ゲートウェイおよびデータ転送方法
【課題】 ジッタを削減することにより、遅延の増加を最小限にする。
【解決手段】 二つの網を接続するゲートウェイ10が、受信部と制御部と送信部とを備える。一方の網20から受信部14Aは複数のパケットを受信し、制御部100は、それらのパケットに対応するデータユニットをバッファ110に一時的に記憶し、送信先端末31のジッタ削減能力に応じてデータユニットを出力して遅延ジッタを削減した後、これらのデータユニットを送信部18Bに送信させる。
【解決手段】 二つの網を接続するゲートウェイ10が、受信部と制御部と送信部とを備える。一方の網20から受信部14Aは複数のパケットを受信し、制御部100は、それらのパケットに対応するデータユニットをバッファ110に一時的に記憶し、送信先端末31のジッタ削減能力に応じてデータユニットを出力して遅延ジッタを削減した後、これらのデータユニットを送信部18Bに送信させる。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、データ伝送における遅延ジッタが存在するネットワークと、他のネットワークとを接続するゲートウェイおよびそのためのデータ転送方法に関する。
【0002】
【従来の技術】プロトコルおよびネットワーク特性の異なる異種ネットワークに接続された各端末間でのマルチメディア通信を行うために、ゲートウェイは不可欠な部材である。このゲートウェイは、送信元端末が属するネットワークのプロトコルに従ったデータを受信し、送信先端末が属するネットワークのプロトコルに従ってこのデータを送信する。これにより、送信元端末から送信されたデータは、その送信元端末が属するネットワーク、ゲートウェイ、および送信先端末の属するネットワークを通過することになる。
【0003】マルチメディアのために、インターネットのようなパケット交換網ではITU−T勧告H.323に準拠した端末が用いられており、PSTN(public switched telephone network)のような回線交換網ではITU−T勧告H.324に準拠した端末が用いられている。勧告H.323とH.324では、使用されている通信プロトコルが異なるため(勧告H.323ではRTP/UDP、勧告H.324では勧告H.223で規定する多重送信プロトコル)、相互接続にはゲートウェイにおいてプロトコルの変換が必要になる。さらにまた、高品質のマルチメディア通信を実現するには、遅延、遅延ジッタおよびエラー特性のようなネットワーク特性の相違を補償することが必要である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ネットワークでは、様々な要因によってデータ伝送に関する遅延が生じ、各データユニットの遅延が異なる場合がある。このような伝送遅延のゆらぎを遅延ジッタという。遅延ジッタの発生要因としては、例えば、パケット交換網での蓄積交換、経路上のノードにおける待ち合わせ、あるいは、各データユニットが異なる経路を経てゲートウェイに到着する事実がある。
【0005】回線交換網においても、異なる形式のデータを同時に伝送することにより遅延ジッタが生ずる。例えば、テレビ電話のようなマルチメディア端末は、一つのビットストリームに画像、音声および/またはアプリケーションデータを多重する。このような場合においては、すぐに送信されるデータもあれば、現在送信中のデータの送信完了まで送信されないデータもある。この種の遅延ジッタは端末でもゲートウェイでも起こり、送信速度が低いほど大きくなる。
【0006】遅延ジッタが発生すると、送信元端末でのデータユニットの時間間隔が、送信先端末においては保たれない。例えば音声のような精確な同期の必要性が高いデータを送信する際には、このような遅延ジッタを解消できることが望ましい。遅延ジッタを解消するために、通信端末にはある程度の遅延ジッタを吸収するものがある。例えば、ある通信端末は、様々な遅延時間で受信したデータユニットをいったん記憶し、一連のデータユニットが蓄積されてからそれらを連続して出力する。しかしながら、ネットワークによって遅延ジッタの発生要因や特性が異なるので、送信先となりうる通信端末に受信されるデータの遅延ジッタが、どの程度大きいのかをあらかじめ知ることは困難である。従って、送信先の端末で許容される遅延ジッタは、その端末の属するネットワークにおいて発生しうる最大の遅延ジッタに基づいている場合が多い。このため、エンド・トゥ・エンドの遅延が増加することになり、この遅延はリアルタイム通信では深刻な問題となりうる。
【0007】本発明は、ジッタを削減することにより、遅延の増加を最小限にすることのできるゲートウェイおよびデータ転送方法を提供する。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の一つの態様によれば、二つのネットワークを接続するゲートウェイが、少なくとも一つの形式の複数のデータユニットを第1のネットワークから受信する受信部と、前記受信部で受信した前記データユニットを一時的に記憶し、送信先端末が備えるジッタ削減能力に応じて、前記データユニットを出力することにより、データユニットの遅延ジッタを削減する制御部と、前記制御部で出力されたデータユニットに対応するデータユニットを前記送信先端末に届けるために、第2のネットワークに送信する送信部とを備える。本発明において、ゲートウェイには第1および第2のネットワークが接続されている。送信先端末は、第2のネットワークに直接的に奉仕されてもよい。あるいは、送信先端末は、第2のネットワークに間接的に奉仕されてもよい。つまり、送信先端末と第2のネットワークとの間に、一つまたは複数のネットワークと、これらの隣合うネットワーク相互を接続する他のゲートウェイが介在していてもよい。好ましくは、このゲートウェイは、前記送信先端末のジッタ削減能力に関する情報を獲得するジッタ削減能力獲得部をさらに備えるとよい。
【0009】前記制御部は、前記遅延ジッタ削減能力に基づいてある時間を決定し、前記受信部において先頭のデータユニットを受信した時刻からその決定した時間が経過した後に前記先頭のデータユニットを出力し、その後、前記第1のネットワークにおける送信サイクルと同じサイクルで後続のデータユニットを順次出力するのでもよい。
【0010】好ましくは、前記受信部は、異なる形式のデータユニットを受信することが可能であり、異なる形式のデータユニットが同時に未送信である時に、前記制御部は、前記第1のネットワークにおいて前記データユニットが伝送される際に生じた遅延時間に応じて前記送信部における優先度を決定してもよい。この場合、前記送信部は、前記制御部から出力された異なる形式のデータユニットを、前記優先度に従って多重化して前記第2のネットワークを通じて前記送信先端末に送信するようにしてもよい。
【0011】好ましくは、前記制御部は、各形式における最初のデータユニットが前記制御部から出力された最初出力時刻を検出する出力時刻検出部と、前記最初出力時刻に基づいて、各形式における最初のデータユニットに対する各データユニットの前記遅延時間を算出する遅延時間算出部とを備えてもよい。この場合、前記制御部は、算出された前記遅延時間が長いと判定されたデータユニットについては、他のデータユニットに優先して送信するように前記送信部を制御するようにしてもよい。
【0012】前記制御部は、前記第1のネットワークにおいて前記データユニットが伝送される際に生じうる最大遅延時間を、前記送信先端末において許容される遅延ジッタに応じて短縮して前記時間を求めるようにしてもよい。
【0013】本発明の他の一つの態様によれば、データ転送方法が、少なくとも一つの形式の複数のデータユニットを第1のネットワークから受信することと、前記データユニットを一時的に記憶することと、送信先端末のジッタ削減能力に応じて、データユニットの遅延ジッタを削減することと、前記データユニットに対応するデータユニットを前記送信先端末に届けるために第2のネットワークに送信することとを備える。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る一つの実施の形態について説明する。図1に示すように、本発明に係る実施形態では、ゲートウェイ10が網20と網30とを相互接続しており、これにより網20に奉仕される送信元端末からデータが網30に奉仕される送信先端末に送信され、逆に、網30に奉仕される送信元端末からデータが網20に奉仕される送信先端末に送信される。網20、30はそれぞれ多数の端末に奉仕するが、図1では、便宜上、網20に奉仕される端末21と、網30に奉仕される端末31のみが描かれている。両方の網10および20においては、少なくとも一つの形式のデータユニットが交換される。
【0015】この実施形態では、網20は、データユニットがパケットに含められて送受信されるパケット交換網であり、網30はフレームとしてデータユニットが送受信される回線交換網である。フレームには、例えば音声データフレームや画像データフレームが含まれる。ただし、本発明をこれに限定する意図ではなく、変更・修正が可能である。網20または30は、移動網であってもよいし、固定網であってもよい。
【0016】ゲートウェイ10は、網20のための網インターフェイス12と、網30のための網インターフェイス13と、網20から網30へデータを伝送する伝送系列ABと、網30から網20へデータを伝送する伝送系列BAを備えている。伝送系列ABは、受信部14A、プロトコル・エンティティ15A、メディア変換符号化部16、プロトコル・エンティティ17B、送信部18B、および制御部100を備えており、伝送系列BAは、受信部14B、プロトコル・エンティティ15B、メディア変換符号化部16、プロトコル・エンティティ17A、送信部18A、および制御部100を備えている。
【0017】受信部14Aは、網20から網インターフェイス12を介してビットストリームを受信する。このビットストリームには、網20に奉仕される送信元端末(例えば端末21)で作成された少なくとも一つの形式の複数のデータユニット(パケット)が含まれうる。一方、受信部14Bは、網30から網インターフェイス13を介してビットストリームを受信する。このビットストリームには、網30に奉仕される送信元端末(例えば端末31)で作成された少なくとも一つの形式の複数のデータユニット(フレーム)が含まれうる。
【0018】プロトコル・エンティティ15Aは、網20において使用されるプロトコルにとって終端であり、各パケットからペイロード情報やその関連情報を取り出す。RTP/UDPが通信プロトコルとして使われるのであれば、関連情報には、データタイプ、タイムスタンプ(送信時間)、シーケンスナンバーその他が含まれる。同様に、プロトコル・エンティティ15Bは網30において使用されるプロトコルにとって終端である。
【0019】メディア変換符号化部16は、必要に応じて、音声や画像の符号変換を行うものであり、例えば、網20と網30で用いられている音声もしくは画像符号体系が異なる場合に符号変換を行う。
【0020】制御部100は、バッファ110を備えており、バッファはプロトコル・エンティティ15Aまたは15Bから入力されるデータユニットをバッファリングする。制御部100は、予め獲得している送信先端末(例えば端末31)が備えるジッタ削減能力(具体的には、許容遅延ジッタ)に応じて、バッファ110からデータユニットを読み出して、送信先に対応する網(例えば網30)へ送信するためにデータユニットをプロトコル・エンティティ(例えば17B)に出力する。
【0021】送信先端末のジッタ削減能力については、例えばITU−T勧告H.245に記載された能力交換手段を用いて獲得することができる。ITU−T勧告H.245は、マルチメディア通信で用いられる様々な制御プロトコルを規定するものであり、ITU−T勧告H.324やH.323やその他の勧告に準拠したマルチメディア端末がこれに準拠している。ITU−T勧告H.245で規定される制御プロトコルの中には、端末の能力交換手順が含まれており、この手順を用いることで、通信を行っているノード同士の通信能力を交換することができる。この能力交換は、ITU−T勧告H.245で規定されている様々な制御メッセージを互いに送信することにより実現される。この実施形態においては、伝送系列ABと伝送系列BAとが共同して、送信先端末のジッタ削減能力情報を獲得し、対応する制御部100がその情報を記憶する。
【0022】ゲートウェイ10が、網(例えば網20)から音声や画像などマルチメディアに係る複数の形式のデータを受信する場合には、後述するように、バッファ110は、一つの形式のデータユニットを、他の形式のデータユニットから独立した位置に格納する。また、制御部100は、一つの形式のデータユニットを、他の形式のデータユニットとは区別しながら、バッファから読み出して、プロトコル・エンティティ(例えば17B)に出力し網(例えば30)へ送信する。
【0023】各制御部100はさらに優先度決定部120を備えている。優先度決定部120は、後に詳述するように、マルチメディアに係る複数の形式のデータ通信で有効に利用される。
【0024】プロトコル・エンティティ17Aおよび17Bの各々は、バッファ110から読み出されたデータユニットから、送信先端末に接続された網のプロトコルに適合したパケットまたはフレームを生成する。送信部18Aまたは18Bの各々は、そのパケットまたはフレームを送信先端末に奉仕する網へ送信する。
【0025】上記の構成の下、網20に奉仕される送信元端末から、網30に奉仕される送信先端末に送信されるべきデータユニットは、網20を経てゲートウェイ10に到着する。ゲートウェイ10は、網20において発生した遅延ジッタを削減しながら、データユニットを網30に送信する。網30に奉仕される送信元端末から、網20に奉仕される送信先端末に送信されるべきデータユニットについても、同様にして網30で発生した遅延ジッタが削減される。
【0026】以下、送信元端末を端末21、送信先端末を端末31と仮定する。端末21から送信された各パケットは、網20を通過することにより、異なる遅延時間を伴ってゲートウェイ10で受信される。ゲートウェイ10は、このような遅延ジッタを制御部100において削減した後、網30が従うプロトコルに従って送信する。
【0027】図2を参照しながら、制御部100における受信した単一形式のデータユニットのバッファリングについて説明する。本実施形態では、バッファ110は、連続した所定数(図2では9)のバッファレジスタ#1〜#9を備えている。バッファ110の各バッファレジスタは、1パケットの長さにほぼ相当する容量を有しており、1パケット内の中身を記憶する。一定の時間間隔をおいて、バッファレジスタ内のデータは制御部100に順次読み出されて出力されるようになっている。その時間間隔の長さをINTとする。図2に示す時刻tn(t1、t2、t3……)は時間間隔INTおきに離れている。
