説明

ケーブル

【課題】優れた柔軟性および優れた表面すべり性を有するケーブルの提供を課題とする。
【解決手段】導体の外周に被覆層を設けたケーブルであって、前記被覆層を、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、この熱可塑性ポリウレタン樹脂と溶融混練可能な熱可塑性樹脂および窒素系有機化合物からなる窒素系樹脂組成物とを混合してなる熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルに関し、特に優れた柔軟性を有すると共に、表面すべり性に優れたケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、フライス盤などの工作機械に備えつけられるX−Yテーブルは、金属などの材料を精密に加工するためにX軸方向およびY軸方向の移動が可能であり、このX−Yテーブルには、X軸方向およびY軸方向の移動を制御するためのマグネスケールが設けられている。このマグネスケールは、X−Yテーブルに装着された直線状のレール上をスライド可能なるセンサを備えており、このセンサがスライドする際に生じる磁気変化をスライドした距離として読み取れるように構成されている。その際、すなわちセンサのスライドによって生じる磁気変化をスライドした距離として読み取れる構成とする際、センサとセンサからの信号をスライドした距離として処理する信号処理装置との間にケーブルが用いられている。
【0003】
このようなケーブルには、直線状のレール上をセンサが繰返しスライドするとき、負荷をかけることなくセンサが滑らかにスライドできるように、優れた柔軟性および、周辺部材あるいはケーブル相互間の摩擦抵抗の少ない優れた表面すべり性が要求されている。例えば特許文献1には、産業用ロボットにおけるロボット本体の手腕等へ動作信号を指令し、更にロボットからのセンサ情報を正確に伝送するために用いられるケーブルの一つとして、柔軟性を向上させた熱可塑性ポリウレタン樹脂を外被とした可撓性多芯ケーブルが提案されている。また近年、環境ホルモン問題や防災意識の向上などから、ケーブルに用いられる外被としての被覆層には、例えば塩化ビニル樹脂の燃焼時に発生する有害なダイオキシン類などの原因となるハロゲン物質を含まない(ノンハロゲンあるいはハロゲンフリーとも言われる)材料が求められてきていると共に、火災時にケーブルを伝って燃え広がらない難燃性も求められるようになってきた。
【0004】
しかしながら、この特許文献1の熱可塑性ポリウレタン樹脂を被覆層とした可撓性多芯ケーブルは、ある程度の柔軟性を有するものの、熱可塑性ポリウレタン樹脂特有の粘着性(タック性)を有するため表面すべり性に乏しく、上記したようなマグネスケールのセンサに接続して使用する場合、柔軟性が未だ十分ではなく、センサがレール上をスライドする際にスムーズな移動ができずに、信号に誤差を生じさせる虞がある。また、そのタック性のために周辺部材あるいはケーブル相互間の摩擦抵抗が大きく、センサのスムーズな移動に好ましいものではなかった。さらに、難燃性については、全く考慮されていないものであった。
【0005】
【特許文献1】特開平4−272613
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、導体の外周に被覆層を設けたケーブルにおいて、この被覆層に、熱可塑性ポリウレタン樹脂に特定の樹脂組成物を特定の混合比率で混合して得られる熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物を用いることにより、柔軟性に優れると共に、表面すべり性に優れたケーブルが得られることを見出し、本発明を想到するに至った。したがって、本発明は、優れた柔軟性および優れた表面すべり性を有するケーブルの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるケーブルは、導体の外周に被覆層を設けたケーブルであって、前記被覆層を、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、この熱可塑性ポリウレタン樹脂と溶融混練可能な熱可塑性樹脂および窒素系有機化合物からなる窒素系樹脂組成物とを混合してなる熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物で形成することを特徴とするものである。
【0008】
また、前記熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物は、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂75重量%ないし96重量%に対し前記窒素系樹脂組成物を4重量%ないし25重量%の混合比率で混合したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のケーブルによれば、熱可塑性ポリウレタン樹脂75重量%ないし96重量%に対し窒素系樹脂組成物を4重量%ないし25重量%の混合比率で混合して得られる熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物を導体の外周に被覆層として被覆している。このため、本発明のケーブルは、優れた柔軟性および優れた表面すべり性を得ることができる。