説明

ケーブル探査方法及びケーブル探査装置

【課題】プラント内のケーブル探査作業においてノイズ環境下であっても複数の作業班が並行して探査可能にして作業時間を短縮する。
【解決手段】互いに異なる探査対象ケーブルに電気信号を印加する複数の送信機と、ケーブルに流れる電流を検出する磁電変換素子と、電気信号の位相情報により探査対象ケーブルを判定する受信機を備え、電気信号は、予め定めた第一の位相情報を割り付けた複数のサブキャリアを持つ直交周波数分割多重信号を用い、複数の送信機の送信する電気信号は互いに異なるサブキャリアを持ち、受信機は受信した電気信号のうち、第一の送信機がサブキャリアに割り付ける第一の位相情報とサブキャリアの周波数情報を予め格納する割当位相情報格納部と、同一周波数のサブキャリアから第二の位相情報を取得する位相情報取得部と、第二の位相情報と第一の位相情報の差を用いて探査対象ケーブルであるか否かを判定する位相判定部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブル探査方法及びケーブル探査装置に係り、特に、既に敷設されているケーブルの敷設経路及び接続先を探査するのに好適なケーブル探査方法及びケーブル探査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所、産業プラント及びビルなどの施設では、機器の状態監視、制御及び電力供給のためのケーブルが施設内に敷設されている。ケーブルは、ケーブルトレイ内に施工図面を基にして敷設されるため、どの経路を通っているかは既知の場合が多い。ケーブルトレイには、計測用、制御用、低圧動力用、高圧動力用の各ケーブルが載っており、それぞれのケーブルが、異なるケーブルトレイに分けられている場合もあれば、区別なく1つのケーブルトレイに混在している場合もある。1つのケーブルトレイ内には、数本から数十本、場合によっては100本を超えるケーブルが敷設されている。
【0003】
各ケーブルは、1芯のケーブル及び多芯(2芯以上)のケーブルを含んでおり、更に、シールドの有無、太さ及び敷設長も様々である。各ケーブルの末端部には、様々な機器が接続されている場合もあれば、何も接続されていない場合もある。
【0004】
このような施設では、ケーブルの劣化による短絡事故及びデータ伝送不良を防ぐために、ケーブルを交換したり、あるいは新しい機器の設置に伴い、古い機器で使用していたケーブルを撤去したりする場合がある。ケーブルの交換及び撤去において、ケーブルトレイ内に敷設された各ケーブルの末端部から目的のケーブルのみを引き抜くことは、目的のケーブルがケーブルトレイ内で他のケーブルと絡み合っていたり、目的のケーブル自体がケーブルトレイ及び他のケーブルと結束されていたりして困難な場合がほとんどである。このようなときには、末端部からケーブルを辿っていき、適当な箇所で切断し引き抜く作業を繰り返すことになる。しかしながら、ケーブルを目視でたどる作業は非常に困難である。例えば、壁及び天井の貫通部、ケーブルダクトといった、目視でケーブルをたどれない場所では、どれが目的のケーブルであるかを判別することが難しい。
【0005】
このような問題に対して、特許文献1では探査対象ケーブルに探査用信号を流し、この信号を捕らえてケーブルを識別するケーブル探査方法が記載されている。この方法は、探査用信号を目的のケーブルの導体部分に印加して流し、そのケーブルの周囲に発生する磁界及び電界を検出することによりケーブルを判別する。このような方式にすることでこれまで困難だった作業が実施できるようになる。
【0006】
一方で、特に原子力発電プラントにおいては定期検査期間が可能な限り短い方がよく、そのためには複数の作業班に分かれてそれぞれの作業班が並行してケーブルを探査する方法が有効である。しかし、特許文献1に示されている方法では、同一の固定周波数を用いているため、複数の送信機からの信号が互いに干渉するため識別できなくなり、そのため同時に複数の作業班が並行して探査作業をすることができない可能性がある。
【0007】
特許文献2では、このような要求に対して送信機の周波数を互いに異なるものとすることで干渉を抑制し、同時探査を可能とする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001―324530号公報