【0028】図2に示すバッファ110では、時刻t1ではバッファレジスタ#9に記憶されていたデータが出力される。時刻t2ではバッファレジスタ#1に記憶されていたデータが出力される。時刻t3ではバッファレジスタ#2に記憶されていたデータが出力される。時刻t4ではバッファレジスタ#3に記憶されていたデータが出力される。このように、隣接するバッファレジスタに記憶されているデータユニットは一定の時間間隔をおいて順次出力される。ただし、バッファレジスタに記憶されたデータがなければ何も出力されない。
【0029】このバッファ110において、図2に示すように、時刻t1においてバッファレジスタ#2にパケットP1のデータユニットが記憶されると仮定する。上述の方式に従って、バッファレジスタ#2に記憶されたパケットP1のデータユニットは時刻t3において出力される。従って、パケットP1のデータユニットはバッファ110に記憶されてから、時間2×INT後に出力されることになる。
【0030】図2とは異なり、時刻t1において、バッファレジスタ#1にパケットP1のデータユニットが記憶されると仮定する。バッファレジスタ#1に記憶されたパケットP1のデータユニットは、上述の方式に従って、バッファ110に記憶されてから時間1×INT後の時刻t2において出力される。
【0031】上記より理解できるように、バッファ110においては、パケットP1のデータユニットをバッファレジスタ#2に記憶することによって、バッファレジスタ#1に記憶するのに比べて、出力時間がバッファレジスタ1個分に相当する時間INTだけ遅延されることになる。
【0032】本実施形態では、網20から受信した一つの形式のパケット中の先頭のパケットのデータユニットを記憶すべきバッファレジスタを制御部100が決定することにより、先頭のパケットのデータユニットが記憶されてから出力されるまでの時間を調節し、網20において発生する遅延ジッタを吸収する。より具体的には、先頭パケットのデータユニットが記憶されてから出力されるまでの時間が、吸収すべき遅延ジッタの幅分となるバッファレジスタを、制御部100は先頭パケットのデータユニットのための初期書込位置として選択する(図2R>2のステップS1,S2で示すように)。
【0033】制御部100は、2番目以降のパケットのデータユニットについては、その時点であいているバッファレジスタの中で直後に読み出しの対象となるバッファレジスタに記憶する(図2のステップS3で示すように)。さらにまた、制御部100は、受信部14Aにおけるパケットの受信順序が遅延ジッタにより、送信元端末での送信順序に一致していない時には、パケットのヘッダを参照して、その順序をそろえた後に、バッファ110に記憶する。
【0034】図2に戻り、時刻t1において受信した先頭のパケットP1のデータユニットは初期書込位置であるバッファレジスタ#2に記憶される。時刻t2においてパケットが受信されず、時刻t3において2番目のパケットP2が受信されたと仮定する。もしパケットP1,P2が送信元から続けて送信されたのであれば、パケットP1の遅延とパケットP2の遅延は、網20のために、時間INTだけ異なったと考えられる。時刻t3においては、パケットP2のデータユニットは、先に説明した方式に従って、その時点であいているバッファレジスタの中で直後に読み出しの対象となるバッファレジスタ#3に記憶される。同時に、時刻t3では、バッファレジスタ#2に記憶されたパケットP1のデータユニットがバッファ110から読み出される。時刻t3から時間INT後の時刻t4においては、バッファレジスタ#3に記憶されたパケットP2のデータユニットが、バッファ110から読み出される。
【0035】このように、パケットP2が、パケットP1の遅延よりも時間INTだけ長く遅延してゲートウェイ10に到着した場合であっても、先頭のパケットP1のデータユニットの出力タイミングを時間INTだけ遅延させているので、パケットP1とP2のデータユニットは連続したタイミングで出力され、遅延ジッタが吸収される。上述の通り、パケットの順序は、制御部100でそろえられるので、パケットP1とP2の送信時刻関係をそろえれば後のデータユニットについても同様に遅延ジッタが吸収される。
【0036】上述のバッファリングは、送信先の属する網30では許容遅延ジッタがゼロという仮定に基づいている。しかし、送信先端末31は網30において発生すると想定された最大の遅延ジッタに相当する遅延ジッタを吸収できると仮定しよう。この場合、ゲートウェイ10は、網20で発生した遅延ジッタの全部を吸収する必要はないかもしれない。しかし、別の網20で発生する遅延ジッタが網30のそれより大きければ、端末31は別の網20において発生する遅延ジッタの全部を吸収できるとは限らない。そこで、ゲートウェイ10のコントローラ100は、予め獲得した端末31のジッタ削減能力である許容遅延ジッタに応じて、実在の遅延ジッタのうちどれだけ吸収するか決定する。この場合のゲートウェイ10の動作を後に詳述する。
【0037】また、図2では、網20での遅延ジッタが1×INTであるが、実在の網では遅延ジッタは、もっと大きいかもしれない。例えば、図9は、遅延発生を示すグラフを示しており、上のグラフは送信元端末21における送信時の遅延発生を示し、下のグラフは網20を通過後ゲートウェイ10における受信時のパケット遅延発生を示す。図9の上のグラフの直線D0に示すように、端末21からの送信時においては、当然、すべてのパケットは遅延を持たず、この段階での遅延ジッタは存在しない。しかし、網20を通過することにより、各パケットは、様々な遅延時間でゲートウェイ10に到着する。図9の下のグラフの曲線D1に示すように、最大遅延時間=4×INT、最小遅延時間=0、遅延ジッタ=最大遅延時間=4×INTである。
【0038】図9で示すような、網20で発生する4×INTの遅延ジッタの全てをバッファ110で吸収するには、図5に示すように、バッファレジスタ#5が初期書込位置になる。
【0039】しかし、本実施形態では、上記のように、バッファ110において吸収すべき遅延ジッタの幅(バッファ吸収幅)は、網20で発生する遅延ジッタと、あらかじめ獲得した網30において許容される遅延ジッタとに基づいて、制御部100が決定する。網30における許容遅延ジッタが3×INTであれば、バッファ110では1×INT分の遅延ジッタを吸収すればよい。図4に示すように、この場合の初期書込位置はバッファレジスタ#2でよい。
【0040】以下、網20で発生する遅延ジッタの一部をバッファ110で吸収する動作を、全部を吸収する動作と比較しながら説明する。図3に示すように、端末21から送信された先頭のパケットP1が最小遅延時間(0)でゲートウェイ10に受信され、次のパケットP2が最大遅延時間(4×INT)でゲートウェイ10に受信されると仮定する。すなわち、図3に示すように、先頭のパケットP1が時刻t1において端末21から送信され、2番目のパケットP2が時刻t2において端末21から送信される。先頭のパケットP1は、最小遅延時間0sで網20を通過してゲートウェイ10に時刻t1に到着し、2番目のパケットP2は、最大遅延時間4sで網20を通過してゲートウェイ10に時刻t6に到着している。
【0041】上述の通り、図4に示すように、送信先の属する網30で許容遅延ジッタが3INTである場合には、時刻t1においてパケットP1のデータユニットはバッファレジスタ#2に記憶される。従って、パケットP1のデータユニットはt1から2×INT後の時刻t3においてバッファ110から出力される
【0042】これに対して、網20で発生する遅延ジッタの全てをバッファ110で吸収する比較例では、上述の通り、パケットP1のデータユニットは図5に示すようにバッファレジスタ#5に記憶すべきである。よって比較例では、パケットP1のデータユニットはt1から5×INT後の時刻t6においてバッファ110から出力されるだろう。
【0043】最大遅延時間4s遅延した時刻t6においてゲートウェイ10に到着する2番目のパケットP2のデータユニットは、図4および図5に示すように、あいているバッファレジスタの中で記憶の直後に制御部100に読み出されるバッファレジスタ#6に記憶され、時刻t7において出力される。
【0044】送信先の属する網30で許容遅延ジッタが3INTである場合には、図4に示すように、パケットP2のデータユニットはパケットP1のデータユニットが出力されてから4INT後に出力されるので、網20において生じた遅延ジッタ4INTの一部である1INTがバッファ110において吸収され、3INTの遅延ジッタが残留したことになる。残留遅延ジッタは送信先端末31で吸収される。この場合、図3に示すように、パケットP1が端末21より送信された時刻からバッファ110からそのデータユニットが出力された時刻までの遅延時間=2INTとなり、パケットP2が端末21より送信された時刻からバッファ110からそのデータユニットが出力された時刻までの遅延時間=5INTとなる。
【0045】これに対して、網20で発生する遅延ジッタの全てをバッファ110で吸収する比較例では、図5に示すように、パケットP2のデータユニットはパケットP1のデータユニットが出力されてから1INT後に出力されるので、網20において生じた遅延ジッタ4INTはバッファ110において全部吸収されたことになる。この場合、図3に示すように、パケットP1が端末21より送信された時刻からバッファ110からそのデータユニットが出力された時刻までの遅延時間=5INTとなり、パケットP2が端末21より送信された時刻からそのデータユニットがバッファ110から出力された時刻までの遅延時間=5INTとなる。
【0046】次に、先頭のパケットが最大遅延時間で到着する場合のゲートウェイ10のバッファリング動作について、図6ないし図8を参照しながら説明する。図6に示すように、先頭のパケットP1が時刻t1において端末21から送信され、2番目のパケットP2が時刻t2において端末21から送信されると仮定する。先頭のパケットP1は、網20において生じうる最大遅延時間4INTで時刻t5にゲートウェイ10に到着し、2番目のパケットP2は、最大遅延時間4INTで時刻t6にゲートウェイ10に到着する。仮に到着の順序が乱されても、制御部100が順序を再度そろえるので、後のパケットが先のパケットより先に処理されることはない。
【0047】送信先の属する網30で許容遅延ジッタが3INTである場合には、図7に示すように、時刻t5においてパケットP1のデータユニットはバッファレジスタ#2に記憶され、t5から2INT後の時刻t7においてバッファ110から出力される。そして、送信時刻t2から最大遅延時間4INT遅延した時刻t6においてゲートウェイ10に到着する2番目のパケットP2のデータユニットは、その時点であいているバッファレジスタの中で最もはやく出力されるバッファレジスタ#3に記憶され、2INT後の時刻t8において出力される。図6に示すように、両方のパケットP1およびP2について、端末21より送信された時刻からデータユニットがバッファ110から出力された時刻までの遅延時間=6INTである。
【0048】これに対して、網20で発生する遅延ジッタの全てをバッファ110で吸収する比較例では、図8に示すように、時刻t5においてパケットP1のデータユニットはバッファレジスタ#5に記憶され、パケットP1のデータユニットはt5から5INT後の時刻t10においてバッファ110から出力される。送信時刻t2から最大遅延時間4INT遅延した時刻t6においてゲートウェイ10に到着する2番目のパケットP2のデータユニットは、その時点であいているバッファレジスタの中で最もはやく出力されるバッファレジスタ#6に記憶され、5INT後の時刻t11において出力される。図6に示すように、両方のパケットP1およびP2について、端末21より送信された時刻からそののデータユニットがバッファ110から出力された時刻までの遅延時間=9INTである。
【0049】以上より理解できるように、ネットワークを接続するゲートウェイ10に設けられたバッファ110を利用して、先頭のパケットのデータユニットについては受信してからある時間後に出力し、以降のデータユニットについては順次出力するようにすることにより、網20で発生した遅延ジッタの全てまたは一部を吸収することができる。
【0050】以上のように、バッファ110により網20で起こった遅延ジッタの全てを吸収する場合は、先頭のパケットが最小遅延で到着した場合でも、各パケットが端末21より送信された時刻からそのデータユニットがバッファ110から出力された時刻までの遅延時間=5INTとなる(図3参照)。先頭のパケットが最大遅延である場合には遅延時間=9INTにもなる(図6参照)。端末21〜端末31間の総遅延時間は、パケットP1が端末21より送信された時刻からそのデータユニットがバッファ110から出力された時刻までの遅延時間および網30において発生する最大遅延時間の累計である。従って、パケットP1が端末21より送信された時刻からそのデータユニットがバッファ110から出力された時刻までの遅延時間の増大により、総遅延時間が増大してしまう。
【0051】これに対して遅延ジッタを一部吸収した場合は、先頭のパケットが最小遅延である場合には、パケットP1が端末21より送信された時刻からそのデータユニットがバッファ110から出力された時刻までの遅延時間=2INTとなり、先頭のパケットが最大遅延である場合には遅延時間=6INTになる(図3および図6参照)。このように、網30において許容される遅延ジッタに基づいて、バッファ110で吸収すべき遅延を調整することにより、端末21〜端末31間の総遅延時間をより少なくすることができる。図3、図4および図7を参照しながら説明したように、遅延ジッタを一部だけ吸収した場合は、網20において発生した遅延ジッタが部分的に残留する。しかし、この残留遅延ジッタは送信先端末31で吸収される。
【0052】次に、マルチメディアに関わる複数形式のデータ通信へのこの実施形態の応用を説明する。マルチメディア通信においては、プロトコル・エンティティ15Aまたは15B(図1参照)は、対応する受信部14Aまたは14Bで受信された複数形式のデータのうちの一つの形式のデータユニットと、他の形式のデータユニットから区別する。
