説明

コア−シェル型分岐状高分子からなる蛍光性プローブ

【課題】低分子液晶の欠陥部位を蛍光表示することができる蛍光性プローブを提供すること。
【解決手段】
本発明の蛍光性プローブは、シェル部に低分子液晶と相溶性を示す部分を有し、コア部に蛍光性官能基を有するコア−シェル型分岐状高分子からなり、低分子液晶の欠陥部位に優先的に濃縮されることを特徴とする。また、本発明の前記欠陥部位を表示可能とする方法は、前記コア-シェル型分岐状高分子を液晶に添加し、これを該液晶の等方相温度以上
の温度に加熱し、次いで液晶相を形成する温度まで冷却することによって、等方相中に分散した前記分岐状高分子を該液晶の欠陥部位に優先的に濃縮することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶に分散可能な蛍光性の分岐状高分子に関するものであり、更に詳細には、液晶の線欠陥や点欠陥に優先的に濃縮されることにより、液晶の欠陥部位を蛍光顕微鏡等で観測可能にする前記分岐状高分子からなる蛍光性プローブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、光情報分野で広く用いられており、その表示方式にはネマチック液晶を使用したTN型、STN型、IPS型、VA型、OCB型、また、強誘電性液晶を利用したものが実用化されている。ネマチック液晶の液晶分子は一般に細長い棒状の分子構造を有し,光学異方性や誘電率異方性を持っていることから、配向膜の溝に沿って液晶分子が並ぶ、電圧に応答して液晶分子の配向が変わる、光は液晶分子の配向に沿って進むという特徴を有する。
【0003】
この液晶表示素子は電圧が印加されていない状態ではツイスト配向のままであるが、電圧が印加されると液晶が立ち上がり配向となり、2つの配向状態を有するものである。このような液晶表示素子は、光を偏向させる効果(偏光)とあいまって入射光を透過させて明表示したり、入射光を遮断して暗表示とすることができるため、白黒表示を行うことができるという特徴を有する。而して、電圧のオン/オフによって、バックライトからの光をオン/オフすることにより表示可能としているのがLCDの原理である。
【0004】
また、ネマチック液晶以外の液晶として、スメクティック液晶及びコレステリック液晶が知られている。コレステリック液晶は、その周期構造(螺旋状の分子配向)に伴い特定波長の光を選択的に反射するため、該液晶を用いた表示素子は、表示色が鮮明で、種々の光学媒体としての応用の可能性が期待される。
【0005】
近年、ネマチック液晶にコロイド粒子や高分子を分散させる研究が盛んに行われている。例えば、小林らは4−シアノ−4’−ペンチルビフェニル(5CB)保護金属ナノ粒子を合成し、これをマトリックス液晶5CBに添加して液晶素子を作製している(特許文献1、2)。金属ナノ粒子が液晶相溶性であるため、液晶中に均一に分散することが可能であると報告されている。この金属ナノ粒子添加効果によって、印加電圧の周波数を切り替えることができ、高速の電気光学応答を可能にしている。
【0006】
また、Poulinらは、シリコンオイルをシアノビフェニル系のネマチック液晶に分散させることにより、始めは粒子状であったものが、時間経過とともに粒子が融合して、鎖状に構造変化することを報告している(非特許文献1)。これは、シリコンオイルの粒子が、大きな弾性エネルギーを持つ液晶の欠陥線に引きずられて集合し、高秩序な配列(相分離状態)を形成するというものである。
【0007】
さらに、菊池らはネマチック液晶にカイラルドーパントを加えたコレステリック液晶にアルキル側鎖を有するアクリレートモノマーを添加してこれを重合することにより、ブルー相という相状態を安定化させることに成功している(特許文献3)。尚、ブルー相とはコレステリック相と等方相との間に発現する相状態のことである。液晶性を持たないモノマーを添加すると相分離が起こるため、これらは、液晶の欠陥線に濃縮される。これにより、本来極めて狭い温度領域でしか発現しないブルー相を安定化することができ、光シャッターのような光学変調素子としての実用を可能にする。
【非特許文献1】J−C,Loudet他、Nature, 407(2000)611.
【特許文献1】特開2003−149683号公報
【特許文献2】特開2004−347618号公報
【特許文献3】特開2003−327966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、液晶の線欠陥等に優先的に濃縮され、さらに蛍光顕微鏡等によって観察が可能な蛍光性の分岐状高分子材料についてはこれまで全く報告がされていなかった。
従って、本発明は、低分子液晶の欠陥部位に優先的に濃縮されることにより該欠陥部位を蛍光表示することができる蛍光性プローブを提供することを目的としたものである。並びに、本発明は、斯様な蛍光性プローブとして有利に適用できる分岐状高分子材料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、本発明者等は、シェル部に低分子液晶と相溶性を示す部分を有し、コア部に蛍光性官能基を有するコア−シェル型分岐状高分子を合成したところ、得られた蛍光性の分岐状高分子はそれが分散された低分子液晶においてその欠陥部位に優先的に濃縮され、蛍光性プローブとして機能する点を見出し、そして本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、第1観点として、シェル部に低分子液晶と相溶性を示す部分を有し、コア部に蛍光性官能基を有するコア-シェル型分岐状高分子からなり、低分子液晶の
欠陥部位に優先的に濃縮されることにより該欠陥部位を蛍光表示することができる蛍光性プローブ、
また第2観点として、前記コア-シェル型分岐状高分子がデンドリマー又はハイパーブ
ランチポリマーからなる第1観点に記載の蛍光性プローブ、
また第3観点として、前記低分子液晶がネマチック液晶又はコレステリック液晶であることを特徴とする第1観点又は第2観点に記載の蛍光性プローブ、
また第4観点として、前記低分子液晶の液晶分子が4−シアノ−4’−ペンチルビフェニルであることを特徴とする第1観点ないし第3観点のいずれか1つに記載の蛍光性プローブ、
また第5観点として、前記蛍光性官能基がペリレン誘導体の基であることを特徴とする第1観点ないし第4観点のいずれか1つに記載の蛍光性プローブ、
また第6観点として、前記コア部が下式(1)及び(2)で表されるモノマーを共重合して得られてなる第1観点ないし第5観点のいずれか1つに記載の蛍光性プローブ
【化1】

