説明

ゲル状経管栄養食品

【課題】 経管栄養投与方法の大きな問題である嘔吐・胃食道逆流を抑制するとともに、投与操作に大きな労力を必要としないチューブ流動性を有し、且つ離水を生じないゲル状の経管栄養食品を提供することにある。

【解決手段】1〜10重量%の蛋白質を含むゲル状の経管栄養食品において、ゲル化剤としてι−カラギーナンを0.05〜0.2重量%含有し、50N以下であり、好ましくはゲル化剤としてι−カラギーナンの他に、ペクチン,ローカストビーンガム,キサンタンガム,ジェランガム,アルギン酸ナトリウム,寒天,ゼラチン,グァーガム,サイリウムシードガム,タマリンドガム,マンナン,およびタラガムから選択される1種以上を0.01〜0.15重量%含有するゲル状経管栄養食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経管的に栄養補給を必要とする外科手術患者や高齢者、あるいは低栄養状態の患者に投与する栄養組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、経管投与可能なチューブ流動性を有し、且つ離水を生じないゲル状経管栄養食品に関する。
【背景技術】
【0002】
事故または脳血管障害等による、あるいは加齢に伴って咀嚼・嚥下能力が低下した人、手術等により経口摂取が出来ない人には、鼻腔を経由して胃にチューブを挿入する経鼻胃管や胃瘻を経由して胃にチューブを挿入するPEG等によって、主に液状の栄養食品が投与されている。
これらの経管栄養投与方法の大きな問題点として、投与した栄養食品が胃から食道に逆流することによる嘔吐や、逆流した栄養食品が気管に入って引き起こす肺炎が挙げられている。特に、咀嚼・嚥下能力が低下した人は、逆流した栄養食品の気管への誤嚥を引き起こし易く、さらには重篤な肺炎を引き起こして死に至る場合も少なくない。
この問題を解決する方法としては、上体を起こした状態で経管栄養投与を行い、投与終了後も暫くの間上体を起こしたままにしておく方法があるが、この間、患者は上体を起こした状態で拘束されたままであり、リハビリテーションや機能回復訓練を行う時間が著しく制限されたり、低栄養患者では褥瘡が出来たりすることもあり、胃食道逆流を防止するのに充分な時間、上体を起こしたままにしておくことは患者への負担の点から難しい。
【0003】
そこで栄養食品に粘度(とろみ)を付与するあるいはゲル状にすることにより、胃から食道への逆流を抑制する方法がとられ、上体を起こした状態で拘束される時間を短縮あるいは省略している。
このような経管栄養の際に栄養食品に種々の増粘剤あるいはゲル化剤を添加して投与する方法(例えば、特許文献1,2参照)は、投与毎に栄養食品に増粘剤あるいはゲル化剤を添加する作業が必要であり、栄養食品に含まれるミネラルの量により付与される粘度あるいはゲル状態が異なる恐れがある。さらに、胃から食道への逆流が抑制される程度に粘度を付与すると栄養食品のチューブ流動性が悪くなり、経管的に投与するためには大きな注入圧力が必要となり、投与操作に大きな労力を要すことになる。
【0004】
また、上述の目的で使用される増粘剤あるいはゲル化剤の中でチューブ流動性の良いものとして寒天が挙げられるが、良好なチューブ流動性を保つ配合量では、製造時や保管時の温度変化ならびに取り扱い上の物理的な刺激により、製品重量の5〜10%程度の離水が生じてしまう。この離水は、輸送や取り扱いによる物理的な刺激により、ゲル化した栄養食品の周縁部を細かく破砕して製品形態を損ねるだけでなく、開栓時やチューブ接続時に吹きこぼれたりして使用感を悪くしている。
別に、経管投与の前あるいは後に栄養食品とは別に増粘剤を投与する方法もある(例えば、特許文献3〜5参照)が、別々に投与される栄養食品と増粘剤が胃内で均一に混合されて期待される効果を発現するかどうかは不明であり、投与操作も繁雑である。
【0005】
さらには、増粘剤あるいはゲル化剤を含有した栄養食品が、投与された胃内で胃酸と反応することによって増粘あるいはゲル化する機能を付与する方法もある(例えば、特許文献6,7参照)が、経管栄養をされている患者の中には胃内の食前のpHが高い人もあり、食物が胃内に入ってから後に胃が機能し始めて胃酸が分泌されることから、栄養食品が投与されてから目的とする粘度あるいはゲル状態に達するまでに時間がかかり、投与後暫くは液状栄養食品と変わらない状態であり注意が必要となる。
【0006】
【特許文献1】特開2007−77107号公報
【特許文献2】特開2006−273804号公報
【特許文献3】特許第3633942号公報
【特許文献4】特許第3140426号公報
【特許文献5】特開平11−9222号公報
【特許文献6】特許第3959191号公報