【0053】また、各コントローラ100の優先度決定部120は、データユニットの優先度を決定する。具体的には、優先度決定部120は、網30へデータユニットを送信する順序を各データユニットの遅延ジッタに応じて決定する。
【0054】対応するプロトコル・エンティティ17Aまたは17Bは、優先度決定部120から出力される優先度情報に基づいてバッファ110からの出力信号を多重送信のためにチャンネルにマップする。対応する送信部18Aまたは18Bは、プロトコル・エンティティのマッピングに従ってデータユニットを網30へ多重送信する。
【0055】図10は、各制御部100の内部機能エンティティを詳細に示す。以下の説明中、図10で示すように、プロトコル・エンティティ15Aまたは15Bはプロトコル・エンティティ15と呼び、プロトコル・エンティティ17Aまたは17Bはプロトコル・エンティティ17と呼ぶ。
【0056】図10に示すように、バッファ110は音声バッファ111および画像バッファ112を備える。
【0057】音声バッファ111は、プロトコル・エンティティ15から出力された音声データパケットのデータユニットを記憶し、画像バッファ112は、プロトコル・エンティティ15から出力された画像データパケットのデータユニットを記憶する。各バッファから読み出されたデータユニットは別々にプロトコル・エンティティ17に供給される。
【0058】また、バッファ111または112の各々から出力されたデータユニットは優先度決定部120にも供給されるようになっている。優先度決定部120は、出力時刻検出部122と、遅延時間算出部123と、判定部124とを有する。出力時刻検出部122は、ゲートウェイ10の内部クロックに基づいてバッファ110からの最初の音声データユニットの出力時と最初の画像データユニットの出力時を検出し、これを遅延時間算出部123に出力する。音声バッファ111から出力された最初の音声データユニットの出力時刻をBs(A)、画像バッファ111から出力された最初の画像データユニットの出力時刻をBs(V)と呼ぶ。
【0059】遅延時間算出部123は、プロトコル・エンティティ17から未送信の音声データユニットの標準出力時刻Ss(A)を算出する。標準出力時刻Ss(A)は、遅延がなければ、その音声データユニットがバッファ110から出力されているべき時刻であり、最初の音声データユニットの音声バッファ出力時刻Bs(A)を起算点とする。さらに、現在時刻Ctとプロトコル・エンティティ17から未送信の音声データユニットの標準出力時刻Ss(A)の時間差を音声遅延時間D(A)として算出して判定部124に出力する。また、遅延時間算出部123は、プロトコル・エンティティ17から未送信の画像データユニットの標準出力時刻Ss(V)を算出する。標準出力時刻Ss(V) は、遅延がなければ、その画像データユニットがバッファ110から出力されているべき時刻であり、最初の画像データユニットの画像バッファ出力時刻Bs(V)を起算点とする。さらに、現在時刻Ctとプロトコル・エンティティ17から未送信の画像データユニットの標準出力時刻Ss(V)の時間差を画像遅延時間D(V)として算出して判定部124に出力する。音声遅延時間D(A)および画像遅延時間D(V)は、最初の音声または画像データユニットに対する各データユニットの遅延時間を比較するには十分な指標である。
【0060】例えば、音声バッファ111と画像バッファ112から音声データユニットと画像データユニットが同時に読み出された場合など、バッファ110から出力されたがプロトコル・エンティティ17から未送信の音声データユニットと画像データユニットが同時に存在する場合、判定部124は、音声遅延時間D(A)および画像遅延時間D(V)を比較し、その比較に基づいて、プロトコル・エンティティ17における送信の優先度を制御するための送信制御指令を作成し、これをプロトコル・エンティティ17に出力する。
【0061】図11に示すフローチャートを参照しながら、優先度決定部120における優先度決定処理を説明する。この図示した処理は、1INTおきに繰り返される。まず、ステップS11で、バッファ110から出力されたがプロトコル・エンティティ17から未送信の音声データユニットと画像データユニットが同時に存在する場合、遅延時間算出部123は、最初の音声データユニットの音声バッファ出力時刻Bs(A)に基づいて、プロトコル・エンティティ17から未送信の音声データユニットの標準出力時刻Ss(A)を式(1)に従い算出する。
Ss(A) = Bs(A) + (N(A) − 1) × Cy(A)・・・・・(1)
ここで、N(A)は音声データユニットの順序を示す番号であり、Cy(A)は端末21による音声パケットの送信サイクルを示す。
【0062】また、ステップS11で、遅延時間算出部123は、最初の画像データユニットの画像バッファ出力時刻Bs(V)に基づいて、プロトコル・エンティティ17から未送信の音声データユニットの標準出力時刻Ss(V)を式(2)に従い算出する。
Ss(V) = Bs(V) + (N(V) − 1) × Cy(V)・・・・・(2)
ここで、N(V)は画像データユニットの順序を示す番号であり、Cy(V)は端末21による画像パケットの送信サイクルを示す。
【0063】ステップS12で、遅延時間算出部123は、画像データユニットの標準出力時刻Ss(V)と現在時刻Ctに基づいて式(3)に従い、そのデータユニットの遅延時間D(V)を算出する。
D(V) = Ct − Ss(V)・・・・・(3)
【0064】ステップS13で、遅延時間算出部123は、音声データユニットの標準出力時刻Ss(V)と現在時刻Ctに基づいて式(4)に従い、そのデータユニットの遅延時間D(A)を算出する。
D(A) = Ct − Ss(A)・・・・・(4)
【0065】次に判定部124は、ステップS14で、音声遅延時間D(A)が画像遅延時間D(V)よりも大きいか否かを判定する。ステップS14の判定が肯定的であれば、ステップS15で、判定部124はその音声データユニットを優先して送信することを指示する送信制御指令を判定部17に供給する。一方、ステップS14の判定が否定的であれば、ステップS16で、判定部124はその画像データユニットを優先して送信することを指示する送信制御指令を判定部17に供給する。このようにして処理は終了し、その後繰り返される。
【0066】次に、図12および図13に示すタイムチャートを参照しながら、マルチメディア通信におけるパケットの処理を具体的に説明する。図12および図13において、文字A,Vはそれぞれ音声パケット、画像パケットに対応するデータユニットを示し、添え字は端末21からの送信順序を示す。
【0067】まず、端末21からの各パケットの送信の態様およびバッファ110からの各パケットの出力の態様は、図12および図13に示すようなものであると仮定する。すなわち、端末21からの各形式のパケットにかかるデータユニットは、上述したように網20で発生した遅延ジッタの一部だけをバッファ111または112で吸収するやり方で、ゲートウェイ10でバッファリングされてバッファ110から出力される。このため、図12および図13に示すように、音声パケットAの送信サイクルが3INTであるのに、パケットA1から4INTの後にパケットA2のデータユニットがバッファから出力され、画像パケットVの送信サイクルが5INTであるのに、パケットV1から6INTの後にパケットV2のデータユニットがバッファから出力される。
【0068】音声バッファ111、画像バッファ112において、音声と画像データユニットの遅延ジッタが全部吸収された場合には、全ての音声データユニット、画像データユニットは送信元端末21から網20への送信サイクルと同じサイクルで出力されるはずである。従って、遅延ジッタの一部だけをバッファで吸収したがゆえに、2番目以後の音声データ群には1INTの遅延ジッタ、2番目以後の画像データ群には1INTの遅延ジッタが残留していることが図12および図13から理解できよう。
【0069】さらに、プロトコル・エンティティ17により音声と画像のデータユニットを単一チャネルに多重して網30に送信するために、この多重によっても遅延が生ずる。従って、上述したバッファ110からの出力時の残留した遅延ジッタに、多重による遅延ジッタが重畳されて、プロトコル・エンティティ17からの出力データユニットの遅延ジッタが広がる場合がある。
【0070】プロトコル・エンティティ17による多重における遅延ジッタは、異なる種類に属するデータユニットの送信順序に大きく影響を受ける。より具体的には、図12および図13に示すように、音声パケットは同一のデータ長であって等間隔3INTで端末21から送信されるのに対して、画像パケットはそれぞれ長さが異なっており、しかもそれらの長さが音声パケットの長さに比較して大きく、等間隔5INTで送信される。このような場合は、ゲートウェイ10では、長い画像データユニットの送信中では音声データユニットを出力するのが好ましい時でも、音声データユニットを送信できない。従って、多重の方式に工夫を加えないと、音声データユニットに多重による遅延が生じうる。そして、残留している音声データユニットの遅延ジッタと多重の際の遅延によって、さらに遅延ジッタが広がることがありうる。
【0071】多重の方式には、様々なものが考えられる。例えば、バッファ110から出力されたがプロトコル・エンティティ17から未送信の音声データユニットと画像データユニットが同時に存在する場合に、多重の際に画像データユニットを常に音声データユニットよりも優先することが考えられうる。逆に、そのような場合に、多重の際に音声データユニットを常に画像データユニットよりも優先することも考えられうる。これらの方式には以下に述べるように欠点がある。
【0072】図12において、時刻t13では、音声パケットA4のデータユニットが音声バッファ111から出力され、画像パケットV3のデータユニットが画像バッファ112から出力される。また、この時には、以前の音声パケットA3のデータユニットがすでに音声バッファ111から出力されているのに、プロトコル・エンティティ17から送信されていない。別の時刻t18では、画像パケットV4のデータユニットが画像バッファ112から出力され、未送信の音声パケットA5のデータユニットが存在する。
【0073】音声パケットを常に優先する方式では、図1212および図13に示すように、プロトコル・エンティティ17からは、時刻t13において音声パケットA3のデータユニットが送信され、時刻t14において音声パケットA4のデータユニットが送信されて、時刻t15に至ってやっと画像パケットV3のデータユニットが出力される。従って、画像パケットV3のデータユニットは端末21から送信された時刻t11から4INT遅延して網30に送信されることになる。同様に、時刻t18では音声パケットA5のデータユニットが優先され、時刻t19では新音声パケットA6のデータユニットが優先されるので、画像パケットV4のデータユニットは端末21から送信された時刻t16から4INT遅延して時刻t20に網30に送信される。しかし、最初の画像パケットV1のデータユニットは、図12に示すように、端末21から送信された時刻t1から1INTだけ遅延して時刻t2に網30に出力される。
【0074】画像データユニットを常に優先する方式では、図12および図13に示すように、時刻t13においてプロトコル・エンティティ17からは、画像パケットV3のデータユニットの送信が開始され、時刻t14、t15では画像パケットV3のデータユニットの送信を継続する。時刻t10において音声バッファ111から出力される音声パケットA3のデータユニット、時刻t13において音声バッファ111から出力される音声パケットA4のデータユニットは、画像パケットV3のデータユニットの送信が終了した後に、送信される。従って、音声パケットA3のデータユニットは端末21から送信された時刻t7から9INTも遅延して時刻t16に網30に送信され、音声パケットA4のデータユニットは端末21から送信された時刻t10から7INT遅延して時刻t17に網30に送信されることになる。同様に、時刻t18では画像パケットV4のデータユニットが優先されるので、音声パケットA5のデータユニットは端末21から送信された時刻t13から9INTも遅延して時刻t22に網30に送信され、音声パケットA6のデータユニットは端末21から送信された時刻t16から7INT遅延して時刻t23に網30に送信される。しかし、最初の音声パケットA1のデータユニットは、端末21から送信された時刻t1から5INTだけ遅延して時刻t6に網30に出力される。
【0075】以上のように、いずれか一方の群のデータユニットを常に優先させた場合は、網20で発生した遅延ジッタに対して、さらにプロトコル・エンティティ17における多重による遅延ジッタが重畳されて、網30への送信の際に遅延ジッタが広がってしまう。
【0076】図14は、マルチメディア通信における遅延の発生を示す。曲線D1は網20を通過することに生ずる遅延ジッタを示しており、図9の下のグラフの曲線D1と等価である。曲線D3は、バッファ110で一部が吸収された残りの遅延ジッタを示しており、この残りの遅延ジッタはバッファでの吸収分だけ曲線D1の網20通過後の遅延ジッタより小さい。曲線D21は、いずれか一方の群のデータ形式を常に優先させた場合の網30への多重送信の際の遅延ジッタを表す。曲線D21により明らかなように、せっかくバッファ110で遅延ジッタの一部が吸収されても、多重による遅延ジッタが重畳されて、網30への送信の際に遅延ジッタが広がってしまうことがわかる。
【0077】本実施形態では、パケットの遅延ジッタをより少なくするために、多重送信における各データユニットの優先度を遅延時間に応じて決定する。より具体的には、バッファ110から出力されたがプロトコル・エンティティ17から未送信の音声データユニットと画像データユニットが同時に存在する場合には、その時点で最初の同種データユニットに対する遅延時間が大きいデータユニットを優先する。この実施形態の処理を次に具体的に説明する。
【0078】図12および図13において、時刻t13では、未送信の音声パケットのデータユニットA3の遅延時間D(A3)=4INTであり、未送信の画像パケットのデータユニットV3の遅延時間D(V3)=1INTである。図12および図13中の遅延時間D(A),D(V)については、上述の式(1)ないし(4)で算出される。本実施形態では、時刻t13で、優先度決定部120は遅延時間の大きな音声パケットA3のデータユニットの優先度が高いことを示す送信制御信号をプロトコル・エンティティ17に出力する。
