説明

コアシェル型触媒微粒子の製造方法、及び、当該製造方法により製造されるコアシェル型触媒微粒子

【課題】コアシェル型触媒微粒子の製造方法、及び、当該製造方法により製造されるコアシェル型触媒微粒子を提供する。
【解決手段】コア部と、当該コア部を被覆するシェル部を備えるコアシェル型触媒微粒子の製造方法であって、0.6V以上の標準電極電位を有する第1のコア金属材料、及び当該第1のコア金属材料よりも標準電極電位の低い第2のコア金属材料を含む合金を含むコア微粒子を準備する工程、少なくとも前記コア微粒子表面において、前記第1のコア金属材料が、金属状態と水酸化物との間で平衡が保たれ、かつ、前記第2のコア金属材料が、金属状態と金属イオンとの間で平衡が保たれる条件下で、前記第2のコア金属材料を溶出させる工程、並びに、前記第2のコア金属材料の溶出工程の後に、前記コア微粒子をコア部として、当該コア部に前記シェル部を被覆する工程を有することを特徴とする、コアシェル型触媒微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアシェル型触媒微粒子の製造方法、及び、当該製造方法により製造されるコアシェル型触媒微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料と酸化剤を電気的に接続された2つの電極に供給し、電気化学的に燃料の酸化を起こさせることで、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する。火力発電とは異なり、燃料電池はカルノーサイクルの制約を受けないので、高いエネルギー変換効率を示す。燃料電池は、通常、電解質膜を一対の電極で挟持した膜・電極接合体を基本構造とする単セルを複数積層して構成されている。
【0003】
従来、燃料電池のアノード及びカソードの電解触媒として、担持白金及び白金合金材料が採用されてきた。しかし、現在の最新技術の電解触媒に必要な量の白金は、燃料電池の大量生産を商業的に実現可能にするには依然として高価である。したがって、白金をより安価な金属と組み合わせることにより、燃料電池カソード及びアノードに含まれる白金の量を低減させる研究がなされてきた。
【0004】
白金とより安価な金属との組み合わせの研究の1つとして、白金の単原子層をパラジウムナノ粒子上に堆積させる研究がある。このような研究を応用した技術として、特許文献1には、金属コーティングパラジウム又はパラジウム合金粒子を生成するための方法であって、前記方法が、水素吸収パラジウム又はパラジウム合金粒子を金属塩又は金属塩混合物と接触させ、前記水素吸収パラジウム又はパラジウム合金粒子の表面上に準単原子又は単原子金属コーティング又は準単原子又は単原子金属合金コーティングを堆積させ、それによって金属コーティング又は金属合金コーティングパラジウム又はパラジウム合金粒子を生成する段階を含むことを特徴とする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−525638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コアシェル型微粒子の製造においては、コア微粒子上にシェル層を堆積させる前に、コア微粒子の表面処理を行う場合がある。以下、パラジウム−コバルト合金コア微粒子(以下、Pd−Coコア微粒子と称する場合がある)の表面処理について、図を参照しながら説明する。
図1はパラジウム−水系のpH−電位線図(プールベ図:Pourbaix Diagram)であり、図2はコバルト−水系のpH−電位線図である。
初めに、Pd−Coコア微粒子の表面をパラジウムのみで覆うために、Pd−Coコア微粒子を、pH=0〜2、かつ、0〜1.2Vの電位を付与する条件下においた場合について検討する。図1及び図2中に、上記pH−電位条件を満たす範囲を一点鎖線の枠1で囲って示す。
図2によれば、当該枠1内の条件下においては、コバルトはコバルトイオン(Co2+)の状態で存在する。一方、図1によれば、当該枠1内の条件下においては、パラジウムはパラジウムイオン(Pd2+)と金属パラジウムとの平衡状態で存在する。以上より、pH=0〜2、かつ、0〜1.2Vの電位を付与する条件下においては、コバルトの他にパラジウムが溶出してしまうおそれがある。
