説明

ゲル製剤

【課題】本発明の課題は、患者のコンプライアンスを担保し、日常生活に支障をきたさないような使用感や物性を有するゲル製剤、より具体的には垂れ落ちが防止され、かつ塗り広げやすいなどの使用感に優れたゲル製剤を提供することにある。
【解決手段】本発明においては、水溶液の粘度が5000mPa・sより大きく、280000mPa・s以下である水溶性高分子を含有し、水溶性高分子の配合量を0.5〜5.0質量%とすることにより、垂れ落ちが防止され、かつ塗り広げやすいなどの使用感に優れたゲル製剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゲル製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、皮膚等に付与する外用剤としては、例えば、液剤、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、エアゾール剤、スプレー剤などが知られている。
これらのうち、ゲル剤(ゲル製剤)は、高分子等のゲル化剤を添加して得られるゲル状の外用剤であるが、直接塗布するため患部への付与が容易であるなどの特性を本来的に有するため、他の剤型に比べ、扱い易さ、使用感において優れているといえる。しかしながら、これを例えば水虫治療薬のように長期または継続的な使用を強いられる外用剤として用いる場合、患者のコンプライアンスを担保し、日常生活に支障をきたさないためのさらに高度な物性、特性が求められる。
【0003】
例えば、特許文献1には、治療効果の向上および好適な使用感を目的として、ベンジルアミン系抗菌剤に脂肪酸エステル、粉末成分、アルコール系溶剤および鎮痒成分を配合してなる抗真菌組成物が開示され、剤型としては液剤、エアゾール剤などのほかゲル製剤も例示されており、また、粉末成分を比較的多量(配合量:15〜70重量%)配合することにより、使用感を改善できることなども記載されている。しかしながら、同文献では、これらの剤型、とくにゲル製剤において、例えば、塗り広げ易さや垂れ落ち防止など、患者のコンプライアンスを担保し、日常生活に支障をきたさないような使用感や物性の探求、検討は全くなされておらず、そのような従来技術は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−104917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の課題は、患者のコンプライアンスを担保し、日常生活に支障をきたさないような使用感や物性を有するゲル製剤、より具体的には垂れ落ちが防止され、かつ塗り広げやすいなどの使用感に優れたゲル製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねる中で、例えば、まず垂れ落ちを防止するためにゲル製剤の粘度を比較的高くすると、今度はゲル製剤が塗り広げにくくなるという問題に直面した。このため、これらの問題を同時に解決しない限り、上記の課題を解決することはできないとの認識に立ち、その問題解決のための手段を探求すべくさらに研究を進めたところ、ゲル製剤に比較的高い粘度を有する水溶性高分子を含有させ、該水溶性高分子の配合量を比較的少量の範囲とすることによって、この問題を見事に解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、水溶液の粘度が5000mPa・sより大きく、280000mPa・s以下である水溶性高分子を含有し、
水溶性高分子の配合量が0.5〜5.0質量%である、ゲル製剤に関する。
また、本発明は、水溶性高分子が、2質量%水溶液として20℃における粘度が7500〜140000mPa・sである水溶性セルロース誘導体、および/または0.2質量%水溶液として20℃における粘度が5000mPa・sより大きく、29000mPa・s以下であるカルボキシビニルポリマーである、ゲル製剤に関する。
【0008】
さらに、本発明は、水溶性セルロース誘導体の配合量が0.5〜5.0質量%である、ゲル製剤に関する。
また、本発明は、水溶性セルロース誘導体として、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有する、ゲル製剤に関する。