【0079】時刻t14においては、未送信の音声パケットA4のデータユニットの遅延時間D(A4)=2INTであり、画像パケットV3のデータユニットの遅延時間D(V3)=2INTで同じである。本実施形態では、図11のステップS14で表される規則に従って、優先度決定部120は音声パケットA4のデータユニットの優先度が高いことを示す送信制御信号をプロトコル・エンティティ17に出力する。従って、時刻t13で音声パケットA3のデータユニット、時刻t14で音声パケットA4のデータユニット、時刻t15で画像パケットV3のデータユニットが送信される。この様子は音声データユニットを常に優先させる方式と同じである。しかし、時刻t13〜t17の間の時間においては、画像データユニットを優先させる方式よりも音声パケットA3,A4のデータユニットに関して遅延ジッタの増加は少ない。
【0080】時刻t18では、未送信の音声パケットA5のデータユニットの遅延時間D(A5)=3INTであり、画像パケットV4のデータユニットの遅延時間D(V4)=1INTである。よって、本実施形態では、優先度決定部120は遅延時間の大きな音声パケットA5のデータユニットの優先度が高いことを示す送信制御信号をプロトコル・エンティティ17に出力する。
【0081】時刻t19では、未送信の音声パケットA6のデータユニットの遅延時間D(A6)=1INTであり、画像パケットV4のデータユニットの遅延時間D(V4)=2INTである。よって、本実施形態では、優先度決定部120は遅延時間の大きな画像パケットV4のデータユニットの優先度が高いことを示す送信制御信号をプロトコル・エンティティ17に出力する。そして、時刻t23で、音声パケットA6のデータユニットが送信される。
【0082】従って、音声パケットA5のデータユニットは端末21から送信された時刻t13から5INT遅延して時刻t18に網30に送信され、画像パケットV4のデータユニットは端末21から送信された時刻t16から3INT遅延して時刻t19に網30に送信され、音声パケットA6のデータユニットは端末21から送信された時刻t16から7INT遅延して時刻t23に網30に送信される。従って、音声データユニットを優先させる方式よりも画像パケットV4のデータユニットに関して遅延ジッタの増加は少ない。
【0083】図14の曲線D22は、本実施形態に従って、遅延時間に応じてパケットの優先度を決定した場合の網30への多重送信の際の遅延ジッタを表す。曲線D21とD22とを比較すると明らかなように、本実施形態では、遅延ジッタの増加をより抑制することができ、網30への多重送信の際の遅延ジッタが残留遅延ジッタ(曲線D3の幅)に近づく。
【0084】この多重送信の際の遅延ジッタは、送信先の端末31が吸収可能な許容遅延ジッタ以下であるのが好ましい。よって、マルチメディア通信において多重の前に送信先の許容遅延ジッタに基づいて決定されるバッファで吸収する遅延ジッタの量は、単一形式のデータを転送する場合の遅延ジッタの量よりも多くするのが効果的である。
【0085】以上、好適な実施形態を参照しながら本発明を説明したが、特許請求の範囲で定められる本発明の範囲から逸脱せずに、形式および細部の様々な変更ができることは当業者には理解できよう。かかる変更形態、代替形態および修正形態も、均等物として特許請求の範囲に含まれる。かかる均等物の例を次に説明する。
【0086】パケット交換網である網20に関しては、ネットワーク遅延のために、マルチメディア通信における異なる形式のパケット相互の順序の乱れが起こりやすいが、回線交換網である網30に関しては、ネットワーク遅延が起こりにくく、異なる形式のフレーム相互の順序の乱れは生じにくい。従って、図1の実施形態とは異なり、上述の利点を有する回線交換網30から転送されたフレームを取り扱う伝送系列BAには優先度決定部120を設けないことも可能である。
【0087】遅延ジッタを吸収するための要素は、バッファ110に限定されない。送信先端末の許容遅延ジッタに応じた時間だけ先頭のデータユニットを保留し、後続のデータユニットを正規の順序に従って順次出力できる他の要素を使用することができる。
【0088】上記実施形態においては、マルチメディア通信においては、単に、遅延時間の大きいデータユニットに高い優先度を与える。しかし、3つ以上の形式のデータを送信する場合には、一つまたはそれより多い形式のデータに高い優先度をあらかじめ与え、他の形式のデータに関しては、遅延時間の大きいデータユニットに次に高い優先度を与えてもよい。
【0089】遅延時間の代わりに、データユニットの長さに基づいて、優先度を与えるデータユニットを決定できるようにしてもよい。長いデータユニットを送信中に、遅延時間の大きな短いデータユニットの出力タイミングになった場合は、割り込み送信できるようにしても構わない。場合によっては、このような割り込み送信は、さらに遅延ジッタを小さくすることができるかもしれない。この目的のため、例えば、ITU−T勧告H.223に記載されているように、長いデータユニットをセグメント化するとよい。これによれば、長い画像データユニットの送信を中断し、短い音声データユニットを送信した後も、残りのセグメントを支障なく送ることができる。
【0090】上述の実施形態では、網20はパケット交換網であり、網30は回線交換網であるが。ただし、本発明をこれに限定する意図ではなく、変更・修正が可能である。遅延のジッタが生じる原因には、ネットワークの諸要因と、端末やゲートウェイにおける多重化がある。パケット交換網では、ネットワークの諸要因により遅延ジッタが生じうる。一方、回線交換網では、ネットワークの諸要因による遅延ジッタは生じにくいが、端末やゲートウェイにおける多重化により遅延ジッタが残ったままフレームが交換される。パケット交換網における遅延ジッタは、端末やゲートウェイにおける多重化により生じる遅延ジッタよりも一般的には大きい。一般的には、各網に奉仕される端末は、送信先となったときに、その網で生じうる最大遅延ジッタを吸収できるようになっている。
【0091】図15に示すように、網20および網300がいずれもパケット交換網で、パケット交換網20で生じうる最大遅延ジッタがパケット交換網300で生じうる最大遅延ジッタよりも大きい変更形態を想定する。網20に奉仕される端末が送信元で、網300に奉仕される端末が送信先である場合には、上記実施形態と同様に、送信先の端末31のジッタ削減能力に応じてゲートウェイ10が送信元側の網20で生じた遅延ジッタのうちの一部を吸収するのが有効である。
【0092】ただし、起こりうる遅延ジッタが小さい網300に奉仕される端末が送信元で、起こりうる遅延ジッタが大きい網20に奉仕される端末が送信先であって、送信先端末のジッタ削減能力が高い場合には、送信元側の網300で生じた遅延ジッタをゲートウェイ10で吸収する必要は少ないかもしれない。そのような場合には、網300から網20へデータを転送する伝送系列BAにはデジッタ用の要素を設けなくてもよい。
【0093】上記実施形態を参照して説明したように、送信元側の網20がパケット交換網であり、送信先側の網30が回線交換網である場合には、送信先の端末31のジッタ削減能力に応じてゲートウェイ10が送信元側の網20で生じた遅延ジッタのうちの一部を吸収するのが有効である。ただし、起こりうる遅延ジッタが小さい回線交換網30に奉仕される端末が送信元で、起こりうる遅延ジッタが大きいパケット交換網20に奉仕される端末が送信先であって、送信先端末のジッタ削減能力が高い場合には、送信元側の網30で生じた遅延ジッタをゲートウェイ10で吸収する必要は少ないかもしれない。そのような場合には、伝送系列BAにはやはりデジッタ用の要素を設けなくてもよい。
【0094】上述の通り、回線交換網では、ネットワークの諸要因による遅延ジッタは生じにくいが、端末やゲートウェイにおける多重化により遅延ジッタが残ったままフレームが交換される。従って、回線交換網に属する送信先端末で許容され、バッファでの吸収量を定めるためのパラメータとなる遅延ジッタは、その網で多重化により起こりうる最大遅延時間と等しくしてもよい。
【0095】上記の実施形態では、送信先端末は、ゲートウェイ10に接続された第2の網30に直接的に奉仕される。しかし、送信先端末は、網30に間接的に奉仕されてもよい。つまり、送信先端末と網30との間に、一つまたは複数の網と、隣合う網の相互を接続する他のゲートウェイが介在していてもよい。
【0096】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、ジッタを削減することにより、遅延の増加を最小限にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態に係るゲートウェイを示すブロック図である。
【図2】 図1のゲートウェイ内のバッファの動作を示す図である。
【図3】 先頭のパケットが最小遅延時間で到着した場合の、図1のゲートウェイにおけるデータユニットの処理を示すタイムチャートである。
【図4】 先頭のパケットが最小遅延時間で到着した場合の上記バッファにおけるデータユニットの処理を示す図である。
【図5】 先頭のパケットが最小遅延時間で到着した場合の上記バッファにおけるデータユニットの別の処理を示す図である。
【図6】 先頭のパケットが最大遅延時間で到着した場合の、図1のゲートウェイにおけるデータユニットの処理を示すタイムチャートである。
【図7】 先頭のパケットが最大遅延時間で到着した場合の上記バッファにおけるデータユニットの処理を示す図である。
【図8】 先頭のパケットが最大遅延時間で到着した場合の上記バッファにおけるデータユニットの別の処理を示す図である。
【図9】 ネットワーク遅延の発生を示すグラフを有する。
【図10】 図1に示す各制御部の内部機能エンティティを示すブロック図である。
【図11】 マルチメディア通信における上記制御部の中の優先度決定部の処理を示すフローチャートである。
【図12】 マルチメディア通信における、図1のゲートウェイの中のデータユニットの処理を示すタイムチャートの一部である。
【図13】 図12と共同で上記タイムチャートを構成する。
【図14】 上記実施形態のマルチメディア通信への応用の効果を説明するための図である。
【図15】 本発明の変更形態を示す図である。
【符号の説明】
10…ゲートウェイ、14A,14B…受信部、18A,18B…送信部、20,30…網(ネットワーク)、100…制御部、122…出力時刻検出部、122…遅延時間算出部、AB,BA…伝送系列(獲得部)
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、データ伝送における遅延ジッタが存在するネットワークと、他のネットワークとを接続するゲートウェイおよびそのためのデータ転送方法に関する。
【0002】
【従来の技術】プロトコルおよびネットワーク特性の異なる異種ネットワークに接続された各端末間でのマルチメディア通信を行うために、ゲートウェイは不可欠な部材である。このゲートウェイは、送信元端末が属するネットワークのプロトコルに従ったデータを受信し、送信先端末が属するネットワークのプロトコルに従ってこのデータを送信する。これにより、送信元端末から送信されたデータは、その送信元端末が属するネットワーク、ゲートウェイ、および送信先端末の属するネットワークを通過することになる。
【0003】マルチメディアのために、インターネットのようなパケット交換網ではITU−T勧告H.323に準拠した端末が用いられており、PSTN(public switched telephone network)のような回線交換網ではITU−T勧告H.324に準拠した端末が用いられている。勧告H.323とH.324では、使用されている通信プロトコルが異なるため(勧告H.323ではRTP/UDP、勧告H.324では勧告H.223で規定する多重送信プロトコル)、相互接続にはゲートウェイにおいてプロトコルの変換が必要になる。さらにまた、高品質のマルチメディア通信を実現するには、遅延、遅延ジッタおよびエラー特性のようなネットワーク特性の相違を補償することが必要である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ネットワークでは、様々な要因によってデータ伝送に関する遅延が生じ、各データユニットの遅延が異なる場合がある。このような伝送遅延のゆらぎを遅延ジッタという。遅延ジッタの発生要因としては、例えば、パケット交換網での蓄積交換、経路上のノードにおける待ち合わせ、あるいは、各データユニットが異なる経路を経てゲートウェイに到着する事実がある。
【0005】回線交換網においても、異なる形式のデータを同時に伝送することにより遅延ジッタが生ずる。例えば、テレビ電話のようなマルチメディア端末は、一つのビットストリームに画像、音声および/またはアプリケーションデータを多重する。このような場合においては、すぐに送信されるデータもあれば、現在送信中のデータの送信完了まで送信されないデータもある。この種の遅延ジッタは端末でもゲートウェイでも起こり、送信速度が低いほど大きくなる。
【0006】遅延ジッタが発生すると、送信元端末でのデータユニットの時間間隔が、送信先端末においては保たれない。例えば音声のような精確な同期の必要性が高いデータを送信する際には、このような遅延ジッタを解消できることが望ましい。遅延ジッタを解消するために、通信端末にはある程度の遅延ジッタを吸収するものがある。例えば、ある通信端末は、様々な遅延時間で受信したデータユニットをいったん記憶し、一連のデータユニットが蓄積されてからそれらを連続して出力する。しかしながら、ネットワークによって遅延ジッタの発生要因や特性が異なるので、送信先となりうる通信端末に受信されるデータの遅延ジッタが、どの程度大きいのかをあらかじめ知ることは困難である。従って、送信先の端末で許容される遅延ジッタは、その端末の属するネットワークにおいて発生しうる最大の遅延ジッタに基づいている場合が多い。このため、エンド・トゥ・エンドの遅延が増加することになり、この遅延はリアルタイム通信では深刻な問題となりうる。