(式中、A1及びA2は、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲン基、エーテル基、アミド基を含んでも良い炭素原子数1ないし20のアルキレン基を表し、R1
びR2は水素原子、炭素原子数1ないし10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基
を表す。)、
また第7観点として、前記シェル部が下式(3)及び(4)で表されるモノマーを共重合して得られてなる第1観点ないし第6観点のいずれか1つに記載の蛍光性プローブ
【化2】

(式中、A3は、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲン基、エーテル基
、アミド基を含んでも良い炭素原子数1ないし20のアルキレン基を表し、R3は水素原
子、炭素原子数1ないし10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基を表す。)、
また第8観点として、前記コア-シェル型分岐状高分子の分子量が1000ないし10
0000である第1観点ないし第7観点のいずれか1つに記載の蛍光性プローブ、
また第9観点として、シェル部に低分子液晶と相溶性を示す部分を有し、コア部に蛍光性官能基を有するコア-シェル型分岐状高分子、
また第10観点として、デンドリマー又はハイパーブランチポリマーである第9観点に記載のコア-シェル型分岐状高分子、
また第11観点として、前記蛍光性官能基がペリレン誘導体の基であることを特徴とする第9観点ないし第10観点のいずれか1つに記載のコア-シェル型分岐状高分子、
また第12観点として、前記コア部が下式(1)及び(2)で表されるモノマーを共重合して得られてなる第9観点ないし第11観点のいずれか1つに記載に記載のコア-シェ
ル型分岐状高分子
【化3】

(式中、A1及びA2は、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲン基、エーテル基、アミド基を含んでも良い炭素原子数1ないし20のアルキレン基を表し、R1
びR2は水素原子、炭素原子数1ないし10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基
を表す。)、
また第13観点として、前記シェル部が下式(3)及び(4)で表されるモノマーを共重合して得られてなる第9観点ないし第12観点のいずれか1つに記載のコア-シェル型
分岐状高分子
【化4】

