ゲル状食品およびその製造方法
【課題】明確な複数相構造からなり全体としてゲル状でありながら、少なくとも1相についてはゾル−ゲル変化を可逆的に制御し得るゲル状食品およびその簡便な製造方法を提供することにある。
【解決手段】ゲル状食品は、複数相構造を有し、前記複数相構造のうち少なくとも一つの相が可逆的熱ゲル化剤を配合してなる。ゲル状食品の製造方法は、ゲル化性溶液を充填する第1充填工程と、前記工程後に前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる溶液を充填する第2充填工程と、充填された前記両溶液を冷却する冷却工程とを備える。
【解決手段】ゲル状食品は、複数相構造を有し、前記複数相構造のうち少なくとも一つの相が可逆的熱ゲル化剤を配合してなる。ゲル状食品の製造方法は、ゲル化性溶液を充填する第1充填工程と、前記工程後に前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる溶液を充填する第2充填工程と、充填された前記両溶液を冷却する冷却工程とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数相構造を有するゲル状食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゼリーやプリンなどのゲル状食品が多く市販されている。一方、このようなゲル状食品の市場価値を高めるべく、食品自体を複数相化した例も多い。例えば、カラギナン、寒天、ゼラチン、その他を膠質として、これにアルギン酸ナトリウム塩などを添加した水性ゲルと飲料水中にカルシウム塩を存在させたものとを層状に接合して一体とした多層型ゼリーが提案されている(特許文献1参照)。また、原料液にゲル化剤を含有させ、他の原料液にゲル化剤のゲル化を触発させる成分を含有させて別個に調製し、これらを混合して固化し、その上にゲル状食品などの他の食品を充填する多層ゲル化食品の製造方法も提案されている。(特許文献2参照)。さらにまた、ゲル状物の中に液状物が取り込まれたタイプのものとしては、アルギン酸塩やLMペクチンを配合してなるゲル状物の中に、液状食品を分散させた例が知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−248464号公報
【特許文献2】特開2000−60450号公報
【特許文献3】特開2002−27925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来知られた多層構造のゲル状食品は、その製造方法が必ずしも簡便ではなく、さらに得られた多層ゲル状食品においては各層の境界が必ずしも鮮明ではなかった。さらにまた、各相のゾル−ゲル状態を可逆的に制御することも困難であった。例えば、複数相ゲル状食品の中の各相についてゾル−ゲル変化を可逆的に制御できれば充填時あるいは商品提供時において好ましいがそのような複数相ゲル状食品は知られていなかった。
【0005】
本発明の目的は、明確な複数相構造からなり全体としてゲル状でありながら、少なくとも1相についてはゾル−ゲル変化を可逆的に制御し得るゲル状食品およびその簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決すべく、本発明は、以下のようなゲル状食品およびその製造方法を提供するものである。
(1)複数相構造を有するゲル状食品であって、前記複数相構造のうち少なくとも一つの相に可逆的熱ゲル化剤を配合してなることを特徴とするゲル状食品。
(2)上述の(1)に記載のゲル状食品において、前記可逆的熱ゲル化剤が酵素処理タマリンドシードガムであることを特徴とするゲル状食品。
(3)上述の(1)または(2)に記載のゲル状食品において、当該ゲル状食品が低温から高温になるに従い、前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゾルからゲルに変化する
ことを特徴とするゲル状食品。
(4)上述の(3)に記載のゲル状食品において、当該ゲル状食品がさらに高温になるに従い、前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゲルからゾルに変化することを特徴とするゲル状食品。
(5)上述の(3)または(4)に記載のゲル状食品において、前記可逆的熱ゲル化剤を低温度帯で配合して溶解した場合、当該ゲル状食品が低温から高温になるに従い、20℃以上70℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゾルからゲルに変化し、かつ、当該ゲル状食品がさらに高温になるに従い、75℃以上95℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゲルからゾルに変化することを特徴とするゲル状食品。
(6)上述の(3)または(4)に記載のゲル状食品において、前記可逆的熱ゲル化剤を高温度帯で配合して溶解した場合、当該ゲル状食品が低温から高温になるに従い、15℃以上45℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゾルからゲルに変化し、かつ、当該ゲル状食品がさらに高温になるに従い、50℃以上95℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゲルからゾルに変化することを特徴とするゲル状食品。
(7)複数相構造を有するゲル状食品の製造方法であって、ゲル化性溶液を充填する第1充填工程と、前記工程後に可逆的熱ゲル化剤を配合してなる溶液を充填する第2充填工程と、充填された前記両溶液を冷却する冷却工程とを備えることを特徴とするゲル状食品の製造方法。
(8)上述の(7)に記載のゲル状食品の製造方法において、前記第2充填工程における前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる溶液の温度が0℃以上90℃以下であることを特徴とするゲル状食品の製造方法。
(9)上述の(7)に記載のゲル状食品の製造方法において、前記第2充填工程における前記可逆的熱ゲル化剤を低温度帯で溶解することを特徴とするゲル状食品の製造方法。
(10)上述の(7)に記載のゲル状食品の製造方法において、前記第2充填工程における前記可逆的熱ゲル化剤を高温度帯で溶解することを特徴とするゲル状食品の製造方法。
(11)上述の(9)に記載のゲル状食品の製造方法において、前記第2充填工程における前記可逆的熱ゲル化剤を5℃以下で溶解することを特徴とするゲル状食品の製造方法。
(12)上述の(10)に記載のゲル状食品の製造方法において、前記第2充填工程における前記可逆的熱ゲル化剤を120℃以上で溶解することを特徴とするゲル状食品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、明確な複数相構造からなり全体としてゲル状でありながら、少なくとも一つの相については温度によりゾル−ゲル変化を可逆的に制御し得るゲル状食品およびその簡便な製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態におけるゲル状食品の例1(ゲル状食品を上から見た図および断面図を示した図である。以下同様である)
【図2】本実施形態におけるゲル状食品の例2
【図3】本実施形態におけるゲル状食品の例3
【図4】本実施形態におけるゲル状食品の例4
【図5】本実施形態におけるゲル状食品の例5
【図6】本実施形態におけるゲル状食品の例6
【図7】本実施形態におけるゲル状食品の例7
【図8】本実施形態におけるゲル状食品の例8
【図9】本実施形態におけるゲル状食品の例9
【図10】本実施形態におけるゲル状食品の例10
【図11】本実施形態におけるゲル状食品の例11
【図12】本実施形態におけるゲル状食品の例12
【図13】本実施形態におけるゲル状食品の例13(底面から見た図も含む。)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のゲル状食品およびその製造方法について詳細に説明する。
〔ゲル状食品の構成〕
本発明のゲル状食品は、複数相構造を有し、この複数相構造のうち少なくとも一つが可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相からなる。
このような複数相構造を有するゲル状食品としては、ゲル状物からなるマトリックス相中にゾル状物(流動食品)が分散した構造でもよく、ゲル状物同士からなる構造でもよい。分散相としては、塊状でも層状でもよい。
【0010】
本発明におけるゲル状食品の具体的な複数相構造としては、例えば図1から図13までに示すように種々の態様が挙げられる。具体的には、ゲル状あるいはゾル状からなる第1相1の内部に、ゲル状あるいはゾル状の第2相2が内包されているもの(例えば、図1)、水玉様として配置されているもの(例えば、図2、図12)、規則的に縦・横に配置されているもの(例えば、図3、図4、図7、図13)、上下に積層されているもの(例えば、図8、図9、図10)、マーブル状に配置されているもの(例えば、図5、図6、図11)などや、他に、第1相1の表面に第2相2により模様が描かれているものなどが挙げられる。なお、これらの分散構造は2種類の相に限られず、3種類以上の相からなるものであってもよい。