【0007】本発明は、ジッタを削減することにより、遅延の増加を最小限にすることのできるゲートウェイおよびデータ転送方法を提供する。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の一つの態様によれば、二つのネットワークを接続するゲートウェイが、少なくとも一つの形式の複数のデータユニットを第1のネットワークから受信する受信部と、前記受信部で受信した前記データユニットを一時的に記憶し、送信先端末が備えるジッタ削減能力に応じて、前記データユニットを出力することにより、データユニットの遅延ジッタを削減する制御部と、前記制御部で出力されたデータユニットに対応するデータユニットを前記送信先端末に届けるために、第2のネットワークに送信する送信部とを備える。本発明において、ゲートウェイには第1および第2のネットワークが接続されている。送信先端末は、第2のネットワークに直接的に奉仕されてもよい。あるいは、送信先端末は、第2のネットワークに間接的に奉仕されてもよい。つまり、送信先端末と第2のネットワークとの間に、一つまたは複数のネットワークと、これらの隣合うネットワーク相互を接続する他のゲートウェイが介在していてもよい。好ましくは、このゲートウェイは、前記送信先端末のジッタ削減能力に関する情報を獲得するジッタ削減能力獲得部をさらに備えるとよい。
【0009】前記制御部は、前記遅延ジッタ削減能力に基づいてある時間を決定し、前記受信部において先頭のデータユニットを受信した時刻からその決定した時間が経過した後に前記先頭のデータユニットを出力し、その後、前記第1のネットワークにおける送信サイクルと同じサイクルで後続のデータユニットを順次出力するのでもよい。
【0010】好ましくは、前記受信部は、異なる形式のデータユニットを受信することが可能であり、異なる形式のデータユニットが同時に未送信である時に、前記制御部は、前記第1のネットワークにおいて前記データユニットが伝送される際に生じた遅延時間に応じて前記送信部における優先度を決定してもよい。この場合、前記送信部は、前記制御部から出力された異なる形式のデータユニットを、前記優先度に従って多重化して前記第2のネットワークを通じて前記送信先端末に送信するようにしてもよい。
【0011】好ましくは、前記制御部は、各形式における最初のデータユニットが前記制御部から出力された最初出力時刻を検出する出力時刻検出部と、前記最初出力時刻に基づいて、各形式における最初のデータユニットに対する各データユニットの前記遅延時間を算出する遅延時間算出部とを備えてもよい。この場合、前記制御部は、算出された前記遅延時間が長いと判定されたデータユニットについては、他のデータユニットに優先して送信するように前記送信部を制御するようにしてもよい。
【0012】前記制御部は、前記第1のネットワークにおいて前記データユニットが伝送される際に生じうる最大遅延時間を、前記送信先端末において許容される遅延ジッタに応じて短縮して前記時間を求めるようにしてもよい。
【0013】本発明の他の一つの態様によれば、データ転送方法が、少なくとも一つの形式の複数のデータユニットを第1のネットワークから受信することと、前記データユニットを一時的に記憶することと、送信先端末のジッタ削減能力に応じて、データユニットの遅延ジッタを削減することと、前記データユニットに対応するデータユニットを前記送信先端末に届けるために第2のネットワークに送信することとを備える。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る一つの実施の形態について説明する。図1に示すように、本発明に係る実施形態では、ゲートウェイ10が網20と網30とを相互接続しており、これにより網20に奉仕される送信元端末からデータが網30に奉仕される送信先端末に送信され、逆に、網30に奉仕される送信元端末からデータが網20に奉仕される送信先端末に送信される。網20、30はそれぞれ多数の端末に奉仕するが、図1では、便宜上、網20に奉仕される端末21と、網30に奉仕される端末31のみが描かれている。両方の網10および20においては、少なくとも一つの形式のデータユニットが交換される。
【0015】この実施形態では、網20は、データユニットがパケットに含められて送受信されるパケット交換網であり、網30はフレームとしてデータユニットが送受信される回線交換網である。フレームには、例えば音声データフレームや画像データフレームが含まれる。ただし、本発明をこれに限定する意図ではなく、変更・修正が可能である。網20または30は、移動網であってもよいし、固定網であってもよい。
【0016】ゲートウェイ10は、網20のための網インターフェイス12と、網30のための網インターフェイス13と、網20から網30へデータを伝送する伝送系列ABと、網30から網20へデータを伝送する伝送系列BAを備えている。伝送系列ABは、受信部14A、プロトコル・エンティティ15A、メディア変換符号化部16、プロトコル・エンティティ17B、送信部18B、および制御部100を備えており、伝送系列BAは、受信部14B、プロトコル・エンティティ15B、メディア変換符号化部16、プロトコル・エンティティ17A、送信部18A、および制御部100を備えている。
【0017】受信部14Aは、網20から網インターフェイス12を介してビットストリームを受信する。このビットストリームには、網20に奉仕される送信元端末(例えば端末21)で作成された少なくとも一つの形式の複数のデータユニット(パケット)が含まれうる。一方、受信部14Bは、網30から網インターフェイス13を介してビットストリームを受信する。このビットストリームには、網30に奉仕される送信元端末(例えば端末31)で作成された少なくとも一つの形式の複数のデータユニット(フレーム)が含まれうる。
【0018】プロトコル・エンティティ15Aは、網20において使用されるプロトコルにとって終端であり、各パケットからペイロード情報やその関連情報を取り出す。RTP/UDPが通信プロトコルとして使われるのであれば、関連情報には、データタイプ、タイムスタンプ(送信時間)、シーケンスナンバーその他が含まれる。同様に、プロトコル・エンティティ15Bは網30において使用されるプロトコルにとって終端である。
【0019】メディア変換符号化部16は、必要に応じて、音声や画像の符号変換を行うものであり、例えば、網20と網30で用いられている音声もしくは画像符号体系が異なる場合に符号変換を行う。
【0020】制御部100は、バッファ110を備えており、バッファはプロトコル・エンティティ15Aまたは15Bから入力されるデータユニットをバッファリングする。制御部100は、予め獲得している送信先端末(例えば端末31)が備えるジッタ削減能力(具体的には、許容遅延ジッタ)に応じて、バッファ110からデータユニットを読み出して、送信先に対応する網(例えば網30)へ送信するためにデータユニットをプロトコル・エンティティ(例えば17B)に出力する。
【0021】送信先端末のジッタ削減能力については、例えばITU−T勧告H.245に記載された能力交換手段を用いて獲得することができる。ITU−T勧告H.245は、マルチメディア通信で用いられる様々な制御プロトコルを規定するものであり、ITU−T勧告H.324やH.323やその他の勧告に準拠したマルチメディア端末がこれに準拠している。ITU−T勧告H.245で規定される制御プロトコルの中には、端末の能力交換手順が含まれており、この手順を用いることで、通信を行っているノード同士の通信能力を交換することができる。この能力交換は、ITU−T勧告H.245で規定されている様々な制御メッセージを互いに送信することにより実現される。この実施形態においては、伝送系列ABと伝送系列BAとが共同して、送信先端末のジッタ削減能力情報を獲得し、対応する制御部100がその情報を記憶する。
【0022】ゲートウェイ10が、網(例えば網20)から音声や画像などマルチメディアに係る複数の形式のデータを受信する場合には、後述するように、バッファ110は、一つの形式のデータユニットを、他の形式のデータユニットから独立した位置に格納する。また、制御部100は、一つの形式のデータユニットを、他の形式のデータユニットとは区別しながら、バッファから読み出して、プロトコル・エンティティ(例えば17B)に出力し網(例えば30)へ送信する。
【0023】各制御部100はさらに優先度決定部120を備えている。優先度決定部120は、後に詳述するように、マルチメディアに係る複数の形式のデータ通信で有効に利用される。
【0024】プロトコル・エンティティ17Aおよび17Bの各々は、バッファ110から読み出されたデータユニットから、送信先端末に接続された網のプロトコルに適合したパケットまたはフレームを生成する。送信部18Aまたは18Bの各々は、そのパケットまたはフレームを送信先端末に奉仕する網へ送信する。
【0025】上記の構成の下、網20に奉仕される送信元端末から、網30に奉仕される送信先端末に送信されるべきデータユニットは、網20を経てゲートウェイ10に到着する。ゲートウェイ10は、網20において発生した遅延ジッタを削減しながら、データユニットを網30に送信する。網30に奉仕される送信元端末から、網20に奉仕される送信先端末に送信されるべきデータユニットについても、同様にして網30で発生した遅延ジッタが削減される。
【0026】以下、送信元端末を端末21、送信先端末を端末31と仮定する。端末21から送信された各パケットは、網20を通過することにより、異なる遅延時間を伴ってゲートウェイ10で受信される。ゲートウェイ10は、このような遅延ジッタを制御部100において削減した後、網30が従うプロトコルに従って送信する。
【0027】図2を参照しながら、制御部100における受信した単一形式のデータユニットのバッファリングについて説明する。本実施形態では、バッファ110は、連続した所定数(図2では9)のバッファレジスタ#1〜#9を備えている。バッファ110の各バッファレジスタは、1パケットの長さにほぼ相当する容量を有しており、1パケット内の中身を記憶する。一定の時間間隔をおいて、バッファレジスタ内のデータは制御部100に順次読み出されて出力されるようになっている。その時間間隔の長さをINTとする。図2に示す時刻tn(t1、t2、t3……)は時間間隔INTおきに離れている。
【0028】図2に示すバッファ110では、時刻t1ではバッファレジスタ#9に記憶されていたデータが出力される。時刻t2ではバッファレジスタ#1に記憶されていたデータが出力される。時刻t3ではバッファレジスタ#2に記憶されていたデータが出力される。時刻t4ではバッファレジスタ#3に記憶されていたデータが出力される。このように、隣接するバッファレジスタに記憶されているデータユニットは一定の時間間隔をおいて順次出力される。ただし、バッファレジスタに記憶されたデータがなければ何も出力されない。
【0029】このバッファ110において、図2に示すように、時刻t1においてバッファレジスタ#2にパケットP1のデータユニットが記憶されると仮定する。上述の方式に従って、バッファレジスタ#2に記憶されたパケットP1のデータユニットは時刻t3において出力される。従って、パケットP1のデータユニットはバッファ110に記憶されてから、時間2×INT後に出力されることになる。
【0030】図2とは異なり、時刻t1において、バッファレジスタ#1にパケットP1のデータユニットが記憶されると仮定する。バッファレジスタ#1に記憶されたパケットP1のデータユニットは、上述の方式に従って、バッファ110に記憶されてから時間1×INT後の時刻t2において出力される。
【0031】上記より理解できるように、バッファ110においては、パケットP1のデータユニットをバッファレジスタ#2に記憶することによって、バッファレジスタ#1に記憶するのに比べて、出力時間がバッファレジスタ1個分に相当する時間INTだけ遅延されることになる。
【0032】本実施形態では、網20から受信した一つの形式のパケット中の先頭のパケットのデータユニットを記憶すべきバッファレジスタを制御部100が決定することにより、先頭のパケットのデータユニットが記憶されてから出力されるまでの時間を調節し、網20において発生する遅延ジッタを吸収する。より具体的には、先頭パケットのデータユニットが記憶されてから出力されるまでの時間が、吸収すべき遅延ジッタの幅分となるバッファレジスタを、制御部100は先頭パケットのデータユニットのための初期書込位置として選択する(図2R>2のステップS1,S2で示すように)。
【0033】制御部100は、2番目以降のパケットのデータユニットについては、その時点であいているバッファレジスタの中で直後に読み出しの対象となるバッファレジスタに記憶する(図2のステップS3で示すように)。さらにまた、制御部100は、受信部14Aにおけるパケットの受信順序が遅延ジッタにより、送信元端末での送信順序に一致していない時には、パケットのヘッダを参照して、その順序をそろえた後に、バッファ110に記憶する。
【0034】図2に戻り、時刻t1において受信した先頭のパケットP1のデータユニットは初期書込位置であるバッファレジスタ#2に記憶される。時刻t2においてパケットが受信されず、時刻t3において2番目のパケットP2が受信されたと仮定する。もしパケットP1,P2が送信元から続けて送信されたのであれば、パケットP1の遅延とパケットP2の遅延は、網20のために、時間INTだけ異なったと考えられる。時刻t3においては、パケットP2のデータユニットは、先に説明した方式に従って、その時点であいているバッファレジスタの中で直後に読み出しの対象となるバッファレジスタ#3に記憶される。同時に、時刻t3では、バッファレジスタ#2に記憶されたパケットP1のデータユニットがバッファ110から読み出される。時刻t3から時間INT後の時刻t4においては、バッファレジスタ#3に記憶されたパケットP2のデータユニットが、バッファ110から読み出される。
【0035】このように、パケットP2が、パケットP1の遅延よりも時間INTだけ長く遅延してゲートウェイ10に到着した場合であっても、先頭のパケットP1のデータユニットの出力タイミングを時間INTだけ遅延させているので、パケットP1とP2のデータユニットは連続したタイミングで出力され、遅延ジッタが吸収される。上述の通り、パケットの順序は、制御部100でそろえられるので、パケットP1とP2の送信時刻関係をそろえれば後のデータユニットについても同様に遅延ジッタが吸収される。
【0036】上述のバッファリングは、送信先の属する網30では許容遅延ジッタがゼロという仮定に基づいている。しかし、送信先端末31は網30において発生すると想定された最大の遅延ジッタに相当する遅延ジッタを吸収できると仮定しよう。この場合、ゲートウェイ10は、網20で発生した遅延ジッタの全部を吸収する必要はないかもしれない。しかし、別の網20で発生する遅延ジッタが網30のそれより大きければ、端末31は別の網20において発生する遅延ジッタの全部を吸収できるとは限らない。そこで、ゲートウェイ10のコントローラ100は、予め獲得した端末31のジッタ削減能力である許容遅延ジッタに応じて、実在の遅延ジッタのうちどれだけ吸収するか決定する。この場合のゲートウェイ10の動作を後に詳述する。