溶出したパラジウムイオンは、表面エネルギーの差により、曲率の小さい粒子、すなわち、粒径が大きい粒子の表面に、選択的に金属パラジウムとして析出する。そのため、平衡状態では、継続的に、小さなPd−Coコア微粒子から溶出したパラジウムイオンが、より大きなPd−Coコア微粒子表面に析出する。その結果、Pd−Coコア微粒子の粒径分布が広がり、Pd−Coコア微粒子の耐久性が低下するおそれがある。また、パラジウムは高価なため、溶け出したパラジウムイオンを溶液から回収する必要が生じ、回収コストがかかる。
本発明は、上記実状を鑑みて成し遂げられたものであり、コアシェル型触媒微粒子の製造方法、及び、当該製造方法により製造されるコアシェル型触媒微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のコアシェル型触媒微粒子の製造方法は、コア部と、当該コア部を被覆するシェル部を備えるコアシェル型触媒微粒子の製造方法であって、0.6V以上の標準電極電位を有する第1のコア金属材料、及び当該第1のコア金属材料よりも標準電極電位の低い第2のコア金属材料を含む合金を含むコア微粒子を準備する工程、少なくとも前記コア微粒子表面において、前記第1のコア金属材料が、金属状態と水酸化物との間で平衡が保たれ、かつ、前記第2のコア金属材料が、金属状態と金属イオンとの間で平衡が保たれる条件下で、前記第2のコア金属材料を溶出させる工程、並びに、前記第2のコア金属材料の溶出工程の後に、前記コア微粒子をコア部として、当該コア部に前記シェル部を被覆する工程を有することを特徴とする。
【0008】
本発明のコアシェル型触媒微粒子の製造方法においては、前記第2のコア金属材料の溶出工程は、前記コア微粒子のpH及び前記コア微粒子に付与される電位を調節することにより、前記第2のコア金属材料を溶出させる工程であることが好ましい。
【0009】
本発明のコアシェル型触媒微粒子の製造方法においては、前記pHがpH=2〜4の範囲内であり、かつ、前記電位が−0.2〜1Vの範囲内であることが好ましい。
【0010】
本発明のコアシェル型触媒微粒子の製造方法においては、前記シェル部被覆工程が、少なくとも、前記コア微粒子をコア部として、当該コア部に単原子層を被覆する工程、及び、前記単原子層を、前記シェル部に置換する工程を有していてもよい。
【0011】
本発明のコアシェル型触媒微粒子の製造方法においては、前記第1のコア金属材料が、パラジウム、銀、ロジウム、オスミウム及びイリジウムからなる群から選ばれる金属材料であることが好ましい。
【0012】
本発明のコアシェル型触媒微粒子の製造方法においては、前記第2のコア金属材料が、コバルト、銅、鉄及びニッケルからなる群から選ばれる金属材料であることが好ましい。
【0013】
本発明のコアシェル型触媒微粒子の製造方法においては、前記シェル部が、白金、イリジウム及び金からなる群から選ばれる金属材料を含むことが好ましい。
【0014】
本発明のコアシェル型触媒微粒子の製造方法においては、前記コア微粒子が担体に担持されていてもよい。
【0015】
本発明のコアシェル型触媒微粒子は、上記製造方法によって製造されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、前記第1のコア金属材料を溶出させることなく、前記第2のコア金属材料のみを溶出させることができるため、製造されるコアシェル型触媒微粒子の粒径分布が広がらず、コアシェル型触媒微粒子の耐久性を維持することができる。また、本発明によれば、前記第1のコア金属材料がイオンとして溶出しないため、当該イオンを溶液から回収する必要がなく、回収コストが不要である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】パラジウム−水系のpH−電位線図である。
【図2】コバルト−水系のpH−電位線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.コアシェル型触媒微粒子の製造方法
本発明のコアシェル型触媒微粒子の製造方法は、コア部と、当該コア部を被覆するシェル部を備えるコアシェル型触媒微粒子の製造方法であって、0.6V以上の標準電極電位を有する第1のコア金属材料、及び当該第1のコア金属材料よりも標準電極電位の低い第2のコア金属材料を含む合金を含むコア微粒子を準備する工程、少なくとも前記コア微粒子表面において、前記第1のコア金属材料が、金属状態と水酸化物との間で平衡が保たれ、かつ、前記第2のコア金属材料が、金属状態と金属イオンとの間で平衡が保たれる条件下で、前記第2のコア金属材料を溶出させる工程、並びに、前記第2のコア金属材料の溶出工程の後に、前記コア微粒子をコア部として、当該コア部に前記シェル部を被覆する工程を有することを特徴とする。