【特許文献2】特開平9―203761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1および特許文献2はいずれも以下の点で問題がある。プラント内にて使用する場合には、ケーブル探査装置の周辺や探査したいケーブルの周辺にある機器やケーブルからノイズが放射されていることが多く、このノイズによって探査できない可能性がある。制御用ケーブルについては電灯用の電源としても使用している場合がありインバータノイズが重畳していたり、計装ケーブルについても電気信号を伝送するためにノイズを多く放射する場合がある。この周辺では数百kHzから数MHzの電磁界ノイズが非常に多い。
【0010】
特許文献1によると、このようなノイズが探査信号と同一周波数である場合に周波数を変える手段が無いため探査できなくなる可能性がある。
【0011】
また、特許文献2については周波数は可変であるが、例えば選択できる周波数が少ない場合、すでに他の送信機で使用している周波数は使用できない。また受信機はプラント内のさまざまな場所に移動するためノイズの周波数がそれぞれ異なる場合がある。そのたびに他の送信機と同一とならない周波数を他の作業班と調整しながら設定するのは探査作業に寄与しない時間が多くなり、つまりは探査期間が長くなるという問題が残る。そのため実際のプラント内での作業を想定した場合、ノイズがある環境で複数の作業班が同時に探査作業できるようにすることは重要な課題である。
【0012】
本発明の目的はケーブル探査装置においてノイズ環境下であっても複数の作業班が並行して探査可能として作業時間を短縮することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、複数のケーブルのうち、互いに異なる探査対象とするケーブルに電気信号を印加する複数の送信機と、探査対象とするケーブルに流れる電流を電気信号として検出する磁電変換素子と、電気信号の位相情報で探査対象とするケーブルであるか否かを判定する受信機を備えたケーブル探査装置において、探査対象とするケーブルに印加する電気信号は、予め定めた第一の位相情報を割り付けた複数のサブキャリアを持つ直交周波数分割多重信号を用い、複数の送信機の送信する電気信号は互いに異なるサブキャリアを持つ直交周波数分割多重信号からなり、受信機は、印加する電気信号の少なくとも一部のサブキャリアを受信する磁電変換素子と、複数の送信機のうちの第一の送信機がサブキャリアに割り付ける第一の位相情報とサブキャリアの周波数情報を予め格納する割当位相情報格納部と、磁電変換素子で受信した電気信号のサブキャリアのうち第一の送信機から送信するサブキャリアと同一の周波数からなるサブキャリアから第二の位相情報を取得する位相情報取得部と、第二の位相情報と第一の位相情報の差で得られる結果を用いて探査対象とするケーブルであるか否かを判定する位相判定部を有することを特徴とする。
【0014】
また、ケーブル探査装置において、位相情報取得部は、サブキャリアの位相情報を取得する位相検出部と、割当位相情報格納部の割当位相情報からの位相変化量を計算する位相減算部と、予め定めた時点の位相情報を補正し取得する位相同期部を有することを特徴とする。
【0015】
また、ケーブル探査装置において、位相判定部は、受信した電気信号のサブキャリアのうち第一の送信機から送信するサブキャリアと同一の周波数からなるサブキャリアから取得した第二の位相情報が所定範囲にあるとき探査対象とするケーブルであると判定することを特徴とする。
【0016】
また、ケーブル探査装置において、送信機にはサブキャリア選択手段を備え、送信するサブキャリア周波数を変更可能とすることを特徴とする。
【0017】
また、ケーブル探査装置において、受信機は、サブキャリア選択手段を備え、複数の送信機のうちの1台の送信機が送信するサブキャリアを選択して探査することを特徴とする。
【0018】
また、ケーブル探査装置において、複数の送信機が送信するサブキャリアは、交互に配置されることを特徴とする。
【0019】
また、ケーブル探査装置において、サブキャリアは、交互に配置される部分と、隣接のサブキャリアを同一の送信機で使用する配置となる部分が混在することを特徴とする。
【0020】
また、ケーブル探査装置において、導体に流れる電気信号は探査対象ケーブルに非接触で印加することを特徴とする。
【0021】
また、請求項1乃至8のいずれかに記載のケーブル探査装置において、受信機には検出した信号の信号対雑音レベル比を推定するS/N推定部を設け、予め設定する信号対雑音レベル比を満足する周波数のサブキャリアの位相情報を用いて探査対象とするケーブルであるか否かを判定することを特徴とする。
