説明

ゲル含有食品組成物及びその製造方法

【課題】液体状態の組成物を凍結することにより氷菓を製造する場合において、口溶けが良く、滑らかな食感があり、清涼感に優れ、氷菓中に容易にスプーンを挿入することができる、ゲル含有食品組成物の提供を課題とする。
【解決手段】増粘剤、糖類、果汁及び水を含有する液状部分にクラッシュゼリー又はマイクロゼリーを混合する。
【効果】口溶けが良く、滑らかな食感があり、清涼感に優れ、Brixを30%以下に抑えても、凍結して氷菓とした場合に氷菓中に容易にスプーンを挿入することができるという性質を有するゲル含有食品組成物を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル含有食品組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、氷菓にゲルを含有させることにより食感を向上させる技術は公知である。例えば、アイスクリームなどの氷菓を作る際に固形分30%以下の凍結ゲルを混合することにより、口溶けが良く、清涼感を向上させることができる(例えば、特許文献1参照)。また、固形分が20〜55重量%の半凍結ゲル若しくは未凍結ゲルを混合することで軟らかく、滑らかな食感を有する冷菓が得ることができる(例えば、特許文献2参照)。
液体状態の組成物のBrixが低い(25%未満)状態で、凍結することにより氷菓を製造すると硬い食感となってしまい、スプーンが挿入しにくいという問題点がある。このような氷菓は、Brixを高く(35%以上)することにより氷菓中に容易にスプーンを挿入することができるが(例えば、特許文献3参照)、甘みが強くなりすぎるという問題点がある。また、このように液体状態の組成物を凍結させ氷菓を製造する際の、その食感向上技術の検討はなされていない。
【0003】
【特許文献1】特開2005−137268号公報
【特許文献2】特開2002−112709号公報
【特許文献3】特開平7−132048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体状態の組成物を静置凍結することにより氷菓を製造する場合において、氷菓中に容易にスプーンを挿入することができ、口溶けが良く、滑らかな食感があり、清涼感に優れた、ゲル含有食品組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、増粘剤、糖類、果汁及び水を含有する液状部分にクラッシュゼリー又はマイクロゼリー等のゲルを混合することにより、口溶けが良く、清涼感に優れ、Brixを30%以下に抑えても静置凍結して氷菓とした場合に氷菓中に容易にスプーンを挿入することができるという性質を有するゲル含有食品組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、以下に係るものである。
(1)ゲル化剤及び糖類を含有するゲル部分と、増粘剤、糖類、果汁及び水を含有する液状部分とを有するゲル含有食品組成物であって、ゲル含有食品組成物中の固形分がBrix換算で25%以上30%以下であり、ゲル部分のゲル化剤がローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム、ジェランガム、寒天、グアーガム、アルギン酸類、ゼラチン、グルコマンナン、発酵セルロース又はペクチンから選択される1種以上であることを特徴とする、ゲル含有食品組成物。
(2)氷菓用であることを特徴とする、上記(1)記載のゲル含有食品組成物。
(3)ゲル化剤、糖類及び果汁を含有するゲル部分と、増粘剤、糖類、果汁及び水を含有する氷結部分とを有するゲル含有氷菓であって、ゲル含有氷菓中の固形分がBrix換算で25%以上30%以下であり、ゲル部分のゲル化剤がローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム、ジェランガム、寒天、グアーガム、アルギン酸類、ゼラチン、グルコマンナン、発酵セルロース又はペクチンから選択される1種以上であることを特徴とする、ゲル含有氷菓。