(式中、A3は、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲン基、エーテル基
、アミド基を含んでも良い炭素原子数1ないし20のアルキレン基を表し、R3は水素原
子、炭素原子数1ないし10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基を表す。)、
また第14観点として、分子量が1000ないし100000である第9観点ないし第13観点のいずれか1つに記載のコア-シェル型分岐状高分子、
また第15観点として、蛍光性官能基を有するハイパーブランチポリマー、
また第16観点として、前記蛍光性官能基がペリレン誘導体の基であることを特徴とする第15観点に記載のハイパーブランチポリマー、
また第17観点として、液晶性官能基を有するハイパーブランチポリマー、
また第18観点として、前記液晶性官能基がシアノビフェニル誘導体の基であることを特徴とする第17観点に記載のハイパーブランチポリマー、
また第19観点として、第9観点ないし第14観点のいずれか1つに記載のコア-シェ
ル型分岐状高分子を液晶に添加し、これを該液晶の等方相温度以上の温度に加熱し、次いで液晶相を形成する温度まで冷却することによって、等方相中に分散した前記分岐状高分子を該液晶の欠陥部位に優先的に濃縮し、これにより該欠陥部位を表示可能とする方法、及び
また第20観点として、第9観点ないし第14観点のいずれか1つに記載のコア-シェ
ル型分岐状高分子が、ネマチック液晶又はコレステリック液晶の欠陥部位に濃縮されていることを特徴とする液晶に関する。
【発明の効果】
【0011】
上記のように構成された本発明の蛍光性プローブによれば、該蛍光性プローブは液晶に可溶であり、蛍光ラベル化された分岐状高分子からなるので、低分子液晶中に分散したとき、その欠陥部位に優先的に濃縮され、これにより該欠陥部位を蛍光表示することができ、ゆえに蛍光顕微鏡等によって液晶の欠陥部位の形態等につき容易に観察、分析することが可能となる。
本発明のコアシェル型分岐状高分子は、斯かる蛍光性プローブとして有利に適用でき、例えばレーザー発振素子、発光素子、表示素子、ディスプレイ材料、バイオイメージング材料、塗料などの用途において好適に利用することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について具体例を挙げて詳細に説明する。
本発明の蛍光性プローブは、シェル部に低分子液晶と相溶性を示す部分(典型的には、液晶性官能基といわれる官能基)を有し、コア部に蛍光性官能基を有するコア−シェル型分岐状高分子からなる。この高分子は粒子状であり、低分子液晶中に分散したとき、その欠陥部位に入り込み、その部位に優先的に存在し、濃縮されることになり、そしてこれにより該欠陥部位を蛍光表示することが可能となる。
【0013】
また、前記コア−シェル型分岐状高分子はデンドリマー又はハイパーブランチポリマー
からなる。
【0014】
また、前記低分子液晶はネマチック液晶又はコレステリック液晶である。
また、低分子液晶の液晶分子としては、例えば、4−シアノ−4’−n−ペンチルビフェニル、4−シアノ−4’−n−フェプチロキシビフェニル等のシアノビフェニル類;コレステリルアセテート、コレステリルベンゾエート等のコレステリルエステル類;4−カルボキシフェニルエチルカーボネート、4−カルボキシフェニル−n−ブチルカーボネート等の炭酸エステル類;安息香酸フェニルエステル、フタル酸ビフェニルエステル等のフェニルエステル類;ベンジリデン−2−ナフチルアミン、4’−n−ブトキシベンジリデン−4−アセチルアニリン等のシッフ塩基類;N,N’−ビスベンジリデンベンジジン、p−ジアニスアルベンジジン等のベンジジン類;4,4’−アゾキシジアニソール、4,4’−ジ−n−ブトキシアゾキシベンゼン等のアゾキシベンゼン類;ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)等の液晶高分子;のうち少なくとも1種が用いられる。4−メルカプト−4’−n−ビフェニル、4−シアノ−4’−(ω−メルカプトペンチル)ビフェニル等の液晶分子に構造の似た液晶様分子も用いることができる。中でも、好ましくは4−シアノ−4’−ペンチルビフェニルを用いることができる。
【0015】
前記蛍光性官能基として、例えばペリレン、ピレン、アントラセン、ナフタレン、クマリン、オキサジン、ローダミン、フルオレセイン、ベンゾフラザン、キナクドリン、スチルベン、ルミノール、フェノチアジン等の骨格を有する基のうち少なくとも1種の基が挙げられる。なかでも、耐光性の観点より、ペリレン誘導体の基が好ましい。
前記液晶性官能基として、例えばシアノビフェニル基、メトキシフェニル安息香酸エステル基、コレステリル基等が挙げられる。なかでも、シアノビフェニル誘導体の基が好ましい。
【0016】
また、本発明の蛍光性プローブは、前記コア部が前記式(1)及び(2)で表されるモノマーを共重合して得られてなるコア−シェル型分岐状高分子からなる。
前記式(1)及び(2)中、A3は、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ハ
ロゲン基、エーテル基、アミド基を含んでも良い炭素原子数1ないし20のアルキレン基を表す。
前記式(1)及び(2)中、R3は水素原子、炭素原子数1ないし10の直鎖状、分岐
状もしくは環状のアルキル基を表す。
【0017】
また、本発明の蛍光性プローブは、前記シェル部が前記式(3)及び(4)で表されるモノマーを共重合して得られてなるコア−シェル型分岐状高分子からなる。
前記式(3)及び(4)中、A3は、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ハ
ロゲン基、エーテル基、アミド基を含んでも良い炭素原子数1ないし20のアルキレン基を表す。
前記式(3)及び(4)中、R3は水素原子、炭素原子数1ないし10の直鎖状、分岐
状もしくは環状のアルキル基を表す。
【0018】
前記式(1)ないし(4)において、A3における炭素原子数1ないし20のアルキレ
ン基の例として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが挙げられる。
前記式(1)ないし(4)において、R3おける炭素原子数1ないし10の直鎖状、分
岐状もしくは環状のアルキル基の例として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0019】
また、前記コア−シェル型分岐状高分子の分子量は1000ないし100000である