さらに、本発明は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースのヒドロキシプロポキシ基の置換度が4〜32.0%であり、メトキシ基の置換度が16.5〜30.0%である、ゲル製剤に関する。
また、本発明は、カルボキシビニルポリマーの配合量が0.65〜4.8質量%である、ゲル製剤に関する。
【0009】
さらに、本発明は、タルクを含有する、ゲル製剤に関する。
また、本発明は、タルクの配合量が、0.5〜6.0質量%である、ゲル製剤に関する。
さらに、本発明は、薬学的に許容可能な塩である薬物を含有する、ゲル製剤に関する。
また、本発明は、塩酸ブテナフィンを含有する、ゲル製剤に関する。
さらに、本発明は、水および炭素数が1〜3である脂肪族アルコールを含有し、
水と脂肪族アルコールとの配合量の質量比が4.0:6.0〜6.0:4.0の範囲である、ゲル製剤に関する。
また、本発明は、脂肪族アルコールが、エタノールである、ゲル製剤に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、垂れ落ちが防止され、かつ塗り広げやすいなどの使用感に優れたゲル製剤を提供することができる。このことは、例えば水虫治療薬のように長期または継続的な使用を強いられるために、患者のコンプライアンスや、日常生活に支障をきたさないような使用感や物性が求められる外用剤としてとくに重要である。さらに、ゲル製剤が水溶性セルロース誘導体またはカルボキシビニルポリマーを含むことにより、つっぱり感の発生を防止することができるとともに、ゲル製剤に薬学的に許容可能な塩である薬物(とくに塩酸ブテナフィン)が含まれている場合であっても好適にゲルの状態が維持される。さらにまた、ゲル製剤がさらにタルクを含むことにより、ゲル製剤塗布時においてさらさら感が付与されるとともに、ヨレの発生が防止されるなどの効果をも奏する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明のゲル製剤は、水溶性高分子を含有する。
以下、本発明のゲル製剤を構成する各材料について説明する。
水溶性高分子は、ゲル製剤中において、ゲルを形成するためのゲル化剤として機能する。本発明においては、水溶性高分子は、水溶液の粘度が5000mPa・sより大きく、280000mPa・s以下であり、ゲル製剤中における配合量が0.5〜5.0質量%である。このように、増粘性の高い(粘度の比較的高い)水溶性高分子を比較的少なく配合することにより、増粘性の低い(粘度の比較的低い)水溶性高分子あるいは、他のゲル化剤を通常用いる量で配合する場合と比較して、ゲル製剤の塗り広げやすさ(展延性)を優れたものとすることができるとともに、ゲル製剤の垂れ落ちの防止において好ましい特性を与えることができる。さらに、水溶性高分子を比較的少なく配合することにより、ゲル製剤を皮膚上で塗擦する際にゲル製剤中に含まれる固形分が乾燥し、垢状の塊を形成する現象(ヨレ)の防止に寄与するとともに、塗布後の乾燥が早くなる。
【0012】
なお、本明細書において、粘度は、日本薬局方の規定に従ってブルックフィールド型粘度計を用いて20℃において測定される値である。
また、ゲル製剤中における水溶性高分子の配合量は、好ましくは、0.5〜4.0質量%であり、より好ましくは、1.0〜3.0質量%である。
【0013】
本発明において用いることのできる上記の水溶性高分子としては、水溶性を有し、ゲル化剤として機能するものであればとくに限定されないが、水溶性高分子は、好ましくは、水溶性セルロース誘導体もしくはカルボキシビニルポリマーまたはこれらの両方を含有する。
このような水溶性高分子は、ゲル製剤に薬学的に許容可能な塩である薬物(とくに、塩酸ブテナフィン)が含まれている場合であっても好適にゲル製剤をゲル化することができる。また、本発明のゲル製剤には後述するように、種々の薬物を配合することが可能である。薬物の総量が多い場合には、一般の水溶性高分子を用いると必要なゲルの流動特性(とくに展延性、垂れ落ちの防止)を得難いが、上記のような水溶性高分子を用いると、好適な粘度およびチキソ性が付与される結果、好適なゲルの流動特性を得ることが比較的容易である。
【0014】
