXCR4に加えて、その共受容体の1つとして88Cを使用することができる。同様に、HIV−27312Aの初代株は、HeLa−MAGI−88C細胞に感染したが、HeLa−MAGI細胞は感染せず、HIV−1の初代株と同様に、受容体として88Cを使用していることが示唆される。
【0102】
【表4】

【0103】
試験を行ったSIV株のいずれも、HeLa−MAGI細胞に感染せず(表4)、また、88-2Bを発現しているHeLa−MAGI細胞に感染したものもなかった。このことから、U373細胞でSIVによって使用される択一的共受容体は、HeLa細胞では発現されておらず、またそれは88-2Bではないことが示唆される。試験を行ったすべてのSIV株は、ある程度HeLa−MAGI−88C細胞に感染した(表3)ので、かかる試験されたSIV株のすべてが、それらの共受容体のうちの1つとして少なくとも88Cを使用することが示唆されるものである。
【0104】
HIVのM向性及びT向性株の分類は、従来より、他の命名に従う「非シンシチウム誘導性」(NSI)及び「シンシチウム誘導性」(SI)にそれぞれ関連付けられることがよくある。本明細書に記載の細胞系に基づくアッセイは、シンシチウム形成に対して感受性である。感染された細胞は、複数の核を含んだ、大小の感染巣を形成することができる[Kimpton及びEmerman、前出]。
【0105】
複数の異なるウイルス株及びU373−MAGI−88CまたはHeLa−MAGI−88Cを使用した実験によって、正しい共受容体が存在していればすべてのウイルス株がシンシチウムを形成したので、SI/NSIの命名は意味をなさないことが示唆される。これらの実験から、向性による示唆よりむしろシンシチウム形成が、感染細胞における適切な供受容体の存在の指標であるらしいことが示される。文献で、非シンシチウム形成株であると報告されている、特にSIVMAC239、SIVMNEc18、及びSIVMNE170のSIV株でのHeLa−MAGI−88C細胞については、単層に誘導されたシンシチウムのサイズが、他のいかなるHIV株によって誘導されたもののサイズよりも随分大きかったので、その感染が顕著であった。
【0106】
[実施例8]
88Cを特異的に認識するモノクローナル抗体を調製した。抗体は、88Cのアミノ末端の20のアミノ酸に対応するペプチドでマウスを免疫付けすることによって製造した。ペプチドは、製造業者の指示(Pierce、Imjectマレイミド活性化KLH)に従って、Keyhole Limpet Cyanin(KLH)に接合し、完全フロインドアジュバントに懸濁して5匹のマウスに注射した。3週間の間隔で不完全フロインドアジュバントに懸濁した接合ペプチドのさらなる注射を2回行った。最後の注射から10日後に、5匹の各々のマウスからの血清を、ELISAによって前記20アミノ酸のペプチドとの免疫反応性について試験した。加えて、血清の免疫反応性は、蛍光活性化細胞分取(FACS)により、293細胞の表面上に発現される完全な88C受容体に対して試験した。最高の抗88C活性を有するマウスを脾臓細胞融合用及び標準実験法によるモノクローナル抗体の製造用に選択した。ELISAによってペプチドを認識し、FACSによって293細胞上の88Cタンパク質を認識する抗体を製造する、5つのモノクローナル細胞系(227K、227M、227N、227P、227R)を樹立した。各抗体は、88Cを発現している293細胞のみと反応し、密接に関連したMCP受容体(CCCKR−2)を発現している293細胞とは反応しないことが示された。各抗体は、COS細胞で一過性に発現される88Cを認識することも示された。
【0107】
88Cに対して、ウサギポリクローナル抗体も作製した。2羽のウサギに、前記の接合されたアミノ末端ペプチドを注射した。さらにウサギは、接合アミノ末端ペプチドで4回の免疫付けを行った。各ウサギ(2337J及び2470J)からの血清を、88Cを発現している293細胞のFACSによって調べた。血清は、293細胞の表面上にある88Cを特異的に認識した。
【0108】
