説明

ゲル膜保持器具、拡散係数測定装置および拡散係数測定方法

【課題】ゲル膜の脱落を抑制することができ、安定してゲル膜を保持可能なゲル膜保持器具を提供する。また、該ゲル膜保持器具を使用した拡散係数測定装置、拡散係数測定方法を提供する。
【解決手段】本発明は、貫通口を有する第一のガラス板と、前記第一のガラス板の両側に、前記第一のガラス板の貫通口より小さい貫通口を有する第二のガラス板、第三のガラス板とをそれぞれ備えるゲル膜保持器具である。また、前記ゲル膜保持器具の両側に第一、第二の溶液収容部をそれぞれ備える拡散係数測定装置である。また、以下の工程を含む拡散係数の測定方法である。(1)前記拡散係数測定装置の第一の溶液収容部から第二の溶液収容部へ、ゲル膜を通して物質を移動させる工程(2)第二の溶液収容部中の前記物質の濃度を測定する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル膜保持器具、ゲル膜用の拡散係数測定装置およびそれらを用いた拡散係数の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子ゲルは高分子が架橋されて3次元の網目をつくり水などの溶媒を吸収して膨潤したものであり、コンタクトレンズや紙おむつ、吸水剤などへ応用されている。最近ではドラッグデリバリーシステム(DDS)への展開や、水処理などでの分離精製技術、細胞培養機材、アクチュエーター、センサーなどの分野への応用も進んでいる。
【0003】
さらに近年では生体関連分野へのゲルの応用もさかんとなり、1本鎖DNAをゲル内に固定化し、ハイブリダイゼーションによってゲルの体積を変化させることで目的とするDNAの情報を得る技術や(特許文献1)、末端にビニル基を有し、あらかじめミスマッチ配列を含む2本鎖DNAをゲルと共重合し架橋させた後、完全相補鎖DNAをハイブリさせることによりゲルを膨潤させることで一塩基多型を判別する技術なども開示されている(特許文献2)。またゲルを用いたDNAチップも開発されている(特許文献3)。
生体関連分野へゲルを応用するにあたり、しばしば物質をゲル内に拡散させることが求められる。そこで、ゲルの拡散係数の評価が行われている。
ゲルの拡散係数を求めるには、以下の方法がある。ゲルを薄い膜状とし(以下、ゲル膜という)、ゲル膜の両側で物質の濃度差を生じさせると、ゲル膜を透過して物質が低濃度側に移動する。この原理を利用し、ゲル膜を透過した物質の濃度を時間毎に測定し、濃度と時間の傾きから拡散係数を計算することができる(後述する式(2)参照)。測定中、ゲル膜はそれのみでは形状が保てないため、保持器具により保持する(図1)。精度良く測定を行うためには、ゲル膜をしっかりと保持器具に保持することが必要となる。しかし、ゲル膜は薄く、ゲル膜と保持器具との接着面は非常に小さいため、測定中にゲル膜が脱落するという問題点があった。ゲル膜と保持器具との接着性を良くするために、保持器具表面の粗面化による物理的な吸着を利用するなどの方法もとられていたが、ゲル膜の脱落を防ぐのに十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−106533号公報
【特許文献2】特開2009−261334号公報
【特許文献3】特開2000−270878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ゲル膜の脱落を抑制することができ、安定してゲル膜を保持可能なゲル膜保持器具を提供する。また、該ゲル膜保持器具を使用した拡散係数測定装置、拡散係数測定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、貫通口を有する第一のガラス板と、前記第一のガラス板の両側に、前記第一のガラス板の貫通口より小さい貫通口を有する第二のガラス板、第三のガラス板とをそれぞれ備える、ゲル膜保持器具である。
また、前記ゲル膜保持器具の両側に第一、第二の溶液収容部をそれぞれ備える、拡散係数測定装置である。