【0022】
また、ケーブル探査装置において、電気信号の周波数は少なくとも0.1MHz以上5MHz以下の範囲であることを特徴とする。
【0023】
さらに、複数のケーブルのうち、互いに異なる探査対象とするケーブルに電気信号を印加する複数の送信機と、探査対象とするケーブルに流れる電流を電気信号として検出する磁電変換素子と、電気信号の位相情報で探査対象とするケーブルであるか否かを判定する受信機を備えたケーブル探査装置を用いたケーブル探査方法において、互いに異なる探査対象とするケーブルに印加する電気信号は、予め定めた第一の位相情報を割り付けた複数のサブキャリアからなる直交周波数分割多重信号からなり、複数の送信機は互いに異なるサブキャリアで送信し、受信機は、複数の送信機のうちの第一の送信機がサブキャリアに割り付ける第一の位相情報とサブキャリアの周波数情報を予め備え、印加する電気信号の一部またはすべてのサブキャリアを受信し、
受信したサブキャリアのうち第一の送信機から送信するサブキャリアと同一の周波数のサブキャリアから検出する第二の位相情報を取得し、第二の位相情報と予め備える第一の位相情報の差で得られる結果を用いて探査対象とするケーブルであるか否かを判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、探査用信号に複数のサブキャリアからなる直交周波数分割多重信号を用い、更には複数の送信機が異なるサブキャリアを使用するため、周辺機器やケーブルから放射するノイズが多い状況でも同時に複数の探査装置を使用して探査できるようになるため、探査作業時間を短縮できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1A】本発明のケーブル探査装置の時間軸信号波形による模式図。
【図1B】本発明のケーブル探査装置の周波数軸信号波形による模式図。
【図2】本発明の送信機の構成を示すブロック図。
【図3A】本発明の送信機が送信する信号構成例を示す波形図。
【図3B】本発明の送信機が送信する他の信号構成例を示す波形図。
【図3C】本発明の送信機が送信する他の信号構成例を示す波形図。
【図4A】本発明の送信機が送信する他の信号構成例を示す波形図。
【図4B】本発明の送信機が送信する他の信号構成例を示す波形図。
【図5】本発明の受信機の構成を示すブロック図。
【図6】位相減算部での処理概略を示す模式図。
【図7】位相同期ができていない場合の各サブキャリア位相を示すグラフ。
【図8】探査対象ケーブルの信号検出時の各サブキャリア位相を示すグラフ。
【図9】探査対象と異なるケーブルの信号検出時の各サブキャリア位相を示すグラフ。
【図10】探査対象ケーブルの信号検出時の各サブキャリア位相を示すグラフ。
【図11】S/N推定部の処理方法を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施例を以下に図面について説明する。
【実施例】
【0027】
〔基本構成〕
図1A、1Bは本発明の好適な実施例を示す。送信機1aから出力する探査用信号7を電磁変換素子2を用いてケーブル3に印加し、受信機6に接続する磁電変換素子5を用いてケーブル3、4に流れる探査用信号を検出して探査対象であるケーブル3か否かを判定する構成である。図示しないがケーブルはケーブルトレイ内に敷設され、ケーブル3以外にケーブル4等の複数ケーブルを含んでいる。
【0028】
各ケーブル3、4は、同一のケーブルトレイ内の一部または全部の区間にわたって並走して配線されている。各ケーブル3、4の導体の両端は、図示されていないが、端子盤、制御装置、機器及びセンサ等が接続されている。あるいは一部のケーブル3、4は、端子盤、機器及び制御装置に接続されず、開放されているものもある。さらにはケーブル3、4の端部が接地されている場合もある。
【0029】
ケーブル3、4としては、並行ケーブルのほか、多芯ケーブル、単線ケーブル、同軸ケーブル及びシールド付ケーブルなどが用いられる。両端が開放されているケーブルは、例えば新しい機器に替えたために不要になり、ケーブルトレイから引き抜かずにそのまま残しているものである。
【0030】