また、本発明のケーブルは、熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物中の窒素系樹脂組成物自体が難燃性であると共に、ノンハロゲンの熱可塑性ポリウレタン樹脂を主成分とした熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物が導体の外周に被覆層として被覆されているので、難燃性を得ることができると共に、例え燃焼を起こしても、燃焼時に有害なハロゲン物質が発生することのないノンハロゲン環境を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のケーブルを、添付図面を参照して、一実施例に基づいて説明する。図1を参照すると本発明によるケーブル1の断面図が示されており、このケーブル1は、例えば、複数本の軟銅線が集合撚りされた撚り線導体を中心導体3とし、この中心導体3の外周に、ETFE(エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体)などのふっ素樹脂からなる絶縁層5を設けて信号伝送用コア7として形成し、この信号伝送用コア7を2本撚ってツイストペア9を作製し、このツイストペア9の6対が、断面でそれぞれ等間隔に配置されるように介在物11を介して撚り合せられてコア束13が作製される。このコア束13の外周を、押えテープ15で巻回した後、巻回した押えテープ15の外周には、銅合金などからなる導体素線を編組した外部シールド17が形成される。そして、この外部シールド17の外周には、後述する本発明の熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物からなる被覆層19を形成して、本発明のケーブル1が構成されている。なお、介在物11には、綿糸あるいはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)繊維からなる抗張力繊維などを用いることができる。
【0011】
本発明で使用する、前述の熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物の主成分となる熱可塑性ポリウレタン樹脂は、ポリエステル系ウレタン樹脂(アジペート系、ラクトン系、ポリカーボネート系)およびポリエーテル系ウレタン樹脂を挙げることができ、特に、加水分解の心配がないポリエーテル系ウレタン樹脂を使用することが好ましい。また、より優れた柔軟性を得るためには、硬度は小さければ小さいほど好ましく、具体的には、ショアA硬度が85以下のポリエーテル系ウレタン樹脂であることがより好ましい。さらに、熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物中の窒素系樹脂組成物は、熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物中に4重量%ないし25重量%とすることが好ましく、10重量%ないし25重量%とすることがより好ましく、15重量%ないし25重量%とすることが最も好ましい。窒素系樹脂組成物の量が4重量%よりも少ない場合には、ケーブルの表面すべり性の効果が低下するので好ましくなく、25重量%よりも多い場合にはケーブルの柔軟性あるいは屈曲特性などの機械的特性が低下するので好ましくない。なお、上述の窒素系樹脂組成物は、熱可塑性樹脂および窒素系有機化合物からなり、熱可塑性樹脂としては、熱可塑性ポリウレタン樹脂との溶融混練が可能であると共に相溶性を有する熱可塑性樹脂とすることが好ましく、例えばポリアミド系エラストマーなどが挙げられる。また、窒素系有機化合物としては、高い難燃性を有する窒素系有機化合物とすることが好ましく、例えばトリアジン類変性ノボラック型フェノール樹脂などが挙げられる。
【0012】
さらに、上述のようにして得た本発明のケーブル1を、米国のUL規格(Underwriters Laboratories)の中の難燃基準である垂直燃焼試験VW−1に準拠して試験した結果、VW−1の燃焼試験をクリアすることができた。また、その際の燃焼時の燃焼状況について述べると、燃焼によって生じる本発明のケーブルの被覆層による溶融物が落下する時間間隔は、一般的な難燃性グレードの熱可塑性ポリウレタン樹脂を被覆層として用いて燃焼試験をした場合のケーブルのそれにくらべて長いことが観察された。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに説明する。
実施例1
素線外径0.08mmφの軟銅線が40本集合撚りされた撚り線導体を中心導体3とし、この中心導体3の外周にETFE(旭硝子社製C88−AX)からなる絶縁層5を0.2mmの厚さで被覆して信号伝送用コア7として形成し、この信号伝送用コア7を2本撚ってツイストペア9を作製し、このツイストペア9の6対が、断面でそれぞれ等間隔に配置されるように綿糸からなる介在物11を介して撚り合わせてコア束13を作製した。このコア束13の外周に、厚さ0.06mm、幅15mmの延伸したPTFE(ダブリュ.エル.ゴア アンド アソシエーツ社製ゴアテックス(登録商標))からなる押えテープ15を、重なり幅がテープ幅の4分の1となるように巻回した。巻回した押えテープ15の外周には、素線外径0.1mmφの銅合金線を持ち数7本、打ち数24本の条件で編組して、外部シールド17を形成した。この外部シールド17の外周には、本発明の熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物からなる被覆厚1.0mmの被覆層19を外被として形成して、仕上り外径7.9mmφの本発明のケーブル1を得た。なお、本実施例1の被覆層に用いられる熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物には、ショアA硬度85の熱可塑性ポリウレタン樹脂(大日本インキ化学工業社製;T8185FX)75重量%に窒素系樹脂組成物のマスターバッチ(大日本インキ化学工業社製フネコン(登録商標);HF712)25重量%を混合したものを使用した。