また、以下の工程を含む拡散係数の測定方法である。(1)前記拡散係数測定装置の第一の溶液収容部から第二の溶液収容部へ、ゲル膜を通して物質を移動させる工程(2)第二の溶液収容部中の前記物質の濃度を測定する工程
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ゲルの脱落を抑制することができ、安定してゲル膜を保持可能なゲル膜保持器具を提供することができる。また、それにより精度の良い測定が可能な拡散係数測定装置、拡散係数測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】従来のゲル膜保持器具の正面図と断面図、拡散係数測定装置の図である。
【図2】第1の実施形態のゲル膜保持器具の図である。
【図3】第2の実施形態のゲル膜保持器具の図である。
【図4】拡散係数測定装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。
図2は、本発明のゲル膜保持器具の第1の実施形態を示す図である。ゲル膜保持器具は、第一のガラス板1と第二、第三のガラス板2とを備えている。第二、第三のガラス板2は第一のガラス板1の両側(裏面側と表面側)に、第一のガラス板1を挟むように配置されている。第一のガラス板は貫通口3を、第二、第三のガラス板は貫通口4を有している。ゲル膜は貫通口3,4の部分で保持される。
【0010】
ガラス板の形状としては、図では円形を示しているが、正方形、多角形など特に形状は限定されない。
【0011】
ガラス板の大きさは特に限定されない。円形であれば、直径30mm以上1000mm以下が好ましい。特に貫通口の大きさに対して直径が20mm以上大きいことが強度を維持する面においても好ましい。
ガラス板の厚さは特に限定されない。しかし、ガラス板が厚くなるとゲル膜も厚くなるため、物質の透過に時間が必要となる。また、ガラス板が薄くなると、ガラス板の強度が弱くなるため、器具の組み立てが困難となる。このような理由により一枚のガラス板の厚さは0.5mm〜2mmが好ましい。
貫通口3,4の形状は特に限定されない。ただし、貫通口に角があると、その場所に気泡などが溜まりやすく、後述のように貫通口内でゲルを重合する際、均一なゲルの重合が困難となる場合もある。よって貫通口は角がない形状であることが好ましく、特に円形であることが好ましい。
第二、第三のガラス板の貫通口4の大きさは、面積が80mm以上3000mm以下であることが好ましい。貫通口4が80mmより小さくなると、物質の透過量が少なくなり測定精度が低下する傾向にある。また貫通口4が3000mmより大きくなると、物質の透過量が多くなるため、多量のサンプルが必要となる傾向にある。特に、生体関連物質など希少なサンプルの測定の場合には、貫通口4の大きさは小さい方が好ましい。第二、第三のガラス板の貫通口の大きさは同じであることが好ましい。これは、ゲル膜の大きさに対照性が無い場合、透過速度などが変化し測定精度が低くなる傾向にあるためである。
第一のガラス板の貫通口3の大きさは、第二、第三のガラス板の貫通口4よりも大きくする必要がある。中央にある第一のガラス板の貫通口3をその外側にある第二、第三のガラス板の貫通口4よりも大きくすることにより、貫通口内部にゲル膜を保持したときに、ゲル膜が器具から脱落することを防止できる。第一のガラス板の貫通口3の大きさは、面積が90mm以上4500mm以下であることが好ましい。第一のガラス板の貫通口3の大きさは、第二、第三のガラス板の貫通口4の面積の1.1倍〜1.5倍であることが好ましく、1.25倍〜1.4倍であることがより好ましく、第二、第三のガラス板の貫通口4の大きさから適切な面積を計算することができる。面積の比が1.1倍未満であると器具のゲル膜保持能力が低下する傾向にあり、ゲル膜が脱落してしまう場合がある。また1.5倍を超えると保持能力が高くなるものの、物質の透過方向が一定にはならず、測定精度が悪くなる傾向にある。
本発明のゲル膜保持器具は、貫通口部分によってゲル膜を保持することができる。本発明のゲル膜保持器具は、従来の保持器具と比べ、脱落することなくゲル膜を保持できるため、ゲル膜に物質を透過させ拡散係数を測定する際に好適に用いることができる。
