説明

ケーブルシースおよびその製法

【目的】 作業効率が高く、カビの発生を抑制し、作業者の健康を害するおそれのないケーブルシースおよびその製法を提供する。
【構成】 可塑剤を含むポリ塩化ビニル組成物からなる被覆層の表面に可塑剤移行防止層を設ける。また、前記可塑剤移行防止層の厚さを100μm以上とする。ポリ塩化ビニル組成物からなる被覆層と、可塑剤移行防止層とを被覆してケーブルシースとする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えば洞道内に布設されるケーブルシースに関して、製造効率が高く、カビの繁殖を抑え、人体への有害性を排除したものである。
【0002】
【従来の技術】従来、ケーブルシースとしては、汎用樹脂の中では機械的強度が大であり、耐薬品性、耐候性、耐熱性に優れることから、ポリ塩化ビニルが広く用いられている。しかし、ポリ塩化ビニルは結晶度が低い、流動性が悪いなどの欠点をも有し、成形加工に適する望ましい物性を得るためには、ジオクチルフタレート(DOP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ジトリデシルフタレート(DTDP)、トリクレジルホスフェート(TCP)などの可塑剤および、ステアリン酸カドミニウムとステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウムとステアリン酸亜鉛、オルトケイ酸などの安定剤を配合することが不可欠であった。このように添加物を配合して得られたポリ塩化ビニル組成物は、絶縁線心等の上に押出加工によってケーブルシースとされる。
【0003】ところで、このようなケーブルが洞道内に布設された場合には、上記のポリ塩化ビニル組成物中の可塑剤がシース表面にわずかづつ移行し、この表面に移行した可塑剤を栄養源としてカビが繁殖することがある。こうしたカビがケーブル特性に与える影響は殆ど無いものの、カビが空気中に高い濃度で存在するようになった場合の人体への影響が懸念される。
【0004】そこで、ケーブルシースに生えるカビを防止するために、ケーブル表面に防カビ塗料を塗布することが広く行なわれてきた。このような防カビ塗料としては、10,10'-オキシビスフェノキシアルシン(以下、バイナジンと称する)、2-(4-チアゾリル)ベンズイミダゾール(以下、ホクスターE50と称する)などの防カビ塗料を主成分としたものが用いられている。
【0005】ところが、このような防カビ塗料は、一般に人体に有害であり、中でも上記のバイナジンは高い毒性を有する有機砒素化合物であるから、塗布作業を行なう作業者が非常な注意を払って直接接触しないようにする必要があった。また、このような塗布作業はケーブルシース押出し後に行なうことから、ケーブルシース押出し後の作業工程が多く、作業効率が低いという問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】よって本発明の課題は、作業効率が高く、カビの発生を抑制し、作業者の健康を害するおそれのないケーブルシースおよびその製法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】かかる課題は、絶縁線心などの上に、従来品同様に可塑剤を含むポリ塩化ビニル組成物からなる被覆層を設け、さらにこの被覆層の表面に可塑剤移行防止層を設けることによって、また、前記の可塑剤移行防止層の厚みを100μm以上に設けてケーブルシースとすることによって解決される。以下、本発明を詳しく説明する。
【0008】本発明のケーブルシースは、絶縁線心等の上に可塑剤を含むポリ塩化ビニル組成物を押出し加工によって被覆し、さらに引続いてこの被覆層の表面に紫外線硬化型樹脂等による可塑剤移行防止層を被覆したものであり、この可塑剤移行防止層を表面に被覆することによって、前記可塑剤が前記ポリ塩化ビニル組成物層中を移行しても、この可塑剤がケーブルシース表面に現れてこの可塑剤にカビが繁殖することを防止したものである。
【0009】上記ポリ塩化ビニル組成物としては、ポリ塩化ビニル樹脂をベースとして用い、ジオクチルフタレート(DOP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ジトリデシルフタレート(DTDP)、トリクレジルホスフェート(TCP)などの可塑剤および、ステアリン酸カドミニウムとステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウムとステアリン酸亜鉛、オルトケイ酸などの安定剤を配合して用いる。このような可塑剤および安定剤を添加することにより、ベースとして用いるポリ塩化ビニルの物性を改善し、成形加工に適し、長期の使用に耐える樹脂組成物を得ることができる。また、この他にも、適当な滑剤、充填剤、衝撃改良剤などの配合剤は任意に加えることができる。
【0010】本発明のケーブルシースの可塑剤移行防止層としては、紫外線硬化型樹脂の中でもラジカル重合型のアクリレート系樹脂、例えばエステルまたはエーテルアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、アミノ樹脂アクリレート、アクリル樹脂アクリレート、不飽和ポリエステルなどが好適に用いられる。