【0011】
上述した第1相1をゲル状物とした具体例として、プリン、ゼリー、ムース、ババロア、ヨーグルト、酸性プリン、飲むプリン、飲むゼリー、およびドリンクヨーグルトなどが挙げられる。また、第2相2をゾル状物(流動食品)とした具体例として、カラメルソース、フルーツソース、コーヒーソース、チョコソース、ココアソース、クリーム、ホイップクリーム、練乳、ジャム、シロップ、コーヒー、紅茶、牛乳、緑茶、抹茶、ウーロン茶、ココア飲料、果汁、果汁入りミルク、および炭酸飲料などが挙げられる。
第2相2の中に可逆的ゲル化剤を含有させると、温度により容易に第2相2をゲル化したり、またもとのゾル状物(流動食品)に戻したりすることができる。
【0012】
なお、上述したゲル状食品には、果実、さのう、ハーブ、野菜、チーズ、飴、チョコレート、およびその他の固形物が含まれていてもよい。
このようなゲル状食品を食する際は、スプーンを用いるだけでなく、その性状に応じて容器の開口部から直接飲用したり、あるいはストローにより吸引してもよい。
【0013】
上述の可逆的熱ゲル化剤としては、温度によるゲル化・ゾル化の制御の容易性から酵素処理タマリンドシードガムが好適である。
本発明で用いられる酵素処理タマリンドシードガムは、低温度帯でゾル状態、中温度帯でゲル状態、高温度帯でゾル状態を示すものである。酵素処理タマリンドシードガムとしては、側鎖ガラクトースの除去率が30質量%以上65質量%以下のものが好ましく、より好ましくは35質量%以上45質量%以下である。側鎖ガラクトースの除去率が30質量%未満であると、ゾル−ゲル変化が起こりにくくなるおそれがあり、また、側鎖ガラクトースの除去率が65質量%を超えてもゾル−ゲル変化が起こりにくくなるおそれがある。
【0014】
また、酵素処理タマリンドシードガムのような可逆的熱ゲル化剤を溶解した相の性質は、溶解処理を上述した低温度帯で行うか高温度帯で行うかによって異なる。
本発明のゲル状食品としては、低温度帯で溶解した可逆的熱ゲル化剤を用いた場合、当該ゲル状食品が低温から高温になるに従い、20℃以上70℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゾルからゲルに変化することが好ましい。また、当該ゲル状食品がさらに高温になるに従い、75℃以上95℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゲルからゾルに変化することが好ましい。
酵素処理タマリンドシードガムを用いた場合、併せて配合する他のゲル化剤や増粘剤の種類や配合量によって、酵素処理タマリンドシートガムを溶解する温度は異なるが、5℃以下の低温で溶解することが好ましい。
【0015】
本発明のゲル状食品としては、高温度帯で溶解した可逆的熱ゲル化剤を用いた場合、当該ゲル状食品が低温から高温になるに従い、15℃以上45℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゾルからゲルに変化することが好ましい。また、当該ゲル状食品がさらに高温になるに従い、50℃以上95℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゲルからゾルに変化することが好ましい。
酵素処理タマリンドシードガムを用いた場合、併せて配合する他のゲル化剤や増粘剤の種類や配合量によって、酵素処理タマリンドシートガムを溶解する温度は異なるが、120℃以上の高温で溶解することが好ましい。このような高温であると短時間で溶解が可能となる。
なお、以下の説明では、可逆的ゲル化剤の低温度帯(高温度帯)における溶解を、単に「低温(高温)で溶解」のように記載する。
【0016】
このゾル−ゲル相転移温度は、基質の濃度および側鎖ガラクトース除去率により制御することができる。例えば、側鎖ガラクトースの除去率が40質量%の酵素処理タマリンドシードガムは、基質として2質量%のガラクトキシログルカン水溶液を用いて酵素反応により得ることができる。この酵素処理タマリンドシードガムを配合した相は、およそ30℃以下と90℃以上ではゾル状態となり、およそ30℃から90℃まではゲル状態を示す。側鎖ガラクトース除去率としては、30質量%以上65質量%以下が好ましく、特に35質量%以上45質量%以下がより好ましい。30質量%未満もしくは65質量%を超えると、相転換(ゾル−ゲルの逆転)が上手く起こらない場合があるからである。
なお、側鎖ガラクトースの除去率は、遊離のガラクトースの量をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)で測定することにより算出することができる(Shirakawa.et.al., Food Hydrocolloids 12.1.25-28(1998))。
【0017】
このような酵素処理タマリンドシードガムを配合する場合の配合量は、配合される相基準で、0.1質量%以上4質量%以下が好ましく、0.75質量%以上3質量%以下がより好ましい。酵素処理タマリンドシードガムの配合量が4質量%を超えると粘度が高くなりすぎて均一に溶解させることが困難となるおそれがある。一方、配合量が0.1質量%未満であるとゲル化の効果が十分に発揮されないおそれがある。
【0018】
酵素処理タマリンドシードガムを配合する際は、併せて他のゲル化剤や増粘剤を配合してもよく、必要に応じて乳化剤を配合してもよい。
このようなゲル化剤や増粘剤としては特に限定されるものではなく、例えば、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、結晶セルロース、微小繊維状セルロース、発酵セルロース、ナタデココ、アラビアガム、ガティガム、カードラン、カラギナン、キサンタンガム、グァーガム、サイリウムシードガム、ジェランガム、タマリンドシードガム、タラガム、ペクチン、ダイズ多糖類、デンプン、加工デンプン(アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン)、寒天、ゼラチン、プルランおよびマンナンなどが挙げられる。
【0019】
乳化剤としては、例えば、キラヤ抽出物、グリセリン脂肪酸エステル(グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン酢酸エステル)、酵素処理レシチン、酵素分解レシチン、植物性ステロール、植物レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、分別レシチン、卵黄レシチン、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65、およびポリソルベート80など一般に市販されているものが挙げられる。
【0020】
〔ゲル状食品の製造方法〕
本発明のゲル状食品の製造方法は、ゲル化性溶液を充填する第1充填工程と、前記工程後に前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる溶液を充填する第2充填工程と、充填された前記両溶液を冷却する冷却工程とを備えている。
例えば、図1から図13までに挙げたような相構造を有するゲル状食品を製造する場合、まず、第1相1となるゲル化性溶液(以下、「1液」ともいう。)と、第2相2となる溶液(酵素処理タマリンドシードガムを含んでいる。以下、「2液」ともいう)とを酵素処理タマリンドシードガムを用いる以外はゲル状食品を調製する一般的な方法に従って調製することができる。酵素処理タマリンドシードガムは低温にて溶解しても良いし、高温にて溶解してもよい。
次に、第1充填工程で所定の容器に1液を充填し、その後に第2充填工程で2液を充填する。本発明においては、1液を容器に充填後、いつでも2液を充填することができる。例えば、1液を充填した直後に2液を充填して直ちに冷却してもよい。それ故、本発明によれば、従来の複数相ゲル状食品の製造方法にくらべ製造時間を大幅に短縮することができるだけでなく、設備投資を節約できるので、大幅なコストダウンが可能となる。
【0021】
また、1液と2液の比重差、1液の充填時における1液の充填温度、2液の充填時における2液の充填温度、さらには2液の充填時における2液の充填速度を調整することにより、任意の複数相構造を得ることができる。
例えば、1液に比べて2液の比重が小さいほど2液は上部に分布し、2液の比重が大きいほど2液は下部に分布する。また、1液の充填時における1液の充填温度が低いほど2液は上部に分布し、1液の充填温度が高いほど2液は下部に分布する。2液の充填時における2液の充填温度が低いほど2液は上部に分布し、2液の充填時における2液の充填温度が高いほど2液は下部に分布する。2液の充填時における2液の充填速度が遅いほど2液は上部に分布し、2液の充填速度が速いほど2液は下部に分布する。
【0022】
本発明では、2液の充填時における2液の温度は、0℃以上90℃以下であることが好ましい。この温度が90℃を超えると2液のしずくが再滴下して任意の形状になりにくくなるおそれがある。一方、この温度が0℃未満では、にじみを起こして模様が不明瞭になるおそれがある。