【0037】また、図2では、網20での遅延ジッタが1×INTであるが、実在の網では遅延ジッタは、もっと大きいかもしれない。例えば、図9は、遅延発生を示すグラフを示しており、上のグラフは送信元端末21における送信時の遅延発生を示し、下のグラフは網20を通過後ゲートウェイ10における受信時のパケット遅延発生を示す。図9の上のグラフの直線D0に示すように、端末21からの送信時においては、当然、すべてのパケットは遅延を持たず、この段階での遅延ジッタは存在しない。しかし、網20を通過することにより、各パケットは、様々な遅延時間でゲートウェイ10に到着する。図9の下のグラフの曲線D1に示すように、最大遅延時間=4×INT、最小遅延時間=0、遅延ジッタ=最大遅延時間=4×INTである。
【0038】図9で示すような、網20で発生する4×INTの遅延ジッタの全てをバッファ110で吸収するには、図5に示すように、バッファレジスタ#5が初期書込位置になる。
【0039】しかし、本実施形態では、上記のように、バッファ110において吸収すべき遅延ジッタの幅(バッファ吸収幅)は、網20で発生する遅延ジッタと、あらかじめ獲得した網30において許容される遅延ジッタとに基づいて、制御部100が決定する。網30における許容遅延ジッタが3×INTであれば、バッファ110では1×INT分の遅延ジッタを吸収すればよい。図4に示すように、この場合の初期書込位置はバッファレジスタ#2でよい。
【0040】以下、網20で発生する遅延ジッタの一部をバッファ110で吸収する動作を、全部を吸収する動作と比較しながら説明する。図3に示すように、端末21から送信された先頭のパケットP1が最小遅延時間(0)でゲートウェイ10に受信され、次のパケットP2が最大遅延時間(4×INT)でゲートウェイ10に受信されると仮定する。すなわち、図3に示すように、先頭のパケットP1が時刻t1において端末21から送信され、2番目のパケットP2が時刻t2において端末21から送信される。先頭のパケットP1は、最小遅延時間0sで網20を通過してゲートウェイ10に時刻t1に到着し、2番目のパケットP2は、最大遅延時間4sで網20を通過してゲートウェイ10に時刻t6に到着している。
【0041】上述の通り、図4に示すように、送信先の属する網30で許容遅延ジッタが3INTである場合には、時刻t1においてパケットP1のデータユニットはバッファレジスタ#2に記憶される。従って、パケットP1のデータユニットはt1から2×INT後の時刻t3においてバッファ110から出力される
【0042】これに対して、網20で発生する遅延ジッタの全てをバッファ110で吸収する比較例では、上述の通り、パケットP1のデータユニットは図5に示すようにバッファレジスタ#5に記憶すべきである。よって比較例では、パケットP1のデータユニットはt1から5×INT後の時刻t6においてバッファ110から出力されるだろう。
【0043】最大遅延時間4s遅延した時刻t6においてゲートウェイ10に到着する2番目のパケットP2のデータユニットは、図4および図5に示すように、あいているバッファレジスタの中で記憶の直後に制御部100に読み出されるバッファレジスタ#6に記憶され、時刻t7において出力される。
【0044】送信先の属する網30で許容遅延ジッタが3INTである場合には、図4に示すように、パケットP2のデータユニットはパケットP1のデータユニットが出力されてから4INT後に出力されるので、網20において生じた遅延ジッタ4INTの一部である1INTがバッファ110において吸収され、3INTの遅延ジッタが残留したことになる。残留遅延ジッタは送信先端末31で吸収される。この場合、図3に示すように、パケットP1が端末21より送信された時刻からバッファ110からそのデータユニットが出力された時刻までの遅延時間=2INTとなり、パケットP2が端末21より送信された時刻からバッファ110からそのデータユニットが出力された時刻までの遅延時間=5INTとなる。
【0045】これに対して、網20で発生する遅延ジッタの全てをバッファ110で吸収する比較例では、図5に示すように、パケットP2のデータユニットはパケットP1のデータユニットが出力されてから1INT後に出力されるので、網20において生じた遅延ジッタ4INTはバッファ110において全部吸収されたことになる。この場合、図3に示すように、パケットP1が端末21より送信された時刻からバッファ110からそのデータユニットが出力された時刻までの遅延時間=5INTとなり、パケットP2が端末21より送信された時刻からそのデータユニットがバッファ110から出力された時刻までの遅延時間=5INTとなる。
【0046】次に、先頭のパケットが最大遅延時間で到着する場合のゲートウェイ10のバッファリング動作について、図6ないし図8を参照しながら説明する。図6に示すように、先頭のパケットP1が時刻t1において端末21から送信され、2番目のパケットP2が時刻t2において端末21から送信されると仮定する。先頭のパケットP1は、網20において生じうる最大遅延時間4INTで時刻t5にゲートウェイ10に到着し、2番目のパケットP2は、最大遅延時間4INTで時刻t6にゲートウェイ10に到着する。仮に到着の順序が乱されても、制御部100が順序を再度そろえるので、後のパケットが先のパケットより先に処理されることはない。
【0047】送信先の属する網30で許容遅延ジッタが3INTである場合には、図7に示すように、時刻t5においてパケットP1のデータユニットはバッファレジスタ#2に記憶され、t5から2INT後の時刻t7においてバッファ110から出力される。そして、送信時刻t2から最大遅延時間4INT遅延した時刻t6においてゲートウェイ10に到着する2番目のパケットP2のデータユニットは、その時点であいているバッファレジスタの中で最もはやく出力されるバッファレジスタ#3に記憶され、2INT後の時刻t8において出力される。図6に示すように、両方のパケットP1およびP2について、端末21より送信された時刻からデータユニットがバッファ110から出力された時刻までの遅延時間=6INTである。
【0048】これに対して、網20で発生する遅延ジッタの全てをバッファ110で吸収する比較例では、図8に示すように、時刻t5においてパケットP1のデータユニットはバッファレジスタ#5に記憶され、パケットP1のデータユニットはt5から5INT後の時刻t10においてバッファ110から出力される。送信時刻t2から最大遅延時間4INT遅延した時刻t6においてゲートウェイ10に到着する2番目のパケットP2のデータユニットは、その時点であいているバッファレジスタの中で最もはやく出力されるバッファレジスタ#6に記憶され、5INT後の時刻t11において出力される。図6に示すように、両方のパケットP1およびP2について、端末21より送信された時刻からそののデータユニットがバッファ110から出力された時刻までの遅延時間=9INTである。
【0049】以上より理解できるように、ネットワークを接続するゲートウェイ10に設けられたバッファ110を利用して、先頭のパケットのデータユニットについては受信してからある時間後に出力し、以降のデータユニットについては順次出力するようにすることにより、網20で発生した遅延ジッタの全てまたは一部を吸収することができる。
【0050】以上のように、バッファ110により網20で起こった遅延ジッタの全てを吸収する場合は、先頭のパケットが最小遅延で到着した場合でも、各パケットが端末21より送信された時刻からそのデータユニットがバッファ110から出力された時刻までの遅延時間=5INTとなる(図3参照)。先頭のパケットが最大遅延である場合には遅延時間=9INTにもなる(図6参照)。端末21〜端末31間の総遅延時間は、パケットP1が端末21より送信された時刻からそのデータユニットがバッファ110から出力された時刻までの遅延時間および網30において発生する最大遅延時間の累計である。従って、パケットP1が端末21より送信された時刻からそのデータユニットがバッファ110から出力された時刻までの遅延時間の増大により、総遅延時間が増大してしまう。
【0051】これに対して遅延ジッタを一部吸収した場合は、先頭のパケットが最小遅延である場合には、パケットP1が端末21より送信された時刻からそのデータユニットがバッファ110から出力された時刻までの遅延時間=2INTとなり、先頭のパケットが最大遅延である場合には遅延時間=6INTになる(図3および図6参照)。このように、網30において許容される遅延ジッタに基づいて、バッファ110で吸収すべき遅延を調整することにより、端末21〜端末31間の総遅延時間をより少なくすることができる。図3、図4および図7を参照しながら説明したように、遅延ジッタを一部だけ吸収した場合は、網20において発生した遅延ジッタが部分的に残留する。しかし、この残留遅延ジッタは送信先端末31で吸収される。
【0052】次に、マルチメディアに関わる複数形式のデータ通信へのこの実施形態の応用を説明する。マルチメディア通信においては、プロトコル・エンティティ15Aまたは15B(図1参照)は、対応する受信部14Aまたは14Bで受信された複数形式のデータのうちの一つの形式のデータユニットと、他の形式のデータユニットから区別する。
【0053】また、各コントローラ100の優先度決定部120は、データユニットの優先度を決定する。具体的には、優先度決定部120は、網30へデータユニットを送信する順序を各データユニットの遅延ジッタに応じて決定する。
【0054】対応するプロトコル・エンティティ17Aまたは17Bは、優先度決定部120から出力される優先度情報に基づいてバッファ110からの出力信号を多重送信のためにチャンネルにマップする。対応する送信部18Aまたは18Bは、プロトコル・エンティティのマッピングに従ってデータユニットを網30へ多重送信する。
【0055】図10は、各制御部100の内部機能エンティティを詳細に示す。以下の説明中、図10で示すように、プロトコル・エンティティ15Aまたは15Bはプロトコル・エンティティ15と呼び、プロトコル・エンティティ17Aまたは17Bはプロトコル・エンティティ17と呼ぶ。
【0056】図10に示すように、バッファ110は音声バッファ111および画像バッファ112を備える。
【0057】音声バッファ111は、プロトコル・エンティティ15から出力された音声データパケットのデータユニットを記憶し、画像バッファ112は、プロトコル・エンティティ15から出力された画像データパケットのデータユニットを記憶する。各バッファから読み出されたデータユニットは別々にプロトコル・エンティティ17に供給される。
【0058】また、バッファ111または112の各々から出力されたデータユニットは優先度決定部120にも供給されるようになっている。優先度決定部120は、出力時刻検出部122と、遅延時間算出部123と、判定部124とを有する。出力時刻検出部122は、ゲートウェイ10の内部クロックに基づいてバッファ110からの最初の音声データユニットの出力時と最初の画像データユニットの出力時を検出し、これを遅延時間算出部123に出力する。音声バッファ111から出力された最初の音声データユニットの出力時刻をBs(A)、画像バッファ111から出力された最初の画像データユニットの出力時刻をBs(V)と呼ぶ。
【0059】遅延時間算出部123は、プロトコル・エンティティ17から未送信の音声データユニットの標準出力時刻Ss(A)を算出する。標準出力時刻Ss(A)は、遅延がなければ、その音声データユニットがバッファ110から出力されているべき時刻であり、最初の音声データユニットの音声バッファ出力時刻Bs(A)を起算点とする。さらに、現在時刻Ctとプロトコル・エンティティ17から未送信の音声データユニットの標準出力時刻Ss(A)の時間差を音声遅延時間D(A)として算出して判定部124に出力する。また、遅延時間算出部123は、プロトコル・エンティティ17から未送信の画像データユニットの標準出力時刻Ss(V)を算出する。標準出力時刻Ss(V) は、遅延がなければ、その画像データユニットがバッファ110から出力されているべき時刻であり、最初の画像データユニットの画像バッファ出力時刻Bs(V)を起算点とする。さらに、現在時刻Ctとプロトコル・エンティティ17から未送信の画像データユニットの標準出力時刻Ss(V)の時間差を画像遅延時間D(V)として算出して判定部124に出力する。音声遅延時間D(A)および画像遅延時間D(V)は、最初の音声または画像データユニットに対する各データユニットの遅延時間を比較するには十分な指標である。
【0060】例えば、音声バッファ111と画像バッファ112から音声データユニットと画像データユニットが同時に読み出された場合など、バッファ110から出力されたがプロトコル・エンティティ17から未送信の音声データユニットと画像データユニットが同時に存在する場合、判定部124は、音声遅延時間D(A)および画像遅延時間D(V)を比較し、その比較に基づいて、プロトコル・エンティティ17における送信の優先度を制御するための送信制御指令を作成し、これをプロトコル・エンティティ17に出力する。
【0061】図11に示すフローチャートを参照しながら、優先度決定部120における優先度決定処理を説明する。この図示した処理は、1INTおきに繰り返される。まず、ステップS11で、バッファ110から出力されたがプロトコル・エンティティ17から未送信の音声データユニットと画像データユニットが同時に存在する場合、遅延時間算出部123は、最初の音声データユニットの音声バッファ出力時刻Bs(A)に基づいて、プロトコル・エンティティ17から未送信の音声データユニットの標準出力時刻Ss(A)を式(1)に従い算出する。
Ss(A) = Bs(A) + (N(A) − 1) × Cy(A)・・・・・(1)
ここで、N(A)は音声データユニットの順序を示す番号であり、Cy(A)は端末21による音声パケットの送信サイクルを示す。
【0062】また、ステップS11で、遅延時間算出部123は、最初の画像データユニットの画像バッファ出力時刻Bs(V)に基づいて、プロトコル・エンティティ17から未送信の音声データユニットの標準出力時刻Ss(V)を式(2)に従い算出する。
Ss(V) = Bs(V) + (N(V) − 1) × Cy(V)・・・・・(2)
ここで、N(V)は画像データユニットの順序を示す番号であり、Cy(V)は端末21による画像パケットの送信サイクルを示す。