また、上述したような水溶性セルロース誘導体およびカルボキシビニルポリマーは、下記に示すような「つっぱり感」を防止することのできる成分である。一般に、皮膚上において水溶性高分子を含有するゲル製剤が乾燥して皮膜を形成するとき、この皮膜は乾く過程で収縮するため、皮膚に対して不快な「つっぱり感」を生じさせる。一般に、分子量が大きく、結晶化し易い水溶性高分子を用いると、形成された皮膜を構成する高分子の物理的な強度が高いため、より強い「つっぱり感」を与える。なお、結晶化し易い(結晶化性の)水溶性高分子とは、一般に直鎖状で、分子の対称性が高く、極性官能基を有する高分子である。これに対し、上述した水溶性セルロース誘導体およびカルボキシビニルポリマーは、比較的結晶性が低い高分子であるため、つっぱり感を与えることが抑制される。
【0015】
水溶性セルロース誘導体としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。上述した中でも、ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロースのいずれかを用いることが好ましく、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いることがより好ましい。
【0016】
上述した中でもヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)は、セルロースの単位糖構造(グルコース)の3つの水酸基に対して部分的にヒドロキシプロポキシ基及びメトキシ基を導入したものである。
これらの置換基はセルロースの単位糖構造の水酸基において不規則に導入される。このように不規則・部分的に2種の置換基を導入することによってヒドロキシプロピルメチルセルロースは分子構造の規則性が低下して高分子の結晶化性が小さいものとなるため、ゲルから生じる皮膜の強度が抑制される結果、ゲル製剤使用時におけるつっぱり感が少なくなる。
【0017】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、好ましくは、ヒドロキシプロポキシ基の置換度が4.0〜32.0%であり、かつメトキシ基の置換度が16.5〜30.0%の範囲であり、より好ましくは、ヒドロキシプロポキシ基の置換度が4.0〜12.0%であり、かつメトキシ基の置換度が22.0〜30.0%である。この範囲において好適なゲルの流動特性が得られ、さらに、ゲル製剤が薬物を含む際には好適な薬物の治療効果が得られる。
【0018】
また、上述した中でもヒドロキシプロピルセルロースは、セルロース単位(グルコース)の3つの水酸基に対して部分的にヒドロキシプロポキシ基を導入したものである。
ヒドロキシプロピルセルロース中におけるヒドロキシプロポキシ基の置換度は好ましくは50〜80%である。
置換基が入る位置は、セルロースの単位糖構造の水酸基において不規則に導入される。このように部分的・不規則に置換基を導入することによってヒドロキシプロピルセルロースの分子構造の規則性が低下するため、ゲルから生じる皮膜の強度が抑制される結果、ゲル製剤使用時におけるつっぱり感が少なくなる。
水溶性セルロース誘導体の配合量は、好ましくは0.5〜5.0質量%であり、より好ましくは0.65〜2.0質量%であり、さらに好ましくは1.0〜1.5質量%である。上述した範囲内の配合量となることにより、ゲル製剤は、十分な増粘性および好適な流動性を有し、垂れ落ちにくいものとなるとともに、配合量が十分に少ないため、ヨレの発生を抑制することができる。
【0019】
また、20℃における水溶性セルロース誘導体の2質量%水溶液の粘度は、好ましくは、7500〜140000mPa・sであり、より好ましくは11250〜140000mPa・sであり、さらに好ましくは75000〜140000mPa・sである。
なお、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの場合、ヒドロキシプロピルメチルセルロースはエーテル系化合物であるので、2質量%水溶液のpHはほぼ中性(pH5〜8)である。
なお、本明細書において、溶液等のpHは、第十五改正日本薬局方に記載の方法により測定される。すなわち、ガラス電極と参照電極とを有する検出部を備えたpH測定装置により測定される。
【0020】
カルボキシビニルポリマーは、ポリアクリル酸を主鎖とし部分的に架橋した高分子である。
カルボキシビニルポリマーは、ゲルの状態において、架橋されており分子量が極めて大きいため、少量を添加するのみでゲルを増粘させることができ、展延性と、垂れ落ちの防止、およびヨレの防止において好ましい特性を与える。また、部分的な架橋を有することによって、形成される皮膜の強度が抑制される結果、ゲル製剤使用時におけるつっぱり感が抑制される。