ゲル膜とは、物質などを通過させる膜としての機能を持たせたゲルであり、一般的に面積に対して厚みが非常に薄いものを指す。ゲル膜が厚くなると、物質の透過に時間が必要となるため、ゲル膜は6mm以下のものを好適に用いることができる。
ゲル膜に使用されるゲルは、化学的架橋構造を持つゲルや物理的な架橋構造を持つゲルなどが挙げられる。化学的架橋構造を持つゲルとしては特に限定されないが、例えばアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミドのゲルなどが挙げられる。物理的な架橋構造を持つゲルとしては特に限定されないが、アガロースやアルギン酸ナトリウムなどの多糖類やゼラチン等のタンパク質等のゲルが挙げられる。
本発明のゲル膜保持器具は、貫通口部分でゲルを作製することにより、貫通口部分にゲル膜を保持することができる。例えば化学的架橋構造を持つゲルは、ゲルの構成成分となる単量体と架橋剤として使用されるメチレンビスアクリルアミド等の多官能性単量体との水溶液に重合開始剤を添加した調製液を貫通口に流し込み、ラジカル重合によりゲル化させる方法等により作製することができる。物理的架橋構造を持つゲルは、ゲルの構成成分を含んだ調製液を加熱し、貫通口に流し込んだ後冷却する方法等で作製することができる。
貫通口部分でゲル膜を作製する方法をより具体的に説明する。一般的には、ゲル膜保持器具を横にし、下側の貫通口をスライドガラス等で塞いだ後、ゲルの構成成分を含む調製液を上側から貫通口内へ入れ、上側の貫通口をスライドガラス等で塞ぐことによって作製することができる。しかし、この方法では上側のスライドガラスで塞ぐ際、調製液が溢れたりするなど作業が煩雑となる。そのためゲル膜保持器具の貫通口の両側をスライドガラス等で先に塞いだ後、調製液を注入するようにしても良い。後者の方法は、ゲル膜保持器具の貫通口を両外側からスライドガラス等で塞いだ状態でも外側から貫通口部分に調製液を注入できるような、調製液の注入口を供えたガラス板を使用することで可能となる。
本発明のゲル膜保持器具において、ガラス板とゲル膜との接着が弱いと、物質を透過させたときに物質の透過はガラス板とゲル膜との界面付近でのみ速くなり、拡散係数などの測定精度が悪くなる傾向がある。そのため、ガラス板に表面処理を行い、ガラス板とゲル膜との接着を強くすることが好ましい。表面処理の方法としては、例えば、ガラス板への表面処理剤の使用が挙げられる。表面処理剤としてはガラスとの接着性が良好なことからシランカップリング剤を用いることが好ましい。シランカップリング剤としては、アミノシラン、メタクリルシラン、エポキシシラン、ビニルシランなどが用いられるが、特に化学的架橋構造を有するゲルを作製する際には、ラジカル重合においてビニル基があると結合が強固となるため、ビニルシランを用いることが好ましい。
図3は本発明のゲル膜保持器具の第2の実施形態を示す図である。図3のゲル膜保持器具は、第二、第三のガラス板2の両外側にさらに金網5を有している。ゲル膜保持器具を長時間溶液に浸すと、膨潤などによりゲル膜の形状が変化する場合がある。また、スターラーバーにより溶液を攪拌すると、ゲル膜を傷つける場合がある。本実施形態のようにガラス板の両外側に金網5を取り付けることにより、ゲル膜の変形や損傷を抑制できる。
用いる金網の材質は特に限定されないが、溶液による錆や腐食に耐えられる材質であることが好ましく、具体的にはSUSや表面処理により錆や腐食を防止している金網であることが好ましい。金網の形状および大きさは特に限定されない。金網のメッシュサイズは1mm角以上3mm角以下のサイズであることが好ましい。1mm角未満であるとメッシュが物質透過の抵抗となってしまう可能性があり、3mm角より大きいとゲル膜の変形を抑えられなくなる傾向がある。金網の保持方法は特に限定されない。一般的な接着剤などによりゲル膜保持器具のゲル膜に当たらないガラス部分に取り付けることができる。