【0023】
本発明では、充填時の温度における1液の比重d1と2液の比重d2との関係は、d2−d1が−0.004以上0.2以下であることが好ましく、−0.004以上0.06以下であることがより好ましい。d2−d1の値が0.2を超えると2液がわずかににじみ、模様が不明瞭となるおそれがある。一方、d2−d1の値−0.004未満であると2液がにじみ模様が不明瞭となるおそれがある。
【0024】
本発明では、1液の充填時における1液の温度は、ゲル化温度以上であることが好ましい。ゲル化温度未満では、1液の充填直後に2液を充填すると2液がにじみ任意の形状としにくくなるおそれがある。
本発明では、2液の充填は、単孔ノズルでもよいが、多孔ノズルを用いて充填することがより好ましい。多孔ノズルを用いると2液のにじみを抑制できるので、2液を任意の形状とすることが容易であり好ましい。
【0025】
上述したように本発明によれば、各相の境界が明確な複数相構造を有するので、外観を損ねることなく、しかも、色彩、風味、食感ともに従来品より商品価値の高いゲル状食品を提供できる。しかも、本発明のゲル状食品は、簡便な方法で製造可能である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
[実施例1]
<プリン/縦断内包フルーツソース>
(1液の調製)
パーム油5.0質量%、脱脂粉乳9.6質量%、糖類15.0質量%、乳化剤0.1質量%、ペクチン0.15質量%、デン粉0.4質量%、ゼラチン0.15質量%、および香料と着色料を若干量配合して温水に溶解して均質化した後、125℃で2秒間殺菌し、50℃に保持して1液を調製した。この1液の比重は1.061、ゲル化温度は50℃であった。
【0027】
(2液の調製)
果汁10質量%、2℃の低温で3時間かけてあらかじめ溶解した酵素処理タマリンドシードガム2.0質量%、および若干量の香料と着色料と水を基本配合とし、糖類の組み合わせと配合量により充填温度における比重が1.081となるように調整して2液を調製した。2液は、85℃で20分間殺菌し、−2℃、0℃、10℃、90℃、95℃の5通りに分けて保持した。
【0028】
(1液および2液の充填)
1液を容器に90g充填し、多孔ノズルを用いて2液を1.1秒間で10g充填した。
充填後の容器を5℃に冷却後、ゲル状食品を上から見た場合および食品の上面に対し垂直方向に割った断面図の様子を目視にて観察した(図3参照)。なお、実施品は通常冷蔵状態(例えば、0℃以上20℃以下)で食するが、各相の状態を観察するため、冷蔵温度(5℃)および加温温度(本実施例のように、酵素処理タマリンドシードガムを低温溶解した場合は60℃、後述する実施例のように高温溶解した場合は40℃)で評価を行なった。
総合評価を以下の基準の通りに定め、結果を表1に示した。なお、後述する実施例でも同じ基準を用いた。
○:任意の複数相を有する形状であり、見た目にも美しい。
△:わずかなにじみがあり、模様が若干不明瞭である。
×:任意の複数相を有する形状にはならない。
【0029】
【表1】
【0030】
〔評価結果〕
冷蔵品(5℃)では、2液の充填時における2液の温度が−2℃の場合は、2液がわずかににじみ、模様が少し不明瞭であった。2液の温度が95℃の場合は、2液の再滴下により、食品の上面に2液が点々と載った状態であった。2液の充填時における2液の温度が0℃から90℃までであると、2液が界面に対し明確に分布しやすく、見た目にも特に美しい範囲であった。
加温品(60℃)でも冷蔵品(5℃)と同様に、2液の充填時における2液の温度が−2℃の場合は、2液がわずかににじみ、模様が少し不明瞭であった。また、2液の温度が95℃と高い場合は、2液の再滴下により食品の上面に2液が点々と載った状態であった。それ故、2液の充填時における2液の温度が、0℃から90℃までであると、2液が界面に対し垂直方向に分布し、見た目の美しさやおもしろさを与え、同時に複数の異なる食感や風味を味わうことができるのでより好ましいことがわかる。
【0031】
[実施例2]
<飲むプリン/水玉カラメルソース>
(1液の調製)
パーム油5.0質量%、脱脂粉乳9.6質量%、糖類15.0質量%、乳化剤0.1質量%、ペクチン0.05質量%、デン粉0.13質量%、ゼラチン0.05質量%、ジェランガム0.04質量%、クエン酸三ナトリウム0.01質量%、乳酸カルシウム0.02質量%、および香料と着色料を若干量配合して温水に溶解、均質化した後、125℃で2秒間殺菌し、70℃に保持して1液とした。1液の比重は1.071、ゲル化温度は50℃であった。
【0032】
(2液の調製)
粉末カラメル0.4質量%、酵素処理タマリンドンードガム2.0質量%、および若干量の香料と着色料と水を基本配合とし、糖類の組み合わせと配合量により比重差(1液の比重d1と2液の比重d2との差、d2−d1)について、−0.005、−0.004、0.036、0.060、0.20、および0.21の計6種類を設定し、各比重差を満たすように2液を調製した。2液は、125℃2秒間の高温で溶解と殺菌を行い、60℃に保持した。
【0033】
(1液および2液の充填)
次に、1液を容器に90g充填し、多孔ノズルを用いて2液を断続的に1.5秒間で10g充填した。冷却後中身を容器から取り出し、食品の上面に対し垂直方向に割り、目視にて界面の様子を観察した。同様に加温品も観察した(図12参照)。結果を表2に示した。
【0034】
【表2】
【0035】
〔評価結果〕
冷蔵品(5℃)では、1液の比重d1と2液の比重d2との差d2−d1が−0.005の場合は、2液が少しにじみ、模様がやや不明瞭であった。この比重差が0.21の場合も2液がわずかににじみ、模様がやや不明瞭であった。1液の比重と2液の比重差が−0.004から0.20までの範囲では、2液が水玉状にきれいに分布したものであった。さらに、この比重差が−0.004から0.06までの範囲である場合は、2液が水玉状で全体的に分布し、見た目にも特に美しいものであった。
【0036】
加温品(40℃)でも冷蔵品(5℃)と同様に、1液と2液の比重差が−0.005の場合は、2液が少しにじみ、模様がやや不明瞭であった。この比重差が0.21の場合も2液がわずかににじみ、模様がやや不明瞭であった。この比重差が−0.004から0.2までの範囲であると2液が水玉状にきれいに分布したものであった。さらに、この比重差が−0.004から0.06までの範囲であると、2液が水玉状で全体的に分布し、見た目にも特に美しいものであった。
【0037】
[実施例3]
<コーヒーゼリー/マーブル状クリーム>
(1液の調製)
インスタントコーヒー1.5質量%、ローカストビーンガム0.3質量%、カラギナン0.15質量%、ペクチン0.1質量%、ゼラチン0.1質量%、乳酸カルシウム0.02質量%、および若干量の香料と水を基本配合とし、糖類の組み合わせと配合量により充填温度における比重が1.088となるように調整して1液を調製した。1液は、均質化した後、110℃で2秒間殺菌し、35℃と50℃に保持した。得られた1液のゲル化温度は40℃であった。
【0038】
(2液の調製)
精製パーム油30.0質量%を80℃まで加温した。これとは別に、脱脂粉乳1.0質量%、ミネラル濃縮ホエー1.0質量%、3℃の低温で3時間かけてあらかじめ溶解した酵素処理タマリンドシードガム2.0質量%、ゼラチン0.30質量%、グァーガム0.12質量%、キサンタンガム0.06質量%、糖類8.0質量%、ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB15)0.20質量%、グリセリン脂肪酸エステル0.30質量、クエン酸三ナトリウム0.30質量%、第二リン酸カリウム0.20質量%、および香料0.08質量%を水に添加、溶解して水相を調製し、65℃まで加温した。そして水相を撹拌しながら、加温した油相(上述のパーム油)を水相に添加し、予備乳化および均質化した後、120℃で2秒間殺菌し、その後再び均質化を行い、10℃まで急速冷却した。得られた2液の比重は1.098であった。
【0039】
(1液と2液の充填)
1液を容器に85g充填し、多孔ノズルを用いて2液を0.6秒間で15g充填した。5℃に冷却後中身を容器から取り出し、食品の上面に対し垂直方向に割り、目視にて界面の様子を観察した。同様に加温品(60℃)も観察した。図6参照。結果を表3に示した。
【0040】
【表3】
【0041】
〔評価結果〕
冷蔵品(5℃)では、1液の充填時における1液の温度が35℃の場合(ゲル化温度40℃より低い)、2液が容器壁面に流れてにじみ、任意の形状にはややなりにくかった。1液の充填時における1液の温度が50℃の場合(ゲル化温度40℃より高い)は、2液がマーブル状に分布し、見た目にも美しいものであった。
加温品(60℃)でも冷蔵品と同様に、1液の充填時における1液の温度が、ゲル化温度より低い場合は、2液が容器壁面に流れてにじみ、任意の形状にはややなりにくかった。1液の充填時における1液の温度が、ゲル化温度以上である場合は、2液がマーブル状に分布し、見た目にも美しいものであった。
【0042】
[実施例4]
<プリン/界面模様内包フルーツソース>