(4)ゲル部分が、品温40〜50℃に保持した乳酸カルシウム、糖類、果汁及び水の混合液に、ペクチン水溶液を滴下してゲルを形成させることを特徴とする、上記(1)又は(2)記載のゲル含有食品組成物の製造法。
(5)ゲル化剤、糖類、水及び果汁とを混合してゲル部分を形成させた後、当該ゲル部分を破砕し、次いで増粘剤、糖類、クエン酸、乳酸カルシウム及び水を添加することを特徴とする、上記(1)又は(2)記載のゲル含有食品組成物の製造法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
1.本発明のゲル含有食品組成物
本発明のゲル含有食品組成物は、ゲル部分と液状部分とを有する組成物である。
ゲル含有食品組成物のゲル部分は、ゲル化剤及び糖類から構成される。ゲル部分に含有されるゲル化剤は、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム、ジェランガム、寒天、グアーガム、アルギン酸類、ゼラチン、グルコマンナン又はペクチンから選択される1種以上を使用することができる。
ゲル部分に含有される糖類は、例えば、砂糖、果糖、ブドウ糖、水飴(コーンシラップ)、異性化糖、糖アルコール、高甘味度甘味料、エリスリトール、パラチノース、トレハロース等を使用することができる。
上記ゲル化剤及び糖類を用いることにより、本発明のゲル部分が形成され、また、必要により果汁を加えて混合することによりゲル部分を形成させた後、当該ゲル部分を破砕し、クラッシュゼリー又はマイクロゼリーを得ることができる。
クラッシュゼリーとは、固めたゼリーを家庭用及び業務用ミキサーで直径が約1〜5mmの小片にクラッシュしたものをいい、マイクロゼリーとは、ペクチン等のゲル化剤とカルシウムとが反応することによりできる直径8〜15mmのパルプ様不定形ゲルのことをいう。
【0007】
ゲル含有食品組成物の液状部分は、増粘剤、糖類及び水から構成される。
液状部分に含有される増粘剤は、例えば、キサンタンガム、アラビアガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、グアーガム、タラガム、ペクチン、大豆多糖類、カルボキシルメチルセルメチルセルロースを使用することができる。
【0008】
液状部分に含有される糖類は、例えば、砂糖、果糖、ブドウ糖、水飴(コーンシラップ)、異性化糖、糖アルコール、高甘味度甘味料、エリスリトール、パラチノース、トレハロース等が使用することができる。
【0009】
ゲル部分と液状部分の比は、任意ではあるが、例えば、ゲル部分を30%以上とすればよい。ゲル部分を30%以上とすることにより、破断強度(表面〜約1cm)が小さくなり、スプーンが挿入しやすくなる。破断強度(表面〜約1cm)は、例えば、レオメータ(山電社製)にて測定することができ、破断強度(表面〜約1cm)が200gf以下のとき、好ましくは150gf以下のとき、さらに好ましくは100gf以下のときに容易にスプーンを挿入することができる。
ゲル部分には、例えば、ゲル化剤1%、糖類25%(例えば、この内10%は、水飴であってもよい)を含有し、また、液状部分には、例えば、増粘剤0.4%、糖類25%(例えば、この内10%は、水飴であってもよい)、乳酸カルシウム0.1%を含有する。
【0010】
本発明のゲル含有食品組成物は、ゲル含有食品組成物中の固形分をBrix換算で25%以上30%以下にすることにより凍結して氷菓とした場合に、硬くなりすぎず容易にスプーンを挿入することができるという特徴と甘みが強くなりすぎないという特徴とを有しているので、氷菓として好適に使用できる。
【0011】
2.本発明のゲル含有氷菓
上記1記載のゲル含有食品組成物を凍結することにより得られるのが、本発明のゲル含有氷菓である。
上記1記載ゲル含有食品組成物を、例えば、増粘剤1%、糖類25%(例えば、この内10%は水飴)の組成のものをゲル化させ、粉砕機にて粉砕したゲル部分を、増粘剤0.4%、糖類25%(この内10%は水飴)、乳酸カルシウム0.1%を含有する液状部分に、30%以上の混合比率となるよう添加し、凍結することにより、本発明のゲル含有氷菓を得ることができる。
【0012】