【0020】
また、本発明の液晶の欠陥部位を表示可能とする方法は、前記コア-シェル型分岐状高
分子を液晶に添加し、これを該液晶の等方相温度以上の温度に加熱し、次いで液晶相を形成する温度まで冷却することによって、等方相中に分散した前記分岐状高分子を該液晶の欠陥部位に優先的に濃縮するという方法である。これにより前記コア-シェル型分岐状高
分子が、液晶の欠陥部位に濃縮されている液晶が得られる。また該液晶の例として、例えばネマチック液晶又はコレステリック液晶が挙げられる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。
なお、実施例にて採用した分析装置及び分析条件は、下記のとおりである。
1H−NMR (400 MHz);
装置:JEOL社製 JNM−LA400
測定溶媒:CDCl3
基準物質:テトラメチルシラン(TMS)
GPC;
装置:東ソー社製 HLC−8220 GPC
カラム:Shodex社製 KF−804L+KF−805L
カラム温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
検出器:UV(254 nm)
検量線:標準ポリスチレン
GPC2;
装置:Shimadu社製 SCL−10A
検出器:Shimadu社製 SPD−20AV
カラム:Shodex社製 KF−2003
カラム温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
検出器:UV(254 nm)
検量線:標準ポリスチレン
融点測定;
蛍光顕微鏡:Nikon社製 ECLIPSE E600 POL
加熱ステージ:Linkam社製 LTS 300
光照射;
装置:セン特殊光源社製 Sen Light HB100X−5
光学顕微鏡;
装置:Nikon社製 OPTIPHOT2−POL
共焦点レーザー顕微鏡;
装置:Carl Zeiss社製 LSM 510
レーザー:波長488nm(Arレーザー)
【0022】
(実施例1)
<ペリレンモノマーの合成>
【化5】

化合物4の合成
N−(1−ヘキシルヘプチル)ペリレン−3,4:9、10−テトラカルボキシ−3,4−アンヒドリド−9,10−イミド(1.6g、2.8mmol)と5−アミノ−1−ペンタノール(0.64g、6.2mmol)をイミダゾール5.5gに溶解し、酢酸亜鉛(0.39g、2.1mmol)を加えた後、160℃にて2時間加熱攪拌を行った。これを室温まで冷却し、メタノールを加えて生じた沈殿を濾過した。得られた固体をクロロホルムに溶解し、シリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム/酢酸エチル=40/60)により精製した。濃赤色の固体が得られた(収量1.2g、65%)1H NMR
(CDCl3) δ 0.84 (m, 6H), 1.2-1.5 (m, 18H), 1.6-1
.9 (m, 6H), 2.25 (m, 2H), 3.70 (t, J=6.4Hz,2H), 4.18 (t, J=7.5Hz, 2H), 5.18 (quin, J=7.5Hz,1H
),8.3-8.6 (m, 8H). Anal. Calcd for C424625: C,
76.57; H, 7.04; N, 4.25; Found: C, 76.61; H, 6.99; N, 4.30.
化合物2の合成
アルゴン雰囲気下、化合物4(659mg、1.0mmol)、トリエチルアミン(111mg、1.1mmol)の乾燥ジクロロメタン(10mL)に溶解し、これにメタクリル酸クロライド(115mg、1.1mmol)の乾燥ジクロロメタン溶液を、−10℃にて滴下して加えた。その後、室温で攪拌した後、溶液を濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム/酢酸エチル=94/6)により精製した。濃赤色の固体が得られた(収量530mg、73%)1H NMR (CDCl3) δ 0.84 (m, 6H
), 1.2-1.5 (m, 18H), 1.6-1.9 (m, 6H), 1.94(m, 2H), 2.26(m, 2H), 4.19(dd, J=6.3and6.3Hz,4H), 5
.18(quin, J=7.5Hz,1H),5.54(s, 1H), 6.10(s,1H
), 8.3-8.6 (m, 8H). FAB HRMS(m/z)[M+H+]Calcd for C465025:727.3747、Found:727.3747.Anal. Calcd for C465025: C, 76.01; H, 6.93; N, 3.85; Found: C, 75.20; H, 6.98; N, 3.73.
【0023】
(実施例2)
<コアシェル型分岐状高分子の合成>
【化6】