【0019】
本発明は、(1)コア微粒子を準備する工程、(2)コア微粒子中の第2のコア金属材料を優先的に溶出させる工程、及び、(3)コア部にシェル部を被覆する工程を有する。本発明は、必ずしも上記3工程のみに限定されることはなく、上記3工程以外にも、例えば、後述するようなろ過・洗浄工程、乾燥工程、粉砕工程等を有していてもよい。
以下、上記工程(1)〜(3)並びにその他の工程について、順に説明する。
【0020】
1−1.コア微粒子を準備する工程
本工程は、0.6V以上の標準電極電位を有する第1のコア金属材料、及び当該第1のコア金属材料よりも標準電極電位の低い第2のコア金属材料を含む合金を含むコア微粒子を準備する工程である。
【0021】
第1のコア金属材料は、通常0.6V以上、好ましくは0.7V以上、特に好ましくは0.8V以上の標準電極電位を有する。製造されたコアシェル型触媒微粒子が高い活性を示す金属材料を、第1のコア金属材料として選ぶことが好ましい。
第1のコア金属材料の例としては、パラジウム、銀、ロジウム、オスミウム及びイリジウム等の金属材料を挙げることができ、この中でも、パラジウムを第1のコア金属材料として用いることが好ましい。
【0022】
コア微粒子中の合金は、第1のコア金属材料よりも標準電極電位の低い第2のコア金属材料をさらに含む。
第2のコア金属材料は、上記第1のコア金属材料と共にコア微粒子に含まれることにより、製造されたコアシェル型触媒微粒子が高い活性を示すものであることが好ましい。
第2のコア金属材料の例としては、コバルト、銅、鉄及びニッケルからなる群から選ばれる金属材料を挙げることができ、この中でも、コバルト又は銅を第2のコア金属材料として用いることが好ましい。
コア微粒子中の合金は、上記第1及び第2のコア金属材料の他に、さらに他の金属材料を含む合金であってもよい。
【0023】
合金中の第1のコア金属材料の含有割合は、第1のコア金属材料及び第2のコア金属材料の合計の質量を100質量%としたとき、50〜95質量%であることが好ましい。合金中の第1のコア金属材料の含有割合が50質量%未満である場合には、当該合金の格子定数が小さくなりすぎ、コア微粒子を均一にシェルで被覆できないおそれがある。また、合金中の第1のコア金属材料の含有割合が95質量%を超える値である場合には、コア微粒子に合金を用いることにより第1のコア金属材料の使用量を減らす効果が十分に享受できない。
【0024】
コア微粒子の平均粒径は、上述したコアシェル型金属ナノ微粒子の平均粒径以下であれば、特に限定されない。なお、コア微粒子1つ当たりのコストに対する、コア微粒子の表面積の割合が高いという観点から、コア微粒子の平均粒径は、好ましくは4〜40nm、特に好ましくは10〜20nmである。
なお、本発明に使用される粒子の平均粒径は、常法により算出される。粒子の平均粒径の算出方法の例は以下の通りである。まず、400,000倍又は1,000,000倍のTEM(透過型電子顕微鏡)画像において、ある1つの粒子について、当該粒子を球状と見なした際の粒径を算出する。このようなTEM観察による平均粒径の算出を、同じ種類の200〜300個の粒子について行い、これらの粒子の平均を平均粒径とする。
【0025】
コア微粒子は担体に担持されていてもよい。電極触媒層に導電性を付与するという観点から、担体が導電性材料であることが好ましい。
担体として使用できる導電性材料の具体例としては、ケッチェンブラック(商品名:ケッチェン・ブラック・インターナショナル株式会社製)、バルカン(商品名:Cabot社製)、ノーリット(商品名:Norit社製)、ブラックパール(商品名:Cabot社製)、アセチレンブラック(商品名:Chevron社製)等の炭素粒子や、炭素繊維等の導電性炭素材料;金属粒子や金属繊維等の金属材料;が挙げられる。
【0026】
コア微粒子を準備する工程の前には、コア微粒子の担体への担持が行われてもよい。コア微粒子の担体への担持方法には、従来から用いられている方法を採用することができる。また、合金の合成とコア微粒子の担体への担持が同時に行われてもよい。
【0027】
以下、パラジウムを第1のコア金属材料とし、コバルトを第2のコア金属材料としてそれぞれ含有するPd−Coコア微粒子の合成例について説明する。