【特許文献7】特許第3959192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、経管栄養投与方法の大きな問題である嘔吐・胃食道逆流を抑制する方法としていくつか試みられているが、患者あるいは医療従事者にとって負担の大きい方法である。よって本発明は、投与操作に大きな労力を必要としないチューブ流動性を有し、且つ離水を生じないゲル状の経管栄養食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
嘔吐・胃食道逆流を抑制するためには、栄養食品が胃内に投与された時に胃内のpHに関わらずまとまりのある状態で存在することが重要であると考えた。これを達成するためには、投与前に既にゲル状態にある必要があり、このゲル状態の栄養食品が良好なチューブ流動性を有し、且つ離水を生じないようにすれば良いことから、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ゲル化剤としてι−カラギーナンを0.05〜0.2重量%含有することで本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、(1)1〜10重量%の蛋白質を含む経管栄養食品において、ゲル化剤としてι−カラギーナンを0.05〜0.2重量%含有し、50N以下のチューブ流動性を有し、且つ離水率が3%以下であることを特徴とするゲル状経管栄養食品。
(2)1〜10重量%の脂質あるいは10〜40重量%の糖質を含む上記(1)に記載のゲル状経管栄養食品。
(3)ゲル化剤としてι−カラギーナンの他に、ペクチン,ローカストビーンガム,キサンタンガム,ジェランガム,アルギン酸ナトリウム,寒天,ゼラチン,グァーガム,サイリウムシードガム,タマリンドガム,マンナン,およびタラガムから選択される1種以上を含有することを特徴とする上記(1)または(2)に記載のゲル状経管栄養食品。
(4)経管投与後もゲル状態を維持することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のゲル状経管栄養食品、である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のゲル状経管栄養食品は、嘔吐・胃食道逆流を抑制するために、栄養食品が胃内に投与された時に胃内のpHに関わらずゲル状態で存在することが重要である。そのため、経鼻胃管チューブあるいはPEGチューブ内を通過してきたゲル状態の栄養食品が、胃内に吐出された後に噴門部を通過しない程度のまとまりを持つゲル状態を保持する必要がある。
また、この様なゲル状態の栄養食品が、強い力を必要としないで経鼻胃管チューブあるいはPEGチューブ内を通過するのに必要なチューブ流動性あるいは滑りを有する必要がある。
さらに、製造時や保管時の温度変化ならびに取り扱い上の物理的な刺激を受けても離水しないことが必要である。
【0011】
本発明者らは、上記の要件を満たすべく鋭意検討した結果、ゲル化剤としてι−カラギーナンを0.05〜0.2重量%含有することで、チューブ流動性が50N以下で、且つ離水率が3%以下のゲル状経管栄養食品を完成するに至った。さらに、このゲル状経管栄養食品はチューブ内を通過した後もまとまりを持つゲル状態を保持している。
【0012】
本発明のチューブ流動性は次の方法で測定した。
50mLシリンジの押し子を抜き取り、調製したゲル状経管栄養食品をなるべく崩さないようにスプーン等ですくってシリンジ筒に移し入れる。押し子を取り付けた後に、14Fr.の経腸栄養用経鼻胃管チューブを接続する。シリンジからの押出し圧力をオートグラフを用いて測定する(押出し速度:50mm/min)。
上述の方法に従って測定した結果、押出し圧力が50N以上では、シリンジで経鼻胃管チューブを介してゲル状経管栄養食品を注入するのに、両手を用いても非常に苦労するほど投与しにくいものであったため、50N以下を良好なチューブ流動性の指標とした。
次に、離水については次の方法で測定した。
調製したゲル状経管栄養食品である製品の容器を開封して、内容物を崩さないように30メッシュのふるいの上に載せて、保管中に生じた離水をふるいを通して下のトレイに受ける。測定に用いた製品重量A,トレイに受けた離水の重量B,測定に用いた製品の容器重量Cをそれぞれ測定し、離水率(%)=B/(A−C)×100を求めた。
上述の方法に従って測定した結果、製品形態や使用感から離水率として3%以下を良好な離水の指標とした。
【0013】