5つの抗88Cモノクローナル抗体を、SIV(HIVに密接に関連する、サル免疫不全ウイルス)による細胞の感染をそれら抗体が阻害する能力について試験した[Lehnerら、NatureMedicine、2巻、767頁(1996)]。正常時にはSIVによる感染に対して感受性を有するサルCD4+ T細胞を、1:5に希釈した抗88Cモノクローナル抗体上清の存在下にSIVmac32HJ5クローンとインキュベートした。逆転写酵素(RT)検出及び定量方法(Quan-T-RTアッセイキット、Amersham、ArlingtonHeights、イリノイ)を使用して、9日目に逆転写酵素(RT)を定量することによってSIV感染を測定した。抗体のうち4つが、SIV感染を阻害することができた。すなわち、227Kは53%、227Mは59%、227Nは47%、そして227Pは81%阻害できた。抗体227Rは、SIV感染を阻害しなかった。
【0109】
ヒト88Cアミノ末端ペプチドに対して作製した5つのモノクローナル抗体は、マカーク88C(配列番号:X)(アミノ末端ペプチド領域でヒト88Cと異なる2つのアミノ酸を有する)に対する反応性についても試験した。ヒト88C及びマカーク88Cのコード領域を、発現ベクターpcDNA3(Invitrogen)にクローニングした。これらの発現プラスミドを、DEAEを使用してCOS細胞にトランスフェクトするために使用した。陰性の対照として、空のベクターを使用した。トランスフェクションから3日後に、細胞を回収して、5つの抗88Cモノクローナル抗体とインキュベートし、そしてFACS用に調製した。その結果、5つの抗体のうち4つ(227K、227M、227N、227P)は、マカーク88Cを認識したが、1つ(227R)は認識しなかった。5つの抗体はすべて、トランスフェクトされたヒト88Cを認識し、ベクター単独でトランスフェクトした細胞と交叉反応するものはなかった。
【0110】
[実施例9]
本発明のケモカイン受容体のリガンド及びモジュレーターを同定するために、さらなる方法を使用してもよい。1つの実施態様において、本発明はリガンドのための直接アッセイを企図する。検出可能に標識付けされた供試化合物を、機能性のコンフォメーションにあるケモカイン受容体を呈示している膜調製物に曝す。例えば、HEK−293細胞、または組織培養細胞を、ケモカイン受容体をコードする発現媒体を用いてトランスフェクトする。次いで、ケモカイン受容体を発現しているかかるトランスフェクトされた細胞から、膜調製物を得る。膜調製物は、125Iで標識付けされた供試化合物(例えば、ケモカイン)に曝し、好適な条件(例えば、37℃にて10分間)下でインキュベートする。次に、いくらか結合した供試化合物とともに、真空濾過によってフィルター上に膜を集め、結合していない供試化合物を除去するために洗浄する。その後、フィルターを液体シンチレーションスペクトル光学測定に供することによって、結合した供試化合物に会合している放射性活性を定量する。供試化合物結合の特異性は、標識付けしていない供試化合物をアッセイ系に増加量存在させて実験を繰り返し、受容体への結合についての競合のレベルを知見することによって確認しうる。これらの結合アッセイによって、ケモカイン受容体結合のモジュレーターも同定することができる。先に述べた結合アッセイに、以下の改変を加えて実施してもよい。検出可能に標識付けされた供試化合物に加えて、モジュレーターの可能性がある物質を膜調製物に曝す。膜に会合した標識の量の増加によってモジュレーターの可能性を有する物質は活性化物質であることが示唆され、膜に会合した標識の量の減少によってモジュレーターの可能性を有する物質は阻害物質であることが示唆される。
【0111】
別の実施態様において、本発明は、Gタンパク質へのケモカイン受容体のカップリングを利用する受容体リガンドを同定するための間接アッセイを企図する。Linderら、Sci.Am.、267巻56〜65頁(1992)に概説されるように、シグナルトランスダクションに際して、活性化された受容体はGタンパク質と相互作用し、次に、Gタンパク質を活性化する。Gタンパク質は、GDPをGTPに交換することによって活性化される。次いで起こるGタンパク質が結合したGTPの加水分解によってGタンパク質は不活性化される。従って、Gタンパク質のための1つのアッセイでは、[γ-32P]−GTPからの32Pの遊離がモニターされる。例えば、本発明にかかるプラスミドを収容しているおよそ5x 107のHEK−293細胞が、MEM+10% FCS中で生育される。生育培地には、均一にヌクレオチドプールを標識付けするために、2時間にわたって5mCi/mlの[32P]−リン酸ナトリウムが追加される。