(1液の調製)
パーム油5.0質量%、脱脂粉乳9.6質量%、糖類15。0質量%、乳化剤0.1質量%、ペクチン0.15質量%、デン粉0.4質量%、ゼラチン0.15質量%、カラギナン0.04質量%、キサンタンガム0.05質量%、ローカストビーンガム0.1質量%、および香料と着色料を若干量配合して温水に溶解し、均質化した後、125℃で2
秒間殺菌し、55℃に保持した。得られた1液の比重は1.059、ゲル化温度は50℃であった。
【0043】
(2液の調製)
果汁10質量%、糖類20質量%、2℃の低温で3時間かけてあらかじめ溶解した酵素処理タマリンドシードガム2.0質量%、および酸味料と香料と着色料を若干量配合して温水に溶解し、分散させた後、85℃で20分間殺菌し、10℃に保持した。得られた2液の比重は1.084であった。
【0044】
(1液と2液の充填)
1液を容器に85g充填し、送液ポンプ自体の回転数を直接制御することで脈流させながら円周状に配置された孔径3mmの6孔ノズルを用いて2液を1.5秒間で15g充填した。別の容器に1液を85g充填し、送液ポンプ自体の回転数を直接制御することで脈流させながら単孔ノズルを用いて2液を1.5秒間で15g充填した。冷却後中身を容器から取り出し、食品の上面に対し垂直方向に割り、目視にて界面の様子を観察した。同様に加温品も観察した。図7参照。結果を表4に示した。
【0045】
【表4】
【0046】
〔評価結果〕
冷蔵品(5℃)では、単孔ノズルでも任意の形状をとることはできるが、6孔ノズルを用いた場合のほうが、2液を充填すると2液が界面に大きな6つの円が分布し、見た目にも美しいものであった。
加温品(60℃)でも冷蔵品と同様に、単孔ノズルでも任意の形状をとることはできるが、6孔ノズルを用いた場合のほうが、2液を充填すると2液が界面に大きな6つの円が分布し、見た目にも美しいものであった。
【0047】
[実施例5]
<プリン/縦断内包カラメルソース>
(1液の調製)
パーム油5.0質量%、脱脂粉乳9.6質量%、糖類15.0質量%、乳化剤0.1質量%、ペクチン0.15質量%、デン粉0.4質量%、ゼラチン0.15質量%、および香料と着色料を若干量配合して温水に溶解、均質化した後、120℃で2秒間殺菌し、50℃に保持した。得られた1液の比重は1.059、ゲル化温度は50℃であった。
【0048】
(2液の調製)
粉末カラメル0.4質量%、糖類31.5質量%、安定剤を所定量、および香料を若干量配合して温水に溶解、分散した後、85℃で15分間殺菌し、10℃に保持した。得られた2液の比重は1.084であった。2液の安定剤は、酵素処理タマリンドシードガム2.0質量%使用したものとローカストビーンガム1.1質量%およびカラギナン0.05質量%を併用して使用したものの2を種調製した。
【0049】
(1液と2液の充填)
1液を容器に85g充填し、円周状に配置された孔径3mmで6孔の多孔ノズルを用いて2液を0.8秒間で15g充填した。冷却後中身を容器から取り出し、食品の上面に対し垂直方向に割り、目視にて界面の様子を観察した。同様に加温品も観察した(図3参照)。結果を表5に示した。
【0050】
【表5】
【0051】
〔評価結果〕
2液中に酵素処理タマリンドシードガムを含まない場合、2液は冷蔵時(5℃)においては非常ににじみ、加温時(60℃)においては1液と混合した状態であった。
一方、2液中に酵素処理タマリンドンードガムを含む本発明の実施品では、5℃ではゲル中にゾルが不連続相として内包されており、これを60℃に加温すると形状を維持したまま相転換が起こり、ゾル中にゲルが不連続相として内包され、2液が界面に対し垂直方向に分布し、見た目にも美しいものであった。また、食する際には最初から最後までプリンとフルーツソースが同時に食せる形状であった。
【0052】
[実施例6]
<ゼリー/底面模様内包フルーツソース>
(1液の調製)
1液は、糖類18.0質量%、透明りんご果汁6.0質量%、キサンタンガム0.08質量%、ジェランガム0.07質量%、ローカストビーンガム0.02質量%、クエン酸三ナトリウム0.04質量%、乳酸カルシウム0.04質量%、および酸味料と香料を若干量配合して温水に溶解、均質化した後、110℃で2秒間保持して殺菌し、65℃に保持した。得られた1液の比重は1.061、ゲル化温度は55℃、pHは3.9であった。
【0053】
(2液の調製)
果汁10質量%、糖類20質量%、1℃の低温で3時間かけてあらかじめ溶解した側鎖ガラクトース除去率が35質量%および45質量%の酵素処理タマリンドシードガム1.0質量%、および酸味料と香料と着色料を若干量配合して温水に溶解、分散させた後、85℃で20分間殺菌し、25℃に保持した。得られた2液の比重は1.091であった。
【0054】
(1液と2液の充填)
1液を容器に90g充填し、多孔ノズルを用いて2液を0.6秒で10g充填した。冷却後中身を容器から取り出し、食品の上面に対し垂直方向に割り、目視にて界面の様子を観察した。同様に加温品も観察した(図13参照)。結果を表6に示した。
【0055】
【表6】
【0056】
〔評価結果〕
側鎖ガラクトース除去率が35%と45%の酵素処理タマリンドシードガムを用いた2液は低温品(5℃)と加温品(60℃)において、ゾルーゲルが逆転した。また、2液がにじみもなく底面に6つの円が分布し、見た目にも美しいものであった。
【符号の説明】
【0057】
1…第1相(1液)
2…第2相(2液)
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数相構造を有するゲル状食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゼリーやプリンなどのゲル状食品が多く市販されている。一方、このようなゲル状食品の市場価値を高めるべく、食品自体を複数相化した例も多い。例えば、カラギナン、寒天、ゼラチン、その他を膠質として、これにアルギン酸ナトリウム塩などを添加した水性ゲルと飲料水中にカルシウム塩を存在させたものとを層状に接合して一体とした多層型ゼリーが提案されている(特許文献1参照)。また、原料液にゲル化剤を含有させ、他の原料液にゲル化剤のゲル化を触発させる成分を含有させて別個に調製し、これらを混合して固化し、その上にゲル状食品などの他の食品を充填する多層ゲル化食品の製造方法も提案されている。(特許文献2参照)。さらにまた、ゲル状物の中に液状物が取り込まれたタイプのものとしては、アルギン酸塩やLMペクチンを配合してなるゲル状物の中に、液状食品を分散させた例が知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−248464号公報
【特許文献2】特開2000−60450号公報
【特許文献3】特開2002−27925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来知られた多層構造のゲル状食品は、その製造方法が必ずしも簡便ではなく、さらに得られた多層ゲル状食品においては各層の境界が必ずしも鮮明ではなかった。さらにまた、各相のゾル−ゲル状態を可逆的に制御することも困難であった。例えば、複数相ゲル状食品の中の各相についてゾル−ゲル変化を可逆的に制御できれば充填時あるいは商品提供時において好ましいがそのような複数相ゲル状食品は知られていなかった。
【0005】
本発明の目的は、明確な複数相構造からなり全体としてゲル状でありながら、少なくとも1相についてはゾル−ゲル変化を可逆的に制御し得るゲル状食品およびその簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決すべく、本発明は、以下のようなゲル状食品およびその製造方法を提供するものである。
(1)複数相構造を有するゲル状食品であって、前記複数相構造のうち少なくとも一つの相に可逆的熱ゲル化剤を配合してなることを特徴とするゲル状食品。
(2)上述の(1)に記載のゲル状食品において、前記可逆的熱ゲル化剤が酵素処理タマリンドシードガムであることを特徴とするゲル状食品。
(3)上述の(1)または(2)に記載のゲル状食品において、当該ゲル状食品が低温から高温になるに従い、前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゾルからゲルに変化する
ことを特徴とするゲル状食品。
(4)上述の(3)に記載のゲル状食品において、当該ゲル状食品がさらに高温になるに従い、前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゲルからゾルに変化することを特徴とするゲル状食品。
(5)上述の(3)または(4)に記載のゲル状食品において、前記可逆的熱ゲル化剤を低温度帯で配合して溶解した場合、当該ゲル状食品が低温から高温になるに従い、20℃以上70℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゾルからゲルに変化し、かつ、当該ゲル状食品がさらに高温になるに従い、75℃以上95℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゲルからゾルに変化することを特徴とするゲル状食品。