【0063】ステップS12で、遅延時間算出部123は、画像データユニットの標準出力時刻Ss(V)と現在時刻Ctに基づいて式(3)に従い、そのデータユニットの遅延時間D(V)を算出する。
D(V) = Ct − Ss(V)・・・・・(3)
【0064】ステップS13で、遅延時間算出部123は、音声データユニットの標準出力時刻Ss(V)と現在時刻Ctに基づいて式(4)に従い、そのデータユニットの遅延時間D(A)を算出する。
D(A) = Ct − Ss(A)・・・・・(4)
【0065】次に判定部124は、ステップS14で、音声遅延時間D(A)が画像遅延時間D(V)よりも大きいか否かを判定する。ステップS14の判定が肯定的であれば、ステップS15で、判定部124はその音声データユニットを優先して送信することを指示する送信制御指令を判定部17に供給する。一方、ステップS14の判定が否定的であれば、ステップS16で、判定部124はその画像データユニットを優先して送信することを指示する送信制御指令を判定部17に供給する。このようにして処理は終了し、その後繰り返される。
【0066】次に、図12および図13に示すタイムチャートを参照しながら、マルチメディア通信におけるパケットの処理を具体的に説明する。図12および図13において、文字A,Vはそれぞれ音声パケット、画像パケットに対応するデータユニットを示し、添え字は端末21からの送信順序を示す。
【0067】まず、端末21からの各パケットの送信の態様およびバッファ110からの各パケットの出力の態様は、図12および図13に示すようなものであると仮定する。すなわち、端末21からの各形式のパケットにかかるデータユニットは、上述したように網20で発生した遅延ジッタの一部だけをバッファ111または112で吸収するやり方で、ゲートウェイ10でバッファリングされてバッファ110から出力される。このため、図12および図13に示すように、音声パケットAの送信サイクルが3INTであるのに、パケットA1から4INTの後にパケットA2のデータユニットがバッファから出力され、画像パケットVの送信サイクルが5INTであるのに、パケットV1から6INTの後にパケットV2のデータユニットがバッファから出力される。
【0068】音声バッファ111、画像バッファ112において、音声と画像データユニットの遅延ジッタが全部吸収された場合には、全ての音声データユニット、画像データユニットは送信元端末21から網20への送信サイクルと同じサイクルで出力されるはずである。従って、遅延ジッタの一部だけをバッファで吸収したがゆえに、2番目以後の音声データ群には1INTの遅延ジッタ、2番目以後の画像データ群には1INTの遅延ジッタが残留していることが図12および図13から理解できよう。
【0069】さらに、プロトコル・エンティティ17により音声と画像のデータユニットを単一チャネルに多重して網30に送信するために、この多重によっても遅延が生ずる。従って、上述したバッファ110からの出力時の残留した遅延ジッタに、多重による遅延ジッタが重畳されて、プロトコル・エンティティ17からの出力データユニットの遅延ジッタが広がる場合がある。
【0070】プロトコル・エンティティ17による多重における遅延ジッタは、異なる種類に属するデータユニットの送信順序に大きく影響を受ける。より具体的には、図12および図13に示すように、音声パケットは同一のデータ長であって等間隔3INTで端末21から送信されるのに対して、画像パケットはそれぞれ長さが異なっており、しかもそれらの長さが音声パケットの長さに比較して大きく、等間隔5INTで送信される。このような場合は、ゲートウェイ10では、長い画像データユニットの送信中では音声データユニットを出力するのが好ましい時でも、音声データユニットを送信できない。従って、多重の方式に工夫を加えないと、音声データユニットに多重による遅延が生じうる。そして、残留している音声データユニットの遅延ジッタと多重の際の遅延によって、さらに遅延ジッタが広がることがありうる。
【0071】多重の方式には、様々なものが考えられる。例えば、バッファ110から出力されたがプロトコル・エンティティ17から未送信の音声データユニットと画像データユニットが同時に存在する場合に、多重の際に画像データユニットを常に音声データユニットよりも優先することが考えられうる。逆に、そのような場合に、多重の際に音声データユニットを常に画像データユニットよりも優先することも考えられうる。これらの方式には以下に述べるように欠点がある。
【0072】図12において、時刻t13では、音声パケットA4のデータユニットが音声バッファ111から出力され、画像パケットV3のデータユニットが画像バッファ112から出力される。また、この時には、以前の音声パケットA3のデータユニットがすでに音声バッファ111から出力されているのに、プロトコル・エンティティ17から送信されていない。別の時刻t18では、画像パケットV4のデータユニットが画像バッファ112から出力され、未送信の音声パケットA5のデータユニットが存在する。
【0073】音声パケットを常に優先する方式では、図1212および図13に示すように、プロトコル・エンティティ17からは、時刻t13において音声パケットA3のデータユニットが送信され、時刻t14において音声パケットA4のデータユニットが送信されて、時刻t15に至ってやっと画像パケットV3のデータユニットが出力される。従って、画像パケットV3のデータユニットは端末21から送信された時刻t11から4INT遅延して網30に送信されることになる。同様に、時刻t18では音声パケットA5のデータユニットが優先され、時刻t19では新音声パケットA6のデータユニットが優先されるので、画像パケットV4のデータユニットは端末21から送信された時刻t16から4INT遅延して時刻t20に網30に送信される。しかし、最初の画像パケットV1のデータユニットは、図12に示すように、端末21から送信された時刻t1から1INTだけ遅延して時刻t2に網30に出力される。
【0074】画像データユニットを常に優先する方式では、図12および図13に示すように、時刻t13においてプロトコル・エンティティ17からは、画像パケットV3のデータユニットの送信が開始され、時刻t14、t15では画像パケットV3のデータユニットの送信を継続する。時刻t10において音声バッファ111から出力される音声パケットA3のデータユニット、時刻t13において音声バッファ111から出力される音声パケットA4のデータユニットは、画像パケットV3のデータユニットの送信が終了した後に、送信される。従って、音声パケットA3のデータユニットは端末21から送信された時刻t7から9INTも遅延して時刻t16に網30に送信され、音声パケットA4のデータユニットは端末21から送信された時刻t10から7INT遅延して時刻t17に網30に送信されることになる。同様に、時刻t18では画像パケットV4のデータユニットが優先されるので、音声パケットA5のデータユニットは端末21から送信された時刻t13から9INTも遅延して時刻t22に網30に送信され、音声パケットA6のデータユニットは端末21から送信された時刻t16から7INT遅延して時刻t23に網30に送信される。しかし、最初の音声パケットA1のデータユニットは、端末21から送信された時刻t1から5INTだけ遅延して時刻t6に網30に出力される。
【0075】以上のように、いずれか一方の群のデータユニットを常に優先させた場合は、網20で発生した遅延ジッタに対して、さらにプロトコル・エンティティ17における多重による遅延ジッタが重畳されて、網30への送信の際に遅延ジッタが広がってしまう。
【0076】図14は、マルチメディア通信における遅延の発生を示す。曲線D1は網20を通過することに生ずる遅延ジッタを示しており、図9の下のグラフの曲線D1と等価である。曲線D3は、バッファ110で一部が吸収された残りの遅延ジッタを示しており、この残りの遅延ジッタはバッファでの吸収分だけ曲線D1の網20通過後の遅延ジッタより小さい。曲線D21は、いずれか一方の群のデータ形式を常に優先させた場合の網30への多重送信の際の遅延ジッタを表す。曲線D21により明らかなように、せっかくバッファ110で遅延ジッタの一部が吸収されても、多重による遅延ジッタが重畳されて、網30への送信の際に遅延ジッタが広がってしまうことがわかる。
【0077】本実施形態では、パケットの遅延ジッタをより少なくするために、多重送信における各データユニットの優先度を遅延時間に応じて決定する。より具体的には、バッファ110から出力されたがプロトコル・エンティティ17から未送信の音声データユニットと画像データユニットが同時に存在する場合には、その時点で最初の同種データユニットに対する遅延時間が大きいデータユニットを優先する。この実施形態の処理を次に具体的に説明する。
【0078】図12および図13において、時刻t13では、未送信の音声パケットのデータユニットA3の遅延時間D(A3)=4INTであり、未送信の画像パケットのデータユニットV3の遅延時間D(V3)=1INTである。図12および図13中の遅延時間D(A),D(V)については、上述の式(1)ないし(4)で算出される。本実施形態では、時刻t13で、優先度決定部120は遅延時間の大きな音声パケットA3のデータユニットの優先度が高いことを示す送信制御信号をプロトコル・エンティティ17に出力する。
【0079】時刻t14においては、未送信の音声パケットA4のデータユニットの遅延時間D(A4)=2INTであり、画像パケットV3のデータユニットの遅延時間D(V3)=2INTで同じである。本実施形態では、図11のステップS14で表される規則に従って、優先度決定部120は音声パケットA4のデータユニットの優先度が高いことを示す送信制御信号をプロトコル・エンティティ17に出力する。従って、時刻t13で音声パケットA3のデータユニット、時刻t14で音声パケットA4のデータユニット、時刻t15で画像パケットV3のデータユニットが送信される。この様子は音声データユニットを常に優先させる方式と同じである。しかし、時刻t13〜t17の間の時間においては、画像データユニットを優先させる方式よりも音声パケットA3,A4のデータユニットに関して遅延ジッタの増加は少ない。
【0080】時刻t18では、未送信の音声パケットA5のデータユニットの遅延時間D(A5)=3INTであり、画像パケットV4のデータユニットの遅延時間D(V4)=1INTである。よって、本実施形態では、優先度決定部120は遅延時間の大きな音声パケットA5のデータユニットの優先度が高いことを示す送信制御信号をプロトコル・エンティティ17に出力する。
【0081】時刻t19では、未送信の音声パケットA6のデータユニットの遅延時間D(A6)=1INTであり、画像パケットV4のデータユニットの遅延時間D(V4)=2INTである。よって、本実施形態では、優先度決定部120は遅延時間の大きな画像パケットV4のデータユニットの優先度が高いことを示す送信制御信号をプロトコル・エンティティ17に出力する。そして、時刻t23で、音声パケットA6のデータユニットが送信される。
【0082】従って、音声パケットA5のデータユニットは端末21から送信された時刻t13から5INT遅延して時刻t18に網30に送信され、画像パケットV4のデータユニットは端末21から送信された時刻t16から3INT遅延して時刻t19に網30に送信され、音声パケットA6のデータユニットは端末21から送信された時刻t16から7INT遅延して時刻t23に網30に送信される。従って、音声データユニットを優先させる方式よりも画像パケットV4のデータユニットに関して遅延ジッタの増加は少ない。
【0083】図14の曲線D22は、本実施形態に従って、遅延時間に応じてパケットの優先度を決定した場合の網30への多重送信の際の遅延ジッタを表す。曲線D21とD22とを比較すると明らかなように、本実施形態では、遅延ジッタの増加をより抑制することができ、網30への多重送信の際の遅延ジッタが残留遅延ジッタ(曲線D3の幅)に近づく。
【0084】この多重送信の際の遅延ジッタは、送信先の端末31が吸収可能な許容遅延ジッタ以下であるのが好ましい。よって、マルチメディア通信において多重の前に送信先の許容遅延ジッタに基づいて決定されるバッファで吸収する遅延ジッタの量は、単一形式のデータを転送する場合の遅延ジッタの量よりも多くするのが効果的である。
【0085】以上、好適な実施形態を参照しながら本発明を説明したが、特許請求の範囲で定められる本発明の範囲から逸脱せずに、形式および細部の様々な変更ができることは当業者には理解できよう。かかる変更形態、代替形態および修正形態も、均等物として特許請求の範囲に含まれる。かかる均等物の例を次に説明する。
【0086】パケット交換網である網20に関しては、ネットワーク遅延のために、マルチメディア通信における異なる形式のパケット相互の順序の乱れが起こりやすいが、回線交換網である網30に関しては、ネットワーク遅延が起こりにくく、異なる形式のフレーム相互の順序の乱れは生じにくい。従って、図1の実施形態とは異なり、上述の利点を有する回線交換網30から転送されたフレームを取り扱う伝送系列BAには優先度決定部120を設けないことも可能である。
【0087】遅延ジッタを吸収するための要素は、バッファ110に限定されない。送信先端末の許容遅延ジッタに応じた時間だけ先頭のデータユニットを保留し、後続のデータユニットを正規の順序に従って順次出力できる他の要素を使用することができる。
【0088】上記実施形態においては、マルチメディア通信においては、単に、遅延時間の大きいデータユニットに高い優先度を与える。しかし、3つ以上の形式のデータを送信する場合には、一つまたはそれより多い形式のデータに高い優先度をあらかじめ与え、他の形式のデータに関しては、遅延時間の大きいデータユニットに次に高い優先度を与えてもよい。
【0089】遅延時間の代わりに、データユニットの長さに基づいて、優先度を与えるデータユニットを決定できるようにしてもよい。長いデータユニットを送信中に、遅延時間の大きな短いデータユニットの出力タイミングになった場合は、割り込み送信できるようにしても構わない。場合によっては、このような割り込み送信は、さらに遅延ジッタを小さくすることができるかもしれない。この目的のため、例えば、ITU−T勧告H.223に記載されているように、長いデータユニットをセグメント化するとよい。これによれば、長い画像データユニットの送信を中断し、短い音声データユニットを送信した後も、残りのセグメントを支障なく送ることができる。
