説明

ゲル体同士の接着方法

【課題】 IPNゲル体同士を接着させて実用可能な高い強度を持ったIPNゲル構造体を形成することを可能とする、新規な接着方法を提供する。
【解決手段】 イオン性モノマーの重合により形成される最初のゲルネットワーク内にイオン性モノマーまたは中性モノマーを浸透させて重合して第二のゲルネットワークを形成してなる、水との平衡膨潤状態において破壊点が10KPa以上の圧縮強度を有するIPNゲル体(セカンドネットワークに架橋構造がないSemi−IPNゲル体を含む)同士を接着する方法であって、水との平衡膨潤状態から5〜50質量%の水分が失われるまで乾燥したIPNゲル体の接着面に、平均粒径が1000nm未満のアニオン性またはカチオン性のナノ微粒子の分散液を塗布し、同様に水との平衡状態から5〜50質量%の水分が失われるまで乾燥した他方のIPNゲル体の接着面と圧着させることを特徴とするIPNゲル体同士の接着方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶媒(特に水)で膨潤することを特徴とするゲルの中では特異的に高い強度を示すことで注目されているIPN(Interpenetrating Polymer Networks)ゲル体(セカンドネットワークに架橋構造がないSemi−IPNゲル体を含む)同士を強固に接着する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「ゲル」とは、「あらゆる溶媒に不溶の3次元網目構造を持つ高分子およびその膨潤体」と定義される(新版高分子辞典(1988))。その中でも多量の溶媒を吸収したゲルは液体と固体の中間の性質を有するもので、有機高分子などの三次元網目(ネットワーク)の中に溶媒を安定的に取り込んでいる。特に溶媒として水を用いたゲル(以下、ヒドロゲルもしくは水性ゲルと呼ぶ)は生体においても重要な構成素材であり、これまで衛生用品、生活・日用品、食品・包装、医療医薬、農業・園芸、土木・建築、化学工業、電子・電気工業、スポーツレジャー産業など多数の工業分野において広く利用されている(長田義仁、梶原莞爾編”ゲルハンドブック” 第3篇応用編 株式会社エヌ・ティー・エス、1997年)。
【0003】
しかし、従来の溶媒(特に水)で膨潤したゲルは、平衡膨潤状態(ゲルをゲルが吸収する溶媒の中に入れて、それ以上溶媒を吸収しなくなった状態)では一般に強度が弱く、構造材料や力学的強度が必要な材料には用いることが困難であることが大きな欠点であった。
【0004】
最近、このような欠点を解消し得る材料がいくつか提案されるようになった。そのひとつが本発明に関するIPNゲルである。IPNゲル、特にIPNヒドロゲル(膨潤させる溶媒が水)については文献(非特許文献1)に詳しいが、基本的な合成の仕方は、イオン性基を有するモノマーを溶媒に溶かして重合し、最初のゲルネットワークを作り、そこに第2のモノマーを溶かし込んで(浸透させて)重合させて、二つ目のゲル(ネットワーク)を最初のゲルネットワークに重なるように形成する。この方法により、従来の平衡膨潤ゲルでは困難であった10kpa以上の圧縮強度を有するゲル体の形成が可能となり、強度が必要とされる人工筋肉、人工軟骨、ロボットの部品開発などへの応用展開が可能となってきている。
【0005】
しかし、力学材料として用いるIPNゲルに求められる特性としては、強度が発現するということだけでは不十分である。力学材料への応用展開のためには他のゲル体や材料との複合化が必要となる。そのために最も有効なのはゲル体同士や、他の材料との接着性が求められるが、従来のIPNヒドロゲルの場合、この接着性が不十分であった。
【0006】
北海道大学の斉藤らは、いったん切断したゲル体をいわゆる接着剤等で接着することが困難であることから、二つのゲル切片に反応性のモノマーを含浸させ、それを重合することで、二つのゲル切片間に別のネットワークを形成してゲル切片同士の接着を達成した(非特許文献2)。
しかし、この方法は煩雑であり、また時間がかかるものである。またモノマーを含浸させて再度重合を行うため、接着面付近のゲル物性が大きく変化してしまうという問題もあった。
【0007】
カチオン基やアニオン基を含むヒドロゲル、すなわち、ポリ電解質ではポリカチオンとポリアニオン間のイオン対効果を利用した接着が、制限された条件では可能であることを岐阜大学の玉川ら(非特許文献3、4)、およびオーストラリアWollongong大学のG.M.Spinksらが報告(非特許文献5)している。しかし、これらの技術では力学的材料に求められるような高い接着力を簡便に発現させことは困難であった。また接着させるゲル同士が必ず異符号に帯電する必要があるため、同じ組成や電荷を持つゲル体同士を接着することは不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−143986号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.P.Gong,Y.Osada etal. Advanced Materials,2003,15(14),1155