(6)上述の(3)または(4)に記載のゲル状食品において、前記可逆的熱ゲル化剤を高温度帯で配合して溶解した場合、当該ゲル状食品が低温から高温になるに従い、15℃以上45℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゾルからゲルに変化し、かつ、当該ゲル状食品がさらに高温になるに従い、50℃以上95℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゲルからゾルに変化することを特徴とするゲル状食品。
(7)複数相構造を有するゲル状食品の製造方法であって、ゲル化性溶液を充填する第1充填工程と、前記工程後に可逆的熱ゲル化剤を配合してなる溶液を充填する第2充填工程と、充填された前記両溶液を冷却する冷却工程とを備えることを特徴とするゲル状食品の製造方法。
(8)上述の(7)に記載のゲル状食品の製造方法において、前記第2充填工程における前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる溶液の温度が0℃以上90℃以下であることを特徴とするゲル状食品の製造方法。
(9)上述の(7)に記載のゲル状食品の製造方法において、前記第2充填工程における前記可逆的熱ゲル化剤を低温度帯で溶解することを特徴とするゲル状食品の製造方法。
(10)上述の(7)に記載のゲル状食品の製造方法において、前記第2充填工程における前記可逆的熱ゲル化剤を高温度帯で溶解することを特徴とするゲル状食品の製造方法。
(11)上述の(9)に記載のゲル状食品の製造方法において、前記第2充填工程における前記可逆的熱ゲル化剤を5℃以下で溶解することを特徴とするゲル状食品の製造方法。
(12)上述の(10)に記載のゲル状食品の製造方法において、前記第2充填工程における前記可逆的熱ゲル化剤を120℃以上で溶解することを特徴とするゲル状食品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、明確な複数相構造からなり全体としてゲル状でありながら、少なくとも一つの相については温度によりゾル−ゲル変化を可逆的に制御し得るゲル状食品およびその簡便な製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態におけるゲル状食品の例1(ゲル状食品を上から見た図および断面図を示した図である。以下同様である)
【図2】本実施形態におけるゲル状食品の例2
【図3】本実施形態におけるゲル状食品の例3
【図4】本実施形態におけるゲル状食品の例4
【図5】本実施形態におけるゲル状食品の例5
【図6】本実施形態におけるゲル状食品の例6
【図7】本実施形態におけるゲル状食品の例7
【図8】本実施形態におけるゲル状食品の例8
【図9】本実施形態におけるゲル状食品の例9
【図10】本実施形態におけるゲル状食品の例10
【図11】本実施形態におけるゲル状食品の例11
【図12】本実施形態におけるゲル状食品の例12
【図13】本実施形態におけるゲル状食品の例13(底面から見た図も含む。)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のゲル状食品およびその製造方法について詳細に説明する。
〔ゲル状食品の構成〕
本発明のゲル状食品は、複数相構造を有し、この複数相構造のうち少なくとも一つが可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相からなる。
このような複数相構造を有するゲル状食品としては、ゲル状物からなるマトリックス相中にゾル状物(流動食品)が分散した構造でもよく、ゲル状物同士からなる構造でもよい。分散相としては、塊状でも層状でもよい。
【0010】
本発明におけるゲル状食品の具体的な複数相構造としては、例えば図1から図13までに示すように種々の態様が挙げられる。具体的には、ゲル状あるいはゾル状からなる第1相1の内部に、ゲル状あるいはゾル状の第2相2が内包されているもの(例えば、図1)、水玉様として配置されているもの(例えば、図2、図12)、規則的に縦・横に配置されているもの(例えば、図3、図4、図7、図13)、上下に積層されているもの(例えば、図8、図9、図10)、マーブル状に配置されているもの(例えば、図5、図6、図11)などや、他に、第1相1の表面に第2相2により模様が描かれているものなどが挙げられる。なお、これらの分散構造は2種類の相に限られず、3種類以上の相からなるものであってもよい。
【0011】
上述した第1相1をゲル状物とした具体例として、プリン、ゼリー、ムース、ババロア、ヨーグルト、酸性プリン、飲むプリン、飲むゼリー、およびドリンクヨーグルトなどが挙げられる。また、第2相2をゾル状物(流動食品)とした具体例として、カラメルソース、フルーツソース、コーヒーソース、チョコソース、ココアソース、クリーム、ホイップクリーム、練乳、ジャム、シロップ、コーヒー、紅茶、牛乳、緑茶、抹茶、ウーロン茶、ココア飲料、果汁、果汁入りミルク、および炭酸飲料などが挙げられる。
第2相2の中に可逆的ゲル化剤を含有させると、温度により容易に第2相2をゲル化したり、またもとのゾル状物(流動食品)に戻したりすることができる。
【0012】
なお、上述したゲル状食品には、果実、さのう、ハーブ、野菜、チーズ、飴、チョコレート、およびその他の固形物が含まれていてもよい。
このようなゲル状食品を食する際は、スプーンを用いるだけでなく、その性状に応じて容器の開口部から直接飲用したり、あるいはストローにより吸引してもよい。
【0013】
上述の可逆的熱ゲル化剤としては、温度によるゲル化・ゾル化の制御の容易性から酵素処理タマリンドシードガムが好適である。
本発明で用いられる酵素処理タマリンドシードガムは、低温度帯でゾル状態、中温度帯でゲル状態、高温度帯でゾル状態を示すものである。酵素処理タマリンドシードガムとしては、側鎖ガラクトースの除去率が30質量%以上65質量%以下のものが好ましく、より好ましくは35質量%以上45質量%以下である。側鎖ガラクトースの除去率が30質量%未満であると、ゾル−ゲル変化が起こりにくくなるおそれがあり、また、側鎖ガラクトースの除去率が65質量%を超えてもゾル−ゲル変化が起こりにくくなるおそれがある。
【0014】
また、酵素処理タマリンドシードガムのような可逆的熱ゲル化剤を溶解した相の性質は、溶解処理を上述した低温度帯で行うか高温度帯で行うかによって異なる。
本発明のゲル状食品としては、低温度帯で溶解した可逆的熱ゲル化剤を用いた場合、当該ゲル状食品が低温から高温になるに従い、20℃以上70℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゾルからゲルに変化することが好ましい。また、当該ゲル状食品がさらに高温になるに従い、75℃以上95℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゲルからゾルに変化することが好ましい。
酵素処理タマリンドシードガムを用いた場合、併せて配合する他のゲル化剤や増粘剤の種類や配合量によって、酵素処理タマリンドシートガムを溶解する温度は異なるが、5℃以下の低温で溶解することが好ましい。
【0015】
本発明のゲル状食品としては、高温度帯で溶解した可逆的熱ゲル化剤を用いた場合、当該ゲル状食品が低温から高温になるに従い、15℃以上45℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゾルからゲルに変化することが好ましい。また、当該ゲル状食品がさらに高温になるに従い、50℃以上95℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゲルからゾルに変化することが好ましい。
酵素処理タマリンドシードガムを用いた場合、併せて配合する他のゲル化剤や増粘剤の種類や配合量によって、酵素処理タマリンドシートガムを溶解する温度は異なるが、120℃以上の高温で溶解することが好ましい。このような高温であると短時間で溶解が可能となる。
なお、以下の説明では、可逆的ゲル化剤の低温度帯(高温度帯)における溶解を、単に「低温(高温)で溶解」のように記載する。
【0016】
このゾル−ゲル相転移温度は、基質の濃度および側鎖ガラクトース除去率により制御することができる。例えば、側鎖ガラクトースの除去率が40質量%の酵素処理タマリンドシードガムは、基質として2質量%のガラクトキシログルカン水溶液を用いて酵素反応により得ることができる。この酵素処理タマリンドシードガムを配合した相は、およそ30℃以下と90℃以上ではゾル状態となり、およそ30℃から90℃まではゲル状態を示す。側鎖ガラクトース除去率としては、30質量%以上65質量%以下が好ましく、特に35質量%以上45質量%以下がより好ましい。30質量%未満もしくは65質量%を超えると、相転換(ゾル−ゲルの逆転)が上手く起こらない場合があるからである。
なお、側鎖ガラクトースの除去率は、遊離のガラクトースの量をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)で測定することにより算出することができる(Shirakawa.et.al., Food Hydrocolloids 12.1.25-28(1998))。