まず、硝酸パラジウムを担体であるカーボン上に固着させ、不活性雰囲気下で高温処理することで、パラジウム担持カーボン粉末を得る。次に、硝酸コバルトを当該パラジウム担持カーボン粉末に固着させ、NaBH等の還元剤を加えて高温処理することで、パラジウム−コバルト合金担持カーボン粉末を得る。
【0028】
1−2.コア微粒子中の第2のコア金属材料を優先的に溶出させる工程
本工程は、少なくともコア微粒子表面において、第1のコア金属材料が、金属状態と水酸化物との間で平衡が保たれ、かつ、第2のコア金属材料が、金属状態と金属イオンとの間で平衡が保たれる条件下で、第2のコア金属材料を溶出させる工程である。
【0029】
本工程は、少なくともコア微粒子表面において、上述した第2のコア金属材料のような、合金中の第1のコア金属材料以外の金属材料を溶出させる工程である。合金中の第1のコア金属材料以外の金属材料を溶出させる方法の例としては、具体的には、コア微粒子が置かれている物理的環境、及び/又は化学的環境を変化させる方法が挙げられる。
より具体的には、少なくともコア微粒子表面において、第1のコア金属材料が、金属状態と水酸化物との間で平衡が保たれ、かつ、第2のコア金属材料が、金属状態と金属イオンとの間で平衡が保たれるような条件下にコア微粒子をおくことが好ましい。当該条件は、第1のコア金属材料はほぼ固体の状態でコア微粒子表面に存在し続けるのに対し、第2のコア金属材料は適度に析出と溶出を繰り返す条件である。
このような条件下においては、第1のコア金属材料が溶出しないため、コア微粒子自体の粒径分布が変化することがない。また、このような条件下においては、仮に第1のコア金属材料として貴金属材料を用いた場合に、第1のコア金属材料が溶出しないため、貴金属回収の必要がない。さらに、このような条件下においては、コア微粒子表面に存在する第1及び第2のコア金属材料が、いずれも最も安定な状態を探して流動するため、コア微粒子表面の凹凸を少なくすることができる。
【0030】
本工程は、コア微粒子のpH及びコア微粒子に付与される電位を調節することにより、第2のコア金属材料を溶出させる工程であることが好ましい。
上述した図1及び図2に示されるように、コア微粒子のpH及びコア微粒子に付与される電位の条件は、pH−電位線図等を参考にして決定することができる。したがって、コア微粒子内の合金の組み合わせによって、pH及び電位の条件は任意に設定することができる。
なお、条件設定が簡便であることから、pHの幅が約0〜3、電位の幅が約0.5〜1.5Vとなるような範囲を条件とすることが好ましい。
【0031】
Pd−Coコア微粒子を、pH=2〜4、かつ、−0.2〜1.0Vの電位を付与する条件下においた場合について検討する。図1及び図2中に、上記pH−電位条件を満たす範囲を一点鎖線の枠2で囲って示す。
図2によれば、当該枠2内の条件下においては、コバルトはコバルトイオン(Co2+)の状態で存在する。一方、図1によれば、当該枠2内の条件下においては、パラジウムは水酸化物パラジウム(Pd(OH))と金属パラジウムとの平衡状態にある。以上より、pH=2〜4、かつ、−0.2〜1.0Vの電位を付与する条件下においては、パラジウムが溶出することなく、コバルトのみを溶出させることができる。そのため、Pd−Coコア微粒子の粒径分布が広がることがなく、Pd−Coコア微粒子の耐久性が低下するおそれがない。また、パラジウムが溶出しないため、パラジウムイオンを溶液から回収する必要がない。
【0032】
以下、Pd−Coコア微粒子の表面からコバルトを溶出させる例について説明する。
まず、Pd−Coコア微粒子のカーボン担持粉末を、ナフィオン(商品名)等の高分子電解質と混合し、カーボン電極上に塗布する。次に、pH=2〜4、電位=−0.2〜1Vの範囲で電位掃引することで、Pd−Coコア微粒子表面を100%パラジウムにする。
【0033】
1−3.コア部にシェル部を被覆する工程
本工程は、上述した第2のコア金属材料の溶出工程の後に、コア微粒子をコア部として、当該コア部にシェル部を被覆する工程である。
コア部にシェル部を被覆する工程は、1段階の反応を経て行われてもよいし、多段階の反応を経て行われてもよい。
以下、2段階の反応を経てシェル部の被覆が行われる例について主に説明する。
【0034】
2段階の反応を経る被覆工程としては、少なくとも、コア微粒子をコア部として、当該コア部を単原子層によって被覆する工程、及び、当該単原子層を、シェル部に置換する工程を有する例が挙げられる。
【0035】