【0090】上述の実施形態では、網20はパケット交換網であり、網30は回線交換網であるが。ただし、本発明をこれに限定する意図ではなく、変更・修正が可能である。遅延のジッタが生じる原因には、ネットワークの諸要因と、端末やゲートウェイにおける多重化がある。パケット交換網では、ネットワークの諸要因により遅延ジッタが生じうる。一方、回線交換網では、ネットワークの諸要因による遅延ジッタは生じにくいが、端末やゲートウェイにおける多重化により遅延ジッタが残ったままフレームが交換される。パケット交換網における遅延ジッタは、端末やゲートウェイにおける多重化により生じる遅延ジッタよりも一般的には大きい。一般的には、各網に奉仕される端末は、送信先となったときに、その網で生じうる最大遅延ジッタを吸収できるようになっている。
【0091】図15に示すように、網20および網300がいずれもパケット交換網で、パケット交換網20で生じうる最大遅延ジッタがパケット交換網300で生じうる最大遅延ジッタよりも大きい変更形態を想定する。網20に奉仕される端末が送信元で、網300に奉仕される端末が送信先である場合には、上記実施形態と同様に、送信先の端末31のジッタ削減能力に応じてゲートウェイ10が送信元側の網20で生じた遅延ジッタのうちの一部を吸収するのが有効である。
【0092】ただし、起こりうる遅延ジッタが小さい網300に奉仕される端末が送信元で、起こりうる遅延ジッタが大きい網20に奉仕される端末が送信先であって、送信先端末のジッタ削減能力が高い場合には、送信元側の網300で生じた遅延ジッタをゲートウェイ10で吸収する必要は少ないかもしれない。そのような場合には、網300から網20へデータを転送する伝送系列BAにはデジッタ用の要素を設けなくてもよい。
【0093】上記実施形態を参照して説明したように、送信元側の網20がパケット交換網であり、送信先側の網30が回線交換網である場合には、送信先の端末31のジッタ削減能力に応じてゲートウェイ10が送信元側の網20で生じた遅延ジッタのうちの一部を吸収するのが有効である。ただし、起こりうる遅延ジッタが小さい回線交換網30に奉仕される端末が送信元で、起こりうる遅延ジッタが大きいパケット交換網20に奉仕される端末が送信先であって、送信先端末のジッタ削減能力が高い場合には、送信元側の網30で生じた遅延ジッタをゲートウェイ10で吸収する必要は少ないかもしれない。そのような場合には、伝送系列BAにはやはりデジッタ用の要素を設けなくてもよい。
【0094】上述の通り、回線交換網では、ネットワークの諸要因による遅延ジッタは生じにくいが、端末やゲートウェイにおける多重化により遅延ジッタが残ったままフレームが交換される。従って、回線交換網に属する送信先端末で許容され、バッファでの吸収量を定めるためのパラメータとなる遅延ジッタは、その網で多重化により起こりうる最大遅延時間と等しくしてもよい。
【0095】上記の実施形態では、送信先端末は、ゲートウェイ10に接続された第2の網30に直接的に奉仕される。しかし、送信先端末は、網30に間接的に奉仕されてもよい。つまり、送信先端末と網30との間に、一つまたは複数の網と、隣合う網の相互を接続する他のゲートウェイが介在していてもよい。
【0096】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、ジッタを削減することにより、遅延の増加を最小限にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態に係るゲートウェイを示すブロック図である。
【図2】 図1のゲートウェイ内のバッファの動作を示す図である。
【図3】 先頭のパケットが最小遅延時間で到着した場合の、図1のゲートウェイにおけるデータユニットの処理を示すタイムチャートである。
【図4】 先頭のパケットが最小遅延時間で到着した場合の上記バッファにおけるデータユニットの処理を示す図である。
【図5】 先頭のパケットが最小遅延時間で到着した場合の上記バッファにおけるデータユニットの別の処理を示す図である。
【図6】 先頭のパケットが最大遅延時間で到着した場合の、図1のゲートウェイにおけるデータユニットの処理を示すタイムチャートである。
【図7】 先頭のパケットが最大遅延時間で到着した場合の上記バッファにおけるデータユニットの処理を示す図である。
【図8】 先頭のパケットが最大遅延時間で到着した場合の上記バッファにおけるデータユニットの別の処理を示す図である。
【図9】 ネットワーク遅延の発生を示すグラフを有する。
【図10】 図1に示す各制御部の内部機能エンティティを示すブロック図である。
【図11】 マルチメディア通信における上記制御部の中の優先度決定部の処理を示すフローチャートである。
【図12】 マルチメディア通信における、図1のゲートウェイの中のデータユニットの処理を示すタイムチャートの一部である。
【図13】 図12と共同で上記タイムチャートを構成する。
【図14】 上記実施形態のマルチメディア通信への応用の効果を説明するための図である。
【図15】 本発明の変更形態を示す図である。
【符号の説明】
10…ゲートウェイ、14A,14B…受信部、18A,18B…送信部、20,30…網(ネットワーク)、100…制御部、122…出力時刻検出部、122…遅延時間算出部、AB,BA…伝送系列(獲得部)
【特許請求の範囲】
【請求項1】 二つのネットワークを接続するゲートウェイであって、少なくとも一つの形式の複数のデータユニットを第1のネットワークから受信する受信部と、前記受信部で受信した前記データユニットを一時的に記憶し、送信先端末が備えるジッタ削減能力に応じて、前記データユニットを出力することにより、データユニットの遅延ジッタを削減する制御部と、前記制御部で出力されたデータユニットに対応するデータユニットを前記送信先端末に届けるために第2のネットワークに送信する送信部とを備えるゲートウェイ。
【請求項2】 請求項1記載のゲートウェイであって、前記送信先端末の前記ジッタ削減能力に関する情報を獲得する獲得部をさらに備えるゲートウェイ。
【請求項3】 請求項1または2記載のゲートウェイであって、前記制御部は、前記送信先端末の前記遅延ジッタ削減能力に基づいてある時間を決定し、前記受信部において先頭のデータユニットを受信した時刻からその決定した時間が経過した後に前記先頭のデータユニットを出力し、その後、前記第1のネットワークにおける送信サイクルと同じサイクルで後続のデータユニットを順次出力する、ゲートウェイ。
【請求項4】 請求項1ないし3のいずれか記載のゲートウェイであって、前記受信部は、異なる形式のデータユニットを受信することが可能であり、異なる形式のデータユニットが同時に未送信である時に、前記制御部は、前記第1のネットワークにおいて前記データユニットが伝送される際に生じた遅延時間に応じて前記送信部における優先度を決定し、前記送信部は、前記制御部から出力された形式の異なるデータユニットを、前記優先度に従って多重化して前記第2のネットワークを通じて前記送信先端末に送信する、ゲートウェイ。
【請求項5】 請求項4記載のゲートウェイであって、前記制御部は、各形式における最初のデータユニットが前記制御部から出力された最初出力時刻を検出する出力時刻検出部と、前記最初出力時刻に基づいた各データユニットの前記遅延時間を算出する遅延時間算出部とを備え、前記制御部は、算出された前記遅延時間が長いと判定されたデータユニットについては、他のデータユニットに優先して送信するように前記優先度を決定する、ゲートウェイ。
【請求項6】 請求項3に記載のゲートウェイであって、前記制御部は、前記第1のネットワークにおいて前記データユニットが伝送される際に生じうる最大遅延時間を、前記送信先端末において許容される遅延ジッタに応じて短縮して前記時間を求めることを特徴とするゲートウェイ。
【請求項7】 少なくとも一つの形式の複数のデータユニットを第1のネットワークから受信することと、前記データユニットを一時的に記憶することと、送信先端末のジッタ削減能力に応じて、データユニットの遅延ジッタを削減することと、前記データユニットに対応するデータユニットを前記送信先端末に届けるために第2のネットワークに送信することとを備えるデータ転送方法。
【請求項8】 請求項7に記載の方法であって、前記データユニットの遅延ジッタの削減は、あらかじめ獲得した送信先端末のジッタ削減能力に基づいてある時間を決定することと、先頭のデータユニットを受信した時刻からその決定した時間が経過した後に前記先頭のデータユニットを出力することと、前記第1のネットワークにおける送信サイクルと同じサイクルで後続のデータユニットを順次出力することとを有しており、前記ジッタ削減能力に基づいて決定した時間は、前記第1のネットワークにおいて前記データユニットが伝送される際に生じる最大遅延時間を、前記送信先端末において許容される遅延時間に応じて短縮して求められる、データ転送方法。
【請求項9】 請求項7または8に記載の方法であって、前記受信は、異なる形式のデータユニットを受信することを備えており、この方法は、さらに、異なる形式のデータユニットが同時に未送信である時に、前記制御部は、前記第1のネットワークにおいて前記データユニットが伝送される際に生じた遅延時間に応じて前記送信部における優先度を決定することを備え、前記第1のネットワークにおいて発生した遅延時間が長い程、対応するデータユニットが優先的に第2のネットワークに送信されるようにした、方法。
【請求項1】 二つのネットワークを接続するゲートウェイであって、少なくとも一つの形式の複数のデータユニットを第1のネットワークから受信する受信部と、前記受信部で受信した前記データユニットを一時的に記憶し、送信先端末が備えるジッタ削減能力に応じて、前記データユニットを出力することにより、データユニットの遅延ジッタを削減する制御部と、前記制御部で出力されたデータユニットに対応するデータユニットを前記送信先端末に届けるために第2のネットワークに送信する送信部とを備えるゲートウェイ。
【請求項2】 請求項1記載のゲートウェイであって、前記送信先端末の前記ジッタ削減能力に関する情報を獲得する獲得部をさらに備えるゲートウェイ。
【請求項3】 請求項1または2記載のゲートウェイであって、前記制御部は、前記送信先端末の前記遅延ジッタ削減能力に基づいてある時間を決定し、前記受信部において先頭のデータユニットを受信した時刻からその決定した時間が経過した後に前記先頭のデータユニットを出力し、その後、前記第1のネットワークにおける送信サイクルと同じサイクルで後続のデータユニットを順次出力する、ゲートウェイ。
【請求項4】 請求項1ないし3のいずれか記載のゲートウェイであって、前記受信部は、異なる形式のデータユニットを受信することが可能であり、異なる形式のデータユニットが同時に未送信である時に、前記制御部は、前記第1のネットワークにおいて前記データユニットが伝送される際に生じた遅延時間に応じて前記送信部における優先度を決定し、前記送信部は、前記制御部から出力された形式の異なるデータユニットを、前記優先度に従って多重化して前記第2のネットワークを通じて前記送信先端末に送信する、ゲートウェイ。
【請求項5】 請求項4記載のゲートウェイであって、前記制御部は、各形式における最初のデータユニットが前記制御部から出力された最初出力時刻を検出する出力時刻検出部と、前記最初出力時刻に基づいた各データユニットの前記遅延時間を算出する遅延時間算出部とを備え、前記制御部は、算出された前記遅延時間が長いと判定されたデータユニットについては、他のデータユニットに優先して送信するように前記優先度を決定する、ゲートウェイ。
【請求項6】 請求項3に記載のゲートウェイであって、前記制御部は、前記第1のネットワークにおいて前記データユニットが伝送される際に生じうる最大遅延時間を、前記送信先端末において許容される遅延ジッタに応じて短縮して前記時間を求めることを特徴とするゲートウェイ。
【請求項7】 少なくとも一つの形式の複数のデータユニットを第1のネットワークから受信することと、前記データユニットを一時的に記憶することと、送信先端末のジッタ削減能力に応じて、データユニットの遅延ジッタを削減することと、前記データユニットに対応するデータユニットを前記送信先端末に届けるために第2のネットワークに送信することとを備えるデータ転送方法。
【請求項8】 請求項7に記載の方法であって、前記データユニットの遅延ジッタの削減は、あらかじめ獲得した送信先端末のジッタ削減能力に基づいてある時間を決定することと、先頭のデータユニットを受信した時刻からその決定した時間が経過した後に前記先頭のデータユニットを出力することと、前記第1のネットワークにおける送信サイクルと同じサイクルで後続のデータユニットを順次出力することとを有しており、前記ジッタ削減能力に基づいて決定した時間は、前記第1のネットワークにおいて前記データユニットが伝送される際に生じる最大遅延時間を、前記送信先端末において許容される遅延時間に応じて短縮して求められる、データ転送方法。
【請求項9】 請求項7または8に記載の方法であって、前記受信は、異なる形式のデータユニットを受信することを備えており、この方法は、さらに、異なる形式のデータユニットが同時に未送信である時に、前記制御部は、前記第1のネットワークにおいて前記データユニットが伝送される際に生じた遅延時間に応じて前記送信部における優先度を決定することを備え、前記第1のネットワークにおいて発生した遅延時間が長い程、対応するデータユニットが優先的に第2のネットワークに送信されるようにした、方法。
【図15】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2001−160830(P2001−160830A)
【公開日】平成13年6月12日(2001.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−285900(P2000−285900)
【出願日】平成12年9月20日(2000.9.20)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成13年6月12日(2001.6.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成12年9月20日(2000.9.20)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】
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