−ペリレン基をコアに含むハイパーブランチポリマーの合成−
300mLの反応フラスコに、2−(N、N−ジエチルジチオカルバニル)エチルメタクリレート(12.2g)、化合物2(60.9mg)及びテトラヒドロフラン(109.7g)を仕込み、反応系内を窒素置換した。この溶液の中央より100Wの高圧水銀灯を照射して、光重合法による共重合を行った。反応時間は7時間、反応温度は30℃とした。次に、この反応液を分別GPCにより化合物2を除去した。得られた分岐状高分子のテトラヒドロフラン溶液を、−10℃にてメタノール2000gによって再沈殿することで、薄赤色の粉末を得た(1.0g)。GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは69,600、分散度Mw/Mnは5.64であった。
−液晶と相溶性を示す部分をシェルに有するコア−シェル型分岐状高分子1の合成−
反応フラスコに、ペリレン基を含むハイパーブランチポリマー(265mg、1.0mmol)、N,N,N’,N’−テトラエチルチウラムジスルフィド(297mg、1.
0mmol)、液晶モノマー3、ドデシルメタクリレート(763mg、3.0mmol)、テトラヒドロフラン(50mL)に溶解させ、反応系内をアルゴン置換した。この溶液に高圧水銀灯を照射して、2時間、光重合をおこなった。反応溶液を、−10℃にてメタノール50gによって再沈殿することで、薄赤色の粉末1を得た(250mg)。GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは71,300、分散度Mw/Mnは6.87であった。
【0024】
(実施例3)
<欠陥線への濃縮>
4−シアノ−4’−ペンチルビフェニル(5CB)に対して、カイラル剤として2,5−ビス−[4’−(ヘキシルオキシ)−フェニル−4−カルボニル]1,4,3,6-ジア
ンヒドリド−D−ソルビトール(ISO−(6OBA)2)を1.2wt%添加すること
によって、コレステリック相を発現させた。これにコア−シェル型分岐状高分子1を0.02質量%添加し、50℃にて加熱溶解させ、等方性の液体とした。これらをtanθ=0.0078°の角度を有するガラス製の楔形液晶セルに充填した。これを室温まで徐冷して、共焦点レーザー顕微鏡により観察を行った。図1に結果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1(b)及び(c)は、本発明の実施例における、コア−シェル型の分岐状高分子がコレステリック液晶の欠陥線に濃縮された蛍光(共焦点レーザー)顕微鏡観察像である。また、前記(c)は(b)の拡大図である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
一般に液晶可溶性色素は液晶分子間に均一に分散するため、欠陥線の様子を見ることはできない。一方、液晶不溶性色素は写真のように数μm程度の均一な大きさで分散するこ
とはなく、また不溶性固体同士が固着するためやはり欠陥線の構造を見ることはできない。本発明においては球状高分子の内部に蛍光色素を導入し、秩序領域であるコレステリック状態には難溶、ランダム配向領域である欠陥線には易溶という特性を、シェル構造の組成・量やコアサイズによって自在に作り出すことが可能である。同時に液晶自体に対する色素の可溶性を考慮する必要がなく、共重合によって容易に調整可能であるため、様々な種類の色素を利用可能である。このため溶解度や異なるサイズごとに色素を変化させることによる内部構造の多重染色観察などが期待される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シェル部に低分子液晶と相溶性を示す部分を有し、コア部に蛍光性官能基を有するコア−シェル型分岐状高分子からなり、低分子液晶の欠陥部位に優先的に濃縮されることにより該欠陥部位を蛍光表示することができる蛍光性プローブ。
【請求項2】
前記コア-シェル型分岐状高分子がデンドリマー又はハイパーブランチポリマーからなる
請求項1に記載の蛍光性プローブ。
【請求項3】
前記低分子液晶がネマチック液晶又はコレステリック液晶であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の蛍光性プローブ。
【請求項4】
前記低分子液晶の液晶分子が4−シアノ−4’−ペンチルビフェニルであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の蛍光性プローブ。
【請求項5】
前記蛍光性官能基がペリレン誘導体の基であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の蛍光性プローブ。
【請求項6】
前記コア部が下式(1)及び(2)で表されるモノマーを共重合して得られてなる請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の蛍光性プローブ。
【化1】