カルボキシビニルポリマーは、カルボキシル基を中和することでより高い増粘性が発揮される。カルボキシビニルポリマー含有溶液のゲル製剤として好ましいpHは、3.0〜8.0である。
【0021】
中和のために加える中和剤としては、とくに限定されないが、アンモニア水、水酸化ナトリウム、または有機アミン、例えば、ジイソプロパノールアミン、ジ(2-エチルヘキシル)アミン、トリエタノールアミンもしくはトリエチルアミンを用いることが好ましい。
カルボキシビニルポリマーは、20℃における0.2質量%水溶液(pH7〜7.5)の粘度が、好ましくは5000mPa・sより大きく、29000mPa・s以下であり、より好ましくは5000mPa・sより大きく、28000mPa・s以下であり、さらに好ましくは6000mPa・sより大きく、14000mPa・s以下である。
【0022】
また、本発明のゲル製剤は、粉末成分を含むことが好ましい。粉末成分は、ゲル製剤の流動特性を調節する機能を有する。
また、このような粉末成分は、ゲル製剤を皮膚等へ塗布した後に当該塗布部位にさらさら感を付与することのできる成分である。これは、以下のように考えられる。上述したように、皮膚上において水溶性高分子を含有するゲル製剤が乾燥して皮膜を形成するとき、この皮膜は乾燥の過程で収縮するため、皮膚に対して不快な「つっぱり感」を生じさせる。しかしながら、ゲル製剤にこのような粉末成分を配合することによって、ゲルが展延し、乾燥し、さらに皮膜化するときに、粉末成分によって前記皮膜が擦過され、その結果皮膜に脆弱部が多数形成されるため皮膜の強度が低下し、「つっぱり感」が極めて少なくなるものと推察される。
【0023】
粉末成分としては、とくに限定されないが、例えば、タルク、シリカ、酸化チタン、カオリン、含水二酸化ケイ素、軟質無水ケイ酸、結晶セルロース、合成ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、トウモロコシデンプン等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
上述した中でも、好ましくは、タルクが用いられる。タルクは、滑石MgSi10(OH)を粉砕して得られる天然の含水ケイ酸マグネシウムである。タルクは層状ケイ酸塩鉱物に分類され、その結晶構造は、SiO四面体を繰り返し単位とするシート2枚の間にMg(OH)八面体を繰り返し単位とするシートが挟まれてサンドイッチ状に重なった構造を基本に、このサンドイッチが層状に積層した構造を有している。このサンドイッチ層の間の相互の結合は、ファンデルワールス力のみであるから、タルクは、へき開を生じ易く、崩れ易い特徴を有する。そして、タルクのモース硬度は、例えば、表1にも示すように、鉱物の中で最も小さい。
【0024】
【表1】

このようなタルクは、上述した粉末成分の中でも、最も優れたさらさら感を付与することのできる粉末である。さらに、粉末成分としてタルクを使用することによってヨレの発生を抑制しつつさらさら感を付与することができる。また、タルクは、上述した粉末成分の中でも、水溶性高分子を有するゲル製剤中に好適に分散可能な成分であり、粉末成分としてタルクを用いた場合、ゲル製剤の製造が容易となる。
【0025】
タルクの体積基準平均粒径は、1〜30μmの範囲が好ましく用いられる。このような粒径のタルク粉末は、滑らかな触感があり、皮膚に付着し易い。
タルクの配合量は、好ましくは、0.5〜6.0%であり、より好ましくは、1.0〜3.0質量%である。タルクの配合量が上記のような範囲となることにより、配合量が十分なのでゲル製剤によるベタツキの影響を抑制してゲル製剤の塗り広げを容易とすることができるとともに、配合量が過度ではないため、ゲル製剤を塗布する際にゲル製剤の塗り広がりが良好となり、また、ざらつきの発生を防止することができる。
【0026】
また、タルクと、水溶性高分子との配合量の質量比は、好ましくは、1:10〜12:1であり、より好ましくは、1:8〜12:1であり、さらに好ましくは、1:6〜6:1である。
【0027】
また、ゲル製剤は、通常、薬物を含んでいる。