【0017】
このような酵素処理タマリンドシードガムを配合する場合の配合量は、配合される相基準で、0.1質量%以上4質量%以下が好ましく、0.75質量%以上3質量%以下がより好ましい。酵素処理タマリンドシードガムの配合量が4質量%を超えると粘度が高くなりすぎて均一に溶解させることが困難となるおそれがある。一方、配合量が0.1質量%未満であるとゲル化の効果が十分に発揮されないおそれがある。
【0018】
酵素処理タマリンドシードガムを配合する際は、併せて他のゲル化剤や増粘剤を配合してもよく、必要に応じて乳化剤を配合してもよい。
このようなゲル化剤や増粘剤としては特に限定されるものではなく、例えば、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、結晶セルロース、微小繊維状セルロース、発酵セルロース、ナタデココ、アラビアガム、ガティガム、カードラン、カラギナン、キサンタンガム、グァーガム、サイリウムシードガム、ジェランガム、タマリンドシードガム、タラガム、ペクチン、ダイズ多糖類、デンプン、加工デンプン(アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン)、寒天、ゼラチン、プルランおよびマンナンなどが挙げられる。
【0019】
乳化剤としては、例えば、キラヤ抽出物、グリセリン脂肪酸エステル(グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン酢酸エステル)、酵素処理レシチン、酵素分解レシチン、植物性ステロール、植物レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、分別レシチン、卵黄レシチン、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65、およびポリソルベート80など一般に市販されているものが挙げられる。
【0020】
〔ゲル状食品の製造方法〕
本発明のゲル状食品の製造方法は、ゲル化性溶液を充填する第1充填工程と、前記工程後に前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる溶液を充填する第2充填工程と、充填された前記両溶液を冷却する冷却工程とを備えている。
例えば、図1から図13までに挙げたような相構造を有するゲル状食品を製造する場合、まず、第1相1となるゲル化性溶液(以下、「1液」ともいう。)と、第2相2となる溶液(酵素処理タマリンドシードガムを含んでいる。以下、「2液」ともいう)とを酵素処理タマリンドシードガムを用いる以外はゲル状食品を調製する一般的な方法に従って調製することができる。酵素処理タマリンドシードガムは低温にて溶解しても良いし、高温にて溶解してもよい。
次に、第1充填工程で所定の容器に1液を充填し、その後に第2充填工程で2液を充填する。本発明においては、1液を容器に充填後、いつでも2液を充填することができる。例えば、1液を充填した直後に2液を充填して直ちに冷却してもよい。それ故、本発明によれば、従来の複数相ゲル状食品の製造方法にくらべ製造時間を大幅に短縮することができるだけでなく、設備投資を節約できるので、大幅なコストダウンが可能となる。
【0021】
また、1液と2液の比重差、1液の充填時における1液の充填温度、2液の充填時における2液の充填温度、さらには2液の充填時における2液の充填速度を調整することにより、任意の複数相構造を得ることができる。
例えば、1液に比べて2液の比重が小さいほど2液は上部に分布し、2液の比重が大きいほど2液は下部に分布する。また、1液の充填時における1液の充填温度が低いほど2液は上部に分布し、1液の充填温度が高いほど2液は下部に分布する。2液の充填時における2液の充填温度が低いほど2液は上部に分布し、2液の充填時における2液の充填温度が高いほど2液は下部に分布する。2液の充填時における2液の充填速度が遅いほど2液は上部に分布し、2液の充填速度が速いほど2液は下部に分布する。
【0022】
本発明では、2液の充填時における2液の温度は、0℃以上90℃以下であることが好ましい。この温度が90℃を超えると2液のしずくが再滴下して任意の形状になりにくくなるおそれがある。一方、この温度が0℃未満では、にじみを起こして模様が不明瞭になるおそれがある。
【0023】
本発明では、充填時の温度における1液の比重d1と2液の比重d2との関係は、d2−d1が−0.004以上0.2以下であることが好ましく、−0.004以上0.06以下であることがより好ましい。d2−d1の値が0.2を超えると2液がわずかににじみ、模様が不明瞭となるおそれがある。一方、d2−d1の値−0.004未満であると2液がにじみ模様が不明瞭となるおそれがある。
【0024】
本発明では、1液の充填時における1液の温度は、ゲル化温度以上であることが好ましい。ゲル化温度未満では、1液の充填直後に2液を充填すると2液がにじみ任意の形状としにくくなるおそれがある。
本発明では、2液の充填は、単孔ノズルでもよいが、多孔ノズルを用いて充填することがより好ましい。多孔ノズルを用いると2液のにじみを抑制できるので、2液を任意の形状とすることが容易であり好ましい。
【0025】
上述したように本発明によれば、各相の境界が明確な複数相構造を有するので、外観を損ねることなく、しかも、色彩、風味、食感ともに従来品より商品価値の高いゲル状食品を提供できる。しかも、本発明のゲル状食品は、簡便な方法で製造可能である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
[実施例1]
<プリン/縦断内包フルーツソース>
(1液の調製)
パーム油5.0質量%、脱脂粉乳9.6質量%、糖類15.0質量%、乳化剤0.1質量%、ペクチン0.15質量%、デン粉0.4質量%、ゼラチン0.15質量%、および香料と着色料を若干量配合して温水に溶解して均質化した後、125℃で2秒間殺菌し、50℃に保持して1液を調製した。この1液の比重は1.061、ゲル化温度は50℃であった。
【0027】
(2液の調製)
果汁10質量%、2℃の低温で3時間かけてあらかじめ溶解した酵素処理タマリンドシードガム2.0質量%、および若干量の香料と着色料と水を基本配合とし、糖類の組み合わせと配合量により充填温度における比重が1.081となるように調整して2液を調製した。2液は、85℃で20分間殺菌し、−2℃、0℃、10℃、90℃、95℃の5通りに分けて保持した。
【0028】
(1液および2液の充填)
1液を容器に90g充填し、多孔ノズルを用いて2液を1.1秒間で10g充填した。
充填後の容器を5℃に冷却後、ゲル状食品を上から見た場合および食品の上面に対し垂直方向に割った断面図の様子を目視にて観察した(図3参照)。なお、実施品は通常冷蔵状態(例えば、0℃以上20℃以下)で食するが、各相の状態を観察するため、冷蔵温度(5℃)および加温温度(本実施例のように、酵素処理タマリンドシードガムを低温溶解した場合は60℃、後述する実施例のように高温溶解した場合は40℃)で評価を行なった。
総合評価を以下の基準の通りに定め、結果を表1に示した。なお、後述する実施例でも同じ基準を用いた。
○:任意の複数相を有する形状であり、見た目にも美しい。
△:わずかなにじみがあり、模様が若干不明瞭である。
×:任意の複数相を有する形状にはならない。
【0029】
【表1】
【0030】
〔評価結果〕
冷蔵品(5℃)では、2液の充填時における2液の温度が−2℃の場合は、2液がわずかににじみ、模様が少し不明瞭であった。2液の温度が95℃の場合は、2液の再滴下により、食品の上面に2液が点々と載った状態であった。2液の充填時における2液の温度が0℃から90℃までであると、2液が界面に対し明確に分布しやすく、見た目にも特に美しい範囲であった。
加温品(60℃)でも冷蔵品(5℃)と同様に、2液の充填時における2液の温度が−2℃の場合は、2液がわずかににじみ、模様が少し不明瞭であった。また、2液の温度が95℃と高い場合は、2液の再滴下により食品の上面に2液が点々と載った状態であった。それ故、2液の充填時における2液の温度が、0℃から90℃までであると、2液が界面に対し垂直方向に分布し、見た目の美しさやおもしろさを与え、同時に複数の異なる食感や風味を味わうことができるのでより好ましいことがわかる。
【0031】
[実施例2]
<飲むプリン/水玉カラメルソース>
(1液の調製)
パーム油5.0質量%、脱脂粉乳9.6質量%、糖類15.0質量%、乳化剤0.1質量%、ペクチン0.05質量%、デン粉0.13質量%、ゼラチン0.05質量%、ジェランガム0.04質量%、クエン酸三ナトリウム0.01質量%、乳酸カルシウム0.02質量%、および香料と着色料を若干量配合して温水に溶解、均質化した後、125℃で2秒間殺菌し、70℃に保持して1液とした。1液の比重は1.071、ゲル化温度は50℃であった。
【0032】
(2液の調製)