本例の具体例としては、アンダーポテンシャル析出法によって予めコア部表面に単原子層を形成した後、当該単原子層をシェル部に置換する方法が挙げられる。アンダーポテンシャル析出法としては、Cu−UPD法を用いることが好ましい。
特に、コア微粒子としてパラジウム合金微粒子を使用し、シェル部に白金を使用する場合には、Cu−UPD法によって、白金の被覆率が高く耐久性に優れるコアシェル型金属ナノ微粒子を製造できる。
【0036】
以下、Cu−UPD法の具体例について説明する。
まず、導電性炭素材料に担持されたパラジウム合金(以下、Pd/Cと総称する)粉末を水に分散させ、ろ過して得たPd/Cペーストを電気化学セルの作用極に塗工する。なお、Pd/Cペーストは、ナフィオン(商品名)等の電解質をバインダーにして、作用極上に接着してもよい。当該作用極としては、白金メッシュや、グラッシーカーボンを用いることができる。
次に、電気化学セルに銅溶液を加え、当該銅溶液中に上記作用極、参照極及び対極を浸し、Cu−UPD法により、パラジウム合金粒子の表面に銅の単原子層を析出させる。Cu−UPD法の具体的な条件の一例を下記に示す。
・銅溶液:0.05mol/L CuSOと0.05mol/L HSOの混合溶液(窒素をバブリングさせる)
・雰囲気:窒素雰囲気下
・掃引速度:0.2〜0.01mV/秒
・電位:0.8V(vsRHE)から0.4V(vsRHE)まで掃引した後、0.4V(vsRHE)で電位を固定する。
・電位固定時間:1〜5分間
【0037】
上記電位固定時間が終了した後、速やかに作用極を白金溶液に浸漬させ、イオン化傾向の違いを利用して銅と白金とを置換メッキする。置換メッキは、窒素雰囲気等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。白金溶液は特に限定されないが、例えば、0.1mol/L HClO中にKPtClを溶解させた白金溶液が使用できる。白金溶液は十分に攪拌し、当該溶液中には窒素をバブリングさせる。置換メッキ時間は、90分以上確保することが好ましい。
上記置換メッキによって、パラジウム合金粒子表面に白金の単原子層が析出した、コアシェル型金属ナノ微粒子が得られる。
【0038】
シェル部は、白金、イリジウム及び金からなる群から選ばれる金属材料を含むことが好ましく、この中でも、白金を含むことが特に好ましい。
【0039】
1−4.その他の工程
上記コア部にシェル部を被覆する工程の後には、コアシェル型金属ナノ微粒子のろ過・洗浄、乾燥及び粉砕が行われてもよい。
コアシェル型金属ナノ微粒子のろ過・洗浄は、製造された微粒子のコアシェル構造を損なうことなく、不純物を除去できる方法であれば特に限定されない。当該ろ過・洗浄の例としては、水、過塩素酸、希硫酸、希硝酸等を用いて吸引ろ過をする方法が挙げられる。
コアシェル型金属ナノ微粒子の乾燥は、溶媒等を除去できる方法であれば特に限定されない。当該乾燥の例としては、室温下の真空乾燥を0.5〜2時間行った後、不活性ガス雰囲気下、60℃〜80℃の温度条件で1〜4時間乾燥させるという方法が挙げられる。
コアシェル型金属ナノ微粒子の粉砕は、固形物を粉砕できる方法であれば特に限定されない。当該粉砕の例としては、不活性ガス雰囲気下、或いは大気下における乳鉢等を用いた粉砕や、ボールミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル等のメカニカルミリングが挙げられる。
【0040】
2.コアシェル型触媒微粒子
本発明のコアシェル型触媒微粒子は、上記製造方法によって製造されることを特徴とする。
【0041】
コア部の溶出をより抑制できるという観点から、コア部に対するシェル部の被覆率が、0.8〜1であることが好ましい。
仮に、コア部に対するシェル部の被覆率が、0.8未満であるとすると、電気化学反応においてコア部が溶出してしまい、その結果、コアシェル型触媒微粒子が劣化してしまうおそれがある。
【0042】
なお、ここでいう「コア部に対するシェル部の被覆率」とは、コア部の全表面積を1とした時の、シェル部によって被覆されているコア部の面積の割合のことである。当該被覆率を算出する方法の一例としては、TEMによってコアシェル型触媒微粒子の表面の数か所を観察し、観察された全面積に対する、シェル部によってコア部が被覆されていることが観察によって確認できた面積の割合を算出する方法が挙げられる。
【0043】
本発明に係るコアシェル型触媒微粒子は、コア部に対して、単原子層のシェル部が被覆していることが好ましい。このような微粒子は、2原子層以上のシェル部を有するコアシェル型触媒と比較して、シェル部における触媒性能が極めて高いという利点、及び、シェル部の被覆量が少ないため材料コストが低いという利点がある。