本発明のゲル製剤に用いることのできる薬物としては、とくに限定されないが、抗真菌薬、例えば、ブテナフィン塩酸塩、テルビナフィン塩酸塩、ナフチフィン、アモロルフィン塩酸塩、ネチコナゾール塩酸塩、ルリコナゾール、ラノコナゾール、オキシコナゾール硝酸塩、ケトコナゾール、ミコナゾール硝酸塩、チオコナゾール、ビフォナゾール、クロトリマゾール、エコナゾール硝酸塩、イトラコナゾール、フルコナゾール等、消炎鎮痛薬(抗炎症薬)、例えば、インドメタシン、ケトプロフェン、フェルビナク、フルルビプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、ロキソプロフェン、イブプロフェン、イブプロフェンピコノール、グアイアズレン、アラントイン、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、サリチル酸、サリチル酸メチル、モノサリチル酸エチレングリコール等、抗ヒスタミン薬、例えば、メディエーター遊離抑制剤(トラニラスト、クロモグリク酸ナトリウム)、ヒスタミンH1受容体アンタゴニスト(オキサトミド、メキタジン、エメダスチン、エバスチン、ロラタジン、セチリジン、デスロラチジン、フェゾフェナジン、アステミゾール、アゼラスチン、クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン、ケトチフェン)、ヒスタミンH2受容体アンタゴニスト(シメチジン、ラニチジン、ファモチジン、ニザチジン)、ヒスタミンH3受容体アンタゴニスト(チオペラミド、インプロミジン、ミフェチジン、イムペンタミン、クロザピン)、ヒスタミンH4受容体アンタゴニスト等、精油成分、例えば、l-メントール、カンファー、ボルネオール、オイゲノール、ユーカリ油、薄荷油、チョウジ油、ケイヒ油、ティーツリー油等、殺菌薬、例えば、イソプロピルメチルフェノール、クロルヘキシジングルコン酸塩、アクリノール、ベンザルコニウム塩酸塩等、局所麻酔薬、例えば、ジブカイン塩酸塩、リドカイン塩酸塩、プロカイン塩酸塩、テトラカイン塩酸塩、ブピバカイン塩酸塩、プロピトカイン塩酸塩、オキシブプロカイン塩酸塩、メピバカイン塩酸塩、オキセサゼイン等、鎮痒剤、例えば、クロタミトン、イクタモール、モクタモール、チモール酸等、血行促進剤、例えば、トウガラシ抽出成分、カプサイシン、ノニル酸ワニリルアミド等、ステロイドホルモン、例えば、吉草酸デキサメタゾン、吉草酸酢酸デキサメタゾン、プロピオン酸デキサメタゾン、酢酸プレドニゾロン、吉草酸酢酸プレドニゾロン、プレドニゾロン、酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、酢酸コルチゾン、酪酸クロベタゾン、トリアムシノロンアセトニド、吉草酸ジフルコルトロン、ジフルプレドナート、酢酸ジフロラゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、アムシノニド、ハルシノニド、ブデソニド、プロピオン酸アルクロメタゾン等、これらの薬学的に許容可能な塩(上記薬物が塩である場合は、他の塩)、およびこれらの塩の遊離物が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
上述した中でも、薬学的に許容可能な塩である薬物(とくに、塩酸ブテナフィン)を含む場合、一般に、ゲル製剤調製時においてゲル化が困難であり、比較的多量のゲル化剤が必要とされる。しかしながら、このような薬学的に許容可能な塩である薬物を配合した場合であっても、上述したような水溶性セルロース誘導体またはカルボキシビニルポリマーをゲル化剤として用いた場合、比較的少ないゲル化剤の配合量でゲル化が可能となり、この結果、ゲル製剤の流動特性が優れたものとなるとともに、ゲル製剤の塗布後の乾燥が早いものとなる。
本発明のゲル製剤における薬物の配合量は、用いられる薬物に応じて、好適な治療効果が得られる量とすることができる。たとえば、ゲル製剤に薬物として抗真菌薬の塩酸ブテナフィンを用いた場合、好適な治療効果が得られる配合量は、0.5〜3質量%である。
【0029】
また、本発明のゲル製剤では、上述した薬物のうち少なくとも1種を主薬とし、他の薬物を佐薬とし、上述した複数種の薬物を組み合わせて配合することができる。
例えば、ゲル製剤において、主薬として塩酸ブテナフィンを配合する場合、主薬と、佐薬の組合せとしては、好ましくは、塩酸ブテナフィンと、塩酸ジブカイン、マレイン酸クロルフェニラミン、グリチルレチン酸、l-メントールの組合せである。より具体的には、ゲル製剤において、塩酸ブテナフィン0.5〜2質量%、塩酸ジブカイン0.1〜0.5質量%、マレイン酸クロルフェニラミン0.2〜1質量%、グリチルレチン酸0.1〜0.5質量%、l-メントール0.5〜3%の配合組合せとすることにより、好適な治療効果を期待することができる。