【非特許文献2】斉藤潤二ら 第17回高分子ゲル研究討論会講演予稿集 2006年11月8日
【非特許文献3】玉川浩久ら Bull.Chem.Soc.Jpn., 2002,75,383
【非特許文献4】玉川浩久ら Materials Chem. and Phys., 2008,107,164
【非特許文献5】G.M.Spinks,ACS Polymer Preprints 2007,48(1),645
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らも、ゲルの接着の問題に取り組み特開2009−143986号公報に記載のように、イオン性特にカチオン性のヒドロゲルをイオン性特にアニオン性のシリカ微粒子で接着する技術に到達した。しかし、この技術は比較的やわらかいゲルの接着にはその効果を十分に発揮するが、そのままでは10kPa以上の圧縮強度を有するようなヒドロゲルの強固な接着は困難であり、力学的特性が求められるような構造材料へのゲルの応用範囲を大きく広げることをとなる接着特性については不十分であった。本発明が解決しようとする課題は、まさに10KPa以上の圧縮強度を有するようなヒドロゲルの強固な接着を可能にするような接着技術の開発である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究に取り組んだ結果、まず十分な力学強度を有するゲルとしてIPNゲルを選択した。IPNゲルはイオン性のネットワークを含んでいるため、特開2009−143986号公報に記載した微粒子を介在させたゲルの接着技術が応用できる可能性があった。しかし、特開2009−143986号公報に記載したような、二つの(IPN)ゲル切片を単純に、例えばアニオンシリカを含む液を塗布しても接着は行えなかった(比較例2参照)。そこで種々工夫を重ね、特定のシークエンスにしたがって10kPa以上の圧縮強度を有するようなIPNゲルを接着する方法を見いだし、以下の発明を完成させるに至った。
【0012】
(1)イオン性モノマーの重合により形成される最初のゲルネットワーク内にイオン性モノマーまたは中性モノマーを浸透させて重合して第二のゲルネットワークを形成してなる、水との平衡膨潤状態において破壊点が10KPa以上の圧縮強度を有するIPN(Interpenetrating Polymer Networks)ゲル体(セカンドネットワークに架橋構造がないSemi−IPNゲル体を含む)同士を接着する方法であって、水との平衡膨潤状態から5〜50質量%の水分が失われるまで乾燥したIPNゲル体の接着面に、平均粒径が1000nm未満のアニオン性またはカチオン性のナノ微粒子の分散液を塗布し、同様に水との平衡状態から5〜50質量%の水分が失われるまで乾燥した他方のIPNゲル体の接着面と圧着させることを特徴とするIPNゲル体同士の接着方法。
【0013】
(2)前記イオン性モノマーがカチオン性モノマーであり、前記アニオン性のナノ微粒子がシリカ微粒子であることを特徴とする(1)記載のIPNゲル体同士の接着方法。
【0014】
(3)前記イオン性モノマーがアニオン性のモノマーであり、前記カチオン性のナノ微粒子がアルミナ粒子またはアルミニウムで表面処理をしたシリカ微粒子であることを特徴とする(1)記載のIPNゲル体同士の接着方法。
【0015】
(4)前記第二のゲルネットワークを形成するモノマーが中性モノマーであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のIPNゲル体同士の接着方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、他の方法では達成することが難しいIPNゲル体同士の強い接着を可能にするばかりではなく、接着したい部分のみに微粒子を塗布することで、場所選択的な接着が可能になり、また接着がごく表面で起きていることから、ゲル全体の機能やパフォーマンスを阻害せずに異なる特性をもつゲル体を接着することができる。本発明の技術と特開2009−143986号公報に記載した技術を組み合わせれば、IPNゲル体とそれ以外の柔軟なゲル体を接着させることも可能となり、ゲル材料の複合化の可能性を大きく広げるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の方法に使用できるIPNゲルについて説明する。IPNゲルの基本的な合成法は、前述したとおり
(1)イオン性基を有するモノマーを溶媒に溶かして重合して最初のゲルネットワークを作り、