【0011】上記のような紫外線硬化型のラジカル重合型アクリレート系樹脂をケーブルシースの可塑剤移行防止層形成に用いることによって、前記のポリ塩化ビニル組成物中に含まれる前記可塑剤がケーブルシース表面に移行することを封止し、この可塑剤にカビが繁殖することを防ぐことができる。
【0012】また、前述のようにポリ塩化ビニル組成物中に含まれる可塑剤が、ケーブルシース表面に移行することを完全に封止し、カビの繁殖を防止するためには、前記可塑剤移行防止層を厚さ100μm以上、好ましくは100〜1000μmに被覆して設けることが望ましい。
【0013】さらには上記のように、紫外線硬化型のラジカル重合型アクリレート系樹脂を用いて可塑剤移行防止層を形成することによって、前記ポリ塩化ビニル組成物中の前記可塑剤がシース表面に移行することを封止することができるため、シースを被覆した後に改めて防カビ塗料を塗布する必要がなく、従って従来の作業工程を短縮することができ、作業効率の向上をはかることができる。しかも、人体に有害な防カビ塗料を使用せずにカビの繁殖を防止することができるため、布設あるいは点検作業などにあたる作業者の健康に悪影響を与えるおそれがない。
【0014】また、本発明のケーブルシースの製法としては、例えば絶縁線心等の上に前記のポリ塩化ビニル組成物を押出して被覆層を施した後、この被覆層の上に紫外線硬化型のラジカル重合型アクリレート系樹脂を塗布し、紫外線を照射して可塑剤移行防止層を設けて形成する方法などが用いられる。
【0015】
【実施例】銅線を撚り合わせてなる導体上に、半導電層を設け、この半導電層の上に絶縁体層を設けた。この絶縁体層の上に半導電性布テープを巻回し、この半導電性布テープの上に遮蔽編組を施し、さらに布テープを巻回してケーブル中心部を形成した。
【0016】重合度1300〜1700のポリ塩化ビニルに、可塑剤としてDOPを50〜80PHR、安定剤として三塩基性硫酸塩を5〜10PHR添加してポリ塩化ビニル組成物を調製した。このポリ塩化ビニル組成物を押出成形機からダイ温度170〜190℃にて、前述のケーブル中心部の上にチューブ状に押出して被覆層を施し、引続きこの被覆層の上に重ねて、紫外線硬化型のラジカル重合型アクリレート系樹脂である「デソライトR1012」(商品名)を塗布し、紫外線を照射してこれを硬化させ、可塑剤移行防止層を形成した。ポリ塩化ビニル組成物による被覆層は厚さ3mmに、紫外線硬化型のラジカル重合型アクリレート樹脂による可塑剤移行防止層は厚さ100μmに形成し、ケーブルシースとした。
【0017】上記のようにして得られたケーブルを洞道内に布設し、従来のケーブルの使用環境と同様に気温20〜30℃、湿度70〜85%の環境の下で約1年間にわたって観察したところ、このケーブルのシースにおけるカビの繁殖は、従来品と比較して、確かに抑制されていることが判った。
【0018】
【発明の効果】本発明のケーブルシースは、絶縁線心の上に、ポリ塩化ビニルに可塑剤および安定剤などの配合物を添加してなるポリ塩化ビニル組成物によって被覆層が施され、この被覆層の上に可塑剤移行防止層が形成されたものである。このようにポリ塩化ビニル組成物による被覆層の上に可塑剤移行防止層を設けたことから、前記のポリ塩化ビニル組成物による被覆層に含まれる可塑剤が、この被覆層中をケーブル表面に向って移行したとしても、前記可塑剤移行防止層によってこのような可塑剤を封止することができ、このような可塑剤がケーブル表面にまで現れることを防止することができる。従って、この可塑剤を栄養源としてケーブル表面にカビが繁殖することを防止することができる。
【0019】また、本発明のケーブルシースの製法は、絶縁線心上に、ポリ塩化ビニルに可塑剤および安定剤などの配合物を加えたポリ塩化ビニル組成物による被覆層を施した後、このポリ塩化ビニル組成物による被覆層の上に紫外線硬化型のラジカル重合型アクリレート系樹脂などによる被覆を施して可塑剤移行防止層を形成するものである。このように本発明のケーブルシースの製法においては、ポリ塩化ビニル組成物による被覆層と、紫外線硬化型樹脂による可塑剤移行防止層との連続被覆によりシースを形成し、可塑剤移行防止層によってポリ塩化ビニル組成物中の可塑剤がシース表面に移行することを封止できることから、可塑剤がシース表面に移行してこの可塑剤を栄養源としてカビが繁殖するおそれがなく、従ってシース被覆後に改めて防カビ塗料を塗布する必要がない。
【0020】したがって、本発明のケーブルシースの製法によれば、従来の作業工程を簡略化することができ、作業効率の向上をはかることができる。また、人体に有害な防カビ塗料を使用せずにカビの繁殖を防止することができ、布設あるいは点検作業などにあたる作業者の健康に悪影響を与えるおそれがない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 可塑剤を含むポリ塩化ビニル組成物からなる被覆層の表面に可塑剤移行防止層を設けたことを特徴とするケーブルシース。
【請求項2】 請求項1記載のケーブルシースにおいて、可塑剤移行防止層の厚さが100μm以上であることを特徴とするケーブルシース。
【請求項3】 ポリ塩化ビニル組成物からなる被覆層と、可塑剤移行防止層とを被覆することを特徴とするケーブルシースの製法。