【0030】
本発明のゲル製剤は、液性媒体を含有しており、液性媒体と上述した水溶性高分子とによりゲルが形成されている。
液性媒体としては、とくに限定されないが、水と炭素数が1〜3である脂肪族アルコールとを組み合わせて用いることができる。
水、すなわち精製水の配合量は、好ましくは30〜60質量%である。配合量が少ないとゲル製剤の塗り広げが難しくなるが、前記の範囲においては好適なゲルの流動特性が得られる。
【0031】
炭素数が1〜3である脂肪族アルコールとしては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコールが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。上述した中でも、エタノールを用いることが好ましい。
また、水と炭素数が1〜3である脂肪族アルコールとの配合量の質量比は、好ましくは4.0:6.0〜6.0:4.0の範囲であり、より好ましくは4.0:6.0〜5.0:5.0の範囲である。配合量の質量比をこのような範囲とすることにより、ゲル製剤は、好適な流動特性を有し、ベタツキが少なく、乾きの早いものとなる。
本発明のゲル製剤は、配合成分の種類や量に応じて、ゲルの適用量や適用回数を適宜設定することができる。とくに、薬物として塩酸ブテナフィンを含有する場合、本発明のゲル製剤は、薬物が皮膚に確実に適用できるため、1日あたり1〜3回患部に適用することによって優れた治療効果が期待できる。
【0032】
本発明のゲル製剤は、上記の各材料、例えば、薬物、タルク、水溶性高分子、水、脂肪族アルコールなどを混合して均一なゲルとすることによって製造される。
調製したゲル製剤は、チューブやプラスチック製容器、ガラス製容器などに充填して包装される。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0034】
(実施例1)
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(METOLOSE SR、90SH−100000SR、信越化学社製):1.31質量%、タルク(体積基準平均粒径:10μm、松村産業社製):1質量%、精製水:43.79質量%、エタノール:50質量%、主薬として塩酸ブテナフィン:1質量%、および佐薬として塩酸ジブカイン:0.2質量%、マレイン酸クロルフェニラミン:0.5質量%、グリチルレチン酸:0.2質量%、l-メントール:2質量%を混合して均一なゲル状とし、ゲル製剤を製造した。
なお、20℃における上記ヒドロキシプロピルメチルセルロースの2質量%水溶液の粘度は、100000mPa・sであり、メトキシ基の置換度が22.0〜24.0%、ヒドロキシプロポキシ基の置換度が8.0〜12.0%であった。
【0035】
(実施例2〜12)
表2、表3に示すようにゲル製剤の各材料の種類および組成を変更した以外は、実施例1と同様にしてゲル製剤を製造した。
各実施例のゲル製剤の組成を表2、表3に示す。なお、表中、カルボキシビニルポリマーとしては、カーボポール ETD 2050(ルーブリゾール・アドバンスト・マテリアルズ社製)を用いた。このカルボキシビニルポリマーの0.2質量%水溶液(pH7.2)の20℃における粘度は、9680mPa・sであった。また、表中、精製水:エタノールの質量比以外の数値は、すべて配合量(質量%)を示す。
【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
[評価1]
10名のパネラーにより各実施例のゲル製剤を100mg皮膚に直径60mmとなるように塗布して、各ゲル製剤の特性を相対的に比較しつつ、官能試験評価を行い、各パネラーの下記の評価についてより多い回答を採用した。
1.塗り広げやすさ
○:塗布時において塗り広げやすい。
×:塗布時において塗り広げにくい。
2.垂れ落ち
○:塗布時において垂れ落ちを生じない。
×:塗布時において垂れ落ちを生じる。
3.乾きの早さ
○:塗布後、3分間以内に乾燥する。
×:塗布後、3分間以内に乾燥しない。
4.ヨレ
○:塗布後、塗擦する際にゲル製剤中に含まれる固形分が乾燥し、垢状の塊が形成されない。
×:塗布後、塗擦する際にゲル製剤中に含まれる固形分が乾燥し、垢状の塊が形成される。
5.さらさら感