(2)そこに第2のモノマーを溶かし込んで(浸透させて)重合させて、二つ目のゲル(ネットワーク)を最初のゲルネットワークに重なるように形成するという方法である。
【0018】
最初に重合させるイオン性基を有するモノマーは、カチオン性基を有するモノマーとアニオン性基を有するモノマーに分けられる。
カチオン性基を有するモノマーとしては、分子中に重合可能な官能基、例えばビニル基を有し、同一分子中に1級、2級、3級アミノ基(それぞれプロトン化してアンモニウム基として使用)や4級アンモニウム基を含むモノマーが代表的である。
3級アミノ基を有する単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル〔以下、(メタ)アクリルはアクリルとメタクリルを表す〕、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジプロピルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル化合物、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド化合物等が挙げられる。
【0019】
4級アンモニウム基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエチルクロライド、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエチル硫酸、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルリン酸、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエチルリン酸、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルメチルクロライド、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルエチルクロライド、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルエチル硫酸、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルメチルリン酸、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルエチルリン酸、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドメチルクロライド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドエチルクロライド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドエチル硫酸、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドメチルリン酸、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドエチルリン酸、アリルアミン、N−メチルアリルアミン、ジアリルアミン、N−メチルジアリルアミン、N,N−ジメチルアリルアンモニウム塩酸塩、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、メタクロイルコリンクロリド、ビニルピリジンなどを挙げることができる。またN−ビニルホルムアミドのように重合反応後アミノ基や置換アミノ基、更には4級アンモニウム基に変換できるモノマーもこれに含まれる。カチオン性モノマーは、単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0020】
アニオン性モノマーとしては、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸類、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルベンゼンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸クロトン酸、マレイン酸、等のビニル基を有するカルボン酸類、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、アシッドホスホキシエチル(メタ)アクリレート等のリン酸類などが挙げられる。アニオン性ビニルモノマーは、単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、本発明で用いられているアニオンモノマーは、その塩または酸との混合物の形で用いることもできる。これらの塩には、アルカリ金属塩の他、アンモニアやトリエチルアミン、トリエタノールアミン等の塩基性化合物との塩を挙げることができる。また、本発明で得られる共重合体のアニオン性ビニルモノマーをアルカリ剤で中和して本発明の両性両親媒性高分子共重合体としてもよい。