図4は本発明の拡散係数測定装置の断面図である。拡散係数測定装置は、前述した本発明のゲル膜保持器具と、第一および第二の溶液収容部6,8とを備えている。さらに第一および第二の溶液収容部6,8は、溶液注入/採取口7を有していてもよい。拡散係数測定装置は、本発明のゲル膜保持器具を第一、第二の溶液収容部6,8用の器具によって挟み込むことによって組み立てることができ、拡散係数の測定に使用される。ゲル膜保持器具と溶液収容部用の器具との挟み込みは、溶液の漏れを抑えるために密着面にシリコンゴム、Oリングなどを使用して密着させることができる。
【0012】
第一および第二の溶液収容部6,8の形状は、特に限定されない。後述のように、溶液収容部中の溶液を、ゲル膜の表面に対して回転軸が垂直になるようにスターラーバーを回転させ撹拌する場合を考慮すると、溶液収容部6,8は図4中央に示すように円柱状であることが好ましい。スターラーバー9が回転しやすくするためにはフラット面があることが好ましく、溶液を均一に攪拌するためには断面が円であることが好ましいからである。
第一および第二の溶液収容部6,8の大きさは、透過させる物質の使用量を少なくするために、なるべく小さいことが好ましい。しかし小さすぎると測定の誤差を生じやすくなる。そのため本発明において好ましい溶液収容部の容積は、それぞれ5ml以上20ml以下である。溶液収容部の小型化は、溶液収容部の厚みを薄くすることにより行うことが好ましい。ゲル膜の面積を保ったまま、溶液収容部の容積を小さくすることができるからである。なお、ここでいう厚さとはゲル膜表面と垂直方向のことを指す。溶液収容部の断面11の大きさは、第二、第三のガラス板の貫通口4より大きくする必要があるため、断面積が100mm以上6000mm以下であることが好ましい。
溶液注入/採取口7の構造は、特には限定されないが、第一および第二の溶液収容部6,8の上部に長く突き出た管のような構造とすることが好ましい。拡散係数測定装置全体を温水バスなどに浸し、加温しながら使用することが考えられるためである。上述の構造とすることで、外部からの溶液(温水バスの温水など)の混入を防ぐことができる。なお、管の長さおよび管の直径は特に限定されない。
次に、本発明の拡散係数測定装置を用いた拡散係数の測定方法について説明する。
ゲル膜を透過させる物質としては、シリカ、金属酸化物、鉱物などの無機物、ポリマーなどの有機物、生体関連物質などを使用することができる。生体関連物質としては、核酸、アミノ酸、たんぱく質、糖又は脂質等が挙げられる。本発明の拡散係数測定器具は、小型化することができるため、物質が高価であったり、微量であったりする場合にも有効である。
【0013】
はじめに、物質を所定の溶媒に溶解させた溶液を、溶液注入/採取口7を通して第一の溶液収容部6に注入する。さらに物質の入っていない第一の収容部に注入したものと同じ溶媒を、第二の溶液収容部8に同量注入する。
【0014】
すると、第一の溶液収容部6中の物質は、時間と共にゲル膜を通って第二の溶液収容部8へ移動する。
【0015】
一定時間毎に、第一、第二の溶液収容部の溶液注入/採取口7から一定量の溶液を採取し、第二の溶液採取口から採取した溶液の物質濃度を測定する。濃度の測定方法は測定する物質により異なるが、例としては吸光度や蛍光測定などを選択することができる。吸光度、蛍光強度などの測定は、測定する物質の濃度が低いと感度の問題で結果にばらつきが生じやすくなり、精度が低下する。そのため、物質濃度を高くして測定を行うことが望ましい。生体関連物質などを使用するために物質の量を増やせない場合には、溶液収容部を小型化し、溶液量を少なくすることで物質濃度を高くすればよい。
測定中は、溶液の濃度を均一に保つために、第一および第二の溶液収容部の溶液を撹拌することが好ましい。溶液の攪拌は、溶液中でスターラーバー9を回転させることなどにより行うことができる。溶液収容部の厚みを薄くした場合には、スターラーバー等による攪拌を溶液収容部の底で行うことは困難である。また攪拌を均一に行うことも困難となる。そのような場合には、溶液の攪拌は図4で示すようにゲル膜の表面に対してスターラーバーの回転軸が垂直になるようにスターラーバー等を回転させて行うことが好ましい。この場合の攪拌は、スターラーを溶液収容部の外側面10に設置し、溶液収容部の中央付近でスターラーバー9を回転することにより行うことができる。