図1A、1Bでは、電磁変換素子2として例えば誘導結合素子や電流注入プローブ等を用いて非接触で信号を注入しているが、探査対象ケーブル3の導体に直接電極を接触して探査用信号7を印加してもよい。非接触の場合には、ケーブル3、4の端部だけでなく、経路途中からでもケーブル3、4の被覆を剥くことなく信号を印加でき、作業性が高くなって作業時間短縮の効果がある。直接接触して信号を注入する場合には、非接触に比べて低い出力電圧でも信号が印加できるため増幅器の構成が簡単になり小型化が可能になるという効果がある。
【0031】
受信機6に接続する磁電変換素子5は、例えば電流プローブまたはカレントトランスと呼ばれる非接触の検出素子であるが、それ以外にもサーチコイルやループアンテナ等でもよい。磁電変換素子5がループアンテナやサーチコイルの場合には、探査対象ケーブル3から放射する磁界であるか否かを判定するため、比較的広い範囲で判定できるためルートごとの判定に有利で、例えばトレイの分岐点でどちらのルートに探査対象であるケーブル3が敷設されているかを1本1本探査することなく判別できる。そのため、探査作業時間が削減できるという効果がある。一方で、電流プローブを用いれば、確実に1本を特定できる効果がある。
〔探査信号〕
次に、探査用信号7の詳細について説明する。探査用信号7は、直交周波数分割多重(OFDM)方式によって生成されるOFDM信号8からなる。OFDM信号8は複数のサブキャリア301で構成されているが、各サブキャリア301に割り付ける位相情報(割当位相角等の割当位相情報)は予め受信機6で既知とする。
【0032】
図1AにはOFDM信号を時間軸で示した波形を示している。OFDM信号8は有限時間を持つ信号であり、この時間長を1単位として1シンボルと称する。このOFDM信号8を探査用信号7として送信機1から出力する場合、一定数のシンボルを送信してもよいし、あるいは連続的に同一シンボルを繰り返し送信してもよい。
【0033】
図1Bには各サブキャリア301の配置、すなわちOFDM信号を周波数軸で表わした信号波形を示す。送信機1aから送信する信号は、全てのサブキャリア301を送信するのではなく、例えば図に示しているようにサブキャリア番号が奇数のものだけ送信する。一方、送信機1bについては探査信号として出力するOFDM信号のサブキャリア301は偶数のものを用いて、送信機1aとの混信を避ける。
〔送信機〕
図2は本発明の送信機1の構成を説明するブロック図である。送信機1は、探査用信号発生回路11と増幅器12、およびサブキャリア選択手段302からなり、探査用信号発生回路11から出力する信号を増幅器12で増幅し、探査用信号7として電磁変換素子2に送る。
【0034】
探査用信号発生回路11では、図示しないメモリに予め保有するサブキャリア割当位相情報を用いてOFDM信号8を生成し出力する。この構成ではOFDM信号生成のための信号処理を伴うため構成がやや複雑になる。
【0035】
そこでメモリに予め生成したOFDM信号8の時系列波形データを記録しておいて、予め定める時間間隔で1データずつ増幅器12に送り出すようにすることも可能であり、より構成が簡潔になる。
【0036】
サブキャリア選択手段302は、探査用信号発生回路11に接続するもので、どのサブキャリア301を使用してOFDM信号8を送信するかを探査作業者が予め設定し、その設定値に従ってOFDM信号8を出力する。つまり、図1の実施例においては送信機1aが奇数のサブキャリア301、送信機1bが偶数のサブキャリア301を送信するが、サブキャリア選択手段302によって送信機1aが偶数、送信機1bが奇数のサブキャリア301を出力する様に設定することもできる。
【0037】
先に述べた予め保有する割当位相情報は共通にして、サブキャリア選択手段302の設定値に応じて割り当てるサブキャリア301を変更してもよい。
【0038】
また、予めOFDM時系列波形データを記録しておく方法であれば、予め奇数のサブキャリア301に割り付けた場合と偶数に割り付けた場合を記録しておいてサブキャリア選択手段302の設定値に応じてどちらの波形を出力するか決定してもよい。
【0039】
あるいは送信機1aは奇数、送信機1bは偶数のサブキャリア301を固定的に出力し、これ以外には変更できないようにしてもよく、この場合にはサブキャリア選択手段302は不要である。
〔サブキャリア〕