【0021】
イオン性のモノマーを重合させてファーストネットワークを形成するためには、架橋剤を添加する必要がある。架橋剤としては、例えば、従来から公知のN,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−プロピレンビスアクリルアミド、ジ(アクリルアミドメチル)エーテル、1,2−ジアクリルアミドエチレングリコール、1,3−ジアクリロイルエチレンウレア、エチレンジアクリレート、N,N’−ビスアクリルシスタミンなどの二官能性化合物や、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどの三官能性化合物が挙げられる。
【0022】
架橋剤は、ファーストネットワークを構成するモノマーに対して0.01mol%〜15mmol%、好ましくは、0.1mol%から10mol%添加することが好ましい。0.01mol%未満の添加では、セカンドネットワーク形成のためにモノマー溶液に含浸したときに膨潤の程度が大きすぎることとなるし、10KPa以上の圧縮強度を有するIPNゲルを形成することも困難になる。
また15mol%を越える添加では逆に十分なセカンドモノマーが含浸されずに、やはり十分な強度を持ったIPNゲルを形成することが困難になる。
【0023】
重合開始剤としては、例えばペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等のパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル等の非水溶性アゾ化合物等が挙げられる。また水、溶性のアゾ化合物〔例えばVA−044、V−50、V−501(いずれも和光純薬工業株式会社製)〕等のあるいはこれらとN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンや、β−ジメチルアミノプロピオニトリルの組み合わせを用いることもできる。
【0024】
さらに、分子量を規制するために、アルキルメルカプタンのような連鎖移動剤、ルイス酸化合物等の重合促進剤、リン酸、クエン酸、酒石酸、乳酸等のpH調整剤を使用してもよい。これらは基本的に熱開始剤に分類されるが、他の開始剤、例えば光開始剤としてはα−ケトグルタル酸、(±)−カンファーキノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,4−ジエチルチオキサンテン−9−オン、2−(3,4−ジメトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2−(4−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2−ベンゾイル安息香酸、2−クロロベンゾフェノン、2−クロロチオキサントン、2−エチルアントラキノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、2−イソニトロソプロピオフェノン、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、ベンジル、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム ヘキサフルオロホスファート、ジフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、4−メチルベンゾフェノン等が挙げられる。
【0025】
次に、このようにして重合させたファーストネットワークに含浸してさら重合させるセカンドモノマーは、イオン性のモノマーでも中性な性質を持つモノマーでもかまわない。イオン性のモノマーはカチオン性のモノマーであっても、アニオン性のモノマーであってもよく、それらの具体例は、上記ファーストネットワーク形成に使われるモノマーから選ぶことができる。セカンドネットワークを形成するモノマーとファーストネットワークを形成するモノマーは同一でも異なっていてもよい。実際にはセカンドネットワークを形成するモノマーとしては中性な性質を持ったモノマーが好ましく、それらとしては例えば、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミドのようなアクリルアミドおよびその誘導体、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ビニルピロリドンなどを挙げることができる。
【0026】
セカンドモノマーを重合させる重合開始剤としては、ファーストネットワークを重合するときに用いた重合開始剤を用いることができる。このとき、ファーストネットワークを生成するときに用いたのと同じまたは異なる架橋剤を加えて重合させることもできる。