物質の透過量と時間、濃度、ゲル膜面積などの関係は式(1)のようになる。
<式1>

【0016】
Q:時間tにおける物質の透過量
C(t):時間tにおける第二の溶液収容部の濃度
V:第一又は第二の溶液収容部の容積
A:ゲル膜の面積
D:拡散係数
C0:第一の溶液収容部の測定物質の初期濃度
d:ゲル膜の厚さ
ここでゲル膜の面積とは、第二、第三の貫通口の面積である。ゲル膜の厚さとは第一、第二、第三のガラス板トータルのゲルの厚さである。
上記式から拡散係数を算定することが可能となる。拡散係数は式(2)で表され、濃度の経時変化(濃度と時間の関係は直線関係)を測定することによって拡散係数を求めることができる。
<式2>

【0017】
なお、拡散係数を求める際に必要な濃度と時間の関係の直線性は相関係数により見積もることができる。精度良い結果を得るためにはR2=0.6以上の相関係数であることが好ましく、更に好ましくはR2=0.7以上、最も好ましいのはR2=0.8以上である。
次に、本発明の実施形態を以下の実施例により具体的に説明する。
【実施例1】
【0018】
ゲル膜の作製
直径60mm、厚さ1mm、貫通口直径35mmのガラス板(第一のガラス板:ガラス板・貫通口ともに円形)および直径60mm、厚さ1mm、貫通口直径30mmのガラス板2枚(第二、第三のガラス板:ガラス板・貫通口ともに円形)を用意した。これらのガラス板は、約90 mLのベンゼンに約6 mLのクロロジメチルビニルシランを添加した溶液中で4時間表面処理を行った。
純水にて洗浄後、図2のように3枚のガラス板を重ねることによりゲル膜保持器具を作成した。次にゲル膜保持器具の片側の貫通口をスライドガラスにてふさいだ後、スライドガラスでふさいだ貫通口が下になるようにゲル膜保持器具を置いた。ゲル膜保持器具の上側から、以下に示す組成の重合液を入れ、もう一方の貫通口をスライドガラスで塞ぎ、3時間室温にて重合を行った。重合後スライドガラスを取り除くことにより、ゲル膜を保持したゲル膜保持器具を作製した。
【0019】
【表1】

【0020】
次に約2mm角のメッシュを持つSUS製の直径35mmの円形の金網を接着剤によりゲル膜保持器具の両側にセットし、図3に示したようなゲル膜保持器具を得た。
拡散係数測定装置の組み立て
溶液収容部用の器具(円柱を横に倒したような形状で、円の直径が40mm、厚さ10mm)により、上記で作成したゲル膜保持器具を両脇から抑え、図4に示したような拡散係数測定装置を組み立てた。ゲル膜保持器具と溶液収容部用器具の密着面にはシリコン製のOリングを使用した。溶液収容部にはスターラーバーを入れ、溶液収容部の外側面にはスターラーを配置した。
オリゴDNAを用いた拡散係数の測定
組み立てた拡散係数測定装置を用い、以下の方法にて、作製したゲル膜へのオリゴDNAの拡散係数を求めた。
第一の溶液収容部に溶液注入/採取口からCy5標識を行った65baseのオリゴDNA溶液を12.5mL注入した。溶媒は0.12M トリス塩酸-塩化ナトリウム溶液を用いた。オリゴDNA濃度は100fmol/μlとした。第二の溶液収容部には、オリゴDNAを添加していない0.12M トリス塩酸-塩化ナトリウム溶液を同量注入した。
溶液を45℃にセットし、溶液注入および攪拌開始より12時間後から20時間後まで1時間毎に、第一、第二の溶液収容部からそれぞれ50μl溶液を採取した。この間、スターラーを用い、ゲル膜表面に対してスターラーバーの回転軸が垂直になるようにスターラーバーを回転させ、溶液を攪拌しておいた。
採取した溶液は内径1mmのガラスキャピラリーに入れ、第二の溶液収容部から採取した溶液は蛍光スキャナー(ジェノミックソルーション社製)にて蛍光強度を測定した。本実施例にて使用したオリゴDNAの濃度を換算する為、別途濃度と蛍光強度の検量線を作成し、測定した蛍光強度からゲル膜を透過してきたオリゴDNAの濃度を求めた。