粉末カラメル0.4質量%、酵素処理タマリンドンードガム2.0質量%、および若干量の香料と着色料と水を基本配合とし、糖類の組み合わせと配合量により比重差(1液の比重d1と2液の比重d2との差、d2−d1)について、−0.005、−0.004、0.036、0.060、0.20、および0.21の計6種類を設定し、各比重差を満たすように2液を調製した。2液は、125℃2秒間の高温で溶解と殺菌を行い、60℃に保持した。
【0033】
(1液および2液の充填)
次に、1液を容器に90g充填し、多孔ノズルを用いて2液を断続的に1.5秒間で10g充填した。冷却後中身を容器から取り出し、食品の上面に対し垂直方向に割り、目視にて界面の様子を観察した。同様に加温品も観察した(図12参照)。結果を表2に示した。
【0034】
【表2】
【0035】
〔評価結果〕
冷蔵品(5℃)では、1液の比重d1と2液の比重d2との差d2−d1が−0.005の場合は、2液が少しにじみ、模様がやや不明瞭であった。この比重差が0.21の場合も2液がわずかににじみ、模様がやや不明瞭であった。1液の比重と2液の比重差が−0.004から0.20までの範囲では、2液が水玉状にきれいに分布したものであった。さらに、この比重差が−0.004から0.06までの範囲である場合は、2液が水玉状で全体的に分布し、見た目にも特に美しいものであった。
【0036】
加温品(40℃)でも冷蔵品(5℃)と同様に、1液と2液の比重差が−0.005の場合は、2液が少しにじみ、模様がやや不明瞭であった。この比重差が0.21の場合も2液がわずかににじみ、模様がやや不明瞭であった。この比重差が−0.004から0.2までの範囲であると2液が水玉状にきれいに分布したものであった。さらに、この比重差が−0.004から0.06までの範囲であると、2液が水玉状で全体的に分布し、見た目にも特に美しいものであった。
【0037】
[実施例3]
<コーヒーゼリー/マーブル状クリーム>
(1液の調製)
インスタントコーヒー1.5質量%、ローカストビーンガム0.3質量%、カラギナン0.15質量%、ペクチン0.1質量%、ゼラチン0.1質量%、乳酸カルシウム0.02質量%、および若干量の香料と水を基本配合とし、糖類の組み合わせと配合量により充填温度における比重が1.088となるように調整して1液を調製した。1液は、均質化した後、110℃で2秒間殺菌し、35℃と50℃に保持した。得られた1液のゲル化温度は40℃であった。
【0038】
(2液の調製)
精製パーム油30.0質量%を80℃まで加温した。これとは別に、脱脂粉乳1.0質量%、ミネラル濃縮ホエー1.0質量%、3℃の低温で3時間かけてあらかじめ溶解した酵素処理タマリンドシードガム2.0質量%、ゼラチン0.30質量%、グァーガム0.12質量%、キサンタンガム0.06質量%、糖類8.0質量%、ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB15)0.20質量%、グリセリン脂肪酸エステル0.30質量、クエン酸三ナトリウム0.30質量%、第二リン酸カリウム0.20質量%、および香料0.08質量%を水に添加、溶解して水相を調製し、65℃まで加温した。そして水相を撹拌しながら、加温した油相(上述のパーム油)を水相に添加し、予備乳化および均質化した後、120℃で2秒間殺菌し、その後再び均質化を行い、10℃まで急速冷却した。得られた2液の比重は1.098であった。
【0039】
(1液と2液の充填)
1液を容器に85g充填し、多孔ノズルを用いて2液を0.6秒間で15g充填した。5℃に冷却後中身を容器から取り出し、食品の上面に対し垂直方向に割り、目視にて界面の様子を観察した。同様に加温品(60℃)も観察した。図6参照。結果を表3に示した。
【0040】
【表3】
【0041】
〔評価結果〕
冷蔵品(5℃)では、1液の充填時における1液の温度が35℃の場合(ゲル化温度40℃より低い)、2液が容器壁面に流れてにじみ、任意の形状にはややなりにくかった。1液の充填時における1液の温度が50℃の場合(ゲル化温度40℃より高い)は、2液がマーブル状に分布し、見た目にも美しいものであった。
加温品(60℃)でも冷蔵品と同様に、1液の充填時における1液の温度が、ゲル化温度より低い場合は、2液が容器壁面に流れてにじみ、任意の形状にはややなりにくかった。1液の充填時における1液の温度が、ゲル化温度以上である場合は、2液がマーブル状に分布し、見た目にも美しいものであった。
【0042】
[実施例4]
<プリン/界面模様内包フルーツソース>
(1液の調製)
パーム油5.0質量%、脱脂粉乳9.6質量%、糖類15。0質量%、乳化剤0.1質量%、ペクチン0.15質量%、デン粉0.4質量%、ゼラチン0.15質量%、カラギナン0.04質量%、キサンタンガム0.05質量%、ローカストビーンガム0.1質量%、および香料と着色料を若干量配合して温水に溶解し、均質化した後、125℃で2
秒間殺菌し、55℃に保持した。得られた1液の比重は1.059、ゲル化温度は50℃であった。
【0043】
(2液の調製)
果汁10質量%、糖類20質量%、2℃の低温で3時間かけてあらかじめ溶解した酵素処理タマリンドシードガム2.0質量%、および酸味料と香料と着色料を若干量配合して温水に溶解し、分散させた後、85℃で20分間殺菌し、10℃に保持した。得られた2液の比重は1.084であった。
【0044】
(1液と2液の充填)
1液を容器に85g充填し、送液ポンプ自体の回転数を直接制御することで脈流させながら円周状に配置された孔径3mmの6孔ノズルを用いて2液を1.5秒間で15g充填した。別の容器に1液を85g充填し、送液ポンプ自体の回転数を直接制御することで脈流させながら単孔ノズルを用いて2液を1.5秒間で15g充填した。冷却後中身を容器から取り出し、食品の上面に対し垂直方向に割り、目視にて界面の様子を観察した。同様に加温品も観察した。図7参照。結果を表4に示した。
【0045】
【表4】
【0046】
〔評価結果〕
冷蔵品(5℃)では、単孔ノズルでも任意の形状をとることはできるが、6孔ノズルを用いた場合のほうが、2液を充填すると2液が界面に大きな6つの円が分布し、見た目にも美しいものであった。
加温品(60℃)でも冷蔵品と同様に、単孔ノズルでも任意の形状をとることはできるが、6孔ノズルを用いた場合のほうが、2液を充填すると2液が界面に大きな6つの円が分布し、見た目にも美しいものであった。
【0047】
[実施例5]
<プリン/縦断内包カラメルソース>
(1液の調製)
パーム油5.0質量%、脱脂粉乳9.6質量%、糖類15.0質量%、乳化剤0.1質量%、ペクチン0.15質量%、デン粉0.4質量%、ゼラチン0.15質量%、および香料と着色料を若干量配合して温水に溶解、均質化した後、120℃で2秒間殺菌し、50℃に保持した。得られた1液の比重は1.059、ゲル化温度は50℃であった。
【0048】
(2液の調製)
粉末カラメル0.4質量%、糖類31.5質量%、安定剤を所定量、および香料を若干量配合して温水に溶解、分散した後、85℃で15分間殺菌し、10℃に保持した。得られた2液の比重は1.084であった。2液の安定剤は、酵素処理タマリンドシードガム2.0質量%使用したものとローカストビーンガム1.1質量%およびカラギナン0.05質量%を併用して使用したものの2を種調製した。
【0049】
(1液と2液の充填)
1液を容器に85g充填し、円周状に配置された孔径3mmで6孔の多孔ノズルを用いて2液を0.8秒間で15g充填した。冷却後中身を容器から取り出し、食品の上面に対し垂直方向に割り、目視にて界面の様子を観察した。同様に加温品も観察した(図3参照)。結果を表5に示した。
【0050】
【表5】
【0051】
〔評価結果〕
2液中に酵素処理タマリンドシードガムを含まない場合、2液は冷蔵時(5℃)においては非常ににじみ、加温時(60℃)においては1液と混合した状態であった。
一方、2液中に酵素処理タマリンドンードガムを含む本発明の実施品では、5℃ではゲル中にゾルが不連続相として内包されており、これを60℃に加温すると形状を維持したまま相転換が起こり、ゾル中にゲルが不連続相として内包され、2液が界面に対し垂直方向に分布し、見た目にも美しいものであった。また、食する際には最初から最後までプリンとフルーツソースが同時に食せる形状であった。
【0052】
[実施例6]
<ゼリー/底面模様内包フルーツソース>
(1液の調製)
1液は、糖類18.0質量%、透明りんご果汁6.0質量%、キサンタンガム0.08質量%、ジェランガム0.07質量%、ローカストビーンガム0.02質量%、クエン酸三ナトリウム0.04質量%、乳酸カルシウム0.04質量%、および酸味料と香料を若干量配合して温水に溶解、均質化した後、110℃で2秒間保持して殺菌し、65℃に保持した。得られた1液の比重は1.061、ゲル化温度は55℃、pHは3.9であった。
【0053】
(2液の調製)
果汁10質量%、糖類20質量%、1℃の低温で3時間かけてあらかじめ溶解した側鎖ガラクトース除去率が35質量%および45質量%の酵素処理タマリンドシードガム1.0質量%、および酸味料と香料と着色料を若干量配合して温水に溶解、分散させた後、85℃で20分間殺菌し、25℃に保持した。得られた2液の比重は1.091であった。
【0054】
(1液と2液の充填)