また、ゲル化剤としては、ペクチン,ローカストビーンガム,キサンタンガム,ジェランガム,アルギン酸ナトリウム,寒天,ゼラチン,グァーガム,サイリウムシードガム,タマリンドガム,マンナン,およびタラガムから選択される1種以上をι−カラギーナンと共に配合しても良く、栄養食品の成分分量によっては、ι−カラギーナン単独よりも好ましいゲル状態が得られる。その際のι−カラギーナン以外の他のゲル化剤の配合量は0.01〜0.15重量%程度であることが好ましい。
【0014】
栄養組成としては特に制限はないが、1〜10重量%の蛋白質を含有し,さらに1〜10重量%の脂質あるいは10〜40重量%の糖質を含有する総合的に栄養補給が可能な組成が望ましい。蛋白質が1重量%未満では栄養補給の効果が得られず、10重量%を超える量になると殺菌時に凝集を起こすようになりチューブ流動性に影響を与えてしまう。
蛋白質,脂質,糖質以外にも、ビタミン,ミネラル,食物繊維等の必要な栄養素をバランス良く含んだものがさらに望ましい組成である。
以下、実施例を挙げて本発明の栄養組成物を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
ゲル化剤としてι−カラギーナン(GENUTINE X-9404;三晶(株)0.1重量%を、表1の(1)に記載した組成になるように各種原料と共に温水に溶解し、高圧ホモジナイザー(15MPa)で乳化後、この溶液を約300gずつPP製袋(大日本印刷社製)に充填し、密封後、121℃、20分間加熱滅菌した。
ι−カラギーナン含量は、0.1重量%である。
【実施例2】
【0016】
ゲル化剤としてι−カラギーナン(カラギニンCSI-1;三栄源エフエフアイ(株))0.16重量%を、表1の(2)に記載した組成になるように各種原料と共に溶解し、高圧ホモジナイザー(15MPa)で乳化後、この溶液を約300gずつPP製袋(大日本印刷社製)に充填し、密封後、121℃、20分間加熱滅菌した。
ι−カラギーナン含量は、0.16重量%である。
【実施例3】
【0017】
ゲル化剤としてι−カラギーナン(カラギニンCSI-1;三栄源エフエフアイ(株))0.2重量%を、表1の(3)に記載した組成になるように各種原料と共に溶解し、高圧ホモジナイザー(15MPa)で乳化後、この溶液を約300gずつPP製袋(大日本印刷社製)に充填し、密封後、121℃、20分間加熱滅菌した。
ι−カラギーナン含量は、0.2重量%である。
【実施例4】
【0018】
ゲル化剤としてι−カラギーナン製剤(ゲルアップ WA-100;ι−カラギーナン配合量18.2%,ジェランガム配合量17.1%;三栄源エフエフアイ(株))0.8重量%を、表1の(4)に記載した組成になるように各種原料と共に溶解し、高圧ホモジナイザー(15MPa)で乳化後、この溶液を約300gずつPP製袋(大日本印刷社製)に充填し、密封後、121℃、20分間加熱滅菌した。
ι−カラギーナン含量は0.15重量%、ジェランガム含量は0.10重量%である。
【実施例5】
【0019】
ゲル化剤としてι−カラギーナン製剤(ゲルアップ WG-100;ι−カラギーナン配合量24%,ローカストビーンガム配合量11%,キサンタンガム配合量11%,ジェランガム配合量5.5%;三栄源エフエフアイ(株))0.6重量%を、表1の(4)に記載した組成になるように各種原料と共に溶解し、高圧ホモジナイザー(15MPa)で乳化後、この溶液を約300gずつPP製袋(大日本印刷社製)に充填し、密封後、121℃、20分間加熱滅菌した。
ι−カラギーナン含量は0.14重量%、ローカストビーンガム含量は0.07重量%、キサンタンガム含量は0.07重量%、ジェランガム含量は0.03重量%である。
(比較例1)
【0020】
ゲル化剤としてι−カラギーナン(カラギニンCSI-1;三栄源エフエフアイ(株))0.3重量%を、表1の(2)に記載した組成になるように各種原料と共に溶解し、高圧ホモジナイザー(15MPa)で乳化後、この溶液を約300gずつPP製袋(大日本印刷社製)に充填し、密封後、121℃、20分間加熱滅菌した。
ι−カラギーナン含量は、0.3重量%である。
(比較例2)
【0021】
ゲル化剤としてι−カラギーナン(カラギニンCSI-1;三栄源エフエフアイ(株))0.5重量%を、表1の(2)に記載した組成になるように各種原料と共に溶解し、高圧ホモジナイザー(15MPa)で乳化後、この溶液を約300gずつPP製袋(大日本印刷社製)に充填し、密封後、121℃、20分間加熱滅菌した。
ι−カラギーナン含量は、0.5重量%である。
(比較例3)
【0022】
ゲル化剤として寒天(伊那寒天 UP-37;伊那食品工業(株))0.2重量%を、表1の(2)に記載した組成になるように各種原料と共に溶解し、高圧ホモジナイザー(15MPa)で乳化後、この溶液を約300gずつPP製袋(大日本印刷社製)に充填し、密封後、121℃、20分間加熱滅菌した。