ここで、図1では、送信機1aは奇数、送信機1bは偶数のサブキャリア301を割り当てると説明したが、これに限るものではない。また送信機1も2台だけに限定されない。すなわち、複数の送信機1が互いに異なるサブキャリア301を使用して探査用信号7を出力することが重要である。このようにすることで互いの送信する探査用信号7が干渉することが無くなるためである。図3A、3B、3Cは送信機1が3台の場合のサブキャリア301の割当方法の一例を示したものであるが、例えば図3Aの様に送信機1aは1、4、7・・・という具合にサブキャリア301を割り当て、送信機1bは図3Bの様に2、5、8・・・とし、3台目の送信機1cは図3Cの様に3、6、9・・・を割り当てることとすればよい。
【0040】
サブキャリア301は必ず交互に割り当てられる必要はなく、例えば図4A、4Bは送信機1が2台の場合の例であるが、送信機1aは図4Aに示す様に1、2、5、6、9、10・・・を割り当て、送信機1bは図4Bに示すように3、4、7、8、11、12・・・というように同一送信機1がサブキャリア301を連続して割り当ててもよい。つまり隣接するサブキャリア301に割り当ててもよい。
【0041】
ただし、全てのサブキャリア301をまとめて偏在させて割り当てると、後述する理由によりノイズによる探査性能の低下の恐れがあるため、可能な限りサブキャリア301は分散して割り当てたほうがよい。
〔受信機〕
図5は受信機6の構成を示すブロック図である。受信機6の機能をディジタル信号処理で実現する場合には、磁電変換素子5の後段に可変ゲインアンプとアナログ/ディジタル変換機を設ければよい。
【0042】
受信機6では、磁電変換素子5で検出した探査用信号7を受信して、磁電変換素子5をクランプしているケーブル3、4が目的の送信機1が信号を印加しているケーブルと同一であるか否かを判定する。受信機6では、ケーブルの判定に受信信号114の位相情報である位相角201を用いる。
〔位相検出〕
受信機6は、受信信号114から必要な位相情報を抽出し取得する位相情報取得部108を有する。位相情報取得部108は、位相検出部109、位相減算部115、および位相同期部117から構成される。
【0043】
位相検出部109では、サブキャリア301に対して位相角情報を取得する。その手段は、例えば受信信号114に対してフーリエ変換を実施してサブキャリア301ごとに得られる実数部、虚数部の情報から、位相角を計算する方法がある。得られた位相角情報は位相減算部115に送る。位相減算部115では、予めメモリに備えている送信探査用信号7の各サブキャリア301に割り当てた位相角を割当位相情報格納部116から引き出して参照し、位相検出部109から送られる位相角情報から割当位相角をサブキャリア301ごとに減算する。
【0044】
この処理の概略を図6を用いて説明する。あるサブキャリア301に対して位相検出部109から送られる実数部、虚数部の位相が図6に○で示す検出座標であり、そのサブキャリア301に対して送信機1で割り当てた座標が●で示すサブキャリア割当座標であるとする。それぞれの座標によって成す角を検出位相角、割当位相角とする。
【0045】
信号伝搬経路の特性が平坦である場合、すなわち伝達関数が1の場合には検出座標はサブキャリア割当座標と同一座標になる。しかし、伝搬減衰、位相の周波数変化、ノイズなどの要因で振幅、位相ともにこの座標から変化する。位相減算部115では、割当位相角からの位相変化量を計算して出力する。つまり、「検出位相角」から「割当位相角」を減算して「検出位相角から割当位相角を補正した位相角」を算出すれば、◎で示す信号伝搬経路で変化した位相角が求まる。結果は位相同期部117に送る。
【0046】
ここでサブキャリア選択手段303は例えば送信機1の台数に応じた識別番号がスイッチなどで設定できるようにしてあり、予め探査作業者が目的の送信機1に対応する識別番号を設定するものである。設定値は割当位相情報格納部116、位相検出部109に送る。
【0047】
位相検出部109には予め識別番号に対応した送信機1で使用するサブキャリア番号情報が格納されており、割当位相角が割り当てられているサブキャリア301のみについて信号処理を実行する。
【0048】
また、割当位相角が送信機によって異なる場合には、割当位相情報格納部116には、各送信機の割当位相角を予め記録しておき、サブキャリア選択手段303から送る識別信号を受けて対応する割当位相角を位相減算部115に送る。
【0049】
図示しないが、受信機6がある特定の送信機1の信号しか受信しない場合、すなわち受信する送信機1の信号を選択的に変えるのではなく固定して使用する場合には、サブキャリア選択手段303は不要で、予め割当位相情報格納部116、位相検出部109に当該の送信機1がどのサブキャリア301を使用しているのかを示す情報を記録しておけばよい。