なお、本発明に係るコアシェル型金属ナノ微粒子の平均粒径は、4〜40nm、好ましくは10〜20nmである。
【符号の説明】
【0044】
1 pH=0〜2、かつ、0〜1.2Vの電位を付与する条件を満たす範囲を示す枠
2 pH=2〜4、かつ、−0.2〜1.0Vの電位を付与する条件を満たす範囲を示す枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部と、当該コア部を被覆するシェル部を備えるコアシェル型触媒微粒子の製造方法であって、
0.6V以上の標準電極電位を有する第1のコア金属材料、及び当該第1のコア金属材料よりも標準電極電位の低い第2のコア金属材料を含む合金を含むコア微粒子を準備する工程、
少なくとも前記コア微粒子表面において、前記第1のコア金属材料が、金属状態と水酸化物との間で平衡が保たれ、かつ、前記第2のコア金属材料が、金属状態と金属イオンとの間で平衡が保たれる条件下で、前記第2のコア金属材料を溶出させる工程、並びに、
前記第2のコア金属材料の溶出工程の後に、前記コア微粒子をコア部として、当該コア部に前記シェル部を被覆する工程を有することを特徴とする、コアシェル型触媒微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記第2のコア金属材料の溶出工程は、前記コア微粒子のpH及び前記コア微粒子に付与される電位を調節することにより、前記第2のコア金属材料を溶出させる工程である、請求項1に記載のコアシェル型触媒微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記pHがpH=2〜4の範囲内であり、かつ、前記電位が−0.2〜1Vの範囲内である、請求項2に記載のコアシェル型触媒微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記シェル部被覆工程が、少なくとも、
前記コア微粒子をコア部として、当該コア部に単原子層を被覆する工程、及び、
前記単原子層を、前記シェル部に置換する工程を有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のコアシェル型触媒微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記第1のコア金属材料が、パラジウム、銀、ロジウム、オスミウム及びイリジウムからなる群から選ばれる金属材料である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のコアシェル型触媒微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記第2のコア金属材料が、コバルト、銅、鉄及びニッケルからなる群から選ばれる金属材料である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のコアシェル型触媒微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記シェル部が、白金、イリジウム及び金からなる群から選ばれる金属材料を含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のコアシェル型触媒微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記コア微粒子が担体に担持されている、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のコアシェル型触媒微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記請求項1乃至8のいずれか一項に記載のコアシェル型触媒微粒子の製造方法によって製造されることを特徴とする、コアシェル型触媒微粒子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−16684(P2012−16684A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156993(P2010−156993)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】