【0023】
【表1】











【0024】
【表2】

【0025】
表2のチューブ流動性は50N以上になると、シリンジで注入するには両手を用いても非常に苦労するほどに投与しにくいものであり、本発明品はいずれもチューブ流動性の測定値が50N以下と低く、経管投与し易いといえる。
また、同程度のチューブ流動性の寒天による比較例3では離水率が高く、本発明品は離水率が3%以下と非常に離水しにくいものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1〜10重量%の蛋白質を含むゲル状の経管栄養食品において、ゲル化剤としてι−カラギーナンを0.05〜0.2重量%含有し、50N以下であることを特徴とするゲル状経管栄養食品。
【請求項2】
1〜10重量%の脂質および/または10〜40重量%の糖質を含む請求項1に記載のゲル状経管栄養食品。
【請求項3】
ゲル化剤としてι−カラギーナンの他に、ペクチン,ローカストビーンガム,キサンタンガム,ジェランガム,アルギン酸ナトリウム,寒天,ゼラチン,グァーガム,サイリウムシードガム,タマリンドガム,マンナン,およびタラガムから選択される1種以上を0.01〜0.15重量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載のゲル状経管栄養食品。
【請求項4】
経管投与後も胃の中でゲル状態を維持することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のゲル状経管栄養食品。

【公開番号】特開2010−77068(P2010−77068A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247008(P2008−247008)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】