続いて細胞を、リン酸塩の低い等張性緩衝液で洗浄する。洗浄後の細胞の一アリコートは、次いで供試化合物に曝され、他方細胞の第二のアリコートは、供試化合物に曝されないことを除いて同様に処理される。インキュベーション時間(例えば、10分間)を経過した後、細胞をペレット化し、溶解して1M LiClでの展開による薄層クロマトグラフィーを使用して、ヌクレオチド化合物を分画する。標識付けしたGTP及びGDPを、既知の標準物質と共に展開することによって同定する。標識付けされたGTP及びGDPは、次いで当該技術分野における標準技術であるオートラジオグラフィー技術によって定量する。32Pで標識付けされたGDPが比較的高レベルであれば、供試化合物がリガンドとして同定される。このタイプのGTP加水分解アッセイは、ケモカイン受容体結合のモジュレーターの同定のためにも有用である。前記のアッセイは、モジュレーターの可能性がある物質の存在下に実施される。32Pで標識付けされたGDPを生産する、GTP加水分解が相対的に増加することによって惹起こされるシグナルの増強によって、受容体活性の相対的な増加が示唆される。従って、シグナルが増強することによって、モジュレーターの可能性を有する物質が活性化物質として同定される。逆に、受容体活性の減少の指標たる、32Pで標識付けされたGDPに対するシグナルが相対的に低減することによって、ケモカイン受容体結合の阻害物質として、モジュレーターの可能性を有する物質が同定される。
【0112】
Gタンパク質エフェクター分子(例えば、アデニル酸シクラーゼ、ホスフォリパーゼC、イオンチャンネル、及びホスフォジエステラーゼ)の活性もまた、アッセイに適用できる。これらエフェクター分子の活性のためのアッセイは、以前に述べられている。例えば、環状アデノシンモノホスフェート(cAMP)の合成を触媒するアデニル酸シクラーゼは、Gタンパク質によって活性化される。従って、Gタンパク質を活性化するケモカイン受容体へのリガンド結合が、次にアデニル酸シクラーゼを活性化し、よって、本発明の組換え宿主細胞におけるcAMPレベルをモニターすることによって当該リガンド結合を検出することができる。当該技術分野において理解される適切な対照実験を実行して、細胞内cAMPレベルの上昇を、リガンドで誘導された受容体活性の増大に帰することができ、それによってリガンドが同定される。また、当該技術分野において理解される対照を使用して、cAMPの濃度が相対的に低下することで、受容体活性の阻害物質が間接的に同定されよう。cAMPの濃度は、市販の酵素免疫アッセイによって測定することができる。例えば、BioTrakキットは、競合的免疫アッセイ用の試薬を提供するものである。(Amersham,Inc.、Arlington Heights、イリノイ)。製造業者の推奨事項に従ってこのキットを使用して、標識付けしていないcAMPと、西洋ワサビペルオキシダーゼを接合したcAMPとの競合を含むように、反応を設計する。標識付けしていないcAMPは、例えば、本発明のケモカイン受容体発現している活性化細胞から得てもよい。2つの化合物を、固定化された抗cAMP抗体への結合について競合させる。競合反応の後に、固定化された西洋ワサビペルオキシダーゼ−cAMP接合体をテトラメチルベンジディン/H22単一ポット基質を使用した酵素アッセイによって、450nmに生じる呈色反応産物の検出を用いて定量する。この結果によって、当該技術分野における標準的な技術を使用して、標識付けされていないcAMPのレベル算出の基礎が提供されるのである。ケモカイン受容体へのリガンド結合を同定することに加えて、cAMPアッセイは、ケモカイン受容体結合のモジュレーターを同定するためにも使用することができる。本発明の組換え宿主細胞を使用し、ケモカイン受容体結合のモジュレーターの可能性を有する物質を添加して前記の通りにアッセイを実施する。当該技術分野において理解される対照を使用することによって、細胞内cAMPレベルの相対的な増加または減少が、アデニル酸シクラーゼ活性の活性化または阻害を反映する。代わってアデニル酸シクラーゼ活性のレベルは、興味の対象であるケモカイン受容体の相対的な活性を反映する。相対的にケモカイン受容体活性のレベルが上昇していれば活性化物質が同定され、相対的に受容体活性のレベルが低下していればケモカイン受容体活性の阻害物質が同定される。