1液を容器に90g充填し、多孔ノズルを用いて2液を0.6秒で10g充填した。冷却後中身を容器から取り出し、食品の上面に対し垂直方向に割り、目視にて界面の様子を観察した。同様に加温品も観察した(図13参照)。結果を表6に示した。
【0055】
【表6】
【0056】
〔評価結果〕
側鎖ガラクトース除去率が35%と45%の酵素処理タマリンドシードガムを用いた2液は低温品(5℃)と加温品(60℃)において、ゾルーゲルが逆転した。また、2液がにじみもなく底面に6つの円が分布し、見た目にも美しいものであった。
【符号の説明】
【0057】
1…第1相(1液)
2…第2相(2液)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数相構造を有するゲル状食品であって、
前記複数相構造のうち少なくとも一つの相に可逆的熱ゲル化剤を配合してなる
ことを特徴とするゲル状食品。
【請求項2】
請求項1に記載のゲル状食品において、
前記可逆的熱ゲル化剤が酵素処理タマリンドシードガムである
ことを特徴とするゲル状食品。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のゲル状食品において、
当該ゲル状食品が低温から高温になるに従い、前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゾルからゲルに変化する
ことを特徴とするゲル状食品。
【請求項4】
請求項3に記載のゲル状食品において、
当該ゲル状食品がさらに高温になるに従い、前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゲルからゾルに変化する
ことを特徴とするゲル状食品。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のゲル状食品において、
前記可逆的熱ゲル化剤を低温度帯で配合して溶解した場合、
当該ゲル状食品が低温から高温になるに従い、20℃以上70℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゾルからゲルに変化し、かつ、
当該ゲル状食品がさらに高温になるに従い、75℃以上95℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゲルからゾルに変化する
ことを特徴とするゲル状食品。
【請求項6】
請求項3または請求項4に記載のゲル状食品において、
前記可逆的熱ゲル化剤を高温度帯で配合して溶解した場合、
当該ゲル状食品が低温から高温になるに従い、15℃以上45℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゾルからゲルに変化し、かつ、
当該ゲル状食品がさらに高温になるに従い、50℃以上95℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゲルからゾルに変化する
ことを特徴とするゲル状食品。
【請求項7】
複数相構造を有するゲル状食品の製造方法であって、
ゲル化性溶液を充填する第1充填工程と、
前記工程後に可逆的熱ゲル化剤を配合してなる溶液を充填する第2充填工程と、
充填された前記両溶液を冷却する冷却工程とを備える
ことを特徴とするゲル状食品の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のゲル状食品の製造方法において、
前記第2充填工程における前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる溶液の温度が0℃以上90℃以下である
ことを特徴とするゲル状食品の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載のゲル状食品の製造方法において、
前記第2充填工程における前記可逆的熱ゲル化剤を低温度帯で溶解する
ことを特徴とするゲル状食品の製造方法。
【請求項10】
請求項7に記載のゲル状食品の製造方法において、
前記第2充填工程における前記可逆的熱ゲル化剤を高温度帯で溶解する
ことを特徴とするゲル状食品の製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載のゲル状食品の製造方法において、
前記第2充填工程における前記可逆的熱ゲル化剤を5℃以下で溶解する
ことを特徴とするゲル状食品の製造方法。
【請求項12】
請求項10に記載のゲル状食品の製造方法において、
前記第2充填工程における前記可逆的熱ゲル化剤を120℃以上で溶解する
ことを特徴とするゲル状食品の製造方法。
【請求項1】
複数相構造を有するゲル状食品であって、
前記複数相構造のうち少なくとも一つの相に可逆的熱ゲル化剤を配合してなる
ことを特徴とするゲル状食品。
【請求項2】
請求項1に記載のゲル状食品において、
前記可逆的熱ゲル化剤が酵素処理タマリンドシードガムである
ことを特徴とするゲル状食品。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のゲル状食品において、
当該ゲル状食品が低温から高温になるに従い、前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゾルからゲルに変化する
ことを特徴とするゲル状食品。
【請求項4】
請求項3に記載のゲル状食品において、
当該ゲル状食品がさらに高温になるに従い、前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゲルからゾルに変化する
ことを特徴とするゲル状食品。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のゲル状食品において、
前記可逆的熱ゲル化剤を低温度帯で配合して溶解した場合、
当該ゲル状食品が低温から高温になるに従い、20℃以上70℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゾルからゲルに変化し、かつ、
当該ゲル状食品がさらに高温になるに従い、75℃以上95℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゲルからゾルに変化する
ことを特徴とするゲル状食品。
【請求項6】
請求項3または請求項4に記載のゲル状食品において、
前記可逆的熱ゲル化剤を高温度帯で配合して溶解した場合、
当該ゲル状食品が低温から高温になるに従い、15℃以上45℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゾルからゲルに変化し、かつ、
当該ゲル状食品がさらに高温になるに従い、50℃以上95℃以下の温度で前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる相がゲルからゾルに変化する
ことを特徴とするゲル状食品。
【請求項7】
複数相構造を有するゲル状食品の製造方法であって、
ゲル化性溶液を充填する第1充填工程と、
前記工程後に可逆的熱ゲル化剤を配合してなる溶液を充填する第2充填工程と、
充填された前記両溶液を冷却する冷却工程とを備える
ことを特徴とするゲル状食品の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のゲル状食品の製造方法において、
前記第2充填工程における前記可逆的熱ゲル化剤を配合してなる溶液の温度が0℃以上90℃以下である
ことを特徴とするゲル状食品の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載のゲル状食品の製造方法において、
前記第2充填工程における前記可逆的熱ゲル化剤を低温度帯で溶解する
ことを特徴とするゲル状食品の製造方法。
【請求項10】
請求項7に記載のゲル状食品の製造方法において、
前記第2充填工程における前記可逆的熱ゲル化剤を高温度帯で溶解する
ことを特徴とするゲル状食品の製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載のゲル状食品の製造方法において、
前記第2充填工程における前記可逆的熱ゲル化剤を5℃以下で溶解する
ことを特徴とするゲル状食品の製造方法。
【請求項12】
請求項10に記載のゲル状食品の製造方法において、
前記第2充填工程における前記可逆的熱ゲル化剤を120℃以上で溶解する
ことを特徴とするゲル状食品の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−213327(P2012−213327A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78784(P2011−78784)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(711002926)雪印メグミルク株式会社 (65)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(711002926)雪印メグミルク株式会社 (65)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]