【0027】
次に、このようにして得られたIPNゲルの接着に用いられる微粒子であるが、表面の電荷によってアニオン性微粒子、カチオン性微粒子に分けられる。
アニオン性微粒子は、ゲルに含有されている同一溶媒あるいはそれと完全に混じりあう溶媒中に安定して分散されている必要がある。粒子の平均サイズは1nmから1000nmが好ましく、1nmから100nmが特に好ましい。
具体的には、粒子の安定性、均一性といった性能面からも、また、工業的に多品種が大量に製造されているため、入手しやすく、種類が多数選択できるといった使いやすさの面からも、価格の面からもアニオン性シリカがもっとも好ましい。
【0028】
より具体的には、例えば日産化学工業株式会社製のスノーテックスシリーズを挙げることができる。水分散系では、ST−XS(平均粒経4〜6nm)、ST−20(平均粒経10〜20nm)、ST−20L(平均粒経40〜50nm)、ST−YL(平均粒経50〜80nm)、ST−ZL(平均粒経70〜100nm)を挙げることができる。この中でもST−XS、ST−20のような平均粒経の小さいもののほうが強い接着強度を示す傾向がある。
【0029】
カチオン性微粒子は、ゲルに含有されている同一溶媒あるいは完全に混じりあう溶媒中に安定して分散されている必要がある。粒子の平均サイズは1nmから1000nmが好ましい。
【0030】
カチオン粒子の代表例としてはアルミナゾルを挙げることができる。より具体的には、日産化学工業株式会社製アルミナゾル520(平均的粒子の大きさ10〜20nm)、アルミナゾル100(平均的粒子の大きさ10〜100nm)などである。また表面にAlカチオン処理をしたシリカを用いることも出来る。この具体的例としては日産化学工業株式会社製スノーテックスST−AK(平均粒子経10〜20nm)を挙げることができる。
【0031】
上記ナノ微粒子は、固形分換算で接着面に10g/mから5000g/m塗布するのが好ましい。この範囲から外れると、多すぎても少なすぎても接着力は弱まる傾向がある。塗布の方法は、通常行われる一般的な方法のどれでもかまわない。刷毛やブラシでの塗布、ナノ粒子分散液を滴下あるいは噴霧する方法、ロールやゴム版から転写する方法、滴下した分散液を空気流で適正な塗工量に調整する方法などをとることができる。
【0032】
本発明の方法において、IPNゲル体同士をナノ粒子を介して接着する際に、ゲル体を若干乾燥させて、水と平衡状態にある平衡膨潤ゲルの質量に対して5〜50質量%の水分を減少させることが必要である。減少させる水分が平衡膨潤ゲル質量に対して5質量%未満では十分な接着強度が得られない場合があるし、逆に50質量%を超えて水分を減少させても効果が頭打ちになるばかりでなく、ゲルの種類によっては接着力が低下する恐れがある。最も好ましい水分の減少範囲は10〜30質量%である。
【0033】
接着のメカニズムについては必ずしも完全には理解できてはいないが、ドライビングフォースの重要なものは、二つのゲル切片の界面近傍に存在する多数のイオン基と、主に界面を中心に分布する微粒子上の多数の(極性が反対の)イオン基の電気的な引力的相互作用、および接着層を形成する微粒子間で発現する水素結合の組み合わせ効果であると推定される。
本発明の接着方法を適用する際の具体的なゲルの形状であるが、ゲルはブロック状、シート状、立体形状、粒子状、繊維状などのいかなる形態でもよい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により、本発明の方法をより具体的に説明するが、本発明は、以下に示す実施例のみに限定されるものではない。
なお、以下の試験は、20℃、50%RHの室内で行った。また、以下に記載する%で特に規定されていない限り質量%である。
【0035】
実施例1
<カチオン性IPNゲルの合成>
(ファーストネットワークの形成)
脱気したイオン交換水(20ml)に3−〔(Methacryloylamino)propyl〕trimethylammonium chloride (MAPTAC、カチオン性モノマー、5g)、N,N’−Methylene bis(acrylamide)(架橋剤 0.25g)、α−ケトグルタル酸(光開始剤、0.035g)を溶解させたプレゲル溶液を作成する。その後、プレゲル溶液を鋳型にいれ、紫外線を(365nm付近、高圧水銀ランプ HB100A−1)1時間照射させることでファーストネットワークとなるゲルを合成する。
【0036】
(IPNゲルの形成)