○:塗布後、好適なさらさら感を有する。
×:塗布後、さらさら感が感じられず、ざらざら感やべたつき感などが感じられる。
6.白残り
○:塗布、乾燥後に、塗布部分が白くなっているのが視認できる。
×:塗布、乾燥後に、塗布部分が白くなっているのが視認できない。
表4に結果を示す。なお、表中、「−」は○と×とを評価した人数が同一であったものである。
【0039】
【表4】

【0040】
表4に示すように、実施例1〜12のゲル製剤は、塗り広げやすく、垂れ落ちが好適に防止されており、乾きの早さに優れているものであった。また、タルクが含まれる実施例1〜7のゲル製剤は、加えて、ヨレが抑制され、さらさら感に優れ、かつ、白残りが防止されているものであった。
【0041】
(実施例13〜19)
タルクに替えて表5に示す粉末材料を用いた以外は、実施例1と同様にしてゲル製剤を製造した。
【0042】
[評価2]
実施例1、13〜19のゲル製剤を用い、ゲル製剤中への粉末成分の分散性(○:良好な分散状態、×:良く分散せず、粉末が凝集する)を評価するとともに、評価1と同様にさらさら感(○:好適なさらさら感を有する、×:さらさら感が感じられず、ざらざら感やべたつき感などが感じられる)、ヨレ(○:ヨレがない、×:ヨレがある)についての評価を行った。
【0043】
【表5】

【0044】
表5に示すように、粉末成分としてタルクを配合した実施例1のゲル製剤は、タルク以外の粉末成分を配合した実施例13〜19のゲル製剤と比較して、ヨレの発生を抑制できるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば垂れ落ちが防止され、かつ塗り広げやすいなどの使用感に優れたゲル製剤、ひいては患者のコンプライアンスを担保し、日常生活に支障をきたさないような使用感や物性を有するゲル製剤を提供することができ、産業上極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液の粘度が5000mPa・sより大きく、280000mPa・s以下である水溶性高分子を含有し、
水溶性高分子の配合量が0.5〜5.0質量%である、ゲル製剤。
【請求項2】
水溶性高分子が、2質量%水溶液として20℃における粘度が7500〜140000mPa・sである水溶性セルロース誘導体、および/または0.2質量%水溶液として20℃における粘度が5000mPa・sより大きく、29000mPa・s以下であるカルボキシビニルポリマーである、請求項1に記載のゲル製剤。
【請求項3】
水溶性セルロース誘導体の配合量が0.5〜5.0質量%である、請求項2に記載のゲル製剤。
【請求項4】
水溶性セルロース誘導体は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有する、請求項2または3に記載のゲル製剤。
【請求項5】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースのヒドロキシプロポキシ基の置換度が4〜32.0%であり、メトキシ基の置換度が16.5〜30.0%である、請求項4に記載のゲル製剤。
【請求項6】
カルボキシビニルポリマーの配合量が0.65〜4.8質量%である、請求項2〜5のいずれかに記載のゲル製剤。
【請求項7】
タルクを含有する、請求項1〜6のいずれかに記載のゲル製剤。
【請求項8】
タルクの配合量は、0.5〜6.0質量%である、請求項7に記載のゲル製剤。
【請求項9】
薬学的に許容可能な塩である薬物をさらに含有する、請求項1〜8のいずれかに記載のゲル製剤。
【請求項10】
塩酸ブテナフィンを含有する、請求項1〜9のいずれかに記載のゲル製剤。
【請求項11】
水および炭素数が1〜3である脂肪族アルコールを含有し、
水と脂肪族アルコールとの配合量の質量比が4.0:6.0〜6.0:4.0の範囲である、請求項1〜10のいずれかに記載のゲル製剤。
【請求項12】
脂肪族アルコールは、エタノールである、請求項11に記載のゲル製剤。

【公開番号】特開2011−173823(P2011−173823A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38583(P2010−38583)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000160522)久光製薬株式会社 (121)
【Fターム(参考)】