攪拌開始からの時間と、その時間の第二の溶液収容部から採取した溶液の濃度とでグラフを作成し、直線性(相関係数)を得た。その結果相関係数はR2=0.8であった。更に直線の傾きから拡散係数を計算したところ1.5x10-11(m2/s)となった。
【実施例2】
【0021】
金網を接着しない以外は実施例1と同様の方法にて拡散係数を測定した。その結果、ゲルの脱落は見られなかった。しかし、ゲル膜が測定中に膨潤し少々変形していることが確認された。得られた結果の相関係数はR2=0.6であり、精度良い測定が可能であった。
【実施例3】
【0022】
攪拌を行わない以外は実施例1と同様の方法にて拡散係数を測定した。その結果、ゲルの脱落は見られなかった。相関係数はR2=0.7であり、精度良い測定が可能であった。
【実施例4】
【0023】
実施例1と同量のオリゴDNAを使用し、溶液量を実施例1の5倍である62.5mlに変更(オリゴDNA濃度を20fmol/μlに変更)した以外は実施例1と同様の方法にて拡散係数を測定した。溶液量の変更は、溶液収容部の厚さを50mmに変更することで行った。
その結果、ゲルの脱落は見られなかった。
本実施例においては、12時間後では蛍光はほとんど検出できなかったが、実験を継続したところ、60時間後から実施例1と同程度の蛍光を検出することができた。得られた結果の相関係数はR2=0.8であり、精度良い測定が可能であったが、実施例1と比較すると測定に時間がかかった。
【0024】
<比較例1>
直径60mm、厚さ1mm、貫通口30mmの第一のガラス板および第一のガラス板と寸法が同じ(直径60mm、厚さ1mm、貫通口30mm)第二、第三のガラス板を用い、金網を接着しない状態で、それ以外は実施例1と同様の方法にて拡散係数を測定した。その結果評価中にゲルが脱落し測定が不可能であった。
【符号の説明】
【0025】
1 第一のガラス板
2 第二、第三のガラス板
3 第一のガラス板の貫通口
4 第二、第三のガラス板の貫通口
5 金網
6 第一の溶液収容部
7 溶液注入/溶液採取口
8 第二の溶液収容部
9 スターラーバー
10 溶液収容部の外側面
11 溶液収容部の断面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通口を有する第一のガラス板と、前記第一のガラス板の両側に、前記第一のガラス板の貫通口より小さい貫通口を有する第二のガラス板、第三のガラス板とをそれぞれ備える、ゲル膜保持器具。
【請求項2】
前記第一、第二、第三のガラス板が表面処理されている、請求項1に記載のゲル膜保持器具。
【請求項3】
前記第二、第三のガラス板の両外側にさらに金網を有する、請求項1または2に記載のゲル膜保持器具。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のゲル膜保持器具の両側に第一、第二の溶液収容部をそれぞれ備える、拡散係数測定装置。
【請求項5】
前記第一、第二の溶液収容部の容積がそれぞれ5ml以上、20ml以下である、請求項4に記載の拡散係数測定装置。
【請求項6】
以下の工程を含む拡散係数の測定方法。
請求項4または5に記載の拡散係数測定装置の第一の溶液収容部から第二の溶液収容部へ、ゲル膜を通して物質を移動させる工程
第二の溶液収容部中の前記物質の濃度を測定する工程
【請求項7】
前記第一および第二の溶液収容部の溶液を撹拌して行う、請求項6に記載の拡散係数測定方法。
【請求項8】
前記溶液の撹拌が、ゲル膜の表面に対して回転軸が垂直になるようにスターラーバーを回転させることにより行われる、請求項7に記載の拡散係数測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−240313(P2011−240313A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117375(P2010−117375)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】