【0014】
比較例1
比較例1としての被覆層を、一般的なグレードの熱可塑性ポリウレタン樹脂(日本ミラクトラン社製熱可塑性ポリウレタン樹脂;U385PSTV)とした以外は実施例1と同じ構成とした。
【0015】
ここで、上述のようにして得た各ケーブルについて、下記の試験方法で各種の特性を試験した。
【0016】
柔軟性試験
図2に示すように、実施例1および比較例1のケーブルの試験長が、それぞれ1000mmとなるようにケーブル輪を作製して、このケーブル輪を天板21のフック23に懸架し、ケーブル輪の下方を荷重計25で矢印F方向へ引っ張る。その際に、ケーブル輪の内輪の幅Wが100mmとなったときに荷重計25の示す値を柔軟性の目安とした。本発明において、荷重計25が示す値は、その値が小さいほどケーブルの柔軟性が優れていることを示す。
【0017】
表面すべり性試験
図3に示すように、実施例1および比較例1のケーブルを、それぞれ長さ30mmで切り出して試料とし、水平板27上に水平に置かれたPFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシアルカン共重合体)製のチューブ29の一端側内部に試料を載置し、チューブ29の他端側を水平板27に接するようにすると共に、チューブ29の一端側を一定の速度で上方へ持ち上げ、チューブ29と水平板27との間に成す角度を計測し、試料が破線矢印の方向に滑り出したときの角度θを表面すべり性の目安とした。角度θが小さいほどケーブルの表面すべり性が優れていることを示す。
【0018】
実施例1および比較例1のケーブルの柔軟性試験および表面すべり性試験の結果を表1に示す。
【0019】
表1

【0020】
表1から明らかなように、柔軟性試験においてケーブル輪の内輪の幅Wが100mmとなるまで実施例1のケーブルに加えられる荷重は、比較例1のケーブルに加えられる荷重135gよりも小さい105gであることから、実施例1のケーブルは、一般的なグレードの熱可塑性ポリウレタン樹脂のみで被覆層を形成した比較例1とくらべて、柔軟性に優れているということがわかる。さらに、表面すべり性試験において、実施例1のケーブルの滑り出し角度が比較例1のケーブルの滑り出し角度81.5°よりも小さい70°であることから、実施例1のケーブルは、一般的なグレードの熱可塑性ポリウレタン樹脂のみで被覆層を形成した比較例1のケーブルとくらべて、表面すべり性に優れているということがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明のケーブルは、柔軟性と表面すべり性が要求される、例えばマグネスケール用のケーブル、半導体製造装置におけるウェハーの微細寸法を測定するようなレーザスケール用のケーブル等に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のケーブルの一実施例を示す断面図である。
【図2】ケーブルの柔軟性を試験する試験方法を示した説明図である。
【図3】ケーブルの表面すべり性を試験する試験方法を示した説明図である。
【符号の説明】
【0023】
1ケーブル、3中心導体、5絶縁層、7信号伝送コア、9ツイストペア、11介在物、13コア束、15押えテープ、17外部シールド、19被覆層、21天板、23フック、25荷重計、27水平板、29チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外周に被覆層を設けたケーブルであって、前記被覆層を、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、この熱可塑性ポリウレタン樹脂と溶融混練可能な熱可塑性樹脂および窒素系有機化合物からなる窒素系樹脂組成物とを混合してなる熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物で形成することを特徴とするケーブル。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリウレタン系樹脂組成物は、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂75重量%ないし96重量%に対し前記窒素系樹脂組成物を4重量%ないし25重量%の混合比率で混合したことを特徴とする請求項1に記載のケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−165004(P2007−165004A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356169(P2005−356169)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000145530)株式会社潤工社 (71)
【Fターム(参考)】