〔位相同期〕
受信機6が任意のタイミングで受信する信号の位相は、あくまで任意のタイミングで受信した時点での位相角であり、これは特に意味を持たない。本来は予め定めた時点での位相角が必要であり、位相同期部117はこの予め定める時点に位相角を補正する機能を持つ。位相同期部117が取得する位相減算部115から送る情報は、信号伝搬経路の位相変化量に本来のタイミングと異なることによって変化する位相量が加わった結果で得られる。
【0050】
この結果を模式的に示したものを図7に示す。横軸は周波数、縦軸は得られた位相角である。図7中の点201はそれぞれ各サブキャリアの位相角であり、複数のサブキャリアについて示している。先に説明したように、本来のタイミングからずれた分だけ変化する位相量で傾きを生じている様子を模式的に示しているが、本来のタイミングであれば傾きはほとんどない。
【0051】
図7の位相角201に対して、傾きがほぼゼロとなるように補正すれば、位相減算部115の出力と同様の結果が得られる。具体的には、例えば図7の位相角201を直線近似し、その傾きを図7の各位相201から差し引けばよい。
【0052】
図8及び図9は位相同期部117の出力結果の一例で、図8は図1の送信機1aが印加したケーブル3と同一のケーブルに流れる探査用信号7を検出した場合の例で、図9はそれと異なるケーブル4に流れる探査用信号7を検出した場合の例である。図9は、ケーブル4の受信信号の検出位相が逆位相となっており、このためπだけ周波数軸からずれて表示される。
【0053】
また、図10は送信機1bが印加したケーブル4に流れる探査用信号7を検出した場合の例であり、同位相となっている。
〔S/N推定〕
また、S/N推定部120から送られる情報を用い、S/Nが所定より低いサブキャリア301については位相同期処理や後段の処理で除去する。すなわち、後段の位相判定部110へは、S/Nが所定値を満足しないサブキャリア301の位相角201については送らない。
【0054】
S/N推定部120では、受信信号114を用いて周波数またはサブキャリア301ごとのS/N(信号対雑音電力比)を推定し、その結果を位相判定部110に送る。図11はS/N推定部120で実施するS/N推定処理の一例を説明する図である。S/N推定をする場合には少なくとも2シンボル以上のOFDM信号8を受信する必要がある。図11では各シンボル8のある特定のサブキャリア301から取得する実数部及び虚数部からなる複素数座標について着目しているが、これ以外のサブキャリア301についても同様である。
【0055】
図11に●で示す点は、各シンボル8の当該サブキャリア301の座標である。当該サブキャリア301の周波数にノイズが重畳していなければ座標は同一点になる。すなわち●は1点に重なる。逆にS/Nが悪いほど●のばらつきは大きくなる。
【0056】
○は●の平均であり、これを基準座標として原点からの○の距離と○からの●の距離との比がS/Nになる。これをキャリアごとに算出して位相同期部117に送る。
〔位相判定〕
図5に示す受信機6において、位相判定部110では、位相同期部117から送られる結果を用いて探査対象ケーブル3の信号か否か、すなわち目的の送信機1が探査用信号7を印加しているケーブル3、4と同一であるか否かを判定する。
【0057】
具体的には、位相が−90°から+90°の場合に探査対象ケーブルからの信号であると判定する。つまり各サブキャリア301から取得する位相角201を平均してその結果が−90°から+90°の場合に探査対象ケーブルからの信号であると判定すればよい。あるいは平均値ではなく1次近似して切片の値を用いてもよい。結果は表示部111に送られ、探査作業者に示される。
【0058】
S/N推定部120が無い場合や1シンボル8のみ受信して判定する場合でも後述する本発明の効果は十分に得られるが、S/N推定部120があればノイズによる誤判定を防止できるためさらに探査精度を向上できる効果がある。なお、図11に示したS/N推定部120でのS/N推定方法はあくまで一例であり他の方法であってもよい。
【0059】
位相判定部110はS/N推定部120からの情報を取得しない場合には予め指定した一部またはすべてのサブキャリア301に対して上記の位相判定処理を実施する。
【0060】
受信機6においては、図示していないが、すでに述べているように複数のOFDM信号8のシンボルを受信して加算平均する処理を適用すればOFDM信号8に信号伝搬途中に重畳したノイズ成分が減少してS/N比は向上し、探査精度を向上させることができる。