本発明のゲル含有氷菓は、ゲル部分と糖液部分の凍結速度が異なるため、固さに差が生じる。そのため、ゲル含有氷菓にスプーンを挿入する際に、ゲル部分が凍結した部分の液状部分が凍結した部分の境界の比較的柔らかい部位にスプーンが挿入されるという特徴を有しているので、スプーンが挿入しやすくなりと考えられる。
【0013】
3.ゲル含有食品組成物の製造法
(1)ゲル含有食品組成物の製造法1(本製造法1)
本発明のゲル含有食品組成物は、ゲル化剤、糖類、水及び果汁とを混合してゲル部分を形成させた後、当該ゲル部分を破砕し、次いで、増粘剤、糖類、クエン酸、乳酸カルシウム及び水と混合することにより得られる。
【0014】
より具体的には、まず、ゲル化剤1%と糖液20%(この内10%は水飴)を混合した後、水75%に懸濁する。攪拌装置にて攪拌(160rpm)しながら85℃まで加熱し、さらに10分間85℃で加熱する。(果汁やクエン酸を加える場合は加熱後に加える。)室温に放置し、ゲルが固化したら、破砕機にて直径が約1〜5mmの小片に破砕し、クラッシュゼリーを調整する。別途に増粘剤0.4%、糖液20%(この内10%は水飴)、乳酸カルシウム0.1%を混合した後、水80℃達温になるまで攪拌(160rpm)しながら加熱し、糖液を調整する。(果汁やクエン酸を加える場合は、加熱後に加える。)この糖液に上記クラッシュゼリーを30%以上混合し、80℃10分間加熱殺菌することにより、ゲル含有食品組成物が得られる。本製造法1の製造フローを図1に示す。
【0015】
(2)ゲル含有食品組成物の製造法2(本製造法2)
本発明のゲル含有食品組成物は、品温40〜50℃に保持した乳酸カルシウム、糖類、果汁及び水の混合液に、ペクチン水溶液を滴下してゲルを形成させることにより得られる。より具体的には、まず、糖液20%(この内10%は水飴)、乳酸カルシウム0.2%、果汁濃縮液4%を5.8〜55.8%の水に溶解する。これを攪拌装置にて攪拌(160rpm)しながら、80℃加熱溶解した10%LMペクチン(三栄源エフ・エフ・アイ社製)溶液を20〜80%加える。その際、糖液中のカルシウムとLMペクチン(三栄源エフ・エフ・アイ社製)が反応してマイクロゼリーができる。その後、増粘剤0.4%を加え、80℃、10分間加熱にて溶解及び殺菌することにより、ゲル含有食品組成物が得られる。本製造法2の製造フローを図2に示す。
【0016】
以下、実施例に則して本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの記載によって制限されるものではない。
【実施例1】
【0017】
1.本製造法1によるゲル含有食品組成物の製造
ゲル化剤(カラギーナン、ジェランガム混合物)1g、糖類(砂糖、水飴及び糖アルコール(三菱商事フードテック社製))2g、水を混合し、85℃、10分間加熱溶解した後、冷却固化させる。固化したゲルをミキサー(National社製)にてクラッシュし、直径が約1〜5mmのクラッシュゼリー100gを得た。
一方、増粘剤0.4g、糖類(砂糖、水飴及び糖アルコール(三菱商事フードテック社製))25g、水を混合し、80〜90℃で溶解した後、クエン酸0.2g、乳酸カルシウム(武蔵野化学研究所社製)0.1gを加えて液体部分100gを得た。
上記クラッシュゼリーを0(クラッシュゼリーを含まず、液状部分のみ)、15、30、50、70、85、100%の配合で液体部分と混合し、80℃10分間加熱殺菌することによりゲル含有食品組成物を得た。比較例としてコントロール(液状部分に果汁としてブルーベリー濃縮液(日本デルモンテ社製)を加えたもの)を用いた。
2.冷凍方法
家庭用冷凍庫(−15℃程度)にて約15時間前後静置凍結した。
3.官能試験結果
上記1のクラッシュゼリーの配合量が異なるゲル含有食品組成物を凍結させ、ゲル含有氷菓(クラッシュゼリーインシャーベット)を製造した。コントロールも同様に凍結させた。それぞれをレオメータ(山電社製)にて破断強度を測定した。
その結果、コントロール(外液に果汁を加えたもの)と比較して、クラッシュゼリー0(クラッシュゼリーを含まず、外液のみ)では70%程度の破断強度(表面〜約1cm)になり、クラッシュゼリーを30%以上加えると、40%以下の破断強度(表面〜約1cm)になった。また、クラッシュゼリーを70%、85%加えたときは、きめの細かいなめらかな性状のシャーベットを得ることができ(図3)、食すると果肉用の食感を有し、口溶けが良く、滑らかな食感があり、清涼感も優れていた。