次に、ファーストネットワーク内部に鎖状高分子を形成させるため、上記ファーストネットワークゲルを、水(306g)にアクリルアミド(207g)と光開始剤であるα−ケトグルタル(4.3g)を溶解させた後に脱気したモノマー溶液に24時間浸漬させる。このようにして調整したアクリルアミドモノマー溶液を十分に内包したゲルを2枚の板ガラスに挟み、紫外線(365nm付近、高圧水銀ランプ HB100A−1)を20分照射させる。このようにして合成したIPNゲルをイオン交換水に十分に浸漬させ、IPNゲルを得た。
【0037】
(IPNゲルの圧縮強度測定)
得られたゲルを7mm×7mm×7mmの立体に切り出し、この圧縮強度を島津製作所の小型卓上試験機EZ−Sを用いて測定した。適正な冶具にゲル体をはさみ、荷重をかけてSSカーブを描き、ゲル体が破壊したところの負荷を圧縮強度とした。圧縮強度は200KPaであった。
【0038】
(IPNゲル体の接着)
少量の塩酸を加えpH3に調整した水溶液に上記のIPNゲル体を浸漬させ、ゲル内部のpHを調整する。この時点でIPNゲル体は完全に膨潤した状態(平衡膨潤状態という)であり、その含水率は97%である。このゲル体を空気中に放置し、ゲル質量が平衡膨潤状態から10%減少するまで乾燥した(含水率は87%)。
なお、ゲルの含水率(%)は、
〔(含水ゲルの質量−絶乾し水を完全に飛ばした後のゲルの質量)/平衡膨潤した含水ゲルの質量〕×100
と定義される。
このようにして得られたゲル体の接着面にシリカ微粒子含有液(日産化学工業 スノーテックスXS、20%濃度)を10g/m塗布(シリカ固形分としては2g/m)し、もうひとつのゲル体(同様にして乾燥)を重ねて、両ゲル体同士の接着面を10分間圧着させた。圧着はゲル体界面に100KPaの圧力をかけて行った。
このようにして接着させたゲル体を再びpH3に調整させた水溶液に浸漬させ、ゲル体を平衡膨潤(完全に膨潤)とさせた後、接着力の試験を行った。
【0039】
(引っ張りによる接着強度試験)
接着力の測定は、島津製作所の小型卓上試験機EZ−Sを用いて行った。接着したゲル体の一方をチャックにはさみ、他方を別のチャックにはさみ、引っ張り速度200mm/minで接着したゲル体の接着面を引きはがすことで接着力の評価を行った。結果を表1に示す。
【0040】
実施例2(pHの変化)
実施例1において、IPNゲル体の接着工程で両IPNゲル体を浸漬させる溶液のpH、および接着操作を行った後の接着したゲル体を浸漬させる溶液のpHを共に5(微量の塩酸を添加することにより調整)にする以外は実施例1と同じ操作を行なった。接着力評価の結果を表1に示す。
【0041】
実施例3(pHの変化)
実施例1において、IPNゲル体の接着工程で両IPNゲル体を浸漬させる溶液および、接着操作を行なった後の接着したIPNゲル体を浸漬させる溶液としてpH未調整のイオン交換水を用いる以外は実施例1と同じ操作を行なった。接着力評価の結果を表1に示す。
【0042】
実施例4(乾燥程度の変化)
実施例1において、ゲル体を乾燥させる工程において、ゲル体質量が平衡膨潤状態から20%減少するまで乾燥した(含水率は77%)以外は実施例1と同じ操作を行なった。接着力評価の結果を表1に示す。
【0043】
実施例5(アニオン性ゲル体の接着)
<アニオン性IPNゲルの合成>
(ファーストネットワークの形成)
脱気したイオン交換水(10ml)にacrylamide−2−methylpropane sulfonic acid)(AMPS) (2.0g)、N,N’−Methylenebis(acrylamide)(架橋剤0.058g)、α−ケトグルタル酸(光開始剤0.021g)を溶解させたプレゲル溶液を作成する。その後、プレゲル溶液を鋳型に入れ、実施例1と同様、紫外線を1時間照射させることでファーストネットワークとなるゲルを合成する。
【0044】
(IPNゲルの形成)
次に、ファーストネットワーク内部に鎖状高分子を形成させるため、上記ファーストネットワークゲルを、水(306g)にアクリルアミド(207g)と光開始剤であるα−ケトグルタル(4.3g)を溶解させた後に脱気したモノマー溶液に24時間浸漬させる。このようにして調整したアクリルアミドモノマー溶液を十分に内包したゲルを2枚の板ガラスに挟み、実施例1と同様紫外線を20分照射させる。このようにして合成したIPNゲルをイオン交換水に十分に浸漬させ、IPNゲルを得た。
【0045】
(IPNゲルの圧縮強度測定)
得られたIPNゲルを7mm×7mm×7mmの立体に切り出し、このIPNゲル体の圧縮強度を島津製作所の小型卓上試験機EZ−Sを用いて測定した。適正な冶具にゲルをはさみ、荷重をかけてSSカーブを描き、ゲルが破壊したところの負荷を圧縮強度とした。圧縮強度は240KPaであった。
【0046】
<アニオン性IPNゲルの接着と接着力評価>