(式中、A1及びA2は、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲン基、エーテル基、アミド基を含んでも良い炭素原子数1ないし20のアルキレン基を表し、R1
びR2は水素原子、炭素原子数1ないし10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基
を表す。)
【請求項7】
前記シェル部が下式(3)及び(4)で表されるモノマーを共重合して得られてなる請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の蛍光性プローブ。
【化2】

(式中、A3は、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲン基、エーテル基
、アミド基を含んでも良い炭素原子数1ないし20のアルキレン基を表し、R3は水素原
子、炭素原子数1ないし10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基を表す。)
【請求項8】
前記コア-シェル型分岐状高分子の分子量が1000ないし100000である請求項1
ないし請求項7のいずれか1項に記載の蛍光性プローブ。
【請求項9】
シェル部に低分子液晶と相溶性を示す部分を有し、コア部に蛍光性官能基を有するコア-
シェル型分岐状高分子。
【請求項10】
デンドリマー又はハイパーブランチポリマーである請求項9に記載のコア-シェル型分岐
状高分子。
【請求項11】
前記蛍光性官能基がペリレン誘導体の基であることを特徴とする請求項9ないし請求項10のいずれか1項に記載のコア-シェル型分岐状高分子。
【請求項12】
前記コア部が下式(1)及び(2)で表されるモノマーを共重合して得られてなる請求項9ないし請求項11のいずれか1項に記載に記載のコア-シェル型分岐状高分子。
【化3】

(式中、A1及びA2は、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲン基、エーテル基、アミド基を含んでも良い炭素原子数1ないし20のアルキレン基を表し、R1
びR2は水素原子、炭素原子数1ないし10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基
を表す。)
【請求項13】
前記シェル部が下式(3)及び(4)で表されるモノマーを共重合して得られてなる請求項9ないし請求項12のいずれか1項に記載のコア-シェル型分岐状高分子。
【化4】

(式中、A3は、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲン基、エーテル基
、アミド基を含んでも良い炭素原子数1ないし20のアルキレン基を表し、R3は水素原
子、炭素原子数1ないし10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基を表す。)
【請求項14】
分子量が1000ないし100000である請求項9ないし請求項13のいずれか1項に記載のコア-シェル型分岐状高分子。
【請求項15】
蛍光性官能基を有するハイパーブランチポリマー。
【請求項16】
前記蛍光性官能基がペリレン誘導体の基であることを特徴とする請求項15に記載のハイパーブランチポリマー。
【請求項17】
液晶性官能基を有するハイパーブランチポリマー。
【請求項18】
前記液晶性官能基がシアノビフェニル誘導体の基であることを特徴とする請求項17に記載のハイパーブランチポリマー。
【請求項19】
請求項9ないし請求項14のいずれか1項に記載のコア-シェル型分岐状高分子を液晶に
添加し、これを該液晶の等方相温度以上の温度に加熱し、次いで液晶相を形成する温度まで冷却することによって、等方相中に分散した前記分岐状高分子を該液晶の欠陥部位に優先的に濃縮し、これにより該欠陥部位を表示可能とする方法。
【請求項20】
請求項9ないし請求項14のいずれか1項に記載のコア-シェル型分岐状高分子が、ネマ
チック液晶又はコレステリック液晶の欠陥部位に濃縮されていることを特徴とする液晶。


【図1】
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【公開番号】特開2010−31144(P2010−31144A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194820(P2008−194820)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】