表面〜約1cmでの破断強度は、値が大きいほどスプーンが挿入しにくく、小さいほどスプーンが挿入しやすいことを示す。
【実施例2】
【0018】
1.本製造法2によるゲル含有食品組成物の製造
乳酸カルシウム0.2g、糖類25g、ブルーベリー濃縮液(日本デルモンテ社製)4g、水を混合し、40〜50℃で加熱溶解した。あらかじめ熱湯に溶解させたLMペクチン(終濃度0.5% (三栄源エフ・エフ・アイ社製))溶液を攪拌機にて攪拌しながら加えてゲル含有食品組成物を100g得た。コントロールとしてLMペクチン(三栄源エフ・エフ・アイ社製)を添加しないものを用いた。
2.冷凍方法
家庭用冷凍庫(−15℃程度)にて約15時間前後静置凍結した。
3.官能試験結果
上記1のゲル含有食品組成物を凍結させ、ゲル含有氷菓(マイクロゼリーインシャーベット)を製造した。マイクロゼリーインシャーベットをレオメータ(山電社製)にて破断強度(表面〜約1cm)を測定したところ、マイクロゼリーインシャーベットは、コントロールに比べて75%の破断強度(表面〜約1cm)になった(図4)。また、食すると果肉用の食感を有し、口溶けが良く、滑らかな食感があり、清涼感に優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】クラッシュゼリーを含有するゲル含有食品組成物の製造フローを示す図である。
【図2】マイクロゼリーを含有するゲル含有食品組成物の製造フローを示す図である。
【図3】クラッシュゼリーを含有するゲル含有食品組成物を凍結させたクラッシュゼリーインシャーベットの破断強度を示す図である。
【図4】マイクロゼリーを含有するゲル含有食品組成物を凍結させたマイクロゼリーインシャーベットの破断強度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル化剤及び糖類を含有するゲル部分と、増粘剤、糖類、果汁及び水を含有する液状部分とを有するゲル含有食品組成物であって、ゲル含有食品組成物中の固形分がBrix換算で25%以上30%以下であり、ゲル部分のゲル化剤がローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム、ジェランガム、寒天、グアーガム、アルギン酸類、ゼラチン、グルコマンナン、発酵セルロース又はペクチンから選択される1種以上であることを特徴とする、ゲル含有食品組成物。
【請求項2】
氷菓用であることを特徴とする、請求項1記載のゲル含有食品組成物。
【請求項3】
ゲル化剤、糖類及び果汁を含有するゲル部分と、増粘剤、糖類、果汁及び水を含有する氷結部分とを有するゲル含有氷菓であって、ゲル含有氷菓中の固形分がBrix換算で25%以上30%以下であり、ゲル部分のゲル化剤がローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム、ジェランガム、寒天、グアーガム、アルギン酸類、ゼラチン、グルコマンナン、発酵セルロース又はペクチンから選択される1種以上であることを特徴とする、ゲル含有氷菓。
【請求項4】
ゲル部分が、品温40〜50℃に保持した乳酸カルシウム、糖類、果汁及び水の混合液に、ペクチン水溶液を滴下してゲルを形成させることを特徴とする、請求項1又は2記載のゲル含有食品組成物の製造法。
【請求項5】
ゲル化剤、糖類、水及び果汁とを混合してゲル部分を形成させた後、当該ゲル部分を破砕し、次いで増粘剤、糖類、クエン酸、乳酸カルシウム及び水を添加することを特徴とする、請求項1又は2記載のゲル含有食品組成物の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−106181(P2009−106181A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281057(P2007−281057)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】