少量の塩酸を加えてpH7に調整した溶液に上記のIPNゲル体を浸漬させ、ゲル内部のpHを調整する。この時点でIPNゲルは完全に膨潤した状態(平衡膨潤状態という)であり、その含水率は90%である。このゲル体を空気中に放置し、ゲル体重量が平衡膨潤状態から10%減少するまで乾燥した(含水率70%)。このようにして得られたゲル体の接着面にシリカゾルをコアとしたアルミニウム系化合物(日産化学工業:スノーテックスAK、20%濃度)を10g/m程度塗布(シリカ固形分としては2g/m)し、もうひとつのゲル(同様にして乾燥)を重ねて、それらゲルの接着面を10分間圧着させた。圧着はゲル体界面に100KPaの圧力をかけて行った。このようにして接着させたゲルを再びpH7に調整した水溶液に浸漬させ、ゲル体を平衡膨潤状態(完全に膨潤)とした後、実施例1記載の接着力の試験を行った。結果を表1に示す。
【0047】
比較例1
実施例1のIPNゲル体の接着操作において、シリカ微粒子含有液を塗布しないで接着操作を行なうこと以外は実施例1と同様にして接着力の評価を行った。結果を表1に示す。
【0048】
比較例2
実施例1のIPNゲル体の接着操作において、含水率を下げることなく、平衡膨潤状態にあるゲルをそのまま用い、接着操作を行なうこと以外は実施例1と同様にして接着力の評価を行った。結果を表1に示す。
【0049】
比較例3
実施例5のIPNゲル体の接着操作において、含水率を下げることなく、平衡膨潤状態にあるゲルをそのまま用い、接着操作を行なうこと以外は実施例5と同様にして接着力の評価を行った。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
<実施例のまとめ>
上記実施例に示されるように、力学材料として用いることのできるような強度を持つIPNゲル体を一旦軽度に乾燥し、その上で、イオン性の微粒子分散液を塗布し、これに適宜圧縮力を加えることにより、従来不可能であった高い強度で、IPNゲル体を接着できることが明らかである。イオン性の微粒子が二つのゲル界面に存在しない場合、IPNゲル体を接着前に軽度に乾燥する操作のない場合、および接着時の圧着力が十分でない場合には、いずれの場合もIPNゲル体の接着は不十分であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上の実施例および比較例の結果から、本発明の方法によれば十分な力学強度を持ったゲル体を強固に接着できることから、ゲルの成型やゲルの加工、ゲルによる複合材料生成、人工筋肉システムの生成などの分野をはじめとして、広範な分野への応用展開性が大きい。特に水性ゲルは、生体適合性、環境適合性が高く、ソフトマテリアルや機能性ゲル材料として幅広い産業分野での利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性モノマーの重合により形成される最初のゲルネットワーク内にイオン性モノマーまたは中性モノマーを浸透させて重合して第二のゲルネットワークを形成してなる、水との平衡膨潤状態において破壊点が10KPa以上の圧縮強度を有するIPN(Interpenetrating Polymer Networks)ゲル体(セカンドネットワークに架橋構造がないSemi−IPNゲル体を含む)同士を接着する方法であって、水との平衡膨潤状態から5〜50質量%の水分が失われるまで乾燥したIPNゲル体の接着面に、平均粒径が1000nm未満のアニオン性またはカチオン性のナノ微粒子の分散液を塗布し、同様に水との平衡状態から5〜50質量%の水分が失われるまで乾燥した他方のIPNゲル体の接着面と圧着させることを特徴とするIPNゲル体同士の接着方法。
【請求項2】
前記イオン性モノマーがカチオン性モノマーであり、前記アニオン性のナノ微粒子がシリカ微粒子であることを特徴とする請求項1記載のIPNゲル体同士の接着方法。
【請求項3】
前記イオン性モノマーがアニオン性のモノマーであり、前記カチオン性のナノ微粒子がアルミナ粒子またはアルミニウムで表面処理をしたシリカ微粒子であることを特徴とする請求項1記載のIPNゲル体同士の接着方法。
【請求項4】
前記第二のゲルネットワークを形成するモノマーが中性モノマーであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のIPNゲル体同士の接着方法。

【公開番号】特開2011−178843(P2011−178843A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42603(P2010−42603)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 高分子学会主催 第58回 高分子討論会 於:熊本大学黒髪キャンパスにて、平成21年9月16日〜18日に発表した文書 高分子学会主催 第21回 高分子ゲル研究討論会 於:東京大学山上会館大会議室にて平成22年1月13日〜14日に発表した文書
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】