【0113】
本発明を、特定の実施態様に関して記載しているが、当業者にあっては変更及び修飾が想起されるであろうことは理解される。従って、本発明は請求の範囲によってしか限定を受けるべきではない。
【0114】
[配列表]





















【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:2に記載のアミノ酸配列または生物学的に活性なその断片で表されることを特徴とする、ケモカイン受容体88Cに対して相互作用し得るリガンドを同定する方法であって、以下の工程、すなわち;
(1) 当該受容体または生物学的に活性なその断片を発現する宿主細胞、または、当該受容体または生物学的に活性なその断片を含む膜調製物を準備し、
(2) 当該受容体または生物学的に活性なその断片とリガンドとを接触させてから、インキュベーションし;および
(3) 当該受容体または生物学的に活性なその断片に対して特異的な相互作用を示すリガンドの存在を同定する、
工程を含む、方法。
【請求項2】
前記断片が、配列番号:2の第1位〜第32位、第56位〜第67位、第89位〜第112位、第125位〜第145位、第166位〜第191位、第213位〜第235位、第259位〜第280位、または、第301位〜第352位のアミノ酸を有する請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記リガンドが、標識付けされている請求項またはに記載の方法。
【請求項4】
前記リガンドが、アゴニストまたはアンタゴニストである請求項乃至のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
グナルトランスダクション経路の成分の濃度または活性レベルを測定して、前記相互作用を同定する請求項乃至のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記シグナルトランスダクション経路を、カルシウム濃度、IP3濃度、GTP加水分解、および、ホスフォリパーゼC活性からなるグループから選択される活性を測定して同定する請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記ケモカイン受容体88Cが、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の類似体、または生物学的に活性なその断片であることを特徴とし、かつ、当該類似体が、以下のアミノ酸配列、すなわち;
【化1】

のアミノ酸配列を有していない請求項乃至のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
記受容体または生物学的に活性なその断片が、リガンドに加えて、試験化合物とも接触させてから、インキュベーションを行う請求項乃至のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
記細胞または前記細胞膜調製物が、CHO-K1、HEK293、BHK21、および、COS-7からなるグループから選択される請求項乃至のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
配列番号2で示される88Cアミノ酸配列を含むポリペプチドに特異的に結合する、抗体産物。
【請求項11】
配列番号20で示されるマカーク88Cアミノ酸配列を含むポリペプチドに特異的に結合する、抗体産物。
【請求項12】
治療における使用のための、請求項10または11に記載の抗体産物。
【請求項13】
HIV感染およびHIVに関連する疾患の状態の処置のための、請求項10または11に記載の抗体産物。

【公開番号】特開2009−65976(P2009−65976A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285973(P2008−285973)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【分割の表示】特願2000−401708(P2000−401708)の分割
【原出願日】平成8年12月20日(1996.12.20)
【出願人】(508082577)
【Fターム(参考)】