【0061】
送信する探査用信号7は、電磁変換素子2及び磁電変換素子5の周波数特性を考慮して決定することが望ましい。電磁変換素子2及び磁電変換素子5の信号通過帯域が例えば0.1MHz〜10MHzの場合、OFDM信号8のサブキャリア範囲についても0.1MHz〜10MHzの範囲内にする。これ以外の帯域のサブキャリア301を付加してもよいが、帯域外成分は探査に寄与しないためエネルギーのロスとなる。それだけでなく、より高い周波数成分を含む信号とすると、送信機1及び受信機6に高いクロック周波数で動作する回路を備える必要があり、装置が高価になる。
【0062】
さらに実験の結果では探査用信号7は0.1MHz〜5MHz程度であれば、探査性能は十分であり、プラント内で利用する場合にはこの周波数範囲とすることで不要な信号の漏えいを低減できるため核計装システムなどへの影響も低減できるという効果がある。
【0063】
次に本発明の効果を説明する。プラント内で使用する場合には、ケーブルにノイズが重畳していたり、あるいはケーブル探査装置の周辺にある機器から放射する電磁界ノイズが多い環境である。本発明においては、複数のサブキャリア301からなるOFDM信号8を探査用信号7として用いる。そのため複数のサブキャリア301の位相角201を用いて探査対象ケーブルか否かの判定をすることによってノイズがある環境においても正しく探査できる効果がある。
【0064】
更に、複数の送信機1が互いに異なるサブキャリア301を用いて信号を送信し、受信機6は目的の送信機1から送るサブキャリア301のみを用いてケーブル3、4を探査するため、複数の作業班が同時に異なるケーブルを探査することができ、探査作業に要する時間を短縮できるようになる。
【0065】
従来は、ノイズの影響が無くなおかつ他の送信機1と異なる周波数を設定する必要があり、その場合には予め他の作業班が使用していない周波数を調査したり、受信機が探査場所を変更した際にその場所のノイズ環境に応じて再び周波数の変更作業が生じるため、作業性が損なわれる可能性がある。これに対して本方式であれば、作業開始時に予め他の送信機1と異なるサブキャリア301を用いるように設定しておけば、ノイズの周波数が探査場所によって変化しても複数送信する内のいずれかのサブキャリア301が受信できれば探査できるため、周波数を変更する必要が無く、そのため作業性を向上でき更に探査作業時間を短縮できる効果がある。
【符号の説明】
【0066】
1…送信機
2…電磁変換素子
3、4…ケーブル
5…磁電変換素子
6…受信機
7…探査用信号
8…OFDM信号
11…探査用信号発生回路
12…増幅器
108…位相情報取得部
109…位相検出部
110…位相判定部
111…表示部
114…受信信号
115…位相減算部
116…割当位相情報格納部
117…位相同期部
120…S/N推定部
201…検出位相
301…サブキャリア
302、303…サブキャリア選択手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のケーブルのうち、互いに異なる探査対象とするケーブルに電気信号を印加する複数の送信機と、前記探査対象とするケーブルに流れる電流を電気信号として検出する磁電変換素子と、前記電気信号の位相情報で前記探査対象とするケーブルであるか否かを判定する受信機を備えたケーブル探査装置において、
前記探査対象とするケーブルに印加する電気信号は、予め定めた第一の位相情報を割り付けた複数のサブキャリアを持つ直交周波数分割多重信号を用い、前記複数の送信機の送信する電気信号は互いに異なるサブキャリアを持つ直交周波数分割多重信号からなり、前記受信機は、前記印加する電気信号の少なくとも一部のサブキャリアを受信する磁電変換素子と、前記複数の送信機のうちの第一の送信機が前記サブキャリアに割り付ける第一の位相情報と前記サブキャリアの周波数情報を予め格納する割当位相情報格納部と、前記磁電変換素子で受信した前記電気信号のサブキャリアのうち第一の送信機から送信するサブキャリアと同一の周波数からなるサブキャリアから第二の位相情報を取得する位相情報取得部と、前記第二の位相情報と前記第一の位相情報の差で得られる結果を用いて探査対象とするケーブルであるか否かを判定する位相判定部を有することを特徴とするケーブル探査装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたケーブル探査装置において、前記位相情報取得部は、前記サブキャリアの位相情報を取得する位相検出部と、前記割当位相情報格納部の割当位相情報からの位相変化量を計算する位相減算部と、予め定めた時点の位相情報を補正し取得する位相同期部を有することを特徴とするケーブル探査装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたケーブル探査装置において、前記位相判定部は、受信した前記電気信号のサブキャリアのうち第一の送信機から送信するサブキャリアと同一の周波数からなるサブキャリアから取得した第二の位相情報が所定範囲にあるとき探査対象とするケーブルであると判定することを特徴とするケーブル探査装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載されたケーブル探査装置において、前記送信機にはサブキャリア選択手段を備え、送信する前記サブキャリア周波数を変更可能とすることを特徴とするケーブル探査装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載されたケーブル探査装置において、前記受信機は、サブキャリア選択手段を備え、前記複数の送信機のうちの1台の送信機が送信するサブキャリアを選択して探査することを特徴とするケーブル探査装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載されたケーブル探査装置において、前記複数の送信機が送信するサブキャリアは、交互に配置されることを特徴とするケーブル探査装置。
【請求項7】
請求項6に記載されたケーブル探査装置において、前記サブキャリアは、交互に配置される部分と、隣接のサブキャリアを同一の送信機で使用する配置となる部分が混在することを特徴とするケーブル探査装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載されたケーブル探査装置において、前記導体に流れる電気信号は前記探査対象ケーブルに非接触で印加することを特徴とするケーブル探査装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載されたケーブル探査装置において、前記受信機には前記検出した信号の信号対雑音レベル比を推定するS/N推定部を設け、予め設定する信号対雑音レベル比を満足する周波数のサブキャリアの位相情報を用いて探査対象とするケーブルであるか否かを判定することを特徴とするケーブル探査装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載されたケーブル探査装置において、前記電気信号の周波数は少なくとも0.1MHz以上5MHz以下の範囲であることを特徴とするケーブル探査装置。
【請求項11】
複数のケーブルのうち、互いに異なる探査対象とするケーブルに電気信号を印加する複数の送信機と、前記探査対象とするケーブルに流れる電流を電気信号として検出する磁電変換素子と、前記電気信号の位相情報で前記探査対象とするケーブルであるか否かを判定する受信機を備えたケーブル探査装置を用いたケーブル探査方法において、
前記互いに異なる探査対象とするケーブルに印加する電気信号は、予め定めた第一の位相情報を割り付けた複数のサブキャリアからなる直交周波数分割多重信号からなり、
前記複数の送信機は互いに異なるサブキャリアで送信し、
前記受信機は、前記複数の送信機のうちの第一の送信機が前記サブキャリアに割り付ける第一の位相情報と前記サブキャリアの周波数情報を予め備え、前記印加する電気信号の一部またはすべてのサブキャリアを受信し、
前記受信したサブキャリアのうち第一の送信機から送信するサブキャリアと同一の周波数のサブキャリアから検出する第二の位相情報を取得し、前記第二の位相情報と前記予め備える第一の位相情報の差で得られる結果を用いて探査対象とするケーブルであるか否かを判定する
ことを特徴とするケーブル探査方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−108917(P2013−108917A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255730(P2011−255730)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】